本発明は、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面に形成された、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層と、前記第1無機バリア層上に接して形成された、遷移金属酸化物を含む第2無機バリア層と、を含むガスバリア性フィルムであって、前記遷移金属酸化物の遷移金属が、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、前記第2無機バリア層側から測定した波長に対する反射率曲線において、波長360〜380nmの反射率最大値が15%以上である、ガスバリア性フィルムである。このような構成を有する本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性および耐候性に優れる。本発明のガスバリア性フィルムにより上記効果が得られる理由は不明であるが、下記のようなメカニズムが考えられる。なお、下記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は下記メカニズムに何ら制限されるものではない。
本発明のガスバリア性フィルムは、第1無機バリア層および第2無機バリア層がガスバリア層(以下、第1無機バリア層および第2無機バリア層の2つの層を合わせて「ガスバリア層」と称する場合がある。)として機能する。すなわち、ポリシラザン膜に改質処理を施して形成された第1無機バリア層、および特定の遷移金属酸化物を含む第2無機バリア層は、それぞれガスバリア性を有する。第1無機バリア層としてはポリシラザンが改質されて得られる酸化ケイ素または酸窒化ケイ素を含む層であり、第2無機バリア層としては特定の遷移金属酸化物を含む層であり、よって湿熱耐性を有しており、樹脂基材を良好に保護することができる。特に、遷移金属酸化物はポリシラザン改質物の酸化抑制機能を有しているため、第1無機バリア層と第2無機バリア層とが接して形成されることで、経時にわたって良好な湿熱耐性が発揮される。また、本発明のガスバリア層は、無機物質で形成されており、有機物質で形成された膜よりも耐候性に優れる。さらに、これら2つの層は、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層が低屈折率層であり、遷移金属酸化物を含む第2無機バリア層が高屈折率層の関係となる。このような2つの層から構成されるガスバリア層が樹脂基材上に積層されることで、ガスバリア層表面の紫外光反射率が制御され、結果として、紫外光から樹脂基材および電子デバイスが保護される。具体的には、樹脂基材上に、第1無機バリア層と第2無機バリア層とが順に積層されたガスバリア性フィルムにおいて、第2無機バリア層側から測定される波長360〜380nmの反射率最大値が15%以上であることにより、有機物質である樹脂基材への紫外光の到達量が軽減でき、優れた耐候性が発揮される。ここで、例えば、紫外光や高温高湿に曝されることで、ガスバリア性フィルムは、ガスバリア性フィルムを構成する層間の密着性が低下する。ガスバリア性を構成する層間の密着性が低下することにより、クラック発生が生じやすくなり、水蒸気透過度も高くなる。これに対し、本発明のガスバリア性フィルムは、光学特性を制御することにより、上述のような紫外光からのダメージを軽減し、優れたガスバリア性を維持することができる。
すなわち、本発明者は、鋭意検討の結果、遷移金属酸化物を含む層とポリシラザン改質物を含む層とが接して形成されることで優れたガスバリア性が発揮できることを見出し、さらに、ガスバリア性フィルムの反射率に着目し、当該反射率を制御することで優れた耐候性が発揮できることを見出したのである。例えば、特許文献2のガスバリア性フィルムでは、ポリシラザンと水分とが反応して自己架橋のSiOx層が形成されたバッファー層を有している。このようなバッファー層は、ガスバリア性の機能は低いだけでなく、屈折率が低くなる。その場合、たとえ、バッファー層上にケイ素−金属複合酸化物を積層しても紫外光の反射率は不十分であり、耐候性は十分でなかったと推測される。また、特許文献3の積層体では、高屈折率層としての反射率の制御方法は開示されていない。これに対し、特定の光学特性を有する本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性能に優れ、さらに紫外光や雨に曝露される屋外環境下に配置された場合であっても、これらのガスバリア性が維持される。換言すれば、本発明のガスバリア性フィルムは、高いガスバリア性を有し、耐候性(例えば、耐紫外光、高温高湿耐性)を有する。
以上のように、本発明は、樹脂基材(以下、単に「基材」と称する場合もある。)上に、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層および特定の遷移金属酸化物を含む第2無機バリア層が順に接して積層され、特定の光学特性を有することにより、ガスバリア性および耐候性に優れたガスバリア性フィルムとなることを見出したものである。
本発明のガスバリア性フィルムは、第2無機バリア層側から測定した波長に対する反射率曲線において、波長360〜380nmの反射率最大値が15%以上であることを特徴とする。透波長360〜380nmの反射率最大値が15%以上である光学特性を実現する方法は特に限定されないが、第1無機バリア層の屈折率が、1.60以上1.70以下であり、第2無機バリア層の屈折率が、2.05以上2.60以下である構成が好ましい。各層の屈折率が上記範囲になることで、波長360〜380nmの反射率を高めることができ、好ましい光学特性が達成され、耐候性がより優れたガスバリア性フィルムとなりうる。
樹脂基材上に、第1無機バリア層と第2無機バリア層とが順に接して積層され、第2無機バリア層側から測定した波長に対する反射率曲線において、波長360〜380nmの反射率最大値が15%以上である光学特性を有する構成であれば、第1無機バリア層および第2無機バリア層の厚さに特に制限はないが、本発明においては、第1無機バリア層の厚さは、100〜300nmであることが好ましく、150〜250nmであることがより好ましく、180〜230nmであることがさらに好ましく、185〜220nmであることが特に好ましい。第2無機バリア層の厚さは、1〜50nmであることが好ましく、2〜40nmであることがより好ましく、3〜35nmであることがさらに好ましく、5〜35nmであることが特に好ましい。この範囲であれば、ガスバリア性を発揮でき、かつ反射率および透過率を任意に設定することができる。
本発明のガスバリア性フィルムは、ポリシラザン改質物が、真空紫外光の照射により改質されたものであることが好ましい。ポリシラザン改質物は、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布および乾燥して得られるポリシラザンを含む層(以下、「ポリシラザン含有層」または単に「塗膜」と称する。)に真空紫外光を照射することによって、酸窒化ケイ素が形成され、これによりガスバリア性を発現する。また、気相成膜法で形成される場合とは異なり、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布および乾燥して得られる塗膜にエネルギーを印加して形成されることにより、成膜時にパーティクル等の異物混入がほとんどなくなり、欠陥が非常に少ないポリシラザン改質物を形成することが可能となる。
本発明のガスバリア性フィルムは、第2無機バリア層が形成された後、真空紫外光の照射がさらに行なわれたものであるのが好ましい。特定の遷移金属化合物を含む第2無機バリア層は、真空紫外光を透過するため、第2無機バリア層を形成した後に真空紫外光照射を行うことで、さらにポリシラザンの改質を進めることができ、バリア性をさらに高めることができる。また、この際、ポリシラザン改質物の上にはすでに第2無機バリア層が形成されているため、真空紫外光照射によるポリシラザン改質物のクラックを抑制する効果もある。
また、本発明のガスバリア性フィルムの好ましい形態としては、第2無機バリア層側から測定した波長に対する反射率曲線において、波長360〜380nmにおける反射率最大値が、15%以上35%以下であり、波長450〜800nmにおける透過率最小値が、80%以上である。当該光学特性を有することで、太陽光のうち樹脂基材の劣化を促進する紫外光の透過を抑えながら、かつ光電変換素子に有効な波長の光を光電変換素子まで到達できる。反射率最大値は、より好ましくは17〜34%であり、さらに好ましくは18〜31%である。また、透過率最小値は、より好ましくは83〜99%であり、さらに好ましくは85〜99%である。
本明細書中、反射率および透過率は、ガスバリア性フィルムのガスバリア層側から測定される数値である。ガスバリア層側とは、樹脂基材とガスバリア層とを有する積層体において、ガスバリア層が形成された側の面を意味する。すなわち、樹脂基材とガスバリア層とを有する積層体において、樹脂基材とガスバリア層とが、それぞれ表面として存在していない場合であっても、樹脂基材に対してガスバリア層が形成されている側の面の表面から測定する。
本発明のガスバリア性フィルムの水蒸気透過度は、0.005g/(m2・day)以下であることが好ましく、0.004g/(m2・day)以下であることがより好ましく、0.003g/(m2・day)以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、「水蒸気透過度」の値は、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された値を採用するものとする。なお、測定条件は、温度:60±0.5℃、相対湿度(RH):90±2%である。
以下、本発明のガスバリア性フィルムの好ましい形態について述べる。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
図1は本発明の一実施形態に係るガスバリア性フィルムを示す断面模式図である。図1のガスバリア性フィルム111は、樹脂基材110およびガスバリア層120が配置される。ガスバリア層120は、第1無機バリア層120aおよび第2無機バリア層120bを含む。なお、ガスバリア層120は、第1無機バリア層120aおよび第2無機バリア層120bだけでなく、他の層を含んでいてもよい。ここで、他の層としては、樹脂基材110と第1無機バリア層120aとの間に形成されてもよく、第2無機バリア層120bの上に形成されていてもよく、樹脂基材110の反対側(ガスバリア層120が形成される側と反対側)に形成されてもよい。また、第1無機バリア層120aおよび第2無機バリア層120bのユニットは1つだけではなく、複数のユニットが存在していてもよい。
以下、ガスバリア性フィルムの各構成について説明する。
[第1無機バリア層]
第1無機バリア層は、樹脂基材の一方の面側に配置される。当該第1無機バリア層は、ポリシラザン改質物を含む。その他必要に応じて無機粒子、アミン触媒および金属触媒等の添加剤を含んでいてもよい。
