JP2017128667A - 自己融着性樹脂組成物及び自己融着性絶縁電線 - Google Patents

自己融着性樹脂組成物及び自己融着性絶縁電線 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、熱融着後の高温下における固着力に優れる熱融着層を得ることができる自己融着性樹脂組成物及び熱融着後の高温下における電線同士の高い固着力を有する自己融着性絶縁電線を提供することを課題とする。【解決手段】本発明の一態様に係る自己融着性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とする自己融着性樹脂組成物であって、硬化処理後の200℃における弾性率が1MPa以上200MPa以下である。フェノキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシに由来する構造とビスフェノールS型フェノキシに由来する構造とを有するとよい。当該自己融着性樹脂組成物が、1又は複数の硬化剤をさらに含有するとよい。本発明の一態様に係る自己融着性絶縁電線は、線状の金属導体と、この金属導体の外周面側に積層され、最外層を構成する熱融着層とを備える自己融着性絶縁電線であって、熱融着層が、上記自己融着性樹脂組成物から構成される。【選択図】図1

Description

本発明は、自己融着性樹脂組成物及び自己融着性絶縁電線に関する。
絶縁電線を用いて例えばモーター用コイルを製造する場合、コアに電線を捲回し、電線同士の隙間及び電線とコアとの隙間にワニスを含浸させた後に含浸ワニスを固化させて電線間及び電線−コア間を固着させるのが一般的である。しかしながら、ワニスの完全な含浸を担保することは難しく、電線の固定が部分的に不十分となるおそれがある。また、ワニスの含浸により工数が増え、コイルが高価となるおそれがある。
これに対し、ブチラール樹脂、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂を主成分とする熱融着層を備える自己融着性絶縁電線が知られている(特開平4−87214号公報参照)。上記自己融着性絶縁電線は、金属導体の外周に積層される熱融着層が互いに融着し合うのでモーター用コイル製造においてワニスの含浸を行うことなく電線間の固着が可能となるため、モーター製造工程が簡略化できるという特徴を有する。
特開平4−87214号公報
しかしながら、自己融着性絶縁電線の熱融着層の主成分として用いられる上記熱可塑性樹脂は、可とう性に優れるが耐熱性が低いため、熱融着後の常温下における固着力に優れるものの、熱融着後の高温下においては、上記熱融着層が軟化するために高い固着力を保持できないおそれがある。従って、自動車用モーター、発電機等、耐熱性が要求される用途においては上記熱可塑性樹脂を主成分とする熱融着層を備える自己融着性絶縁電線は使用が制限される。
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、捲線加工等を行う熱融着前においては十分な可とう性を備えると共に、熱融着後においては、高い耐熱性を有し、高温下における固着力に優れる熱融着層を得ることができる自己融着性樹脂組成物及び熱融着後の高温下における電線同士の高い固着力を有する自己融着性絶縁電線を提供することを課題とする。
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る自己融着性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とする自己融着性樹脂組成物であって、硬化処理後の200℃における弾性率が1MPa以上200MPa以下である。
本発明の一態様に係る自己融着性樹脂組成物は、熱融着前の可とう性を備えつつ、熱融着後においては、高い耐熱性を有し、高温下における固着力に優れる熱融着層を得ることができる。また、本発明の一態様に係る自己融着性絶縁電線は、熱融着後の高温下における電線同士の高い固着力が得られるので、電線同士の固着の信頼性が高い。
図1は、本発明の第1実施形態に係る自己融着性絶縁電線を示す模式的断面図である。 図2は、本発明の第2実施形態に係る自己融着性絶縁電線を示す模式的断面図である。
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る自己融着性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とする自己融着性樹脂組成物であって、硬化処理後の200℃における弾性率が1MPa以上200MPa以下である。
当該自己融着性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の特性を持ちながら架橋可能なエポキシ基を有するフェノキシ樹脂を主成分とするので、加熱により融着する機能を奏する。また、本発明者らは、当該自己融着性樹脂組成物の硬化処理後の200℃における弾性率が、熱融着後における高温下での固着力と相関することを見出した。つまり、当該自己融着性樹脂組成物は、硬化処理後の200℃における弾性率の下限が1MPaであるため、高い耐熱性を有し、熱融着後の高温下における固着力に優れる特性を有する。さらに、弾性率の上限を200MPaとすることで、当該自己融着性樹脂組成物は、主成分のフェノキシ樹脂の熱可塑性に起因する良好な融着特性を損なうことなく、高温下で固着力を保持することができる。ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分をいい、通常50質量%以上の成分をいう。また、「弾性率」とは、JIS−K−0129(2005)に準拠して動的粘弾性測定装置を用いて測定される貯蔵弾性率を意味する。
上記フェノキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシに由来する構造とビスフェノールS型フェノキシに由来する構造とを有するとよい。このように上記フェノキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシに由来する構造とビスフェノールS型フェノキシに由来する構造とを有することで、熱融着時の流れ性と熱融着後の高温下での固着力を両立することができる。
