以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態における回折光学素子について説明する。図1は、本実施形態における回折光学素子(DOE)の概略図(正面図および側面図)である。回折光学素子1は、可視波長体全域の使用波長領域で特定の一つの次数(特定次数または設計次数)の回折光の回折効率を高めるように構成されている。回折光学素子1は、透明な一対の基板レンズ2、3、および、基板レンズ2、3の間に配置された回折格子部10を有する。基板レンズ2、3のぞれぞれは、平板またはレンズ作用を奏する形状を有する。本実施形態において、基板レンズ2、3のそれぞれの両面は曲面である。回折格子部10は、光軸Oを中心とした同心円状の回折格子形状を有し、レンズ作用を有する。
図2は、図1中の線A−A’を切断して拡大した回折光学素子1の拡大断面図である。格子形状を分かりやすくするために、図2は格子深さ方向にデフォルメされた図となっている。また、格子数も実際よりは少なく描かれている。以降に説明する断面図についても同様である。図3は、図2の回折光学部10の拡大断面図である。図2および図3において、入射光束aは、回折光学素子1の設計入射角度である入射角度0度で入射する光束である。入射光束bは、斜入射角度(画面外光入射角度)で下向きに入射する光束である。入射光束cは、斜入射角度(画面外光入射角度)で上向きに入射する光束である。
図2および図3に示されるように、回折格子部10は、回折格子21(第1の回折格子)、回折格子31(第2の回折格子)、および、薄膜11を有する。回折格子21および回折格子31は、光軸方向(光軸Oに沿った方向)において互いに密着して形成されている。薄膜11は、回折格子21の格子壁面21b(第1の格子壁面)と回折格子31の格子壁面31b(第2の格子壁面)との間に設けられ、格子壁面21b、31bの両方に接している。
また薄膜11は、使用波長帯域(例えば可視波長帯域)における波長λ(任意の波長)を有する光に対して透明である。具体的には、薄膜11の使用波長帯域の光(波長λ)に関する消衰係数が0.0005以下であれば、薄膜11は実質的に透明であるといえる。薄膜11の消衰係数が0.0005を上回ると、薄膜11が吸収特性を持ってしまう。また、回折光学素子に光が斜入射した場合、各回折格子の消衰係数と薄膜11の消衰係数との差に起因して、各回折格子と薄膜11との界面で反射光が発生してしまう。よって、薄膜11の消衰係数は、0.0005以下であることが好ましい。より好ましくは、薄膜11の使用波長帯域の光に関する消衰係数は、0.0003以下である。
なお、回折格子21は、基板レンズ2と一体または別体のいずれであってもよい。同様に回折格子31は、基板レンズ3と一体または別体のいずれであってもよい。なお本実施形態において、回折格子21、31は光軸方向において互いに密着しているが、回折格子21、31の間に介在する薄膜11は、後述するように両者の境界面の全域にわたって設けられている場合もある。このため、回折格子21、31は、光軸方向に積層されていればよい。
回折格子21は、格子面21a(第1の格子面)と格子壁面21b(第1の格子壁面)とから構成される同心円状のブレーズ構造を有する。同様に、回折格子31は、格子面31a(第2の格子面)と格子壁面31b(第2の格子壁面)とから構成される同心円状のブレーズ構造を有する。回折格子21、31はそれぞれ、光軸Oから離れる(外周部に近づく)に従い、格子ピッチを徐々に変化させてレンズ作用(光の収斂作用や発散作用)を実現している。格子面21a、31aは、互いに隙間なく接しており、回折格子21、31は、全体で1つの回折格子部10として作用する。また、回折格子21、31をそれぞれブレーズ構造にすることにより、回折光学素子1に入射した入射光は、回折格子部10で回折せずに透過する0次回折方向に対し、特定の回折次数(図2および図3中では+1次)の方向に集中して回折する。
本実施形態の回折光学素子1の使用波長領域は、可視域である。このため、可視領域全体で設計次数の回折光の回折効率が高くなるように、スカラー回折理論に従い、回折格子21、31を構成する材料および格子高さが選択される。すなわち、複数の回折格子(回折格子21、31)を通過する光の最大光路長差(回折部の山と谷の光学光路長差の最大値)が使用波長域内で、その波長の整数倍付近となるように、各回折格子の材料及び格子高さが決定される。このように、回折格子21、31の材料および形状を適切に設定することにより、使用波長全域で高い回折効率が得られる。
一般に、回折格子の格子高さは、格子周期方向に垂直な方向(面法線方向)の格子先端と格子溝の高さで定義される。また、格子壁面が面法線方向からシフトしているときや格子先端が変形しているときなどの場合、格子高さは、格子面の延長線と面法線との交点との距離で定義される。なお本実施形態において、回折格子の材料や格子高さは限定されるものではない。
本実施形態において、回折格子21、31は互いに異なる材料により形成される。例えば、回折格子31は低屈折率分散材料から構成され、回折格子21は回折格子31よりも高い屈折率を有する高屈折率分散材料から構成される。本実施形態において、以下の式(1)〜(3)を満足することにより、高い回折効率を得ることができる。
νd2>35 … (1)
νd3<25 … (2)
0.960≦(n2−n3)×d/(m×λ)≦1.040 … (3)
式(1)〜(3)において、波長λにおける回折格子21、31を構成する材料の屈折率をそれぞれn2、n3、アッべ数をνd2、νd3とする。また、回折格子21、31のそれぞれの格子高さをd、設計次数をmとする。なお、本実施形態における可視波長域は、主に、波長400nm以上かつ700nm以下の帯域である。
