以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
(実施の形態1)
図1を参照して、実施の形態1に係る熱電対10について説明する。熱電対10は、第1の導電部材1と第2の導電部材2とが測温接点部を形成するように構成されている。
第1の導電部材1は、たとえば溶融金属などの熱電対10の測温対象に直接的または間接的に曝される部材であり、第1の導電性セラミックスが一端閉管として成形されたものを含む。ここで、測温対象に直接的に曝されるとは第1の導電部材1が熱電対10の最表面を形成している状態をいい、間接的にさらされているとは第1の導電部材1が保護膜(実施の形態2参照)を介して測温対象に曝されていることをいう。
第2の導電部材2は、一端閉管として成形されている第1の導電部材1の内部に配置される部材であり、第1の導電性セラミックスとは異なる材料で構成されている第2の導電性セラミックスがたとえば線状に成形されたものを含む。
第1の導電性セラミックスは、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)と、炭化珪素(SiC)と、焼結助剤と、不可避不純物とからなる。第1の導電性セラミックス中の炭化珪素(SiC)の含有率は5質量%以上40質量%以下であり、特に溶鋼に直接接触する部材に用いる場合には好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。第1の導電性セラミックスには、焼結助剤としてたとえば炭化ホウ素(B4C)が含まれている。第1の導電性セラミックス中の炭化ホウ素(B4C)の含有率はたとえば1質量%である。
第1の導電性セラミックスはZrB2を主成分とする。第1の導電性セラミックスにおいて、ZrB2は、SiCやB4C以外を構成しており、ZrB2の含有率は59質量%以上94質量%以下程度である。
第1の導電性セラミックスの理論密度比は90%以上であり、好ましくは94%以上である。ここで、理論密度比とは、第1の導電性セラミックスのかさ比重を真比重で割った値をいう。かさ比重(かさ密度)とは、JIS R 1600による定義から、セラミックス試料の乾燥質量W1(g)を該試料の飽水質量W3(g)から該試料の水中質量W2(g)を引いた値で割った値W1/(W3−W2)に、媒液の密度ρ1を掛けた値ρ1・W1/(W3−W2)である。真比重(真密度)とは、セラミックス試料内部にある閉じた空隙の体積を除外したセラミックス材料自体が占める体積であり、JIS R 2205に準拠した方法により算出される理論値である。つまり、第1の導電性セラミックスの内部には空孔の体積が少ない。
ZrB2は融点が3246℃である。これは一般的な溶融金属の温度よりも高い。ZrB2の熱伝導率は100W/(m・K)程度である。また、ZrB2の電気伝導率は107S/m以上であり、炭素鋼と同等である。SiCは融点が2730℃である。SiCの熱伝導率は70W/(m・K)程度である。一方で、SiCは電気抵抗が高く半絶縁性を示す。不可避不純物は、たとえば水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)等である。
第2の導電性セラミックスは、主な構成材料が炭化ホウ素(B4C)である。第2の導電性セラミックス中のB4Cの含有率は50質量%以上であり、70質量%以上であってもよい。このとき第2の導電性セラミックスは、B4C以外に、たとえばZrB2、SiC、および炭化ジルコニウム(ZrC)のうちの少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。また、第2の導電性セラミックスは、B4Cと不可避不純物とからなっていてもよい。
第2の導電性セラミックスがたとえばB4Cと異なる電気的特性(電気抵抗や熱起電力など)を有するZrB2を含んでいる場合には、ZrB2の含有率により第2の導電性セラミックスの当該電気的特性を調整することができる。
また、第2の導電性セラミックスがたとえばSiCやZrCなどホウ素を含まない各種カーバイドを含んでいる場合には、第2の導電性セラミックスと第1の導電性セラミックスとの間のホウ素(B)濃度の差異を低減することができる。具体的には、第1の導電性セラミックスの主な構成材料であるZrB2と第2の導電性セラミックスの主な構成材料であるB4Cとにおいて、B濃度はそれぞれおよそ19質量%、78質量%と大きく異なる。この場合、第1の導電性セラミックスおよび第2の導電性セラミックスを備える熱電対10がたとえば1600度程度の高温下に数十時間以上の長時間置かれると、B濃度の高い第2の導電性セラミックスからB濃度の低い第1の導電性セラミックスへとホウ素(B)原子が拡散し、その結果熱電対10の電気的特性が変化する可能性がある。このときの拡散速度はフィックの法則に従ってB濃度差に比例する。そのため、第2の導電性セラミックスがSiCやZrCなどのホウ素を含まないカーバイドを含む場合には、たとえばZrB2を含む第2の導電性セラミックスなどと比べて第2の導電性セラミックス中のB濃度を低く抑えることができるため、拡散速度を低下することができる。なお、第2の導電性セラミックスがSiCやZrCなどを含む場合には、第2の導電性セラミックスがZrB2を含む場合およびB4Cと不可避不純物とからなる場合などと比べて熱起電力が低下すると考えられるため、寿命と熱起電力との双方を勘案して添加量を決める必要がある。ここで、寿命とは、B原子の拡散に伴う熱起電力の低下によって測温精度が要求される値よりも低くなるまでの時間を言い、熱電対10の寿命はある対象物について連続して温度を測定することが要求される時間(たとえば炉寿命)以上である必要がある。つまり、熱電対10は、当該要求される時間が経過したときの測温誤差が、許容される最大の測温誤差以下に抑えられている必要がある。熱電対10の測温精度の要求値および連続測温が要求される時間は熱電対10の使用態様によって異なるため、熱電対10の使用態様に応じて第2の導電性セラミックス中のB濃度の好適範囲は異なる。
なお、第2の導電性セラミックスは、第2の導電性セラミックスに含まれるホウ素の酸化を抑制する観点から、酸化物を含まない方が好ましい。たとえば第2の導電性セラミックスがアルミナ(Al2O3)およびマグネシア(MgO)などの酸化物を含む場合には、第2の導電性セラミックスに含まれるホウ素が酸化される。このとき、第2の導電性セラミックス中の酸化物の含有量が少量であれば、酸化の進行に伴って熱電対10の熱起電力が大きく低下することになる。また、酸化物の含有量が大きくなると、B2O3などの低融点酸化物が生成されるとともにCOガスが発生し、第2の導電性セラミックスが崩壊してしまう。
第1の導電部材1は、本体部1Aと、複数の延長部1Bと、本体部1Aと延長部1Bとを連結する接続部1Cとが接続されて構成されている。
