JP2016217148A - 内燃機関の失火判定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】内燃機関の回転速度であるクランク角速度の変動量に基づいて失火有無の判定を行う内燃機関の失火判定装置を提供する。【解決手段】多気筒内燃機関の任意の気筒の膨張行程において取得される第1の角速度変化量Δω1と、任意の気筒の膨張行程に対してクランクシャフトのN回転前に膨張行程を迎えていた気筒について取得されていた第2の角速度変化量Δω2と、の差分値である回転変動量ΔNEを取得する回転変動量取得部と、取得された回転変動量が所定閾値ΔNEthを超える場合、(1)第2の角速度変化量の大きさ|Δω2|が第1の角速度変化量の大きさ|Δω1|よりも大きく、且つ、第2の角速度変化量Δω2が任意の気筒に対する回転変動量ΔNEの値を所定閾値ΔNEthを超える方向に向かわせる符号を有するという所定条件、が成立するときには失火が発生していないと判定し、(2)所定条件が成立しないとき、失火が発生したと判定する。【選択図】図3

Description

本発明は、内燃機関の回転速度であるクランク角速度の変動量に基づいて失火有無の判定を行う内燃機関の失火判定装置に関する。
失火の発生時に内燃機関の回転速度(クランク角速度)が変動することに着目し、この回転速度の変動に基づいて失火の発生有無を判定する失火判定装置が提案されている。これらの失火判定装置の多くにおいて、内燃機関の回転速度は、クランクシャフトに備えられクランクシャフトとともに回転するタイミングロータを用いて検出される。具体的には、内燃機関の回転速度は、クランクシャフトの回転によってタイミングロータに等間隔に刻まれた外歯がその外歯と対向して内燃機関に固定されたセンサ(ピックアップ)上を通過する際に、センサによって検出される信号に基づいて取得されるようになっている。
ところが、タイミングロータの外歯には製造誤差等の機械的な寸法誤差があるため、仮にクランク角速度が一定であっても360°クランク角周期のクランク角速度の変動(以下、「回転変動」とも称呼する。)が検出されることがあり、この周期的な回転変動が失火の誤判定を招く虞がある。この周期的な回転変動をキャンセルすることが可能な失火判定装置(以下、「従来装置」と称呼する。)が提案されている(例えば、特許文献1)。なお、本明細書において、クランク角度を「CA」と表記する。即ち、例えば、360°クランク角度は360°CAと表記される。
後に詳述するが、クランク角速度の変動量は、例えば、任意の気筒の圧縮上死点TDC(0°CA)から30°CAまでの範囲をクランクシャフトが回転するのに要する時間(以下、「回転所要時間」とも称呼する。)から算出したクランク角速度とその直前に膨張行程を迎えていた気筒の回転所要時間から算出したクランク角速度との差分として算出される。以下、クランク角速度の変動量は「角速度変化量」と称呼される。
従来装置は、上述した360°CA周期に発生し得る「回転変動」によって失火の誤検出をしないようにするため、任意の気筒における角速度変化量(以下、「第1の角速度変化量」とも称呼する。)と、この任意の気筒の360°CA前に膨張行程にあった気筒における角速度変化量(以下、「第2の角速度変化量」とも称呼する。)とを算出し、第1の角速度変化量と第2の角速度変化量との差分値を「回転変動量」として求める。従来装置は、この回転変動量が失火判定閾値を超えたときに失火が発生したと判定する。
以下、従来装置の失火判定方法及び失火が発生したときの回転変動量の変化について、図8を参照しながらより具体的に説明する。本例において、内燃機関は4気筒の内燃機関であり、点火順序は第1気筒#1、第3気筒#3、第4気筒#4、第2気筒#2(#1→#3→#4→#2)である。図8には、(A)クランク角速度、(B)角速度変化量及び(C)回転変動量のクランク角度に対する変化が示されている。なお、クランク角速度は、以下、単に「角速度」とも称呼する。
第1の角速度変化量Δω1 (dω5)は、失火判定の対象気筒(例えば、図8において第2気筒#2)の圧縮上死点TDCから30°CAまでの範囲をクランクシャフトが回転するのに要する時間(回転所要時間)から算出される角速度ωn (ω(5))とその直前に膨張行程を迎えていた(1膨張行程前の)気筒(第4気筒#4)の回転所要時間から算出される角速度ωn-1 (ω(4))との差分として次式にて定義される。

Δω1 =ωn-1 −ωn (1)

第2の角速度変化量Δω2 (dω3)は、失火判定の対象気筒から2膨張行程前の気筒(第3気筒#3)の回転所要時間から算出される角速度ωn-2 (ω(3))と3膨張行程前の気筒(第1気筒#1)の回転所要時間から算出される角速度ωn-3 (ω(2))との差分として次式にて定義される。

Δω2 =ωn-3 −ωn-2 (2)

