JP2017000113A - 細胞培養・分離用基材、細胞培養・分離用基材を用いた細胞の取得方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キット - Google Patents

細胞培養・分離用基材、細胞培養・分離用基材を用いた細胞の取得方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キット Download PDF

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【課題】細胞へ悪影響を与えず、優れた光熱変換特性を示し、かつ簡便に調製することができる金微粒子を用いた細胞培養・分離用基材、細胞培養・分離用基材を用いた細胞の取得方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キットの提供。
【解決手段】加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材であって、金微粒子は、体積平均径15〜65nmであり、かつゲルに分散させる前の金微粒子分散液の状態での金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率が0.001〜0.5(μS/cm)/μMである細胞培養・分離用基材、細胞培養・分離用基材を利用した細胞の取得方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キット。
【選択図】図13

Description

本発明は、細胞培養・分離用基材、細胞培養・分離用基材を用いた細胞の取得方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キットに関する。より詳細には、加熱によってゾル化するゲル中に、体積平均径が15〜65nmの金微粒子を含み、かつ、含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率が0.001〜0.5 (μS/cm)/μMである金微粒子分散液を用いて作製した、金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材に関する。なお、この金微粒子分散液は含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率が0.001〜0.5 (μS/cm)/μMであり、高濃度でも長期間高い分散安定性を示すものである。また、本発明は、細胞培養・分離用基材を用いて興味対象の細胞を取得する方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キットに関する。
再生医療や癌治療の分野においては、疾患や不慮の事故などにより失われた細胞の機能を回復させる目的で、幹細胞や免疫細胞などの特定の機能を有する機能性細胞を対象に投与する細胞療法が試みられている。
このような機能性細胞は、生存、増殖及び機能の発揮のために、他の細胞や、タンパク質や糖などからなる細胞外基質、いわゆる足場への接着を必要とする付着細胞であるものが多い。従来、このような付着細胞を培養するために、足場としてコラーゲン、ポリリジン、フィブロネクチンなどの基材を内部表面にコートした培養容器が用いられてきた。このような培養容器を用いることによって、足場に依存する機能性細胞のような付着細胞を効率的に培養できる。
上記の機能性細胞の培養においては、培養している全ての細胞が特定の機能を有するとは限らない。従って、特定の機能を実際に有する細胞のみを所望する場合は、培養している細胞から該機能を有するものを選択的に回収する必要がある。
これまでに、エネルギーを熱エネルギーに変換して放出するという金粒子の性質を利用して、加熱によりゾル化するゲル中に、保護剤としてのデンドリマーに内包された金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材が知られている(特許文献1参照)。該基材では、光を照射した部分のゲルが金微粒子から発生する熱により溶解するので、その部分に存在する細胞を選択的に取得することを可能とする。ここで、該基材表面で培養される細胞集団から任意の細胞を選択的に取得するためには、金微粒子が該基材中に均等に分散していることが要求される。該細胞培養・分離用基材中の金微粒子はデンドリマーなどの保護剤で保護されることにより、ゲル中で金微粒子同士が凝集することなく、分散状態を安定に維持させることができるため、上記要求を満たすことができる。
特許文献1に記載の細胞培養・分離用基材を用いた細胞の取得方法では、光照射による細胞へのダメージを抑えるために、光照射時間をより短くすることが求められる。また、該基材に用いられる金微粒子の粒径が、デンドリマーの内部空間の大きさに制限される。そのため、該内部空間より大きい粒径の金微粒子を用いたい場合には、デンドリマー以外の手段により、ゲル中で金微粒子の凝集を防止し、分散性状態を安定化する必要がある。
また、特許文献2では、イオンを含む溶液中で還元剤の存在下に、金からなる種核を成長させて得られ、且つ金粒子の体積平均径が35〜65nmである金粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材が知られている。該基材では、金微粒子の光熱変換特性がその粒径により変化するとの報告に基づき、金微粒子の粒径の最適化を通じて光熱変換効率の向上を図ったものであり、光照射時間を短縮することができる。同時に、金イオンを含む溶液中で還元剤の存在下に、金からなる種核を成長させることにより、粒径の大きい金微粒子が得られ、ゲル中で金微粒子の凝集を防止し、安定に分散可能である。
特開2012−39947号公報 特開2013−233101号公報
特許文献1及び2に記載の細胞培養・分離用基材は、化学的方法により調製された化学合成製の金微粒子を用いている。例えば、金からなる種核を含む溶液である四塩化金酸などの金塩溶液に、アスコルビン酸、クエン酸、ヒドロキノンなどの還元剤や、必要に応じて界面活性剤などを添加し種核を成長させることで調製される。しかしながら、化学合成においては、金イオンの供給源として金塩溶液を用いるため溶液中に金イオンの対イオンが存在し、また反応のために還元剤等を必要とする。これらの添加物自体、更には添加物同士の反応による副産物が不純物と成り得る。化学合成に際して、金微粒子同士の凝集を防止するため保護剤を添加して調製することが必要となる場合もある。従って、化学合成製の金微粒子には、目的とする金微粒子以外に、反応副産物や添加物などの不純物が含まれ得る。
しかしながら、かかる化学合成製の金微粒子に含まれる不純物の存在は、特許文献1及び2に記載されるような金微粒子の光熱変換を利用した細胞の取得方法において好ましくない事象を招くことがある。不純物を含む化学合成製の金微粒子をゲル中に分散させると、金微粒子のみならず不純物もゲル中に分散することとなり、不純物の存在によりゲルがゾル化する温度が高くなる。ひいては、不純物を含むゲルを溶解するために要求される光エネルギーも大きくなり、光照射時間及び照射光の強度を高める必要が生じる。このため、細胞取得の際の温度及び光照射によって細胞に悪影響を与えることがあり、更に不純物の中には細胞毒性を示すものがあり、機能性細胞の回収を妨げる場合がある。特許文献1及び2に記載の細胞取得方法では、再現性よく細胞を剥離し回収することは困難であった。
そこで、上記のような事情に鑑みて、コラーゲンゲルのゾル化挙動や細胞へ影響を与えず、優れた光熱変換特性を示し、かつ簡便に調製することができる金微粒子を用いた細胞培養・分離用基材、細胞培養・分離用基材を用いた細胞の取得方法、細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及び細胞培養・分離用基材作製用キットの提供が求められている。
本発明者らは、鋭意検討の結果、不純物のない金微粒子を分散させたゲルは、ゾル化温度を従来に比べ10℃以上下げることができ光照射による細胞損傷リスクを低減できると同時に、不純物による細胞毒性による細胞損傷リスクを低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔7〕に示す発明を提供する。
