図1は、実施例1のレーザーレーダの構成を示した図である。図1のように、実施例1のレーザレーダは、半導体レーザー1と、フォトダイオード2と、レンズ3、4と、ミラー5と、第1光学フィルタ6と、第2光学フィルタ7と、これらを内部に納める筐体8と、を有している。また、筐体8は、その内部と外部との間で光を入出力させるための窓部8aを有している。
この実施例1のレーザーレーダは、半導体レーザー1から出射される波長λのレーザー光(出射光)を対象物に照射し、対象物からの反射光をフォトダイオード2によって受光することで、対象物までの距離などを測定する装置である。したがって、波長λ以外の帯域の光(たとえば太陽光などの外乱光)はSN比を悪化させ、測定誤差などの要因となる。また、フォトダイオード2に対して入射角度の大きい光もまた、太陽光や筐体8内部での反射光などの外乱光であり、SN比を悪化させる。実施例1のレーザーレーダでは、第1光学フィルタ6と第2光学フィルタ7によってそれら外乱光を遮断してフォトダイオード2に入射しないようにすることでSN比を改善している。
以下、実施例1のレーザーレーダの各構成について説明する。
半導体レーザー1は、図示しない駆動回路によってレーザー光を出射する。そのレーザー光は、ピーク波長λが905nm、半値幅10nmである。半導体レーザー1からの出射光は、レンズ3によって平行光とされた後、ミラー5によって反射され、筐体8の窓部8aへと導かれる。そして、窓部8aを介して筐体8外部へと出射される。
なお、半導体レーザー1の波長は上記以外の波長でもよい。アイセーフの観点からは赤外領域が望ましく、特に800〜1500nmの波長が望ましい。より望ましくは800〜1200nm、さらに望ましくは850〜1100nmである。また、半導体レーザー1以外のレーザー(たとえばファイバーレーザー)を用いてもよいし、スーパールミネッセントダイオードを用いてもよい。
フォトダイオード2は、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード、CCDセンサ、CMOSセンサなどである。また、フォトダイオード2以外にも、フォトトランジスタ、光電子増倍管など、各種受光素子を用いることができる。フォトダイオード2は、対象物によって反射された半導体レーザー1からのレーザー光(反射光)を受光し、電気信号に変換している。その電気信号を図示しない解析手段によって解析することにより、対象物までの距離などを算出する。
また、フォトダイオード2は、半導体レーザー1と同軸方向に配置されていて、レーザ光の出射方向に対して半導体レーザー1よりも後段にフォトダイオード2が配置されている。出射光の径は反射光の径よりも小さいため、このような配置でも、半導体レーザー1によって反射光がすべて遮蔽されてしまうことはなく、反射光の一部をフォトダイオード2は受光することができる。このように半導体レーザー1とフォトダイオード2を同軸上に配置することで、出射光と反射光の光軸を一致させるとともに、設置体積を減少させてレーザーレーダの小型化を図っている。また、フォトダイオード2の受光面(反射光を受光する側の面)2aには、第1光学フィルタ6が配置されている。
なお、半導体レーザー1とフォトダイオード2は必ずしも同軸上に配置する必要はなく、従来知られている種々の配置を採用することができる。たとえば、ハーフミラーなどの出射光と反射光の光軸を一致させる手段を設ければ、半導体レーザー1とフォトダイオード2とを異なる軸上に配置することができ、半導体レーザー1とフォトダイオード2の設置場所の自由度が増す。
レンズ3は、半導体レーザー1のレーザー光出射側に設けられている。レンズ3は、半導体レーザー1からの出射光を平行光に変換するものである。また、レンズ4は、フォトダイオード2と半導体レーザー1との間に設けられている。レンズ4は、対象物からの反射光を集光してフォトダイオード2に受光させるために設けたものである。レンズ3、4には、球面レンズ、フレネルレンズ、回折レンズ、屈折率分布レンズなどを用いることができる。フレネルレンズ、回折レンズを用いると、レンズの厚みを小さくすることができるので、レンズ4の焦点距離を短くすることができ、レンズ4とフォトダイオード2との距離をより近く配置することができるのでレーザーレーダの小型化を図ることができる。
ミラー5は、レンズ3からの出射光を窓部8a側に反射し、窓部8aからの反射光をフォトダイオード2側へ反射させるように配置されている。ミラー5を図示しない駆動装置によって回転させることで、出射光の方向を走査可能である。なお、走査した場合であっても出射光が窓部8a、第2光学フィルタ7に対して垂直に入射するように、窓部8aおよび第2光学フィルタ7を円筒状に構成するとよい。
第1光学フィルタ6は、平板状であり、フォトダイオード2の受光面2aに配置されている。また、第1光学フィルタ6の主面垂直方向(受光面2aに垂直な方向)は、ミラー5からの反射光の軸方向と一致させている。また、フォトダイオード2からレンズ4までの距離が、レンズ4の焦点距離近傍となるようにしている。
第1光学フィルタ6は、レンズ4によって集光された反射光のうち、波長λの光を透過させ、他の波長は透過を抑制するバンドパスフィルタとして機能する多層膜フィルタである。つまり、所定厚さの高屈折率層と低屈折率層を交互に繰り返し積層させた構成により、光の干渉を利用してバンドパスフィルタとして機能するようにしている。また、入射角度を0°としたときに波長λの光の透過率が最大(つまり0°のときに透過ピークの位置が波長λ)となるように、高屈折率層と低屈折率層の厚さを設計している。入射角度0°における第1光学フィルタ6の透過スペクトルを見ると、波長λにピークを有した山型の形状となっている。その透過ピークは、入射角度を0°から45°まで変化させると、40nm以下の遷移幅となっている。第1光学フィルタ6の詳細な構成については後述する。
