以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。本実施形態の熱処理装置1は、高誘電率ゲート絶縁膜(high-k膜)が成膜された半導体の基板Wに対してアンモニア雰囲気中にてフラッシュ光を照射することによって当該高誘電率ゲート絶縁膜の窒化を促進するフラッシュランプアニール(FLA)装置である。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
熱処理装置1は、基板Wを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、シャッター機構2と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、基板Wを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で基板Wの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部にアンモニア(NH3)を供給するアンモニア供給機構180を備える。さらに、熱処理装置1は、シャッター機構2、アンモニア供給機構180、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して基板Wの熱処理を実行させる制御部3を備える。
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。特に、フラッシュ光をチャンバー6内に透過する上側チャンバー窓63は、波長300nm以下の紫外域においても高い透過率を有する合成石英にて形成されている。
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、基板Wを保持する保持部7を囲繞する。
チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。また、反射リング68,69を含むチャンバー6の内壁面は酸化チタン(TiO2)によってコーティングされているが、これについてはさらに後述する。
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して基板Wの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ85によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ85が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への基板Wの搬入および熱処理空間65からの基板Wの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ85が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に所定のガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83はアンモニア供給機構180に接続される。詳細には、ガス供給管83は二叉に分岐され、その一方は窒素ガス供給源185に接続され、他方はアンモニア供給源189に接続される。ガス供給管83の二叉に分岐された経路のうち窒素ガス供給源185に接続された配管にはバルブ183および流量調整弁181が介挿され、アンモニア供給源189に接続された配管にはバルブ187および流量調整弁186が介挿されている。
バルブ183が開放されると、窒素ガス供給源185からガス供給管83を通って緩衝空間82に窒素ガス(N2)が送給される。ガス供給管83を流れる窒素ガスの流量は流量調整弁181によって調整される。また、バルブ187が開放されると、アンモニア供給源189からガス供給管83を通って緩衝空間82にアンモニアガス(NH3)が送給される。ガス供給管83を流れるアンモニアの流量は流量調整弁186によって調整される。緩衝空間82に流入したガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。
これらの窒素ガス供給源185、バルブ183、流量調整弁181、アンモニア供給源189、バルブ187、流量調整弁186、ガス供給管83、緩衝空間82およびガス供給孔81によってアンモニア供給機構180が構成される。バルブ183およびバルブ187の双方を開放することによって、チャンバー6にアンモニアと窒素ガスとの混合ガスを供給することができる。アンモニア供給機構180がチャンバー6に供給する混合ガス中に含まれるアンモニアの濃度は約10vol.%以下であり、本実施形態では2.5vol.%である。
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
排気部190は真空ポンプを備える。アンモニア供給機構180から熱処理空間65に何らのガス供給を行うことなく、排気部190を作動させてバルブ89を開放することにより、熱処理空間65の気体を排出してチャンバー6内を大気圧未満の真空雰囲気にまで減圧することができる。一方、アンモニア供給機構180から熱処理空間65に処理ガスを供給しつつ、排気部190を作動させてバルブ89を開放すれば、熱処理空間65の雰囲気置換を行うことができる。具体的には、アンモニア供給機構180および排気部190によって、チャンバー6内の熱処理空間65にアンモニア雰囲気を形成することができる。すなわち、排気部190によって熱処理空間65から排気を行いつつ、アンモニア供給機構180から熱処理空間65にアンモニアと希釈ガスとしての窒素ガスとの混合ガスを供給することにより、熱処理空間65に所定のアンモニア濃度(本実施形態では約2.5vol.%)のアンモニア雰囲気を形成することができる。
