JP2017159350A - 溶接金属、および該溶接金属を含む溶接構造体 - Google Patents

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Abstract

【課題】クリープ破断特性および靭性に優れた溶接金属を提供する。また、上記溶接金属を含む溶接構造体を提供する。【解決手段】所定の成分組成を満足する溶接金属であり、該溶接金属中に存在する円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数をN(個/mm2)、円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数をn(個/mm2)としたとき、前記Nは、1.2×106(個/mm2)以上であり、前記Nと前記nは、下記式(1)を満足する溶接金属。n/N>0.8 ・・・(1)【選択図】なし

Description

本発明は、溶接金属、および該溶接金属を含む溶接構造体に関する。
火力発電設備におけるボイラーや熱交換器等の構造物には、耐熱性や耐圧性等の特性が要求され、火力発電の蒸気温度および蒸気圧は、熱効率向上の観点から近年益々高まっている。例えば、超々臨界圧石炭火力発電での蒸気温度は、約500〜600℃である。上記構造物は、長時間に亘って高温、高圧で保持されるため、応力が加わり、時間の経過と共に歪みが増大するクリープ現象が起こる。
上記構造物の素材には、耐熱性や耐圧性等の特性を備えるため、Crを比較的多く含む耐熱鋼が用いられる。また、上記素材には、高温、高圧で長時間曝されても破断しないクリープ破断特性に優れていることが要求され、靭性に優れていることも求められる。
上記構造物は、素材となる高Cr鋼をアーク溶接して構築されるのが一般的であり、高Cr鋼を溶接して形成される溶接金属においてもクリープ破断特性および靭性に優れていることが求められる。アーク溶接して形成された溶接金属は、通常、残留応力を除去するために溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment;PWHT)が施される。
ところで、Crは、フェライトを安定化する作用を有するため、高Cr鋼を溶接すると、溶接時にδフェライトが生成し、溶接完了後の溶接金属に残存することがある。δフェライトは、溶接後熱処理を施す前の溶接ままの溶接金属に観察される粗大組織であり、溶接後熱処理しても消失せず、溶接後熱処理後の溶接金属のクリープ破断特性や靭性に悪影響を及ぼすことが知られている。
溶接金属のクリープ破断特性や靭性は、一般に、溶接金属の特定の部位から採取された試験片を用いて評価されるため、試験片を採取した部位にδフェライトがたまたま含まれていない場合は、良好な特性が示される。しかし、実際に施工される溶接金属では、一部にでもδフェライトが生成すると、破壊や破断が生じる虞があるため、安全を期するには、溶接金属の全領域においてδフェライトの生成が抑制される必要がある。
溶接時にδフェライトの生成を抑制する技術として、例えば、特許文献1〜3が知られている。特許文献1〜3は、いずれも溶接時に用いる溶接材料に関する。
特許文献1には、Niは靭性を改善するために有効な元素であるが、その反面、炭化物、酸化物を凝集促進させてしまい高温長時間でのクリープ強度を低下させることが記載されている。そして、この文献には、鋼心線または被覆剤中に靭性改善に有効とされるNiの代わりにCo、Cuの両方または一方を添加することによって、δフェライトの生成が抑制され、溶接金属の靭性を確保しつつクリープ強度を改善することが記載されている。
特許文献2には、溶接ワイヤ中に適正量のC、Si、Mn、Cr、Ni、Co、Cu、Mo、W、V、Nb、およびNを添加することによって、高温クリープ強度、靭性、および耐割れ性を確保できること、Cr、W、およびMoのフェライト生成元素と、Ni、Coのフェライト生成を抑制する元素とを適正な含有量の関係で添加することによって、溶接金属中のδフェライトの生成を抑制しクリープ強度と靭性をさらに向上できること、Mo量を低く抑えることによって、高温保持後のσ相への変態を抑制することが記載されている。
特許文献3には、溶接金属のクリープ強度は、MX(炭窒化物)の析出物の量の増加に伴って向上すること、靭性はδフェライトの析出量とAe1変態点に大きく依存することが記載されている。
特開平7−268562号公報 特開平8−187592号公報 特開平11−170087号公報
