JP2017102442A - 二軸配向ポリエステルフィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】主配向軸が流れ方向から傾いており、かつ幅方向位相差ムラが少ないフィルムおよび光学用ポリエステルフィルムを提供する。【解決手段】液晶ディスプレイ向け偏光板の偏光子保護フィルム、位相差フィルム、虹ムラの少ない静電容量タッチパネルのITO基板として好適に用いられ、実装した際に特に画面に対して斜視した際に干渉色のなく高品位である二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。【選択図】なし

Description

本発明は二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
近年、液晶ディスプレイはテレビ、パソコン、デジタルカメラ、スマートフォンの表示装置として幅広く使用されており、特にスマートフォンやカーナビなど屋外で用いられるケースが非常に多くなってきている。液晶ディスプレイを屋外で使用する場合、目の保護のためにサングラスをかける場合がある。その際、表示画像から出射される光は偏光板を介しているため直線偏光であるのに対し、サングラスも偏光により入射光を減衰させているため、表示画像の直線偏光とサングラスの直線偏光の偏光軸が直交している場合に表示画像が真っ暗となる現象が発生する(ブラックアウト現象ともいう)。上記問題を解決するために表示画像の偏光板の外側(視認側)に、λ/4位相差フィルムを設けることにより、直線偏光を円偏光に変調させる方法が知られている。
特開2013−194107号公報 特開2006−069192号公報 特開2012−103651号公報 特開2014−069436号公報 特開2015−004826号公報
しかしながら、従来の位相差フィルムは、縦延伸と横延伸を組み合わせた二軸延伸で製造されているため、原理的に配向軸がフィルムの長手方向に対しほぼ0°または90°方向になる。長手方向から位相をλ/4ずらすためには、長尺の延伸フィルムロールから30〜60°の角度で切り出す必要があるため、生産性やロスが多く問題があった。
また、二軸配向フィルムは、幅方向の端部に行くにしたがってボーイングによる配向軸の傾斜が見られるため、幅方向の両端部を使用することによりロール・トウ・ロールで使用できることが知られている(特許文献1)。しかしこの方法ではフィルムの端部以外は使用できないためロスが非常に大きく、フィルム幅方向の位相差ムラも大きいという問題がある。
また、近年はコスト削減と偏光板の薄膜化の要求が高くなっていることから、位相差フィルムを使用せずに、視認側の偏光子保護フィルムにλ/4位相差の機能を併せ持つことが望まれてきている。これに対し、ほぼ無配向のフィルムを斜め方向に微延伸し、フィルム長手方向に対し配向軸が30〜60°となる長尺の偏光子保護フィルムの製造方法が提案されている(例えば特許文献2〜4)。このような配向軸が傾斜した延伸フィルムを使用することにより、従来のバッチ式の貼り合せではなく、ロール・ツー・ロールの貼合が可能になることから生産性は飛躍的に向上し、ロスも大幅に低下する。 しかしながら、斜め延伸を行うには特殊な斜め延伸装置が不可欠であるため、設備投資額が甚大なものとなる。また、斜め延伸はTAC(トリアセチルセルロース)やCOP(シクロオレフィンポリマー)といった非晶性樹脂に適用が限定されるものであるため、コストが高くフィルム薄膜化が困難である。低コスト化や偏光板の薄膜化を目的として、従来のTACフィルムから二軸配向ポリエステルフィルムへの置換えが盛んに検討されているものの、ポリエステルのような結晶性樹脂に、斜め延伸を行うと、延伸ムラが発生しまた配向不足により耐熱性が悪いものしか得られない。一方、斜め方向の位相差を非常に大きくして干渉ムラを低減させたポリエステルフィルムも知られている(特許文献5)。しかしこの製造方法にて得られたポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムであるため熱寸法安定性が悪く、また、熱処理時のボーイングにより幅方向位相差ムラが発生する問題は解消できていない。現状、これら全ての問題を改善した斜め配向のフィルムは達成できていない。
上記課題に鑑み、本発明は上記の課題を解決したフィルムを提供することを目的とする。
本発明は次の構成からなる。すなわち、位相差が400nm以下であり、配向角が20〜70°のフィルムであって、フィルム幅方向のフィルムの長さが600mm以上であり、フィルム幅方向における位相差の変動幅が50nm/200mm以下であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムである。
本発明によれば、従来の二軸延伸装置で、斜めに配向したフィルムのロスを抑えて作成することができ、位相差フィルム、位相差機能を備えた偏光子保護フィルム、タッチパネル用位相差フィルムなどに使用することができる。また、幅方向の位相差ムラが少ないため、偏光子保護フィルムとして大画面の液晶ディスプレイなどの表示装置に搭載した際にもコントラストや干渉色の変化が少なく、高品位な表示を得ることができる効果を奏する。
屈折率差(Δn:長手方向屈折率−幅方向屈折率)が−0.02>Δn>0.03のときの幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。 屈折率差(Δn:長手方向屈折率−幅方向屈折率)が−0.02<Δnのときの幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。 屈折率差(Δn:長手方向屈折率−幅方向屈折率)がΔn<0.03のときの幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。 フィルム幅方向端部をレールに担持させ、レール幅を広げる方法により行われる幅方向延伸において、幅方向延伸区間とフィルム幅を表した模式図である。 (1)〜(3)を満たす製造方法で得られたフィルムの幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。 図5に示したフィルムを、進行方向を反転させて熱処理したフィルム((1)〜(4)を満たす製造方法で得られたフィルム)の幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。 図6に示したフィルムをトリミングして得たフィルムの幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。 図5に示したフィルムを、進行方向を反転させずに熱処理したときの幅方向における位相差と配向角の分布を示す一例である。
