以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る放射線像変換パネルを有する放射線イメージシステム100の構成を示す全体図である。図1に示される放射線イメージシステム100は、放射線を被写体へ照射し、透過した放射線を画像(放射線画像)へ変換するシステムであり、例えば医療分野における画像診断や工業用非破壊検査などに用いられる。図1に示されるように、放射線イメージシステム100は、放射線イメージセンサ1、放射線源2、電子機器3及び情報処理装置4を備えている。
放射線源2は、放射線IXの線源であり、例えばX線を出力する。放射線イメージセンサ1は、放射線源2から出力された放射線IXを入力する。放射線イメージセンサ1と放射線源2との間には、被写体(不図示)が配置される。
放射線イメージセンサ1は、放射線像変換パネル10及び光検出部40を備えている。放射線像変換パネル10は、平板状の部材であり、入射した放射線IXに応じた光を出力する。放射線像変換パネル10の詳細は後述する。
光検出部40は、後述する放射線像変換パネル10の蛍光体層17側に対向して配置され、蛍光体層17(図3参照)から発される光を検出する。光検出部40は、光を入射する撮像面40a(図2参照)を備えている。光検出部40は、撮像面40aに入射された光に応じて電気信号IEを出力する。光検出部40としては、例えば、基板上にフォトダイオード(PD)と薄膜トランジスタ(TFT)とを配列してなるTFTパネル、CCD(Charge-Coupled Device:電荷結合素子)やCMOS(ComplementaryMOS:相補型金属酸化膜半導体)などの固体撮像素子のほか、撮像管などを用いることができる。これにより、放射線イメージセンサ1は、被写体を透過した放射線IXに応じた電気信号IEを電子機器3へ出力する。また、光検出部40として、上述のCCDやCMOSなどの固体撮像素子を用いる際は、ファイバオプティクプレート(FOP:数ミクロンの光ファイバを束にした光学デバイスであり、例えば、浜松ホトニクス社製J5734)を介して放射線像変換パネルに接合してもよい。
電子機器3は、放射線イメージセンサ1から出力された電気信号IEに対して所定の処理(例えばデジタル化)を行い、情報処理装置4へ出力する。なお、電気信号IEは、情報処理装置4までアナログ信号で送られてもよいし、光検出部40によりデジタル信号に変換されてもよい。また、電子機器3では、取得した電気信号IEについて、デジタル化に限らず、それ以外の処理を行ってもよい。また、電子機器3は、光検出部40の作動を制御してもよい。
情報処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)などの演算部、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びHDD(Hard Disk Drive)などの記憶部、ディスプレイ装置などの表示部、並びに、マウス及びキーボードなどの操作部などを備えるコンピュータである。情報処理装置4は、電子機器3が出力した電気信号IEを画像情報に変換し、放射線画像として表示部に表示したり、画像処理を実行したり、電子機器3が出力した電気信号IEに対応した情報を記憶部に記憶したりする。
上述した放射線イメージシステム100では、以下のようにして放射線画像が取得される。まず、放射線源2から出力された放射線IXは、被写体を透過し、放射線像変換パネル10に入射する。放射線IXは、放射線像変換パネル10によって光に変換される。光は、光検出部40の撮像面40aへと入射する。そして、光検出部40から光に応じた電気信号IEが出力される。出力された電気信号IEは、電子機器3を経て情報処理装置4へと送られ、所定の処理が行われて、放射線画像が取得される。情報処理装置4では、放射線画像が表示部に表示されたり、画像情報が記憶部に記憶されたりする。