上述のように、第1無機バリア層としては、屈折率が、1.60以上1.70以下であるのが好ましく、より好ましくは1.61〜1.69であり、さらに好ましくは1.62〜1.68である。第1無機バリア層の厚さは、100〜300nmであることが好ましく、150〜250nmであることがより好ましく、180〜230nmであることがさらに好ましく、185〜220nmであることが特に好ましい。第1無機バリア層の厚さがこの範囲であれば、遷移金属化合物を含む第2無機バリア層との組み合わせで反射率および透過率を任意に設定することができ、本発明の効果がより発揮される。具体的には、例えば、第1無機バリア層の厚さを薄くすることで、反射率の波長依存性を小さくすることができ、第1無機バリア層の厚さを厚くすることで反射率の波長依存性を大きくすることができる。したがって、第1無機バリア層の厚さを設定することにより、ガスバリア性フィルムの透過率のピークの波長を設計することができる。第1無機バリア層の厚さは、TEM観察により測定することができる。
第1無機バリア層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。第1無機バリア層が2層以上の積層構造である場合、それぞれの層にポリシラザン改質物が含まれていれば、他の化合物が混合されていてもよい。第1無機バリア層が2層以上の積層構造である場合は、第1無機バリア層の厚さとしてはその総厚を第1無機バリア層の厚さとする。
第1無機バリア層を形成するポリシラザン改質物は、ポリシラザンを改質することによって得られるポリシラザン改質物を含む膜である。
(ポリシラザン改質物)
ポリシラザン改質物とは、ポリシラザンを改質することによって得られる改質物を意味する。
ポリシラザン改質物は、ポリシラザンが改質されて得られる酸化ケイ素または酸窒化ケイ素を含む。その他、ポリシラザンが改質されて得られる窒化ケイ素が含まれていてもよい。
ポリシラザン
ポリシラザンは、その構造内にSi−N、Si−H、N−H等の結合を有するポリマーである。
具体的には、ポリシラザンは、好ましくは下記の構造を有する。
上記一般式(I)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1、R2およびR3は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
また、上記一般式(I)において、nは、整数であり、上記一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、好ましい態様の一つは、R1、R2およびR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンである。
または、ポリシラザンとしては、下記一般式(II)で表される構造を有する。
上記一般式(II)において、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’およびR6’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’およびR6’は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。また、上記一般式(II)において、n’およびpは、整数であり、一般式(II)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。なお、n’およびpは、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
上記一般式(II)のポリシラザンのうち、R1’、R3’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’、R4’およびR5’が各々メチル基を表す化合物;R1’、R3’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’、R4’が各々メチル基を表し、R5’がビニル基を表す化合物;R1’、R3’、R4’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’およびR5’が各々メチル基を表す化合物が好ましい。
または、ポリシラザンとしては、下記一般式(III)で表される構造を有する。
上記一般式(III)において、R1”、R2”、R3”、R4”、R5”、R6”、R7”、R8”およびR9”は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1”、R2”、R3”、R4”、R5”、R6”、R7”、R8”およびR9”は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
また、上記一般式(III)において、n”、p”およびqは、整数であり、一般式(III)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。なお、n”、p”およびqは、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
上記一般式(III)のポリシラザンのうち、R1”、R3”およびR6”が各々水素原子を表し、R2”、R4”、R5”およびR8”が各々メチル基を表し、R9”が(トリエトキシシリル)プロピル基を表し、R7”がアルキル基または水素原子を表す化合物が好ましい。
一方、そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地である基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より(平均)膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。このため、用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンとを選択してよく、混合して使用することもできる。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6および8員環を中心とする環構造とが存在する構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。
ポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのまま第1無機バリア層形成用塗布液として使用することができる。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。これらポリシラザン溶液は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
本発明で使用できるポリシラザンの別の例としては、以下に制限されないが、例えば、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等の、低温でセラミック化するポリシラザンが挙げられる。
改質
ポリシラザンは改質により転化して酸化ケイ素または酸窒化ケイ素を生じる。
ポリシラザンの酸化ケイ素への改質機構としては、ポリシラザンの水の加水分解による改質が挙げられる。具体的には、ポリシラザンのSi−N結合が水により加水分解され、これによってポリマー主鎖が切断されることでSi−OHを形成する。そして、改質条件下において2つのSi−OHが脱水縮合すると、Si−O−Si結合を形成し、硬化することで酸化ケイ素を生じる。
また、ポリシラザンの改質を特に真空紫外光の照射により行った場合には、上記酸化ケイ素への改質機構とともに、または代えてポリシラザンの直接酸化による酸化ケイ素への改質が起こりうる。具体的には、ポリシラザンに真空紫外光を照射すると、真空紫外光や、真空紫外光によって活性化されたオゾンおよび活性酸素等によって、ポリシラザン中のHやNが、直接Oと置き換わって(すなわち、シラノールを経由することなく)Si−O−Si結合を形成し、硬化することで酸化ケイ素を生じる(光量子プロセスと呼ばれる光子の作用)。
この際、真空紫外光の照射によるポリシラザンの改質においては、上記ポリシラザンの直接酸化による酸化ケイ素への改質とともに、または代えて窒化ケイ素および/または酸窒化ケイ素への改質が起こりうる。具体的には、ポリシラザンに真空紫外光を照射すると、励起等によりポリシラザン中のSi−H結合やN−H結合が比較的容易に切断され、不活性雰囲気下ではSi−Nとして再結合する。これにより、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素が生じうる。
なお、ポリシラザンの改質を真空紫外光の照射によって行う場合、ポリシラザンが直接酸化されることから、高密度で欠陥の少ない改質膜を形成することができ、高いガスバリア性を有するガスバリア層が形成されうる。本明細書において、「真空紫外光(VUV光)」とは、波長200nm以下の高いエネルギーを有する紫外光を意味する。
上記改質機構はあくまで推測のものであり、ポリシラザンが上記機構とは異なる機構によって酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素が生じる場合であっても、本発明の技術的範囲に含まれる。
以上のように、本発明において、改質処理とは、ケイ素化合物の酸化ケイ素または酸窒化ケイ素への転化反応を行う処理をいう。
このような改質処理は、公知の方法で行われ、具体的には、加熱処理、プラズマ処理、活性エネルギー線照射処理(例えば、後述の真空紫外光の照射)などが挙げられる。これらのうち、低温で改質可能であり基材種の選択の自由度が高いという観点から、活性エネルギー線照射による処理が好ましい。そのなかでも、ポリシラザン改質物が、真空紫外光の照射により改質されたものであるのが好ましい。
・加熱処理
加熱処理の方法としては、例えば、ヒートブロックなどの発熱体に基板を接触させ熱伝導により塗膜を加熱する方法、抵抗線などによる外部ヒーターにより塗膜が載置される環境を加熱する方法、IRヒーターといった赤外領域の光を用いた方法などが挙げられるが、これらに限定されない。加熱処理を行う場合、塗膜の平滑性を維持できる方法を適宜選択すればよい。
塗膜を加熱する温度としては、40〜250℃の範囲が好ましく、60〜150℃の範囲がより好ましい。加熱時間としては、10秒〜100時間の範囲が好ましく、30秒〜5分の範囲が好ましい。
・プラズマ処理
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、真空プラズマ処理、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマ処理などが挙げられ、好ましくは真空プラズマ処理である。
プラズマ処理は、酸素または水蒸気を実質的に含まない真空下で実施する。装置内の真空状態は、装置内の圧力を、真空ポンプを用いて大気圧(101325Pa)から圧力100Pa以下、好ましくは10Pa以下まで減圧した後、後述するガスを100Pa以下の圧力まで導入することにより得られる。真空下における酸素濃度および水蒸気濃度は、一般的に、酸素分圧および水蒸気分圧で評価される。なお、本明細書中、「真空」とは、100Pa以下の圧力、好ましくは10Pa以下の圧力をいう。
