以下に、本実施形態に係る作業車両として、苗移植機を例にとり、以下、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によってこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
図1は、実施形態に係る作業車両としての苗移植機1の側面図、図2は、同苗移植機1の平面図、図3は、同苗移植機1の正面図である。なお、以下の説明においては、前後、左右の方向基準は、操縦席73からみた走行車体2の前進方向を基準として、前・後、左・右の基準を規定している。また、走行車体2を指して機体と呼ぶ場合がある。
図1および図2に示すように、苗移植機1は、機体を前進や転回等させ、圃場を走行可能な走行車体2と、この走行車体2の後部に連結された対地作業装置としての苗植付装置3とを備える。
本実施形態における走行車体2は、4つの車輪Wが駆動輪となる、所謂四輪駆動車としている。なお、四輪駆動車としては、常に全ての車輪Wで駆動力を発生させるフルタイム四輪駆動車であってもよいし、二輪駆動と四輪駆動とを切り替え可能なパートタイム四輪駆動車であってもよい。
走行車体2は、図1に示すように、フロントフレーム11に取り付けられた動力源であるエンジン20を備える。エンジン20は、ディーゼル機関やガソリン機関等の熱機関であって、機体左右方向において略中央に配置される。本実施形態においては、出力軸20aが機体左方に向けて突出されるようにエンジン20を搭載している。したがって、出力軸20aにプーリ等を介して巻き掛けられるエンジンベルト21も機体左方に配置されることになる。なお、走行車体2は、エンジン20の動力伝達を断接する図示しないクラッチ機構を備える。
エンジン20の動力は、エンジンベルト21を介して主変速機としての油圧式無段変速機31に伝達される。油圧式無段変速機31は、HST(Hydro Static Transmission)と云われる静油圧式の無段変速機である。この油圧式無段変速機31においては、エンジン20の動力で駆動する油圧ポンプによって油圧を発生させ、その油圧を油圧モータで機械的な力(回転力)に変換して出力する。変換された力は、ミッションケース32の入力軸に伝達される。そして、ミッションケース32に伝達された力は、内部の副変速機(図示略)に伝わって変速され、駆動輪Wへの走行用動力と、苗植付装置3への駆動用動力とに分けて出力される。
苗植付装置3は、昇降リンク装置40を介して走行車体2の後部に取り付けられる。昇降リンク装置40は、走行車体2の後部と苗植付装置3とを連結させる平行リンク機構400を備えており、油圧昇降シリンダ42の伸縮動作によって苗植付装置3を昇降させる。昇降リンク装置40は、その昇降動作によって、苗植付装置3を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(苗植付位置)まで下降させたりする。
苗植付装置3は、図1および図2に示すように、機体左右方向に往復移動可能な植付条数分の苗載せ台510と、一株分の苗床を掻き取って圃場面に植え込む植込杆52aを有する苗植付具520とを備える。さらに、苗植付装置3は、苗植付面を滑走しながら整地する機体左右のサイドフロート530と、機体左右方向における機体中央部分のセンタフロート54(図2)とを備える。
図1〜図3に示すように、苗移植機1には、走行車体2や苗植付装置3を、作業者が操作する為の各種操作部材を有する操縦装置60が設けられる。
操縦装置60は、走行車体2の機体前部において機体左右方向における機体中央部分に配置される。また、操縦装置60は、機体前部の床面(作業者が乗車時に足を載せる床面)71よりも機体上方に設けられている。かかる操縦装置60の機体後方には、図1に示すように、床面71よりも機体上方に突出したエンジン20が、エンジンカバー72で覆われた状態で配置されている。そして、かかるエンジンカバー72の上部に操縦席73が配置される。また、操縦席73の左右側には、それぞれステップ75が設けられ、作業者による走行車体2への乗降が容易になっている。
