JP2016183082A - 炭素膜の製造方法および炭素膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】自立性に優れる炭素膜を製造する方法および自立性に優れる炭素膜を提供する。
【解決手段】複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離し、複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程と、遠心分離した繊維状炭素ナノ構造体分散液から上澄み液を分取する工程と、上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を形成する工程とを含む、炭素膜の製造方法。また、当該製造方法を用いて製造される、炭素膜。
【選択図】なし

Description

本発明は、炭素膜の製造方法および炭素膜に関し、特には、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体の集合体よりなる炭素膜の製造方法およびその製造方法を用いて製造される炭素膜に関するものである。
近年、導電性、熱伝導性および機械的特性に優れる材料として、繊維状炭素材料、特にはカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)等の繊維状炭素ナノ構造体が注目されている。
しかし、CNT等の繊維状炭素ナノ構造体は直径がナノメートルサイズの微細な構造体であるため、単体では取り扱い性や加工性が悪い。そこで、例えば、複数本のCNTを膜状に集合させて「バッキーペーパー」と称されることもあるカーボンナノチューブ膜(以下、「CNT膜」と称することがある。)を形成し、当該CNT膜を導電膜などとして用いることが提案されている。具体的には、溶媒とCNTとを含むカーボンナノチューブ分散液からろ過および乾燥などの手段を用いて溶媒を除去することにより成膜したCNT膜を、太陽電池やタッチパネルなどの電極を構成する部材(例えば、導電膜や触媒層など)として用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
そして、上述したCNT膜などの、繊維状炭素ナノ構造体を膜状に集合させてなる炭素膜は、導電性、熱伝導性および機械的特性に優れる膜状材料として注目されている。
特開2010−105909号公報
しかし、溶媒中にCNT等の繊維状炭素ナノ構造体を分散させてなる繊維状炭素ナノ構造体分散液から溶媒を除去することにより炭素膜を製造する方法では、得られる炭素膜の強度が不足し、炭素膜が良好な自立膜として得られない場合があった。
そこで、本発明は、自立性に優れる炭素膜を製造する方法および自立性に優れる炭素膜を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、溶媒中に繊維状炭素ナノ構造体を分散させてなる繊維状炭素ナノ構造体分散液そのものから溶媒を除去して炭素膜を製造するのではなく、分散剤の存在下で溶媒中に繊維状炭素ナノ構造体を分散させてなる繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離に供した後、繊維状炭素ナノ構造体を含む上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を製造することにより自立性に優れる炭素膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の炭素膜の製造方法は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離し、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程と、遠心分離した繊維状炭素ナノ構造体分散液から上澄み液を分取する工程と、前記上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。このように、分散剤を含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離に供して繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させた後、沈殿しなかった繊維状炭素ナノ構造体を含む上澄み液を分取し、分取した上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を製造すれば、自立性に優れる炭素膜が得られる。
ここで、本発明の炭素膜の製造方法では、ろ過により前記上澄み液から溶媒を除去することが好ましい。ろ過により溶媒を除去すれば、溶媒を容易かつ迅速に除去し、自立性に優れる炭素膜を効率的に製造することができる。
また、本発明の炭素膜の製造方法は、溶媒中に複数本の繊維状炭素ナノ構造体および分散剤を添加してなる粗分散液をキャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供し、前記繊維状炭素ナノ構造体分散液を得る工程を更に含むことが好ましい。粗分散液をキャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供して得た繊維状炭素ナノ構造体分散液を使用すれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
更に、本発明の炭素膜の製造方法では、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体は、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが、関係式:0.20<(3σ/Av)<0.60を満たすことが好ましい。平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
また、本発明の炭素膜の製造方法では、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体は、BET比表面積が400m2/g以上であることが好ましい。BET比表面積が400m2/g以上の繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
そして、本発明の炭素膜の製造方法では、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含むことが好ましい。カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の炭素膜は、上述した炭素膜の製造方法の何れかを用いて製造されることを特徴とする。上述した炭素膜の製造方法を用いれば、自立性に優れる炭素膜が得られる。