回転変動量ΔNEは、第1の角速度変化量Δω1 と第2の角速度変化量Δω2 との差分値である。よって、回転変動量ΔNE(dN5)は、次式により表される。

ΔNE=Δω1 −Δω2 =(ωn-1 −ωn )−(ωn-3 −ωn-2 ) (3)
図8に示したように、現在気筒(例えば、第2気筒#2)にて失火が生じ、他の気筒において正常な燃焼が行われていたとする(即ち、失火がなかったとする)と、現在気筒における角速度ωn (ω(5))の値が図8に示した他の角速度である「角速度ωn-1 (ω(4))、ωn-2 (ω(3))及びωn-3 (ω(2))」よりも小さくなる(図8(A)参照。)。従って、図中に示した第1の角速度変化量Δω1 (dω5)は比較的大きな正の値となり、図中に示した第2の角速度変化量Δω2 (dω3)は略「0」となる(図8(B)参照。)。従って、この場合、図8の(C)に示したように、現在気筒(この場合、第2気筒#2)に対する回転変動量ΔNE(dN5)は比較的大きな正の値となり、所定閾値ΔNEthを超える。
第2気筒#2の次に膨張行程を迎える気筒は第1気筒#1である。第1気筒#1が現在気筒のとき(第1気筒#1が膨張行程を迎えたとき)は燃料が正常に燃焼するが、失火が発生した直後であり、現在気筒の角速度ωn (ω(6))は平均的な角速度ωave まで回復していない。しかし、現在気筒の角速度ωn (ω(6))よりも直前の気筒の角速度ωn-1 (ω(5))の方が小さいので、第1の角速度変化量Δω1 (dω6)はその絶対値が比較的小さな負の値となる。一方、第2の角速度変化量Δω2 (dω4)は略「0」となる。従って、この場合、第1気筒#1に対する回転変動量ΔNEはその絶対値が比較的小さな負の値となり、所定閾値ΔNEthを超えない。
更に、第1気筒#1の次に膨張行程を迎える気筒は第3気筒#3である。第3気筒#3が現在気筒となると、現在気筒の角速度ωn (ω(7))は平均的な角速度ωave へと回復している。このとき第1の角速度変化量Δω1 (dω7)はその絶対値が比較的小さな負の値となり、Δω2 (dω5)は比較的大きな正の値となる。従って、この場合、第3気筒#3に対する回転変動量ΔNE(dN7)はその絶対値が比較的大きな負の値となり、所定閾値ΔNEthを超えない。
第3気筒#3の次に膨張行程を迎える気筒は第4気筒#4である。第4気筒#4が現在気筒の場合、第1の角速度変化量Δω1 (dω8)は略「0」となり、第2の角速度変化量Δω2 (dω6)はその絶対値が比較的小さな負の値となる。従って、この場合、第4気筒#4に対する回転変動量ΔNEは比較的小さな正の値となり、やはり、所定閾値ΔNEthを超えない。
以上の説明から理解されるように、失火が発生した気筒(図8に示した例において第2気筒#2)の回転変動量ΔNEは大きい正の値となり所定の判定閾値ΔNEthを超える。従って、従来装置は、回転変動量ΔNEが判定閾値ΔNEthを超えたとき、失火が発生したと判定している。
特開平4−365958号公報
ところが、従来装置において、車両走行に伴う外乱及び過去に発生した失火等に起因して一時的に機関回転速度が上昇すると、その影響により回転変動量ΔNEが所定の判定閾値ΔNEthを超え、実際には失火が発生していないにもかかわらず、失火が発生したと誤検出される場合がある。上記車両走行に伴う外乱とは、例えば、車両の悪路走行時の振動、車輪の空転及びクラッチ断接時における駆動系のねじれ等である。以下に、従来装置における失火の誤検出の例について図9を参照しながら説明する。
例えば、車両走行に伴う外乱の影響により第2気筒#2にて回転速度(角速度)が上昇したとすると、現在気筒(第2気筒#2)における角速度ωn (ω(4))の値は、現在気筒以前の気筒における角速度ωn-1 (ω(3))、ωn-2 (ω(2))及びωn-3 (ω(1))の値よりも大きくなる(図9(A)参照。)。従って、このときの第1の角速度変化量Δω1 (dω4)は比較的大きな負の値となり、第2の角速度変化量Δω2 (dω2)は略「0」となる(図9(B)参照。)。従って、この場合、図9の(C)に示したように、第2気筒#2に対する回転変動量ΔNE(dN4)は比較的大きな負の値となり、所定閾値ΔNEthを超えない。
第2気筒#2の次に膨張行程を迎える気筒は第1気筒#1である。第1気筒#1が現在気筒となると(第1気筒#1が膨張行程を迎えると)、角速度ωn (ω(5))は、直前の気筒における角速度よりも低い値となっている。このとき(3)式の第1の角速度変化量Δω1 (dω5)はその絶対値が比較的小さな正の値となり、第2の角速度変化量Δω2 (dω3)は略「0」となる(図9(B)参照。)。従って、この場合、第1気筒#1に対する回転変動量ΔNE(dN5)はその絶対値が比較的小さな正の値となり、所定閾値ΔNEthを超えない。
更に、第1気筒#1の次に膨張行程を迎える気筒は第3気筒#3である。第3気筒#3が現在気筒となると、角速度ωn (ω(6))は平均的な角速度ωave へと回復している。このとき第1の角速度変化量Δω1 (dω6)はその絶対値が比較的小さな正の値となる。一方、このときの第2の角速度変化量Δω2 (dω4)はその絶対値が比較的大きな負の値となる。従って、この場合、第3気筒#3に対する回転変動量ΔNE(dN6)は比較的大きな正の値となり、失火が発生していないにもかかわらず所定の判定閾値ΔNEthを超える。
第3気筒#3の次に膨張行程を迎える気筒は第4気筒#4である。第4気筒#4が現在気筒の場合、第1の角速度変化量Δω1 (dω7)は略「0」となり、第2の角速度変化量Δω2 (dω5)は、比較的小さな正の値となる。従って、この場合、第4気筒#4に対する回転変動量ΔNEはその絶対値が比較的小さな負の値となり、所定閾値ΔNEthを超えない。
以上の説明から理解されるように、従来装置においては、回転速度が上昇した気筒(図9に示した例において第2気筒#2)から2気筒後(360°CA後の気筒)において、実際は失火が発生していないにもかかわらず、失火が発生したと誤判定されることがあるという問題があった。
本発明は上記問題に対処するために為されたものである。即ち、本発明の目的の一つは、機関回転速度の一時的な上昇の影響を受けて、失火が発生していないにもかかわらず失火が発生したと誤判定する可能性が低い、失火判定装置を提供することにある。
本発明の内燃機関の失火判定装置(以下、「本発明装置」と称呼する。)は、角速度変化量取得部と、回転変動量取得部と、失火判定部と、を備える。
前記角速度変化量取得部は、多気筒内燃機関の各気筒の膨張行程においてクランクシャフトが第1クランク角から第2クランク角までの所定回転角度幅を回転するのに要する時間に基づいてクランク角速度を取得するとともに前記膨張行程が連続する2つの気筒間の前記クランク角速度の差分である角速度変化量を取得する。
前記回転変動量取得部は、前記各気筒のうちの任意の気筒の膨張行程において前記角速度変化量取得部により取得される第1の前記角速度変化量と、前記任意の気筒の膨張行程に対して前記クランクシャフトのN回転前(Nは正の整数)に膨張行程を迎えていた気筒について前記角速度変化量取得部にて取得されていた第2の前記角速度変化量と、の差分である回転変動量を取得する。
前記失火判定部は、前記回転変動量取得部において取得された前記回転変動量が所定閾値を超える場合、
(1)前記第2の角速度変化量の大きさが前記第1の角速度変化量の大きさよりも大きく、且つ、前記第2の角速度変化量が前記任意の気筒に対する前記回転変動量の値を前記所定閾値を超える方向に向かわせる符号を有するという所定条件、が成立するときには前記内燃機関に失火が発生していないと判定し、
(2)前記所定条件が成立しないとき、前記内燃機関に失火が発生したと判定する。
前述したように、クランクシャフトの回転する角速度ωの一時的な上昇により第2の角速度変化量Δω2 が大きな負の値となったとき、回転変動量ΔNEは大きな正の値となる。これは、前述の(3)式における角速度「ωn-2 」がその前後の気筒における角速度よりも比較的大きくなることに起因している。一方、失火が発生して回転変動量ΔNEの値が大きくなるのは、(3)式における角速度「ωn 」がその前後の気筒における角速度よりも比較的小さくなることに起因している。
よって、角速度ωn を含む第1の角速度変化量Δω1 の大きさ(絶対値)が、角速度ωn-2 を含む第2の角速度変化量Δω2 の大きさ(絶対値)以上であるときは、本来検出すべき「失火」が原因である蓋然性が高いと言える。これに対し、第1の角速度変化量Δω1 の大きさ(絶対値)が、第2の角速度変化量Δω2 の大きさ(絶対値)よりも小さいときは、角速度ωn-2 を取得した時点において発生した角速度の一時的な上昇が原因である蓋然性が高いと言える。
そこで、本判定装置は、回転変動量ΔNEの値を大きな正の値とする2つの因子(角速度ωn-2 及び角速度ωn )について、いずれの因子が支配的であるかを第1の角速度変化量Δω1 と第2の角速度変化量Δω2 とを比較して判断する(下式(4)及び(5)を参照。)。

