JP2017076152A - マスクブランク、位相シフトマスクおよび半導体デバイスの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ArF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するArF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備え、ArF耐光性が高い位相シフト膜を備えるマスクブランクを提供する。【解決手段】位相シフト膜は、透光性基板側から下層と上層が積層し、下層は、ケイ素またはケイ素に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有して形成され、表層以外の上層は、ケイ素および窒素、またはこれらに非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、下層は、屈折率nが1.8未満でかつ消衰係数kが2.0以上で、上層は、屈折率nが2.3以上でかつ消衰係数kが1.0以下で、上層は下層よりも厚く、透光性基板は、屈折率nが1.6以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、マスクブランクおよびそのマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクに関するものである。また、本発明は、上記の位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関するものである。
一般に、半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光パターンを備えたバイナリマスクの他に、ハーフトーン型位相シフトマスクが知られている。ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト膜には、モリブデンシリサイド(MoSi)系の材料が広く用いられる。しかし、特許文献1に開示されている通り、MoSi系膜は、ArFエキシマレーザーの露光光に対する耐性(いわゆるArF耐光性)が低いということが近年判明している。特許文献1では、パターンが形成された後のMoSi系膜に対し、プラズマ処理、UV照射処理、または加熱処理を行い、MoSi系膜のパターンの表面に不動態膜を形成することにより、MoSi系膜のArF耐光性を高めている。
特許文献2では、MoSi系膜のArF耐光性が低いのは、膜中の遷移金属がArFエキシマレーザーの照射によって光励起して不安定化することがその原因にあるとしている。そして、この特許文献2では、位相シフト膜を形成する材料に遷移金属を含有しない材料であるSiNxを適用している。特許文献2では、透光性基板上に位相シフト膜として単層でSiNx膜を形成する場合、その位相シフト膜に求められる光学特性が得られるSiNx膜の組成は、反応性スパッタリング法で成膜する際に不安定な成膜条件(遷移モード)で成膜する必要があることが示されている。そして、この技術的課題を解決するために、特許文献2の位相シフト膜は、高透過層と低透過層を含む積層構造としている。さらに、高透過層は、ポイズンモードの領域で成膜された窒素含有量が相対的に多いSiN系膜を適用し、低透過層は、メタルモードの領域で成膜された窒素含有量が相対的に少ないSiN系膜を適用している。
特開2010−217514号公報 特開2014−137388号公報
特許文献2に開示されているSiN系多層構造の位相シフト膜は、従来のMoSi系材料の位相シフト膜に比べ、ArF耐光性が大幅に改善されている。SiN系多層構造の位相シフト膜に転写パターンを形成した後、ArF露光光を積算照射したときに生じるパターンの幅のCD変化(太り)は、従来のMoSi系材料の位相シフト膜の場合に比べて大きく抑制されている。しかし、転写パターンのさらなる微細化、マルチプルパターニング技術の適用などの事情により、位相シフトマスクを含む転写用マスクの製造の難易度はさらに高くなっている。また、マスクブランクから転写用マスクを製造するまでに要する時間もさらに長くなっている。そして、これらの事情から、転写用マスクの価格が高騰している。このため、位相シフトマスクを含む転写用マスクのさらなる長寿命化が望まれている。
Siは化学量論的に安定な材料であり、ArF耐光性もケイ素と窒素からなる材料の中で優位性が高い。位相シフト膜は、その位相シフト膜に入射するArF露光光に対して、所定の透過率で透過する機能と、かつ所定の位相差を付与する機能を兼ね備える必要がある。Siは、窒素含有量が少ないSiNxに比べ、ArF露光光の波長における屈折率nが大きいため、位相シフト膜の材料にSiを適用した場合、ArF露光光に対して所定の位相差を付与するために必要な膜厚を薄くすることができる。以降、単に屈折率nと記述している場合、ArF露光光の波長に対する屈折率nのことを意味するものとし、単に消衰係数kと記述している場合、ArF露光光の波長に対する消衰係数kのことを意味するものとする。
ArF耐光性で問題となる位相シフトパターンのCD変化は、位相シフト膜の内部にArF露光光が入射したときにその位相シフト膜を構成する元素を光励起させてしまうことが最大の要因であると考えられている。MoSi系材料の場合、遷移金属のモリブデン(Mo)が光励起されやすく、これに起因して表面からのケイ素(Si)の酸化が大幅に進み、パターンの体積が大きく膨張する。このため、MoSi系材料の位相シフト膜は、ArF露光光の照射前後でのCD変化(太り)が著しい。SiN系材料の位相シフト膜の場合、遷移金属を含有していないため、ArF露光光の照射前後でのCD変化は比較的小さい。しかし、位相シフト膜中のケイ素も遷移金属ほど顕著ではないが、ArF露光光の照射によって光励起される。
位相シフトマスクや転写用マスクを製造するためのマスクブランクのパターン形成用薄膜(位相シフト膜を含む。)は、アモルファスまたは微結晶構造となるような成膜条件でスパッタ成膜される。アモルファスまたは微結晶構造の薄膜中のSiは、結晶膜中のSiよりも結合状態が弱い。このため、アモルファスまたは微結晶構造のSiの位相シフト膜は、ArF露光光の照射によって膜中のケイ素が光励起されやすい。位相シフト膜をSiの結晶膜とすれば、膜中のケイ素が光励起されることを抑制できる。しかし、結晶膜にドライエッチングで転写パターンを形成すると、そのパターン側壁のラフネスは、転写パターンとして許容されるLER(Line Edge Roughness)を大幅に越えるほど悪くなるため、結晶膜はパターン形成用薄膜(位相シフト膜)に適用することはできない。これらのことから、特許文献2に開示されているようなSiN系材料の位相シフト膜を基にして、組成等を単に調整するだけでは、さらなる長寿命の位相シフトマスクを完成させることは困難であった。
Siは、屈折率nが大きい反面、ArF露光光の波長における消衰係数kは大幅に小さい材料である。このため、位相シフト膜をSiで形成し、所定の位相差を180度弱となるように設計しようとすると、透過率が20%弱程度の高い透過率のものしか作ることができない。SiN系材料の窒素含有量を下げていけば、所定の位相差と所定の透過率の位相シフト膜を作ることは可能であるが、当然ながら窒素含有量の低下とともにArF耐光性も低下していく。このため、Siからなる位相シフト膜よりも低い透過率の位相シフト膜とする場合には、位相シフト膜をSiからなる層と透過率を調整するための層の積層構造とする必要がある。しかし、透過率を調整する層を単に設けた場合、その層のArF耐光性は高くないため、さらなる長寿命の位相シフトマスクを完成させることはできない。
そこで、本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクにおいて、ArF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するArF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備える位相シフト膜であり、さらにSiからなる位相シフト膜よりもArF耐光性が高い位相シフト膜を備えるマスクブランクを提供することを目的としている。また、このマスクブランクを用いて製造される位相シフトマスクを提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
前記下層は、ケイ素からなる材料、またはケイ素からなる材料に酸素以外の非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、
前記上層は、その表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、
前記下層は、屈折率nが1.8未満であり、かつ消衰係数kが2.0以上であり、
前記上層は、屈折率nが2.3以上であり、かつ消衰係数kが1.0以下であり、
前記上層は、前記下層よりも厚さが厚い
ことを特徴とするマスクブランク。
(構成2)
前記下層は、厚さが12nm未満であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記上層の厚さは、前記下層の厚さの5倍以上であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
