以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。本実施形態の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。詳細は後述するが、熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWにはポリシリコン膜が形成されており、熱処理装置1による加熱処理によってそのポリシリコン膜の結晶化が促進される。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、シャッター機構2と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部にフォーミングガス(水素−窒素混合ガス)の雰囲気を形成する雰囲気形成機構180を備える。さらに、熱処理装置1は、シャッター機構2、雰囲気形成機構180、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。
チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。また、反射リング68,69の内周面は電解ニッケルメッキによって鏡面とされている。
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ85によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ85が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ85が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に所定のガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は二叉に分岐され、その一方は窒素ガス供給源185に接続され、他方は水素ガス供給源189に接続される。ガス供給管83の二叉に分岐された経路のうち窒素ガス供給源185に接続された配管にはバルブ183および流量調整弁181が介挿され、水素ガス供給源189に接続された配管にはバルブ187および流量調整弁186が介挿されている。
バルブ183が開放されると、窒素ガス供給源185からガス供給管83を通って緩衝空間82に窒素ガス(N2)が送給される。ガス供給管83を流れる窒素ガスの流量は流量調整弁181によって調整される。また、バルブ187が開放されると、水素ガス供給源189からガス供給管83を通って緩衝空間82に水素ガス(H2)が送給される。ガス供給管83を流れる水素ガスの流量は流量調整弁186によって調整される。緩衝空間82に流入したガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。
これらの窒素ガス供給源185、バルブ183、流量調整弁181、水素ガス供給源189、バルブ187、流量調整弁186、ガス供給管83、緩衝空間82およびガス供給孔81によって雰囲気形成機構180が構成される。バルブ183およびバルブ187の双方を開放することによって、熱処理空間65に水素ガスと窒素ガスとの混合ガス(フォーミングガス)を供給し、フォーミングガスの雰囲気を形成することができる。
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。また、図3は保持部7を上面から見た平面図であり、図4は保持部7を側方から見た側面図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプター74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプター74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
基台リング71は円環形状の石英部材である。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。円環形状を有する基台リング71の上面に、その周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。なお、基台リング71の形状は、円環形状から一部が欠落した円弧状であっても良い。
平板状のサセプター74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。サセプター74は石英にて形成された略円形の平板状部材である。サセプター74の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、サセプター74は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。サセプター74の上面には複数個(本実施形態では5個)のガイドピン76が立設されている。5個のガイドピン76はサセプター74の外周円と同心円の周上に沿って設けられている。5個のガイドピン76を配置した円の径は半導体ウェハーWの径よりも若干大きい。各ガイドピン76も石英にて形成されている。なお、ガイドピン76は、サセプター74と一体に石英のインゴットから加工するようにしても良いし、別途に加工したものをサセプター74に溶接等によって取り付けるようにしても良い。
