JP2016124724A - 水硬性成形体用補強繊維およびこの補強繊維を含む水硬性材料 - Google Patents

水硬性成形体用補強繊維およびこの補強繊維を含む水硬性材料 Download PDF

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Abstract

【課題】フレッシュな状態(未硬化の状態)での水硬性材料の流動性と、硬化後の水硬性成形体の補強性とを両立することができる水硬性成形体用補強繊維を提供すること。【解決手段】平均繊維径100〜700μmの耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルが付着している、水硬性成形体用補強繊維。【選択図】なし

Description

本発明は、セメントペースト、モルタル、コンクリートなどの水硬性材料の流動性を維持しつつ、成形体に対して優れた補強効果を有する水硬性成形体用補強繊維、およびこの補強繊維を含む水硬性材料に関する。
セメント等の水硬性無機物質は、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート等の水硬性材料の形成に広く用いられている。これらの水硬性材料から形成される水硬性成形体は、土木資材、建築資材として、広く使用されている。これらの成形体の曲げ強度、靭性等の性能の改善やひび割れ抑制を目的として、コンクリート、セメントモルタルなどの水硬性材料のマトリックスに補強繊維を配合することが知られている。
このような補強繊維として、例えば、特許文献1には、複数本の繊維が水溶性高分子樹脂で集束された集束糸であって、pH12における解繊度50%以上である集束糸が開示されている。この集束糸を用いると、水硬性成形体の補強性を向上させることは可能であるが、繊維の拘束力によって硬化前の水硬性材料(セメントペーストまたはフレッシュセメント)の流動性が著しく低下した。水硬性材料の流動性が低下すると、繊維の補強効果が十分に発揮されなかったり、均一な混合に長時間を要したり、作業性が低下した。
流動性の向上を図るために、水分量を増加させたり、繊維の添加量を減少させたり、繊維長を短くしたりすることが考えられるが、いずれの試みにおいても硬化後の水硬性成形体の強度が低下した。
そこで、水硬性材料の流動性を損わず、水硬性成形体の高い補強効果を得るために、特許文献2には、a)ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールの合計付着量が全繊維重量に対して0.5〜20%であること、およびb)水分付着量が全繊維重量に対して0.5〜20%であることを満足するセメント成形体補強用短繊維が開示されている。
しかしながら、特許文献2の技術では、硬化前の水硬性材料の流動性は改善されるものの、その効果を得るためには、補強繊維の水分量の厳密な管理が求められるため、使用上の簡便性に乏しい。
特開平10−183473号公報 特開2012−25604号公報
本発明の目的は、フレッシュな状態(未硬化の状態)での水硬性材料の流動性と、硬化後の水硬性成形体の補強性とを簡便に両立することができる水硬性成形体用補強繊維を提供することにある。
本発明の別の目的は、このような補強繊維と水硬性無機物質とを含み、流動性に優れる水硬性材料を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、このような水硬性材料から形成され、優れた強度を有する水硬性成形体を提供することにある。
本発明には以下の好適な実施態様が含まれる。
[1]平均繊維径100〜700μmの耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルが付着している、水硬性成形体用補強繊維。
[2]ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの付着量は耐アルカリ性繊維に対して0.1〜5質量%である、[1]に記載の水硬性成形体用補強繊維。
[3]ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのアルキル基は炭素原子数が10〜22である、[1]または[2]に記載の水硬性成形体用補強繊維。
[4]耐アルカリ性繊維はポリビニルアルコール系繊維である、[1]〜[3]のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維。
[5]耐アルカリ性繊維は30〜500のアスペクト比を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維。
[6]水硬性無機物質および[1]〜[5]のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維を含む、水硬性材料。
[7]水硬性無機物質はセメントである、[6]に記載の水硬性材料。
[8]水硬性成形体用補強繊維の質量Fとセメントの質量Cの比F/Cは1/300〜100/1000の範囲にある、[7]に記載の水硬性材料。