また、操縦装置60の各操作部材は、エンジン用燃料の燃料タンク等が内部に設けられたフロントカバー74、およびその近傍に配置される。すなわち、操縦装置60としては、例えば、図2に示すように、走行車体2の操舵輪を操舵操作する為のハンドル61と、油圧式無段変速機31を操作する為のHSTレバー62と、前述したクラッチ機構を走行車体2上から断接操作する為のクラッチペダル69と、クラッチペダル69を走行車体2の前方から操作する為のクラッチレバー64とが設けられる。また、本実施形態に係る苗移植機1では、操縦装置60として、さらに、走行車体2を、当該走行車体2の前方から作業者が案内する為の前側ハンドル65と、走行車体2の全機能を強制停止させる為の緊急停止スイッチ66とが設けられる。なお、前側ハンドル65には、直進走行時の目安となるセンターマーカ67が上方へ延伸状態に取付けられている。
HSTレバー62は、油圧式無段変速機31を操作することで、走行車体2の前後進切り替えや走行速度調整を行うものであり、ここでは、フロントカバー74の左側上部から機体上方に向けて突出させている。
クラッチペダル69は、図2及び図3に示すように、フロントカバー74と、荷台部である予備苗枠4との間に配設する。例えば、クラッチペダル69は、フロントカバー74の側面から走行車体2の上の作業者の足元近くに突出させている。作業者は、走行車体2の上からクラッチペダル69を足で踏み込んでクラッチ操作を行い、エンジン20の動力伝達を断接する。走行車体2は、動力伝達が断たれると減速し、その後停止する。なお、本実施形態における荷台部としての予備苗枠4については後に詳述する。
他方、クラッチレバー64は、図2及び図3に示すように、走行車体2の前方からクラッチの断接操作を行えるように、機体前部の床面71から機体上方で、かつ機体前方に向けて突出させている。ここでは、クラッチペダル69と同じように、フロントカバー74と予備苗枠4との間にクラッチレバー64を配設している。機体前方の作業者は、走行車体2の前方からクラッチレバー64を手で上げる(又は下げる)ことでクラッチを操作してエンジン20の動力伝達を断つ。この様に、この苗移植機1は、走行車体2の前方から動力断接装置の断接操作を行えるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
前側ハンドル65は、フロントフレーム11に取り付けられており、図2及び図3に示すように、フロントカバー74の下側前方に配置されている。すなわち、前側ハンドル65は、走行車体2の前端部分において機体左右方向における機体中央部分に配設され、機体下部側を支点にして機体前後方向に回動することができる。また、前側ハンドル65は、図3に示すように、ループ状に形成したグリップを備える。
緊急停止スイッチ66は、例えば動作中のエンジン20等を強制的に停止させるものであり、前側ハンドル65のグリップにおける機体左側に設けられる。このように、苗移植機1は、前側ハンドル65と共に緊急停止スイッチ66が走行車体2の前端部分に配置されているので、前側ハンドル65を操作している作業者が、走行車体2の緊急停止を要すると判断した際に、前側ハンドル65を操作していない方の手で緊急停止スイッチ66を操作することができる。
本実施形態に係る苗移植機1では、操縦装置60の機体左方及び機体右方に、苗植付装置3に補充する為の補給用の苗を載置するための予備苗枠4が設けられる。すなわち、苗移植機1では、苗が予備資材に相当することになる。
ここで、本実施形態に係る予備苗枠4について、より具体的に説明する。図4Aは、実施形態に係る荷台部としての予備苗枠4の平面視による説明図、図4Bは、予備苗枠4の支持機構5の一例を示す説明図である。また、図5Aは、予備苗枠4の正面視による説明図、図5Bは、予備苗枠4の側面視による説明図である。
本実施形態に係る予備苗枠4は可動式となっており、図3〜図5Bに示すように、支持機構5によって回転自在に支持されるとともに、回動に連動して上下移動するように構成されている。
