図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の実施形態に係る建物構造について説明する。なお、本実施形態では、建物構造により低減する振動低減対象を63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動とした例について説明する。
図1の平面図には、建物としての集合住宅10の住戸12に構築された建物構造14が示されている。建物構造14は、振動拘束部材としての内壁16、及び制振装置としてのTMD(Tuned Mass Damper)18を有して構成されている。
図2の正面図、及び図3の側面断面図に示すように、内壁16は、支持部材としてのスタッド20、ランナー22、24、固定部材26、下張りボード28、及び仕上げ材30を有して構成されており、躯体柱32(図1を参照のこと)に支持されて住戸12の上下に設けられた鉄筋コンクリート製の床スラブ34と床スラブ36との間に配置されている。また、内壁16の剛性は、住居で一般的に用いられている間仕切り壁の剛性の約5倍になっている。
図4の側面断面図に示すように、床スラブ36の上方には乾式の二重床38が構築されている。二重床38は、下端部に防振ゴム162が設けられた支持脚160により床スラブ36上に支持されたパーチクルボード164と、このパーチクルボード164上に設けられたフローリング材166とを有して構成されている。また、床スラブ34の下方には二重天井(不図示)が構築されている。説明の都合上、図2には、二重床38や二重天井が省略されている。
図3に示すように、ランナー22、24は、溝形状の横断面を有する軽鉄製の部材によって構成され、床スラブ34、36にドリルねじ40によって固定されている(床スラブ34にランナー22を固定しているドリルねじは、不図示)。
スタッド20は、軽鉄製のC形鋼によって構成されており、ランナー22、24の溝内に上下端部を挿入するとともに下端部をドリルねじ(不図示)によってランナー24に固定することによって立設されている。
図5の斜視図に示すように、スタッド20の上端部には、着脱可能に固定部材26が取り付けられている。固定部材26は、筒部42と、筒部42の上部に一体に設けられた板部44と、板部44の略中央に形成された貫通孔46(図3を参照のこと)に挿入され上端部に支圧部48が設けられた雄ねじ部50と、雄ねじ部50がねじ込まれて設けられ、板部44の上面に載置されて雄ねじ部50を板部44上に係止するナット52と、を有して構成されている。
固定部材26は、筒部42をスタッド20の中空部へ挿入し、板部44の外縁部54をスタッド20の上面に係止させることによって、スタッド20の上端部に着脱可能に取り付けられている。なお、固定部材26は、ドリルねじ、ビス、接着剤等によってスタッド20に固定してもよい。
図3に示すように、スタッド20は、スパナ等の工具(不図示)によりナット52を回して雄ネジ部50を上方へ上昇させることにより、ランナー22を介して支圧部48を床スラブ34の下面へ押し付けるとともに、スタッド20の下端部をランナー24を介して床スラブ36の上面へ押し付けるようにして床スラブ34、36に固定されている。
図2に示すように、スタッド20は、ランナー22、24の長手方向56に対して間隔をあけて複数配置され、図3に示すように、各スタッド20にドリルねじ(不図示)によって下張りボード28が取り付けられている。また、仕上げ材30は、接着剤によって下張りボード28に貼り付けられている。
内壁16は、先に説明したように、固定部材26によってスタッド20の下端部を床スラブ36の上面に押し付けるようにしてスタッド20を床スラブ34、36に固定することにより、住戸12に設けられた床スラブ36に発生する振動モードの振動を低減するように、床スラブ36上に設置されている。
ここで、「床スラブ36に発生する振動モードの振動を低減するように、床スラブ36上に内壁16を設置する」とは、床スラブ36の上面を押し付けるように内壁16(スタッド20)を設置することで床スラブ36に発生する振動モードの振動の腹を拘束できる床スラブ36上の位置に対し、この腹を拘束するように床スラブ36の上面に押し付けて内壁16を設置することを意味する。
図1、及び図6の側面断面図に示すように、TMD18は、床スラブ36の二方向スパン(床スラブ36の長辺方向58のスパンと短辺方向60のスパン)及び厚さと、内壁16の剛性及び配置とに基づいて同定された床スラブ36の振動モードの振動を低減する位置に取り付けられている。
ここで、「床スラブ36の振動モードの振動を低減する位置」とは、床スラブ36に発生する振動モードの振動の腹又は腹付近に当たる床スラブ36の位置を意味する。
