本発明のセルロース系繊維は、繊維表面における凹部の単位面積当たりの平均個数が0.001〜0.5個/μm2であり、凹部の平均直径が0.5〜30μmである。セルロース系繊維は、柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いに優れている。セルロース系繊維の繊維表面における凹部の単位面積当たりの平均個数が0.001〜0.5個/μm2であり、凹部の平均直径が0.5〜30μmの場合には、セルロース系繊維本来の機械的特性や優れた風合いを損なうことなく、深色性、艶消し性、櫛通り性などの機能を付与することができ、特に人工毛髪に適したセルロース系繊維を得ることができる。
前記凹部の単位面積当たりの平均個数が0.001個/μm2以上であれば、艶消し効果が発現し、表面光沢が抑制された人毛に近い風合いのセルロース系繊維を得ることができる。また、繊維表面で光が乱反射することにより、セルロース系繊維の深色性が向上する。さらには、繊維同士の接触面積が減るため、人工毛髪とした場合に櫛通り性が良好となる。凹部の単位面積当たりの平均個数は0.003個/μm2以上であることがより好ましく、0.005個/μm2以上であることが更に好ましく、0.01個/μm2以上であることが特に好ましい。
一方、凹部の単位面積当たりの平均個数が0.5個/μm2以下であれば、セルロース系繊維の機械的特性を損なうことがなく、人工毛髪や織編物などの繊維構造物として好適に用いることができ、さらには使用時の耐久性に優れる。凹部の単位面積当たりの平均個数は0.3個/μm2以下であることがより好ましく、0.2個/μm2以下であることが更に好ましく、0.1個/μm2以下であることが特に好ましい。
前記凹部の平均直径が0.5μm以上であれば、艶消し効果が発現し、表面光沢が抑制された人毛に近い風合いのセルロース系繊維を得ることができる。また、繊維表面で光が乱反射することにより、セルロース系繊維の深色性が向上する。さらには、繊維同士の接触面積が減るため、人工毛髪とした場合に櫛通り性が良好となる。凹部の平均直径は0.7μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることが更に好ましく、1.5μm以上であることが特に好ましい。一方、凹部の平均直径が30μm以下であれば、セルロース系繊維の機械的特性を損なうことがなく、人工毛髪や織編物などの繊維構造物として好適に用いることができ、さらには使用時の耐久性に優れる。凹部の平均直径は20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。
前記凹部の形成方法については、詳細は後述するが、シリカ粒子等の不活性粒子を含有するセルロース系繊維をアルカリ処理することが好ましく、アルカリ処理によって繊維表層より不活性粒子が脱落し、繊維表面に凹部を形成させることができるため好ましい。
セルロース系繊維とは、セルロースエステルおよび/またはセルロースから構成される繊維であり、本発明においては、セルロースエステルおよびセルロースから構成される繊維であることが好ましい。セルロースエステルは屈折率が低く、繊維化した場合の発色性に優れ、また、少なくとも一部のアシル基の炭素数が3〜18であると、さらに、繊維の柔軟性が高く、人工毛髪や織編物などの繊維構造物とした場合に風合いに優れる。一方、セルロースは、セルロースエステルと比べて耐熱性や吸湿性に優れる。
本発明のセルロース系繊維は、セルロースエステルとセルロースのこれらの特長を生かす構成として、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロースエステルとセルロースとを含む芯鞘複合構造を有し、芯部は、前記セルロースエステルを主成分とし、鞘部は、前記セルロースを主成分とするものであることが好ましい。なお、ここで主成分とは、全成分中の50質量%以上含有されることをいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%以上である。かかる構成を採ることにより審美性、耐熱性、吸湿性に優れたセルロース系繊維となる。すなわち、かかる構成を採る場合、芯部がセルロースエステルを主成分とすることで発色性に優れ、鞘部がセルロースを主成分とすることで吸湿性に優れたセルロース系繊維を得ることができる。また、鞘部が、セルロースエステルと比べて耐熱性に優れるセルロースを主成分とするため、アイロンやドライヤーに対する耐熱性に優れたセルロース系繊維を得ることができる。さらには、芯部のセルロースエステルは分散染料、鞘部のセルロースは反応染料によって染色することができるため、芯部または鞘部のみを選択的に染色することや、芯部と鞘部を異なる色相の染料で染色する異色染めが可能であるため好ましい。特に、異色染めをした場合には、1種の染料による染色では得られない審美性が発現するため好ましい。なお、異色染めを行う場合には、芯部と鞘部の比率によって、得られる繊維の色相を制御することができる。
少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18であるセルロースエステルの具体例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。セルロースエステルとして、セルロースにアシル基炭素数が2であるアセチル基とアシル基炭素数が3であるプロピオニル基が結合したセルロースアセテートプロピオネート、および/または、セルロースにアシル基炭素数が2であるアセチル基とアシル基炭素数が4であるブチリル基が結合したセルロースアセテートブチレートを用いると、さらに適度な柔軟性と吸放湿性を有するセルロース系繊維が得られるため好ましい。
セルロースエステルとして、セルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートを用いる場合、セルロースエステルの全置換度(アセチル置換度+アシル置換度)は下記式(I)を満たすことが好ましい。置換度とは、セルロースのグルコース単位に存在する3つの水酸基へ化学的に結合した置換基の数である。また、アシル置換度とは、アシル基炭素数が2であるアセチル基以外のアシル基の置換度の合計である。セルロースエステルの全置換度(アセチル置換度+アシル置換度)が2.5以上3.0以下の範囲にあれば、適度な柔軟性および吸放湿性を有するセルロース系繊維が得られるため好ましい。セルロースエステルの全置換度は、2.6以上2.9以下であることがより好ましく、2.65以上2.85以下であることが更に好ましい。
(I)2.5≦アセチル置換度+アシル置換度≦3.0
アセチル置換度とアシル置換度は、熱軟化温度が高く、適度な柔軟性および吸放湿性を有するセルロース系繊維や、人工毛髪などの繊維構造物を得るために、下記式(II)、(III)を満たすことが好ましい。
(II)1.5≦アセチル置換度≦2.5
(III)0.5≦アシル置換度≦1.5
本発明のセルロース系繊維を構成する、少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18であるセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、5万〜25万であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)の測定方法の詳細については後述するが、GPC測定により算出した値である。重量平均分子量(Mw)が5万以上であれば、セルロース系繊維の繊維強度が高く、十分な耐久性を有する人工毛髪などの繊維構造物を得ることができるため好ましい。重量平均分子量(Mw)は6万以上であることがより好ましく、8万以上であることが更に好ましい。一方、重量平均分子量(Mw)が25万以下であれば、セルロース系繊維の柔軟性が高く、優れた手触りの人工毛髪などの繊維構造物を得ることができるため好ましい。重量平均分子量(Mw)は22万以下であることがより好ましく、20万以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロース系繊維は、無機粒子や有機粒子などの不活性粒子を含有していることが好ましい。ここで不活性とは、製造時や保管時にセルロースエステル組成物やセルロース系繊維に含まれるセルロースおよび/またはセルロースエステルに対して架橋反応や分解反応等の反応を惹起するような性質を有しないことをいう。不活性粒子を含有することにより、後述するセルロース系繊維のアルカリ処理の際に適切な条件を選択することによって、繊維表面に凹部をより容易に形成させることができ、深みのある発色が得られるため好ましい。また、セルロースエステルを主成分とする芯部において、芯部に存在する不活性粒子が光を乱反射し、色味に深みを与えることができることから好ましい。さらには、セルロースエステルを主成分とする芯部ならびにセルロースを主成分とする鞘部に存在する不活性粒子の内部にも染料が浸透し、深色性が発現するため好ましい。