図2は、第1実施形態に係る放射線イメージセンサ1の側面図である。図2に示されるように、放射線イメージセンサ1は、放射線像変換パネル10及び光検出部40(TFTパネル)を備える。放射線イメージセンサ1は、放射線像変換パネル10の光出力面側の上面10aと光検出部40の撮像面40aとが直接接合されることにより形成されている。放射線像変換パネル10及び光検出部40は、接着剤により接合されてもよいし、光損失を低減すべく光学結合材(屈折率整合材)を用いてもよい。なお、放射線像変換パネル10と光検出部40は、接合していなくともよい。例えば、固定部材を用いて機械的に両者を組み合わせてもよい。また、必ずしも接触している必要はなく、離間して配置されていてもよい。
放射線イメージセンサ1は、放射線像変換パネル10と光検出部40とを一体にすることができるため、その取扱いが容易になるとともに、光学系を省略することで調整が容易になるという利点がある。
次に、放射線像変換パネル10の詳細を説明する。図3は、第1実施形態に係る放射線像変換パネル10の一部破断斜視図である。図4は、図3のIV−IV線断面図である。図3及び図4に示されるように、放射線像変換パネル10は、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14、金属酸化物層15、第1有機樹脂層16、蛍光体層17及び第2有機樹脂層18を備えた積層体として構成されている。基板11は、表面11a及び裏面11bを有し、蛍光体層17の支持基板として機能する。
積層体には、複数の柱状結晶からなり、入射された放射線IXに応じて光を発する蛍光体層17が含まれる。蛍光体層17は、基板11上であって基板11の表面11a側に設けられている。「基板上」とは、基板11の上方を意味しており、基板11の表面11aに接して設けられることのみならず、基板11との間に層又は空間が介在してもよいことを意味する。本実施形態においては、基板11と蛍光体層17との間に、金属反射層12、誘電体層13、保護層14、金属酸化物層15及び第1有機樹脂層16が介在している。
蛍光体層17は、放射線IXを光に変換する蛍光体を含む。光は、例えば可視光、赤外光、紫外光などである。蛍光体層17の上面(表面17a)は、光を出力する光出力面である。本実施形態においては、蛍光体層17は、Tl(タリウム)又はNa(ナトリウム)などがドープされたCsI(ヨウ化セシウム)の柱状結晶で構成される。なお、蛍光体層17は、TlがドープされたNaI(ヨウ化ナトリウム)、TlがドープされたKI(ヨウ化カリウム)、又は、Eu(ユーロピウム)がドープされたLiI(ヨウ化リチウム)を材料として形成されてもよい。蛍光体層17の厚さは、例えば100〜1000μmであるが、これに限定されない。例えば、蛍光体層17の厚さは、400〜700μmであってもよい。また、蛍光体層17を構成する柱状結晶の平均針径は、3〜10μmであってもよい。
蛍光体層17の大きさは、基板11の厚さ方向から見て基板11よりも小さくされている。厚さ方向に直交する方向の蛍光体層17と基板11の位置関係は、放射線像変換パネル10の厚さ方向から見て蛍光体層17と基板11とが重なる範囲で適宜設定される。
放射線像変換パネル10では、基板11の裏面11b側から放射線IXが入射される。つまり、基板11の裏面11bが放射線入射面である。このため、基板11は、放射線透過性を有する材料で形成される。本実施形態においては、基板11の材料はガラスである。ガラスは、例えば無アルカリガラスや石英ガラス、化学強化ガラスなどである。なお、基板11の材料としては、上記に限定されず、樹脂であってもよい。樹脂は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)やPI(ポリイミド)などである。あるいは、基板11の材料として、アモルファスカーボン又はAl(アルミニウム)を用いてもよい。基板11の厚さは、例えば0.02〜0.6mmである。
基板11と蛍光体層17との間には、金属酸化物層15及び第1有機樹脂層16が形成されている。金属酸化物層15は、基板11上に形成され、導電性を有している。金属酸化物層15は、その表面15aが粗面である。粗面とは、結晶粒(グレイン)及び結晶子(サブグレイン)からなる結晶粒領域構造(グレイン−サブグレイン構造)の面、結晶粒からなる多結晶構造の面、又は、多孔質構造の面のことをいう。図5は、金属酸化物層15の表面構造を示す断面拡大図である。図5の(A)には、結晶粒領域構造が図示されている。結晶粒領域構造では、表面が結晶粒及び結晶子で覆われている。結晶粒は、結晶子で構成されていてもよい。結晶粒の粒径は、例えば200〜350nm程度であり、結晶子の粒径は、例えば20〜50nm程度である。凹凸の高さh1は算術平均粗さで表した場合Ra2.6〜6.0nm程度である。図5の(B)には、多結晶構造が図示されている。多結晶構造では、表面が結晶粒で覆われている。凹凸の高さh2は算術平均粗さで表した場合Ra0.9〜1.5nm程度である。図5の(C)には、多孔質構造が図示されている。多孔質構造では、表面に複数の孔が形成されている。
