JP2017078286A - 梁の施工方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1に記載された梁の施工方法は、長大スパンの梁を有する構造物に、外力で最も撓む部分である梁の中央部にプレストレスを与えている。
このように構成することで、梁に作用する曲げ引張応力や軸方向引張応力を打消し、構造物の荷重や外力による断面の応力レベルを下げて、見かけ上の梁の耐力を向上させる。
物量倉庫等の鉄骨造の梁に作用する荷重は、死荷重よりも活荷重が支配的で、活荷重に対して梁の長手方向に直交する断面形状が決定される。梁の多くはノンブラケットであり、その場合、梁は端部と中央部とが同一の断面となるように設計される。両端部が固定されている梁の等分布荷重下での曲げモーメントの大きさの比は、中央部が1に対して端部が2となる。
梁の中央部に作用する曲げモーメントの大きさは、端部に作用する曲げモーメントの大きさに比べて小さくなる。長手方向の位置によらず同一の断面となる梁では、中央部の曲げモーメントの耐力に余裕がある。
梁に作用する曲げモーメントの大きさの最大値が小さくなれば、より断面積(断面二次モーメント)の小さい梁を選定することができる。
本発明の梁の施工方法は、梁の両端部を自由端にするとともに前記梁の中央部を前記梁の軸線に直交する第一の向きに向かって凸となるように湾曲させる第一工程と、湾曲させた状態の前記梁を前記第一の向きが下方になるように配置して、前記梁のそれぞれの前記端部を構造物に固定する第二工程と、を行うことを特徴としている。
一方で、梁を死荷重以外の外力で湾曲させた場合には、梁の両端部を構造物に固定した後で外力を取り除くと、梁には梁の長手方向の位置によらず一定の正の曲げモーメントが作用する。この梁に死荷重及び活荷重を作用させて梁を使用すると、前述の正の曲げモーメントにより、端部に生じる負の曲げモーメントの大きさが小さくなり、中央部に生じる正の曲げモーメントの大きさが大きくなる。
この発明によれば、最終的には梁の上に施工する必要がある床スラブによる荷重で梁を湾曲させる。
また、上記の梁の施工方法において、前記第一工程では、前記梁に保持具を取付けることで前記梁の中央部を湾曲させ、前記第二工程の後で、前記梁から前記保持具を取外してもよい。
請求項2に記載の梁の施工方法によれば、新たな道具等を必要とすることなく梁を湾曲させることができる。
請求項3に記載の梁の施工方法によれば、現場である構造物のある場所において、接続部材を用いて梁を湾曲させることができる。この接続部材は、梁及び構造物に着脱させて繰り返し用いることができる。
請求項4に記載の梁の施工方法によれば、構造物から離れた例えば工場において梁を湾曲させることができるため、梁を湾曲させる精度を向上させることができる。保持具は、梁に着脱させて繰り返し用いることができる。
以下、本発明に係る梁の施工方法(以下、施工方法とも略称する)の第1実施形態を、図1から7を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率を調整している。
図1に示すように、本施工方法に用いられる梁1は例えばH形鋼である。梁1は、建築物(構造物)100の一対の柱101の間に水平面に平行に延びるとともに、ウエブ11に対して一方のフランジ12が上方に、他方のフランジ13が下方になるように配置されている。なお、梁1の長さをlとする(図4参照)。
梁1のフランジ12、13の両端部1aと柱101とは、溶接により形成された溶接部105により固定されている。
梁1のフランジ12の上には、床スラブ107が載せられ(打設され)ている。
まず、図3及び4に示すように、初期モーメント付加工程(第一工程、図2参照)S1において、梁1の両端部1aを自由端B1にするとともに梁1の中央部1bを梁1の軸線Cに直交する第一の向きD1に向かって凸となるように湾曲させる(第一の向きD1とは反対の向きに凹に曲げる)。
ここで言う端部1aを自由端B1にするとは、端部1aの位置は拘束するが、端部1aの回転は拘束しないこと(端部1aの回転を完全には拘束しないことも含む)を意味する。具体的には、端部1aにおいて一対のフランジ12、13のうちの一方のフランジ12だけを柱101に溶接する。ボルト104及びナットで緩く締め付けて(仮締めして)、建築物100の柱101に梁1のそれぞれの端部1aを取付ける。この段階では、フランジ13は柱101に溶接しない。
ここで、梁1を下方に向かって凸となるように湾曲させる(上方に凹に曲げる)曲げモーメントを正(+)の曲げモーメントと規定する。一方で、梁1を上方に向かって凸となるように湾曲させる(下方に凹に曲げる)曲げモーメントを負(−)の曲げモーメントと規定する。梁1の端部1a以外には、梁1の長手方向の位置によらず正の曲げモーメントが作用する。
床スラブ107により梁1を湾曲させるため、新たな道具や部材が必要とならない。