本体部1Aは、第1の導電性セラミックスからなり、一方端部が閉端部1aとして、他方端部が開放端部1bとして構成されている。閉端部1aの内部には、第2の導電部材2の端部2aを固定可能に設けられている溝3が形成されている。たとえば、溝3は雌ねじ穴として、第2の導電部材2の端部2aは雄ねじとしてそれぞれ構成され、溝3と端部2aとがねじ止め可能に構成されていてもよい。閉端部1aの溝3に第2の導電部材2の端部2aを固定することで、閉端部1aには熱電対10の測温接点が形成される。開放端部1bは雄ねじとして構成されている。本体部1Aの軸方向の長さは、たとえば100mm以上150mm以下程度とすることができる。本体部1Aの外径は、たとえば10mm以上20mm以下である。本体部1Aの内径は、溝3の孔径よりも大きく、たとえば6mm以上15mm以下である。一端閉管として構成されている本体部1Aの壁面の厚みは、たとえば1mm以上5mm以下である。
延長部1Bは、第1の導電性セラミックスからなり、両端が開放端部1bとして構成されている。延長部1Bの開放端部1bは、本体部1Aの開放端部1bと同様に雄ねじとして構成されている。延長部1Bの軸方向の長さ、軸方向に垂直な方向における厚み、外径、および内径は、それぞれ本体部1Aと同様に設けられている。
接続部1Cは、第1の導電性セラミックスからなり、雄ねじとして構成されている本体部1Aの開放端部1bおよび延長部1Bの開放端部1bとねじ止め可能な雌ねじとして構成されている。延長部1Bおよび接続部1Cを構成する材料は、いずれも本体部1Aと同一の第1の導電性セラミックスにより構成されているのが好ましい。
本体部1A、延長部1Bおよび接続部1Cをねじ止めして組み立てられた第1の導電部材1は、上述のように全体として一端閉管を成している。第1の導電部材1において、閉端部1aの反対側に位置する開端部(延長部1Bの一方端部)は、栓9により封じられている。栓9は、電気的絶縁性を有する材料により構成されている。好ましくは、栓9は熱伝導性の高い材料により構成されており、栓9を構成する材料はたとえば窒化アルミニウム(AlN)である。第1の導電部材1は第2の導電部材2の外部に位置するため第2の導電部材2と比べて高温となるが、栓9を高熱伝導率を有する材料で構成することにより、第1の導電部材1と電気的かつ熱的に接続されている電極パッド5と、第2の導電部材2と電気的かつ熱的に接続されている電極パッド6との間の温度差を十分に小さくすることができる。この結果、熱電対10の測定誤差を十分に小さくすることができる。
栓9には、第2の導電部材2を第1の導電部材1の外から内へ導入するための貫通孔が形成されている。第2の導電部材2は、栓9の当該貫通孔から第1の導電部材1の内部に形成されている空間を通って閉端部1aの溝3にまで延在するように構成されている。上述のように、第2の導電部材2の端部2aは、たとえば雄ねじとして構成されている。
熱電対10において、第1の導電性セラミックスからなる第1の導電部材1は、測温接点を形成する一方の導体として構成されていると同時に、他方の導体である第2の導電部材2の耐熱保護管としても構成されている。
図2を参照して、第1の導電部材1の内部には、絶縁部材4が第2の導電部材2の周囲を囲うように充填されている。絶縁部材4は、絶縁性を有し、高融点でかつ熱電対10の使用温度域において第1の導電部材1と第2の導電部材2と反応しない任意の材料で構成されていればよい。絶縁部材4を構成する材料は、たとえば酸化ジルコニウム(ZrO2)およびジルコン(ZrSiO4)の少なくともいずれか一方である。また、絶縁部材4は、粉末状のZrO2などが充填されることにより構成されていてもよいが、あらかじめ円筒状に成形されたZrO2などが充填されていてもよい。これにより、第1の導電部材1の内部において、第1の導電部材1と第2の導電部材2とは測温接点(閉端部1a)以外の領域においてZrO2により絶縁されている。
第1の導電部材1および第2の導電部材2には、それぞれ電極パッド5,6が接続されている。電極パッド5,6は、第1の導電部材1および第2の導電部材2において測温接点に対して所定の温度差を有する位置に接続されている。電極パッド5,6は、第1の導電部材1と第2の導電部材2との電位差を測定する測定回路(電圧計)7と接続されている。つまり、第1の導電部材1、第2の導電部材2、および測定回路7により閉回路が形成されている。これにより、熱電対10の測温接点での温度を熱起電力として測定することができる。
なお、第1の導電部材1は、複数の延長部1Bおよび接続部1Cを含んでいてもよい。熱電対10は、たとえば製鋼プロセスにおける取鍋壁を貫通するように取り付けられるが、このとき、取鍋壁から熱電対10の測温接点までの距離に応じて第1の導電部材1の構成は任意の選択することができる。
次に、第1の導電性セラミックスの製造方法について説明する。第1の導電性セラミックスは、ZrB2の粉末、SiCの粉末、および焼結助剤を混合する工程(S10)と、混合する工程(S10)において得られた混合物にバインダを添加して、加熱しながら混練する工程(S20)と、混練する工程(S20)において得られた混練物を成形する工程(S30)と、成形する工程(S30)において得られた成形体を脱脂する工程(S40)と、脱脂する工程(S40)において得られた脱脂体を焼成する工程(S50)とを備える。
まず、工程(S10)では、粉末状のZrB2とSiCとを準備する。さらに、焼結助剤としてB4C粉末、バインダとして有機バインダをそれぞれ準備する。ZrB2、SiC、およびB4Cの各粉末の平均粒径、すなわちレーザー回折散乱法で測定した粒度分布のメジアン値(d=50)は、それぞれ任意の平均粒径を有していればよいが、たとえば平均粒径0.5μm以上3μm以下のZrB2粉末と、平均粒径が0.3μm以上2μm以下のSiC粉末と、平均粒径が0.2μm以上4.0μm以下のB4C粉末が準備される。
次に、準備したZrB2、SiC、B4Cの各粉末をメカニカル混合して混合粉末を得る。このとき、ZrB2、SiCおよびB4Cの混合比は、たとえば導電性セラミックス中における質量比が69質量%以上94質量%以下:5質量%以上30質量%以下:1質量%となるようにすればよい。
次に、得られた混合物を成形する(工程(S30))。具体的には、加圧式ニーダーに投入し、有機バインダを加えた後、加熱・加圧混練して混練物を作製する。たとえば、混練物の流動性を考慮して、加熱温度100℃以上200℃以下、圧力0.35MPa以上0.45MPa以下の条件で、加圧式ニーダーを回転させながら90分加熱・加圧混練する。このとき、有機バインダの混合比は、たとえば混合粉末に対し20質量部とすればよい。次に、上記混練物を所望の金型に射出成形することにより成形体を作製する。このとき、成形体の形状は熱電対の形状に応じて任意に選択することができる。図1を参照して、たとえば一方の端部が閉じられておりかつ他方の端部が開放されている本体部1Aと、両端が開放されている延長部1Bと、本体部1Aと延長部1Bとを接続する接続部1Cとを作製すればよい。
