JP2017082355A - 人工皮革基材、人工皮革及び人工皮革基材の製造方法 - Google Patents

人工皮革基材、人工皮革及び人工皮革基材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】柔軟性,充実感,及び低反発性を兼ね備えた風合いを実現する人工皮革基材を提供する。【解決手段】極細繊維の不織布を含む繊維絡合体を含む人工皮革基材であって、20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含む改質剤を、繊維絡合体に対して5〜50質量%含浸付与されている人工皮革基材を用いる。また、加脂剤は15℃以下の融点を有し、ワックスは50℃以上の融点を有することが好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、天然皮革に近似した風合いを備える人工皮革に関する。
人工皮革は、天然皮革の代替品として靴、衣料、手袋、鞄、ボール、インテリアなどのあらゆる分野に多く利用されている。近年、人工皮革には、より高い品質、審美性、快適な使用感が要求されている。とくに、優美な天然皮革調の外観、低反発性と充実感とをバランスよく兼ね備えることが求められている。
従来、柔軟な風合いを有する人工皮革基材として、極細繊維の不織布にポリウレタンエラストマーを付与したシートが知られている。このような極細繊維の不織布にポリウレタンエラストマーを付与したシートは柔軟な風合いを有する。
しかしながら、極細繊維の不織布にポリウレタンエラストマーを付与したシートは柔軟な風合いを有する反面、充実感(腰の強さ)に劣るという問題があった。充実感を向上させるために極細繊維の不織布に付与するポリウレタンエラストマーを高濃度で付与することにより充実感を向上させることもある。しかしながら、このような場合には、ゴムライクな反発感が高くなり、また、粗い折れシワが発生しやすくなるために、天然皮革の持つ風合いから離れる傾向があった。
柔軟性と充実感とを両立させる技術として、例えば、下記特許文献1は、極細繊維からなる繊維質基材に、ジメチルポリシロキサン及びアミノ変性シリコーンを含むシリコーンオイルとシリコーンレジンとの比率が1:3〜3:1であるシリコーン含有処理液を付与し、次いで高分子弾性体エマルジョンを含浸、凝固させる皮革様シート状物の製造方法を開示する。そして、このような製造方法により得られる皮革様シート状物は、柔軟性と腰の強さの特性に優れ、低反発性でありながら腰が有り、重厚感と柔軟性に優れた天然皮革ライクであることを示している。
特開2004−324012号公報
本発明は、柔軟性,充実感,及び低反発性を兼ね備えた風合いを実現する人工皮革基材を提供することを目的とする。
本発明の一局面は、極細繊維の不織布を含む繊維絡合体を含む人工皮革基材であって、20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含む改質剤を、繊維絡合体に対して5〜50質量%含浸付与されている人工皮革基材である。改質剤は好ましくは、不織布の空隙に含まれる。このような人工皮革基材は、柔軟性、充実感、及び低反発性をバランスよく備えた風合いを実現することができる。不織布の空隙に付与される改質剤は繊維間のすべり性を向上させる滑材として作用して柔軟性を高めるとともに、空隙を埋めることにより充実感を向上させる。また、改質剤の20℃における粘度が30,000〜500,000cpsであることにより、改質剤を不織布から脱離させることを抑制する。
また、加脂剤は15℃以下の融点を有し、ワックスは50℃以上の融点を有することが、両者の比率を調製することにより幅広い範囲で柔軟性の程度を容易に調整することができる点から好ましい。
また、加脂剤とワックスとの配合比(加脂剤:ワックス)は1:9〜9:1であることが、上述した粘度の範囲に調整しやすい点から好ましい。
また、繊維絡合体は、不織布の空隙に高分子弾性体を含むことが形態安定性に優れる点から好ましい。
また、本発明の他の一局面は、上述した人工皮革基材を含む人工皮革である。
また、本発明の他の一局面は、不揮発分の20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含むエマルジョンを準備する工程と、極細繊維の不織布を含む繊維絡合体にエマルジョンを含浸させた後、乾燥させる工程と、を備える人工皮革基材の製造方法である。
本発明によれば、柔軟性,充実感,及び低反発性を兼ね備えた人工皮革が得られる。
本発明に係る人工皮革基材をその製造方法の一実施形態に沿って以下に説明する。本実施形態の人工皮革基材は、極細繊維の不織布を含む繊維絡合体を含む人工皮革基材であって、20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含む改質剤を、繊維絡合体に対して5〜50質量%含浸付与されている。
はじめに、極細繊維の不織布を含む繊維絡合体を製造する。不織布を形成する極細繊維の形状は特に限定されないが、人工皮革の折れ皺や表面品位向上の面から、混合紡糸方式や複合紡糸方式などの方法を用いて得られる海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を極細化して得られる極細繊維であることが好ましい。具体的には、例えば、選択的に除去可能な樹脂からなる海成分と極細繊維を形成するための樹脂からなる島成分とを含む海島型複合繊維などの極細繊維発生型繊維を溶融紡糸して、繊維ウェブを製造する。