当該自己融着性樹脂組成物は、1又は複数の硬化剤をさらに含有するとよい。このように、1又は複数の硬化剤をさらに含有することで、熱融着層の耐熱性を向上させることができる。
上記硬化剤として、多官能エポキシ化合物を含むとよい。このように、上記硬化剤として、多官能エポキシ化合物を含むことで、熱融着層の耐熱性をより向上させることができる。
上記フェノキシ樹脂に対する上記硬化剤の含有率としては、5質量%以上80質量%以下が好ましい。このように、上記フェノキシ樹脂に対する上記硬化剤の含有率を上記範囲内とすることで、熱融着層の熱融着時の流れ性を保持しつつ、耐熱性をより向上させることができる。
本発明の一態様に係る自己融着性絶縁電線は、線状の金属導体と、この金属導体の外周面側に積層され、最外層を構成する熱融着層とを備える自己融着性絶縁電線であって、上記熱融着層が、当該自己融着性樹脂組成物から構成される。
当該自己融着性絶縁電線においては、熱融着層が、当該自己融着性樹脂組成物から構成されるので、熱融着前の可とう性を備えつつ、熱融着後の高温下における自己融着性絶縁電線同士の高い固着力を有するので、電線同士の固着の信頼性が高い。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る自己融着性絶縁電線の実施形態について、図面を参照しつつ詳説する。
[第1実施形態]
<自己融着性絶縁電線>
図1の自己融着性絶縁電線1は、線状の金属導体2と、この金属導体2の外周面に積層される絶縁層3と、この絶縁層3の外周面に積層され、最外層を構成する熱融着層4とを備える。また、熱融着層4は、当該自己融着性樹脂組成物から構成される。
(金属導体)
金属導体2は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が正方形状の角線又は長方形状の平角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
金属導体2の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。金属導体2は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミ線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
金属導体2の平均断面積の下限としては、0.01mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、金属導体2の平均断面積の上限としては100mmが好ましく、50mmがより好ましい。金属導体2の平均断面積が上記下限に満たない場合、金属導体2に対する熱融着層4の体積が大きくなり、当該自己融着性絶縁電線1を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、金属導体2の平均断面積が上記上限を超える場合、従来の絶縁電線にワニスを含浸する方法でも比較的容易かつ安価にコイルを形成できるため、細い金属導体2を対象とする本発明に係る実施形態に適用しても、従来のワニスを含浸させた絶縁電線に対して有利性が得られないおそれがある。
(絶縁層)
絶縁層3は、絶縁性を有する樹脂組成物で形成される。絶縁層3を形成する樹脂組成物としては、特に限定されないが、例えばポリビニルホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂や、例えば熱可塑性ポリイミド、ポリフェニルサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン等の熱可塑性樹脂を主成分とするものが使用できる。絶縁層3は2種類以上の樹脂の複合体又は積層体であってもよく、また熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との複合体又は積層体であってもよい。
絶縁層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、絶縁層3の平均厚さの上限としては、250μmが好ましく、200μmがより好ましい。絶縁層3の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁層3に破れが生じ、金属導体2の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層3の平均厚さが上記上限を超える場合、当該自己融着性絶縁電線1を用いて形成されるコイル等の占積率が低くなり、モーター等の効率が低下するおそれがある。
(熱融着層)
熱融着層4は、後述する自己融着性樹脂組成物で構成される。熱融着層4の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。一方、熱融着層4の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、150μmがより好ましい。熱融着層4の平均厚さが上記下限に満たない場合、当該自己融着性絶縁電線間の固着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層4の平均厚さが上記上限を超える場合、当該自己融着性絶縁電線1を用いて形成されるコイル等の占積率が低くなり、モーター等の効率が低下するおそれがある。
当該自己融着性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とする。当該自己融着性樹脂組成物における上記フェノキシ樹脂の含有率の下限としては、50質量%が好ましく、55質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。一方、当該自己融着性樹脂組成物における上記フェノキシ樹脂の含有率の上限としては、98質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。当該自己融着性樹脂組成物における上記フェノキシ樹脂の含有率が上記下限未満である場合、当該自己融着性樹脂組成物が熱融着時に十分な流れ性を得られなくなるおそれがある。上記含有率が、上記上限を超えると当該自己融着性樹脂組成物の熱融着後の高温下での十分な固着力が得られないおそれがある。