(構成4)
前記下層は、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素以外の非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有した材料で形成されていることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記下層は、窒素含有量が40原子%以下であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成6)
前記上層の表層部分は、前記表層部分を除く上層を形成する材料に酸素を加えた材料で形成されていることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記上層は、窒素含有量が50原子%よりも大きいことを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成8)
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成10)
前記遮光膜は、クロムを含有する材料からなることを特徴とする構成9記載のマスクブランク。
(構成11)
前記遮光膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする構成9記載のマスクブランク。
(構成12)
前記遮光膜は、前記位相シフト膜側からクロムを含有する材料からなる層と遷移金属とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造を有することを特徴とする構成9記載のマスクブランク。
(構成13)
構成9から12のいずれかに記載のマスクブランクの前記位相シフト膜に転写パターンが形成され、前記遮光膜に遮光パターンが形成されていることを特徴とする位相シフトマスク。
(構成14)
前記遮光膜が積層していない前記位相シフト膜の領域における前記透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が35%以上であることを特徴とする構成13記載の位相シフトマスク。
(構成15)
前記遮光膜が積層している前記位相シフト膜の領域における前記透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が30%以上であることを特徴とする構成13または14に記載の位相シフトマスク。
(構成16)
構成13から15のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えており、その位相シフト膜は、ArF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するArF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備えつつ、Siからなる位相シフト膜よりもArF耐光性を高くすることができる。
本発明の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。 本発明の実施形態における位相シフトマスクの製造工程を示す断面模式図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。本願発明者らは、MoSi系材料よりもArF耐光性が高い材料であるSiN系材料を用いる位相シフト膜において、ArF露光光を所定の透過率で透過する機能と所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備えつつ、ArF耐光性をさらに高める手段について、鋭意研究を行った。
従来の位相シフト膜を形成する材料は、屈折率nができる限り大きく、かつ消衰係数kが大き過ぎず小さ過ぎない範囲内にあるものが好ましいとされている。従来の位相シフト膜は、主に位相シフト膜の内部でArF露光光を吸収することで所定の透過率でArF露光光を透過させつつ、その透過するArF露光光に対して所定の位相差を生じさせる設計思想となっているためである。従来の位相シフト膜の設計思想によって、透光性基板上にSiを用いた位相シフト膜のパターンを形成し、位相シフトマスクを製造した場合、透光性基板側から位相シフト膜内に入射したArF露光光は位相シフト膜内で吸収され、所定の透過率でArF露光光が位相シフト膜から出射する。この位相シフト膜内でArF露光光が吸収されるとき、膜中のケイ素が光励起する。位相シフト膜中における光励起するケイ素の比率が高くなるほど、酸素を結合して体積膨張するケイ素の比率が高くなり、CD変化量が大きくなることになる。
一方、位相シフト膜に求められるArF露光光に対する所定の透過率が低く、Siの層だけでは、その所定の透過率とすることができない場合、位相シフト膜を窒素含有量が相対的に多いSiの高透過層と窒素含有量が相対的に少ないSiNの低透過層との積層構造とすることが必要となってくる。この場合、ArF露光光がSiNの低透過層を透過するときに、Siの高透過層を透過するときよりも多く、ArF露光光を吸収することになる。SiNの低透過層は窒素含有量が少ないため、Siの高透過層中のケイ素よりも低透過層中のケイ素の方が光励起しやすく、低透過層のCD変化量が大きくなってしまうことは避け難い。以上のように、従来の位相シフト膜の設計思想を適用しても、SiN系材料の位相シフト膜のArF耐光性をさらに高めることは困難である。
本発明者らは、位相シフト膜のArF露光光に対する透過率を所定値とするために、透光性基板と位相シフト膜との界面における反射率(裏面反射率)を従来の位相シフト膜よりも高くすることで、位相シフト膜のArF露光光に対する耐光性を高められるのではないかと考えた。透光性基板側から位相シフト膜へArF露光光が入射するとき、透光性基板と位相シフト膜との界面で反射されるArF露光光の光量を従来よりも高くすることで、位相シフト膜の内部に入射する露光光の光量を下げることができる。これにより、位相シフト膜内で吸収されるArF露光光の光量を従来よりも少なくしても、位相シフト膜から出射するArF露光光の光量を従来の位相シフト膜と同等にすることができる。それにより、位相シフト膜の内部でケイ素が光励起しにくくなり、その位相シフト膜のArF耐光性を高めることができる。
単層構造の位相シフト膜では、裏面反射率を従来の位相シフト膜よりも高くすることが難しい。そこで、SiN系の高透過層とSiN系の低透過層の積層構造の位相シフト膜で検討を行った。高透過層に窒素含有量が高いSiNを適用し、低透過層に窒素含有量の低いSiNを適用した位相シフト膜で検討したところ、所定の位相差と所定の透過率の条件を満たすような膜設計は可能であるが、単純にこれらの層を積層しただけでは、位相シフト膜の全体における裏面反射率を高めることは難しいことがわかった。Siのような窒素含有量が高いSiNは、屈折率nが大きく、消衰係数kが小さい材料であり、この材料を位相シフト膜の透光性基板側に配置される下層に適用しても、ArF露光光に対する裏面反射率は高くならない。このため、Siのような窒素含有量が高いSiNは、位相シフト膜の上層に適用することにした。
ArF露光光に対する位相シフト膜の裏面反射率を高めるには、透光性基板と位相シフト膜の下層との界面での反射だけでなく、位相シフト膜を構成する下層と上層との界面での反射も高くすることが望まれる。これらの条件を満たすために、下層には、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい材料を適用することにした。窒素含有量が低いSiNは、そのような光学特性を有するため、これを位相シフト膜の下層に適用することにした。すなわち、透光性基板上に、窒素含有量が低いSiN系材料の下層と窒素含有量が高いSiN系材料の上層を積層した構造を備える位相シフト膜を設けたマスクブランクとした。
下層は、透光性基板よりも消衰係数kが大幅に大きい材料で形成されているため、透光性基板側から照射されたArF露光光は、透光性基板と下層との界面で従来の位相シフト膜よりも高い光量比率で反射される。そして、上層は下層よりも消衰係数kは小さいが、屈折率が大きい材料で形成されているため、下層の内部に入射したArF露光光は、下層と上層との界面においても一部反射される。すなわち、このような位相シフト膜は、透光性基板と下層の界面と、下層と上層の界面の2箇所でArF露光光を反射するため、従来の位相シフト膜よりもArF露光光に対する裏面反射率が高くなる。このような新たな設計思想を位相シフト膜に対して適用し、上層と下層を形成する材料の成膜条件等を調整し、上層および下層の屈折率n、消衰係数kおよび膜厚を調整することで、ArF露光光に対する所定の透過率と所定の位相差を兼ね備えつつ、所定の裏面反射率となる位相シフト膜を形成することができた。以上のような位相シフト膜の構成とすることで、前記の技術的課題を解決できるという結論に至った。
すなわち、本発明は、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、位相シフト膜は、透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、下層は、ケイ素からなる材料、またはケイ素からなる材料に酸素以外の非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、上層は、その表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、下層は、屈折率nが1.8未満であり、かつ消衰係数kが2.0以上であり、上層は、屈折率nが2.3以上であり、かつ消衰係数kが1.0以下であり、上層は、下層よりも厚さが厚いことを特徴とするマスクブランクである。