不活性粒子の具体例として、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの酸化物、リン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸アンチモンなどのリン酸塩、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩、架橋ポリスチレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、酸化ケイ素を主成分とするシリカ粒子は、取り扱い性が良好であり、繊維表面に凹部を形成させた場合に、深色性、艶消し性に優れるため好ましい。また、シリカ粒子の具体例として、乾式シリカ、湿式シリカ、シリカゾル、シリカゲル、ホワイトカーボンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの不活性粒子は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
本発明における不活性粒子の含有量は、セルロースエステル組成物の不活性粒子以外の成分の合計100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましい。不活性粒子の含有量が1質量部以上であれば、セルロース系繊維のアルカリ処理によって繊維表面に凹部を形成させた場合に、艶消し効果がより容易に発現し、表面光沢が抑制された人毛に近い風合いのセルロース系繊維を効率的に得ることができるため好ましい。不活性粒子の含有量は2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。一方、不活性粒子の含有量が20質量部以下であれば、セルロース系繊維のアルカリ処理によって繊維表面に凹部を形成させた場合に、セルロース系繊維の機械的特性を損なうことがなく、人工毛髪などの繊維構造物として好適に用いることができ、さらには使用時の耐久性に優れるため好ましい。また、紡糸、延伸工程や製織、製編工程において、不活性粒子によるガイド類の摩耗が抑制され、工程通過性が良好となるため好ましい。不活性粒子の含有量は17質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましく、10質量部以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロース系繊維は、副次的添加剤により種々の改質が行われたものであってもよい。副次的添加剤の具体例として、相溶化剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、滑剤、抗菌剤、核形成剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消臭剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの副次的添加物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
本発明のセルロース系繊維は、2本以上の単糸からなるマルチフィラメントであってもよいし、1本の単糸からなるモノフィラメントであってもよいが、モノフィラメントとした場合には、人毛に近い風合いを有し、深色性、艶消し性、櫛通り性に優れているため、特に人工毛髪に好適に使用できることから好ましい。また、衣料用織編物、襟や袖の芯などのような衣料用副資材、カーテンなどのような生活資材にも好適に使用できる。 本発明のセルロース系繊維がモノフィラメントである場合におけるモノフィラメントの断面形状およびセルロース系繊維がマルチフィラメントである場合におけるマルチフィラメントを構成する単糸の断面形状は、特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良く、非円形断面であってもよい。非円形断面の具体例として、多葉形、多角形、扁平形、楕円形、C字形、H字形、S字形、T字形、W字形、X字形、Y字形などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のセルロース系繊維の繊度は、10〜1500dtexであることが好ましい。繊度が10dtex以上であれば、人毛に近い外観や手触りを有する人工毛髪として用いることができるため好ましい。繊度は20dtex以上であることがより好ましく、30dtex以上であることが更に好ましく、50dtex以上であることが特に好ましい。一方、繊度が1500dtex以下であれば、織編物などの繊維構造物とした場合に柔軟性を損なうことがないため好ましい。繊度は1000dtex以下であることがより好ましく、500dtex以下であることが更に好ましく、300dtex以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロース系繊維の平均繊維径は、25〜500μmであることが好ましい。平均繊維径の測定方法の詳細については後述するが、繊維横断面が真円ではない場合には、繊維横断面の外接円の直径より平均繊維径を算出する。平均繊維径が25μm以上であれば、人毛に近い外観や手触りを有する人工毛髪として用いることができるため好ましい。平均繊維径は50μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることが更に好ましい。一方、平均繊維径が500μm以下であれば、織編物などの繊維構造物とした場合に柔軟性を損なうことがないため好ましい。平均繊維径は400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロース系繊維の強度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、機械的特性の観点から0.5〜2.5cN/dtexであることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、製織、製編工程において糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時の耐久性に優れるため好ましい。強度は1.0cN/dtex以上であることがより好ましく、1.5cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、強度が2.5cN/dtex以下であれば、人工毛髪や織編物などの繊維構造物とした場合に柔軟性を損なうことがないため好ましい。
本発明のセルロース系繊維の伸度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、工程通過性の観点から10〜50%であることが好ましい。伸度が10%以上であれば、繊維の耐摩耗性が良好となり、人工毛髪や織編物などの繊維構造物とした場合に、使用時の毛羽の発生が少なく、耐久性が良好となるため好ましい。伸度は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。一方、伸度が50%以下であれば、人工毛髪や織編物などの繊維構造物の寸法安定性が良好となるため好ましい。伸度は45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロース系繊維の初期引張抵抗度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、JIS L1013:1999の8.10に準じて測定した初期引張抵抗度が20〜50cN/dtexであることが好ましい。初期引張抵抗度が20cN/dtex以上であれば、人毛の感触に極めて近いハリやコシを有する人工毛髪として用いることができるため好ましい。初期引張抵抗度は23cN/dtex以上であることがより好ましく、25cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、初期引張抵抗度が50cN/dtex以下であれば、人工毛髪や織編物などの繊維構造物とした場合に柔軟性を損なうことがないため好ましい。