JP2017061391A - SiC単結晶の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】成長結晶にクラックが発生することを従来よりも抑制することができるSiC単結晶製造方法の提供。【解決手段】内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液24に、種結晶保持軸12に保持した種結晶基板を接触させてSiC単結晶16を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、SiC単結晶16の結晶成長後に、Si−C溶液24の液面とSi−C溶液24の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との間の温度差を35℃以下にした状態で、SiC単結晶をSi−C溶液24から切り離すことを含む、SiC単結晶の製造方法。【選択図】図3

Description

本開示は、SiC単結晶の製造方法に関する。
SiC単結晶は、熱的、化学的に非常に安定であり、機械的強度に優れ、放射線に強く、しかもSi単結晶に比べて高い絶縁破壊電圧、高い熱伝導率などの優れた物性を有する。そのため、Si単結晶やGaAs単結晶などの既存の半導体材料では実現できない高出力、高周波、耐電圧、耐環境性等を実現することが可能であり、大電力制御や省エネルギーを可能とするパワーデバイス材料、高速大容量情報通信用デバイス材料、車載用高温デバイス材料、耐放射線デバイス材料等、といった広い範囲における、次世代の半導体材料として期待が高まっている。
従来、SiC単結晶の成長法としては、代表的には気相法、アチソン(Acheson)法、及び溶液法が知られている。気相法のうち、例えば昇華法では、成長させた単結晶にマイクロパイプ欠陥と呼ばれる中空貫通状の欠陥や積層欠陥等の格子欠陥及び結晶多形が生じやすい等の欠点を有するが、従来、SiCバルク単結晶の多くは昇華法により製造されており、成長結晶の欠陥を低減する試みも行われている。アチソン法では原料として珪石とコークスを使用し電気炉中で加熱するため、原料中の不純物等により結晶性の高い単結晶を得ることは不可能である。
そして、溶液法は、黒鉛坩堝中でSi融液またはSi以外の金属を融解したSi融液を形成し、その融液中にCを溶解させ、低温部に設置した種結晶基板上にSiC結晶層を析出させて成長させる方法である。溶液法は気相法に比べ熱平衡に近い状態での結晶成長が行われるため、低欠陥化が最も期待できる。このため、最近では、溶液法によるSiC単結晶の製造方法がいくつか提案されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1等の従来の方法では、依然として成長結晶にクラックが発生することがあった。
特開2015−054815号公報
したがって、成長結晶にクラックが発生することを従来よりも抑制することができるSiC単結晶の製造方法が望まれている。
クラック発生の原因について鋭意研究した結果、特許文献1等の従来の方法においては、結晶成長後、種結晶基板とSiC成長結晶とを保持した種結晶保持軸を上昇させて、SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離すが、このSi−C溶液からの切り離し時に、SiC成長結晶にクラックが発生し得ることが分かった。
本開示は、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持した種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
SiC単結晶の結晶成長後に、Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との間の温度差を35℃以下にした状態で、SiC単結晶をSi−C溶液から切り離すことを含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の方法によれば、SiC成長結晶にクラックが発生することを従来よりも抑制することができる。
図1は、本開示の方法において使用し得る単結晶製造装置の一例を表す断面模式図である。 図2は、従来の溶液法における、成長時、切り離し前、切り離し時、及び降温時の、種結晶保持軸、種結晶基板、及び成長結晶の位置を表す断面模式図である。 図3は、本開示の方法の一実施態様における、成長時、切り離し前、切り離し時、及び降温時の、坩堝、Si−C溶液の液面、種結晶保持軸、種結晶基板、及び成長結晶の位置を表す断面模式図である。 図4は、実施例で成長させたSiC単結晶の成長面から観察した外観写真である。 図5は、比較例で成長させたSiC単結晶の成長面から観察した外観写真である。
本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
本開示に係る方法は、溶液法によるSiC単結晶の製造方法である。溶液法においては、内部(深部)から液面(表面)に向けて、液面に対して垂直方向に温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、SiC種結晶基板を接触させて、SiC単結晶を成長させることができる。Si−C溶液の内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を形成することによって、Si−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板を基点として、SiC単結晶を成長させることができる。
溶液法においては、種結晶保持軸で種結晶基板を保持して種結晶基板上にSiC単結晶を成長させる。すなわち、上から種結晶保持軸、種結晶基板、及びSiC成長結晶が鉛直方向に並んで、Si−C溶液から上方の雰囲気(空間)中に配置される。Si−C溶液の液面より上方の雰囲気においては、Si−C溶液の液面が最も温度が高く、上方ほど温度が低くなる雰囲気温度勾配が形成される。
