JP2016199665A - 摺動部材用樹脂組成物、摺動部材及び摺動部材の製造方法 - Google Patents

摺動部材用樹脂組成物、摺動部材及び摺動部材の製造方法 Download PDF

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昭平 岡部
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Abstract

【課題】摺動中におけるガラスファイバーの脱落を抑制でき、物理的な劣化が抑制される摺動部材を形成できる摺動部材用樹脂組成物、及び摺動中におけるガラスファイバーの脱落を抑制でき、物理的な劣化が抑制される摺動部材を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する摺動部材用樹脂組成物であって、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている。本発明の一実施形態に係る摺動部材は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を架橋することで形成される摺動部材であって、上記ガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有する。上記ポリアミドとしてはポリアミド66又はポリアミド46が好ましい。上記架橋助剤はトリアリルイソシアヌレートを含むことが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、摺動部材用樹脂組成物、摺動部材及び摺動部材の製造方法に関する。
ポリアミドは、機械的特性、耐摩擦摩耗性、耐薬品性等に優れることから、産業機械分野の摺動部材向けに幅広く用いられている。例えばポリアミドを成形することにより得られるギア、カム、ワッシャー、軸受け等は、自動車部品、機械部品、電気電子部品等に広く利用される。
特に、機械的特性や耐摩擦摩耗性が要求される用途に対しては、成形体の成形に用いられる樹脂組成物としてポリアミド及びガラス繊維(ガラスファイバー)を含む樹脂組成物が提案されている(例えば特許4321590号公報参照)。
特許4321590号公報
上記従来の樹脂組成物により得られる成形体は、ポリアミドと共にガラスファイバーを含むので、曲げ強度及び曲げ弾性率が比較的大きく、高い負荷に耐えることができる。しかしながら、上記従来の樹脂組成物により得られる成形体を摺動部材として用いた場合、摺動中に上記成形体からガラスファイバーが脱落し、上記成形体の強度が徐々に低下するという不都合がある。
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、ポリアミドと共に含まれるガラスファイバーの摺動中における脱落を抑制でき、物理的な劣化が抑制される摺動部材を形成できる樹脂組成物、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を抑制し、物理的な劣化を抑制できる摺動部材、及びこのような摺動部材の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する摺動部材用樹脂組成物であって、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている摺動部材用樹脂組成物である。
上記課題を解決するためになされた別の本発明の一態様に係る摺動部材は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を架橋することで形成される摺動部材であって、上記ガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有する摺動部材である。
上記課題を解決するためになされた別の本発明の一態様に係る摺動部材の製造方法は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を射出成形する工程と、上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射する工程とを備え、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている摺動部材の製造方法である。
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミドと共に含まれるガラスファイバーの摺動中における脱落を抑制でき、物理的な劣化が抑制される摺動部材を形成できる。本発明の摺動部材は、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を抑制でき、物理的な劣化が抑制される。本発明の摺動部材の製造方法は、摺動中におけるガラスファイバーの脱落が抑制され、物理的な劣化が抑制される摺動部材を容易に製造できる。
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する摺動部材用樹脂組成物であって、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている。
当該摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミドと共にガラスファイバー及び架橋助剤を含むことで、強度、耐久性等の機械的特性に優れる摺動部材を形成できる。また、当該摺動部材用樹脂組成物は、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されているので、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を効果的に抑制できる摺動部材を形成できる。これは、シランカップリング剤がポリアミドとガラスファイバーとを結合するためと推測される。