初期引張抵抗度は47cN/dtex以下であることがより好ましく、45cN/dtex以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロース系繊維の吸湿率差(△MR)は、1〜10%であることが好ましい。△MRの測定方法の詳細については後述するが、軽い運度後の衣服内温湿度を想定した温度30℃、湿度90%RHにおける吸湿率と、外気温湿度として温度20℃、湿度65%RHにおける吸湿率の差が△MRである。すなわち、△MRは吸湿性の指標であり、△MRの値が高いほど着用快適性が向上する。△MRが1%以上であれば、着用時の蒸れ感が少なく、着用快適性が発現するため好ましい。△MRは1.5%以上であることがより好ましく、2%以上であることが更に好ましい。一方、△MRが10%以下であれば、人工毛髪や織編物などの繊維構造物とした場合に取り扱い性が良好であり、使用時の耐久性に優れるため好ましい。△MRは9%以下であることがより好ましく、8%以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロース系繊維は、温度20℃、湿度40%RHにおける摩擦帯電圧が1500V以下であることが好ましい。摩擦帯電圧の測定方法の詳細については後述するが、摩擦帯電圧は制電性の指標であり、摩擦帯電圧の値が低いほど静電気の発生が抑制される。摩擦帯電圧は、着用快適性の観点から小さければ小さいほど好ましい。摩擦帯電圧が1500V以下であれば、着用時の静電気の発生が少なく、人工毛髪とした場合に櫛通り性が良好となるため好ましい。摩擦帯電圧は1200V以下であることがより好ましく、1000V以下であることが更に好ましく、700V以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロース系繊維は、一般の繊維と同様に延伸などの加工が可能である。また、製織や製編についても、一般の繊維と同等に扱うことができる。
次に、本発明のセルロース系繊維の製造方法について説明する。
本発明のセルロース系繊維を得るために原料として用いるセルロースエステル組成物は、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロースエステル、可塑剤、リン系酸化防止剤、不活性粒子を含むことが好ましい。
本発明のセルロース系繊維を得るために原料として用いるセルロースエステル組成物は、可塑剤を含有していても良く、可塑剤としては多価アルコール系化合物が好ましい。可塑剤の具体例として、セルロースエステルとの相溶性が良好であり、溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などがあり、なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの具体例として、重量平均分子量が200〜4000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの可塑剤は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
本発明のセルロース系繊維を得るために原料として用いるセルロースエステル組成物における可塑剤の含有率は、セルロースエステル組成物の全体に対して5〜25質量%であることが好ましい。可塑剤の含有率が5質量%以上であれば、セルロースエステル組成物が溶融紡糸可能な熱可塑化効果が得られるため好ましい。可塑剤の含有率は8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。一方、可塑剤の含有率が25質量%以下であれば、セルロース系繊維の繊維強度が高く、十分な耐久性を有する人工毛髪などの繊維構造物を得ることができるため好ましい。可塑剤の含有率は22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロース系繊維は、リン系酸化防止剤を含有していることが好ましい。リン系酸化防止剤を含有している場合、熱分解防止効果が良好であり、セルロース系繊維の機械的特性の低下や着色が抑制されるため好ましい。リン系酸化防止剤の具体例として、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル−4−メチル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、ビス(2.6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−t−ブチル−4−クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−t−ブチル−2−クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2.6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2.4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ペンタエリスリトール系化合物は酸化防止効果が高いため好ましい。
本発明のセルロース系繊維を得るために原料として用いるセルロースエステル組成物におけるリン系酸化防止剤の含有率は、セルロースエステル組成物の全体に対して0.005〜0.5質量%であることが好ましい。リン系酸化防止剤の含有率が0.005質量%以上であれば、熱分解によるセルロース系繊維の機械的特性の低下や着色を抑制することができるため好ましい。リン系酸化防止剤の含有率は0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが更に好ましい。一方、リン系酸化防止剤の含有率が0.5質量%以下であれば、セルロース系繊維の繊維特性への影響が少なく、風合いに優れた人工毛髪などの繊維構造物が得られるため好ましい。リン系酸化防止剤の含有率は0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロースエステル組成物の製造方法において、セルロースエステル、可塑剤、リン系酸化防止剤、不活性粒子の混合は、公知の方法を採用することができ、例えば、エクストルーダー、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサーなどが挙げられるが、これらに限定されない。なお、混合を容易にするために、粉砕機によってあらかじめセルロースエステルの粒子を50メッシュ以上に細かく粉砕しておいてもよく、セルロースエステルを合成する段階で可塑剤、リン系酸化防止剤、不活性粒子を添加してもよい。
セルロース系繊維は、セルロースエステル組成物を溶融紡糸して得ることができる。湿式紡糸や乾式紡糸と異なり、溶融紡糸は溶剤を用いないため、繊維表面や繊維内部から溶剤を除去する必要がなく、単糸繊度の大きなセルロース系繊維を得ることができるため好ましい。また、溶融紡糸では、セルロースエステル組成物の溶融状態から冷却固化に至るまでに十分に発達した繊維構造を形成させることができるため好ましい。
本発明では、事前に乾燥したチップ状のセルロースエステル組成物をエクストルーダー型やプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機へ供給して溶融し、計量ポンプで計量する。その後、紡糸ブロックにおいて加温した紡糸パックへ導入して、紡糸パック内で溶融ポリマーを濾過した後、紡糸口金から吐出して繊維糸条とする。紡糸口金から吐出された繊維糸条は、冷却装置によって冷却固化し、第1ゴデットローラーで引き取り、第2ゴデットローラーを介してワインダーで巻き取り、巻取糸とする。なお、製糸操業性、生産性、繊維の機械的特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2〜20cmの長さの加熱筒や保温筒を設置してもよい。また、給油装置を用いて繊維糸条へ給油してもよく、交絡装置を用いて繊維糸条へ交絡を付与してもよい。
本発明では、溶融紡糸を行う前にセルロースエステル組成物を乾燥させ、含水率を0.3質量%以下としておくことが好ましい。含水率が0.3質量%以下であれば、溶融紡糸時に水分により発泡することがなく、安定して紡糸を行うことが可能となるため好ましい。また、溶融紡糸時の加水分解による機械的特性の低下を抑制することができるため好ましい。含水率は0.2質量%以下としておくことがより好ましく、0.1質量%以下としておくことが更に好ましく、0.08質量%以下としておくことが特に好ましい。