すなわち、本実施形態に係る苗移植機1は、走行車体2の機体前部の左右側方にそれぞれ設けられ、苗移植作業に用いられる予備苗を載置可能な予備苗枠4と、この予備苗枠4を回転自在に支持するとともに、回動に連動して上下移動させる支持機構5とを備えている。
本実施形態に係る予備苗枠4は、予備苗を載置する3つの予備苗載せ台41a,41b,41cを、複数の予備載置台として備えている。以下では、例えば3つの予備苗載せ台41a,41b,41cを総称して予備苗載せ台41と表記する場合がある。また、予備苗枠4は、予備苗載せ台41を支持する支持フレーム42を備える。
支持フレーム42は、3つの予備苗載せ台41a,41b,41cを連結するフレームであり、図5Bに示すように、縦枠42aと横枠42bとから構成され、各予備苗載せ台41の下面に取付けられた横枠42bが、縦枠42aにそれぞれ連結されている。
また、予備苗枠4の支持機構5は、図4Bに示すように、支持フレーム42の走行車体2の機体側に垂設された第1のネジ軸51と、機体側から延在するステー52に設けられ、第1のネジ軸51と螺合する第1の軸受部53とを備える。すなわち、最下位置の予備苗載せ台41cを支持する支持フレーム42の横枠42bにおける機体側に、第1のネジ軸51の基端を固設する。そして、走行車体2のフロントフレーム11に基端が固設されて床面71から上方へ延在するステー52の先端部に、第1のネジ軸51と螺合する雌ネジが内周面に形成された第1の軸受け部53を設けている。
かかる構成により、予備苗枠4を180度回転させると、図4Bに示すように、第1のネジ軸51が矢印fのように回転しながら矢印f1の方向、すなわち下方へ所定距離D1(図5B参照)だけ移動する。かかる状態から予備苗枠4を180度反転させると、当然ながら、第1のネジ軸51は、矢印f1の反対方向、すなわち上方へ所定距離D1だけ移動する。
なお、本実施形態では、第1のネジ軸51や第1の軸受け部53におけるネジのピッチは、予備苗枠4を180度回転させると所定距離D1だけ移動する長さに規定する。例えば、予備苗枠4を180度回転させると、図5Bに示すように、最も高い位置から操縦席73の背もたれ部分の上端位置まで下降するピッチにするとよい。本実施形態では、4cm程度移動する比較的長いピッチにしている。
このように、予備苗枠4を回転させることで、予備苗枠4を上下移動させることができるため、苗移植機1としての全高を下げることができる。特に、図4Aおよび図5Aに示すように、予備苗枠4を180度回転させることで、予備苗枠4の機体外方への出っ張りが小さくなる。
したがって、例えば、苗移植機1を納屋などに格納する場合、予備苗枠4などが納屋の入り口や、予め納屋内に収納されている物体に接触して破損することを可及的に防止することができる。
また、苗移植機1の全高が低くなるだけではなく、全幅も小さくなるため、苗移植機1全体がコンパクトになり、納屋などへの格納がより容易かつ安全に行える。しかも、支持機構5としては、ネジ軸を利用する簡単な構成であるため、低コストで苗移植機1のコンパクト化に寄与することができる。
ところで、支持機構5の変形例として、図6に示す構成とすることができる。図6は、予備苗枠4の変形例に係る支持機構50を示す説明図である。図6に示すように、変形例に係る支持機構50は、リード軸501とカム爪504とを備えるリードカム式の構成としてもよい。すなわち、図6に示すように、スパイラル溝502が周面に形成されたリード軸501の一端を、例えば機体側に固定するとともに、スパイラル溝502に係合するカム爪504を有するガイド筒503を予備苗枠4側に固定した構造である。かかる構成であっても、予備苗枠4を回転させることで、予備苗枠4を上下移動させることができる。しかも、雄ネジおよび雌ネジを必要とする構成に比較して、部品加工が簡単であり、ピッチも大きくとることが容易である。
また、予備苗枠4の構成を、第1、第2の予備載置台である第1、第2の予備苗載せ台41a,41bが、機体上下方向に収まる積層姿勢と、機体前後方向に列状に位置する展開姿勢とに切替え可能とすることができる。例えば、図1〜図3で示した予備苗枠4のように、3つの予備苗載せ台41a,41b,41cのうち、最上部の予備苗載せ台41aと中間部の予備苗載せ台41bとを、積層姿勢と展開姿勢とに切替可能とするものである。