〔1〕 加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材であって、前記金微粒子は、体積平均径15〜65 nmであり、かつ前記ゲルに分散させる前の金微粒子分散液の状態での金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率が0.001〜0.5 (μS/cm)/μMである細胞培養・分離用基材。
〔2〕ゲルからゾルへの変性温度が、30〜60℃である上記〔1〕の細胞培養・分離用基材。
〔3〕前記金微粒子が、物理的方法で作製されたもの、又は化学的方法での合成後に精製を行って作製されたものである上記〔1〕又は〔2〕の細胞培養・分離用基材。
〔4〕前記物理的方法が、液中レーザーアブレーションである上記〔3〕の細胞培養・分離用基材。
上記〔1〕〜〔4〕の構成によれば、細胞損傷リスクを最小限に低減した細胞培養・分離用基材が提供される。本発明の細胞培養・分離用基材に含ませる金微粒子の体積平均径が15〜65 nmであり、かつ、該金微粒子を含む金微粒子分散液に含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率を0.001〜0.5 (μS/cm)/μMとすることで、金微粒子の化学合成時などに発生する不純物の該基材への混入が認められないか、認められたとしても極微量に抑えることが期待できる。これにより、不純物の混入によるゾル化温度の上昇を招くことなく、より低い温度でゲルからゾルに変性する。従って、本発明の細胞培養・分離用基材は、より低い温度で溶解できることから、光照射の際に要求される光エネルギーも小さくてすみ、温度や照射光による細胞損傷リスクを低減できる。同時に、該基材は不純物に起因する細胞毒性による細胞損傷リスクをも低減できる。また、この金微粒子分散液は高濃度でも長期間高い分散安定性を示すものであり、これを用いることで金微粒子がゲル中に均等に安定分散した本発明の細胞培養分離用基材を提供することができる。従って、本発明の細胞培養・分離用基材を利用することで、再現性よく標的細胞を選択的に剥離し回収することができる。
更に、上記〔3〕及び〔4〕の構成において、物理的方法で作製された金微粒子は、純化のための工程を省略できる。通常、金微粒子の純化には多段階の操作を要し手間がかかるうえ、純化工程で粒子が凝集することもあり、収率が低下するとの問題点があった。かかる構成によれば、金微粒子作製工程が簡略化され、粒子凝集などの問題をも回避することができる。特に、上記〔4〕の構成における、液中レーザーアブレーション法は、一定量の液中でバルク金をレーザー光照射により粉砕して金微粒子を作製するものであり、工程の進行に伴い金微粒子濃度が高まり、高濃度の金微粒子分散液を調製することができる。得られた高濃度の金微粒子分散液をそのままゲルに包埋することで、純化工程や濃縮工程を経ずに簡便な工程で本発明の細胞培養・分離用基材を提供できる。
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕の細胞培養・分離用基材を用いて培養されている細胞から、興味対象の細胞を見出す工程と、
該細胞培養・分離用基材に光を照射して、照射範囲内の基材をゾル化する工程と、
該範囲内の基材から分離した細胞を回収する工程と、を含む、興味対象の細胞を取得する細胞の取得方法。
上記〔5〕の構成によれば、細胞損傷リスクを最小限に低減した細胞の取得方法が提供され、興味対象の細胞を良好な生存状態で選択的に取得できる。
〔6〕 加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材を作製するために、体積平均径15〜65 nmの金微粒子を含み、かつ、含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率を0.001〜0.5 (μS/cm)/μMに設定してある金微粒子分散液。
上記〔6〕の構成によれば、本発明の細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液が提供される。本発明の金微粒子分散液は金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率が0.001〜0.5 (μS/cm)/μMであり、高濃度でも長期間高い分散安定性を示すものである。従って、本発明の金微粒子分散液は、ゲル中に均等に安定分散し、標的細胞を再現良く剥離回収することが可能な細胞培養・分離用基材の作製を可能とする。
〔7〕 加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材を作製するための細胞培養・分離用基材作製用キットであって、少なくとも以下の(a)及び(b)の構成を備えている、
(a)体積平均径15〜65 nmの金微粒子を含み、かつ、含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率を0.001〜0.5 (μS/cm)/μMに設定してある金微粒子分散液、
(b)ゲル調製のための試薬。
上記〔7〕の構成によれば、細胞培養・分離用基材作製用キットを提供することができる。このように必要な試薬を揃えたキットを利用することにより簡便かつ迅速な細胞培養・分離用基材の作製が可能となる。
i-colloidの表面プラズモン共鳴(SPR)測定結果(金濃度100μMで正規化)を示すUV/Visスペクトル。 i-colloidの表面プラズモン共鳴(SPR)測定結果(Abs532=0.46で正規化)を示すUV/Visスペクトル。 i-colloidの表面プラズモン共鳴(SPR)の測定結果(金濃度100μMで正規化)をHQ-AuNPとの比較で示すUV/Visスペクトル。 i-colloidの表面プラズモン共鳴(SPR)の測定結果(金濃度50μMで正規化)をBBI-AuNP-60との比較で示すUV/Visスペクトル。 金微粒子分散コラーゲンゲル基材中のi-colloid PR5004-1のUV/Visスペクトル。 金微粒子分散コラーゲンゲル基材中のi-colloid PR5004-2のUV/Visスペクトル。 金微粒子分散コラーゲンゲル基材中におけるi-colloid PR5004-3のUV/Visスペクトル。 i-colloid PR5004-1をコラーゲンゲル中に包埋して作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材に光照射することで溶解した基材の面積を照射時間に対してプロットしたグラフ。 i-colloid PR5004-2をコラーゲンゲル中に包埋して作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材に光照射することで溶解した基材の面積を照射時間に対してプロットしたグラフ。 i-colloid PR5004-3をコラーゲンゲル中に包埋して作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材に光照射することで溶解した基材の面積を照射時間に対してプロットしたグラフ。 i-colloid PR5004-1をコラーゲンゲル中に包埋して作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材を用いた1分間の光照射による細胞剥離実験の結果を示す顕微鏡像。 i-colloid PR5004-1をコラーゲンゲル中に包埋して作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材を用いた3分間の光照射による細胞剥離実験の結果を示す顕微鏡像。 i-colloid PR5004-1をコラーゲンゲル中に包埋して作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材を用いた5分間の光照射による細胞剥離実験の結果を示す顕微鏡像。
(1)細胞培養・分離用基材
本発明の細胞培養・分離用基材(以下、単に「基材」ともいう)は、特定の性質を有する金微粒子を分散させてなる。ここで、分散とは、連続的な均一相の物質中に、他の物質が微粒子の状態となって散在している現象を意味するものとする。微粒子を散在させている物質を分散媒と称し、そして、散在している微粒子の方を分散質と称することができる。本発明の基材では、ゲルが分散媒、金微粒子が分散質である。好ましくは、金微粒子は沈降や凝集することなく、ゲル中に均等に安定的に分散されている。
