JP2017155316A - 耐摩耗性銅基合金 - Google Patents
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Abstract
Description
(1)重量%で、ニッケル:5.0〜30.0%;シリコン:0.5〜5.0%;鉄:3.0〜20.0%;クロム:1.0%未満;ニオブ:5.0%以下;カーボン:2.5%以下;モリブデン、タングステン及びバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種:3.0〜20.0%;マンガン:0.5〜5.0%及び/又はスズ:0.5〜5.0%;残部銅;並びに不可避不純物を含み、
マトリックスとマトリックスに分散した硬質粒子とを備える耐摩耗性銅基合金であって、
ニオブを含む場合、硬質粒子が、炭化ニオブと、その周辺にNb−C−Mo、Nb−C−W及びNb−C−Vからなる群から選択される少なくとも1種とを含み、
ニオブを含まない場合、硬質粒子が、炭化モリブデン、炭化タングステン及び炭化バナジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記耐摩耗性銅基合金。
(2)マトリックスの硬さが200〜400HVであり、硬質粒子の硬さが500〜1200HVであり、かつマトリックス及び硬質粒子の合計面積に対する硬質粒子の面積率が5〜50%である、(1)に記載の耐摩耗性銅基合金。
(3)肉盛用合金として用いられる、(1)又は(2)に記載の耐摩耗性銅基合金。
(4)肉盛層を構成している、(1)又は(2)に記載の耐摩耗性銅基合金。
(5)内燃機関用の動弁系部材又は摺動部材に用いられる、(1)又は(2)に記載の耐摩耗性銅基合金。
Niは一部が銅に固溶して銅基のマトリックスの靱性を高め、他の一部はNiを主要成分とする硬質なシリサイド(珪化物)を形成して分散され、耐摩耗性を高める。Niは、硬質粒子内のNbC周辺に炭素領域が形成されることによりその領域から排除されたSiと、銅基材中にNi−Si(ニッケルシリサイド)の網目状強化層を形成し、基材の耐凝着性を向上させる。またNiは、Fe、Mo等と共に硬質粒子の硬質相を形成する。硬質粒子内の炭素領域から排除されたSiとのバランスから、Niの含有量の上限値は30.0%とし、さらには25.0%、20.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。Cu−Ni系合金の有する特性、特に良好な耐食性、耐熱性及び耐摩耗性を確保し、また十分な硬質粒子を生成させることにより靱性を確保し、肉盛層としたときにワレを発生しにくくし、さらに肉盛する場合に対象物に対する肉盛性を維持する観点から、Niの含有量の下限値は5.0%とし、さらには10.0%、15.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のNiの含有量は、5.0〜30.0%、好ましくは10.0〜25.0%、さらに好ましくは15.0〜20.0%とする。
Siはシリサイド(珪化物)を形成する元素であり、Niを主要成分とするシリサイド、又は、モリブデン(タングステン、バナジウム)を主要成分とするシリサイドを形成し、さらに銅基のマトリックスの強化に寄与する。Ni−Siが少ない場合、基材の耐凝着性が低下する。また、モリブデン(又はタングステン、バナジウム)を主要成分とするシリサイドは、本発明の銅基合金の高温潤滑性を維持する働きがある。十分な硬質粒子を生成させることにより靱性を確保し、肉盛層としたときにワレを発生しにくくし、さらに肉盛する場合に対象物に対する肉盛性を維持する観点から、Siの含有量の上限値は5.0%とし、さらに4.5%、3.5%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した効果が十分に得る観点から、Siの含有量の下限値は0.5%とし、さらに1.5%、2.5%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のSiの含有量は、0.5〜5.0%、好ましくは1.5〜4.5%、さらに好ましくは2.5〜3.5%とする。