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO−TiOガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のArF露光光の波長(約193nm)における屈折率nは、1.5以上1.6以下であることが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。
位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が2%以上であることが求められる。位相シフト膜2の内部を透過した露光光と空気中を透過した露光光との間で十分な位相シフト効果を生じさせるには、露光光に対する透過率が少なくとも2%は必要である。位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2の露光光に対する透過率が高くなるにつれて、裏面反射率を高めることが難しくなる。このため、位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、30%以下であると好ましく、20%以下であるとより好ましく、10%以下であるとさらに好ましい。
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上180度以下の範囲になるように調整されていることが求められる。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることが好ましく、160度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、179度以下であることが好ましく、177度以下であるとより好ましい。位相シフト膜2にパターンを形成するときのドライエッチング時に、透光性基板1が微小にエッチングされることによる位相差の増加の影響を小さくするためである。また、近年の露光装置による位相シフトマスクへのArF露光光の照射方式が、位相シフト膜2の膜面の垂直方向に対して所定角度で傾斜した方向からArF露光光を入射させるものが増えてきているためでもある。
位相シフト膜2は、ArF露光光が位相シフト膜2の内部に入射してケイ素を光励起させることを抑制する観点から、透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態において、ArF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が少なくとも35%以上であることが求められる。透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態とは、このマスクブランク100から位相シフトマスク200(図2(g)参照)を製造した時に、位相シフトパターン2aの上に遮光パターン3bが積層していない状態(遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域)のことをいう。他方、位相シフト膜2のみが存在する状態での裏面反射率が高すぎると、このマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200を用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフト膜2の裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくなるため、好ましくない。この観点から、位相シフト膜2のArF露光光に対する裏面反射率は、45%以下であることが好ましい。
位相シフト膜2は、透光性基板1側から、下層21と上層22が積層した構造を有する。位相シフト膜2の全体で、上記の透過率、位相差、裏面反射率の各条件を少なくとも満たす必要がある。位相シフト膜2が上記の条件を満たすには、下層21の屈折率nは、1.80未満であることが求められる。下層21の屈折率nは、1.75以下であると好ましく、1.70以下であるとより好ましい。また、下層21の屈折率nは、1.00以上であると好ましく、1.10以上であるとより好ましい。下層21の消衰係数kは、2.00以上であることが求められる。下層21の消衰係数kは、2.10以上であると好ましく、2.20以上であるとより好ましい。また、下層21の消衰係数kは、2.90以下であると好ましく、2.80以下であるとより好ましい。なお、下層21の屈折率nおよび消衰係数kは、下層21の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
位相シフト膜2が上記の条件を満たすには、上層22の屈折率nは、2.30以上であることが求められる。上層22の屈折率nは、2.40以上であると好ましい。また、上層22の屈折率nは、2.80以下であると好ましく、2.70以下であるとより好ましい。上層22の消衰係数kは、1.00以下であることが求められる。上層22の消衰係数kは、0.90以下であると好ましく、0.70以下であるとより好ましい。また、上層22の消衰係数kは、0.20以上であると好ましく、0.30以上であるとより好ましい。なお、上層22の屈折率nおよび消衰係数kは、後述の表層部分を含む上層22の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。下層21と上層22を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、希ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタリングターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される下層21および上層22が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
位相シフト膜2が上記の条件を満たすには、上記の下層21と上層22の光学特性に加えて、上層22の厚さは、下層21の厚さよりも厚いことが少なくとも必要である。上層22は、その求められる光学特性を満たすために窒素含有量が多い材料が適用され、ArF耐光性が相対的に高い傾向を有するのに対し、下層21は、その求められる光学特性を満たすために窒素含有量が少ない材料が適用され、ArF耐光性が相対的に低い傾向を有する。位相シフト膜2の裏面反射率を高くしているのは、位相シフト膜2のArF耐光性を高めるためであることを考慮すると、ArF耐光性が相対的に低い傾向を有する下層21の厚さは、ArF耐光性が相対的に高い傾向を有する上層22の厚さよりも薄くする必要があるためである。
下層21の厚さは、位相シフト膜2に求められる所定の透過率、位相差および裏面反射率の条件を満たせる範囲で、極力薄くすることが望まれる。下層21の厚さは12nm未満であると好ましく、11nm以下であるとより好ましく、10nm以下であるとさらに好ましい。また、特に位相シフト膜2の裏面反射率の点を考慮すると、下層21の厚さは、3nm以上であることが好ましく、4nm以上であるとより好ましく、5nm以上であるとさらに好ましい。
上層22はArF耐光性が相対的に高い材料で形成されるため、位相シフト膜2に求められる所定の透過率、位相差および裏面反射率の条件を満たせる範囲で、位相シフト膜2の全体の膜厚に対する上層22の厚さの比率を極力大きくすることが望まれる。上層22の厚さは、下層21の厚さの5倍以上であることが好ましく、5.5倍以上であるとより好ましく、6倍以上であるとさらに好ましい。また、上層22の厚さは、下層21の厚さの10倍以下であるとより好ましい。上層22の厚さは80nm以下であると好ましく、70nm以下であるとより好ましく、65nm以下であるとさらに好ましい。また、上層22の厚さは、50nm以上であることが好ましく、55nm以上であるとより好ましい。
下層21は、ケイ素からなる材料、またはケイ素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成される。下層21には、ArF露光光に対する耐光性が低下する要因となり得る遷移金属は含有しない。遷移金属を除く金属元素についても、ArF露光光に対する耐光性が低下する要因となり得る可能性は否定できないため、含有させないことが望ましい。下層21は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
下層21は、酸素以外の非金属元素を含有してもよい。この非金属元素の中でも、窒素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の希ガスも含まれる。下層21は、積極的に酸素を含有させることをしない(X線光電子分光法等による組成分析を行ったときの酸素含有量が、検出下限値以下。)。下層21を形成する材料中に酸素を含有させることによって生じる下層21の消衰係数kの低下が他の非金属元素に比べて大きく、位相シフト膜2の裏面反射率を大きく低下させないためである。