また、可視波長域全域で高い回折効率を得るには、高屈折率低分散材料(回折格子21)のアッべ数を35よりも大きくし、低屈折率高分散材料(回折格子31)のアッべ数を25よりも小さくすることが好ましい。また、部分分散比θgFが通常の材料よりも小さい値(リニア異常分散性)を有する材料を用いることが好ましい。このリニア分散特性を得るため、ITO微粒子を微粒子分散させてベース樹脂材料に混ぜる方法を用いることができる。ITOは、他の無機酸化物と異なり、電子遷移による屈折率の変化に加え、錫によるドーピングや酸素の空孔によりフリーキャリアが発生し屈折率が変化する。この電子遷移とフリーキャリアの影響により非常に強いリニア分散特性を有する。従って、ITOと同様にフリーキャリアの影響があるSnO2およびATO(アンチモンをドーピングしたSnO2)なども使用することができる。
また、微粒子を分散させた樹脂材料は、紫外線硬化樹脂であって、アクリル系、フッ素系、ビニル系、エポキシ系のいずれかの有機樹脂を含むが、特に限定されるものではない。微粒子材料の平均粒子径は、回折光学素子への入射光の波長(使用波長又は設計波長)の1/4以下であることが好ましい。これよりも粒子径が大きくなると、微粒子材料を樹脂材料に混合した際に、レイリー散乱が大きくなる可能性が生じる。格子高さdは、15μm以下に設定されることが好ましい。これにより、斜入射光が入射した際の回折効率の低下を小さくすることができる。
薄膜11は、格子壁面に沿って略均一な厚さを有し、回折格子21、31の境界面の少なくとも一部に配置されている。本実施形態において、薄膜11は、格子壁面21b、31bに設けられている。薄膜11を設けることにより、格子壁面付近に入射する光束が薄膜11の内部に閉じ込められ、光導波路となる。
本実施形態の回折光学素子1において、使用波長帯域の波長λに関し、薄膜11、回折格子21、および、回折格子31の材料の屈折率をそれぞれn1、n2、n3とする。また、薄膜11と回折格子21との比屈折率差をΔとする。このとき、以下の式(4)、(5)を満たすことにより、設計入射角度で入射する光束の設計次数の回折効率を向上させ、設計次数±1次の回折効率を低減させ、かつ斜入射角度で入射する光束による不要光のうち結像面に到達する不要光を低減させることができる。更に、式(4)、(5)を満たすことにより、回折光学素子1における波長依存性および偏光依存性を低減し、所望の波長特性および偏光特性を有するように構成することが可能となる。
n1>n2>n3 … (4)
0.005<Δ<0.045 … (5)
式(5)において、比屈折率差Δは、以下の式(6)により求められる。
また、式(5)は、以下の式(5a)を満たすことが好ましい。
0.007<Δ<0.042 … (5a)
式(5)または式(5a)の下限を満足することにより、斜入射角度で入射する光束による不要光のうち、結像面に到達する不要光を低減させることができる。また、式(5)または式(5a)の上限を満足することにより、偏光依存性を低減することができる。
また、薄膜11、および、回折格子21、31を構成する材料は、非対称3層平板導波路であるため、導波モードが以下の固有値方程式を満たすことが知られている。式(7)、(8)はそれぞれ、TE偏光およびTM偏光に関する。
式(7)、(8)において、k0は以下の式(9)のように定義される値である。
また、非対称3層平板導波路の単一モードが発生するカットオフ幅に関し、TE偏光のカットオフ幅WC,TEは以下の式(10)、TM偏光のカットオフ幅WC,TMは式(11)のように表される。
式(10)、(11)において、κc、δcは、以下の式(12)のように定義される値である。
本実施形態において、薄膜11の幅W(膜幅)と以下の式(14)のTE偏光とTM偏光の単一モードが発生するカットオフ幅の平均Wcが以下の式(13)を満足することにより、回折光学素子1は所望の効果を奏することができる。すなわち回折光学素子1は、設計入射角度で入射する光束の設計次数の回折効率を向上し、設計次数±1次の回折効率を低減させ、斜入射角度で入射する光束による不要光のうち結像面に到達する不要光を低減させることができる。更に回折光学素子1は、波長依存性および偏光依存性を低減し、所望の波長特性および偏光特性を有することが可能となる。ここで薄膜11の幅Wは、格子壁面21bと格子壁面31bとの間における薄膜11の幅(格子壁面21bと格子壁面31bとの間の距離)である。
0.5≦W/Wc≦2.0 … (13)
本実施形態において、式(13)は、以下の式(13a)を満たすことが好ましい。
0.75≦W/Wc≦1.75 … (13a)
また、非対称3層平板導波路の単一モード条件となる1次モードが発生するカットオフ幅に関し、TE偏光のカットオフ幅WTE0は以下の式(15)、TM偏光のカットオフ幅WTM0は以下の式(16)のように表される。
式(15)、(16)において、a’は以下の式(17)で定義される値である。
また、導波モードが感じる屈折率である等価屈折率に関し、TE偏光の等価屈折率neq,TEおよびTM偏光の等価屈折率neq,TMは、以下の式(18)、(19)のようにそれぞれ表される。
式(18)、(19)において、βTE、βTMは、TE偏光およびTM偏光のそれぞれの伝搬定数である。
非対称3層平板導波路の導波路幅は、TE偏光に関しては式(10)、TM偏光に関しては式(11)の単一モードのカットオフ幅未満の場合、放射モードになるため、式(7)、(8)は解を持たない。一方、単一モードのカットオフ幅以上の場合、導波モードが発生するため、式(7)、(8)は解を持つ。また、TE偏光に関しては式(15)、TM偏光に関しては式(16)の1次モードのカットオフ幅未満の場合、単一モード条件となるため、式(7)、(8)は一つのみ解を持つことが知られている。この条件において、式(18)、(19)の等価屈折率は、TE偏光およびTM偏光のそれぞれに関して一つずつ求めることができる。これ条件は、薄膜11の幅W(膜厚)が以下の式(20)を満たす場合に成立する。
より厳密には、常にWTE0<WTM0が成り立つため、TE偏光、TM偏光がともに一つの解を持つには、以下の式(21)を満たす必要がある。
W<WTE0 … (21)