本発明の基材を構成するゲルは、細胞培養が可能な支持体であって、細胞の生存や増殖などに影響を及ぼさない温度でゾル化するものであれば特に限定されない。従って、ゲルのゾル化点は、細胞培養時の温度よりも高く、且つ細胞に影響を及ぼさない程度であればよい。好ましくは、30〜60℃であり、より好ましくは39℃から45℃である。
ここで、ゲルとは、分子上の特定部位の架橋により分子同士が互いに部分的に繋がって形成された網目状の三次元構造物である。その三次元構造物の内部に溶媒を保持した存在状態、及び溶媒を吸収し膨張はするが溶解はしない存在状態をも一形態として含む。ゾル化とは、ゲルが溶液状態に転移したゾルに変換することを意味する。本明細書においては、ゾル化することを「溶解する」ともいう。
ゲル原料としては、例えばゼラチン、コラーゲン、デンプン、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース又はアルギン酸などの天然由来材料、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリN-イソプロピルアクリルアミドなどの人工材料などが挙げられる。それらの中でもコラーゲンやゼラチンが好ましい。本発明の実施形態においては、上記原料のうち、少なくとも1種を用いてゲルを作製する。
当該技術において、種々のタイプのコラーゲンが知られているが、本発明の実施形態においては、コラーゲンの種類は特に限定されず、何れのタイプのコラーゲンを用いてもよい。それらの中でも、I型コラーゲンが好ましい。また、酵素処理によりテロペプチドを除去したコラーゲンであるアテロコラーゲンを用いてもよい。
ゼラチンは、コラーゲンを変性させたものであり、コラーゲンを加熱変性させたものの他、コラーゲンを塩酸などにより酸処理して得られる酸処理ゼラチン、コラーゲンを石灰などによりアルカリ処理して得られるアルカリ処理ゼラチン、又はコラーゲンを酵素処理して得られる酵素処理ゼラチンなどが挙げられる。
本発明の実施形態において、ゼラチンは、生体から得られるコラーゲンから作製されたゼラチンであれば特に限定されない。そのようなゼラチンとしては、例えば、コラーゲンを塩酸などにより酸処理して得られる酸処理ゼラチン、コラーゲンを石灰などによりアルカリ処理して得られるアルカリ処理ゼラチン、及びコラーゲンを酵素処理して得られる酵素処理ゼラチンが挙げられる。
本発明の実施形態において、コラーゲン及びゼラチンの由来は特に限定されず、例えばウシ、ブタなどの哺乳動物、もしくは七面鳥、ダチョウなどの鳥類の骨、軟骨及び皮など、又はサケなどの魚類の皮などから得られたコラーゲン及びゼラチンを用い得る。 本発明の基材にコラーゲンゲルを用いる場合、基材におけるコラーゲン濃度は、通常0.04〜1重量%、好ましくは0.06〜0.15重量%である。また、ゼラチンゲルを用いる場合、基材におけるゼラチンの濃度は、通常1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
本発明の基材において、当該技術において公知の方法によってゲルを架橋してもよい。そのような方法としては、例えば架橋剤や縮合剤を用いる方法、酵素反応を用いる方法、放射線を用いる方法などが挙げられる。架橋剤や縮合剤を用いる方法では、該架橋剤は、細胞の生存、増殖、接着性及び機能の発揮に影響を及ぼさない架橋剤や縮合剤であれば特に限定されない。そのような架橋剤は当該技術において公知である。例えば、ゼラチンを架橋する場合、架橋剤として、塩化カルシウムなどのカルシウム塩、塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩、ジメチロール尿素などのN-メチロール化合物、2, 3-ジヒドロキシジオキサンなどのジオキサン誘導体、1, 3-ビスビニルスルホニル-2-プロパノールなどのビニル化合物、あるいはグルタルアルデヒド、エチレンジアミン、コハク酸などの多官能性化合物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウムクロライドn-ハイドレート(DMT-MM)などの縮合剤などを用い得る。また、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)もしくはエチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)との組み合わせを用いてもよい。なお、本発明の実施形態においては、これらの架橋剤を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。酵素反応を用いる方法では、トランスグルタミナーゼなどを用いることができる。 放射線を用いる方法では、電子線、ガンマ線などの放射線を照射することによって、また、紫外線照射による架橋も可能である。
ゲルには、細胞の生存や増殖などに必要な成分や、ゲルの再構成に際して使用する再構成用緩衝液などの緩衝成分が含まれていてもよい。細胞の生存、増殖などに必要な成分としては無機塩類培地などの培地成分、再構成緩衝液としてはNaHCO3及びHEPESを含むNaOH溶液などを利用することができる。
本発明の基材は、上記のゲル中に金微粒子を分散させてなる。金微粒子は、光の照射を受けることによりゲル中で熱を発生するものであり、好ましくは、金微粒子の体積平均径が15〜65nmであり、かつ、ゲルに混合する前の金微粒子を、水、生理食塩水、緩衝液などの水性媒体に分散した金微粒子分散液の状態での電気伝導率が1〜100μS/cmであり、かつ、含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率(以下、「比金濃度相対電気伝導率」と称する場合もある)が0.001〜0.5 (μS/cm)/ μMであることを特徴とする。このとき、金微粒子分散液に含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度は10〜100000μMとすることが好ましい。本発明の実施形態において、金微粒子は、上記の特徴を有する限り特に限定されない。上記性質を有する金微粒子は高い純度を示し、好ましくは、金微粒子の純度は90%以上である。
上記性質を有する金微粒子を作製できる限り、当該技術において公知の金微粒子の作製方法により取得できる。例えば、該金微粒子は物理的方法で作製することができ、また、化学的方法での合成後に精製を行って作製されたものであってもよい。物理的方法は、物理的エネルギーを印加することによってバルク金を微細化するトップダウン的手法であるため、純度の高い金微粒子を得ることができる。化学的方法では、原子間力や分子間力を設計及び制御する化学反応により、金原子を積み上げて金微粒子として構造化させるボトムアップ的手法である。そのため、化学反応過程で生じる副産物や添加物が不純物となる可能性があるが、精製により該不純物を除去する純化工程に付すことにより純度の高い金微粒子を得ることができる。本発明の実施形態においては、物理的方法、及び化学的方法の何れで金微粒子を作製してもよく、また物理的方法と化学的方法を融合して金微粒子を作製してもよい。
物理的方法は、物理的エネルギーを印加することによってバルク金を微細化することで金微粒子を取得する方法である。物理的エネルギーには、機械的エネルギー、熱エネルギー、電場アーク放電エネルギー、磁場エネルギー、イオンビームエネルギー、電子ビームエネルギー、レーザービームエネルギーなどがある。例えば、高強度レーザー光を利用するレーザーアブレーション法、ボールミルやジェットミルなどで粉砕する機械的粉砕法などが挙げられる。また、真空又は低圧雰囲気下の不活性ガスフロー中でバルク金を加熱することで金原子を蒸発させた後、これを捕集することによって作製されたものであってもよい。
レーザーアブレーション法とは、物質表面に短時間に極めて高強度のパルスレーザー光照射することで、物質表面から原子、クラスターなどの粒子を爆発的に剥離、放出させることにより微粒子を得る方法である。具体的には、液中レーザーアブレーションでは、容器中に液体を満たし、底部にターゲットとなるバルク金を配置し、光強度の高いパルスレーザーをバルク金の表面にファーカスして照射する。光照射を受けた集光点近傍では光励起によってターゲットのイオン化や化学結合の切断、もしくは高い熱エネルギーが蓄積されることによる融解や蒸発などが瞬時に起こる。これにより、プラズマの発生、荷電粒子、原子、クラスターなどの様々な粒子が飛散する。一方、集光点近傍を離れると周囲の液体により急速に冷却され、原子同士の凝集などが生じ金微粒子分散液として金微粒子を取得することができる。
