JP2016113959A - 排気還流制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】排気還流制御装置に関し、筒内の燃焼状態を改善する。【解決手段】エンジン10に設けられたEGR弁22,26の開度及び流量の対応関係を変更する排気還流制御装置に関する。エンジン10の吸気温度の目標値TEと計測値TRとの温度差ΔTを算出する算出部2を備える。また、算出部2で算出された温度差ΔTが閾値以上ならば、温度差ΔTが小さくなるように、EGR弁22,26の開度及び流量の対応関係を変更する制御部6を備える。【選択図】図1

Description

本発明は、エンジンの吸気系に排気の一部を還流させる排気還流制御装置に関する。
従来、車両に搭載されるエンジンの排気ガスを排気系から吸気系へと再循環させることで、燃費や環境性能を改善する排気還流制御装置が知られている。すなわち、排気通路と吸気通路との間をEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路で接続し、排気ガスの一部をEGRガスとして、再びシリンダに導入するものである。EGR通路上には、EGRガスが吸気系に導入されるタイミングやEGRガスの流量(EGR量)を調節するためのEGR弁が設けられ、エンジンの運転状態に応じてその開度が制御される。
一方、EGR弁を通過するEGRガスの流量は、たとえEGR弁の開度が一定であったとしても、吸気系及び排気系の圧力差に応じて変動する。つまり、EGR弁の開度とEGR量との対応関係は、エンジンの運転状態や環境条件によって変化しうる。そこで、これらの対応関係が規定される「開度流量マップ」を適宜補正,更新することで、EGRガスの流量を適正化することが提案されている。例えば、エンジンのアイドリング運転中に吸気温度と予め設定された基準値との温度差を算出し、この温度差に基づいてEGR弁の開度流量マップを修正する技術が存在する(特許文献1参照)。
特許第4858289号公報
しかしながら、EGR弁の開度流量マップは、全てのEGR制御に影響を及ぼす基本的な設定データであるため、その内容を安易に修正すると、EGRガスの流量を適切に制御することができない場合がある。例えば、エンジンに作用する負荷の大きさは、アイドリング運転中であっても環境条件(外気温,外気圧)や外部負荷装置(空調装置,各種電装品,自動変速機等)の作動状態に応じて変動する。このような一時的な負荷変動の影響が開度流量マップに反映されてしまうと、筒内に導入されるEGR量に過不足が生じうる。したがって、開度流量マップを補正,更新するための条件は、より慎重に判断することが望まれる。
本件は上記のような課題に鑑み創案されたものであり、排気還流制御装置に関し、筒内の燃焼状態を改善することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
(1)ここで開示する排気還流制御装置は、エンジンに設けられたEGR弁の開度及び流量の対応関係を変更する排気還流制御装置である。この排気還流制御装置は、前記エンジンの吸気温度の目標値と計測値との温度差を算出する算出部を備える。また、前記算出部で算出された前記温度差が閾値以上ならば、前記温度差が小さくなるように前記対応関係を変更する制御部を備える。前記制御部は、前記エンジンの負荷が高いほど前記閾値の絶対値を大きくする。
ここでいう「前記温度差が閾値以上」とは、前記目標値と前記計測値とが離れた状態であることを表現したものである。ここで、前記目標値及び前記計測値の何れか一方から他方を減じたものを前記温度差として定義すれば、これを「前記温度差の絶対値が前記閾値以上」と言い換えることができる。また、「前記エンジンの負荷が高いほど前記閾値の絶対値を大きくする」とは、前記エンジンの負荷が高まるほど、前記目標値と前記計測値とがより離れた状態にならなければ、前記制御部が前記対応関係を変更する制御を実施しないことを表現したものである。
前記EGR弁は、前記エンジンの排気系から吸気系へと排気ガスの一部を還流させるEGR通路上に介装される。前記吸気温度の目標値は、前記エンジンの運転状態に基づいて設定されるものであってもよいし、予め設定された固定値であってもよい。また、前記計測値は、前記エンジンの吸気系に設けられた温度センサで検出されたものであってもよいし、吸気系で検出された他の吸気関連パラメータ(例えば、インマニ圧,吸気酸素濃度等)に基づいて推定演算された前記吸気温度の推定値であってもよい。