なお、本実施形態においては、極細繊維発生型繊維として海島型複合繊維を用いる場合について代表例として詳しく説明するが、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いても、また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接、極細繊維を紡糸してもよい。なお、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維の具体例としては、紡糸直後に複数の極細繊維が軽く接着されて形成され、機械的操作により解きほぐされることにより複数の極細繊維が形成されるような剥離分割型繊維や、溶融紡糸工程において花弁状に複数の樹脂を交互に集合させてなる花弁型繊維等が挙げられ、極細繊維を形成しうる繊維であれば特に限定されずに用いられる。
海島型複合繊維の島成分であり、極細繊維を形成するための樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6−12等のポリアミド;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール;およびポリウレタン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,ポリエステル系エラストマーなどのエラストマー等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂はそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、PET,イソフタル酸変性PET,ポリ乳酸,ポリアミド6,ポリアミド12,ポリアミド6−12,これらポリアミドの共重合体,ポリプロピレンが、紡糸性などの生産性に優れ、得られる人工皮革基材の機械的特性にも優れる点から好ましい。
なお、極細繊維を形成するための樹脂には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、各種添加剤、具体的には、例えば、触媒,着色防止剤,耐熱剤,難燃剤,滑剤,防汚剤,蛍光増白剤,艶消剤,着色剤,光沢改良剤,制電剤,芳香剤,消臭剤,抗菌剤,防ダニ剤,無機微粒子等を必要に応じて配合してもよい。
海島型複合繊維の海成分は、海島型複合繊維を極細繊維の繊維束に変換する際に、溶剤により選択的に抽出除去されたり、熱水または分解剤により選択的に分解除去されたりする成分である。従って、海成分を形成する樹脂としては、島成分を形成する樹脂よりも、溶剤による抽出除去性や熱水または分解剤による分解除去性が高い樹脂が選択される。また、海島型複合繊維の紡糸安定性の点からは、島成分を形成する樹脂との親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分を形成する樹脂よりも小さい樹脂が好ましく用いられる。
海島型複合繊維の海成分を形成するための樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,スチレン−エチレン共重合体,スチレン−アクリル共重合体,水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)等のポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。これらの中では、有機溶剤を用いることなく製造することができる点から、水溶性PVAが特に好ましい。
水溶性PVA樹脂のケン化度としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%、とくには、94〜99.97モル%、殊には、96〜99.96モル%の範囲であることが好ましい。水溶性PVA樹脂のケン化度がこのような範囲である場合には、水溶性に優れ、熱安定性が良好で、溶融紡糸性に優れ、また、生分解性にも優れた水溶性PVA樹脂が得られる。
繊維ウェブ形成の方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した海島型複合長繊維等の極細繊維発生型長繊維をカットすることなく長繊維ウェブにする方法が好ましく用いられる。
例えば、海島型複合長繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から押出して溶融紡糸し、口金から吐出した溶融状態の海島型複合長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより、実質的に無延伸の長繊維ウェブを形成する。また、必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレスすること等により部分的に圧着して形態を安定化させる処理をしてもよい。このような長繊維ウェブの製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られる人工皮革では繊維の嵩高性がおさえられ、繊維密度が高くなる傾向があるため、従来一般的であった短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した人工皮革基材に比べて、剥離強力をはじめとする機械的特性に優れる。また、長繊維を高密度化することにより、天然皮革に似た充実感を再現しやすい点から好ましい。
溶融紡糸における紡糸温度(口金温度)は、例えば、海成分及び島成分の樹脂のそれぞれの融点よりも高く、180〜350℃の範囲であることが融点ピークと副吸熱ピークとを存在させ易い点から好ましい。
海島型複合長繊維の平均断面積は特に限定されないが、30〜800μm2であることが好ましい。海島型複合長繊維の海成分と島成分との体積比に相当する横断面における海成分と島成分との平均面積比も特に限定されないが、5/95〜70/30であることが好ましい。また、得られる長繊維ウェブの目付も特に限定されないが、10〜1000g/m2であることが好ましい。
