上述したようなボールねじ式のマスダンパでは一般に、ボールねじによって、構造物の変位が回転運動に変換された状態で回転マスに伝達される。また、ボールねじのナットは回転マスに連結されており、回転マスと一緒に軸受けに回転可能に支持されている。ボールねじ式のマスダンパにおいて、回転マスによる回転慣性質量効果を十分に得るべく、ボールねじによる回転運動の変換比を増大させるには、ボールねじのリード長(ピッチ)を可能な限り小さく設定するのが好ましい。しかし、ボールねじのリード長が小さいほど、そのナットに対するねじ軸の軸線方向の移動量が小さくなることにより、構造物の振動に伴って上記の軸受けに作用するアキシアル荷重がより大きくなるため、これに対応した大型の軸受けが必要になってしまう。同じ理由により、回転マスの回転に伴って軸受けで発生する摩擦力がより大きくなることにより、回転マスが回転しにくくなり、その回転慣性質量効果を十分に得ることができなくなってしまう。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、軸受けに作用するアキシアル荷重を低減でき、それにより、軸受けの小型化を図ることができるとともに、回転マスによる回転慣性質量効果を十分に得ることができるマスダンパを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、筒状の周壁を有し、周壁の内側に、軸線方向に互いに連続する第1流体室及び第2流体室が画成されたシリンダと、シリンダに設けられた回転マスと、第1及び第2流体室に充填された作動流体と、第1流体室に軸線方向に摺動可能にかつ回転可能に設けられ、第1流体室を、第2流体室と反対側の第3流体室と、第2流体室側の第4流体室とに区画するピストンと、ピストンに連結され、第3流体室に、ピストンと一緒に軸線方向に移動可能にかつ回転可能に収容されるとともに、シリンダの軸線方向の一端部から軸線方向に突出するねじ軸と、ねじ軸に、ボールを介して螺合するとともに、シリンダの一端部に取り付けられたナットと、シリンダの軸線方向の他端部に配置され、シリンダの他端部から軸線方向に突出する支持部と、周壁及び支持部の一方に取り付けられ、シリンダの軸線方向に直交し、第2流体室に設けられた一対の第1プレートと、周壁及び支持部の他方に取り付けられ、シリンダの軸線方向に直交し、第2流体室に設けられるとともに、一対の第1プレートの間に配置された第2プレートと、一対の第1プレートの一方と第2プレートの間に挟持された状態で設けられた軸受けと、一対の第1プレートの他方と第2プレートの間に挟持された状態で設けられた軸受けとから成る一対の軸受けと、を備え、一対の軸受けの各々は、第1及び第2プレートにそれぞれ取り付けられた、互いに相対的に回転可能の第1輪及び第2輪を有し、第1及び第2プレートのうちの支持部に取り付けられた支持部側プレートとシリンダの他端部との間の第2流体室の部分と、第3流体室とを互いに連通させる第1連通路をさらに備え、シリンダ及び回転マスは、一対の軸受けを介して支持部に回転可能にかつ軸線方向に移動不能に支持されており、第1及び第2プレートのうちの周壁に取り付けられたシリンダ側プレートには、軸線方向に貫通し、第2流体室のうちのシリンダ側プレートの両側の部分を互いに連通させる連通孔が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、回転マスが設けられたシリンダの周壁の内側に、軸線方向に互いに連続する第1流体室及び第2流体室が画成されており、第1及び第2流体室には、作動流体が充填されている。また、第1流体室には、ピストンが軸線方向に摺動可能にかつ回転可能に設けられており、第1流体室は、ピストンによって、第2流体室と反対側の第3流体室と、第2流体室側の第4流体室とに区画されている。ピストンに連結されたねじ軸は、第3流体室に収容されるとともに、シリンダの軸線方向の一端部から軸線方向に突出しており、ピストンと一緒に軸線方向に移動可能かつ回転可能である。また、ねじ軸には、シリンダの一端部に取り付けられたナットが、ボールを介して螺合している。このように、ねじ軸、ナット及びボールは、ボールねじを構成している。