Feは銅基のマトリックスにはほとんど固溶せず、主に、Fe−Mo系、Fe−W系又はFe−V系のシリサイドとして硬質粒子中のNbC周辺以外の部分に存在する。Fe−Mo系、Fe−W系又はFe−V系のシリサイドは、Co−Mo系のシリサイドよりも硬さが低く、かつ靱性もやや高い。十分な硬質粒子を生成させることにより耐摩耗性を得る観点から、Feの含有量の上限値は20.0%とし、さらに15.0%、10.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。十分な硬質粒子を生成させることにより耐摩耗性を得る観点からFeの含有量の下限値は3.0%とし、さらに、5.0%、7.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のFeの含有量は3.0〜20.0%、好ましくは5.0〜15.0%、さらに好ましくは7.0〜10.0%とする。
本発明の銅基合金の必須成分の中では、酸化しやすさを示すエリンガム状態図より、Crが最も酸化しやすい。Crの含有量が多いとわずかな酸素がCrに消費されてしまい、Mo等の酸化を阻害するためMo等の酸化膜の形成が阻害される。耐摩耗性はMo等の酸化膜で確保されるのでCrが多いと耐摩耗性が低下する。NbC周辺に存在するNbCMoはFeMoSiよりもCrの存在によって酸化膜形成が阻害される程度が高い。よって、Crは、1.0%未満とし、さらには含有量の上限値は0.8%、0.6%、0.4%、0.1%、0.001%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記観点から、本発明の銅基合金はCrを含有しないことが特に好ましい。
Nbは、NbCとして、硬質粒子の核生成作用を有し、硬質粒子の微細化を図り、耐ワレ性及び耐摩耗性を両立させるのに貢献できる。NbCは硬質粒子内に炭素領域を形成し、その領域からSiが排除されることで銅基材中のNi−Siの網目状強化層の量を増やし、基材の耐凝着性を向上させる。これに対し、NbをNbCとしてではなくNb単体として添加した場合は、NbはMo等と同様の効果を奏し、また、MoFeシリサイド又はNbFeシリサイドのラーベス層が形成される点で本発明の銅基合金におけるNbとは異なる作用を示す。Nbを含有する場合、耐ワレ性の阻害を回避するために、Nbの含有量の上限値は5.0%とし、さらには4.0%、3.0%、2.0%、1.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。Nbを含有する場合、Nb添加による硬質粒子の微細化改善効果を得る観点から、Nbの含有量の下限値は0.01%とし、0.1%、0.3%、0.6%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のNbCの含有量は、0.01〜2.0%、好ましくは0.6〜1.0%とする。Snを添加する場合は、Snの添加により硬質粒子の面積率を大きく上昇させるため、硬さを必要以上に上昇させないためにNbを添加しなくてもよい。
Cはニオブを含む場合はNbCとして上述した通り硬質粒子の各生成作用を有し、硬質粒子の微細化を図り、耐ワレ性及び耐摩耗性を両立させるのに貢献できる。ニオブを含まない場合はMoCとして硬質粒子の硬さを上げて耐摩耗性を上昇させる。カーボンの含有量の上限値は2.5%とし、さらには、2.0%、1.5%、1.0%、0.5%を例示できるが、これらに限定されるものではない。Cを含有する場合、C添加による上記効果を得る観点から、Cの含有量の下限値は0.01%とし、0.02%、0.03%、0.06%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のCの含有量は、0.01〜2.0%、好ましくは0.03〜0.5%とする。