上述のようにして得られた長繊維ウェブを複数層重ねて絡合処理することにより海島型複合長繊維の絡合体であるウェブ絡合シートを形成する。具体的には、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両外側から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチを行う。パンチング密度は特に限定されないが、500〜5000パンチ/cm2の範囲であることが、海島型複合長繊維のニードルによる損傷を抑制しながら充分に繊維を絡合させることができる点から好ましい。
このような工程により、海島型複合長繊維同士が三次元的に絡合されて、厚さ方向に平行な断面において海島型複合長繊維が、例えば、平均600〜4000個/mm2の密度で存在するような、海島型複合長繊維が極めて緻密に集合した絡合された長繊維ウェブが得られる。絡合された長繊維ウェブの目付は100〜2000g/m2あることが好ましい。なお、長繊維ウェブには、その製造から絡合処理までのいずれかの段階で、針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与することが好ましい。
絡合された長繊維ウェブには熱収縮処理が施されることが好ましい。このような熱収縮処理により、長繊維ウェブの絡合状態がさらに緻密化されて形態保持性が良好になり、繊維の素抜けも防止される。
熱収縮処理としては、水蒸気による熱収縮処理や、70〜150℃の温水に浸漬する処理等が挙げられるが、水蒸気による熱収縮処理が特に好ましい。水蒸気による熱収縮処理は、例えば、絡合された長繊維ウェブに、海成分に対して10〜200質量%になるように水分を付与した後、相対湿度が70%以上、さらには90%以上である60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間熱処理することが好ましい。このような条件で熱収縮処理した場合には、水蒸気により可塑化された海成分の樹脂が島成分の樹脂の長繊維の収縮力により圧搾及び変形されてより緻密になる。
熱収縮処理による絡合された長繊維ウェブの収縮率としては、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が35%以上、さらには35〜90%、とくには40〜80%であることが好ましい。
長繊維ウェブの繊維絡合体であるウェブ絡合シートには、形態安定性を付与するために高分子弾性体を含浸付与することが好ましい。具体的には、例えば、ウェブ絡合シートに、前記高分子弾性体を含む液を含浸させた後、高分子弾性体を凝固させることにより、ウェブ絡合シートに、高分子弾性体が含浸付与される。
高分子弾性体としては、従来から人工皮革基材を製造する際に用いられている高分子弾性体が特に限定なく用いられうる。その具体例としては、例えば、ポリウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂,ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂,弾性ポリスチレン系樹脂,弾性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂が、柔軟性と充実感に優れる点からとくに好ましい。
ウェブ絡合シートに高分子弾性体を含浸付与する方法の具体例としては、例えば、ポリウレタンエマルジョンやアクリル系エマルジョンのような高分子弾性体を含むエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸させた後、乾燥することにより凝固させる方法が好ましい。
なお、一般的な高分子弾性体を含むエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸させて乾燥する場合、表面からエマルジョンの乾燥が進行するにつれて内層のエマルジョンがウェブ絡合シートの表層に移行して、表層に高分子弾性体が遍在する、所謂、マイグレーションという現象を生じる傾向がある。マイグレーションを生じた場合、ウェブ絡合シートの厚み方向において、高分子弾性体の分布が不均一になる。このようなマイグレーションの発生は、感熱ゲル化性を有する高分子弾性体のエマルジョンを用いることにより抑制される。
高分子弾性体を含むエマルジョンが感熱ゲル化性を有している場合、感熱ゲル化性を有する高分子弾性体のエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸させた後、熱風,スチーム,マイクロ波,熱水浴などで処理することにより、内層のエマルジョンがウェブ絡合シートの表層にマイグレーションする前に、高分子弾性体が熱により、ゲル化または凝固化して厚み方向に均一に、固定される。
感熱ゲル化性を有する高分子弾性体のエマルジョンは、親水性親油性バランス(HLB)の低いノニオン性界面活性剤を乳化剤として高分子弾性体をエマルジョン化させたり、高分子弾性体のエマルジョンに熱によりエマルジョンをゲル化させる感熱ゲル化剤を添加することにより得られる。感熱ゲル化剤の具体例としては、例えば、塩化カルシウムなどの無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上述のように、高分子弾性体を含むエマルジョン等の水性液をウェブ絡合シートに含浸させた後、乾燥することにより、ウェブ絡合シートに、高分子弾性体を含浸付与することができる。ウェブ絡合シートに含浸させる高分子弾性体の割合としては、高分子弾性体の固形分量/形成される極細繊維の量の質量比が0/100〜20/80、さらには、5/95〜15/85になるような比率に調整されることが好ましい。高分子弾性体の比率が高すぎる場合には、得られる銀付調人工皮革が、高分子弾性体特有のゴム感あるいは樹脂感を持った風合いとなり、高級感のある天然皮革に似たしなやかな風合いが得られにくくなる傾向がある。
