JP2017110206A - βサイアロン蛍光体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】発光強度に優れるβサイアロン蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】
アルミニウム、酸素原子及びユーロピウムを含む窒化ケイ素を含む組成物を準備することと、前記組成物を熱処理することと、前記熱処理された組成物と塩基性物質とを接触させることと、を含む、βサイアロン蛍光体の製造方法である。
【選択図】図1

Description

本発明は、βサイアロン蛍光体の製造方法に関する。
光源と、この光源からの光で励起されて、光源の色相とは異なる色相の光を放出可能な蛍光体とを組み合わせることで、光の混色の原理により多様な色相の光を放出可能な発光装置が開発されている。特に、発光ダイオード(Light Emitting Diode:以下「LED」という。)と蛍光体とを組み合わせた発光装置は、液晶表示装置のバックライト、照明装置等に利用されている。複数の蛍光体を用いて発光装置を構成する場合、例えば、緑色に発光する蛍光体と、赤色に発光する蛍光体とを組み合わせることで、液晶表示装置の色再現範囲を大きくしたり、照明装置の演色性を向上させたりすることが可能である。
このような蛍光体として、例えば、窒化ケイ素の固溶体であるサイアロンを含む蛍光体が提案されており、このようなサイアロンとして、それぞれ結晶構造が異なるα型とβ型のサイアロンが知られている。このうち、β型のサイアロンを含む蛍光体(以下、「βサイアロン蛍光体」ともいう。)は、近紫外光から青色光の幅広い波長域で励起され、520nm以上560nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する緑色蛍光体である。
βサイアロン蛍光体は、組成式が例えば、Si6−zAl8−z:Eu(0<z≦4.2)で表される。βサイアロン蛍光体は、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)及び酸化アルミニウム(Al)と、賦活剤となる酸化ユウロピウム(Eu)とを所定のモル比で混合して、2000℃付近で焼成することにより焼成物として得られる。またこの焼成物を不活性ガス中で熱処理し、酸処理することで発光強度が高いβサイアロン蛍光体が得られることが開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。また、発光強度を高くするために、高温での加熱処理を2回に分けて行ったり、更に原料の一部に焼成して得られたβサイアロン蛍光体を用いたりすることが知られている(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)。
特開2005−255895号公報 特開2011−174015号公報 特開2007−326981号公報 特開2013−173868号公報
しかしながら、βサイアロン蛍光体は、さらに高い発光強度が求められていた。そこで、本発明に係る一実施形態は、発光強度が高いβサイアロン蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題に鑑みて更に鋭意研究を重ねた結果、βサイアロン蛍光体を熱処理した後、塩基性物質と接触させることで、より発光強度を高くすることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
アルミニウム、酸素原子及びユーロピウムを含む窒化ケイ素を含む組成物を準備することと、前記組成物を熱処理することと、前記熱処理した組成物と、塩基性物質とを接触させることと、を含む、βサイアロン蛍光体の製造方法である。
本発明に係る一実施形態によれば、発光強度に優れるβサイアロン蛍光体の製造方法を提供することができる。
本実施形態に係るβサイアロン蛍光体の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。 比較例1に係るβサイアロン蛍光体のSEM画像の一例を示す図である。 実施例1に係るβサイアロン蛍光体のSEM画像の一例を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について、実施形態及び実施例に基づいて説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための製造方法等を例示するものであって、本発明を以下のものに限定しない。
なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
平均粒径は、体積メジアン径(Dm)であり、コールター原理に基づく細孔電気抵抗法により測定される。具体的には粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製Multisizer)を用いて粒度分布を測定し、小径側からの体積累積50%に対応する粒径として体積メジアン径(Dm)が求められる。
βサイアロン蛍光体の製造方法
βサイアロン蛍光体の製造方法は、アルミニウム、酸素原子及びユーロピウムを含む窒化ケイ素を含む組成物を準備すること(以下、「準備工程」ともいう)と、前記組成物を熱処理すること(以下、「第一熱処理工程」ともいう)と、前記熱処理した組成物と塩基性物質とを接触させること(以下、「塩基処理工程」ともいう)と、を含む。
準備工程で準備する組成物はそれ自体が、例えばβサイアロン蛍光体粒子であり、これを熱処理することで蛍光体粒子に含まれる低結晶部等の不安定な相が熱分解されてケイ素などの熱分解物が生成すると考えられる。そして、その後、熱分解物を含む蛍光体粒子と塩基性物質とを接触させることで、例えば、熱分解物が塩基性物質と反応して、アルカリ金属ケイ酸塩などの透光性が高い可溶化物に変化すると考えられる。これにより発光強度を高くすることができると考えられる。そしてこれらの可溶化物は、例えば液媒体による洗浄で、容易に溶解、除去することができる。更に塩基性物質との接触は、フッ酸系の酸処理に比べてβサイアロン蛍光体粒子の損傷が少ないと考えられ、より発光強度を高くすることができる傾向があるものと推測される。
(準備工程)
準備工程では、アルミニウム、酸素原子及びユーロピウムを含む窒化ケイ素を含む組成物を準備する。準備する組成物は、例えばアルミニウム、酸素原子及びユーロピウムが固溶した窒化ケイ素であり、例えば、下記式(I)で表される組成を有する。
Si6−zAl8−z:Eu (I)
式中、zは、0<z≦4.2を満たす。
組成物は、例えば、市販品から所望の組成物を選択して準備してもよく、常法に準じて原料混合物を熱処理して所望の組成物を製造して準備してもよい。
準備工程で組成物を製造する場合、例えば、アルミニウム化合物とユウロピウム化合物と窒化ケイ素とを含む混合物(以下、「原料混合物」ともいう。)を熱処理することで所望の組成物を得ることができる。
原料混合物は、アルミニウム化合物の少なくとも1種と、ユウロピウム化合物の少なくとも1種と、窒化ケイ素の少なくとも1種とを含むことが好ましい。
アルミニウム化合物としては、アルミニウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。またアルミニウム化合物の少なくとも一部に代えてアルミニウム金属単体又はアルミニウム合金を用いてもよい。アルミニウム化合物として具体的には、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、水酸化アルミニウム(Al(OH))等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。アルミニウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