また、シリンダの軸線方向の他端部には、この他端部から軸線方向に突出する支持部が配置されている。シリンダの周壁及び支持部の一方には、一対の第1プレートが取り付けられており、他方には、第2プレートが取り付けられている。第1及び第2プレートは、シリンダの軸線方向に直交するとともに、第2流体室に設けられており、第2プレートは、一対の第1プレートの一方と他方の間に配置されている。さらに、一対の第1プレートの一方と第2プレートの間、及び一対の第1プレートの他方と第2プレートの間にはそれぞれ、軸受けが挟持された状態で設けられている。これらの軸受けから成る一対の軸受けの各々の第1輪及び第2輪は、互いに相対的に回転可能であり、第1及び第2プレートにそれぞれ取り付けられている。シリンダ及び回転マスは、一対の軸受けを介して支持部に回転可能にかつ軸線方向に移動不能に支持されている。
さらに、第1及び第2プレートのうちの支持部に取り付けられた支持部側プレートとシリンダの他端部との間の第2流体室の部分と、第3流体室とが、第1連通路を介して互いに連通している。第1及び第2プレートのうちの周壁に取り付けられたシリンダ側プレートには、連通孔が形成されており、この連通孔を介して、第2流体室のうちのシリンダ側プレートの両側の部分が互いに連通している。
以上の構成のマスダンパでは、地震などの振動による変位が支持部とねじ軸に入力されると、ねじ軸がピストンと一緒にシリンダに対して軸線方向に移動し、それに伴い、前述したねじ軸を含むボールねじにより、ねじ軸に入力された変位が回転運動に変換された状態でシリンダに伝達されることによって、シリンダが回転マスと一緒に回転する。これにより、回転マスの回転慣性質量効果が得られる。また、ねじ軸が軸線方向に移動するのに伴い、シリンダには、ねじ軸に螺合するナットを介して、ねじ軸の移動方向と同方向に移動させるような力が作用し、この力は、シリンダ側プレートを介して、一対の軸受けにアキシアル荷重として作用し、ねじ軸の移動方向と同方向に作用する。
さらに、ピストンが、ねじ軸と一緒にシリンダの第1流体室の第3流体室側に移動(摺動)すると、ピストンで押圧された第3流体室内の作動流体の一部は、第3流体室から、第1連通路を介して、第2流体室に流動し、さらにシリンダ側プレートの連通孔を通過して、第1流体室の第4流体室に流動する。その際、作動流体は、第2流体室内の支持部側プレートを、第1流体室側に、すなわち、ねじ軸の移動方向と同方向に押圧する。一方、ピストンが、シリンダの第1流体室の第4流体室側に移動(摺動)すると、ピストンで押圧された第4流体室内の作動流体の一部は、第2流体室に流動し、シリンダ側プレートの連通孔を通過するとともに、第1連通路を介して、第1流体室の第3流体室に流動する。その際、作動流体は、第2流体室内の支持部側プレートを、シリンダの他端部側に、すなわち、ねじ軸の移動方向と同方向に押圧する。
以上のように、シリンダ側プレートと支持部側プレートの間に挟持された一対の軸受けには、アキシアル荷重がシリンダ側プレートを介して作用し、支持部側プレートには、作動流体による押圧力が、このアキシアル荷重と同方向に作用する。これにより、軸受けに実際に作用するアキシアル荷重を低減できるので、両軸受けを小型化することができる。同じ理由により、シリンダ及び回転マスの回転に伴って軸受けで発生する摩擦力を低減できるので、回転マスを円滑に回転させることができ、その回転慣性質量効果を十分に得ることができる。
また、作動流体が上述したように流動するのに伴って、作動流体による減衰効果が得られる。さらに、減衰要素としての作動流体を利用して、格別な装置を用いることなく、上述した効果を得ることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のマスダンパにおいて、第2流体室の断面積は、第1流体室の断面積よりも大きく、支持部側プレートの面積は、ピストンの断面積よりも大きいことを特徴とする。
この構成によれば、第1及び第2プレート(シリンダ側プレート及び支持部側プレート)が設けられた第2流体室の断面積(軸線方向に直交する面の面積)が、第1流体室の断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも大きくなっている。また、支持部側プレート(第1及び第2プレートのうちの支持部に取り付けられたプレート)の面積が、ピストンの断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも大きくなっている。これにより、パスカルの原理から明らかなように、請求項1に係る発明の説明で述べた支持部側プレートに作用する作動流体による押圧力を増大させることができるので、両軸受けに実際に作用するアキシアル荷重をさらに低減でき、ひいては、軸受けをさらに小型化できるとともに、回転マスをより円滑に回転させることができる。