金属酸化物層15は、蛍光体層17により発される光に対して透明な材料で形成されている。金属酸化物層15は、例えばITO(酸化インジウムスズ)で形成される。なお、金属酸化物層15は、FTO(酸化スズにフッ素をドーパントとして添加)、SnO2(酸化スズ)、ATO(酸化スズにアンチモンをドーパントとして添加)、AZO(酸化亜鉛にアルミニウムをドーパントとして添加)、GZO(酸化亜鉛にガリウムをドーパントとして添加)、IZO(酸化亜鉛にインジウムをドーパントとして添加)又はIGZO(酸化亜鉛にインジウム及びガリウムをドーパントとして添加)で形成された層であってもよい。金属酸化物層15は、厚さが10〜300nm程度の薄膜である。
第1有機樹脂層16は、金属酸化物層15の表面15a上に形成された保護層である。「表面上」とは、表面に接していることを意味する。そして、上述した蛍光体層17は、第1有機樹脂層16上に形成されている。「第1有機樹脂層上」とは、第1有機樹脂層16の上方を意味しており、第1有機樹脂層16の表面に接して設けられることのみならず、第1有機樹脂層16との間に層又は空間が介在してもよいことを意味する。
第1有機樹脂層16の材料は、例えばポリパラキシリレンである。第1有機樹脂層16の材料は、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン、ポリテトラクロロパラキシリレン、ポリフルオロパラキシリレン、ポリジメチルパラキシリレン、ポリジェチルパラキシリレンなどのキシリレン系の材料、ポリ尿素、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂などであってもよい。本実施形態においては、第1有機樹脂層16の厚さは約10μmであるが、これに限定されない。
基板11と金属酸化物層15との間には、金属反射層12が形成されている。金属反射層12は、蛍光体層17から発された光を反射させる。金属反射層12は、蛍光体層17から基板11側へ発された光を、蛍光体層17の上面17aである光出力面に向けて反射させる。金属反射層12は、例えば、Au(金)、Ag(銀)、Alなどの金属で形成される。金属反射層12の光反射率と、蛍光体層17へ入射する放射線強度とのバランスを考えて、金属反射層12の厚さは例えば50nm以上200nm以下としてもよい。
金属反射層12と金属酸化物層15との間には、誘電体層13が形成されている。誘電体層13は、金属反射層12の表面上に形成されている。誘電体層13は、第1誘電体層131及び第2誘電体層132が交互に少なくとも一層ずつ積層された多層構造体である。第1誘電体層131及び第2誘電体層132は、互いに屈折率が異なる誘電体である。第1誘電体層は例えばSiO2(二酸化ケイ素)で形成され、第2誘電体層は例えばTiO2(酸化チタン)又はNb2O5(酸化ニオブ)で形成される。誘電体層13は、蛍光体層17から基板11側へ発された光を、蛍光体層17の上面17aである光出力面に向けて反射させる。
なお、放射線像変換パネル10は、金属反射層12及び誘電体層13の少なくとも一方を備えなくてもよい。放射線像変換パネル10が金属反射層12及び誘電体層13を備えない場合、金属酸化物層15は、蛍光体層17により発される光に対して透明な材料で形成されていなくてもよい。
誘電体層13と金属酸化物層15との間には、保護層14が形成されている。保護層14は、誘電体層13の表面上に形成される。保護層14の材料は、例えばSiO2である。なお、放射線像変換パネル10は、保護層14を備えなくてもよい。
