以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1及び図2を参照して、多針ミシン(以下、単にミシンという)1、及び刺繍枠5の物理的構成について説明する。以下の説明では、図1の上側、下側、左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側を各々、ミシン1及び刺繍枠5の上側、下側、前側、後ろ側、左側、右側とする。
図1及び図2に示すように、ミシン1は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、ミシン1全体を支持する。脚柱部3は、支持部2の後端部から上方へ立設される。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着される。針棒ケース21の内部には、上下方向に伸びる10本の針棒22(図2参照)が左右方向に等間隔で配置される。10本の針棒22のうち、縫製位置にある1本の針棒(縫製針棒)が、主軸モータ(図示略)を駆動源として駆動する針棒駆動機構(図示略)によって上下方向に摺動される。図2に示すように、針棒22の下端には、縫針23が装着可能である。押え足24は、針棒22の上下動と連動して、間欠的に被縫製物C(図8参照)を下方へ押圧する。被縫製物Cは、例えば、加工布である。
図1に示すように、アーム部4には、操作部6が設けられる。操作部6は、スタート/ストップスイッチ9を備える。スタート/ストップスイッチ9は、縫製の開始又は停止を指示する際に使用される。図1及び図2に示すように、アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられる。シリンダベッド10の先端部の内部には、釜(図示略)が設けられる。釜は、下糸(図示略)が巻回されたボビン(図示略)を収納する。シリンダベッド10の内部には、釜駆動機構(図示略)がある。釜駆動機構は、釜を回転駆動する。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形の針板27がある。針板27には、縫針23が挿通する針穴16が設けられる。10本の針棒22のうち、針穴16の直上に位置している針棒22が縫製針棒である。アーム部4の下方には更に、移動機構(図示略)のホルダ25、Yキャリッジ26、及びXキャリッジ28が設けられる。移動機構のホルダ25は、枠取付部材31を介して、刺繍枠5を着脱可能に支持する。刺繍枠5は、被縫製物Cを保する。移動機構は、ホルダ25に装着された刺繍枠5を、固有のXY座標系(刺繍座標系)で示される位置に移動可能である。アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられる。各糸駒台12には、複数の糸立棒14が設けられる。糸立棒14は、糸駒13を支持する。上糸15は、糸駒台12に設置された糸駒13から供給される。上糸15は、糸道経路を経由して、針棒22の下端に装着された各縫針の目孔(図示略)に供給される。糸道経路は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19とを含む。
図1を参照して、刺繍枠5に保持された被縫製物Cに縫目を形成する動作について説明する。被縫製物Cを保持した刺繍枠5は、枠取付部材31を介して移動機構のホルダ25に支持される。針棒ケース21が左右に移動することで、10本の針棒22のうち1本が縫製針棒として選択される。移動機構によって、刺繍枠5が所定の位置に移動される。針棒駆動機構及び天秤駆動機構は、主軸モータを駆動源として、選択された針棒22及びそれに対応する天秤19が上下駆動される。また、主軸モータの回転によって釜駆動機構が駆動され、釜が回転駆動される。このように、縫針23と天秤19と釜とが同期して駆動され、被縫製物Cに縫目が形成される。
図2から図8を参照して、ミシン1が備える刺繍枠ユニット30について説明する。刺繍枠ユニット30は、ミシン1に着脱可能に装着される部材である。刺繍枠ユニット30は、刺繍枠5と、枠取付部材31とを備える。刺繍枠5は、第一枠51と、第二枠52とを有し、第一枠51と、第二枠52とで被縫製物Cを保持可能である。枠取付部材31は、ホルダ25に着脱可能に取り付けられる。枠取付部材31は、刺繍枠5を着脱可能に装着する。つまり本実施形態のミシン1には、枠取付部材31を介して、刺繍枠5を装着可能である。
図3から図6に示すように、刺繍枠5は、第一枠51、第二枠52、ロック機構53、支持板54、及び取付部材55を備える。第一枠51及び第二枠52は、平面視矩形状の枠状の部材である。第一枠51と第二枠52との間には、被縫製物Cを配置可能である。第二枠52は、ロック機構53によって、第一枠51に対して回動可能に支持される。図5に示すように、平面視において、第一枠51の外側形状は、第二枠52の外側形状よりも大きい。第一枠51は、第一枠51の厚み方向に貫通する、平面視矩形状の孔61を有する。第一枠51は、後端側の端部に、支持板54及び取付部材55に取り受けるための取付部68を有する。第二枠52は、第二枠52の厚み方向に貫通する、平面視矩形状の孔62を有する。第二枠52が、第一枠51に対して閉じた位置(後述の第一位置)にある場合、孔62の平面形状は、孔61の平面形状と略一致する。
図6に示すように、第二枠52は、右側面及び左側面に、側面視円状の孔63を有する。孔63は、孔63が設けられた面の長手方向(図6では、前後方向)の中心線M2上に設けられる。つまり孔63は、矩形状の第二枠52が有する四辺の内、孔63が設けられる辺の略中心に設けられる。孔63は、第二枠52の厚み方向(図6では、上下方向)の略中心に設けられる。