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のマスダンパにおいて、周壁と支持部側プレートの周縁との間には、第2流体室のうちの支持部側プレートの両側の部分を互いに連通させる第2連通路が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、周壁と支持部側プレート(第1及び第2プレートのうちの支持部に取り付けられたプレート)の周縁との間に、第2流体室のうちの支持部側プレートの両側の部分を互いに連通させる第2連通路が設けられている。これにより、請求項1に係る発明の説明で述べたように作動流体が流動する際に、作動流体を支持部側プレートで遮ることなく、円滑に流動させることができる。
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のマスダンパにおいて、ピストンには、第3流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧力に達したときに開弁し、第3及び第4流体室を互いに連通させる第1リリーフ弁と、第4流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧力に達したときに開弁し、第3及び第4流体室を互いに連通させる第2リリーフ弁が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、ピストンに、第1及び第2リリーフ弁が設けられており、第1リリーフ弁は、第3流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧力に達したときに開弁し、第2リリーフ弁は、第4流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧力に達したときに開弁し、第3及び第4流体室を互いに連通させる。これにより、第3及び第4流体室内の作動流体の圧力の過大化を防止することができる。
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のマスダンパにおいて、回転マスがシリンダに一体に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、回転マスがシリンダに一体に設けられているので、マスダンパ全体として小型化することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1〜図3に示すように、本実施形態によるマスダンパ1は、建物Bに適用されたものであり、シリンダ2と、シリンダ2内に軸線方向に摺動可能にかつ回転可能に設けられたピストン11と、ピストン11に取り付けられ、シリンダ2内に軸線方向に移動可能にかつ回転可能に部分的に収容されたねじ軸12と、シリンダ2を回転可能に支持するための支持部15及び一対の軸受け16L、16Rを備えている。以下、マスダンパ1について、図2の左側及び右側をそれぞれ「左」及び「右」として説明する。
図2に示すように、シリンダ2は、互いに対向するドーナツ板状の左壁3及び右壁4と、両者3、4の間に同心状に一体に設けられた円筒状の周壁5で構成されている。左壁3の中央には、軸線方向に貫通する被支持孔3aが形成されており、被支持孔3aには、シールSが取り付けられている。また、右壁4の中央には、軸線方向に貫通するねじ軸案内孔4aが形成されており、ねじ軸案内孔4aには、シールSが取り付けられている。また、右壁4には、ナット13が同心状に取り付けられている。
周壁5は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄で構成されており、回転マスを構成している。また、周壁5の内側の中央部及び右部には、円柱状の第1油室5aが画成されており、周壁5の内側の左部には、円柱状の第2油室5bが画成されている。第1及び第2油室5a、5bは、周壁5の内側に同心状に配置されていて、左右方向(軸線方向)に互いに連続しており、シリコンオイルで構成された作動油HFが充填されている。また、第2油室5bの断面積(軸線方向に直交する面の面積)は、第1油室5aのそれよりも大きい。
さらに、周壁5には、ドーナツ板状の取付壁6が同心状に取り付けられている。取付壁6は、第2油室5bに収容されており、シリンダ2の軸線方向に直交し、左壁3と対向している。取付壁6の中央には、軸線方向に貫通する被支持孔6aが形成されており、被支持孔6aには、シールSが取り付けられている。また、取付壁6の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の連通孔6bが形成されており(2つのみ図示)、各連通孔6bは、軸受け16Rの後述する第1輪16Raでふさがれないような位置に配置されている。なお、連通孔6bの数は任意である。