本発明の実施形態において、原料となるバルク金の形状は、特に問わず、金塊、金板、金片、粗大粒子の金粉など何れであってもよく、その純度は90%以上であることが好ましい。分散媒となる液体は、超純水などを使用することで不純物の混入のない金微粒子分散液とすることができる。
本発明の実施形態において、レーザーパラメータ(エネルギー、パルス幅、パルス繰返し率など)は、適宜設定することができる。例えば、パルスエネルギーは、約1μJから約100μJの範囲に設定することができる。パルス幅は、超短パルス幅のものを利用することが好ましい。特には、フェムト秒レベルで発振するフェムト秒レーザーアブレーションを利用することが好ましい。パルス繰返し率は、約100kHz〜5MHzの範囲に設定することができる。
レーザーアブレーションで作製された金微粒子は、保護剤や、分散剤、安定剤などの添加物を使用しなくても、液体中に分散された状態で十分に安定している。また、レーザーアブレーションはレーザー光照射に伴い金微粒子の生成が進行するプロセスであるため、レーザー光の照射時間などのアブレーションの条件を調節することにより高濃度の金微粒子分散液として金微粒子を作製することができる。
化学的方法は、原子間力や分子間力を設計及び制御する化学反応により、金微粒子を取得するものである。化学的手法としては、例えば、液中で金イオンを還元して原子状態にし、これを積み上げて金微粒子を作製することができる。また、無溶媒系で4級アンモニウム金(I)チオレート錯体などの金属錯体を加熱溶融する金属錯体の熱分解などによっても金微粒子を作製することができる。
金イオンからの還元法は、金イオンを含む溶液中で金イオンを還元剤により還元することにより、金からなる種核を成長させるものである。金からなる種核を成長させる方法自体は当該技術において公知であり、例えば、Perrault, S. D.及びChan, W. C. W., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 17042-17043、Ziegler, C.、Eychmuller, A., J. Phys. Chem. C. 2011, 115, 4502-4506、及びBastus, N. G.ら, Langmuir. 2011, 27, 11098-11105に記載されている。
本発明の実施形態において、還元剤は、金イオンを含む溶液中で金イオンを還元することにより、金からなる種核を成長させる物質であれば特に限定されないが、好ましくは、還元反応が緩やかに進行する条件下で用い得る還元剤である。そのような還元剤自体は当該技術において公知であり、例えばヒドロキノン、アスコルビン酸、クエン酸などの化学還元剤が挙げられる。本発明の実施形態においては、還元剤を単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
本発明の実施形態において、還元剤としてヒドロキノン、アスコルビン酸又はクエン酸を用いる場合、還元反応は酸性条件下で行うことが好ましい。その場合、酸性のpHで緩衝作用を有する緩衝剤を反応液に添加しておくことが好ましい。そのような緩衝剤は特に限定されないが、例えばクエン酸などが挙げられる。なお、クエン酸は、還元能及び緩衝能を有する多機能性材料として作用する。
上記の金からなる種核は、当該技術において公知の金微粒子の作製方法により取得することができる。例えば、金イオンを還元することにより、種核としての金微粒子を得ることができる。また、市販の金微粒子を種核として用いてもよい。そのような金微粒子としては、例えば、金微粒子溶液(5 nm Colloidal Gold、10 nm Colloidal Gold及び20 nm Colloidal Gold)がSigma-Aldrich社より販売されている。
本発明の実施形態において、金微粒子は、公知の精製方法、例えば透析法、限外ろ過法、ゲルろ過クロマトグラフィー法などにより精製されてもよい。特に、化学的方法で作製された金微粒子を用いる場合には、添加物及び反応副産物などを精製などにより除去することが必要となる。本発明の実施形態においては、金微粒子分散液を遠心分離等により、不純物を含む上澄みと分離して金微粒子を含む沈殿画分を取得する、いわゆる濃縮についても精製に含むものとする。さらに、上記沈殿画分として得られた金微粒子を超純水等で希釈することもできる。また、金微粒子は、公知の滅菌方法、例えば蒸気圧滅菌法などにより滅菌されてもよい。
本発明の実施形態において、金微粒子の体積平均径の測定方法は特に限定されず、公知の粒子径の測定方法から選択すればよい。そのような測定方法として、例えば、透過型電子顕微鏡により得られた画像の解析から体積平均径を測定する方法が挙げられる。
電気伝導率は、物質中の電流の流れやすさの程度を表わす指標であり、電気抵抗率の逆数となる。本発明の実施形態において、電気伝導率の測定は、四探針法、二端子法、四端子法等による電気伝導率の測定機能を有する装置を用いることなどによって行うことができる。具体的には、Myron L(登録商標) Company製 ULTRAMETER II 4PIIを用いて、約5 mLの金微粒子分散液を試料として室温で測定することにより電気伝導率を求めることができる。
なお、本発明の基材に含まれる金微粒子の量は特に限定されないが、例えば、金濃度で表して100〜1000μM、好ましくは100〜500μMである。
本発明の実施形態においては、長期保存などの際に任意に、金微粒子の表面を保護剤で修飾してもよい。そのような保護剤としては、上記のゲルに対して親和性を有する分子であれば特に限定されないが、例えばコラーゲンペプチド、ポリエチレングリコール、デキストラン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどが挙げられる。なお、保護剤による修飾は、該保護剤を上記の金微粒子の表面に物理的、化学的又は生物学的に結合させる方法により行われ、そのような方法自体は公知である。
本発明の細胞培養・分離用基材は、上記の金微粒子を適切な分散媒に分散させた金微粒子分散液と、溶解したゲルの溶液(ゾル)とを混合し、得られた混合物を冷却によりゲル化することにより作製することができる。なお、上記の金微粒子分散液に用いられる分散媒は、細胞に対して毒性のない水性媒体であれば特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。液中レーザーアブレーション法のように高濃度の金微粒子分散液として金微粒子を調製できる場合には、ゲルの溶液との混合に際して、得られた金微粒子分散液をそのまま添加することができ、精製や濃縮工程などの特別な工程を要しない。
本発明の実施形態において、上記の混合は、ゾルがゲル化しない温度下、例えばゼラチンを用いる場合は35〜45℃にて、コラーゲンを用いる場合は氷冷下にて行うことが好ましい。また、上記の混合物の冷却は、該混合液を適当な細胞培養用容器内に入れた状態で行うことが好ましい。そのような容器の形状は特に限定されず、例えばディッシュ、プレートなどの形態にある市販の容器を用い得る。なお、本発明の基材の作製は、クリーンルームのような無菌空間内で行うことが好ましい。
本発明の基材において、金微粒子がゲル中に分散しているか否かは、該基材について波長400〜800 nmの範囲における可視・紫外吸収スペクトル(UV/Visスペクトル)を得ることにより確認できる。該基材中の金微粒子のUV/Visスペクトルが、上記の分散液中の金微粒子のUV/Visスペクトルと同様に、金微粒子に特有の表面プラズモン共鳴吸収(SPR)が確認できる場合、金微粒子がゲル中において凝集することなく、安定に分散していることがわかる。
本発明の基材を用いて培養される細胞は、接着細胞であれば特に限定されないが、好ましくは特定の機能を有すると考えられる細胞である。そのような細胞としては、生体から得た細胞であってもよいし、当該技術において公知の樹立細胞株であってもよい。例えば、樹状細胞などの免疫細胞、胚性幹細胞(ES細胞)及び誘導多能性幹細胞(iPS細胞)などの幹細胞、生体から採取した組織などに由来する初代培養細胞、種々の癌細胞などが挙げられる。更に、本発明の基材は、当該技術において公知の方法により形質転換された細胞の培養にも好適に用い得る。そのような形質転換細胞としては、例えば、所定のタンパク質をコードする核酸を含む発現ベクター、又は、siRNAもしくはshRNAなどを導入した細胞などが挙げられる。
