JP2017125246A - 高強度鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】硬さ650Hv以上の耐水素脆性に優れた高強度鋼を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明は、質量%で、C:0.9〜1.1%、Si:0.15〜0.75%、Mn:0.1〜1.7%、Cr:0.9〜2.0%、P:0%超、0.025%以下、S:0%超、0.025%以下、Al:0%超、0.055%以下、Ti:0%超、0.015%以下、N:0%超、0.025%以下、O:0%超、0.0025%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、組織中の残留オーステナイトの割合が12.0〜15.0体積%であり、残留オーステナイト中の固溶C量が0.55〜0.70質量%であり、硬さが650〜770Hvである高強度鋼である。
【選択図】なし
【解決手段】本発明は、質量%で、C:0.9〜1.1%、Si:0.15〜0.75%、Mn:0.1〜1.7%、Cr:0.9〜2.0%、P:0%超、0.025%以下、S:0%超、0.025%以下、Al:0%超、0.055%以下、Ti:0%超、0.015%以下、N:0%超、0.025%以下、O:0%超、0.0025%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、組織中の残留オーステナイトの割合が12.0〜15.0体積%であり、残留オーステナイト中の固溶C量が0.55〜0.70質量%であり、硬さが650〜770Hvである高強度鋼である。
【選択図】なし
Description
本発明は高強度鋼に関し、より詳細には耐水素脆化特性に優れた高強度鋼に関する。
輸送機器等に用いられる鋼材は、軽量化や小型化の観点から高強度化が求められている。しかし、鋼材が高強度化すると水素脆化しやすくなり、特に400Hvを超えると顕著に水素脆化することが知られており、高強度鋼の実現には耐水素脆化特性を向上させることが必要である。
例えば特許文献1には、Cu、Cr、Mo、Nb、Ni、V等の合金元素を添加することにより耐遅れ破壊性を向上させた機械構造用鋼が開示されている。また、特許文献2では、ベイナイト組織の面積率を80%以上とし、線材を強伸線することによって1200N/mm2以上の強度と耐遅れ破壊性を有する高強度鋼線が開示されており、具体的に開示された実施例では1652MPaまでの高強度化が達成されている。
特許文献3では、金属組織が面積率90%以上のパーライトからなり、ボルト軸部の表層と中心のビッカース硬さの差を低減した、引張強さが1200MPa以上の耐水素脆化特性に優れた高強度亜鉛めっきボルトが開示されており、実施例では1792MPaまでの高強度化が達成されている。特許文献4では、Fe系炭化物εが微細分散した焼戻しマルテンサイト組織である耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼が開示されており、具体的には2270MPaまでの高強度化が達成されている。
特許文献5では、90%以上の伸線加工パーライトと10%以下のフェライト、ベイナイト組織からなり、PC鋼線の線径をDとしたときに、PC鋼線の表面から0.1Dの領域(表層部)の表層Hv硬さ(Hv表)と表層部より内側の領域(内部)の内部Hv硬さ(Hv内)の比(Hv表/Hv内)が1.1以下である引張強さ2000MPa以上の耐遅れ破壊特性に優れたPC鋼線が開示されている。特許文献6では、母相組織が軟質ラスマルテンサイト組織と硬質ラスマルテンサイト組織からなり、Ms点直上の温度まで急冷後、等温変態処理を施すことにより得られるTRIP型2相マルテンサイト鋼が開示され、1590MPaまでの高強度化が達成されている。
上記した特許文献1〜5はいずれも、耐水素脆化特性を向上する技術であるが、特許文献1は合金元素を多量に添加しており、近年の省資源動向にそぐわない。また、特許文献2〜4及び6は組織を制御することによって耐水素脆化特性を高めており、低合金であるが、達成できた強度は最大でも2270MPaまでである。更に特許文献5は、伸線加工組織であるため、その適用範囲が限られている。
そこで、本発明は、引張強さで2300MPa以上、すなわち硬さで650Hv以上の耐水素脆性に優れた高強度鋼を実現することを目的とする。
上記課題を達成した本発明の高強度鋼は、
質量%で、
C :0.9〜1.1%、
Si:0.15〜0.75%、
Mn:0.1〜1.7%、
Cr:0.9〜2.0%、
P :0%超、0.025%以下、
S :0%超、0.025%以下、
Al:0%超、0.055%以下、