ピストン11は、円柱状に形成されており、その周面には、シールSが取り付けられている(図3参照)。また、ピストン11は、第1油室5a内に、軸線方向に摺動可能にかつ回転可能に設けられており、第1油室5a内を、第2油室5bと反対側(右側)の第3油室5cと、第2油室5b側(左側)の第4油室5dとに区画している。さらに、ピストン11は、シリンダ2及びねじ軸12に建物Bの振動による変位が入力されていないときには、第1油室5aの軸線方向の中央の中立位置に位置している。この中立位置は、これに限らず、第1油室5aの軸線方向の中央よりも左側又は右側の位置でもよい。
また、図3に示すように、ピストン11の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁17及び第2リリーフ弁18が設けられている。第1リリーフ弁17は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン11の移動によって第3油室5c内の作動油HFの圧力が所定の上限値に達したときに開弁する。これにより、第3及び第4油室5c、5dが互いに連通されることによって、第3油室5c内の作動油HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁18は、第1リリーフ弁17と同様、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン11の移動によって第4油室5d内の作動油HFの圧力が上記の上限値に達したときに開弁する。これにより、第3及び第4油室5c、5dが互いに連通されることによって、第4油室5d内の作動油HFの圧力の過大化が防止される。
前記ねじ軸12は、その左端部がピストン11に同心状に取り付けられ、第3油室5cに軸線方向に移動可能に部分的に収容されており、右壁4のねじ軸案内孔4aにシールSを介して挿入されるとともに、多数のボール14を介してナット13に螺合している。すなわち、ねじ軸12、ナット13及びボール14は、ボールねじを構成している。なお、図2では、便宜上、1つのボール14にのみ、符号を付している。また、ねじ軸12は、右壁4から右方に突出しており、その右端部には、自在継ぎ手を介して第1取付具FL1が設けられている。ここで、自在継ぎ手は、マスダンパ1で発生するトルクでは回転しない程度の摩擦を有している。
前記支持部15は、軸状の基部15aと、円板状の鍔部15bを一体に有している。基部15aは、シリンダ2の軸線方向に延びており、その右端部が取付壁6の被支持孔6aにシールSを介して挿入されていて、取付壁6から左方に延びるとともに、左壁3の被支持孔3aにシールSを介して挿入されており、その左端部には、自在継ぎ手を介して第2取付具FL2が設けられている。ここで、自在継ぎ手は、マスダンパ1で発生するトルクでは回転しない程度の摩擦を有している。鍔部15bは、基部15aの中央に設けられていて、第2油室5bに収容されており、その主面の面積が、第2油室5bの断面積よりも小さく、また、ピストン11の断面積よりも大きく、前記軸受け16L、16Rのそれよりも大きい。また、鍔部15bは、左壁3及び取付壁6の間に配置されており、鍔部15bの外縁と周壁5の間には、第2油室5bのうちの鍔部15bの左右の両側の部分を互いに連通させる連通路5eが設けられている。
一対の軸受け16L、16Rの各々は、スラスト玉軸受けであり、互いに相対的に回転可能なリング状の第1輪16La及び第2輪16Lb(第1輪16Ra及び第2輪16Rb)を有している。一対の軸受け16L、16Rのうちの左側の軸受け16Lは、左壁3と鍔部15bの間に挟持された状態で設けられており、その第1輪16Laが左壁3に、第2輪16Lbが鍔部15bの左面に、それぞれ取り付けられている。右側の軸受け16Rは、取付壁6と鍔部15bの間に挟持された状態で設けられており、その第1輪16Raが取付壁6に、第2輪16Rbが鍔部15bの右面に、それぞれ取り付けられている。また、軸受け16L、16Rの軸線方向に貫通する中央の孔には、基部15aが挿入されている。
以上の構成により、シリンダ2は、軸受け16L、16Rを介して支持部15に回転可能にかつ軸線方向に移動不能に支持されている。