以下では、理解を容易にするために、予備苗枠4は、第1、第2の予備苗載せ台41a,41bにより構成されているものとして説明する。図7Aは、予備苗枠4における切替機構6の平面視による説明図、図7Bは、予備苗枠4における切替機構6の側面視による説明図である。また、図8Aは、切替機構6の模式的説明図、図8Bは、切替機構6の第2のネジ軸と第2の軸受部とを示す模式的説明図である。
図7Aおよび図7Bに示すように、予備苗枠4は、第1の予備苗載せ台41aと第2の予備苗載せ台41bとを備えている。これら2つの予備苗載せ台41a,41bは、切替機構6により、機体上下方向に収まる積層姿勢(図7B(a)参照)と、機体前後方向に列状に位置する展開姿勢(図7B(b)参照)とに切替え可能に支持される。しかも、展開姿勢においては、2つの予備苗載せ台41a,41bは、走行車体2の機体外側方へ所定距離だけ移動するように構成される。
すなわち、本実施形態に係る苗移植機1は、予備苗枠4を構成する第1の予備苗載せ台41aと第2の予備苗載せ台41bとが、機体上下方向に2つ並んで収まる積層姿勢と、機体前後方向に列状に位置する展開姿勢とに切替える切替機構6を備える。そして、かかる切替機構6は、積層姿勢で上部側に位置する第1の予備苗載せ台41aを前方または後方へ引き出す動作に連動して、積層姿勢で下部側に位置する第2の予備苗載せ台41bを走行車体2の機体外側方へ移動させることができる。
より具体的に説明すると、図7Aおよび図7Bに示すように、予備苗枠4は、切替機構6により変位可能に支持される。
切替機構6は、図8Aに示すように、第2の予備苗載せ台41bに、走行車体2に対して斜め方向に横断するように、前後方向に間隔をあけて設けられた一対の第2の軸受部61,61と、これら第2の軸受部61,61とそれぞれ螺合する第2のネジ軸62,62とを備える。また、切替機構6は、基端が第2のネジ軸62,62にそれぞれ固着され、先端が第1の予備苗載せ台41aに対して回転自在に支持された一対のリンク体630,630を有するリンク機構63を備える。なお、図8Aでは、理解を容易にするために、予備苗載せ台41を透かした状態で描いている。
すなわち、第1の予備苗載せ台41aと、当該第1の予備苗載せ台41aの機体側の側縁近傍に配置した第1のフレーム42aとを、前後方向に所定の間隔をあけて配設した一対の軸体を介して連接する。2つの軸体は、第2の予備苗載せ台41bに設けられた一対の第2の軸受部61、61と平行に配置されるとともに、それぞれ第1のフレーム42aに対し、軸周りに回転自在に連結される。
一方、第2の予備苗載せ台41bと、当該第2の予備苗載せ台41bの機体側の側縁近傍に配置した第2のフレーム42bとを、周面に雄ネジが形成された一対の第2のネジ軸62,62を介して連接する。第2のネジ軸62,62についても、前後方向に所定の間隔をあけて配設されており、それぞれ、第2のフレーム42bに対し、軸周りに回転自在に連結される。
こうして、前側の軸体と第2のネジ軸62、および後側の軸体と第2のネジ軸62とがリンク体630,630でそれぞれ回転自在に連結されることにより、第1のフレーム42a、第2のフレーム42b、前後のリンク体630,630によって、平行リンクからなるリンク機構63が構成される。このように、予備苗枠4の第1、第2の予備苗載せ台41a,41bは、機体側に配設された平行リンクからなるリンク機構63により支持されることになる。
そして、第2のネジ軸62は、図8Aおよび図8Bに示すように、第2の予備苗載せ台41bの下面側に、走行車体2に対して斜め方向に横断するように設けられた第2の軸受部61に螺合している。
かかる構成により、リンク機構63を動作させることによって、予備苗枠4における積層形態と展開形態との切り替えが行われる。
ここで、予備苗載枠4が積層姿勢にあるときに、上側に位置する第1の予備苗載せ台41aを、図7Aおよび図7Bに示すように、前方へ変位させた場合について説明する。