上記ポリアミドとしては、ポリアミド66又はポリアミド46が好ましい。このようにポリアミドとしてポリアミド66又はポリアミド46を含有することで、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の弾性率や機械的強度等をより高められる。
上記架橋助剤は、トリアリルイソシアヌレートを含むことが好ましい。このように架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを含むことで、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の架橋密度をより高められるので、強度及び耐久性をより向上できると共に摺動中におけるガラスファイバー脱落抑制効果をより促進できる。
上記シランカップリング剤は、ビニルシラン又はメタクリルシランを含むことが好ましい。このようにビニルシラン又はメタクリルシランを含むシランカップリング剤で表面処理されているガラスファイバーを含有することで、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の摺動中におけるガラスファイバーの脱落抑制効果をより促進できる。
上記ガラスファイバーの含有量としては、ポリアミド100質量部に対し、10質量部以上50質量部以下が好ましい。このように上記ガラスファイバーの含有量を上記範囲とすることで、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の機械的特性をより高められる。
上記架橋助剤の含有量としては、ポリアミド100質量部に対し、3質量部以上10質量部以下が好ましい。このように上記架橋助剤の含有量を上記範囲とすることで、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の架橋密度をより高められるので、強度及び耐久性を向上できると共に摺動中におけるガラスファイバー脱落抑制効果をより促進できる。
本発明の別の態様に係る摺動部材は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を架橋することで形成される摺動部材であって、上記ガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有する。
当該摺動部材は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を架橋することで形成されるので、強度、耐久性等の機械的特性に優れる。さらに、当該摺動部材は、含有するガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有するので、ポリアミドとガラスファイバーとが結合し、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を効果的に抑制できる。
当該摺動部材は、ギア又はワッシャーに好適に用いることができる。
本発明の別の態様に係る摺動部材の製造方法は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を射出成形する工程と、上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射する工程とを備え、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている。
当該摺動部材の製造方法は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を射出成形する工程と上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射する工程とを備えることで、強度、耐久性等の機械的特性に優れる摺動部材を容易に得ることができる。また、摺動部材の製造方法は、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されているので、ポリアミドとガラスファイバーとが結合し、摺動中におけるガラスファイバーの脱落抑制効果に優れる摺動部材を容易に得ることができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る摺動部材用樹脂組成物、摺動部材、及び摺動部材の製造方法について説明する。
<摺動部材用樹脂組成物>
当該摺動部材用樹脂組成物は、摺動部材の形成に用いる樹脂組成物である。
当該摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミド、ガラスファイバー、及び架橋助剤を含有する。当該摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミドを主成分として含有することが好ましい。当該摺動部材用樹脂組成物はポリアミドを主成分として含有することで、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の機械的特性、耐摩擦摩耗特性、耐薬品性等を高めることができる。上記「主成分」とは、最も含有量が多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上、好ましくは60質量%以上の成分を指す。