また、マスダンパ1は、周壁5に接続された一対の連通管19、19をさらに備えている。各連通管19は、その断面積(軸線方向に直交する面の面積)が第1油室5aのそれよりも小さく設定され、その一端部が、ピストン11をバイパスし、第3油室5cに連通しており、他端部が、第2油室5bのうちの左端部と鍔部15bの間の部分に連通している。また、一対の連通管19、19は、周壁5の径方向において、互いに重なるように配置されている。なお、図1では、便宜上、連通管19、19を省略している。また、連通管19、19の数は任意である。
さらに、前述した第1取付具FL1は第1伝達部材TM1に、第2取付具FL2は第2伝達部材TM2に、それぞれ取り付けられている。第1及び第2伝達部材TM1、TM2は、弾性を有する部材、例えばH型鋼で構成されており、前者TM1は建物Bの上梁BUに、後者TM2は建物Bの下梁BDに、それぞれ取り付けられている。以上により、マスダンパ1は、そのピストン11及びねじ軸12が上梁BUに、シリンダ2が下梁BDに、それぞれ連結されており、両梁BU、BDの間に水平に延びている。
また、マスダンパ1、第1及び第2伝達部材TM1、TM2は、付加振動系(動吸振器)を構成しており、建物Bの振動に伴って振動(共振)することにより、建物Bの振動を抑制(吸収)する。なお、回転マスを構成する周壁5の質量、第1及び第2伝達部材TM1、TM2の剛性、作動油HFの粘性係数、第1及び第2油室5a、5bの断面積、ならびに、連通管19、19の断面積(軸線方向に直交する面の面積)及び長さは、付加振動系の固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次の固有振動数)に同調するように、定点理論に基づいて設定される。この場合、作動油HFの粘性係数、第1及び第2油室5a、5bの断面積、ならびに連通管19、19の断面積及び長さは、マスダンパ1全体の粘性係数に相関するパラメータであるが、これらに加えて、各種の要素に対するシールSの抵抗を上述したように設定してもよい。
以上の構成のマスダンパ1では、建物Bが振動するのに伴い、上梁BUと下梁BDの間の相対変位がシリンダ2及びねじ軸12に伝達されることによって、ねじ軸12が、シリンダ2に対して軸線方向に往復移動する。それに伴い、ねじ軸12にボール14を介して螺合するナット13が、シリンダ2と一緒に回転するとともに、ねじ軸12と一体のピストン11が、第1油室5a内を軸線方向に往復移動(摺動)する。前述したように、シリンダ2の周壁5が回転マスを構成しているので、このシリンダ2の回転により、周壁5で構成された回転マスによる回転慣性質量効果が得られる。また、ねじ軸12が上述したように往復移動するのに伴い、シリンダ2には、ねじ軸12に螺合するナット13を介して、ねじ軸12の移動方向と同方向に移動させるような力が作用し、この力は、左壁3及び取付壁6をそれぞれ介して、一対の軸受け16L、16Rにアキシアル荷重として作用し、ねじ軸12の移動方向と同方向に作用する。
また、ピストン11が、第1油室5aの第3油室5c側に摺動すると、ピストン11で押圧された第3油室5c内の作動油HFの一部は、連通管19、19を介して第2油室5bに流動し、さらに連通路5e及び取付壁6の連通孔6bを通って、第1油室5aの第4油室5dに流動する。その際、作動油HFは、第2油室5b内の鍔部15bを、第1油室5a側に、すなわち、ねじ軸12の移動方向と同方向に押圧する。一方、ピストン11が、第1油室5aの第4油室5d側に摺動すると、ピストン11で押圧された第4油室5d内の作動油HFの一部は、第2油室5bに流動し、取付壁6の連通孔6b及び連通路5eを通り、さらに連通管19、19を介して、第1油室5aの第3油室5cに流動する。その際、作動油HFは、第2油室5b内の鍔部15bを、シリンダ2の左壁3側に、すなわち、ねじ軸12の移動方向と同方向に押圧する。
以上のように、第1実施形態によれば、シリンダ2と一体の取付壁6と支持部15の鍔部15bとの間に挟持された一対の軸受け16L、16Rには、アキシアル荷重が左壁3及び取付壁6をそれぞれ介して作用し、鍔部15bには、作動油HFによる押圧力が、このアキシアル荷重と同方向に作用する。これにより、軸受け16L、16Rに実際に作用するアキシアル荷重を低減できるので、軸受け16L、16Rを小型化することができる。同じ理由により、シリンダ2の回転に伴って軸受け16L、16Rで発生する摩擦力を低減できるので、周壁5から成る回転マスを円滑に回転させることができ、その回転慣性質量効果を十分に得ることができる。