基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプター74の周縁部の下面とが溶接によって固着される。すなわち、サセプター74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されており、保持部7は石英の一体成形部材となる。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、略円板形状のサセプター74は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプター74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。半導体ウェハーWは、5個のガイドピン76によって形成される円の内側に載置されることにより、水平方向の位置ずれが防止される。なお、ガイドピン76の個数は5個に限定されるものではなく、半導体ウェハーWの位置ずれを防止できる数であれば良い。
また、図2および図3に示すように、サセプター74には、上下に貫通して開口部78および切り欠き部77が形成されている。切り欠き部77は、熱電対を使用した接触式温度計130のプローブ先端部を通すために設けられている。一方、開口部78は、放射温度計120がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。さらに、サセプター74には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプター74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプター74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
図8は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、図8に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続される。
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
また、図1のリフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射された光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4の内部には複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLが内蔵されている。複数のハロゲンランプHLは、電力供給回路45からの電力供給を受けて発光し、チャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65へのハロゲン光の照射を行う。電力供給回路45からの電力供給は制御部3によって制御される。図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。本実施形態では、上下2段に各20本ずつのハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段の各ハロゲンランプHLの長手方向と下段の各ハロゲンランプHLの長手方向とが直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
また、図1に示すように、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4およびチャンバー6の側方にシャッター機構2を備える。シャッター機構2は、シャッター板21およびスライド駆動機構22を備える。シャッター板21は、ハロゲン光に対して不透明な板であり、例えばチタン(Ti)にて形成されている。スライド駆動機構22は、シャッター板21を水平方向に沿ってスライド移動させ、ハロゲン加熱部4と保持部7との間の遮光位置にシャッター板21を挿脱する。スライド駆動機構22がシャッター板21を前進させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置(図1の二点鎖線位置)にシャッター板21が挿入され、下側チャンバー窓64と複数のハロゲンランプHLとが遮断される。これによって、複数のハロゲンランプHLから熱処理空間65の保持部7へと向かう光は遮光される。逆に、スライド駆動機構22がシャッター板21を後退させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置からシャッター板21が退出して下側チャンバー窓64の下方が開放される。
また、制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、図8に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。さらに、制御部3は、雰囲気形成機構180の各バルブの開閉を制御することによってチャンバー6内の雰囲気調整を行うとともに、電力供給回路45を制御することによってハロゲンランプHLの発光を制御する。
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
次に、半導体ウェハーWにポリシリコン膜を形成して熱処理を行う処理手順について説明する。図9は、半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。同図のステップS2以降が熱処理装置1によって実行される処理である。
まず、熱処理に先立って半導体ウェハーWにポリシリコン膜を形成する(ステップS1)。図10は、ポリシリコン膜を形成したデバイス構造の一例を示す図である。図10の例では、電界効果トランジスタのゲートとしてポリシリコン膜を形成している。
