JP6736163B2 - 鉄シース型熱電対 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミ合金等の鋳造時に溶湯温度を測定するための鉄シース型熱電対に関する。
熱電対は、二種類の金属線の先端を接合して回路を作り、二つの接点に温度差を与えると起電力が発生するゼーベック効果を利用した温度測定手段である。熱電対は、寿命の長さ、耐熱性、機械的強度などに利点があり、鋳造装置の溶解保持炉などの温度センサーとして広く用いられている。シース型熱電対は、金属等のシース内に熱電対の素線がマグネシア粉末等の絶縁材でエアギャップなく封入されたものであり、高絶縁性と高耐圧性を有する。特許文献1に記載されているように、セラミックスを溶射して金属シースを保護してアルミニウム等の金属溶湯に直接浸漬させて測温するシース型熱電対の発明も開示されている。
シース型熱電対は、金属溶湯に浸漬させることによりシース等に腐食反応が生じる。浸漬を繰り返すことにより徐々に腐食が進行するので、シース型熱電対の耐久性が低下したら交換する必要がある。腐食反応を抑制するためにセラミック粉末を用いる方法もあるが、測温時の応答性が低下するおそれがある。特許文献2に記載されているように、耐食性に優れたセラミックス製保護管と熱電対との間に熱伝導の良い詰め物をして耐久性及び測温時の応答性が良好な熱電対の発明も開示されている。
特開平10−73495号公報 特許第4623481号公報
しかしながら、特許文献1及び2に記載の発明では、セラミックスの保護機能を用いた金属シースとしてステンレス鋼などが使用されているが、セラミックスの保護機能を用いない金属シースの熱電対はアルミ溶湯に対して寿命が短い。また、コストを下げるために金属シース鋼材を用いると鋼材には炭素が多く含有される場合が多く、熱電対の熱起電力特性を劣化させる可能性がある。
そこで、本発明は、鋳造における溶湯に対して耐久性があり、応答性も良く熱起電力特性も良好な鉄シース型熱電対を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明である鉄シース型熱電対は、鋳造における溶湯の温度を測定する手段であって二種類の金属線の先端を接合させた熱電対素線と、前記熱電対素線を内部に通して前記熱電対素線との間に絶縁材を充填した上で封入した管であって前記溶湯に浸漬されるシースと、を有し、前記シースは、鉄を主成分として、ニッケル及びクロムの含有量が合金鋼以下であり、炭素含有量が0.2%以下である、ことを特徴とする。
また、前記シースは、炭素含有量が0.12%以下である、ことを特徴とする。
本発明によれば、鋳造における溶湯に対して耐久性があり、応答性も良く熱起電力特性も良好な鉄シース型熱電対を提供することができる。
本発明である鉄シース型熱電対を示す図である。 本発明である鉄シース型熱電対の耐食性試験の結果を示す表である。
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
アルミニウム等の金属又は合金を鋳造する際、原料となる金属又は合金の溶湯の温度を正確に測定して鋳込む必要がある。湯温測定に用いるシース型熱電対は、鋳込む直前の溶湯に直接浸漬させて湯温を測定するので、腐食(溶損)が進んだら交換が必要となる消耗品である。
溶解炉で原料を溶解して、その溶湯を鋳込む量だけ取鍋へ移す。取鍋を傾けて鋳型に流し込んで鋳込むとき、取鍋には加熱源がないので取鍋内の溶湯の温度が低下する。鋳型内の湯流れ性を確保するためには所定の温度が必要である。そのため、湯温の低下量を予想して溶解炉内の溶湯の温度を上げておき、鋳込むときには所定の範囲内の湯温であることを確認する。
取鍋中の湯温は時間とともに低下するので、短時間(例えば、十数秒以内)で測定する必要がある。セラミック保護管で溶損防止した熱電対では数分を要するので、短時間で湯温を測定可能なセラミックスの保護層の無い金属シース型熱電対を使用するのが好ましい。碍子等の絶縁材を付けないで裸の熱電対を浸漬させて測定することも可能であるが、溶湯表面に生じた導電性のあるスラグで熱接点が生じるので、スラグの湯温を測定したり、取鍋やその周辺の金属構造に接触したりしないように注意する必要がある。
そのため、熱接点(測温接点)を含めた熱電対素線を金属シース内にマグネシア(MgO)粉末等により絶縁された状態で封入した金属シース型熱電対を用いる。金属シース型熱電対は、自由に曲げて使用可能であり、湯温測定には使い勝手の良い温度計である。
市販の金属シース型熱電対のシースとしては、ステンレス鋼(SUS)が用いられることが多い。ステンレス鋼は、鉄(Fe)を主成分として、ニッケル(Ni)やクロム(Cr)等を含む錆びにくい合金鋼である。ステンレス鋼は、耐熱及び耐酸化に対応したシース材ではあるが、ニッケルとクロムが含まれていることからアルミ溶湯には溶けやすく、溶湯用シース材として適しているとはいえない。
そのため、耐溶損性を考慮すると、金属シースとしてニッケルやクロム等の含有量が少ない鉄(鋼材)を使用することが好ましい。鋼材は、炭素(C)やマンガン(Mn)を入れて強度を上げて機械構造用等に用いられている。また、炭素鋼は、ステンレス鋼の数倍の炭素が含まれており、炭素が多いと硬くなるため曲げにくく取扱いが難しくなる。
炭素鋼は、炭素が0.55%程度の硬鋼であっても焼きなましをすれば、ビッカース硬さが180HV程度であり、手で曲げることが可能である。なお、1000℃程度の焼鈍後ゆっくり冷却すると、表面に黒さび(Fe)が生じるので、赤さび(Fe)は生じにくくなる。