|Δω1 | < |Δω2 | (4)

即ち、

|ωn-1 −ωn | < |ωn-3 −ωn-2 | (5)
例えば、所定閾値ΔNEthが「正」の値として設定されている場合、角速度ωn-2 を成分に含む第2の角速度変化量Δω2 は、その値が「負」の値の場合(負の符号を有する場合)には、回転変動量ΔNEを大きくする因子として作用する。即ち、第2の角速度変化量Δω2 が負の値の場合(負の符号を有する場合)には、回転変動量ΔNEを所定閾値ΔNEthの値を超える方向に向かわせる。逆に言えば、第2の角速度変化量Δω2 は、その値が「正」の場合(正の符号を有する場合)には、むしろ回転変動量ΔNEを減じる因子として作用する。
そこで、本判定装置は、上記(4)式の条件に加えて、第2の角速度変化量Δω2 が任意の気筒における回転変動量ΔNEの値を所定閾値を超える方向に向かわせる符号を有していることを所定条件として設定する。具体的に言えば、回転変動量ΔNEが上記(3)式にて定義される場合(第1の角速度変化量から第2の角速度変化量を減じる場合)には、第2の角速度変化量の符号が所定閾値ΔNEthの符号と異なっていることが所定条件として設定される。反対に、回転変動量ΔNEが第2の角速度変化量から第1の角速度変化量を減じた値として定義される場合には、第2の角速度変化量の符号が所定閾値ΔNEthの符号と同じになっていることが所定条件として設定される。本判定装置は、この所定条件が成立するときには、任意の気筒における「回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthを超えていたとしても内燃機関に失火が発生していない」と判定する。
このようにして、失火判定部は、「回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthを超えている原因が、本来検出すべき失火によるものなのか、或いは過去に発生した角速度変化量Δωの増大に起因するものなのか否か」を判断して失火の発生を判定することができる。従って、本発明装置によれば、機関回転速度の一時的な上昇の影響を受けて、失火が発生していないにもかかわらず失火が発生したと誤判定することを防止することができる。
本発明装置において、前記失火判定部は、前記所定条件が成立するときには、前記任意の気筒における前記回転変動量を前記所定閾値を超えない値に置換して前記失火判定を実行してもよい。
失火判定に用いられる所定閾値は、内燃機関の回転速度及び負荷に基づいて定められることが多い。更に、この所定閾値は、本判定装置を搭載する車両の種類(車種)毎にも変更される可能性がある。
そこで、本発明装置において、前記失火判定部は、前記所定条件が成立するときには、前記任意の気筒における前記回転変動量を「0」に置換して前記失火判定を実行するようにしてもよい。
この態様によれば、回転変動量を確実にそのときの所定閾値よりも小さい値にすることができる。
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
図1は、本発明の実施形態に係る「失火判定装置」が適用された内燃機関の概略構成図である。 図2は、本発明の実施形態に係る「失火判定装置」の作動を説明するタイムチャートである。 図3は、図1に示したCPUが実行する「回転変動量取得ルーチン」を示したフローチャートである。 図4は、図1に示したCPUが実行する「失火判定ルーチン」を示したフローチャートである。 図5は、本発明の実施形態の一の変形例に係る「失火判定装置」の作動を説明するタイムチャートである。 図6は、本発明の実施形態の他の変形例に係る「回転変動量取得ルーチン」を示したフローチャートである。 図7は、本発明の実施形態の他の変形例に係る「失火判定ルーチン」を示したフローチャートである。 図8は、従来技術における失火判定方法を説明するタイムチャートである。 図9は、従来技術において失火が誤検出される理由を説明するタイムチャートである。
<実施形態>
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る失火判定装置(以下、「本判定装置」とも称呼する。)について説明する。
(構成)
本判定装置は、図1に示した内燃機関10に適用される。機関10は、火花点火式の4サイクル・ピストン往復動型・V型6気筒・ガソリン内燃機関である。機関10は、機関本体部20及び吸排気系統40を含んでいる。
機関本体部20は、シリンダヘッド21、シリンダブロック22、燃料噴射弁23、点火装置24、吸気弁25、排気弁26、ピストン27、コネクティングロッド28、クランクシャフト29、タイミングロータ31、クランクケース32、吸気カム33及び排気カム34を含んでいる。
機関本体部20には、シリンダヘッド21、シリンダブロック22及びピストン27によって燃焼室35が形成される。機関本体部20には、シリンダヘッド21の吸気側に吸気ポート36が形成される。吸気ポート36は燃焼室35に連通している。機関本体部20には、シリンダヘッド21の排気側に排気ポート37が形成される。排気ポート37は燃焼室35に連通している。
燃料噴射弁23は、吸気ポート36に燃料を噴射するようになっている。点火装置24は火花発生部を燃焼室35内に露呈するようにしてシリンダヘッド21に配設されている。点火装置24は、イグナイタ、イグニッションコイル及び点火プラグを含んでいる。吸気弁25は、吸気カム33が回転すると、吸気カム33のカムノーズに追従して燃焼室35と吸気ポート36との連通部を開放したり遮断したりするように往復動する。排気弁26は、排気カム34が回転すると、排気カム34のカムノーズに追従して燃焼室35と排気ポート37との連通部を開放したり遮断したりするように往復動する。
クランクシャフト29はクランクケース32内に収容されているコネクションロッド28を介してピストン27に連結され、ピストン27の往復動に従って回転するようになっている。
タイミングロータ31はクランクシャフト29の端部に配設され、クランクシャフト29と一体になって回転するようになっている。タイミングロータ31はその外周面に30°おきに形成された外歯31aを備えている。タイミングロータ31の外歯31aには製造誤差等の機械的な寸法誤差が含まれる。よって、後述するクランクポジションセンサ51から出力されるタイミングロータの回転同期信号には、360°CA周期のばらつきが検出される傾向がある。
吸排気系統40は、内部に吸気通路を形成する吸気通路部41、スロットルバルブ42及び内部に排気通路を形成する排気通路部43を含んでいる。吸気通路部41は吸気ポート36に連通している。排気通路部43は排気ポート37に連通している。
スロットルバルブ42は、吸気通路部41に配設され、図示しないスロットルモータにより駆動されるようになっている。スロットルバルブ42は、後述する電子制御装置50にて算出され且つスロットルモータへと出力されるモータ制御量に応じて開度が変更されるようになっている。このスロットルバルブ42の開度に応じて吸気通路部41へ導入される吸入空気量が調整される。
吸気ポート36へ燃料噴射弁23から噴射された燃料は、吸気通路部41内の吸入空気とともに混合気を形成する。機関10の吸気行程において吸気弁25が開弁すると、混合気が燃焼室35に導入される。燃焼室35に導入された混合気は、圧縮行程において圧縮された後、所定の時期において点火装置24によって点火されて燃焼・爆発する。即ち、膨張行程が開始する。燃焼後の排ガスは、排気行程において排気弁26が開弁することによって排気通路部43に排出される。これら一連の行程(吸気、圧縮、膨張及び排気からなる燃焼サイクル)が6つの気筒において次々に実行されるので、クランクシャフト29は連続して回転する。機関10の点火は、第1気筒#1、第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4、第5気筒#5及び第6気筒#6の順に行われる。
電子制御装置(ECU)50は、周知のマイクロコンピュータを含む電子回路であり、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM(スタティックRAM又は不揮発性メモリ)及びインターフェース等を含む。電子制御装置50は、燃料噴射弁23、点火装置24及びスロットルモータ等と電気的に接続されている。
電子制御装置50は、CPUからの指示に応じて、燃料噴射弁23及び点火装置24等のアクチュエータに指示(駆動)信号を送出するようになっている。更に、電子制御装置50は、クランクポジションセンサ51、エアフローメータ52及び運転状態量検出センサ53等と電気的に接続されており、各センサからの信号を受信(入力)するようになっている。
クランクポジションセンサ51は、クランクシャフト29の回転位置を検出するためのセンサである。クランクポジションセンサ51は、タイミングロータ31との間に所定のエアギャップGを形成するようにしてクランクケース32内に配置される。クランクシャフト29の回転に伴ってタイミングロータ31が回転すると、外歯31aの接近と離間とに応じてエアギャップGの大きさが変化する。このため、クランクポジションセンサ51内の図示しないコイルを通過する磁束が増減してコイルに起電力が発生する。この起電力の向きは外歯31aの接近時と離間時において互いに逆向きとなるので、交流状の信号となる。
クランクポジションセンサ51は、更に、図示しない波形整形器を備えており、この波形整形器によって上記交流状の信号を所定のパルス信号に整形して出力する。即ち、クランクポジションセンサ51は外歯31aの通過に同期したパルス信号を出力するようになっている。なお、タイミングロータ31としては、その外歯が10°おきに形成されたものが適用されることもある。この場合、クランクポジションセンサ51のパルス信号出力は、電子制御装置50にて分周され、30°CA毎のパルス出力に変換されるようになっている。
エアフローメータ52は吸気通路部41であって、スロットルバルブ42よりも吸気上流側の位置に配設される。エアフローメータ52は吸気通路部41を流れる吸入空気量を検出する。電子制御装置50は、エアフローメータ52の出力信号に基づいて単位時間当たりの吸入空気量Gaを算出する。
運転状態量検出センサ53は、アクセルペダル操作量Accpを検出するアクセルペダル操作量センサ、吸気通路部41内であってスロットルバルブ42の下流位置における吸気圧力Pmを検出する吸気圧センサ、機関10が搭載された車両のエアコンディショナの作動/非作動状態を検出するエアコンセンサ、機関10が搭載された車両のシフトレバー操作の有無を検出するシフトレバーセンサ等を含む。
(作動)
次に、本判定装置の作動について説明する。本判定装置は、機関回転速度NEの変化の程度を示す量である「回転変動量」に基づいて失火が発生したか否かを判定する。先ず、この「回転変動量」の定義について説明する。
この「回転変動量」は、前述した特許文献1と同様に、先ず、各気筒の膨張行程において、圧縮上死点TDCからTDC後30°CAまでの回転所要時間、30°CA所要時間T30を取得する。
次に、本判定装置は、取得した30°CA所要時間T30から角速度ωn を算出する。なお、本実施形態において、「n 」は現在気筒であることを示し、「n-1 」は現在気筒の直前に膨張行程にあった気筒であることを示している。角速度ωn は次式のように表される。つまり、角速度ωn は、失火が生じている場合には、正常な燃焼・爆発が生じている場合にくらべて小さな値となる。