上記特許文献1〜3には、溶接時に用いる溶接材料や、該溶接材料を用いて溶接金属を形成することについて記載されている。しかし、溶接金属の全領域においてδフェライトの生成が抑制されているか不明である。また、上記特許文献1〜3には、溶接金属の成分組成は一切開示されておらず、実際の溶接では、溶接材料の成分の一部が酸化されて酸化物となり、スラグとして排出されるため、溶接材料中の成分が溶接金属へ移行する(分留る)量の差は大きくなることが知られている。従って溶接金属の特性を改善するには、溶接金属の成分組成を厳密に制御する必要がある。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、クリープ破断特性および靭性に優れた溶接金属を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記溶接金属を含む溶接構造体を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶接金属とは、質量%で、C:0.03〜0.16%、Si:0.1%以上、0.50%未満、Mn:0.55〜1.2%、Ni:0%以上、0.7%以下、Cr:8〜10%、Mo:0.05〜0.7%、V:0.05〜0.5%、Nb:0.015〜0.07%、Co:1.0〜2.0%、W:1〜2.0%、N:0.01〜0.08%、O:0%超、0.08%以下を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる溶接金属であって、該溶接金属中に存在する円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数をN(個/mm2)、円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数をn(個/mm2)としたとき、前記Nは、1.2×106(個/mm2)以上であり、前記Nと前記nは、下記式(1)を満足する点に要旨を有する。
n/N>0.8 ・・・(1)
上記溶接金属は、更に他の元素として、質量%で、下記(a)〜(d)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
(a)Ti:0%超、0.03%以下。
(b)B :0%超、0.005%以下。
(c)Cu:0%超、0.25%以下。
(d)Al:0%超、0.05%以下。
本発明には、上記溶接金属を含む溶接構造体も含まれる。
本発明によれば、溶接金属の成分組成、および溶接金属に含まれる炭化物粒子の形態を適切に制御しているため、溶接時にδフェライトが生成することが抑制され、クリープ破断特性および靭性に優れた溶接金属を提供できる。また、本発明によれば、クリープ破断特性および靭性に優れた溶接金属を含む溶接構造体を提供できる。
図1は、本発明の実施例においてクリープ破断特性の評価に用いた試験片の採取位置を示す模式図である。 図2は、本発明の実施例において靭性の評価に用いた試験片の採取位置を示す模式図である。
本発明者らは、溶接金属のクリープ破断特性および靭性を改善するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、溶接金属の成分組成、および溶接金属に含まれる炭化物粒子の形態を制御すれば、溶接時にδフェライトが生成することを抑制でき、溶接金属のクリープ破断特性および靭性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
まず、本発明を特徴づける溶接金属中の炭化物粒子の形態について説明する。
炭化物粒子は、転位移動を阻害することにより、溶接金属のクリープ破断特性を改善する作用を有している。また、炭化物粒子は、クリープ破断試験中のラス組織粗大化抑制作用も有しており、転位移動を阻害するラス境界が維持されることによってクリープ破断特性向上に寄与する。こうした観点から、クリープ破断特性を改善するには、溶接金属中に炭化物粒子を多く分散させることが有効である。
しかし、炭化物粒子は、クリープ破断試験が行われる高温では不安定になり、オストワルド成長によって炭化物粒子数が減少する。オストワルド成長とは、熱処理したときに、粒径の小さい粒子が消滅する一方で、大きい粒子が成長を続ける現象である。
そこで、クリープ破断時間を長時間化させてクリープ破断特性を改善するには、クリープ破断試験中における炭化物粒子数の減少を抑制する必要があり、炭化物粒子のオストワルド成長を遅らせるには、炭化物粒子の形態を制御することが有効である。こうした知見に基づき、本発明では、溶接金属中に存在する円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数をN(個/mm2)、円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数をn(個/mm2)としたとき、前記Nは、1.2×106(個/mm2)以上であり、前記Nと前記nは、下記式(1)を満足するように制御した。
n/N>0.8 ・・・(1)
円相当直径で0.1μm以上の炭化物粒子は、転位移動を阻害して溶接金属のクリープ破断特性を改善する効果を発揮する。しかし、円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数Nが、1.2×106(個/mm2)を下回ると、溶接金属内の炭化物粒子数が少なすぎるため、転位移動が阻害されず、クリープ破断特性を改善できない。従って本発明では、上記炭化物粒子数Nは、1.2×106(個/mm2)以上とする。上記炭化物粒子数Nは、好ましくは1.3×106(個/mm2)以上、より好ましくは1.4×106(個/mm2)以上である。上記炭化物粒子数Nの上限は特に限定されないが、例えば、2.5×106(個/mm2)以下が好ましい。