[9][1]〜[5]のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維の製造方法であって、
耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルの溶液または分散液を付着させる工程;および
耐アルカリ性繊維の表面から溶液または分散液それぞれの溶媒または分散媒を乾燥除去する工程;
を含む、方法。
[10]水硬性成形体の製造方法であって、
少なくとも水硬性無機物質、[1]〜[5]のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維および水を練り混ぜて、水硬性材料を形成する工程;および
水硬性材料を成形した後、硬化する工程;
を含む、方法。
本発明の水硬性成形体用補強繊維によれば、水硬性材料の流動性と、硬化後の水硬性成形体の補強性とを、当該補強繊維の水分量の厳密な管理なしに簡便に両立することができる。従って、繊維補強による曲げ強度向上等の効果を有する水硬性成形体を高い成形性で形成することができる。
詳しくは、本発明の水硬性成形体用補強繊維を含む水硬性性材料は、繊維が入っているにもかかわらず、流動性が十分に優れている。従って、流動性を確保するために水分量を増加させたり、繊維の量および長さ等を調整したりする必要がなく、強度が高く、かつ繊維補強された成形体を高い成形性で形成することができる。
このような水硬性材料が硬化して得られた水硬性成形体は、良好な流動性に起因して分散した繊維によって、繊維を含まない水硬性材料から形成された成形体に比べ、その曲げ強度を向上することができる。
[水硬性成形体用補強繊維]
本発明の水硬性成形体用補強繊維は、耐アルカリ性繊維および前記耐アルカリ性繊維の表面に付着したポリオキシアルキレンアルキルエーテルを有する。
(耐アルカリ性繊維)
本発明で用いられる耐アルカリ性繊維は、アルカリに対する化学的な耐久性を有する限り、有機繊維であっても無機繊維であっても特に限定されない。例えば、耐アルカリ性無機繊維としては、耐アルカリ性ガラス繊維、鋼繊維(スチールファイバー)、ステンレスファイバー、炭素繊維などが挙げられる。耐アルカリ性有機繊維としては、ポリビニルアルコール(以下、PVAと称することがある)系繊維、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10など)、アラミド繊維(特にパラアラミド繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール系繊維(PBO繊維)、アクリル繊維、レーヨン系繊維(ポリノジック繊維、溶剤紡糸セルロース繊維等)、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、ポリエーテルエーテルケトン繊維(PEEK繊維)等の各種耐アルカリ性繊維などが挙げられる。これらの耐アルカリ性繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、耐アルカリ性ガラス繊維、炭素繊維、PVA系繊維、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、アクリル繊維、アラミド繊維などが、コンクリート補強性を有しつつ、低コストで製造できる観点から有利に使用できる。耐アルカリ性繊維は、有機系繊維、例えば、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリプロピレン繊維)またはPVA系繊維であってもよい。
硬化後のセメントと繊維が良好に接着し水硬性材料の補強性をより一層向上させる観点からは、特にPVA系繊維が耐アルカリ性繊維として好ましい。耐アルカリ性繊維としてPVA系繊維を用いる場合、乾式紡糸で作製したPVA繊維または有機溶媒を用いた湿式紡糸で作製したPVA繊維を用いることが好ましい。
耐アルカリ性繊維の平均繊維径は100〜700μmであり、好ましくは200〜500μmである。平均繊維径が小さすぎる場合はセメントマトリックス中での繊維の均一分散が困難になる。また平均繊維径が大きすぎる場合は、十分な繊維強度を兼ね備えて工業的に安定生産するのが困難である。
耐アルカリ性繊維は、水硬性材料中の繊維の分散性と硬化後の補強性を両立させる観点から、そのアスペクト比が30〜500であることが好ましく、より好ましくは50〜450である。アスペクト比が500より大きい場合には繊維同士が絡むなどして繊維の分散性が著しく悪化することがある。アスペクト比が30より小さい場合には、繊維が抜けやすくなり十分な補強性を発揮できないことが多い。なお、アスペクト比とは、繊維長(L)と繊維径(D)との比(L/D)を意味している。
(PVA系繊維)
