JP2017130413A - ドープされた複合型リチウムイオン電池用正極活物質及びこれを用いたリチウムイオン電池 - Google Patents

ドープされた複合型リチウムイオン電池用正極活物質及びこれを用いたリチウムイオン電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 ラミネート電池の正極活物質として有用な正極活物質の提供【解決手段】式LiaNibCocAldO2(a=0.8〜1.2、b=0.7〜0.95、c=0.02〜0.2、d=0.005〜0.1であり、かつ、b+c+d=1である。)で表され、微量の元素M1x(M1は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びNi、Co、Alを除く周期律表第3族〜17族の元素から選択される)をb+c+d=1を基準としてx=0.001〜0.02となる範囲で含み、高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウムの量(重量)が正極活物質に含まれる全アルミニウム重量の10%超であるリチウム金属複合酸化物からなる、リチウムイオン二次電池用の正極活物質。【選択図】なし

Description

本発明はリチウムイオン電池用の正極活物質と、これを正極に用いたリチウムイオン電池、特にこれを正極に用いたラミネート電池に関する。
リチウムイオン電池の歴史は古く、その商業生産は1990年代に始まっている。しかしながら、リチウムイオン電池の開発は、2000年以降の携帯端末、スマートフォン、電気自動車などの普及によって本格的に発展したと言ってよい。リチウムイオン電池は、他の電池と同様に正極、負極、電解質、外装体を主な構成部材とするが、中でも正極に用いられる正極活物質はリチウムイオン電池の電池性能を左右する重要な材料である。すでにリチウムイオン電池に用いられる正極活物質として様々なリチウム系金属酸化物が見出されている(非特許文献1)。
これまで、携帯端末、スマートフォン、電気自動車の低コスト化、長時間使用を達成するために、高出力のリチウムイオン電池のための正極活物質が提案されてきた。その一方で、リチウムイオン電池を搭載する携帯端末、スマートフォン、電気自動車には安全性と耐久性も求められるため、正極活物質には高い耐熱性や電池本体の変形を引き起こさないという性質が要求される。このような要求を満足するために様々なリチウムイオン電池用正極活物質が提案されている(非特許文献1)。
中でもNCA系正極活物質は、高エネルギー密度の電極を製造できるという利点がある。近年は特に、携帯端末やスマートフォンの薄型化、小型化が進行しており、リチウムイオン電池の形態そのものにも変化の兆しがある。これまでは積載時の耐久性に優れる角形電池、円筒電池が主流であったが、より薄型で軽量のラミネート電池も実用化されている(特許文献1)。ただし、ラミネート電池は薄く柔軟なフィルムで電極などの部材を被覆しているため、従来の金属製の外装体を有する角形あるいは円筒形の電池よりも内外からの圧力に対して弱いという問題点がある。そして、リチウムイオン電池では、電池の使用過程で正極活物質に含まれる不純物によって炭酸ガスなどのガスが発生することが知られている。このようなガス発生による電池の膨れは、ラミネート電池ではより深刻な問題である。角形電池、筒型電池では電池膨れを生じない程度のガス発生であっても、ラミネート電池では膨れや破壊を引き起こす可能性がある。
そこで、ガス発生時の不具合を低減するためのラミネート電池の構造が提案されている。例えば、ラミネート電池のケースに内部で発生したガスを逃す貫通孔を設ける(特許文献2)、正極に正極合剤不塗布部分を設けることによって内部に凹凸を生じにくくする(特許文献3)、電極収納部にガス吸着剤を配置する(特許文献4)という改善方法が提案されている。
このように、ラミネート電池で特に懸念されるガス発生時の問題を解消し、電池の安全性と耐久性を向上する手段として、ラミネート電池に特別な積層構造や追加的な部材を設ける例は見出される。しかしながら、ラミネート電池に適した正極活物質、特にNCA系正極活物質の検討は十分になされていない。
例えば、特許文献5では、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとを所定の配合にて溶解し、この溶液に水酸化ナトリウム溶液を添加して、ニッケル及びコバルトの複合水酸化物を乾燥させ、水酸化アルミニウムを添加し、撹拌、混合し、更に共沈水酸化物と水酸化アルミニウムとの混合物に水酸化リチウム一水塩を混合し、酸素雰囲気中、800℃にて5時間焼成することによりリチウム金属複合酸化物を得ている。しかしながら、ここで得られた正極活物質の電池性能は完全に満足できるものではなかった。例えばその初期充放電効率は85〜90%にとどまっており、高効率な電池設計に耐える高品質の正極活物質とは言えない。