Ti:0%超、0.015%以下、
N :0%超、0.025%以下、
O :0%超、0.0025%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
組織中の残留オーステナイトの割合が12.0〜15.0体積%であり、
残留オーステナイト中の固溶C量が0.55〜0.70質量%であり、
硬さが650〜770Hvである。
質量%で、
C :0.9〜1.1%、
Si:0.15〜0.75%、
Mn:0.1〜1.7%、
Cr:0.9〜2.0%、
P :0%超、0.025%以下、
S :0%超、0.025%以下、
Al:0%超、0.055%以下、
Ti:0%超、0.015%以下、
N :0%超、0.025%以下、
O :0%超、0.0025%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
組織中の残留オーステナイトの割合が12.0〜15.0体積%であり、
残留オーステナイト中の固溶C量が0.55〜0.70質量%であり、
硬さが650〜770Hvである。
本発明によれば、各種成分を適切に調整すると共に、組織中の残留オーステナイトの割合を調整し、炭化物の析出を抑制して残留オーステナイト中の固溶C量を適切に調整しているため、耐水素脆化特性に優れた、硬さ650Hv以上の高強度鋼を実現できる。
本発明の高強度鋼の化学組成を以下に説明する。本明細書において、化学組成は全て質量%を意味する。
C:0.9〜1.1%
Cは、鋼材の強度を確保すると共に、残留オーステナイトの安定化に寄与するため、本発明において重要な元素である。このような効果を発揮するため、C量を0.9%以上と定めた。C量は、好ましくは0.95%以上である。しかし、C量が多くなりすぎると、鋼材の靭性が低下し、耐水素脆化特性が劣化するため、C量を1.1%以下と定めた。C量は、好ましくは1.05%以下である。
Cは、鋼材の強度を確保すると共に、残留オーステナイトの安定化に寄与するため、本発明において重要な元素である。このような効果を発揮するため、C量を0.9%以上と定めた。C量は、好ましくは0.95%以上である。しかし、C量が多くなりすぎると、鋼材の靭性が低下し、耐水素脆化特性が劣化するため、C量を1.1%以下と定めた。C量は、好ましくは1.05%以下である。
Si:0.15〜0.75%
Siは、マトリックスの固溶強化及び焼入れ性を向上させるために有用な元素である。また、炭化物析出を抑制し残留オーステナイトを安定化させる作用を有する。このような作用を発揮させるためには、Siを0.15%以上含有させる必要がある。Si量は、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.25%以上である。一方、Si量が多くなりすぎると、残留オーステナイト量が過剰になり、強度及び耐水素脆化特性が共に低下するため、Si量は0.75%以下と定めた。Si量は、好ましくは0.70%以下であり、より好ましくは0.65%以下である。
Siは、マトリックスの固溶強化及び焼入れ性を向上させるために有用な元素である。また、炭化物析出を抑制し残留オーステナイトを安定化させる作用を有する。このような作用を発揮させるためには、Siを0.15%以上含有させる必要がある。Si量は、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.25%以上である。一方、Si量が多くなりすぎると、残留オーステナイト量が過剰になり、強度及び耐水素脆化特性が共に低下するため、Si量は0.75%以下と定めた。Si量は、好ましくは0.70%以下であり、より好ましくは0.65%以下である。
Mn:0.1〜1.7%
Mnは、焼入れ性を向上させるために有用な元素である。また、有害元素であるSをMnSとして固定し、害を軽減できる元素である。更にMnは、オーステナイト安定化元素であり、残留オーステナイトを制御する本発明では特に重要である。これらの効果を得るためには、Mnは少なくとも0.1%以上必要である。Mn量は、好ましくは0.15%以上であり、より好ましくは0.20%以上である。しかし、Mn量が多くなりすぎると、残留オーステナイトが過剰になり、強度及び耐水素脆化特性が低下する。従って、Mn量を1.7%以下と定めた。Mn量は、好ましくは1.50%以下であり、より好ましくは1.00%以下である。
Mnは、焼入れ性を向上させるために有用な元素である。また、有害元素であるSをMnSとして固定し、害を軽減できる元素である。更にMnは、オーステナイト安定化元素であり、残留オーステナイトを制御する本発明では特に重要である。これらの効果を得るためには、Mnは少なくとも0.1%以上必要である。Mn量は、好ましくは0.15%以上であり、より好ましくは0.20%以上である。しかし、Mn量が多くなりすぎると、残留オーステナイトが過剰になり、強度及び耐水素脆化特性が低下する。従って、Mn量を1.7%以下と定めた。Mn量は、好ましくは1.50%以下であり、より好ましくは1.00%以下である。