Moはニオブを含む場合はNbC周辺にNbCMoとして存在する。ニオブを含まない場合はMoCとして硬質粒子の硬さを上げて耐摩耗性を上昇させる。NbCMoはFeMoSiよりもCrの存在によって酸化膜形成能が阻害される程度が高い。よって、Crを上記したような範囲で含む本発明の銅基合金は、耐摩耗性に寄与する酸化膜の形成が阻害される程度が顕著に低減されているため、酸化膜が形成されやすく、よって望ましい酸化特性を有する。具体的にはこの酸化物は、使用時に銅基のマトリックスの表面を覆い、相手材とマトリックスとの直接接触を避けるのに有利となり、これにより自己潤滑性が確保されるW及びVについても基本的にはMoと同様の働きをする。また、MoはSiと結合してシリサイド(NbC周辺以外の、靱性を有するFe−Mo系のシリサイド)を硬質粒子内に生成し、高温における耐摩耗性と潤滑性とを高める。このシリサイドはCo−Mo系のシリサイドよりも硬さが低く、靭性が高い。このようなシリサイドは硬質粒子内に生成し、高温における耐摩耗性と潤滑性とを高める。硬質粒子が過剰となり、靭性が損なわれ、耐ワレ性が低下し、ワレが発生し易くなることを回避するために、Mo等の含有量の上限値は20.0%とし、さらには15.0%、10.0%、8.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。十分に硬質粒子を生成させて耐摩耗性を確保する観点から、Mo等の含有量の下限値は3.0%とし、さらには、4.0%、5.0%、6.0%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のMo等の含有量は3.0〜20.0%、好ましくは4.0〜10.5%、さらに好ましくは5.0〜8.0%とする。
Mnは銅基のマトリックスのCu成分中に固溶することで、マトリックス硬さを向上させる。マトリックス硬さを向上させることで、マトリックスを強くし、摺動部品にて相手材とマトリックスとの金属接触が生じても塑性流動(塑性変形)が生じにくく、耐凝着性に優れる。また硬質粒子の面積率を上昇させ耐凝着性を向上させる。理論に拘泥されるものではないが、これは、硬質粒子においてMnがMo濃度の低いMoMn化合物(Mo4Mn5)を生成するためと推定される。また、上述したように、MnがマトリックスのCu成分中に固溶することにより、マトリックス中のNb固溶量が減少するため、硬質粒子中に含まれるNbが増えると推定される。Mn量が0.5%未満の場合、マトリックス硬さが不足し耐凝着性が十分ではない。Mn量が5.0%を超えるとマトリックス硬さが必要以上に上昇し、耐ワレ性が低下し肉盛時にワレが発生する。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のMnの含有量は0.5〜5.0%、好ましくは2.0〜4.5%とする。
SnはCu−Sn化合物を生成しマトリックス硬さを上昇させ、及び硬質粒子の面積率を増加させて耐凝着性を改善する。理論に拘泥されるものではないが、マトリックス硬さの向上は、Snがマトリックス主成分Cu及びNiに対し、Cu−Sn化合物(ε、η相)、Ni−Sn化合物(Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4)を生成して主にマトリックスに分布するためと推定される。また、硬質粒子の面積率の増加は、硬質粒子においてSnがMo濃度の低いMoSn化合物(Mo3Sn、MoSn2)を生成するためと推定される。0.5%未満の場合凝着性が不十分となる恐れがある。Sn量が5.0%を超えると硬質粒子の増加が飽和しワレが生じやすくなる。Snは硬質粒子の面積率を大きく上昇させ、硬質粒子の硬さを低下させて相手攻撃性を向上させる。理論に拘泥されるものではないが、硬質粒子の硬さの低下は、上述したMoSn化合物の硬さが比較的低いことによるものと推定される。相手バルブの選択自由度が上がり、相手バルブとの相性によりSnの添加量を決定できる。上記した事情を考慮し、本発明の銅基合金のSnの含有量は0.5〜5.0%、好ましくは1.0〜5.0%とする。
コバルトは2.0%まではニッケル、鉄、クロム等と固溶体を形成し、靱性を向上させる。コバルトの含有量が多い場合、ニッケルシリサイド組織にコバルトが入りこむことにより耐ワレ性が低下する。よって、これを回避する観点から、コバルトの含有量は2.0%未満、好ましくは0.01未満とし、また上限値は1.5%、1.0%、0.5%を例示できるが、これらに限定されるものではない。上記観点から、本発明の銅基合金はコバルトを含有しないことが特に好ましい。