下層21は、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成されていることが好ましい。窒素を含有するケイ素系材料の方が窒素を含有していないケイ素系材料よりもArF露光光に対する耐光性が高くなるためである。また、下層21に位相シフトパターンを形成したときのパターン側壁の酸化が抑制されるためである。ただし、下層21を形成する材料中の窒素含有量が多くなるに従い、屈折率nは大きくなり、消衰係数kは小さくなる。このため、下層21を形成する材料中の窒素含有量は、40原子%以下であることが好ましく、36原子%以下であるとより好ましく、32原子%以下であるとさらに好ましい。
上層22は、その表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成される。上層22の表層部分とは、上層22の下層21側とは反対側の表層部分のことをいう。成膜装置で透光性基板1上に位相シフト膜2を成膜し終えた後、膜表面の洗浄処理が行われる。この上層22の表層部分は、洗浄処理時に洗浄液やリンス液に晒されるため、成膜時の組成に関わらず酸化が進むことが避け難い。また、位相シフト膜2が大気中に晒されることや大気中で加熱処理を行ったことによっても上層22の表層部分の酸化が進む。上記のとおり、上層22は屈折率nが高い材料であるほど好ましい。材料中の酸素含有量が増加するに従って屈折率nは低下する傾向があるため、表層部分を除き、成膜時において上層22に酸素を積極的に含有させることはしない(X線光電子分光法等による組成分析を行ったときの酸素含有量が、検出下限値以下。)。これらのことから、上層22の表層部分は、表層部分を除く上層を形成する材料に酸素を加えた材料で形成されることになる。
上層22の表層部分は、種々の酸化処理で形成してもよい。表層を安定した酸化層とすることが可能であるためである。この酸化処理としては、例えば、大気などの酸素を含有する気体中における加熱処理、酸素を含有する気体中におけるフラッシュランプ等による光照射処理、オゾンや酸素プラズマを上層22の表面に接触させる処理などがあげられる。特に、位相シフト膜2の膜応力を低減する作用も同時に得られる加熱処理やフラッシュランプ等による光照射処理を用いることが好ましい。上層22の表層部分は、厚さが1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であるとより好ましい。また、上層22の表層部分は、厚さが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であるとより好ましい。
上層22には、ArF露光光に対する耐光性が低下する要因となり得る遷移金属は含有しない。遷移金属を除く金属元素についても、ArF露光光に対する耐光性が低下する要因となり得る可能性は否定できないため、含有させないことが望ましい。上層22は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
上層22は、酸素以外の非金属元素を含有してもよい。この非金属元素の中でも、窒素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の希ガスも含まれる。上層22は屈折率nが大きい材料であるほど好ましく、ケイ素系材料は窒素含有量が多くなるほど屈折率nが大きくなる傾向がある。このため、上層22を形成する材料に含まれる半金属元素と非金属元素の合計含有量は10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であるとより好ましく、積極的に含有させないとさらに好ましい。他方、上記の理由から、上層22を形成する材料中の窒素含有量は、少なくとも下層21を形成する材料中の窒素含有量よりも多いことが求められる。上層22を形成する材料中の窒素含有量は、50原子%よりも大きいことが好ましく、52原子%以上であるとより好ましく、55原子%以上であるとさらに好ましい。
下層21は、透光性基板1の表面に接して形成されていることが好ましい。下層21が透光性基板1の表面と接した構成とした方が、上記の位相シフト膜2の下層21と上層22の積層構造によって生じる裏面反射率を高める効果がより得られるためである。位相シフト膜2の裏面反射率を高める効果に与える影響が微小であれば、透光性基板1と位相シフト膜2との間にエッチングストッパー膜を設けてもよい。この場合、エッチングストッパー膜の厚さは、10nm以下であることが必要であり、7nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。また、エッチングストッパーとして有効に機能するという観点から、エッチングストッパー膜の厚さは、3nm以上であることが必要である。エッチングストッパー膜を形成する材料の消衰係数kは、0.1未満であることが必要であり、0.05以下であると好ましく、0.01以下であるとより好ましい。また、この場合のエッチングストッパー膜を形成する材料の屈折率nは、1.9以下であることが少なくとも必要であり、1.7以下であると好ましい。エッチングストッパー膜を形成する材料の屈折率nは、1.55以上であることが好ましい。
下層21を形成する材料と表層部分を除く上層22を形成する材料は、ともに同じ元素で構成されていることが好ましい。上層22と下層21は、同じエッチングガスを用いたドライエッチングによってパターニングされる。このため、上層22と下層21は、同じエッチングチャンバー内でエッチングすることが望ましい。上層22と下層21を形成する各材料を構成している元素が同じであると、上層22から下層21へとドライエッチングする対象が変わっていくときのエッチングチャンバー内の環境変化を小さくすることができる。同じエッチングガスによるドライエッチングで位相シフト膜2がパターニングされるときにおける、上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比率は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であるとより好ましい。また、同じエッチングガスによるドライエッチングで位相シフト膜2がパターニングされるときにおける、上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比率は、1.0以上であることが好ましい。
位相シフト膜2における下層21および上層22は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリマスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。通常、位相シフトマスクを含む転写用マスクの外周領域では、ODが2.8以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
また、上層22(特に表層部分)を形成する材料との間でドライエッチングに対するエッチング選択性が得られるのであれば、遮光膜3を遷移金属とケイ素を含有する材料で形成してもよい。遷移金属とケイ素を含有する材料は遮光性能が高く、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
一方、別の実施形態のマスクブランク100の遮光膜3として、位相シフト膜2側からクロムを含有する材料からなる層と遷移金属とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造の遮光膜3を備えてもよい。この場合におけるクロムを含有する材料および遷移金属とケイ素を含有する材料の具体的な事項については、上記の遮光膜3の場合と同様である。
マスクブランク100は、位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態において、ArF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が30%以上であること好ましい。遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合や遮光膜3の位相シフト膜2側の層がクロムを含有する材料で形成されている場合、遮光膜3へ入射するArF露光光の光量が多いと、クロムが光励起されて位相シフト膜2側にクロムが移動する現象が発生しやすくなる。位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態におけるArF露光光に対する裏面反射率を30%以上とすることで、このクロムの移動を抑制することができる。また、遮光膜3が遷移金属とケイ素を含有する材料で形成されている場合、遮光膜3へ入射するArF露光光の光量が多いと、遷移金属が光励起されて位相シフト膜2側に遷移金属が移動する現象が発生しやすくなる。位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態におけるArF露光光に対する裏面反射率を30%以上とすることで、この遷移金属の移動を抑制することができる。
