JP2673593B2 - 吸気用肉盛エンジンバルブ - Google Patents

吸気用肉盛エンジンバルブ

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は内燃機関用エンジンバルブ、より詳しくはバ
ルブフェース面に肉盛部を設けてフェース面の性能向上
を図った吸気用肉盛エンジンバルブに関する。
[従来の技術] エンジンバルブ用肉盛材料として、吸気及び排気用の
エンジンバルブともにCo基合金、Ni基合金等を使用する
のが主流である。ところが、これらCo基合金、Ni基合金
はともに高価であるため、近年肉盛材料として安価なFe
基合金の使用が検討されている。
この背景の一つとして、肉盛用熱源の高密度エネルギ
ー化がある。すなわち、酸素−アセチレンガス炎による
溶融溶着法により肉盛することが従来の一般的な方法で
あったが、この方法では肉盛できる材料がCo基合金や一
部のNi基合金等肉盛性の良好なものに限られていた。一
方、近年、レーザーやプラズマなど高密度エネルギー熱
源の出現により、材料の自由度が拡大し、肉盛性が比較
的良くないFe基合金の肉盛も可能となってきた。
ところで、従来より知られている一般のFe基合金とし
て、大別すると (1)Fe-Cr-C系合金(自動車技術Vol 32、No.8、197
8、第757頁)、 (2)Fe-Cr-C-Ni(Co)系合金(特開昭58-154492号公
報)、 (3)Fe-Cr-C-Ni(Co)−W(Mo)系合金(SAE、J77
5、JAN88、第20頁) がある。
[発明が解決しようとする課題] 上記従来のFe基合金は、とくに高密度エネルギー熱源
により肉盛することを特定されたものではないが、一般
に以下に示す問題点がある。
すなわち、上記(1)の合金は最も安価であるが、バ
ルブ肉盛用としての特性、すなわち靱性、耐食性、耐摩
耗性等が充分とはいえない。
上記(2)の合金はNi及び/又はCoの添加により靱性
及び耐食性の向上が図られているが、耐摩耗性が不十分
でしかも高価である。
上記(3)の合金は(2)の合金にさらにW及び/又
はMoの添加により耐摩耗性の向上も図られているが、高
価である。なお、Ni及び/又はCoは、W及び/又はMoの
添加による靱性の低下を抑える働きもある。
ところで、バルブフェース面では、一般に耐食性、耐
摩耗性、疲労強度等の性能が要求される。そして、吸気
用バルブのフェース面ではとくに耐摩耗性が、また排気
用バルブのフェース面ではとくに高温における疲労強度
及び耐食性が要求される。
本発明は、安価で、かつ靱性及び耐摩耗性に優れ、耐
食性が極端には要求されない吸気用肉盛エンジンバルブ
を提供することを解決すべき技術課題とするものであ
る。
[課題を解決するための手段] 本発明の吸気用肉盛エンジンバルブは、C:1.1〜1.9重
量%(以下、%は重量%を示す)、Cr:25〜33%、Mo:3
〜8%、Si:1.5%以下、Fe及び不可避不純物:残部から
なりデンドライト二次アームスペーシング値(DAS値)
が5μm以下であり、Niを含まない肉盛部を、バルブフ
ェース面にもつことを特徴とする。
上記成分の限定理由を以下に説明する。
(C) Cは、基質のFe-Cr-Mo固溶体中に一部固溶して基質の
強化と硬さを高めるが、Cの大部分はCr、Moを主体とす
る複炭化物を形成して基質固溶体との共晶複炭化物とな
る。したがって、Cは合金の硬さを高め、耐摩耗性を向
上させるとともに、合金の融点を下げる働きを有する。
Cが1.1%未満ではその働きが少なく、1.9%を越える
と、複炭化物が増え、過共晶となりCr、Moの複炭化物が
初晶として晶出するため、合金の靱性が低下するので好
ましくない。
以上の理由から、Cの添加量は1.1〜1.9%と限定し
た。
(Cr) Crは、Fe、Moと固溶して合金の基質となる初晶固溶体
を構成する。また、Crの一部はMoとともにCと結合し
て、Cr、Moを主体とする複炭化物を形成する。すなわ
ち、Crは初晶固溶体として、耐酸化性、耐食性、高温強
度を高めるとともに、複炭化物の形成をとおして耐摩耗
性を高める。
Crが25%未満では上記作用が劣り、また33%を越えて
添加しても上記作用の向上効果がなく、しかも合金の靱
性が低下する傾向があり、好ましくない。