当該自己融着性樹脂組成物の主成分として使用可能なフェノキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、変性フェノキシ樹脂、これらの共重合体等が挙げられる。フェノキシ樹脂としては、熱融着時の良好な流れ性を保持しつつ、熱融着後の高温下での高い固着力を有する熱融着層を得ることができる観点から、これらの中でもビスフェノールA型エポキシに由来する構造とビスフェノールS型フェノキシに由来する構造とを有するものが好ましい。
フェノキシ樹脂は、ビスフェノールとエピハロヒドリンとから製造される。ビスフェノールとしては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキサイドヒドロキノンなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独又は2種以上混合して用いることができる。エピハロヒドリンの好適な代表例としては、エピクロロヒドリンが挙げられる。ビスフェノールA型フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂であり、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとから製造される。ビスフェノールS型フェノキシ樹脂は、ビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂であり、ビスフェノールSとエピハロヒドリンとから製造される。ビスフェノールF型フェノキシ樹脂は、ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂であり、ビスフェノールFとエピハロヒドリンとから製造される。フェノキシ樹脂の末端はフェノール性水酸基、エポキシ基等のいずれの官能基でもよい。これらのフェノキシ樹脂は、いずれも商業的に入手しうる化合物である。
当該自己融着性樹脂組成物は1又は複数の硬化剤を含有するとよく、このような硬化剤としては、加熱により硬化する硬化剤が用いられる。硬化剤としては、例えばエポキシ化合物、シアネート樹脂、エステルイミド樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、不飽和エステル樹脂、尿素樹脂、イミド樹脂等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上を組み合わせて使用できる。硬化剤としては、当該自己融着性樹脂組成物の弾性率の向上の観点からこれらの中でも多官能エポキシ化合物が好ましい。ここで、多官能エポキシ化合物とは、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物であって、低分子量の化合物から高分子量の樹脂までを含む。多官能エポキシ化合物としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、トリアジン環型エポキシ樹脂、その他、1つの分子内に3つまたは4つのエポキシ基を有するエポキシ化合物等が挙げられる。
上記硬化剤の熱硬化開始温度の下限としては、160℃が好ましく、170℃がより好ましい。一方、上記硬化剤の熱硬化開始温度の上限としては、190℃が好ましく、180℃がより好ましい。上記熱硬化開始温度が上記下限に満たない場合、当該自己融着性樹脂組成物が熱融着時に十分な流れ性を得られなくなるおそれがある。また、上記熱硬化開始温度が上記上限を超える場合、高い耐熱性が得られず、熱融着層4の融着後の高温下での固着力が十分でないおそれがある。ここで、熱硬化開始温度とは、発熱反応である架橋反応により重合が開始される温度であり、温度示差走査熱量測定(DSC)において発熱ピークが立ち上がる温度をいう。
上記フェノキシ樹脂に対する上記硬化剤の含有率の下限としては5質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましく、20質量%が特に好ましい。一方、上記フェノキシ樹脂に対する上記硬化剤の含有率の上限としては80質量%が好ましく、60質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましく、40質量%が特に好ましい。上記フェノキシ樹脂に対する上記硬化剤の含有率が上記下限に満たない場合、当該自己融着性樹脂組成物の耐熱性が低くなるおそれがある。また、上記含有率が上記上限を超える場合、当該自己融着性樹脂組成物の熱融着前における可とう性の低下を抑制できないおそれがある。
当該自己融着性樹脂組成物には、硬化促進剤、発泡剤、発泡助剤等、その他の成分を配合してもよい。
当該自己融着性樹脂組成物の硬化処理後の200℃における弾性率の下限としては1MPaであり、5MPaがより好ましい。一方、当該自己融着性樹脂組成物の硬化処理後の200℃における弾性率の上限としては、200MPaであり、190MPaがより好ましい。硬化処理後の200℃における弾性率が上記下限に満たない場合、高い耐熱性が得られず、熱融着層4の熱融着後の高温下での固着力が十分でないおそれがある。また、上記弾性率が上記上限を超える場合、当該自己融着性樹脂組成物の熱融着前の可とう性の低下を抑制できないおそれがある。従って、当該自己融着性樹脂組成物の硬化処理後の200℃における弾性率が上記範囲であることで、当該自己融着性樹脂組成物は、熱融着前の可とう性を備えつつ、熱融着後においては、高い耐熱性を有し、高温下における固着力に優れる熱融着層4を得ることができる。
[自己融着性絶縁電線の製造方法]
当該自己融着性絶縁電線1は、絶縁層3の主成分が熱硬化性樹脂である場合、金属導体2の外周面に溶媒で希釈した絶縁層形成用樹脂組成物を塗布する工程と、加熱により溶媒を揮発させて、塗布した絶縁層形成用樹脂組成物を硬化する工程と、上記絶縁層形成用樹脂組成物の硬化することにより得られた絶縁層3の外周面に、溶媒で希釈した自己融着性樹脂組成物を塗布する工程と、加熱により溶媒を揮発させて自己融着性樹脂組成物から構成される熱融着層4を最外層に形成する工程とを備える方法により製造できる。
<絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程>
絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程では、金属導体2の外周面に絶縁層形成用樹脂組成物を塗布する。絶縁層形成用樹脂組成物を金属導体2の外周面に塗布する方法としては例えば液状の絶縁層形成用樹脂組成物を貯留した液状組成物槽と塗布ダイスとを備える塗布装置を用いた方法を挙げることができる。この塗布装置によれば、導体が液状組成物槽内を挿通することで液状組成物が導体外周面に付着し、その後塗布ダイスを通過することで、この液状組成物が略均一な厚さに塗布される。また、絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程においては、押出しなど公知の手法により熱可塑性樹脂を塗布してもよい。さらに、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との積層構造となるように塗布してもよい。
<絶縁層形成用樹脂組成物硬化工程>
絶縁層形成用樹脂組成物硬化工程では、加熱することによって溶媒に希釈した絶縁層形成用樹脂組成物の溶媒を揮発させるとともに樹脂組成物を硬化させて、絶縁層3を形成する。この加熱に用いる装置としては、特に限定されないが、例えば導体の走行方向に長い筒状の焼付炉を用いることができる。加熱方法は特に限定されないが、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法により行うことができる。また、加熱温度としては、例えば300℃以上600℃以下とされる。
上記絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程と絶縁層形成用樹脂組成物硬化工程とは、複数回繰り返して行ってもよい。このようにすることで、絶縁層3の厚さを順次増加させていくことができる。このとき、塗布ダイスの孔径と繰り返し回数とは、導体径及び絶縁層3の狙い塗布膜厚にあわせて適宜調整される。
<自己融着性樹脂組成物塗布工程>
自己融着性樹脂組成物塗布工程では、溶媒で希釈した自己融着性樹脂組成物を上記絶縁層3の外周面に塗布する。塗布方法としては上記絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程と同様の方法を用いることができる。
<自己融着性樹脂組成物乾燥工程>
自己融着性樹脂組成物乾燥工程では、加熱することによって溶媒を揮発させて自己融着性樹脂組成物から構成される熱融着層4を最外層に形成する。この加熱に用いる装置としては、特に限定されないが、絶縁層形成用樹脂組成物硬化工程と同様のものを用いることができる。加熱方法は特に限定されないが、絶縁層形成用樹脂組成物硬化工程と同様に従来公知の方法により行うことができる。また、加熱温度としては、例えば200℃以上400℃以下とされる。なお、この際の加熱温度とは、加熱工程の環境温度であり、自己融着性樹脂組成物自体の温度ではない。
[自己融着性絶縁電線の使用方法]
当該自己融着性絶縁電線は、例えば当該自己融着性絶縁電線を捲線加工して、当該自己融着性絶縁電線の熱融着層同士を固着させるコイル用電線としての用途、平行に配置された複数の当該自己融着性絶縁電線の熱融着層同士を固着させた状態とするような用途、当該自己融着性絶縁電線とモーターのコア部分との融着及び固定等に用いることができる。
<利点>
当該自己融着性樹脂組成物は、熱融着前の可とう性を備えつつ、熱融着後においては高い耐熱性を有し、高温下における固着力に優れる熱融着層を得ることができる。従って、上記熱融着層が当該自己融着性樹脂組成物から構成される自己融着性絶縁電線は、熱融着後の高温下における自己融着性絶縁電線同士の高い固着力を有するので、電線同士の固着の信頼性が高い。また、当該自己融着性絶縁電線は、モーターのコア部分との融着及び固定等に用いることができる。従って、自動車用モーター、発電機等、耐熱性が要求される用途に使用することができる。
[第2実施形態]
<自己融着性絶縁電線>
本発明の第2実施形態に係る自己融着性絶縁電線は、化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルを含有する当該自己融着性樹脂組成物から形成される熱融着層を備える。すなわち第2実施形態に係る自己融着性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とする第1実施形態に係る自己融着性樹脂組成物に、さらに発泡剤として、化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルを含有させたものである。
図2の当該自己融着性絶縁電線10は、線状の金属導体2とこの金属導体2の外周面に積層される絶縁層3と、この絶縁層3の外周面に積層され、最外層を構成する熱融着層14とを備える。熱融着層14は、当該自己融着性樹脂組成物から構成される。また、熱融着層14が、マトリックス15と、このマトリックス15中に分散される化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセル(以下、発泡剤16ともいう。)とを有する。なお、金属導体2及び絶縁層3は、第1実施形態と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
(熱融着層)
この熱融着層14は、後述する自己融着性樹脂組成物で構成される。熱融着層14は、加熱により発泡剤16が膨張することによって全体的に膨張する。
熱融着層14の加熱前の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、熱融着層14の加熱前の平均厚さの上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。熱融着層14の加熱前の平均厚さが上記下限に満たない場合、当該自己融着性絶縁電線10同士の固着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層14の加熱前の平均厚さが上記上限を超える場合、当該自己融着性絶縁電線10を用いて形成されるコイル等の占積率が低くなり、モーター等の効率が低下するおそれがある。