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。また、図3は保持部7を上面から見た平面図であり、図4は保持部7を側方から見た側面図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプター74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプター74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
基台リング71は円環形状の石英部材である。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。円環形状を有する基台リング71の上面に、その周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。なお、基台リング71の形状は、円環形状から一部が欠落した円弧状であっても良い。
平板状のサセプター74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。サセプター74は石英にて形成された略円形の平板状部材である。サセプター74の直径は基板Wの直径よりも大きい。すなわち、サセプター74は、基板Wよりも大きな平面サイズを有する。サセプター74の上面には複数個(本実施形態では5個)のガイドピン76が立設されている。5個のガイドピン76はサセプター74の外周円と同心円の周上に沿って設けられている。5個のガイドピン76を配置した円の径は基板Wの径よりも若干大きい。各ガイドピン76も石英にて形成されている。なお、ガイドピン76は、サセプター74と一体に石英のインゴットから加工するようにしても良いし、別途に加工したものをサセプター74に溶接等によって取り付けるようにしても良い。
基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプター74の周縁部の下面とが溶接によって固着される。すなわち、サセプター74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されており、保持部7は石英の一体成形部材となる。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、略円板形状のサセプター74は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。チャンバー6に搬入された基板Wは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプター74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。基板Wは、5個のガイドピン76によって形成される円の内側に載置されることにより、水平方向の位置ずれが防止される。なお、ガイドピン76の個数は5個に限定されるものではなく、基板Wの位置ずれを防止できる数であれば良い。
また、図2および図3に示すように、サセプター74には、上下に貫通して開口部78および切り欠き部77が形成されている。切り欠き部77は、熱電対を使用した接触式温度計130のプローブ先端部を通すために設けられている。一方、開口部78は、放射温度計120がサセプター74に保持された基板Wの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。さらに、サセプター74には、後述する移載機構10のリフトピン12が基板Wの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。なお、熱処理装置1のチャンバー6内にはアンモニア雰囲気が形成されるため、放射温度計120の測定波長域は赤外域におけるアンモニアの吸収波長域(2μm前後、3μm前後および5.5μm〜7μm)を含まないことが好ましい。
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して基板Wの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された基板Wと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプター74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプター74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。ランプ光放射窓53も、上側チャンバー窓63と同じ合成石英にて形成されている。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される基板Wの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
図8は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、図8に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続される。
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