本発明によれば、自立性に優れる炭素膜を製造する方法および自立性に優れる炭素膜を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の炭素膜の製造方法は、複数本の炭素ナノ構造体を膜状に集合させて炭素膜を製造する方法であり、本発明の炭素膜の製造に用いられる。
(炭素膜の製造方法)
本発明の炭素膜の製造方法は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離し、複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程(遠心分離工程)と、遠心分離工程で遠心分離した繊維状炭素ナノ構造体分散液から上澄み液を分取する工程(分取工程)と、分取工程で得た上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を形成する工程(膜形成工程)とを含むことを大きな特徴の一つとする。なお、本発明の炭素膜の製造方法は、溶媒中に複数本の繊維状炭素ナノ構造体および分散剤を添加してなる粗分散液を分散処理に供して繊維状炭素ナノ構造体分散液を得る工程(分散液調製工程)を遠心分離工程の前に含んでいてもよい。
そして、本発明の炭素膜の製造方法によれば、自立性に優れる炭素膜が得られる。
なお、本発明の炭素膜の製造方法により自立性に優れる炭素膜が得られる理由は、明らかではないが、分散剤の存在下で溶媒に分散している複数本の繊維状炭素ナノ構造体の中から遠心分離および上澄み液の分取により特に分散性に優れている繊維状炭素ナノ構造体を抜き出し、当該分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体のみを用いて炭素膜を形成しているためであると推察される。即ち、繊維状炭素ナノ構造体分散液から炭素膜を直接形成した場合には凝集した繊維状炭素ナノ構造体などに起因して均一で強度に優れる炭素膜を形成することができず、自立性に優れる炭素膜を得ることができない。しかし、分散剤の存在下で溶媒に分散させた複数本の繊維状炭素ナノ構造体の中から特に分散性に優れている繊維状炭素ナノ構造体を抜き出して炭素膜を形成すれば、均一で強度に優れる炭素膜を形成し、自立性に優れる炭素膜を得ることができると推察される。
<分散液調製工程>
ここで、遠心分離工程の前に任意に実施される分散液調製工程では、溶媒中に複数本の繊維状炭素ナノ構造体および分散剤を添加してなる粗分散液を分散処理に供して、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を得る。
なお、本発明の炭素膜の製造方法では、分散液調製工程を実施することなく、分散剤の存在下で複数本の繊維状炭素ナノ構造体を溶媒に分散させてなる市販の繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いて後述する遠心分離工程を実施してもよいが、所望の自立性および強度を有する炭素膜を容易に得る観点からは、分散液調製工程を実施して調製した繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いることが好ましい。
[繊維状炭素ナノ構造体]
そして、粗分散液および繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製に用いられる複数本の繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、複数本の繊維状炭素ナノ構造体としては、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いて得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
ここで、繊維状炭素ナノ構造体として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(CNT)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
そして、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して繊維状炭素ナノ構造体分散液中での繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、得られる炭素膜の強度を十分に高めることができる。従って、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)を上記範囲内とすれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが100μm以上5000μm以下であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時に破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、400m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることが更に好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1200m2/g以下であることが更に好ましい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が400m2/g以上であれば、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m2/g以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体分散液中での繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
ここで、上述したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、繊維状炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm3以上0.2g/cm3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm3以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、繊維状炭素ナノ構造体分散液中で繊維状炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm3以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、複数の微小孔を有することが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体は、中でも、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有するのが好ましく、その存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積で、好ましくは0.40mL/g以上、より好ましくは0.43mL/g以上、更に好ましくは0.45mL/g以上であり、上限としては、通常、0.65mL/g程度である。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体が上記のようなマイクロ孔を有することで、繊維状炭素ナノ構造体の凝集が抑制され、得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。なお、マイクロ孔容積は、例えば、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の調製方法および調製条件を適宜変更することで調整することができる。