以下、本発明の製造方法によって得られる積層フィルムについて説明する。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、位相差が400nm以下である。本発明でいう位相差とは、(Nx−Ny)×dで表される値である。ここで、Nxは、フィルム又は層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。Nyは、フィルム又は層の前記面内方向であってNxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。dは、フィルム又は層の膜厚を表す。別に断らない限り、前記の位相差を求める際の測定波長は590nmである。位相差は、市販の位相差測定装置(例えば、王子計測機器社製、「KOBRA−21ADH」、フォトニックラティス社製、「WPA−micro」)あるいはセナルモン法を用いて測定できる。フィルムを、偏光方向が平行となるように設けられた2枚の偏光板で挟んで、該偏光板を回転させた時の透過光強度の変化から測定サンプルの位相差と、フィルム上の屈折率が最も大きくなる方向である配向角を計測することができる。本発明でいう位相差と配向角は、測定装置として王子計測機器(株)製「KOBRA−21ADH」を用いて、入射角を0°(フィルム面に対して垂直の方向から光を入射させる)とし、後述する測定方法により求められるものである。本発明でいう配向角とは、フィルム長手方向に対する主配向軸の傾きをあらわすものである(以降、配向角を「フィルム長手方向に対する主配向軸の傾き」や「主配向軸の傾き」という場合がある。)。
偏光子を介して使用する目的のフィルムでは、位相差の値が高くなると液晶ディスプレイに実装した際に位相差に応じた干渉色を生じるようになり、品位が低下するため問題となる。ここで、位相差が400nm以下であれば、そのような干渉色の発生を抑制できる。より好ましくは、200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。位相差の値が小さくなるに従い、偏光子保護フィルムとして液晶ディスプレイに実装した際の干渉色が生じにくくなり、好ましいものとなる。
また、フィルムの位相差は、光の入射角を0°から変えていくと大きく増加していく。本発明において光の入射角度が50°のときに求められる位相差を厚み位相差と呼ぶ。この厚み位相差が300nmを超えると、斜め方向から見たときに虹ムラが観察される場合がある。そのため、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、厚み位相差が300nm以下であることが好ましい。より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下である。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、配向角が20〜70°であることが必要である。配向角が20〜70°であると、ロール・ツー・ロールでλ/4の円偏光を持つフィルムを供給することが可能となるため、生産性が大幅に向上する。より好ましくは30°〜60°であり、40〜50°であるともっとも円偏光への変調効果が高くなる。一方、20°未満もしくは70°より大きいと円偏光への変調効果が低くなり、ブラックアウトが解消されなくなる。またフィルムの幅方向における配向角の差(最大値−最小値)は20°以内であることが好ましく、より好ましくは10°以内である。この差を20°以内とすることにより幅方向の明度のムラが表れるのを抑制することができる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム幅方向における位相差の変動幅が50nm/200mm以下であることが必要である。フィルム幅方向における位相差の変動が50nm/200mmより大きいと、大画面のディスプレイに用いたときに幅方向の場所の違いにより干渉色や明度ムラが発生する。より好ましい値は30nm/200mm以下であり、さらに好ましくは10nm/200mm以下である。本発明においてフィルム長手方向とは、樹脂を押し出してから巻き取るまでのフィルムの進行方向を指し、フィルム幅方向とは長手方向から90°傾いた方向を指す。なお、フィルムがカットされたシート状であるなどフィルムの進行方向がわからない場合には、フィルムの長辺方向をフィルム長手方向とみなす。フィルムの形状が略正方形である場合は、各辺に平行な方向の任意の一方向を長手方向とみなす。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム幅方向のフィルムの長さが600mm以上であることが必要である。フィルム幅方向のフィルム長さが600mm未満であると、大型のフィルム偏光板化に対応することができない。また、PVA製造者から調達可能な汎用PVAフィルムロールの幅方向のフィルム長さは800〜3100mmであるため、二軸配向ポリエステルフィルムのフィルム幅方向のフィルムの長さが600mm未満であると、ロスが多くなるため好ましくない。フィルム長手方向、フィルム幅方向の少なくともどちらか一方のフィルムの長さが5000mm以上であることがより好ましい。上記フィルム長さを有する二軸配向ポリエステルフィルムとすることで、広幅でのフィルム偏光板化に対応することが可能となる。特に、フィルムの長さが5000mm以上であるフィルム長さの方向がフィルムの長手方向であると、フィルムを斜め方向に裁断せずにロール・ツー・ロールでλ/4の円偏光を持つフィルムを供給することが可能となるため、生産性が大幅に向上するため好ましい。このフィルム全領域において位相差が400nm以下、フィルム長手方向に対する主配向軸の傾きが20〜70°、フィルム幅方向における位相差の変動が50nm/200mm以下であることが求められる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、結晶性樹脂を主成分とする層と非晶性樹脂を主成分とする層が交互に3層以上積層されていることが好ましい。特に、結晶性樹脂はDSCにおいて結晶融解熱量20mJ/mg以上であるポリエステル、非晶性樹脂はDSCにおいて結晶融解熱量5mJ/mg以下である共重合ポリエステルであることが好ましい。このような構成であると熱処理工程において位相差が低減して幅方向の位相差が均一化しやすくなる。また、より好ましい積層数は50層以上1000層以下であり、平均層厚みが10〜500nmの範囲にあることが好ましい。原因はまだ明らかになっているわけではないが、層厚みがこの範囲にあると幅方向の位相差変動は低くなる効果が得られる。また、積層数が多くなるとそれにより干渉反射が生じるようになるが、どの帯域に発生させるかはフィルム厚みと積層厚みにより任意に変更することができる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、長手方向と幅方向の機械強度の絶対値が1.5GPa以下であることが好ましい。長手方向と幅方向の機械強度の絶対値が1.5GPaより大きいと、異方性が強すぎるために熱収縮率が高くなるため好ましくない。