以上で初期モーメント付加工程S1を終了し、端部固定工程S3に移行する。
以上で端部固定工程S3を終了し、本施工方法の全ての処理を終了する。端部固定工程S3の終了時には梁1の曲げモーメントは図4(B)の線L2のようであり、梁1の端部1aの曲げモーメントはほぼ0になる。
梁1のそれぞれの端部1aは固定端になっていて、梁1の曲げモーメントは、図5(B)の線L4のように求められる。梁1の中央部1bには正の曲げモーメントが作用していて、その大きさMOは(ω0l2/8)である。梁1のそれぞれの端部1aには負の曲げモーメントが作用していて、その大きさMAは(ω0l2/4)である。
この場合、MOとMAとが等しくなる。すなわち、梁1に作用する曲げモーメントの大きさの最大値が(ω0l2/4)であるため、この最大値に耐えられる断面積を有する梁1を選定すればよいことになる。
梁110の曲げモーメントは、図7(B)に示す線L8のように求められる。梁110の中央部110bには正の曲げモーメントが作用していて、その大きさMOは(ω0l2/6)である。梁110のそれぞれの端部110aには負の曲げモーメントが作用していて、その大きさMAは(ω0l2/3)である。比較例の梁110では、曲げモーメントの大きさの比は、中央部110bが1に対して端部110aが2となる。従来の梁110では、曲げモーメントの大きさの最大値は、端部110aで生じる。
本実施形態の梁1の端部1aでの曲げモーメントの大きさMAは(ω0l2/4)であり、比較例の梁110の端部110aでの曲げモーメントの大きさMAは(ω0l2/3)である。本実施形態の梁1の中央部1bでの曲げモーメントの大きさMOは(ω0l2/4)であり、比較例の梁110の中央部110bでの曲げモーメントの大きさMOは(ω0l2/6)である。
(ω0l2/4)/(ω0l2/3)=3/4=0.75 ・・(1)
一方で、本実施形態の梁1は、比較例の梁110に比べて、中央部1bでの曲げモーメントの大きさが(2)式より150%と大きくなり、曲げモーメントの大きさが50%増加することが分かった。
(ω0l2/4)/(ω0l2/6)=6/4=1.50 ・・(2)
したがって、建築物100に端部1aを固定して梁1を使用しているときに、従来において曲げモーメントの大きさの最大値であった梁1の端部1aの曲げモーメントの大きさが小さくなることで、梁1に作用する曲げモーメントの大きさの最大値を抑えることができる。
この曲げモーメントの大きさの最大値に耐えられる断面積を有する梁1として、断面積が狭くサイズの小さい梁1を選定することができる。
次に、本発明の第2実施形態について図8から図14を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図8に示すように、本実施形態の施工方法では、初期モーメント付加工程(図2参照)S6において、建築物100の柱101に梁1のそれぞれの端部1aが自由端B1になるように取付ける。端部1aの取付けは、前述のように梁1のフランジ12だけを柱101に溶接し、ボルト104等を仮締めすることで行う。
梁1の中央部1bと建築物100とを、チェーンブロック等の接続部材115を介して接続することで、梁1の中央部1bを梁1が湾曲する第一の向きD1が下方になるように湾曲させる。梁1Aの例では、接続部材115を梁1Aの中央部1bと建築物100の大梁120とに接続している。接続部材115は、鉛直方向に沿って延びるように接続されている。接続部材115に張力を作用させることで、床スラブ107以外の外力で、梁1の中央部1bを下方に向かって凸となるように湾曲させる。
本実施形態では、梁1を建築物100のある現場で湾曲させる。
なお、図8中に示す梁1Bの例のように、接続部材115を梁1Aの中央部1bと建築物100の柱101とに接続してもよい。接続部材115は、鉛直方向に対して斜めに延びるように接続されている。
端部固定工程S3の後で、梁1及び建築物100から接続部材115を取外す(拘束除去工程)。接続部材115が取外された後では、図11に示すように、梁1の曲げモーメントは線L13のようになる。すなわち、梁1には梁1の長手方向の位置によらず一定の正の曲げモーメントが作用する。梁1の中央部1bにおける曲げモーメントの大きさMO、及び梁1の端部1aにおける曲げモーメントの大きさMAはそれぞれ(Pl/8)になる。
前述の拘束除去工程の後で、図12に示すように梁1の上に床スラブ107及び荷物108を載せて死荷重及び活荷重を作用させ梁1を使用すると、梁1の曲げモーメントは、図13(B)に示すように、前述の線L13及び線L14を合成させて、線L16のようになる。梁1の中央部1bの中央部1bには正の曲げモーメントが作用していて、その大きさMOは(ω0l2/6+Pl/8)である。梁1のそれぞれの端部1aには負の曲げモーメントが作用していて、その大きさMAは(ω0l2/3−Pl/8)である。
ω0l2/6+Pl/8=ω0l2/3−Pl/8 ・・(3)