本実施形態において、第1有機樹脂層16は、金属酸化物層15の表面を覆うだけでなく、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14及び金属酸化物層15からなる第1積層体の全体を覆うように設けられている。放射線像変換パネル10が保護層14を備えない場合には、第1有機樹脂層16は、基板11、金属反射層12、誘電体層13及び金属酸化物層15からなる第1積層体の全体を覆えばよい。なお、第1有機樹脂層16は、上述した第1積層体の全体を覆わなくてもよい。つまり、第1積層体の一部領域は、第1有機樹脂層16に覆われていなくてもよい。
さらに、本実施形態では、上述した第1有機樹脂層16に覆われた第1積層体と、第1積層体の上面に設けられた蛍光体層17との周囲には、第2有機樹脂層18が設けられている。つまり、第2有機樹脂層18は、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14、金属酸化物層15、第1有機樹脂層16及び蛍光体層17からなる第2積層体の全体を覆うように設けられている。放射線像変換パネル10が保護層14を備えない場合には、第2有機樹脂層18は、基板11、金属反射層12、誘電体層13、金属酸化物層15、第1有機樹脂層16及び蛍光体層17からなる第2積層体の全体を覆えばよい。なお、第2有機樹脂層18は、上述した第2積層体の全体を覆わなくてもよい。つまり、第2積層体の一部領域は、第2有機樹脂層18に覆われていなくてもよい。
第2有機樹脂層18は、第1有機樹脂層16と同じ材料を用いて形成されてもよいし、異なる材料を用いて形成されてもよい。第2有機樹脂層18の厚さは例えば10μmである。また、放射線像変換パネル10は、第2有機樹脂層18を備えなくてもよい。
次に、本実施形態に係る放射線像変換パネル10の作用効果を説明する。
放射線像変換パネル10の裏面側に入射した放射線IXは、第2有機樹脂層18、第1有機樹脂層16、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14、金属酸化物層15及び第1有機樹脂層16の順に透過し、蛍光体層17に入射する。蛍光体層17では、入射した放射線IXに応じて光が発される。これにより、放射線IXに応じた光が蛍光体層17の上面である表面17aから出力される。
蛍光体層17から発される光の一部は、逆方向(基板11側)に出力される。金属酸化物層15が蛍光体層17により発される光に対して透明な材料で形成されているため、基板11側に出力された光は、金属酸化物層15を透過し、誘電体層13又は金属反射層12へ到達する。到達した光は、誘電体層13又は金属反射層12によって光出力面に向けて反射する。このため、放射線像変換パネル10は、出力する光の光量を増加させることができる。
また、放射線像変換パネル10では、基板11の材料としてガラスを用いている。例えば、放射線像変換パネル10の光出力面側の上面に光検出部40を貼り合せる場合であって光検出部40の基板材料がガラスであるときには、放射線像変換パネル10と光検出部40との熱膨張率の差が小さくなり、熱膨張率の違いにより光検出部40が放射線像変換パネル10から剥離することを防止することができる。なお、放射線像変換パネル10の光出力面側の上面に光検出部40を貼り合せる場合であって光検出部40の基板材料が樹脂であるときには、基板11の材料として樹脂を採用することで、放射線像変換パネル10と光検出部40との熱膨張率の差が小さくなり、熱膨張率の違いにより光検出部40が放射線像変換パネル10から剥離することを防止することができる。また、放射線像変換パネル10の材料をガラス又は樹脂にし、光検出部40との熱膨張率の差を小さくすることにより、動作時の熱によって基板11上の細かい傷や蛍光体層17を蒸着によって形成する場合に生じる異常成長部によって光検出部40との間に生じる傷が撮像面40aに対して移動してしまうことを防止することができる。このため、キャリブレーションの手間が煩雑になることを回避することができる。
