従来、練習用打楽器または電子打楽器に適用可能な打面装置として、アコースティック打楽器に近い打撃感が得られるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
図6(a)は、この打面装置のヘッド100の中心付近の構成を示す断面図であり、同図(a)に示されるように、ヘッド100の中心付近には、その裏側から緩衝材101が接触している。
ヘッド100は、打撃面が網状素材により構成される。緩衝材101は、3層の積層構造となっており、耐磨耗性材料からなる耐磨耗層101aと、低弾性素材からなる低弾性層101bと、高弾性素材からなる高弾性層101cとからなる。
低弾性層101bは、打撃時の衝撃を吸収できるように低弾性材料からなるもので、ビータによる打撃の跳ね返りと振動膜の過度な振動を抑え、打撃の感触を良くするものであり、ポリウレタン・スポンジなどからなる。高弾性層101cは低弾性層101bが長期にわたる打撃によって圧縮変形しても緩衝材101の先端部がヘッド100に接触した状態を保つために介装された層である。耐磨耗層101aは、低弾性層101bがヘッド101を介してビータで直接に打撃されると短期間に磨耗してしまうので、これを防ぐための層であり、耐磨耗性があり、且つある程度空気を通すことでビータで打撃されても音が出にくい材質のものが適しており、例えば不織布などが利用される。
しかしこの従来の打面装置では、打撃面が網状素材、具体的には網状の布によって構成されるので、耐久性に劣る。これに対処するために、打撃面を含むヘッドをゴムによって構成したものもある。
図6(b)は、ヘッドをゴムによって構成した従来の打面装置の一例を示す断面図である。この打面装置でも、ヘッド110の中心付近には、その裏側から3層の積層構造の緩衝材111が接触している。
緩衝材111は、耐磨耗性材料からなる耐磨耗層111aと、低弾性素材からなる低弾性層111bと、高弾性素材からなる高弾性層111cとからなる。3層111a〜111cはいずれも、ポリウレタン・スポンジからなる。
この打面装置では、ヘッド110の振動を検出する打撃センサ113は、低弾性層111bと高弾性層111cとの間に狭着されたセンサボード112上に設けられている。
しかしこの従来の打面装置では、ヘッド110の裏面は、薄い耐磨耗層111aを介して、低密度ポリウレタン・スポンジからなる低弾性層111bと接触するため、ヘッド110へのビータの打撃によってその打撃部分が極端に凹み、これに応じて低弾性層111bも凹む結果、長年使用すると、低弾性層111bの当該打撃部分周辺が圧縮変形し、打感が悪化する。これに対処するために、ヘッドと緩衝材との間にプラスチック板を狭着したものもある。
図6(c)は、このように構成した従来の打面装置の一例を示す断面図であり、ヘッド120と緩衝材121との間にプラスチック板122が狭着されている。
緩衝材121は、2層の積層構造となっており、ポリウレタン・スポンジからなる層121aと、不織布からなる層121bとからなる。
なお、この図6(c)の打面装置も前記図6(a)の打面装置も、図示されていないが、打撃センサは緩衝材101,121と離れた位置に設けられている。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の一実施の形態に係る打面装置を適用したパッド体PDを適用した電子打楽器の正面図及び側面図である。
この電子打楽器は電子バスドラムとして構成され、キックパッドとしてのドラム本体が、スタンド10で支持されてなる。本電子打楽器の奏者側には、図示はしないが、フットペダル装置が取り付けられる。以下、本電子打楽器の上下左右の各方向は、奏者側からの視点(図1(a)の正面視)を基準として呼称する。前後方向については奏者側を前側とする。
取り付けられるフットペダル装置は一般的なものであり、ペダル操作によってそのビータ60(後述する図4(a)参照)がドラム本体のパッド体PDを打撃する。フットペダル装置はビータが単一の構成でもよいが、本実施の形態で用いられるフットペダル装置は、ツインペダル型で2つのビータが独立して操作される構成であるとする。したがって、円形のパッド体PDの主として打撃される主打撃領域38内における正面視の中心点の左側及び右側を各ビータがそれぞれ打撃するようにフットペダル装置が設置される。
図2は、図1(a)のA−A線に沿う断面図である。
図2に示すように、スタンド10に対して金属製のステイ20が固定される。ステイ20の前側に、クッション保持部材19のフランジを介在させてパッド体PDが固定されている。