耐アルカリ性繊維としてPVA系繊維を用いる場合、下記の特性を有するPVA系繊維を用いることができる。PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーの重合度は、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が500〜20000程度(好ましくは800〜15000程度、さらに好ましくは1000〜10000程度)のものであってもよい。このうちでも、PVA系ポリマーの平均重合度は、強度の観点から1000以上であることが好ましく、1200以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらに好ましく、1750以上であることがなお好ましい。PVA系ポリマーは、平均重合度1000以上3000未満の中重合度品であってもよいが、平均重合度3000以上の高重合度品であってもよい。
PVA系ポリマーのけん化度も、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性の点から、例えば95モル%以上、より好ましくは98モル%以上であってもよい。けん化度は99モル%以上であってもよく、99.8モル%以上であってもよい。PVA系ポリマーのけん化度が低すぎると、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない場合が多い。
本発明に用いられるPVA系繊維は、このようなPVA系ポリマーを溶剤に溶解し、湿式、乾湿式、乾式のいずれかの方法により紡糸し、乾熱延伸する事により得られる。湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことである。乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。PVA系繊維は、紡糸後、必要に応じて延伸処理が行われてもよい。また、PVA系繊維で一般的に行われているアセタール化処理などが行われてもよい。
PVA系繊維の紡糸原液に用いられる溶剤としては、PVAを溶解することが可能な溶剤であれば特に限定されない。例えば水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコールなどの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明では、湿式紡糸を行う場合、溶剤としては有機系の溶剤を用いることが好ましい。この中でも、供給性、環境負荷への影響の観点から、DMSOが特に好ましい。紡糸原液中のポリマー濃度は、PVA系ポリマーの組成や重合度、溶剤の種類によって異なるが、6〜60質量%の範囲が一般的である。
乾式紡糸でも、上記の溶剤を用いることができる。その場合、水を用いても、有機系の溶剤を用いてもよい。
本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液にはPVA系ポリマー以外にも、目的に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、分解抑制剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤などの添加剤などが含まれていてもよい。
固化浴で用いられる溶媒は、紡糸原液で用いられる溶剤の種類に応じて適宜選択することができる。紡糸原液が水溶液の場合、固化浴としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する無機塩類や水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。紡糸原液が有機溶剤溶液の場合、固化浴としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。
本発明においては、乾式紡糸で得られる繊維、または有機溶剤を溶媒とする紡糸原液から湿式紡糸で得られる繊維が、繊維強度の点から好ましい。
固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させてもよく、抽出時に同時に原糸を湿延伸してもよい。また、湿延伸後、繊維を乾燥させ、必要に応じて、さらに乾熱延伸を行ってもよい。延伸を行う場合、総延伸倍率(湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積)として、例えば、5〜25倍、好ましくは8〜20倍程度の延伸を行ってもよい。このようにして製造されたPVA系繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルを付着させることにより、本発明に係る水硬性成形体用補強繊維として用いることができる。
(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、一般式(II)で表されるポリオキシアルキレンジアルキルエーテルまたはそれらの混合物であってもよい。水硬性材料の流動性をより一層向上させる観点から好ましいポリオキシアルキレンアルキルエーテルは一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルである。