第1実施形態のフラッシュランプFLは、紫外域の波長成分を比較的多く含んだフラッシュ光を放射する。図9は、第1実施形態のフラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の分光分布を示す図である。同図に示すように、第1実施形態のフラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光は、分光分布にて波長200nm〜300nmの範囲内にピークを有する。また、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光は、分光分布にて波長500nmに対する波長300nmの相対強度が20%以上である。図9に示すような分光分布は、ガラス管92内に封入するキセノンガスの成分やガス圧の調整によって得ることができる。なお、ガラス管92も波長300nm以下の紫外域において高い透過率を有する合成石英にて形成するのが好ましい。
また、本実施形態においては、フラッシュランプFLからのフラッシュ光を透過するランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63が合成石英にて形成されている。合成石英は、波長300nm以下の紫外線に対しても高い透過率を有している。その結果、フラッシュランプFLから出射されてチャンバー6内の基板Wに照射されるフラッシュ光の分光分布は、波長200nm〜300nmの範囲内にピークを有するとともに、波長500nmに対する波長300nmの相対強度が20%以上となる。
また、図1のリフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射された光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4の内部には複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLが内蔵されている。複数のハロゲンランプHLは、電力供給回路45からの電力供給を受けて発光し、チャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65へのハロゲン光の照射を行う。電力供給回路45からの電力供給は制御部3によって制御される。図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。本実施形態では、上下2段に各20本ずつのハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される基板Wの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される基板Wの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい基板Wの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段の各ハロゲンランプHLの長手方向と下段の各ハロゲンランプHLの長手方向とが直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の基板Wへの放射効率が優れたものとなる。
また、図1に示すように、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4およびチャンバー6の側方にシャッター機構2を備える。シャッター機構2は、シャッター板21およびスライド駆動機構22を備える。シャッター板21は、ハロゲン光に対して不透明な板であり、例えばチタン(Ti)にて形成されている。スライド駆動機構22は、シャッター板21を水平方向に沿ってスライド移動させ、ハロゲン加熱部4と保持部7との間の遮光位置にシャッター板21を挿脱する。スライド駆動機構22がシャッター板21を前進させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置(図1の二点鎖線位置)にシャッター板21が挿入され、下側チャンバー窓64と複数のハロゲンランプHLとが遮断される。これによって、複数のハロゲンランプHLから熱処理空間65の保持部7へと向かう光は遮光される。逆に、スライド駆動機構22がシャッター板21を後退させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置からシャッター板21が退出して下側チャンバー窓64の下方が開放される。
また、制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、図8に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。さらに、制御部3は、チャンバー6に対する給排気の各バルブの開閉を制御することによってチャンバー6内の雰囲気調整を行うとともに、電力供給回路45を制御することによってハロゲンランプHLの発光を制御する。
上記の構成以外にも熱処理装置1は、基板Wの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
次に、基板Wに対する処理手順について説明する。ここで処理対象となる基板Wは、高誘電率ゲート絶縁膜(high-k膜)が成膜されたシリコンの半導体基板である。典型的には、基板Wの基材であるシリコンの上に二酸化ケイ素の界面層膜が形成され、その二酸化ケイ素の薄膜の上にさらに高誘電率ゲート絶縁膜が成膜されている。