レンズ4によって集光された光は、フォトダイオード2の受光面2aに対して45°以下の角度で入射するものが大部分である。受光面2aに配置された第1光学フィルタ6は、前段に記載のように透過ピークの入射角依存性が小さいため、入射角度45°以下の光のうち、波長λ近傍の帯域の光のみを効率的に透過させ、他の帯域の光を効率的に遮断することができる。また、入射角度が45°より大きい光は大部分が反射・吸収される。つまり、入射角度が小さい場合にはバンドパスフィルタとして動作させることができ、入射角度が大きい場合にはカットフィルタとして動作させることができる。したがって、第1光学フィルタ6を透過して受光面2aに到達する光は、入射角度45°以下で波長λの成分であり、入射角度が45°より大きい成分は遮断される。その遮断された光成分である入射角度が45°より大きい光や波長λ以外の波長帯の光は、反射光ではなく外乱光に起因するものが大半である。この外乱光成分が第1光学フィルタ6によって遮断されるため、レーザーレーダのSN比が向上する。
また、第1光学フィルタ6の平面形状は、フォトダイオード2の受光面2aの形状に一致させ、あるいは少し広く取り、フォトダイオード2の受光面2aすべてを第1光学フィルタ6が覆うようにしている。従来のレーザーレーダでは、集光レンズの手前にバンドパスフィルタを設け、集光レンズの全面を覆っていたために、集光レンズと同等の面積であった。誘電体多層膜からなるバンドパスフィルタは、面積が広いと作製が難しく高価であったが、実施例1ではフォトダイオード2の受光面2aと同等の面積でよいため面積を大幅に小さくすることができ、低コスト化を図ることができる。
なお、第1光学フィルタ6は、フォトダイオード2上に直接積層されて、フォトダイオード2と一体に形成されたものであってもよい。また、第1光学フィルタ6と受光面2aとは直接接触させてもよいが、間に空間を有していてもよいし、光学的なマッチングを図るための層を設けてもよい。
また、第1光学フィルタ6は、入射角度が0°のときに波長λの光の透過率が最大となるように高屈折率層と低屈折率層の厚さを設計しているが、必ずしも入射角度0°で設計する必要はない。第1光学フィルタ6に対して光が入射角度θで入射するように第1光学フィルタ6を配置する場合には、入射角度θ(°)のときに波長λの光の透過率が最大となるように高屈折率層と低屈折率層の厚さを調整してもよい。その場合、入射角度をθからθ+45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が40nm以下であればよい。ただし、第1光学フィルタ6は入射角依存性が小さいので、θが変化しても透過率の変化は少ない。そのため、第1光学フィルタ6に入射する半導体レーザー1からの出射光および対象物からの反射光の入射角度がθとなるように配置する場合、第1光学フィルタ6の設計入射角度を0°としても十分である。もちろん一致させることが最も望ましい。
第2光学フィルタ7は、円筒状または平板状であり、筐体8の窓部8aの筐体8内部側の面に配置されている。第2光学フィルタ7の主面垂直方向と窓部8aの主面垂直方向は一致している。第2光学フィルタ7の形状は、窓部8aの形状と一致させ、あるいは少し広く取り、窓部8aすべてを第2光学フィルタ7が覆うようにしている。この第2光学フィルタ7は、筐体8内部と外部との間を透過する出射光、反射光のうち、波長λの光を透過させ、他の波長は透過を抑制するバンドパスフィルタとして機能する多層膜フィルタである。また、入射角度を0°としたときに波長λの光の透過率が最大となるように(つまり0°のときに透過ピークの位置が波長λとなるように)、高屈折率層と低屈折率層の厚さを設計している。入射角度0°における第2光学フィルタ7の透過スペクトルを見ると、波長λにピークを有した山型の形状となっている。その透過ピークは、入射角度を0°から45°まで変化させると、85nm以上の遷移幅となっている。第2光学フィルタ7の詳細な構成については後述する。
なお、第2光学フィルタ7は、窓部8a上に直接積層されて、窓部8aと一体に構成されていてもよい。また、第2光学フィルタ7は、窓部8aの外側の面に配置してもよいが、物理的な保護などを考慮して内側の面に配置するのがよい。また、第2光学フィルタ7と窓部8aは直接接していてもよいが、間に光学的なマッチングを図るための層などを設けてもよい。
また、第2光学フィルタ7は、入射角度が0°のときに波長λの光の透過率が最大となるように高屈折率層と低屈折率層の厚さを設計しているが、必ずしも入射角度0°で設計する必要はない。第2光学フィルタ7に対して入射角度θで入射するように第2光学フィルタ7を配置する場合には、入射角度θのときに波長λの光の透過率が最大となるように高屈折率層と低屈折率層の厚さを調整してもよい。その場合、入射角度をθからθ+45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が85nm以上であればよい。第2光学フィルタは入射角依存性が大きいため、入射角度が変化すると透過率が大きく変化する。そのため、第2光学フィルタ7に入射する半導体レーザー1からの出射光および対象物からの反射光の入射角度がθとなるように配置する場合、第2光学フィルタ7の設計入射角度はθになるべく近いことが望ましく、θとすることが最も望ましい。特に、実施例1のレーザーレーダのように、出射光および反射光の入射角度が0°となるように第2光学フィルタ7を配置し、第2光学フィルタ7の設計入射角度θを0°とすることが簡易であり望ましい。
筐体8は、内部が空洞の箱状の物体であり、光を透過しない樹脂材料からなる。筐体8内部には、半導体レーザー1、フォトダイオード2、レンズ3、4、ミラー5、第1光学フィルタ6、第2光学フィルタ7が収納されている。これらを筐体8内部に配置して覆うことで、防水、防塵や、衝撃などからの保護を図っている。また、フォトダイオード2を筐体8内部に配置することで、外乱光をフォトダイオード2が受光するのを抑制している。
また、筐体8は、半導体レーザー1からの出射光を筐体8外部へ透過させ、対象物からの反射光を筐体8内部へ透過させる窓部8aを有する。窓部8aは、アクリル樹脂などの透光性の樹脂材料やガラスなどの透光性の無機材料からなる。筐体8内部での光の反射を防止するために、筐体8の内壁を光吸収材で覆うようにしてもよい。また、走査された出射光が窓部8aを垂直に透過するように、窓部8aを円筒状に構成するとよい。
