JP3196381B2 - エンジンバルブ盛金用Ni基合金 - Google Patents

エンジンバルブ盛金用Ni基合金

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、盛金用合金、より詳し
くは、高密度エネルギー熱源を利用したエンジンバルブ
盛金用のNi基合金に関する。盛金(肉盛)とは、金属
機械部品などの表面に耐摩耗性の良い金属を溶着するこ
とであり、各種分野にて耐摩耗性や耐食性を要求される
箇所に盛金が施されている。
【0002】近年、エンジンの高出力化、高性能化に伴
って、エンジンバルブのフェース部に耐摩耗性合金を盛
金することがますます増えている。その盛金方法として
は、、従来酸素−アセチレンガス法あるいはアーク法が
用いられてきた。しかし近年、それに代わる高速盛金法
として、レーザやプラズマなどの高密度エネルギー熱源
を利用する方法が開発され、実用化されつつある。この
盛金法によって設備の自動化と相俟って、盛金速度を数
倍速くし、不良品の発生をかなり低減することが可能で
ある。このために、今後はこれら高エネルギー密度熱源
を利用した盛金(肉盛)法がますます広く採用されると
考えられる。
【0003】
【従来の技術】エンジンバルブのフェース部の盛金材料
として、ニッケル(Ni)基合金が提案されている(例
えば、特開昭55−100949号公報、特開昭59−
43836号公報参照)。さらに、溶接ないし盛金(サ
ーフェシング)用の耐摩耗性・耐食性Ni基硬質合金も
提案されている(例えば、特開昭55−122848号
公報参照)。これらのニッケル基合金は、盛金組織中に
存在する初晶炭化物により耐摩耗性を確保しており、酸
素−アセチレンガス法あるいはアーク法などの比較的冷
却速度の遅い加熱冷却法によってバルブフェース部に盛
金されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そして、エンジンの高
出力化、低燃費化、信頼性の向上などの高性能化要求に
伴い、エンジンバルブの使用環境も従来よりも一層厳し
さを増し、従来用いてきたニッケル基合金の盛金ではフ
ェース部の耐摩耗性が不足することがある。一方、上述
の高エネルギー密度熱源を用いた高速盛金法では、冷却
速度が速いため、耐摩耗性を確保するための初晶炭化物
が晶出しにくく、さらに、微細になる傾向があり、初晶
炭化物以外の硬質粒子が必要になる。
【0005】例えば、特開昭55−100949号公報
の場合では、タングステン(W)が5〜20%含まれて
おり、タングステンカーバイトによる良好な耐摩耗性が
期待できるが、このタングステンカーバイトは初晶炭化
物(Cr7C3)に比べて硬く、相手攻撃性が増加してしま
う。特開昭55−122848号公報では、炭素(C)
が0.55〜2.5%と少ないために、初晶炭化物自体も少
なく、高密度エネルギー熱源利用での急冷ではより少な
くなり、十分な耐摩耗性が得られない。
【0006】さらに、特開昭59−43836号公報に
て提案されたニッケル基合金では、炭化物以外の硬質粒
子の晶出が非常に少なく、冷却速度が速くなると、初晶
炭化物も少なくなる。高密度エネルギー熱源を利用した
場合、このままでは盛金層の耐摩耗性が低下することに
なる。本願発明の目的は、上述の問題点に鑑み、冷却速
度が極めて早くなるレーザやプラズマなどの高密度エネ
ルギー熱源を利用する盛金においても、耐摩耗性を確保
する硬質粒子を晶出させることのできるエンジンバルブ
用盛金Ni基合金を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述の目的が、下記組成
(重量%): Si: 2.0〜7.0% C: 2.6〜4.0% Mo: 6〜15% Cr: 25〜40% 残部: Niおよび不可避的不純物 からなることを特徴とする高密度エネルギー熱源による