原料として用いるアルミニウム化合物の平均粒径は、例えば0.01μm以上20μm以下であり、0.1μm以上10μm以下が好ましい。
またアルミニウム化合物の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。
ユウロピウム化合物としては、ユウロピウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。またユウロピウム化合物の少なくとも一部に代えてユウロピウム金属単体又はユウロピウム合金を用いてもよい。ユウロピウム化合物として具体的には、酸化ユウロピウム(Eu)、窒化ユウロピウム(EuN)、フッ化ユウロピウム(EuF)等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。ユウロピウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
原料として用いるユウロピウム化合物の平均粒径は、例えば0.01μm以上20μm以下であり、0.1μm以上10.0μm以下が好ましい。
またユウロピウム化合物の純度は、例えば95重量%以上であり、99.5重量%以上が好ましい。
窒化ケイ素は、窒素原子及びケイ素原子を含むケイ素化合物であり、酸素原子を含む窒化ケイ素であってもよい。窒化ケイ素が酸素原子を含む場合、酸素原子は酸化ケイ素として含まれていてもよく、ケイ素の酸窒化物として含まれていてもよい。
窒化ケイ素に含まれる酸素原子の含有率は、例えば2重量%未満であり、1.5重量%以下が好ましい。また酸素原子の含有率は、例えば0.3重量%以上であり、0.4重量%以上が好ましい。
窒化ケイ素の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。
窒化ケイ素の平均粒径は、例えば0.01μm以上15μm以下であり、0.1μm以上5.0μm以下が好ましい。
原料混合物は、窒化ケイ素の少なくとも一部をケイ素単体、酸化ケイ素等の他のケイ素化合物に置換した混合物であってもよい。すなわち原料混合物は、窒化ケイ素に加えてケイ素単体、酸化ケイ素等のケイ素化合物を含むものであってもよく、窒化ケイ素に代えてケイ素単体、酸化ケイ素等のケイ素化合物を含むものであってもよい。ケイ素化合物には、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、ケイ酸塩等が含まれる。
原料混合物におけるアルミニウム化合物、ユウロピウム化合物及び窒化ケイ素の混合比は、例えば、原料混合物に含まれるケイ素原子とアルミニウム原子とのモル比は(6−z):z(0<z≦4.2)であり、好ましくは0.01<z<1.0である。ケイ素原子及びアルミニウム原子の総モル量とユウロピウム原子とのモル比は、例えば6:0.001〜6:0.05であり、好ましくは6:0.003〜6:0.02である。
原料混合物は、必要に応じて別途準備したβサイアロン蛍光体を更に含んでいてもよい。原料混合物がβサイアロン蛍光体を含む場合、その含有量は原料混合物の総量中に、例えば1重量%以上50重量%以下とすることができる。
原料混合物は、必要に応じてハロゲン化物等のフラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、原料間の反応がより促進され、更には固相反応がより均一に進行するために粒径が大きく、発光特性により優れた蛍光体を得ることができる。これは例えば、準備工程における熱処理の温度が、フラックスであるハロゲン化物等の液相の生成温度とほぼ同じか、それ以上であるためと考えられる。ハロゲン化物としては、希土類金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の塩化物、フッ化物等を利用できる。フラックスとしては、陽イオンの元素比率を目的物組成になるような化合物として加えることもできるし、更に目的物組成に各原料を加えた後に、添加する形で加えることもできる。
原料混合物がフラックスを含む場合、その含有量は原料混合物中に例えば20重量%以下であり、10重量%以下が好ましい。またその含有量は例えば0.1重量%以上である。
原料混合物は、所望の原料化合物を所望の配合比に秤量した後に、ボールミルなどを用いた混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダーなどの混合機、乳鉢と乳棒を用いた混合方法等を用いて原料化合物を混合することで得ることができる。混合は、乾式混合で行うこともできるし、溶媒等を加えて湿式混合で行うこともできる。
原料混合物の熱処理温度は、例えば1850℃以上2100℃以下であり、1900℃以上2050℃以下が好ましく、1920℃以上2050℃以下がより好ましく、2000℃以上2050℃以下が更に好ましい。1850℃以上の温度で熱処理することで、βサイアロン蛍光体が効率よく形成され、Euが結晶中に入り込み易く、所望のβサイアロン蛍光体が得られる。また熱処理温度が2100℃以下であると形成されるβサイアロン蛍光体の分解が抑制される傾向がある。
原料混合物の熱処理における雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気が好ましく、実質的に窒素ガス雰囲気であることがより好ましい。原料混合物の熱処理の雰囲気が窒素ガスを含む場合、窒素ガスに加えて、水素、酸素、アンモニアなどの他のガスを含んでいてもよい。また原料混合物の熱処理の雰囲気における窒素ガスの含有率は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。
原料混合物の熱処理における圧力は、例えば、常圧から200MPaとすることができる。生成するβサイアロン蛍光体の分解を抑制する観点から、圧力は高い方が好ましく、0.1MPa以上200MPa以下が好ましく、0.6MPa以上1.2MPa以下が工業的な設備の制約も少なく、より好ましい。
原料混合物の熱処理では、例えば室温から所定の温度に昇温して熱処理する。昇温時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。昇温時間が1時間以上であると、蛍光体粒子の粒子成長が充分に進行する傾向があり、またEuが蛍光体粒子の結晶中に入り込み易くなる傾向がある。
原料混合物の熱処理においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上30時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
原料混合物の熱処理における所定温度から室温までの降温時間は、例えば0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上15時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下であることがより好ましい。なお、所定温度から室温まで降温する間に適宜選択される温度での保持時間を設けてもよい。この保持時間は、例えば、βサイアロン蛍光体の発光強度がより高くなるように調節される。降温中の所定の温度における保持時間は例えば、0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上10時間以下が好ましい。また保持時間における温度は、例えば1000℃以上1800℃未満であり、1200℃以上1700℃以下が好ましい。