このように筐体8を設けることで、外乱光がフォトダイオード2へ入射することをある程度抑制することができる。しかしながら、窓部8aを斜めに透過する外乱光などはフォトダイオード2へ入射してしまう場合があり、SN比を悪化させてしまう。
そこで、実施例1のレーザーレーダでは、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が85nm以上である入射角依存性の大きな第2光学フィルタ7を窓部8aに設けている。この第2光学フィルタ7により、窓部8aに対して垂直に近い角度で入射する光を筐体8内部へと透過させ、窓部8aに対して斜めに入射する光は大部分遮断することができる。対象物からの反射光は、窓部8aに対して垂直に入射するので第2光学フィルタ7を透過し、外乱光の多くは窓部8aに対して斜めに入射するので第2光学フィルタ7により遮断される。したがって、第2光学フィルタ7を窓部8aに設けることでSN比を向上させることができる。
なお、実施例1のレーザーレーダでは、第1光学フィルタ6と第2光学フィルタ7の両方を設けているが、第1光学フィルタ6のみを設けてもよいし(図12参照)、第2光学フィルタ7のみを設けてもよい(図13参照)。いずれの場合もSN比の向上を図ることができる。ただし、実施例1のように第1光学フィルタ6と第2光学フィルタ7の両方設けることがより望ましく、SN比をさらに向上させることができる。
[第1光学フィルタ6の詳細な構成]
次に、第1光学フィルタ6の構成について詳しく説明する。
第1光学フィルタ6は、高屈折率層と低屈折率層を交互に繰り返し積層させた構造であって、最初の層と最後の層を高屈折率層とする構造を有する。その積層構造の層数は3、5または9以下であり、中央の低屈折率層または高屈折率層をλ/2とし、中央以外の低屈折率層または高屈折率層をλ/4とした積層構造である。以下に3層とする場合を例示する。
図2は、第1光学フィルタ6の構成を模式的に示した図である。図2のように、第1光学フィルタ6は、基板10と、基板10上に位置し、高屈折率層11、高屈折率層11よりも屈折率の低い低屈折率層12、高屈折率層11の順に積層された計3層からなる積層構造14と、積層構造14上に位置するキャップ層13と、によって構成されている。
この第1光学フィルタ6は、積層構造14として光の干渉を利用し、バンドパスフィルタとして機能するようにした多層膜フィルタであり、ファブリペロー型の光学フィルタである。入射角度0°において波長905nm(以下、波長λとする)の光を透過させ、他の帯域は透過を抑制するバンドパスフィルタとして機能する。なお、入射角度は基板10主面に垂直な方向と、光の入射方向との成す角である。この第1光学フィルタ6は、光を基板10側から入射させても、キャップ層13側から入射させても同様に機能する双方向性である。
基板10は、アモルファスのSiO2 (溶融石英)からなる厚さ1mmの平板状である。平面視での形状は、矩形、円など任意の形状でよい。厚さは1mmに限らず、他の層と干渉しない厚さであれば任意である。また、SiO2 以外にも高屈折率層11よりも屈折率が低く、設計波長λの光を透過する材料であれば任意の材料を用いることができ、たとえば、Al2 O3 、ZrO2 、TiO2 、MgOなどの酸化物、SiN、BN、などの窒化物、SiONなどの酸窒化物、MgF2 、CaF2 、LiFなどのフッ化物、などを用いることができる。なお、フォトダイオード2上に直接第1光学フィルタ6を形成する場合には、基板10は必要ない。
高屈折率層11は、屈折率がおよそ4のアモルファスのSiからなり、その光学膜厚はλ/4である。高屈折率層11は、ファブリペロー構造におけるスペーサを介して対向して設けられる2つのミラーとして作用する層である。
高屈折率層11の材料には、Si以外にも、屈折率が3以上であって、設計波長λの光を透過する無機材料であれば任意の材料を用いることができる。設計波長λで光学膜厚λ/4における内部透過率が90%以上の材料が好ましく、95%以上であることがより好ましい。アモルファスSiの屈折率はおよそ3.8であり、設計波長λの光を透過するから、上記条件を満たしている。
高屈折率層11の屈折率を3以上とすると、その高い屈折率によって高屈折率層11に入射する光は大きく屈折する。そのため、高屈折率層11中を透過する光の角度は高屈折率層11の主面に垂直な方向に近づき、高屈折率層11中を透過する光の光路長は短くなる。光路長が短くなる結果、光学フィルタへの光の入射角度を変化させたときの光路長の変化も小さくなる。したがって、第1光学フィルタ6の透過ピークの入射角依存性も小さくなる。
なお、高屈折率層11の屈折率は3.5以上がより望ましく、さらに望ましくは3.8以上である。屈折率には上限はなく、大きければ大きいほど望ましい。ただし、屈折率を大きくすると、基板10またはキャップ層13と高屈折率層11の界面での反射が増大するため、間に反射防止層(たとえばARコート)を設けてもよい。
また、設計波長λを905nmとしているが、800〜1500nmの範囲であれば所望の値を設計波長λとすることができる。設計波長λがこのような範囲内である場合に、Si以外に上記条件、すなわち屈折率が3以上で設計波長λの光を透過すること、を満たす材料を挙げると、Ge、SiGe、GeTe、AlSb、GaP、GaAsなどである。これらの材料に不純物をドープして所望の屈折率となるように調整してもよい。
低屈折率層12は、屈折率がおよそ2.4のアモルファスのTiO2 からなり、その光学膜厚はλ/2である。低屈折率層12は、ファブリペロー構造における2つのミラーに挟まれたスペーサとして作用する層である。
なお、高屈折率層11の光学膜厚をλ/4の奇数倍、低屈折率層12の光学膜厚をλ/2の整数倍としてもバンドパスフィルタとして機能するが、入射角依存性を低くするためには薄い方がよい。光路長が短くなり入射角度の変化に対する光路長の変化が小さくなるためである。したがって実施例1のように高屈折率層11の光学膜厚をλ/4、低屈折率層12の光学膜厚をλ/2とすることが入射角依存性を小さくする上で最も望ましい。