(2)前記算出部が、前記計測値から前記目標値を減じて前記温度差を算出することが好ましい。この場合前記制御部が、前記閾値として、第一閾値と第二閾値とを有することが好ましい。前記第一閾値は、前記温度差が負の場合に前記対応関係を変更するための前記閾値であり、前記第二閾値は、前記温度差が正の場合に前記対応関係を変更するための前記閾値である。
(3)前記第一閾値の絶対値が、前記第二閾値の絶対値よりも大きいことが好ましい。
ここで、前記温度差が小さくなるように前記対応関係を変更する制御のことを「学習制御」と呼ぶ。前記第一閾値は、前記目標値よりも前記計測値が小さい場合(吸気温度が低温である場合)に、前記学習制御を実施するための前記閾値である。一方、前記第二閾値は、前記目標値よりも前記計測値が大きい場合(前記吸気温度が高温である場合)に、前記学習制御を実施するための前記閾値である。つまり、前記吸気温度が低温である場合には、高温である場合よりも前記学習制御を実施されにくくすることが好ましい。
(4)前記制御部は、前記温度差が負の場合に前記対応関係を変更するための前記エンジンの第一最小負荷を、前記温度差が正の場合に前記対応関係を変更するための前記エンジンの第二最小負荷よりも高い値に設定することが好ましい。
つまり、前記目標値よりも前記計測値が小さい場合(前記吸気温度が低温である場合)には、高温である場合よりも前記エンジンが高負荷の状態でなければ前記学習制御が実施されないようにすることが好ましい。
(5)なお、前記第二最小負荷が、前記エンジンのアイドル負荷と同一値であり、前記第一最小負荷が、前記アイドル負荷よりも大きい値であることが好ましい。
(6)また、前記制御部は、前記エンジンの負荷が前記第一最小負荷未満ならば前記負荷が高いほど前記第二閾値を小さくし、前記エンジンの負荷が前記第一最小負荷以上ならば前記負荷が高いほど前記第二閾値を大きくすることが好ましい。
(7)前記制御部は、前記エンジンの単位負荷あたりの前記第一閾値の変化勾配の絶対値を、前記エンジンの単位負荷あたりの前記第二閾値の変化勾配の絶対値と同一の勾配に設定することが好ましい。
ここで開示する排気還流制御装置では、エンジンの負荷が高いほど、EGR弁の開度及び流量の対応関係を変更する制御(学習制御)を実施するための閾値が大きな値となる。つまり、エンジンの負荷が高いほど、EGR弁の開度及び流量の対応関係を変更されにくくすることができ、恒常的でない温度差による補正を回避することができる。これにより、EGR弁の開度の過剰な変更を抑制することができ、筒内に導入されるEGR量の変動を抑制することができる。したがって、エンジンの筒内における燃焼状態を改善することができる。
実施形態の排気還流制御装置及びエンジンの構成を例示する図である。 排気還流制御装置で実施される制御を説明するための図である。 排気還流制御装置で実施される制御を説明するための図であり、(A)は学習領域を示すマップ、(B)は閾値の設定に関するマップである。 エンジンの負荷と高圧EGR量及び低圧EGR量との関係を例示するグラフである。 制御手順を示すフローチャート例である。
図面を参照して、実施形態としての排気還流制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.エンジン]
本実施形態の排気還流制御装置は、図1に示すデュアルループEGRシステムを備えたエンジン10に適用される。図1中には、エンジン10に設けられる複数のシリンダのうちの一つを例示する。このエンジン10は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、車両の走行状態に応じて拡散燃焼運転と予混合燃焼運転とを切り替えて実施する。拡散燃焼運転とは、エンジン10の筒内で拡散燃焼(拡散圧縮自着火燃焼)を実現する運転モードである。一方、予混合燃焼運転とは、エンジン10の筒内で予混合燃焼(予混合圧縮自着火燃焼)を実現する運転モードである。本実施形態のエンジン10では、これらの二種類の燃焼状態が車両の走行状態に応じて使い分けられる。