溶融紡糸における紡糸温度は、220〜280℃とすることが好ましい。紡糸温度が220℃以上であれば、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、短ピッチの周期斑が現れず、断面形状が均一なセルロース系繊維を得ることができるため好ましい。また、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸温度は230℃以上とすることがより好ましく、240℃以上とすることが更に好ましい。一方、紡糸温度が280℃以下であれば、セルロースエステル組成物の熱分解を抑制することができ、分子量低下による機械的特性の低下や、着色による品位劣化が生じないため好ましい。紡糸温度は275℃以下とすることがより好ましく、270℃以下とすることが更に好ましい。
紡糸口金より吐出された繊維糸条は、冷却浴に導かれて急冷されてもよい。冷却浴の温度は10〜90℃であることが好ましい。冷却浴の温度が10℃以上であれば、冷却浴中で繊維糸条が蛇行することなく、繊維断面形状および繊維径が均一であるセルロース系繊維を得ることができるため好ましい。冷却浴の温度は15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましい。一方、冷却浴の温度が90℃以下であれば、繊維糸条の真円性が損なわれることなく、繊維断面形状および繊維径が均一なセルロース系繊維を得ることができるため好ましい。冷却浴の温度は80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。また、冷却時間は、吐出量や口金孔数などに応じて適宜調整することができる。
冷却浴の冷媒としては、繊維糸条の表面から容易に除去でき、繊維糸条に対して物理的変化や化学的変化を与えない物質であり、上記の冷却浴の温度範囲において液体であれば、特に制限なく用いることができる。冷却浴の冷媒の具体例として、水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、アミルアルコール、キシレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
紡糸された繊維の引取方法は、回転するローラーを用いて引き取る方法が挙げられるが、これに限定されない。回転するローラーを用いて引き取る場合の紡糸速度は1500m/分以下であることが好ましい。紡糸速度が1500m/分以下であれば、繊維を十分に冷却できるため好ましい。紡糸速度は1000m/分以下であることがより好ましく、750m/分以下であることが更に好ましい。
引き取られた繊維は、所望の繊維特性を有するセルロース系繊維を得るために延伸されてもよい。延伸を行う場合には、一旦引き取った繊維を延伸する二工程法、もしくは引き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。
延伸を行う場合には、一段延伸法、または二段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。延伸における加熱手法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、温水、熱水などの液体浴、熱空、スチームなどの気体浴、レーザーなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならないという観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、液体浴への浸漬を好適に採用できる。
延伸を行う場合の延伸倍率は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.02〜4.0倍であることが好ましい。延伸倍率が1.02倍以上であれば、延伸によって繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができるため好ましい。延伸倍率は1.05倍以上であることがより好ましく、1.08倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が4.0倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸倍率は3.7倍以下であることがより好ましく、3.5倍以下であることが更に好ましい。
延伸を行う場合の延伸温度は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、30〜200℃であることが好ましい。延伸温度が30℃以上であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制できるため好ましい。延伸温度は35℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が200℃以下であれば、セルロース系繊維の熱分解を抑制することができるため好ましい。また、延伸ローラーに対する繊維の滑り性が良好となるため、糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸温度は185℃以下であることがより好ましく、170℃以下であることが更に好ましい。また、必要に応じて120℃〜180℃の熱セットを行ってもよい。
延伸を行う場合の延伸速度は、延伸方法が一工程法または二工程法のいずれであるかなどに応じて適宜選択することができる。一工程法の場合には、上記紡糸速度の高速ローラーの速度が延伸速度に相当する。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は、30〜1000m/分であることが好ましい。延伸速度が30m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れが抑制されるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は50m/分以上であることがより好ましく、100m/分以上であることが更に好ましい。一方、延伸速度が1000m/分以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は800m/分以下であることがより好ましく、500m/分以下であることが更に好ましい。
本発明のセルロース系繊維、またはセルロース系繊維からなる人工毛髪や織編物などの繊維構造物を得るために、繊維化工程から最終製品に至るまでのいずれかの工程において、アルカリ処理することが好ましい。アルカリ処理によって繊維表層よりセルロースエステルの加水分解が進行し、セルロースとなるため、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有するセルロース系繊維を得ることができるため好ましい。また、アルカリ処理によって繊維表層より不活性粒子が脱落し、繊維表面に凹部を形成させることができるため好ましい。
本発明者らは、本発明においてアルカリ処理方法を鋭意検討した結果、セルロースエステルの加水分解が完全に進行し、セルロースのみからなる繊維となった場合には、繊維表面に凹部ではなく、凸部が形成されることを見出した。すなわち、繊維表面に凹部を形成させるためには、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有するセルロース系繊維にすることが重要であることに想到した。
一般に、不活性粒子を添加して製造したポリエステル繊維は、粒子の存在により繊維表面に凸部が形成される。この繊維をアルカリ処理した場合、繊維表層よりポリエステルの加水分解が進行し、低分子量化したポリエステルがアルカリ水溶液中へ溶出するとともに、不活性粒子が脱落して繊維表面に凹部が形成される。本発明のセルロース系繊維においても、アルカリ処理前は不活性粒子の存在により、図3のように繊維表面に凸部が形成されている。この繊維をアルカリ処理した場合、繊維表層よりセルロースエステルの加水分解が進行し、不活性粒子が脱落して、図1のように繊維表面に凹部が形成され、セルロースエステルの加水分解が完全に進行すると、図2のように繊維表面に再び凸部が形成される。ポリエステルと異なり、セルロースエステルの場合、加水分解によって生じたセルロースがアルカリ水溶液中へ溶出しないため、アルカリ処理に伴う繊維表面での凹部、凸部の形成挙動が異なる。
