以下、車両の制動システムを具体化した一実施形態を図1〜図13に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
図1には、本実施形態の車両の制動システムを備えるハイブリッド車両が図示されている。図1に示すように、ハイブリッド車両には、2モータ方式のハイブリッドシステム10と、全ての車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力(液圧制動力)を付与する液圧制動装置20と、制御装置100とが設けられている。そして、液圧制動装置20及び制御装置100により、「車両の制動システム」の一例が構成されている。
ハイブリッドシステム10は、ガソリンなどの燃料の供給によって運転されるエンジン11を備えている。このエンジン11のクランク軸11aには、遊星歯車機構などを有する動力伝達機構12を通じて第1のモータ13及び第2のモータ14が連結されている。動力伝達機構12は、エンジン11からの動力を第1のモータ13及び駆動輪である前輪FL,FRに分割して伝達する。また、第2のモータ14の駆動時では、動力伝達機構12は、第2のモータ14からの動力を前輪FL,FRに伝達する。
第1のモータ13は、動力伝達機構12を介して伝達された動力によって発電する。そして、第1のモータ13で発電された電力は、インバータ15を介してバッテリ16に供給されて蓄電される。
第2のモータ14は、運転者がアクセルペダル18を操作する場合には車両の駆動源として機能する。このとき、第2のモータ14には、インバータ15を介してバッテリ16から電力が供給される。すると、第2のモータ14で発生した動力は、動力伝達機構12及びディファレンシャル17を介して前輪FL,FRに伝達される。なお、アクセルペダル18の近傍には、アクセルペダル18の操作量であるアクセル操作量に応じた信号を制御装置100に出力するアクセル開度センサSE1が設けられている。
一方、第2のモータ14には、運転者がブレーキ操作部材としてのブレーキペダル21を操作するブレーキ操作時、前輪FL,FRの回転に伴う動力がディファレンシャル17及び動力伝達機構12を通じて伝達される。このとき、第2のモータ14は発電機として機能し、この第2のモータ14で発電された電力は、インバータ15を介してバッテリ16に供給されて蓄電される。そして、このように発電する第2のモータ14は、第2のモータ14での発電量に応じた回生制動力を車両に対して付与する。したがって、第2のモータ14が、「回生制動装置」の一例を構成する。
次に、液圧制動装置20について説明する。
液圧制動装置20は、ブレーキペダル21が駆動連結されている液圧供給装置50と、車輪FL,FR,RL,RRに対する液圧制動力を自動調整可能なブレーキアクチュエータ30とを備えている。また、液圧制動装置20には、ブレーキペダル21の操作量であるブレーキ操作量に応じた信号を制御装置100に出力するブレーキ操作量センサSE2が設けられている。
図2に示すように、ブレーキアクチュエータ30には、2系統の液圧回路311,312が設けられている。第1の液圧回路311には、左前輪用のホイールシリンダ22aと右前輪用のホイールシリンダ22bとが接続されるとともに、第2の液圧回路312には、左後輪用のホイールシリンダ22cと右後輪用のホイールシリンダ22dとが接続されている。そして、液圧供給装置50から第1及び第2の液圧回路311,312にブレーキ液が流入されると、ホイールシリンダ22a〜22d内にブレーキ液が流入し、ホイールシリンダ22a〜22d内の液圧であるホイールシリンダ圧(以下、「WC圧」ともいう。)が増圧される。その結果、車輪FL,FR,RL,RRにはWC圧に応じた液圧制動力が付与される。
液圧供給装置50のマスタシリンダ51とホイールシリンダ22a〜22dとを接続する経路には、リニア電磁弁である差圧調整弁321,322が設けられている。また、第1の液圧回路311において差圧調整弁321よりもホイールシリンダ22a,22b側には、左前輪用の経路33a及び右前輪用の経路33bが設けられるとともに、第2の液圧回路312において差圧調整弁322よりもホイールシリンダ22c,22d側には、左後輪用の経路33c及び右後輪用の経路33dが設けられている。そして、こうした経路33a〜33dには、ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁34a,34b,34c,34dと、WC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。
また、第1及び第2の液圧回路311,312には、ホイールシリンダ22a〜22dから減圧弁35a〜35dを通じて流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ361,362と、ポンプ用モータ37の回転に基づき作動する供給ポンプ381,382とが接続されている。リザーバ361,362は、吸入用流路391,392を通じて供給ポンプ381,382に接続されるとともに、マスタ側流路401,402を通じて差圧調整弁321,322よりもマスタシリンダ51側の通路に接続されている。また、供給ポンプ381,382は、供給用流路411,412を通じて差圧調整弁321,322と増圧弁34a〜34dの間の接続部位421,422に接続されている。そして、供給ポンプ381,382は、ポンプ用モータ37が駆動する場合に、リザーバ361,362及びマスタシリンダ51内から吸入用流路391,392及びマスタ側流路401,402を通じてブレーキ液を汲み取り、該ブレーキ液を供給用流路411,412内に吐出する。すなわち、差圧調整弁321,322と供給ポンプ381,382とが作動することによって、マスタシリンダ51とホイールシリンダ22a〜22dとの間に差圧が発生し、同差圧に応じた液圧制動力が車両に付与される。
液圧供給装置50は、マスタシリンダ51に加え、運転者によるブレーキペダル21の操作力であるブレーキ操作力を助勢するブースタ装置52と、ブレーキ液が貯留される大気圧リザーバ53とを備えている。ここでは、ブースタ装置52として、エンジン11の運転時に負圧が発生するインテークマニホールドに接続されている装置を採用している。このブースタ装置52では、インテークマニホールド内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキ操作力を助勢している。
図3に示すように、マスタシリンダ51を構成する有底筒状のハウジング60内には、図中左右方向に並ぶ2つのマスタピストン611,612が設けられている。これら各マスタピストン611,612は、ハウジング60の筒状部60aの内周壁に沿って軸方向(図3では左右方向)に摺動可能である。すなわち、運転者によるブレーキ操作によって各マスタピストン611,612は、図中左方向である制動方向に摺動する。
また、ハウジング60の底壁60bと第1のマスタピストン611との間に形成されている第1のマスタ室621内には、制動方向の反対方向である非制動方向(図中右方向)への付勢力を第1のマスタピストン611に付与する第1のスプリング631が設けられている。また、第1のマスタピストン611と第2のマスタピストン612との間に形成されている第2のマスタ室622内には、非制動方向に第2のマスタピストン612を付勢する第2のスプリング632が設けられている。
そして、第1及び第2のマスタピストン611,612に作用するブレーキ操作力が大きくなると、第1及び第2のマスタピストン611,612が第1及び第2のスプリング631,632からの付勢力に抗して制動方向に摺動し、第1及び第2のマスタ室621,622の容積が狭くなる。一方、第1及び第2のマスタピストン611,612に作用するブレーキ操作力が小さくなると、第1及び第2のスプリング631,632からの付勢力によって第1及び第2のマスタピストン611,612が非制動方向に摺動し、第1及び第2のマスタ室621,622の容積が広くなる。
また、第1のマスタ室621内は、ブレーキアクチュエータ30の第1の液圧回路311と連通するとともに、第1の連通路651を通じて大気圧リザーバ53と連通している。また、第2のマスタ室622内は、ブレーキアクチュエータ30の第2の液圧回路312と連通するとともに、第2の連通路652を通じて大気圧リザーバ53と連通している。
そして、第1及び第2のマスタ室621,622と第1及び第2の液圧回路311,312との連通は、ブレーキ操作量BPInputが多くても少なくても維持される。これに対し、第1及び第2のマスタ室621,622と大気圧リザーバ53との連通は、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputTh未満であるときには維持される一方で、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputTh以上であるときには遮断される。
ここで、第1及び第2のマスタ室621,622内の液圧であるマスタシリンダ圧(以下、「MC圧」ともいう。)Pmcは、大気圧リザーバ53内の圧力(例えば、大気圧)を基準とする相対的な圧力である。このMC圧Pmcが「基礎液圧」に相当する。そして、図4に示すように、第1及び第2のマスタ室621,622内のMC圧Pmcは、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputTh未満であるときには、第1及び第2のマスタ室621,622が大気圧リザーバ53と連通しているために「0(零)」となる。このようにMC圧Pmcが「0(零)」である場合、第1及び第2のマスタ室621,622内から第1及び第2の液圧回路311,312にブレーキ液が流出されない。
その一方で、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputTh以上である場合、第1及び第2のマスタ室621,622と大気圧リザーバ53との連通が遮断されているため、MC圧Pmcは、ブレーキ操作量BPInputが多くなるに連れて次第に大きくなる。すなわち、ブレーキ操作量BPInputが多くなるに連れて第1及び第2のマスタ室621,622内から第1及び第2の液圧回路311,312に流出するブレーキ液の量が多くなり、ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧が高くなる。これにより、車両には、基礎液圧であるMC圧Pmcに応じた液圧制動力である基礎液圧制動力BPBが付与される。