基板Wに形成される高誘電率ゲート絶縁膜としては、例えばHfO2,ZrO2,Al2O3,La2O3等を用いることができる(本実施形態では、HfO2)。高誘電率ゲート絶縁膜は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)によって高誘電率材料を二酸化ケイ素の界面層膜の上に堆積させることにより成膜される。高誘電率ゲート絶縁膜の膜厚は数nmであるが、そのシリコン酸化膜換算膜厚(EOT:Equivalent oxide thickness)は1nm程度である。高誘電率ゲート絶縁膜の形成手法はALDに限定されるものではなく、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等の公知の手法を採用することができる。いずれの手法であっても、堆積されたまま特段の処理を受けていない高誘電率ゲート絶縁膜中には多数の点欠陥等の欠陥が存在している。このような欠陥を有する高誘電率ゲート絶縁膜の熱処理が熱処理装置1によって行われる。以下、熱処理装置1における動作手順について説明する。熱処理装置1での動作手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
まず、高誘電率ゲート絶縁膜が形成された基板Wが熱処理装置1のチャンバー6に搬入される。基板Wの搬入時には、ゲートバルブ85が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して高誘電率ゲート絶縁膜が形成された基板Wがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。この際に、バルブ183を開放してチャンバー6内に窒素ガスを供給し続けることによって搬送開口部66から窒素ガス流を流出させ、装置外部の雰囲気がチャンバー6内の流入するのを最小限に抑制するようにしても良い。搬送ロボットによって搬入された基板Wは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプター74の上面から突き出て基板Wを受け取る。
基板Wがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ85によって搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされる。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、基板Wは移載機構10から保持部7のサセプター74に受け渡されて水平姿勢に保持される。基板Wは、高誘電率ゲート絶縁膜が形成された表面を上面としてサセプター74に保持される。また、基板Wは、サセプター74の上面にて5個のガイドピン76の内側に保持される。サセプター74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
基板Wがチャンバー6に収容されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、チャンバー6内にアンモニア雰囲気を形成する。具体的には、バルブ89を開放することによって熱処理空間65から排気を行うととともに、バルブ183およびバルブ187を開放することによって、ガス供給孔81から熱処理空間65にアンモニアと希釈ガスとしての窒素ガスとの混合ガスを供給する。その結果、チャンバー6内にて保持部7に保持された基板Wの周辺には減圧状態(約100Pa)にてアンモニア雰囲気が形成される。アンモニア雰囲気中におけるアンモニアの濃度(つまり、アンモニアと窒素ガスとの混合比)は、流量調整弁181および流量調整弁186によって規定される。本実施の形態では、アンモニア雰囲気中におけるアンモニアの濃度が約2.5vol.%となるように、流量調整弁186および流量調整弁181によってアンモニアおよび窒素ガスの流量が調整されている。なお、アンモニア雰囲気中におけるアンモニアの濃度は10vol.%以下であれば良い。
また、チャンバー6内にアンモニア雰囲気が形成されるとともに、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して基板Wの予備加熱(アシスト加熱)が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプター74を透過して基板Wの裏面から照射される。基板Wの裏面とは、高誘電率ゲート絶縁膜が形成された表面とは反対側の主面である。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって基板Wの温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、基板Wの温度が接触式温度計130によって測定されている。すなわち、熱電対を内蔵する接触式温度計130がサセプター74に保持された基板Wの下面に切り欠き部77を介して接触して昇温中の基板温度を測定する。測定された基板Wの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する基板Wの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、基板Wの温度が予備加熱温度T1となるように電力供給回路45をフィードバック制御してハロゲンランプHLの強度を調整している。予備加熱温度T1は300℃以上600℃以下であり、本実施形態では300℃である。なお、ハロゲンランプHLからの光照射によって基板Wを昇温するときには、放射温度計120による温度測定は行わない。これは、ハロゲンランプHLから照射されるハロゲン光が放射温度計120に外乱光として入射し、正確な温度測定ができないためである。