原料混合物の熱処理は、例えば、原料混合物を窒化ホウ素製ルツボに入れて行うことができる。
原料混合物の熱処理後には、熱処理で得られる組成物に解砕、粉砕、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。具体的には、組成物を粗粉砕した後に、ボールミル、ジェットミル、振動ミルなどの一般的な粉砕機を用いて所定の粒径に粉砕することができる。ただし、過剰な粉砕を行うと蛍光体粒子表面に欠陥が生じて、発光強度の低下を引き起こすこともある。粉砕で生じた粒径の異なるものが存在する場合には、分級を行い、粒径を整えることもできる。粒径の最終的な調整は後に記載する第一熱処理工程、塩基処理工程等の後でも可能である。
(第一熱処理工程)
第一熱処理工程では、準備工程で準備した組成物を熱処理して第一熱処理物を得る。第一熱処理工程では、例えば、βサイアロン蛍光体に存在する非晶質の不安定な結晶の少なくとも一部を分解できると考えられる。第一熱処理工程の雰囲気は、発光強度を高くする観点から、希ガス雰囲気又は減圧下が好ましく、希ガス雰囲気がより好ましい。
第一熱処理工程における希ガス雰囲気は、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの少なくとも1種を含んでいればよく、少なくともアルゴンを含むことが好ましい。希ガス雰囲気は、希ガスに加えて酸素、水素、窒素等を含んでいてもよい。希ガス雰囲気に含まれる希ガスの含有率は例えば95体積%以上であり、99体積%以上が好ましい。
第一熱処理工程を希ガス雰囲気中で行う場合、その圧力は、例えば、常圧から1MPaの範囲とすることができ、常圧から0.2MPaが好ましい。
第一熱処理工程は常圧より低い減圧下で行ってもよく、特に真空中で行うことが好ましい。真空中で熱処理を行う場合、その圧力は、例えば10kPa以下であり、1kPa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましい。ここで、減圧下または真空中とは、気体が存在することを排除するものではない。存在し得る気体には、希ガス、窒素、水素、酸素等が含まれる。
第一熱処理工程における熱処理温度は、例えば1300℃以上1600℃以下であり、1350℃以上1500℃以下が好ましい。第一熱処理工程の温度は原料混合物を熱処理する温度よりも低い温度であることが好ましい。これにより、蛍光体粒子に含まれる不安定な結晶がより効率的に熱分解され、より安定で結晶性の高い蛍光体粒子が形成されると考えられる。また第一熱処理工程で生成する熱分解物には、例えばケイ素単体等が含まれ、これらは後述する塩基処理工程等により除去することができる。
第一熱処理工程における熱処理時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上20時間以下が好ましい。
第一熱処理工程では、例えば室温から所定の温度に昇温して熱処理する。昇温時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
第一熱処理工程においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上30時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
第一熱処理工程における所定温度から室温までの降温時間は、例えば0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上15時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下であることがより好ましい。なお、所定温度から室温まで降温する間に適宜選択される温度での保持時間を設けてもよい。この保持時間は、例えば、βサイアロン蛍光体の発光強度がより高くなるように調節される。降温中の所定の温度における保持時間は例えば、0.5時間以上20時間以下であり、1時間以上10時間以下が好ましい。また保持時間における温度は、例えば800℃以上1600℃未満であり、1000℃以上1400℃以下が好ましい。
第一熱処理工程では、準備工程で準備した組成物をユウロピウム化合物の共存下で熱処理してもよい。その場合、希ガス雰囲気中で熱処理することが好ましい。
準備工程で得られる組成物をユウロピウム化合物の共存下、希ガス雰囲気中で熱処理することでより高い発光強度を有するβサイアロン蛍光体を効率的に製造することができる。これは例えば以下のように考えることができる。第一熱処理工程をユウロピウム化合物の存在下、希ガス雰囲気中で行うと、少なくとも一部のユウロピウム化合物が還元され、ユウロピウム化合物由来のガス状物を生成する。そのガス状物が、準備工程で準備した組成物と接触することで、組成物に含まれるユウロピウムが2価の状態に還元され易くなると考えられる。また還元された状態のユウロピウム化合物由来のガス状物が組成物に取り込まれるとも考えられる。そしてこれらの要因が組み合わされることで、発光強度がより高くなると考えられる。
第一熱処理工程に用いるユウロピウム化合物としては、ユウロピウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。またユウロピウム化合物の少なくとも一部に代えてユウロピウム金属単体又はユウロピウム合金を用いてもよい。ユウロピウム化合物として具体的には、酸化ユウロピウム(Eu)、窒化ユウロピウム(EuN)、フッ化ユウロピウム(EuF)等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、酸化ユウロピウムがより好ましい。ユウロピウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
第一熱処理工程に用いるユウロピウム化合物の平均粒径は、例えば0.01μm以上20μm以下であり、0.1μm以上10.0μm以下が好ましい。
またユウロピウム化合物の純度は、例えば95重量%以上であり、99.5重量%以上が好ましい。
第一熱処理工程にユウロピウム化合物を用いる場合、準備工程で得られる組成物(100重量%)に対するユウロピウム化合物の重量比率は、例えば、0.01重量%以上であり、0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また重量比率は50重量%以下であり、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下が更に好ましい。
第一熱処理工程にユウロピウム化合物を用いる場合、ユウロピウム化合物から発生するガス状物が準備工程で得られる組成物と接触可能な状態で熱処理を行えばよい。例えば、準備工程で得られる組成物とユウロピウム化合物とを混合して、同一の容器に入れて熱処理してもよく、準備工程で得られる組成物とユウロピウム化合物とを混合せずに同一又は別々の容器に入れて熱処理してもよく、準備工程で得られる組成物にユウロピウム化合物の一部を混合し、残部を混合せずに同一又は別々の容器に入れて熱処理してもよい。準備工程で得られる組成物とユウロピウム化合物とを混合する場合はできるだけ均一に混合することが好ましい。