次に、得られた成形体を脱脂する(工程(S40))。具体的には、成形体を大気脱脂炉に投入し、常温から昇温速度20℃/時間以下で徐々に400℃程度まで昇温させ、加熱処理することにより、脱脂体を作製する。このとき、有機バインダの大部分は酸化分解される。
次に、該脱脂体をグラファイト炉に投入して焼成する(工程(S50))。たとえば、Ar雰囲気中において2000℃以上2300℃以下の加熱条件で焼結する。これにより、本体部1A、延長部1B、および接続部1Cとして成形された第1の導電性セラミックスを得ることができる。
次に、第2の導電性セラミックスの製造方法について説明する。第2の導電性セラミックスは、B4Cの粉末およびバインダを準備する工程(S11)と、B4Cの粉末にバインダを添加して加熱しながら混練する工程(S21)と、混練する工程(S21)において得られた混練物を成形する工程(S31)と、成形する工程(S31)において得られた成形体を脱脂する工程(S41)と、脱脂する工程(S41)において得られた脱脂体を焼成する工程(S51)とを備える。
まず、粉末状のB4Cと、バインダとして有機バインダを準備する(工程(S11))。B4Cの粉末の平均粒径、すなわちレーザー回折散乱法で測定した粒度分布のメジアン値(d=50)は、それぞれ任意の平均粒径を有していればよいが、たとえば平均粒径が0.2μm以上4.0μm以下のB4C粉末が準備される。有機バインダは、主に熱可塑性プラスチックで構成されている。
次に、準備したB4Cの粉末を加圧式ニーダーに投入し、さらに有機バインダを加えた後、加熱・加圧混練して混練物(均一分散性に優れた成形用コンパウンド)を作製する(工程(S21))。たとえば、混練物の流動性を考慮して、加熱温度100℃以上200℃以下、圧力0.35MPa以上0.45MPa以下の条件で、加圧式ニーダーを回転させながら90分加熱・加圧混練する。このとき、B4C粉末と有機バインダとの体積比率は、たとえば1:1とすればよい。
上記混練物を室温にて自然冷却後、粉砕機に掛けて成形材料としての小片に粉砕する。小片のサイズは、たとえば4mm以上8mm以下である。
次に、上記成形材料を押出し成形することにより成形体を作製する(工程(S31))。具体的には、混練物を粉砕して得られた小片を押出し成形機のホッパーに投入し、シリンダー温度140℃以上180℃以下にて押出し成形する。このとき、押出し成形機の口金から押し出された成形体が変形しないように、V字状の溝が形成されている金属製の長尺板(受け板)を準備し、押出し成形機の口金と受け板上の溝とを連なるように配置しておくのが好ましい。これにより、押し出し成形機から押し出された成形体を当該溝で受け、成形体の吐出速度、および吐出方向に合わせて当該受け板を移動させながら成形することができ、これにより曲がりのない線状の成形体を得ることができる。次に、得られた成形体を第2の導電部材2として所定の長さに切断する。
次に、得られた成形体を脱脂する(工程(S41))。具体的には、成形体を大気脱脂炉に投入し、常温から昇温速度20℃/時間以下で徐々に400℃程度まで昇温させた後、5日間加熱処理することにより、脱脂体を作製する。脱脂体において、成形体に含まれていた有機バインダは酸化分解されて完全に除去されている。
次に、該脱脂体をグラファイト炉に投入して焼成する(工程(S51))。たとえば、Ar雰囲気中において2000℃以上2300℃以下の加熱条件で焼結する。これにより、線状体として成形された第2の導電性セラミックスを得ることができる。なお、当該線状体は一方の端部が雄ねじとして加工されて、第2の導電部材2に成形される。
次に、熱電対10の製造方法について説明する。まず、上述した第1の導電性セラミックスの製造方法において得られた本体部1A、延長部1B、および接続部1Cを組み立てて第1の導電部材1を形成する。
次に、第1の導電部材1の内部に、上述した第2の導電性セラミックスの製造方法において得られた第2の導電部材2を通して、端部2aを閉端部1aの溝3にねじ留めして第1の導電部材1と第2の導電部材2とを固定するとともに、測温接点を形成する。その後、第1の導電部材1の内部に絶縁部材4を充填する。最後に、第1の導電部材1の開放端側において栓9が取り付けられることにより、第1の導電部材1と第2の導電部材2と絶縁部材4とが固定されて熱電対10が形成される。
次に、本実施の形態に係る熱電対10の作用効果について説明する。本発明者らは、熱電対10の第1の導電部材1に含まれる第1の導電性セラミックスとして種々の導電性セラミックスを検討した結果、ZrB2およびTiB2が第1の導電部材1の主な構成材料として好適であることを見出した。
熱電対用の材料には、高融点で、高い電気伝導率を有する材料が適当である。ZrB2およびTiB2は安価で融点が1500℃以上と高く電気の良導体である材料であることは知られている。ZrB2およびTiB2の融点は、それぞれ3246℃、2900℃であり、一般的な溶融金属の温度よりも高い。さらに、ZrB2およびTiB2の電気伝導率は107S/m以上であり、炭素鋼と同等である。
また、本発明者らがZrB2またはTiB2からなる焼結体の耐熱衝撃性を評価したところ、熱衝撃によって割れや剥落等のスポーリングを生じることを確認した。具体的には、焼結助剤と不可避不純物以外はZrB2からなる導電性セラミックスを室温から予熱なしに1600℃の溶鉄中に浸漬させたところ、熱衝撃によりスポーリングが生じた。焼結助剤と不可避不純物以外はTiB2からなる導電性セラミックスについても同様であった。
これに対して、本発明者らは鋭意研究の結果、ZrB2またはTiB2を主成分とし、かつSiCの含有率が5質量%以上30質量%以下である導電性セラミックス(第1の導電性セラミックス)は、耐熱衝撃性が飛躍的に改善されることを見出した。実際に、第1の導電性セラミックスに対して上記の熱衝撃試験を行った結果、スポーリングは発生しなかった。一方で、SiCの含有率が上記範囲外である導電性セラミックスに対して上記の溶鋼浸漬試験を行った結果、スポーリングや溶損が生じることが確認された。
さらに、本発明者らは、ZrB2またはTiB2を主成分とし、かつSiCの含有率が5質量%以上40質量%以下である第1の導電性セラミックスの電気伝導率は、106S/m以上であり、熱電対の材料として十分に高い電気伝導率を有していることを確認した。
このように、第1の導電性セラミックスは、ZrB2およびTiB2のいずれか1つを主成分として含むことにより、高融点を有し、かつ高い電気伝導率を有している。また、第1の導電性セラミックスは、従来の熱電対用材料と比べて低コストで作製することができる。さらに、第1の導電性セラミックスは、SiCを5質量%以上30質量%以下含むことにより、熱電対10における第1の導電部材1として溶融金属の温度域でも十分な耐溶損性および耐熱衝撃性を有することができる。