真空プラズマ処理は、上記の真空下、酸素分圧は、好ましくは10Pa以下(酸素濃度0.001%(10ppm)以下)、より好ましくは2Pa以下(酸素濃度0.0002%(2ppm)以下)、水蒸気濃度は好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下で行われる。
または、プラズマ処理は、好ましくは、酸素および/または水蒸気の非存在下、常圧で行われる。または大気圧プラズマ処理は、酸素濃度0.5%以下、相対湿度0.5%RH以下、好ましくは、相対湿度0.1%RH以下の低酸素・低水分濃度雰囲気下(常圧)で行われる。プラズマ処理はまた、好ましくは、不活性ガスまたは希ガスまたは還元ガス雰囲気下(常圧)において行われる。
上記条件を満たさない雰囲気でプラズマ処理を行った場合、酸化珪素(シリカ)やシラノール基が生成するので、十分な水蒸気バリア性が得られない場合がある。
また、上記条件を満たさない雰囲気でプラズマ処理を行った場合、1.45程度の低屈折率の酸化珪素(シリカ)が多量に生成するため、所望の屈折率を有する第1無機バリア層が得られない場合がある。
プラズマ処理に用いるガスとしては、不活性ガスである窒素ガス、希ガスであるアルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス等、還元ガスである水素ガス、アンモニアガス等が挙げられる。さらに好ましいガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス、水素ガス、またはこれらの混合ガスが挙げられる。
真空プラズマには、真空の密閉系内に公知の電極または導波管を配置し、直流、交流、ラジオ波あるいはマイクロ波等の電力を、電極または導波管を介して印加することにより任意のプラズマを発生させることができる。
プラズマ処理条件としては、例えば、ガスの流量としては、好ましくは10〜100mL/min、より好ましくは20〜80mL/minであり、処理する対象が配置される空間の圧力(真空度)は、好ましくは5〜50Pa、より好ましくは10〜30Paである。また、例えば、処理するプラスチック基材が通過する電極間の距離は、基材の厚み、印加電圧の大きさ、混合ガスの流量等に応じて適宜決定されるが、通常0.1〜20mm、好ましくは0.2〜10mmの範囲であり、上記電極間に印加する電圧は印加した際の電界強度が1〜40kV/cmとなるように印加するのが好ましく、その際の交流電源の周波数は、1〜100kHz、好ましくは、1〜100kHzの範囲である。また、電極単位面積あたりの印加電力としては、好ましくは0.5〜10W/cm2、より好ましくは1〜5W/cm2である(実施例:1.3W/cm2)。成膜時間としては、好ましくは0.5〜30分、より好ましくは1〜10分である。真空プラズマ処理の温度は、好ましくは室温〜500℃であり、基材への影響を考えると、より好ましくは室温〜200℃である。
・活性エネルギー線照射処理
活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線などが使用可能であるが、電子線または紫外線が好ましく、紫外線がより好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性とを有するポリシラザン改質物を形成することが可能である。
紫外光照射処理においては、通常使用されているいずれの紫外光発生装置を使用することも可能である。
なお、本発明でいう紫外光とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外光(10〜200nm)処理以外の紫外光照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外光を用いる。
紫外光の照射は、基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。一般に、紫外光照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルムなどの場合には、基材が変形したり、その強度が劣化したりするなど、基材の特性が損なわれることになる。しかしながら、ポリイミドなどの耐熱性の高いフィルムや、金属などの基板の場合には、より高温での改質処理が可能である。したがって、この紫外光照射時の基材温度としては、一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外光照射処理の雰囲気は特に限定されない。
このような紫外光の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製や株式会社エム・ディ・コム製)、UV光レーザーなどが挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外光を照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外光を反射板で反射させてから当てることが望ましい。
紫外光照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、紫外光発生源を具備した紫外光焼成炉で処理することができる。紫外光焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外光焼成炉を使用することができる。また、対象が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外光発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外光を照射することによりセラミックス化することができる。紫外光照射に要する時間は、使用する基材や第1無機バリア層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
(真空紫外光照射処理:エキシマ照射処理)
真空紫外光照射による改質は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、酸窒化ケイ素を含む膜の形成を行う方法である。なお、エキシマ照射処理を行う際は、熱処理を併用することが好ましい。
本発明における真空紫外光源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものであればよいが、好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、並びに230nm以下の波長成分を有する中圧および高圧水銀蒸気ランプ、および約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
このうち、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外光を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外光放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン含有層の改質を実現できる。
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外光領域で、すなわち短い波長でエネルギーを照射するため、解射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
真空紫外光照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外光は、酸素による吸収があるため紫外光照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外光の照射は、可能な限り酸素濃度および水蒸気濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外光照射時の酸素濃度は、10〜20,000体積ppm(0.001〜2体積%)とすることが好ましく、50〜10,000体積ppm(0.005〜1体積%)とすることがより好ましい。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは1000〜4000体積ppmの範囲である。
真空紫外光照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外光照射工程において、ポリシラザン含有層が受ける塗膜面での該真空紫外光の照度は1mW/cm2〜10W/cm2であると好ましく、30mW/cm2〜200mW/cm2であることがより好ましく、50mW/cm2〜160mW/cm2であるとさらに好ましい。1mW/cm2以上であれば、改質効率が向上し、10W/cm2以下であれば、塗膜に生じ得るアブレーションや、基材へのダメージを低減することができる。
本発明においては、塗膜の表面における真空紫外光の照射エネルギー量(照射量)は、1J/cm2以上であることが好ましい。照射エネルギー量が1J/cm2以上であることで、第1無機バリア層のガスバリア性が向上し、高温高湿条件下での耐性が著しく向上する。該照射エネルギー量は、製造安定性(改質層を形成した後の保管環境下でも、ガスバリア性能の低下がおきない、または少ない特性)の観点からは、1.5J/cm2以上が好ましく、2.0J/cm2以上がより好ましく、2.5J/cm2以上がさらに好ましい。一方、照射エネルギー量の上限値は、特に制限されないが、10J/cm2以下であることが好ましい。この範囲であれば、過剰改質によるクラックの発生や、基材の熱変形を抑制することができ、また生産性が向上する。なお、これらの照射エネルギー量は、真空紫外光照射を複数回行った場合は、その総エネルギー量とする。真空紫外光照射を2回以上行う場合、例えば、1回あたりの照射エネルギーは、1〜5J/cm2であるのが好ましい。
用いられる真空紫外光は、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガスで形成されたプラズマにより発生させてもよい。さらに、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガス(以下、炭素含有ガスとも称する)は、炭素含有ガスを単独で使用してもよいが、希ガスまたはH2を主ガスとして、炭素含有ガスを少量添加することが好ましい。プラズマの生成方式としては容量結合プラズマなどが挙げられる。
ポリシラザン改質物の形成方法
上述のように、ポリシラザン改質物は、ポリシラザンを改質することにより得られるが、具体的には、ポリシラザンを含む層(以下、「ポリシラザン含有層」または単に「塗膜」と称する。)を形成し、当該ポリシラザン含有層に改質処理を行うのが好ましい。
ポリシラザン含有層の形成方法は、屈折率の調整が行いやすいという観点から、気相成膜法または液相成膜法が好ましい。気相成膜法としては、特に制限されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)法、プラズマCVD(chemical vapordeposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)などの化学気相成長法が挙げられる。液相成膜法としては、ポリシラザンを含む溶液を基材上に塗布し、乾燥させてポリシラザン含有層を形成させる方法が挙げられる。液相成膜では、気相成膜と異なり、成膜時にパーティクル等の異物混入がないため、欠陥の非常に少ない膜を形成することが可能である。以下、本発明の好ましい実施形態である液相成膜法でのポリシラザン含有層の形成方法について述べる。