シリンダの頂面には、吸気ポート,排気ポートが設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁,排気弁が設けられる。また、筒内の上部には、筒内噴射弁11がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。筒内噴射弁11は、各々の筒内に燃料を噴射する直噴インジェクターであり、高圧の燃料が内部に蓄えられたコモンレール(蓄圧室)に接続される。
筒内噴射弁11から供給される燃料噴射量や噴射タイミングは、エンジン制御装置1で制御される。例えば、エンジン制御装置1から筒内噴射弁11に制御パルス信号が伝達されると、筒内噴射弁11の噴孔がその制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ開放される。なお、燃料噴射量は、コモンレール内のレール圧や制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、燃料噴射時期(噴射タイミング)は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
エンジン10の吸気通路12及び排気通路13には、排気圧を利用して吸気通路12上の空気を筒内へと強制的に送り込むことで過給するターボチャージャー14(過給機)が介装される。ターボチャージャー14は、タービン,コンプレッサの互いの回転軸が軸受を介して連結された構造を持つ。タービンは排気通路13上に配置され、コンプレッサは吸気通路12上に配置される。ターボチャージャー14の作動状態は、エンジン10の運転状態に応じてエンジン制御装置1で制御される。
吸気通路12には、上流側から順にエアクリーナー(フィルター)16,低圧スロットル弁17,ターボチャージャー14,インタークーラー18,高圧スロットル弁19が設けられる。一方、排気通路13には、ターボチャージャー14よりも下流側に排気浄化装置15が介装される。この排気浄化装置15には、DOC(ディーゼル酸化触媒)15AやDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)15B等が内蔵される。
また、このエンジン10には、排気の一部を吸気側に再循環させるための二系統のEGR通路、すなわち、高圧EGR通路20,低圧EGR通路23が設けられる。高圧EGR通路20は、吸気通路12及び排気通路13においてターボチャージャー14よりもシリンダに近い部分同士を連通するEGR通路であり、吸気通路12におけるターボチャージャー14(コンプレッサ)よりも下流側と、排気通路13におけるターボチャージャー14(タービン)よりも上流側とを接続する。本実施形態の高圧EGR通路20は、吸気通路12との接続箇所(出口箇所)が高圧スロットル弁19よりも下流側に設定される。また、高圧EGR通路20には、高圧EGRクーラー21及び高圧EGR弁22(EGR弁の一つ)が介装される。高圧EGR通路20を介して吸気系に導入されるEGRガスの量(高圧EGR量)は、吸気系及び排気系の圧力差や、高圧EGR通路20を流れるEGRガスの圧力,高圧EGR弁22の開度等に応じた量となる。
低圧EGR通路23は、吸気通路12及び排気通路13においてターボチャージャー14よりもシリンダから遠い部分同士を連通するEGR通路であり、吸気通路12におけるターボチャージャー14(コンプレッサ)よりも上流側と、排気通路13におけるターボチャージャー14(タービン)よりも下流側とを接続する。本実施形態の低圧EGR通路23は、排気通路13との接続箇所(入口箇所)が排気浄化装置15よりも下流側に設定されるとともに、吸気通路12との接続箇所(出口箇所)が低圧スロットル弁17よりも下流側に配置される。また、低圧EGR通路23には、低圧EGRフィルタ24,低圧EGRクーラー25,低圧EGR弁26(EGR弁の一つ)が介装される。低圧EGR通路23を介して吸気系に導入されるEGRガスの量(低圧EGR量)は、吸気系及び排気系の圧力差や、低圧EGR通路23を流れるEGRガスの圧力,低圧EGR弁26の開度等に応じた量となる。