さらに、第1の導電性セラミックスの理論密度比は90%以上であり、第1の導電性セラミックスの内部は緻密化されている。この場合、該第1の導電性セラミックスのキャリア密度は成分組成比(ZrB2/SiCの配合比)に一義的に依存し、熱起電力の測定精度を高く保つことができる。そのため、第1の導電性セラミックスは、その成分組成比が適宜選択されることにより、所定の温度において所定の熱起電力を安定的に有することができる。その結果、第1の導電性セラミックスを含む備える本実施の形態に係る熱電対10は、高い測定精度を保つことができる。これに対し、導電性セラミックスの理論密度比が低い場合には、その内部抵抗が増大(キャリア密度が低下)して熱起電力が不安定となる結果、熱起電力の測定誤差が増加する。そのため、所定の熱起電力を有する導電性セラミックスを得ることは困難であり、当該導電性セラミックスを備えた熱電対は測定精度を高く保つことができない。
さらに本発明者らは、熱電対10の第2の導電部材2に含まれる第2の導電性セラミックスとして種々の導電性セラミックスを検討した結果、B4Cが第2の導電性セラミックスとして好適であることを見出した。言い換えると、本発明者らは鋭意研究の結果、上述した第1の導電セラミックスからなる第1の導電部材1と、B4Cを主成分とする導電性セラミックス(第2の導電性セラミックス)からなる第2の導電部材2を備える熱電対10が、従来の一般的な工業用熱電対と比べて高温環境下においても極めて高い熱起電力を生じさせることを見出した。
実際に、実施の形態1に係る熱電対10の測温接点を、温度1600℃に加熱された検定炉内に標準熱電対としてのB型熱電対とともに配置し熱起電力を測定した結果、B型熱電対の熱起電力が20mV以下であったのに対し、熱電対10の熱起電力は380mVであった(図10参照、詳細は後述する)。つまり、熱電対10は、従来の一般的な工業用熱電対と比べて、約20倍も高い熱起電力を生じさせることができることが確認された。なお、熱電対10が、第1の導電セラミックスからなる第1の導電部材と第2のセラミックスではなくモリブデン(Mo)などからなる第2の導電部材とで構成されている熱電対と比べても、より高い熱起電力を生じさせることを本発明者らは見出した。
また、一般的なシース型熱電対では、その周囲が厚い耐火物で保護する必要があるために測温値が溶融金属の実際の温度よりも低くなるという問題、および測温値の変動が当該温度の変化に十分追随せず、ソフトウエアによる温度変化の予測制御を行わざるを得ないという問題がある。
これに対し、第1の導電性セラミックスからなる第1の導電部材1は、従来のシース型熱電対の金属シースと比べて、溶融金属に対する耐久性および高温の還元性雰囲気(たとえば一酸化炭素ガス雰囲気)に対する耐久性のいずれも高い。さらに、第2の導電性セラミックスを構成するB4Cは融点が2450℃でありZrB2やTiB2と同様に高い。そのため、熱電対10は、シース熱電対のように周囲を厚い耐火物で保護する必要が無い。その結果、熱電対10の測温接点はシース熱電対の測温接点よりも測温対象である溶融金属の近くに配置されることができ、熱電対10はシース型熱電対よりも高精度に測温することができる。
また、熱電対10は主に第1の導電性セラミックスおよび第2の導電性セラミックスで構成されているため、熱電対10を低コストで製造することができる。さらに、熱電対10は従来の熱電対よりも耐用時間を格段に伸ばすことができるため、熱電対10を用いることにより、測定コストも低く抑えることができる。
第2の導電性セラミックス中のB4Cの含有率は50質量%以上であり、70質量%以上であってもよい。第2の導電性セラミックスは、B4Cと不可避不純物とからなっていてもよい。第2の導電性セラミックスにおけるB4Cの含有率が高いほど、第2の導電性セラミックスを含む第2の導電部材2を備える熱電対10の熱起電力を高めることができる。
一方、熱電対10の熱起電力は、上述のように第1の導電性セラミックスと第2の導電性セラミックスとの間でのB原子の拡散の進行により低下する。そのため、ある対象物について連続して温度を測定することが要求される時間(たとえば炉寿命)とその場合に許容される最大の測温誤差の2つを同時に満足するためには、第2の導電性セラミックス中のB濃度を熱電対10の使用態様に応じて適宜選択すればよい。
また、上述のように、熱電対10はその周囲を耐火物で保護する必要が無く、熱電対10の測温接点はシース熱電対の測温接点よりも測温対象である溶融金属の近くに配置されるため、熱電対10はシース型熱電対と比べて溶融金属の温度変化に対するレスポンスが速い(測温値が早く追随することができる)。そのため、シース型熱電対で行われていたレスポンスの遅れをカバーするためのソフトウエアの予測制御を不要とすることができる。これにより、熱電対10を用いることで溶融金属に対してよりきめ細かな温度制御を行うことができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る熱電対用導電性セラミックスおよび熱電対20について説明する。図3を参照して、実施の形態2に係る熱電対用導電性セラミックスおよび熱電対20は、基本的には実施の形態1に係る熱電対用導電性セラミックスおよび熱電対10と同様の構成を備えるが、第1の導電部材1の表面上に保護膜8が形成されている点で異なる。
保護膜8は、熱電対20が測定対象とする材料(たとえば溶融金属)と反応して損耗しない限りにおいて任意の材料で構成されるが、たとえばジルコン(ZrSiO4)で構成されている。保護膜8の膜厚は、たとえば10μm以上250μm以下であり、好ましくは50μm以上150μm以下である。
熱電対用導電性セラミックスの製造方法は、焼成する工程(S50)の後に第1の導電部材1の外周表面上に保護膜8を形成する工程をさらに備えている。保護膜8を形成する工程では、任意の方法を採ることができるが、たとえば、ZrB2を含む熱電対用導電性セラミックスからなる第1の導電部材1を大気下で1450℃以上1600℃以下に加熱すればよい。これにより、第1の導電部材1の表面上にはZrSiO4からなる保護膜8が形成される。このような方法により形成される保護膜8の膜厚はたとえば10μm以上80μm以下である。
なお、保護膜8は、少なくとも第1の導電部材1の外周面(測定対象の材料と接する面)上に形成されていればよい。
次に、実施の形態2に係る熱電対用導電性セラミックスおよび熱電対20の作用効果について説明する。熱電対20を溶融金属の測温に用いる場合、熱電対20の最表面を構成する第1の導電部材1は高酸素雰囲気下に置かれることになる。具体的には、溶融金属は酸素を含有しており、その酸素含有量は通常数ppm以上数百ppm以下程度の範囲で大きく変動する。そのため、溶融金属に浸漬された熱電対20は、高酸素雰囲気下に置かれることになる。また、たとえば製鋼プロセスにおける取鍋に取り付けられた場合、溶融金属に浸漬されていない状態においても熱電対20は高温の大気雰囲気下に置かれることになる。本発明者らは、このような雰囲気下に置かれた熱電対用導電性セラミックスはZrB2やTiB2が酸化されることにより徐々に損耗することを確認した。