Cr:0.9〜2.0%
固溶Crは残留オーステナイト量の増加に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Crを0.9%以上含有させる必要がある。Cr量は、好ましくは0.95%以上であり、より好ましくは1.00%以上である。一方、Crは炭化物を安定化させる作用があり、Crを過剰に添加すると炭化物が安定化し、固溶C量及び固溶Cr量が低減し、残留オーステナイトの量と安定性を減少させる。従って、Cr量は2.0%以下と定めた。Cr量は、好ましくは1.80%以下であり、より好ましくは1.55%以下である。
固溶Crは残留オーステナイト量の増加に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Crを0.9%以上含有させる必要がある。Cr量は、好ましくは0.95%以上であり、より好ましくは1.00%以上である。一方、Crは炭化物を安定化させる作用があり、Crを過剰に添加すると炭化物が安定化し、固溶C量及び固溶Cr量が低減し、残留オーステナイトの量と安定性を減少させる。従って、Cr量は2.0%以下と定めた。Cr量は、好ましくは1.80%以下であり、より好ましくは1.55%以下である。
P:0%超、0.025%以下、S:0%超、0.025%以下
P及びSは、偏析部での靭性及び加工性を劣化させるため、いずれも0.025%以下と定めた。P及びSはいずれも、0.0020%以下が好ましく、より好ましくは0.015%以下である。P及びSは少なければ少ない程よいが、製造工程上の制約から、通常0.001%程度含まれ得る。
P及びSは、偏析部での靭性及び加工性を劣化させるため、いずれも0.025%以下と定めた。P及びSはいずれも、0.0020%以下が好ましく、より好ましくは0.015%以下である。P及びSは少なければ少ない程よいが、製造工程上の制約から、通常0.001%程度含まれ得る。
Al:0%超、0.055%以下
Alは、脱酸元素として使用され、酸化物として鋼中に含まれる。また、酸化物を形成していないAlは窒化物を形成し、組織を微細化させて破壊靭性を向上させる作用を有する。更に、Siと同様に、炭化物析出抑制を通じて残留オーステナイトを安定化する効果がある。このような観点からは、Alを0.002%以上含有させることもできる。一方、Alを過剰に含有すると残留オーステナイトが過剰になり強度低下と耐水素脆化特性低下を招く。従って、本発明ではAl量を0.055%以下と定めた。Al量は、好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.030%以下、更に好ましくは0.020%以下である。
Alは、脱酸元素として使用され、酸化物として鋼中に含まれる。また、酸化物を形成していないAlは窒化物を形成し、組織を微細化させて破壊靭性を向上させる作用を有する。更に、Siと同様に、炭化物析出抑制を通じて残留オーステナイトを安定化する効果がある。このような観点からは、Alを0.002%以上含有させることもできる。一方、Alを過剰に含有すると残留オーステナイトが過剰になり強度低下と耐水素脆化特性低下を招く。従って、本発明ではAl量を0.055%以下と定めた。Al量は、好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.030%以下、更に好ましくは0.020%以下である。
Ti:0%超、0.015%以下
Tiは、窒化物や炭化物を形成して組織微細化に寄与するが、それら窒化物や炭化物が粗大になりやすいため耐水素脆化特性を劣化させる場合がある。よって、本発明ではTi量を0.015%以下と定めた。Ti量は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.005%以下、更に好ましくは0.002%以下である。Ti量の下限は特に限定されないが、0.0003%以上含まれ得る。
Tiは、窒化物や炭化物を形成して組織微細化に寄与するが、それら窒化物や炭化物が粗大になりやすいため耐水素脆化特性を劣化させる場合がある。よって、本発明ではTi量を0.015%以下と定めた。Ti量は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.005%以下、更に好ましくは0.002%以下である。Ti量の下限は特に限定されないが、0.0003%以上含まれ得る。