・ポリシラザン含有層形成用塗布液
ポリシラザン含有層を形成するための塗布液(以下、「ポリシラザン含有層形成用塗布液」)を調製するための溶剤としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水および反応性基(例えば、ヒドロキシル基、あるいはアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターペン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類:例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ−およびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)などを挙げることができる。上記溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的にあわせて選択され、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ポリシラザン含有層形成用塗布液におけるポリシラザンの濃度は、特に制限されず、層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
ポリシラザン含有層形成用塗布液は、改質を促進するために、触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ケイ素化合物を基準としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%の範囲である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行による過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。
ポリシラザン含有層形成用塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂もしくは変性ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネートもしくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
・ポリシラザン含有層形成用塗布液を塗布する方法
ポリシラザン含有層形成用塗布液を塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗布厚さは、好ましい厚さや目的に応じて適切に設定され得る。
塗布液を塗布した後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥することによって、塗膜中に含有される有機溶媒を除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適なポリシラザン含有層が得られうる。なお、残存する溶媒は後に除去されうる。
塗膜の乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましい。例えば、ガラス転移温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を基材として用いる場合には、乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して150℃以下に設定することが好ましい。上記温度は、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって設定されうる。乾燥時間は短時間に設定することが好ましく、例えば、好ましくは30秒〜120分、より好ましくは1〜60分である。乾燥温度が150℃である場合には30分以内に設定することが好ましい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
ポリシラザン含有層形成用塗布液を塗布して得られた塗膜は、改質処理の前または改質処理中(例えば、真空紫外光の照射前または真空紫外光の照射中)に水分を除去する工程を含んでいてもよい。水分を除去する方法としては、低湿度環境を維持して除湿する形態が好ましい。低湿度環境における湿度は温度により変化するので、温度と湿度の関係は露点温度の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−5℃以下(温度25℃/湿度10%)であり、維持される時間は第1無機バリア層の膜厚によって適宜設定することが好ましい。具体的には、露点温度は−5℃以下で、維持される時間は1分以上であることが好ましい。なお、露点温度の下限は特に制限されないが、通常、−50℃以上であり、−40℃以上であることが好ましい。改質処理前、あるいは改質処理中に水分を除去することによって、シラノールに転化した第1無機バリア層の脱水反応を促進する観点から好ましい形態である。
ポリシラザンを用いる場合、改質処理前の第1無機バリア層中におけるポリシラザンの含有率としては、第1無機バリア層の全質量を100質量%としたとき、100質量%でありうる。また、改質処理前の第1無機バリア層がポリシラザン以外のものを含む場合には、層中におけるポリシラザンの含有率は、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、40質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、特に好ましくは70質量%以上95質量%以下である。
このようにして得られたポリシラザン含有層に、上述の改質処理を施し、ポリシラザン改質物を得ることができる。なお、本発明のガスバリア性フィルムは、第1無機バリア層におけるポリシラザン含有層の改質処理(真空紫外光の照射)を、第2無機バリア層の形成後に行ってもよい。また、第1無機バリア層におけるポリシラザン含有層の改質処理(真空紫外光の照射)が行われた後、第2無機バリア層が形成され、その後にさらに改質処理(真空紫外光の照射)を行ってもよい。特定の遷移金属化合物を含む第2無機バリア層は、真空紫外光を透過する。そのため、第2無機バリア層を形成した後に真空紫外光照射を行い、ポリシラザンの改質をさらに進めることができる。第2無機バリア層を形成後に、第2無機バリア層の下に形成されているポリシラザン含有層の改質、またはポリシラザン改質物のさらなる改質を行う場合、第2無機バリア層が形成されているため、真空紫外光照射によるポリシラザン改質物のクラックを抑制する効果もある。よって、ポリシラザン改質物をさらに改質する場合は、クラックを抑制しつつ、バリア性をさらに高めることができる。
上述したポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層の形成する際に用いられる真空紫外線照射装置について、本発明に適用可能な真空紫外線照射装置を図2および図3に、示す。
図2は、バッチ方式(枚葉方式)の真空紫外線照射装置の一例を示す模式図である。
図2に示すとおり、真空紫外線照射装置200は、主に、装置チャンバー201内に、Xeエキシマランプ202、該Xeエキシマランプ202を保持するホルダー203、ポリシラザン塗膜が形成された試料205が載置される試料ステージ204、遮光板206から構成され、図示しないガス供給口から内部に窒素と酸素とを適量供給し、図示しないガス排出口から排気することで、装置チャンバー201内部から実質的に水蒸気を除去し、酸素濃度を所定の濃度に維持することができる。
Xeエキシマランプ202は、172nmの真空紫外線を照射する二重管構造を有している。
試料ステージ204は、図示しない移動手段により装置チャンバー201内を水平に所定の速度で往復移動することができる。また、試料ステージ204は、図示しない加熱手段により所定の温度に維持することができる。試料ステージ204が水平移動する際、試料205の塗布層表面と、エキシマランプ管面との最短距離が3mmとなるように試料ステージ204の高さが調整されている。
遮光板206は、Xeエキシマランプ202のエージング中に、試料205の塗布層に真空紫外光が照射されないようにしている。
図3は、ロールトゥロール方式の真空紫外線照射装置の一例を示す模式図である。
図3に記載の真空紫外線照射装置300は、ロールトゥロールの連続生産方式によりガスバリア性フィルムを製造する装置である。
真空紫外線照射装置300は、樹脂基材314上に、ポリシラザンを含有する塗布液(ポリシラザン含有層形成用塗布液)を塗布して、改質前のポリシラザン含有層を形成する塗布・乾燥工程332と、形成したポリシラザン含有層を改質してポリシラザン改質層とする改質工程333とを有している。
送出しローラー322から繰り出された樹脂基材314上に、ダイコーター329によってポリシラザン含有層形成用塗布液が塗布され、ポリシラザン含有層を有する樹脂基材315が形成される。ダイコーター329は、押出し方式の塗布方法により塗膜を形成する装置であり、供給された塗布液が押し出されてスリット状の吐出口から吐出し、樹脂基材上に均一な厚さのポリシラザン含有層を形成する。
次いで、ポリシラザン含有層を有する樹脂基材315は、搬送ローラー323および324により搬送され、乾燥ゾーン330内でポリシラザン含有層を乾燥する。
次いで、改質工程333において、真空紫外光ランプ(エキシマランプ)L1〜L30により、ポリシラザン含有層を有する樹脂基材315を連続搬送しながら、真空紫外光を照射する。その際、エキシマランプL1〜L30のうち、点灯されたエキシマランプにより真空紫外光が照射される領域が真空紫外光照射ゾーンとなり、エキシマランプの一部を点灯せずにおくことにより、その点灯していない領域が照射休止ゾーンとなる(不図示)。改質工程333の筐体331に窒素を導入するほか、それぞれのエキシマランプホルダー部には窒素または空気が供給される(図示せず)。連続搬送されているポリシラザン含有層を有する樹脂基材315のエキシマランプL1〜L30とは反対側には、温度制御装置を内蔵したサポートローラーT1〜T32が設置されている。真空紫外光照射ゾーンまたは照射休止ゾーンの塗膜面温度は、サポートローラーT1〜T32に内蔵されている温度制御装置によって調節される。真空紫外線照射装置300では、エキシマランプは30本設置されているが、塗膜の厚さや種類等に応じて、適宜必要な本数を選択することが好ましい。
以上のようにして、ロールトゥロール方式により、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層まで形成されたガスバリア性フィルムは、搬送ローラー326および327により保持・搬送されながら、巻取りローラー328によりロール状に巻き取られる。
[第2無機バリア層]