第2の軸受部61およびこれに螺合する第2の軸体62、さらに第2の予備苗載せ台41bに配設された一対の軸体は、いずれも走行車体2に対して、やや斜め後ろ方向へ横断するように第2の予備苗載せ台41bに設けられているため、第1の予備苗載せ台41aを、前方へ変位させた場合、当該第1の予備苗載せ台41aは、斜め前方(図7Aの矢印f2を参照)へ移動することになる。つまり、予備苗枠4の展開姿勢においては、第1の予備苗載せ台41aは、積層姿勢のときよりも、機体から所定距離D2だけ若干離れることになる。
他方、第1の予備苗載せ台41aの変位により、リンク体630が回動するため、このリンク体630に連接された第2のネジ軸62が第2の軸受部61に螺合した状態で回動する。そして、第2のネジ軸62は、機体左右方向への移動が規制されているため、相対的に第2の軸受部61が設けられた第2の予備苗載せ台41bは、機体外方に向かって移動する。
このとき、第2の予備苗載せ台41bの機体外方への移動量と、第1の予備苗載せ台41aの機体からの移動量である所定距離D2と合わせることによって、図7Aに示すように、予備苗枠4が展開姿勢にある場合に、第1の予備苗載せ台41aと第2の予備苗載せ台41bとの長手方向の仮想中心線Lを一致させることができる。
したがって、予備苗枠4を展開姿勢にした場合、第1、第2の予備苗載せ台41a,41bが、略水平にレール状に並ぶため、予備苗の積込み作業をより容易に行うことができる。
上述してきたように、本実施形態に係る苗移植機1は、予備苗枠4を操作して、複数の予備苗載せ台41を積層姿勢とすることで、走行車体2の上から予備苗載せ台41に積み込んだ苗の取り出し作業が可能になるとともに、予備苗枠4の前後幅を短く抑えられることにより、走行車体2を移動させる際に予備苗枠4が圃場外の壁等の障害物に接触し、破損することが防止される。
特に、予備苗枠4を水平方向へ180度回転させると、予備苗枠4の機体外方への出っ張り量が小さくなるとともに、高さが低くなるため、苗移植機1の全体がコンパクトになる。したがって、納屋などへの格納がより容易かつ安全に行える。
また、例えば、第1及び第2の予備苗載せ台41a,41bを展開姿勢としてレール状にすることで、走行車体2の前方からの第1及び第2の予備苗載せ台41a,41bへの苗の積み込み作業が容易に行えるようになる。このように、苗移植機1は、走行車体2の上からも、走行車体2の前方からも苗を積み込むことができるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
しかも、展開姿勢においては、積層姿勢で下部側に位置する第2の予備苗載せ台41bが走行車体2の機体外側方へ移動するため、より離れた場所からでも容易に積込み作業を行うことができる。他方、積層姿勢においては、予備苗枠4が走行車体2に近くなるため、操縦席73にいる作業者にも近くなり、予備苗の取り出しを容易に行うことができる。
ところで、上述した例では、一対の第2の軸受部61,61を、第2の予備苗載せ台41bに、走行車体2に対して斜め方向に横断するように設け、第1の予備苗載せ台41aを前方へ変位させる場合は、斜め前方へ変位させるようにしていた。しかし、一対の第2の軸受部61,61を、第2の予備苗載せ台41bの長手方向に直交するように設けて、第1の予備苗載せ台41aを機体と平行に前方へ移動させることもできる。
その場合、図9に示すように、第2の予備苗載せ台41bを、上方に位置する第1の予備苗載せ台41aよりも、予め内側(機体側)に所定距離D2だけずらして配置させておくとよい。かかる構成においても、予備苗枠4を展開姿勢にした場合、第1の予備苗載せ台41aと第2の予備苗載せ台41bとの長手方向の仮想中心線L(図7Aを参照)を一致させることができ、第1、第2の予備苗載せ台41a,41bを略水平にレール状に並べることができる。
なお、予備苗枠4については、展開姿勢としたときに、第1の予備苗載せ台41aは、走行車体2の前端よりも機体前方に突出するように構成することが望ましい。すなわち、圃場と圃場外との間に、例えば水路等があったとしても、その水路等を跨いで第1の予備苗載せ台41aを作業者に近づけることができるので、苗の積み込み作業が容易になるからである。