非対称3層平板導波路の導波モードが感じる式(18)、(19)のTE偏光とTM偏光の等価屈折率の平均(薄膜11の内部を伝搬する伝搬光の等価屈折率neq)は、以下の式(23)のように表される。本実施形態において、等価屈折率neqと高屈折率材料である回折格子21の屈折率n2との位相差は、以下の式(22)を満足するように小さい。
0≦(neq−n2)×d/λ<0.3 … (22)
この結果、薄膜11が設けられていない場合には不要光となっていた光を光導波路内に閉じ込め、導波モードと回折格子の位相整合させることができ、設計次数の回折効率を向上させることが可能となる。また、設計次数の回折効率を向上と同時に設計次数±1次の回折効率を低減させ、かつ斜入射角度(画面外光入射角度)で入射する光束による不要光のうち、結像面に到達する不要光を低減することができる。
本実施形態において、式(22)は、以下の式(22a)を満たすことが好ましい。
0≦(neq−n2)×d/λ<0.2 … (22a)
このとき、式(22)の位相差がN×λ(Nは1以上の整数)でも位相整合条件となるが、この条件では波長依存性が大きく、可視波長全域で満足することが困難のため、好ましくない。 本実施形態において、比屈折率差Δは、使用波長帯域における長波長側よりも短波長側が小さい(使用波長帯域における第1の波長(λ1)に関する比屈折率差は、第1の波長よりも長い第2の波長(λ2>λ1)に関する比屈折率差よりも小さい)。これにより、波長依存性をより効果的に低減することができる。また、比屈折率差Δおよび使用波長の波長λが以下の式(24)を満たすことにより、波長依存性を低減することができる。
0.01<Δ/λ<0.08 … (24)
また本実施形態において、薄膜11の材料のアッべ数を、回折格子31(第2の回折格子)の材料のアッべ数よりも大きくすることにより、波長依存性を低減することができる。
以上の関係を満たす薄膜11の材料および膜幅Wを適切に設定することにより、本実施形態の効果を得ることができる。
また、薄膜11の屈折率n1は、以下の式(25)を満たすことが好ましい。
1.64<n1<1.75 … (25)
式(25)を満足することにより、以下の実施例1〜6で説明するように、波長依存性および偏光依存性を低減した回折光学素子を構成する薄膜、および回折格子の材料の選択性を広げることができる。式(25)の下限を満たさないと、薄膜の屈折率と回折格子の屈折率がともに小さくなる。この場合、薄膜材料の選択性が限られ、または薄膜材料コストが上がってしまう。さらに、薄膜に合わせて可視波長帯域全域で高い回折格子を得る材料の選択性も狭くなる。
式(25)の上限を満たさないと、波長特性を低減することが難しくなる。また、薄膜の屈折率と回折格子の屈折率がともに大きくなる。この場合、可視波長帯域全域で高い回折格子を得る材料の選択性も狭くなってしまう。より好ましくは、以下の式(26)を満たす。
1.65<n1<1.70 … (26)
なお、薄膜11の材料は特に限定されるものではない。薄膜11の材料としては、例えば、Al2O3、ZrO2、La2O3、Y2O3、HfO2、Ta2O5、Nb2O5、TiO2、SiO2などの酸化物、LaF3、NdF3、CeF3、MgF2などのフッ化物を採用することができる。また、薄膜11の材料として、ZnS,CdS,ZnSe,ZnTeなどの化合物や、上記材料の混合物や化合物などを採用することもできる。また、薄膜11の材料として、アクリル系、フッ素系、ビニル系、エポキシ系などの有機樹脂や、それらの有機樹脂に微粒子を分散させた材料を採用してもよい。
同様に、薄膜11の製造方法に関しても特に限定されるものではない。例えば、回折格子31を製造し、その後、薄膜11を選択的に形成することができる。具体的には、薄膜11を構成する材料を真空蒸着などの物理蒸着手法やスピンコート法で薄膜形状に成膜した後、リソグラフィー手法やナノインプリント法でパターニングしてエッチング手法で選択的に形成する手法を用いることができる。また、マスクパターンを用いて選択的に蒸着手法で形成する方法などを用いることができる。また、薄膜11は、後述するように両者の境界面の全域にわたって設けられてもよい。この場合、薄膜11を格子壁面部のみに選択的に形成する必要はない。その後、回折格子21を形成することにより、回折光学素子1を製造することができる。また、回折光学素子1の輪帯ごとに薄膜11の幅または形状を変更(制御)してもよい。
図28は、本実施形態における変形例としての回折光学部10aの拡大断面図である。図28に示されるように、薄膜11を格子壁面のみではなく、回折格子21、31の境界面の全域に設けてもよい。すなわち薄膜11は、格子壁面21bと格子壁面31bとの間から格子面21aと格子面31aとの間まで連続して設けられている。この場合、格子壁面部は前述の関係を満たし、かつ格子面部は反射防止機能を有していればよい。また、格子面の薄膜の屈折率、膜幅が格子壁面と異なっていてもよい。境界面の全域に薄膜を形成するため、容易かつ安価に回折光学素子を製造することができる。例えば、回折格子21を製造した後、格子面から格子壁面全域に薄膜を真空蒸着などの物理蒸着手法やスピンコート法により形成し、その後、回折格子31を形成すればよい。ただし本実施形態は、これに限定されるものではない。更に、境界全域に薄膜を設けることにより、回折格子21、31の互いの密着性を向上させることもできる。格子面と格子壁面の屈折率、膜厚が異なってもよいため、製造方法に応じて格子面の反射防止機能と格子壁面のフレア低減機能を任意に設計することができる。
なお本実施形態では、回折格子21を構成する材料の屈折率n2よりも回折格子31を構成する材料の屈折率n3のほうが小さい場合(n2>n3)を例として説明している。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。n3>n2の場合には、回折格子の格子形状の向きが逆になるのみであるため、格子壁面による不要光の影響は同様となる。