マスクブランク100において、遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4を遮光膜3の上にさらに積層させた構成とすると好ましい。ハードマスク膜4は、基本的に光学濃度の制限を受けないため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、ケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選らばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制できる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
図2に、上記実施形態のマスクブランク100から製造される本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200とその製造工程を示す。図2(g)に示されているように、位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターンである位相シフトパターン2aが形成され、遮光膜3に遮光パターン3bが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200の製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光パターンを有するレジスト膜(レジストパターン6b)をマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光パターン3bを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図2に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用した場合について述べる。
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF、CF、C、C、SF等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
本発明の位相シフトマスク200は、前記のマスクブランク100を用いて作製されたものである。このため、転写パターンが形成された位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)はArF露光光に対する透過率が2%以上であり、かつ位相シフトパターン2aを透過した露光光と位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間における位相差が150度以上180度以下の範囲内となっている。また、この位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域(位相シフトパターン2aのみが存在する透光性基板1上の領域)における裏面反射率が35%以上になっている。これにより、位相シフト膜2の内部に入射するArF露光光の光量が削減でき、そのArF露光光によって位相シフト膜2中のケイ素が光励起することを抑制することができる。
位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域における裏面反射率が45%以下であると好ましい。位相シフトマスク200を用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフトパターン2aの裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくならない範囲とするためである。
位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの透光性基板1上の領域における裏面反射率が30%以上であることが好ましい。遮光パターン3bがクロムを含有する材料で形成されている場合や遮光パターン3bの位相シフトパターン2a側の層がクロムを含有する材料で形成されている場合、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを抑制できる。また、遮光パターン3bが遷移金属とケイ素を含有する材料で形成されている場合、遮光パターン3b内の遷移金属が位相シフトパターン2a内に移動することを抑制できる。
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴としている。位相シフトマスク200の位相シフトパターン2aは、ArF露光光に対する耐光性が大幅に向上している。このため、この位相シフトマスク200を露光装置にセットし、その位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射して転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写する工程を継続して行っても、位相シフトパターン2aのCD変化量は小さく、高い精度で転写対象物に所望のパターンを転写し続けることができる。
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものである。この透光性基板1の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.556、消衰係数kが0.00であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとするRFスパッタリングにより、透光性基板1の表面に接してケイ素からなる位相シフト膜2の下層21(Si膜)を8nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を63nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を71nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2は、上層22の厚さが下層21の厚さの7.9倍ある。なお、下層21および上層22の組成は、X線光電子分光法(XPS)による測定によって得られた結果である。以下、他の膜に関しても同様である。
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および表層部分に酸化層を形成するための加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEM(Scanning Electron Microscope)とEDX(Energy Dispersive X−Ray Spectroscopy)で分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.06、消衰係数kが2.72であり、上層22は、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は44.1%であった。
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3(CrOCN膜 Cr:O:C:N=55原子%:22原子%:12原子%:11原子%)を46nmの厚さで形成した。この透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は42.7%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3のみを成膜し、その遮光膜3の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.95、消衰係数kが1.53であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。その後、第1のレジストパターン5aを除去した。
続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=10:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図2(c)参照)。次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。なお、位相シフト膜2にSF+Heを用いたドライエッチングを行ったときの、上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比は、2.06であった。
作製した実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は1.5nmであった。このCD変化量は、Siの単層構造からなる位相シフトパターンに対して同様の照射処理の前後で生じるCD変化量(3.2nm)に比べて改善されている。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例1のマスクブランクから製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
一方、実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であった。以上のことから、この実施例1のマスクブランクから製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを十分に抑制できるといえる。