上記円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数Nを上記のように制御するだけでは不充分であり、円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数N(個/mm2)に対する、円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数n(個/mm2)の比(n/N)が0.8を超えることが重要である。上記n/Nが0.8以下では、溶接金属に含まれる炭化物粒子の形態が適切に制御されず、炭化物粒子のオストワルド成長が促進され、クリープ破断特性を改善できない。従って本発明では、上記n/Nが下記式(1)の関係を満足する必要がある。上記n/Nは、好ましくは下記式(1a)、より好ましくは下記式(1b)を満足するのがよい。
n/N>0.8 ・・・(1)
n/N≧0.85 ・・・(1a)
n/N≧0.90 ・・・(1b)
上記n/Nの上限は特に限定されないが、最も好ましくは1である。即ち、溶接金属に含まれる全ての炭化物粒子の円相当直径が0.1〜0.4μmであることが最も好ましい。
なお、本発明において、炭化物粒子とは、炭窒化物粒子を含む意味である。
次に、溶接金属の成分組成について説明する。以下、%は、質量%を意味する。
Cは、炭化物を形成し、クリープ破断特性を改善するのに寄与する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明では、C量は0.03%以上とする。C量は、好ましくは0.04%以上、より好ましくは0.06%以上である。しかしCを過剰に含有すると、炭化物が粗大化しすぎて靭性が低下することがある。従って本発明では、C量は0.16%以下とする。C量は、好ましくは0.14%以下、より好ましくは0.12%以下である。
Siは、溶接時の作業性向上に寄与する元素であり、Si量が0.1%を下回ると溶接作業性が劣化する。従って本発明では、Si量は0.1%以上とする。Si量は、好ましくは0.12%以上、より好ましくは0.15%以上である。しかしSiを過剰に含有すると、島状マルテンサイトの生成を助長し、靭性の劣化を招く。従って本発明では、Si量は0.50%未満とする。Si量は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.37%以下である。
Mnは、溶接時にδフェライトの生成を抑制する作用を有する元素である。Mn量が0.55%を下回ると、溶接時にδフェライトが生成しやすくなり、生成したδフェライトは溶接後熱処理を施しても消失しないため、溶接時にδフェライトが生成した場合は、δフェライトがクリープ破断特性および靭性に悪影響をおよぼす可能性がある。従って本発明では、Mn量は0.55%以上とする。Mn量は、好ましくは0.60%以上、より好ましくは0.65%以上である。しかし、Mnを過剰に含有すると、炭化物粒子のオストワルド成長が促進され過ぎてクリープ破断特性が劣化する。従って本発明では、Mn量は1.2%以下とする。Mn量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.8%以下である。
Niは、炭化物粒子のオストワルド成長を促し、クリープ破断特性を劣化させる元素である。従って本発明では、Ni量は0.7%以下とする。Ni量は、好ましくは0.60%以下、より好ましくは0.50%以下である。Ni量はできるだけ少ない方が好ましいが、Niは溶接金属の組織を微細化して靭性を向上させる作用を有している。こうした効果を有効に発揮させるには、Ni量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.10%以上である。
Crは、CrやFe、Mo等の合金元素をMと表記したとき、M236で表される炭化物を形成し、クリープ破断特性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではCr量を8%以上とする。Cr量は、好ましくは8.5%以上、より好ましくは8.8%以上である。しかしCrを過剰に含有すると、溶接時にδフェライトが生成しやすくなり、生成したδフェライトは溶接後熱処理を施しても消失しないため、溶接時にδフェライトが生成した場合は、δフェライトがクリープ破断特性および靭性を改善に悪影響をおよぼす可能性がある。従って本発明では、Cr量は10%以下とする。Cr量は、好ましくは9.8%以下、より好ましくは9.6%以下である。
Moは、固溶強化によりクリープ破断特性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではMo量を0.05%以上とする。Mo量は、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.15%以上である。しかしMoを過剰に含有すると、溶接時にδフェライトが生成しやすくなり、生成したδフェライトは溶接後熱処理を施しても消失しないため、溶接時にδフェライトが生成した場合は、δフェライトがクリープ破断特性および靭性を改善に悪影響をおよぼす可能性がある。従って本発明では、Mo量は0.7%以下とする。Mo量は、好ましくは0.60%以下、より好ましくは0.55%以下である。