以下に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの好ましい製造方法について説明するが、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムはかかる例により製造されたフィルムに限定して解釈されるものではない。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸延伸工程においてボーイングを顕著に発生させて巻き取る工程(A)と、巻き取ったフィルムを、進行方向(製膜方向ともいう)が逆となるように熱処理を行う工程(B)を有することが好ましい。なお、工程Aと工程Bとの間、もしくは工程Bの後には、本発明の効果を阻害しないものであれば任意の工程を含んでいてもよい。
(工程A)
工程Aは、未延伸フィルムに対して二軸延伸と熱処理を行う。二軸延伸と熱延伸は、以下(1)〜(3)の工程を順に含むことが好ましい。
(1)ポリエステル樹脂を溶融した後、長手方向および幅方向への二軸延伸を行う工程
(2)二軸延伸後、熱処理Aを行う工程
(3)熱処理A後、ポリエステルフィルムを巻き取る工程
長手方向への延伸(長手方向への延伸は、縦延伸と言う場合がある)は、通常は、ロールの周速差により施される。この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロールを使用して多段階に行っても良い。延伸倍率は厚みムラや、後述する横倍率で破れが発生しない範囲で行われる。用いる樹脂によって延伸倍率は異なるが、生産性の点から2.5〜6.5倍の範囲で行われるのが好ましい。また、延伸温度としてはポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+60℃の範囲が好ましい。特に、ポリエステルフィルムが積層ポリエステルフィルムである場合、積層ポリエステルフィルムを構成する最表層樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+60℃の範囲が好ましい。次にこのフィルムを幅方向に延伸(幅方向への延伸は、横延伸と言う場合がある)を行う。幅方向への延伸は、フィルム幅方向端部をレールに担持させ、レール幅を広げる方法(テンター方法)により行われることが好ましい。この時の延伸倍率は、厚みムラや破れが発生しない範囲で、かつ、フィルム幅方向中央部の、屈折率差(Δn:長手方向屈折率−幅方向屈折率)が、以下の式(i)を満たしていることが好ましい。
式(i) −0.02>Δn>0.03
Δnがこの範囲にあると、長さ方向と幅方向の配向が等方であるために、加熱によりボーイングが顕著に発生しやすくなり、幅方向で主配向軸の傾きが30〜60°の範囲が広くなる。図1に、−0.02>Δn>0.03の条件で製膜した厚み15μm、ポリエチレンテレフタレートの、幅方向における位相差と配向角の分布を示す(便宜的に幅方向の中心部分を0、右手方向を+、左手方向を−とする)。また、図2に−0.02<Δnの条件で、図3にΔn<0.03の条件で、製膜した厚み15μm、ポリエチレンテレフタレートの、幅方向における位相差と配向角の分布を示す。Δnが−0.02よりも低い場合、加熱によりボーイングが発生しにくくなるため、主配向軸の傾きを大きくするのが困難である(図2)。また、Δnが0.03よりも大きい場合、ボーイングは顕著に発生するものの、幅方向において配向角が70°よりも大きくなる領域が広くなるため好ましくない(図3)。−0.015>Δn>0.015の範囲であると、ボーイングがより起こりやすく、配向角を20〜70°の範囲に制御しやすいため好ましい。
本発明の製造方法において、横延伸は、段階昇温延伸で行うことが好ましい。通常の横延伸では、延伸ゾーンの温度は一定に設定されているが、段階昇温延伸ではテンターゾーンを数セクションに分割して、徐々に昇温して延伸する方法である。また、本発明の製造方法において、横延伸は、図4に示すフィルム幅方向端部をレールに担持させ、レール幅を広げる方法により行われる幅方向延伸において、レール幅Xが以下の関係式を満たすことが好ましい。
X(50%)≧Xmin+a×(Xmax−Xmin)×0.5
(1.9≧a≧1.1)
Xmax:幅方向延伸終了点のレール幅
Xmin:幅方向延伸開始時のレール幅
X(50%):延伸区間の中間地点(50%)の時のレール幅
このとき定数aが1であると、図4に示すような延伸区間に対してレール幅が均一に上昇する延伸パターンである。一方、定数aが1よりも大きくなると、延伸区間長の初期に延伸倍率が大きくなる延伸パターンである。定数aは1.1以上1.9以下が好ましく、より好ましくは1.4以上1.7以下が好ましい。定数aが1.1未満もしくは1.9より大きいと、配向角20〜70°の領域が少なくなり好ましくない。
また、X(50%)の前後の延伸点において、以下の式(iii)を満たす点を複数もっていても問題ない。
(iii) X≧Xmin+a×(Xmax−Xmin)×L/Lmax
延伸区間長Lとは、横延伸開始点から、フィルム進行方向への任意の点までの長さを示すものであり、横延伸開点から横延伸終了点までの長さをLmaxとする。また、横延伸開点から横延伸終了点までの長さの半分の値をL(50%)とする。また、任意の延伸区間長Lのときのレール幅をXとし、横延伸開始点のレール幅をXmin、横延伸終了点のレール幅をXmax、延伸区間長L(50%)のときのレール幅をX(50%)とする。また、横延伸終了点は、熱処理Aに入る前における最も高倍率な点を示しており、熱処理A後にさらに幅方向に延伸もしくは弛緩してもそれは含まれない。