SiC含有率が5質量%であるZrB2を高温に加熱すると、表面に酸化珪素(SiO2)の被膜が形成され、大気中では酸化の進行が抑制されることが知られている(F.Peng et al,J.Am.Ceram.Soc,91[5]1489−1494(2008))。しかし、本発明者らは、SiO2被膜は溶融金属中に浸漬されると、溶融金属中の他の酸化物と化合して低融点酸化物を形成し、容易に剥離してしまうことを確認した。つまり、SiO2膜は溶融金属の測温用熱電対における第1の導電部材の耐酸化膜として機能しない。
本発明者らは、第1の導電性セラミックスからなる第1の導電部材1の表面にZrSiO4の被膜(保護膜8)を形成することにより、溶融金属中に浸漬しても容易に溶解せず、熱電対用導電性セラミックスの酸化による損耗を抑制することができることを確認した。
また、ZrSiO4は絶縁性を有しているため、熱電対導電性セラミックスからなる第1の導電部材と周辺環境(溶融金属等)とを電気的に絶縁することができる。その結果、保護膜8は周辺環境からの電気的ノイズを遮断することができるため、熱電対20は高い精度で測温することができる。
なお、保護膜8の形成方法は、上述の熱電対用導電性セラミックスを加熱酸化させる方法の他、熱電対用導電性セラミックスの表面にZrSiO4を溶射することにより形成することができる。
また、保護膜8を構成する材料は、ZrSiO4に限定されるものではなく、ZrO2としてもよい。このようにしても、ZrSiO4と同様の効果を奏することができると考えられる。
また、実施の形態1および実施の形態2に係る第1の導電性セラミックスは、射出成形法により形成されているが、これに限られるものではない。また、第2の導電性セラミックスは押し出し成形法により形成されているが、これに限られるものではない。第1の導電性セラミックスおよび第2の導電性セラミックスは、たとえば射出成形法、加圧焼結(ホットプレス)法、および押し出し成形法のいずれかによりそれぞれ形成されてもよい。
実施の形態1および実施の形態2に係る熱電対10,20は、たとえば以下のような用途に好適である。
まず、熱電対10,20は溶融金属への耐久性が高いため、溶融金属を連続測温可能とする熱電対に好適である。
図4は、転炉壁に埋め込まれて溶鋼温度を連続測定するための熱電対として構成されている熱電対10を示す。転炉は、外部を鋼板製の鉄皮103で覆い、内部を耐火物102で内張りされており、内部に耐火物102に囲まれており溶鋼が入れられる炉内101が形成されている。熱電対10は、測温接点が炉内101に、基準接点が耐火物102内にそれぞれ設けられている。つまり、熱電対10の第1の導電部材1の閉端部1aおよび第2の導電部材2の端部2aとはいずれも炉内101に位置するように設けられている。また、第2の導電部材2に接続されている電極パッド6が耐火物102内に位置するように設けられている。さらに、電極パッド6の近傍に一方の端部(測温接点)が配置されており、耐火物102および鉄皮103を通って転炉の外部に延在する熱電対11(たとえばシース型熱電対)が設けられている。該熱電対11は、転炉の外部に設けられている測温計に接続されており、電極パッド6の近傍(すなわち基準接点)の温度を測定可能に設けられている。
さらに、第1の導電部材1に接続されている電極パッド5が耐火物102内に位置するように設けられている。また、電極パッド5および電極パッド6は、それぞれ転炉の外部に設けられている電圧計12(mV計)に接続されており、該電圧計12は、熱電対10の熱起電力を測定可能に設けられている。
これにより、たとえば熱電対11により測定された基準接点の温度が800℃であり、電圧計12により測定された熱起電力が220mVの場合には、後述する図10に示す熱電対10の熱起電力と温度差との関係を示すグラフから、溶鋼温度は1575℃であると算出することができる。
なお、熱電対10がこのように構成された転炉では、鉄皮103に熱電対10を貫通させるための貫通孔を形成する必要がない。
また、図5は、転炉底に埋め込まれて溶鋼温度を連続測定するための熱電対として構成されている熱電対10を示す。
転炉の底部は、たとえば鉄皮107と、鉄皮107に内張りされた永久煉瓦110と、永久煉瓦110の内側に内張りされた、消耗部材としての耐火物111とで構成されている。鉄皮107にはフランジ108が形成されている。
底吹き羽口104は、永久煉瓦110および耐火物111を貫通するように設けられている。底吹き羽口104は、羽口煉瓦105と、羽口煉瓦105を囲むとともに耐火物111および永久煉瓦110に形成された貫通孔に嵌めこまれている羽口周囲煉瓦106とを含んでいる。底吹き羽口104は、鉄皮107に形成されているフランジ108の開口部内において、フランジ108に固定されている押さえ蓋109により保持されている。
熱電対10は、測温接点が炉内101に、基準接点が炉底に設けられている底吹き羽口104内にそれぞれ設けられている。底吹き羽口104内にはさらに電極パッド5,6および熱電対10の基準接点の温度を測定するための熱電対11が配置されている。底吹き羽口104内には、たとえば攪拌用ガスまたは精錬用ガスが炉内101へ流通するが、この混合ガスが基準接点の冷却ガスとして機能するように設けられている。
あるいは、熱電対10は、電気炉の炉底に埋め込まれて溶鋼温度を連続測定をするための熱電対として構成されていてもよい。
また、図6は、AOD(Argon Oxygen Decarburization)炉の側壁に埋め込まれて溶鋼温度を連続測定するための熱電対として構成されている熱電対10を示す。熱電対10は、測温接点が炉内101に、基準接点がAOD炉の側壁に設けられている横吹き羽口112内にそれぞれ設けられている。横吹き羽口112内にはさらに電極パッド5,6および熱電対10の基準接点の温度を測定するための熱電対11が配置されている。横吹き羽口112内には、たとえば酸素‐アルゴン混合ガスがAOD炉の外部から炉内101へ流通するが、この混合ガスが基準接点の冷却ガスとして機能するように設けられている。
さらに、熱電対10,20は、高温環境下での還元性雰囲気への耐久性も高いため、当該還元性雰囲気を測温するための熱電対にも好適である。