ちなみに、ブレーキ操作量BPInputは、運転者が車両に要求する制動力である要求制動力BPTとある程度相関している。そして、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputTh未満である場合、車両には、制御装置100によって制御された制動力(「制御制動力」ともいう。)が付与される。なお、この制御制動力は、回生制動装置である第2のモータ14によって車両に付与される回生制動力BPR、及び、ブレーキアクチュエータ30の作動によって発生するマスタシリンダ51とホイールシリンダ22a〜22dとの差圧に応じた液圧制動力である制御液圧制動力BPPを含んでいる。
次に、図5に示すタイミングチャートを参照し、運転者によるブレーキ操作によって車両に制動力が付与される際の一例について説明する。
図5(a),(b)に示すように、第1のタイミングt11でブレーキ操作が開始されると、車両の減速が開始される。このとき、ブレーキ操作量BPInputは、「0(零)」の状態から徐々に多くなる。そのため、ブレーキ操作量BPInputが少ない段階では、要求制動力BPTを回生制動力BPRだけで賄うことができる。その後、第2のタイミングt12以降からは、要求制動力BPTの増大速度と比較して、回生制動力BPRの増大速度が小さくなり、要求制動力BPTと回生制動力BPRとの間にずれが生じるようになる。
そのため、第2のタイミングt12では、差圧調整弁321,322及び供給ポンプ381,382の作動によって、マスタシリンダ51内とホイールシリンダ22a〜22d内との差圧が大きくされる。このときの差圧は、要求制動力BPTから回生制動力BPRを減算した差に応じた大きさとされる。その結果、第2のタイミングt12から、無効操作量BPInputThに応じた要求制動力BPTに回生制動力BPRが達する第4のタイミングt14までの間では、差圧調整弁321,322及び供給ポンプ381,382の作動に基づいた制御液圧制動力BPPが車両に付与される。
そして、第3のタイミングt13を経過すると、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputThを超えるため、マスタ室621,622内のMC圧Pmcは、ブレーキ操作量BPInputから無効操作量BPInputThを減じた差である有効操作量に応じて増圧されるようになる。すると、各ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧は、MC圧Pmcの増圧に応じた分だけ増圧される。すなわち、第3のタイミングt13以降においては、MC圧Pmcの増圧に基づいた基礎液圧制動力BPBも車両に付与されるようになる。
次に、図1を参照し、制御装置100について説明する。
図1に示すように、制御装置100には、アクセル開度センサSE1及びブレーキ操作量センサSE2に加え、車両の車体速度VSを検出するための車速センサSE4と、マスタシリンダ51の第1及び第2のマスタ室621,622内のMC圧Pmcを検出する液圧検出センサSE5(図2参照)とが電気的に接続されている。そして、制御装置100は、各種センサSE1,SE2,SE4,SE5などの各種検出系からの検出信号に基づき車両制御を統括的に行う。
こうした制御装置100は、パワーマネージメントコンピュータ101と、エンジン11を制御するエンジン制御ユニット102と、第1及び第2の各モータ13,14を制御するモータ制御ユニット103と、液圧制動装置20を制御するブレーキ制御ユニット104とを備えている。
パワーマネージメントコンピュータ101は、運転者がアクセル操作を行う場合、車両の走行状態に基づき、エンジン11に要求する要求動力及び第2のモータ14に要求する要求動力を演算する。そして、パワーマネージメントコンピュータ101は、演算した要求動力に基づいた制御指令をエンジン制御ユニット102及びモータ制御ユニット103に個別に送信する。
また、パワーマネージメントコンピュータ101は、その時点でのバッテリ16の蓄電量及び前輪FL,FRの車輪速度などに基づき、その時点で前輪FL,FRに付与可能な回生制動力を演算する。そして、パワーマネージメントコンピュータ101は、演算したその時点の回生制動力をブレーキ制御ユニット104に送信する。
こうしたパワーマネージメントコンピュータ101は、運転者によるブレーキ操作に伴う車両減速時には、ブレーキ制御ユニット104によって演算された回生制動力の指示値に関する情報を受信する。すると、パワーマネージメントコンピュータ101は、受信した情報をモータ制御ユニット103に送信する。また、パワーマネージメントコンピュータ101は、現時点で第2のモータ14が車両に付与している回生制動力BPRに関する情報をモータ制御ユニット103から受信し、同情報をブレーキ制御ユニット104に送信する。
モータ制御ユニット103は、運転者によるブレーキ操作に伴う車両減速時には、パワーマネージメントコンピュータ101から回生制動力の指示値に関する情報を受信する。そして、モータ制御ユニット103は、受信した情報に基づいた回生制動力の指示値と同等の回生制動力が前輪FL,FRに付与されるように第2のモータ14に発電させる。また、モータ制御ユニット103は、第2のモータ14からの発電量などに基づき、第2のモータ14が車両に付与している回生制動力BPRを演算し、同回生制動力BPRに関する情報をパワーマネージメントコンピュータ101に送信する。
ブレーキ制御ユニット104は、運転者がブレーキ操作を行っている場合、ブレーキ操作量センサSE2からの信号に基づいてブレーキ操作量BPInputを演算するとともに、液圧検出センサSE5からの信号に基づいてMC圧Pmcを演算する。また、ブレーキ制御ユニット104は、演算したブレーキ操作量BPInputやMC圧Pmcに基づき、運転者が車両に要求する要求制動力BPTを演算する。そして、ブレーキ制御ユニット104は、演算した要求制動力BPTやその時点で前輪FL,FRに付与できる回生制動力などに基づき回生制動力の指示値を演算し、同指示値に関する情報をパワーマネージメントコンピュータ101に送信する。
ブレーキ制御ユニット104は、演算したMC圧Pmcに基づき、現時点の基礎液圧制動力BPBを演算する。そして、ブレーキ制御ユニット104は、回生制動力BPRと基礎液圧制動力BPBとによって要求制動力BPTを賄うことができると判断した場合、ブレーキアクチュエータ30を作動させない。すなわち、ブレーキ制御ユニット104は、液圧制動装置20から車両に対して制御液圧制動力BPPを付与させない。一方、ブレーキ制御ユニット104は、回生制動力BPRと基礎液圧制動力BPBとの和が要求制動力BPT未満となる場合、液圧制動装置20から車両に対して制御液圧制動力BPPを付与させる。このように回生制動力BPR、制御液圧制動力BPP及び基礎液圧制動力BPBを管理することにより、車両の回生エネルギの回収効率が高くなる。
ところで、図6(a),(b),(c),(d),(e)、(f)に示すように、運転者によるブレーキ操作に伴って車両が減速されている場合、車両が停止される前の低速走行時に、すり替え制御が実施されることがある。このすり替え制御とは、車両に付与されている回生制動力BPRを「0(零)」に向けて減少させるとともに、同回生制動力BPRの減少を補うように制御液圧制動力BPPを増大させる制御である。
このように車両の低速走行時に実施されるすり替え制御の実施条件は、以下に示す2つの条件(条件1−1)及び(条件1−2)が全て成立していることを含んでいる。
(条件1−1)運転者によるブレーキ操作に伴って車両が減速しており、車両に回生制動力BPRが付与されていること。
(条件1−2)車両の車体速度VSがすり替え制御開始速度VSTh1未満であること。
すなわち、図6(a)〜(f)に示すように、ブレーキ操作に伴う車両の減速中の第1のタイミングt21で、車体速度VSがすり替え制御開始速度VSTh1以上の状態から、車体速度VSがすり替え制御開始速度VSTh1未満の状態に移行するため、すり替え制御が開始される。図6に示す例では、すり替え制御の開始前から、制御液圧制動力BPPを車両に付与すべくブレーキアクチュエータ30が既に作動している。そのため、ブレーキアクチュエータ30では、供給ポンプ381,382の作動が継続されつつ、差圧調整弁321,322の開度が徐々に小さくされる。このときの差圧調整弁321,322の開度の変化速度は、回生制動力BPRの減少速度と相関している。これにより、制御液圧制動力BPPが、回生制動力BPRの減少速度と相関する速度で増大される。
そして、車両の車体速度VSがすり替え制御終了速度VSTh2以下となる第2のタイミングt22で、回生制動力BPRが「0(零)」となり、すり替え制御が終了される。すると、ブレーキアクチュエータ30では、車両に付与される制御液圧制動力BPPを保持するために、差圧調整弁321,322の開度が保持されるようになる。そして、このように回生制動力BPRが車両に付与されていない状態の第3のタイミングt23で、車両が停止される。
液圧制動装置20では、制御液圧制動力BPPを増大させる場合、供給ポンプ381,382及び差圧調整弁321,322を作動させることにより、マスタシリンダ51のマスタ室621,622内からブレーキ液が供給ポンプ381,382に汲み上げられ、同ブレーキ液の少なくとも一部がホイールシリンダ22a〜22d内に供給される。その結果、すり替え制御の実施中にあっては、WC圧の増圧によって制御液圧制動力BPPが増大されるものの、マスタ室621,622内のブレーキ液が減少され、マスタ室621,622内のMC圧Pmcが減圧される。そして、このようにMC圧Pmcが減圧される場合、その減圧量が多いほど、運転者によって操作されているブレーキペダル21に対する操作反力が小さくなる。このとき、運転者によるブレーキ操作力が一定であったとしても、運転者の意志とは関係なく、ブレーキペダル21が制動方向に変位してしまう。