さらに、基板11がガラスで形成された場合、上述のような熱膨張率の差による不具合を解消することができるだけではなく、ガラスからなる基板11の表面が非常に平坦であるため、その上に形成された各層の平坦性を向上させることができる。なお、基板11をガラスで形成した場合、静電気が発生しやすい。このため、放射線像変換パネル10は、製造時において、放射線像変換パネル10を構成する部材の表面に、この静電気により塵などの異物が付着することがある。このような塵などの異物が付着して凹凸となった表面上に第1有機樹脂層16が形成された場合、第1有機樹脂層16の表面も付着した塵などの異物に沿って凹凸となる場合がある。さらに凹凸となった第1有機樹脂層16の表面上に蛍光体層17が形成された場合、蛍光体層17を構成する柱状結晶が異常成長し、欠陥のある画像が生成されるおそれがある。
放射線像変換パネル10は、導電性を有する金属酸化物層15を備えることにより、静電気を取り除き、その表面に塵などの異物が帯電により付着することを防止することができる。これにより、放射線入射面から蛍光体層17までの間に異物が混入することによって発生する異常陰影を回避することができる。さらに、蛍光体層17の下地層に異物を付着させないことによって、蛍光体層17の平坦性を確保することができる。つまり、第1有機樹脂層16上に形成された蛍光体層17を構成する柱状結晶の異常成長を抑え、欠陥のある画像が生成されることを回避することができる。
また、金属酸化物層15は薄膜であるため、金属酸化物層15の放射線IXの吸収を抑えることができる。そして、金属酸化物層15が薄膜であり、かつ、蛍光体層17により発される光に対して透明な材料で形成されているため、金属反射層12で反射する光の透過性を確保することができる。
また、放射線像変換パネル10では、金属酸化物層15の表面15aが粗面であるため、金属酸化物層15とその表面15a上に形成された第1有機樹脂層16との間でアンカー効果を生じさせ、金属酸化物層15と第1有機樹脂層16との密着力を向上させることができる。第1有機樹脂層16の表面上には蛍光体層17が形成されているため、下地層である第1有機樹脂層16が金属酸化物層15と密着することにより、結果として蛍光体層17も金属酸化物層15から剥離しにくい構造となる。つまり、放射線像変換パネル10の耐衝撃性を向上させることができる。また、上述したとおり、結晶粒構造の表面の凹凸の高さh1は算術平均粗さで表した場合Ra2.6〜6.0nm程度であり、結晶粒の多結晶構造の表面の凹凸の高さh2は算術平均粗さで表した場合Ra0.9〜1.5nm程度である。つまり凹凸の大きさは、数μm程度の異物と比べて非常に小さい。このため、金属酸化物層15の表面15aが粗面であったとしても、蛍光体層17の柱状結晶の異常成長をもたらすことはない。
また、誘電体層13が蒸着により形成された場合、微小なピンホールが生ずることがある。誘電体層13の表面上に蛍光体層17を直接形成した場合、蛍光体層17の成分が誘電体層13に存在する微小なピンホールを通して金属反射層12に達し、金属反射層12の腐食と劣化の原因となり得る。本実施形態においては、第1有機樹脂層16が存在し、誘電体層13の形成時にピンホールが生じた場合でも、ピンホールを塞ぐことができる。このため、蛍光体層17の成分が金属反射層12に達するのを抑制することができる。さらに、全体が覆われていることにより、蛍光体層17の成分が基板11の側面側から金属反射層12へ達することも抑制することができる。
また、第2有機樹脂層18は、少なくとも、基板11、金属反射層12、誘電体層13、金属酸化物層15、第1有機樹脂層16及び蛍光体層17を覆うように形成されている。つまり、蛍光体層17が潮解性を有する材料で形成されている場合であっても、第2有機樹脂層18により蛍光体層17への水分の侵入を防ぐことができる。さらに、放射線像変換パネル10を外部から保護することができる。
さらに、放射線像変換パネル10では、金属反射層12、誘電体層13、保護層14及び金属酸化物層15が無機材料で形成されているため、各層における熱膨張率の差を小さくすることができる。このため、耐熱衝撃性に優れた放射線像変換パネル10とすることができる。