図4は、本実施形態における回折光学素子1を有する光学系の概略図である。図4の光学系は、カメラなどの撮像装置に適用可能な、回折光学素子1を備えた望遠タイプの撮影光学系であり、第2面に回折面が設けられている。図4の光学系は、その内部に絞り40および回折光学素子1を有する。絞り40は、回折光学素子1に光が入射する入射側とは反対の出射側、すなわち回折光学素子1よりも後側(像面側)に配置されている。41は、結像面であるフィルムまたはCCDやCMOSなどの光電変換素子(撮像素子)である。
このような光学系に本実施形態の回折光学素子1を適用すれば、撮影光の不要光が低減され、かつ画面外から光束が入射した場合の、結像面に到達する不要光が低減されているため、フレアが少ない撮影レンズが得られる。図4では、前玉のレンズの貼り合せ面に回折光学素子1を設けているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。回折光学素子1は、光学系の内部に配置してもよく、または、レンズ表面に設けてもよい。また、撮影レンズ内に複数の回折光学素子1を設けてもよい。なお、回折光学素子1が適用可能な光学系は、図4に示される撮影光学系に限定されるものではない。本実施形態の光学系は、ビデオカメラの撮影レンズ、イメージスキャナや複写機のリーダーレンズなどの広波長域で使用される結像光学系、双眼鏡や望遠鏡などの観察光学系、または、光学式ファインダにも適用可能である。また、回折光学素子1を含む光学系が適用可能な装置も撮像装置に限定されるものではなく、広く光学機器に適用可能である。以下、本実施形態の回折光学素子1の具体例について、実施例1〜6において説明する。
まず、本発明の実施例1における回折光学素子について説明する。本実施例において、回折格子21はZrO2微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂、回折格子31はITO微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂からそれぞれ構成されている。格子高さdは10.79μm、設計次数は+1次である。薄膜11は、Al2O3の薄膜から構成され、積層面である格子壁面に垂直な方向の厚さまたは幅Wは360nmである。また、薄膜11の波長400nmから700nmの帯域における消衰係数は、0.0003以下である。具体的には、薄膜11の消衰係数は、波長400nmの光に対して最大となり、その値は0.0002である。
表1は、本実施例における回折光学素子の波長λ(nm)ごとの各パラメータおよび各式の数値を示している。n1、n2、n3は、それぞれ、波長λごとの薄膜11を構成する材料の屈折率、回折格子21を構成する材料の屈折率、および、回折格子31を構成する材料の屈折率である。d(μm)は格子高さ、W(nm)は薄膜11の膜幅、Δは式(6)で表される比屈折率差、a’は式(17)で表される値である。WC,TE(nm)、WC,TE(nm)はそれぞれ、式(10)、(11)で表されるTE偏光のカットオフ幅およびTM偏光のカットオフ幅である。WC(nm)は、式(14)で表されるTE偏光のカットオフ幅とTM偏光のカットオフ幅との平均である。W/WCは、式(13)で表される値である。neq,TE、neq,TMはそれぞれ、式(18)、(19)で表されるTE偏光の等価屈折率およびTM偏光の等価屈折率である。neqは、式(23)で表されるTE偏光の等価屈折率とTM偏光の等価屈折率との平均としての等価屈折率である。(neq−n2)d/λは、式(22)で表される、平均の等価屈折率neqと回折格子21の高屈折率材料の屈折率n2との位相差である。
図5は、本実施例における回折光学部の拡大断面図である。図6は、本実施例において、図4の光学系に関する設計入射角度(撮影光入射角度)の不要光の影響の説明図である。図5および図6において、光軸Oに対して入射する撮影光束A、A’は、基板レンズ2を通過した後、それぞれ光軸Oから上方向に数えてm番目、下方向に数えてm番目の回折格子であるm格子とm’格子にそれぞれ入射する。撮影光束A、A’のm格子、m’格子に対しての入射角度は、重心光線方向である。また、格子壁面1b、1b’の方向は、重心光線方向と等しい。
図6において、撮影光束Aのm格子から射出する+1次回折光はAm1、0次回折光はAm0、+2次回折光はAm2、撮影光束A’のm’格子から射出する+1次回折光はA’m1、0次回折光はA’m0、+2次回折光はA’m2として示されている。設計次数である+1次回折光Am1、A’m1は、結像面41に結像される。一方、設計次数−1次である0次回折光Am0、A’m0は、結像面41の像側に結像する。設計次数+1次である+2次回折光Am2、A’m2は、結像面41の物体側に結像する。結像面でのスポットサイズが設計次数から離れるほどぼけるため、不要光が目立ちにくくなる。すなわち、設計入射角度(撮影光入射角度)における不要光に関し、設計次数±1次の回折光の回折効率が最も大きく影響を受ける。
図7は、本実施例における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次回折光、0次回折光、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図7は、図3に示される設計入射角度(撮影光入射角度)である入射光束aと図5および図6の入射光束Aを想定して、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。図7(a)〜(c)はそれぞれ、設計次数である+1次回折光、0次回折光、+2次回折光のTE偏光およびTM偏光の回折効率を示している。回折角は、図3の下向きを正の方向としている。