したがって、鉛直方向に並んだ種結晶保持軸、種結晶基板、及びSiC成長結晶は、種結晶保持軸側の温度が低くSiC成長結晶の成長面側の温度が高い雰囲気温度勾配にさらされる。そのため、種結晶保持軸、種結晶基板、及びSiC成長結晶は、種結晶保持軸側の温度が低くSiC成長結晶の成長面側の温度が高い鉛直方向の温度勾配を有する。
雰囲気温度勾配が大きい状態でSiC成長結晶をSi−C溶液から切り離すと、SiC成長結晶にクラックが発生し得ることが分かった。理論に束縛されるものではないが、SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離すと、Si−C溶液からの熱伝導による受熱が無くなるが、Si−C溶液の液面からの輻射熱で、SiC成長結晶は冷えにくく、種結晶保持軸が優先して冷やされ、種結晶保持軸、種結晶基板、及びSiC成長結晶の鉛直方向の温度勾配がより大きくなり、SiC成長結晶及び種結晶基板(以下、合わせてSiC結晶ともいう)と種結晶保持軸との間の熱膨張差が大きくなるので、SiC成長結晶にクラックが生じ得ると考えられる。SiC成長結晶の成長面と種結晶基板の種結晶保持軸側に接する面との間のSiC結晶内部の温度勾配も大きくなるため、SiC結晶内部での熱膨張差により、クラックが生じ得ることも考えられる。
本開示の方法においては、SiC単結晶を成長させた後、Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との間の温度差(以下、温度差ΔTともいう)を35℃以下にした状態で、SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離す。例えば、Si−C溶液の液面温度が2000℃の場合、液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気において1965℃以上にした状態で、SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離す。SiC成長結晶のSi−C溶液からの切り離しは、SiC結晶を保持した種結晶保持軸を鉛直方向上方に上昇させて行うことができる。
温度差ΔTを35℃以下にすることにより、Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から10mm上部の雰囲気との範囲の温度勾配(以下、雰囲気温度勾配ともいう)を小さくすることができ、SiC結晶と種結晶保持軸との間の温度差を小さくすることができる。この状態でSiC成長結晶をSi−C溶液から切り離すことにより、成長結晶にクラックが発生することを抑制することができる。
温度差ΔTは、好ましくは27℃以下、より好ましくは23℃以下、さらに好ましくは17℃以下である。温度差ΔTをこのような範囲にすることにより、クラック発生をより安定して抑制することができる。
温度差ΔTの測定は、昇降可能な熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
Si−C溶液からSiC成長結晶を切り離した直後に、成長結晶にクラックが最も発生しやすい。また、Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との範囲の温度差を小さくすることによって、Si−C溶液の液面から鉛直方向の10mmより上方の雰囲気中の温度勾配も、必然的に小さくすることができる。したがって、Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との範囲の温度差を小さくすることにより、成長結晶にクラックが発生することを抑制することができる。
Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との範囲においては、水平方向のいずれの位置においても、温度差ΔTは実質的に同じであるため、温度差ΔTの測定個所は、Si−C溶液の液面とSi−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との範囲であれば、特に制限されず、坩堝内のどこであってもよい。例えば、SiC成長結晶の外周端部から水平方向に10mm以内の領域で温度差ΔTを測定してもよい。
溶液法においては、結晶成長の終了後に坩堝内の温度を低下させる。本開示の方法においては、温度差ΔTを35℃以下にした状態でSiC成長結晶をSi−C溶液から切り離す限り、切り離しの後で坩堝内の温度を低下させてもよく、SiC成長結晶がSi−C溶液に着液している状態で、すなわち切り離しの前に、坩堝内の温度を低下させてもよい。
SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離すときのSiC成長結晶の上昇速度は、好ましくは10mm/分以下、より好ましくは3mm/分以下である。このような切り離し速度で切り離すことによって、より安定してクラックの発生を防止できる。
SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離した後、Si−C溶液の液面温度が、好ましくは1800℃以下に下がるまで、より好ましくは1500℃以下に下がるまで、さらに好ましくは1200℃以下に下がるまで、さらにより好ましくは900℃以下に下がるまで、さらにより好ましくは室温に下がるまで、SiC成長結晶の成長面端部の位置が、Si−C溶液の液面から鉛直上方向に好ましくは10mm以内、より好ましくは3mm以内となるように、SiC成長結晶を保持する。このような位置範囲でSiC成長結晶を保持することによって、より安定してクラックの発生を防止できる。
温度差ΔTを35℃以下にするのは、結晶成長終了後、切り離しの前である。温度差ΔTを小さくすると結晶成長速度が低下するため、切り離しの直前に温度差ΔTを小さくしてもよいが、温度差ΔTをより安定させるため、温度差ΔTを35℃以下にするのは、SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離す前の好ましくは30秒前〜10分前、より好ましくは1分前〜3分前でもよい。これにより、結晶成長を効率的に行いつつ、より安定してクラックの発生を防止できる。