また、作動油HFが上述したように流動するのに伴って、作動油HFによる減衰効果が得られる。さらに、減衰要素としての作動油HFを利用して、格別な装置を用いることなく、上述した効果を得ることができる。
さらに、第2油室5bの断面積が、第1油室5aの断面積よりも大きく、鍔部15bの面積が、ピストン11の断面積よりも大きい。これにより、上述した鍔部15bに作用する作動油HFによる押圧力を増大させることができるので、軸受け16L、16Rに実際に作用するアキシアル荷重をさらに低減でき、ひいては、軸受け16L、16Rをさらに小型化できるとともに、回転マスをより円滑に回転させることができる。
また、周壁5と鍔部15bの周縁との間に、第2油室5bのうちの鍔部15bの両側の部分を互いに連通させる連通路5eが設けられている。これにより、前述したように作動油HFが流動する際に、作動油HFを鍔部15bで遮ることなく、円滑に流動させることができる。
さらに、ピストン11に、第1及び第2リリーフ弁17、18が設けられており、第1リリーフ弁17は、第3油室5c内の作動油HFの圧力が上限値に達したときに開弁し、第2リリーフ弁18は、第4油室5d内の作動油HFの圧力が上限値に達したときに開弁し、第3及び第4油室5c、5dを互いに連通させる。これにより、第3及び第4油室5c、5d内の作動油HFの圧力の過大化を防止することができる。
また、回転マスがシリンダ2の周壁5で構成されており、すなわち、回転マスがシリンダ2に一体に設けられているので、マスダンパ1全体として小型化することができる。
さらに、周壁5と鍔部15bの周縁との間に連通路5eを設けているので、後述する変形例(図4)の場合と異なり、鍔部15bにシールSや連通孔15dを設ける必要がなく、その分、マスダンパ1の製造コストを削減することができる。
なお、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における左壁3及び取付壁6が、本発明における第1プレート及びシリンダ側プレートに相当するとともに、本実施形態における鍔部15bが、本発明における第2プレート及び支持部側プレートに相当する。また、本実施形態における周壁5が、本発明における回転マスに相当するとともに、本実施形態における第1〜第4油室5a〜5dが、本発明における第1〜第4流体室にそれぞれ相当する。さらに、本実施形態における連通路5eが、本発明における第2連通路に相当し、本実施形態における連通管19、19が、本発明における第1連通路に相当するとともに、本実施形態における作動油HFが、本発明における作動流体に相当する。
また、図4は、第1実施形態の変形例によるマスダンパを示している。図4において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。図4と図2の比較から明らかなように、この変形例によるマスダンパは、第1実施形態によるマスダンパ1と比較して、支持部15の鍔部15cの構成のみが異なっている。以下、第1実施形態となる点を中心に説明する。
図4に示すように、鍔部15cの周縁は、第1実施形態による鍔部15bと異なり、周壁5の内周面にシールSを介して接触している。また、鍔部15cの径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の連通孔15dが形成されている(2つの図示)。各連通孔15dは、軸受け16L、16Rの第2輪16Lb、16Rbにふさがれないような位置に配置されている。なお、連通孔15dの数は任意である。鍔部15cの主面の面積は、第1実施形態による鍔部15bと同様、ピストン11の断面積よりも大きく、また、前記軸受け16L、16Rのそれよりも大きい。
以上の構成の変形例によるマスダンパでは、第1実施形態によるマスダンパ1と同様、建物Bの振動に伴い、ピストン11が第1油室5a内を往復移動(摺動)する。ピストン11が第1油室5aの第3油室5c側に摺動したときには、ピストン11で押圧された第3油室5c内の作動油HFの一部は、連通管19、19を介して第2油室5bに流動し、さらに鍔部15cの連通孔15d及び取付壁6の連通孔6bを通って、第1油室5aの第4油室5dに流動する。その際、作動油HFは、第2油室5b内の鍔部15cを、第1油室5a側に、すなわち、ねじ軸12の移動方向と同方向に押圧する。一方、ピストン11が第1油室5aの第4油室5d側に摺動したときには、ピストン11で押圧された第4油室5d内の作動油HFの一部は、第2油室5bに流動し、連通孔6b及び連通孔15dを通り、さらに連通管19、19を介して、第1油室5aの第3油室5cに流動する。その際、作動油HFは、第2油室5b内の鍔部15cを、シリンダ2の左壁3側に、すなわち、ねじ軸12の移動方向と同方向に押圧する。