第2無機バリア層は、樹脂基材の一方の面側に配置された第1無機バリア層上に、第1無機バリア層と接して形成される。また、第2無機バリア層は、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属の酸化物(遷移金属酸化物)を含む。
第1無機バリア層に含まれるポリシラザン改質物は、酸窒化ケイ素を含み、これにより優れたガスバリア性を発現する。しかしながら、ポリシラザン改質物は、酸化に対して完全に安定ではなく、高温高湿環境では徐々に酸化されてガスバリア性が低下することがある。すなわち、ポリシラザン改質物は、SiOxNy組成であり、当該組成は酸化に対して安定ではなく、高温高湿環境下では徐々に酸化されておおよそSiOz組成となり、バリア性が低下する。鋭意検討の結果、ポリシラザン改質層を含む第1無機バリア層上に、これに接して第2無機バリア層として遷移金属酸化物を含む層を形成することで、ポリシラザン改質層の高温高湿下での酸化(SiOxNy組成からSiOz組成への変化)が抑制され、高いバリア性を維持できることが判明した。
すなわち、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層に接して遷移金属酸化物を含む第2無機バリア層を形成することで、ポリシラザン改質物の酸化が抑制され、より優れたガスバリア性フィルムとすることができる。ポリシラザン改質物の酸化が抑制されるメカニズムは明らかではないが、ポリシラザン改質物よりも遷移金属酸化物を含む層の方が電気化学的に酸化されやすいことにより、ポリシラザン改質物の酸化が抑制されるということが考えられる。また、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層に接して遷移金属酸化物を含む第2無機バリア層を形成することにより、その界面に遷移金属とポリシラザンとが反応した層が形成され、この層が湿熱耐性の高いバリア層となっているということも考えられる。なお、上記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら制限されるものではない。
例えば、基材側からスポット的に漏出する水蒸気があり、この水蒸気によりポリシラザン改質物がスポット的に酸化されて、ガスバリア性が低下した部位が形成される場合がある。または、紫外光によりガスバリア性フィルムを構成する層間の密着性が低下し、ガスバリア性が低下する場合もある。太陽電池に適用したガスバリア性フィルムのガスバリア性が低下すると(または低下した部位が存在すると)、水蒸気が浸入して、光電変換素子材料の変質が生じ、結果として変換効率が低下すると考えられる。これに対し、本発明のガスバリア性フィルムは、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層に隣接する第2無機バリア層が、遷移金属酸化物を含む。遷移金属酸化物は、ポリシラザン改質物よりも酸化されやすいため、第2無機バリア層が先に酸化されることにより、第1無機バリア層の酸化が抑制され、結果として、優れたガスバリア性が維持される。また、本発明のガスバリア性フィルムは、光学特性(反射率)を制御することで紫外光に対するダメージを軽減することができるため、優れたガスバリア性を維持することができる。
また、本発明のガスバリア性フィルムにおいて、第2無機バリア層が形成された後、真空紫外光の照射をさらに行うことが好ましい。特定の遷移金属化合物を含む第2無機バリア層は、真空紫外光を透過するため、第2無機バリア層を形成後であっても、ポリシラザンの改質処理を行うことができる。よって、本発明のガスバリア性フィルムは、第1無機バリア層におけるポリシラザン含有層の改質処理(真空紫外光の照射)を、第2無機バリア層を形成後に行ってもよい。例えば、第1無機バリア層におけるポリシラザン含有層の改質処理(真空紫外光の照射)を行った後に、第2無機バリア層を形成し、その後にさらに改質処理(真空紫外光の照射)を行ってもよいし、第1無機バリア層におけるポリシラザン含有層の改質処理を行わない状態で、第2無機バリア層を形成し、その後に改質処理(真空紫外光の照射)を行ってもよい。ガスバリア性をより高めるといった観点では、第1無機バリア層におけるポリシラザン含有層の改質処理(真空紫外光の照射)が行われた後、第2無機バリア層が形成され、その後にさらに改質処理(真空紫外光の照射)を行うのが好ましい。
上述のように、第2無機バリア層としては、屈折率が、2.05以上2.60以下であるのが好ましく、より好ましくは2.05〜2.50であり、さらに好ましくは2.05〜2.40である。第2無機バリア層の厚さは、1〜50nmであることが好ましく、2〜40nmであることがより好ましく、3〜35nmであることがさらに好ましく、3〜34nmであることが特に好ましい。第2無機バリア層の厚さがこの範囲であれば、反射率の波長依存性を小さくすることができ、かつ、透過率の波長依存性を小さくすることができ、よって、反射率および透過率を任意に設定することができ、本発明の効果がより発揮される。具体的には、例えば、第2無機バリア層の厚さを薄くすることで、反射率のピークを低波長側にすることができ、第2無機バリア層の厚さを厚くすることで反射率のピークを高波長側にシフトすることができる。したがって、第2無機バリア層の厚さを設定することにより、ガスバリア性フィルムの反射率のピークの波長を設計することができる。第2無機バリア層の厚さは、TEM観察により測定することができる。
第2無機バリア層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。第2無機バリア層が2層以上の積層構造である場合、それぞれの第2無機バリア層に含まれる遷移金属酸化物は同じものであってもよいし異なるものであってもよい。第2無機バリア層が2層以上の積層構造である場合は、第2無機バリア層の厚さとしてはその総厚を第2無機バリア層の厚さとする。
第2無機バリア層を形成する遷移金属酸化物としては、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属の酸化物である。遷移金属酸化物は1種単独であっても2種以上併用してもよい。例えば、遷移金属酸化物としては、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよびこれらの混合物を挙げることができる。これらの中でも特に、第5族元素であるNb、Taが、ポリシラザン改質物の高温高湿下での酸化抑制効果が高く、バリア性維持効果が高いため好ましい。
第2無機バリア層中における遷移金属化合物の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、遷移金属化合物の含有量が、第2無機バリア層の全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましく、100質量%である(すなわち、第2無機バリア層は遷移金属酸化物からなる)ことが最も好ましい。
第2無機バリア層は、屈折率の調整が行いやすいという観点から、気相成膜法または液相成膜法が好ましい。気相成膜法としては、特に制限されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)法、プラズマCVD(chemical vapordeposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)などの化学気相成長法が挙げられる。液相成膜法としては、遷移金属を含む溶液を第1無機バリア層上に塗布し、乾燥させて第2無機バリア層を形成させる方法が挙げられる。
本発明では、屈折率の観点から、気相成膜法で形成されるのが好ましい。中でも、下層へのダメージを与えることなく成膜が可能となり、高い生産性を有することから、スパッタ法により形成することが好ましい。
スパッタ法による成膜は、2極スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、中間的な周波数領域を用いたデュアルマグネトロン(DMS)スパッタリング、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリングなどを単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、ターゲットの印加方式はターゲット種に応じて適宜選択され、DC(直流)スパッタリング、およびRF(高周波)スパッタリングのいずれを用いてもよい。また、金属モードと、酸化物モードの中間である遷移モードを利用した反応性スパッタ法も用いることができる。遷移領域となるようにスパッタ現象を制御することにより、高い成膜スピードで金属酸化物を成膜することが可能となるため好ましい。DCスパッタリングやDMSスパッタリングを行なう際には、そのターゲットに遷移金属を用い、さらに、プロセスガス中に酸素を導入することで、遷移金属酸化物の薄膜を形成することができる。また、RF(高周波)スパッタリングで成膜する場合は、遷移金属の酸化物のターゲットを用いることができる。プロセスガスに用いられる不活性ガスとしては、He、Ne、Ar、Kr、Xe等を用いることができ、Arを用いることが好ましい。さらに、プロセスガス中に酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素を導入することで、遷移金属の酸化物、窒化物、窒酸化物、炭酸化物等の遷移金属化合物薄膜を作ることができる。スパッタ法における成膜条件としては、印加電力、放電電流、放電電圧、時間等が挙げられるが、これらは、スパッタ装置や、膜の材料、膜厚等に応じて適宜選択することができる。例えば、基板温度が、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃であり、スパッタ圧力(全圧)が、好ましくは1×10−6〜5×10−6Pa、より好ましくは1.5×10−6〜3×10−6Paであり、基板(試料)への到達圧力が、好ましくは0.5×10−6〜3×10−6Pa、より好ましくは0.8×10−6〜2×10−6Pa、ターゲット−基板間距離(S−T距離)が、好ましくは10〜300mm、より好ましくは80〜150mmとなるように設定するのが好適である。また、成膜時間としては、好ましくは1〜30分、より好ましくは2〜15分である。
なかでも、成膜レートがより高く、より高い生産性を有することから、遷移金属の酸化物をターゲットとして用いるスパッタ法が好ましい。
[樹脂基材]
本発明に係る樹脂基材としては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂を含む基材が挙げられる。該樹脂基材は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、太陽電池や有機EL等の電子デバイスとして利用されることから、樹脂基材は透明であることが好ましい。すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS K7105:1981に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