基板Wの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は基板Wをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、接触式温度計130によって測定される基板Wの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3が電力供給回路45を制御してハロゲンランプHLの強度を調整し、基板Wの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、高誘電率ゲート絶縁膜および下地の二酸化ケイ素の界面層膜を含む基板Wの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい基板Wの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、基板Wの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい基板Wの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における基板Wの面内温度分布を均一なものとすることができる。
次に、基板Wの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点でフラッシュランプFLから閃光を照射することによるフラッシュ加熱処理を実行する。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートには設定された波形のパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で必ず電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
このようにしてフラッシュランプFLが発光し、保持部7に保持された基板Wの表面にフラッシュ光が照射される。本実施形態のフラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光は、分光分布にて波長200nm〜300nmの範囲内にピークを有するとともに、分光分布にて波長500nmに対する波長300nmの相対強度が20%以上である(図9)。また、フラッシュランプFLからのフラッシュ光を透過するランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63は合成石英にて形成されている。このため、高誘電率ゲート絶縁膜が形成された基板Wの表面には、紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光が照射される。具体的には、高誘電率ゲート絶縁膜に対して、分光分布にて波長200nm〜300nmの範囲内にピークを有するとともに、分光分布にて波長500nmに対する波長300nmの相対強度が20%以上であるフラッシュ光が照射される。
ここで、IGBT96を使用することなくフラッシュランプFLを発光させた場合には、コンデンサ93に蓄積されていた電荷が1回の発光で消費され、フラッシュランプFLからの出力波形は幅が0.1ミリセカンドないし10ミリセカンド程度のシングルパルスとなる。これに対して、本実施の形態では、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流を制御している。その結果、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなり、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。なお、回路を流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。従って、IGBT96によってフラッシュランプFLへの電荷の供給を断続することにより、フラッシュランプFLの発光パターンを自在に規定することができ、発光時間および発光強度を自由に調整することができる。IGBT96によって調整されるフラッシュランプFLのフラッシュ光照射時間は0.2ミリ秒以上1秒以下であり、本実施形態では3ミリ秒とされている。
高誘電率ゲート絶縁膜が成膜された基板Wの表面にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することによって、高誘電率ゲート絶縁膜を含む基板Wの表面は瞬間的に処理温度T2にまで昇温する。フラッシュ光照射によって基板Wの表面が到達する最高温度(ピーク温度)である処理温度T2は600℃以上1200℃以下であり、本実施形態では950℃である。アンモニア雰囲気中にて基板Wの表面が処理温度T2にまで昇温すると、高誘電率ゲート絶縁膜の窒化が促進されることとなる。なお、フラッシュランプFLからの照射時間は1秒以下の短時間であるため、基板Wの表面温度が予備加熱温度T1から処理温度T2にまで昇温するのに要する時間も1秒未満の極めて短時間である。
アンモニア雰囲気中にてフラッシュ光照射によって高誘電率ゲート絶縁膜が処理温度T2に加熱されることによって高誘電率ゲート絶縁膜の表面から窒素原子が浸透して窒化が進行する。但し、フラッシュランプFLのフラッシュ光照射時間は0.2ミリ秒以上1秒以下の極めて短時間であるため、フラッシュ加熱によって高誘電率ゲート絶縁膜の全体が窒化されることはなく、窒素原子の浸透は高誘電率ゲート絶縁膜の表面から所定深さまでの一部領域に留まる。すなわち、窒化は高誘電率ゲート絶縁膜の下地である二酸化ケイ素の界面層膜にまで到達することはなく、その結果二酸化ケイ素膜の窒化は抑制されることとなる。
また、HfO2の高誘電率ゲート絶縁膜のバンドギャップを超えて電子を遷移させるのに必要なエネルギーを有する光の波長は300nm以下である。すなわち、波長300nm以下の紫外光に対しては高誘電率ゲート絶縁膜は高い吸収特性を示す。本実施形態のように、高誘電率ゲート絶縁膜に紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光を照射すると、高誘電率ゲート絶縁膜によってフラッシュ光が効率良く吸収される一方、フラッシュ光が高誘電率ゲート絶縁膜を透過して下地の二酸化ケイ素の膜にまで到達することはない。従って、下地の二酸化ケイ素の界面層膜を加熱することなく、高誘電率ゲート絶縁膜のみを加熱してその窒化処理を促進することができる。