Vは、MX(炭窒化物)を形成してクリープ破断特性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではV量を0.05%以上とする。V量は、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.15%以上である。しかしVを過剰に含有すると、溶接時にδフェライトが生成する。また、クリープ破断試験中にMX(炭窒化物)のオストワルド成長を招く。その結果、クリープ破断特性および靭性が劣化する。従って本発明では、V量は0.5%以下とする。V量は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.35%以下である。
Nbは、MX(炭窒化物)を形成してクリープ破断特性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではNb量を0.015%以上とする。Nb量は、好ましくは0.018%以上、より好ましくは0.020%以上である。しかし、Nbを過剰に含有すると強度の過大な上昇を招き、靭性を劣化させる。従って本発明では、Nb量は0.07%以下とする。Nb量は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.050%以下である。
Coは、溶接時にδフェライトが生成するのを抑制し、クリープ破断特性および靭性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではCo量を1.0%以上とする。Co量は、好ましくは1.20%以上、より好ましくは1.30%以上である。しかし、Coを過剰に含有すると強度の過大な上昇を招き、靭性を劣化させる。従って本発明では、Co量は2.0%以下とする。Co量は、好ましくは1.80%以下、より好ましくは1.70%以下である。
Wは、Moと同様、固溶強化によりクリープ破断特性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではW量を1%以上とする。W量は、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.3%以上である。しかしWを過剰に含有すると、溶接時にδフェライトが生成しやすくなり、生成したδフェライトは溶接後熱処理を施しても消失しないため、溶接時にδフェライトが生成した場合は、δフェライトがクリープ破断特性および靭性を改善に悪影響をおよぼす可能性がある。従って本発明では、W量は2.0%以下とする。W量は、好ましくは1.90%以下、より好ましくは1.8%以下である。
Nは、Nbと同様、MX(炭窒化物)を形成してクリープ破断特性を改善する元素である。こうした効果を発揮させるために、本発明ではN量を0.01%以上とする。N量は、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。しかし、Nを過剰に含有すると強度の過大な上昇を招き、靭性を劣化させる。従って本発明では、N量は0.08%以下とする。N量は、好ましくは0.070%以下、より好ましくは0.065%以下である。
Oは、酸化物を形成する元素であり、Oを過剰に含有すると酸化物が粗大化し、脆性破壊の起点となって靭性が低下する。従って本発明では、O量は0.08%以下とする。O量は、好ましくは0.075%以下、より好ましくは0.070%以下である。O量を低減することにより、靭性を一層改善できるが、実操業で0%にすることは困難であり、通常、0.01%程度含有する。
本発明の溶接金属の基本成分は上記の通りであり、残部は、鉄および不可避不純物である。
本発明の溶接金属は、上記基本成分に加えて、更に他の元素として、下記(a)〜(d)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
(a)Ti:0%超、0.03%以下。
(b)B :0%超、0.005%以下。
(c)Cu:0%超、0.25%以下。
(d)Al:0%超、0.05%以下。
(a)Tiは、MX(炭窒化物)を形成し、クリープ破断特性の改善に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Ti量は、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.002%以上、更に好ましくは0.003%以上である。しかしTiを過剰に含有すると、溶接金属の強度が過大に上昇し、靭性が劣化することがある。従って本発明では、Ti量は0.03%以下とすることが好ましい。Ti量は、より好ましくは0.025%以下、更に好ましくは0.020%以下である。