次に、放射線像変換パネル10及び放射線イメージセンサ1の製造方法について説明する。図6は、第1実施形態に係る放射線像変換パネル10及び放射線イメージセンサ1の製造方法を示すフロー図である。図6に示されるように、放射線像変換パネル10の製造方法は、基板セット処理(S1:基板セットステップ)、金属反射層形成処理(S2:金属反射層形成ステップ)、誘電体層形成処理(S3:誘電体層形成ステップ)、保護層形成処理(S4:保護層形成ステップ)、金属酸化物層形成処理(S5:金属酸化物層形成ステップ)、第1有機樹脂層形成処理(S6:第1有機樹脂層形成ステップ)、蛍光体層形成処理(S7:蛍光体層形成ステップ)、第2有機樹脂層形成処理(S8:第2有機樹脂層形成ステップ)を有する。放射線像変換パネル10の製造方法は、汎用的な成膜装置を用いて行われる。
最初に、基板セット処理(S1)として、基板11を準備する。例えば、成膜装置のチャンバ内の基板ホルダに基板11を配置する。
次に、金属反射層形成処理(S2)として、基板11の表面上に、気相堆積法によって金属反射層12を形成する。気相堆積法とは、物理気相堆積法及び化学気相堆積法を含む。物理気相堆積法は、スパッタ法又は蒸着法である。スパッタ法は、チャンバ内に材料ターゲットを用意し、不活性ガス雰囲気中において基板と材料ターゲットとの間で放電させ、放電で生成された陽イオンを材料ターゲットに衝突させて材料物質をスパッタリングし、基板上に材料物質を堆積させる方法である。蒸着法は、材料物質を加熱、蒸発させて基板上に材料物質を堆積させる方法である。化学気相堆積法は、チャンバ内に材料ガスを導入し、熱やプラズマで分解し、基板表面に堆積させる成膜法である。
続いて、誘電体層形成処理(S3)として、金属反射層12の表面上に気相堆積法によって誘電体層13を形成する。第1誘電体層131及び第2誘電体層132を交互に少なくとも一層ずつ積層することで、誘電体層13を形成する。
続いて、保護層形成処理(S4)として、誘電体層13の表面上に気相堆積法によって保護層14を形成する。
続いて、金属酸化物層形成処理(S5)として、保護層14の表面上に、スパッタ法、蒸着法又はディップコート法によって金属酸化物層15を形成する。ITO膜をスパッタ法で形成した場合、図4の(A)に示される結晶粒領域構造の表面となる。ITO膜を蒸着法で形成した場合、図4の(B)に示される多結晶構造の表面となる。つまり、金属酸化物層15の表面を粗面とすることができる。ディップコート法とは、材料物質の溶媒液中に、基板を垂直に起立させた状態で浸漬させ、その後引き上げて乾燥及び焼成することにより薄膜を形成する方法である。ディップコート法によって金属酸化物層15を形成する場合、チャンバから基板11を取り出して行う。ITO膜をディップコート法で形成した場合、図4の(C)に示される多孔質構造の表面となる。なお、金属酸化物層15の材料としてITO、FTO、SnO2、ATO、AZO、GZO、IZO又はIGZOを採用した場合も上述した粗面を形成することができる。
続いて、第1有機樹脂層形成処理(S6)として、金属酸化物層15の表面上に気相堆積法によって第1有機樹脂層16を形成する。第1有機樹脂層16は、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14及び金属酸化物層15からなる第1積層体の表面、側面及び底面を覆うように形成される。このような堆積は、例えば基板ホルダから基板11を浮かせて固定することで実現することができる(例えば米国特許明細書第6777690号)。
続いて、蛍光体層形成処理(S7)として、第1有機樹脂層16の表面上に気相堆積法によって蛍光体層17を形成する。そして、第2有機樹脂層形成処理(S8)として、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14、金属酸化物層15、第1有機樹脂層16及び蛍光体層17を覆う第2有機樹脂層18を、気相堆積法によって形成する。堆積の手法は、第1有機樹脂層形成処理(S6)と同一の手法を採用することができる。以上で放射線像変換パネル10の製造が完了する。
放射線イメージセンサ1の製造方法は、図6に示されるように、上述の放射線像変換パネル10の製造方法の各ステップS1〜S8に加えて、光検出部配置処理(S19:光検出部配置ステップ)を更に有する。
上述のステップS1〜S8に続いて、放射線像変換パネル10の光出力面側の上面10a(ここでは第2有機樹脂層18の表面)に接着剤を塗布し、光検出部40の撮像面40a側に貼り合わせる。以上で放射線イメージセンサ1の製造が完了し、図2に示される放射線イメージセンサ1が完成する。