高分子弾性体を含む液としては、上述のような水性エマルジョン等の水性液が、有機溶剤を使用しないために環境負荷が小さい点から好ましい。なお、高分子弾性体の水性液としては、高分子弾性体の水性エマルジョンや、高分子弾性体の水性懸濁液や、高分子弾性体を水系媒体に溶解させた水性溶液等が挙げられる。
高分子弾性体を含む水性液の乾燥条件は、高分子弾性体が乾燥凝固し、かつ十分にキュアリングされる条件であれば特に限定されない。例えば、水性エマルジョンの場合には、100〜160℃程度の温度で1〜20分間乾燥させるような条件が挙げられる。
そして、上述のようにして得られた高分子弾性体を含浸付与させたウェブ絡合シートに含まれる、海島型複合長繊維の海成分を選択的に除去することにより、極細繊維化する。
海成分を選択的に除去する方法としては、島成分を形成する樹脂を溶解及び分解せず、海成分を形成する樹脂のみを選択的に溶解または分解するような溶剤または分解剤で高分子弾性体を含浸付与されたウェブ絡合シートを処理する方法が挙げられる。具体的には、例えば、島成分を形成する樹脂がポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂であり、海成分を形成する樹脂が水溶性PVA樹脂である場合、85〜100℃の温水が溶剤として用いられる。また、島成分を形成する樹脂がポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂であり、海成分を形成する樹脂が易アルカリ分解性の変性ポリエステルである場合、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が分解剤として用いられる。これらの中では、特に、海成分の樹脂として水溶性PVA樹脂を用い、海成分の除去率が95質量%以上になるまで85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより水溶性PVA樹脂を抽出除去することが好ましい。このようにして海島型複合長繊維を極細繊維化することにより、繊維束状に存在する極細繊維が形成される。なお、温水で処理する場合には、抽出処理の際に有機溶剤を用いた場合に発生するような揮発性物質の発生が抑制されるために、環境負荷が低く、労働衛生上も好ましい。
なお、本実施形態の人工皮革基材においては、高分子弾性体を含有しない繊維絡合体を使用してもよい。高分子弾性体を含有しない繊維絡合体は、収縮処理と極細化を同時に行う方法で製造することが好ましい。具体的には、ウェブ絡合シートを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理するような方法が挙げられる。前段階で、極細繊維束形成性長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した繊維絡合体が得られる。
このようにして極細繊維の不織布を含む繊維絡合体が得られる。不織布を形成する極細繊維の平均繊度としては、0.001〜0.5デシテックスであり、さらには0.005〜0.3デシテックス、とくには0.01〜0.2デシテックスであることが好ましい。極細繊維の平均繊度が低すぎる場合には、繊維強力が低くなりすぎて得られる人工皮革基材の機械的特性が低くなる傾向がある。また、極細繊維の平均繊度が高すぎる場合には、繊維自体が嵩高いために繊維密度を上げることができなくなり、得られる人工皮革基材の充実感が低下する傾向がある。また、極細繊維の不織布の目付としては、140〜3000g/m2程度であることが好ましい。繊維絡合体の厚みは特に限定されないが、具体的には、例えば、0.5〜4.0mm、さらには0.8〜3.0mmであることが好ましい。
繊維絡合体は必要に応じて厚み調整や表面の平滑化を目的としたスライス処理や表面の繊維の起毛を目的としたコンタクトバフやエメリーバフなどを用いたバフィング処理の他、必要に応じて、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理が施されてもよい。
また、人工皮革基材をスエード調の人工皮革に仕上げる場合には、スライス処理やバフィング処理の後、染色等による着色工程を経ることが好ましい。使用する染料は特に限定されず、繊維の種類に合わせて適宜選択されることが好ましい。たとえば、分散染料、酸性染料、カチオン染料、硫化染料、含金染料、スレン染料等が挙げられる。また、染色方法も特に限定されず、高圧液流染色法、ジッガー染色法、サーモゾル連続染色法、ウインス染色法等から、繊維や染料の種類に応じて適宜選択されることが好ましい。
次に、上述したようにして得られた極細繊維の不織布を含む繊維絡合体に、加脂剤及びワックスを含む改質剤を付与する工程について説明する。なお、以下、特に言及するものを除き、添加物等の添加割合について説明する場合、何れも繊維絡合体に対して不揮発分として付与された割合であり、含浸時における水等の揮発分を含む割合ではない。
本実施形態の人工皮革基材においては、20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含む改質剤を、繊維絡合体に対して5〜50質量%含有する。加脂剤は、天然皮革に似た充実感とともに、ヌメリ感やしっとりとした触感を付与し、ワックスは天然皮革に似た充実感とともに、繊維にすべり性を付与する。また、これらの混合物は、その粘性により繊維の動きを一部制限することで反発感を抑制する。