図1に、本開示の方法に用いることができるSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種類以上の金属)の融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液24の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。坩堝10及び種結晶保持軸12の中心軸を種結晶保持軸12の中心軸に合わせて、坩堝10及び種結晶保持軸12を種結晶保持軸12の中心軸を中心として回転させることが好ましい。SiC単結晶を成長させた後、SiC成長結晶をSi−C溶液から切り離して、SiC成長結晶を回収することができる。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
Si−C溶液24の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液24の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイル22の出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
坩堝10は、上部に断熱材18を備え、坩堝10及び断熱材18は、種結晶保持軸12を通す開口部28を備えることができる。開口部28における坩堝10及び断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間(間隔)を調節することによって、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱の程度を変更することができる。
概して坩堝10の内部は高温に保つ必要があるが、開口部28における坩堝10及び断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間を大きく設定すると、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱を大きくすることができ、開口部28における坩堝10及び断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間を狭めると、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱を小さくすることができる。
開口部28における坩堝10及び断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間(間隔)は好ましくは0.1〜5mmであり、例えば0.5〜3mmにすることができる。坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間及び断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間は異なってもよい。
温度差ΔTを35℃以下にする方法として、好ましくは、坩堝10の周囲に配置した高周波コイル22の出力を調整すること、坩堝の上方に位置可変断熱材30を配置すること、またはSi−C溶液24の液面位置を鉛直下方向に移動させるように、坩堝10と種結晶保持軸12に保持した種結晶基板14及びSiC成長結晶とを鉛直下方向に移動することが挙げられる。これらの方法は、単独でまたは組み合わせて行うことができる。
例えば、高周波コイル22が、上段コイル22A及び下段コイル22Bに分かれているとき、結晶成長時よりも、上段コイル22Aの出力を上げるか、下段コイル22Bの出力を下げるか、または両方を行うことによって、Si−C溶液24の液面より上方の雰囲気温度勾配を小さくすることができる。
例えば、坩堝上部の断熱材18の上方であって種結晶保持軸12の周囲に位置可変断熱材30を配置することにより、Si−C溶液24の液面より上方の雰囲気温度勾配を小さくすることができる。
結晶成長時は、内部(深部)から液面(表面)に向けて、液面に対して垂直方向に温度低下する温度勾配を有するようにSi−C溶液24が加熱されているので、加熱中心は、Si−C溶液24の内部(深部)に存在する。したがって、結晶成長後に、高周波コイル22の位置を動かさずに、坩堝10と種結晶保持軸12に保持した種結晶基板14及びSiC成長結晶とを鉛直下方向に移動させることにより、Si−C溶液24の液面が加熱中心に近づくので、Si−C溶液24の液面より上方の雰囲気温度勾配を小さくすることができる。
図2に、従来の溶液法における、成長時、切り離し前、切り離し時、降温時の、種結晶保持軸及びSiC結晶の位置を表す断面模式図を示す。図3に、本開示の方法における一実施態様における、成長時、切り離し前、切り離し時、及び降温時の、坩堝、Si−C溶液の液面、種結晶保持軸、種結晶基板、及び成長結晶の位置を表す断面模式図を示す。
図3に例示するように、本開示の方法においては、位置可変断熱材30を用い、且つ結晶成長終了後、切り離し前に、坩堝10、Si−C溶液24、種結晶保持軸12、及びSiC結晶16を、鉛直下方向に移動させることができる。このように坩堝10、Si−C溶液24、種結晶保持軸12、及びSiC結晶16を、鉛直下方向に移動させることによって、Si−C溶液24の液面位置を、鉛直下方向に移動させることができる。
位置可変断熱材30は、鉛直方向に移動可能であることができる。図3に例示するように、位置可変断熱材30は、結晶成長時は、坩堝上部の断熱材18から上方に離れた位置にあり、結晶成長終了後に、坩堝上部の断熱材18の近くに位置するように、または坩堝上部の断熱材18に接するように、移動させることができる。
位置可変断熱材30は、断熱材18と同じ材料でもよく、例えば、黒鉛系断熱材料、炭素繊維成形断熱材料、またはパイロリティックグラファイト(PG)であることができる。