上記ポリアミドとしては、例えばポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6T、ポリアミド6T/66、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/66、ポリアミド6T−5MT、ポリアミド6T/6、ポリアミドMXD−6、ポリアミド9T、全芳香族ポリアミド等が挙げられる。上記ポリアミドは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
中でも、上記ポリアミドとしては、ポリアミド66又はポリアミド46が好ましい。当該摺動部材用樹脂組成物がポリアミドとしてポリアミド66又はポリアミド46を含有すると、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の弾性率や機械的強度がより高められる。
当該摺動部材用樹脂組成物は、樹脂成分として上記ポリアミドのみを含むことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で上記ポリアミド以外の樹脂を含んでもよい。このような上記ポリアミド以外の樹脂(その他の樹脂)としては、例えばポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、天然又は合成ゴム、シリコーン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリアセタール等が挙げられる。なお、上記その他の樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
当該摺動部材用樹脂組成物が樹脂成分として上記ポリアミド及び上記その他の樹脂を含有する場合、当該摺動部材用樹脂組成物の全樹脂成分中の上記その他の樹脂の割合の上限としては、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。なお、当該摺動部材用樹脂組成物は、樹脂成分として上記ポリアミドのみを含むことが好ましい。
さらに、当該摺動部材用樹脂組成物は、上記ポリアミドと共に、シランカップリング剤で表面処理されているガラスファイバーを含有する。このため、当該摺動部材用樹脂組成物は、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の曲げ強度及び曲げ弾性率を高めることができる。
上記ガラスファイバーは、ガラスを融解して引き伸ばし、繊維状にしたものである。
上記ガラスファイバーの平均繊維径の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、上記平均繊維径の上限としては、30μmが好ましく、25μmがより好ましい。上記平均繊維径が上記下限未満である場合、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の機械的特性を十分に向上できないおそれがある。また、上記平均繊維径が上記上限を超える場合、当該摺動部材用樹脂組成物の成形性を損なうおそれがある。なお、上記平均繊維径は、JIS−R−3420(2013年)に準拠して測定される値である。
上記ガラスファイバーの平均繊維長の下限としては、1mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。一方、上記平均繊維長の上限としては、5mmが好ましく、4mmがより好ましい。上記平均繊維長が上記下限未満である場合、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の機械的特性を十分に向上できないおそれがある。また、上記平均繊維長が上記条件を超える場合、当該摺動部材1用樹脂組成物の成形性を損なうおそれがある。なお、「平均繊維長」とは、JIS−P−8226−2(2011年)に準拠して測定される数平均繊維長を指す。
さらに、上記ガラスファイバーは、シランカップリング剤で表面処理されている。このため、当該摺動部材用樹脂組成物は、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を効果的に抑制できる摺動部材を形成できる。これは、シランカップリング剤がポリアミドとガラスファイバーとを結合するためと推測される。
上記シランカップリング剤としては、一つの分子中に有機官能基とアルコキシ基とを有するシラン化合物が好ましく挙げられる。このようなシラン化合物としては、例えばアミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アリルシラン、メタクリルシラン、アクリルシラン、メルカプトシラン、スチリルシラン、イソシアヌレートシラン、ウレイドシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシラン等が挙げられる。なお、シランカップリング剤は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記アミノシランとしては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリルプロピル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)アミン、1,2−エタンジアミン,N−{3−(トリメトキシシリル)プロピル}−,N−{(エテニルフェニル)メチル}誘導体の塩酸塩、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。
上記エポキシシランとしては、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
上記ビニルシランとしては、例えばビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