高圧EGR弁22及び低圧EGR弁26の弁開度は可変であり、エンジン制御装置1において、エンジン10の運転状態に応じて制御される。例えば、エンジン10の運転状態に応じて、所望の高圧EGR量及び低圧EGR量が算出され、各々のEGR量に対応する弁開度となるように、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26のそれぞれの開度が制御される。また、本実施形態では、所望のEGR量と弁開度との対応関係を補正し、その補正内容を記録,更新することによって適切な制御量を学習する学習制御が実施される。この学習制御の具体的な内容については後述する。
高圧スロットル弁19は、吸気通路12における高圧EGR通路20との接続箇所よりも上流であって、低圧EGR通路23との接続箇所よりも下流に配置される。また、低圧スロットル弁17は、吸気通路12における低圧EGR通路23との接続箇所よりも上流であって、エアクリーナー16よりも下流側に配置される。高圧EGR通路20を通過するEGR量は、高圧スロットル弁19の開度を増大させるほど減少する特性を持つ。同様に、低圧EGR通路23を通過するEGR量も、低圧スロットル弁17の開度を増大させるほど減少する特性を持つ。
エンジン10のクランクシャフトの近傍には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ31が設けられる。また、吸気通路12の高圧スロットル弁19よりも下流側には、筒内に導入される吸気の圧力(インマニ圧P)を計測するインマニ圧センサ32と、吸気中の酸素濃度(吸気酸素濃度D)を検出する酸素濃度センサ33と、筒内に導入される直前の吸気の温度(インマニ温度TR)を検出する吸気温センサ37とが設けられる。以下、吸気温センサ37で検出される温度のことを、実吸気温度TRと呼ぶ。
実吸気温度TRは、高圧EGR通路20を介して吸気通路12に導入されるEGRガスの温度(高圧EGRガス温度)よりも低温である。また、実吸気温度TRは、低圧EGR通路23を介して吸気通路12に導入されるEGRガスの温度(低圧EGRガス温度)よりも高温である。したがって、実吸気温度TRは、高圧EGR量及び低圧EGR量のそれぞれを増減させることによって調節可能である。以下、実吸気温度TRが上昇するようにEGR量を増減させる操作のことを「昇温操作」と呼び、実吸気温度TRが低下するようにEGR量を増減させる操作のことを「降温操作」と呼ぶ。高圧EGR量を増加させる操作や低圧EGR量を減少させる操作は昇温操作に含まれ、高圧EGR量を減少させる操作や低圧EGR量を増加させる操作は降温操作に含まれる。
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度APS)を検出するアクセル開度センサ34と、シフトレバーの操作位置SPを検出するシフトポジションセンサ35と、車速Vを検出する車速センサ36とが設けられる。アクセル開度APSやその時間変化率ΔAPSは、例えば運転手がエンジン10に要求する出力(トルク)の大きさに対応するパラメータとされる。また、シフトレバーの操作位置SPは、車両に搭載される変速機の変速ギア段(例えば1速,2速,…,6速等)に対応する。上記の各種センサ31〜37で検出された各種情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
[2.エンジン制御装置]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置,排気還流制御装置)が設けられる。エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダに供給される吸入空気量や燃料噴射量,燃料噴射時期,EGR量等を制御するものである。エンジン制御装置1は、車載ネットワーク網を介して、他の電子制御装置(例えば、変速機ECU,エアコンECU,ブレーキECU,車体制御ECU,ボディECU等)や各種センサ31〜37に接続される。