図2及び図5に示すように、第二枠52は、第一面64に、第一滑止部66を有する。第二枠52は、第二面65に、第二滑止部67を有する。第二面65は、第一面64とは反対側の面である。第一滑止部66と、第二滑止部67とは各々、第一枠51と、第二枠52との間に配置された被縫製物Cが、第二枠52に対して移動することを抑制するために設けられる。本例の第一滑止部66と、第二滑止部67とは、互いに異なる物性を有する。本例の第一滑止部66は、図5のB−B線における前側から見た部分断面図のように、第一面64から離れる側ほど、第二枠52の内側から外側に向かい傾斜する短繊維が植毛されたパイル部材である。第一滑止部66は、平面視矩形の薄シート状であり、矩形状の第二枠52が有する四辺の第一面64に貼り付けられる。第二滑止部67は、例えば、シート状の基材表面に微小砥粒(金剛砂及びガラス等)を固着させた砥粒シート又はシート状のウレタンフォームを、矩形状の第二枠52が有する四辺の第二面65に貼着させたものである。第一枠51の第二枠52に対向する側の面56には、滑止部69が設けられる。滑止部69は、第一枠51と、第二枠52との間に配置された被縫製物Cが、第一枠51に対して移動することを抑制するために設けられる。滑止部69は、第一滑止部66及び第二滑止部67の何れかと同様の素材であってもよいし、異なる素材であってもよい。
後述するように、本例の刺繍枠5は、第一枠51に対する第二枠52の姿勢を、第一姿勢と、第二姿勢とに変更可能に構成される。第一姿勢は、図2に示すように、第二枠52の第一面64が第一枠51側を向く姿勢である。第二姿勢は、図5に示すように、第二枠52の第二面65が第一枠51側を向く姿勢である。ユーザは、被縫製物Cの素材に応じて、第一枠51に対する第二枠52の姿勢を第一姿勢と第二姿勢との何れかに切り替えることができる。例えば、被縫製物Cが、綿生地及び不織布等である場合、刺繍枠5は、第一滑止部66が貼着された第一面64が第一枠51側を向く第一姿勢で使用される。また例えば、被縫製物Cが、ビニル生地等である場合、刺繍枠5は、第二滑止部67が貼着された第二面65が第一枠51側を向く第二姿勢で使用される。
ロック機構53は、第二枠52を第一枠51側に押圧可能である。本例のロック機構53は、第一位置、第二位置及び第三位置を含む3以上の位置に、第一枠51に対する第二枠52の位置を切り替えて保持可能である。第一枠51に対する第二枠52の位置については後述する。本例のロック機構53は、左右一対の第一ロック機構71と、第二ロック機構72とを有する。第一ロック機構71は、第二枠52の一方側(右側)において、第二枠52を支持し、第一枠51に対する第二枠52の位置を、上記3以上の位置の何れかに切り替え可能である。第二ロック機構72は、第二枠52の一方側とは反対側(左側)において、第二枠52を支持し、第一ロック機構71とは別に、第一枠51に対する第二枠52の位置を、上記3以上の位置の何れかに切り替え可能である。
第一ロック機構71と、第二ロック機構72とは、刺繍枠5の左右方向の中心線M1(M)について、左右対称に構成される。第一ロック機構71と、第二ロック機構72とは各々、支持部材75、回転軸76、ロック解除レバー77、第一付勢部材78、押圧レバー79、及び第二付勢部材80を備える。以下、第一ロック機構71を例に、ロック機構53の構成について説明し、第二ロック機構72の説明は省略する。以下の説明では、取付部材55から第一枠51に向かう方向(前方)を、取り外し方向、及び一端側とも言う。第一枠51から取付部材55に向かう方向(後方)を、装着方向、及び他端側とも言う。刺繍枠5の第一枠51の延設面において装着方向と直行する方向(左右方向)を幅方向とも言う。第二枠52に対向する側の第一枠51の面56を、刺繍枠5の延設面とも言う。刺繍枠5の延設面(本例では、水平面)における中心線M1から離れる方向を離間方向とも言う。
支持部材75は、丸棒状の弾性体を屈曲させて形成された部材である。支持部材75は、支持部81、屈曲部82、回動部83、前部84、及び後部85を備える。支持部81は、支持部材75の一端側において第二枠52を回動可能に支持する。支持部81は、丸棒状の弾性体の一端を、第二枠52側に屈曲させた部位である。支持部81は、第二枠52の側面に設けられた孔63に挿通され、支持部81を中心として、第二枠52を第一姿勢と第二姿勢とに回動可能に支持する。ユーザが左右一対の支持部81間の距離を広げた場合、支持部81は、第二枠52に設けられた孔63から抜け、第二枠52は、支持部材75から外れる。つまり、第二枠52は、着脱可能に支持部材75に支持される。
屈曲部82は、支持部材75の前後方向の略中央部において、回転軸76の延設方向(幅方向)に屈曲したU字状の部分である。回動部83は、丸棒状の弾性体の一端を、支持部81とは反対側に屈曲させた部位である。回動部83は、支持板54によって、第一枠51に対して回動可能に支持される。支持部材75は、支持部81と第一枠51との間の距離が、第二枠52が有する辺の内、支持部81に支持される辺の長さ(図5における前後方向に延びる辺の長さ)の半分以上となる位置に、回動部83を中心に第一枠51に対して回動可能である。
前部84は、支持部81と、屈曲部82との間の、前後方向に延びる部位である。前部84は、図5の状態において、第二枠52の前後方向の辺と略平行に延びる。後部85は、図5の状態において、屈曲部82と、回動部83との間の前後方向に延びる部位である。刺繍枠5の左右方向の中心線M1と前部84との距離D1は、中心線M1と後部85との距離D2よりも長い。換言すれば、後部85は、前部84よりも中心線M1側によっている。後部85の中心線M1側には、後述する取付部材55の挿通部134が配置される。支持部材75は、挿通部134により、中心線M1側に移動することが規制される。このため、支持部材75は、支持板54から抜け落ちることを抑制される。図2から図4に示すように、第一枠51に対する第二枠52の位置が第二位置にある場合、支持部81、屈曲部82、回動部83、前部84及び後部85は略同一平面上にある。
図6に示すように、回転軸76は、左右方向に延びる、金属製の棒状の軸である。回転軸76は、後述する支持板54の孔106、107と、ロック解除レバー77の孔89に挿通される。ロック解除レバー77は、一端側で回転軸76によって第一枠51に対して回動可能に支持される。ロック解除レバー77は、回転軸76から一端側とは反対の他端側に延設された部材である。ロック解除レバー77は、金属製の板を加工して形成される。ロック解除レバー77は、本体部86、左右一対の支持部88、及び操作部90を備える。本体部86は回転軸76と略平行に延びる板状の部位である。本体部86の前端部には、後ろ側(操作部90側)に向けて凹む凹部87が設けられる。左右一対の支持部88は各々、本体部86の左端部及び右端部を本体部86の延設面から第一枠51側(下方)に折り曲げた部位である。一対の支持部88は、厚み方向(左右方向)に貫通する孔89を備える。孔89には回転軸76が挿通される。操作部90は、本体部86の後部を第一枠51側(下方)に折り曲げた部位である。