なお、本実施形態では、機体の左右に配置した予備苗枠4を、いずれも積層姿勢と展開姿勢とに変位する可動式としたが、いずれか一方については固定式に構成してもよい。
次に、他の実施形態に係る苗移植機1について説明する。図10Aは、ガード部70の平面視による説明図、図10Bは、ガード部70の側面視による説明図である。また、図11は、ガード部70のガード枠700と回動枠730との説明図である。
本実施形態に係る苗移植機1は、上述してきた構成に加え、走行車体2の機体後部の左右側に、それぞれガード部70,70が設けられている。かかるガード部70は、図11に示すように、ガード枠700と、カード枠700の内側に設けられた略U字状の回動枠730と、回動枠730の回動を規制するストッパ750とを備える。
すなわち、門型のガード部70は、横桟部710と、この横桟部710の両端に連結され、走行車体2側に固定される左右の縦桟部720,720とを備える。
また、略U字形の回動枠730は、ガード部70のガード枠700の内側に位置しており、U字枠731と、このU字枠731の左右の縦桟同士を連結する補強材732とを備える。そして、U字枠731の基端部に筒状連結部740が設けられ、ガード枠700の横桟部710に回動自在に連結される。
ストッパ部750は、ガード部70の縦桟部720,720にそれぞれ設けられた板体であり、回動枠730の回動を走行車体2の機体上面側で規制できるように、回動枠730のU字枠731の基端部に当接可能に設けられる。なお、ストッパ750の表面には、ゴムなどの弾性材を貼設しておくことが好ましい。
ところで、苗移植機1は、図10Aおよび図10Bに示すように、走行車体2の機体後部には、苗植付装置3に供給する苗を収容する苗ホッパ800を設けることができる。苗ホッパ800を設けた場合、比較的簡単な構成で、剛性の高いガード部70を構成して苗ホッパ800を保護することができる。しかも、かかるガード部70は、作業者がステップ75に足をかけて走行車体2へ乗降する際の手摺として利用することができる。
さらに、図10Aに示すように、回動枠730を走行車体2の機体上面側に位置させると、回動枠730を荷台として利用することもできる。したがって、作業に必要な資材などを回動枠730に載置することで、作業効率を高めることができる。
また、苗ホッパ800を設けた場合、本実施形態では、左右のガード部70の回動枠730を、両回動枠730,730を機体上面側へ回動させた際に、互いの先端同士の間に一定の領域の空間Qが形成される長さに規定している。
したがって、空間Qの存在により、苗を苗ホッパ800に補充する足場を確保することが可能となり、作業性を向上させることができる。また、荷台となる回動枠730を苗載部として利用した場合、回動枠730が苗ホッパ800に近接しているため、作業者の苗補充作業の負担を軽減することができる。
なお、図10Aおよび図10Bでは、機体後部に苗ホッパ800を備える構成としたが、苗ホッパ800に代えて施肥装置8を設けることもできる。その場合、回動枠730を走行車体2の機体上面側に回動させて、これを、施肥装置8に供給する肥料の荷台として利用することができる。
さらに、左右のガード部70の回動枠730が、機体上面側へ回動した際に、施肥装置8の上部位置でストッパ750に支持される。そのため、ガード部70の回動枠730,730が、肥料を施肥装置8に補充する際の補助枠になる。しかも、ガード部70は、ガード枠700や回動枠730を含むその全体が施肥装置8を囲む保護部材として機能することになり、施肥装置8が何らかの物体に接触して破損することを可及的に防止することができる。
さらなる他の実施形態について説明する。図12は、他の実施形態に係る走行車体2を示す平面図である。図示するように、ここでは、走行車体2に上述したガード部70を設けていないが、ガード部70を備える構成としても構わない。