図6に示すように、TMD18は、二重床38の床下空間Sにおける床スラブ36の上面に取り付けられている。TMD18は、錘部材としての鉄板62と、床スラブ36の上面に設置されて鉄板62を揺動可能に支持する粘弾性部材64とを有して構成されている。なお、TMD18は、床スラブ36の下面に取り付けてもよい。
建物構造14を構築する手順としては、まず、図1に示すように、住戸12に設けられた床スラブ36に発生する振動モード(内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モード)の振動を低減するように、床スラブ36上に内壁16を設置する。
本例では、図7(a)〜(c)の平面図に示す振動モード66、68、70の腹72を拘束するように、床スラブ36上に内壁16を配置し設置している。振動モード66、68、70は、床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モードをシミュレーション解析によって同定したものであり、振動モード66、68、70の振動数は、51Hz、69Hz、84Hzとなっている。
図7(a)〜(c)では、床スラブ36に発生する振動の振幅の大きさで区分けした等高線によって振動モード66、68、70を示しており、等高線により囲まれた中央の領域(斜線間隔が狭い領域)が振動の振幅が最も大きい腹72となり、この領域から外側へ向かって(斜線間隔が広くなるほど)振動の振幅が小さくなっている。なお、以下の説明の図において、いくつかの振動モードを示すが、これらの振動モードの見方も図7(a)〜(c)と同様である。
次に、床スラブ36の二方向スパン(床スラブ36の長辺方向58のスパンと短辺方向60のスパン)及び厚さと、内壁16の剛性及び配置とに基づいて同定された床スラブ36の振動モード(内壁16を設置した後の床スラブ36に発生する振動モード)の振動を低減する位置に、TMD18を取り付ける。
本例では、図8(a)、(b)の平面図に示すように、内壁16を設置した後の床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モード74、76をシミュレーション解析によって同定し、振動モード74、76の腹72に当たる床スラブ36の上面にそれぞれ1つのTMD18を取り付ける。振動モード74、76の振動数は、56Hz、89Hzとなっている。
図1では、56Hzの振動モード74の腹72に当たる床スラブ36の上面の位置(1箇所)に1つのTMD18を取り付け、89Hzの振動モード76の腹72に当たる床スラブ36の上面の位置(4箇所)にそれぞれ1つのTMD18を取り付けている。すなわち、合計5つのTMD18が床スラブ36の上面に取り付けられている。
次に、本発明の実施形態に係る建物構造の作用と効果について説明する。
本実施形態の建物構造14では、図1に示すように、住戸12に設けられた床スラブ36に発生する振動モード(内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モード)の振動を低減するように、床スラブ36上に内壁16を設置することにより、床スラブ36に発生する振動モードの数を減らして、床スラブ36に発生する振動モードを特定し易くすることができる。これにより、床スラブ36に取り付けるTMD18の数を減らすことができ、TMD18の取り付け手間を軽減することができる。
本例では、図1に示すように、床スラブ36上に内壁16を設置して床スラブ36に発生する振動モード66、68、70(図7(a)〜(c)を参照のこと)の振動を低減することにより、振動モード66、68の振動数51Hz、69Hzは、図8(a)、(b)に示すように、振動モード74、76の振動数56Hz、89Hzに変化し高くなっている。また、振動モード70の振動数84Hzは、90Hzよりも高い振動数になり振動低減対象となる63Hz帯域から外れている。すなわち、床スラブ36上に内壁16を設置する前に床スラブ36に発生していた3つの振動モード66、68、70を、床スラブ36上に内壁16を設置することにより2つの振動モード74、76に減らすことができている。
図9(a)〜(c)の平面図には、図1に示した内壁16を一般的な間仕切り壁(剛性が内壁16の1/5であり、固定部材26を設けずに、ランナー22、24の溝内にスタッド20の上下端部を挿入するとともにスタッド20の下端部をドリルねじによってランナー24に固定することによりスタッド20を立設させている内壁)にした場合に、床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モード78、80、82が示されている。振動モード78、80、82は、シミュレーション解析によって同定したものであり、振動モード78、80、82の振動数は、46Hz、57Hz、74Hzとなっている。