金属シース型熱電対は、金属シースの管内にマグネシア粉末等の絶縁材と熱電対素線を封入し、穴ダイスを通して引き抜く伸線加工により外径φが4.8〜1.0mmに減径される。なお、引き抜き加工すると硬くなって再加工できなくなるため、1000℃程度の熱処理により柔らかくして再加工することで細くする。
熱処理時に鋼材に炭素が多く含まれていると、熱電対における熱起電力の低下が生じる。そのため、金属シースの材料としては、炭素の含有量が0.25%以下、好ましくは0.2%以下の鉄を使用する。すなわち、0.02%以上の炭素を含む鋼材でも良いが、純鉄に近いものが好ましい。
本発明である鉄シース型熱電対について説明する。図1は、鉄シース型熱電対を示す断面図であり、(a)は長手方向に沿って切断した図であり、(b)は輪切り状に切断した図である。図2は、鉄シース型熱電対の耐食性試験の結果を示す表である。
図1(a)(b)に示すように、鉄シース型熱電対100は、二種類の金属線である熱電対素線200、201の先端を接合して測温接点210とし、鋼材又は純鉄を管状に成形したシース400内に通して、熱電対素線200、201とシース400とが接触しないように隙間にマグネシア粉末等の絶縁材300を充填した上で封入したもので、鋳造における溶湯の温度を測定する手段である。
シース400は、鉄を主成分とする鋼又は純鉄である。鋼は、アルミ溶湯に溶けやすくなるニッケル及びクロムをできるだけ含まないもの、すなわち、合金元素が合金鋼に分類される量以下のものである。炭素鋼の場合、できるだけ炭素の含有量を低く(0.2%以下)した低炭素鋼である。
鉄シース型熱電対100の測温接点210側を溶湯に浸漬させ、温度勾配のある部分で発生する熱起電力から温度を測定する。なお、熱電対は温度補償が必要なため予め室温を測定しておき、0℃を基準とする熱起電力を加算することにより、測温接点210の温度を求めれば良い。
図2は、原料として一般的なADC12(Al−Si−Cu系)と呼ばれるアルミニウム合金を使用し、アルミニウム合金の溶湯の温度を700℃として耐食性を試験した結果である。なお、金属シースとして、SUS316(ニッケル10〜14%、クロム16〜18%、モリブデン2〜3%、炭素0.08%以下)のオーステナイト系ステンレス鋼と、鉄(炭素0.2%以下)とで比較した。金属シースの外径は異なるが、厚みは同一である。使用する熱電対の種類としては、素線の一方(+脚)がニッケル及びクロムを主とした合金、他方(−脚)が銅及びニッケルを主とした合金であるE熱電対とした。
金属シースの外径φが4.8mmの場合、SUS316シースでは123分で溶損し、鉄シースでは170分で溶損した。金属シースの外径φが3.2mmの場合、SUS316シースでは87分で溶損し、鉄シースでは141分で溶損した。金属シースの外径φが1.6mmの場合、SUS316シースでは51分で溶損し、鉄シースでは112分で溶損した。
金属シースとしてオーステナイト系ステンレス鋼を使用した金属シース型熱電対は、アルミ溶湯に対して寿命が短く、鉄シースを使用した金属シース型熱電対にすると約1.5〜2倍に寿命が延びた。
起電力特性に関しては、炭素が0.2%以下の鋼材を管状にした鉄シースと、精度がクラス1の熱電対素線を組み合わせると、熱起電力の許容される誤差範囲(許容差)がクラス2のシース型熱電対ができた。なお、熱電対の許容差は、熱電対の種類と使用温度によって異なり、規格により規定されている。
また、炭素が0.12%以下の鋼材の鉄シースと、精度がクラス1の熱電対素線を組み合わせると、許容差がクラス1のシース型熱電対ができた。許容差がクラス2のシース型熱電対でも製品として問題はないが、炭素が0.12%以下の鋼材の鉄シースを使用することが好ましい。
シース材の鉄は、オーステナイト系ステンレス鋼より熱伝導率が良いので、外径φが4.8mmの場合、SUS316シースと鉄シースの熱電対を700℃の溶湯に瞬時に浸漬して700℃までの応答性を測定した結果、SUS316シースの熱電対が12秒掛かったのに対し、鉄シースの熱電対は6秒で済んだ。このことからも短時間で湯温を測定できる鉄シースは、使用頻度が延びることになる。
このように、鋳造における溶湯に対して耐久性があり、応答性も良く熱起電力特性も良好な鉄シース型熱電対を提供することができる。
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。例えば、低圧鋳造やダイカスト鋳造において、溶解保持炉内の溶湯の温度を測定する際に使用することができる。鉄シース型熱電対は、熱電対の種類に依らず適用することができる。消耗型熱電対のうち多数回使用するものに適用することもできる。
100:鉄シース型熱電対
200,201:熱電対素線
210:測温接点
300:絶縁材
400:シース

Claims (2)

  1. 鋳造における溶湯の温度を測定する手段であって二種類の金属線の先端を接合させた熱電対素線と、
    前記熱電対素線を内部に通して前記熱電対素線との間に絶縁材を充填した上で封入した管であって前記溶湯に浸漬されるシースと、を有し、
    前記シースは、鉄を主成分として、ニッケル及びクロムの含有量が合金鋼以下で、炭素含有量が0.2%以下であり、セラミックスの保護層が無い、
    ことを特徴とする鉄シース型熱電対。
  2. 前記シースは、炭素含有量が0.12%以下である、
    ことを特徴とする請求項1に記載の鉄シース型熱電対。
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