そして、ステイ20の上部及び下部の背面側に背面カバー11が固定される。背面カバー11に対して、略筒状の前カバー25が固定される。前カバー25は、円周方向の6箇所においてフック部材12により背面カバー11に固定される。前カバー25によりパッド体PDが外周側から覆われている。
パッド体PDは、弾性を有する部材、具体的にはゴムで一体に形成されるヘッド部30、及び樹脂等でなるフレーム40からなる。ヘッド部30は、フレーム40よりも柔らかく弾性を有した材料でなる。
本電子打楽器は次のように組み立てられる。
図2において、スタンド10の上部にステイ20をネジ止め固定する。クッション保持部材19には、前後方向に積層されるクッション層18を固着する。そして、パッド体PDのフレーム40の背面に、ステイ20と共にクッション保持部材19のフランジをネジ止め固定する。
パッド体PDは次のようにして組み付けられる。
まず、ヘッド部30の背面側をフレーム40の表側に対向させる。上下の折返し部32でフレーム40の周縁部44,45を外側から包み込むように、折返し部32を片方ずつ周縁部44,45に係合させる。
このようにしてヘッド部30がフレーム40に取り付けられると、パッド体PDが完成する。ヘッド部30の表側の面全体を覆うように、ニット材等の伸縮性の保護材31(後述する図3(a)参照)が貼られる。
ステイ20及びクッション保持部材19にパッド体PDが固定されると、クッション層18の前面がヘッド部30の背面(特に主打撃領域38の背面)に所定の圧力を持って対向当接する。
次に、ステイ20の上部及び下部の背面側に背面カバー11をネジ止め固定する。そして、背面カバー11の縁部の内側に、前方から前カバー25の縁部を嵌合し、背面カバー11及び前カバー25を6つのフック部材12で前後から挟い込む。その後、背面カバー11に対して後方から各フック部材12の後部にネジを螺合する。ネジ先端が背面カバー11を前方に押圧することで、フック部材12の前部は前カバー25を後方に付勢する。このようにして背面カバー11に対して前カバー25が固定される。
前カバー25は、パッド体PDは外周から覆うが、パッド体PD自体には当接しない。すなわち、パッド体PDは、ステイ20を介してスタンド10に支持され、前カバー25はパッド体PDの支持に関与していない。なお、背面カバー11と前カバー25との固定方法は問わず、フック部材12も必須でない。また背面カバー11と前カバー25とは一体のカバーであってもよい。
本実施の形態では、ツインビータ構成のフットペダル装置を用いるとしたので、図1(a)に示すように、主打撃領域38は横長の長円である。
かかる構成において、ヘッド部30の主打撃領域38がビータ60によって打撃されるとヘッド部30が振動し、その振動が、クッション層18の第1層18a及び第2層18bを介して打撃センサ17に伝わる。打撃センサ17は、受けた振動を電気信号(電圧)に変換して、検出信号として出力する。そして、検出信号が所定の閾値を超えると、打撃があったことが検出される。その検出結果、すなわち、検出されたタイミングに基づくタイミングで、且つ検出信号のレベルに応じた音量にて、不図示の楽音発生機構によって楽音が発生する。
図3(a)は、クッション層18とその近傍の構成を示す図である。
この図に示すように、クッション層18は、3層の積層構造となっている。第1層18aは、繊維系不織布からなり、第2層18bは、ポリウレタン・スポンジからなり、第3層18cは、第2層18bのポリウレタン・スポンジより密度の高いポリウレタン・スポンジからなる。
第1層18aの繊維系不織布は、独立の繊維が不規則に絡み合った綿状のものである。そして、その材質はエステル系であり、その密度は10〜50kg/m3であり、その厚さは5.0mm以上であるものが採用されている。
図3(b)は、同密度の繊維系不織布とポリウレタン・スポンジに対して、図5に示すようにして力を加えたときの力の強さに対する変位量の特性を示す図である。
図3(b)中、グラフg1が繊維系不織布についての特性を示し、グラフg2がポリウレタン・スポンジについての特性を示している。同図(b)に示すように、力の強さに対する変位量は、繊維系不織布もポリウレタン・スポンジも同様に直線的に変化するが、同じ強さの力に対する変位量(沈み込み量)は、繊維系不織布の方がポリウレタン・スポンジより大きくなっている。この特性は、繊維系不織布に加えた力に対する反力がポリウレタン・スポンジに対するそれより小さいことを示している。
図5は、繊維系不織布((a))とポリウレタン・スポンジ((b))にそれぞれ同じ強さの力を加えた場合に各素材が変形する様子を示す図である。
ポリウレタン・スポンジは、同図(b)に示すように、力を加えた部分のみが変形するため、その部分のみで力を吸収する。これに対して、繊維系不織布は、同図(a)に示すように、力を加えた部分を中心にして拡がりを持って変形するため、力を加えた部分以外に力が逃げて行く。その結果、同じ強さの力を加えたとしても、反力が異なり、繊維系不織布による反力の方がポリウレタン・スポンジによる反力より弱くなる。