ここで、車両の回生エネルギの回収効率を高くするためには、すり替え制御開始速度VSTh1を可能な限り小さい値に設定し、すり替え制御の実施中における回生制動力BPRの減少速度を可能な限り大きくすることが望ましい。しかし、このように回生制動力BPRの減少速度を大きくすると、すり替え制御の実施中におけるMC圧Pmcの減圧速度が大きくなる。そのため、ブレーキペダル21に対する操作反力の低下速度が大きくなり、ブレーキペダル21の制動方向への変位速度が大きくなる(図6(b)参照)。その結果、運転者によるブレーキ操作力が一定であってもブレーキペダル21が制動方向に急激に変位し、ブレーキペダル21を操作する運転者に対して違和感を与えてしまう。
また、すり替え制御の実施中にあっては、回生制動力BPRの減少に連動して制御液圧制動力BPPが増大するようにブレーキアクチュエータ30が作動される。しかし、ブレーキアクチュエータ30の応答遅れに起因し、制御装置100が要求する制御液圧制動力BPPの増大速度よりも、制御液圧制動力BPPの実際の増大速度は小さくなる。そのため、図6(c)に示すように、運転者によって要求されている要求制動力BPTが一定であっても、車両の減速度DVSが小さくなることがある。こうした事象は、すり替え制御の実施中における回生制動力BPRの減少速度を大きくすることで顕著に表れる。
そこで、図7(a),(b),(c),(d),(e)、(f)に示すように、本実施形態の車両の制動システムでは、すり替え制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制するために、運転者によるブレーキ操作に伴う車両の減速時においてすり替え制御の実施前に、すり替え前制御を実施するようにしている。このすり替え前制御は、マスタ室621,622内のMC圧Pmcを目標液圧PmcTrに向けて減圧させるために、マスタ室621,622内からブレーキ液を減少させ、ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧を高くする制御である。また、すり替え前制御の実施時にあっては、WC圧の増圧に起因する制御液圧制動力BPPの増大に連動して回生制動力BPRを減少させることはない。
マスタ室621,622内からブレーキ液が減少され、MC圧Pmcが減圧されても、マスタピストン611,612などの摺動部材には静摩擦力が作用している。そのため、MC圧Pmcの減圧量があまり大きくないときには、静摩擦力によって摺動部材の摺動が規制され、マスタピストン611,612が制動方向にほとんど変位されない。その結果、マスタピストン611,612に駆動連結されているブレーキペダル21が制動方向にほとんど変位せず、ブレーキ操作を行っている運転者に違和感を与えにくい。そこで、目標液圧PmcTrは、すり替え制御の実施によって目標液圧PmcTrからMC圧Pmcを減圧させても、上記の操作反力の低下量及び低下速度を許容範囲内に収めることのできる大きさに設定されている。
そして、ブレーキ操作に伴って車両が減速している最中の第1のタイミングt31で、すり替え前制御の開始条件が成立すると、こうしたすり替え前制御が開始される。図7に示す例では、すり替え前制御の開始前から、制御液圧制動力BPPを車両に付与すべくブレーキアクチュエータ30が既に作動している。そのため、ブレーキアクチュエータ30では、供給ポンプ381,382の作動が継続されるとともに、差圧調整弁321,322の開度が徐々に小さくされる。すると、マスタシリンダ51とホイールシリンダ22a〜22dとの差圧が徐々に大きくなり、ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧が徐々に増圧される。このようなすり替え前制御の実施に伴うWC圧の増圧量のことを「嵩上げ量RS」ともいう。すなわち、すり替え前制御は、嵩上げ量RSを嵩上げ量の目標値RSTrまで増大させる制御ということもできる。なお、この嵩上げ量の目標値RSTrは、すり替え前制御の開始時点のMC圧Pmcから目標液圧PmcTrを減じた差と相関した値となっている。つまり、すり替え前制御の実施によって嵩上げ量RSが嵩上げ量の目標値RSTrまで増大されたときに、MC圧Pmcが目標液圧PmcTrまで減圧されていることとなる。
すり替え前制御の実施中にあっては、図7(e),(f)に示すように、すり替え制御の実施中とは異なり、制御液圧制動力BPPは増大されるものの、回生制動力BPRが減少されない。そのため、図7(c),(f)に示すように、要求制動力BPTは変化していないにも拘わらず、すり替え前制御が実施されることで車両全体に付与される制動力BPAが大きくなり、車両の減速度DVSもまた大きくなる。このとき、車両の減速度DVSの増大速度が小さいと、減速度DVSの増大を運転者は感じにくい一方で、減速度DVSの増大速度が大きいと、減速度DVSの増大を運転者が感じることができる。
そのため、本実施形態の車両の制動システムでは、すり替え前制御の実施に伴う車両の減速度DVSの増大を運転者があまり感じ取れないように、制御液圧制動力BPPの増大速度が小さくされている。具体的には、すり替え前制御の実施中における差圧調整弁321,322の開度の変化速度は、すり替え制御の実施中における差圧調整弁321,322の開度の変化速度よりも小さい。これにより、すり替え制御の実施中におけるホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧の減圧速度を基準減圧速度とした場合、すり替え前制御の実施中におけるホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧の減圧速度が、基準減圧速度よりも小さくなる。すなわち、ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧がゆっくりと増圧されることとなり、制御液圧制動力BPPが小さい速度で増大されるようになる。
そして、こうしたすり替え前制御が実施されている最中の第2のタイミングt32で、車両の車体速度VSがすり替え制御開始速度VSTh1未満となる。すなわち、すり替え前制御の実施条件が非成立となるとともに、すり替え制御の開始条件が成立する。そのため、この第2のタイミングt32で、すり替え前制御が終了されるとともに、すり替え制御が開始される。
すると、すり替え前制御の実施時とは異なり、回生制動力BPRが減少されるとともに、回生制動力BPRの減少を補うように制御液圧制動力BPPが増大される。そのため、図7(f)に破線で示すように、このように制御液圧制動力BPPが増大されても、車両全体に付与される制動力BPAは、すり替え前制御の実施時よりも増大されにくい。
このようにすり替え前制御の実施後にすり替え制御を実施する場合、差圧調整弁321,322の開度は、すり替え前制御の終了時点の開度から小さくされる。そのため、図7に示す例では、すり替え制御の実施中にあっては、すり替え前制御の終了時点の嵩上げ量RSが保持される。
また、図7(d)に示すように、すり替え制御の実施前に、すり替え前制御が実施されていたことにより、マスタ室621,622内の液量が少なくなっており、すり替え制御の開始時点におけるマスタ室621,622内のMC圧Pmcが低くなっている。図7に示す例では、MC圧Pmcが目標液圧PmcTrと等しくなっている。そのため、すり替え前制御が実施されない場合と比較し、すり替え制御の実施に伴うMC圧Pmcの減圧量が小さくなる。その結果、すり替え制御の実施中にあっては、ブレーキペダル21に対する操作反力が低下しにくくなり、ブレーキペダル21の制動方向への変位量が少なくなる。そして、こうしたすり替え制御は、車両の車体速度VSがすり替え制御終了速度VSTh2に達する第3のタイミングt33で終了される。
なお、すり替え前制御の実施条件は、以下に示す4つの条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)が全て成立していることを含んでいる。
(条件2−1)ブレーキペダル21が操作されており、マスタ室621,622内のMC圧Pmcが規定液圧PmcThL以上であること。
(条件2−2)車両に付与されている回生制動力BPRが規定回生制動力BPRTh以上であること。
(条件2−3)車両の車体速度VSが、すり替え制御開始速度VSTh1以上であって、且つすり替え前制御開始速度VSTh3未満であること。ただし、すり替え前制御開始速度VSTh3は、すり替え制御開始速度VSTh1よりも大きい値である。
(条件2−4)ブレーキペダル21の操作状態が保持状態であること。
MC圧Pmcが規定液圧PmcThL未満である場合、マスタ室621,622内のブレーキ液の量が比較的多いと判断することができる。そのため、こうした場合、すり替え前制御を実施することなくすり替え制御を実施したとしても、MC圧Pmcがそれほど減圧されない。その結果、ブレーキペダル21に対する操作反力が小さくなりにくく、すり替え制御を実施してもドライバビリティがそれほど低下しない。したがって、すり替え前制御の実施が不要と判断することができる。なお、規定液圧PmcThLは、上記の目標液圧PmcTr近傍の値であれば任意の値に設定してもよく、例えば目標液圧PmcTrと等しい値としてもよいし、目標液圧PmcTrよりも僅かに大きい値としてもよい。
また、車両に付与されている回生制動力BPRが規定回生制動力BPRTh未満である場合、回生制動力BPRが小さいと判断することができる。すり替え制御は、車両に付与されている回生制動力BPRを制御液圧制動力BPPにすり替える制御であるため、回生制動力BPRが小さい状態ですり替え制御を実施したとしても、MC圧Pmcがそれほど減圧されない。その結果、ブレーキペダル21に対する操作反力が小さくなりにくく、ブレーキペダル21が制動方向に変位しにくい。したがって、すり替え前制御の実施が不要と判断することができる。
ところで、すり替え前制御の実施時における制御液圧制動力の増大速度DBPRを小さくするためには、すり替え前制御の開始時点であるすり替え前制御開始速度VSTh3、及び、すり替え前制御の目標値である上記の嵩上げ量の目標値RSTrを、そのときのMC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputに基づいて可変とすることが望ましい。そして、このように嵩上げ量の目標値RSTrをそのときのMC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputに基づいて設定することで、嵩上げ量の目標値RSTrと相関する目標液圧PmcTrもまた、そのときのMC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputに基づいて可変させることができる。