本発明の基材を用いて細胞を培養する場合、その培養方法は、本発明の基材を用いること以外は当該技術において公知の培養方法と異なるところはなく、細胞の種類に応じて必要な培地、添加物、器具、設備などを用いて細胞を培養すればよい。
本発明の基材には上記の金微粒子が分散しており、金微粒子は光を熱に変換することから、光が照射されると該金微粒子から熱が発生して照射範囲内の基材がゾル化する。その結果、照射範囲内にあった細胞は、基材のゾル化によって足場を失うので、該基材から分離する。本発明の実施形態において、照射光は、細胞に重大な損傷を与えない波長及びエネルギーを有する光であればよい。本発明の基材には、不純物を含まない金微粒子を使用するため、基材のゾル化温度を通常より10℃以上低く、好ましくは30〜60℃でゾル化する。従って、金微粒子が30〜60℃の熱に変換し得るに足りるエネルギー有する光を照射すればよい。通常400〜1200 nm、好ましくは450〜900 nmの波長を有し、0.1〜1000 mW、好ましくは0.4〜500 mWで射出される光線である。そのような光線はレーザー光線が好ましい。
(2)細胞培養・分離用基材を利用した細胞の取得方法
本発明の細胞の取得方法(以下、単に「方法」ともいう)では、まず、本発明の細胞培養・分離用基材を用いて培養されている細胞から、興味対象の細胞を見出す。上記の興味対象の細胞は、基材上で培養している細胞の中から選択的に取得しようとする任意の細胞であればよい。そのような細胞としては、例えば、興味対象の機能を有するか、又は興味対象の分子を発現している細胞などが挙げられ、より具体的には、上記の幹細胞、免疫細胞、形質転換細胞などである。
興味対象の細胞を見出す手段は特に限定されず、例えば、顕微鏡などで細胞を観察して見出すことができる。例えば、特定の形態を呈しているか、又は緑色蛍光タンパク質などの所定のマーカー分子を発現している細胞として見出してもよい。あるいは、細胞を当該技術において公知の色素、酵素、抗体などで直接的又は間接的に標識して、標識された細胞を興味対象の細胞として見出してもよい。
次いで、本発明の方法では、上記の細胞培養・分離用基材に光を照射して、照射範囲内の基材をゾル化する。本発明の方法に用い得る光は、本発明の基材について述べたことと同様である。また、光の照射時間は、照射範囲内の基材をゾル化できる時間であれば特に限定されないが、通常10〜600秒、好ましくは10〜300秒である。なお、光を射出する装置は、細胞培養・分離用基材上の任意の範囲内に光を照射できる限り特に限定されないが、好ましくはレーザースキャン顕微鏡である。
本発明の実施形態において、光を照射する範囲は、興味対象の細胞自体又は該細胞を含む領域であってもよい。あるいは、興味対象の細胞を含まない領域、すなわち興味対象の細胞以外の細胞自体又は該細胞を含む領域であってもよい。また、光を照射する範囲は、本発明の基材上に1つであってもよいし、複数であってもよい。
本発明の方法では、上記の光を照射した範囲内の基材から分離した細胞を回収する。光を基材上の興味対象の細胞自体又は該細胞を含む領域に照射した場合、興味対象の細胞が該基材から分離する。この分離した細胞を培地ごと回収することにより、興味対象の細胞を取得することができる。また、光を基材上の興味対象の細胞を含まない領域に照射した場合、興味対象の細胞以外の細胞が該基材から分離する。この分離した細胞を培地ごと回収することにより、興味対象の細胞を、容器内に残った基材上に付着した状態で取得できる。あるいは、フォトリゾグラフィーで用いられるマスクにより、光の照射範囲を制御することもできる。
本発明の方法は、培地を除いた状態で行うこともできる。この場合、本発明の基材に光を照射した後、ゾル化した部位又は基材全体に、培地又は適当な緩衝液などの液体を添加し、該基材から分離した細胞を、添加した液体ごと回収することにより、興味対象の細胞を取得することができる。
(3)細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液
本発明の細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液(以下、「金微粒子分散液」と称する場合もある)は、金微粒子を水、生理食塩水、緩衝液などの水性媒体に分散したものであり、電気伝導率が1〜100μS/cmで、比金濃度相対電気伝導度が0.001〜0.5 (μS/cm)/μMであることを特徴とする。このとき、金微粒子分散液に含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度は10〜100000μMとすることが好ましい。本発明の金微粒子分散液を溶解したゲルの溶液(ゾル)とを混合し、得られた混合物を冷却によりゲル化することにより本発明の細胞培養・分離用基材を作製することができる。ゲルの溶液としては市販のゲル作製用キットでよく、ゲル化前に本発明の金微粒子分散液と混合することにより該基材を作製することができる。
本発明の金微粒子分散液は、高濃度でも長期間高い分散安定性を示すものである。従って、本発明の金微粒子分散液は、金微粒子をゲル中に均等に安定分散し、標的細胞を再現良く剥離回収することが可能な本発明の細胞培養・分離用基材の作製を可能とする。
(4)細胞培養・分離用基材の作製用キット
本発明の細胞培養・分離用基材の作製用キット(以下、単に「キット」ともいう)は、本発明の細胞培養・分離用基材を作製するための金微粒子分散液、及びゲル調製のための試薬を少なくとも含んで構成される。ゲル調製のための試薬としては、例えば、ゲル原料、細胞の生存や増殖のために必要な成分、ゲル再構成用緩衝液などを含めることができる。ゲル原料、細胞の生存や増殖のために必要な成分、ゲル再構成用緩衝液については、本発明の基材について述べたものと同様である。
更に、該キットには、培養部をゲルで被覆でき、かつ細胞培養が可能なディッシュやプレートなどの形態にある細胞培養用容器を含めてもよい。更に、使用取扱い説明書などを含めてもよい。なお、金微粒子分散液ではなく、溶媒に分散させない金微粒子自体を含めるように構成してもよく、このとき分散媒となる水性媒体などを含めてもよい。
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1:金微粒子を分散させた細胞培養・分離用基材の作製
(1)金微粒子
(1−1)物理的方法により作製された金微粒子
本実施例では、物理的方法で作製された金微粒子を用いて、細胞培養・分離用基材の作製を行った。ここで、用いた金微粒子は、本願発明者らとIMRA America, Inc.により開発されたi-colloid Auであり、i-colloid Au average peak size 45 nm, Optical Density 3.0(Product No. icAu45-3-100)としてIMRA America, Inc.より入手することができる。i-colloid Auは、液中レーザーアブレーション技術による非接触物理粉砕によって作製されたものである。
実施例において、使用したi-colloid Auは、i-colloid-Au-45nm(バッチナンバーPR5004-1)、i-colloid-E-Au-45nm(バッチナンバーPR5004-2、3)、並びに、別ロットのi-colloid-45nmである。i-colloid-Au-45nmとi-colloid-E-Au-45nmは金微粒子の形状が相違する。これらは、OD=3の金コロイド溶液(以下(原液)と称する)として調製されたものである。なお、以下の明細書において、上記金微粒子について、ロット並びにバッチの相違に関わらず「i-colloid」と総称的に記載する場合がある。i-colloidの金微粒子分散液の電気伝導率は11μS/cmであり、比金濃度相対電気伝導率は0.016(μM/cm)/μMであった。また、金の純度は99%以上であった。
(1−2)化学的手法により作製された金微粒子
比較のため、ヒドロキノンを用いた化学合成により金微粒子を作製した。ここで、作製した金微粒子の粒径や作製方法についてはYagi, Oeda and Kojima著、J. Electrocheem. Soc., 159, H668-H673(2012)を参照のこと。以下、簡単に作製方法について説明する。