Figure 2016124724
式(I)および(II)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素原子数が10〜22、好ましくは12〜20のアルキル基である。このようなアルキル基の具体例として、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、オクチルドデシル基、等が挙げられる。好ましいアルキル基は、ラウリル基である。
およびRはそれぞれ独立して炭素原子数が2〜4、好ましくは2〜3、より好ましくは2のアルキレン基である。このようなアルキレン基の具体例として、例えば、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基はエチレン基である。
mおよびnはそれぞれポリオキシアルキレン部におけるオキシアルキレン基の重合度であり、例えば、3〜13であり、流動性と圧縮強度のさらなる向上の観点から、好ましくは4〜10、より好ましくは6〜8である。
ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルの具体例として、例えば、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレンモノミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンモノセチルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノオクチルドデシルエーテル等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンジアルキルエーテルの具体例として、例えば、ポリオキシエチレンジラウリルエーテル、ポリオキシエチレンジミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンジセチルエーテル、ポリオキシエチレンジステアリルエーテル、ポリオキシエチレンジオクチルドデシルエーテル)等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、以下の市販品として入手可能である:
(エマルゲン105;花王製);(エマルゲン106;花王製);(エマルゲン108;花王製);(エマルゲン109P;花王製);(エマルゲン220;花王製);(エマルゲン306P;花王製)。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの付着量は、特に限定されるものではなく、水硬性材料の流動性のより一層向上とコストパフォーマンスの観点から好ましくは、耐アルカリ性繊維に対して0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜3重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは2種以上組み合わせて使用されてよく、その場合、それらの合計付着量が上記範囲内であればよい。付着量は後述の方法により測定することができる。
耐アルカリ性繊維表面におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの付着形態は、当該表面上にポリオキシアルキレンアルキルエーテルが存在する限り特に限定されない。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、耐アルカリ性繊維の表面の少なくとも一部を覆う形態で付着していてもよいし、または耐アルカリ性繊維の表面上に単に点在する形態で付着していてもよい。
(水硬性成形体用補強繊維の製造方法)
本発明の水硬性成形体用補強繊維は以下の工程を含む方法により製造することができる:
耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルの溶液または分散液を付着させる工程;および
耐アルカリ性繊維の表面から溶液または分散液それぞれの溶媒または分散媒を乾燥除去する工程。
(1)付着工程:
耐アルカリ性繊維を紡糸あるいは紡糸乾燥した後、耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルの溶液または分散液を付着させる。付着方法としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む溶液または分散液をローラーあるいはスプレーなどを用いて繊維に塗布する方法、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む溶液または分散液に繊維を浸漬して溶液または分散液を繊維表面に付着させる方法が挙げられる。このような付着処理は、複数の繊維からなる繊維トウ(fiber tow)に対して行ってもよい。耐アルカリ性繊維は、紡糸後、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを付着させる前に、必要に応じ、延伸および/または切断してもよい。