例えば、嵩上げ量の目標値RSTrは、MC圧Pmc及びブレーキ操作量BPInputと目標値の候補値との関係を示すマップを用いることにより、そのときのMC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputに応じた値に設定することができる。すなわち、嵩上げ量の目標値RSTrは、ブレーキ操作量BPInputが一定である場合、MC圧Pmcが低いほど小さい値に設定される。また、嵩上げ量の目標値RSTrは、MC圧Pmcが一定である場合、ブレーキ操作量BPInputが小さいほど小さい値に設定される。そして、このように設定した嵩上げ量の目標値RSTrに応じた値に、目標液圧PmcTrが設定されるようになる。
すり替え前制御開始速度VSTh3は、目標液圧PmcTrの規定値と、その時点のMC圧Pmcとの差分が大きいほど大きい値に設定される。
また、運転者によってブレーキ操作量BPInputが変更されているときには、すり替え前制御を実施しないことが望ましい。例えば、運転者によってブレーキ操作量BPInputが増大されている場合に、すり替え前制御を実施したとする。この場合、ブレーキ操作量BPInputの増大とすり替え前制御の実施との双方によって、車両全体に付与される制動力BPAが増大されることとなる。すなわち、ブレーキ操作量BPInputの増大によって回生制動力BPRや基礎液圧制動力BPBが増大されるだけではなく、すり替え前制御の実施によって制御液圧制動力BPPもまた増大される。その結果、車両全体に付与される制動力BPAの増大速度が、ブレーキ操作を行っている運転者が意図する速度と乖離することがあり、ドライバビリティが低下するおそれがある。
反対に、運転者によってブレーキ操作量BPInputが減少されている場合に、すり替え前制御を実施したとする。この場合のブレーキアクチュエータ30の作動は、車両全体に付与される制動力BPAを減少させようとしている運転者の意図に反した作動となる。すなわち、ブレーキ操作量BPInputの減少によって回生制動力BPRや基礎液圧制動力BPBが減少されているにも拘わらず、すり替え前制御の実施によって制御液圧制動力BPPが増大されてしまう。そのため、車両全体に付与される制動力BPAの実際の減少速度が、ブレーキ操作量BPInputの減少態様と相関する制動力の減少速度よりも小さくなり、運転者に引っかかり感を与えてしまうおそれがある。
そこで、本実施形態の車両の制動システムでは、運転者によるブレーキ操作によって、ブレーキ操作量BPInputが変化していると判定できるときには、すり替え前制御を実施しないようにしている。すり替え前制御を実施している最中に、ブレーキ操作量BPInputが変化したときには、すり替え前制御の実施条件が成立しなくなるため、すり替え前制御が終了される。
そして、すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21が増大状態になった場合、すり替え前制御が終了され、保持制御が実施される。すなわち、すり替え前制御が実施されている最中にブレーキ操作量BPInputが増大されたときにはすり替え前制御が終了され、その後もブレーキ操作量BPInputの増大が継続されているときには保持制御が実施される。この保持制御は、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態である間に実施される。この保持制御が実施されると、ブレーキアクチュエータ30では、供給ポンプ381,382の作動は継続され、差圧調整弁321,322の開度が保持される。その結果、すり替え前制御の実施に伴うホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧の増大量である嵩上げ量RSが保持され、制御液圧制動力BPPが保持される。したがって、本実施形態の車両の制動システムでは、保持制御が、液圧制動装置20を制御することによって嵩上げ量RSの増大を抑制する「抑制制御」の一例に相当する。
また、すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が減少状態になった場合、すり替え前制御が終了され、減少制御が実施される。すなわち、すり替え前制御が実施されている最中にブレーキ操作量BPInputが減少されたときにはすり替え前制御が終了され、その後もブレーキ操作量BPInputの減少が継続されているときには減少制御が実施される。この減少制御は、ブレーキ操作量BPInputが減少状態である間に実施される。この減少制御が実施されると、ブレーキアクチュエータ30では、供給ポンプ381,382の作動は継続され、差圧調整弁321,322の開度が大きくなる。その結果、すり替え前制御の実施に伴うホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧の増大量である嵩上げ量RSが減少され、制御液圧制動力BPPが減少される。この際の差圧調整弁321,322の開度の増大速度、すなわち嵩上げ量RSの減少速度は、ブレーキ操作量BPInputの減少速度が大きいほど大きくされる。例えば、嵩上げ量RSの減少速度は、ブレーキ操作量BPInputが「0(零)」になったときに嵩上げ量RSが「0(零)」となるような速度に設定してもよい。
ちなみに、この減少制御は、同減少制御の実施条件が成立した場合、すり替え前制御の終了後でも実施される。すなわち、すり替え前制御の終了時点とすり替え制御の開始時点との間で、実施条件が成立しているときには減少制御が実施される。また、すり替え制御の実施中でも、実施条件が成立しているときには減少制御が実施される。
ここで、ブレーキペダル21の操作状態の判定方法の一例について説明する。例えば、ブレーキ操作量BPInputの増大速度が増大判定速度以上であることの継続時間が、所定の判定速度時間に達したときに、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態になったと判定することができる。また、ブレーキ操作量BPInputの減少速度が減少判定速度以上であることの継続時間が、所定の判定速度時間に達したときに、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態になったと判定することができる。また、ブレーキ操作量BPInputの変化速度が保持判定速度以下であることの継続時間が、所定の判定速度時間に達したときに、ブレーキペダル21の操作状態が保持状態になったと判定することができる。ただし、保持判定速度は、増大判定速度及び減少判定速度よりも小さい値であることが望ましい。
なお、減少状態であるか否かの判定については、今回のブレーキ操作時におけるブレーキ操作量BPInputの最大値からの減少量が減少判定量以上である状態の継続時間を取得し、同継続時間が所定時間以上になったときに、減少状態であると判定するようにしてもよい。
また、車両の回生エネルギの回収効率の低下を抑制するという観点上、運転者によるブレーキ操作が開始された制動初期ではすり替え前制御を実施しないようにすることが望ましい。すなわち、制動初期では、ブレーキ操作量BPInputの増大に応じ、回生制動装置である第2のモータ14によって車両に付与される回生制動力BPRが増大される。そして、このように回生制動力BPRが増大している最中にすり替え前制御が実施されると、車両全体に付与される制動力BPAの増大速度には、回生制動力BPRの増大速度に加え、すり替え制御の実施に伴う制御液圧制動力BPPの増大速度の成分も含まれることとなる。そのため、ブレーキ操作量BPInputが比較的小さい段階で、車両の減速度DVSが、運転者の所望する減速度に達し、ブレーキ操作量BPInputがそれ以上増大されなくなることがある。この場合、第2のモータ14としては回生制動力BPRを増大させることが可能であるにも拘わらず、ブレーキ操作量BPInputの保持によって、回生制動力BPRが増大されなくなってしまう。すなわち、すり替え制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することはできるものの、すり替え前制御を実施したために回生制動力BPRの増大が制限されてしまい、車両の回生エネルギの回収効率が低下してしまう。そこで、本実施形態の車両の制動システムでは、運転者によるブレーキ操作が開始された時点からの経過時間T1が規定時間T1Th未満であるときには、上記の条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)が全て成立している場合でもすり替え前制御を実施しないようにしている。
なお、要求制動力BPTは、ブレーキ操作量BPInput及びMC圧Pmcに基づき演算することができる。例えば、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputTh以下である場合、MC圧Pmcが「0(零)」であるため、要求制動力BPTは、ブレーキ操作量BPInputが大きいほど大きい値となるように演算される。一方、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputThよりも大きい場合、要求制動力BPTは、ブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputThに達した時点の要求制動力と、MC圧Pmcの大きさに応じた加算量との和とされる。
ただし、上記のようにすり替え前制御が実施されると、MC圧Pmcが減圧されるため、運転者の意志に反し、要求制動力BPTが小さくなるおそれがある。そこで、本実施形態の車両の制動システムでは、上記のブレーキ操作量BPInputが無効操作量BPInputThに達した時点の要求制動力と、MC圧Pmcの大きさに応じた加算量と、すり替え前制御の実施に伴うMC圧Pmcの減少量、すなわちその時点の嵩上げ量RSに応じた補正量との和とされる。
次に、運転者によってブレーキ操作が行われているときに、制御装置100のブレーキ制御ユニット104が実行する処理ルーチンについて説明する。