図12に示すように、本実施形態に係る苗移植機1は、圃場に肥料を供給する施肥装置として、分割型の施肥装置8a,8aを機体後部に備えている。分割型の施肥装置8a,8aは、機体後部の左右側にそれぞれ対向状態に離隔して配設され、両施肥装置8a,8aの間には作業スペースとなる空間Qが形成される。
かかる施肥装置8a,8aにおいて、図示するように、操縦席73の後方に位置する部分のうち、それぞれの対向する角部部分に、平面視で機体前方から機体後方へ斜めに向かうカット部80を形成している。
施肥装置8aにカット部80を設けたことで、例えば、操縦席73を後方へスライド可能に構成した場合のスライド量を可及的に大きくとることができ、走行車体2の居住性が向上する。また、施肥装置8a,8aの間に形成される作業スペースは、カット部80,80によって拡大して余裕が生じるため、作業者の機体後方への移動も容易となる。
また、図13は、他の実施形態に係る走行車体2の変形例を示す平面図である。ここでも、ガード部70は設けていないものとしているが、ガード部70を備える構成であってもよい。
ここでは、機体後部に、一体型の施肥装置8を、機体を横断するように設けている。そして、施肥装置8における操縦席73の直後方部分に、操縦席73側が凹状となる湾曲部81を形成している。
かかる湾曲部81は、操縦席73の後部面に沿うような曲面となっているため、このように一体型の施肥装置8を機体後部に備える構成であっても、操縦席73の後方へのスライド量を確保することができ、走行車体2の居住性を高めることができる。
ところで、一般的に、苗植付装置3は、取付ヒッチ(苗植付装置3の側に設けられる)に設けられたローリング軸(図示せず)の周りに回転自在に取付けられる。そして、かかる苗植付装置3の水平状態を維持するためのローリグ機構9を苗移植機1は備えている。かかるローリング機構9は、苗植付装置3をローリング軸周りに左右回動させる油圧シリンダ90を備えており、図示しない制御装置がこの油圧シリンダ90を動作させることにより、苗植付装置3の水平状態を維持することができる。以下、図14A〜図14Cを参照しながら、油圧シリンダ90を動作させるためのバルブ機構93について説明する。
図14Aは、ローリング機構9の油圧回路図、図14Bは、ローリング機構9におけるバルブ機構93の中立状態を示す説明図である。また、図14Cは、ローリング機構9のバルブ機構93の圧抜き作動時を示す説明図である。
従来、ダブルチェック弁によって作動油のリーク防止を図っているが、油温上昇に伴って作動油が熱膨張し、例えば、左右2室に区画された油圧シリンダ90の一方の室の内圧が上昇すると、作動油が作動油タンクTに戻ろうとする。このとき、作動油タンクTに戻ろうとする作動油に対し、チェック弁の開度が十分に確保できない場合がある。その場合、作動油は無理やりチェック弁の開度を押し広げようとするため、チェック弁を破損させるおそれがあった。
そこで、図14Aの油圧回路図に示すように、本実施形態に係る苗移植機1では、ローリング機構9の油圧シリンダ90を駆動するためのバルブ機構93は、上昇する圧力を逃がすリリーフ弁機能部91とチェック弁機能部92とが、油圧シリンダの左右独立した室ごとに並列に設けられている。なお、図中、符号94は流路切換弁を示す。
そして、具体的な構成として、図14Bおよび図14Cに示すように、リリーフ弁機能部91とチェック弁機能部92とを、カートリッジ型バルブ900に一体的に組み込む構成としている。
すなわち、カートリッジ型バルブ900には、スチールボール91aと、これに作用するバネ体92aとが組み込まれている。そして、図14に示す中立状態から、例えば油圧シリンダ90の右側の室の内圧が上昇したとすると、図14Cに示すように、右側の室に連通した側のスチールボール91aがバネ92aに抗して移動してタンクポート95が開く。こうして、作動油タンクTへの流路が通じることで作動油がタンクTへ戻り、圧抜きを支障なく行うことができる。
このように、チェック弁機能部92とリリーフ弁機能部91とを、カートリッジ型バルブ900に一体的に組み込んだため、メンテナンスが容易となる。また、構成がコンパクトであるため、バルブ機構93のメイン要素などのボデー材料をそのまま流用することも可能となる。