特開2011− 77030号公報 特開2003−168410号公報 特開2004−303590号公報 特開2012− 59489号公報 特開2001−266876号
「機能材料」 2011年9月号 Vol31 No.9 12〜19頁
本発明者らは、正極活物質自体の改良という、従来と異なるアプローチでラミネート電池の改良を行った。本発明者らは、高容量性、良好な初期充放電効率といったリチウムイオン電池用正極活物質全般に求められる性能と、ラミネート電池用正極活物質に特に求められる内部ガス発生が極めて抑制されているという性能を併せ持つNCA系正極活物質を求めた。
本発明者らは、驚くべきことに、そのようなラミネート電池に好適な正極活物質を特定する指標として、正極活物質に含まれるアルミニウム原子のうち特定の画分を定量することが有効であることを見出した。この「特定の画分」とは、正極活物質に含まれるアルミニウム原子のうちで特別に高い負荷の下で抽出される画分であって、具体的には正極活物質に含まれるアルミニウム原子のうちで、高温下で溶融状態にある水酸化ナトリウムに溶出する画分である。
本発明者が新たに見出した、正極活物質に含まれる、上記高温の水酸化ナトリウムに溶出する画分の定量方法は、以下の方法(ア)に従う。
方法(ア):12.5gの正極活物質と20.0gの水酸化ナトリウムをニッケル製のるつぼに取る。このるつぼを500℃に加熱したマッフル炉に設置する。水酸化ナトリウムが十分溶解してから5分後にるつぼをマッフル炉から取り出す。直ちにるつぼの内容物を250mlの純水に分散し攪拌する。上澄み液を誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により分析することにより、500℃の水酸化ナトリウムに溶出したアルミニウム元素の重量を測定する。
本発明者らは、上記方法(ア)により求められるアルミニウム溶出量が高い、すなわち、上記方法(ア)により求められるアルミニウム溶出量が正極活物質に含まれる全アルミニウム重量の10%超である正極活物質が、上述のリチウムイオン電池用正極、特にラミネート型リチウムイオン電池用正極に対する要求性能をバランス良く備えることを発見した。
すなわち本発明は以下のものである。
(発明1)以下の一般式(1)で表される組成を有するリチウム金属複合酸化物からなり、
LiNiCoAl ・・・(1)
(ただしa=0.8〜1.2、b=0.7〜0.95、c=0.02〜0.2、d=0.005〜0.1であり、かつ、b+c+d=1である。)
上記リチウム金属複合化合物はさらに、
上記式(1)で表される組成において微量の元素M1(M1は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びNi、Co、Alを除く周期律表第3族〜17族の元素から選択される少なくとも1種の元素である。)をb+c+d=1(b、c、dは上記(1)で使用したものである)に対してx=0.001〜0.02となる範囲で含み、
以下の方法(ア)により測定される高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウム量(重量)が該リチウム金属複合酸化物に含まれる全アルミニウム重量の10%を超える、
〔方法(ア):12.5gの正極活物質と20.0gの水酸化ナトリウムをニッケル製のるつぼに取る。このるつぼを500℃に加熱したマッフル炉に設置する。水酸化ナトリウムが十分溶解してから5分後にるつぼをマッフル炉から取り出す。直ちにるつぼの内容物を250mlの純水に分散し攪拌する。上澄み液を誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により分析することにより、500℃の水酸化ナトリウムに溶出したアルミニウム元素の重量を測定する。〕
リチウムイオン二次電池用の正極活物質。
(発明2)LiOH残渣が0.2重量%以下であり、LiCO残渣が0.2重量%以下である、発明1の正極活物質。
(発明3)発明1又は2の正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
(発明4)発明3のリチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池。
(発明5)ラミネート電池である、発明4のリチウムイオン電池。