図8は、比較例としての回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次回折光、0次回折光、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図8は、薄膜11を有しない以外、図1と同様の構成を有する回折光学素子(DOE)を用いた場合における、図7に相当する比較例としてのグラフである。薄膜を設けていない回折格子と比較して、可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光の+1次回折光の回折効率は向上し、0次回折光および+2次回折光の回折効率は低減する。なお、0次回折光および+2次回折光の回折効率の数値自体は低い数値であるが、高輝度光源、小絞り、長時間露光等の撮影時には不要光として影響してくるため、本実施例の効果は大きい。
図9は、図4の光学系に関する斜入射角度(画面外光入射角度)の不要光の影響の説明図である。図5において、画面外光束B,B’のm格子、m’格子に対しての入射角度はそれぞれ、重心光線方向に対して角度ωi、ωi’である。図10は、回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図10は、図3に示される画面外入射光束bと図5および図9に示される入射光束Bを想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。入射角は、図3の下向きを正の方向としている。
図10は、縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。+10度付近の数値が表示範囲を超えているのは、設計次数である+1次回折光付近での回折効率であるため回折効率の数値が高いためである。設計次数である+1次回折光の回折効率が集中しているが、+1次回折光は結像面に到達しないため、その影響は小さい。図10(a)〜(c)は、波長400nm、550nm、700nmのそれぞれのTE偏光およびTM偏光の結果である。図10に示されるように、不要光は特定角度方向にピークを有する不要光となって伝播する。この不要光は、略−10度方向にピークを有し、この伝播方向は格子壁面に入射する画面外入射角度+10度光束の成分が全反射して伝播する射出方向−10度方向と略等しい。図11は、比較例としての回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。図11は、薄膜11を有しない以外、図3と同様の構成を有する回折光学素子を用いた場合の、図10に相当する比較例としてのグラフを示している。
画面外光+10度入射の不要光のうち、設計入射角度の+1次回折光の回折角+0.19度付近に射出する不要光が像面に到達することになる(図9のBm)。回折光学素子の後段の光学系により、画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数および回折角度は異なる(図9ではBm〜Bm+)。しかし、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折光は像面に到達するため、像性能の低下を招く。図10に示される−10度方向の不要光ピーク角度は、図11と略同一である。しかしが、不要光の広がりは図10と図11とで互いに異なり、図10の回折角+0.19度付近の回折効率は、薄膜を設けていない回折格子と比較して可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光がいずれも低減している。本実施例において、不要光は、格子壁面付近に入射する光束bの一部は、薄膜11の内部に閉じ込められ、光導波路のように伝播し、これらの光束が射出後に干渉する結果、像面に到達する光束が比較例よりも減少していると考えられる。
図12は、本実施例における回折光学素子の画面外入射−10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図12は、図3に示される入射光束cと図5および図9に示す入射光束B’とを想定して、入射角度−10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。入射角は、図3の下向きを正の方向としている(図5のm’格子では上向きが正の方向となる)。図12は、縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について示した結果である。−10度付近の数値が表示範囲を超えているのは、設計次数である+1次回折光付近での回折効率の数値が高いためである。設計次数である+1次回折光の回折効率が集中しているが、+1次回折光は結像面に到達しないため、その影響は小さい。図12(a)〜(c)は、波長400nm、550nm、700nmのそれぞれのTE偏光およびTM偏光の結果である。
図13は、比較例としての回折光学素子の画面外入射−10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。図13は、薄膜11を有しない以外、図3と同様の構成を有する回折光学素子を用いた場合の、図12に相当する比較例としてのグラフである。不要光は、図12に示されるように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播する。図13と比較すると、+方向の不要光のピークは増加し、−方向の不要光のピークは減少している。これは、格子壁面に設けた薄膜により、低屈折率媒質側から格子壁面に入射した光束の一部が反射することで+方向の不要光が増加し、−方向の透過に起因する不要光が減少していることを意味している。図4および図9に示される光学系において、設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.19度に略一致する画面外光による不要光の回折光は、比較例に比べて増加している。しかし、回折効率の数値が極めて小さく、また、m格子による影響のほうが大きいため、像性能の低下に対しての影響は小さい。