(b)Bは、CrやFe、Mo等の合金元素をMと表記したとき、M236で表される炭化物を安定化させる作用を有し、クリープ破断特性の改善に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、B量は、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上、更に好ましくは0.0010%以上である。しかしBを過剰に含有すると、溶接金属の強度が過大に上昇し、靭性が劣化することがある。従って本発明では、B量は0.005%以下とすることが好ましい。B量は、より好ましくは0.0045%以下、更に好ましくは0.0035%以下である。
(c)Cuは、溶接時にδフェライトの生成を抑制する作用を有する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Cu量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.025%以上である。しかしCuを過剰に含有すると、帯状にフェライトが細長く成長した組織(フェライトバンドと呼ばれることがある。)の生成が助長され、クリープ破断特性や靭性が劣化することがある。従って本発明では、Cu量は0.25%以下とすることが好ましい。Cu量は、より好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.15%以下である。
(d)Alは、脱酸剤として作用する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Al量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.025%以上である。しかし、Alを過剰に含有すると粗大な酸化物を生成し、脆性破壊の起点となって靭性が低下することがある。従って本発明では、Al量は0.05%以下とする。Al量は、好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.035%以下である。
次に、本発明に係る溶接金属の製造方法について説明する。
本発明の溶接金属は、アーク溶接した後、溶接後熱処理することにより製造できる。
アーク溶接の条件のうち、予熱/パス間温度を210〜340℃の範囲に制御することが好ましい。予熱/パス間温度が210℃を下回ると、溶接後の冷却速度が大きくなるため、冷却中に炭化物が生成せず、炭化物の生成量が減少し、クリープ破断特性および靭性を改善できない。従って本発明では、予熱/パス間温度は、210℃以上とすることが好ましい。予熱/パス間温度は、より好ましくは220℃以上、更に好ましくは230℃以上である。しかし、予熱/パス間温度が340℃を上回ると、溶接後の冷却時に炭化物が生成する。生成した炭化物は、溶接後熱処理中に粗大化し、円相当直径が0.4μmを超える粗大な炭化物が多くなるため、炭化物粒子が上記式(1)の関係を満足しなくなる。その結果、クリープ破断特性を改善できない。従って本発明では、予熱/パス間温度は340℃以下とすることが好ましい。予熱/パス間温度は、より好ましくは330℃以下、更に好ましくは320℃以下である。
アーク溶接の他の条件は特に限定されず、溶接材料としては、上記溶接金属の成分組成が上記要件を満足するものを用いればよい。
また、アーク溶接は、直流で行っても交流で行ってもかまわない。
溶接入熱量は、例えば、1.0〜5.0kJ/mmとすることが好ましい。
アーク溶接法の種類は特に限定されず、例えば、被覆アーク溶接(Shieled Metal Are Welding;SMAW)、サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding;SAW)、ガスタングステンアーク溶接(Gas Tungsten Arc Welding;GTAW)、ガスメタルアーク溶接(Gas Metal Arc Welding;GMAW)、フラックスコアードアーク溶接(Flux Cored Arc Welding;FCAW)などが挙げられる。これらのなかでも、化学反応容器等を溶接施工する際に多用されるサブマージアーク溶接(SAW)や被覆アーク溶接(SMAW)が好ましく、特に被覆アーク溶接(SMAW)が好ましい。
サブマージアーク溶接(SAW)における好ましい溶接入熱量は、例えば、2.5〜5.0kJ/mmである。
被覆アーク溶接(SMAW)における好ましい溶接入熱量は、例えば、1.0〜3.5kJ/mmである。
被覆アーク溶接に用いる溶接棒は、溶接棒全体の質量に対して、C:0.05〜0.13%、Si:0.6〜0.9%、Mn:0.4〜1%、Ni:0%以上、0.3%以下、Cr:6.0〜6.8%、Mo:0.02〜0.35%、V:0.03〜0.26%、Nb:0.025〜0.075%、Co:0.5〜1%、W:0.5〜1%、およびN:0.02〜0.04%を含有し、残部は鉄および不可避不純物が好ましい。
上記溶接棒は、更に他の元素として、溶接棒全体の質量に対して、
Ti:0.05〜0.5%、
B:0.003〜0.03%、および
Cu:0.005〜0.25%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
上記溶接棒は、スラグ形成剤として、例えば、SiO2、CO2、CaO、Al23を含有することが好ましい。