第一付勢部材78は、ロック解除レバー77を第一枠51から離れる第一回転方向に付勢する。本例の第一回転方向は、右側面視反時計回りである。第一付勢部材78は、例えば、ねじりバネである。第一付勢部材78は、回転軸76に挿通される。
押圧レバー79は、金属製の板を加工して形成される。押圧レバー79は、支持部材75の回動部83に挿通され、回動部83を中心に第一枠51に対して回転可能に支持される。押圧レバー79は、本体部91、押圧部92、左右一対の支持部93、及び係合部94を有する。本体部91は、平面視前後方向に長い矩形状の板状の部分である。押圧部92は、押圧レバー79の前部に設けられた、支持部材75を第一枠51側に押圧する部位である。押圧部92は、押圧レバー79の前端が下方に向けて鉤状に加工されて形成される。押圧部92は、支持部材75の屈曲部82の前部を保持する。屈曲部82の離間方向の端部は、押圧部92の離間方向の端部よりも、中心線M1から離れている。左右一対の支持部93は各々、本体部91の左端部及び右端部を本体部91の延設面から第一枠51側(下方)に折り曲げて加工された部位である。一対の支持部93は各々、厚み方向(左右方向)に貫通する孔95を備える。孔95には支持部材75の回動部83が、刺繍枠5の中心線M1側から挿通される。
係合部94は、左右一対の支持部93の内、中心線M1側の支持部93の後端部に設けられる。図2に示すように、係合部94は、複数の凹部96と、複数の凸部97とを備える。凹部96と凸部97とは交互に形成される。複数の凸部97は各々、凹部96に隣接した、回動部83から離れる側に突出した部位であり、複数の凹部96に応じた数に設けられる。本例の係合部94には、5つの凸部97と、4つの凹部96とが交互に配置される。押圧レバー79が備える複数の凸部97のうち、第一枠51から最も離れた位置(つまり、最も上側)にある最大凸部98の回転軸76に対する突出量が最も大きい。凹部96は、ロック解除レバー77の一端側に設けられた凹部87と係合可能である。
第二付勢部材80は、押圧レバー79を第一枠51から離れる側に付勢する。本例では、第二付勢部材80は、右側面視時計回りに押圧レバー79を付勢する。刺繍枠5では、押圧レバー79及びロック解除レバー77の何れかに対する操作に応じて、ロック解除レバー77の端部が係合する凹部96が切り替えられることにより、第一枠51に対する第二枠52の位置が切り替えられる。
図6に示すように、支持板54は、左右方向に延設された金属製の板状の部材である。支持板54の平面視の形状は、後方に開口するU字状である。支持板54は、本体部109及び左右一対の支持部101から103を有する。本体部109は、左右方向に延設された、略水平方向の延びる板状の部位である。本体部109には、厚み方向(上下方向)に貫通する3つのネジ孔110が設けられる。左右一対の支持部101は各々、支持板54の左端部及び右端部を本体部109の延設面から上方に折り曲げて加工された部位である。一対の支持部101は、厚み方向(左右方向)に貫通する孔104、106が設けられる。左右一対の支持部102、103は、支持部101と対向するように、板状の部材を上方に折り曲げて加工された部位である。左右一対の支持部102は各々、孔104と対向する位置に、孔105を備える。左右一対の支持部103は各々、孔106に対向する位置に、孔107を備える。孔104、105には、支持部材75の回動部83が挿通される。孔106、107には、回転軸76が挿通される。左右一対の支持部102の下端部は、上下方向に貫通する孔108と隣接する。孔108には、押圧レバー79の係合部94が挿通可能である。
取付部材55は、後述する所定の装着位置において、ミシン1が有する枠取付部材31によって着脱可能に支持される。取付部材55は、取付部材130及び位置決め部材140を有する。取付部材130は、連結部131、及び取付部132を備える。連結部131は、取付部材130の前部において水平方向に延びる板状の部位を有する。連結部131には、上下方向に貫通する3つの孔133を有する。連結部131は、第一枠51の取付部68の上部に配置され、ネジ117によって取付部材130と第一枠51と支持板54とが連結される。
取付部132は、枠取付部材31によって、着脱可能に支持される部位である。取付部132は、取付部材130の後部に形成される。取付部132は、左右一対の挿通部134、左右一対の案内部135、左右一対のネジ孔136、及び凸部137を備える。左右一対の挿通部134は、取付部132の左右方向の端部を上方に折り曲げることによって形成されており、孔138を有する。左右一対の案内部135は、左右方向において一対の挿通部134の間に設けられる。一対の案内部135は各々、平面視において略V字状に切りかかれた部位である。凸部137は、取付部132の後部の左右方向において中央付近において下方へ突出する。取付部132に対する凸部137の左右方向における位置は、刺繍枠5に固有の位置に設定される。
位置決め部材140は、取付部材130の装着位置を規定する部材である。位置決め部材140は、左右方向に延びる、可撓性を有する板バネ部材である。位置決め部材140は、本体部141、左右一対の摘み部142、左右一対の係合部143、及び左右一対の傾斜部144を有する。本体部141は、左右方向に延びる板状の部位である。本体部141の前部の左右方向略中央部には左右一対の孔145を有する。一対の孔145は各々、取付部材130のネジ孔136に対応する位置に設けられる。位置決め部材140の前部の左右方向における中央部は、一対のネジ149によって、取付部材130に固定される。左右一対の摘み部142は各々、位置決め部材140の左端及び右端に設けられる。一対の摘み部142は各々、ユーザの操作によって、位置決め部材140の上下方向の位置を移動させることができる部位である。図3及び図4に示すように、摘み部142は、取付部材130の孔138に挿通される。