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の液体窒素温度(77K)での窒素吸脱着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。なお、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cm3である。マイクロ孔容積は、例えば、「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を使用して求めることができる。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。中でも、CNTの開口処理が施されておらず、t−プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。なお、「t−プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットが得られる(de Boerらによるt−プロット法)。
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)〜(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)〜(3)の過程によって、t−プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
そして、上に凸な形状を示すt−プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt−プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、t−プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、400m2/g以上2500m2/g以下であることが好ましく、800m2/g以上1200m2/g以下であることが更に好ましい。一方、S2は、30m2/g以上540m2/g以下であることが好ましい。
ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt−プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
因みに、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t−プロットの作成、および、t−プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
そして、上述したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
なお、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
ここで、GNTは、その合成時から内壁同士が近接または接着したテープ状部分が全長に亘って形成されており、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成された物質であると推定される。そして、GNTの形状が扁平筒状であり、かつ、GNT中に内壁同士が近接または接着したテープ状部分が存在していることは、例えば、GNTとフラーレン(C60)とを石英管に密封し、減圧下で加熱処理(フラーレン挿入処理)して得られるフラーレン挿入GNTを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、GNT中にフラーレンが挿入されない部分(テープ状部分)が存在していることから確認することができる。
そして、GNTの形状は、幅方向中央部にテープ状部分を有する形状であることが好ましく、延在方向(軸線方向)に直行する断面の形状が、断面長手方向の両端部近傍における、断面長手方向に直交する方向の最大寸法が、いずれも、断面長手方向の中央部近傍における、断面長手方向に直交する方向の最大寸法よりも大きい形状であることがより好ましく、ダンベル状であることが特に好ましい。
ここで、GNTの断面形状において、「断面長手方向の中央部近傍」とは、断面の長手中心線(断面の長手方向中心を通り、長手方向線に直交する直線)から、断面の長手方向幅の30%以内の領域をいい、「断面長手方向の端部近傍」とは、「断面長手方向の中央部近傍」の長手方向外側の領域をいう。
なお、非円筒形状の炭素ナノ構造体としてGNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、触媒層を表面に有する基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成する際に、触媒層を表面に有する基材(以下、「触媒基材」と称することがある。)を所定の方法で形成することにより、得ることができる。具体的には、GNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、アルミニウム化合物を含む塗工液Aを基材上に塗布し、塗布した塗工液Aを乾燥して基材上にアルミニウム薄膜(触媒担持層)を形成した後、アルミニウム薄膜の上に、鉄化合物を含む塗工液Bを塗布し、塗布した塗工液Bを温度50℃以下で乾燥してアルミニウム薄膜上に鉄薄膜(触媒層)を形成することで得た触媒基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成することで得ることができる。
[分散剤]
そして、分散液の調製に用いる分散剤としては、繊維状炭素ナノ構造体を分散可能であり、繊維状炭素ナノ構造体を分散させる溶媒に溶解可能であれば、特に限定されることなく、界面活性剤、合成高分子または天然高分子を用いることができる。
ここで、界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、合成高分子としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
更に、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩または誘導体が挙げられる。