改質剤は、加脂剤及びワックスを含む。加脂剤は、天然皮革の柔軟化工程である加脂処理に用いられる油剤類である。天然皮革における加脂処理は、天然皮革のコラーゲン繊維の構造体の内部に吸収させることにより、水分が抜けて乾燥しても柔軟性を保持させる処理である。一方、ワックスは、天然皮革の仕上剤、詳しくは、銀面の手触りの改良や光沢処理を目的として用いられる固形状または半固形状の、高級脂肪酸と高級アルコールのエステル;高級脂肪酸;炭素数18以上の炭化水素等の油脂状の物質である。
加脂剤の具体例としては、例えば、硫酸化脂肪酸エステル,スルホン化エステル,亜硫酸化油等のアニオン性加脂剤;4級アンモニウム塩,脂肪族アミン等のカチオン性加脂剤;アルキルベタイン,レシチン等の両性加脂剤;脂肪酸モノグリセリド等のノニオン性加脂剤等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの加脂剤は、環境への負荷や労働環境、その他取り扱いの容易性等の観点からエマルジョン等の水系の分散体を用いて添加することが特に好ましい。
また、ワックスの具体例としては、櫨蝋(融点50〜56℃),カルナバワックス(融点80〜90℃),キャンデリラワックス(融点66〜71℃)などの植物性ワックス;蜜蝋(融点62〜65℃),ウールワックス(融点36〜40℃)などの動物性ワックス;モンタンワックス(融点76〜84℃)等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス(融点47〜69℃),マイクロスタリンワックス(融点67〜98℃)等の石油系ワックス;ポリエチレンワックス(融点93〜138℃),フィッシャートロプシュワックス(融点105〜120℃);脂肪酸エステル系ワックス(融点40〜95℃)等の合成ワックス等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。ワックスも環境への負荷や労働環境、その他取り扱いの容易性等の観点からエマルジョン等の水系の分散体を用いて添加することが特に好ましい。
加脂剤としては、平均的な使用環境の常温で液体である、融点が15℃以下、さらには10℃以下の加脂剤が好ましく、ワックスとしては、平均的な使用環境の常温で固体である、融点が50℃以上、60℃以上のワックスが好ましい。また、融点が15℃以下のような加脂剤と融点が50℃以上のようなワックスとを組み合わせて用いた場合には、粘度の調整が容易である。具体的には、加脂剤及びワックスの配合比の調整や組み合わせの選択により、とくに柔軟な風合いが求められる場合には、20℃における粘度が30,000〜500,000cpsの範囲内で、比較的低粘度になるように配合し、とくに充実感が求められる場合には比較的高粘度になるように調整することができる。
なお、加脂剤は親油性であるために、ポリエステルやポリアミドのような樹脂を含む親水性の極細繊維の不織布を含む繊維絡合体には取り込まれにくい。従って、極細繊維の不織布を含む繊維絡合体に加脂剤を多量に含有させようとした場合、繊維絡合体の有する空隙内に留まりきれない加脂剤は、表面に染み出し、ベタツキを発生させる傾向がある。一方、このようなベタツキを抑制するために加脂剤を少量のみ含有させようとした場合、充分な柔軟化効果や、天然皮革に似たヌメリ感やしっとりとした触感が得られない傾向がある。本実施形態で用いられる改質剤は、加脂剤とワックスとの混合物である。加脂剤とワックスとの混合物は高粘度になるために、大量の加脂剤を用いた場合であっても、加脂剤を繊維絡合体の有する空隙内に留めることができる。
加脂剤及びワックスを含む改質剤の20℃における粘度は30,000〜500,000cpsであり、50,000〜300,000cpsであることが好ましい。改質剤の20℃における粘度が30,000cps未満の場合には、含浸された加脂剤が繊維絡合体の有する空隙内に留まりにくくなり、表面に染み出してべたつきを発生させるとともに、反発感を抑える効果が小さくなる。一方、改質剤の20℃における粘度が500,000cpsを越える場合には不織布を形成する極細繊維の動きを抑制しすぎるために、風合いがダンボールのような状態になり、折り曲げたときなどに座屈したような粗い折れシワが発生させやすくなる傾向がある。
加脂剤及びワックスの配合比は、目的とする粘度や人工皮革基材の特性に応じて適宜調整されるが、具体的には(加脂剤:ワックス)の配合比が1:9〜9:1、さらには2:8〜8:2であることが上述した粘度の範囲に調整しやすい点から好ましい。加脂剤の比率が低すぎる場合には、充分な柔軟化効果や、天然皮革に似たヌメリ感やしっとりとした触感が得られない傾向がある。一方、ワックスの比率が低すぎる場合には、含浸された加脂剤が繊維絡合体の有する空隙内に留まりにくくなり、表面に染み出してべたつきを発生させる傾向がある。
なお、通常の天然皮革の製造において、低融点の加脂剤に高融点のワックス等を配合すると天然皮革の表面に油脂の塊が析出するファットスピューと呼ばれる好ましくない現象が発生することが多い。一方、極細繊維の不織布を含有する本実施形態の人工皮革基材においては、ファットスピューは発生しにくい。
本実施形態の人工皮革基材における、加脂剤及びワックスを含む改質剤の付与割合は、繊維絡合体に対して5〜50質量%であり、7〜40質量%、さらには10〜30質量%であることが好ましい。改質剤の付与割合が繊維絡合体に対して5質量%以下の場合には、柔軟性,充実感,及び低反発性を付与する効果が充分に得られず、50質量%を超える場合には、生産性が低下するとともに、コスト性も低下する。
加脂剤及びワックスを含む改質剤を繊維絡合体に付与する方法は特に限定されないが、一例としては、加脂剤及びワックスを含むエマルジョン等の水分散体を繊維絡合体に含浸させた後、乾燥する溶液含浸法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、100〜150℃で1〜20分間程度乾燥させることが好ましい。