Si−C溶液24は、原料を坩堝10に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。XはSi以外の一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できるものであれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。例えば、坩堝10内にSiに加えて、Cr等を投入し、Si−Cr溶液等を形成することができる。
種結晶保持軸12の材質としては黒鉛が好ましい。種結晶保持軸を黒鉛軸としたときと同程度の熱膨張係数及び熱伝導率を有する限り、他の材質であってもよく、種結晶保持軸は、中実の軸でもよく、中空の軸でもよい。また、種結晶保持軸の形状は、円柱、角柱等の形状でもよい。なお、黒鉛の熱膨張係数は、約4.8×10-6/℃であり、SiC単結晶の熱膨張係数は、約6.6×10-6/℃である。
坩堝10は、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝であることができる。Cを含む坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍のSi−C溶液24においては、高周波コイルの出力制御、Si−C溶液24の表面からの抜熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部(深部)よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC単結晶を成長させることができる。
本開示の装置に用いられ得る種結晶基板として、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶基板として用いることができる。例えば、昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶基板として用いることができ、種結晶基板は、板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
種結晶基板14のSi−C溶液への接触は、種結晶基板14を保持した種結晶保持軸12をSi−C溶液24の液面に向かって降下させ、種結晶基板14の下面をSi−C溶液24の液面に対して並行にしてSi−C溶液24に接触させることによって行うことができる。そして、Si−C溶液24の液面に対して種結晶基板14を所定の位置に保持して、SiC単結晶を成長させることができる。
好ましくは、温度差ΔTを35℃以下にした状態で、Si−C溶液に種結晶基板を接触させる。これにより、着液時のクラック発生についても、より抑制することができる。
結晶成長中の種結晶基板14の保持位置は、種結晶基板14の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよいが、多結晶の発生を防止するために、種結晶保持軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが好ましい。これらの方法において、結晶成長中に種結晶基板の位置を調節してもよい。
Si−C溶液の表面温度の下限は好ましくは1800℃以上であり、上限は好ましくは2200℃であり、この温度範囲でSi−C溶液へのCの溶解量の変動を小さくすることができる。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、上述したジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
一実施態様において、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックすることができる。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイル等の加熱装置の出力を制御すること等によって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
一実施態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶基板を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
(実施例1)
直径が50.8mm、厚みが0.5mmの円盤状4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して、種結晶基板14として用いた。
直径が12mm、長さが20cmの中実で円柱形状の黒鉛軸を、種結晶保持軸12として用意した。
内径が13mm、外径が60mm、及び厚みが20mmの位置可変断熱材30を用意して、坩堝10の上部に配置した断熱材18の上部であって、種結晶保持軸12の周囲に配置した。
用意した種結晶基板14の上面を、種結晶保持軸12の端面に、カーボン接着剤を用いて接着した。
図1に示す単結晶製造装置100を用い、黒鉛坩堝10にSi/Cr/Niを、原子組成百分率でSi:Cr:Ni=55:40:5の割合で融液原料として仕込んだ。
単結晶製造装置100の内部の空気をアルゴンで置換した。黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22に通電して、加熱により黒鉛坩堝10内の原料を融解し、Si/Cr/Ni合金の融液を形成した。そしてSi/Cr/Ni合金の融液に黒鉛坩堝10から十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を形成した。所定の温度勾配が形成されていることの確認は、昇降可能な熱電対を用いて、Si−C溶液24の温度を測定することによって行った。高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の液面における温度を2000℃にした。Si−C溶液の液面を低温側として、Si−C溶液の液面における温度と、Si−C溶液24の液面から溶液内部に向けて鉛直方向の深さ1cmの位置における温度との温度差を25℃とした。