そして、これらの分散剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
[溶媒]
また、粗分散液および繊維状炭素ナノ構造体分散液の溶媒(繊維状炭素ナノ構造体の分散媒)としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
[粗分散液]
そして、粗分散液は、特に限定されることなく、上述した繊維状炭素ナノ構造体と、上述した分散剤と、上述した溶媒とを既知の方法で混合することにより得ることができる。なお、繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とは任意の順序で混合することができ、例えば、繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、分散剤と溶媒との混合溶液中に繊維状炭素ナノ構造体を添加して混合してもよい。また、粗分散液には、上述した成分以外に、繊維状炭素ナノ構造体分散液および炭素膜の製造に一般に用いられる添加剤を更に添加してもよい。
[分散処理]
また、粗分散液に分散処理を施して繊維状炭素ナノ構造体分散液を調製する際の分散処理方法としては、特に限定されることなく、繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製に使用されている既知の分散処理方法を用いることができる。中でも、粗分散液に施す分散処理としては、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理が好ましい。キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理を使用すれば、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができるので、繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いて得られる炭素膜の強度および自立性を更に高めることができる。
[[キャビテーション効果が得られる分散処理]]
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。この分散方法を用いることにより、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができる。
そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行なってもよく、複数の分散処理を組み合わせて行なってもよい。より具体的には、例えば超音波ホモジナイザー、ジェットミルおよび高剪断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
繊維状炭素ナノ構造体の分散に超音波ホモジナイザーを用いる場合には、粗分散液に対し、超音波ホモジナイザーにより超音波を照射すればよい。照射する時間は、繊維状炭素ナノ構造体の量等により適宜設定すればよく、例えば、3分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、また、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。また、例えば、出力は20W以上500W以下が好ましく、100W以上500W以下がより好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
また、ジェットミルを用いる場合、処理回数は、繊維状炭素ナノ構造体の量等により適宜設定すればよく、例えば、2回以上が好ましく、100回以下が好ましく、50回以下がより好ましい。また、例えば、圧力は20MPa以上250MPa以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
さらに、高剪断撹拌を用いる場合には、粗分散液に対し、高剪断撹拌装置により撹拌および剪断を加えればよい。旋回速度は速ければ速いほどよい。例えば、運転時間(機械が回転動作をしている時間)は3分以上4時間以下が好ましく、周速は5m/秒以上50m/秒以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
なお、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理は、50℃以下の温度で行なうことがより好ましい。溶媒の揮発による濃度変化が抑制されるからである。
[[解砕効果が得られる分散処理]]
また、解砕効果が得られる分散処理は、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散できることは勿論、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理に比べ、気泡が消滅する際の衝撃波による繊維状炭素ナノ構造体の損傷を抑制することができる点で有利である。
この解砕効果が得られる分散処理では、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷し、また必要に応じ、粗分散液を冷却することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散させることができる。
なお、粗分散液に背圧を負荷する場合、粗分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
ここに、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体をさらに分散させるには、例えば、以下のような構造の分散器を有する分散システムを用いればよい。
すなわち、分散器は、粗分散液の流入側から流出側に向かって、内径がd1の分散器オリフィスと、内径がd2の分散空間と、内径がd3の終端部と(但し、d2>d3>d1である。)、を順次備える。
そして、この分散器では、流入する高圧(例えば10〜400MPa、好ましくは50〜250MPa)の粗分散液が、分散器オリフィスを通過することで、圧力の低下を伴いつつ、高流速の流体となって分散空間に流入する。その後、分散空間に流入した高流速の粗分散液は、分散空間内を高速で流動し、その際にせん断力を受ける。その結果、粗分散液の流速が低下すると共に、繊維状炭素ナノ構造体が良好に分散する。そして、終端部から、流入した粗分散液の圧力よりも低い圧力(背圧)の流体が、繊維状炭素ナノ構造体の分散液として流出することになる。
なお、粗分散液の背圧は、粗分散液の流れに負荷をかけることで粗分散液に負荷することができ、例えば、多段降圧器を分散器の下流側に配設することにより、粗分散液に所望の背圧を負荷することができる。
そして、粗分散液の背圧を多段降圧器により多段階で降圧することで、最終的に繊維状炭素ナノ構造体の分散液を大気圧に開放した際に、分散液中に気泡が発生するのを抑制できる。