また、高屈折率層11の光学膜厚は、λ/4から多少ずれた値でもよく、λ/4×0.8〜λ/4×1.2の範囲であってよい。同様に、低屈折率層12の光学膜厚もλ/2から多少ずれた値でもよく、λ/2×0.8〜λ/2×1.2の範囲であってよい。この範囲で高屈折率層11および低屈折率層12の光学膜厚を変化させることで、第1光学フィルタ6の透過特性を調整することができる。たとえば、光学フィルタの透過ピークでの波長と設計波長とが一致するように調整したり、透過ピークの半値幅を調整したりすることができる。
低屈折率層12の材料にはTiO2 以外にも用いることができ、屈折率が高屈折率層よりも小さく、低屈折率層12の屈折率をy、高屈折率層11の屈折率をxとして、
y≧0.2622x4 −3.7743x3 +20.355x2 −48.79x+46.007 ・・・ (1)
を満たし、設計波長λの光を透過する無機材料であれば任意の材料を用いることができる。また、設計波長λで光学膜厚λ/2における内部透過率が90%以上の材料が好ましく、95%以上であることがより望ましい。スパッタ成膜したアモルファスのTiO2 の屈折率は2.4であり、スパッタ成膜したアモルファスSiは3.8であるから、上記条件を満たしている。
低屈折率層12として好適な材料を挙げると、ZrO2 、Ta2 O5 、Nb2 O5 、SiN、GaN、などである。屈折率が上記式(1)を満たすのであれば、高屈折率層11の材料として例示したもの、つまり、Ge、SiGe、GeTe、AlSb、GaP、GaAsなどを用いてもよい。それらの材料の中から、設計波長λにおいて上記式(1)を満たす材料を選択すればよい。また、これらの材料に不純物をドープして所望の屈折率となるように調整してもよい。
上記式(1)を満たせば高屈折率層11と低屈折率層12との屈折率差は小さくなり、光学フィルタ全体としての物理的な厚さを薄くすることができる。厚さが薄くなることで、光学フィルタ内を透過する光の光路長が短くなり、入射角の違いによる光路長の変化も小さくなる。その結果、光学フィルタの透過ピークの入射角依存性は小さくなる。ただし、屈折率差を小さくすると、透過ピークの半値幅が広がり、バンドパスフィルタとしての特性は悪化してしまう。そこで、高屈折率層11と低屈折率層12との屈折率差を1以上1.5未満とすることがより望ましい。
また、実施例1では高屈折率層11および低屈折率層12はアモルファスであるが、多結晶や結晶であってもよい。通常、結晶性が高くなると屈折率も大きくなるが、反面吸収も大きくなる場合がある。結晶性によって高屈折率層と11および低屈折率層12の屈折率を調整してもよい。作製の容易さや低コスト化の点では、高屈折率層と11および低屈折率層12をアモルファスとすることが望ましい。
キャップ層13は、高屈折率層11と低屈折率層12からなる積層構造14上に接して設けられている。キャップ層13はSiO2 からなる。キャップ層13の厚さは他の層と干渉しない厚さであればよい。このキャップ層13は、高屈折率層11や低屈折率層12の酸化を防止するなど耐環境性の向上を目的として設けるものである。したがって、耐環境性をそれほど必要としない場合や他の方法によって耐環境性を高める場合には、キャップ層13を設けなくともよい。キャップ層13の材料は、SiO2 以外にも、高屈折率層11よりも屈折率の小さく設計波長λにおいて透明な材料であれば任意の材料を用いることができる。
第1光学フィルタ6は、基板10上に、蒸着法を用いて高屈折率層11、低屈折率層12、高屈折率層11、キャップ層13の順に積層することにより製造することができる。蒸着法以外にも、スパッタ、CVD法、イオンプレーティングなどを用いることができる。成膜方法や成膜条件(温度など)によって結晶性が変わるため、これにより高屈折率層11や低屈折率層12の屈折率を調整してもよい。
次に、第1光学フィルタ6の各種特性について、有限要素法を用いた数値解析により求めた結果を説明する。
図3は、第1光学フィルタ6の透過スペクトルを示したグラフであり、図3(b)は透過スペクトルのピーク近傍を拡大したものである。高屈折率層11の物理的膜厚は55nm、低屈折率層12の物理的膜厚は180nmとした。また、入射角度を0〜75°の間で5°刻みで変化させてそれぞれの入射角度における透過スペクトルを求めた。
図3のように、第1光学フィルタ6は、波長λ(=905nm)付近に透過ピークを有し、波長λ近傍以外の波長帯域の透過が抑制された山型の透過特性を有していて、バンドパスフィルタとして機能していることがわかった。入射角度0°で透過ピークにおける透過率はおよそ0.89、ピークのふもとでの透過率はおよそ0.1〜0.2であり、透過ピークの半値幅はおよそ140nmであった。この透過ピークは、入射角度を0°から45°まで変化させると短波長側にシフトし、およそ30nm移動していた。また、透過ピークにおける透過率は入射角度が変化してもほとんど変化が見られず、透過ピークの半値幅についてもあまり変化がなかった。そのため、波長λ(=905nm)では0〜45°のいずれの入射角度においても透過率が0.7以上であった。一方、入射角度が45°より大きいと透過率は0.7以下であり、入射角度60°以上で透過率0.6以下、入射角度70°以上で0.5以下であった。これは、レンズ4により集光される波長λの光(入射角度が45°以下の光)は透過し、それ以外の光(入射角度が45°より大きい光)は遮断したいという要望に沿うものであった。
図4は、比較例の光学フィルタの透過スペクトルを示したグラフである。透過スペクトルは入射角度を0〜55°まで5°刻みで変化させてそれぞれの入射角度において求めた。比較例の光学フィルタは、TiO2 からなる高屈折率層とSiO2 からなる低屈折率層を交互に13層積層させ、中央の高屈折率層の光学膜厚をλ/2、他の光学膜厚をλ/4とした従来型の誘電体多層膜フィルタである。