単結晶シリコン(Si)の基材111にはソース112とドレイン113とが形成されている。ソース112およびドレイン113にはボロン(B)、ヒ素(As)、リン(P)などのドーパントが注入されている。ソース・ドレイン間の基材111の上に二酸化ケイ素(SiO2)のゲート絶縁膜116が形成され、さらにそのゲート絶縁膜116の上にゲート電極としてポリシリコン膜117が形成される。二酸化ケイ素のゲート絶縁膜116は例えば熱酸化法によって成膜すれば良く、ポリシリコン膜117はシラン(SiH4)或いはジシラン(Si2H6)等を原料ガスとしてCVDによって形成すれば良い。
また、ゲート電極としてのポリシリコン膜117の両側方にはSiNのサイドウォール119が形成されている。このサイドウォール119は、ポリシリコン膜117よりも先に形成するようにしても良いし、ポリシリコン膜117の後に形成するようにしても良い。
このようなゲート構造が形成された半導体ウェハーWが上記の熱処理装置1に搬入される(ステップS2)。CVDによって成膜された直後のポリシリコン膜117は結晶化が不十分なため、これを1000℃以上に加熱して結晶化を促進させる必要がある。また、ポリシリコン膜117の結晶粒界およびゲート絶縁膜116との間の界面においては、シリコンの未結合手(ダングリングボンド)が多数存在している。さらに、ジシラン等を原料ガスとしてCVDによって成膜されたポリシリコン膜117中には原料ガスに由来する不純物が残留していることもある。本実施形態においては、熱処理装置1での熱処理によって、成膜後のポリシリコン膜117の結晶化を促進するとともに、膜質を改質する。以下に説明する熱処理装置1での動作手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
熱処理装置1においては、半導体ウェハーWの搬入に先立って、窒素ガス供給用のバルブ183が開放されるとともに、排気用のバルブ89,192が開放されてチャンバー6内に対する給排気が行われている。バルブ183が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。
続いて、ゲートバルブ85が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介してポリシリコン膜117が形成された半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。この際に、チャンバー6内には窒素ガスが供給され続けているため、装置外部の雰囲気がチャンバー6内の流入するのを最小限に抑制することができる。搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプター74の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ85によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプター74に受け渡されて水平姿勢に保持される。半導体ウェハーWは、ポリシリコン膜117が形成された表面を上面としてサセプター74に保持される。また、半導体ウェハーWは、サセプター74の上面にて5個のガイドピン76の内側に保持される。サセプター74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
半導体ウェハーWが保持部7のサセプター74に載置されて保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS3)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプター74を透過して半導体ウェハーWの裏面から照射される。半導体ウェハーWの裏面とは、ポリシリコン膜117が形成された表面とは反対側の主面であり、通常はいかなるデバイスパターンも形成されていない。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWの温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
図11は、半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。半導体ウェハーWが搬入されてサセプター74に載置された後、制御部3が時刻t0に40本のハロゲンランプHLを点灯させてハロゲン光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱温度T1にまで昇温している。予備加熱温度T1は600℃以上900℃以下であり、本実施形態では700℃としている。
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、半導体ウェハーWの温度が接触式温度計130によって測定されている。すなわち、熱電対を内蔵する接触式温度計130がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面に切り欠き部77を介して接触して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるように電力供給回路45をフィードバック制御してハロゲンランプHLの強度を調整している。なお、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWを昇温するときには、放射温度計120による温度測定は行わない。これは、ハロゲンランプHLから照射されるハロゲン光が放射温度計120に外乱光として入射し、正確な温度測定ができないためである。