また、この分散器は、粗分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。というのは、分散器でせん断力を与えられて高温になった粗分散液を冷却することにより、粗分散液中で気泡が発生するのをさらに抑制できるからである。
なお、熱交換器等の配設に替えて、粗分散液を予め冷却しておくことでも、繊維状炭素ナノ構造体を含む溶媒中で気泡が発生することを抑制できる。
上記したように、この解砕効果が得られる分散処理では、キャビテーションの発生を抑制できるので、時として懸念されるキャビテーションに起因した繊維状炭素ナノ構造体の損傷、特に、気泡が消滅する際の衝撃波に起因した繊維状炭素ナノ構造体の損傷を抑制することができる。加えて、繊維状炭素ナノ構造体への気泡の付着や、気泡の発生によるエネルギーロスを抑制して、繊維状炭素ナノ構造体を均一かつ効率的に分散させることができる。
以上のような構成を有する分散システムとしては、例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)などがある。そして、解砕効果が得られる分散処理は、このような分散システムを用い、分散条件を適切に制御することで、実施することができる。
<遠心分離工程>
遠心分離工程では、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離し、複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる。そして、遠心分離工程では、凝集性の高い繊維状炭素ナノ構造体が沈殿し、分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体は上澄み液中に残存する。
[繊維状炭素ナノ構造体分散液]
ここで、繊維状炭素ナノ構造体分散液としては、特に限定されることなく、例えば上述した分散液調製工程で調製した繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いることができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の濃度は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の濃度が0.005質量%以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離して得られる上澄み液中の繊維状炭素ナノ構造体の濃度が低下するのを抑制して、炭素膜を効率的に製造することができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の濃度が5質量%以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して、強度および自立性に優れる炭素膜を得ることができる。
また、繊維状炭素ナノ構造体分散液の粘度は、1mPa・s以上であることが好ましく、2mPa・s以上であることがより好ましく、1000mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体分散液の粘度が1mPa・s以上1000mPa・s以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離して得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、強度および自立性に優れる炭素膜を得ることができる。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体分散液の粘度」は、JIS Z8803に準拠して、温度25℃で測定することができる。
更に、繊維状炭素ナノ構造体分散液中の分散剤の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。分散剤の濃度が0.1質量%以上10質量%以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離して得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、強度および自立性に優れる炭素膜を得ることができる。
[遠心分離]
また、繊維状炭素ナノ構造体分散液の遠心分離は、特に限定されることなく、既知の遠心分離機を用いて行うことができる。
中でも、得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、強度および自立性に優れる炭素膜を得る観点からは、繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離する際の遠心加速度は、2000G以上であることが好ましく、5000G以上であることがより好ましく、20000G以下であることが好ましく、15000G以下であることがより好ましい。
また、得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、強度および自立性に優れる炭素膜を得る観点からは、繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離する際の遠心分離時間は、20分間以上であることが好ましく、30分間以上であることがより好ましく、120分間以下であることが好ましく、90分間以下であることがより好ましい。
<分取工程>
分取工程では、遠心分離工程で遠心分離した繊維状炭素ナノ構造体分散液から上澄み液を分取する。そして、上澄み液の分取は、例えば、デカンテーションやピペッティングなどにより、沈殿層を残して上澄み液を回収することにより行うことができる。具体的には、例えば、遠心分離後の繊維状炭素ナノ構造体分散液の液面から5/6の深さまでの部分に存在する上澄み液を回収すればよい。
[上澄み液]
ここで、遠心分離後の繊維状炭素ナノ構造体分散液から分取した上澄み液には、遠心分離により沈殿しなかった繊維状炭素ナノ構造体が含まれている。そして、本発明の炭素膜の製造方法では、当該上澄み液に含まれている繊維状炭素ナノ構造体を用いて炭素膜を形成するので、強度および自立性に優れる炭素膜を得ることができる。
なお、強度および自立性に優れる炭素膜を効率的に得る観点からは、分光光度計を用いて測定した上澄み液の吸光度は、光路長:1mm、波長:1000nmにおいて、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。上澄み液の吸光度が0.1以上であれば、上澄み液中の繊維状炭素ナノ構造体の量を十分に確保し、炭素膜の製造効率が低下するのを抑制することができる。また、上澄み液の吸光度が5以下であれば、上澄み液中に含まれている分散性の高い繊維状炭素ナノ構造体の割合を高め、強度および自立性に優れる炭素膜を得ることができる。
<膜形成工程>