たとえば、高炉の炉内は還元性を有するCOガス雰囲気であり、また高炉の炉壁も耐火物としてカーボン煉瓦などの黒鉛系煉瓦により構成されているため、還元性雰囲気と言える。熱電対10は、測温接点が炉内に、基準接点が当該黒鉛系煉瓦の内部に位置するように設けられており、炉内の還元性雰囲気温度を連続測定するための熱電対に好適である。さらに、熱電対10は、測温接点が高炉の出銑口の出口直後に、基準接点が出銑口を囲む耐火物としての黒鉛系煉瓦の内部に位置するように設けられており、出銑温度を連続測定するための熱電対にも好適である。高炉の出銑温度の管理は、高炉炉内反応の把握、装入物の管理、送風制御の指標となる重要なファクターであるが、これを正確に測温するには出銑口直後で連続して測温する必要がある。しかし、溶銑の温度は、出銑後炉外に出ると急激に低下し、一般に測られている出銑樋での測温ではすでに出銑温度よりもかなり低いうえに、外乱要因によってその値もばらつき易い。そのため、出銑温度を高炉操業へのフィードバックに用いるには、出銑口直後で連続測温するのが好ましい。熱電対10は、還元性を有する溶銑に高い耐久性を有しているため、上記のような用途にも好適である。
また、コークス炉の炉内は、コークスおよびCOガスが充満しており、還元性雰囲気である。よって、熱電対10は、上記の理由により、このような用途にも好適である。
さらに、熱電対10,20は、従来のシース型熱電対のように周囲を厚い耐火物で保護する必要が無いため、実際の溶鋼金属の温度を高い精度で測定することができ、かつ温度変化に対して高いレスポンス性を有している。そのため、熱電対10,20は、高精度の温度制御を必要とする高温部分の温度測定にも好適である。
たとえば、鋼板の機械的性質を向上させるためには、圧延時の鋼板の温度管理や圧延後のきめ細かな熱処理(たとえば鋼板の急加熱、急冷など)が必要となる。こうした熱処理時の温度パターンを設計通りに実現するためには、対象物(鋼板)を連続測温し、測定結果に基づいて冷却条件(たとえば冷却水量)や加熱条件(たとえばヒーターによる加熱温度)などを制御する必要がある。このため、優れたレスポンス性を有する熱電対10,20は、このような用途にも好適である。
次に、実施の形態1に係る熱電対の実施例について説明する。本実施例では、熱電対の熱起電力の観点から第1の導電部材1について評価した。
<試料>
(試料1)
実施の形態1に係る第1の導電性セラミックスの製造方法に従って、第1の導電部材1を作製した。具体的には、まず、平均粒径0.7μmのSiC粉末、平均粒径2.1μmのZrB2粉末、平均粒径0.4μmの焼結助剤としてのB4C粉末を準備した。SiC粉末、ZrB2粉末、およびB4C粉末を、それぞれ5質量%、94質量%、1質量%の割合でメカニカル混合した。得られた混合物に有機バインダを20部加えた後、加圧式ニーダーで加熱・加圧混練して、均一分散したコンパウンド(混練物)を作製した。その後、該コンパウンドをペレット化して成形材料とした。この成形材料を射出成形機に投入し、可塑化させた成形材料を長さ62mm、幅19mm、厚み4.5mmの金型キャビティー内に50〜100MPaの圧力で射出した。金型の寸法は、たとえば成形体に対する焼成品の想定収縮率を16%程度として熱電対の外形寸法に応じて選択され得る。金型内で冷却固化後に取り出されて成形体を作製した。この成形体を脱脂炉に投入して、該成形体内に含まれる有機バインダを加熱分解した。得られた脱脂体をグラファイト炉でAr雰囲気中2250℃で加熱焼結することにより焼結体(熱電対用導電性セラミックス)を作製した。その後、得られた焼成品から平面研削盤にて研削加工を施すことで、所望の形状に加工して第1の導電部材を形成した。
第2の導電部材としてMoからなる金属材料を準備し、これの端部を第1の導電部材の閉端部に固定した。第1の導電部材と第2の導電部材とはZrO2で絶縁した。第1の導電部材および第2の導電部材のそれぞれに電極を取り付けて試料1の熱電対を得た。
(試料2)
上記混合物におけるSiC粉末、ZrB2粉末、およびB4C粉末の割合を、30質量%、69質量%、1質量%の割合として第1の導電部材を形成し、それ以外は試料1と同様の構成として試料2の熱電対を得た。
(試料3)
上記混合物におけるSiC粉末、ZrB2粉末、およびB4C粉末の割合を、40質量%、59質量%、1質量%の割合として第1の導電部材を形成し、それ以外は試料1と同様の構成として試料3の熱電対を得た。
(試料4)
上記混合物におけるSiC粉末、ZrB2粉末、およびB4C粉末の割合を、5質量%、94質量%、1質量%の割合として第1の導電部材を形成した。
さらに、上記混合物におけるSiC粉末、ZrB2粉末、およびB4C粉末の割合を、40質量%、59質量%、1質量%の割合として第2の導電部材を形成し、これの端部を第1の導電部材の閉端部に固定した。第1の導電部材と第2の導電部材とはZrO2で絶縁した。第1の導電部材および第2の導電部材のそれぞれに電極を取り付けて試料4の熱電対を得た。つまり、第2の導電部材として第1の導電部材とは炭化珪素の含有率の異なる熱電対用導電性セラミックスを用い、それ以外は試料1と同様の構成として試料4の熱電対を得た。
(試料5)
第2の導電部材としてWからなる金属材料を用い、それ以外は試料1と同様の構成として試料5の熱電対を得た。
<評価>
試料1、試料2、試料3、試料4および試料5の各熱電対の一方の端部に設けられている測温接点と、他方の端部との間に温度差を生じさせて熱起電力を測定した。測定結果を図7、図8および図9に示す。図7および図8の横軸はいずれも温度差(単位:℃)を示し、縦軸はいずれも熱起電力(単位:mV)を示す。図7中、試料1の結果をG1、試料2の結果をG2、試料3の結果をG3として示す。図8中、試料5の結果をG5として示す。図9中、試料4の結果をG4として示す。
図7を参照して、試料1、試料2および試料3はいずれも熱電対として十分な熱起電力を有するとともに、高温域においても安定して測温することができることが確認された。また、SiCの含有率が高い第1の導電性セラミックスほど、熱電対を構成したときに高い熱起電力を有することが確認された。特に試料2および試料3は試料1よりも熱起電力が大きく、試料2と試料1との熱起電力の差、および試料3と試料1との熱起電力の差はいずれも1000℃以上の高温域で特に顕著であった。試料1の熱電対はJIS規格におけるS型熱電対とほぼ同等の熱起電力を有することが確認された。試料2の熱電対はJIS規格におけるB型熱電対とほぼ同等の熱起電力を有することが確認された。
図8を参照して、試料5は試料1、試料2および試料3と同様に熱電対として十分な熱起電力を有するとともに、高温域においても安定して測温することができることが確認された。試料5の熱起電力は、試料5の第1の導電部材と同等程度のSiC含有率を有する第1の導電性セラミックスにより第1の導電部材が構成され、かつMoにより第2の導電部材が構成されている試料1の熱起電力よりも大きい。また、試料5の熱起電力は、試料5の第1の導電部材よりもSiC含有率が高い第1の導電性セラミックスにより第1の導電部材が構成され、かつMoにより第2の導電部材が構成されている試料2よりも小さい傾向が確認された。