図6に示すように、一対の係合部143は各々、一対の摘み部142の近傍に設けられた、上下方向に貫通した孔である。一対の係合部143は各々、平面視において左右方向に長い楕円形状である。一対の係合部143は各々、取付部材130が装着位置に移動した場合、ミシン1の枠取付部材31が有する係合部39(図7参照)と係合し、取付部材130の水平方向の移動を制限する。左右一対の傾斜部144は各々、前後方向において、係合部143側ほど取付部材130との距離が小さくなるように傾斜する。傾斜部144は、位置決め部材140を右側面視において上斜め後ろ方向に折り曲げて形成される。取付部材130を装着位置に移動させる過程で、傾斜部144は各々、係合部39を係合部143に向けて案内する。
図7を参照して枠取付部材31を説明する。枠取付部材31は、刺繍枠5をミシン1に着脱可能に装着する。図7に示すように、枠取付部材31は、取付部32及び切替プレート33を主に備える。取付部32には、刺繍枠5を装着可能である。取付部32は、取付部材34及び押圧部材35を主に備える。取付部材34は、左右方向に延びる板部材であり、板部36、枠支持部37、及びガイド部38を主に備える。板部36は、取付部材34の前側において略水平方向に延設された板状の部位である。板部36は、左右一対の係合部39、支持部40、及び4つのネジ孔41を備える。4つのネジ孔41には各々、後述のネジ156が螺合する。一対の係合部39は各々、板部36の左前部及び右前部に設けられた、上方に突出したピン状の凸部である。一対の係合部39の先端(上端)は各々、滑らかな半球状に面取りされる。刺繍枠5が装着位置に移動された場合、一対の係合部39は各々、刺繍枠5が有する一対の係合部143と係合可能である。支持部40は、板部36の延設面から上方に折り曲げられた部位である。支持部40は、切替プレート33の貫通孔179に挿通され、付勢部材180(例えば、コイルバネ)の左端を支持する。
枠支持部37は、左右方向に延設された板状の部材である。枠支持部37は、枠取付部材31を図2に示す移動機構のホルダ25に固定するとともに、切替プレート33の移動を案内する部位である。枠支持部37は、左右一対のガイドピン42、及び上下方向に貫通する孔(図示略)を備える。一対のガイドピン42は、枠支持部37の上面から上方に突出する。ガイドピン42は各々、切替プレート33の長孔176に挿通され、切替プレート33の移動方向を左右方向に規定する。一対の摘みネジ43が孔に挿通されて締付けられることで、枠支持部37がホルダ25に固定される。ガイド部38は、枠支持部37の後端中央部から上方に延設された板状の部位である。
押圧部材35は、枠取付部材31に装着された刺繍枠5の取付部材130を取付部材34側に付勢する板バネ部材である。押圧部材35は、本体151、押圧部152、左右一対の固定部153、及び左右一対の押え部154を備える。本体151は、平面視において左右方向に長い矩形状である。押圧部152は、本体151の前端から後ろ斜め下方に向かって傾斜した面を有する右側面視においてV字状の部位である。取付部材130が装着位置に位置する場合、押圧部152は、取付部材130の上側に配置され、取付部材130を取付部材34側(下側)に付勢する。取付部材130が装着位置に位置する状態で、摘み部142が操作された場合、押圧部材35の押圧部152は更に、位置決め部材140を取り外し方向に付勢する。取り外し方向は、取付部材130を装着位置から移動させる際の取付部材130の移動方向である。本実施形態の取り外し方向は、装着方向と反対の方向であり、後ろから前に向かう方向である。一対の固定部153は各々、本体151の左端と右端と連結する。一対の固定部153は各々、前後方向に並ぶ一対の貫通孔155を備える。押圧部材35は、貫通孔155の各々に挿通されたネジ156によって、取付部材34に固定される。押え部154は各々、本体151の中央部の一部を取付部材34側(下方)に折り曲げた部位である。押え部154は各々、装着位置に位置する取付部材130を上側から取付部材34側(本実施形態では下側)に押圧可能である。
切替プレート33は、刺繍枠5の取付部材130を取付部32に装着する動作に連動して右方向に移動する移動部材であって、刺繍枠5の種類に応じて移動量が設定された部材である。切替プレート33は、板部171、175、及び係合部178を有する。板部171は、切替プレート33の前側において水平方向に延設された板状の部位である。板部171は、取付部材34の板部36の上方、且つ、押圧部材35の下方に配置される。板部171は、当接部172、173、支持部174、及び貫通孔179を備える。当接部172は、板部171の前側の一辺が平面視において逆V字状に大きく切り欠かれた部位であり、刺繍枠5の凸部137を当接部173に案内する。当接部173は、刺繍枠5がミシン1に装着された場合に、刺繍枠5の凸部137と当接、保持する部位である。支持部174は、板部171の延設面から上方へ突出した部位であり、付勢部材180の右端を支持する。切替プレート33は、付勢部材180によって、左方に付勢される。
板部175は、左右方向に延びる板状の部位であり、左右一対の長孔176を備える。一対の長孔176は、各々左右方向に延びる。一対の長孔176には、各々ガイドピン42が挿通される。係合部178は、板部175の左後端部から上方にフック状に延設された部位であり、回転型ポテンショメータ(図示略)が有する検出子29(図3参照)と係合する。検出子29は、切替プレート33の移動量に応じて回転する。したがって、回転型ポテンショメータは、切替プレート33の移動量を、検出子29の回転量に基づき検出可能である。ミシン1は、回転型ポテンショメータが検出した検出子29の回転量に基づき、刺繍枠5の種類を検出可能である。
図3及び図4を参照して、ミシン1に刺繍枠5を装着する操作について説明する。ユーザは、枠支持部37の孔(図示略)と、ホルダ25の孔(図示略)とに一対の摘みネジ43を挿通し、締付けれることで、枠取付部材31をホルダ25に取り付ける。ミシン1の枠取付部材31に刺繍枠5を装着する場合、ユーザはまず、係合部39が傾斜部144に当接する位置まで、刺繍枠5を装着方向(後方)に水平移動させる。凸部137は当接部172に案内されながら当接部173に収容される。このとき、取付部132に対する凸部137の位置に応じて、切替プレート33が右方に移動する。ユーザは刺繍枠5を更に装着方向に水平移動させると、一対の係合部39は各々、水平方向において、案内部135によって、係合部143に案内され、係合部143と係合する。一対の係合部39が各々、一対の係合部143と係合することによって、取付部材130の水平方向の移動が規制され、刺繍枠5の水平方向の位置が固定される。取付部材130は、押圧部材35の押圧部152、及び押え部154によって上方から押さえられているため、取付部材130は、押圧部材35と取付部材34とで挟持される。取付部材130は、上下方向の位置が固定される。以上の動作によって、刺繍枠5がミシン1の枠取付部材31に装着される。ミシン1は、切替プレート33の移動量を検出子29の回転量によって検出することによって、刺繍枠5の種類を検出可能である。