まず始めに、図8に示すフローチャートを参照し、すり替え前制御、保持制御、減少制御及びすり替え制御が実施されていない制御外であるときに、すり替え前制御及びすり替え制御の開始タイミングを決定するためにブレーキ制御ユニット104が実行する処理ルーチンについて説明する。
図8に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ制御ユニット104は、ブレーキ操作が開始された時点からの経過時間T1を取得し、この経過時間T1が上記規定時間T1Th以上であるか否かを判定する(ステップS11)。経過時間T1が規定時間T1Th未満である場合には、車両に付与される回生制動力BPRが未だ増大される可能性があると判断できるため、すり替え前制御の実施が禁止されている。そのため、経過時間T1が規定時間T1Th未満である場合(ステップS11:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、その処理を後述するステップS14に移行する。
一方、経過時間T1が規定時間T1Th以上である場合(ステップS11:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS12)。この場合、上記の条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)のうち全てが成立しているときに、すり替え前制御の開始条件が成立していると判定することができる。また、条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)のうち少なくとも1つが成立していないときに、すり替え前制御の開始条件が成立していないと判定することができる。
そして、すり替え前制御の開始条件が成立していない場合(ステップS12:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、その処理を後述するステップS14に移行する。一方、すり替え前制御の開始条件が成立している場合(ステップS12:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、その時点のブレーキ操作量BPInput及びMC圧Pmcなどに基づき、嵩上げ量の目標値RSTrを設定する(ステップS121)。このとき、ブレーキ制御ユニット104は、嵩上げ量の目標値RSTrと相関する目標液圧PmcTrも設定するようにしてもよい。そして、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御を開始し(ステップS13)、本処理ルーチンを終了する。この場合、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御の開始時点のMC圧Pmc及び車体速度VS(=VSTh3)と、目標液圧PmcTrと、すり替え制御開始速度VSTh1とに基づき、MC圧の減圧速度、すなわち嵩上げ量の増大速度DRSを設定する。
ステップS14において、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御の開始条件が成立しているか否かを判定する。この場合、上記の条件(条件1−1)及び(条件1−2)が全て成立しているときに、すり替え制御の開始条件が成立していると判定することができる。また、条件(条件1−1)及び(条件1−2)のうち少なくとも1つが成立していないときに、すり替え制御の開始条件が成立していないと判定することができる。そして、すり替え制御の開始条件が成立している場合(ステップS14:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御を開始し(ステップS15)、本処理ルーチンを終了する。
一方、すり替え制御の開始条件が成立していない場合(ステップS14:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、その時点のMC圧Pmcなどに基づき、すり替え前制御開始速度VSTh3を設定する(ステップS17)。その後、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを一旦終了する。そして、次の制御サイクルのときに、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを再び実行する。
次に、図9に示すフローチャートを参照し、すり替え前制御が実施されているときに、保持制御、減少制御及びすり替え制御の開始タイミングを決定するためにブレーキ制御ユニット104が実行する処理ルーチンについて説明する。
図9に示すように、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS21)。すり替え前制御が実施されている場合、上記の条件(条件1−1)及び(条件1−2)が全て成立しているときに、すり替え制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、すり替え制御の開始条件が成立している場合(ステップS21:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御を終了してすり替え制御を開始し(ステップS22)、本処理ルーチンを終了する。
一方、すり替え制御の開始条件が成立していない場合(ステップS21:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS23)。すり替え前制御が実施されている場合、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態であること、及び、すり替え制御の実施中ではないにも拘わらず回生制動力BPRが減少されていることのうち少なくとも1つが成立しているときに、保持制御の開始条件が成立していると判定することができる。
そして、保持制御の開始条件が成立している場合(ステップS23:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御を終了して保持制御を開始し(ステップS24)、本処理ルーチンを終了する。一方、保持制御の開始条件が成立していない場合(ステップS23:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS25)。すり替え前制御が実施されている場合、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態であるときに、減少制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、減少制御の開始条件が成立している場合(ステップS25:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御を終了して減少制御を開始し(ステップS26)、本処理ルーチンを終了する。この際、ブレーキ制御ユニット104は、ブレーキ操作量BPInputの減少速度に応じ、MC圧の増圧速度、すなわち嵩上げ量の減少速度を設定する。
一方、減少制御の開始条件が成立していない場合(ステップS25:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御の実施を継続する。また、次の制御サイクルのときに、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを再び実行する。
なお、図9に示す処理ルーチンにあっては、判定ステップの実行する順番を適宜変更してもよい。例えば、最初に、減少制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS25)を行い、減少制御の開始条件が成立していないときには保持制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS23)を行うようにしてもよい。そして、保持制御の開始条件が成立していないときにすり替え制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS21)を行うようにしてもよい。
次に、図10に示すフローチャートを参照し、保持制御が実施されているときに、すり替え前制御、減少制御及びすり替え制御の開始タイミングを決定するためにブレーキ制御ユニット104が実行する処理ルーチンについて説明する。
図10に示すように、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS31)。保持制御が実施されている場合、回生制動力BPRが「0(零)」ではないこと、車両の車体速度VSがすり替え制御開始速度VSTh1未満であって且つすり替え制御終了速度VSTh2以上であること、及び、ブレーキペダル21の操作状態が保持状態であることの全てが成立しているときに、すり替え制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、すり替え制御の開始条件が成立している場合(ステップS31:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御を終了してすり替え制御を開始し(ステップS32)、本処理ルーチンを終了する。
一方、すり替え制御の開始条件が成立していない場合(ステップS31:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS33)。保持制御が実施されている場合、上記の条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)が全て成立しているときに、すり替え前制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、すり替え前制御の開始条件が成立している場合(ステップS33:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御を終了してすり替え前制御を開始し(ステップS34)、本処理ルーチンを終了する。なお、この場合にすり替え前制御を実施する際における嵩上げ量の増大速度DRSの演算方法については後述する。