以上の理由から、Crの添加量は25〜33%と限定した。
(Mo) Moは、基質の固溶体中に固溶して合金を強化すると同
時に合金の靱性を向上させる。またCrとともにCと結合
し、Cr、Mo複炭化物を形成して合金の高温硬さ、及び耐
摩耗性を向上させる働きを有する。
とくに、本発明においてはMoの添加により、共晶炭化
物の他に塊状のMoリッチ炭化物を形成し、これが耐摩耗
性の向上に著しく寄与することがわかった。
Moが3%未満では塊状炭化物が少なくて耐摩耗性の向
上が不十分であり、また8%を越えると逆に塊状炭化物
が多すぎて靱性が低下するとともに肉盛性が悪くなる。
また、Moを8%を越えると相手材への攻撃性が増大する
問題もある。
以上の理由から、Moの添加量は3〜8%と限定した。
(Si) Siは、通常、脱酸剤として添加されるものであるが、
本発明にあっては、Siを1.5%を越えて添加すると合金
の靱性を低下させる。
以上の理由から、Siの添加量は1.5%以下に制限し
た。
本発明の吸気用肉盛エンジンバルブの肉盛部は、デン
ドライト二次アームスペーシング値(以下、DAS値と称
する)が5μm以下である。このDAS値は、肉盛組織の
大きさ、すなわち粗い組織か、微細な組織かを示す尺度
であり、この値が小さいほど組織が微細であることを示
す。したがって、DAS値が5μmを越えると靱性が低下
する。
上記DAS値は、レーザ、プラズマ等の高密度エネルギ
ー熱源で肉盛することにより低下させることができる。
DAS値を5μm以下にするために、レーザ肉盛法を利用
する場合は、レーザ出力1.5〜4.5kW、溶接速度5〜20mm
/秒、粉末供給量5〜15g/分の溶接条件で行うことが好
ましい。またプラズマ肉盛法を利用する場合は、溶接電
流100〜130A、溶接速度5〜20mm/秒、粉末供給量5〜15
g/分の溶接条件で行うことが好ましい。
[作用] 本発明の吸気用肉盛エンジンバルブは、肉盛部の組成
が特定され、かつDAS値が5μm以下に制限されている
ので、靱性及び耐摩耗性に優れる。
すなわち、Cr及びMoとCとの結合によりCr、Moを主体
とする副炭化物が形成され、耐摩耗性が向上する。ま
た、Moは塊状のMoリッチ炭化物をも形成し、これにより
耐摩耗性が著しく向上する。さらに、DAS値の制限によ
り肉盛組織が微細化されているので、靱性に優れる。
[実施例] 以下、本発明を実施例により説明する。
表に示す組成をもちNo.10及びNo.21を除く19種類の合
金粉末を、ガスアトマイズ法によって得た。各粉末の粒
度を−250#に調整し、表に示す肉盛法によってSUH3よ
りなるバルブ素形材(傘径φ32mm)のフェース面に肉盛
部を形成して吸気用肉盛エンジンバルブとした。なお、
レーザ肉盛法は、レーザ出力2.5kW、溶接速度9.5mm/
秒、粉末供給速度10g/分の溶接条件で行った。またプラ
ズマ肉盛法は、プラズマガス流量1.2l/分、溶接電流120
A、溶接速度9.5mm/秒、粉末供給量10g/分の溶接条件で
行った。
上記エンジンバルブの肉盛部について、肉盛組織及び
肉盛性を調査した。この結果を表に示す。なお、肉盛組
織は村上試薬エッチングすることによりDAS値を測定し
て評価した。また、肉盛性は母材との濡れ性、ビード形
状から評価した。
また、上記と同様の19種類の合金粉末をSUH3よりなる
板状母材の上に前記と同様に表中に示す肉盛法により肉
盛部を形成した後、試験ピースを加工した。
この試験ピースについてビッカース硬度計(荷重10kg
f)を用いた常温硬さ試験、ビッカース硬度計(荷重1kg
f)を用いた高温(600℃)硬さ試験、及びシャルピー衝
撃試験を行った。その結果を表に示す。なお、シャルピ
ー衝撃試験はノッチなし試験片を用いることにより行っ
た。
さらに、表に示す組成をもつNo.10、及びNo.21の合金
については、電気炉でアルゴンガス雰囲気溶解し、ガラ
ス管(φ4.8mm)に吸引鋳造して肉盛棒を形成した。こ
の肉盛棒を酸素−アセチレンガス炎肉盛法によって前記
と同様のバルブ素形材のフェース面に肉盛して吸気用肉
盛エンジンバルブとした。
上記エンジンバルブの肉盛部について、前記と同様に
肉盛組織及び肉盛性を調査した。この結果を表に示す。
また、No.10、及びNo.21の合金粉末をSUH3よりなる板
状母材の上に酸素−アセチレンガス炎肉盛法により肉盛