P/4=ω0l/6 ・・(4)
すなわち、集中荷重Pは、梁1に作用する死荷重及び活荷重の合計の大きさである4ω0lの(1/6)倍である。
このとき、MO及びMAは、(ω0l2/4)になる。
本実施形態の梁1の端部1aでの曲げモーメントの大きさMAは(ω0l2/4)であり、比較例となる線L14で与えられる従来の梁の端部での曲げモーメントの大きさは(ω0l2/3)である。
本実施形態の梁1は、比較例の梁に比べて、端部1aでの曲げモーメントの大きさの最大値が(5)式より75%と小さくなり、曲げモーメントの大きさの最大値を25%低減できることが分かった。
(ω0l2/4)/(ω0l2/3)=3/4=0.75 ・・(5)
(ω0l2/4)/(ω0l2/6)=6/4=1.50 ・・(6)
したがって、建築物100に端部1aを固定して梁1を使用しているときに、従来において曲げモーメントの大きさの最大値であった梁1の端部1aの曲げモーメントの大きさが小さくなることで、梁1に作用する曲げモーメントの大きさの最大値を抑えることができる。
また、現場である建築物100のある場所において、接続部材115を用いて梁1を湾曲させることができる。この接続部材115は、梁1及び建築物100に着脱させて繰り返し用いることができる。
次に、本発明の第3実施形態について図15及び図16を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図15に示すように、本実施形態の施工方法では、初期モーメント付加工程(図2参照)S11において、梁1に保持具20を取付けることで梁1の中央部1bを湾曲させる。
保持具20の構成は特に限定されないが、例えば、梁1の中央部1bを支持するストラット(支柱)21と、ストラット21と梁1の端部1aとを接続する張弦22とで保持具20を構成することができる。
一般的に、梁には、断面二次モーメントが比較的大きくなる強軸と、断面二次モーメントが比較的小さくなる弱軸とがある。梁1を第一の向きD1に向かって凸となるように湾曲させたときに強軸周りの曲げモーメントが作用するように、梁1の向きを調節することが望ましい。このように調節することで、梁1に一定の曲げモーメントが作用する場合でも、梁1の第一の向きD1に沿う撓みを抑えることができる。
本実施形態では、工場等で梁1に保持具20を取付けて湾曲させ、保持具20を取付けた梁1を、トラック等の搬送手段24で建築物100のある現場まで搬送する。
なお、このとき梁1に作用する曲げモーメントは、図9(B)の線L12と同一である。
端部固定工程S3の後で、梁1から保持具20を取外す。
なお、このとき梁1の曲げモーメントは、図11(B)の線L13と同一である。この後で、梁1に、死荷重及び活荷重の合力となる下向きの等分布荷重を作用させて梁1を使用する。このとき梁1の曲げモーメントは、図13(B)の線L16と同一である。
また、建築物100から離れた例えば工場において梁1を湾曲させることができるため、梁1を湾曲させる精度を向上させることができる。保持具20は、梁1に着脱させて繰り返し用いることができる。
例えば、前記第1実施形態から第3実施形態では、梁1はH形鋼とした。しかし、梁1はこれに限られず、I形鋼やT形鋼等、様々な断面形状の梁を適宜選択して用いることができる。
構造物は建築物100であるとしたが、構造物はこれに限られず橋梁等でもよい。
1a 端部
1b 中央部
20 保持具
107 床スラブ
115 接続部材
B1 自由端
C 軸線
D1 第一の向き
S1、S6、S11 初期モーメント付加工程(第一工程)
S3 端部固定工程(第二工程)
Claims (4)
- 梁の両端部を自由端にするとともに前記梁の中央部を前記梁の軸線に直交する第一の向きに向かって凸となるように湾曲させる第一工程と、
湾曲させた状態の前記梁を前記第一の向きが下方になるように配置して、前記梁のそれぞれの前記端部を構造物に固定する第二工程と、を行うことを特徴とする梁の施工方法。 - 前記第一工程では、前記構造物に前記梁のそれぞれの前記端部を、前記第一の向きが下方になるとともにそれぞれの前記端部が自由端になるように取付け、前記梁の上に床スラブを載せることを特徴とする請求項1に記載の梁の施工方法。
- 前記第一工程では、前記構造物に前記梁のそれぞれの前記端部が自由端になるように取付け、前記梁の中央部と前記構造物とを接続部材を介して接続することで前記梁の中央部を前記第一の向きが下方になるように湾曲させ、
前記第二工程の後で、前記梁及び前記構造物から前記接続部材を取外すことを特徴とする請求項1に記載の梁の施工方法。 - 前記第一工程では、前記梁に保持具を取付けることで前記梁の中央部を湾曲させ、
前記第二工程の後で、前記梁から前記保持具を取外すことを特徴とする請求項1に記載の梁の施工方法。
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