図4のように、比較例の光学フィルタでは、入射角度が0°から45°まで変化させると、透過ピークは短波長側におよそ70nmシフトしていた。図3と図4を比較すると、第1光学フィルタ6は、比較例の光学フィルタに比べて、透過ピークの遷移幅がおよそ40nm低減されていることが分かり、入射角依存性が低減されていることがわかった。
図5は、第1光学フィルタ6において、低屈折率層12の屈折率を変化させた場合の透過ピークの遷移幅を示したグラフである。遷移幅は、入射角度を0°から45°まで変化させた時の値である。また、高屈折率層11は屈折率4.0のアモルファスシリコンとした。
図5のように、屈折率が大きくなるほど、すなわち高屈折率層11と低屈折率層12の屈折率差を小さくするほど、遷移幅が減少することがわかった。屈折率が2.5以上(遷移幅が40nm以下)となると、遷移幅の減少は飽和傾向にあり、したがって入射角依存性の小さな光学フィルタを実現するためには低屈折率層12の屈折率を2.5以上(高屈折率層11との屈折率差を1.5以下)とすればよいことがわかった。ただし、屈折率差を0とすると高屈折率層11と低屈折率層12との界面での反射がなくなるため、屈折率差は0より大きくする必要がある。
以上、第1光学フィルタ6では、高屈折率層11の屈折率を3以上とし、高屈折率層11と低屈折率層12との屈折率が式(1)を満たすようにしているため、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅を40nm以下とすることができ、従来の誘電体多層膜からなる光学フィルタよりも入射角依存性を小さくすることができる。その結果として、入射角度が45°より小さい場合には設計波長λの光を透過させるバンドパスフィルタとして動作させることができ、入射角度が45°より大きい場合には光を遮断するカットフィルタとして動作させることができる。また、第1光学フィルタ6は、積層構造14の層数が3と少ないため、容易かつ安価に作製することができる。
なお、第1光学フィルタ6は、積層構造14(高屈折率層11と低屈折率層12)の層数が3であるが、高屈折率層11と低屈折率層12とを交互に積層させた構造であって、最初の層と最後の層を高屈折率層11とし、中央の層を光学膜厚をλ/2の低屈折率層12とし、他の層はλ/4とする積層構造であって、積層数が5または9とすることもできる。ただし、層数が多くなると透過ピークの透過率が低下するなどバンドパスフィルタとしての特性が悪化してしまうため、層数はなるべく少ない方が望ましい。より望ましくは実施例1のように層数を3とすることである。
他の第1光学フィルタ6の構成として、積層構造14を以下のような積層構造24に替えた図6の第1光学フィルタとしてもよい。図6のように、他の第1光学フィルタ6は、積層構造14に替えて、高屈折率層21a、低屈折率層22、高屈折率層21b、低屈折率層22、高屈折率層21aの順に積層した計5層からなる積層構造24としたものである。
高屈折率層21a、b、および低屈折率層22は、光学膜厚以外は高屈折率層11、低屈折率層12と同様の構成である。光学膜厚は、積層構造24の中央の層である高屈折率層21bのみλ/2であり、他の高屈折率層21a、低屈折率層22の光学膜厚はλ/4である。このように光学膜厚をλ/4とする多層膜中の高屈折率層21のうち1層をλ/2とした構造により、波長λに透過ピークを有したバンドパスフィルタとして機能する。
積層数が5である図6の第1光学フィルタ6は、高屈折率層21の屈折率を3以上とし、高屈折率層21の屈折率をx、低屈折率層22の屈折率をyとして、以下の式(2)を満たすようにしている。
y≧0.1429x2 −1.4095x+4.7212 ・・・ (2)
そのため、積層数を3とした図2の第1光学フィルタ6と同様の理由により、入射角依存性が小さくなる。つまり、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が40nm以下となっており、従来の誘電体多層膜からなる光学フィルタよりも入射角依存性が小さくなっている。また、積層構造24の層数が5と少ないため、容易かつ安価に作製することができる。また、図6の第1光学フィルタ6は、積層構造24の層数が図3の第1光学フィルタ6よりも多いため、透過ピークにおける透過率は低下するが、透過ピークの半値幅や透過ピークの遷移幅、ピークのふもとの透過率は図2の第1光学フィルタ6よりも小さくすることができる。
図7は、図6の第1光学フィルタ6の透過スペクトルを示したグラフであり、図7(b)は透過スペクトルのピーク近傍を拡大したものである。図3と同様に、有限要素法を用いた数値解析により算出したものである。物理的膜厚は、高屈折率層21aが55nm、高屈折率層21bが110nm、低屈折率層12が93.5nmとした。また、入射角度を0〜75°の間で5°刻みで変化させてそれぞれの入射角度における透過スペクトルを求めた。
図7のように、図6の第1光学フィルタ6は、波長λ付近に透過ピークを有し、波長λ近傍以外の波長帯域の透過が抑制された山型の透過特性を有していて、バンドパスフィルタとして機能していた。また、入射角度0°で透過ピークの透過率はおよそ0.74、ピークのふもとでの透過率はおよそ0.1であり、透過ピークの半値幅はおよそ80nmであった。この透過ピークは、入射角度を0°から45°まで変化させると短波長側に20nmシフトしていた。また、透過ピークにおける透過率および透過ピークの半値幅は、入射角度が大きくなるにつれて若干小さくなることがわかった。
また、波長λ(=905nm)では0〜45°のいずれの入射角度においても透過率が0.55以上であった。一方、入射角度が45°より大きいと透過率は0.55以下であり、入射角度60°以上で透過率0.45以下、入射角度70°以上で0.42以下であった。これは、レンズ4により集光される波長λの光(入射角度が45°以下の光)は透過し、それ以外の光(入射角度が45°より大きい光)は遮断したいという要望に沿うものであった。
図4と図7を比較すると、図6の第1光学フィルタ6は、比較例の光学フィルタに比べて入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅がおよそ50nm軽減されており、比較例の光学フィルタよりも入射角依存性が小さくなっていることがわかった。