βサイアロン蛍光体の製造方法は、第一熱処理工程の後に、得られる第一熱処理物を解砕処理、粉砕処理等する工程を含んでいてもよい。解砕処理、粉砕処理等は既述の方法で行うことができる。
(塩基処理工程)
塩基処理工程では、第一熱処理工程で得られる熱処理した組成物(第一熱処理物)と、塩基性物質とを接触させて、塩基処理物を得る。塩基性物質と接触させることで、第一熱処理物に含まれ、発光特性に影響を及ぼし得る熱分解物等が塩基性物質と反応して、発光特性への影響が少ない化合物に変化することで、発光強度を高くすることが可能になると考えられる。
塩基性物質としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等のアルカリ金属水酸化物;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等のアルカリ金属炭酸塩;Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)等の周期表第2族元素の水酸化物;アンモニア(NH);ヒドラジン;エチレンジアミンピロカテコール(EDP);テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アンモニウム化合物などが挙げられる。塩基性物質は水に可溶であることが好ましく、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、アンモニア(NH)及びテトラメチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH及びNHからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましく、少なくともNaOH又はKOHを含むことが特に好ましい。
第一熱処理物と接触させる塩基性物質の量は、塩基性物質の種類等に応じて適宜選択することができる。塩基性物質の第一熱処理物に対する重量比率は、例えば0.5重量%以上であり、1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、8重量%以上がさらに好ましい。また重量比率は、例えば200重量%以下であり、100重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。塩基性物質の重量比率が0.5重量%以上であると熱分解物等との反応が充分に進行する傾向があり、200重量%以下であると蛍光体粒子に対する悪影響を抑制できる傾向がある。
塩基処理工程の雰囲気は、例えば大気などの酸化雰囲気であってもよく、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。不活性ガス雰囲気での不活性ガス濃度は例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。塩基処理工程の雰囲気における圧力は、例えば10Pa以上1MPa以下であり、100Pa以上0.2MPa以下が好ましい。
塩基処理工程の温度は、例えば50℃以上650℃以下であり、50℃以上500℃以下が好ましく、70℃以上400℃以下がより好ましい。接触温度を50℃以上とすることで第一熱処理物に含まれる熱分解物等と塩基性物質との反応性が向上し、生産性がより向上する傾向がある。また接触温度を650℃以下とすることで製造される蛍光体に対する悪影響を抑制できる傾向がある。
塩基処理工程は、複数の温度条件を適用することを含んでいてもよい。塩基処理工程は、例えば第一熱処理物と塩基性物質との接触を、第一の温度で行うこと(「第一熱塩基処理」ともいう)と、第一の温度よりも高い第二の温度で行うこと(「第二熱塩基処理」ともいう)とを含んでいてもよい。第一熱塩基処理及び第二熱塩基処理を行うことで、塩基性物質と熱分解物等との反応がより効率的に進行する傾向がある。また蛍光体粒子に対する悪影響を抑制できる傾向がある。第一の温度は、例えば50℃以上150℃以下であり、60℃以上140℃以下が好ましく、60℃以上120℃以下がより好ましい。第二の温度は、第一の温度よりも高い温度であって、例えば90℃以上650℃以下であり、120℃以上500℃以下が好ましく、150℃以上400℃以下がより好ましい。
塩基処理工程における接触時間は、塩基性物質の種類、重量比率、接触温度等に応じて適宜選択すればよい。接触時間は例えば0.1時間以上48時間以下であり、0.5時間以上20時間以下が好ましい。また塩基処理工程が、第一熱塩基処理及び第二熱塩基処理を含む場合、第一熱塩基処理の処理時間は、例えば0.1時間以上48時間以下であり、0.5時間以上20時間以下が好ましい。また第二熱塩基処理の処理時間は、例えば0.1時間以上24時間以下であり、0.5時間以上12時間以下が好ましい。
第一熱処理物と塩基性物質との接触方法は、第一熱処理物と塩基性物質の溶液とを混合することを含むことが好ましい。塩基性物質の溶液を用いることで第一熱処理物と塩基性物質とを、より均一に反応させることができる。塩基性物質の溶液を構成する溶媒は、塩基性物質が溶解する限り、通常用いられる溶媒から適宜選択することができる。溶媒としては例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;エタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等のアミン類を挙げることができる。溶媒は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。中でも溶媒は水を含むことが好ましい。
塩基性物質の溶液の濃度は、塩基性物質の種類、溶媒等に応じて適宜選択することができる。塩基性物質の溶液の濃度は例えば、0.1重量%以上80重量%以下とすることができ、1重量%以上50重量%以下が好ましい。
塩基処理工程は、第一熱処理物と塩基性物質の溶液とを混合することに加えて、溶液に含まれる溶媒の少なくとも一部を除去することを含むことが好ましい。溶媒の少なくとも一部を除去することで、塩基性物質と熱分解物との反応効率がより向上する傾向がある。第一熱処理物と塩基性物質の溶液との混合物から溶媒を除去する場合、溶媒の除去率は例えば、1重量%以上とすることができ、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。
溶媒の除去方法は、例えば、加熱処理、減圧処理等を挙げることができ、これらを組合せて用いてもよい。溶媒の除去方法は、溶液中の塩基性物質が溶媒と共に除去され難い方法であればよく、少なくとも加熱処理を含むことが好ましい。溶媒の除去を加熱処理で行う場合、その温度は前記第一の温度と同様であることが好ましい。
塩基処理工程は、第一熱処理物と塩基性物質の溶液とを混合することと、第一の温度で第一熱処理物と塩基性物質とを接触させること(第一熱塩基処理)と、第一熱塩基処理後に、第一の温度よりも高い第二の温度で第一熱処理物と塩基性物質とを接触させること(第二熱塩基処理)と、を含むことが好ましく、第一熱塩基処理が塩基性物質の溶液に含まれる溶媒の少なくとも一部を除去することを含み、第二熱塩基処理が、溶媒が除去された第一熱処理物と塩基性物質の混合物を第二の温度で熱処理することを含むことがより好ましい。第一の温度で溶媒の少なくとも一部を除去した後に第二の温度で熱処理することで、第一熱処理物に含まれる熱分解物等と塩基性物質との反応がより均一かつ効率的に進行する傾向がある。