熱融着層14の加熱後の平均厚さ膨張率の下限としては、1.1倍が好ましく、2倍がより好ましい。一方、熱融着層14の加熱後の平均厚さ膨張率の上限としては、5倍が好ましく、4倍がより好ましい。熱融着層14の加熱後の平均厚さ膨張率が上記下限に満たない場合、当該自己融着性絶縁電線10を捲線加工したときに、隣接し合う熱融着層14同士の融着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層14の加熱後の平均厚さ膨張率が上記上限を超える場合、熱融着層14の密度が不十分となることにより却って当該自己融着性絶縁電線10の強度が不十分となるおそれがある。熱融着層14の膨張率は発泡剤16の種類及び量、並びに発泡剤16の発泡開始温度での自己融着性樹脂組成物の弾性率を選択することにより制御できる。ここで、「平均厚さ膨張率」とは、加熱による膨張後の層の平均厚さの加熱前の層の平均厚さに対する比を意味する。
加熱による発泡剤16の発泡によって熱融着層14に形成される空孔の平均径の下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、上記熱融着層14に形成される空孔の平均径の上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。上記熱融着層14に形成される空孔の平均径が上記下限に満たない場合、十分な膨張率が得られないおそれがある。逆に、上記熱融着層14に形成される空孔の平均径が上記上限を超える場合、熱融着層14が不必要に厚くなるおそれや、熱融着層14の膨張が不均一になるおそれがある。
熱融着層14の加熱後の空隙率の下限としては、10%が好ましく、50%がより好ましい。一方、熱融着層14の加熱後の空隙率の上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましい。熱融着層14の加熱後の空隙率が上記下限に満たない場合、隣接する熱融着層14間の当接圧力が不足して融着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層14の加熱後の空隙率が上記上限を超える場合、膨張した後の熱融着層14の強度が不十分となるおそれがある。また、層の「空隙率」とは、層のみかけの体積に対する膨張層内の空隙(気体)の容積の百分率であり、熱融着層14のマトリックス15及び熱膨張性マイクロカプセルの外殻の含有質量と密度とから算出される実体積をV0、熱融着層14の空隙を含む体積をV1とするとき、(V1−V0)/V1×100で算出される量である。
(発泡剤)
発泡剤16としては化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルを用いることができる。
発泡剤16の熱融着層14における含有率の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、発泡剤16の熱融着層14における含有率の上限としては、15質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。発泡剤16の熱融着層14における含有率が上記下限に満たない場合、熱融着層14の膨張率が小さく、当該自己融着性絶縁電線10同士の固着が不十分となるおそれがある。逆に、発泡剤16の熱融着層14における含有率が上記上限を超える場合、相対的に自己融着性樹脂組成物が少なくなることにより、熱融着層14の強度及び融着性が不十分となるおそれがある。
〈化学発泡剤〉
発泡剤16として用いられる化学発泡剤は、加熱することにより分解して、例えば窒素ガス、炭酸ガス、一酸化炭素、アンモニアガス等を発生するものであり、有機発泡剤又は無機発泡剤が使用できる。
有機発泡剤としては、例えばアゾジカルボンアミド(A.D.C.A)、アゾビスイソブチロニトリル(A.I.B.N)等のアゾ系発泡剤、例えばジニトロソペンタメチレンテトラミン(D.P.T)、N,N’ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミド(D.N.D.M.T.A)等のニトロソ系発泡剤、例えば、P−トルエンスルホニルヒドラジド(T.S.H)、P,P−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(O.B.S.H)、ベンゼンスルホニルヒドラジド(B.S.H)等のヒドラジド系、他にはトリヒドラジノトリアジン(T.H.T)、アセトン−P−スルホニルヒドラゾンなどが例示され、これらを単独で、又は二種類以上合わせて使用できる。
また、無機発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、ホウ化水素ナトリウム、ソジウムボロンハイドライド、シリコンオキシハイドライド等が例示される。一般的に無機発泡剤は、ガス発生速度が有機発泡剤より緩慢でありガス発生の調整が難しい。そのため、化学発泡剤としては、有機発泡剤が好ましい。
化学発泡剤の分解温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、化学発泡剤の分解温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。化学発泡剤の分解温度が上記下限に満たない場合、当該自己融着性絶縁電線10の製造時、輸送時又は保管時に化学発泡剤が意図せず発泡してしまうおそれがある。逆に、化学発泡剤の分解温度が上記上限を超える場合、膨張工程でコイル以外のモーター部品に過剰な熱負荷がかかるために悪影響が出たり、発泡剤16を発泡させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
熱融着層14には化学発泡剤と共に発泡助剤を配合してもよい。発泡助剤としては、化学発泡剤の熱分解を促進するものであれば特に限定されず、例えば加硫促進剤、充填剤、加硫促進助剤、PVC用安定剤、老化防止剤、加硫剤、尿素化合物等が挙げられる。このような発泡助剤は、化学発泡剤の分解を促進し、発泡温度を低下させる。