また、他の第1光学フィルタ6の構成として、積層構造24を5層から9層に積層数を増やしたものを用いてもよい。すなわち、図8のように、積層構造24に替えて、高屈折率層31a、低屈折率層32、高屈折率層31a、低屈折率層32、高屈折率層31b、低屈折率層32、高屈折率層31a、低屈折率層32、高屈折率層31aの順に積層した計9層からなる積層構造34としたものである。
高屈折率層31a、b、および低屈折率層32は、光学膜厚以外は高屈折率層11、低屈折率層12と同様の構成である。光学膜厚は、高屈折率層31bのみがλ/2で、他の高屈折率層31a、低屈折率層32はλ/4である。すなわち、図8の第1光学フィルタ6は、図2の第1光学フィルタにおける積層構造24の積層数を5から9に増やした構造である。
また、積層数が9である図8の第1光学フィルタ6は、高屈折率層31の屈折率を3以上とし、高屈折率層31の屈折率をx、低屈折率層32の屈折率をyとして、以下の式(3)を満たすようにしている。
y≧−0.1515x3 +1.6818x2 −6.6606x+10.817 ・・・ (3)
図9は、図8の第1光学フィルタ6の透過スペクトルを示したグラフであり、図9(b)は透過スペクトルのピーク近傍を拡大したものである。図3と同様に有限要素法を用いた数値解析により算出したものである。物理的膜厚は、高屈折率層31aが56nm、高屈折率層21bが110nm、低屈折率層32が93.5nmとした。また、入射角度を0〜75°の間で5°刻みで変化させてそれぞれの入射角度における透過スペクトルを求めた。
図9のように、図8の第1光学フィルタ6は、波長λ付近に透過ピークを有し、波長λ近傍以外の波長帯域の透過が抑制された山型の透過特性を有していて、バンドパスフィルタとして機能していた。また、入射角度0°で透過ピークの透過率はおよそ0.50、ピークのふもとでの透過率はおよそ0.05であり、透過ピークの半値幅はおよそ20nmであった。透過ピークは、入射角度を0°から45°まで変化させると短波長側に10nmシフトしていた。また、透過ピークでの透過率および透過ピークの半値幅は、入射角度が大きくなるにつれて若干小さくなることがわかった。
また、波長λ(=905nm)では0〜45°のいずれの入射角度においても透過率が0.22以上であった。一方、入射角度が45°より大きいと透過率は0.22以下であり、入射角度60°以上で透過率0.17以下であった。これは、レンズ4により集光される波長λの光(入射角度が45°以下の光)は透過し、それ以外の光(入射角度が45°より大きい光)は遮断したいという要望に沿うものであった。
図4と図9を比較すると、図8の第1光学フィルタ6は、比較例の光学フィルタに比べて入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が53nm軽減されており、比較例の光学フィルタよりも入射角依存性が小さくなっていることがわかった。
積層数が9である図8の第1光学フィルタ6では、高屈折率層31の屈折率を3以上とし、高屈折率層31と低屈折率層32の屈折率が式(3)を満たすようにしているため、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が40nm以下となっており、従来の誘電体多層膜からなる光学フィルタよりも入射角依存性が小さくなっている。また、積層構造34の層数が9と少ないため、容易かつ安価に作製することができる。また、図8の第1光学フィルタ6は、積層構造34の層数が図6の第1光学フィルタ6よりも多いため、透過ピークにおける透過率は低下するが、透過ピークの半値幅や透過ピークの遷移幅、ピークのふもとの透過率は図6の第1光学フィルタ6よりも小さくすることができる。
なお、図6、8の第1光学フィルタ6は、積層構造の層数が5、あるいは9であるが、高屈折率層と低屈折率層を交互に繰り返し積層した構造であって、最初の層と最後の層が高屈折率層であり、中央の層を高屈折率層とする積層構造は、一般に層数を4n+1(nは1以上の整数)とすることができる。ただし、高屈折率層21、31の材料であるSiは波長λにおいてわずかに吸収があり、層数が多くなるとその吸収のため透過ピークにおける透過率が大きく低下してしまう。そのため、積層構造の層数を5あるいは9とする必要がある。
図14は、第1光学フィルタ6において、高屈折率層と低屈折率層の屈折率を変化させた時の透過ピークの遷移幅(nm)をまとめた表である。透過ピークの遷移幅は、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークのシフト量である。図14(a)が図2に示す3層構造の場合、図14(b)が図6に示す5層構造の場合、図14(c)が図8に示す9層構造の場合である。
また、図15は、図14の結果をもとにして、透過ピークの遷移幅が40nmとなる高屈折率層と低屈折率層の屈折率を示したグラフである。図15(a)が図2に示す3層構造の場合、図15(b)が図6に示す5層構造の場合、図15(c)が図8に示す9層構造の場合である。
図14、15のように、高屈折率層の屈折率を3以上とし、高屈折率層と低屈折率層の屈折率が3層構造の場合については式(1)を満たすように、5層構造の場合については式(2)を満たすように、9層構造については式(3)を満たすようにすれば、透過ピークの遷移幅を40nm以下とすることが可能であるとわかった。
[第2光学フィルタ7の詳細な構成]
次に、第2光学フィルタ7の構成について詳しく説明する。
図10は、第2光学フィルタ7の構成を示した図である。図10のように、第2光学フィルタ7は、基板10と、基板10上に位置し、高屈折率層41、低屈折率層42、高屈折率層41の順に積層された計3層からなる積層構造44と、積層構造44上に位置するキャップ層13と、によって構成されている。なお、第1光学フィルタ6と同一の構成部分については同一の符号を付している。