〔試薬〕
<HAuCl4水溶液>
HAuCl4水溶液を超純水で希釈して、HAuCl4水溶液(29.5 mM)を調製した。
<クエン酸三ナトリウム水溶液>
クエン酸三ナトリウム二水和物を超純水に溶解して、クエン酸三ナトリウム水溶液(38.7 mM)を調製した。
<ヒドロキノン>
ヒドロキノン(ナカライテスク株式会社)を超純水に溶解して、ヒドロキノン水溶液(30 mM)を調製した。
〔金からなる種核の作製〕
HAuCl4水溶液(29.47 mM、0.3 ml)と、超純水(30 ml)とを混合し、得られた混合溶液を激しく攪拌しながら、オイルバスにて130℃で加熱した。この混合溶液が沸騰した時点で、クエン酸三ナトリウム二水和物水溶液(38.7 mM、0.9 ml)を加え、10分間加熱還流した。その後、常温にて静置して、金からなる種核を含む溶液(金濃度284μM) (以下「Seed溶液」という)を得た。
〔金微粒子の作製〕
HAuCl4水溶液(29.5 mM)を遠心分離(25℃、11000 rpm、60分)して、上澄み液を回収した。回収したHAuCl4水溶液の上澄み液(29.5 mM、0.1 ml)と、超純水(9.578 ml)と、Seed B溶液(0.2 ml)とを混合し、25℃に保ったインキュベータ(TAITEC BCP-120F)内で激しく攪拌した。得られた混合液にクエン酸三ナトリウム水溶液(38.7 mM、0.022 ml)を加えた後、すばやくヒドロキノン水溶液(30 mM、0.1 ml)を加えた。そして、1時間攪拌して種核を成長させて、金微粒子を含む溶液(金濃度300.4μM) (以下「Growth溶液」という)を得た。以下の実験では、Growth溶液を用いた。
以下の明細書において、上記方法により作製した金微粒子を「HQ-AuNP」と称する。
また、上記の通り作製したHQ-AuNPを、精製を行ったものについても下記の実験に使用した。HQ-AuNPの精製手順を以下に示す。
上記Growth溶液として得られたHQ-AuNP 2.0 mL(金濃度300.4μM)を1.0 mLずつに分け、2本のエッペンチューブに入れ、遠心分離(25℃、3000rpm、20分間)を行った。遠心分離後、各エッペンチューブ中のHQ-AuNPに対し、クリーンベンチ内で上澄み液0.900 mLを除去し、超純水0.301 mLを添加した。添加後、2本のエッペンチューブ中のHQ-AuNPを混ぜ合わせ、約0.8 mLの精製済みHQ-AuNPを得た。以下の明細書において、上記精製工程を経て得られたHQ-AuNPを「精製HQ-AuNP」と、また、精製工程を経ていない上記Growth溶液として得られたHQ-AuNPを「未精製HQ-AuNP」と称する場合がある。
得られた未精製HQ-AuNPの金微粒子分散液の電気伝導率は844μS/cmであり、比金濃度相対電気伝導率は2.81(μS/cm)/μMであった。濃縮HQ-AuNPの金微粒子分散液(未精製HQ-AuNPの10倍濃縮、ここで、分散媒は、含まれる不純物イオンが遠心分離では沈降しないので、未精製HQ-AuNPに含まれる不純物濃度と同程度とみなすことができる。濃縮に際して、遠心分離後に上澄みを除去することで体積が減少し、結果、金微粒子に対する相対的な不純物量は少なくなる)の電気伝導率は844μS/cmであり、比金濃度相対電気伝導率は0.281(μS/cm)/μMであった。精製HQ-AuNPの金微粒子分散液の電気伝導率は、343μS/cm、比金濃度相対電気伝導率は0.457(μS/cm)/μMと算出された。
(1−3)他社作製の金微粒子
比較のため、他社より金微粒子を購入した。
BBI Solutions社より、金微粒子(カタログ番号EM.GC60)を購入した。かかる金微粒子は、作製者の表示によれば「60nm」であるが、透過電子顕微鏡(TEM)による粒子の直接観察では48nmであった。該金微粒子は、化学的合成法の一つクエン酸還元法で作製されたものである。以下の明細書では、該金微粒子を「BBI-AuNP-60」と称する。BBI-AuNP-60の金微粒子分散液の電気伝導率は246μS/cmであり、比金濃度相対電気伝導率は約1.0(μM/cm)/μMであった。また、金の純度は99%以上であった。
(2)金微粒子の特徴決定
(2−1)金微粒子の表面プラズモン共鳴(SPR)測定
SPR測定に先立って、上記(1−1)で説明したi-colloid原液の金原子濃度(ppm)に基づいて、これをモル濃度に換算した。換算したモル濃度を下記の表1に示す。
上記モル濃度に基づいて、金濃度100 μM、又は532nmでの吸収が0.46となるようにi-colloid原液を超純水で希釈してi-colloid水溶液(1 ml)を調製し、これをSPR測定溶液とした。測定は、UV/Vis Spectrophotometer (JASCO V-630:JASCO社製)を用いて25 ℃での400〜800 nmのUV/Visスペクトルを測定することにより行った。
結果を図1及び2、並びに下記の表2及び3に示す。図1及び2は、i-colloid水溶液のUV/Visスペクトルの結果であり、図1は金濃度100μMで正規化した結果を、図2はPR5004-1水溶液の532nmにおける吸収0.46で正規化した結果を示す。表2及び3は、それぞれ図1及び2のデータの要約である。UV/Visスペクトルでは、PR5004-1、PR5004-2、PR5004-3は、それぞれ528、526、524nmにSPRに由来する吸収ピークが認められた。ピーク波長は、PR5004-1に比べて、PR5004-2及びPR5004-3では僅かにブルーシフトした。更に、PR5004-2及びPR5004-3では、吸収ピークでの吸収は低く、ブロードなUV/Visスペクトルが得られた。金微粒子は、SPR吸収が可視光から近赤外線の波長領域に観測されるが、このUV/Visスペクトルは金微粒子の形状、例えば、球状であればその直径、楕円形あるいはロッド状であればその長軸と短軸の比によって、影響を受けることが知られている。従って、上記相違は、金微粒子の形状の差に起因するものと考えられる。
続いて、比較として、上記でSPR測定を行ったi-colloidのPR5004-1、2、3とは別ロットのi-colloid-45nm、上記(1−2)で説明した化学的方法により作製された未精製HQ-AuNP、及び上記(1−3)で説明した市販品のBBI-AuNP-60についても、上記と同様にしてSPR測定を行った。測定溶液は、各金微粒子につき、金濃度が50又は100 μMになるように超純水で調製した溶液を用いた。
結果を図3及び4、並びに下記の表4に示す。図3及び4は、各試験溶液のUV/Visスペクトルの結果であり、図3は金濃度100 μMで正規化したi-colloid-45nm及びHQ-AuNPの結果を、図4は金濃度50 μMで正規化したi-colloid-45nm及びBBI-AuNP-60の結果を示す。表4に、図3及び4のデータを要約した。UV/Visスペクトルでは、BBI-AuNP-60の方がi-colloid-45nmよりも大きかった(図4)が、i-colloid-45 nmよりも上記で実験を行ったPR5004-1の方が大きく1.07倍であった(図1及び2)ことから、PR5004-1とBBI-AuNP-60は同程度のSPR吸収を有すると考えられる。また、HQ-AuNPはPR5004-1よりもSPR吸収が高かった。
上記実験で用いた金微粒子の平均粒径は何れも50nm程度であり、粒径は同じであると考えらえる。しかしながら、各金微粒子の作製方法が異なるため、その表面状態は異なる。詳細には、物理的方法で作製したi-colloidは金表面が露出しているのに対して、HQ-AuNPでは還元剤として添加したヒドロキノン若しくはその酸化体が、BBI-AuNP-60でも何らかの還元剤が金微粒子表面を被覆していると考えられる。金微粒子のUV/Visスペクトルは、上記した金微粒子の形状のみならず、表面に吸着した分子によっても影響を受けることが知られていることから、これらの被覆物質により影響されたと考えられる。また、HQ-AuNPの形状は球形というより多面体構造に近い形状をとるため、かかる金微粒子の形状の相違がUV/Visスペクトルに影響を及ぼした可能性もあると考えられる。
(2−3)金微粒子の光熱変換能の評価