刺繍枠5をミシン1に装着された枠取付部材31から取り外す場合は、ユーザは摘み部142を上方へ持ち上げる。摘み部142が上方に持ち上げられると、位置決め部材140が撓んで、係合部143は各々、係合部39の上端よりも上方に配置される。位置決め部材140は、押圧部152から取り外し方向の力を受ける。取付部材130は水平方向に移動可能となり、ユーザは、押圧部152から受ける取り外し方向の力を利用して、刺繍枠5を取り外し方向にスムーズに水平移動させることができる。即ち、ユーザは、刺繍枠5を装着位置から容易に取り外すことができる。ユーザは、一対の摘みネジ43を緩めて取り外すことで、枠取付部材31をホルダ25から取り外すことができる。
図8を参照して、第一枠51に対する第二枠52の位置について説明する。刺繍枠5は、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第一位置、第二位置及び第三位置を含む3以上の位置に切り替えることができる。本例のロック機構53は、第一枠51に対する第二枠52の位置が第一位置である状態で、ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置を、第一押圧位置と、第二押圧位置とに切り替え可能である。第一押圧位置は、第一枠51側に向かう第一圧力が第二枠52に加わる位置である。第二押圧位置は、第一枠51側に向かう第二圧力が第二枠52に加わる位置である。第二圧力は、第一圧力よりも大きい。本例のロック機構53は更に、第一枠51に対する第二枠52の位置が第一位置である状態で、ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置を、第一枠51に向かう第三圧力が第二枠52に加わる第三押圧位置に切り替え可能である。第三圧力は、第二圧力よりも大きい。第一枠51と第二枠52との間の距離は、第一枠51と、支持部材75の支持部81との間の距離とも換言できる。
第一位置は、第一枠51に対して第二枠52が閉じた位置である。第一位置は、第一枠51と、第二枠52との間に被縫製物Cが存在しない場合、第一枠51と第二枠52との間の距離が0となる。第一枠51に対する第二枠52の上記3以上の位置の内、第一位置は、第一枠51と第二枠52との間の距離が一番小さい。第一枠51に対する第二枠52の位置が第一位置にある場合に、第一枠51と第二枠52とで被縫製物Cを挟持可能である。
図8に示すように、第一位置において、ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置が第一押圧位置にある場合、ロック解除レバー77の凹部87は、押圧レバー79の係合部94が有する第一枠51に三番目に近い位置(つまり、下から三番目)にある凹部96と係合する。この場合、右側面視、支持部材75の前部84から後部85に向かう時計回りの角K1の角度は、略180度である。ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置が第二押圧位置にある場合、ロック解除レバー77の凹部87は、押圧レバー79の係合部94が有する第一枠51に二番目に近い位置(つまり、下から二番目)にある凹部96と係合する。この場合、右側面視、支持部材75の前部84から後部85に向かう時計回りの角K2の角度は、180度よりも小さい。ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置が第三押圧位置にある場合、ロック解除レバー77の凹部87は、押圧レバー79の係合部94が有する第一枠51に最も近い位置(つまり、最も下側)にある凹部96と係合する。この場合、右側面視、支持部材75の前部84から後部85に向かう時計回りの角K3の角度は、180度よりも小さく、角K2よりも小さい。支持部材75は、押圧レバー79の押圧部92から加えられた圧力を、後部85に対して前部84が弾性変形することで、適度に逃がしている。第一枠51と第二枠52とに挟まれた被縫製物Cに対する押圧力を増やす場合、ユーザは、押圧部92を第一枠51側に押し、押圧レバー79及びロック解除レバー77の係合位置を切り替える。第一枠51と第二枠52とに挟まれた被縫製物Cに対する押圧力を減らす場合、ユーザは、ロック解除レバー77を第一枠51側に押し、押圧レバー79及びロック解除レバー77の係合位置を切り替える。本例では、ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置が何れにある場合にも、押圧レバー79からロック解除レバー77に向かう力が加わる方向は、ロック解除レバー77の回動中心(つまり回転軸76)に向かう方向である。押圧レバー79は、ロック解除レバー77が回動する方向の力をロック解除レバー77に加えない。
第二位置は、第一枠51に対して第二枠52が第一位置よりも第一所定量開いた位置である。第一所定量は、例えば、押え足24(針棒22)及び針板27の間の距離と、第一枠51及び第二枠52の厚みを考慮して定められる。第二枠52が第二位置にある場合、刺繍枠5による、被縫製物Cの保持は解除されており、ユーザは刺繍枠5に対して被縫製物Cを移動可能である。図2に示すように、刺繍枠5が枠取付部材31を介してミシン1に装着された状態において、第一枠51に対する第二枠52の位置が第二位置にある場合、第二枠52は、押え足24と、針板27との間に配置される。このため、第一枠51に対する第二枠52の位置が第二位置にある場合、第二枠52が、ミシン1が備える部材(例えば、針棒22、針棒ケース21、及びアーム部4等)に当接しない。