このとき、位置可変断熱材30の下端と坩堝10の上部に配置した断熱材18との距離h1を63mmとした。また、鉛直方向に配置した高周波コイル22の全長の半分の高さの位置をコイル中心として、コイル中心の位置よりも10mm鉛直方向上方にSi−C溶液24の液面が位置するようにした。すなわち、コイル中心とSi−C溶液24の液面との距離h2を10mmとした。昇降可能な熱電対を用いて、温度差ΔTを測定したところ、70℃であった。
種結晶保持軸12に接着した種結晶基板14の下面をSi−C溶液24の液面に並行にして、種結晶基板14の下面の位置を、Si−C溶液24の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液が濡れ上がって種結晶保持軸に接触しないようにSi−C溶液24に種結晶基板14の下面を接触させるシードタッチを行い、その位置で10時間保持して、結晶を成長させた。
結晶成長の終了後、位置可変断熱材30を鉛直方向下方に移動させて、位置可変断熱材30の下端と坩堝10の上部に配置した断熱材18との距離h1を30mmとし、坩堝10と種結晶保持軸12、種結晶基板14、及び成長結晶とを鉛直方向下方に移動させて、コイル中心に対するSi−C溶液の液面位置h2を−1mmとした。
h1及びh2の変更の1分後、温度差ΔTの測定及びSiC成長結晶のSi−C溶液24からの切り離しを行った。切り離し時の温度差ΔTは35℃であった。切り離しは、種結晶保持軸12、種結晶基板14、及び成長結晶を3mm/分の速度で上昇させて行った。切り離した後、成長結晶の成長面の端部がSi−C溶液24の液面から10mm鉛直方向上方に位置するように保持した。次いで、坩堝内の温度を室温まで冷却して、種結晶基板14及び成長結晶を、種結晶保持軸12から切り離して回収した。得られた成長結晶は直径60mm及び厚み3mmを有していた。得られた成長結晶の直径は、成長面の直径である。
(実施例2)
結晶成長の終了後、h1を15mmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、成長結晶の回収を行った。
(実施例3)
結晶成長の終了後、h1を5mmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。
(実施例4)
結晶成長の終了後、h1を5mmとし、h2を変更せずに10mmに保持したこと以外は、実施例1と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。
(比較例1)
結晶成長の終了後、h1を変更せず63mmに保持したこと以外は、実施例1と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。
(比較例2)
結晶成長の終了後、h1を変更せず63mmに保持し、h2も変更せず10mmに保持したこと以外は、実施例1と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。
(比較例3)
結晶成長の終了後、h1を53mmとし、h2を変更せず10mmに保持したこと以外は、実施例1と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。
実施例1〜4及び比較例1〜3の成長条件及び温度差ΔTと、成長結晶のクラック発生数及びクラック抑制可否を表1にまとめた。温度差ΔTは、成長中、切り離し時、及び降温時のそれぞれについて示した。
クラックを抑制できた実施例1で得られた成長結晶の側面及び成長面から観察した外観写真を図4に示す。クラックが発生した比較例2で得られた成長結晶の側面及び成長面から観察した外観写真を図5に示す。図5においてクラックが発生した箇所を破線で示した。
(実施例5)
温度差ΔTを小さくするタイミングを変更したこと以外は実施例3と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。実施例3においては、温度差ΔTを小さくしてから、切り離しを行い、その後に降温したが、本例では、降温し、その後に温度差ΔTを小さくしてから、切り離しを行った。
(比較例4)
温度差ΔTを小さくするタイミングを変更した以外は実施例3と同様の方法で、温度差ΔTの測定、SiC単結晶の成長、Si−C溶液24からの切り離し、降温、及び成長結晶の回収を行った。実施例3においては、温度差ΔTを小さくしてから、切り離しを行い、その後に降温したが、本例では、切り離しを行ってから、温度差ΔTを小さくして、降温した。
実施例3及び5並びに比較例4の温度差ΔTと、成長結晶のクラック発生数及びクラック抑制可否を表2にまとめた。温度差ΔTは、成長中、切り離し時、及び降温時のそれぞれについて示し、さらに温度差ΔTを小さくしたタイミングを、ΔT低減として示した。
100 単結晶製造装置
10 坩堝
12 種結晶保持軸
14 種結晶基板
16 SiC結晶
18 断熱材
22 高周波コイル
22A 上段高周波コイル
22B 下段高周波コイル
24 Si−C溶液
26 石英管
28 坩堝上部の開口部

Claims (1)

  1. 内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持した種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
    前記SiC単結晶の結晶成長後に、前記Si−C溶液の液面と前記Si−C溶液の液面から鉛直方向の10mm上部の雰囲気との間の温度差を35℃以下にした状態で、前記SiC単結晶を前記Si−C溶液から切り離すことを含む、SiC単結晶の製造方法。
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