ただし、本発明に係るガスバリア性フィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
また、上記に挙げた樹脂基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。当該樹脂基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。これらの基材の製造方法については、国際公開第2013/002026号の段落「0051」〜「0055」の記載された事項を適宜採用することができる。
樹脂基材の表面は、密着性向上のための公知の種々の処理、例えばコロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、またはプラズマ処理等を行っていてもよく、必要に応じて上記処理を組み合わせて行っていてもよい。
該樹脂基材は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。該樹脂基材が2層以上の積層構造である場合、各樹脂基材は同じ種類であってもよいし異なる種類であってもよい。
本発明に係る樹脂基材の厚さ(2層以上の積層構造である場合はその総厚)は、10〜200μmであることが好ましく、20〜150μmであることがより好ましい。
[種々の機能を有する層]
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、種々の機能を有する層を設けることができる。
なお、本発明のガスバリア性フィルムに機能層を設ける場合は、太陽電池や有機EL素子等の電子デバイスとして利用されることから、機能層も透明であることが好ましい。すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
(アンカーコート層)
本発明に係る第1無機バリア層を形成する側の樹脂基材の表面には、樹脂基材と第1無機バリア層との密着性の向上を目的として、アンカーコート層を形成してもよい。
アンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により支持体上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5.0g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。
また、アンカーコート層は、物理蒸着法または化学蒸着法といった気相法により形成することもできる。例えば、特開2008−142941号公報に記載のように、接着性等を改善する目的で酸化珪素を主体とした無機膜を形成することもできる。あるいは、特開2004−314626号公報に記載されているようなアンカーコート層を形成することで、その上に気相法により無機薄膜を形成する際に、基材側から発生するガスをある程度遮断して、無機薄膜の組成を制御するといった目的でアンカーコート層を形成することもできる。
また、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
(ハードコート層)
樹脂基材の表面(片面または両面)には、ハードコート層を有していてもよい。ハードコート層に含まれる材料の例としては、例えば、熱硬化性樹脂や活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられるが、成形が容易なことから、活性エネルギー線硬化性樹脂が好ましい。このような硬化性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
活性エネルギー線硬化性樹脂とは、紫外線や電子線のような活性エネルギー線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂をいう。活性エネルギー線硬化性樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられ、紫外線や電子線のような活性エネルギー線を照射することによって硬化させて、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物を含む層、すなわちハードコート層が形成される。活性エネルギー線硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線照射によって硬化する紫外線硬化性樹脂が好ましい。予めハードコート層が形成されている市販の樹脂基材を用いてもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、Z−731L(アイカ工業株式会社製)、オプスターZ7527(JSR株式会社製)等が好ましく用いられる。
ハードコート層の形成方法は、特に制限はないが、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
また、ハードコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
(平滑層)
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、樹脂基材110とガスバリア層120との間に、平滑層を有してもよい。本発明に用いられる平滑層は、突起等が存在する樹脂基材の粗面を平坦化し、あるいは、樹脂基材に存在する突起により透明無機化合物層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、基本的には感光性材料、または、熱硬化性材料を硬化させて作製される。
平滑層の感光性材料としては、例えば、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた樹脂組成物等が挙げられる。具体的には、JSR株式会社製のUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR(登録商標)シリーズを用いることができる。また、上記のような樹脂組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している感光性樹脂であれば特に制限はない。
熱硬化性材料として具体的には、クラリアント社製のトゥットプロムシリーズ(有機ポリシラザン)、セラミックコート株式会社製のSP COAT耐熱クリアー塗料、株式会社アデカ製のナノハイブリッドシリコーン、DIC株式会社製のユニディック(登録商標)V−8000シリーズ、EPICLON(登録商標) EXA−4710(超高耐熱性エポキシ樹脂)、信越化学工業株式会社製の各種シリコン樹脂、日東紡株式会社製の無機・有機ナノコンポジット材料SSGコート、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。この中でも特に耐熱性を有するエポキシ樹脂ベースの材料であることが好ましい。
平滑層の形成方法は、特に制限はないが、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
平滑層の形成では、上述の感光性樹脂に、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、平滑層の積層位置に関係なく、いずれの平滑層においても、成膜性向上および膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
平滑層の厚さとしては、フィルムの耐熱性を向上させ、フィルムの光学特性のバランス調整を容易にする観点から、1〜10μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは、2μm〜7μmの範囲にすることが好ましい。
平滑層の平滑性は、JIS B 0601:2001で規定される表面粗さで表現される値で、十点平均粗さRzが、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、バリア層を塗布形式で塗布した場合であっても、ワイヤーバー、ワイヤレスバー等の塗布方式で、平滑層表面に塗工手段が接触する場合であっても塗布性が損なわれることが少なく、また、塗布後の凹凸を平滑化することも容易である。
[ガスバリア性フィルムの光学特性]
本発明のガスバリア性フィルムは、第2無機バリア層側から測定した波長に対する反射率曲線において、波長360〜380nmの反射率最大値が15%以上であり、好ましくは15〜35%であり、より好ましくは17〜34%である。
本発明のガスバリア性フィルムは、波長450〜800nmにおける透過率最小値が、80%以上であるのが好ましく、より好ましくは83%以上であり、さらに好ましくは84%以上である。透過率最小値の上限は特に制限されないが、実現可能な範囲として、99%以下である。このような光学特性を有することで、より効果的に紫外線透過を抑制することができ、より優れた耐候性が発揮される。
また、波長360〜380nmにおける反射率最小値としては、特に制限されないが、実用上、10%以上であるのが好ましい。波長450〜800nmにおける透過率最大値としては、特に制限されないが、実用上、85〜99%であるのが好ましい。
上述のように、本発明は、耐候性のよいガスバリア性フィルムを検討するにあたって、紫外光からのダメージを軽減することに着目し、ガスバリア性フィルムの光学特性(特に、波長360〜380nmにおける反射率最大値)を制御することを見出したものである。このような光学特性を達成する方法としては、特に制限されないが、上述のように、第1無機バリア層および第2無機バリア層の屈折率を制御することであり、また、第1無機バリア層および第2無機バリア層の厚さを制御することである。これらの構成を制御することで、ガスバリア性フィルムに照射される紫外光を効率よく反射し、樹脂基材への紫外光の到達量を軽減させることで、ガスバリア性フィルムの劣化を抑制することができる。
[電子デバイス]
本発明のガスバリア性フィルムは、空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸
化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく適用できる。すなわち、本発明は、本発明のガスバリア性フィルムを用いる電子デバイスを提供する。
本発明の電子デバイスに用いられる電子デバイス本体の例としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、液晶表示素子(LCD)、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等を挙げることができる。本発明の効果がより効率的に発揮されるという観点から、該電子デバイス本体は有機EL素子または太陽電池が好ましく、太陽電池がより好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の実施例においては、特記しない限り、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味し、各操作は、室温(25℃)で行われる。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《ガスバリア性フィルム用基材の作製》