ωn =30/T30 (6)
角速度変化量Δωは、任意の気筒を基準にして点火が約120°CA前に行われる気筒(即ち、任意の気筒の直前に膨張行程を迎えていた気筒)における角速度ωk-1 と、任意の気筒における角速度ωk と、の差分値として次式にて定義される。

Δω=ωk-1 −ωk (7)
特に、現在膨張行程を迎えている気筒(現在気筒)を基準にして点火が約120°CA前に行われる気筒(即ち、現在気筒の直前に膨張行程を迎えていた気筒)における角速度ωn-1 と、現在気筒における角速度ωn と、の差分値として定義される各速度変化量Δωは、「第1の角速度変化量Δω1 」と称呼される。第1の角速度変化量Δω1 は次式のように表される。

Δω1 =ωn-1 −ωn (8)
更に、現在気筒を基準にして点火が約840°CA前に行われる気筒における角速度ωn-7 と、現在気筒を基準にして点火が約720°CA前に行われる気筒(即ち、4サイクルの内燃機関において現在気筒と同一の気筒)における角速度ωn-6 と、の差分値として定義される角速度変化量Δωは、「第2の角速度変化量Δω2 」と称呼される。第2の角速度変化量Δω2 は次式のように表される。

Δω2 =ωn-7 −ωn-6 (9)
回転変動量ΔNEは、第1の角速度変化量Δω1 と第2の角速度変化量Δω2 との差分値として定義される。即ち、回転変動量ΔNEは次式のように表される。