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例2の位相シフト膜2は、下層21を形成する材料と膜厚を変更し、さらに上層22の膜厚を変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(SiN膜 Si:N=68原子%:32原子%)を9nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を59nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を68nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2は、上層22の厚さが下層21の厚さの6.6倍ある。
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例2の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.48、消衰係数kが2.35であり、上層22は、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は39.5%であった。
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例2のマスクブランク100を製造した。なお、この実施例2のマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は37.6%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク200を作製した。なお、位相シフト膜2にSF+Heを用いたドライエッチングを行ったときの上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比は、1.09であった。
作製した実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は1.8nmであった。このCD変化量は、Siの単層構造からなる位相シフトパターンに対して同様の照射処理の前後で生じるCD変化量(3.2nm)に比べて改善されている。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例2のマスクブランクから製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
一方、実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であった。以上のことから、この実施例2のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを十分に抑制できるといえる。
(実施例3)
[マスクブランクの製造]
実施例3のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例3の位相シフト膜2は、下層21を形成する材料と膜厚を変更し、さらに上層22の膜厚を変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(SiN膜 Si:N=64原子%:36原子%)を10nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を58nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を68nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2は、上層22の厚さが下層21の厚さの5.8倍ある。
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例3の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.62、消衰係数kが2.18であり、上層22は、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は37.8%であった。
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例3のマスクブランク100を製造した。なお、この実施例3のマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は35.8%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例3のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例3の位相シフトマスク200を作製した。なお、位相シフト膜2にSF+Heを用いたドライエッチングを行ったときの上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比は、1.04であった。
作製した実施例3のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は2.0nmであった。このCD変化量は、Siの単層構造からなる位相シフトパターンに対して同様の照射処理の前後で生じるCD変化量(3.2nm)に比べて改善されている。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例3のマスクブランクから製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
一方、実施例3のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であった。以上のことから、この実施例3のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを十分に抑制できるといえる。
(実施例4)
[マスクブランクの製造]
実施例4のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例4の位相シフト膜2は、下層21を形成する材料と膜厚を変更し、さらに上層22の膜厚を変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(SiN膜 Si:N=60原子%:40原子%)を11nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を56nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を67nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2は、上層22の厚さが下層21の厚さの5.1倍ある。
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例4の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.76、消衰係数kが2.00であり、上層22は、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は35.4%であった。
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例4のマスクブランク100を製造した。なお、この実施例4のマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は33.3%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例4のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例4の位相シフトマスク200を作製した。なお、位相シフト膜2にSF+Heを用いたドライエッチングを行ったときの上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比は、1.00であった。
作製した実施例4のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は2.4nmであった。このCD変化量は、Siの単層構造からなる位相シフトパターンに対して同様の照射処理の前後で生じるCD変化量(3.2nm)に比べて改善されている。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例4のマスクブランクから製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
一方、実施例4のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であった。以上のことから、この実施例4のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを十分に抑制できるといえる。
(実施例5)
[マスクブランクの製造]