上記アリルシランとしては、例えばアリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
上記メタクリルシランとしては、例えば3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
上記アクリルシランとしては、例えば3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
上記メルカプトシランとしては、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
上記スチリルシランとしては、例えばスチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
上記イソシアヌレートシランとしては、例えばトリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
上記ウレイドシランとしては、例えば3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等が挙げられる。
上記スルフィドシランとしては、例えばビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等が挙げられる。
上記イソシアネートシランとしては、例えば3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
中でも、上記シランカップリング剤としては、上記ビニルシラン又は上記メタクリルシランが好ましい。当該摺動部材用樹脂組成物がビニルシラン又はメタクリルシランを含むシランカップリング剤で表面処理されているガラスファイバーを含有すると、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の摺動中におけるガラスファイバーの脱落をより効果的に抑制できる。
ガラスファイバーへのシランカップリング剤の表面処理は、公知又は慣用の方法で行うことができる。例えばガラスファイバーを攪拌しながらシランカップリング剤の溶液を添加する方法やシランカップリング剤の溶液にガラスファイバーを浸漬する方法により表面処理を行うことができる。
当該摺動部材用樹脂組成物中の上記ガラスファイバーの含有量の下限としては、上記ポリアミド100質量部に対し、10質量部が好ましく、20質量部がより好ましく、30質量部がさらに好ましい。一方、上記含有量の上限としては、上記ポリアミド100質量部に対し、50質量部が好ましく、47質量部がより好ましく、45質量部がさらに好ましい。上記含有量が上記下限未満である場合、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の機械的特性を十分に向上できないおそれがある。また、上記含有量が上記上限を超える場合、当該摺動部材用樹脂組成物の成形性が低下するおそれがあり、さらに当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材においてガラスファイバーの脱落が生じ易くなるおそれがある。
さらに、当該摺動部材用樹脂組成物は、架橋助剤を含有する。このため、当該摺動部材用樹脂組成物は、強度に優れると共に、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を効果的に抑制できる摺動部材を形成できる。
上記架橋助剤としては、例えばオキシム化合物、アクリレート又はメタクリレート化合物、ビニル化合物、アリル化合物、マレイミド化合物等が挙げられる。なお、架橋助剤は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記オキシム化合物としては、例えばp−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等が挙げられる。
上記アクリレート又はメタクリレート化合物としては、例えばジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリメタクリルイソシアヌレート等が挙げられる。
上記ビニル化合物としては、例えばジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等が挙げられる。
上記アリル化合物としては、例えばヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
上記マレイミド化合物としては、例えばN,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等が挙げられる。
中でも、上記架橋助剤としては、形成する摺動部材の架橋密度をより大きくできることから、アリル化合物が好ましく、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
当該摺動部材用樹脂組成物中の上記架橋助剤の含有量の下限としては、上記ポリアミド100質量部に対し、3質量部が好ましく、3.5質量部がより好ましく、4質量部がさらに好ましい。一方、上記含有量の上限としては、上記ポリアミド100質量部に対し、10質量部が好ましく、9.5質量部がより好ましく、9質量部がさらに好ましい。上記含有量が上記下限未満である場合、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の架橋密度を十分に大きくすることができず、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の強度の低下を招くおそれや摺動中におけるガラスファイバーの脱落抑制効果が不十分となるおそれがある。一方、上記含有量が上記上限を超える場合、当該摺動部材用樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。