N:0%超、0.025%以下
Nは、固溶強化に有効な元素であり、また残留オーステナイトを安定化する効果もある。また、窒化物を形成して組織微細化に寄与する。このような観点から、N量は0.0010%以上含まれていても良いし、更には0.0020%以上含まれていても良い。但し、N量が過剰になると窒化物が粗大化して耐水素脆化特性を劣化させる。よって、積極的に含有させる場合でもN量は0.025%以下とする。N量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.005%以下である。
Nは、固溶強化に有効な元素であり、また残留オーステナイトを安定化する効果もある。また、窒化物を形成して組織微細化に寄与する。このような観点から、N量は0.0010%以上含まれていても良いし、更には0.0020%以上含まれていても良い。但し、N量が過剰になると窒化物が粗大化して耐水素脆化特性を劣化させる。よって、積極的に含有させる場合でもN量は0.025%以下とする。N量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.005%以下である。
O:0%超、0.0025%以下
Oは、酸化物として不可避的に存在するが、粗大及び/または過剰な酸化物は耐水素脆化特性を劣化させるため、制御が必要である。本発明では、O量を0.0025%以下とすることで、酸化物による悪影響を回避している。O量は、好ましくは0.0020%以下であり、より好ましくは0.0015%以下、さらに好ましくは0.0010%以下である。O量は少なければ少ない程良いが、通常少なくとも0.0001%程度含まれ得る。
Oは、酸化物として不可避的に存在するが、粗大及び/または過剰な酸化物は耐水素脆化特性を劣化させるため、制御が必要である。本発明では、O量を0.0025%以下とすることで、酸化物による悪影響を回避している。O量は、好ましくは0.0020%以下であり、より好ましくは0.0015%以下、さらに好ましくは0.0010%以下である。O量は少なければ少ない程良いが、通常少なくとも0.0001%程度含まれ得る。
本発明の高強度鋼に用いる基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原材料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が鋼中に含まれることは当然に許容される。
本発明では、硬さが650Hv以上の高強度鋼を対象とする。硬さは、700Hv以上が好ましく、より好ましくは720Hv以上であり、更に好ましくは730Hv以上である。但し、強度が高くなりすぎると耐水素脆化特性が顕著に劣化する。そこで、強度は770Hv以下とし、好ましくは760Hv以下であり、より好ましくは750Hv以下である。
従来技術で添加されていたMo、V、Nbなどの炭化物は、550〜700℃程度の比較的高温域での焼戻しによって析出し、析出強化や、水素トラップの効果を発揮している。また、これら合金元素を含む場合には、炭化物や窒化物が組織の微細化にも寄与し、これらの効果によって高強度と耐水素脆化特性を達成している。しかしながら、前記した高温域での焼戻しではマトリックスの軟化が避けられず、本発明の対象とする強度レベルを実現するためには、合金元素の添加量を増加する必要があり、省資源及びコストの観点で問題がある。
本発明では、合金元素を多量に添加することなく安定な残留オーステナイトを活用し、低合金でありながら高強度と良好な耐水素脆化特性を実現する。本発明者は、組織中の残留オーステナイトの割合を12.0〜15.0体積%とすると共に、残留オーステナイト中の固溶C量を0.55〜0.70質量%に制御することにより、耐水素脆化特性が向上することを見出した。これは、残留オーステナイトが水素トラップや局所ひずみの緩和の効果を発揮できることによるものと推察される。耐水素脆化特性の向上には、残留オーステナイトは12.0体積%以上とする必要がある。残留オーステナイト量は、好ましくは13.0体積%以上、より好ましくは13.5体積%以上である。一方、残留オーステナイト量が多すぎると、不安定化を招き、耐水素脆化特性が劣化するため、残留オーステナイト量は15.0体積%以下とする。残留オーステナイト量は、好ましくは14.5体積%以下であり、より好ましくは14.0体積%以下である。なお、本発明における残留オーステナイトの量は、リートベルト解析によって算出される割合を意味する。