ここでは、床スラブ36上に一般的な間仕切り壁を設置することにより、図9(b)、(c)に示すように、床スラブ36の剛性が向上した分だけ振動モード66、68(図7(a)、(b)を参照のこと)の振動数51Hz、69Hzは、振動モード80、82の振動数57Hz、74Hzに変化し高くなっているが、3つの振動モード78、80、82が発生している。また、一般的な間仕切り壁は内壁16よりも剛性が低いので、間仕切り壁の剛性が低い分だけ振動モード74、76(図8(a)、(b)参照のこと)の振動数56Hz、89Hzは、図9(a)、(c)に示すように、振動モード78、82の振動数46Hz、74Hzと低くなっている。
このように、一般的な間仕切り壁を設置した床スラブ36には3つの振動モード78、80、82(図9(a)〜(c)を参照のこと)が発生するのに対して、この間仕切り壁を設置する前の床スラブ36には3つの振動モード66、68、70(図7(a)〜(c)を参照のこと)が発生するので、床スラブ36に発生する振動モードの数は変わらない。これに対して、本実施形態の建物構造14では、図8(a)、(b)に示すように、床スラブ36に発生する振動モードを2つの振動モード74、76にすることができる。すなわち、内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する3つの振動モード66、68、70を、床スラブ36上に内壁16を設置することにより、2つの振動モード74、76に減らすことができる。
また、本実施形態の建物構造14では、図8(a)に示すように、住戸12に設けられた床スラブ36に発生する振動モード(内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モード)の振動を低減するように、床スラブ36上に内壁16を設置することにより、床スラブ36において振動する範囲を限定することができる(図8(a)の例では、床スラブ36において振動する範囲が床スラブ36の右側のみに限定されている)。これにより、振動モードの腹72の数を減らすことができるので、床スラブ36に設置するTMD18の数を減らすことができる。さらに、床スラブ36において振動する範囲が限定されることによって振動モードの有効質量も小さくなり、TMD18による振動低減効果は有効質量に対するTMD18のマス(鉄板62)の質量比が大きいほど大きくなるので、TMD18による振動低減効果を向上させることができる。また、マスの質量がより小さいTMD18で、必要とする振動低減効果を得ることができる。
さらに、本実施形態の建物構造14では、図1に示すように、床スラブ36の二方向スパン(床スラブ36の長辺方向58のスパンと短辺方向60のスパン)及び厚さと、内壁16の剛性及び配置とに基づいて同定された床スラブ36の振動モードの振動を低減する位置にTMD18を取り付けるので、少ない数のTMD18で、床スラブ36に発生する重量床衝撃音を効果的に低減することができる。これにより、床スラブ36に取り付けるTMD18の数を減らすことができ、TMD18の取り付け手間を軽減することができる。
また、本実施形態の建物構造14では、内壁16及びTMD18の床スラブ36への設置により、床スラブ36に発生する重量床衝撃音を低減することができるので、床スラブ36の厚さに頼らずに、又は床スラブ36の厚さに大きく頼らずに重量床衝撃音対策を行うことができる。すなわち、重量床衝撃音を低減するために床スラブ36の厚さを厚くする必要が無くなる、又は重量床衝撃音を低減するために増やす床スラブ36の厚さを小さくすることができる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、本実施形態では、図1に示すように、住戸12に設けられた床スラブ36に発生する振動モード(内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モード)の振動を低減するように、床スラブ36上に内壁16を設置する例を示したが、振動低減について考慮されずにレイアウト計画された内壁の中から、床スラブ36に発生する振動モードの振動を低減可能な位置に配置されているものを選び、この選ばれた内壁のみを内壁16にしてもよい。また、リフォーム等により住戸12の間取りが変更される場合においても、新しくレイアウト計画された内壁の中から、床スラブ36に発生する振動モードの振動を低減可能な位置に配置されているものを選び、この内壁のみを内壁16にすればよい。
また、本実施形態では、図4に示すように、上方に二重床38が構築される床スラブ36上に内壁16を設置した例を示したが、内壁16は、二重床38を構築する前に床スラブ36上に設置してもよいし、二重床38を構築した後に床スラブ36上に設置してもよい。また、スタッド20のみを先に床スラブ36上に設置した後に二重床38を構築し、この後に下張りボード28及び仕上げ材30を取り付けるようにしてもよい。