図9を参照して、試料4は試料1、試料2、試料3および試料5と同様に熱電対として十分な熱起電力を有するとともに、高温域においても安定して測温することができることが確認された。試料4の熱起電力は、第1の導電部材がSiC含有率5%の第1の導電性セラミックスで構成されている試料1の熱起電力と、第1の導電部材がSiC含有率40%の第1の導電性セラミックスで構成されている試料3の熱起電力との差と一致することが確認された。試料4の熱電対はJIS規格におけるR型熱電対とほぼ同等の熱起電力を有することが確認された。
次に、実施例2では、耐熱衝撃性および耐溶損性の観点から、実施の形態1に係る第1の導電性セラミックスについて評価した。具体的には、本実施例では、SiCの含有率の異なる熱電対用導電性セラミックスを溶鋼に浸漬させて、その耐熱衝撃性および耐溶損性を評価した。
<試料>
(試料6〜試料13)
実施の形態1に係る第1の導電性セラミックスの製造方法に従って、ZrB2を主成分とし、SiCの含有率を0質量%以上40質量%以下の範囲で変更させて試料6〜試料13の熱電対用導電性セラミックスを得た。具体的には、試料6、試料7、試料8、試料9、試料10、試料11、試料12、試料13の各SiC含有率を、40質量%、30質量%、20質量%、12質量%、5質量%、2質量%、1質量%、0質量%とした。焼結助剤であるB4Cの含有率はいずれも1質量%である。つまり、試料6、試料7、試料8、試料9、試料10、試料11、試料12、試料13の各ZrB2の含有率を、59質量%、69質量%、79質量%、87質量%、94質量%、97質量%、98質量%、99質量%とした。各試料の外形寸法は、2mm×2mm×30mmとした。なお、各試料の詳細な製造方法は、上述した実施例1における試料1と同様に行った。
(試料14〜試料18)
実施の形態1に係る第1の導電性セラミックスの製造方法に従って、TiB2を主成分として、SiCの含有率を0質量%以上40質量%以下の範囲で変更して試料14〜試料18の第1の導電性セラミックスを得た。具体的には、試料14、試料15、試料16、試料17、試料18の各SiC含有率を、30質量%、20質量%、12質量%、5質量%、0質量%とした。焼結助剤であるB4Cの含有率はいずれも1質量%である。つまり、試料14、試料15、試料16、試料17、試料18の各TiB2の含有率を、69質量%、79質量%、87質量%、94質量%、99質量%とした。各試料の外形寸法は、2mm×2mm×30mmとした。なお、各試料の詳細な製造方法は、上述した実施例1における試料1と同様に行った。
<評価>
1kg抵抗加熱炉を1630℃に加熱して溶鋼を形成し、該溶鋼に試料6〜18の第1の導電性セラミックスを浸漬してスポーリングおよび溶損の発生の有無を評価した。評価は、各試料に対して予熱を行ってから浸漬させたときと、予熱を行わずに浸漬させたときの2通りを独立して行った。ここで、予熱を行ってから浸漬させたとは、室温中に置かれていた試料(室温程度)を溶鋼直上で約10秒間保持した後溶鋼に浸漬させた。予熱を行わずに浸漬させたとは、室温中に置かれていた試料(室温程度)を直ちに溶鋼に浸漬させた。また、当該評価は、試料の長手方向の約10mmを溶鋼に浸漬させ、当該部分のスポーリングおよび溶損の有無を観察することにより行った。評価結果を表1に示す。
試料8および試料9は、スポーリングが発生せず、溶損も確認されなかった。試料10は、予熱を行ってから浸漬させた場合にはスポーリング、溶損ともに確認されなかった。試料10は、予熱を行わずに浸漬させた場合には溶損は確認されなかったが、微小なスポーリングが確認された。しかし、その程度は、熱電対として連続測温する場合にも問題の無い程度であった。また、試料7はわずかに溶損が確認されたが、たとえば浸漬時間が10秒以内のスポット測温用途の熱電対には十分に適用可能であることが確認された。
一方、試料10よりもSiC含有率の低い試料11〜試料13は、予熱の有無に関わらずスポーリングが確認された。これについては、第1の導電性セラミックス中のZrB2が溶鋼中の酸素により酸化されて損耗していると考えられる。
また、試料7よりもSiC含有率の高い試料6は、予熱の有無に関わらず溶損することが確認された。これについては、第1の導電性セラミックス中のSiCの組織に溶鋼が浸潤して溶損が生じていると考えられる。
つまり、ZrB2を主成分とし、かつSiCの含有率が5質量%以上30質量%以下である第1の導電性セラミックスは耐熱衝撃性および耐溶損性に優れており、たとえば溶鋼金属の測温用途に好適であることが確認された。さらに、ZrB2を主成分とし、SiCの含有率が5質量%以上20質量%以下である実施の形態1に係る第1の導電性セラミックスはより高い耐溶損性および耐熱衝撃性を有しており、たとえば溶鋼金属の温度を連続して長時間測温する用途に好適であることが確認された。
また、ZrB2を主成分とし、かつSiCの含有率が40質量%である第1の導電性セラミックスは耐熱衝撃性および耐溶損性には問題があるものの、実施例1の試料4に示されたように十分に実用的な熱起電力を有するため、試料4のように溶鋼と直接接触することのない第2の導電部材としては機能することが確認された。
同様に、試料15〜試料17は、予熱を行った場合にはスポーリングが発生せず、溶損も確認されなかった。一方で、試料15〜試料17は、予熱を行わずに浸漬させた場合には溶損は確認されなかったが、微小なスポーリングが確認された。
また、試料15よりSiC含有率の高い試料14は、予熱を行った場合にはスポーリングは発生しなかったが、わずかに溶損が確認された。一方、試料14は、予熱を行わずに浸漬させた場合にはわずかに溶損が確認され、また、微小なスポーリングも確認された。また、試料17よりもSiC含有率の低い試料18は、予熱の有無に関わらずスポーリングが確認された。これについては、第1の導電性セラミックス中のTiB2が溶鋼中の酸素により酸化されて損耗していると考えられる。
つまり、TiB2を主成分とする第1の導電性セラミックスも、ZrB2を主成分とする第1の導電性セラミックスと同様の傾向を有することが確認された。そのため、SiCの含有率が30%超えである場合には予熱の有無に関わらず溶損すると考えられ、5%未満である場合には予熱の有無に関わらずスポーリングが発生すると考えられる。さらに、ZrB2とTiB2との混合セラミックスであっても、そのSiC含有率を5質量%以上30質量%以下とすれば、同様の効果を奏することができると考えられる。