上記(1−1)で説明したi-colloid-Au-45nm(PR5004-1)、i-colloid-E-Au-45nm(PR5004-2、3)、及びi-colloid-45nmの各i-colloid、並びに、上記(1−2)で説明したHQ-AuNP、及び上記(1−3)で説明したBBI-AuNP-60の各金微粒子溶液にレーザー光を照射して、金微粒子の光熱変換能を評価した。
上記各金微粒子につき、金濃度が50又は100μM、若しくは532 nmでの吸光度が0.46となるように超純水で調製した溶液(3 ml)を試験溶液とした。測定は、各試験溶液を可視光透過型プラスチックセル(Kartell社製)に入れ、撹拌しながら、レーザー射出装置(JUNO-5000:昭和オプトロニクス社製)を用いて可視レーザー(波長532 nm、強度0.9 W、光径3mm)をセル側面に対して垂直に5分間照射した。この間に、熱電対(SK-1250MCIIIα:SATO KEIRYOKI社製)を用いて各溶液の温度を経時的に測定した。試験は3回ずつ行い、それらの平均値を算出した。
結果を下記の表5に示す。表5は、5分間の光照射後の各金微粒子の温度変化を示す。光発熱測定の結果、PR5004-1、2、3の光発熱効果は同程度であった。これらは、i-colloid-45nmよりも光発熱効果は高く、BBI-AuNP-60と同程度の光発熱変換能を示した。一方、HQ-AuNPとの比較では、若干HQ-AuNPの方が高い光発熱変換能を示した。これらの結果は、図1〜4のUV/Visスペクトルの大小と良い相関を示しており、UV/Visスペクトルが高い方が光発熱変換能も高いことが判明した。かかる相違は金微粒子の表面状態に起因するものと考えられるが、SPR吸収に与える影響に比べて、光発熱変換能には大きな相違が認められなかった。このことから、金微粒子の表面状態は光発熱変換能には大きな影響を及ぼさないと理解できる。
(3)金微粒子をゲル中に分散させた細胞培養・分離用基材の作製
加熱により溶解するゲル中に、金微粒子を分散させた細胞培養・分離用基材を作製した。ここでは、ゲルとしてはコラーゲンゲルを用いた。以下の明細書においてコラーゲンゲルをゲルとして用いた金微粒子を分散させた細胞培養・分離用基材を「金微粒子分散コラーゲンゲル基材」と称する場合がある。
(3−1)試薬
〔コラーゲンゲル作製用試薬〕
新田ゼラチン株式会社製の研究試薬Cellmatrix(登録商標)組織培養用コラーゲンのSolutionA、SolutionB、SolutionCを使用した。各溶液の詳細は以下の通り。
・SolutionA:Cellmatrix TypeI-A
・SolutionB:NaHCO不含の10倍濃度の培地
(Ham’F12、Medium 199、Eagle’MEMなども使用できる)
・SolutionC:コラーゲンゲル再構成用緩衝溶液
(2.2% NaHCO3及び200mM HEPESを含む0.05N NaOH溶液をろ過滅菌したものを使用することができる)
〔水(pH 3)〕
イオン交換水にHCl水溶液(0.05 M)を加え、pHメーターを用いてpH3に調整し、得られた溶液をフィルター滅菌して、水(pH3)を調製した。
〔金微粒子溶液〕
金微粒子溶液としては、(1−1)で説明したi-colloid-Au-45nm(PR5004-1)、及びi-colloid-E-Au-45nm(PR5004-2、3)の原液を用いた。
(3−2)作製手順
クリーンベンチ内で、4 ℃にて、上記SolutionA、SolutionB、水、金微粒子を含む溶液、更にSolutionCを下記の表6の通りに混合し、コラーゲン−金微粒子混合溶液を調製した。これを、ディッシュプレートなどの容器に所定量添加し、37 ℃で30分間加熱してコラーゲンをゲル化させ、金微粒子分散コラーゲンゲル基材を得た。得られた基材は、コラーゲン濃度が0.08 wt%、金濃度が250 μMであった。コントロールとして、金微粒子含まないコラーゲンゲルをも、金微粒子溶液を添加しないことを除いては同様の手順で作製した。
(4)金微粒子分散コラーゲンゲルの特徴決定
(4−1)金微粒子分散コラーゲンゲルのSPR測定
金微粒子がゲル中に分散しているか否かをSPR測定により確認した。上記(3−2)の作製手順により、24穴ディッシュに300 μL/wellとなるように金微粒子分散コラーゲンゲル基材をi-colloidを用いて作製し、該基材についてのUV/visスペクトルを400〜800 nmの範囲でマルチプレートリーダー(Multiskan spectrum:eppendorf社製)を用いて測定した。測定後、培地であるOpti-MEM(300 μL/well)を該基材上に加えて37℃で24時間インキュベーションした後に、再度UV/Visスペクトルの測定を行った。従って、測定は、ゲル作製直後、及び24時間のOpti-MEM処理後の2回行った。なお、コントロールとして、各i-colloid原液を金濃度250μMになるように超純水で希釈したi-colloid水溶液のUV/Visスペクトルも測定した。
結果を図5、6及び7に示す。図5はPR5004-1、図6はPR5004-2、図7はPR5004-3を金微粒子として含む金微粒子分散コラーゲンゲル基材のUV/Visスペクトルを示す。UV/Visスペクトルは、コントロールである各i-colloid水溶液の400nmにおける吸収で正規化した。この結果、PR5004-1、2、3の何れのi-colloidの場合にも、該基材中で凝集することなく安定に分散していることが判明した。作製直後のピーク吸光度が約20%低下したが、これはコラーゲンゲルの濁度による影響と考えられた。また、培地を添加してインキュベートした基材においてもi-colloidは安定であった。従って、i-colloidはゲルに包埋されても、また培養を行っても安定であることが判明した。
(4−2)金微粒子分散コラーゲンゲル基材の光熱変換能の評価
上記(3−2)の手順により、マイクロチューブに500μL/チューブとなるように金微粒子分散コラーゲンゲル基材をi-colloidを用いて作製した。作製後、培地であるOpti-MEM(300μL/チューブ)を該基材上に加えて37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後、Opti-MEMを吸引除去した。続いて、ゲルに金属ボールを静置し、サーモミキサーを用いて36℃から15分毎に2℃ずつ該基材温度を昇温させた。そして、金属ボールが容器の底まで落下した温度を熱変性温度(Td)として記録した。試験は4回ずつ行いそれらの平均値を算出した。
上記(1−2)で説明した精製及び未精製HQ-AuNPについても、上記(3−2)の手順に準じてコラーゲンゲルに包埋した金微粒子分散コラーゲンゲル基材として調製した。具体的な手順を以下に示す。
クリーンベンチ内で、エッペンチューブに、氷冷下でSolution Aを0.560 mL、Solution Bを0.210 mL、希塩酸を0.420 mL、精製又は未精製HQ-AuNPを0.700 mL Solution Cを0.210 mLをこの順に添加混合し、全量2.100 mLのコラーゲン−金微粒子混合溶液を得た。添加時の精製又は未精製HQ-AuNPの金濃度は750μMであった。続いて、氷冷下で、各コラーゲン−金微粒子混合溶液を96穴ディッシュ(目印をつけておく)に52 μL/wellとなるように分注し、37℃下で30分間インキュベーションし、コラーゲンをゲル化させた。ゲル化後、ゲル上にリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))100μL/wellを加え、約6時間インキュベーションすることにより、HQ-AuNPが金微粒子として分散した金微粒子分散コラーゲン基材を得た。得られた基材の金濃度は250μMであった。
コントロールとして、金微粒子を含まないコラーゲンゲルについても同様にしてTdを測定した。
結果を下記の表7に示す。何れのi-colloidを包埋させた金微粒子分散コラーゲンゲル基材でも、コントロールである純粋なコラーゲンゲルと比較してそのTdに変化は認められなかった。このことから、i-colloidはコラーゲンゲルのTdに影響を及ぼさないことが判明した。化学的方法で作製したHQ-AuNPは、精製前と精製後ではTdに変化が認められ、還元剤などの添加剤及び反応副産物が共存すると考えられる精製前のHQ-AuNPではTdが上昇した。Tdの上昇は、光照射により基材を溶解するために要求されるエネルギーが大きくなることを意味し、温度や照射光による細胞損傷リスクを増大する。従って、HQ-AuNPなどの化学的方法で作製した金微粒子を用いて細胞培養・分離用基材を構築する際には、ゲル中に包埋する前に金微粒子の精製を行う必要があることが判明した。一方、市販のBBI-AuNP-60の金微粒子溶液が低濃度であるため、金濃度250μMのコラーゲンゲルを作製するためには濃縮操作が必要であることが判明した。以上の結果より、i-colloidは細胞培養・分離用基材を構築の作製に際して、金微粒子の濃縮や精製工程が不要であり、簡便にゲル中に包埋することができることが判明した。