実施例5のマスクブランク100は、遮光膜3とハードマスク膜4以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例5の遮光膜3は、下層と上層の2層構造とし、さらに下層と上層を形成する材料にモリブデンシリサイド系材料を用いている。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=13原子%:87原子%)を用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2の上層22の表面に接してモリブデン、ケイ素および窒素からなる遮光膜3の下層(MoSiN膜 Mo:Si:N=8原子%:62原子%:30原子%)を27nmの厚さで形成した。続いて、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=13原子%:87原子%)を用い、アルゴン(Ar)、酸素(O)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の下層の表面に接してモリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる遮光膜3の上層(MoSiON膜 Mo:Si:O:N=6原子%:54原子%:3原子%:37原子%)を13nmの厚さで形成した。以上の手順により、位相シフト膜2の表面に接して下層と上層が積層した遮光膜3を40nmの厚さで形成した。
この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3の下層のみを成膜し、その遮光膜3の下層の光学特性を測定したところ、屈折率nが2.23、消衰係数kが2.07であった。同様に、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3の上層のみを成膜し、その遮光膜3の上層の光学特性を測定したところ、屈折率nが2.33、消衰係数kが0.94であった。
実施例5のハードマスク膜4は、クロム系材料を用いている。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2および遮光膜3が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の上層の表面に接してクロムおよび窒素からなるハードマスク膜4(CrN膜 Cr:N=75原子%:25原子%)を5nmの厚さで形成した。
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、MoSiNの下層とMoSiONの上層とからなる遮光膜3およびCrNのハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例5のマスクブランク100を製造した。なお、この実施例5のマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は43.1%であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例5のマスクブランク100を用い、遮光膜3のドライエッチングに用いるエッチングガスとしてフッ素系ガス(SF+He)と適用し、ハードマスク膜4のドライエッチングに用いるエッチングガスとして塩素と酸素の混合ガス(Cl+O)を適用したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例5の位相シフトマスク200を作製した。
作製した実施例5のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は1.5nmであった。このCD変化量は、Siの単層構造からなる位相シフトパターンに対して同様の照射処理の前後で生じるCD変化量(3.2nm)に比べて改善されている。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例5のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
一方、実施例5のハーフトーン型位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのモリブデン含有量は微小であった。以上のことから、この実施例5のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のモリブデンが位相シフトパターン2a内に移動することを十分に抑制できるといえる。
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
この比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜2は、下層21を形成する材料と膜厚を変更し、さらに上層22の膜厚を変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(SiN膜 Si:N=52原子%:48原子%)を22nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を42nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を64nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2は、上層22の厚さが下層21の厚さの1.9倍ある。
また、実施例1と同様の処理条件で、この比較例1の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが2.39、消衰係数kが1.17であり、上層22は、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は19.5%であった。
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。なお、この比較例1のマスクブランクは、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は17.8%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを作製した。なお、位相シフト膜2にSF+Heを用いたドライエッチングを行ったときの上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比は、0.96であった。
作製した比較例1のハーフトーン型位相シフトマスクにおける遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は3.2nmであった。このCD変化量は、Siの単層構造からなる位相シフトパターンに対して同様の照射処理の前後で生じるCD変化量(3.2nm)と差がなく、CD変化量を改善することができていない。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスクに対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を満たせていなかった。以上のことから、この比較例1のマスクブランクから製造された位相シフトマスクは、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行うと、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができなくなるといえる。
一方、比較例1のハーフトーン型位相シフトマスクにおける遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのクロム含有量は各実施例での結果に比べて大幅に増加していた。この結果から、この比較例1のマスクブランクから製造された位相シフトマスクは、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを抑制できないといえる。
(比較例2)
[マスクブランクの製造]
この比較例2のマスクブランクは、位相シフト膜2と遮光膜3以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例2の位相シフト膜2は、単層構造に変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を60nmの厚さで形成した。
この位相シフト膜2の光学特性を測定したところ、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。ただし、この単層構造の位相シフト膜2は、位相差が177.0度(deg)になるように調整したところ、透過率は18.1%になった。位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を3.0以上となるようにするため、遮光膜3は、組成および光学特性は同じとしたが、厚さは57nmに変更した。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は16.6%であった。