本発明では、ラミネート電池用正極活物質として有効な正極活物質を新規な指標によって選別した。こうして得られた正極活物質を用いることにより、従来よりも優れた電池性能を発現させることに成功した。上記指標によって選別された正極活物質を用いた正極は、高容量性、良好な初期充放電効率を示し、さらに内部ガス発生が極めて抑制されている。したがって本発明の正極活物質はラミネート電池用途に特に適している。
〔正極活物質とその製造方法〕
本発明の正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物は以下の一般式(1)で表される組成を有する。
LiNiCoAl ・・・(1)
(ただしa=0.8〜1.2、b=0.7〜0.95、c=0.02〜0.2、d=0.005〜0.1であり、かつ、b+c+d=1である。)
更に、上記リチウム金属複合酸化物は微量の元素M1(M1は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びNi、Co、Alを除く周期律表第3族〜17族の元素、から選択される少なくとも1種の元素である。)をb+c+d=1(b、c、dは上記(1)で使用したものである)を基準としてx=0.001〜0.02となる範囲で含む。好ましいM1は、アルカリ土類金属、周期律表第4族〜第8族の元素、第12族の元素、Alを除く第13族の元素、第15族の元素、第17族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素である。より好ましいM1は、Mg,Ca,Ba,Ti,Zr,V,Nb,Mo,W,Mn,Fe,Zn,B,Si,Fから選ばれる少なくとも1種の元素である。
本発明で用いるリチウム金属複合酸化物の製造方法は限定されないが、一般的には以下の方法(I)〜(IV)が用いられる。
(I)Li化合物、Al化合物、Co化合物、Ni化合物、元素M1を含有する化合物を、別々に調整、混合し、得られた混合物を酸素存在下で焼成する。
(II)Ni、Coの両方を含む複合水酸化物を共沈法により製造し、その後、この複合水酸化物にLi化合物、Al化合物、元素M1を含有する化合物を混合する。得られた混合物を酸素存在下で焼成する。
(III) Ni、Co、元素M1の全てを含む複合水酸化物を共沈法により製造し、その後、この複合水酸化物にLi化合物、Al化合物を混合する。得られた混合物を酸素存在下で焼成する。
(IV)Ni、Co、Al、元素M1の全てを含む複合水酸化物を共沈法により製造し、その後、この複合水酸化物にLi化合物を混合する。得られた混合物を酸素存在下で焼成する。
上記方法方法(I)〜(IV)の中で方法(III)が好ましい。以下、方法(III)を用いた正極活物質の製造方法について詳述する。
(原料の溶解)原料としては、一般式(1)を構成する金属および元素M1の、硫酸塩、硝酸塩などの水溶性塩を用いることができる。ただし、硝酸性窒素を含む廃液処理にコストがかかるため、硝酸塩の使用は工業的には好ましくない。このため通常はニッケル、コバルト、および元素M1の硫酸塩を用いる。この場合、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、元素M1の硫酸塩を水に溶解する。
(沈殿)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、元素M1の硫酸塩の水溶液と、沈殿剤としての水酸化ナトリウムと、錯化剤としてのアンモニア水を沈殿槽内で混合する。沈殿槽内で水酸化ニッケル、水酸化コバルト、元素M1の水酸化物からなる複合水酸化物が共沈殿物として生成する。共沈殿物はスラリーとして取り出される。様々な品種に対応する商業生産のためには、共沈殿物の固体濃度を調節できる沈殿槽、一般的には固液分離機構を備える沈殿槽の使用が好ましい。固液分離機構としては特に制限はなく、例えば、遠心分離装置やフィルターなどが用いられる。生産効率などの面から、共沈物スラリーの固体濃度は好ましくは300g/L以上、より好ましくは400g/L以上、さらに好ましくは500g/L以上である。
(濾過・洗浄)得られた沈殿物を濾過し、水分を除去して水酸化物ケーキを分離する。水酸化物ケーキを水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸イオンを除去する。さらに水酸化物ケーキを純水で洗浄して水酸化ナトリウムを除去する。こうしてニッケル−コバルト−元素M1−複合水酸化物からなる前駆体ケーキが得られる。