第2光学フィルタ7は、第1光学フィルタ6と同様のファブリペロー型の多層膜フィルタである。入射角度0°において波長λの光を透過させ、他の帯域は透過を抑制するバンドパスフィルタとして機能する。第2光学フィルタ7は、第1光学フィルタ6とは逆に、入射角依存性を従来の誘電体多層膜からなる光学フィルタよりも大きくしたことを特徴とするものである。
以下、積層構造44を構成する高屈折率層41と低屈折率層42について、より詳細に説明する。
高屈折率層41は、第1光学フィルタ6の高屈折率層11と同様の構成である。すなわち、高屈折率層41はアモルファスのSiからなり、光学膜厚がλ/4である。Si以外にも、高屈折率層41の屈折率が3以上の各種材料を用いることができ、たとえば第1光学フィルタ6の構成の説明で述べた各種材料を用いることができる。あるいは、屈折率が3.7以上の各種材料を用いてもよい。より望ましくは3.8以上である。高屈折率層41は、高屈折率層11と同様に、ファブリペロー構造におけるスペーサを介して対向して設けられる2つのミラーとして作用する層である。
高屈折率層41の光学膜厚はλ/4の奇数倍としてもバンドパスフィルタとして機能するが、高屈折率層41は波長λの光をわずかに吸収するため光学フィルタの透過ピークの透過率を高めるためには薄い方がよい。そこで、第2光学フィルタ7では高屈折率層41の光学膜厚をλ/4としている。
低屈折率層42は、屈折率1.35のMgF2 からなり、光学膜厚はλである。低屈折率層42は、ファブリペロー構造における2つのミラーに挟まれたスペーサとして機能する層である。
低屈折率層42の光学膜厚はλ/2の整数倍としてもバンドパスフィルタとして機能する。入射角依存性を大きくするには低屈折率層42の光学膜厚は厚いほどよい。光路長が長くなり入射角度の変化に対する光路長の変化が大きくなるためである。しかし、厚くしすぎると入射角依存性が大きくなりすぎ、2次の透過ピークが1次の透過ピークと重なってしまう場合がある。これを避けるために、第2光学フィルタ7では、低屈折率層42の光学膜厚をλ(λ/2の2倍)としている。もちろん、光学膜厚をλ/2としてもよいが、光学膜厚をλとする場合よりも透過ピークの遷移幅が小さくなる。
なお、高屈折率層41の光学膜厚は、λ/4から多少ずれた値でもよく、λ/4×0.8〜λ/4×1.2の範囲であってよい。同様に、低屈折率層42の光学膜厚もλから多少ずれた値でもよく、λ×0.8〜λ×1.2の範囲であってよい。この範囲で高屈折率層41および低屈折率層42の光学膜厚を変化させることで、第2光学フィルタ7の透過特性を調整することができる。たとえば、光学フィルタの透過ピークの波長λと設計波長が一致するように調整したり、透過ピークの半値幅を調整したりすることができる。
低屈折率層42の材料には、MgF2 以外にも用いることができる。高屈折率層41の屈折率が3以上3.7以下の場合には、低屈折率層42の屈折率が1.56以下、高屈折率層41の屈折率が3.7より大きい場合には、低屈折率層42の屈折率が1.57以下であって、波長λの光を透過する無機材料であれば、低屈折率層42として任意の材料を用いることができる。また、波長λで光学膜厚がλである場合における内部透過率が90%以上の材料が好ましく、95%以上であることがより望ましい。
低屈折率層42として好適なMgF2 以外の材料を挙げると、CaF2 、LiF、SiO2 、などである。それらの材料の中から、波長λにおいて屈折率が上記を満たす材料を選択すればよい。また、これらの材料に不純物をドープして所望の屈折率となるように調整してもよい。
高屈折率層41と低屈折率層42の屈折率を上記範囲とすることで、積層構造44全体としての厚さを増加させ、積層構造44を透過する光の光路長を長くしている。光路長が長くなると、入射角度による光路長の変化が大きくなるので、入射角依存性が大きくなり、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅を85nm以上とすることができる。
なお、バンドパスフィルタとしての特性を十分に確保しつつ、入射角依存性をより大きくするために、低屈折率層42の屈折率は1.3〜1.5、高屈折率層41と低屈折率層42との屈折率差は、2.3〜3.0とすることが望ましい。
なお、低屈折率層42の光学膜厚をλ/2とする場合には、低屈折率層42の屈折率を以下の範囲とすることで入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅を85nm以上とすることができる。高屈折率層41の屈折率が3以上3.3以下の場合には、低屈折率層42の屈折率が1.48以下、高屈折率層41の屈折率が3.3より大きい場合には、低屈折率層42の屈折率が1.49以下である。
図11は、第2光学フィルタ7の透過スペクトルを示したグラフである。図3と同様に有限要素法を用いた数値解析により算出したものである。物理的膜厚は、高屈折率層41が55nm、低屈折率層42が680nmとした。また、入射角度を0°から75°まで5°刻みで変化させてそれぞれの入射角度における透過スペクトルを算出した。
図11のように、第2光学フィルタ7は、透過ピークを有した山型の透過特性であり、バンドパスフィルタとして機能していることを確認できた。また、入射角度0°で透過ピークの透過率はおよそ0.89、ピークのふもとでの透過率はおよそ0.1、透過ピークの半値幅はおよそ50nmであった。透過ピークは、入射角度を0°から45°まで変化させると短波長側に150nmシフトしていた。また、透過ピークでの透過率は入射角度が大きくなるにつれて減少していくことがわかった。
また、波長λ(=905nm)では、入射角度が0°で0.89であった透過率が、入射角度10°で0.7以下の透過率となり、入射角度が20°では0.15以下の透過率、入射角度が30°以上では0.05以下の透過率であった。この様な透過特性は、窓部8aに垂直に入射する波長λの光は透過させ、それ以外の角度で入射する光はなるべく遮断したいという要望に沿うものであった。