また、延伸区間長の初期に延伸倍率が大きくなる延伸パターンにおいて、延伸開始点の横延伸温度(T0)と、延伸終了点の横延伸温度(T)が以下の式(iv)を満たすことが好ましい。
(iv) 60>T2−T1>15
(i)〜(iv)を満たす製造方法により得られた二軸配向フィルムの幅方向の位相差と配向角の分布を図5に示す。図1において、配向角の分布がV字状だったのに対し、(ii)(iii)を満たすことにより、主配向軸の傾きが20〜70°の領域が幅方向で広がっているため好ましい。また、このような横延伸方法をとると、その後に熱処理を行っても配向角の分布形状はほとんど変化しないため好ましい。さらにこのフィルムを横延伸温度以上〜融点−60℃の温度で熱処理Aを行い、室温まで冷やして巻き取られる。
(工程B)
工程Bは、工程Aにて得られたフィルムを巻き取った後、工程Aのフィルム進行方向と反対方向に巻き出し、熱処理Aよりも10〜100℃高温で熱処理を行う。より好ましくは熱処理Aよりも40〜80℃高温であることが好ましい。図6に、図5の幅方向の位相差と幅方向分布を持つフィルムに対し、進行方向を反転させて熱処理Aよりも60℃高温で熱処理を行ったときの配向角と位相差の幅方向分布の一例を示す。このフィルムの幅方向中央部(図6において全幅に対して22%)と端部(図6において全幅に対して6%ずつ)をトリミングして除去し、得た2丁のフィルムは、広幅において配向角20〜70°であり、図5のと比べると大幅に位相差が均一化されている(図7)。これは、工程Aで発生する位相差ムラに対し、工程Bで発生する位相差ムラが打ち消し合うことによるものと推測される。そのため、工程Bの熱処理温度が熱処理Aよりも10℃未満であると、打ち消し合うボーイングが弱すぎるために発生せず、幅方向位相差ムラは解消されない。工程Bの熱処理温度が熱処理Aよりも100℃以上であると、工程Bのボーイングが強くなりすぎ位相差ムラが悪化するため好ましくない。また、工程Aの後に巻き返しせずにそのまま熱処理Bを行っても、幅方向の位相差ムラは解消されない(図8)。
本製造方法においては、工程Aと工程Bにてわざと大きなボーイングを発生させ、それぞれのボーイング応力を直交させることにより、幅方向の位相差を減算しあい、低位相差と幅方向の位相差ムラを解消するものである。そのため、工程Aを経たフィルムの配向角が、中央部と端部を除いて20〜70°の範囲にないと、工程Bにて位相差は減算されずに位相差ムラは解消されないため好ましくない。
また、B工程においては、熱処理温度を工程Aよりも高くすることによりボーイングを発生させることから、熱処理工程はフィルム両端を把持するテンター方式であることが好ましい。ロール搬送による熱処理では両端がフリーになるため、幅方向のフィルムの熱収縮が激しく、フィルムの表面性と幅方向の物性ムラを損なうことから好ましくない場合がある。
例えば特許1543781号公報には、通常の二軸延伸フィルムを巻き取った後に、走行方向を逆転させて再度熱処理を施し、ボーイングの影響を解消する方法が開示されている。一方で、この特許には熱処理の温度しか条件が示されておらず、ボーイング曲線が半分以下となるように2段階目の熱処理を行うのが良いと記載されているが、本特許では1段階目の熱処理工程で極度にボーイングを発生させているため、2段階目の熱処理工程でボーイング曲線はほとんど変化しないことからも発明の意図は異なる。つまり1段階目で発生させたボーイングによる配向角変化は残しつつも、幅方向の位相差ムラのみを2段階目の熱処理で解消するのが目的である。
また、本製造方法によると、フィルム中央部分の主配向軸の傾きが20〜70°の範囲になることはないため使用することができず、前述のとおり中央部の不必要な部分を切除して使用することが好ましい。また、フィルム端部はテンターの把持に近いところであることから、配向ムラが大きく使用に適さないため、必要に応じて切除することが好ましい。本発明の製造方法では、フィルム中央部分の主配向軸の傾きが20〜70°の範囲になる領域を少なくできるため、フィルムロスを少なくできる。特に、フィルム幅に占める、フィルム長手方向に対する主配向軸の傾きが20〜70°であるフィルム幅方向の領域が全フィルム幅の60%以上となるように製造すると、生産ロスを減らすことが可能となるため好ましい。
フィルム中央部分の主配向軸の傾きが20〜70°の範囲になる領域を少なくするには、工程Aを経て巻き取られたフィルムは、エッジ部分を除く全幅をそのまま巻き返して工程Bに通すことが好ましい。好ましくはフィルム幅の80%以上を使用することが好ましく、さらに好ましくは90%である。例として全幅フィルムの内、中央部分と左右部分で均等に3分割して巻き取り、それぞれを工程Bに通した場合、中央部分のフィルムは主配向軸の傾き20〜70°の領域が少ないことから本発明の好ましい効果を奏しない。また、中央部分を除いた左右部分は、主配向軸の傾き20〜70°の領域が多いものの、幅方向の位相差ムラと配向角左右対称になっていないことから、工程Bを通しても幅方向で位相差が均一に減算されず、本発明の好ましい効果を奏しない。
本発明においてポリエステルとしては、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合体であるホモポリエステルや共重合ポリエステルのことをいう。ここで、ホモポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンジフェニルレートなどが代表的なものである。特にポリエチレンテレフタレートは、安価であるため、非常に多岐にわたる用途に用いることができ好ましい。
また、共重合ポリエステルとは、2種以上のジカルボン酸成分もしくはジオール成分が用いられ、または、ジカルボン酸成分、ジオール成分に加えてヒドロキシカルボン酸成分が用いられた樹脂をいい、例えば、次にあげるジカルボン酸構造単位を与える成分とジオール構造単位を与える成分より選ばれる少なくとも3つ以上の成分からなる重縮合体が挙げられる。ジカルボン酸骨格を有する成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。グリコール骨格を有する成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールとそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。本発明においては、正面から観察した際の位相差は任意に変更できるが、入射角を傾けた際の厚み方向の位相差は低減できないため、これらの共重合ポリエステルをそのまま、ないし積層すると、厚み位相差を低減することができるためが好ましい。特に、熱処理温度を共重合ポリエステルも高温にしておくと、配向緩和が進むためより好ましい。また、共重合ポリエステルが非晶性ポリエステルであるとより好ましい。非晶性ポリエステルであると、配向緩和後の加熱でも結晶化が起こらないため、加熱白化しにくい。非晶性ポリエステルは、先述したポリエステルの中から、示差熱量分析(DSC)において昇温速度5℃/分で昇温させたときの結晶融解熱量が1mJ/mg未満であることが必要であり、特に、ジカルボン酸成分とジオール成分を合わせて3種以上用いて重縮合して得られる共重合ポリエステルであることが好ましい。