第一の温度での溶媒の除去時間は、所望の溶媒除去率等に応じて適宜選択することができる。第一の温度での溶媒の除去時間は、前記第一熱塩基処理の処理時間と同様であり、第二の温度での熱処理時間は、前記第二熱塩基処理の処理時間と同様である。ここで第一の温度での溶媒除去の雰囲気は、例えば大気中であっても不活性ガス雰囲気であってもよい。一方、第二の温度での熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。
塩基処理工程は、得られる塩基処理物を解砕処理、粉砕処理等する工程を含んでいてもよい。解砕処理、粉砕処理等は既述の方法で行うことができる。
(洗浄工程)
βサイアロン蛍光体の製造方法は、塩基処理工程後の塩基処理物を液媒体で洗浄すること(「洗浄工程」ともいう)を必要に応じて含んでいてもよい。塩基処理物を液媒体で洗浄することで、塩基処理物に含まれるアルカリ金属ケイ酸塩等の不要物の少なくとも一部が除去される。
本実施形態に係るβサイアロン蛍光体の製造方法は、塩基処理工程までで基本的には完了している。洗浄工程は、塩基処理工程後の蛍光体粒子自体の発光特性の向上には大きくは関与せず、塩基処理工程によって生成する微量のアルカリ金属ケイ酸塩などの不要成分を除去するものである。第一熱処理工程で生じたケイ素単体などの熱分解物は、塩基処理工程で、アルカリ金属ケイ酸塩等に変化する。この化合物自体は発光特性に大きく関与しない。しかしながら、塩基処理工程で生成した化合物を洗浄工程により除去することで、蛍光体粒子を含む発光装置の製造時に用いられるシリコーン樹脂などに対して影響を及ぼすことを抑制することができる。
洗浄工程では液媒体が使用される。液媒体は不要成分を除去可能であれば、通常用いられる液媒体から目的に応じて適宜選択することができる。液媒体としては液性が限定されることなく、例えば、水;エタノール、イソプロパノール等のアルコールなどの中性液媒体、塩酸、硝酸等の酸性液媒体等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、少なくとも水を含む液媒体を用いることがより好ましい。また塩酸、硝酸などの酸性液媒体を用いることで、不要物の除去をより効率的に行うことができる場合がある。
洗浄方法は、例えば、塩基処理物を液媒体に浸漬し、必要に応じて撹拌した後、固液分離することで洗浄することができる。固液分離後には必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。
洗浄に用いる液媒体の温度は、例えば5℃以上95℃以下であり、25℃以上80℃以下が好ましい。また洗浄時間は、例えば0.01時間以上48時間以下とすることができ、0.1時間以上20時間以下が好ましい。
洗浄工程は、液媒体として中性溶液で可能であるが酸性溶液、アルカリ性溶液を用いることもできる。塩基処理をしているため塩基処理物を水に入れるとアルカリ性を示す。そのため中性から酸性溶液を用いる洗浄方法を含むことが好ましい。
洗浄工程は、同一又は異なる液媒体を用いて複数回行ってもよい。例えば、水、中性溶液、酸性溶液あるいはアルカリ性溶液を用いて第一洗浄を行った後に、水を用いて第二洗浄を行うことができる。これにより例えば、第一洗浄でβサイアロン蛍光体の表面に付着する塩基性化合物あるいは酸性化合物を効率的に除去することができる。
(第二熱処理工程)
βサイアロン蛍光体の製造方法は、第一熱処理工程の前に準備工程で準備した組成物を窒素雰囲気中で熱処理すること(「第二熱処理工程」ともいう。)を含んでいてもよい。第二熱処理工程を含むことで、より発光強度が高いβサイアロン蛍光体を得ることができる。第二熱処理工程を含むことで発光強度が高くなる理由として、例えば、結晶性が向上すること、準備工程の組成物に含まれる結晶成長が不十分な粒子が大きい粒子に取り込まれ、粒子がより大きく成長すること等が挙げられる。
第二熱処理工程における熱処理温度は、例えば1800℃以上2100℃以下であり、1850℃以上2040℃以下が好ましく、1900℃以上2040℃未満がより好ましい。
第二熱処理工程の雰囲気は少なくとも窒素ガスを含む窒素雰囲気であり、実質的に窒素ガスからなる窒素雰囲気であることが好ましい。第二熱処理工程の窒素雰囲気は、窒素ガスに加えて、水素、酸素、アンモニアなどの他のガスを含んでいてもよい。また第二熱処理工程の窒素雰囲気における窒素ガスの含有率は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。
第二熱処理工程における圧力は、例えば、常圧から200MPaとすることができる。生成するβサイアロン蛍光体の分解を抑制する観点から、圧力は高い方が好ましく、0.1MPa以上200MPa以下が好ましく、0.6MPa以上1.2MPa以下が工業的な設備の制約も少なく、より好ましい。
第二熱処理工程では、例えば室温から所定の温度に昇温して熱処理する。昇温に要する時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
第二熱処理工程においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上30時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
第二熱処理工程における所定温度から室温までの降温時間は、例えば0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上15時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下であることがより好ましい。なお、所定温度から室温まで降温する間に適宜選択される温度での保持時間を設けてもよい。この保持時間は、例えば、βサイアロン蛍光体の発光強度がより高くなるように調節される。降温中の所定の温度における保持時間は例えば、0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上10時間以下が好ましい。また保持時間における温度は、例えば1000℃以上1800℃未満であり、1200℃以上1700℃以下が好ましい。
βサイアロン蛍光体の製造方法が第二熱処理工程を含む場合、第一熱処理工程には、第二熱処理後の組成物が用いられる。またβサイアロン蛍光体の製造方法は、複数回の第二熱処理工程を含んでいてもよい。その場合、第一熱処理工程には最後の第二熱処理後の組成物が用いられる。
(第三熱処理工程)
βサイアロン蛍光体の製造方法は、洗浄工程を含む場合その洗浄工程の後に、塩基処理物を熱処理すること(「第三熱処理工程」ともいう。)を含んでいてもよい。第三熱処理工程を含むことで、蛍光体粒子の結晶性がより向上すると考えられ、より発光強度に優れるβサイアロン蛍光体を得ることができる。
第三熱処理工程における熱処理温度は、例えば1000℃以上1800℃以下であり、1100℃以上1700℃以下が好ましく、1150℃以上1650℃未満がより好ましい。
第三熱処理工程の雰囲気は特に制限されない。第三熱処理工程の雰囲気は窒素を含む雰囲気が好ましく、実質的に窒素雰囲気であることがより好ましい。第三熱処理工程の雰囲気が窒素を含む場合、窒素に加えて、水素、酸素、アンモニアなどの他のガスを含んでいてもよい。また第三熱処理工程の雰囲気における窒素の含有率は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。