図4と図11を比較すると、第2光学フィルタ7は、比較例の光学フィルタに比べて入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅がおよそ80nm増大しており、比較例の光学フィルタよりも入射角依存性が大きくなっていることがわかった。
図16は、第2光学フィルタ7において、高屈折率層41、低屈折率層42の屈折率を変化させた時の透過ピークの遷移幅(nm)をまとめた表である。図16(a)が低屈折率層42の厚さをλ/2とした構造の場合、図16(b)が低屈折率層42の厚さをλとした構造の場合である。
図16(a)のように、低屈折率層42の厚さをλ/2とした構造においては、高屈折率層41の屈折率を3以上3.3以下とする場合には低屈折率層42の屈折率を1.48以下とし、高屈折率層41の屈折率を3.3よりも大きくする場合には低屈折率層42の屈折率を1.49以下とすれば、透過ピークの遷移幅を85nm以上とすることが可能となっている。
また、図16(b)のように、低屈折率層42の厚さをλとした構造においては、高屈折率層41の屈折率を3以上3.7以下とする場合には低屈折率層42の屈折率を1.56以下とし、高屈折率層41の屈折率を3.7よりも大きくする場合には低屈折率層42の屈折率を1.57以下とすれば、透過ピークの遷移幅を85nm以上とすることが可能となっている。
また、図16から、透過ピークの遷移幅は、高屈折率層41と低屈折率層42との屈折率差の依存性が比較的小さく、低屈折率層42の屈折率の依存性の方が大きいことがわかった。
以上、第2光学フィルタ7は、低屈折率層42の厚さをλ/2とした構造においては、高屈折率層41の屈折率を3以上3.3以下とする場合には低屈折率層42の屈折率を1.48以下とし、高屈折率層41の屈折率を3.3よりも大きくする場合には低屈折率層42の屈折率を1.49以下としている。また、低屈折率層42の厚さをλとした構造においては、高屈折率層41の屈折率を3以上3.7以下とする場合には低屈折率層42の屈折率を1.56以下とし、高屈折率層41の屈折率を3.7よりも大きくする場合には低屈折率層42の屈折率を1.57以下としている。そのため、従来の誘電体多層膜からなる光学フィルタよりも入射角依存性を大きくすることができ、特に入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅を85nm以上とすることができる。その結果、入射角度0°近傍では設計波長λの光を透過させるバンドパスフィルタとして動作させることができ、それ以外の入射角度の光は遮断するカットフィルタとして動作させることができる。また、第2光学フィルタ7は積層構造44の層数が3と少ないため、容易かつ安価に作製することができる。
なお、第1光学フィルタ6および第2光学フィルタ7において、基板10と積層構造の間に、基板10よりも屈折率が大きく高屈折率層よりも屈折率の小さな材料からなる層を設けてもよい。光学フィルタの特性を調整することができる。同様に、積層構造とキャップ層13との間に、キャップ層13よりも屈折率が大きく高屈折率層よりも屈折率の小さな材料からなる層を設けてもよい。また、空気層と光学フィルタとの界面での反射を防止するために、基板10、キャップ層13のうち、光を入射させる側の表面に、反射防止層を設けてもよい。
次に、実施例1のレーザーレーダのSN比について、シミュレーションにより考察した結果を説明する。
実施例1のレーザーレーダにおいて、第2光学フィルタ7を設けず、第1光学フィルタ6として図2、6、8の構成を採用した場合(以下、実施例1−1、1−2、1−3とする)について、第1光学フィルタ6と第2光学フィルタ7のいずれも設けない場合(比較例1とする)に対するSN比をシミュレーションにより算出した。
その結果、比較例1に対するSN比向上倍率は、実施例1−1が2.34、実施例1−2が3.43、実施例1−3が4.68であり、実施例1−1〜1−3のいずれの場合も比較例1よりもSN比が大きく向上していた。
また、第2光学フィルタ7を設け、第1光学フィルタ6として図2、6、8の構成を採用した場合(以下、実施例1−4、1−5、1−6とする)について、比較例1に対するSN比をシミュレーションにより算出した。
その結果、比較例1に対するSN比向上倍率は、実施例1−4が11.96、実施例1−5が15.67、実施例1−6が21.39であった。このように第1光学フィルタ6と第2光学フィルタ7の両方設けることにより、SN比を比較例1よりも大幅に向上できることがわかった。
以上、実施例1のレーザーレーダでは、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が40nm以下である入射角依存性の小さな第1光学フィルタ6を、フォトダイオード2の受光面2aに設けることによりSN比の向上が図られている。また、第1光学フィルタ6の面積は小さくすることができるため、低コスト化を図ることができる。また、入射角度を0°から45°まで変化させたときの透過ピークの遷移幅が85nm以上である入射角依存性の大きな第2光学フィルタ7を、筐体8の窓部8aに設けることにより、筐体8の窓部8aに斜めに入射して筐体8内部へと透過する外乱光が抑制され、SN比の向上が図られている。
[変形例]
実施例1はレーザーレーダであるが、本発明は集光レンズによって光を集光した後、受光素子によって波長λの光を受光する受光手段を有した光学測定装置であればよい。つまり、実施例1において筐体8を設けない場合や、半導体レーザー1などの光を出射する手段を設けていない場合などにおいても、第1光学フィルタ6のみを設けて本発明を適用可能である。あるいは、受光素子によって波長λの光を受光する受光手段と、受光手段を内部に納める筐体とを有した光学測定装置であればよい。つまり、実施例1において集光レンズであるレンズ4を設けない場合や、半導体レーザー1などの光出射手段を設けていない場合などにおいても、筐体8の窓部8aに第2光学フィルタ7のみを設けて本発明を適用可能である。一例としては、レーザー光などを出射する光出射装置を光学測定装置とは別途設け、その光出射装置からの光の対象物による反射を、実施例1のレーザーレーダから半導体レーザー1を省いた光学測定装置により受光する構成である。