また、非晶性ポリエステルとしては、共重合成分としてイソフタル酸を含むポリエステルが好ましい。イソフタル酸を含むポリエステルは、結晶性を低下させることができるために、容易に位相差を抑制することができ、かつ、二軸延伸しても厚み方向の屈折率が低下しにくいために、入射角を変えた時の虹ムラも発生しにくくなる。イソフタル酸の好ましい共重合量は、全カルボン酸成分の中で5モル%以上35モル%以下である。5モル%未満では効果がなく、35モル%より大きくすると重合が困難となる。また、他の好ましい非晶性ポリエステルとしては、共重合成分としてスピログリコールを含むポリエステルが好ましい。スピログリコールを含むポリエステルは、二軸延伸やボーイングによるフィルム変形において配向しにくいため幅方向の位相差変動が生じにくい。また、ガラス転移点が上がる効果があるため熱収縮率が低減しやすい。スピログリコールの好ましい共重合量は、全グリコール成分の中で5モル%以上40モル%以下である。5モル%未満では効果がなく、40モル%より大きいと熱劣化による成形不良が生じやすくなる場合がある。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、厚みは特に限定されないが、取扱い性と機能性の点から10〜300μmの範囲にあることが好ましい。また、フィルム厚みが厚くなるほど厚み位相差が大きくなり、入射角を変えたときに虹ムラが観察されやすくなることから、より好ましい厚みは10〜100μmの範囲である。また、偏光子保護フィルムの用途では、位相差低減のためとパネル薄膜化のためフィルム厚みは薄い方が有利であり、好ましいフィルム厚みは10〜25μmである。また、タッチパネル用のITO基材フィルムとしては飛散防止機能が必要であることから20〜200μmのフィルム厚みが好ましい。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、厚みを自由に設定することが可能でありながら、低位相差であり、主配向軸が長手方向より傾いているため、サングラスを装着した際のブラックアウト現象を引き起こすことがなく、タッチパネル用の位相差フィルムや偏光子保護フィルムに用いられることができる。偏光子としては、例えば市販のPVA中にヨウ素を含有させて配向させて作成されたPVAシートを用いることができる。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは偏光子と貼り合わされて偏光板として用いられることが好ましい。
また、偏光子保護フィルムに用いられる場合、250〜380nmの透過率が30%以下であることが好ましい。より好ましくは15%以下である。250〜380nmの紫外光の遮蔽が求められる理由としては、偏光板内の偏光子の劣化を抑制するためである。偏光子とは、特定の振動方向のみを有する光を透過させる機能を有するものであり、ヨウ素や二色性染料などで染色したポリビニルアルコール(PVA)系フィルムが最も多く使用されている。この偏光子は、有機材料により構成されているため、紫外線によって劣化されやすいという問題がある。特に、250〜380nmの波長の紫外線を照射することで劣化が起こるため、この領域における紫外線光を偏光子に届く手前で遮蔽することにより、偏光子の劣化、あるいは液晶の劣化を防止することが可能となる。また、画像表示装置のバックライトとして蛍光管を用いている場合、偏光板にバックライトの蛍光管から直接光が照射されるため、偏光子の保護膜に紫外線遮蔽性能を付与することは必須となる。光線を遮蔽する機構として、多層構造によって紫外光を反射させることが好ましい。反射波長の設定は、上述した通り多層積層フィルムの各層の層厚みによって決定される。反射以外に吸収を併用してもよい。光線吸収を利用する場合、本発明の好ましい態様である積層した二軸配向フィルムの最外層を含むA層もしくは内層であるB層あるいはその両方に添加してもよい。中でも、B層にのみ紫外線吸収剤を含有することが最も好ましい。最外層に紫外線吸収剤を添加すると、添加した紫外線吸収剤がフィルム表面に析出する現象、およびそれが揮散する現象が発生しやすくなり、これによってフィルム製膜機が汚染され、析出物が加工工程において悪影響を及ぼすため好ましくないものである。内層にのみ添加することで、最外層が紫外線吸収剤の揮散を防ぐフタとしての役割を果たすため、析出現象が起こりにくくなり好ましいものである。
フィルム中に含有される紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤が好ましい。無機系の紫外線吸収剤はベースとなる樹脂と相溶せずヘイズの上昇につながり、液晶表示した際の視認性を低減させることに繋がるため、好ましくない。
添加する有機系紫外線吸収剤としては、サリチル酸系、たとえば、フェニルサリチレート、t−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート等、ベンゾフェノン系、例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−オクトキベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−ドデシロキシベンゾフェノン、2−2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン等、ベンゾトリアゾール系、たとえば、2−(2´−ヒドロキシ−5´−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−5´−t―メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´、5´−ジ―t―ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´―t―ブチル―5´―メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´、5´−ジ―t―ブチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール等、天然物系(たとえば、オリザノール、シアバター、バイカリン等)、生体系(たとえば、角質細胞、メラニン、ウロカニン等)が挙げられる。これら有機系紫外線吸収剤は、1種類、または2種類以上併用して用いることが出来る。これらの有機系紫外線吸収剤には紫外線安定剤として、ヒンダードアミン系化合物を併用することが出来る。