第三熱処理工程における圧力は、例えば、常圧から200MPaとすることができる。生成するβサイアロン蛍光体の分解を抑制する観点から、圧力は高い方が好ましく、0.1MPa以上200MPa以下が好ましく、0.6MPa以上1.2MPa以下が工業的な設備の制約も少なく、より好ましい。
第三熱処理工程では、例えば室温から所定の温度に昇温して熱処理する。昇温に要する時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
第三熱処理工程においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上30時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。
第三熱処理工程における所定温度から室温までの降温時間は、例えば0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上15時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下であることがより好ましい。なお、所定温度から室温まで降温する間に適宜選択される温度での保持時間を設けてもよい。この保持時間は、例えば、βサイアロン蛍光体の発光強度がより高くなるように調節される。
(βサイアロン蛍光体)
本実施形態のβサイアロン蛍光体は、特定の製造方法により得られることにより、発光強度が高い。例えば、塩基処理を行わずに製造される場合に比べて、発光強度を5%以上高くすることができ、10%以上高くすることができ、さらに50%以上高くすることができる。
また本実施形態のβサイアロン蛍光体は既述の式で表される組成を有するが、微量のアルカリ金属元素を含んでいてもよい。βサイアロン蛍光体がアルカリ金属元素を含む場合、その含有率は例えば、0.1ppm以上1000ppm以下であり、0.1ppm以上100ppm以下が好ましい。
本実施形態に係るβサイアロン蛍光体は、紫外線から可視光の短波長側領域の光を吸収して、励起光の発光ピーク波長よりも長波長側に発光ピーク波長を有する。可視光の短波長側領域の光は、主に青色光領域となる。具体的には250nm以上480nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する励起光源からの光により励起され、520nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピーク波長をもつ蛍光を発光する。250nm以上480nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることにより、当該波長範囲ではβサイアロン蛍光体の励起スペクトルが比較的高い強度を示すので、βサイアロン蛍光体の発光効率を高くすることができる。特に、350nm以上480nm以下に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることが好ましく、更に420nm以上470nm以下に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることが好ましい。
また本実施形態に係るβサイアロン蛍光体は高い結晶性を有する。例えばガラス体(非晶質)は構造が不規則であり結晶性が低いため、その生産工程における反応条件が厳密に一様になるよう管理できなければ、蛍光体中の成分比率が一定せず、色度ムラ等を生じる傾向がある。これに対し、本実施形態に係るβサイアロン蛍光体は、少なくとも一部に結晶性が高い構造を有している粉体ないし粒体であることで製造及び加工し易くなる傾向がある。また、βサイアロン蛍光体は、有機媒体に均一に分散することが容易にできるため、発光性プラスチック、ポリマー薄膜材料等を調製することが容易にできる。具体的に、βサイアロン蛍光体は、例えば50重量%以上、より好ましくは80重量%以上が結晶性を有する構造である。これは、発光性を有する結晶相の割合を示し、50重量%以上、結晶相を有しておれば、実用に耐え得る発光が得られるため好ましい。ゆえに結晶相が多いほど発光効率に優れる。これにより、発光強度をより高くすることができ、かつ加工し易くできる。
本実施形態に係るβサイアロン蛍光体の平均粒径は、コールター原理により測定される体積メジアン径(Dm)が例えば4μm以上40μm以下であり、8μm以上30μm以下が好ましい。またβサイアロン蛍光体はこの平均粒径値を有する粒子を頻度高く含有することが好ましい。すなわち粒度分布は狭い範囲に分布しているものが好ましい。粒度分布の半値幅が狭いβサイアロン蛍光体を用いて発光装置を構成することにより、より色ムラが抑制され、良好な色調を有する発光装置が得られる。また平均粒径は大きいほうが、光の吸収率及び発光効率が高い。このように、光学的に優れた特徴を有する平均粒径の大きな蛍光体を発光装置に含有させることにより、発光装置の発光効率が向上する。
(実施例1)
準備工程
原料化合物となる窒化ケイ素(Si)と、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユウロピウム(Eu)とをSi:Al:Eu=5.88:0.12:0.01のモル比となるように秤量し、混合して第一原料混合物を得た。この原料混合物を窒化ホウ素製ルツボに充填し、窒素雰囲気で約0.92MPa(ゲージ圧)の圧力で2030℃10時間、熱処理することにより、βサイアロン蛍光体を得た。
次いで、この熱処理で得られたβサイアロン蛍光体と、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び酸化ユウロピウムとを混合して第二原料混合物を得た。この時のSi:Al:Eu比は先と同じ比率とし、βサイアロン蛍光体の含有率を第二原料混合物の全体量中に20重量%とした。この第二原料混合物を窒素雰囲気で約0.92MPa(ゲージ圧)の圧力で1970℃10時間の焼成を行い、室温までの降温の途中に1500℃の温度での保持時間5時間の条件で熱処理を行い、前述した式(I)で表される組成物を得た。
第二熱処理工程
得られた組成物を粉砕し、粉砕物を窒化ホウ素製ルツボに充填し、窒素雰囲気で約0.92MPaの圧力(ゲージ圧)、2030℃の温度までの昇温時間10時間、2030℃の温度での保持時間10時間、その後室温までの降温の途中に1500℃の温度での保持時間5時間の条件で熱処理を行い、第二熱処理工程後の熱処理物を得た。
第一熱処理工程
得られた第二熱処理工程後の熱処理物と、この熱処理物に対して重量比率で0.5%となる量の酸化ユウロピウムとを計量、混合して混合物を得た。得られた混合物を、常圧のアルゴン雰囲気中、1400℃の温度、5時間、その後室温までの降温の途中に1100℃の温度で保持時間5時間の条件で熱処理を行い、粉砕、分散処理を行い、第一熱処理物を得た。
塩基処理工程
得られた第一熱処理物を、第一熱処理物に対して10重量%の水酸化ナトリウム及び90重量%の純水を含む溶液と混合した。その後、70℃、3時間、大気中で加熱処理を行い、水分除去を行って、塩基処理物を得た。
洗浄工程
得られた塩基処理物を、塩基処理物に対して1000重量%(10倍量)の純水中で撹拌し、その後、純水を数回交換して、洗浄を行い、固液分離した後に乾燥処理して蛍光体1を得た。
(実施例2)
塩基処理工程における水酸化ナトリウムを1重量%、純水を99重量%に変更した以外は実施例1と同じ条件で合成を行い、蛍光体2を得た。
(実施例3)
塩基処理工程における水酸化ナトリウムを5重量%、純水を95重量%に変更した以外は実施例1と同じ条件で合成を行い、蛍光体3を得た。