(4−3)金微粒子分散コラーゲンゲル基材の光応答面積の測定
上記(3−2)の手順により、96穴ディッシュに52 μL/wellとなるように金微粒子分散コラーゲンゲル基材をi-colloidを用いて作製した。該基材の作製後、Opti-MEM(52μL/well)を該基材上に加えて37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後、Opti-MEMを吸引除去した。続いて、顕微鏡下で、ゲル表面に対して真上から垂直にレーザー光(波長532 nm、強度50 mW、光径25 μm)を1、3、5分間照射し、光応答してゾル化したゲルの変性領域の直径を記録した。具体的には、デジタルカメラで撮影したゲルの画像からゾル化部分の長径及び短径を実測して算出した。試験は3回ずつ行いそれらの平均値を算出した。コントロールとして、金微粒子を含まないコラーゲンゲルについても同様にして光応答面積を測定した。
結果を図8、9、10に示す。図8はPR5004-1、図9はPR5004-2、図10はPR5004-3の結果を示す。純粋なコラーゲンゲルでは光応答は確認できなかったが、PR5004-1、2、3を包埋した金微粒子分散コラーゲンゲル基材は何れも照射時間の増加に従って、光応答面積は増加した。照射光径は約25μmであったため。3分以下の光照射で照射部位選択的な光応答を惹起できることが理解できる。ここでは図示しないが、化学的手法で作製したHQ-AuNPを同様に包埋した基材でも同程度の結果が得られた。かかる結果は、Td測定結果と相関しているといえる。
実施例2:金微粒子をゲル中に分散させた細胞培養・分離用基材上での細胞培養及び光応答剥離
実施例1と同様に、96穴ディッシュに52 μL/wellとなるように金微粒子分散コラーゲンゲル基材を作製した。ここでは、i-colloidのPR5004-1を金微粒子としてゲルに包埋した基材を作製した。作製後、培地であるOpti-MEM(100 μL/well)に分散させたヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞(8000細胞/well)を基材上に播種した。続いて、37℃で24時間インキュベートすることで細胞を基材上に接着させた。次に、培地をリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))(100 μL/well)で3回置換し洗浄した。洗浄後、PBS(-)を除去して、レーザー光(波長532nm強度50mW、光径25±1.4μm)をHela細胞が存在する基材上に1、3、5分間照射した。照射後、速やかに蛍光染色液Live/Deadアッセイ液(カルセイン-AMとヨウ化プロピジウムの混合PBS(-)溶液)(100μL/well)を加え、直後に位相差顕微鏡観察を行った。続いて37℃で30分間のインキュベーションの後、蛍光顕微鏡観察を行った。試験は2〜3回ずつ行った。
結果を図11、12、13に示す。図11はレーザー光を1分照射後、図12は3分照射後、図13は5分照射後の結果を示す。光照射直後のHeLa細胞の形態には変化は認めらないが、その後、ゲル上にLive/Deadアッセイ液を添加することで、照射部位付近の細胞が選択的に剥離できることが確認された。蛍光染色により生細胞を緑に、死細胞を赤色に染色したところ、光照射部位及びその周辺の細胞はほぼ一様に生存しており、死細胞は認められなかった(赤色で染色された死細胞を丸で囲んで図示)。かかる結果より、i-colloidを包埋した金微粒子分散コラーゲンゲル基材は接着細胞の細胞培養・分離用基材として有用であることが判明した。今回の試験では細胞が剥離した場合と剥離しなかった場合があったが、光照射条件や基材の作製条件、細胞の培養条件の検討により、更に精度よく選択的な細胞の取得が可能になると考えられる。
今回の試験に用いたi-colloidは何れも、光熱変換能は同程度であり、コラーゲンゲル中に包埋し作製した金微粒子分散コラーゲンゲル基材中でも安定に分散し、コラーゲンゲルの熱的性質にも影響を与えないことが判明した。また、該基材は光照射によって溶解し、光照射部位での選択的な細胞剥離にも成功した。更に、i-colloidは、細胞に対する明らかな毒性も認められなかった。
作製方法の異なる他の金微粒子との比較では、今回の試験に用いたi-colloidの光熱変換能は、何れもBBI Solutions社から市販された金微粒子と同程度であり、本発明者らが化学的方法であるヒドロキノンによる還元法を利用して作製した金微粒子に比べるとやや低かった。しかしながら、金微粒子分散コラーゲンゲル基材の構築に際して、BBI Solutions社の金微粒子はその溶液濃度が低いことから、コラーゲンゲル中に包埋する過程で濃縮工程が必要であった。また、本発明者らが化学的方法で作製した金微粒子では、金微粒子分散コラーゲンゲル基材の構築に際して、未精製の状態でコラーゲンゲルに包埋した場合には、該基材のTdが上昇する。Tdの上昇は、細胞取得のために基材を溶解するのに必要とされる光エネルギーの増加をも意味し、光照射及び温度により細胞が損傷する可能性がある。従って、該金微粒子においては、作製過程で添加された還元剤及びその酸化体の除去が必要であった。本実施例の試験を通じて、i-colloidは濃縮や精製等の煩雑な前処理工程が不要であることから、i-colloidを利用して簡便に本発明の細胞培養・分離用基材を作製できることが判明した。
本発明は細胞培養・分離技術を提供し、細胞培養・分離技術を要する全ての技術分野に利用可能であり、特に、再生医療や癌治療などの医療分野に応用することができる。

Claims (7)

  1. 加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材であって、前記金微粒子は、体積平均径15〜65 nmであり、かつ前記ゲルに分散させる前の金微粒子分散液の状態での金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率が0.001〜0.5 (μS/cm)/μMである細胞培養・分離用基材。
  2. ゲルからゾルへの変性温度が、30〜60℃である請求項1に記載の細胞培養・分離用基材。
  3. 前記金微粒子が、物理的方法で作製されたもの、又は化学的方法での合成後に精製を行って作製されたものである請求項1又は2に記載の細胞培養・分離用基材。
  4. 前記物理的方法が、液中レーザーアブレーションである請求項3に記載の細胞培養・分離用基材。
  5. 請求項1〜4の何れか一項に記載の細胞培養・分離用基材を用いて培養されている細胞から、興味対象の細胞を見出す工程と、
    該細胞培養・分離用基材に光を照射して、照射範囲内の基材をゾル化する工程と、
    該範囲内の基材から分離した細胞を回収する工程と、を含む、興味対象の細胞を取得する方法。
  6. 加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材を作製するために、体積平均径15〜65 nmの金微粒子を含み、かつ含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率を0.001〜0.5 (μS/cm)/μMに設定してある金微粒子分散液。
  7. 加熱によってゾル化するゲル中に金微粒子を分散させてなる細胞培養・分離用基材を作製するための細胞培養・分離用基材作製用キットであって、少なくとも以下の(a)及び(b)の構成を備えている、
    (a)体積平均径15〜65 nmの金微粒子を含み、かつ含まれる金原子あるいは金イオンの総体積モル濃度に対する電気伝導率を0.001〜0.5 (μS/cm)/μMに設定してある金微粒子分散液、
    (b)ゲル調製のための試薬。
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