このように、本実施例の回折光学素子を適用した光学系において、不要光の影響が小さいm’格子の不要光の増加を影響ない程度に抑制し、不要光の影響が大きいm格子の不要光を大幅に減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。なお本実施例では、格子ピッチを100μmとしている。また、格子ピッチの広い輪帯においては、壁面の寄与が小さくなるため、設計次数の回折効率は相対的に高く、不要光の回折効率は相対的に低くなる。また、図示していないが、不要光の伝播方向には格子ピッチに依存せず、伝播方向は同じである。このため、基準の一つとして、格子ピッチ100μmの回折効率を示している。
また本実施例において、画面外光束B,B’の入射角は、画面外+10度(光軸方向に対しては入射角ωは+13.16度)を想定している。この入射角度より小さい角度ではレンズ表面や結像面反射によるゴーストやレンズ内部、表面微小凹凸による散乱が多いため、回折光学素子の不要光は比較的目立たない。一方、この入射角度より大きい角度では、前側レンズ面の反射やレンズ鏡筒による遮光により回折光学素子の不要光の影響度は比較的小さい。このため、画面外入射光束は、+10度付近が回折光学素子の不要光に対して最も影響が大きく、本実施例では画面外光束の入射角は略+10度を想定している。
次に、本発明の実施例2における回折光学素子について説明する。本実施例の回折光学素子において、薄膜11の材料は実施例1と同様であり、薄膜11の幅Wは450nmである。回折光学素子の他の構成は、実施例1と同様である。表2は、表1と同様に、本実施例における回折光学素子の波長λ(nm)ごとの各パラメータおよび各式の数値を示している。
図14は、本実施例における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次、0次、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図14は、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。薄膜を設けていない回折格子と比較して、可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光の両方に関する+1次回折光の回折効率は向上し、0次回折光および+2次回折光の回折効率は低減している。
図15は、本実施例における回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図15は、入射角度+10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。TE偏光およびTM偏光の両方に関する回折角+0.19度付近の回折効率は、薄膜を設けていない回折格子と比較して、可視波長帯域全域において低減している。
次に、本発明の実施例3における回折光学素子について説明する。本実施例の回折光学素子において、薄膜11の材料は実施例1と同様であり、薄膜11の幅Wは300nmである。回折光学素子の他の構成は、実施例1と同様である。表3は、表1と同様に、本実施例における回折光学素子の波長λ(nm)ごとの各パラメータおよび各式の数値を示している。
波長600nm以上において、薄膜11の幅Wは、TE偏光の場合には式(10)、TM偏光の場合には式(11)の単一モードのカットオフ幅未満になる。このため、式(7)、(8)は解を持たず、等価屈折率を求めることができない。
図16は、本実施例における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次、0次、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図16は、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。薄膜を設けていない回折格子と比較して、可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光の両方に関する+1次回折光の回折効率は向上し、0次回折光および+2次回折光の回折効率は低減している。
図17は、本実施例における回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図17は、入射角度+10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。TE偏光およびTM偏光の両方に関する回折角+0.19度付近の回折効率は、薄膜を設けていない回折格子と比較して、可視波長帯域全域において低減している。
続いて、本実施例の効果をより明確に示すため、比較例を用いて説明する。図18は、比較例としての回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次回折光の回折効率のグラフである。図18は、特許文献2に開示された回折光学素子に相当し、式(6)の比屈折率差Δが0.045の場合に薄膜の膜幅を変化させたときの入射角度0度の+1次回折光の回折効率のRCWA計算結果を示している。この回折光学素子は、波長550nmにおいて、n1=1.70135、n2=1.62298、n3=1.57243、Δ/λ=0.0818の特性を有する。図18は、格子ピッチ100μm、波長400nm、550nm、700nmのそれぞれの結果を示している。+1次回折光の回折効率が最も高くなる膜幅は、波長および偏光の両方に応じて異なり、波長依存性および偏光依存性が高い。例えば、波長700nmのTM偏光のピークの膜幅200〜220nmは、波長400nmのTE偏光では極めて低くなっている。
図19は、比較例としての回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図19は、式(6)の比屈折率差Δが0.045の場合に、薄膜の膜幅120nmのとき(W/Wc=0.99)の入射角度+10度におけるRCWA計算結果を示している。波長400nm、550nmと比較して、波長700nmの回折角+0.19度付近の回折効率および波長依存性が高く、また、TE偏光とTM偏光の偏光依存性も大きい。その結果、フレアの色付きが大きくなる。