さらに、本実施形態では、内壁16の剛性を、住居で一般的に用いられている間仕切り壁の剛性の約5倍とした例を示したが、内壁16の剛性は、住居で一般的に用いられている間仕切り壁の剛性よりも大きければよい。内壁16の剛性をより大きくできれば、床スラブ36に発生する振動モードの数をより減らすことができる。
図10には、図1に示した内壁16の剛性を、住居で一般的に用いられている間仕切り壁の剛性の約10倍とした場合に床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モード84が示されている。振動モード84は、シミュレーション解析によって同定したものであり、62Hzの振動数に対して発生している。
ここでは、剛性を住居で一般的に用いられている間仕切り壁の約10倍とした内壁16を設置して床スラブ36に発生する振動モード66、68、70(図7(a)〜(c)を参照のこと)の振動を低減することにより、振動モード66の振動数51Hzは、図10に示すように、振動モード84の振動数62Hzに変化し高くなっている。また、振動モード68、70の振動数69、84Hzは、90Hzよりも高い振動数になり振動低減対象となる63Hz帯域から外れている。すなわち、床スラブ36上に内壁16を設置する前に床スラブ36に発生していた3つの振動モード66、68、70を、床スラブ36上に内壁16を設置することにより1つの振動モード84に減らすことができている。
また、剛性を住居で一般的に用いられている間仕切り壁の約10倍とした内壁16を設置した床スラブ36に発生する振動モード84(図10を参照のこと)と、剛性を住居で一般的に用いられている間仕切り壁の約5倍とした内壁16を設置した床スラブ36に発生する振動モード74、76(図8(a)、(b)を参照のこと)とを比較すると、振動モード74の振動数56Hzは、振動モード84の振動数62Hzに変化し高くなっている。また、振動モード76の振動数89Hzは、90Hzよりも高い振動数になり振動低減対象となる63Hz帯域から外れている。
内壁の剛性を大きくする方法としては、スタッド20や下張りボード28を剛性の大きい部材にしたり、図11の正面図に示すようにスタッド20を配置するピッチを短く(スタッド20を長手方向56に対して密に配置)したりする方法が挙げられる。
また、本実施形態では、図1に示すように、住戸12に配置される内壁の全てを内壁16とした例を示したが、図12(a)の平面図に示すように、住戸12に配置される内壁の一部を内壁16とし、他の内壁を住居で一般的に用いられている間仕切り壁86としてもよい。このようにすれば、建物構造14の施工性を向上させ、施工コストを低減することができる。
図12(b)、(c)の平面図には、図12(a)に示すように住戸12に配置される内壁を内壁16と間仕切り壁86とによって構成した場合に床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モード88、90が示されている。振動モード88、90は、シミュレーション解析によって同定したものであり、振動モード88、90の振動数は、52Hz、81Hzとなっている。
ここでは、床スラブ36上に内壁16と間仕切り壁86とを設置して床スラブ36に発生する振動モード66、68、70(図7(a)〜(c)を参照のこと)の振動を低減することにより、振動モード66、68の振動数51Hz、69Hzは、図12(b)、(c)に示すように、振動モード88、90の振動数52Hz、81Hzに変化し高くなっている。また、振動モード70の振動数84Hzは、90Hzよりも高い振動数になり振動低減対象となる63Hz帯域から外れている。すなわち、床スラブ36上に内壁16と間仕切り壁86とを設置する前に床スラブ36に発生していた3つの振動モード66、68、70を、床スラブ36上に内壁16と間仕切り壁86とを設置することにより2つの振動モード88、90に減らすことができている。
さらに、本実施形態では、図3に示すように、全ての支持部材としてのスタッド20を、このスタッド20の下端部を床スラブ36の上面に押し付けるようにして床スラブ36上に設置した例を示したが、例えば、図13(a)の平面図、図14の正面図、図15の側面断面図、及び図16の側面断面図に示す内壁92のように、一部の支持部材を、この支持部材の下端部を床スラブ36の上面に押し付けるようにして床スラブ36上に設置するようにしてもよい。
内壁92は、スタッド20と、スタッド20よりも剛性の大きいスタッド94とを有して構成されている。スタッド94の剛性は、住居で一般的に用いられている間仕切り壁の剛性の約20倍になっている。図15に示すように、スタッド94は、角形鋼管からなり、上端部がランナー22の溝内に挿入されるとともに、下端部に設けられた固定部材96により上端部がランナー22を介して床スラブ34の下面に押し付けられて立設されている。