実施例1〜5の耐摩耗性銅基合金及び比較例1〜5の銅基合金の組成(配合組成)を表1に示す。比較例5の銅基合金はマトリックスをCu−Ni−Siとし、さらに硬いNb−C及びNb−C−Moを含む硬質粒子をこれに分散させたものである。
肉盛の対象物であるAl合金(材質:AC2C)で形成された基体を用い、それぞれ実施例1〜5の耐摩耗性銅基合金及び比較例1〜5の銅基合金の粉末を基体の被肉盛部に載せて粉末層を形成した状態で、炭酸ガスレーザのレーザビームをビームオシレータにより揺動させると共に、レーザビームと基体とを相対的に移動させ、これによりレーザビームを粉末層に照射処理し、粉末層を溶融凝固させて肉盛層(肉盛厚み:2.0mm、肉盛幅:6.0mm)を基体の被肉盛部に形成した。この際、ガス供給管からシールドガス(アルゴンガス)を肉盛箇所に吹き付けつつ行った。上記照射処理では、ビームオシレータによりレーザビーム粉末層の幅方向に振った。上記照射処理では、炭酸ガスレーザのレーザ出力を4.5kW、レーザビームの粉末層でのスポット径を2.0mm、レーザビームと基体との相対走行速度を15.0mm/sec、シールドガス流量を10リットル/minとした。
JISZ2244ビッカース硬さ試験に規定される方法でマイクロビッカース試験にて試験力0.980Nで実施した。
JISZ2244ビッカース硬さ試験に規定される方法でマイクロビッカース試験にて試験力0.980Nで実施した。
硬質粒子の面積率は走査型電子顕微鏡を用いて下記条件にて測定した。
反射電子像観察時のWD:10mm
反射電子像観察時のスポット径:40
画像解析ソフト:Win−Roof
面積率測定:硬質粒子とマトリックスを2値化し、×100の写真で10μmφ以上、×800の写真で1μmφ以上の硬質粒子を測定した。肉盛材料の任意の8カ所を測定し、×100及び×800のデータを合算して測定した。
耐摩耗性を図1に示す試験機を用いて測定した。試験機において、プロパンガスバーナーを加熱源として用い、試験片であるリング形状のバルブシートと、バルブのバルブフェースとの摺動部をプロパンガス燃焼雰囲気とした。バルブフェースはEV12(SAE規格)窒化処理材を用いた。バルブシート及びバルブフェースの温度を250℃に制御し、スプリングによりバルブシートとバルブフェースとの接触時に25kgfの荷重を付与して3250回/分の割合で接触させ、8時間の摩耗試験を実施した。その後、耐摩耗性をバルブシートとバルブの摩耗量の比により評価した。
結果を表1及び図2〜11に示す。
Claims (5)
- 重量%で、ニッケル:5.0〜30.0%;シリコン:0.5〜5.0%;鉄:3.0〜20.0%;クロム:1.0%未満;ニオブ:5.0%以下;カーボン:2.5%以下;モリブデン、タングステン及びバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種:3.0〜20.0%;マンガン:0.5〜5.0%及び/又はスズ:0.5〜5.0%;残部銅;並びに不可避不純物を含み、
マトリックスとマトリックスに分散した硬質粒子とを備える耐摩耗性銅基合金であって、
ニオブを含む場合、硬質粒子が、炭化ニオブと、その周辺にNb−C−Mo、Nb−C−W及びNb−C−Vからなる群から選択される少なくとも1種とを含み、
ニオブを含まない場合、硬質粒子が、炭化モリブデン、炭化タングステン及び炭化バナジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記耐摩耗性銅基合金。 - マトリックスの硬さが200〜400HVであり、硬質粒子の硬さが500〜1200HVであり、かつマトリックス及び硬質粒子の合計面積に対する硬質粒子の面積率が5〜50%である、請求項1に記載の耐摩耗性銅基合金。
- 肉盛用合金として用いられる、請求項1又は2に記載の耐摩耗性銅基合金。
- 肉盛層を構成している、請求項1又は2に記載の耐摩耗性銅基合金。
- 内燃機関用の動弁系部材又は摺動部材に用いられる、請求項1又は2に記載の耐摩耗性銅基合金。
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