一方、ステップS33において、すり替え前制御の開始条件が成立していない場合(NO)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS35)。保持制御が実施されている場合、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態であるときに、減少制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、減少制御の開始条件が成立していない場合(ステップS35:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御の実施を継続する。また、次の制御サイクルのときに、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを再び実行する。
一方、減少制御の開始条件が成立している場合(ステップS35:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御を終了して減少制御を開始し(ステップS36)、本処理ルーチンを終了する。なお、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御の実施時には、ブレーキ操作量BPInputの減少速度が小さいほど、嵩上げ量RSの減少速度、すなわち制御液圧制動力BPPの減少速度が小さくなるようにブレーキアクチュエータ30を制御する。
なお、図10に示す処理ルーチンにあっては、判定ステップの実行する順番を適宜変更してもよい。例えば、最初に、減少制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS35)を行い、減少制御の開始条件が成立していないときにはすり替え前制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS33)を行うようにしてもよい。そして、すり替え前制御の開始条件が成立していないときにすり替え制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS31)を行うようにしてもよい。
次に、図11に示すフローチャートを参照し、減少制御が実施されているときに、すり替え前制御、保持制御及びすり替え制御の開始タイミングを決定するためにブレーキ制御ユニット104が実行する処理ルーチンについて説明する。
図11に示すように、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御の実施によって減少されている嵩上げ量RSが「0(零)」と等しいか否かを判定する(ステップS401)。嵩上げ量RSが「0(零)」と等しい場合(ステップS401:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御を終了し(ステップS402)、本処理ルーチンを終了する。この場合、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御、保持制御、すり替え前制御及びすり替え制御を実施していない制御外の状態となる。一方、嵩上げ量RSが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS41:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS41)。減少制御が実施されている場合、回生制動力BPRが「0(零)」ではないこと、車両の車体速度VSがすり替え制御開始速度VSTh1未満であって且つすり替え制御終了速度VSTh2以上であること、及び、ブレーキペダル21の操作状態が保持状態であることの全てが成立しているときに、すり替え制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、すり替え制御の開始条件が成立している場合(ステップS41:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御を終了してすり替え制御を開始し(ステップS42)、本処理ルーチンを終了する。
一方、すり替え制御の開始条件が成立していない場合(ステップS41:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS43)。減少制御が実施されている場合、上記の条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)が全て成立しているときに、すり替え前制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、すり替え前制御の開始条件が成立している場合(ステップS43:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御を終了してすり替え前制御を開始し(ステップS44)、本処理ルーチンを終了する。なお、この場合にすり替え前制御を実施する際における嵩上げ量の増大速度DRSの演算方法については後述する。
一方、ステップS43において、すり替え前制御の開始条件が成立していない場合(NO)、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS45)。減少制御が実施されている場合、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態であること、すり替え制御の実施中ではないにも拘わらず回生制動力BPRが減少されていること、車両の車体速度VSがすり替え制御終了速度VSTh2未満であって且つブレーキペダル21の操作状態が保持状態であることのうち少なくとも1つが成立しているときに、保持制御の開始条件が成立していると判定することができる。
そして、保持制御の開始条件が成立していない場合(ステップS45:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御の実施を継続する。また、次の制御サイクルのときに、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを再び実行する。一方、保持制御の開始条件が成立している場合(ステップS45:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御を終了して保持制御を開始し(ステップS46)、本処理ルーチンを終了する。
なお、図11に示す処理ルーチンにあっては、嵩上げ量RSが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS401:NO)、それ以降の判定ステップの実行する順番を適宜変更してもよい。例えば、保持制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS45)を行い、保持制御の開始条件が成立していないときにはすり替え前制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS43)を行うようにしてもよい。そして、すり替え前制御の開始条件が成立していないときにすり替え制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS41)を行うようにしてもよい。
次に、図12に示すフローチャートを参照し、すり替え制御が実施されているときに、すり替え前制御、保持制御及び減少制御の開始タイミングを決定するためにブレーキ制御ユニット104が実行する処理ルーチンについて説明する。
図12に示すように、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え前制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS51)。すり替え制御が実施されている場合、上記の条件(条件2−1)、(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)が全て成立しているときに、すり替え前制御の開始条件が成立していると判定することができる。そして、すり替え前制御の開始条件が成立している場合(ステップS51:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御を終了してすり替え前制御を開始し(ステップS52)、本処理ルーチンを終了する。
一方、すり替え前制御の開始条件が成立していない場合(ステップS51:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、保持制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS53)。すり替え制御を実施している場合、車両の車体速度VSがすり替え制御終了速度VSTh2に達し、回生制動力BPRが「0(零)」になったこと、及び、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態になったことのうち少なくとも1つが成立しているときに、保持制御の開始条件が成立していると判定することができる。
そして、保持制御の開始条件が成立している場合(ステップS53:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御を終了して保持制御を開始し(ステップS54)、本処理ルーチンを終了する。一方、保持制御の開始条件が成立していない場合(ステップS53:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、減少制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS55)。すり替え制御が実施されている場合、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態であるときに、減少制御の開始条件が成立していると判定することができる。