固定部材96は、ジャッキベース98により構成されており、着脱可能なハンドル100をジャッキベース98に取り付けて回し支圧部102を下方へ下降させることにより、ランナー24を介して支圧部102を床スラブ36の上面へ押し付けるとともに、ランナー22を介してスタッド94の上端部を床スラブ34の下面へ押し付けるようにして床スラブ34、36にスタッド94を固定している。
また、図16に示すように、スタッド20は、ランナー22、24の溝内に上下端部を挿入するとともに下端部をドリルねじ(不図示)によってランナー24に固定することによって立設されている。
すなわち、内壁92では、全ての支部部材(スタッド20、94)の内のスタッド94のみを、このスタッド94の下端部を固定部材96及びランナー24を介して床スラブ36の上面に押し付けるようにして床スラブ36上に設置している。
図13(b)、(c)の平面図には、床スラブ36上に内壁92を設置した場合に床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モード104、106が示されている。図13(b)、(c)の振動モード104、106は、シミュレーション解析によって同定したものであり、振動モード104、106の振動数は、56Hz、83Hzとなっている。
ここでは、内壁92を設置して床スラブ36に発生する振動モード66、68、70(図7(a)〜(c)を参照のこと)の振動を低減することにより、振動モード66、68の振動数51Hz、69Hzは、図13(b)、(c)に示すように、振動モード104、106の振動数56Hz、83Hzに変化し高くなっている。また、振動モード70の振動数84Hzは、90Hzよりも高い振動数になり振動低減対象となる63Hz帯域から外れている。すなわち、床スラブ36上に内壁92を設置する前に床スラブ36に発生していた3つの振動モード66、68、70を、床スラブ36上に内壁92を設置することにより2つの振動モード104、106に減らすことができている。
さらに、本実施形態では、図3に示すように、固定部材26によってスタッド20の下端部をランナー24を介して床スラブ36の上面に押し付けるようにしてスタッド20を床スラブ34、36に固定した例を示したが、スタッド20の下端部を床スラブ36の上面に押し付けるようにしてスタッド20を床スラブ34、36に固定できるものであればよい。例えば、図15で示した固定部材96によってスタッド20を床スラブ34、36に固定してもよい。
また、例えば、図17の正面断面図に示すように、スタッド20の上端部に取り付けられた楔部材108と、この楔部材108とランナー22の下面との間に押し込まれた状態でドリルねじ110によって床スラブ34に固定される楔部材112とを有して構成される固定部材114によって、スタッド20の下端部を床スラブ36の上面に押し付けるようにしてスタッド20を床スラブ34、36に固定するようにしてもよい。説明の都合上、図17には、下張りボード28や仕上げ材30が省略されている。
さらに、本実施形態では、図3に示すように、スパナ等の工具により固定部材26のナット52を回すことによって、ランナー22を介して支圧部48を床スラブ34の下面へ押し付けてスタッド20を床スラブ34、36に固定する例を示したが、ランナー22内にスパナ等の工具を入れにくい場合には、スパナ等の工具をランナー22内へ導き入れる開口部をランナー22の側面に形成してもよいし、固定部材26によってスタッド20を床スラブ34の下面に十分に保持できるのであれば、ランナー22は無くてもよい。
また、図18の斜視図に示す固定部材172のように、ナット52の外周部に歯車部168をナット52と一体に設けておき、ランナー22の側面に形成した開口部174から、先細りした幅狭の板状部材からなる工具170の先端部を挿入し、歯車部168の溝に押し当ててナット52を回すようにしてもよい。
また、本実施形態では、図3に示すように、床スラブ36上に内壁16を設置する例を示したが、床スラブ36の下面に内壁16(スタッド20)の上端部を押し付けるようにして床スラブ36の下方に内壁16(スタッド20)を設置して、この床スラブ36に発生する振動モードの振動を低減するようにしてもよい。また、床スラブ36の下階の住戸の内壁の配置を住戸12と同じにして、床スラブ36の上下に配置された内壁16でこの床スラブ36を挟み込むようにしてもよい。このようにすれば、床スラブ36の振動モードの腹をより拘束することができる。