以上により、この変形例によれば、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
また、この変形例では、鍔部15cが、本発明における第2プレート及び支持部側プレートに相当する。
なお、第1実施形態では、軸受け16Lの第1輪16Laを、左壁3に取り付けているが、周壁5の左壁3と取付壁6の間の部分に取り付けられた円板状の取付壁に、取り付けてもよい。この場合、この取付壁は、第2油室5bに収容され、シリンダ2の軸線方向に直交し、左壁3及び取付壁6に対向するように配置される。また、連通管19、19を第1実施形態と同様に設ける場合には、この取付壁の径方向の外端部には、取付壁6と同様に、軸線方向に貫通する複数の連通孔が形成される。この場合、連通孔の数は任意である。一方、連通管19、19を、第2油室5bのうちのこの取付壁と鍔部15bの間の部分に連通するように設けた場合には、取付壁の連通孔を省略することができる。
次に、図5を参照しながら、本発明の第2実施形態によるマスダンパ21について説明する。このマスダンパ21は、第1実施形態によるマスダンパ1と比較して、左右一対の鍔部15eL、15eRを有する点と、鍔部15eL、15eR、取付壁6及び軸受け16L、16Rの間の位置関係が異なっている。図5において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
左右一対の鍔部15eL、15eRは、円板状に形成されており、それらの主面の面積が、第2油室5bの断面積よりも小さく、また、ピストン11の断面積よりも大きく、軸受け16L、16Rのそれよりも大きい。左側の鍔部15eLは、支持部15の基部15aの途中に、右側の鍔部15eRは、基部15aの右端部に、それぞれ一体に設けられており、取付壁6は、鍔部15eL、15eRの間に配置されている。左側の軸受け16Lは、左側の鍔部15eLと取付壁6の間に挟持された状態で設けられており、その第1輪16Laが鍔部15eLに、第2輪16Lbが取付壁6の左面に、それぞれ取り付けられている。右側の軸受け16Rは、右側の鍔部15eRと取付壁6の間に挟持された状態で設けられており、その第1輪16Raが鍔部15eRに、第2輪16Rbが取付壁6の右面に、それぞれ取り付けられている。また、支持部15の基部15aは、左側から順に、軸受け16Lの中央の孔、取付壁6の被支持孔6a及び軸受け16Rの中央の孔に挿入されている。
鍔部15eLの外縁と周壁5の間には、第2油室5bのうちの鍔部15eLの左右の両側の部分を互いに連通させる連通路5fが設けられており、鍔部15eRの外縁と周壁5の間には、第2油室5bのうちの鍔部15eRの左右の両側の部分を互いに連通させる連通路5gが設けられている。以上の構成により、シリンダ2は、第1実施形態と同様、軸受け16L、16Rを介して支持部15に回転可能にかつ軸線方向に移動不能に支持されている。
以上の構成のマスダンパ21では、建物Bが振動するのに伴い、第1実施形態の場合と同様に、ピストン11及びねじ軸12がシリンダ2に対して軸線方向に往復移動し、シリンダ2が回転することによって、周壁5で構成された回転マスによる回転慣性質量効果が得られる。その際、シリンダ2には、ねじ軸12の移動方向と同方向に移動させるような力が作用し、この力は、取付壁6を介して、一対の軸受け16L、16Rにアキシアル荷重として作用し、ねじ軸12の移動方向と同方向に作用する。
また、ピストン11が、第1油室5aの第3油室5c側に摺動すると、ピストン11で押圧された第3油室5c内の作動油HFの一部は、連通管19、19を介して第2油室5bに流動し、さらに連通路5f、取付壁6の連通孔6b及び連通路5gを通って、第1油室5aの第4油室5dに流動する。その際、作動油HFは、第2油室5b内の鍔部15eL、15eRを、第1油室5a側に、すなわち、ねじ軸12の移動方向と同方向に押圧する。一方、ピストン11が、第1油室5aの第4油室5d側に摺動すると、ピストン11で押圧された第4油室5d内の作動油HFの一部は、第2油室5bに流動し、連通路5g、取付壁6の連通孔6b及び連通路5fを通り、さらに連通管19、19を介して、第1油室5aの第3油室5cに流動する。その際、作動油HFは、第2油室5b内の鍔部15eL、15eRを、シリンダ2の左壁3側に、すなわち、ねじ軸12の移動方向と同方向に押圧する。