ところで、上述してきた実施形態では、荷台部となる左右の予備苗枠4を、いずれも水平方向に回動するとともに、水平回動時に上下方向へ昇降する可動式とした。しかし、いずれか一方の予備苗枠4については、固定式としてもよい。
また、予備苗枠4を、第1、第2の予備苗載せ台41a,41bが、機体上下方向に収まる積層姿勢と、機体前後方向に列状に位置する展開姿勢とに切替え可能な可動式とする場合についても、左右両方の予備苗枠4ではなく、いずれか一方にのみ採用することができる。
上述してきた実施形態により、作業車両として、以下の苗移植機1が実現できる。
(1)走行車体2と、予備苗枠(荷台部)4と、支持機構5とを備え、走行車体2は、圃場を走行可能であり、機体後部に苗植付装置(対地作業装置)3を連結する。予備苗枠4は、走行車体2の機体前部の左右側方の少なくとも一方に設けられ、対地作業に用いられる予備資材を載置可能である。支持機構5は、予備苗枠4を回転自在に支持するとともに、回動に連動して上下移動させる苗移植機1。
(2)上記(1)の構成において、予備苗枠4は予備資材を載置する複数の予備載置台41と、複数の予備載置台41を支持する支持フレーム42とを備え、支持機構5は、支持フレーム42の走行車体2の機体側に垂設された第1のネジ軸51と、機体側から延在するステー52に設けられ、第1のネジ軸51と螺合する第1の軸受部53とを備える苗移植機1。
(3)上記(1)または(2)の構成において、予備苗枠4の2つの予備苗載せ台(予備載置台)41a,41bが、機体上下方向に収まる積層姿勢と、機体前後方向に列状に位置する展開姿勢とに切替える切替機構6を備え、切替機構6は、積層姿勢で上部側に位置する第1の予備載置台41aを前方または後方へ引き出す動作に連動して、積層姿勢で下部側に位置する第2の予備苗載せ台41bを走行車体2の機体外側方へ移動させる苗移植機1。
(4)上記(3)の構成において、切替機構6は、予備苗枠4が展開姿勢にある場合、第1の予備苗載せ台41aと第2の予備苗載せ台41bとの長手方向の仮想中心線Lを一致させる苗移植機1。
(5)上記(3)または(4)の構成において、切替機構6は、第2の軸受部61と、第2のネジ軸62と、リンク機構63とを備え、第2の軸受部61は、第2の予備苗載せ台41bに、走行車体2に対して斜め方向に横断するように設けられ、第2のネジ軸62は、第2の軸受部61と螺合し、リンク機構63は、基端が第2のネジ軸62に固着され、先端が第1の予備苗載せ台41aに対して回転自在に連結されたリンク体630,630を有する苗移植機1。
(6)上記(1)から(5)のいずれか一つの構成において、走行車体2の機体後部の左右側にそれぞれ設けられたガード部70を備え、ガード部70は、横桟部710と、当該横桟部710の両端に連結された左右の縦桟部720,720とを備える門型のガード枠700と、ガード枠700の内側に位置し、横桟部710に回動自在に連結された回動枠730と、回動枠730の回動を、走行車体2の機体上面側で規制するストッパ750とを備える苗移植機1。
(7)上記(6)の構成において、走行車体2は、対地作業装置としての苗植付装置3に供給する苗を収容する苗ホッパ800を機体後部に備え、左右のガード部70の回動枠730は、両回動枠730を機体上面側へ回動させた際に、互いの先端同士の間に一定の領域の空間Qが形成される長さに規定される苗移植機1。
(8)上記(6)の構成において、走行車体2は、圃場に肥料を供給する施肥装置8を機体後部に備え、左右のガード部70の回動枠730は、両回動枠730を機体上面側へ回動させた際に、施肥装置8の上部位置でストッパ750に支持される苗移植機1。
上述してきた各実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。各実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、表示要素などのスペック(構造、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質など)は、適宜に変更して実施することができる。