アルカリ処理方法は、特に限定されないが、アルカリ化合物を含有する水溶液を用いる方法を好適に採用できる。アルカリ化合物の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどアルカリ金属の弱酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのアルカリ化合物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。なかでも、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムを好適に採用できる。
アルカリ処理に用いるアルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度は、アルカリ化合物の強さ、処理温度、処理時間に応じて適宜選択することができる。例えば、強アルカリのアルカリ金属水酸化物を用いた場合、アルカリ化合物の濃度は、0.5〜10質量%であることが好ましい。アルカリ化合物の濃度が0.5質量%以上であれば、アルカリ処理を効率よく行うことができ、生産性が向上するため好ましい。アルカリ化合物の濃度は0.7質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。一方、アルカリ化合物の濃度が10質量%以下であれば、アルカリ処理による繊維の脆化を抑制することができるため好ましい。アルカリ化合物の濃度は7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
アルカリ処理を行う場合は、必要に応じて、四級アンモニウム塩などの公知のアルカリ減量促進剤を用いてもよい。アルカリ減量促進剤を用いた場合、アルカリ加水分解が短時間で進行するため好ましい。
アルカリ処理は、アルカリ処理対象物の形体に応じて、通常の染色加工に用いられるチーズ染色機、液流式染色機、ウインス、ジッカー、ビーム染色機や、処理液をパッド付与した後に常圧スチーム、加圧スチーム、乾熱処理する方法などを適宜用いることができるが、これらに限定されない。
本発明のアルカリ処理では、アルカリ化合物の種類、濃度、処理温度、処理時間を適宜調節することによって、上述のセルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有するセルロース系繊維を得ることができ、芯部と鞘部の割合を制御することが可能である。アルカリ化合物に強アルカリを用いた場合、アルカリ化合物の濃度が高い場合、処理温度が高い場合、処理時間が長い場合には、芯部のセルロースエステルの割合が小さくなり、最終的には、セルロースエステルの加水分解が完全に進行し、セルロースのみからなる繊維となる。
本発明のセルロース系繊維は、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しているため、芯部のセルロースエステルを分散染料、鞘部のセルロースを反応染料で染色することができる。染色を行う場合には、分散染料を含有する水溶液と反応染料を含有する水溶液を用いて二段階で染色してもよく、分散染料と反応染料の両方を含有する水溶液を用いて一段階で染色してもよいが、一段階での染色は工程数が少なく、生産性が良好であるため好適に採用できる。
分散染料は、アセテート用分散染料またはポリエステル用分散染料を好適に用いることができ、染色温度は特に制限されないが、80〜110℃であることが好ましい。また、反応染料は、セルロース用反応染料を好適に用いることができ、染色温度は特に制限されないが、80〜110℃であることが好ましい。染色温度が80℃以上であれば、セルロース系繊維に染料を効率良く吸尽させることができるため好ましい。一方、染色温度が110℃以下であれば、セルロース系繊維の脆化による機械的特性の低下を抑制することができるため好ましい。
染色方法は、特に制限がなく、チーズ染色機、液流染色機、ドラム染色機などの公知の染色機を好適に採用することができる。染色に用いる水溶液には、上述の分散染料、反応染料以外に、鮮明な発色性を得るために公知のpH調整剤、pHスライド剤、硫酸ナトリウム、各種助剤を添加してもよい。また、染色後に公知の方法により、過剰の染料を洗浄してもよい。例えば、ハイドロサルファイト等の還元剤による還元洗浄や、界面活性剤等による洗浄などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のセルロース系繊維からなる繊維構造物の形態は、特に制限がなく、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛や不織布などにすることができる。また、本発明のセルロース系繊維からなる繊維構造物は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはそれらの変化編などが好適に採用できる。
本発明のセルロース系繊維は、繊維構造物にする際にセルロース系繊維と他の繊維との交織や交編などによって組み合わせてもよいし、セルロース系繊維と他の繊維との混繊糸とした後に繊維構造物を製造してもよい。
本発明のセルロース系繊維は、人毛に近い風合いを有し、深色性、艶消し性、櫛通り性に優れているため、人工毛髪として特に好適に採用できる。具体的には、ヘアーウィッグ、ツーペ、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレード、ヘアーアクセサリー、ドールヘアー等の頭飾製品として使用できるが、これらに限定されない。なお、ヘアーウィッグとは、頭部に面で取り付けられる装飾品であり、その装着面により部分ウィッグ、ハーフウィッグ、七分ウィッグ、フルウィッグに分類される。また、ツーペとは、部分または頭部全体につけるかつらの総称であり、擬似頭皮に人工毛髪を植毛して作製される頭飾製品である。
本発明のセルロース系繊維を用いて、公知の方法に従い、これらの頭飾製品を加工することができる。例えば、ヘアーウィッグを作製する場合には、該繊維の束をウィッグ用ミシンで縫製して蓑毛を作り、これをパイプに巻いてスチームセットしてカールを付与し、カールの付いた蓑毛をヘアキャップに縫い付け、スタイルを整えることにより作製できる。
また、これらの頭飾製品を作製する場合には、本発明のセルロース系繊維と、モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維など、他の人工毛髪用素材を併用してもよいし、人毛や獣毛等を併用してもよい。
本発明のセルロース系繊維は、人毛に近い風合いを有し、深色性、艶消し性、櫛通り性に優れているため、特に人工毛髪に好適に採用できる。また、衣料用織編物、襟や袖の芯などのような衣料用副資材、カーテンなどのような生活資材にも好適に採用できる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めたものである。なお、各特性値の評価方法において、特に記載がないものについては、n=1で評価を行った。
A.セルロースエステルの平均置換度
セルロースエステル(本評価の説明において、以下、試料と記す)を80℃で8時間乾燥した後、0.9g秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加えて溶解し、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。
別に試料であるセルロースエステルを入れない他は上記と同じ手順で滴定(上記滴定と区別するため、空試験と記す)を行った。
(試料の)滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成(酢酸と他の有機酸とのモル比)を分析した。
試料のケン化物および空試験ので滴定結果とイオンクロマトグラフによる有機酸の組成の分析結果から、下記式により平均置換度を算出した。
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料への0.5N−硫酸の滴定量(ml)
B:空試験における0.5N−硫酸の滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料質量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)