エンジンバルブ盛金用Ni基合金によって達成される。
【0008】
【作用】本発明に係るニッケル基合金では、モリブデン
(Mo)と珪素(Si)とのモリブデンシリサイド粒子
を、冷却速度の速い高密度エネルギー熱源を用いて盛金
時に、炭化物のまわりに微細に粒子として晶出させるこ
とにより、優れた耐摩耗性を確保する。このモリブデン
シリサイドは自己潤滑性が高く、その点から耐摩耗性を
一層向上させることができ、また、微細にすることによ
り相手攻撃性を小さくすることができる。なお、本発明
に係るニッケル基合金であっても、従来のガス盛金法や
アーク法では、得られる合金組織が粗大化することによ
り、相手攻撃性が増し、かつ加工性が低下してしまう。
【0009】本発明における組成成分の限定理由は次の
通りである。CrはNiを固溶強化する元素でかつ初晶
および共晶部で炭化物を形成して耐摩耗性を強化する元
素である。25wt%未満では強化の効果が得られず、一
方、40wt%を超えると、盛金層の靱性低下が著しい。
Moは珪素とモリブデンシリサイドの硬質粒子を形成し
て耐摩耗性を高める。また、バルブ使用時にはモリブデ
ンが酸化されてモリブデン酸化物を生成する。このモリ
ブデン酸化物は潤滑効果を有するので、耐摩耗性が一層
向上することになる。6wt%未満ではこれらの効果が見
られず、一方、15wt%を超えると、盛金層が脆化す
る。さらに、モリブデンシリサイドの生成によって共晶
部の炭化物中のモリブデンを減らすことができ、このた
めに共晶部の面積率を低減できる。この共晶部はエンジ
ンバルブの盛金層として用いる場合、マトリックスに比
べて高温での耐腐食性に劣ることから、その面積率を減
らすことにより耐腐食性が向上する。
【0010】Cは炭化物形成元素であり、所定の添加元
素を炭化物に変化させるのに十分な量としてある。2.
6wt%未満では十分な量の炭化物を得ることができず、
一方、4.0wt%を超えると、靱性の低下が著しい。S
iは珪化物(シリサイド)形成元素であり、2.0wt%
未満ではモリブデンシリサイド生成が十分な耐摩耗性を
与えるには不十分であり、一方、7.0wt%を超える
と、モリブデンシリサイド生成量が多くなり過ぎて、靱
性が低下し、硬度が高くなって加工性が低下する。
【0011】
【実施例】以下、添付図面を参照して、本発明の実施態
様例および比較例によって本発明を詳細に説明する。表
1に示した本発明に係る合金粉末の試料1、2、4、5
と、比較例の合金粉末(Si量の少ない)の試料3およ
び合金粉末(C量の少ない)の試料6とを用意し、後述
するようにレーザ光を熱源として用いて、耐熱鋼(JI
S・SUH1)基板上に溶着させて盛金層を形成する。
【0012】
【表1】
【0013】ここでの溶着(盛金)では、耐熱鋼基体を
一定速度で移動させ、この上に試料1〜6の粉末を連続
的に供給し、この粉末にレーザを集光照射して該粉末を
溶融し、該溶融物が照射位置から外れて該基体への熱移
動によって急速冷却凝固され、ニッケル基合金の盛金層
(溶着層)が形成される(例えば、特開昭63−157
826号公報参照)。レーザ盛金条件としては、レーザ
出力を2.4kWとし、処理速度(盛金層幅8mmでの盛金
層形成速度)を8mm/秒とする。
【0014】試料1の盛金層の表面研磨金属組織の顕微
鏡写真(×100)を図1に示す。この金属組織写真に
おいて、本発明のニッケル基合金では白色のNiベース
に灰色の初晶炭化物と黒色のモリブデンシリサイドが形
成されている。冷却速度が遅い場合、モリブデンは共晶
炭化物になるが、本発明では、珪素が多く、冷却速度も
早いため、モリブデンシリサイドとなるので、共晶炭化
物は極わずかしか見られない。
【0015】得られたニッケル基合金盛金層についての
摩耗特性を大越式の摩耗試験によって調べ、その試験結
果を図2および図3に示す。この試験では、相手材にバ
ルブシート用鉄基合金(Fe−0.9C−9Mo−2.