当該摺動部材用樹脂組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。上記添加剤としては、例えば重合禁止剤、充填剤(但し、上記ガラスファイバーは除く。)、可塑剤、顔料、安定剤、滑材、軟化剤、増感剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、耐候剤、帯電防止剤、摺動剤等が挙げられる。なお、添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
当該摺動部材用樹脂組成物は、各構成成分を混合することにより得ることができる。当該摺動部材用樹脂組成物は、例えば上記ポリアミド、上記ガラスファイバー及び上記架橋助剤を混合することにより得ることができる。上記混合の際には、単軸混合機、2軸混合機等の混合機を用いることができる。また、混合の際には加熱してもよい。
当該摺動部材用樹脂組成物は、上記ポリアミド中に上記架橋助剤が分散する海島構造を有することが好ましい。当該摺動部材用樹脂組成物において上記架橋助剤が上記ポリアミド中に液滴の微粒子(海相)として分散して存在すると、当該摺動部材用樹脂組成物の粘度が下がり、当該摺動部材用樹脂組成物の流動性を向上させることができる。また、当該摺動部材用樹脂組成物において上記架橋助剤が上記ポリアミド中に液滴の微粒子として分散して存在すると、架橋助剤の架橋効率が上がり、当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の架橋密度をより大きくし易くなる。このことは、成形性の向上、摺動部材の強度、耐久性の向上、及び摺動中におけるガラスファイバーの脱落のさらなる抑制につながる。
特に、当該摺動部材用樹脂組成物が上記ポリアミド中に上記架橋助剤が分散する海島構造を有する場合、上記架橋助剤は径が350nm以下の液滴の微粒子として分散することが好ましい。当該摺動部材用樹脂組成物において上記架橋助剤が径が350nm以下の液滴の微粒子として分散して存在すると、当該摺動部材用樹脂組成物の流動性をより高められ、さらに当該摺動部材用樹脂組成物から形成される摺動部材の架橋密度及び動的粘弾性をより高められる。
なお、液滴状の上記架橋助剤の径は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用いて例えば以下のように測定できる。まず、当該摺動部材用樹脂組成物を切断し、観察切断面を設ける。観察切断面を設けると、架橋助剤は未架橋状態であるので、この観察切断面から架橋助剤があふれ出る。この結果、観察切断面では架橋助剤が存在した部分が空孔となる。この空孔の大きさをSTEMやAFMを用いて測定することにより上記架橋助剤の径を求めることができる。
<摺動部材>
当該摺動部材は、上記ポリアミド、上記ガラスファイバー及び上記架橋助剤を含有する上記摺動部材用樹脂組成物を架橋することで形成され、上記ガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有する。なお上記「表面近傍」とは、ミクロ構造や分子構造、元素の存在割合等が上記ポリアミドとは異なると考えられる領域である。
当該摺動部材は、上記ガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有するので、摺動中におけるガラスファイバーの脱落がより効果的に抑制される。これは、上記ポリアミドと上記ガラスファイバーとの間にシランカップリング剤の作用により結合が形成されるためと推測される。
ガラスファイバーの表面近傍に存在するシランカップリング剤に由来する構造としては、例えばシロキサン結合(Si−O−Si)、ガラスファイバーと化学結合する反応基に由来する構造、ポリアミドと化学結合する反応基に由来する構造等が挙げられる。
当該摺動部材は、架橋構造を有する。この架橋構造は、電子線等の電離放射線を照射することにより得られることが好ましい。
当該摺動部材の260℃における動的粘弾性率の下限としては、10MPaが好ましく、12MPaがより好ましく、15MPaがさらに好ましい。上記動的粘弾性率が上記下限未満である場合、摺動部材が十分な架橋密度を得ることができず、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を十分に抑制できないおそれがある。なお、上記動的粘弾性率は、JIS−K−7244−1(1998年)に準拠して測定される値である。
当該摺動部材の形態としては、例えばギア、ワッシャー、カム、ウォーム、ランナ、軸受け等が挙げられる。特に当該摺動部材は、ギア又はワッシャーに好ましく用いられる。
<摺動部材の製造方法>
当該摺動部材の製造方法は、上記ポリアミド、シランカップリング剤で表面処理されている上記ガラスファイバー及び上記架橋助剤を含有する上記摺動部材用樹脂組成物を射出成形する工程と、上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射する工程とを備える。
[射出成形工程]
射出成形工程では、上記摺動部材用樹脂組成物を射出成形し、所望の形状を有する成形体を得る。
射出成形工程の上記摺動部材用樹脂組成物の温度の下限としては、150℃が好ましく、200℃がより好ましい。一方上記温度の上限としては、320℃が好ましく、300℃がより好ましい。上記温度が上記下限未満である場合、上記摺動部材用樹脂組成物の流動性が不十分となり、十分な射出成形速度が得られないおそれがある。また、上記温度が上記上限を超える場合、ポリアミドの熱分解を生じるおそれがある。