セルロースエステルを濃度が0.15質量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料溶液とした。この試料溶液を用いて以下の条件の下、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を算出した。なお、GPC測定は1試料溶液につき3回行い、その平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
C.芯部の割合
得られたモノフィラメントの束に対して3質量%の分散染料を用いて、pHを5.0に調整した染色液中で浴比を1:100とし、110℃で60分間染色した。なお、分散染料として、日本化薬製Kayalon Polyester Black EX−SF200を用いた。主原料がポリエチレンテレフタレートの場合には、染色温度を130℃とした。染色後に、モノフィラメントの束に含まれるモノフィラメントの繊維横断面を光学顕微鏡で観察し、顕微鏡写真を撮影した。撮影された写真について、モノフィラメントの繊維横断面の面積、および分散染料により染色された部分の面積を測定し、下記式を用いて芯部の割合(%)を算出した。なお、測定は20本のモノフィラメントについて行い、その平均値を芯部の割合(%)とした。
芯部の割合(%)=分散染料により染色された部分の面積÷繊維横断面の面積×100
D.繊度
得られたモノフィラメントの束からモノフィラメントを採取し、長さ20cmにカットして質量を測定し、下記式を用いて繊度(dtex)を算出した。なお、測定は1水準につき20回行い、その平均値を繊度とした。
繊度(dtex)=モノフィラメント20cmの質量(g)×50000
E.平均繊維径
得られたモノフィラメントの束から20本のモノフィラメントを採取して、収束させてサンプル台に固定し、白金−パラジウム合金を蒸着した後、日立製走査型電子顕微鏡(SEM)S−4000型を用いてモノフィラメントの横断面を観察し、顕微鏡写真を撮影した。撮影された写真について、20本のモノフィラメントの横断面の直径を測定し、その平均値を平均繊維径(μm)とした。なお、モノフィラメントの横断面が真円ではない場合には、モノフィラメントの横断面の外接円の直径を測定し、平均繊維径を算出した。
F.強度、伸度
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントを試料とし、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5に準じて、強度および伸度を算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS型を用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除して強度(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって伸度(%)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を強度および伸度とした。
伸度(%)={(L1−L0)/L0}×100
G.初期引張抵抗度
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントを試料とし、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10に準じて、初期引張抵抗度を算出した。上記Fと同様に測定を行って荷重−伸長曲線を描き、この曲線の原点近傍において伸長変化に対する荷重変化の最大点を求め、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10に記載の式を用いて初期引張抵抗度(cN/dtex)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を初期引張抵抗度とした。
H.凹部の単位面積当たりの平均個数、凹部の平均直径
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントを白金−パラジウム合金で蒸着した後、日立製走査型電子顕微鏡(SEM)S−4000型を用いて、繊維表面を観察し、顕微鏡写真を撮影した。
凹部の単位面積当たりの平均個数を求めるための観察は、繊維表面について300倍、500倍、1000倍、3000倍、5000倍、10000倍の各倍率で行い、顕微鏡写真を撮影する際には、観察視野全体をモノフィラメントが占める最も低い倍率を選択した。撮影された写真について、縦5箇所、横5箇所からなる計25箇所の領域に等分割し、領域内に存在する凹部の個数を、領域の面積で除して、1μm2あたりに存在する凹部の個数(個/μm2)を算出した。なお、測定は同一写真内から無作為に抽出した10箇所の領域について行い、その平均値を凹部の単位面積当たりの平均個数とした。凹部の単位面積当たりの平均個数が0.001個/μm2に満たない場合は、<0.001個/μm2とした。
凹部の平均直径を求めるための観察は、繊維表面について300倍、500倍、1000倍、3000倍、5000倍、10000倍の各倍率で行い、顕微鏡写真を撮影する際には100個以上の凹部が観察できる最も低い倍率を選択した。撮影された写真について、同一の写真から無作為に抽出した100個の凹部の直径を測定し、その平均値を凹部の平均直径(μm)とした。繊維横断面に存在する凹部は必ずしも真円とは限らないため、真円ではない場合には面積を測定して、真円に換算した際の直径を凹部の直径として採用した。また、繊維表面に存在する凹部が100個未満の場合には、モノフィラメントの束を構成する複数のモノフィラメントを試料として繊維表面を観察した。顕微鏡写真を撮影する際にはモノフィラメントの全体像が観察できる最も高い倍率を選択した。撮影された写真について、各モノフィラメントの繊維表面に存在する凹部の直径を測定し、合計100個の凹部の直径の平均値を凹部の平均直径とした。なお、凹部の単位面積当たりの平均個数が0.001個/μm2に満たない場合は、凹部の平均直径は測定不可とした。
I.吸湿率差(△MR)
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメント約2gを試料とし、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)8.10の水分率に準じて、吸湿率(%)を算出した。モノフィラメントを110℃で24時間真空乾燥し、絶乾時のモノフィラメントの質量(W0)を測定した。次に、温度20℃、湿度65%RHに調湿されたエスペック製恒温恒湿機LHU−123内にモノフィラメントを24時間静置し、モノフィラメントの質量(W1)を測定後、温度30℃、湿度90%RHに調湿された恒温恒湿機内にモノフィラメントを24時間静置し、モノフィラメントの質量(W2)を測定した。モノフィラメントの質量W0、W1により絶乾状態から温度20℃、湿度65%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR1(%)を算出し、モノフィラメントの質量W0、W2により絶乾状態から温度30℃、湿度90%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR2(%)を算出し、下記式によって吸湿率差(△MR)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を吸湿率差(△MR)とした。
吸湿率差(△MR)(%)=MR2−MR1
J.摩擦帯電圧
得られたモノフィラメントを試料とし、英光産業製丸編機NCR−BL(釜径3インチ半、27ゲージ)を用いて筒編み約2gを作製した。筒編みを70℃の温水で20分間精練した後、25℃の流水で30分間洗浄し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。続いて、各実施例に記載の条件でアルカリ処理した後、25℃の流水で30分間洗浄し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。アルカリ処理後の筒編みを試料とし、温度20℃、湿度40%RH雰囲気下において、JIS L1094:1997(織物及び編物の帯電性試験方法)5.2に準じて、摩擦帯電圧(V)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を摩擦帯電圧とした。