そして、膜形成工程では、分取工程で得た上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を形成する。具体的には、膜形成工程では、例えば下記(A)および(B)の何れかの方法を用いて上澄み液から溶媒を除去し、炭素膜を成膜する。
(A)上澄み液を成膜基材上に塗布した後、塗布した上澄み液を乾燥させる方法。
(B)多孔質の成膜基材を用いて上澄み液をろ過し、得られたろ過物を乾燥させる方法。
[成膜基材]
ここで、成膜基材としては、特に限定されることなく、製造する炭素膜の用途に応じて既知の基材を用いることができる。
具体的には、上記方法(A)において上澄み液を塗布する成膜基材としては、樹脂基材、ガラス基材などを挙げることができる。ここで、樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどよりなる基材を挙げることができる。また、ガラス基材としては、通常のソーダガラスよりなる基材を挙げることができる。
また、上記方法(B)において上澄み液をろ過する成膜基材としては、ろ紙や、セルロース、ニトロセルロース、アルミナ等よりなる多孔質シートを挙げることができる。
[塗布]
上記方法(A)において上澄み液を成膜基材上に塗布する方法としては、公知の塗布方法を採用できる。具体的には、塗布方法としては、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ロールナイフコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法などを用いることができる。
[ろ過]
上記方法(B)において成膜基材を用いて上澄み液をろ過する方法としては、公知のろ過方法を採用できる。具体的には、ろ過方法としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過などを用いることができる。
[乾燥]
上記方法(A)において成膜基材上に塗布した上澄み液または上記方法(B)において得られたろ過物を乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を採用できる。乾燥方法としては、風乾法、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温〜200℃、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、0.1〜150分である。
そして、上述した中でも、容易かつ迅速に溶媒を除去する観点からは、溶媒除去方法としては、上記方法(B)を用いることが好ましく、ろ過方法として減圧ろ過を採用した上記方法(B)を用いることが更に好ましい。
なお、膜形成工程では、上澄み液中の溶媒は完全に除去する必要はなく、溶媒の除去後に残った繊維状炭素ナノ構造体が膜状の集合体(炭素膜)としてハンドリング可能な状態であれば、多少の溶媒が残留していても問題はない。
そして、上澄み液から溶媒を除去して得た炭素膜は、特に限定されることなく、イソプロピルアルコール等のアルコールや、水などを用いて洗浄することができる。
また、成膜基材上に形成された炭素膜は、特に限定されることなく、エタノール等のアルコール中で成膜基材から剥離することができる。
更に、減圧ろ過を用いて溶媒を除去した場合には、減圧ろ過の終了後、任意に得られた炭素膜を洗浄した後で、炭素膜に空気を15分間以上通気させることが好ましい。炭素膜に空気を通気すれば、炭素膜を強化することができる。
(炭素膜)
そして、上述した炭素膜の製造方法を用いて製造される本発明の炭素膜は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体が膜状に集合したものであり、優れた自立性および強度を有している。そして、本発明の炭素膜は、特に限定されることなく、太陽電池やタッチパネルなどの導電膜として好適に用いることができる。
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」、「ppm」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
(実施例1)
<繊維状炭素ナノ構造体の調製>
特許第4621896号公報に記載のスーパーグロース法に従い、以下の条件において、繊維状炭素ナノ構造体としてのSGCNTを合成した。
・原料炭素化合物:エチレン;供給速度50sccm
・雰囲気:ヘリウム/水素混合ガス;供給速度1000sccm
・圧力:1大気圧
・水蒸気添加量:300ppm
・反応温度:750℃
・反応時間:10分
・金属触媒:鉄薄膜(厚さ1nm)
・基材:シリコンウェハー。
得られたSGCNTは、BET比表面積が1050m2/gであり、ラマン分光光度計での測定において、単層カーボンナノチューブに特長的な100〜300cm-1の低周波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のSGCNTの直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nmであり、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nmであり、比(3σ/Av)が0.58であった。
<繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製>
分散剤としてデオキシコール酸ナトリウム(DOC)を含む濃度2質量%のDOC水溶液500mLに対し、繊維状炭素ナノ構造体としてのSGCNTを1.0g加え、粗分散液を得た。そして、SGCNTおよび分散剤を含む粗分散液を、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)に充填し、100MPaの圧力で粗分散液の分散処理を行った。具体的には、背圧を負荷しつつ、粗分散液にせん断力を与えてSGCNTを分散させ、繊維状炭素ナノ構造体分散液としてのSGCNT分散液を得た。なお、分散処理は、高圧ホモジナイザーから流出した分散液を再び高圧ホモジナイザーに返送しつつ、10分間実施した。
そして、得られたSGCNT分散液の温度25℃における粘度をJIS Z8803に準拠して測定したところ、粘度は10mPa・sであった。
<炭素膜の形成>
作製したSGCNT分散液100gを、遠心加速度9000Gの条件にて60分間遠心分離した。そして、遠心分離したSGCNT分散液から上澄み液20gを分取した。この操作を5回繰り返すことにより、SGCNT分散液の上澄み液100gを得た。得られた上澄み液について分光光度計(日本分光製、V7200)で吸収スペクトルを測定したところ、光路長1mm、波長1000nmでの吸光度は0.97であった。