射出成形工程の射出圧の下限としては、70kg/cmが好ましく、80kg/cmがより好ましい。一方、上記射出圧の上限としては、130kg/cmが好ましく、120kg/cmがより好ましい。上記射出圧が上記下限未満である場合、充填不良が生じて所望の形状やサイズを有する成形体を得ることができないおそれがある。また、上記射出圧が上記上限を超える場合、成形体の周囲にバリを生じるおそれや生産性の低下を招くおそれがある。
射出成形工程における金型温度の下限としては、40℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、上記金型温度の上限としては、120℃が好ましく、100℃がより好ましい。上記金型温度が上記下限未満である場合、急激な冷却により結晶化が生じ、成形体の表面平滑性や寸法精度に悪影響を与えるおそれがある。一方、上記金型温度が上記上限を超える場合、成形体の周囲にバリを生じるおそれや寸法精度に悪影響を与えるおそれがある。
[照射架橋工程]
照射架橋工程では、上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射し、成形体を架橋する。
上記電離放射線としては、例えばα線、β線、γ線、電子線、X線等が挙げられる。中でも、上記電離放射線としては、制御の容易さ、安全性等の点より電子線が好ましい。
上記電離放射線の照射量は、特に限定されないが、十分な架橋密度を得つつ照射による樹脂の劣化を抑制する点より1kGy以上1000kGy以下が好ましい。
例えば上記電離放射線として電子線を照射する場合、その照射量の下限としては、5kGyが好ましく、10kGyがより好ましい。一方、上記照射量の上限としては、960kGyが好ましく、480kGyがより好ましい。電子線の照射量が上記下限未満である場合、電子線照射後の成形体において十分な架橋密度が得られないおそれがある。また、上記照射量が上記上限を超える場合、電子線の照射による成形体の分解や劣化を生じるおそれがある。
上記電離放射線の照射は、常温で行うことができる。また、上記電離放射線の照射は、低酸素又は無酸素の雰囲気下において行うことが好ましい。
[利点]
当該摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミドと共にガラスファイバー及び架橋助剤を含むので、強度、耐久性等の機械的特性に優れる摺動部材を形成できる。また当該摺動部材用樹脂組成物は、上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されているので、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を効果的に抑制でき、物理的な劣化が抑制される摺動部材を形成できる。
当該摺動部材は、ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を架橋することで形成されるので、強度、耐久性等の機械的特性に優れる。さらに、当該摺動部材は、含有するガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有するので、ポリアミドとガラスファイバーとが結合し、摺動中におけるガラスファイバーの脱落が効果的に抑制され、物理的な劣化が抑制される。
当該摺動部材の製造方法は、ポリアミド、シランカップリング剤で表面処理されているガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を射出成形する工程と上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射する工程とを備えることで、当該摺動部材を容易に得ることができる。
[その他の実施形態]
上記開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
当該摺動部材を製造するに際しては、例えば押出成形法、プレス成形法、ブロー成形法、真空成型法等の上記射出成形法以外の成形法を用いて上記摺動部材用樹脂組成物を所望の形状に成形してもよい。
また当該摺動部材を製造するに際しては、化学架橋法により上記摺動部材用樹脂組成物を架橋してもよい。
さらに当該摺動部材は、シャフト等の金属部品が組み込まれてもよい。
当該摺動部材の製造方法は、樹脂組成物を射出成形する工程及び成形体に電離放射線を照射する工程以外の工程を備えてもよい。例えば射出成形工程の後に成形体を乾燥する乾燥工程を設けてもよいし、電離放射線を照射する工程の後に熱処理工程を設けてもよい。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
試験例で用いた各成分の詳細は以下の通りである。
ポリアミド66:旭化成せんい社の「レオナ 1402S」
ポリアミド46:DSM社の「Stanyl TW341」
ガラスファイバー:日本電気硝子社の「ECS03−289/PL」(平均繊維長:3mm、平均繊維径:13μm)
ビニルシラン(シランカップリング剤):東レ・ダウコーニング社の「Z−6300」(ビニルトリメトキシシラン)
メタクリルシラン(シランカップリング剤):東レ・ダウコーニング社の「Z−6030」(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
TAICROS(架橋助剤):エボニックデグサ社の「TAICROS」(トリアリルイソシアヌレート)
また上記ガラスファイバー「ECS03−289/PL」を上記シランカップリング剤「Z−6300」で表面処理することにより、ビニルシランで表面処理したガラスファイバーを得た。なお、このガラスファイバーは、下記表1の「ガラスファイバー」の「ビニルシラン表面処理」に相当する。