加硫促進剤としては、例えば、グアジニン系、アルデヒド−アンモニア系、スルフェンアミド系、チウラム系、ザンテート系、アルデヒド−アミン系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系のもの等が挙げられる。充填剤としては、例えばシリカ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、タルク、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華、活性亜鉛華、炭酸亜鉛、酸化マグネシウム、一酸化鉛、塩基性炭酸鉛、水酸化カルシウム、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ジエチレングルコール、ジ−n−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジエタノールアミン、有機アミン等が挙げられる。PVC用安定剤としては、例えば三塩基性硫酸鉛、ジブチルすずジラウレート、ジブチルすずジマレート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。老化防止剤としては、例えばナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、P−フェニレン系、キノリン系、モノフェノール系、ポリフェノール系、チオビスフェノール系、亜りん酸エステル系のもの等が挙げられる。加硫剤としては、例えばタイク、硫黄安息香酸アンモニウム等が挙げられる。その他薬品としては無水フタル酸、サリチル酸、安息香酸、三酸化アンチモン、白色ワセリン、酸化チタン、酸化カドミウム、ホウ砂、グリセリン、ジブチルチンジマレート等が挙げられる。発泡助剤としては、これらの中でも、亜鉛華、三塩基性硫酸鉛、及び各種加硫促進剤が好ましい。
これらの発泡助剤の化学発泡剤100質量部に対する配合量の下限としては、5質量部が好ましく、50質量部がより好ましい。一方、上記発泡助剤の配合量の上限としては、200質量部が好ましく、150質量部がより好ましい。上記発泡助剤の配合量が上記下限に満たない場合、化学発泡剤を分解させる効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記発泡助剤の配合量が上記上限を超える場合、当該自己融着性絶縁電線10の製造時や保管時等に熱融着層14が意図せず膨張してしまうおそれがある。
〈熱膨張性マイクロカプセル〉
発泡剤16として用いられる熱膨張性マイクロカプセルは、内部発泡剤からなる芯材(内包物)と、この芯材を包む外殻とを有し、芯材の膨張によって外殻が膨張する。
熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤としては、例えば低沸点液体、化学発泡剤及びこれらの混合物を使用することができる。
上記低沸点液体としては、例えばブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが好適に用いられる。
上記化学発泡剤としては、加熱によりNガスを発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤の膨張開始温度、つまり低沸点液体の沸点又は化学発泡剤の熱分解温度としては、後述する熱膨張性マイクロカプセルの外殻の軟化温度以上とされる。
より詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤の発泡開始温度の下限としては60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤の発泡開始温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤の発泡開始温度が上記下限に満たない場合、当該自己融着性絶縁電線製造時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤の発泡開始温度が上記上限を超える場合、膨張工程でコイル以外のモーター部品に過剰な熱負荷がかかるために悪影響が出たり、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
一方、熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、上記内部発泡剤の発泡時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質から形成される。この熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成する材質としては、通常は、熱可塑性樹脂等の高分子を主成分とする樹脂組成物が用いられる。
熱膨張性マイクロカプセルの外殻の主成分とされる熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体が好適に用いられる。好ましい熱可塑性樹脂の一例としては、アクリロニトリル系共重合体が挙げられ、この場合の内部発泡剤の分解温度は、70℃以上250℃以下とされる。
加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径の下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径の上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記下限に満たない場合、十分な膨張率が得られないおそれがある。逆に、加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記上限を超える場合、熱融着層14が不必要に厚くなるおそれや、熱融着層14の膨張が不均一になるおそれがある。なお、熱膨張性マイクロカプセルの「平均径」とは、熱膨張性マイクロカプセルの10以上のサンプルを顕微鏡観察した際の平面視における最大径とこの最大径に直交する方向の径との平均値をいうものとする。
熱膨張性マイクロカプセルの平均径の熱融着層14の平均厚さに対する比の下限としては、1/16が好ましく、1/8がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの平均径の熱融着層14の平均厚さに対する比の下限としては、9/10が好ましく、8/10がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記下限に満たない場合、外殻の厚さが不足して膨張時に破れるおそれや、内容積が小さくなり発泡剤16が不足して十分に膨張できないおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルがマトリックス15から突出して熱融着層14を十分に膨張させられないおそれや、熱融着層14が部分的に膨張して均一に膨張できないおそれがある。