なお、炭素繊維の場合は、紡糸乾燥後、さらに焼成工程を経た繊維トウに対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む溶液または分散液が付着されてもよい。溶媒または分散媒としては、水などを用いてもよい。なおこれらの液体には、必要に応じて各種添加剤が含まれていてもよい。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを付着させた後であって、乾燥除去工程前に、アスペクト比を調整するため、繊維を切断してもよい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは繊維の側面に付着していればよく、端面(断面)には必ずしも付着している必要はない。
(2)乾燥除去工程:
耐アルカリ性繊維の表面から溶液または分散液それぞれの溶媒または分散媒を乾燥除去する。乾燥温度は、耐アルカリ性繊維が有機繊維の場合、耐アルカリ性繊維を構成するポリマーの軟化点未満の温度であって、溶媒または分散媒が蒸発し得る温度であれば特に限定されず、通常は90〜160℃であり、好ましくは100〜130℃である。耐アルカリ性繊維が無機繊維の場合、乾燥温度は特に限定されず、通常は110〜200℃であり、好ましくは120〜180℃である。
本工程は、繊維の水分量が全繊維重量に対して、例えば0.1質量%未満になるまで行ってもよい。
[水硬性材料]
本発明の水硬性材料は少なくとも水硬性無機物質および上記の水硬性成形体用補強繊維を含む。このような水硬性材料は、繊維で補強された水硬性成形体の形成に用いることができる。この水硬性材料としては、セメントを含む組成物や石膏を含む石膏組成物などが挙げられる。セメントを含む水硬性材料として、セメントペースト、モルタル、コンクリートなどを挙げることができる。セメントペーストは、セメントと水を含む組成物であり、モルタルは、セメントと水と細骨材を含む組成物であり、コンクリート(フレッシュコンクリート)は、通常、セメントと水と細骨材と粗骨材を含む組成物である。これらの組成物には、必要に応じ、各種の混和材料(混和材・混和剤)が含まれ、本発明においては、補強繊維が含まれる。また水添加前の固形分の混合物からなるセメント組成物、モルタル用組成物、コンクリート用組成物も本発明に係る水硬性材料として挙げることができる。これらの組成物に水を添加して練り混ぜることにより、セメントペースト、モルタル、コンクリートなど、水を含有する状態の水硬性材料を形成することができる。
水硬性材料に含まれる水硬性無機物質としては、セメント、石膏などが挙げられる。セメント(水硬性セメント)としては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱セメント、中庸熱ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、エコセメントなどが挙げられる。また、石膏としては、2水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられる。これらの水硬性無機物質は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの水硬性無機物質は、通常粉末(微粒子)の状態で用いられ、添加された水と反応して凝結し、水硬性材料を硬化させる。
水硬性材料には、必要に応じ、各種の骨材が含まれていてもよい。例えば、そのような骨材として、細骨材、粗骨材などが挙げられる。これらの骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
細骨材としては、例えば、粒径が5mm以下である細かい粒子が挙げられる。このような粒径を満たす限り、特に限定されないが、例えば、細骨材として用いられる材料としては、川砂、山砂、海砂、砕砂、珪砂、鉱滓、ガラス砂、鉄砂、灰砂、炭酸カルシウム、人工砂等の砂類が挙げられる。
粗骨材は、粒径5mm以上の粒子が重量%で85%以上含まれる骨材である。粗骨材は、粒径5mm超の粒子からなるものであってもよい。例えば、各種砂利類、人工骨材(高炉スラグなど)、再生骨材(建築廃材の再生骨材など)などを用いることができる。
上記の骨材(細骨材及び/または粗骨材)には、軽量骨材が含まれていてもよい。軽量骨材としては、火山砂利、膨張スラグ、炭殻などの天然軽量骨材、発泡真珠岩、発泡パーライト、発泡黒よう石、バーミキュライト、シラスバルーン等の人工軽量骨材が挙げられる。
水硬性材料には、適宜、必要に応じて、各種の混和材料を混入してもよい。ここで、混和材料は、水硬性無機物質と水と骨材以外に、水硬性材料に混入される物質である。混和材料としては、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石灰石粉末、石英粉末などの混和材、またAE剤、流動化剤、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、保水剤、撥水剤、膨張剤、硬化促進剤、凝結遅延剤などを挙げることができる。これらの混和材料は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