(実施例4)
塩基処理工程における水酸化ナトリウムを20重量%、純水を80重量%に変更した以外は実施例1と同じ条件で合成を行い、蛍光体4を得た。
(実施例5)
塩基処理工程における水酸化ナトリウムを50重量%、純水を50重量%に変更した以外は実施例1と同じ条件で合成を行い、蛍光体5を得た。
(実施例6)
実施例2において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に200℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例2と同じ条件で合成を行い、蛍光体6を得た。
(実施例7)
実施例3において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に200℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例3と同じ条件で合成を行い、蛍光体7を得た。
(実施例8)
実施例1において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に200℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例1と同じ条件で合成を行い、蛍光体8を得た。
(実施例9)
実施例4において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に200℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例4と同じ条件で合成を行い、蛍光体9を得た。
(実施例10)
実施例5において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に200℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例5と同じ条件で合成を行い、蛍光体10を得た。
(実施例11)
塩基処理工程における水酸化ナトリウムを10重量%、純水を70重量%に変更した以外は実施例6と同じ条件で合成を行い、蛍光体11を得た。
(実施例12)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化カリウム0.5重量%に変更した以外は実施例6と同じ条件で合成を行い、蛍光体12を得た。
(実施例13)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化カリウム1重量%に変更した以外は実施例6と同じ条件で合成を行い、蛍光体13を得た。
(実施例14)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化カリウム5重量%に変更した以外は実施例7と同じ条件で合成を行い、蛍光体14を得た。
(実施例15)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化カリウム10重量%に変更した以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体15を得た。
(実施例16)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化カリウム20重量%に変更した以外は実施例9と同じ条件で合成を行い、蛍光体16を得た。
(実施例17)
第二熱塩基処理の条件の内、温度を100℃とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体17を得た。
(実施例18)
第二熱塩基処理の条件の内、温度を150℃とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体18を得た。
(実施例19)
第二熱塩基処理の条件の内、温度を300℃とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体19を得た。
(実施例20)
第二熱塩基処理の条件の内、温度を400℃とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体20を得た。
(実施例21)
第二熱塩基処理の条件の内、温度を600℃とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体21を得た。
(実施例22)
第二熱塩基処理の条件の内、時間を0.5時間とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体22を得た。
(実施例23)
第二熱塩基処理の条件の内、時間を1時間とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体23を得た。
(実施例24)
第二熱塩基処理の条件の内、時間を4時間とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体24を得た。
(実施例25)
第二熱塩基処理の条件の内、時間を8時間とした以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体25を得た。
(実施例26)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化リチウム10重量%に変更した以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体26を得た。
(実施例27)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化ルビジウム10重量%に変更した以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体27を得た。
(実施例28)
塩基処理工程における塩基性物質を水酸化セシウム10重量%に変更した以外は実施例8と同じ条件で合成を行い、蛍光体28を得た。
(実施例29)
塩基処理工程における水酸化カリウムを8.5重量%、純水を1.5重量%、エタノールを90重量%、第一熱塩基処理の条件の内、温度を100℃、時間を1時間に変更した以外は実施例12と同じ条件で合成を行い、蛍光体29を得た。
(比較例1)
塩基処理工程を行わなかった以外は実施例1と同様の条件で合成を行い、蛍光体C1を得た。
(比較例2)
塩基処理工程における水酸化ナトリウムに代わり硝酸ナトリウムを用いた以外は実施例11と同じ条件で合成を行い、蛍光体C2を得た。
(実施例30)
準備工程において、βサイアロン蛍光体の含有率を第二原料混合物の全体量中に10重量%に変更し、塩基処理工程において、得られた第一熱処理物を、第一熱処理物に対して18重量%の水酸化ナトリウム及び82重量%の純水を含む溶液と混合し、その後、105℃、16時間、大気中で加熱処理を行い、水分除去を行って、塩基処理物を得た以外は、実施例1と同様にして蛍光体30を得た。
(実施例31)
塩基処理工程において、得られた第一熱処理物を、第一熱処理物に対して20重量%の炭酸ナトリウム及び100重量%の純水を含む溶液と混合した以外は、実施例30と同様にして蛍光体31を得た。
(実施例32)
塩基処理工程において、得られた第一熱処理物を、第一熱処理物に対して20重量%の炭酸カリウム及び100重量%の純水を含む溶液と混合した以外は、実施例30と同様にして蛍光体32を得た。