以上のように、第2実施形態によれば、シリンダ2と一体の取付壁6と支持部15の鍔部15eL、15eRとの間に挟持された一対の軸受け16L、16Rには、アキシアル荷重が取付壁6を介して作用し、鍔部15eL、15eRには、作動油HFによる押圧力が、このアキシアル荷重と同方向に作用する。これにより、第1実施形態と同様、軸受け16L、16Rに実際に作用するアキシアル荷重を低減できるので、軸受け16L、16Rを小型化できるとともに、周壁5で構成された回転マスを円滑に回転させることができ、その回転慣性質量効果を十分に得ることができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
また、第2実施形態では、連通路5f、5gが、本発明における第2連通路に相当するとともに、鍔部15eL、15eRが、本発明における第1プレート及び支持部側プレートに相当する。
なお、第2実施形態では、周壁5と一対の鍔部15eL、15eRとの間に、連通路5f、5gをそれぞれ設けているが、第1実施形態の変形例(図4)と同様、これらの連通路5f、5gを設けずに、一対の鍔部をシールを介して周壁に接触させるとともに、一対の鍔部の各々に連通孔を形成してもよい。この場合、連通孔の数は任意である。
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態(変形例を含む。以下、総称して実施形態という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、軸受け16L、16Rは、スラスト玉軸受けであるが、他の適当な軸受け、例えば交差ころ軸受け(クロスローラベアリング)などを用いてもよい。また、実施形態では、実施形態では、本発明における作動流体として、シリコンオイルで構成された作動油HFを用いているが、粘性を有する他の適当な流体を用いてもよい。
さらに、実施形態では、ねじ軸12をピストン11に直接、連結しているが、本出願人による特許第5191579号の図2などに記載されているように、皿ばねを介して連結してもよい。この場合、ねじ軸及び支持部をそれぞれ、第1及び第2伝達部材を介さずに、上梁及び下梁に直接、ブレース状に連結してもよい。また、実施形態では、本発明における連通路として、周壁5に接続された連通管19、19を用いているが、周壁に形成された連通路を用いてもよい。この場合、連通路は、周壁の内部において軸線方向に延びるとともに、その両端で径方向に延びて第2及び第3油室に連通する孔状の通路で構成される。この場合にも、連通路の数は任意である。
さらに、実施形態では、第2油室5bの断面積は、第1油室5aの断面積よりも大きいが、第1油室の断面積以下でもよい。また、実施形態では、鍔部15b、15c、15eL、15eRの主面の面積は、ピストン11の断面積よりも大きいが、ピストンの断面積以下でもよい。さらに、実施形態では、シリンダ2及びピストン11の断面は、円形状であるが、角形状でもよい。また、実施形態では、第1及び第2リリーフ弁17、18が開弁する作動油HFの圧力を、互いに同じ上限値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。さらに、実施形態では、回転マスを周壁5で構成しているが、周壁と別体に構成するとともに、周壁に取り付けてもよい。
また、周壁に、第1流体室や第2流体室内の作動流体の温度上昇による体積変化を補償するためのアキュムレータ(バッファ)を設けてもよい。図6は、そのようなアキュムレータACが設けられたマスダンパを示している。同図において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。図6に示すように、このアキュムレータACは、例えば、ピストン型のものであり(ブラダ型でもよい)、周壁5のうちの第2油室5bの右端を画成する壁部に設けられる。あるいは、この壁部に、スポンジゴムのような弾性体を、アキュムレータとして取り付けてもよい。
さらに、実施形態では、マスダンパ1、21を、建物Bの途中に設けられた制振装置として用いているが、構造物の下端部に設けられた免震装置として用いてもよい。また、実施形態は、本発明によるマスダンパ1、21を、建物Bに適用した例であるが、他の適当な構造物、例えばラック倉庫や、鉄塔、橋梁などに適用してもよい。以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて採用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。