補強繊維、水硬性無機物質、骨材、混和材料等の配合量及び水の添加量は、所望とする成形体に応じて、適宜調整できる。適宜公知の配合量を用いてもよい。ただし、本発明で用いられる水硬性成形体用補強繊維は、繊維自体の働きにより高い流動性を水硬性材料に対して与えることができるため、流動化剤などの使用量を低減し、水硬性成形体の強度を向上することができる。
本発明においては、水硬性材料に前記した水硬性成形体用補強繊維が混和される。水硬性材料の形態によって適宜選択することが可能であるが、例えば、補強繊維の質量Fとセメントの質量Cの比は、F/C=1/300〜100/1000であってもよく、好ましくは10/500〜70/800であってもよく、より好ましくは30/500〜50/700であってもよい。
本発明の水硬性材料では、例えば、水の質量をW、セメントの質量をCとしたときの、水セメント比(W/C)が15〜60%であってもよく、好ましくは18〜40%、より好ましくは20〜30%であってもよい。
流動性を表す指標として、本発明の水硬性材料のフロー値(後述のL値)は、水セメント比が20〜30%の場合、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの付着がないこと以外、本発明の水硬性材料と同様の水硬性材料のフロー値(後述のL値)よりも、大きい値であり、好ましくは5mm以上大きい値であり、より好ましくは15mm以上大きい値である。このフロー値は、JIS R 5201 セメントの物理試験方法 記載のフロー試験法により求めることができる。
前記水硬性材料を硬化することにより、水硬性成形体を得ることができる。このような水硬性成形体は、水硬性材料を用いて所望の形状に成形した後、硬化させたものであり、各種建設資材、土木資材として利用することができる。例えば、セメント含有組成物を材料とする建設資材(例えば、建築構造物の基礎、屋根材、外壁材、間仕切り、天井材など)、土木資材(例えば、橋梁、高速道路、トンネル、法面補強材、テトラポットなど)として有用に用いることができる。水硬性材料の成形工程、成形した水硬性材料の硬化工程は、公知の方法に従って行うことができる。
以上のとおり、本発明の好適な実施態様を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
[平均繊維径およびアスペクト比の測定方法]
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法(8.5.1)」に準じて平均繊維長を算出し、平均繊維径との比により繊維のアスペクト比を評価した。なお、平均繊維径については、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計100本について測定した平均値を平均繊維径とした。
[処理剤の付着量]
繊維試料(約5g)から、エタノール/トルエン混合溶剤によるソックスレー抽出法により、試料に対する処理剤の付着量を測定した。
[水硬性材料の流動性]
JIS R 5201 セメントの物理試験方法 記載の方法に準じて、水硬性材料を規格サイズのフローコーンに充填した。次いでフローコーンを取り去った後120秒後の時点で、広がった水硬性材料の径を最大と認める方向(ヨコ)と、これに直角な方向(タテ)とで測定し、その平均値をmmを単位とする整数で示した。処理剤の付着処理を行わなかった比較例の平均流動長(L)を基準として、各実施例/比較例での平均流動長(L)について評価した。)
◎;L+15≦L
○;L+5≦L<L+15;
△;L<L<L+5;(実用上問題なし);
×;L≦L
[水硬性成型体の強度測定試験]
JIS A 1108 コンクリートの圧縮強度試験方法による。ミキサーで混練されたモルタルを直径50mm、高さ100mmの型枠に流し込んだ後、20℃の室内で48時間封緘養生し脱型したものを湿布で包み温度90℃・湿度98%の恒温恒湿槽で48時間湿熱養生して強度試験に供した。圧縮強度試験は最大容量2000kNの万能試験機にて行った。処理剤の付着処理を行わなかった比較例の圧縮強度(S)を基準として、各実施例/比較例での圧縮強度(S)について評価した。
◎;S+7≦S
○;S+4≦S<S+7;
△;S<S<S+4;(実用上問題なし);
×;S≦L
[実施例A1]
ポリマー重合度1750、ケン化度99.9モル%のPVAを用い、PVA濃度が21質量%となるようにDMSOに溶解し紡糸原液とし、メタノールとDMSOの混合溶媒を固化浴に用いて湿式紡糸にて紡糸した。さらにメタノールでDMSOを抽出しながら、湿延伸、乾燥後、乾熱延伸(延伸温度230℃、総延伸倍率13倍)を実施した。延伸したPVA繊維に対して、表1に示すPOEモノアルキルエーテルの水溶液(当該化合物濃度:100g/L)をローラータッチにより表面に付着させた後、乾燥させることで、PVA繊維に対してPOEモノアルキルエーテルを付着させた。その後繊維長さ15mmに切断して、平均繊維径250μm、アスペクト比60のPVA系繊維を得た。