図8に示すように、第二枠52が第二位置にある場合、ロック解除レバー77の凹部87は、押圧レバー79の係合部94が有する第一枠51から最も離れる位置(つまり、最も上側)にある凹部96と係合する。第二枠52が第二位置にある状態で、ロック解除レバー77が第一枠51側に操作された場合、ロック解除レバー77の後端部は、枠取付部材31の枠支持部37と当接する。これにより、ロック解除レバー77の後端部が枠支持部37よりも第一枠51側に移動することが規制される。これにより、刺繍枠5が枠取付部材31に保持された状態では、第二枠52が第三位置に移動することが規制される。
第三位置は、第一枠51に対して第二枠52が第一所定量よりも大きい第二所定量開いた位置である。本例の刺繍枠5では、第一枠51に対して第二枠52が第三位置にある場合、支持部材75の支持部81と第一枠51との第一距離L1は、第二枠52の前後方向の長さL3の半分よりも長い。長さL3は、矩形状の第二枠52の辺の長さの内、ロック機構53の支持部材75により支持される辺の長さである。図8に示すように、第一枠51に対する第二枠52の複数の位置の内、第一枠51と支持部81との距離が最も大きい第三位置は、ロック解除レバー77の位置が、最大凸部98を超えて、押圧レバー79と、ロック解除レバー77の係合が外れた位置に対応する。ロック解除レバー77の凹部87は、押圧レバー79の係合部94よりも第一枠51から離れる側(つまり、上側)に配置される。
本例のロック機構53は、第一面64が第一枠51側を向く第一姿勢と、第二枠52の第一面64とは反対側の第二面65が第一枠51側を向く第二姿勢とに回動可能に、第二枠52を支持する。第一枠51に対する第二枠52の位置が第三位置にある場合、ユーザは、支持部81を中心として第二枠52を回動させることにより、第一枠51に対する第二枠52の姿勢を第一姿勢から第二姿勢、又は第二姿勢から第一姿勢に切り替えることができる。ロック機構53は、少なくとも第一姿勢の第二枠52を第一枠51側に押圧可能である。本例のロック機構53は、第二枠52を第一姿勢と第二姿勢との各々で第一枠51側に押圧可能である。
図8において、第一枠51に対して垂直に配置された第二枠52を反時計回りに90度回動させた場合、第一面64が第一枠51側を向く。つまり、第一枠51に対する第二枠52の姿勢が、第一姿勢に切り替えられる。第一枠51に対して垂直に配置された第二枠52を時計回りに90度回動させた場合、第二面65が第一枠51側を向く。つまり、第一枠51に対する第二枠52の姿勢が、第二姿勢に切り替えられる。
第一枠51に対する第二枠52の位置が、第一位置にある場合、支持部材75の支持部81と第一枠51との第一距離L1は、支持部材75の回動部83と、第一枠51との第二距離L2よりも短い。本例のロック機構53は、第一枠51に対する第二枠52の位置が、第一位置にある場合、第二枠52枠を第一枠51側に押圧可能である。ユーザは、刺繍枠5により被縫製物Cを保持させる場合、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第一位置に設定し、被縫製物Cの厚みに応じて、押圧レバー79から第二枠52に加えられる第一枠51に向かう圧力を第一圧力、第二圧力、及び第三圧力の何れかに切り替える。これにより、第二枠52により被縫製物Cが第一枠51側に押圧され、被縫製物Cが縫製中に刺繍枠5に対してズレる可能性が低減される。第一枠51に対する第二枠52の位置が、第二位置、又は第三位置にある場合、支持部材75の支持部81と第一枠51との第一距離L1は、支持部材75の回動部83と、第一枠51との第二距離L2よりも長い。本例のロック機構53は、第一枠51に対する第二枠52の位置が、第二位置、又は第三位置にある場合、第二枠52枠を第一枠51側に押圧しない。ユーザは、刺繍枠5に被縫製物Cを保持させる作業又は被縫製物Cを刺繍枠5から取り外す作業を行う場合、被縫製物Cの厚み及び作業環境等に応じて、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第二位置、又は第三位置に設定する。
本実施形態において、ミシン1、刺繍枠ユニット30、刺繍枠5、第一枠51、第二枠52、及びロック機構53は各々、本発明のミシン、刺繍枠ユニット、刺繍枠、第一枠、第二枠、及びロック機構の一例である。枠支持部37、取付部32、及び枠取付部材31は各々、本発明の枠支持部、取付部、及び枠取付部材の一例である。第一ロック機構71、及び第二ロック機構72は各々、本発明の第一ロック機構及び第二ロック機構に相当する。支持部81、屈曲部82、回動部83、支持部材75、回転軸76、ロック解除レバー77、第一付勢部材78は各々、本発明の支持部、屈曲部、回動部、支持部材、第一回転軸、ロック解除レバー、及び第一付勢部材の一例である。回動部83は、本発明の第二回転軸の一例である。凹部96、凸部97、押圧部92、押圧レバー79、及び第二付勢部材80は各々、本発明の凹部、凸部、押圧部、押圧レバー、及び第二付勢部材の一例である。
刺繍枠5によれば、第二枠52の姿勢を第一姿勢と第二姿勢とに回動可能である。ユーザは、第二枠52の第一面64に付着した埃を除去する場合、第一枠51に対する第二枠52の姿勢を第二姿勢とすることで、埃の除去作業を簡単に行うことができる。刺繍枠5は、従来に比べメンテナンス性を向上できる。
第二枠52は、第一滑止部66を第一面64に有し、第二滑止部67を第二面65に有する。ロック機構53は、第二枠52を第一姿勢と第二姿勢との各々で第一枠51側に押圧可能である。刺繍枠5は、第一姿勢と第二姿勢との各々で被縫製物Cを押圧し、挟持できる。刺繍枠5は、第一姿勢、及び第二姿勢の何れの姿勢で被縫製物Cを保持する場合にも、被縫製物Cが第二枠52に対して移動することを抑制できる。刺繍枠5のロック機構53は、第二姿勢の第二枠52を押圧できない場合に生じる、不具合が発生することを回避できる。不具合は、例えば、第二姿勢の第二枠52を押圧できないのに、ユーザが誤って第二姿勢で第二枠52を押圧してしまい、第二枠52を変形したり、破損することである。
第一滑止部66と、第二滑止部67とは、互いに異なる物性を有する。刺繍枠5は、被縫製物Cの材質及び厚さ等に応じて、第一枠51に対する第二枠52の姿勢を第一姿勢と、第二姿勢とに使い分けることができる。つまり、刺繍枠5は、第一滑止部66と、第二滑止部67との内の、被縫製物Cの材質及び厚み等に適した滑止部が選択されることにより、被縫製物Cを確実に展張挟持できる。刺繍枠5は、刺繍縫製中に被縫製物Cに弛みが生じて刺繍模様が縫製予定の位置からズレることを抑制できる。第一滑止部66は、第二枠52の内側から外側に向かい傾斜する短繊維が植毛されたパイル部材である。この場合の刺繍枠5は、第二枠52の第一面64において、第二枠52の内側から外側に向かう方向に、被縫製物Cに対して引っ張り力が作用し、被縫製物Cを確実に展張挟持できる。刺繍枠5は、刺繍縫製中に被縫製物に弛みが生じて刺繍模様が縫製予定の位置からズレることを抑制できる。