一方、残留オーステナイト量が前記範囲であっても、安定でなければ良好な耐水素脆化特性を実現することはできない。残留オーステナイトの安定性を支配する因子は、残留オーステナイト中の固溶C量であり、良好な耐水素脆化特性を達成するため、残留オーステナイト中の固溶C量を0.55質量%以上とする。該固溶C量は、好ましくは0.60質量%以上である。しかしながら、該固溶C量が高くなりすぎると、却って耐水素脆化特性が劣化するため、0.70質量%以下とする。該固溶C量は、好ましくは0.65質量%以下である。なお、残留オーステナイト以外の組織は、通常マルテンサイト組織である。
本発明の高強度鋼の形状は特に限定されない。本発明によれば、耐水素脆化特性に優れるとともに、硬さが650Hv以上の高強度鋼を実現でき、自動車などの輸送機器の部品に好適に用いられ、このような部品としては例えばカムピース、シャフトなどが挙げられる。
本発明の高強度鋼を実現するためには、通常の溶製法に従って鋼を溶製してインゴットを得、該インゴットを加熱した後、熱間加工して、焼入れ焼戻しするという一連の製造工程のうち、特に焼入れの加熱及び冷却条件、更に焼戻しの条件を適切に調整することが重要である。焼入れの加熱及び冷却条件は主に残留オーステナイト量及び残留オーステナイト中の固溶C量に影響し、焼戻しの条件は主に硬さに影響する。
焼入れの加熱条件として、加熱温度が高かったり、加熱時間が長いと、残留オーステナイト量及び残留オーステナイト中の固溶C量が増加する。逆に、加熱温度が低かったり、加熱時間が短いと、残留オーステナイト量及び残留オーステナイト中の固溶C量が低下する。加熱温度を820℃以上、850℃以下、加熱時間を900秒以上、2500秒以下とすることで、残留オーステナイト量及び残留オーステナイト中の固溶C量を上記範囲に制御できる。加熱温度の下限は830℃以上が好ましく、上限は840℃以下が好ましい。加熱時間の下限は1200秒以上が好ましく、上限は1800秒以下が好ましく、より好ましくは1500秒以下である。
加熱後の冷却条件も残留オーステナイト量及び残留オーステナイト中の固溶C量に影響する。通常、焼入れでは80℃程度の油に投入して急冷するのが一般的である。但し、そのような条件では本発明で規定する残留オーステナイト量及び残留オーステナイト中の固溶C量を満足させることができない。そこで、本発明では加熱後、250℃まで急冷した後、250℃から150〜100℃までを3℃/秒以下の平均冷却速度で徐冷し、150〜100℃で1500〜2000秒保持する。250℃から、150〜100℃までの平均冷却速度の下限は特に限定されないが、例えば0.5℃/秒である。
焼戻し条件として、加熱温度が高すぎたり、加熱時間が長すぎると硬さが低下する。逆に、加熱温度が低すぎたり、加熱時間が短すぎると硬さは上昇する。そこで、本発明では、焼戻しの加熱温度を150℃以上、250℃以下、加熱時間を1800秒以上、12000秒以下とする。加熱温度の下限は160℃以上が好ましく、上限は220℃以下が好ましい。加熱時間の下限は3600秒以上が好ましく、加熱時間の上限は9000秒以下が好ましく、より好ましくは5400秒以下である。
上記した製造条件以外の条件については、特に限定されないが、例えばインゴットの加熱温度は1200〜1300℃、加熱時間は3〜15時間とできる。また、熱間加工としては、熱間鍛伸等の熱間鍛造や、熱間圧延、熱間押出なども採用でき、熱間加工の温度は1100〜1250℃とできる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1に記載の化学組成の鋼を、VIF(Vacuum Induction Melting Furnace、真空誘導溶解炉)溶製してインゴットを得、該インゴットを加熱し、熱間鍛伸加工した後、焼入れ焼戻し処理を行って、径10mmの鋼を得た。焼入れ及び焼戻しの製造条件は、表2に示す通りである。
得られた焼入れ焼戻し材について、下記の方法にて評価を行った。
(1)残留オーステナイト量、残留オーステナイト中の固溶C量の測定
前記焼入れ焼戻し材の長手方向に垂直な断面を鏡面研磨し、直径Dの1/4の位置を微小XRD(X−ray Diffraction)により分析した。残留オーステナイト量はリートベルト法によって算出した。また、XRDによって求めたオーステナイトの格子定数a0を用いて、下記式により残留オーステナイト中の固溶C量を求めた。なお、表では残留オーステナイトを、「残留γ」と表記した。
固溶C量(質量%)=(a0−3.572)/0.033
(1)残留オーステナイト量、残留オーステナイト中の固溶C量の測定
前記焼入れ焼戻し材の長手方向に垂直な断面を鏡面研磨し、直径Dの1/4の位置を微小XRD(X−ray Diffraction)により分析した。残留オーステナイト量はリートベルト法によって算出した。また、XRDによって求めたオーステナイトの格子定数a0を用いて、下記式により残留オーステナイト中の固溶C量を求めた。なお、表では残留オーステナイトを、「残留γ」と表記した。