図20は、比較例としての回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次回折光の回折効率のグラフである。図20は、特許文献1に開示された回折光学素子に相当し、式(6)の比屈折率差Δが0.005の場合に薄膜の膜幅を変化させたときの、入射角度0度の+1次回折光の回折効率のRCWA計算結果を示している。この回折光学素子は、波長550nmにおいて、n1=1.63116、n2=1.62298、n3=1.57243、Δ/λ=0.0091の特性を有する。図20は、格子ピッチ100μm、波長400nm、550nm、700nmのそれぞれの結果を示している。図18と比較して、偏光依存性が小さくなっている。これは、非対称3層平板導波路の偏光依存性が、式(6)の比屈折率差Δに依存するためである。このため、比屈折率差Δが小さい場合、導波モードの等価屈折率の偏光依存性が小さく、回折光学素子に適用した場合にも偏光依存性が小さくなる。
図21は、比較例としての回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図21は、式(6)の比屈折率差Δが0.005の場合に薄膜11の幅が700nmのとき(W/Wc=1.09)の入射角度+10度におけるRCWA計算結果を示している。波長400nm、550nm、700nmのいずれの場合でも、回折角+0.19度付近の回折効率は十分小さい値になっていない。
図22は、比較例としての回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長550nmの回折効率のグラフである。すなわち図22は、薄膜の膜幅を変化させた場合の、入射角度+10度の波長550nm、TE偏光におけるRCWA計算結果を示している。比屈折率差Δが小さい場合、膜幅を変化させても回折効率が小さい値が得られない。これは、比屈折率差Δが小さいと導波路の閉じ込め係数が小さくなるため、設計回折光である+1次光と−格子壁面で反射し、−10deg方向に伝搬するフレア光とを分離することができなくなるためと考えられる。
図23は、実施例1〜3における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図23は、実施例1〜3の各屈折率、格子高さで薄膜の膜幅を変化させた場合の、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおける波長400nm、550nm、700nmの+1次回折光の回折効率のRCWA計算結果を示している。図18と比較して、波長依存性および偏光依存性が低減している。また、入射角度+10度の結果は、実施例1〜3の図10、図15、図17に示されるように、図21および図22と比較して、回折角+0.19度付近の回折効率が低い値となっている。このため、斜入射角度による不要光のうち、結像面に到達する不要光を低減させることができ、かつ波長依存性および偏光依存性を低減することが可能である。
次に、本発明の実施例4における回折光学素子について説明する。本実施例の回折光学素子は、薄膜11の屈折率n1および幅Wに関し、実施例1〜3の回折光学素子と異なる。本実施例の回折光学素子において、薄膜11はAl2O3とZrO2の混合材料の薄膜から構成され、積層面である格子壁面に垂直な方向の厚さまたは幅Wは160nmである。また、薄膜11の波長400nmから700nmの帯域における消衰係数は、0.0003以下である。具体的には、薄膜11の消衰係数は、波長400nmの光に対して最大となり、その値は0.0002である。
回折光学素子の他の構成は、実施例1〜3と同様である。表4は、表1と同様に、本実施例における回折光学素子の波長λ(nm)ごとの各パラメータおよび各式の数値を示している。
波長650nm以上において、薄膜11の幅Wは、TE偏光の場合には式(10)、TM偏光の場合には式(11)の単一モードのカットオフ幅未満になる。このため、式(7)、(8)は解を持たず、等価屈折率を求めることができない。
図24は、本実施例における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次、0次、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図24は、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。従来の回折光学素子と比較して、可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光の両方に関する+1次回折光の回折効率は向上し、0次回折光および+2次回折光の回折効率は低減している。
図25は、本実施例における回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図25は、入射角度+10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。TE偏光およびTM偏光の両方に関する回折角+0.19度付近の回折効率は、従来の回折光学素子と比較して、可視波長帯域全域において低減している。
次に、本発明の実施例5における回折光学素子について説明する。本実施例の回折光学素子は、薄膜11の屈折率n1および幅Wに関し、実施例1〜4の回折光学素子と異なる。本実施例の回折光学素子において、薄膜11はAl2O3の薄膜から構成され、積層面である格子壁面に垂直な方向の厚さまたは幅Wは400nmである。また、薄膜11の波長400nmから700nmの帯域における消衰係数は、0.0003以下である。具体的には、薄膜11の消衰係数は、波長400nmの光に対して最大となり、その値は0.0002である。回折光学素子の他の構成は、実施例1〜4と同様である。表5は、表1と同様に、本実施例における回折光学素子の波長λ(nm)ごとの各パラメータおよび各式の数値を示している。