紫外線吸収剤の含有量は、2.0wt%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0wt%以下であり、さらに好ましくは0.6wt%以下である。
また、ポリエステル中には、紫外線吸収剤以外のその他各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などが本来満たすべきフィルム特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、タッチパネル用フィルムにも用いられることが好ましい。タッチパネルは、抵抗膜式、光学式、静電容量式のいずれでもよい。静電容量式には、投影型と表面型に大別できる。マルチタッチが可能な観点から投影型静電容量式が最も好ましい。導電層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、インジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、スズ、などの金属およびこれらの合金や、酸化錫、酸化インジウム、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化カドミウム、インジウムティンオキサイド(ITO)などの金属酸化物膜、ヨウ化銅などの複合膜によって形成することができる。これらの透明導電膜は真空蒸着、スパッタリング、反応性RFイオンプレーティング、スプレー熱分解法、化学メッキ法、電気メッキ法、CVD法、コーティング法あるいはこれらの組み合わせ法で薄膜を得ることができる。その他、導電性高分子としては、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリフェニレン・ビニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレン、ポリへテロサイクル・ビニレン、特に好ましくは、(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)である。その他、カーボンナノチューブやナノ銀なども高い導電性を示すため好ましい。これらは、有機溶媒に溶かすことにより、コーティング法で基材に塗布することができる。コーティング法は、ハードコート層の方法と同様に種々の方法を採用することができる。汎用性の観点から、ITOが好ましい。
アウトセルタイプのタッチセンサーとしては、大別してガラスセンサーとフィルムセンサーに分けられる。ガラスセンサータイプとしては、GG、GG2、G2、G1Mがある。GGとはカバーガラス/ITO/ガラス/ITO、GG2とはカバーガラス/ガラス/ITO/絶縁層/ITO、G2(OGS)とはカバーガラス/ITO/絶縁層/ITO、G1Mとはカバーガラス/ITOを基本構成としたものである。
タッチパネルを搭載した液晶表示装置の場合、偏光サングラス等の偏光レンズを通すとブラックアウトしてしまうことから位相差フィルムが必要である。本発明の二軸延伸フィルムは、液晶表示装置の偏光軸とも偏光レンズの偏光軸からも配向角が20~70°傾いているため、位相差フィルムとして機能する。本発明の二軸配向フィルムをタッチパネルと液晶パネルの間に用いることにより、ブラックアウト現象を解消でき、干渉色もなく、場所による明度のムラも発生しないため好ましい。この場合は、特に、ガラスセンサータイプで用いられることが好ましい。
一方、フィルムセンサータイプとしては、GFF、GF2、G1F、GF1、PFF、PF1があり、いずれを用いてもよい。また、GFFとはカバーガラス/ITO/フィルム/ITO/フィルム、GF2とはカバーガラス/ITO/フィルム/ITO、またはカバーガラス/ITO/絶縁層/ITO/フィルム、G1Fとはカバーガラス/ITO/フィルム、GF1とはカバーガラス/ITO/フィルム、PFFとはカバープラスチック/ITO/フィルム/ITO/フィルム、PF1とはカバープラスチック/ITOを基本構成としたものである。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムフィルムは、ITOの支持基材フィルムとして用いることが好ましい。
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次のとおりである。
(1)フィルム位相差
位相差は、王子計測機器(株)製、「KOBRA−21ADH」を用い、フィルムの幅中央部から両端部にかけて200mm間隔で、入射角0°における波長590nmの位相差を測定した。平均位相差とは全測定点の平均値で表す。
(2)位相差ムラ
位相差ムラの測定法は(1)に準じる。フィルムの幅中央部から両端部にかけて200mm間隔で位相差を測定していき、その中で、隣り合う位相差の差の絶対値最も大きい値を位相差ムラとする。
(3)主配向軸の傾き
主配向軸の傾きの測定法は(1)に準じる。フィルム長手方向が本測定装置にて定義されている角度0°となるように、測定サンプルを装置に設置し、フィルムの幅中央部から両端部にかけて200mm間隔で、入射角0°における波長590nmの配向角を測定した。その中で最も大きい値を主配向軸の傾き(最大)、最も小さい値を主配向軸の傾き(最小)、平均値を主配向軸の傾きで表す。また、KOBRAで測定した際、配向角は+90〜−90°の値で出力されるが、すべて正数に変換して表すものとする。
(4)全幅に対する有効幅の比率
(3)の測定法に準じて全幅の主配向軸の傾きを求め、全幅に対し、主配向軸の傾きが20〜70°である比率を算出した。
(5)結晶融解熱量・ガラス転移温度
示差熱量分析(DSC)を用いてJIS−K−7122(1987年)に従って、測定サンプルのDSC曲線を測定した。試験は、25℃から290℃まで5℃/minで昇温し、その際のガラス転移温度と結晶融解熱量を計測した。40〜140℃の範囲内にある、2か所の変曲点を接線で結び、その中間点をガラス転移温度とした。