(乾燥)得られた前駆体ケーキを乾燥する。乾燥方法は、大気圧下での熱風乾燥、赤外線乾燥、真空乾燥などのいずれでもよい。短時間で乾燥することができる真空乾燥が好ましい。前駆体中の水分が1重量%程度になるまで乾燥することにより、前駆体粉末が得られる。
(粉体混合)得られた前駆体粉末に水酸化リチウム粉末もしくは炭酸リチウム粉末と、水酸化アルミニウムとを加え、剪断力をかけて混合する。混合に用いる機器として、ボールミル、ヘンシェルミキサーなど各種粉体混合に用いる機器を制限なく使用することができる。こうして焼成用粉体が得られる。
(焼成)得られた焼成用粉体を酸素存在下で焼成する。焼成により以下の反応が起こる。ただし以下の反応式はリチウム原料として水酸化リチウムを用いた場合の反応を示す。また元素M1の水酸化物についても同様の反応が起こるが、記載を省略する。
4Co(OH)+4LiOH+O → 4LiCoO+6H
Al(OH)+LiOH → LiAlO+2H
4Ni(OH)+4LiOH+O → 4LiNiO+6H
焼成は、酸素の存在下、450〜900℃の温度域で行う。焼成は複数回行うこともできる。いずれの回の焼成でも最高温度で2時間〜30時間保持して反応を完了させる。焼成する際に用いる焼成炉に制限はないが、管状炉、マッフル炉、RK(ロータリーキルン)、RHK(ローラーハースキルン)などが好ましい。特に好ましい焼成炉はRHKである。焼成後、好ましくは、焼成後に得られたリチウム金属複合酸化物を、適宜、各種ミキサーや乳鉢などを用いて粉砕し、粒子の凝集をほぐす工程を設ける。この工程によって電極作成の際の弊害となる50μm以上の粗粒が除去される。
(高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウムの量(重量))
本発明の正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物は、更に、以下の方法(ア)により測定した高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウム量(重量)が、該正極活物質に含まれる全アルミニウム重量の10%超、好ましくは10%超50%未満、より好ましくは15%超30%未満、特に好ましくは15%超20%未満であるという特徴を有する。
方法(ア):12.5gの正極活物質と20.0gの水酸化ナトリウムをニッケル製のるつぼに取る。このるつぼを500℃に加熱したマッフル炉に設置する。水酸化ナトリウムが十分溶解してから5分後にるつぼをマッフル炉から取り出す。直ちにるつぼの内容物を250mlの純水に分散し攪拌する。上澄み液を誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により分析し、上澄み液に含まれるアルミニウム元素の重量を測定する。
上記方法(ア)で用いるリチウム金属複合酸化物に含まれる全アルミニウム量(重量)はICP分析により求められる。上記方法(ア)で定量される水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウム量(重量)が、正極活物質に含まれる全アルミニウム重量の10%超となるような正極活物質を正極活物質として用いたリチウムイオン電池用では初期充放電効率が良好となる。
上記アルミニウムの水酸化ナトリウム溶出量(重量)が如何様に電池特性に作用するかは未だ完全に解明されていないが、上記方法(ア)によるアルミニウムの水酸化ナトリウム溶出量(重量)が正極活物質に含まれるアルミニウム原子の偏在性を反映していることは注目に値する。
金属複合水酸化物と水酸化リチウム等のリチウム化合物との混合物を焼成することによってリチウム金属複合酸化物を製造する際に、焼成過程で原料に含まれるアルミニウム原子のすべてがリチウム金属複合酸化物中に取り込まれず、その一部が焼成後のリチウム金属複合酸化物粒子の周辺や表面に分布する可能性がある。このようなアルミニウム原子は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸リチウム等のアルミニウム化合物を構成して偏在し、正極活物質として機能するリチウム金属複合酸化物に完全に複合化していないと推測される。このようなアルミニウム原子は、リチウム金属複合酸化物の内部にあるアルミニウム原子と違って正極活物質の構成元素として完全には機能しないと考えられるから、その量は少ない方が好ましいと考えられてきた。しかしながら、このような偏在性のアルミニウム原子を含有する酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸リチウム等のアルミニウム化合物は水への溶解度が小さいため、Warder滴定法などの正極活物質の分析手法としてよく用いられる方法では定量することができない。このため、正極活物質に付随するこのような偏在性のアルミニウム原子を検出しようという試みも、これを定量する例はこれまでにほとんど報告されていない。