また、繊維絡合体には、本発明の効果を妨げない範囲で、加脂剤及びワックスを含む改質剤に加えて、合成樹脂,柔軟剤,酸化防止剤等のその他の成分を付与してもよい。その他の成分の付与割合は特に限定されないが、加脂剤及びワックスを含む改質剤に対して、30質量%以下であることが好ましい。
以上のようにして、本実施形態の人工皮革基材が得られる。このようにして得られた人工皮革基材はさらに仕上げ処理を施されることにより、スエード調や銀付調の人工皮革に仕上げられる。
本実施形態の人工皮革基材をスエード調の人工皮革に仕上げる場合には、上述したようなバフィング処理による起毛処理及び染色等により着色された繊維絡合体に、加脂剤及びワックスを含む改質剤を付与した後、さらに必要に応じて機械揉みや起毛加工、撥水加工等各種仕上げ処理を実施することにより仕上げられる。このようにして得られたスエード調人工皮革は、天然皮革調の充実感と低反発感とを兼ね備えたスエード調人工皮革となる。
また、本実施形態の人工皮革基材を銀付調の人工皮革に仕上げる場合には、人工皮革基材の少なくとも一面に、乾式造面法、ダイレクトコート法などの銀面層の形成方法により銀面層を形成する。なお、乾式造面法は、離型紙などの支持基材上に高分子弾性体を含む銀面表皮膜を形成した後、その銀面表皮膜の表面に接着剤を塗布し、人工皮革基材の一面に貼り合せて、必要によりプレスして接着し、離型紙を剥離することにより銀面層を形成する方法である。また、ダイレクトコート法は、人工皮革基材の一面に、高分子弾性体を含む液状樹脂または樹脂液を直接塗布した後、硬化させることにより銀面層を形成する方法である。
銀面層の形成に用いられる高分子弾性体としては、従来から銀面層の形成に用いられている高分子弾性体を特に限定なく用いることができる。その具体例としては、例えば、ポリウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂,ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂,弾性ポリスチレン系樹脂,弾性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂が、柔軟性と充実感に優れる点からとくに好ましい。
銀面層の厚みは、特に限定されないが、例えば、50〜300μm程度であることが、機械的特性と風合いとのバランスを維持することができる点から好ましい。なお、乾式造面法により形成された銀面層においては、接着層を含んだ厚みを銀面層の厚みとする。
このようにして得られた銀付調人工皮革も、スエード調人工皮革と同様に、天然皮革調の充実感をもった風合いと低反発感を兼ね備えた銀付調人工皮革となる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
水溶性PVA系樹脂を海成分に用い、イソフタル酸変性度6モル%のPETを島成分とし、繊維1本あたりの島数が25島で、海成分/島成分が25/75(質量比)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、260℃で海島型のフィラメントを口金より吐出した。そして、紡糸速度が4000m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.5デシテックスの海島型複合長繊維をネット上に捕集し、目付30g/m2の長繊維ウェブを得た。
得られた長繊維ウェブをクロスラッピングすることにより6枚重ね、これに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、6バーブのニードル針で2000パンチ/cm2のパンチ密度でニードルパンチングすることにより、絡合された長繊維ウェブを得た。
そして、絡合された長繊維ウェブを水蒸気により熱収縮させた。水蒸気による熱収縮処理は、はじめに、絡合された長繊維ウェブ中の海成分の量に対して30質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が90%、温度が110℃の加熱水蒸気雰囲気下で80秒間熱処理した。このときの面積収縮率は45%であった。
次に、熱収縮処理により得られたウェブ絡合シートに、アニオン性自己乳化型の水性ポリウレタン(100%モジュラス 3.0MPa)と感熱ゲル化剤である硫酸アンモニウムを含浸させた。なお、水性ポリウレタンの濃度は、水性ポリウレタンの固形分量/島成分の量の質量比が12/88となるように濃度を調整した。そして、マイグレーションを防止するために水蒸気雰囲気下で水性ポリウレタン分散液をゲル化処理した後、120℃で10分間乾燥した。
そして、水性ポリウレタンを含浸させたウェブ絡合シートを95℃の熱水中に10分間浸漬することにより海成分を除去して極細繊維を形成した後、120℃の温度で10分間乾燥させた。次いで両面を#240および#320のサンドペーパーでバフィング処理することにより、平均繊度0.08デシテックスの変性PET繊維の不織布及びポリウレタンを含む、厚み0.8mm、目付450g/m2の未染色の繊維絡合体が得られた。
未染色の繊維絡合体を、80℃の熱水中に20分間湯通しして熱水になじませると共に生地をリラックスさせた後、高圧液流染色機((株)日阪製作所サーキュラー染色機))を用いて下記条件で染色した。このようにしてスエード調表面を有し、分散染料でベージュ色に染色された目付500g/m2の繊維絡合体を得た。
染色条件
染料液:
・Disperse Blue 73(分散染料)(北陸カラー株式会社製)4.35%o.w.f.