最大容量20Lのホバートミキサーに、普通セメント(太平洋セメント(株)製)600重量部、シリカフューム(EFACO社製)400重量部、細骨材(6.5号硅砂:最大径約1mm)900重量部、水150重量部、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤(竹本油脂(株)製「SSP−104」)25重量部を約2L容量になる容積で12分間混練し、出来上がったプレーンモルタルに、上記PVA繊維を20重量部添加し2分間の追加混練して、水硬性材料として繊維補強モルタルを作製した。
次いで、このモルタルを直径50mm、高さ100mmの型枠に流し込んだ後、20℃の室内で48時間封緘養生し、脱型したものを湿布で包み温度90℃・湿度98%の恒温恒湿槽で48時間湿熱養生し、水硬性成形体を作製した。
[実施例A2〜A4]
表1に示すPOEモノアルキルエーテルを用いたこと、および/または所定のPOEモノアルキルエーテルの付着量を表1に記載のように変更したこと以外は実施例A1と同様にして、PVA系繊維、水硬性材料および水硬性成形体を作製した。
[比較例A1]
POEモノアルキルエーテルを付着させることなく、PVA系繊維を得たこと以外は、実施例A1と同様にして、PVA系繊維、水硬性材料および水硬性成形体を作製した。
[比較例A2]
POEモノアルキルエーテルの代わりに、表1に示すPOEモノ脂肪酸エステルを付着させたこと以外は、実施例A1と同様にして、PVA系繊維、水硬性材料および水硬性成形体を作製した。
[比較例A3]
平均繊維径を表1に示す値に調整したこと以外は、実施例A1と同様にして、PVA系繊維、水硬性材料および水硬性成形体を作製した。混練中に繊維がダマになりファイバーボールを形成するなど均一分散ができなかった。
[実施例B1]
平均繊維径、アスペクト比およびPOEモノアルキルエーテルの付着量を表1に記載のように変更したこと以外は実施例A1と同様にして、PVA系繊維、水硬性材料および水硬性成形体を作製した。
[比較例B1]
POEモノアルキルエーテルを付着させることなく、PVA系繊維を得たこと以外は、実施例B1と同様にして、PVA系繊維、水硬性材料および水硬性成形体を作製した。
Figure 2016124724
本発明の水硬性成形体用補強繊維を配合したセメントペースト、モルタル、コンクリート等の水硬性材料の用途は特に限定されるものではなく、各種建設資材、土木資材として利用することができる。

Claims (10)

  1. 平均繊維径100〜700μmの耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルが付着している、水硬性成形体用補強繊維。
  2. ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの付着量は耐アルカリ性繊維に対して0.1〜5質量%である、請求項1に記載の水硬性成形体用補強繊維。
  3. ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのアルキル基は炭素原子数が10〜22である、請求項1または2に記載の水硬性成形体用補強繊維。
  4. 耐アルカリ性繊維はポリビニルアルコール系繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維。
  5. 耐アルカリ性繊維は30〜500のアスペクト比を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維。
  6. 水硬性無機物質および請求項1〜5のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維を含む、水硬性材料。
  7. 水硬性無機物質はセメントである、請求項6に記載の水硬性材料。
  8. 水硬性成形体用補強繊維の質量Fとセメントの質量Cの比F/Cは1/300〜100/1000の範囲にある、請求項7に記載の水硬性材料。
  9. 請求項1〜5のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維の製造方法であって、
    耐アルカリ性繊維の表面にポリオキシアルキレンアルキルエーテルの溶液または分散液を付着させる工程;および
    耐アルカリ性繊維の表面から溶液または分散液それぞれの溶媒または分散媒を乾燥除去する工程;
    を含む、方法。
  10. 水硬性成形体の製造方法であって、
    少なくとも水硬性無機物質、請求項1〜5のいずれかに記載の水硬性成形体用補強繊維および水を練り混ぜて、水硬性材料を形成する工程;および
    水硬性材料を成形した後、硬化する工程;
    を含む、方法。
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