本発明では、上述の方法(ア)という、これまで提案されていない過酷な条件下で、すなわち正極活物質を500℃の水酸化ナトリウムに分散、溶解することによって、初めて上述の粒子表面部に偏在するアルミニウム原子正極活物質から分離、定量することに成功した。本発明で用いた方法(ア)は正極活物質の新規な分析方法として注目に値する。
驚くべきことに、本発明では従来の予想に反して、上述の偏在性のアルミニウム原子の含有量が一定値を超える正極活物質が不可逆容量率からみて優れたリチウムイオン電池用正極活物質として機能することを発見した。
本発明は同時に、上記方法(ア)をリチウムイオン二次電池用正極活物質の新たな選別方法として提供することにも成功した。本発明によって、上述の偏在性アルミニウム原子の含有量が多く、充放電を経ても初期容量が維持された正極活物質として機能することができる正極活物質を選別することが初めて可能となった。リチウムイオン電池に要求される放電容量、初期充放電効率と、特にラミネート電池に求められる低ガス発生特性のバランスを良好とするためには、正極活物質の上記偏在性のアルミニウム原子含有量は、正極活物質に含まれる全アルミニウム原子重量に対して10%超、好ましくは10%超50%未満、より好ましくは15%超30%未満、特に好ましくは15%超20%未満であることが求められる。
このように、さらに上述の潜在性アルミニウム原子の含有量が一定量に制限されたリチウム金属複合酸化物を用いて、本発明の正極活物質が得られる。本発明の正極活物質は、その組成、微量元素の含有、偏在性アルミニウム含有量によって特徴づけられる新規な物質である。
〔正極活物質のLiOH残渣、LiCO残渣含有量〕
本発明で用いる正極活物質から余剰のリチウムが除去されていることが好ましい。上記正極活物質から余剰のリチウムを除去する方法としては、正極活物質を水性溶媒で洗浄する方法が一般的である。洗浄に用いられる水性溶媒としては、純水、酸性水、アルカリ性水、金属化合物の水溶液などが用いられる。このうち純水、酸性水またはアルカリ性水が好ましい。洗浄の結果、正極活物質から水で抽出されるLiOH残渣が0.2重量%以下で、かつLiCO残渣が0.2重量%以下となることが好ましい。
〔正極、ラミネート型リチウムイオン電池〕
本発明の正極活物質はラミネート電池の正極材として好適である。ラミネート電池は通常の方法により製造することができる。すなわち本発明の正極活物質をバインダー、導電助剤と混合して正極活物質等を含むスラリーを製造し、このスラリーを正極基材に塗布、乾燥して正極を製造する。負極は負極基材にカーボン類からなる負極活物質を含む負極剤を塗布、乾燥して得られる。正極、負極、セパレータを含む積層体を外装フィルムでラミネートすると共に電解質を充填して、正極、負極、セパレータ、電解質が内包されたラミネート電池が完成する。
〔実施例1〕以下の手順で、式 Li1.0Ni0.80Co0.15Al0.05 で表される組成を有し、元素M1がMnであるリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質を製造した。
(原料の溶解)硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの各々の濃度が139.3g/L、10.8g/L及び0.15g/Lとなるように、硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト7水和物、硫酸マンガン5水和物の各々を純水に溶解し、金属塩の混合溶液(以下、金属塩溶液という)を得た。一方で、濃度が84.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製した(以下アルカリ液という)。
(沈殿)得られた金属塩溶液とアルカリ液、錯化剤である25重量%アンモニア水とを、傾斜した多段の板で構成されるフィルターが設置された容量190Lの反応器へ連続供給し、金属水酸化物の共沈反応を進行させた。この際、水酸化ナトリウムの過剰量、アンモニア量は各々2.7g/Lおよび12g/Lとなるように調整した。同時に反応器のフィルターにスラリーを通過させることにより、当該スラリーに含まれる母液の一部を系外へ排出した。その結果、金属水酸化物の共沈物が生成、沈殿し、固体濃度が400g/Lに調整されたスラリーが得られた。