〔ガスバリア性フィルム用基材1の作製〕
下記樹脂基材上に、下記組成の有機層形成用塗布液を塗布および乾燥させた後、紫外光照射による硬化処理を行って有機層を形成し、ガスバリア性フィルム用基材1を作製した。なお、乾燥条件、乾燥層厚および硬化条件は以下に示す。
・樹脂基材:ロール状で長尺の厚さ23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポン製:KFL12W)。
(有機層形成用塗布液の調製)
下記の各添加剤を混合、溶解して有機層形成用塗布液を調製した。
・ウレタンアクリレート:共栄社化学製 UA−306I(ペンタエリスリトールトリアクリレートとイソホロンジイソシアネートの反応物) 70質量部
・アクリレートモノマー:新中村化学製 A−9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート) 20質量部
・光重合開始剤:BASFジャパン製イルガキュア819 1質量部
・SiO2微粒子:日産化学工業製 PGM−AC−2140Y(ラジカル重合性シランカップリング剤で修飾されたオルガノシリカゾル) 固形分として10質量部
・フッ素系活性剤:AGCセイミケミカル製S651 0.03質量部
・有機溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル 固形分が5質量%となる所定量
(塗布、乾燥および硬化条件)
コーター:押し出しコーター
乾燥条件:90℃、90秒間
乾燥層厚:2μm、
硬化条件:高圧水銀ランプ、500mJ/cm2。
〔ガスバリア性フィルム用基材2の作製〕
下記樹脂基材上に、下記組成の紫外線吸収性有機層形成用塗布液を塗布および乾燥させて紫外線吸収性有機層を形成し、ガスバリア性フィルム用基材2を作製した。なお、乾燥条件、乾燥層厚は以下に示す。
・樹脂基材:ロール状で長尺の厚さ23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポン製:KFL12W)。
(紫外線吸収性有機層形成用塗布液の調製)
下記の各添加剤を混合、溶解して紫外線吸収性有機層形成用塗布液を調製した。
・紫外線吸収性フィルムコート剤:日本触媒製 ハルスハイブリッドUV−G13
100質量部
・イソシアネート系硬化剤:住化バイエルウレタン社製 デスモジュールN3200
2.6質量部
・有機溶媒:トルエン 固形分が5質量%となる所定量
(塗布、乾燥および硬化条件)
コーター:押し出しコーター
乾燥条件:90℃、90秒間
乾燥層厚:2μm、
硬化条件:60℃、3日間。
〔ガスバリア性フィルム1の作製〕
上記有機層を形成したガスバリア性フィルム用基材1に、下記の方法にてポリシラザン改質物を含有する第1無機バリア層を形成した。
(ポリシラザン含有層形成用塗布液の調製)
パーヒドロポリシラザン(PHPS)溶液として、無触媒のパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ(登録商標) NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン)をパーヒドロポリシラザンに対して5質量%含有するパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ NAX120−20)とを4:1の質量比で混合することにより、アミン触媒をパーヒドロポリシラザンに対して1質量%含むパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(以下、「PHPS液」と称する。)を調製した。
(ポリシラザン改質物の形成)
上記調製したPHPS液を、スピンコート法により、ガスバリア性フィルム用基材1上に塗布することにより、ポリシラザン含有層(塗膜)を形成した後、80℃で2分間乾燥した。さらに下記の真空紫外光照射処理を行うことで、ポリシラザン改質物を含有する第1無機バリア層を形成した。ポリシラザン改質物の膜厚は200nmであった。
(真空紫外光(VUV光)照射処理条件)
塗布および乾燥して形成したポリシラザン含有層に対する真空紫外光(VUV光)の照射は、下記条件および下記の装置を用い、ランプとポリシラザン含有層との間隔を6mmとなるように試料を設置し、照射した。照射時間は、可動ステージの可動速度を調整して行った。
また、真空紫外光照射時の酸素濃度の調整は、照射庫内に導入する窒素ガス、および酸素ガスの流量をフローメーターにより測定し、庫内に導入するガスの窒素ガス/酸素ガス流量比により調整した。
真空紫外光照射装置:ステージ可動型キセノンエキシマ照射装置
(MDエキシマ社製、MECL−M−1−200)
照度:140mW/cm2(172nm)
ステージ温度:80℃
処理環境:ドライ窒素ガス雰囲気下
導入ガス加熱温度:100℃
加熱ガス導入時間:1分
処理環境の酸素濃度:0.1体積%
ステージ可動速度と搬送回数:10mm/秒で8回搬送
エキシマ光露光積算量:3J/cm2。
(スパッタ法によるNbOxを含有する無機膜層の形成)
上記ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層の上に、スパッタ装置(マグネトロンスパッタ装置・キャノンアネルバ社製:型式EB1100)を用いたスパッタ法により、Nb2O3をターゲットとして、NbOxを含有する膜厚30nmの第2無機バリア層を形成した。
ここでのスパッタ条件としては、基板温度;25℃、到達圧力;1×10−6Pa、雰囲気ガス;Ar99.5%および酸素0.5%、スパッタ圧力(全圧);2×10−1Pa、投入電力100W、成膜時間8分間、S−T距離100mmとした。
(真空紫外光(VUV光)照射処理)
NbOxを含む第2無機バリア層を形成した後、さらに上記の真空紫外光照射装置にてエキシマ光露光積算量:3J/cm2の処理を実施し、ガスバリア性フィルム1を作製した。
〔ガスバリア性フィルム2の作製〕
スパッタ法によりTa2O5をターゲットとしてTaOxを含有する膜厚30nmの第2無機バリア層を形成した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム2を作製した。
〔ガスバリア性フィルム3の作製〕
スパッタ法によりZrO2をターゲットとしてZrOxを含有する膜厚30nmの第2無機バリア層を形成した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム3を作製した。
〔ガスバリア性フィルム4の作製〕
スパッタ法によりTiO2をターゲットとしてTiOxを含有する膜厚30nmの第2無機バリア層を形成した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム4を作製した。
〔ガスバリア性フィルム5の作製〕
NbOxを含む第2無機バリア層を形成した後に真空紫外光照射を行わなかった以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム5を作製した。
〔ガスバリア性フィルム6の作製〕
ポリシラザン含有層を形成した後の真空紫外光照射をエキシマ光露光積算量:1J/cm2に変更した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム6を作製した。エキシマ光露光積算量の調整はステージ可動速度と搬送回数とで調整した。
〔ガスバリア性フィルム7の作製〕
ポリシラザン含有層を形成した後の真空紫外光照射をエキシマ光露光積算量:5J/cm2に変更し、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層の膜厚を300nmに変更した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム7を作製した。エキシマ光露光積算量の調整はステージ可動速度と搬送回数とで調整した。ポリシラザン改質層の膜厚はスピンコート法の回転数で調整した。
〔ガスバリア性フィルム8の作製〕
スパッタ法によるNbOxを含有する第2無機バリア層の膜厚を50nmに変更した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム8を作製した。第2無機バリア層の膜厚は成膜時間で調整した。
〔ガスバリア性フィルム9の作製〕
ガスバリア性フィルム1のスパッタ法によるNbOxを含有する第2無機膜の形成を、下記の塗布法によるNbOxを含有する第2無機膜の形成に変更した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム9を作製した。
(塗布法によるNbOxを含有する無機膜層の形成)
酸化ニオブゾル(多木化学製:Nb−G660)スピンコート法により、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層上に塗布することにより塗膜を形成したのち、100℃で10分間乾燥した。膜厚は30nmとなるようにスピンコート法の回転数で調整した。
〔ガスバリア性フィルム10の作製〕
ポリシラザン含有層を形成した後の真空紫外光照射の代わりに、下記の真空プラズマ処理に変更してポリシラザン含有層の改質を行った以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム10を作製した。
(真空プラズマ処理)
真空プラズマ処理装置:ユーテック株式会社製
ガス:Ar
ガス流量:50mL/min
圧力:19Pa
温度:室温
電極単位面積あたりの印加電力:1.3W/cm2
周波数:13.56MHz
処理時間:5min。
〔ガスバリア性フィルム11の作製〕
ポリシラザン含有層を形成した後の真空紫外光照射を行わなかった以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム11を作製した。
〔ガスバリア性フィルム12の作製〕
スパッタ法によるNbOxを含有する第2無機バリア層の膜厚を5nmに変更した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム12を作製した。第2無機バリア層の膜厚は成膜時間で調整した。
〔ガスバリア性フィルム13の作製〕
スパッタ法によりSiO2をターゲットとしてSiOxを含有する膜厚30nmの第2無機バリア層を形成した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム13を作製した。
〔ガスバリア性フィルム14の作製〕
ポリシラザン含有層を形成した後の真空紫外光照射、およびNbOxを含む第2無機バリア層を形成した後の真空紫外光照射を行わなかった以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム14を作製した。
〔ガスバリア性フィルム15の作製〕
ガスバリア性フィルム1のNbOxを含む第2無機バリア層を形成する第2無機バリア層の代わりに、ポリシラザン改質物を含む層(2層目)を、第1無機バリア層の上に積層しガスバリア性フィルム15を作製した。
第1無機バリア層上のポリシラザン改質物を含む層(2層目)の膜厚は300nmであり、第1無機バリア層上にポリシラザン改質物を含む層(2層目)を形成した後のエキシマ光露光積算量は5J/cm2とした。