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの単層構造からなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える比較例2のマスクブランクを製造した。なお、この比較例2のマスクブランクは、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は13.7%であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例2のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例2の位相シフトマスクを作製した。
作製した比較例2のハーフトーン型位相シフトマスクにおける遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は3.2nmであった。
さらに、このArFエキシマレーザー光の照射処理を行った後の位相シフトマスクに対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を満たせていなかった。以上のことから、この比較例2のマスクブランクから製造された位相シフトマスクは、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cmとなるまで行うと、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができなくなるといえる。
一方、比較例2のハーフトーン型位相シフトマスクにおける遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cmとなるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行ったところ、位相シフトパターン2aのクロム含有量は各実施例での結果に比べて大幅に増加していた。この結果から、この比較例2のマスクブランクから製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを抑制できないといえる。
1 透光性基板
2 位相シフト膜
21 下層
22 上層
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a 第1のレジストパターン
6b 第2のレジストパターン
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク

Claims (25)

  1. 透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
    前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
    前記下層は、ケイ素からなる材料、またはケイ素からなる材料に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、
    前記上層は、その表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、
    前記下層は、屈折率nが1.8未満であり、かつ消衰係数kが2.0以上であり、
    前記上層は、屈折率nが2.3以上であり、かつ消衰係数kが1.0以下であり、
    前記上層は、前記下層よりも厚さが厚く、
    前記透光性基板は、屈折率nが1.6以下である
    ことを特徴とするマスクブランク。
  2. 前記下層は、厚さが12nm未満であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
  3. 前記上層の厚さは、前記下層の厚さの5倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
  4. 前記下層は、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有した材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
  5. 前記下層は、窒素含有量が40原子%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
  6. 前記上層は、窒素含有量が50原子%よりも大きいことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
  7. 前記下層は、前記透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
  8. 前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
  9. 前記遮光膜は、クロムを含有する材料からなることを特徴とする請求項8記載のマスクブランク。
  10. 前記遮光膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする請求項8記載のマスクブランク。
  11. 前記遮光膜は、前記位相シフト膜側からクロムを含有する材料からなる層と遷移金属とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造を有することを特徴とする請求項8記載のマスクブランク。
  12. 透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
    前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
    前記下層は、ケイ素からなる材料、またはケイ素からなる材料に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、
    前記上層は、その表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成され、
    前記下層は、屈折率nが1.8未満であり、かつ消衰係数kが2.0以上であり、
    前記上層は、屈折率nが2.3以上であり、かつ消衰係数kが1.0以下であり、
    前記上層は、前記下層よりも厚さが厚く、
    前記透光性基板は、屈折率nが1.6以下である
    ことを特徴とする位相シフトマスク。
  13. 前記下層は、厚さが12nm未満であることを特徴とする請求項12記載の位相シフトマスク。
  14. 前記上層の厚さは、前記下層の厚さの5倍以上であることを特徴とする請求項12または13に記載の位相シフトマスク。
  15. 前記下層は、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有した材料で形成されていることを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  16. 前記下層は、窒素含有量が40原子%以下であることを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  17. 前記上層は、窒素含有量が50原子%よりも大きいことを特徴とする請求項12から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  18. 前記下層は、前記透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする請求項12から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  19. 前記位相シフト膜上に、遮光パターンが形成された遮光膜を備えることを特徴とする請求項12から18のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  20. 前記遮光膜は、クロムを含有する材料からなることを特徴とする請求項19記載の位相シフトマスク。
  21. 前記遮光膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする請求項19記載の位相シフトマスク。
  22. 前記遮光膜は、前記位相シフト膜側からクロムを含有する材料からなる層と遷移金属とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造を有することを特徴とする請求項19記載の位相シフトマスク。
  23. 前記遮光膜が積層していない前記位相シフト膜の領域における前記透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が35%以上であることを特徴とする請求項19から22のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  24. 前記遮光膜が積層している前記位相シフト膜の領域における前記透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が30%以上であることを特徴とする請求項19から23のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  25. 請求項19から24のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
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