(濾過・洗浄)金属塩溶液とアルカリ混合液の供給開始から十分な時間が経過し、定常状態となった後、反応容器内部に設置されたスラリー抜き出し用パイプからスラリーを連続的に抜き出した。抜き出された金属水酸化物スラリーを濾過、水洗した。
(乾燥)得られた金属水酸化物を真空乾燥した。こうして微量のマンガンを含むニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物が得られた。
(粉体混合)上記マンガン含有ニッケル−コバルト複合水酸化物3.809kg、水酸化アルミニウム0.147kg、水酸化リチウム1.044kgとを、せん断力をかけながら粉体混合し、混合物を得た。
(焼成)この混合物の4kgを酸素流通下2段階で焼成した。1段目焼成では、室温から730℃まで3時間かけて昇温し、730℃で4時間保持した。その後、4時間かけて室温まで冷却した。2段目焼成では、室温から770℃まで3時間かけて昇温し、770℃で10時間保持した。その後4時間かけて室温まで冷却した。こうしてマンガン含有リチウム金属複合酸化物が得られた。
(解砕)得られたマンガン含有リチウム金属複合酸化物をホソカワミクロン製ジェットミル(AFG−100)にて解砕した。
(水洗)解砕物100gを水100gに分散させた。分散液を3分間攪拌し、吸引濾過、減圧乾燥し、更に酸素中500℃で5時間乾燥した。
(高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウムの量(重量))
得られたマンガン含有リチウム金属複合酸化物に含まれるアルミニウムの水酸化ナトリウム溶出量を以下の方法で測定した。得られたマンガン含有リチウム金属複合酸化物12.5g、水酸化ナトリウム20.0gをニッケル製のるつぼに取り、るつぼを500℃に加熱したマッフル炉に設置した。水酸化ナトリウムが十分溶融してから5分経過後、るつぼをマッフル炉から取り出し、るつぼの内容物を250mlの純水に分散し攪拌した。上澄み液を誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により分析した。また得られたマンガン含有リチウム金属複合酸化物に含まれる全アルミニウム量(重量)をICP分析により求めた。その結果、マンガン含有リチウム金属複合酸化物に含まれる全アルミニウム元素(重量)の16.3%に相当するアルミニウム元素が溶出していることがわかった。
(LiOH残渣、LiCO残渣)
得られた正極活物質2gを取り、25℃の純水100mlに加え3分間マグネチックスターラーで攪拌した後、吸引濾過を行う。得られた濾液を自動滴定装置を用い0.1規定の塩酸にて滴定し、水酸化リチウム量及び炭酸リチウム量を定量した。結果を表1に示す。
(正極の製造)
得られた正極活物質100重量部、導電助剤としてのアセチレンブラック1重量部及びグラファイトカーボン5重量部、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン4重量部を、分散媒としてのN−メチルピロリドンと共に混合して正極合剤を得た。この正極合剤を集電体であるアルミニウム箔に50μm厚で塗布、乾燥して、正極を製造した。
(ラミネート電池の製造)
人造黒鉛(MAG−D)98重量部、バインダーとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1重量部、スチレンブタジエン共重合物(SBR)1重量部を、分散媒としての水と共に混合して負極合剤を得た。この負極合剤を集電体である銅箔に塗布、乾燥し負極を製造した。LiPFを1モル/Lの濃度で溶解したエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニルカーボネート(VC)を、重量比(EC:EMC:VC)が50:50:1となるように混合して電解液を製造した。上述の正極、負極、電解液を積層、封入してラミネート電池を製造した。
得られたラミネート電池の性能を以下の観点で評価した。結果を表1に示す。
・初期放電容量及び初期充放電効率:3.0から4.2Vの間で0.1Cレートでの充電を行った時の容量を初期充電容量とした。4.2Vから3.0の間での0.1C放電を行った際の容量を初期放電容量とした。初期充放電効率を以下の式で求めた。
初期充放電効率(%)=(初期放電容量÷初期充電容量)×100
〔実施例2〕正極活物質の製造の際、沈殿工程で実施例1の条件を変更した。すなわち、フィルターを通して系外に排出される母液の量を変更してスラリーの固体濃度を600g/Lに調整した。その他の条件は実施例1と同じであった。得られた正極活物質とラミネート電池の評価結果を表1に示す。