図26は、本実施例における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次、0次、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図26は、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。従来の回折光学素子と比較して、可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光の両方に関する+1次回折光の回折効率は向上し、0次回折光および+2次回折光の回折効率は低減している。
図27は、本実施例における回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図27は、入射角度+10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。TE偏光およびTM偏光の両方に関する回折角+0.19度付近の回折効率は、従来の回折光学素子と比較して、可視波長帯域全域において低減している。
次に、本発明の実施例6における回折光学素子について説明する。本実施例の回折光学素子は、回折格子および薄膜の屈折率n1および幅Wに関し、実施例1〜5の回折光学素子と異なる。
本実施例の回折光学素子において、回折格子21はZrO2微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂、回折格子31はITO微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂からそれぞれ構成されている。材料の屈折率は実施例1〜4の材料より高い材料で構成され、格子高さdは実施例1〜4と同等の10.80μm、設計次数は+1次である。薄膜11はAl2O3とLa2O3の化合物材料の薄膜から構成され、積層面である格子壁面に垂直な方向の厚さまたは幅Wは340nmである。実施例1と比較して回折格子の材料の屈折率、薄膜の材料の屈折率がともに高く、且つΔが同等の場合である。また、薄膜11の波長400nmから700nmの帯域における消衰係数は、0.0003以下である。具体的には、薄膜11の消衰係数は、波長400nmの光に対して最大となり、その値は0.0003である。表6は、表1と同様に、本実施例における回折光学素子の波長λ(nm)ごとの各パラメータおよび各式の数値を示している。
波長700nmにおいて、薄膜11の幅Wは、TE偏光の場合には式(10)、TM偏光の場合には式(11)の単一モードのカットオフ幅未満になる。このため、式(7)、(8)は解を持たず、等価屈折率を求めることができない。
図29は、本実施例における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次、0次、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図29は、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。図30は、比較例としての薄膜11を有しない以外、図1と同様の構成を有する回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次、0次、+2次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図29に相当する比較例としてのグラフである。薄膜を設けていない回折格子と比較して、可視波長帯域全域において、TE偏光およびTM偏光の両方に関する+1次回折光の回折効率は向上し、0次回折光および+2次回折光の回折効率は低減している。
図31は、本実施例における回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。すなわち図31は、入射角度+10度、格子ピッチ100μmにおけるRCWA計算結果を示している。図32は、比較例としての薄膜11を有しない以外、図1と同様の構成を有する回折光学素子の画面外入射+10度光束に対する波長400nm、550nm、700nmの回折効率のグラフである。不要光の広がりは、図31と図32とで互いに異なり、図31のTE偏光およびTM偏光のそれぞれに関する回折角+0.19度付近の回折効率は、図32(薄膜を設けていない回折格子の回折効率)と比較して、可視波長帯域全域において低減している。
図33は、実施例6における回折光学素子の設計入射角度光束に対する+1次回折光の回折効率のグラフである。すなわち図33は、実施例6の各屈折率、格子高さで薄膜の膜幅を変化させた場合の、入射角度0度、格子ピッチ100μmにおける波長400nm、550nm、700nmの+1次回折光の回折効率のRCWA計算結果を示している。実施例1〜3で示した図23と同様に、波長依存性および偏光依存性が低減している。
実施例6は比較例との関係も実施例1と同等であることがわかる。実施例6は、実施例1と比較して、回折格子の材料の屈折率、薄膜の材料の屈折率がともに高く、かつ比屈折率差Δが同等である。このため、波長依存性および偏光依存性を低減する回折光学素子は回折格子の屈折率、薄膜の屈折率の絶対値ではなく、比屈折率差Δに依存していることがわかる。
ただし、図23と図33とを比較すると、波長依存性は図23のほうが低いことがわかる。このため、薄膜および回折格子の材料の屈折率より低い組み合せのほうが波長依存性がより低く、より好ましい構成であることがわかる。
各実施例の回折光学素子によれば、設計入射角度で入射する光束の設計次数の回折効率を向上し、設計次数±1次の回折効率を低減させ、かつ斜入射角度(画面外光入射角度)で入射する光束による不要光のうち、結像面に到達する不要光を低減させることができる。更に各実施例によれば、波長依存性および偏光依存性を低減して所望の波長特性および偏光特性を有する回折光学素子、光学系、および、光学機器を提供することができる。
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。