装置: セイコーインスルメンツ(株)製:SII ロボットDSC(モデルDSC6220)
データ解析”Standard Analysis”
サンプル質量:5mg。
(6)熱収縮率
フィルムロールの幅方向中央部が幅方向中央となるように幅方向150mm、長手方向150mmのフィルム試料を採取した。それぞれの試料の中央部に、長手方向、幅方向それぞれについて、原長(L0)として100mmの間隔となるように一対の印をつけた。試料をオーブン中で150℃にて30分間熱処理をした後に室温まで冷却し、一対の印間の距離を測定し、処理後の長さ(L1)とした。それぞれの位置・方向における熱収縮率は、100×(L0−L1)/L0に従い算出した。得られた結果を長手方向・幅方向の平均値を算出し、フィルムの熱収縮率とした。
(7)幅方向明度ムラ
LEDトレースボード上に、クロスニコルとなるように偏光フィルムを直交させる。その偏光フィルムの間に、積層フィルムを長手方向が偏光フィルムの偏光軸と一致するようにして挟み込む。このときの入射角度を真上から目視で観察したときに下記判定方法で判定した。
A:中央部から端部にかけて明度の差がほとんどない。
B:中央部から端部にかけて明度の差がわずかにある。
C:中央部から端部にかけて明度の差がはっきりと確認できる。
(8)視認性
(7)と同様の方法でサンプルを用意し、入射角度を真上から観察したときと40°傾けて観察したときの着色を下記判定方法で判定した。
A:真上および40°傾斜観察でも全く着色は見られない。
B:真上から観察したときは着色ないが、40°傾斜観察ではわずかに黄色い着色が見られる。
C:真上から観察したときは着色ないが、40°傾斜観察では黄色から桃色の着色が見られる
D:真上および40°傾斜観察でもはっきりとした着色が見られる。
(実施例1)
融点が258℃、結晶融解熱量40mJ/mgのポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、単軸押出機に投入し、280℃で溶融させて、混練し、ダイから押し出した。ダイから押し出した溶融シートを、25℃に冷却された回転ドラムに静電印可により密着固化させ、平滑なキャストフィルムを得た。得られたキャストフィルムを、予熱ロール65℃、延伸ロール85℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、フィルム長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、100〜120℃の温度でフィルム幅方向に3.4倍延伸した。ここでの延伸区間は3セクションに分け延伸倍率と延伸温度は表1のパターン1に示す通りとした。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で170℃の熱風にて熱処理Aを行い、室温まで徐冷後、巻きとった。
このフィルムを進行方向が逆となるようにして送り出し、再びテンター内で235℃の熱風にて熱処理を行い、その際幅方向に3%の弛緩処理を施し、室温まで徐冷後、巻きとり厚さ25μmのフィルムを少なくとも100m以上得た。
得られたフィルムを、全幅に対して中央部を21%、両端部をそれぞれ7%トリミングして除去し、幅700mmの2丁のフィルムを得た。
そのうちどちらか一方をトリミングした部位以外の全幅の位相差を、KOBRAを用いて測定した。その結果を表2に示す。全幅にわたって、主配向軸の傾きが50〜68°であり、また幅方向の位相差の変動も小さいものであった。視認性は、正面から観察したときに着色は見られなかったものの、入射角を傾けると着色が目立った。
(実施例2)
横延伸条件を表1のパターン2に示す通りとした以外、実施例1と同じとした。結果を表2に示す。全幅にわたって主配向軸の傾きが45〜66°であり、また幅方向の位相差の変動も小さいものであった。視認性は、正面から観察したときに着色は見られなかったものの、入射角を傾けると着色が目立った。
(実施例3)
横延伸条件を表1のパターン3に示す通りとした以外、実施例1と同じとした。結果を表2に示す。実施例1よりも主配向軸の傾きが45°に近くなり、幅方向の位相差の変動は良化した。
(実施例4)
熱処理温度横Aを200℃とした以外、実施例3と同じとした。結果を表2に示す。主配向軸の傾きが45°に近いが、幅方向の位相差の変動は実施例3よりも悪化した。
(実施例5)
吐出量のコントロールによりフィルム厚みを12μmとなるようにした以外は、実施例3と同じとした。結果を表2に示す。フィルム厚みが薄くなったことにより厚み方向位相差が低減し、わずかに視認性が良化した。
(実施例6)
イソフタル酸が17モル%共重合されたPET(融点215℃、以降PET/Iともいう)を用いた。工程Aにおける熱処理温度155℃とし、工程Bにおける熱処理温度を195℃とした以外、押出・延伸・巻き取り・トリミング工程は実施例5と同じに行った。結果を表2に示す。PETと比べて結晶配向しにくいPET/Iを使用することにより、位相差や幅方向の位相差の変動は低減した。幅方向明度ムラや視認性も非常に良好であった。
(実施例7)
PETとPET/Iを別々の押出機に投入して、複合ピノールを用いて合流し、内層がPET/I、表層がPETの3層となる積層フィルムを作成した(積層比は1/3/1)。条件は実施例5と同じとした。結果を表2に示す。熱処理温度を上げたことにより、熱収縮率は実施例6よりも低減した。
(実施例8)
PETとスピログリコールが全ジオール成分に対して20モル%共重合されたPET(融点なし、以降PET/SPGともいう)を別々の押出機に投入して、複合ピノールを用いて合流し、内層がPET/SPG、表層がPETの3層となる積層フィルムを作成した(積層比は1/3/1)。条件は実施例7と同じとした。結果を表2に示す。原料の変更により、幅方向位相差の変動と熱収縮率が実施例7よりも低減した。
(実施例9)
PETとPET/SPGを別々の押出機に投入して、スリット数251個の積層装置にて合流させて、厚み方向に交互に251層積層された積層体を得た。積層体とする方法は、特開2007−307893号公報〔0053〕〜〔0056〕段の記載に従って行った。ここでは、スリットの長さおよび間隔は全て一定とした。また、口金内部での拡幅比である口金リップのフィルム幅方向長さを口金の流入口部でのフィルム幅方向の長さで割った値が2.5となるようにした。他の条件は実施例8と同じとした。結果を表2に示す。積層数の増加により、幅方向位相差の変動が実施例8よりも低減した。