溶接後熱処理は、溶接後熱処理時における処理温度T(℃)と処理時間t(時間)に基づいて下記式(I)により算出されるラーソン・ミラー・パラメータ(Larson−Miller−parameter;LMP)が、19.5×103〜21.8×103となるように行うことが好ましい。
LMP=(T+273)×(20+logt) ・・・(I)
LMPは、クリープ破断試験で得られる短時間側のデータから、より長時間側のデータを推定するためのパラメータである。LMPが19.5×103を下回ると、溶接後熱処理時に炭化物が充分に生成せず、円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数Nが減少するため、クリープ破断特性の改善が困難となる。従って本発明では、溶接後熱処理時におけるLMPが19.5×103以上となるように、温度Tと時間tを制御することが好ましい。溶接後熱処理時におけるLMPは、より好ましくは19.6×103以上、更に好ましくは19.7×103以上である。しかし、溶接後熱処理時におけるLMPが21.8×103を上回ると、溶接後熱処理時に炭化物粒子のオストワルド成長が進行し、炭化物粒子数が減少する。
溶接後熱処理は、LMPが上記範囲を満足するように熱処理温度と熱処理時間を制御すればよいが、例えば、熱処理温度は、650〜790℃、熱処理時間は、3〜24時間の範囲で制御することが好ましい。
本発明に係る溶接金属は、Crを比較的多く含む耐熱鋼(例えば、高Crフェライト系耐熱鋼など)を溶接する際に形成することが推奨され、該溶接金属を含む溶接構造体としては、例えば、火力発電設備におけるボイラーや熱交換器等が挙げられる。具体的には、ボイラー本体や熱交換器本体にチューブやパイプ等を接続するときに本発明に係る溶接金属を形成すればよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示す成分組成を満足し、残部が鉄および不可避不純物からなる母材を用い、下記表2に示す成分組成を満足し、残部が鉄および不可避不純物からなる溶接棒を用い、後述の溶接条件にて下記表3に示す成分組成を満足し、残部が鉄および不可避不純物からなる溶接金属を作製し、各種特性を評価した。なお、下記表2に示した溶接棒の成分組成のうち、その他は、CaF2などである。
Figure 2017159350
Figure 2017159350
<溶接条件>
溶接方法:被覆アーク溶接(SMAW)
母材板厚 :20mm
開先角度 :20°(V字)
ルート間隔:16mm
溶接姿勢 :下向き
溶接棒径 :φ4.0mm
入熱条件 :約2.2kJ/mm(150A−24V、8〜12cm/分)
積層方法 :1層2パス
得られた溶接金属から、溶接方向に垂直な断面が観察できるように試験片を採取し、試験片の断面を塩化第二鉄エッチング液により腐食し、光学顕微鏡により倍率400倍で金属組織を観察した。全断面においてδフェライトが観察されなかった場合を「δフェライト無し」と判定し、合格と評価した。全断面においてδフェライトが1つでも観察された場合を「δフェライト有り」と判定し、不合格と評価した。判定結果を下記表4に示す。
次に、溶接して得られた溶接金属に溶接後熱処理(PWHT)を行い、溶接金属の特性を評価した。溶接後熱処理は、下記表4に示す温度T(℃)で、下記表4に示す時間t(時間)保持して行った。温度T、時間t、および上記式(I)に基づいて、LMPを算出し、結果を下記表4に示す。
上記溶接後熱処理を施した溶接金属について、最終パス中央部からレプリカ透過型電子顕微鏡観察用試験片を採取した。試験片表面を、倍率7500倍で、観察視野13.4μm×15.8μmの写真を2枚撮影した。撮影した写真を画像解析し、円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数と、円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数を測定し、単位観察視野面積1mm2あたりの個数に換算した。画像解析ソフトは、Image−Pro Plus(Media Cybernetic社製)を用いた。炭化物粒子の数には、炭窒化物の数も含まれる。単位観察視野面積1mm2あたりにおける円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数Nを下記表4に示す。また、単位観察視野面積1mm2あたりにおける円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数nを、上記炭化物粒子数Nで除した値(n/N)を算出した結果を下記表4に示す。
次に、溶接後熱処理を施した溶接金属の特性として、クリープ破断特性および靭性を評価した。
<クリープ破断特性>
溶接後熱処理を施した溶接金属の板厚中央部から、下記図1に基づいて溶接線方向に標点距離が30mmで、φ6.0mmのクリープ試験片を採取し、650℃で、100MPaの条件でクリープ試験を行い、試験片が破断するまでの時間を測定した。図1においてTは母材の板厚を示している。破断時間が810時間を超える場合をクリープ破断特性に優れると判定し、合格と評価した。