ΔNE=Δω1 − Δω2 =(ωn-1 −ωn )−(ωn-7 −ωn-6 ) (10)
このように、本判定装置は、720°CA周期(360°CAの整数倍の周期)の角速度変化量Δωの差分として回転変動量ΔNEを算出する。つまり、本判定装置は、タイミングロータ31の同一の外歯を用いて取得した30°CA所要時間T30から角速度変化量Δωを算出し、更にその差分を回転変動量ΔNEとして算出する。従って、例えば、製造誤差によってタイミングロータ31の外歯31aのピッチが正確に等間隔とはなっていなかったとしても、算出される回転変動量ΔNEはタイミングロータ31の製造誤差の影響を受けない。その結果、本判定装置は回転変動量ΔNEを正確に取得することができる。
更に、本発明装置は、720°CAの周期(クランクシャフト29が2回転する周期)にて角速度変化量Δωの差分を算出しているので、タイミングロータ31の製造誤差だけでなく、機関10の気筒間の製造誤差によるばらつきの影響も排除できるようになっている。
次に、図2を参照しながら本発明の作動を具体的に説明する。図2は、(A)角速度、(B)角速度変化量、(C)回転変動量及び(D)失火判定用回転変動量の関係を示したタイムチャートである。なお、図2は、第1気筒#1において角速度が上昇している例を示している。
図2から理解されるように、内燃機関はおおむね平均的な回転速度(角速度ωave )にて運転されているが、何らかの理由により第1気筒#1が膨張行程を迎えたときに角速度が上昇している(図中(A)のω(3))。
第1の角速度変化量Δω1 は、前述したように現在気筒(第1気筒#1)の1気筒前の気筒における角速度ωn-1 (ω(2))と現在気筒の角速度ωn (ω(3))との差分値であるから、その絶対値が比較的大きな負の値となる(図中(B)のdω3)。第2の角速度変化量Δω2 は、前述したように現在気筒から840°CA前の気筒における角速度ωn-7 と720°CA前の気筒における角速度ωn-6 との差分値である。第2の角速度変化量Δω2 の値は、図2には示されていないが内燃機関が平均的な角速度ωave にて推移していることから略「0」である。回転変動量ΔNEは、前述したように第1の角速度変化量Δω1 (dω3)と第2の角速度変化量Δω2 (図示せず)との差分値であるから、その絶対値が比較的大きな負の値となる(図中(C)のdN3)。よって、第1気筒#1における回転変動量ΔNE(dN3)は所定閾値ΔNEthを超えない。
次に膨張行程を迎える第2気筒#2において、角速度ωn (ω(4))はまだ平均の角速度ωave に回復しておらず、平均的な角速度ωave よりも高い値となっている。このとき、角速度変化量Δω(dω4)は比較的小さな正の値となり、回転変動量ΔNE(dN4)も同様に比較的小さな正の値となる。この場合、第2気筒#2における回転変動量ΔNE(dN4)は所定閾値ΔNEthを超えない。
次に膨張行程を迎える第3気筒#3において、角速度ωn (ω(5))は略平均的な角速度ωave に回復している。このとき角速度変化量Δω(dω5)は比較的小さな正の値となる。よって、第3気筒#3における回転変動量ΔNE(dN5)は比較的小さな正の値となり、所定閾値ΔNEthを超えない。
このようにして、次に、再び第1気筒#1が膨張行程を迎えるとき、角速度ωn (ω(9))は略平均の角速度ωave であり、その直前の気筒(第6気筒#6)における角速度ωn-1 (ω(8))も略平均的な角速度ωaveである。よって、このときの角速度変化量Δω(dω9)の値は略「0」となる。更に、このときの回転変動量ΔNE(dN9)は、現在気筒における角速度変化量を第1の角速度変化量Δω1 (dω9)として、現在気筒から720°CA前の気筒において算出された角速度変化量を第2の角速度変化量Δω2 (dω3)として算出される。このときの第2の角速度変化量Δω2 (dω3)はその絶対値が比較的大きい負の値である。よって、このときの回転変動量ΔNE(dN9)は比較的大きな正の値となり、所定閾値ΔNEthを超える。従って、もし、算出された回転変動量ΔNEに基づいて失火判定が行われると、第1気筒#1において失火が発生していないにもかかわらず、失火が発生したと判定されてしまう。
そこで、次に、本判定装置は、失火判定に用いられる「失火判定用回転変動量ΔNEmd」を算出するために、第1の角速度変動量Δω1 と第2の角速度変化量Δω2 とが以下の2つの関係(所定条件)のいずれをも満たすか否かを判定する。
(条件1)第1の角速度変化量Δω1 の大きさが第2の角速度変化量Δω2 の大きさより小さい。即ち、

|Δω1 | < |Δω2 | (11)
(条件2)第2の角速度変化量Δω2 が、膨張行程を迎えている気筒における回転変動量ΔNEの値を所定閾値ΔNEthを超える方向に向かわせる符号を有している。本例の場合、所定閾値ΔNEthは正の値であるから、「所定閾値ΔNEthを超える方向」とは、回転変動量ΔNEの値を正方向に増加させる方向である。つまり、本例において、第2の角速度変化量Δω2 が「回転変動量ΔNEの値を正方向に増加させる」ことができるのは、第2の角速度変化量Δω2 が負の符号を有しているときである。つまり、条件2は次式にて表される。