(比較例1)
実施例3の工程A後のフィルムを、全幅に対して、中央部を21%、両端部をそれぞれ7%トリミングして除去し、幅700mmの2丁のフィルムを得た。そのうちどちらか一方をトリミングした部位以外の全幅の位相差を、KOBRAを用いて測定した。その結果を表3に示す。主配向軸の傾きは43〜55°であったものの、位相差および幅方向の位相差の変動が大きく、使用に耐えないものである。
(比較例2)
実施例3の工程A後のフィルムを巻き取らず、そのまま連続して2番目のテンターに通して235℃の熱風にて熱処理を行った以外は実施例3と同じとした。結果を表2に示す。フィルムの巻き返しなしに熱処理行う場合、位相差の減算効果が得られないため、幅方向の位相差の変動は非常に大きく、使用に耐えないものである。
(比較例3)
横延伸条件を表1のパターン4に示す通りとした以外、実施例1と同じとした。結果を表3に示す。フィルム幅方向において、主配向軸の傾きが70°以上の部分が多いため幅方向明度ムラが悪化した。
(比較例4)
横延伸条件を表1のパターン5に示す通りとした以外、実施例1と同じとした。結果を表3に示す。フィルム幅方向において、主配向軸の傾きが80°以上の部分が多いため、視認性においてブラックアウトは解消されず位相差フィルムとして使用できない。
(比較例5)
実施例3の工程A後のフィルムを、中央部からカットして2丁のフィルムを得た。そのうちどちらか一方を進行方向が逆となるようにして送り出し、再びテンター内で235℃の熱風にて熱処理を行い、その際幅方向に3%の弛緩処理を施し、室温まで徐冷後、巻きとり、両端を全幅に対してそれぞれ14%トリミングして幅700mm、厚さ25μmのフィルムを得た。その結果を表3に示す。幅方向の位相差の変動も大きく、また、主配向軸の傾きの変動も大きく使用に耐えないものである。
(比較例6)
実施例3の工程A後のフィルムを、両端部を全幅に対してそれぞれ6%トリミングしてフィルムを得た。このフィルムを進行方向が逆となるようにして送り出し、再びテンター内で235℃の熱風にて熱処理を行い、その際幅方向に3%の弛緩処理を施し、室温まで徐冷後、巻きとり、両端をトリミングして幅700mm、厚さ25μmのフィルムを得た。その結果を表3に示す。幅方向の位相差の変動も大きく、また、主配向軸の傾きの変動も大きく使用に耐えないものである。
(比較例7)
実施例3の熱処理温度Aを223℃とした以外、実施例3と同じとした。結果を表3に示す。主配向軸の傾きは45°に近いが、位相差の減算効果はほとんどなく、幅方向の位相差の変動および位相差は非常に大きいものである。
(比較例8)
縦延伸倍率を3.5倍、横延伸倍率を3.6倍、横延伸条件を表1のパターン4に示す通りとし、工程Bの熱処理温度を235℃とした以外、実施例1と同じとした。結果を表3に示す。フィルム幅方向において、主配向軸の傾きが70°以上の部分が多く、配向角ムラも大きいため、工程Bを経ても幅方向明度ムラおよび視認性は悪いものであった。
Figure 2017102442
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本発明の製造方法によって得られた積層フィルムは偏光子用、偏光板用または位相差板用保護フィルムの基材、またはタッチパネル用ITO基板、ガラス飛散防止用フィルム、AR基材、LCD有機ディスプレイに用いるフィルタとして好適に使用できる。特に、大型液晶表示装置の構成部材である偏光子、偏光板、位相差板の保護フィルムとして好適である。

Claims (8)

  1. 位相差が400nm以下であり、配向角が20〜70°のフィルムであって、フィルム幅方向のフィルムの長さが600mm以上であり、フィルム幅方向における位相差の変動幅が50nm/200mm以下であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
  2. フィルム長手方向、フィルム幅方向の少なくともどちらか一方のフィルムの長さが5000mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
  3. 結晶性樹脂を主成分とする層と非晶性樹脂を主成分とする層が交互に3層以上積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
  4. 偏光子保護フィルムに用いられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
  5. タッチパネル用の位相差フィルムに用いられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルィルム。
  6. 以下(1)〜(4)の工程を順に含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
    (1)ポリエステル樹脂を溶融した後、長手方向および幅方向への二軸延伸を行う工程
    (2)二軸延伸後、熱処理Aを行う工程
    (3)熱処理A後、ポリエステルフィルムを巻き取る工程
    (4)巻き取ったフィルムを、(1)〜(3)の工程時のフィルム進行方向と反対方向に巻き出し、前記熱処理Aの熱処理温度よりも10〜100℃高い温度で熱処理Bを行う工程。
  7. 前記二軸延伸が、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸であることを特徴とする請求項6に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
  8. 前記(1)の二軸延伸工程において、幅方向への延伸が、フィルム幅方向端部をレールに担持させ、レール幅を広げる方法により行われるものであって、レール幅Xが以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項6または7に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
    X(50%)≧Xmin+a×(Xmax−Xmin)×0.5
    (1.9≧a≧1.1)
    Xmax:幅方向延伸終了点のレール幅
    Xmin:幅方向延伸開始時のレール幅
    X(50%):延伸区間の中間地点(50%)の時のレール幅
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