また、アンモニアも紫外光に対して高い吸収特性を有している。よって、アンモニア雰囲気中にて紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光を照射すると、アンモニアの分子もフラッシュ光を吸収して活性化され、高誘電率ゲート絶縁膜の窒化をさらに促進させることができる。
フラッシュランプFLによるフラッシュ光照射が終了すると、IGBT96がオフ状態となってフラッシュランプFLの発光が停止し、基板Wの表面温度は目標温度T2から急速に降温する。また、ハロゲンランプHLも消灯し、これによって基板Wが予備加熱温度T1からも降温する。基板Wの加熱処理終了後にはバルブ187のみを閉止して、チャンバー6内を窒素ガス雰囲気に置換する。また、ハロゲンランプHLが消灯するのと同時に、シャッター機構2がシャッター板21をハロゲン加熱部4とチャンバー6との間の遮光位置に挿入する。ハロゲンランプHLが消灯しても、すぐにフィラメントや管壁の温度が低下するものではなく、暫時高温のフィラメントおよび管壁から輻射熱が放射され続け、これが基板Wの降温を妨げる。シャッター板21が挿入されることによって、消灯直後のハロゲンランプHLから熱処理空間65に放射される輻射熱が遮断されることとなり、基板Wの降温速度を高めることができる。
また、シャッター板21が遮光位置に挿入された時点で放射温度計120による温度測定を開始する。すなわち、保持部7に保持された基板Wの下面からサセプター74の開口部78を介して放射された赤外光の強度を放射温度計120が測定して降温中の基板Wの温度を測定する。測定された基板Wの温度は制御部3に伝達される。
消灯直後の高温のハロゲンランプHLからは多少の放射光が放射され続けるのであるが、放射温度計120はシャッター板21が遮光位置に挿入されているときに基板Wの温度測定を行うため、ハロゲンランプHLからチャンバー6内の熱処理空間65へと向かう放射光は遮光されている。従って、放射温度計120は外乱光の影響を受けることなく、サセプター74に保持された基板Wの温度を正確に測定することができる。また、放射温度計120の測定波長域は赤外域におけるアンモニアの吸収波長域を含まないため、チャンバー6内に残留するアンモニアによって基板Wの温度測定が阻害されることは防止される。
制御部3は、放射温度計120によって測定される基板Wの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、基板Wの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプター74の上面から突き出て熱処理後の基板Wをサセプター74から受け取る。続いて、ゲートバルブ85により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された基板Wが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における基板Wの加熱処理が完了する。
本実施形態においては、高誘電率ゲート絶縁膜が成膜された基板Wの表面にアンモニア雰囲気中にてフラッシュランプFLから0.2ミリ秒以上1秒以下の照射時間にてフラッシュ光を照射することによって、アンモニア雰囲気中で高誘電率ゲート絶縁膜を処理温度T2に加熱して高誘電率ゲート絶縁膜の窒化処理を行っている。高誘電率ゲート絶縁膜が窒化されることによって、堆積後に高誘電率ゲート絶縁膜中に存在していた欠陥が低減され、そのような欠陥に起因したリーク電流を抑制することができる。また、フラッシュランプFLのフラッシュ光照射時間は0.2ミリ秒以上1秒以下の極めて短時間であるため、高誘電率ゲート絶縁膜の下地に形成されている二酸化ケイ素の界面層膜の窒化は防止される。
ところで、本実施形態では、チャンバー6の内壁(つまり、チャンバー側部61および反射リング68,69)がステンレススチールにて形成され、そのチャンバー6内の熱処理空間65にアンモニア雰囲気を形成して熱処理を行っている。チャンバー6の内壁面に何らの処理を施さずにステンレススチールがそのまま露出していると、熱処理空間65にアンモニアを導入したときにチャンバー6の内壁面に容易にアンモニアが吸着することとなる。そうすると、既述したように、メンテナンス時等にチャンバー6を大気開放する前にチャンバーに対する真空排気と窒素ガス充填とを繰り返し10回以上行ってチャンバー6の内壁面に付着したアンモニアを除去しなければならなかった。
そこで、第1実施形態においては、チャンバー6の内壁面に酸化チタン(TiO2)のコーティング膜を成膜している。チャンバー6の内壁面は、熱処理空間65に露出しているチャンバー側部61の壁面および反射リング68,69の壁面を含む。
図10は、チャンバー6の内壁面に成膜した酸化チタンのコーティング膜の作用を模式的に示す図である。チャンバー6の内壁面には酸化チタンのコーティング膜98が成膜されている。なお、図10ではチャンバー側壁61の内壁面に成膜したコーティング膜98を例示しているが、上下の反射リング68,69についても同様である。
ステンレススチールのチャンバー6の内壁面に対して酸化チタンのコーティング膜98を成膜する手法としては、例えばCVD(chemical vapor deposition)やスパッタ法等の公知の成膜手法を採用することができる。コーティング膜98の膜厚は約1μmである。チャンバー6の内壁面の全面に酸化チタンのコーティング膜98を成膜する必要は必ずしもなく、当該内壁面の一部に成膜するようにしても良いが、なるべく広い領域にコーティング膜98を成膜するのが好ましい。