そして、減少制御の開始条件が成立している場合(ステップS55:YES)、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御を終了して減少制御を開始する(ステップS56)。この場合、ブレーキ制御ユニット104は、ブレーキ操作量BPInputの減少速度に応じた速度で嵩上げ量RSを減少させる。一方、減少制御の開始条件が成立していない場合(ステップS55:NO)、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、ブレーキ制御ユニット104は、すり替え制御の実施を継続する。また、次の制御サイクルのときに、ブレーキ制御ユニット104は、本処理ルーチンを再び実行する。
なお、図12に示す処理ルーチンにあっては、判定ステップの実行する順番を適宜変更してもよい。例えば、最初に、減少制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS55)を行い、減少制御の開始条件が成立していないときには保持制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS53)を行うようにしてもよい。そして、保持制御の開始条件が成立していないときにすり替え前制御の開始条件が成立しているか否かの判定処理(ステップS51)を行うようにしてもよい。
次に、図13に示すタイミングチャートを参照し、保持制御からすり替え前制御に移行された場合における嵩上げ量の増大速度の演算方法の一例について説明する。図13には、ブレーキ制御ユニット104によって実施される制御が、すり替え前制御、保持制御、すり替え前制御の順に移行された際のタイミングチャートが図示されている。
図13(a),(b)に示すように、第1のタイミングt41ですり替え前制御が開始されると、マスタ室621,622内のMC圧Pmcが目標液圧PmcTrに向けて減圧されるように、嵩上げ量RSが増大される。そして、こうしたすり替え前制御の実施中における第2のタイミングt42で、ブレーキペダル21の操作状態が保持状態から増大状態に移行されると、すり替え前制御が終了され、保持制御が開始される。そのため、第2のタイミングt42からは、保持制御の実施によって嵩上げ量RSが保持されるようになる。そして、こうした保持制御の実施中の第3のタイミングt43で、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態から保持状態に移行されると、保持制御が終了され、すり替え前制御が開始される。
なお、ここでの説明理解の便宜上、第1のタイミングt41から開始されたすり替え前制御を「第1のすり替え前制御」といい、第3のタイミングt43から開始されたすり替え前制御を「第2のすり替え前制御」というものとする。
第2のタイミングt42から第3のタイミングt43までの期間でMC圧Pmcが保持されるため、第1のすり替え制御の実施時の減少速度と等しい速度でMC圧Pmcを減少させても、第2のすり替え前制御では、目標液圧PmcTrまでMC圧Pmcを減圧させることは困難である。そこで、本実施形態の車両の制動システムでは、第2のすり替え前制御を実施するに際し、MC圧の減圧速度と相関する嵩上げ量の増大速度DRSが改めて設定される。このとき、嵩上げ量の増大速度DRSは、以下に示す関係式(式1)を用いることにより演算することができる。なお、すり替え前制御の開始時(この場合、第3のタイミングt43)における車体速度VSを「VS1」とし、現時点の車体速度VSを「VS2」とする。また、すり替え制御の開始時の車体速度であるすり替え制御開始速度を「VSTh1」とする。
このように演算された増大速度DRSが大きすぎると、第2のすり替え前制御の実施時におけるMC圧Pmcの減圧速度が大きくなりすぎ、第2のすり替え前制御の実施中にドライバビリティの低下を招くおそれがある。また、演算された増大速度DRSが小さすぎると、第2のすり替え前制御を実施しても、その後のすり替え制御中のMC圧Pmcの減少量があまり小さくされず、すり替え制御の実施中でのドライバビリティの低下の抑制効果が小さくなるおそれがある。
そのため、図13(b)に二点鎖線で示すように、嵩上げ量の増大速度の上限値DRSUが設けられているとともに、図13(b)に一点鎖線で示すように、嵩上げ量の増大速度の下限値DRSLが設けられている。この増大速度の下限値DRSLは、第1のすり替え制御の実施中における嵩上げ量の増大速度と等しい値、又は同増大速度よりも少しだけ小さい値に設定されている。また、増大速度の上限値DRSUは、MC圧Pmcの減圧に起因するブレーキペダル21の制動方向への変位速度を許容範囲内に抑えることのできる値に設定されている。
そして、ブレーキ制御ユニット104は、上記関係式(式1)で演算した増大速度DRS、増大速度の上限値DRSU及び増大速度の下限値DRSLを比較し、真ん中の値を第2のすり替え前制御の実施中における嵩上げ量の増大速度DRSとする。
なお、ここでは、保持制御からすり替え前制御に移行された場合について説明したが、減圧制御からすり替え前制御に移行された場合であっても、すり替え制御からすり替え前制御に移行された場合であっても、上記と同じ方法で嵩上げ量の増大速度DRSを設定することができる。また、上記関係式(式1)の「VS1」にすり替え前制御開始速度VSTh3を代入することにより、車体速度VSがすり替え前制御開始速度VSTh3まで小さくなったことに起因して実施されるすり替え前制御(図13に示す例の第1のすり替え前制御に相当)での嵩上げ量の増大速度DRSを設定することもできる。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ブレーキ操作に伴う車両の減速時では、すり替え制御の実施前にすり替え前制御が実施される。このすり替え前制御では、ブレーキアクチュエータ30が作動されることにより、マスタ室621,622内からブレーキ液がホイールシリンダ22a〜22d内に供給される。すなわち、すり替え制御の実施に先立って、マスタ室621,622内のMC圧Pmcが減少されることとなる。そのため、その後に開始されたすり替え制御によって制御液圧制動力BPPが増大されるときには、事前にすり替え前制御が実施されない場合と比較し、MC圧Pmcの減圧量を少なくすることができる。これにより、すり替え制御の実施に伴う上記の操作反力の低下が抑えられ、ひいてはブレーキペダル21の制動方向への変位量が大きくなりにくくなる。しかも、すり替え前制御の実施中にあっては、同すり替え前制御の実施に起因する回生制動力BPRの減少がなされない。そのため、すり替え前制御を実施しても、車両の回生エネルギの回収効率の低下が抑制される。したがって、車両の回生エネルギの回収効率の低下を抑制しつつも、すり替え制御を実施するに際してドライバビリティの低下を抑制することができる。
(2)本実施形態の車両の制動システムでは、すり替え前制御の実施中にあっては、ホイールシリンダ22a〜22d内のWC圧の増圧速度が、すり替え制御の実施中における増圧速度よりも小さくされる。これにより、すり替え前制御の実施中におけるマスタ室621,622内のMC圧Pmcの減圧速度を、すり替え制御の実施中における減圧速度よりも小さくすることができる。そのため、ブレーキペダル21を上記制動方向に変位させにくくしたり、車両の減速度DVSの増大を小さくしたりすることができ、すり替え前制御の実施時に対する違和感を運転者に与えにくくなる。したがって、すり替え前制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
(3)また、すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が増大状態になった場合、保持制御の実施によって嵩上げ量RSが保持されるようになる。そのため、ブレーキペダル21の操作状態が増大状態であるときでもすり替え前制御が実施される場合と比較し、車両全体に付与される制動力BPAの増大速度と運転者が意図する速度とが乖離しにくくなる。したがって、すり替え前制御が実施されている最中にブレーキ操作量BPInputが増大され始めたときにおけるドライバビリティの低下を抑制することができる。
(4)一方、すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が減少状態になった場合、減少制御の実施によって嵩上げ量RSが減少されるようになる。そのため、車両全体に付与される制動力BPAを減少させようとしている運転者の意図に準じた作動をブレーキアクチュエータ30に行わせることができる。したがって、すり替え前制御が実施されている最中にブレーキ操作量BPInputが減少され始めたときに、引っかかり感を運転者に与えにくくすることができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することができる。
(5)上述したように、すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が増大状態や減少状態になった場合には、すり替え前制御が終了される。そして、その後にブレーキペダル21の操作状態が保持状態になると、すり替え制御が未だ実施されていないときに限ってすり替え前制御が実施される。そのため、その後にすり替え制御が開始される時点でのマスタ室621,622内のMC圧Pmcを低くすることができる。したがって、すり替え前制御の実施中にブレーキ操作量BPInputが変化された場合であっても、すり替え制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
(6)また、すり替え前制御の終了後に、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態になることがある。この場合、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態であるときには減少制御が実施されることとなり、ブレーキ操作量BPInputの減少に合わせて嵩上げ量RSも減少されることとなる。すなわち、車両全体に付与される制動力BPAを減少させようとしている運転者の意図に準じた作動をブレーキアクチュエータ30に行わせることができる。そのため、すり替え前制御の終了後に運転者がブレーキ操作量BPInputを減少させるときに、引っかかり感を運転者に与えにくくすることができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することができる。