本実施形態に係る放射線像変換パネル10及び放射線イメージセンサ1の製造方法によれば、金属酸化物層15とその表面上に形成された第1有機樹脂層16との密着性を向上させた放射線像変換パネル10及び放射線イメージセンサ1を製造することができる。
(第2実施形態)
第2実施形態に係る放射線イメージセンサ1Aは、第1実施形態で説明した放射線イメージセンサ1と比べて、縮小光学系を更に備えており、放射線像変換パネル10の光出力面側の上面から光検出部40を離した状態で配置する点が相違する。第2実施形態では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、重複する説明は省略する。
図7は、第2実施形態に係る放射線像変換パネル10を有する放射線イメージシステム100Aの構成を示す全体図である。図7に示されるように、本実施形態に係る放射線イメージセンサ1Aは、放射線像変換パネル10、ミラー20、レンズ30及び光検出部40を備えている。放射線像変換パネル10は、平板状の部材であり、入射した放射線IXに応じた光ILを出力する。
本実施形態に係る放射線イメージセンサ1Aでは、放射線像変換パネル10の光ILの出力側に、ミラー20、レンズ30及び光検出部40が順に配置されている。ミラー20及びレンズ30は、光ILを縮小して光検出部40へと導く縮小光学系として機能する。なお、縮小光学系は図示された構成に限るものではない。例えば、ミラー20又はレンズ30のみで構成してもよい。ミラー20及びレンズ30は単数であってもよいし複数であってもよい。ミラー20及びレンズ30の他に、プリズムやその他の光学部品を用いてもよい。本実施形態では、縮小光学系を用いることで、小型の光検出部40を用いることができる。
光検出部40は、放射線像変換パネル10の蛍光体層17(図3参照)から発される光を検出する。光検出部40は、ミラー20及びレンズ30によって縮小された光ILを入射する撮像面を備えている。光検出部40は、撮像面に入射された光ILに応じて電気信号IEを出力する。
本実施形態に係る放射線イメージシステム100Aでは、以下のようにして放射線画像が取得される。まず、放射線源2から出力された放射線IXは、被写体を透過し、放射線像変換パネル10に入射する。放射線IXは、放射線像変換パネル10によって光ILに変換される。光ILは、ミラー20及びレンズ30によって縮小されて、光検出部40の撮像面へと導かれる。そして、光検出部40から光ILに応じた電気信号IEが出力される。出力された電気信号IEは、電子機器3を経て情報処理装置4へと送られ、所定の処理が行われて、放射線画像が取得される。情報処理装置4では、放射線画像が表示部に表示されたり、画像情報が記憶部に記憶されたりする。
本実施形態に係る放射線像変換パネル10の製造方法は、図6に示されるように第1実施形態と同様のステップS1〜S8を有する。また、本実施形態に係る放射線イメージセンサ1Aの製造方法は、図6に示されるような第1実施形態と同様のステップS1〜S9に加えて、ステップS8の後にミラー20の配置ステップ及びレンズ30の配置ステップを更に有する。
本実施形態に係る放射線イメージセンサ1Aは、第1実施形態で説明した放射線イメージセンサ1と同様に、金属酸化物層15とその表面上に形成された第1有機樹脂層16との密着性を向上させることができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、第1実施形態において、基板11、金属反射層12、誘電体層13、保護層14、金属酸化物層15、第1有機樹脂層16及び蛍光体層17の順に積層されている例を示したが、基板11の表面上に金属酸化物層15が積層され、金属酸化物層15の表面上に第1有機樹脂層16が積層されてもよい。
また、第1実施形態において、基板11の裏面11b側から放射線が入射される例を示したが、放射線の入射は基板11の表面11aから行われてもよい。
また、第1実施形態において、誘電体層13は、第1誘電体層131及び第2誘電体層132が交互に少なくとも一層ずつ積層された多層構造体である例を示したが、第1誘電体層131及び第2誘電体層132の何れか一方だけが形成されていてもよい。