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、接触式温度計130によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時刻t1にて制御部3が電力供給回路45を制御してハロゲンランプHLの強度を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。さらに、チャンバー側部61に装着された反射リング69の内周面は鏡面とされているため、この反射リング69の内周面によって半導体ウェハーWの周縁部に向けて反射する光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布をより均一なものとすることができる。
次に、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時刻t2にフラッシュランプFLから閃光を照射することによるフラッシュ加熱処理を実行する(ステップS4)。図12は、フラッシュ加熱処理の前後における半導体ウェハーWの表面温度変化を示す図であり、図11の時刻t2近傍を拡大した図である。なお、半導体ウェハーWの温度が室温から予備加熱温度T1に到達するまでの時間(時刻t0から時刻t1までの時間)および予備加熱温度T1に到達してからフラッシュランプFLが発光するまでの時間(時刻t1から時刻t2までの時間)はいずれも数秒程度である。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートには設定された波形のパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で必ず電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
このようにしてフラッシュランプFLが時刻t21に発光を開始し、保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光が照射される。IGBT96を使用することなくフラッシュランプFLを発光させた場合には、コンデンサ93に蓄積されていた電荷が1回の発光で消費され、フラッシュランプFLからの出力波形は幅が0.1ミリセカンドないし10ミリセカンド程度のシングルパルスとなる。これに対して、本実施の形態では、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流を制御している。その結果、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなり、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。なお、回路を流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。従って、IGBT96によってフラッシュランプFLへの電荷の供給を断続することにより、フラッシュランプFLの発光パターンを自在に規定することができ、発光時間および発光強度を自由に調整することができる。もっとも、フラッシュランプFLの発光時間は長くても1秒以下である。
ポリシリコン膜117が形成された半導体ウェハーWの表面にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することによって、ゲート電極としてのポリシリコン膜117を含む半導体ウェハーWの表面は時刻t22に目標温度T2(第1の温度)にまで昇温する。フラッシュランプFLの発光時間は1秒以下の短時間であるため、半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1から目標温度T2にまで昇温するのに要する時間(時刻t21から時刻t22までの時間)も1秒未満の極めて短時間である。目標温度T2はゲートのポリシリコン膜117の緻密化および結晶化を促進することができる1200℃以上1300℃以下であり、本実施形態では1200℃としている。
フラッシュランプFLの発光時間は1秒以下の短時間であるため、ポリシリコン膜117が目標温度T2近傍に加熱されている時間は極めて短い。よって、ソース112およびドレイン113に注入されたドーパントが高温に長時間加熱されることに起因して深く拡散するのを抑制することができる。なお、ポリシリコン膜117の結晶化に要する時間はドーパントの拡散時間に比して顕著に短い。このため、ドーパントが拡散しない程度の短時間であっても、ポリシリコン膜117の結晶化は達成される。
フラッシュランプFLによるフラッシュ光照射が終了すると、IGBT96がオフ状態となってフラッシュランプFLの発光が停止し、半導体ウェハーWの表面温度は目標温度T2から急速に降温する。そして、時刻t23には、半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1にまで低下する。ハロゲンランプHLによる光照射はフラッシュ光照射の前後にわたって継続して行われている。従って、時刻t23以降もハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWの温度は予備加熱温度T1に維持されることとなる。