熱膨張性マイクロカプセルの膨張率の下限としては、3倍が好ましく、5倍がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率の上限としては、20倍が好ましく、10倍がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が上記下限に満たない場合、熱融着層14の膨張率が不十分となるおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が上記上限を超える場合、熱融着層14のマトリックス15が熱膨張性マイクロカプセルに追従することができず、熱融着層14を全体的に膨張させられないおそれがある。なお、熱膨張性マイクロカプセルの「膨張率」とは、熱膨張性マイクロカプセルの加熱前の平均径に対する加熱時の平均径の最大値の比をいう。
[第2実施形態の自己融着性絶縁電線の製造方法]
当該自己融着性絶縁電線10の製造方法としては、例えば第1実施形態の当該自己融着性絶縁電線1の製造方法の自己融着性樹脂組成物塗布工程において、発泡剤16を含有する自己融着性樹脂組成物を溶媒で希釈して塗布する方法等が挙げられる。
<利点>
当該自己融着性樹脂組成物が化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルを含有することによって、上記第1実施形態に係る自己融着性樹脂組成物の効果と併せて、発泡剤16の膨張に伴って熱融着層14を膨張させることができる。当該自己融着性絶縁電線10においては、熱融着層14が、マトリックス15中に発泡剤16を分散して形成されていることによって、発泡剤16の膨張に伴って熱融着層14が確実かつ比較的均一に膨張することができる。その結果、熱融着層14同士をより強く圧着し、電線間及び電線−コア間の固着をより確実にできる。
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば当該自己融着性絶縁電線において、絶縁層と熱融着層との間に加熱により膨張する膨張層が設けられてもよい。
上記膨張層は、例えばフェノキシ樹脂、ブチラール樹脂等の熱可塑性樹脂を主成分とする膨張層用樹脂組成物と、この膨張層用樹脂組成物中に分散する化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルとを有する。このように、膨張層が膨張層用樹脂組成物中に化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルを分散したものであることによって、膨張率を大きくすることができる。その結果、熱融着層同士をより強く圧着し、電線間及び電線−コア間の固着をより確実にできる。また、膨張層を熱融着層で覆っているため、膨張層の発泡剤等の落脱を防止して発塵を抑制できる。
また、例えば当該自己融着性絶縁電線において、金属導体と絶縁層との間や絶縁層と熱融着層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。
(プライマー処理層)
プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
金属導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって金属導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することによって、金属導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該自己融着性絶縁電線の熱融着前の可とう性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たない場合、金属導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超える場合、当該自己融着性絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
また、絶縁層と熱融着層との間にプライマー処理層を設ける場合も、公知技術に基づいて絶縁層及び熱融着層に対して高い接着性を有する樹脂組成物が選択される。
また、当該自己融着性絶縁電線の製造方法は、上述の方法に限られない。例えば絶縁層の主成分を熱可塑性樹脂とする場合には、上記熱融着層の積層方法と同様に溶剤で希釈して乾燥する方法や、溶融した樹脂組成物を塗布ダイスで塗布して冷却硬化させる方法等が適用できる。また、絶縁層や熱融着層を例えば吹付塗装等のさらに他の方法により積層してもよい。
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
<自己融着性絶縁電線No.1〜No.14>
直径1.0mmの銅線に、平均厚さ40μmの絶縁層及び平均厚さ12.5μmの熱融着層をこの順に積層することによって、自己融着性絶縁電線No.1〜No.14を試作した。絶縁層及び熱融着層は、それぞれ下記に記載する組成の樹脂組成物を塗布ダイスにより塗布し、炉長3mの横炉を用いて絶縁層と融着層とを形成した。
[絶縁層形成用樹脂組成物]
絶縁層形成用樹脂としては、ポリエステルイミドを使用した。
[自己融着性樹脂組成物の調製]
自己融着性絶縁電線No.1〜No.14について、表1に示すように、フェノキシ樹脂及び硬化剤を材料として自己融着性樹脂組成物の調製を行った。
(フェノキシ樹脂)
自己融着性絶縁電線No.1〜No.14のフェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールS型フェノキシとの共重合体(新日鉄住金化学株式会社の「YPS007−A30」)を用いた。
(硬化剤)
硬化剤としては、表1に示すように自己融着性絶縁電線No.1〜No.14について以下の硬化剤(多官能エポキシ化合物、シアネート樹脂、エステルイミド樹脂)を使用した。
多官能エポキシ化合物としては、新日鉄住金化学株式会社の「YDCN−704」(α―クレゾールノボラック型多官能エポキシ)、小西化学工業株式会社の「TG3DAS」(ジフェニルスルホン型4官能エポキシ)、三菱化学株式会社の「jER1031S」(4官能エポキシ)、日産化学株式会社の「TEPIC L」(3官能トリアジン環含有エポキシ)、日産化学株式会社の「TEPIC−PAS」(3官能トリアジン環含有変性エポキシ)及びDIC株式会社の「HP−4710」(4官能エポキシ)のいずれかを用いた。