Δω2 < 0 (12)
従って、この場合、「所定条件」(条件1且つ条件2)は次式にて表すことができる。

|Δω1| < −Δω2 (13)
本例(図2に示した例)の場合、第1の角速度変化量Δω1 (dω9)と第2の角速度変化量Δω2 (dω3)とは(13)式に示した関係を満たしている。よって、本判定装置は、現在気筒(第1気筒#1)における回転変動量ΔNEの値を「0」に置換して、失火判定用回転変動量ΔNEmdとする(図中(D)のdm9)。上記条件((13)式に示す条件)に基づいて判定することができる理由は次の通りである。
角速度ωn (ω(9))を含む第1の角速度変化量Δω1 (dω9)の大きさ(絶対値)が、角速度ωn-6 (ω(3))を含む第2の角速度変化量Δω2 (dω9)を符号反転した−Δω2 よりも小さいとき(即ち、(13)式を満たすとき)は、角速度ωn-6 取得時における角速度ωn-6 (ω(3))の一時的な上昇が回転変動量ΔNEの増加の主要因であると言える。よって、このときは「失火が発生していない」蓋然性が高いと考えられる。これに対し、第1の角速度変化量Δω1 の大きさ(絶対値)が、第2の角速度変化量Δω2 を符号反転した−Δω2 以上であるとき(即ち、(13)式を満たさないとき)は、「本来検出すべき失火によって回転変動量ΔNEの値が増加した」蓋然性が高いと考えられる。このように、失火判定に用いられる失火判定用回転変動量ΔNEmdを算出することができる。
本判定装置は、後で説明する失火判定ルーチンに、算出された失火判定用回転変動量ΔNEmdを適用することによって、失火が発生しないにもかかわらず失火が発生したと誤判定しない失火判定を行うことができる。
(実際の具体的作動)
次に、本判定装置の具体的作動について説明する。電子制御装置50のCPUは、機関10の任意の気筒のクランク角度CAが圧縮上死点TDCに達したときに図3にフローチャートにより示した「回転変動量取得ルーチン」をその任意の気筒に対して実行する。
従って、何れかの気筒のクランク角度CAがその気筒の圧縮上死点TDCに達すると、CPUは図3のステップ300から処理を開始してステップ310に進み、以下のステップ310〜ステップ340の処理を順に実行し、ステップ350に進む。
ステップ310:CPUは30°CA所要時間T30(任意の気筒のクランク角度CAがTDCからTDC後30°CAまで回転するのに要する時間)を取得する。
ステップ320:CPUは上記(6)式に従って現在気筒に対する角速度ωn を取得する。
ステップ330:CPUは上記(7)式に従って現在気筒に対する角速度変化量Δωを取得する。
ステップ340:CPUは上記(10)式に従って現在気筒に対する回転変動量ΔNEを取得する。
なお、CPUはステップ320〜ステップ340にて取得した角速度ωn 、角速度変化量Δω及び回転変動量ΔNEを現在気筒の気筒番号と関連付けながらRAMに格納する。
その後、CPUはステップ350にて第1の角速度変化量Δω1 と第2の角速度変化量Δω2 とが上記(13)式の条件(|Δω1 |<−Δω2 )を満足するか否かを判定する。「前記仮定条件」によれば、(13)式を満足する。従って、CPUはステップ350にて「Yes」と判定してステップ360に進み、失火検出判定用回転変動量ΔNEmdの値を「0」に設定して、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
また、電子制御装置50のCPUは、機関10の任意の気筒のクランク角度CAが圧縮上死点TDC後60°CAに達したときに図4にフローチャートにより示した「失火判定ルーチン」をその任意の気筒に対して実行する。
従って、何れかの気筒のクランク角度CAがその気筒の圧縮上死点TDC後60°CAに達すると、CPUは図4のステップ400から処理を開始してステップ410に進み、失火が発生しているか否かを判定するための「実行条件」が成立しているか否かを判定する。
失火判定にあたっては、機関回転速度NEが比較的安定となるような状態が望ましい。従って、実行条件としては、例えば、エアコンディショナの作動/非作動が切り換えられてから所定時間が経過していること及びシフトレバーが操作されてから所定時間が経過していること等が挙げられる。また、フューエルカット中及び極低温(−10℃未満)時には、失火判定を実行しないことになっている。
実行条件が成立していなければ、CPUはステップ410にて「No」と判定し、ステップ495に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、判定実行条件が成立していると、CPUは次に述べる処理を実行する。以下、実行条件が成立し続けると仮定し且つ場合分けをしながら説明を続ける。
(場合1)失火判定用回転変動量ΔNEmdが所定閾値ΔNEth以下である場合。
CPUは、ステップ410にて「Yes」と判定してステップ420に進み、総判定回数カウンタCtotal をカウントアップする。総判定回数カウンタCtotal は、イグニッション・キー・スイッチがオフからオンへと変更されたときに別途実行される図示しないイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。総判定回数カウンタCtotal は、本ルーチンによる失火の有無を判定する処理がなされた回数を示す。
次に、CPUはステップ430に進み、図3に示した「回転変動量取得ルーチン」にて取得された失火判定用回転変動量ΔNEmdが所定閾値ΔNEthよりも大きいか否かを判定する。前述した仮定によれば、失火判定用回転変動量ΔNEmdは所定閾値ΔNEth以下である。従って、CPUはステップ430にて「No」と判定してステップ450に直接進み、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」以上であるか否かを判定する。
このとき、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」未満であると、CPUはステップ450にて「No」と判定し、ステップ495に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、本ルーチンが実行されたとき、ステップ410の実行条件が成立する毎にステップ420にて総判定回数カウンタCtotal がカウントアップされる。
(場合2)失火判定用回転変動量ΔNEmdが所定閾値ΔNEthを超える場合。
この場合、CPUは、ステップ420にて総判定回数カウンタCtotal をカウントアップした後、ステップ430にて「Yes」と判定してステップ440に進み、失火回数カウンタCmis をカウントアップする。失火回数カウンタCmis は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。従って、ステップ430にて「Yes」と判定される毎に、失火回数カウンタCmis の値は「0」から「1」ずつ増大して行く。
その後、CPUは、ステップ450に進み、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」未満であると、CPUはステップ450にて「No」と判定し、ステップ495に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、本ルーチンが実行されたとき、ステップ410の実行条件が成立する毎にステップ420にて総判定回数カウンタCtotal がカウントアップされる。
以上のような処理(「場合1」及び「場合2」)が繰り返し行われると、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」に到達する。この場合、CPUは、ステップ450に進んだとき、そのステップ450にて「Yes」と判定してステップ460に進み、失火回数カウンタCmis の値が規定の異常回数(例えば「30」)以上であるか否かを判定する。
失火回数カウンタCmis の値が規定の異常回数以上である場合、CPUはステップ460にて「Yes」と判定してステップ470に進み、「失火異常(失火発生)」と判定する。このとき、CPUは車室内にある警告ランプを点灯させ、バックアップRAMに失火が発生した旨を書き込む。続いて、CPUはステップ480に進み、総判定回数カウンタCtotal 及び失火回数カウンタCmis の値を「0」に設定して、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、失火回数カウンタCmis の値が規定の異常回数未満である場合、CPUはステップ460にて「No」と判定してステップ480に直接進み、その後、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。このとき、CPUはバックアップRAMに「失火異常ではないと判定した旨」を書き込んでもよい。
以上、説明したように、本判定装置は、
多気筒(例えば、6気筒)内燃機関の各気筒(第1気筒#1〜第6気筒#6)の膨張行程においてクランクシャフト29が第1クランク角から第2クランク角までの所定回転角度幅を回転するのに要する時間(回転所要時間T30)に基づいてクランク角速度ωn を取得するとともに(図3のステップ320)前記膨張行程が連続する2つの気筒間の前記クランク角速度ωn の差分である角速度変化量Δωを取得する(図3のステップ330)角速度変化量取得部と、
前記各気筒のうちの任意の気筒の膨張行程において前記角速度変化量取得部により取得される第1の前記角速度変化量Δω1 と、前記任意の気筒の膨張行程に対して前記クランクシャフト29のN回転前(Nは正の整数、この場合N=2)膨張行程を迎えていた気筒について前記角速度変化量取得部にて取得されていた第2の前記角速度変化量Δω2 と、の差分である回転変動量ΔNEを取得する(図3のステップ340)回転変動量取得部と、
前記回転変動量取得部において取得された前記回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthを超える場合、
(1)前記第2の角速度変化量Δω2 の大きさ|Δω2 |が前記第1の角速度変化量Δω1 の大きさ|Δω1 |よりも大きく、且つ、前記第2の角速度変化量Δω2 が前記任意の気筒における前記回転変動量の値ΔNEを前記所定閾値ΔNEthを超える方向に向かわせる符号を有するという所定条件、が成立するとき(図3のステップ350にて「Yes」と判定されるとき)には前記内燃機関に失火が発生していないと判定(図3のステップ360にて失火判定用回転変動量ΔNEmdを「0」に設定した後、図4のステップ430にて「No」と判定)し、
(2)前記所定条件が成立しないとき(図3のステップ350にて「No」と判定されるとき)、前記内燃機関に失火が発生したと判定(図3のステップ370にて失火判定用回転変動量ΔNEmdを回転変動量ΔNEに設定した後、図4のステップ430にて「Yes」と判定)する失火判定部と、
を備える。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
(変形例1)
前述の(7)式にて定義した角速度変化量Δωは、現在気筒の一つ前の気筒における角速度ωk-1 から現在気筒における角速度ωk を引いた値として算出されたが、これに限ることはなく、次式に示すように、現在気筒における角速度ωk から現在気筒の一つ前の気筒における角速度ωk-1 を引いたものでもよい。この場合の角速度変化量Δω’は次式のように表される。