固溶C量(質量%)=(a0−3.572)/0.033
(2)硬さの測定
前記焼入れ焼戻し材の長手方向に垂直な断面を鏡面研磨し、ピクラールエッチングした後、断面の周方向表面から0.5mm以内の領域を除く任意の位置にて、荷重1kgfにてビッカース硬さを4点測定し、その算術平均値を求めた。
前記焼入れ焼戻し材の長手方向に垂直な断面を鏡面研磨し、ピクラールエッチングした後、断面の周方向表面から0.5mm以内の領域を除く任意の位置にて、荷重1kgfにてビッカース硬さを4点測定し、その算術平均値を求めた。
(3)耐水素脆化特性の測定
前記焼入れ焼戻し材から平行部3φ×12Lの丸棒引張試験片を機械加工した。加工した試験片を20mass%チオシアン酸アンモニウム水溶液に24時間浸漬した後、洗浄、乾燥させて引張試験を行った。この際、浸漬完了から引張試験開始までの時間は10分以内とした。引張試験はクロスヘッドスピード0.05mm/分にて実施し、最大強度、すなわち最大試験力に対応する応力を測定した。耐水素脆化特性の指標として、前記最大強度をビッカース硬さで除した値(以下、この「最大強度/ビッカース硬さの値」を、水素脆化度と呼ぶ。)を採用した。
前記焼入れ焼戻し材から平行部3φ×12Lの丸棒引張試験片を機械加工した。加工した試験片を20mass%チオシアン酸アンモニウム水溶液に24時間浸漬した後、洗浄、乾燥させて引張試験を行った。この際、浸漬完了から引張試験開始までの時間は10分以内とした。引張試験はクロスヘッドスピード0.05mm/分にて実施し、最大強度、すなわち最大試験力に対応する応力を測定した。耐水素脆化特性の指標として、前記最大強度をビッカース硬さで除した値(以下、この「最大強度/ビッカース硬さの値」を、水素脆化度と呼ぶ。)を採用した。
測定結果を表3に示す。
本発明の要件を全て満たすNo.1〜9は、硬さが650Hv以上であるとともに、水素脆化度が2.0以上となっており、高強度と良好な耐水素脆化特性を両立できている。No.1〜9のうち、好ましい態様では水素脆化度が2.20以上であり、更に好ましい態様では2.40以上である。
一方、No.10、11はC量が不足しているため、硬さが不足した。No.12、13はCr量が不足しており、炭化物が不安定となって焼入れ加熱時に固溶Cが増加したと考えられ、硬さが過剰となった。No.14はP量が多く、No.15はS量が多く、いずれも耐水素脆化特性が劣化した。No.16はMn量が多く、No.17はTi量が多く、いずれも耐水素脆化特性が劣化した。No.18はC量が過剰であり、硬さが過剰となった。No.19はN量が多く、No.20はO量が多く、いずれも耐水素脆化特性が劣化した。
Claims (1)
- 質量%で、
C :0.9〜1.1%、
Si:0.15〜0.75%、
Mn:0.1〜1.7%、
Cr:0.9〜2.0%、
P :0%超、0.025%以下、
S :0%超、0.025%以下、
Al:0%超、0.055%以下、
Ti:0%超、0.015%以下、
N :0%超、0.025%以下、
O :0%超、0.0025%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
組織中の残留オーステナイトの割合が12.0〜15.0体積%であり、
残留オーステナイト中の固溶C量が0.55〜0.70質量%であり、
硬さが650〜770Hvであることを特徴とする高強度鋼。
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JP2016006211A JP2017125246A (ja) | 2016-01-15 | 2016-01-15 | 高強度鋼 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN108802075A (zh) * | 2018-06-26 | 2018-11-13 | 湘潭大学 | 一种粉末渗锌层中各相含量的测量方法 |
-
2016
- 2016-01-15 JP JP2016006211A patent/JP2017125246A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN108802075A (zh) * | 2018-06-26 | 2018-11-13 | 湘潭大学 | 一种粉末渗锌层中各相含量的测量方法 |
CN108802075B (zh) * | 2018-06-26 | 2023-09-15 | 湘潭大学 | 一种粉末渗锌层中各相含量的测量方法 |
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