さらに、本実施形態では、図7(a)〜(c)、及び図8(a)、(b)に示すように、内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モードや、内壁16を設置した後の床スラブ36に発生する振動モードの同定をシミュレーション解析によって行なった例を示したが、これらの同定は、床スラブ36に発生する振動を実測することにより行ってもよい。
また、数パターンの「床スラブ36の二方向スパン(床スラブ36の長辺方向58のスパンと短辺方向60のスパン)、及び床スラブ36の厚さ」に対する振動モードの振動数をシミュレーション解析や実測により求めておき、これに基づいて内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モードを同定してもよいし、数パターンの「床スラブ36の二方向スパン(床スラブ36の長辺方向58のスパンと短辺方向60のスパン)、床スラブ36の厚さ、内壁16の剛性、及び内壁16の配置」に対する振動モードの振動数をシミュレーション解析や実測により求めておき、これに基づいて内壁16を設置した後の床スラブ36に発生する振動モードを同定するようにしてもよい。床スラブ36の平面形状が長方形であれば、内壁16を設置する前の床スラブ36に発生する振動モードのモード形状は、図7(a)〜(c)と略同様になり、内壁16を設置した後の床スラブ36に発生する振動モードのモード形状は、図8(a)、(b)と略同様になる。このようにすれば、建物構造14を構築する住戸毎にシミュレーション解析や計測作業を行う必要がなくなるので、建物構造14を構築する際の手間を低減することができる。
図19のグラフには、床スラブ36の長辺方向58のスパンを13mとし、床スラブ36のスラブ厚を280mmとした場合の床スラブ36に発生する振動モード116、118、120における、床スラブ36の短辺方向60のスパンに対する振動数をシミュレーション解析によって求めた例が示されている。図19のグラフの横軸には、床スラブ36の短辺方向60のスパンが示され、縦軸には、振動モード116、118、120の振動数が示されている。
図20のグラフには、床スラブ36の長辺方向58のスパンを13mとし、床スラブ36の短辺方向60のスパンを6.3mとした場合の床スラブ36に発生する振動モード122、124、126における、床スラブ36のスラブ厚に対する振動数をシミュレーション解析によって求めた例が示されている。図20のグラフの横軸には、床スラブ36のスラブ厚が示され、縦軸には、振動モード122、124、126の振動数が示されている。
さらに、本実施形態では、図1に示すように、内壁16を設置した後の床スラブ36に発生する63Hz帯域(45Hz〜90Hzの帯域)の振動モード74、76の腹72に当たる床スラブ36の上面にそれぞれ1つのTMD18を取り付ける例を示したが、TMD18は、各振動モードの少なくとも1つの腹又は1つの腹付近に当たる床スラブ36の上面又は下面に取り付ければよい。また、各振動モードの少なくとも1つの腹又は1つの腹付近に当たる床スラブ36の上面又は下面に複数のTMD18を取り付けてもよい。
また、本実施形態では、図6に示すように、制振装置をTMD18とした例を示したが、制振装置は、床スラブ36の上面又は下面に取り付けることにより、床スラブ36に発生する振動モードの振動を低減できるものであればよい。例えば、図21の側面断面図に示すようなTMD128を制振装置として用いてもよい。
TMD128は、既製コンクリート部130と、この既製コンクリート部130上に場所打ちされたコンクリートにより既製コンクリート部130と一体に形成されたトップコンクリート部132とを有して構成された床スラブ134中に設けられて、建物構造136を構成している。床スラブ134の上方には二重床38が構築されている。
図21、及び図22の斜視図に示すように、TMD128は、上面が開口し、塩化ビニール等によって形成された筐体138と、筐体138の内壁面及び底面を覆うように筐体138の内側に設けられた、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン等の発泡材によって形成された容器状の粘弾性部材140と、粘弾性部材140の内側に充填されたコンクリートによって形成された錘部材としてのマス部142と、筐体138を取り囲むように筐体138の外壁面に沿って設けられた止水テープ144とを有して構成されている。止水テープ144は、筐体138の外壁面を伝って下方へ流れる漏水を吸収して止めるために設けられている。