した後、試験ピースを加工した。
この試験ピースについてビッカース硬度計(荷重10kg
f)を用いた常温硬さ試験、ビッカース硬度計(荷重1kg
f)を用いた高温(600 ℃)硬さ試験、シャルピー衝撃試験を前記と同様に行っ
た。その結果を表に示す。
さらに、No.1、No.17〜No.20の合金よりなる肉盛部を
もつエンジンバルブ、及び別途作製した肉盛のないSUH3
合金バルブについて、弁座試験機により耐摩耗性を評価
した。なお、この弁座試験は、相手バルブシート材料と
して鉄系焼結バルブシート材料を用い、270℃及び560℃
の各試験温度、試験時間8時間、5kgfの荷重、叩き回数
2158回/分の条件で行った。この結果を第1図に示す。
(評価) 以下、それぞれの評価結果について検討する。
本発明に係るNo.1〜No.9の合金よりなる肉盛部をもつ
バルブフェースは、高密度エネルギー熱源を利用して肉
盛部を形成しているため、DAS値が2.2〜3.8μmと小さ
い。このため、Fe基合金を使用しているのにもかかわら
ず、シャルピー衝撃値が0.6kgfm/cm2以上あり、靱性に
優れる。これは、Coを含む従来合金(No.21)を酸素−
アセチレンガス炎肉盛法により肉盛した従来のバルブフ
ェースと同等以上の性能である。
また、本発明に係るNo.1〜No.9の合金よりなる肉盛部
をもつバルブフェースは、高密度エネルギー熱源を利用
して肉盛部を形成しているため、Fe基合金を使用してい
るのにもかかわらず、肉盛性が良好である。
さらに、第1図に示す結果から明らかなように、本発
明に係るNo.1の合金よりなる肉盛部をもつバルブフェー
スは、Coを含む従来合金(No.20)よりなる肉盛部をも
つバルブフェースと同程度に優れた耐摩耗性を示す。こ
れは、No.1合金の肉盛部の金属組織を示す顕微鏡写真を
第2図に示すように、本発明に係る合金よりなる肉盛部
は、初晶(図中、白く見える部分)と共晶のデトライト
組織であるが、共晶内に塊状のMoリッチ炭化物が存在し
ている。この塊状Moリッチ炭化物(図中、大きく黒く見
える部分)が耐摩耗性の向上に著しく寄与したものと思
われる。
一方、比較に係る合金よりなる肉盛部をもつバルブフ
ェースは、以下のとおり欠点をもつ。
No.10合金は、No.1合金と同じ組成をもつが、酸素−
アセチレンガス炎肉盛法により肉盛されているため、肉
盛性が悪い。またDAS値も大きく、靱性に劣る。
No.11合金は、Cr含有量が過少であるため、耐酸化性
に劣る。
No.12合金は、Mo含有量が過少であるため、耐摩耗性
に劣る。
No.13合金は、Mo含有量が過多であるため、肉盛性が
悪い。
No.14合金は、C含有量が過少であるため、耐摩耗性
に劣る。
No.15合金は、C含有量が過多であるため、肉盛性が
悪く、また靱性に劣る。
No.16合金は、Si含有量が過多であるため、靱性に劣
る。
No.17合金は、Moが含有されていないので、耐摩耗性
に劣る。
No.18合金も、Moが含有されていないので、耐摩耗性
に劣る。
No.19〜No.21合金はNi、Co、W等を含有しているた
め、高価である。
[発明の効果] 以上詳述したように、本発明の吸気用肉盛エンジンバ
ルブは、肉盛部の肉盛性、靱性、及び耐摩耗性が良好
で、しかも安価である。
【図面の簡単な説明】
第1図は弁座試験機によるバルブフェース摩耗量の測定
結果を示すグラフ、第2図は本発明に係るバルブフェー
スの肉盛部の金属組織を示す顕微鏡写真である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平1−57998(JP,A) 特開 平2−92494(JP,A) 特開 平2−117797(JP,A)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C:1.1〜1.9重量%、Cr:25〜33重量%、Mo:
    3〜8重量%、Si:1.5重量%以下、Fe及び不可避不純
    物:残部からなりデンドライト二次アームスペーシング
    値(DAS値)が5μm以下であり、Niを含まない肉盛部
    を、バルブフェース面にもつ吸気用肉盛エンジンバル
    ブ。
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