シアネート樹脂としては、三菱ガス化学株式会社の「CYTESTER TA」又はロンザ株式会社の「Primaset BA200」を用いた。
エステルイミド樹脂としては大日精化工業株式会社の「EH402」を用いた。なお、エステルイミド樹脂の含有量は樹脂分のみに換算した。
<評価>
以上のようにして得られた自己融着性絶縁電線No.1〜No.14について、熱融着前の可とう性と、熱融着後の熱融着層の200℃における弾性率並びに固着力とを評価した。
(200℃における弾性率)
自己融着性絶縁電線No.1〜No.14の硬化後の熱融着層について、200℃での貯蔵弾性率を測定して耐熱性を評価した。貯蔵弾性率は、「JIS−K−0129(2005)に準拠して動的粘弾性測定(DMA)の引張モードにより測定した。
(固着力)
固着力は、以下のように評価した。始めに同じ長さ(50cm)の自己融着性絶縁電線を8本用意する。上記8本の中の2本を第1自己融着性絶縁電線とし、残りの6本を第2自己融着性絶縁電線とする。次に、2本の第1自己融着性絶縁電線の端面同士を対向するように接触させて直線状に配置する。次に、2本の第1自己融着性絶縁電線を中央にし、これらの第1自己融着性絶縁電線の接触部分を、第2自己融着性絶縁電線の端部から25cmの中心部で取り囲むように6本の第2自己融着性絶縁電線を揃えて配置し、ピアノ線で外れないように固定する。次に、210℃で20分間硬化処理を行い、第1自己融着性絶縁電線及び第2自己融着性絶縁電線の熱融着層を融着して自己融着性絶縁電線同士を固着したものを試料とする。そして、6本の第2自己融着性絶縁電線から突出した2本の第1自己融着性絶縁電線の両端部を汎用の引張試験機を用いて引張り、上記試料の中央部の第1自己融着性絶縁電線の熱融着層とこれらを取り囲む第2自己融着性絶縁電線の熱融着層とが破断して中央部の2本の第1自己融着性絶縁電線の同士が外れた時の引張りせん断力を測定し、これを自己融着性絶縁電線間の固着力の指標とした。
(熱融着前の自己融着性絶縁電線の可とう性)
線径1mmの自己融着性絶縁電線を3倍径の3mmの鉄心の周り30回巻き付け、皮膜割れ(熱融着層に顕在する割れ)の発生の有無を目視により確認し、皮膜割れが発見されなかったものを「A」、皮膜割れが発見されたものを「B」とした。
上記評価結果を表1に示す。なお、No.13の貯蔵弾性率における「<1.0 測定不可」は、貯蔵弾性率が1.0MPa未満のため、測定できなかったことを示す。
Figure 2017128667
表1に示すように、硬化処理後の200℃における弾性率が、1MPa以上200MPa以下である自己融着性樹脂絶縁電線No.1〜No.12は、熱融着前の可とう性がAであると共に熱融着後における200℃での固着力において良好な結果が得られた。つまり、上記弾性率が1MPa以上200MPa以下である自己融着性樹脂絶縁電線No.1〜No.12においては、熱融着前においではビスフェノールA型エポキシに由来する構造とビスフェノールS型フェノキシに由来する構造とを有する主成分のフェノキシ樹脂の特性に基づく可とう性が損なわれず、熱融着後においては200℃での固着力に優れることがわかる。
また、25℃における固着力と200℃における固着力との差を比較すると、硬化剤として多官能エポキシ化合物を配合した自己融着性樹脂絶縁電線No.1〜No.8は、硬化剤としてシアネート樹脂又はエステルイミド樹脂を配合した自己融着性樹脂絶縁電線No.9〜No.11よりも200℃における固着力が優れていた。従って、硬化剤としては、多官能エポキシ化合物の方が200℃における固着力を向上させる点でシアネート樹脂又はエステルイミド樹脂よりもより優れることがわかる。特に、硬化剤として多官能エポキシ化合物を配合した自己融着性樹脂絶縁電線No.1〜No.8の中でも、α―クレゾールノボラック型4官能エポキシをフェノキシ樹脂に対して60質量%含有するNo.2、ジフェニルスルホン型4官能エポキシをフェノキシ樹脂に対して30質量%含有するNo.4及び3官能トリアジン環含有エポキシをフェノキシ樹脂に対して30質量%含有するNo.6においては、高い固着力が得られた。
一方、自己融着性樹脂絶縁電線No.1〜No.12と自己融着性樹脂絶縁電線No.13〜No.14とを比較すると、上記弾性率が1MPa未満の自己融着性樹脂絶縁電線No.13は、熱融着後における200℃における固着力が14.7Nと低いものであった。また、上記弾性率が221MPaの自己融着性樹脂絶縁電線No.14は、200℃における固着力は107.9Nと高いが、熱融着前の可とう性の低下に対する抑制が不十分であると考えられ、熱融着前の可とう性がBであった。すなわち、本願発明の実施例である自己融着性樹脂絶縁電線No.1〜No.12は、熱融着前においては可とう性を備えつつ、熱融着後においては、高温下における固着力に優れる自己融着性絶縁電線の形成に十分な特性を備えることが判明した。
本発明に係る自己融着性絶縁電線は、コイルやモーター等を形成するために好適に利用することができる。
1、10 自己融着性絶縁電線
2 金属導体
3 絶縁層
4、14 熱融着層
15 マトリックス
16 発泡剤

Claims (6)

  1. フェノキシ樹脂を主成分とする自己融着性樹脂組成物であって、
    硬化処理後の200℃における弾性率が1MPa以上200MPa以下である自己融着性樹脂組成物。
  2. 上記フェノキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシに由来する構造とビスフェノールS型フェノキシに由来する構造とを有する請求項1に記載の自己融着性樹脂組成物。
  3. 1又は複数の硬化剤をさらに含有する請求項1又は請求項2に記載の自己融着性樹脂組成物。
  4. 上記硬化剤として、多官能エポキシ化合物を含む請求項3に記載の自己融着性樹脂組成物。
  5. 上記フェノキシ樹脂に対する上記硬化剤の含有率が5質量%以上80質量%以下である請求項3又は請求項4に記載の自己融着性樹脂組成物。
  6. 線状の金属導体と、この金属導体の外周面側に積層され、最外層を構成する熱融着層とを備える自己融着性絶縁電線であって、
    上記熱融着層が、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の自己融着性樹脂組成物から構成される自己融着性絶縁電線。
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