・Disperse Red 167.1(分散染料)(北陸カラー株式会社製)2.01%o.w.f.
・Disperse Yellow 163(分散染料)(北陸カラー株式会社製)5.48%o.w.f.
・「AL」(均染剤)(日本化薬株式会社製)2.0g/dm3
・「ニューバッファーK」(pH調節剤)(ミテジマ化学株式会社製)1.8g/dm3
・「H867」(金属イオン封鎖剤)(一方社油脂工業株式会社製)0.5g/dm3
染色温度:120℃
染色時間:40分
浴比:1:20
そして、染色された繊維絡合体に対し、加脂剤(天然脂肪酸エステルエマルジョン、不揮発分40%、融点7℃)及びワックス(カルナバワックスエマルジョン、不揮発分32%、融点80℃)を不揮発分比率で70:30になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率60.2%の比率で含浸付与した。そして、100℃の乾燥機で10分間乾燥した。その後、含浸工程で固着した表面の毛羽をエチケットブラシ(登録商標)により起毛処理することにより、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は22.4%であった。また、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の20℃における粘度は55,000cpsであった。
なお、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の、繊維絡合体に対する付与割合及び20℃における粘度は、次のようにして測定した。
〈加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合〉
加脂剤及びワックスの混合物を含む液を繊維絡合体に付与する工程における、液中の加脂剤及びワックスの不揮発分の合計割合(質量%)にピックアップ率を乗じて算出した。
〈粘度〉
加脂剤及びワックスの混合物を含む液10gを100℃で加熱して蒸発乾固させて、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)を採取して測定用のサンプルとした。得られた測定用サンプルをブルックフィールド社製コーンプレート型粘度計 DV−II+Proにて20℃における粘度の測定を実施した。測定の際にはそれぞれの測定用サンプルの粘度に応じたスピンドルを選択し、各サンプルの測定において、トルクが10%を超え信頼性が確保できる最低のせん断速度で測定を行った。なお、通常、混合物は非ニュートニアンであり、せん断速度に応じて粘度が変わるが、不織布中に付与された状態で影響があるのは、低せん断速度における粘度であるため、このような測定方法を採用した。
そして、得られた人工皮革のソフトネス,充実感,反発性及び表面タッチ性を以下のような方法に従って評価した。
〈ソフトネス〉
イギリスMSAエンジニアリングシステム社の皮革ソフトネス計測装置ST−300を使用して、1サンプルについて任意の5点でソフトネスの測定を実施し、その5点の平均値をソフトネスの値とした。
〈充実感〉
人工皮革を縦20cm×横20cmの正方形に切り出した試験片を作成した。そして、人工皮革分野の当業者から選出された5人のパネリストが試験片を触って、以下の基準で充実感を判定した。
A:天然皮革と同様の高級感のある充実感であった。
B:雑貨等に用いられる皮革様素材として一般的な充実感であった。
C:腰が弱く、重厚感に欠け、好ましくない充実感であった。
〈反発性〉
人工皮革を縦20cm×横20cmの正方形に切り出した試験片を作成した。そして、切り出した試験片を無造作に丸めるように強く握ったあと、静かに手を離して机の上に置いた後のサンプルの様子を観察し、以下の基準で判定した。
A:手で握った形がほぼそのまま残っていた。
B:机の上で広がったが、手で握った形がわずかに残っていた。
C:試験片が完全に平らな状態に広がった。
〈表面タッチ〉
人工皮革を縦20cm×横20cmの正方形に切り出した試験片を作成した。そして、人工皮革の当業者から選出された5人のパネリストが試験片を触って、以下の基準で柔軟性を判定した。
A:高級な天然皮革調の適度なヌメリ感があり、非常に好ましいタッチであった。
B1:天然皮革調のヌメリ感があったが、試験片を触った後に手に僅かなべたつきが感じられた。
B2:僅かなヌメリ感はあるものの、高級な天然皮革には劣るタッチであった。
C1:試験片がべたついており、一般的な人工皮革として使用できない状態であった。
C2:天然皮革調のヌメリ感が全くなく、カサついたタッチであった。
以上の結果をまとめて表1に示す。
Figure 2017082355
[実施例2]
実施例1において、染色された繊維絡合体に対して加脂剤及びワックスを不揮発分比率で70:30になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率60.2%の比率で含浸付与した代わりに、加脂剤及びワックスを不揮発分比率で40:60になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率63.4%の比率で含浸付与した以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は22.1%であった。また、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の20℃における粘度は274,000cpsであった。
そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、加脂剤(天然脂肪酸エステルエマルジョン、不揮発分40%、融点7℃)の代わりに、加脂剤(亜硫酸化油エマルジョン、不揮発分35%、融点17℃)を用いた以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は21.1%であった。また、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の20℃における粘度は60,000cpsであった。
そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、ワックス(カルナバワックスエマルジョン、不揮発分32%、融点80℃)の代わりに、ワックス(脂肪酸エステル系ワックスエマルジョン、不揮発分35%、融点38℃)を用いた以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は24.2%であった。また、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の20℃における粘度は72,000cpsであった。
そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、染色された繊維絡合体に対して加脂剤及びワックスを不揮発分比率で70:30になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率60.2%の比率で含浸付与した代わりに、加脂剤及びワックスを不揮発分比率で90:10になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率59.4%の比率で含浸付与した以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は23.2%であった。また、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の20℃における粘度は20,000cpsであった。
そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1において、染色された繊維絡合体に対して加脂剤及びワックスを不揮発分比率で70:30になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率60.2%の比率で含浸付与した代わりに、加脂剤及びワックスを不揮発分比率で10:90になるように配合した混合物を含む液をピックアップ率60.9%の比率で含浸付与した以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は20.3%であった。また、加脂剤およびワックスの混合物(不揮発分)の20℃における粘度は557,000cpsであった。
そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1において、染色された繊維絡合体に対して加脂剤及びワックスを不揮発分比率で70:30になるように配合した混合物を含む液を、繊維絡合体に対する付与割合が20.3%になるように含浸付与した代わりに、繊維絡合体に対する付与割合が3.0%になるように同様の液を水で希釈した液を含浸付与した以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。付与された混合物(不揮発分)の繊維絡合体に対する付与割合は3.0%であった。
そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例4]
実施例1で製造した、平均繊度0.08デシテックスの変性PET繊維を含む、厚み0.8mm、目付450g/m2の未染色の繊維絡合体の代わりに、平均繊度1デシテックスの変性PET繊維を含む、未染色の繊維絡合体を用いた以外は、同様にして、スエード調の人工皮革を得た。そして、得られた人工皮革を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
表1の結果を参照すれば、本発明に係る、極細繊維の不織布を含む繊維絡合体を含み、20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含む改質剤を、繊維絡合体に対して5〜50質量%含浸付与されている実施例1〜4で得られた人工皮革基材を含む人工皮革は何れも、柔軟性,充実感,及び低反発性を兼ね備えていた。また、折れシワも天然皮革に近い、細かなシワであった。一方、粘度が20,000の改質剤を用いた比較例1で得られた人工皮革基材を含む人工皮革は、腰が弱く、重厚感に欠け、充実感に乏しかった。また、粘度が557,000cpsの改質剤を用いた比較例2で得られた人工皮革基材を含む人工皮革は、ソフトネスが小さく柔軟性に乏しく、また、反発感も残っていた。また、折れシワが段ボールを折り曲げたときのような粗いシワであった。なお、20℃以下の融点を有する加脂剤を用いた実施例3で得られた人工皮革は、低温時にワックスが硬化して柔軟性に乏しくなった。
本発明によれば、天然皮革調の低反発性と充実感とを兼ね備えた人工皮革基材が得られる。このような人工皮革基材によれば、紳士靴,スポーツシューズ,鞄,ベルト,ランドセル等の用途に好ましく用いられる、柔軟で反発感の少ない天然皮革調の風合いを有するスエード調や銀付調の人工皮革が得られる。

Claims (6)

  1. 極細繊維の不織布を含む繊維絡合体を含む人工皮革基材であって、
    20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含む改質剤を、前記繊維絡合体に対して5〜50質量%含浸付与されていることを特徴とする人工皮革基材。
  2. 前記加脂剤は15℃以下の融点を有し、前記ワックスは50℃以上の融点を有する請求項1に記載の人工皮革基材。
  3. 前記加脂剤と前記ワックスとの配合比(加脂剤:ワックス)が1:9〜9:1である請求項1または2に記載の人工皮革基材。
  4. 前記繊維絡合体は、前記不織布の空隙に高分子弾性体を含む請求項1〜3の何れか1項に記載の人工皮革基材。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の人工皮革基材を含むことを特徴とする人工皮革。
  6. 不揮発分の20℃における粘度が30,000〜500,000cpsである、加脂剤及びワックスを含むエマルジョンを準備する工程と、
    極細繊維の不織布を含む繊維絡合体に前記エマルジョンを含浸させた後、乾燥させる工程と、を備えることを特徴とする人工皮革基材の製造方法。
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