5Co−16Pb)の円板相手材を回転させながら耐熱
鋼基体上の盛金層に押しつける。試験条件としては、す
べり速度0.25m/秒、押しつけ荷重6.3kg、す
べり距離400m、温度200〜400℃(試料1〜
3)または常温(試料4〜6)であり、摩耗体積(減少
体積)を測定する。
【0016】図2より明らかなように、珪素(Si)量
が少ない試料3のニッケル基合金盛金層は本発明に係る
ニッケル基合金盛金層よりも摩耗量が多く、耐摩耗性が
低下している。これは、珪素量が低いとシリサイド粒子
の量も少ないことに起因している。図3より明らかなよ
うに、炭素(C)量が少ない試料6のニッケル基合金盛
金層は本発明に係るニッケル基合金盛金層よりも摩耗量
が多く、耐摩耗性が低下している。これは、炭素量が低
いと炭化物粒子の量も少ないことに起因している。
【0017】実機耐久試験 実際のガソリンエンジンにおいて、バルブフェース部に
ニッケル基合金の盛金層を形成したエンジンバルブを使
用して、一般走行を想定したパターン運転による300
時間の実機耐久試験を次のようにして行った。表1での
試料1および4の本発明に係るニッケル基合金粉末と、
試料3の比較例のニッケル基合金粉末のそれぞれを用い
て、耐熱鋼(JIS・SUH1)製バルブのフェース部
にレーザ盛金法(レーザ出力:2Z4kW、処理速度:
8mm/秒)で盛金した。この盛金層を所定寸法に機械
加工してから、バルブをエンジンに取り付けて、実機耐
久試験を行った。この耐久試験においては、衝撃的当接
に加えて、バルブが回転してすべり摩耗が促進される。
【0018】試験終了後のエンジンバルブについて、バ
ルブステム突出量、バルブフェース摩耗量およびバルブ
シート摩耗量を測定した。なお、バルブステム突出量は
バルブフェース摩耗量(耐摩耗性)とバルブシート摩耗
量(相手攻撃性)のトータル量を表す量である。測定結
果を摩耗量の限界基準値を100とする指標で表2にま
とめて示す。
【0019】
【表2】
【0020】表2から分かるように、比較例(試料3)
のニッケル基合金の盛金では、バルブシート(相手材)
の摩耗は少ないが、自己のフェース摩耗量は100以上
にもなり、耐摩耗性が低いが、本発明に係るニッケル基
合金の盛金の場合にはフェース摩耗も小さくかつシート
摩耗も比較的小さく共に限界基準値よりも小さく、耐摩
耗性および相手攻撃性に優れている。
【0021】また、レーザ盛金法に代えてプラズマ盛金
法を採用して、本発明に係るニッケル基合金を盛金して
も、同等の結果(効果)が得られる。
【0022】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る急速
加熱冷却となる高密度エネルギー熱源によるニッケル
(Ni)基合金盛金層は、モリブデンシリサイド粒子を
適切に生成して耐摩耗性が向上し、相手材への攻撃性が
抑制される。そして、本発明のニッケル基合金を任意に
金属基体上に盛金(溶着)形成できるので、各種の機械
部品(エンジンのバルブシートを含め)での耐摩耗性が
必要な部位のみに形成して特性向上を図ることができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる試料1のニッケル基合金盛金層
の金属組織写真(×100)である。
【図2】珪素(Si)量をパラメータとした大越式摩耗
試験の結果(摩耗量)を示すグラフである。
【図3】炭素(C)量をパラメータとした大越式摩耗試
験の結果(摩耗量)を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 中小原 武 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自 動車株式会社内 (72)発明者 森 和彦 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自 動車株式会社内 (56)参考文献 特開 平5−156396(JP,A) 特開 昭54−99034(JP,A) 特公 平2−30799(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 35/30 C22C 19/05

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記組成(重量%): Si: 2.0〜7.0% C: 2.6〜4.0% Mo: 6〜15% Cr: 25〜40% 残部: Niおよび不可避的不純物 からなることを特徴とする高密度エネルギー熱源による
    エンジンバルブ盛金用Ni基合金。
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