本実施形態においては、フラッシュ光照射後であって半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1に降温するまでの間に、チャンバー6内にフォーミングガスの雰囲気を形成する(ステップS5)。具体的には、時刻t22から時刻t23までの間にバルブ187を開放する。予備加熱開始前よりバルブ183が開放されているため、バルブ187を開放することによって、ガス供給孔81から熱処理空間65に水素ガスと窒素ガスとの混合ガス(フォーミングガス)が供給される。その結果、チャンバー6内にて保持部7に保持された半導体ウェハーWの周辺にはフォーミングガスの雰囲気が形成される。フォーミングガス雰囲気中における水素ガスの濃度(つまり、水素ガスと窒素ガスとの混合比)は、流量調整弁181および流量調整弁186によって規定される。本実施の形態では、フォーミングガスの雰囲気中における水素ガスの濃度が約4vol.%となるように、流量調整弁186および流量調整弁181によって水素ガスおよび窒素ガスの流量が調整されている。
時刻t23以降においては、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWがアニール温度T3(第2の温度)に維持される(ステップS6)。すなわち、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度がアニール温度T3となるように制御部3が電力供給回路45をフィードバック制御してハロゲンランプHLの強度を調整している。本実施形態では、フラッシュ加熱前の予備加熱温度T1とフラッシュ加熱後のアニール温度T3とを等しくしている。従って、ハロゲンランプHLがフラッシュ光照射の前後にわたって同じ照射強度を維持すればそのままフラッシュ加熱後のアニール処理に移行できるため、電力供給回路45の制御は容易である。
ハロゲンランプHLによるアニール処理は、時刻t23から時刻t3(図11)まで継続して行われる。すなわち、時刻t23から時刻t3まで、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWがアニール温度T3に維持される。また、ハロゲンランプHLによるアニール処理が実行されている間は、フォーミングガスの雰囲気も継続して形成されている。従って、フラッシュ加熱後の半導体ウェハーWはフォーミングガス雰囲気中にてアニールされることとなる。
水素ガスを含むフォーミングガスの雰囲気中にて半導体ウェハーWがアニール温度T3に維持されることにより、ポリシリコン膜117の結晶粒界およびゲート絶縁膜116との間の界面近傍に存在していたシリコンの未結合手(ダングリングボンド)が水素終端される。
また、水素ガスを含むフォーミングガスの雰囲気中にて半導体ウェハーWがアニール温度T3にてアニールされることにより、CVDによって成膜されたポリシリコン膜117中に残留している原料ガス等由来の不純物を消失させることができる。
さらに、半導体ウェハーWがアニール温度T3にてアニールされることにより、ポリシリコン膜117のシリコンの結晶粒が粒成長し、その結果結晶粒界が減少することとなる。
これらにより、CVDによる成膜後にポリシリコン膜117中に存在していた欠陥が回復するとともに、原料ガス等に由来した不純物が消失し、ポリシリコン膜117の膜質を改善することができる。
このようなアニール処理を行うのに好適なアニール温度T3は、300℃以上1000℃以下である。本実施形態では、アニール温度T3を予備加熱温度T1と同じ700℃としている。なお、アニール温度T3は目標温度T2よりは必ず低い。このアニール温度T3が300℃未満であると、水素終端が進みにくくなる。また、アニール温度T3が1000℃を超えると、ソース112およびドレイン113に注入されているドーパントが深く拡散する懸念がある。このため、アニール温度T3は300℃以上1000℃以下としている。
また、半導体ウェハーWをアニール温度T3に維持するアニール時間、つまり時刻t23から時刻t3までの時間は、2秒以上30分以下である。この時間はアニール温度T3に依存しており、アニール温度T3が高いほどアニール時間は短くても良い。上述の理由によって、アニール温度T3の上限は1000℃とされている。アニール温度T3が上限の1000℃であっても、アニール時間としては2秒は必要である。一方、アニール温度T3が下限の300℃であればアニール時間には30分を要する。アニール時間が30分を超えると、1枚の半導体ウェハーWの処理に長時間を要することとなり、熱処理装置1のスループットが低下する。このため、アニール時間は2秒以上30分以下としている。
やがて、所定のアニール時間が経過した時刻t3にハロゲンランプHLが消灯する(ステップS7)。これにより、半導体ウェハーWがアニール温度T3からの降温を開始する。また、アニール処理が終了する時刻t3にはバルブ187のみを閉止して、チャンバー6内を窒素ガス雰囲気に置換する。また、ハロゲンランプHLが消灯するのと同時に、シャッター機構2がシャッター板21をハロゲン加熱部4とチャンバー6との間の遮光位置に挿入する(ステップS8)。ハロゲンランプHLが消灯しても、すぐにフィラメントや管壁の温度が低下するものではなく、暫時高温のフィラメントおよび管壁から輻射熱が放射され続け、これが半導体ウェハーWの降温を妨げる。シャッター板21が挿入されることによって、消灯直後のハロゲンランプHLから熱処理空間65に放射される輻射熱が遮断されることとなり、半導体ウェハーWの降温速度を高めることができる。
また、シャッター板21が遮光位置に挿入された時点で放射温度計120による温度測定を開始する。すなわち、保持部7に保持された半導体ウェハーWの下面からサセプター74の開口部78を介して放射された赤外光の強度を放射温度計120が測定して降温中の半導体ウェハーWの温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。