チャンバー6の内壁面に酸化チタンのコーティング膜98を成膜した場合であっても、熱処理空間65にアンモニア雰囲気を形成したときには、酸化チタンのコーティング膜98に対するアンモニア分子の付着自体は生じる。ここで、酸化チタンは光触媒作用を有する物質として広く知られている。そして、フラッシュランプFLが発光したときには、チャンバー6の内壁面にもフラッシュ光が照射される。
図10に示すように、アンモニアの分子が付着しているコーティング膜98に矢印AR10に示す如くフラッシュ光が照射されると、酸化チタンの光触媒作用によってアンモニアが窒素と水素とに分解される。その結果、チャンバー6の内壁面に成膜されたコーティング膜98に付着したアンモニアがフラッシュ光照射時に発現する酸化チタンの光触媒作用によって分解されてコーティング膜98から除去されることとなる。
酸化チタンは、紫外光を吸収したときに光触媒作用を発現する。従来の典型的なキセノンフラッシュランプから出射されたフラッシュ光は可視光の波長成分を主として含むものであったが、第1実施形態のフラッシュランプFLは紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光を照射するため、酸化チタンのコーティング膜98に光触媒作用を効果的に発現させることができる。
また、フラッシュランプFLは、処理対象となる基板Wに対してフラッシュ光照射を行うごとに発光するものである。そして、アンモニア分子が付着したコーティング膜98にフラッシュ光が照射されるごとに当該アンモニア分子が分解されてコーティング膜98から除去される。このことは、チャンバー6の内壁面に酸化チタンのコーティング膜98を成膜することにより、基板Wの処理のために熱処理空間65にアンモニア雰囲気を形成したときにコーティング膜98にアンモニア分子が付着するものの、続くフラッシュ光照射によって付着したアンモニア分子が分解されてコーティング膜98から除去され、結果としてチャンバー6の内壁面へのアンモニアの付着を抑制できることを意味している。
コーティング膜98に付着したアンモニア分子は、フラッシュ光照射時の酸化チタンの光触媒作用によって水素と窒素とに分解されて水素および窒素のラジカルとして熱処理空間65に放出される。熱処理空間65に放出された水素および窒素のラジカルの大半は排気部190によってチャンバー6の外部へと排出される。但し、熱処理空間65に放出された窒素ラジカルの一部は、基板Wに到達して高誘電率ゲート絶縁膜の窒化に寄与する。反応性に富む窒素ラジカルが高誘電率ゲート絶縁膜の窒化に寄与することによって、酸化チタンのコーティング膜98を成膜することなく単に熱処理空間65にアンモニア雰囲気を形成した場合と比較して高誘電率ゲート絶縁膜の窒化量を増大させることができる。
また、熱処理装置1のメンテナンスを行うときには以下のような手順にてチャンバー6の大気開放を行う。まず、チャンバー6内に基板Wを搬入することなく、バルブ89およびバルブ183を開放して熱処理空間65を窒素雰囲気に置換する。次に、チャンバー6内に基板Wが存在していない状態でフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。このときのフラッシュ光の積算照射量は例えば10J/cm2である。また、フラッシュランプFLは紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光を照射する。
このフラッシュ光照射によって、コーティング膜98に残留付着していたアンモニアが酸化チタンの光触媒作用によって水素と窒素とに分解されてコーティング膜98から除去される。その後、チャンバー6に対するサイクルパージ(真空排気と窒素ガス充填との繰り返し)を3回程度行ってからチャンバー6の大気開放を行う。従来、酸化チタンのコーティング膜98を成膜していないチャンバーにてアンモニア濃度を大気開放可能な1ppm以下にまでするためにはチャンバーに対する真空排気と窒素ガス充填とを繰り返し10回以上行う必要があった。これに対して、チャンバー6の内壁面に酸化チタンのコーティング膜98を成膜することにより、チャンバー6に対する真空排気と窒素ガス充填とを繰り返し3回程度行えば、チャンバー6内の熱処理空間65におけるアンモニア濃度を大気開放が可能な1ppm以下とすることができる。
従って、熱処理装置1のメンテナンス時にチャンバー6を大気開放する際に、チャンバー6に対するサイクルパージの回数を従来の3分の1以下にすることができ、チャンバー6を大気開放するまでに要する時間を従来より大幅に短縮することができる。その結果、熱処理装置1のメンテナンス時間全体をも短縮することが可能となる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の熱処理装置の全体構成は第1実施形態と概ね同じである。また、第2実施形態における基板Wの処理手順も第1実施形態と同じである。第2実施形態が第1実施形態と相違するのは、酸化チタンのコーティング膜98にシリコンおよび窒素の少なくともいずれか一方を添加している点である。
第2実施形態においても、チャンバー6の内壁面には酸化チタンのコーティング膜98が成膜されている。そして、第2実施形態では、酸化チタンのコーティング膜98にシリコンおよび窒素の少なくともいずれか一方が添加される。一般に酸化チタンは紫外光が照射されたときに光触媒作用を示すのであるが(第1実施形態では紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光を照射している)、シリコンおよび窒素の少なくともいずれか一方が添加された酸化チタンは可視光が照射されたときにも光触媒作用を示すことが知られている(例えば、特開2006−21112号参照)。