さらに上記ガラスファイバー「ECS03−289/PL」を上記シランカップリング剤「Z−6030」で表面処理することにより、メタクリルシランで表面処理したガラスファイバーを得た。なお、このガラスファイバーは、下記表1の「ガラスファイバー」の「メタクリルシラン表面処理」に相当する。
[試験例1]
まず、70質量部のポリアミド、30質量部のビニルシランで表面処理したガラスファイバー、及び5質量部の架橋助剤を混合し、樹脂組成物を得た。次に、この樹脂組成物を2軸混合機に投入し、240℃で溶融混合した。溶融混合後、2軸混合機から樹脂組成物を吐出し、その吐出物を水冷し細断して、ペレット状の樹脂組成物を得た。次に、ペレット状の樹脂組成物を射出成形機に投入し、射出成形機による射出成形を行い、ギア状成形体(歯幅5mm、歯数30の平歯車形状)を得た。なお、射出成形の条件は、射出温度240℃、金型温度80℃、射出圧100kg/cm、保圧時間10秒とした。
次に、上記ギア状成形体に照射量が120kGyとなるよう電子線を照射して、試験例1のギアを得た。
[試験例2〜10]
樹脂組成物の組成を下記表1に示す組成としたこと以外は上記試験例1と同様にして、ギア状成形体(歯幅5mm、歯数30の平歯車形状)を得た。なお、表1のガラスファイバーの「表面処理なし」は上記ガラスファイバー「ECS03−289/PL」を表面処理せずに用いたことを意味する。
次に、試験例2及び5については、上記試験例1と同様の電子線照射を行い、試験例のギアを得た。また、試験例3、4及び8については、照射量を240kGyとしたこと以外は上記試験例1と同様の電子線照射を行い、試験例のギアを得た。さらに、試験例6、7、9及び10については、電子線照射を行わず、上記ギア状成形体を試験例のギアとした。
[評価]
得られた試験例1〜10のギアについて、下記項目の評価を行った。
(質量減少率)
上記試験例1〜10のギアを各試験例の歯車Aとした。さらに歯数31の平歯車形状としたこと以外は上記試験例1〜10と同様のギアをそれぞれ作製し、これらのギアを相手材としての各試験例の歯車Bとした。次に、下記式(1)に基づき質量減少率を求めた。その結果を表1に示す。
質量減少率[%]=(X−Y)/X×100 ・・・(1)
X:歯車Aの初期質量[g]
Y:歯車Aと歯車Bとをかみ合わせ、歯面荷重4.5N/mm、回転数616rpmの条件で100時間歯車同士を回転させる疲労試験を行った後の歯車Aの質量[g]
Figure 2016199665
表1に示されるように、試験例1〜4のギアは重量減少率が小さい。つまり、試験例1〜4のギアは、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を抑制でき、摺動に伴う物理的な劣化が生じくいと評価できる。
一方、試験例5〜10のギアにおける重量減少率は、試験例1〜4のギアと比べて大きい。つまり、試験例5〜10のギアは、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を生じ、試験例1〜4のギアと比べ摺動に伴う物理的な劣化が生じ易いと評価できる。この理由は、試験例5及び8に関しては、ガラスファイバーにシランカップリング剤による表面処理がなされていないことから、ギアにおけるガラスファイバーとポリアミドとの間の結合が試験例1〜4のギアと比べて弱いためと推測される。また、試験例6、7、9及び10に関しては、ギアの作製時に架橋助剤を用いず、かつ射出成形後に電子線の照射を行っていないことから、ギアにおける架橋密度が試験例1〜4のギアと比べて小さいためと推測される。
本発明の一形態に係る摺動部材用樹脂組成物は、ポリアミドと共にガラスファイバーを含んでも、摺動中におけるガラスファイバーの脱落を抑制でき、物理的な劣化が抑制される摺動部材を形成できる。この摺動部材は、自動車部品、機械部品、電気電子部品等に幅広く利用できる。

Claims (9)

  1. ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する摺動部材用樹脂組成物であって、
    上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている摺動部材用樹脂組成物。
  2. 上記ポリアミドがポリアミド66又はポリアミド46である請求項1に記載の摺動部材用樹脂組成物。
  3. 上記架橋助剤がトリアリルイソシアヌレートを含む請求項1又は請求項2に記載の摺動部材用樹脂組成物。
  4. 上記シランカップリング剤がビニルシラン又はメタクリルシランを含む請求項1、請求項2又は請求項3に記載の摺動部材用樹脂組成物。
  5. 上記ガラスファイバーの含有量が、ポリアミド100質量部に対し、10質量部以上50質量部以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
  6. 上記架橋助剤の含有量が、ポリアミド100質量部に対し、3質量部以上10質量部以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
  7. ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を架橋することで形成される摺動部材であって、
    上記ガラスファイバーの表面近傍にシランカップリング剤に由来する構造を有する摺動部材。
  8. ギア又はワッシャーである請求項7に記載の摺動部材。
  9. ポリアミド、ガラスファイバー及び架橋助剤を含有する樹脂組成物を射出成形する工程と、
    上記射出成形工程で得られた成形体に電離放射線を照射する工程と
    を備え、
    上記ガラスファイバーがシランカップリング剤で表面処理されている摺動部材の製造方法。
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