消灯直後の高温のハロゲンランプHLからは多少の放射光が放射され続けるのであるが、放射温度計120はシャッター板21が遮光位置に挿入されているときに半導体ウェハーWの温度測定を行うため、ハロゲンランプHLからチャンバー6内の熱処理空間65へと向かう放射光は遮光されている。従って、放射温度計120は外乱光の影響を受けることなく、サセプター74に保持された半導体ウェハーWの温度を正確に測定することができる。
制御部3は、放射温度計120によって測定される半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプター74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプター74から受け取る。続いて、ゲートバルブ85により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され(ステップS9)、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
本実施形態においては、ポリシリコン膜117が形成された半導体ウェハーWの表面にまずフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射して、当該表面を1秒以下の短時間にて1200℃以上1300℃以下の目標温度T2にフラッシュ加熱している。CVDによって成膜されたポリシリコン膜117を極短時間で1200℃以上にフラッシュ加熱することにより、ソース112およびドレイン113に注入されたドーパントの拡散を抑制しつつ、ポリシリコン膜117の緻密化および結晶化を促進することができる。ポリシリコン膜117を緻密化してシリコン原子間距離を短くすることにより、電子の移動度を高めることができる。
次に、本実施形態では、フラッシュ加熱後の半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光を照射することによって半導体ウェハーWの温度をアニール温度T3に維持している。そして、このフラッシュ加熱後のアニール処理は水素ガスと窒素ガスとの混合ガスであるフォーミングガスの雰囲気中にて実行される。水素ガスを含むフォーミングガスの雰囲気中にて半導体ウェハーWをアニール温度T3に維持するアニール処理を実行することにより、ポリシリコン膜117のシリコン結晶粒を粒成長させて結晶粒界を減少させるとともに、ポリシリコン膜117の結晶粒界およびゲート絶縁膜116との間の界面近傍に存在していたシリコンの未結合手を水素終端させて欠陥を消失させることができる。また、CVDによって成膜されたポリシリコン膜117中に残留していた原料ガス等由来の不純物を消失させることもできる。
すなわち、本実施形態の熱処理装置1にて、ポリシリコン膜117を形成した半導体ウェハーWにフラッシュランプFLを用いたフラッシュ加熱を行った後に、水素ガスを含むフォーミングガスの雰囲気中にてハロゲンランプHLによってアニール処理を実行することにより、ポリシリコン膜117の緻密化および結晶化を促進するとともに、ポリシリコン膜117の膜質を改善することができる。その結果、ポリシリコン膜117の特性を改善して、ポリシリコン膜117を形成した半導体ウェハーWから製造されるデバイスの特性を向上させることができる。
また、フラッシュ加熱後のアニール温度T3をフラッシュ加熱前の予備加熱温度T1と等しくしているため、フラッシュ光照射の前後にわたってハロゲンランプHLの強度をほぼ一定に維持していれば足り、電力供給回路45の制御を容易なものとすることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスの雰囲気中にてアニール処理を実行していたが、アニール処理時の雰囲気はこれに限定されるものではない。例えば、水素ガスに代えて、アンモニア(NH3)、塩化水素(HCl)、二酸化硫黄(SO2)、亜酸化窒素(N2O)、または、硫化水素(H2S)のいずれかのガスを用いるようにしても良い。これらのガス種も、水素ガスと同様に、ポリシリコン膜117の界面近傍に存在している欠陥を終端により消失させることができる。すなわち、半導体ウェハーWをアニール温度T3に維持してのアニール処理は、水素、アンモニア、塩化水素、二酸化硫黄、亜酸化窒素、硫化水素からなる群から選択されたいずれかのガスを含む雰囲気中にて実行するものであれば良い。なお、これらのガスを用いる場合には、上記実施形態と同様に、窒素ガスを混合した混合ガスとしてチャンバー6内に供給するのが好ましい。
また、本発明における水素は、いわゆる軽水素(H)のみならず、重水素(D)および三重水素(T)を含む。重水素または三重水素のガスを含む雰囲気中にて半導体ウェハーWのアニール処理を実行すれば、上記実施形態と同様にポリシリコン膜117の膜質を改善することができる。
また、水素−窒素混合ガス中における水素ガスの濃度は4vol.%に限定されるものではなく、適宜の値とすることができる。また、水素ガスと窒素ガスとが予め所定濃度で混合されたフォーミングガスを使用するようにしても良い。
また、上記実施形態においては、フラッシュ光照射後にチャンバー6内に水素−窒素混合ガスの雰囲気を形成するようにしていたが、フラッシュ光照射前からチャンバー6内への水素ガスの供給を開始して混合ガスの雰囲気を形成するようにしても良い。すなわち、半導体ウェハーWをアニール温度T3に維持してのアニール処理を開始する時点で水素−窒素混合ガスの雰囲気が形成されていれば良い。