Δω’= ωk − ωk-1 (14)
この場合、第1の角速度変化量Δω1’、第2の角速度変化量Δω2’及び回転変動量ΔNE’は次式のように表される。

ΔNE’=Δω1’−Δω2’=(ωn − ωn-1 )−(ωn-6 − ωn-7 ) (15)

以下、図5を参照しながら説明する。この場合、図5に示したように、任意の気筒(第3気筒#3)にて失火が発生すると、その任意の気筒における回転変動量ΔNE’(dN5)は負の大きな値となる(前述の実施形態における回転変動量ΔNEとは符号が反転した関係となる)。よって、判定閾値ΔNEth’は「負」の値となり、回転変動量ΔNE’が判定閾値ΔNEth’を下回ったときに失火が発生したと判定する。
この場合、前述した「条件2」の本変形例への適用については、次のとおりである。所定閾値ΔNEth’は「負」の値であるから、「所定閾値ΔNEth’を超える方向」とは、回転変動量ΔNE’の値を負方向に減少させる方向である。つまり、本例において、第2の角速度変化量Δω2’ が「回転変動量ΔNE’の値を負方向に減少させる」ことができるのは、第2の角速度変化量Δω2’ が正の符号を有しているときである。つまり、条件2は次式にて表される。

Δω2 > 0 (16)