エキシマ光露光積算量の調整はステージ可動速度と搬送回数とで調整した。ポリシラザン改質物を含む層(2層目)の膜厚はスピンコート法の回転数で調整した。
〔ガスバリア性フィルム16の作製〕
ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層の代わりに下記蒸着法によるSiOxを含有するガスバリア性無機膜層を形成した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム16を作製した。
(蒸着法によるSiOx含有無機膜層の形成)
真空蒸着装置(ULVAC社製;装置名EWAシリーズ)を使用して2×10−3Paの真空下でSiOを加熱蒸着させ、ガスバリア性フィルム用基材1上に厚さ10nmのSiOx膜を形成した。
〔ガスバリア性フィルム17の作製〕
ガスバリア性フィルム用基材1をガスバリア性フィルム用基材2に変更し、NbOxを含む第2無機バリア層を形成せず、NbOxを含む第2無機バリア層を形成した後の真空紫外光照射を行わなかった以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム17を作製した。
〔ガスバリア性フィルム18の作製〕
NbOxを含む第2無機バリア層を形成せず、NbOxを含む第2無機バリア層を形成した後の真空紫外光照射を実施せず、ポリシラザン改質物を含む第1無機バリア層の上に紫外光吸収性有機保護層を形成した以外はガスバリア性フィルム1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム18を作製した。
紫外線吸収性有機保護層の形成は紫外線吸収性有機層形成用塗布液を用いて、ガスバリア性フィルム用基材2の紫外線吸収性有機層の形成の際と同じ塗布、乾燥および硬化条件で行った。
ガスバリア性フィルム1〜18の作製条件を表1に示す。
得られたガスバリア性フィルム1〜18について、下記測定および性能評価を行った。
<屈折率測定>
ガスバリア性フィルムの作製に用いた基材を、屈折率測定用の基材であるシクロオレフィンフィルム・ゼオノアZF−14 100μm(日本ゼオン社製)に変更をして、上記において、気相成膜で作製した各ガスバリア層については、各ガスバリア層を基材上に1層で積層し、各ガスバリア層の屈折率を求めた。基材を変更した以外は、各ガスバリア層の成膜と同じ条件で各ガスバリア層を成膜した。本発明では、気相成膜で作製した各層の屈折率は、基材上に積層された1層のガスバリア層の屈折率を、各層の屈折率とする。
屈折率の解析には、多入射角分光エリプソメーターVASE(J. A. Woollam社製)を用い、波長590nm、入射角40〜50度において、各層の屈折率の測定を行った。
また、塗布改質で作製したポリシラザン改質物を含む層については、積層構成によって屈折率に差異が生じるため、基材を変更した以外は上記作製方法通りの積層構成とし、多層光学モデルのデータフィッティングにより各層の屈折率を求めた。
<反射率、透過率の測定>
分光光度計V−750(日本分光(株)製)を用い測定した。
・反射率の最大値および最小値:波長360〜380nmの範囲において、第2無機バリア層側(基材とは反対の側)から、波長1nm刻みで反射率を測定し、当該波長域において最大となる反射率を最大値、最少となる反射率を最小値として採用した。
・透過率の最小値および最大値:波長450〜800nmの範囲において、第2無機バリア層側(基材とは反対の側)から、波長1nm刻みで透過率を測定し、当該波長域において最小となる透過率を最小値、最大となる透過率を最大値として採用した。
[ガスバリア性フィルムの性能評価]
<作製直後のガスバリア性フィルムの評価>
(水蒸気バリア性の評価:水蒸気透過度、WVTRの測定)
作製直後の各ガスバリア性フィルムについて、水蒸気バリア性を評価した。水蒸気バリア性の評価は、MOCON社製AQUATRANを用い、38℃、90%RH条件において数値が安定するのを待って水蒸気透過度(WVTR)(g/m2・day)を測定し、これを水蒸気バリア性の尺度とした。
(密着性の評価)
作製直後の各ガスバリア性フィルムについて、JIS K 5600−5−6に記載された試験方法に準じて、密着性を評価した。具体的には、100個のマス目状の切り傷を、隙間間隔1mmのカッターガイドを用いて付けた。次いで、18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT−18)を升目上の切り傷面に貼り付け、2.0kgのローラーを20往復して完全に付着させた後、180度の剥離角度で急速に剥がした後の剥離面を観察し、以下の評価基準に従って、剥離面積(剥離マス目比率)でランク付を行い、密着性を評価した。剥離箇所は、TEM観察により、いずれも有機層とガスバリア層との間で発生していることが確認できた。
−評価基準−
◎:剥離しているマス目比率が、3%未満である
○:剥離しているマス目比率が、3%以上、10%未満である
○△:剥離しているマス目比率が、10%以上、20%未満である
△:剥離しているマス目比率が、20%以上、50%未満である
△×:剥離しているマス目比率が、50%以上、70%未満である
×:剥離しているマス目比率が、70%以上である。
<耐久性の評価:サンシャインウェザーメーター試験後の各特性>
上記作製した各ガスバリア性フィルムを、サンシャインウェザーメーター試験後、上記の方法と同様にして、水蒸気バリア性(WVTR測定)、密着性の評価を行った。水蒸気バリア性(WVTR測定)については、水蒸気透過度の維持率として下記式に従い、維持率を計算し、下記評価基準に従って評価した。
水蒸気透過度の維持率(%)=(サンシャインウェザーメーター試験後の水蒸気透過度/作製直後の水蒸気透過度)×100
−評価基準−
○:屈曲処理後の水蒸気透過度の維持率が、90%以上である
○△:屈曲処理後の水蒸気透過度の維持率が、80%以上、90%未満である
△×:屈曲処理後の水蒸気透過度の維持率が、70%以上、80%未満である
×:屈:屈曲処理後の水蒸気透過度の維持率が、70%未満である。
(サンシャインウェザーメーター試験)
サンシャインウェザーメーターS80(スガ試験機株式会社製)を用いて、照射照度(255W/m2)、照射光の波長300〜400nm、BP温度63±1℃、60分の内12分降雨の試験条件で100時間試験を行った。なお照射光は第2無機バリア層側(基材とは反対の側)から照射した。
<電子デバイスとしての評価>
本発明のガスバリア性フィルム1〜18を用いた電子デバイスの作製方法を以下のようにして作製した。
(有機光電変換素子の作製方法)
ガスバリア性フィルムの基材側の面に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(シート抵抗10Ω/□)を、通常のフォトリソグラフィー技術と湿式エッチングとを用いて2mm幅にパターニングし第1の電極を作製した。
パターン形成した第1の電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外光オゾン洗浄を行った。
この透明基板上に、導電性高分子であるBaytron P4083(スタルクヴィテック社製)を膜厚が30nmになるように塗布乾燥した後、150℃で30分間熱処理させ正孔輸送層を成膜した。
これ以降は、基板を窒素チャンバー中に持ち込み、窒素雰囲気下で作製した。
まず、窒素雰囲気下で上記基板を150℃で10分間加熱処理した。次に、クロロベンゼンにP3HT(プレクトロニクス社製:レジオレギュラーポリ−3−ヘキシルチオフェン)とPCBM(フロンティアカーボン社製:6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)を3.0質量%になるように1:0.8で混合した液を調製し、フィルタでろ過しながら膜厚が100nmになるように塗布を行い、25℃で放置して乾燥させた。続けて、150℃で15分間加熱処理を行い、光電変換層を成膜した。
次に、上記一連の機能層を成膜した基板を真空蒸着装置チャンバー内に移動し、1×10−4Pa以下にまでに真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.01nm/秒でフッ化リチウムを0.6nm積層し、更に続けて、2mm幅のシャドウマスクを通して(受光部が2×2mmに成るように直行させて蒸着)、蒸着速度0.2nm/秒でAlメタルを100nm積層することで第2の電極を形成した。
得られた各々の有機光電変換素子を窒素チャンバーに移動し、以下の手順に従って封止を行って、受光部が2×2mmサイズの有機光電変換素子を作製した。
(封止用のガスバリア性フィルム試料の作製および有機光電変換素子の封止)
窒素ガス(不活性ガス)によりパージされた環境下で、ガスバリア性フィルムの基材側の面に、シール材としてエポキシ系光硬化型接着剤を塗布したものを、封止用フィルムとして作製した。
次いで、上記の有機光電変換素子を、上記接着剤を塗布したガスバリア性フィルム試料の接着剤塗布面の間に挟み込んで密着させた後、片側の基板側からUV光を照射して硬化させ、有機光電変換素子の封止処理を行った。
(有機光電変換素子の評価)
ソーラーシミュレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cm2の強度の光を照射し、有効面積を4.0mm2にしたマスクを受光部に重ね、IV特性を評価することで、短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、開放電圧Voc(V)およびフィルファクターFF(%)を、同素子上に形成した4箇所の受光部をそれぞれ測定し、下記式Aに従って求めたエネルギー変換効率PCE(%)の4点平均値を見積もった。
(式A)
PCE(%)=〔Jsc(mA/cm2)×Voc(V)×FF(%)〕/100mW
/cm2。
(サンシャインウェザーメーター試験)
サンシャインウェザーメーターS80(スガ試験機株式会社製)を用いて、照射照度(255W/m2)、照射光の波長300〜400nm、BP温度63±1℃、60分の内12分降雨の試験条件で100時間試験を行った。なお照射光は有機光電変換素子の受光部側から照射した。
作製直後の素子に対して、サンシャインウェザーメーター試験の素子の変換効率維持率を下記式に従って算出し、以下の様にランク付けを行った。
変換効率維持率=加速劣化処理後の素子の変換効率/加速劣化処理前の素子の変換効率×100(%)
−評価基準−
○:90%以上
○△:60%以上、90%未満
△:20%以上、60%未満
×:20%未満。
ガスバリア性フィルムの屈折率、反射率の最大値および最小値、ならびに透過率の最小値および最大値については表1に、ガスバリア性フィルムの性能評価の結果については、表2に示した。
上記結果より、本発明のガスバリア性フィルム(ガスバリア性フィルム1〜11)は、サンシャインウェザーメーター試験後においても、密着性が高く、高い水蒸気バリア性を有していることがわかる。また、本発明のガスバリア性フィルムは耐候性に優れているため、電子デバイスに適用した場合であっても、変換効率を良好に維持できることが示されている。