上記実施形態にて、フラッシュ光照射前に水素−窒素混合ガスの雰囲気を形成した場合、半導体ウェハーWを予備加熱温度T1に加熱する予備加熱がアニール処理と同様の意義を有する処理となり、予備加熱中にもポリシリコン膜117の結晶粒界および界面近傍にに存在している欠陥が消失して膜質が改善されることとなる。すなわち、膜質を改善させるためのアニール処理は、フラッシュ加熱後に限定されるものではなく、フラッシュ加熱前に行っても良いのである。もっとも、フラッシュ加熱前に水素終端を行うと、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWの表面が1200℃以上に昇温したときに終端の効果が喪失されるおそれがあるため、上記実施形態のようにアニール処理はフラッシュ加熱後に行う方が好ましい。
また、上記実施形態においては、アニール温度T3を予備加熱温度T1と等しくしていたが、これに限定されるものではなく、アニール温度T3を予備加熱温度T1と異なる温度としても良い。図13は、フラッシュ加熱処理の前後における半導体ウェハーWの表面温度変化の他の例を示す図である。上記実施形態と同様に、半導体ウェハーWは予備加熱温度T1にて予備加熱されており、フラッシュランプFLが時刻t21にフラッシュ光照射を開始する。これにより、半導体ウェハーWの表面は時刻t22に目標温度T2にまで昇温する。そして、フラッシュランプFLの発光が停止すると、半導体ウェハーWの表面温度は目標温度T2から降温し、時刻t24にはアニール温度T3に到達する。
図13の例におけるアニール温度T3は予備加熱温度T1よりも低温ではある。よって、半導体ウェハーWの降温に要する時間(時刻t22から時刻t24までの時間)は、上記実施形態の時刻t22から時刻t23までの時間よりも長い。但し、図13のアニール温度T3も300℃以上1000℃以下である。そして、時刻t24からハロゲンランプHLの光照射によって半導体ウェハーWをアニール温度T3に維持するアニール処理が開始される。アニール処理を開始する前にチャンバー6内に水素−窒素混合ガスの雰囲気を形成しておくのは上記実施形態と同様である。また、半導体ウェハーWのアニール時間は2秒以上30分以下である。このようにしても上記実施形態と同様に、ポリシリコン膜117の膜質を改善することができる。また、図13の例とは逆に、300℃以上1000℃以下の範囲内であれば、アニール温度T3が予備加熱温度T1より高温であっても良い。
また、上記実施形態においては、電界効果トランジスタのゲート電極として形成されたポリシリコン膜117に熱処理を行っていたが、本発明に係る熱処理技術の処理対象となるのはゲート電極としてのポリシリコン膜117に限定されるものではなく、その他の半導体デバイス、例えば記憶素子(メモリ)に形成されたポリシリコン膜であっても良い。図14は、ポリシリコン膜を形成したデバイス構造の他の例を示す図である。図14の例では、記憶素子にポリシリコン膜を形成している。
図14の例に示すデバイス構造においては、ソース領域およびドレイン領域の双方に窒化ケイ素(SiN)膜211と二酸化ケイ素(SiO2)膜212とが交互に多層(例えば、72層)に積層されている。そして、窒化ケイ素膜211と二酸化ケイ素膜212とが多層に積層された積層体の積層方向に沿って当該積層体に接するようにポリシリコン膜217が形成されている。窒化ケイ素膜211と二酸化ケイ素膜212とが多層に積層された積層体の高さは1μm〜数μmであり、図14に示すように、当該積層体の高さはポリシリコン膜217の膜厚に相当する。
図14に示すようなデバイス構造を有する半導体ウェハーに対して上記実施形態と同様に、フラッシュランプFLを用いたフラッシュ加熱を行った後に、水素ガスを含むフォーミングガスの雰囲気中にてハロゲンランプHLによってアニール処理を実行することにより、ポリシリコン膜217の緻密化および結晶化を促進するとともに、ポリシリコン膜217の膜質を改善することができる。特に、図14に示すデバイス構造においては、ポリシリコン膜217と窒化ケイ素膜211および二酸化ケイ素膜212との界面近傍に多数の欠陥が存在しているのであるが、フォーミングガスの雰囲気中にてアニール処理を実行することにより、そのような欠陥を水素終端によって消失させることができる。
また、上記実施形態においては、パルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に電圧を印加するようにしていたが、トリガー電圧を印加するタイミングはこれに限定されるものではなく、パルス信号の波形とは無関係に一定間隔で印加するようにしても良い。また、パルス信号の間隔が短く、あるパルスによってフラッシュランプFLを流れた電流の電流値が所定値以上残っている状態で次のパルスによって通電を開始されるような場合であれば、そのままフラッシュランプFLに電流が流れ続けるため、パルス毎にトリガー電圧を印加する必要はない。つまり、パルス信号がオンになるときに、フラッシュランプFLに電流が流れるタイミングであれば、トリガー電圧の印加タイミングは任意である。
また、上記実施形態においては、スイッチング素子としてIGBT96を用いていたが、これに代えてゲートに入力された信号レベルに応じて回路をオンオフできる他のトランジスタを用いるようにしても良い。もっとも、フラッシュランプFLの発光には相当に大きな電力が消費されるため、大電力の取り扱いに適したIGBTやGTO(Gate Turn Off)サイリスタをスイッチング素子として採用するのが好ましい。
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。さらに、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
また、本発明に係る熱処理装置によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。