よって、この場合、図3に示したフローチャートにおけるステップ350の判定条件は、次式に置き換えられる。

|Δω1 |< Δω2 (17)
(変形例2)
前述の実施形態においては、第1の角速度変化量及び第2の角速度変化量が(13)式の所定条件を満たすとき、回転変動量ΔNEの値を「0」に置換していたが、置換する値は、そのときの判定閾値を超えない値であれば「0」以外の値であってもよい。
(変形例3)
前述の実施形態において、所定条件(|Δω1 | < -Δω2 )が成立するときには、そのときの回転変動量ΔNEを「0」に置換した失火判定用回転変動量ΔNEmdを算出し、この失火判定用回転変動量ΔNEmdと所定閾値ΔNEthを比較することによって失火判定を実行していた。本発明は、これに代えて、上記所定条件が成立するときには、回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthを超えていたとしても失火が発生していないと判定するようにしてもよい。以下に、この場合(変形例)の具体的作動について説明する。
電子制御装置50のCPUは、機関10の任意の気筒のクランク角度CAが圧縮上死点TDCに達したときに図6にフローチャートにより示した「回転変動量取得ルーチン」をその任意の気筒に対して実行する。
従って、何れかの気筒のクランク角度CAがその気筒の圧縮上死点TDCに達すると、CPUは図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、以下のステップ610〜ステップ640の処理を順に実行し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ610:CPUは30°CA時間T30(任意の気筒のクランク角度CAがTDCからTDC後30°CAまで回転するのに要する時間)を取得する。
ステップ620:CPUは上記(6)式に従って現在気筒に対する角速度ωn を取得する。
ステップ630:CPUは上記(7)式に従って現在気筒に対する角速度変化量Δωを取得する。
ステップ640:CPUは上記(10)式に従って現在気筒に対する回転変動量ΔNEを取得する。
なお、CPUはステップ320〜ステップ340にて取得した角速度ωn 、角速度変化量Δω及び回転変動量ΔNEを現在気筒の気筒番号と関連付けながらRAMに格納する。
また、電子制御装置50のCPUは、機関10の任意の気筒のクランク角度CAが圧縮上死点TDC後60°CAに達したときに図7にフローチャートにより示した「失火判定ルーチン」をその任意の気筒に対して実行する。
従って、何れかの気筒のクランク角度CAがその気筒の圧縮上死点TDC後60°CAに達すると、CPUは図4のステップ700から処理を開始してステップ710に進み、失火が発生しているか否かを判定するための「実行条件」が成立しているか否かを判定する。
前述した実行条件が成立していなければ、CPUはステップ710にて「No」と判定し、ステップ795に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、判定実行条件が成立していると、CPUは次に述べる処理を実行する。以下、実行条件が成立し続けると仮定し且つ場合分けをしながら説明を続ける。
(場合1)回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEth以下である場合。
CPUは、ステップ710にて「Yes」と判定してステップ720に進み、総判定回数カウンタCtotal をカウントアップする。
次に、CPUはステップ730に進み、図6に示した「回転変動量取得ルーチン」にて取得された回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthよりも大きいか否かを判定する。前述した仮定によれば、回転変動量ΔNEは所定閾値ΔNEth以下である。従って、CPUはステップ730にて「No」と判定してステップ760に直接進み、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」以上であるか否かを判定する。
このとき、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」未満であると、CPUはステップ760にて「No」と判定し、ステップ795に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、本ルーチンが実行されたとき、ステップ710の実行条件が成立する毎にステップ720にて総判定回数カウンタCtotal がカウントアップされる。
(場合2)回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthを超え、所定条件(|Δω1 | < -Δω2 )が成立している場合。
この場合、CPUは、ステップ720にて総判定回数カウンタCtotal をカウントアップした後、ステップ730にて「Yes」と判定してステップ740に進み、(13)式にて示された所定条件が成立しているか否かを判定する。仮定によれば、所定条件が成立しているので、CPUはステップ740にて「Yes」と判定して、ステップ750に進み、失火回数カウンタCmis をカウントアップする。失火回数カウンタCmis は別途実行されるイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。従って、ステップ740にて「Yes」と判定される毎に、失火回数カウンタCmis の値は「0」から「1」ずつ増大して行く。
その後、CPUは、ステップ760に進み、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」未満であると、CPUはステップ760にて「No」と判定し、ステップ795に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、本ルーチンが実行されたとき、ステップ710の実行条件が成立する毎にステップ720にて総判定回数カウンタCtotal がカウントアップされる。
(場合3)回転変動量ΔNEが所定閾値ΔNEthを超え、所定条件(|Δω1 | < -Δω2 )が成立していない場合。
この場合、CPUは、ステップ720にて総判定回数カウンタCtotal をカウントアップした後、ステップ730にて「Yes」と判定してステップ740に進み、所定条件が成立していないので「No」と判定する。その後、CPUはステップ760に直接進み、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」未満であると、CPUはステップ760にて「No」と判定し、ステップ795に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、本ルーチンが実行されたとき、ステップ710の実行条件が成立する毎にステップ720にて総判定回数カウンタCtotal がカウントアップされる。
以上のような処理(「場合1」、「場合2」及び「場合3」)が繰り返し行われると、総判定回数カウンタCtotal の値が「2000」に到達する。この場合、CPUは、ステップ760に進んだとき、そのステップ760にて「Yes」と判定してステップ770に進み、失火回数カウンタCmis の値が規定の異常回数(例えば「30」)以上であるか否かを判定する。
失火回数カウンタCmis の値が規定の異常回数以上である場合、CPUはステップ770にて「Yes」と判定してステップ780に進み、「失火異常(失火発生)」と判定する。このとき、CPUは車室内にある警告ランプを点灯させ、バックアップRAMに失火が発生した旨を書き込む。続いて、CPUはステップ790に進み、総判定回数カウンタCtotal 及び失火回数カウンタCmis の値を「0」に設定して、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、失火回数カウンタCmis の値が規定の異常回数未満である場合、CPUはステップ770にて「No」と判定してステップ790に直接進み、その後、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(その他の変形例)
本判定装置は、6気筒以外の機関(例えば、4気筒、12気筒等)の内燃機関に適用することも可能である。
更に、本実施形態においては、回転所要時間をクランクシャフトが30°回転するのに要する時間T30として求めているが、回転所要時間をクランクシャフトが「30°以外の角度」だけ回転するのに要する時間として求めてもよい。
更に、回転所要時間は、6気筒の内燃機関の場合、クランクシャフトが「圧縮上死点後X°CAからY°CA(X,Yは、いずれも0〜120°CA未満)」まで回転するのに要する時間であってもよい。また、4気筒の内燃機関の場合、クランクシャフトが「圧縮上死点後X°CAからY°CA(X,Yは、いずれも0〜180°CA未満)」まで回転するのに要する時間であってもよい。即ち、回転所要時間は、任意の気筒の膨張行程におけるクランク角速度に相関を有する値であって同任意の気筒において正常燃焼が行われているときと、失火が発生したときと、の差異が判別できる値であればよい。
所定閾値ΔNEthは、一定値であってもよく、機関回転速度NE及び機関負荷(例えば、吸気圧力Pm、アクセルペダル操作量Accp、吸入空気量Ga等)の少なくとも一つに基づいて変化する値であってもよい。
総判定回数カウンタCtotal の値は「2000」に限ることはなく、「2000以外」の値であってもよい。
総判定回数をカウントしなくてもよい。即ち、図4又は図7に示した失火判定ルーチンにおいて、ステップ420又はステップ720及びステップ450又はステップ760を省略してもよい。
20…機関本体部、23…燃料噴射弁、24…点火装置、27…ピストン、29…クランクシャフト、31…タイミングロータ、35…燃焼室、41…吸気通路部、42…スロットル弁、43…排気通路部、50…電子制御装置、51…クランクポジションセンサ。

Claims (3)

  1. 多気筒内燃機関の各気筒の膨張行程においてクランクシャフトが第1クランク角から第2クランク角までの所定回転角度幅を回転するのに要する時間に基づいてクランク角速度を取得するとともに前記膨張行程が連続する2つの気筒間の前記クランク角速度の差分である角速度変化量を取得する角速度変化量取得部と、
    前記各気筒のうちの任意の気筒の膨張行程において前記角速度変化量取得部により取得される第1の前記角速度変化量と、前記任意の気筒の膨張行程に対して前記クランクシャフトのN回転前(Nは正の整数)に膨張行程を迎えていた気筒について前記角速度変化量取得部にて取得されていた第2の前記角速度変化量と、の差分である回転変動量を取得する回転変動量取得部と、
    前記回転変動量取得部において取得された前記回転変動量が所定閾値を超える場合、
    (1)前記第2の角速度変化量の大きさが前記第1の角速度変化量の大きさよりも大きく、且つ、前記第2の角速度変化量が前記任意の気筒に対する前記回転変動量の値を前記所定閾値を超える方向に向かわせる符号を有するという所定条件、が成立するときには前記内燃機関に失火が発生していないと判定し、
    (2)前記所定条件が成立しないとき、前記内燃機関に失火が発生したと判定する、
    失火判定部と、
    を備えた内燃機関の失火判定装置。
  2. 請求項1に記載の内燃機関の失火判定装置において、
    前記失火判定部は、
    前記所定条件が成立するときには、前記任意の気筒に対する前記回転変動量を前記所定閾値を超えない値に置換して前記失火判定を実行するように構成された、
    内燃機関の失火判定装置。
  3. 請求項1に記載の内燃機関の失火判定装置において、
    前記失火判定部は、
    前記所定条件が成立するときには、前記任意の気筒に対する前記回転変動量を0に置換して前記失火判定を実行するように構成された、
    内燃機関の失火判定装置。
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