図3(a)に戻り、第2層18bと第3層18cとの間には、例えば樹脂からなるセンサボード16が狭着され、センサボード16上には、打撃センサ17が配設されている。
クッション層18は、前述のように、ヘッド部30の背面に所定の圧力を持って対向当接される。また、ヘッド部30の表面(ゴム面)には、前述のように、伸縮性の保護材31が接着されている。
図4は、ビータ60によってヘッド部30が打撃されたときにヘッド部30及びその近傍が変形する様子((a))と、打撃の強さに対する打撃部分の沈み込み量の特性((b))を示す図である。
ビータ60によってヘッド部30が打撃されると、図4(a)に示すように、ヘッド部30の打撃部分が沈み込み、クッション層18にも影響を与える。図示例は、沈み込みが第1層18a内で収まっている様子を示している。
クッション層18全体の沈み込み量は、図4(b)の一点鎖線のグラフg14に示すように、力の強さに従って直線的に変化する。より正確に言えば、この直線的な特性が得られるように、クッション層18の構成を次のように工夫している。すなわち、第1層18aの密度<第2層18bの密度<第3層18cの密度とする。加えて、弱打の場合には第1層18aが優先的あるいは主体的に変形し、中打の場合には第2層18bが優先的あるいは主体的に変形し、強打の場合には第3層18cのみが変形するように、各層18a〜18cの密度や厚さ等を設計することで、直線的な特性が得られるようにしている。
図4(b)には、打撃の強さに対する第1層18a〜第3層18cの個々の沈み込み量の特性が、実線のグラフg11〜g13で示されている。そして同図(b)中、力の強さ(打撃の強さ)が0〜f1の範囲が弱打の場合に相当し、力の強さがf1〜f2の範囲が中打の場合に相当し、力の強さがf2〜f3の範囲が強打の場合に相当する。
力の強さが0〜f1の範囲では、グラフg11に示すように、第1層18aが優先的あるいは主体的に、かつ直線的に沈み込み、第2層18bおよび第3層18cは多少沈み込むものの、その量は極少である。そして、力の強さがf1〜f2の範囲では、第1層18aは最大限に縮んだ状態に達しているので、第1層18aはそれ以上沈み込まず、これに替わって第2層18bが優先的あるいは主体的に、かつ直線的に沈み込み、第3層18cは多少沈み込むものの、その量は極少である。さらに、力の強さがf2〜f3の範囲では、第1層18aに加えて第2層18bも最大限に縮んだ状態に達しているので、第2層18bもそれ以上沈み込まず、これに替わって第3層18bのみが直線的に沈み込む。なお、f3より強い打撃も想定されるが、この力の強さでは、第1層18a〜第3層18cのすべてが最大限に縮んだ状態に達しているので、それ以上の沈み込みは起き得ない。
グラフg14は、グラフg11〜g13の特性を合算した特性を示し、直線的な特性を示している。つまり、第1層18a〜第3層18cがそれぞれグラフg11〜g13の特性を示すように各層18a〜18c密度や厚さ等を設計すれば、クッション層18全体の沈み込み量は、力の強さに従って直線的に変化するようになる。
なお、図4(b)において、グラフg11〜g14はそれぞれ直線的に変化し、グラフg11〜g13は力の強さがf1〜f3のそれぞれのポイントで急峻に特性が変わるものとして説明しているが、本発明に置いては、上述の各層18a〜18c密度や厚さ等を設計によって、グラフg11〜g14はそれぞれ、極めて緩やかなカーブの特性で変化し、グラフg11〜g13は力の強さがf1〜f3の前後の範囲を持って緩やかに変形特性が変わるようなものも含まれる。
このように本実施の形態では、ゴム製のヘッド部30を採用し、ヘッド部30の背面に対向当接するクッション層18として、当該背面に当接される、繊維系不織布からなる第1層18aと、この第1層18aに隣接する、ポリウレタン・スポンジからなる第2層18bを含むものを設けるようにした。その結果、ゴム製のヘッド部30を採用したことによる打面の耐久性の良さを保持することができる。且つ、第1層18aに繊維系不織布を採用したことにより、打撃力に対する反力が低下したことで、打撃が弱打である場合に軽い打感が得られ、アコースティック打楽器の打感をさらに模擬することが可能となる。
また、第1層18aに採用した繊維系不織布は、打撃に応じて打撃部分が凹んだとしても、凹んだ部分を中心にして拡がりを持って変形するため、長年使用しても打撃部分のみが凹んだ状態にならない。したがって、打撃部分が凹んだまま戻らないことによる打感の悪化を防止することができる。