〔実施例3〕正極活物質の製造の際、焼成工程で実施例1の条件を変更した。すなわち、ローラーハースキルン内の最高温度設定を730℃に設定し、合計11時間かけて次の連続する3段階で焼成した。第1段階:室温から730℃まで3時間かけて昇温した。第2段階:730℃で5時間保持した。第3段階:730℃から室温まで3時間かけて冷却した。得られた正極活物質ラミネート電池の評価結果を表1に示す。
〔比較例1〕正極活物質の製造の際、沈殿工程で実施例1の条件を変更した。すなわち、フィルターを通して系外に排出される母液の量を変更してスラリーの固体濃度を200g/Lに調整した。その他の条件は実施例1と同じであった。得られた正極活物質ラミネート電池の評価結果を表1に示す。
〔比較例2〕正極活物質の製造の際、沈殿工程で実施例1の条件を変更した。すなわち、フィルターを通して系外に排出される母液の量を変更してスラリーの固体濃度を100g/Lに調整した。その他の条件は実施例1と同じであった。得られた正極活物質ラミネート電池の評価結果を表1に示す。
Figure 2017130413
高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウムの量(重量)の正極活物質に含まれる全アルミニウム重量に対する割合は、実施例では10%超であったが、比較例では10%以下であった。実施例の正極活物質ではLiOH残渣、LiCO残渣が低減されている。従って実施例の正極活物質を用いたラミネート電池ではガス発生量を極めて低いレベルに抑えることができる。しかも実施例では、極めて高い初期充放電効率を示し、初期放電容量も満足できる値であるから、良好な電池性能が維持されることが予想される。これに対して比較例では初期放電容量は高いものの初期充放電効率が低いため、電池性能が急速に低下することが予想される。このように、本発明の正極活物質はガス発生を特に嫌うラミネート電池に好適であり、しかも初期放電容量、初期充放電効率といった電池の要求性能をバランス良く与えることができる。
本発明の正極活物質はリチウムイオン電池用正極材に適しており、特にラミネート電池に有用である。本発明はラミネート電池の性能向上に貢献し、携帯端末用電池や自動車用電池の一層の小型化と長寿命化をもたらすことができる。

Claims (5)

  1. 以下の一般式(1)で表される組成を有するリチウム金属複合酸化物からなり、
    LiNiCoAl ・・・(1)
    (ただしa=0.8〜1.2、b=0.7〜0.95、c=0.02〜0.2、d=0.005〜0.1であり、かつ、b+c+d=1である。)
    上記リチウム金属複合化合物はさらに、
    上記式(1)で表される組成において微量の元素M1(M1は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びNi、Co、Alを除く周期律表第3族〜17族の元素から選択される少なくとも1種の元素である。)をb+c+d=1(b、c、dは上記(1)で使用したものである)に対してx=0.001〜0.02となる範囲で含み、
    以下の方法(ア)により測定される高温水酸化ナトリウムに溶出するアルミニウム量(重量)が該リチウム金属複合酸化物に含まれる全アルミニウム重量の10%を超える、
    〔方法(ア):12.5gの正極活物質と20.0gの水酸化ナトリウムをニッケル製のるつぼに取る。このるつぼを500℃に加熱したマッフル炉に設置する。水酸化ナトリウムが十分溶解してから5分後にるつぼをマッフル炉から取り出す。直ちにるつぼの内容物を250mlの純水に分散し攪拌する。上澄み液を誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により分析することにより、500℃の水酸化ナトリウムに溶出したアルミニウム元素の重量を測定する。〕
    リチウムイオン二次電池用の正極活物質。
  2. LiOH残渣が0.2重量%以下であり、LiCO残渣が0.2重量%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
  3. 請求項1又は2に記載の正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
  4. 請求項3に記載のリチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池。
  5. ラミネート電池である、請求項4に記載のリチウムイオン電池。
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