従って、チャンバー6の内壁面に成膜された酸化チタンのコーティング膜98にシリコンおよび窒素の少なくともいずれか一方を添加することにより、可視光の波長成分を主として含むフラッシュ光を出射する従来の典型的なキセノンフラッシュランプを用いても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、酸化チタンのコーティング膜98へのシリコンおよび窒素の添加方法は、特開2006−21112号に提示されている処理と同様にすれば良い。また、窒素の添加に関しては、特段の添加処理を行っていない通常の酸化チタンのコーティング膜98をチャンバー6の内壁面に成膜し、チャンバー6内にアンモニア雰囲気を形成した状態でのフラッシュ光照射を繰り返す課程で、コーティング膜98自体が徐々に窒化されることによって窒素添加を行うことも可能である。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の熱処理装置の全体構成は第1実施形態と概ね同じである。また、第3実施形態における基板Wの処理手順も第1実施形態と同じである。第1,2実施形態ではチャンバー6の内壁面に酸化チタンのコーティング膜98を成膜していたが、それに加えて第3実施形態では上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の内壁面にも酸化チタンのコーティング膜を成膜している。
第3実施形態においては、チャンバー6の内壁面(チャンバー側部61の内壁面および反射リング68,69の内壁面)に加えて上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の内壁面にも酸化チタンのコーティング膜を成膜しているため、熱処理空間65を囲む全ての壁面に酸化チタンのコーティング膜が成膜されることとなる。上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の内壁面とは、熱処理空間65に露出している上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の壁面であり、上側チャンバー窓63であれば下面であり、下側チャンバー窓64であれば上面である。石英の上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64に酸化チタンのコーティング膜を成膜する手法としてはCVDやイオンプレーティング等の成膜手法を用いることができる。上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の内壁面に成膜する酸化チタンのコーティング膜は、第2実施形態のようにシリコンおよび窒素の少なくともいずれか一方を添加したものであっても良いし、第1実施形態のように添加物を含まないものであっても良い。
上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の内壁面を含む熱処理空間65を囲む全ての壁面に酸化チタンのコーティング膜を成膜することにより、第1実施形態と同様の効果をより顕著に得ることができる。特に、基板Wがφ300mm以上の半導体ウェハーであれば、それを収容するチャンバー6の上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の面積はチャンバー6の内壁面の面積よりも相当に大きくなり、上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の内壁面に酸化チタンのコーティング膜を成膜することによるアンモニアの分解効果は大きなものとなる。
但し、上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64はそれぞれフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光およびハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光を透過する石英窓であり、そのような石英窓に酸化チタンのコーティング膜を成膜するとコーティング膜自体がフィルターとして作用することによって石英窓本来の機能が損なわれるおそれがある。例えば、第1実施形態の上側チャンバー窓63の下面に酸化チタンのコーティング膜を成膜すると、フラッシュランプFLから出射された紫外域の波長成分を比較的多く含むフラッシュ光が酸化チタンのコーティング膜によってカットされるおそれがある。このため、フラッシュランプFLまたはハロゲンランプHLから出射される光の主たる波長域と酸化チタンの吸収波長域が重なる場合には、上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の一部に酸化チタンのコーティング膜を成膜するのが好ましい。このとき、均一にコーティング膜を成膜するために、例えば市松模様に酸化チタンのコーティング膜を成膜するのが好ましい。
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、酸化チタンのコーティング膜を成膜していたが、これに限定されるものではなく、光触媒作用を有する他の物質にてコーティング膜を成膜するようにしても良い。もっとも、熱的安定性、耐食性等の観点から光触媒作用を有する物質として酸化チタンを採用するのが好ましい。
また、上記実施形態においては、IGBT96によってフラッシュランプFLの発光を制御するようにしていたが、IGBT96は必ずしも必須の要素ではない。IGBT96を用いなくても、コンデンサ93への印加電圧やコイル94のインダクタンスによってフラッシュランプFLの照射条件を調整することができる。