支持部材75は、一端側で第二枠52を支持する支持部81と、他端側で第一枠51に対して回動可能に支持される回動部83とを有する。支持部81と第一枠51との間の第一距離L1が、第二枠52が有する辺の内、支持部81に支持される辺の長さL3の半分以上となる位置に、第二枠52は、回動部83を中心に第一枠51に対して回動できる。刺繍枠5によれば、容易に、第一姿勢と第二姿勢とに切り替えることができる。
刺繍枠5は、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第一位置、第二位置、及び第三位置を含む3以上の位置の何れかに切り替えることができる。ユーザは、被縫製物Cの厚み及び作業環境等に応じて、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第一位置、第二位置、第三位置を含む3以上の位置の何れかに切り替えることにより、刺繍枠5に被縫製物Cを適切に保持させることができる。刺繍枠5は、従来の刺繍枠に比べ、ユーザが被縫製物Cを刺繍枠5に保持させる作業を容易にできる。
刺繍枠5のロック機構53は、第一ロック機構71と、第二ロック機構72とを有する。刺繍枠5は、第二枠52の一方側と他方側とで別々に第一枠51に対する第二枠52の位置を切り替えることができる。第一ロック機構71及び第二ロック機構72の内の一方のロック解除レバー77が意図せずに操作された場合にも、他方のロック解除レバー77が操作されていなければ、第一枠51に対して第二枠52が完全に開くことがない。刺繍枠5は、従来の刺繍枠に比べ、ユーザが被縫製物Cを刺繍枠5に保持させる作業を容易にできる。第一ロック機構71と、第二ロック機構72とは、刺繍枠5の左右方向の中心線M1について対称である。このため、部材の一部(例えば支持部材75及びロック解除レバー77)を共通化できる。
刺繍枠5は、押圧レバー79及びロック解除レバー77の何れかに対する操作に応じて、ロック解除レバー77の端部が係合する凹部96が切り替えられることにより、第一枠51に対する第二枠52の位置が切り替えられる。ユーザは、押圧レバー79及びロック解除レバー77を適宜操作して、ロック解除レバー77の凹部87が係合する凹部96を切り替えるという簡単な操作により、第一枠51に対する第二枠52の位置を切り替えられる。ロック解除レバー77は、刺繍枠5の後端部に設けられており、刺繍枠5がミシン1に取り付けられた状態では、ユーザが操作しにくい位置にある。このため刺繍枠5は、ユーザが意図せずにロック解除レバー77が操作される可能性を低減できる。
支持部材75は、棒状の弾性体を屈曲加工して形成される。刺繍枠5によれば、第一枠51に対して第二枠52が閉じた位置に配置され、押圧レバー79の押圧部92が支持部材75を押圧している場合に、支持部材75は、押圧部92から加えられた圧力を、自身が弾性変形することで適度に逃がすことができる。刺繍枠5は、押圧部92が支持部材75を押圧することにより支持部材75が不可逆的に変形したり、破損したりすることを回避できる。
刺繍枠5の支持部材75は、屈曲部82を有する。押圧部92は、第一枠51に対する第二枠52の位置が第一位置にある場合、支持部材75の屈曲部82を第一枠51側に押圧する。刺繍枠5によれば、刺繍枠5の押圧部92は、支持部材75の屈曲部82ではない箇所(例えば、前部84)を押圧する場合よりも、支持部材75を介して第二枠52を第一枠51側に確実に押圧できる。
刺繍枠5の押圧レバー79は、凹部96に隣接し、回動部83から離れる側に突出した凸部97を複数の凹部96に応じた数備える。複数の凸部97のうち、第一枠51から最も離れた位置にある凸部は、最大凸部98である。最大凸部98は、複数の凸部97の内、回動部83に対する突出量が最も大きい。第一枠51に対する第二枠52の3以上の複数の位置の内、第一枠51と支持部81との距離が最も大きい位置は、最大凸部98を超えて、押圧レバー79と、ロック解除レバー77の係合が外れた位置に対応する。刺繍枠5によれば、最大凸部98を超えて、押圧レバー79と、ロック解除レバー77との係合が外れ、第一枠51に対する第二枠52の開度が最も大きい状態に意図せずになることを防ぐことができる。
刺繍枠5において、第一枠51に対する第二枠52の位置が第一位置にある場合、第一距離L1は、第二距離L2よりも短くなる位置である。第二位置、及び第三位置の各々では、第一距離L1は、第二距離L2よりも長い。刺繍枠5では、ユーザは、第二位置と、第三位置との2つの位置で、刺繍枠に対して被縫製物Cを配置したり、取り出したりする作業を行うことができる。ユーザは、被縫製物Cの厚み及び作業環境等に応じて、第一枠51に対する第二枠52の位置を第二位置とするか、第三位置とするかを選択できる。
ロック機構53は、第一枠に対する第二枠の位置が第一位置にある状態おいて、ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置を、第一押圧位置、第二押圧位置及び第三押圧位置に切り替え可能である。刺繍枠5は、ロック解除レバー77に対する押圧レバー79の位置を第一押圧位置、第二押圧位置及び第三押圧位置の中から適宜設定することにより、第一枠51と第二枠52によって挟持される、被縫製物Cに加わる圧力を調整できる。刺繍枠5は、第二枠52の幅方向の端部を独立して、多段階(本例では3段階)で、第一枠51に対する第二枠52が閉じた位置を設定できる。支持部81は、第二枠52の前後方向の長さ略中心に設けられた孔63に挿通される。このためロック機構53(支持部材75)は、第一枠51に向かう力を第二枠52の前後方向の略中心に加えることができる。