K.L*値
得られたモノフィラメントの束を試料とし、試料に対して3質量%の分散染料と3質量%の反応染料の2種の染料を加えて、助剤として硫酸ナトリウム70g/Lを添加し、pHを7.0に調整した染色液中で浴比を1:100とし、110℃で60分間染色した。なお、分散染料として日本化薬製Kayalon Polyester Black EX−SF200、反応染料として日本化薬製Kayacelon React Red CN−3Bを用いた。主原料がポリエチレンテレフタレートの場合には、染色温度を130℃とした。染色後の試料をミノルタ製分光測色計CM−3700d型を用いて、D65光源、視野角度10°、光学条件SCEでL*値を測定した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値をL*値とした。
L.柔軟性
得られたモノフィラメントの束を試料とし、柔軟性について人毛との比較を行い、5年以上の品位判定の経験を有する検査員10名の合議によって、「人毛と同等の柔軟性がある」を◎、「人毛に近い柔軟性がある」を○、「人毛と比べやや硬い」を△、「人毛と比べ非常に硬い」を×とし、「人毛に近い柔軟性がある」の○以上を合格とした。
M.吸放湿性
上記Iで評価した吸湿率差(△MR)が「2%以上8%以下」を◎、「1%以上2%未満または8%以上10%未満」を○、「0.5%以上1%未満または10%以上12%未満」を△、「0.5%未満または12%以上」を×とし、「1%以上2%未満または8%以上10%未満」の○以上を合格とした。
N.審美性
上記Kで染色後のモノフィラメントの束を試料とし、審美性について評価を行い、5年以上の品位判定の経験を有する検査員10名の合議によって、「審美性に極めて富む」を◎、「審美性に富む」を○、「審美性に欠ける」を△、「審美性に極めて欠ける」を×とし、「審美性に富む」の○以上を合格とした。なお、審美性とは、色相の異なる染料で染色することにより発現する外観の美しさに関する指標であり、上記Kに記載のとおり分散染料として黒色、反応染料として赤色の染料を用いて染色後、審美性を評価した。
O.深色性
上記Kで染色後のモノフィラメントの束を試料とし、深色性について人毛との比較を行い、5年以上の品位判定の経験を有する検査員10名の合議によって、「色に深みがあり、人毛に極めて近い」を◎、「色に深みがややあり、人毛に近い」を○、「色に深みがわずかにあり、人毛と比べやや劣る」を△、「色に深みがなく、人毛と比べ極めて劣る」を×とし、「色に深みがややあり、人毛に近い」の○以上を合格とした。
P.艶消し性
得られたモノフィラメントの束を試料とし、直射日光の当たる室内の窓際で、日光の入射角を10〜55°とした場合の視覚評価において人毛との比較を行い、5年以上の品位判定の経験を有する検査員10名の合議によって、「光沢、色調ともに人毛に極めて近い」を◎、「光沢、色調ともに人毛に近い」を○、「人毛よりも光沢、色調ともにやや強い」を△、「人毛よりも光沢、色調ともに極めて強い」を×とし、「光沢、色調ともに人毛に近い」の○以上を合格とした。
Q.櫛通り性
得られたモノフィラメントの束を試料とし、縦4cm、横8cmの範囲に150本のプラスチック製の櫛が配置された市販のヘアーブラシを用いて、100回連続でブラッシングした。ブラッシング時の抵抗、およびブラッシング後の静電気や絡まり発生状況について、5年以上の品位判定の経験を有する検査員10名の合議によって、「全く抵抗がなく、静電気や絡まりも全く無い」を◎、「ほとんど抵抗がなく、静電気や絡まりもほとんど無い」を○、「わずかに抵抗があり、静電気や絡まりがわずかにある」を△、「かなり抵抗があり、静電気や絡まりが顕著にある」を×とし、「ほとんど抵抗がなく、静電気や絡まりもほとんど無い」の○以上を合格とした。
R.耐熱性
得られたモノフィラメントの束を試料とし、市販のへアドライヤーを用いて100〜110℃で5分間、手櫛でブローした。ブロー後の試料について、毛先の損傷や融着について、5年以上の品位判定の経験を有する検査員10名の合議によって、「毛先の損傷、融着ともに全く無い」を◎、「毛先の損傷、融着ともにほとんど無い」を○、「毛先の損傷、融着がわずかにある」を△、「毛先の損傷、融解が著しい」を×とし、「毛先の損傷、融着ともにほとんど無い」の○以上を合格とした。
合成例1
セルロース(日本製紙製溶解パルプ)100質量部に、酢酸240質量部とプロピオン酸67質量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172質量部と無水プロピオン酸168質量部をエステル化剤として、硫酸4質量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100質量部と水33質量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333質量部と水100質量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6質量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度は2.0、プロピオニル置換度は0.7(セルロースエステル全置換度2.7)であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
実施例1
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート82.0質量%、可塑剤として平均分子量600のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG600)17.9質量%、リン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ADEKA製PEP−36)0.1質量%、不活性粒子としてシリカ粒子(富士シリシア製サイリシア430)1.0質量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物のペレット(Mw16.6万)を得た。
上記製法により得られたセルロースエステル組成物のペレットを80℃で8時間真空乾燥し、含水率を200ppmとした後、紡糸温度を260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、108g/分の吐出量で口金孔(直径0.80mm、孔長2.4mm)を10ホール有した紡糸口金より紡出した後、20℃の水で満たした冷却浴中で冷却し、750m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻取機にて巻き取り、セルロースエステルモノフィラメントの未延伸糸を得た。
得られたモノフィラメントを長さ50cmにカットし、片端を束ねて束直径が2cmのモノフィラメントの束を作製した。得られたモノフィラメントの束を70℃の温水で20分間精練した後、25℃の流水で30分間洗浄し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。続いて、1.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液中で浴比を1:30とし、モノフィラメントの束を60℃で30分間アルカリ処理した後、25℃の流水で30分間洗浄し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。
アルカリ処理後のモノフィラメントの束を試料とし、モノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性を評価した。その結果を表1に示す。得られたモノフィラメントは、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しており、繊維表面に凹部が形成されていた。また、人工毛髪特性に関するいずれの評価項目においても合格レベルであった。
実施例2〜6、比較例1
シリカ粒子の添加量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にセルロースエステルモノフィラメントおよびモノフィラメントの束を作製した。