<靭性>
溶接後熱処理を施した溶接金属の板厚中央部から、下記図2に基づいて溶接線方向に垂直にシャルピー衝撃試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を行った。図2においてTは母材の板厚を示している。シャルピー衝撃試験片は、JIS Z3111に規定される4号Vノッチ試験片を採取した。シャルピー衝撃試験は、JIS Z2242の要領で、20℃で行い、吸収エネルギーを測定した。測定は3回行ない、測定した吸収エネルギーの平均値を求めた。結果を下記表4に示す。平均値が41J以上となる溶接金属を靭性に優れると評価した。
下記表3、表4に基づいて次のように考察できる。
No.1〜12は、本発明で規定する要件を満足する例であり、クリープ破断特性および靭性に優れている。
これに対し、No.13〜24は、本発明で規定するいずれかの要件を満足しない例であり、クリープ破断特性または靭性の少なくとも一方を改善できていない。以下、詳細に説明する。
No.13は、予熱/パス間温度が高すぎたため、炭化物粒子数の比n/Nが小さくなった例であり、クリープ破断特性を改善できなかった。
No.14は、予熱/パス間温度が低すぎたため、溶接後の冷却速度が大きくなり、冷却中に生成する炭化物量が減少し、炭化物粒子数Nが少なくなった例である。その結果、クリープ破断特性を改善できなかった。
No.15は、溶接後の熱処理条件を適切に制御しなかったため、炭化物粒子数Nが少なくなった例であり、クリープ破断特性を改善できなかった。
No.16〜24は、溶接金属の成分組成が本発明で規定する要件を満足しない例である。
No.16は、Wを過剰に含有した例であり、溶接時にδフェライトが生成し、靭性を改善できなかった。
No.17は、Mnが少なすぎた例であり、溶接時にδフェライトが生成したため、溶接金属全体では、クリープ破断特性および靭性が劣化する可能性がある。
No.18は、Mnを過剰に含有した例であり、クリープ破断試験時に炭化物のオストワルド成長が促進されすぎたため、クリープ破断特性を改善できなかった。
No.19は、Vを過剰に含有した例であり、溶接時にδフェライトが生成した。また、クリープ破断試験時に炭窒化物のオストワルド成長を招いた。その結果、クリープ破断特性および靭性を改善できなかった。
No.20は、Coが少なすぎた例であり、溶接時にδフェライトが生成し、クリープ破断特性を改善できなかった。
No.21は、Coを過剰に含有した例であり、靭性を改善できなかった。
No.22は、Niを過剰に含有した例であり、靭性を改善できなかった。
No.23は、Crを過剰に含有した例であり、溶接時にδフェライトが生成したため、溶接金属全体では、クリープ破断特性および靭性が劣化する可能性がある。
No.24は、Niを過剰に含有し、Nbが少なすぎた例であり、クリープ破断特性を改善できなかった。また、Nを過剰に含有したため、靭性を改善できなかった。
Figure 2017159350
Figure 2017159350

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C :0.03〜0.16%、
    Si:0.1%以上、0.50%未満、
    Mn:0.55〜1.2%、
    Ni:0%以上、0.7%以下、
    Cr:8〜10%、
    Mo:0.05〜0.7%、
    V :0.05〜0.5%、
    Nb:0.015〜0.07%、
    Co:1.0〜2.0%、
    W :1〜2.0%、
    N :0.01〜0.08%、
    O :0%超、0.08%以下を含有し、
    残部が鉄および不可避不純物からなる溶接金属であって、
    該溶接金属中に存在する円相当直径が0.1μm以上の炭化物粒子数をN(個/mm2)、円相当直径が0.1〜0.4μmの炭化物粒子数をn(個/mm2)としたとき、
    前記Nは、1.2×106(個/mm2)以上であり、
    前記Nと前記nは、下記式(1)を満足することを特徴とする溶接金属。
    n/N>0.8 ・・・(1)
  2. 更に他の元素として、質量%で、
    Ti:0%超、0.03%以下を含有する請求項1に記載の溶接金属。
  3. 更に他の元素として、質量%で、
    B :0%超、0.005%以下を含有する請求項1または2に記載の溶接金属。
  4. 更に他の元素として、質量%で、
    Cu:0%超、0.25%以下を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の溶接金属。
  5. 更に他の元素として、質量%で、
    Al:0%超、0.05%以下を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の溶接金属。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の溶接金属を含むことを特徴とする溶接構造体。
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