次いで、成膜基材としてのメンブレンフィルターを備えた減圧ろ過装置を用いて、0.09MPaの条件下にて上澄み液のろ過を実施し、メンブレンフィルター上に炭素膜を形成した。そして、上澄み液のろ過終了後、減圧を継続しつつ、イソプロピルアルコールおよび水のそれぞれを通過させることで、メンブレンフィルター上に形成された炭素膜を洗浄し、更に15分間空気を通過させた。その後、得られた炭素膜/メンブレンフィルターの積層体をエタノールに浸漬し、エタノール中で炭素膜をメンブレンフィルターから剥離することにより、炭素膜を得た。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた。即ち、実施例1では、優れた成膜性および自立性を有する炭素膜が得られた。
(実施例2)
炭素膜の形成時に、SGCNT分散液を遠心加速度5000Gの条件にて60分間遠心分離して得た上澄み液を使用した以外は実施例1と同様にして炭素膜を得た。なお、上澄み液の吸収スペクトルを実施例1と同様にして測定したところ、光路長1mm、波長1000nmでの吸光度は1.06であった。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた。即ち、実施例2では、優れた成膜性および自立性を有する炭素膜が得られた。
(実施例3)
炭素膜の形成時に、SGCNT分散液を遠心加速度15000Gの条件にて60分間遠心分離して得た上澄み液を使用した以外は実施例1と同様にして炭素膜を得た。なお、上澄み液の吸収スペクトルを実施例1と同様にして測定したところ、光路長1mm、波長1000nmでの吸光度は0.48であった。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた。即ち、実施例3では、優れた成膜性および自立性を有する炭素膜が得られた。
(実施例4)
炭素膜の形成時に、SGCNT分散液を遠心加速度9000Gの条件にて30分間遠心分離して得た上澄み液を使用した以外は実施例1と同様にして炭素膜を得た。なお、上澄み液の吸収スペクトルを実施例1と同様にして測定したところ、光路長1mm、波長1000nmでの吸光度は1.03であった。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた。即ち、実施例4では、優れた成膜性および自立性を有する炭素膜が得られた。
(実施例5)
炭素膜の形成時に、SGCNT分散液を遠心加速度9000Gの条件にて90分間遠心分離して得た上澄み液を使用した以外は実施例1と同様にして炭素膜を得た。なお、上澄み液の吸収スペクトルを実施例1と同様にして測定したところ、光路長1mm、波長1000nmでの吸光度は0.29であった。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた。即ち、実施例5では、優れた成膜性および自立性を有する炭素膜が得られた。
(実施例6)
繊維状炭素ナノ構造体を調製することなく、SGCNTに替えて市販の多層カーボンナノチューブ(Nanocyl社、NC7000)を使用した以外は実施例1と同様にして、繊維状炭素ナノ構造体分散液としての多層CNT分散液を調製した。なお、多層カーボンナノチューブ(NC7000)は、BET比表面積が270m2/gであり、平均直径(Av)が9.3nmであり、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が2.6nmであり、比(3σ/Av)が0.28であった。また、得られた多層CNT分散液の温度25℃における粘度は、JIS Z8803に準拠して測定したところ、8mPa・sであった。
そして、SGCNT分散液に替えて多層CNT分散液を使用した以外は実施例1と同様にして上澄み液および炭素膜を調製した。なお、遠心分離した多層CNT分散液から分取した上澄み液の吸収スペクトルを実施例1と同様にして測定したところ、光路長1mm、波長1000nmでの吸光度は0.31であった。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた。即ち、実施例6では、優れた成膜性および自立性を有する炭素膜が得られた。
(比較例1)
実施例6で得た多層CNT分散液を、遠心分離することなく、成膜基材としてのメンブレンフィルターを備えた減圧ろ過装置を用いて0.09MPaの条件下にてろ過し、メンブレンフィルター上に炭素膜を形成した。そして、多層CNT分散液のろ過終了後、減圧を継続しつつ、イソプロピルアルコールおよび水のそれぞれを通過させることで、メンブレンフィルター上に形成された炭素膜を洗浄し、更に15分間空気を通過させた。その後、得られた炭素膜/メンブレンフィルターの積層体をエタノールに浸漬し、エタノール中で炭素膜をメンブレンフィルターから剥離することにより、炭素膜を得た。
得られた炭素膜は、膜の収縮および割れが顕著に見られ、自立性を有していなかった。
本発明によれば、自立性に優れる炭素膜を製造する方法および自立性に優れる炭素膜を提供することができる。

Claims (7)

  1. 複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離し、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程と、
    遠心分離した繊維状炭素ナノ構造体分散液から上澄み液を分取する工程と、
    前記上澄み液から溶媒を除去して炭素膜を形成する工程と、
    を含む、炭素膜の製造方法。
  2. ろ過により前記上澄み液から溶媒を除去する、請求項1に記載の炭素膜の製造方法。
  3. 溶媒中に複数本の繊維状炭素ナノ構造体および分散剤を添加してなる粗分散液をキャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供し、前記繊維状炭素ナノ構造体分散液を得る工程を更に含む、請求項1または2に記載の炭素膜の製造方法。
  4. 前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体は、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが、関係式:0.20<(3σ/Av)<0.60を満たす、請求項1〜3の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
  5. 前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体は、BET比表面積が400m2/g以上である、請求項1〜4の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
  6. 前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、請求項1〜5の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
  7. 請求項1〜6の何れかに記載の炭素膜の製造方法を用いて製造される、炭素膜。
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