(実施例33)
実施例30において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に300℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例30と同じ条件で合成を行い、蛍光体33を得た。
(実施例34)
実施例31において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に300℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例31と同じ条件で合成を行い、蛍光体34を得た。
(実施例35)
実施例32において、70℃、3時間の第一熱塩基処理後に、更に300℃、2時間、窒素雰囲気で第二熱塩基処理を行った以外は実施例32と同じ条件で合成を行い、蛍光体35を得た。
(比較例3)
塩基処理工程を行わなかった以外は、実施例30と同様の条件で合成を行い、蛍光体C3を得た。
<評価>
得られたβサイアロン蛍光体の平均粒径(Dm、メジアン径)を、コールター原理に基づく細孔電気抵抗法(電気的検知帯法)により、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製Multisizer)を用いて測定した。
蛍光体の発光特性は、分光蛍光光度計:QE−2000(大塚電子株式会社製)を用いて測定した。具体的には励起光の波長を450nmとして発光スペクトルを測定し、得られた発光スペクトルの極大ピークの相対発光強度(%)と発光ピーク波長(nm)を求めた。ここで、相対発光強度は、実施例1〜29、比較例2については、比較例1の蛍光体C1を基準として算出し、実施例30〜35については、比較例3の蛍光体C3を基準として算出した。また発光ピーク波長はいずれも538nm付近であった。
評価結果を以下の表1に示す。
実施例1から5及び比較例1で得られたβサイアロン蛍光体の発光スペクトルを比較例1の最大発光強度で規格化して図1に示す。表1にも示されるようにβサイアロン蛍光体1から29は相対発光強度が高いことが分かる。
また比較例1及び実施例1で得られたβサイアロン蛍光体の粒子形状を示す電子顕微鏡写真(SEM画像)を図2及び図3にそれぞれ示す。図2及び図3のβサイアロン蛍光体は粒子形状がほぼ同じで、変化していないことが分かる。これは塩基処理工程での粒径及び形状の変化がないことを示すと考えられる。つまり塩基性物質でβサイアロン蛍光体を処理すると、βサイアロン蛍光体自身の形状を損なうことなく、第一熱処理工程で生じる分解物等を除去でき、発光強度を高くすることができたものと考えられる。
実施例6から11では、第一熱塩基処理に加えて、より高温での第二熱塩基処理を行うことにより、第一熱塩基処理だけ行う実施例1から5よりも、相対発光強度が更に改善されている。より高温で熱塩基処理することで塩基性物質とβサイアロンの熱処理物の反応が促進されることが原因であると考えられる。
実施例12から16では、塩基性物質として水酸化カリウムを用いた場合でも、水酸化ナトリウムを用いた場合と同様に相対発光強度が改善されている。
第二熱塩基処理の温度を変化させた実施例17から21では、第二熱塩基処理の温度が300℃である実施例19のときに特に相対発光強度が改善されていることが分かる。
第二熱塩基処理の時間を変化させた実施例22から25では、1時間以上としたときに特に相対発光強度が改善されていることが分かる。
塩基性物質を変更した実施例26から28では、反応性が高くなると考えられる塩基性物質ほど、相対発光強度が改善されていることが分かる。
実施例29から分かるように、溶媒は水のみに限定されず、アルコールであっても、相対発光強度が改善される。
実施例30から35では、第二原料混合物中のβサイアロンの量を実施例1の1/2としており、実施例1よりも平均粒径が大きい。また、実施例30から35では、相対発光強度が実施例1の約2倍となっている実施例もある。一般的には粒子が大きくなるほど発光強度が高くなると考えられるが、粒子が大きく成長する過程で非晶質が生じる可能性も高くなると考えられる。このことから、塩基処理による発光強度を高める効果は、平均粒径が大きく非晶質を生じやすいβサイアロン蛍光体の場合に特に顕著であることがわかる。
本実施形態の製造方法で得られるβサイアロン蛍光体は、特に青色発光ダイオード又は紫外線発光ダイオードを励起光源とする発光特性に優れた照明用光源、LEDディスプレイ、バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。

Claims (13)

  1. アルミニウム、酸素原子及びユーロピウムを含む窒化ケイ素を含む組成物を準備することと、
    前記組成物を熱処理することと、
    前記熱処理された組成物と塩基性物質とを接触させることと、を含む、βサイアロン蛍光体の製造方法。
  2. 前記塩基性物質が、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH及びNHからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記熱処理された組成物と前記塩基性物質との接触は、50℃以上650℃以下の温度で行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記熱処理された組成物と前記塩基性物質との接触は、第一の温度で行うことと、その第一の温度よりも高い第二の温度で行うことを含む請求項3に記載の製造方法。
  5. 前記熱処理された組成物と前記塩基性物質との接触は、前記熱処理された組成物と前記塩基性物質の溶液とを混合することと、該溶液に含まれる溶媒の少なくとも一部を除去することと、を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記塩基性物質と接触した組成物を液媒体で洗浄することを更に含む請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 接触させる塩基性物質の熱処理された組成物に対する重量比率が、0.5重量%以上である請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記組成物の熱処理は、ユウロピウム化合物の共存下で行われる請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 前記組成物の熱処理は、1300℃以上1600℃以下の温度で行われる請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法。
  10. 前記組成物の熱処理は、希ガス雰囲気中で行われる請求項1から9のいずれか1項に記載の製造方法。
  11. 前記組成物の準備は、アルミニウム化合物とユウロピウム化合物と窒化ケイ素とを含む混合物を熱処理することを含む請求項1から10のいずれか1項に記載の製造方法。
  12. 前記組成物を熱処理する前に、準備された前記組成物を窒素雰囲気中で熱処理することを更に含む請求項1から11のいずれか1項に記載の製造方法。
  13. 前記組成物が、式Si6−zAl8−z:Eu(式中、zは、0<z≦4.2を満たす。)で表される組成を有する請求項1から12のいずれか1項に記載の製造方法。
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