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性の評価結果を表1に示す。実施例2〜6において、シリカ粒子の添加量を変更した場合も、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しており、繊維表面に凹部が形成されていた。また、人工毛髪特性に関するいずれの評価項目においても合格レベルであった。一方、比較例1では不活性粒子を添加していないため、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しているものの、繊維表面に凹部は形成されていなかった。また、繊維表面に凹凸がないため、色の深みにやや欠け、人毛と比べて光沢が強いものであった。
実施例7、8
溶融紡糸時の吐出量を実施例7では218g/分、実施例8では38g/分に変更した以外は、実施例4と同様にセルロースエステルモノフィラメントおよびモノフィラメントの束を作製した。
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性の評価結果を表1に示す。繊度を変更した場合も、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しており、繊維表面に凹部が形成されていた。また、人工毛髪特性に関するいずれの評価項目においても合格レベルであった。
実施例9
アセチル置換度が0.2、プロピオニル置換度が2.5(セルロースエステル全置換度2.7)であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製CAP482−20)92.0質量%、可塑剤として平均分子量600のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG600)7.9質量%、リン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ADEKA製PEP−36)0.1質量%、不活性粒子としてシリカ粒子(富士シリシア製サイリシア430)10.0質量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物のペレット(Mw16.1万)を得た。
上記製法により得られたセルロースエステル組成物のペレットを用い、紡糸温度を240℃とした以外は、実施例4と同様にセルロースエステルモノフィラメントおよびモノフィラメントの束を作製した。
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性の評価結果を表1に示す。得られたモノフィラメントは、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しており、繊維表面に凹部が形成されていた。また、人工毛髪特性に関するいずれの評価項目においても合格レベルであった。
実施例10
アセチル置換度が1.0、ブチリル置換度が1.7(セルロースエステル全置換度2.7)であるセルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル製CAB381−20)85.0質量%、可塑剤として平均分子量600のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG600)14.9質量%、リン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ADEKA製PEP−36)0.1質量%、不活性粒子としてシリカ粒子(富士シリシア製サイリシア430)10.0質量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物のペレット(Mw18.1万)を得た。
上記製法により得られたセルロースエステル組成物のペレットを用い、紡糸温度を250℃とした以外は、実施例4と同様にセルロースエステルモノフィラメントおよびモノフィラメントの束を作製した。
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性の評価結果を表1に示す。得られたモノフィラメントは、セルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しており、繊維表面に凹部が形成されていた。また、人工毛髪特性に関するいずれの評価項目においても合格レベルであった。
実施例11〜17、比較例2〜5
アルカリ処理条件を表2に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様にセルロースエステルモノフィラメントおよびモノフィラメントの束を作製した。
得られたモノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性の評価結果を表2に示す。実施例11〜17で得られたモノフィラメントは、アルカリ処理によってセルロースエステルからなる芯部と、セルロースからなる鞘部よりなる芯鞘複合構造を有しており、繊維表面に凹部が形成されていた。また、人工毛髪特性に関するいずれの評価項目においても合格レベルであった。比較例2、3で得られたモノフィラメントは、アルカリ処理によってセルロースエステルの加水分解が完全に進行し、セルロースのみからなるものであり、繊維表面には凹部ではなく、凸部が形成されていた。人工毛髪特性においては、審美性に欠け、色の深みにやや欠けるものであった。比較例4ではアルカリ処理が進行せず、比較例5ではアルカリ処理をしていないため、得られたモノフィラメントはセルロースエステルのみからなるものであり、繊維表面には凹部ではなく、凸部が形成されていた。人工毛髪特性においては、審美性に欠け、色の深みにやや欠けるものであり、耐熱性も合格レベルに至らなかった。
比較例6〜8
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.66)100.0質量%、不活性粒子としてシリカ粒子(富士シリシア製サイリシア430)10.0質量%を二軸エクストルーダーを用いて280℃で混練し、5mm程度にカッティングしてポリエチレンテレフタレート組成物のペレットを得た。
ポリエチレンテレフタレート組成物のペレットを150℃で12時間真空乾燥し、含水率を50ppmとした後、紡糸温度を290℃とした溶融紡糸パックへ導入して、192g/分の吐出量で口金孔(直径0.80mm、孔長2.4mm)を5ホール有した紡糸口金より紡出した後、20℃の水で満たした冷却浴中で冷却し、750m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻取機にて巻き取り、ポリエチレンテレフタレートモノフィラメントの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を第1ホットローラー温度90℃、第2ホットローラー温度130℃、延伸倍率4.0倍の条件で延伸し、ポリエチレンテレフタレートモノフィラメントの延伸糸を得た。
得られたモノフィラメントを長さ50cmにカットし、片端を束ねて束直径が2cmのモノフィラメントの束を作製した。得られたモノフィラメントの束を70℃の温水で20分間精練した後、25℃の流水で30分間洗浄し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。続いて、表3に示す条件でアルカリ処理した後、25℃の流水で30分間洗浄し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。
アルカリ処理後のモノフィラメントの束を試料とし、モノフィラメントの束を構成するモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントの束の人工毛髪特性の評価結果を表3に示す。比較例6ではアルカリ処理をしていないため、得られたモノフィラメントの繊維表面には凹部ではなく、凸部が形成されていた。人工毛髪特性においては、柔軟性、吸放湿性が極めて低く、審美性、深色性も合格レベルに至らなかった。また、静電気の発生により櫛通り性も極めて劣るものであった。比較例7、8ではアルカリ処理によって、モノフィラメントの繊維表面に凹部が形成されていた。人工毛髪特性においては、柔軟性、吸放湿性が極めて低く、審美性も合格レベルに至らなかった。また、繊維表面に凹部が形成されており、光が乱反射するものの、ポリエチレンテレフタレートは屈折率が高いため、色の深みに欠けるものであった。さらには、摩擦帯電圧が高いため、静電気が発生しやすく、櫛通り性も極めて劣るものであった。