以上より、ZrB2およびTiB2の少なくともいずれか1つと、SiCと、焼結助剤と、不可避不純物とからなり、SiCの含有率が5質量%以上40質量%以下である熱電対用導電性セラミックスは、高温用熱電対の材料としての性能を十分に有し、製造コストも低いことが確認された。さらに、ZrB2およびTiB2の少なくともいずれか1つと、SiCと、焼結助剤と、不可避不純物とからなり、SiCの含有率が5質量%以上30質量%以下である第1の導電性セラミックスは、製造コストが低く、かつ、耐熱衝撃性および耐溶損性に優れていることが確認された。また、ZrB2およびTiB2の少なくともいずれか1つと、SiCと、焼結助剤と、不可避不純物とからなり、SiCの含有率が5質量%以上20質量%以下である第1の導電性セラミックスは、製造コストが低く、かつ、より高い耐熱衝撃性および耐溶損性を有していることが確認された。
次に、実施例3では、熱起電力の大きさおよび熱応答性の観点から、実施の形態1に係る熱電対10について評価した。
<試料>
(試料19)
実施の形態1に係る熱電対の製造方法に従って、熱電対10を作製した。具体的には、まず、平均粒径0.7μmのSiC粉末、平均粒径2.1μmのZrB2粉末、平均粒径0.4μmの焼結助剤としてのB4C粉末を準備した。SiC粉末、ZrB2粉末、およびB4C粉末を、それぞれ10質量%、89質量%、1質量%の割合でメカニカル混合した。得られた混合物に有機バインダを20部加えた後、加圧式ニーダーで加熱・加圧混練して、均一分散したコンパウンド(混練物)を作製した。その後、該コンパウンドをペレット化して成形材料とした。この成形材料を射出成形機に投入し、可塑化させた成形材料を外径Φ20mm、内径Φ14mm、長さ130mmの筒形状で、その一端が閉じた形状の金型キャビティー内に、100MPa以上150MPa以下の圧力で射出した。金型の寸法は、たとえば成形体に対する焼成品の想定収縮率を16%程度として熱電対の外形寸法に応じて選択され得る。また、金型は、第1の導電性セラミックスの内部に雌ねじ穴としての溝を形成可能なもととした。金型内で冷却固化後に取り出されて成形体を作製した。この成形体を脱脂炉に投入して、該成形体内に含まれる有機バインダを加熱分解した。得られた脱脂体をグラファイト炉でAr雰囲気中2250℃で加熱焼結することにより焼結体(第1の導電性セラミックス)を作製した。
さらに、平均粒径2.5μmのB4C粉末を準備し、これに有機バインダを20質量部加えた後、加圧式ニーダーで加熱・加圧混練して、均一分散したコンパウンド(混練物)を作製した。混練物を粉砕して得られた小片を押出し成形機のホッパーに投入し、シリンダー温度140℃以上160℃以下にて押出し成形した。このとき、押出し成形機の口金は口径Φ5mmとし、連続押出しにより成形した。なお、押出し成形機の口金から押し出された成形体が変形しないように、V字状の溝が形成されている金属製の長尺板(受け板)を準備し、押出し成形機の口金と受け板上の溝とを連なるように配置しておいた。これにより曲がりのない線状の成形体を得た。得られた成形体を第2の導電部材2として所定の長さに切断した。この成形体を脱脂炉に投入して、該成形体内に含まれる有機バインダを加熱分解した。得られた脱脂体をグラファイト炉でAr雰囲気中2250℃で加熱焼結することにより焼結体(第2の導電性セラミックス)を作製した。その後、当該焼結体を所定の長さに分割し、その端部に対しねじ切り加工を行い、端部が雄ねじである第2の導電部材を形成した。
第1の導電部材の溝と第2の導電部材の端部とをねじ留めして固定した。第1の導電部材と第2の導電部材とはZrO2で絶縁した。第1の導電部材および第2の導電部材のそれぞれに電極を取り付けて試料19の熱電対を得た。
(試料20)
第2の導電部材としてMoからなる金属材料を準備し、それ以外は試料1と同様の構成として試料20の熱電対を得た。
<評価1>
試料19および試料20の各熱電対の一方の端部に設けられている測温接点と、他方の端部との間に温度差を生じさせて熱起電力を測定した。測定結果を図10に示す。図10の横軸は温度差(単位:℃)を示し、縦軸はいずれも熱起電力(単位:mV)を示す。
なお、試料19については、温度差700℃までの1回目の測定を行った後、改めて温度差1600℃までの2回目の測定を行った。図10中、試料19の一回目の測定結果をG19−1(図中●のプロット)、試料19の2回目の測定結果をG19−2(図中▲のプロット)、試料20の結果をG20として示す。
図10を参照して、試料19は、熱電対として十分な熱起電力を有するとともに、高温域においても安定して測温することができることが確認された。具体的には、試料19は、たとえば温度差500℃のときに95mV、温度差700℃のときに141mV、温度差1050℃のときに234.5mV、温度差1600℃のときに380mVと極めて大きな熱起電力を生じさせた。
一方、試料20は、たとえば温度差1600℃のときに31mVであり、温度差1600℃のときの熱起電力が20mV程度である従来の工業用熱電対(B型熱電対など)と比べると高い熱起電力を有していた。しかし、試料19は試料20を上回る熱起電力を生じさせることができ、従来の工業用熱電対と比べると約20倍の熱起電力を生じさせることが確認された。試料19の熱起電力が従来の工業用熱電対と比べて約20倍大きいということは、すなわち熱起電力を測温対象物の温度に換算するときの解像度(resolution)が大きいということであり、試料19の熱電対が従来の熱電対と比べて約20倍の高い精度で測温可能であるということである。
(試料21,試料22)
試料21として市販のB型熱電対を、試料22として市販のK型熱電対を準備した。
<評価2>
上記試料19と、試料21および試料22の各熱電対について熱応答(レスポンス)を評価した。具体的には、試料19、試料21および試料22の熱電対を同時に液温50℃の湯に浸漬させ、同一条件下での熱起電力の変化を測定した。測定結果を図11および図12に示す。図12は、図11の部分拡大図である。図11および図12の横軸は浸漬させた瞬間を0秒として経過時間(単位:秒)を示し、縦軸はいずれも熱起電力(単位:mV)を示す。図11および図12中、試料19の結果をG19、試料21の結果をG21、試料22の結果をG22として示す。なお、図12は、G19の縦軸(熱起電力)のスケールをS1、G20の縦軸(熱起電力)のスケールをS2、G21の縦軸(熱起電力)のスケールをS3として示したものである。
図11に示すように、試料19の熱電対は、試料21および試料22の熱電対と比べても、短時間に極めて大きな熱起電力を生じさせることができることが確認された。さらに、図12に示すように、試料19の熱電対は、試料21および試料22の熱電対と比べて、浸漬させてから熱起電力が測定されるまでの経過時間が短いことが確認された。試料21のB型熱電対は熱起電力の発生が確認されなかった。試料22のK型熱電対は浸漬させてから0.5秒以内に熱起電力の発生が確認された。しかし、試料19の熱電対は、浸漬させてから約0.2秒以内に熱起電力の発生が確認されており、試料22のK型熱電対よりも優れた熱応答を示すことが確認された。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。