刺繍枠ユニット30は、ミシン1の移動機構のホルダ25に着脱可能に固定される枠取付部材31を備える。刺繍枠5が枠取付部材31の取付部に保持され、第一枠51に対する第二枠52が第一位置にある状態で、ロック解除レバー77が第二枠52側に操作された場合、ロック解除レバー77は、枠取付部材31の枠支持部37に近づく。ロック解除レバー77が更に第一枠51側に操作された場合、ロック解除レバー77は、第一枠51と支持部81との距離が最も大きい第三位置となる前に、枠支持部37に当接し、第一枠51に対する第二枠52が第三位置となることが規制される。刺繍枠ユニット30によれば、ユーザは、被縫製物Cの厚み及び作業環境等に応じて、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第一位置、第二位置、及び第三位置を含む3以上の位置の何れかに切り替えて使用できる。刺繍枠ユニット30は、刺繍枠5が枠取付部材31に取り付けられた状態で、第一枠51に対する第二枠52の位置が、第一枠51と支持部81との距離が最も大きい第三位置となることを確実に防止できる。本例の刺繍枠5がミシン1に取り付けられた状態では、スペースの関係で、第一枠51に対する第二枠52の位置を第三位置にすることはできない。刺繍枠5は、ミシン1に取り付けられた状態で、第一枠51に対する第二枠52の位置を第二位置から第三位置に向けて移動することを確実に防止できる。
ミシン1に刺繍枠ユニット30が装着され、第一枠51に対する第二枠52の位置が第二位置にある場合、第二枠52は、押え足24と針板27との間に位置する。ミシン1によれば、ユーザは、被縫製物Cの厚み及び作業環境に応じて、第一枠に対する第二枠の位置を、第一位置、第二位置、及び第三位置を含む3以上の位置の何れかに切り替えて使用できる。ミシン1では、第一枠51に対する第二枠52の位置を、第二位置にした場合にも、第二枠52は押え足24に当たらない。ユーザは、第一枠に対する第二枠の位置を第二位置にすることで、刺繍枠5をミシン1から取り外すことなく、刺繍枠5により保持されていた被縫製物Cを取り出したり、刺繍枠5に保持させる被縫製物Cを第一枠51上に配置したりする作業を行うことができる。
本発明の刺繍枠は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の(A)から(C)までの変形が適宜加えられてもよい。
(A)刺繍枠5、刺繍枠ユニット30、及びミシン1の構成は適宜変更してよい。ミシン1が備える針棒の数は1以上であればよい。ミシン1は1種類以上の刺繍枠を装着可能であればよい。ミシン1が備える針棒の数は1以上でればよい。刺繍枠5は、ミシン1のホルダ25に直接装着される構成であってもよい。刺繍枠5が、ミシン1のホルダ25に直接装着される構成である場合以下の構成にしてもよい。つまり、ミシン1に取り付けられた刺繍枠5の第二枠52が第二位置である状態で、ロック解除レバー77が操作された場合に、ホルダ25に当接することで、第一枠51側に向かう移動が制限されてもよい。刺繍枠5が枠取付部材31を介してミシン1に取り付けられる場合、枠取付部材31の構成は適宜変更されてよい。
(B)刺繍枠5の大きさ、平面形状、及び厚み等は適宜変更されてもよい。刺繍枠5は、第一枠51に対する第二枠52の位置を、3以上に切り替え可能であればよい。第一所定量、第二所定量、第三所定量の各々は、適宜変更されてよい。第一位置における、第一枠51と、第二枠52との間の距離が0である必要はない。刺繍枠5において、被縫製物Cを保持する位置を第一位置、及び第二位置の何れかとし、被縫製物Cを配置したり保持したりする作業が可能な位置を第三位置としてもよい。
(C)ロック機構53は、第一ロック機構71と第二ロック機構72とを備える必要はない。第一ロック機構71と、第二ロック機構72とは、対称に構成される必要はない。第一ロック機構71と、第二ロック機構72とは、個別に第一枠51に対する第二枠52の位置を設定可能でなくてもよい。ロック機構53が備える各部材の構成は適宜変更されてよい。例えば、ロック機構53が備える各部材の構成は以下のように変更されてよい。
(C−1)押圧レバー79を回動可能に支持する回動軸は、支持部材75とは別体に設けられてよい。支持部材75は、弾性体以外の材料(例えば、金属製の板体)で形成されてもよい。支持部材75は、屈曲部82を備えなくてもよい。支持部材75が屈曲部82を備えない場合、押圧レバー79は、前部84及び支持部81の少なくとも何れかを第一枠51側に押圧可能であってもよい。
図9に示す刺繍枠205のように、支持部材75は、第二枠252の厚み方向における中心から一方側において、第二枠252を第一姿勢と第二姿勢とに回動可能に支持してもよい。図9の刺繍枠205は、上記実施形態の刺繍枠5と、第二枠252の構成のみが異なり、他の構成は刺繍枠5と同じである。刺繍枠205は、第一枠51に対する第二枠52の姿勢が、第一姿勢である場合と、第二姿勢である場合とで、第一枠51と、第二枠52の第一枠51側の面との距離が異なる。このためユーザは、被縫製物Cの厚みに応じて、第一枠51に対する第二枠52の姿勢が、第一姿勢である場合と、第二姿勢である場合とを使い分けることで、刺繍枠205に適度な押圧力で被縫製物Cを保持させられる。
図示しないが、支持部材75は、第二枠52の支持部81に支持される辺の延設方向の中心からずれた位置において、第二枠52を第一姿勢と第二姿勢とに回動可能に支持してもよい。この場合、第二枠52を変形させたり、取り外したりすることなく、第一枠51に対する第二枠52の姿勢を第一枠51から第二枠52に切り替えるのに要する、第一枠51に対する第二枠52の開度を刺繍枠5に比べ小さくできる。第一枠51に対する第二枠52の開度は、例えば、第一枠51から支持部81の距離により表される。刺繍枠は、第二枠52の側面に、支持部81を挿通可能な孔63を複数設けてもよい。このようにすれば刺繍枠5は、支持部81が挿通する孔の位置に応じた効果を得ることができる。
(C−2)押圧レバー79の係合部94が備える、凹部96と、凸部97との数及び形状は、第一枠51に対する第二枠52の位置に応じて適宜変更されてよい。複数の凸部97の内、第一枠51から最も離れた位置にある凸部が、回転軸76に対して最も突出した最大凸部ではなくてもよい。
(C−3)第二枠52は、第一滑止部66、及び第二滑止部67を備えなくてもよい。第二枠52は、第一滑止部66、及び第二滑止部67の一方を備えてもよい。第一滑止部66、及び第二滑止部67の素材は適宜変更されてもよいし、第一滑止部66、及び第二滑止部67の素材は互いに同じであってもよい。第一枠51に対する第二枠52の開度は適宜変更されてよい。第一付勢部材及び第二付勢部材は、板バネ等の他の部材でもよい。