図21に示すように、TMD128は、粘弾性部材140及び止水テープ144を備える筐体138を既製コンクリート部130の上面に設置した後に、既製コンクリート部130上と粘弾性部材140内にコンクリートを打設し硬化させてトップコンクリート部132とマス部142を形成することにより、筐体138、粘弾性部材140、及びマス部142が床スラブ134中に配置されるようにして(筐体138、粘弾性部材140、及びマス部142がトップコンクリート部132の上面から突出しないようにして)床スラブ134に設けられている。すなわち、TMD128は、床スラブ134中に設けられた粘弾性部材140と、床スラブ134中に配置され粘弾性部材140に揺動可能に支持されたマス部142と、を有する制振装置である。なお、TMD128は、床スラブ134中に設けられているものであるが、TMD128は平面形状が1m角程度のものであり、床スラブ134に対してTMD128が占める部分は、床スラブ134のごく一部であるので、TMD128を設けることによって床スラブ134の強度や剛性が大きく低下することはない。
TMD128は、TMD128の配置の自由度を高くすることができる。例えば、図21に示すように、床スラブ134の上方に二重床38を構築する場合、二重床38の床下空間Sに敷設される設備配管や設備配線等(不図示)に大きく邪魔されずに、効果的に機能する位置にTMD128を配置することができる。また、床スラブ134の上面及び下面の空間を有効に使うことができる。例えば、床スラブ134の上方に二重床38を構築する場合、二重床38の床下空間Sにおいて、TMD128の配置に大きく影響されずに設備配管や設備配線等を敷設することができる。
特開2009−84885号公報に開示されているようなTMDは、二重床の床下空間に配置されているので、この床下空間に敷設される設備配管や設備配線等を考慮してTMDを設置したり、TMDの配置を考慮して設備配管や設備配線等を敷設したりする必要がある。これに対して、TMD128は、粘弾性部材140とマス部142が床スラブ134中に配置されているので、これらの課題を解決することができる。
さらに、マス部142は、粘弾性部材140内にコンクリートを打設することにより形成されるので、重いマス部142をTMD128の設置場所まで運ぶ手間を省くことができる。
なお、図21では、TMD128を構成する粘弾性部材140とマス部142の両方が床スラブ134中に配置されている例を示したが、マス部142の一部が床スラブ134(トップコンクリート部132)の上面から突出するようにしてもよい。粘弾性部材140とマス部142の両方を床スラブ134中に配置する構成は、設備配管や設備配線等に邪魔されずに、効果的に機能する位置に制振装置を配置することができ、制振装置の配置に影響されずに設備配管や設備配線等を敷設することができるので好ましい。
また、TMD128の真上に二重床38の支持脚160を設ける必要がある場合には、筐体138を取り囲む床スラブ134の部位に縁部を支持させるとともに下面がマス部142の上面に接触しないようにして、TMD128の上方を覆うパネル部材を設け、このパネル部材上に支持脚160を設けるようにすればよい。このようにすれば、TMD128の配置に影響されることなく二重床38の支持脚160を設けることができる。
さらに、TMD128は、図23の側面断面図に示すように、直貼床146を構成する鉄筋コンクリート製の床スラブ148に取り付けるようにしてもよい。図23では、床スラブ148の上面に貼り付けたパーチクルボード150の上面にパーチクルボード152を貼り付け、このパーチクルボード152の上面にフローリング材154を貼り付けることにより、直貼床146が構築されている。パーチクルボード150を設けて、パーチクルボード152の下面がマス部142の上面と接触しないようにし、マス部142が粘弾性部材140に揺動可能に支持されるようにしている。
また、TMD128は、図23に示すように、全てが場所打ちコンクリート打設により形成される床スラブ148に取り付けるようにしてもよい。この場合には、図23に示すように、支持脚部材156により底型枠158上に筐体138を支持することにより、底型枠158の上面から筐体138を浮かせた状態にして、床スラブ148のコンクリート打設を行う。
さらに、本実施形態では、振動拘束部材を内壁16とした例を示したが、振動拘束部材を間柱としてもよい。この場合には、間柱の剛性を高くし、下端部を床スラブ36の上面に押し付けるようにして間柱を床スラブ36上に設置する。
また、本実施形態では、集合住宅10の住戸12に建物構造14を構築した例を示したが、本実施形態の建物構造14は、オフイスビルやホテル等の他の用途の建物や、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、コンクリート床スラブを有するさまざまな構造や規模の建物の住戸に構築することができる。
さらに、本実施形態の建物構造14は、建物の新築時に構築してもよいし、建物を新築した後に構築してもよい。また、建物を改修する際に構築してもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。