(7)本実施形態の車両の制動システムでは、マスタ室621,622内のMC圧Pmcから目標液圧PmcTrの規定値を減じた差が大きいほど、すり替え前制御開始速度VSTh3が大きくされる。すなわち、車両の車体速度VSが大きい状態ですり替え前制御が開始されるようになる。このように、上記の差に基づいてすり替え前制御の開始タイミングを可変とすることにより、すり替え前制御の実施中において、MC圧Pmcの減圧速度が大きくなることが抑制される。したがって、すり替え前制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
(8)嵩上げ量の目標値RSTrを、ブレーキ操作量BPInput及びMC圧Pmcに応じた適切な値に設定することにより、すり替え前制御の実施中におけるMC圧Pmcの減少速度が大きくなることが抑制される。そのため、すり替え前制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
(9)なお、マスタ室621,622内のMC圧Pmcが規定液圧PmcThL未満であるときには、すり替え前制御を実施せずにすり替え制御を実施してもドライバビリティの低下がほとんどないと判断することができる。そのため、こうした場合、すり替え前制御が実施されない。したがって、すり替え前制御の不要な実施を抑制することができる。
(10)また、車両に付与されている回生制動力BPRが規定回生制動力BPRTh未満であるときには、すり替え前制御を実施せずにすり替え制御を実施してもドライバビリティの低下がほとんどないと判断することができる。そのため、こうした場合、すり替え前制御が実施されない。したがって、すり替え前制御の不要な実施を抑制することができる。
(11)また、ブレーキ操作の開始時点からの経過時間T1が規定時間T1Th未満であるときには、回生制動力BPRを未だ増大させることができる可能性があると判断できるため、すり替え前制御を実施しないようにしている。これにより、回生制動力BPRが大きくなってからすり替え前制御を実施させることが可能となる。したがって、車両の回生エネルギの回収効率の低下を抑制することができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・ブレーキ操作の開始時点からの経過時間T1が規定時間T1Th未満であるか否かという判定処理の代わりに、ブレーキ操作によって第2のモータ14が車両に付与する回生制動力BPRが増大されているか否かという判定処理に置き換えてもよい。この場合、今回のブレーキ操作時に回生制動力BPRがこれ以上増大されないと判断できるときに、適切なタイミングですり替え前制御が開始されるようになる。この場合であっても、回生制動力BPRが大きくなってからすり替え前制御を実施することができるため、すり替え前制御の実施に伴う車両の回生エネルギの回収効率の低下を抑制することができる。
なお、回生制動力BPRの変化速度が規定速度未満である状態の継続時間が所定の判定時間以上になったときに、回生制動力BPRが保持されるようになったと判定するようにしてもよい。
・上記実施形態では、回生制動力BPRが規定回生制動力BPRTh未満であるときには、すり替え前制御が実施されないようになっている。そのため、ブレーキ操作の開始時点からの経過時間T1が規定時間T1Th未満であるか否かという判定処理を省略しても、回生制動力BPRが未だ小さい段階ですり替え前制御が実施される事象の発生を抑制することができる。
・マスタ室621,622内のMC圧Pmcが規定液圧PmcThL未満であっても、上記の条件(条件2−2)、(条件2−3)及び(条件2−4)の全てが成立しているときには、すり替え前制御を実施するようにしてもよい。
・回生制動力BPRが規定回生制動力BPRTh未満であっても、上記の条件(条件2−1)、(条件2−3)及び(条件2−4)の全てが成立しているときには、すり替え前制御を実施するようにしてもよい。
・すり替え前制御の目標液圧PmcTrを、MC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputによらず一定値で固定化してもよい。
・すり替え前制御の実施中におけるMC圧の減圧速度及びすり替え前制御開始速度VSTh3を、MC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputによらず一定値で固定化してもよい。この場合、すり替え前制御の開始時点におけるMC圧Pmcやブレーキ操作量BPInputによってすり替え制御の開始時点のMC圧Pmcが可変されることとなる。しかし、こうした制御構成を採用した場合であっても、すり替え制御の実施前にすり替え前制御を実施しない場合と比較し、すり替え制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
・すり替え前制御の終了後に、ブレーキペダル21の操作状態が減少状態になったときには、減少制御ではなく、保持制御を実施するようにしてもよい。ただし、ブレーキ操作量BPInputが「0(零)」になると判断できたときには、嵩上げ量RSを「0(零)」にすべくブレーキアクチュエータ30を作動させることが望ましい。
・すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が増大状態になったために保持制御が開始された場合に、同保持制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が保持状態になっても、すり替え前制御を開始させなくてもよい。この場合、ブレーキペダル21の操作状態が保持状態になっても、すり替え制御の開始条件が成立するまで保持制御を継続させるようにしてもよい。
・すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が減少状態になったために減少制御が開始された場合に、同減少制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が保持状態になっても、すり替え前制御を開始させなくてもよい。この場合、ブレーキペダル21の操作状態が保持状態になってもすり替え制御の開始条件が成立するまで、すり替え前制御の代わりに保持制御を実施させるようにしてもよい。
・すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が減少状態になったときには、減少制御を実施しないですり替え前制御の実施を継続させてもよい。ただし、ブレーキ操作量BPInputが「0(零)」になると判断できたときには、すり替え前制御を終了し、嵩上げ量RSを「0(零)」にすべくブレーキアクチュエータ30を作動させることが望ましい。
・ブレーキペダル21の操作状態が増大状態であるときに実施される抑制制御は、すり替え前制御の実施時により嵩上げ量RSの増大を抑制することができるのであれば、嵩上げ量RSを保持する保持制御以外の他の制御を採用してもよい。例えば、抑制制御として、すり替え前制御の実施時の嵩上げ量の増大速度DRSよりも小さい増大速度で嵩上げ量RSを増大させる制御を採用してもよい。
・上記実施形態では、すり替え前制御の実施中にあっては、回生制動力BPRを減少させないようにしている。しかし、これに限らず、すり替え前制御の実施中でも、回生制動力BPRを多少減少させるようにしてもよい。ただし、この際の回生制動力BPRの減少速度及び減少量は、すり替え前制御の実施に伴う制御液圧制動力BPPの増大速度及び増大量よりも小さいことが好ましい。
・すり替え前制御の実施中にブレーキペダル21の操作状態が増大状態であるときには、抑制制御を実施しないですり替え前制御の実施を継続させてもよい。
・液圧供給装置50が備えるブースタ装置は、マスタピストンの摺動に応じてブレーキペダル21が変位する構成の装置であれば、エンジン11の運転を利用してブレーキ操作力を助勢する装置以外の他の装置であってもよい。例えば、ブースタ装置は、ハイドロリック式のブースタ装置であってもよい。
・ブレーキアクチュエータは、差圧調整弁と、マスタシリンダ51の第1及び第2のマスタ室621,622内からブレーキ液を汲み上げることのできる供給ポンプとを備える、いわゆるインライン方式の構成であれば、上記ブレーキアクチュエータ30以外の他の構成のものであってもよい。
・マスタシリンダは、第1及び第2のマスタ室621,622と大気圧リザーバ53との連通が遮断されるタイミング(「遮断タイミング」ともいう。)が、回生制動装置である第2のモータ14によって車両に付与される回生制動力BPRが限界値に達するタイミング(「限界到達タイミング」ともいう。)と一致する構成であってもよい。
また、マスタシリンダは、遮断タイミングが限界到達タイミングと異なる構成であってもよい。例えば、マスタシリンダは、遮断タイミングが限界到達タイミングよりも遅くなるような構成であってもよい。この場合、第2のモータ14によって車両に付与される回生制動力BPRが限界値に達しても、第1及び第2のマスタ室621,622と大気圧リザーバ53との連通がまだ継続されることとなり、さらにブレーキペダル21が踏み増しされることにより第1及び第2のマスタ室621,622と大気圧リザーバ53との連通が遮断されることとなる。
・上記実施形態の車両の制動システムを備える車両は、エンジン11を備える車両であれば、2モータ方式のハイブリッド車両の他、1モータ方式のハイブリッド車両であってもよい。また、ブースタ装置がハイドロリック式のブースタ装置である場合、車両は、エンジン11を備えない電気自動車であってもよい。また、回生制動装置として発電機を備える場合、車両は、駆動源としてエンジン11のみを備えるものであってもよい。
・ブレーキ操作部材は、運転者に操作されるものであればブレーキペダル21以外の他の任意のもの(例えば、ブレーキレバー)であってもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)制御装置は、すり替え前制御の実施時に、ホイールシリンダ内の液圧の増圧に起因する液圧制動力に連動する回生制動力の減少を行わないことが好ましい。このようにすり替え前制御の実施中にあっては、回生制動力を減少させないことにより、車両の回生エネルギの回収効率を低下させることなく、すり替え制御の実施に起因するドライバビリティの低下を抑制することができるようになる。