このエンジン制御装置1は、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサ(マイクロプロセッサ)やROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリ等を集積した電子デバイスである。プロセッサは、制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路),キャッシュメモリ(レジスタ群)等を内蔵する演算処理装置である。また、ROM,RAM及び不揮発メモリは、プログラムや作業中のデータが格納されるメモリ装置である。エンジン制御装置1での制御内容は、例えばアプリケーションプログラムとしてROM,RAM,不揮発メモリ,リムーバブルメディア内に記録される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容がRAM内のメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
エンジン制御装置1には、各EGR弁22,26の開度及び流量の対応関係を表す「開度流量マップ」が予め用意されており、このマップに基づいて、目標とするEGR量に対応する弁開度を設定,制御する機能を持つ。また、エンジン制御装置1は、車両の走行状態に応じて、各EGR弁22,26のそれぞれについて、開度及び流量の対応関係を変更する学習制御を実施する。
学習制御では、開度及び流量の対応関係が補正されるとともに、補正後の対応関係が記録される。本実施形態の学習制御では、開度流量マップから得られる弁開度(目標とするEGR量に対応する弁開度)に乗算される補正用の係数KA,KBの値が補正,記憶されるとともに、係数KA,KBが乗算された弁開度に基づいて、実際の各EGR弁22,26の開度が制御される。係数KA,KBの初期値は1.0であり、学習の過程でKA,KBの値が変更されることになる。
エンジン制御装置1には、学習制御を実施するための要素として、算出部2及び制御部6が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよい。あるいは、これらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。なお、ソフトウェアは、エンジン制御装置1内のROMや補助記憶装置に記録,保存してもよいし、エンジン制御装置1が読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
[2−1.算出部]
算出部2には、目標温度算出部3,基本開度算出部4,温度差算出部5が設けられる。
目標温度算出部3は、筒内に導入される吸気の目標温度(吸気温度の目標値)を目標吸気温度TEとして算出するものである。ここではまず、アクセル開度APS及びエンジン回転数Neに基づいて、エンジン10の負荷Ec(エンジン10の目標トルクに対応するパラメータ)が算出される。また、目標吸気温度TEは、エンジン回転数Ne及び負荷Ecに基づいて算出される。ここで算出された目標吸気温度TEの情報は、温度差算出部5に伝達される。
負荷Ec,目標吸気温度TEの値は、例えばアクセル回転マップ,回転負荷マップを用いて算出される。アクセル回転マップには、少なくともアクセル開度APS,エンジン回転数Ne,負荷Ecの三者の関係が規定され、好ましくはエンジン冷却水温を含む四者の関係が規定される。同様に、回転負荷マップには、エンジン回転数Ne,負荷Ec,目標吸気温度TEの三者の関係が規定され、好ましくはエンジン冷却水温を含む四者の関係が規定される。
基本開度算出部4は、目標とするEGR量に基づき、各EGR弁22,26の基本開度を算出するものである。高圧基本開度VAは、高圧EGR弁22の基本開度であり、低圧基本開度VBは、低圧EGR弁26の基本開度である。これらの基本開度は、吸気の状態が標準状態(例えば、圧力が1気圧,温度が20℃,相対湿度が65%の状態)であるときに、エンジン10の出力が負荷Ecに対応する大きさとなるEGR量を与える基本的な開度である。ここで算出された高圧基本開度VA,低圧基本開度VBの値は、開度制御部9に伝達される。
上記の基本開度VA,VBの値は、例えば低圧EGR用回転負荷マップ,高圧EGR用回転負荷マップを用いて算出される。低圧EGR用回転負荷マップには、少なくともエンジン回転数Ne,負荷Ec,低圧基本開度VBの三者の関係が規定され、好ましくは吸気酸素濃度D,インマニ圧P,エンジン冷却水温等を含む関係が規定される。同様に、高圧EGR用回転負荷マップには、少なくともエンジン回転数Ne,負荷Ec,高圧基本開度VAの三者の関係が規定され、好ましくは吸気酸素濃度D,インマニ圧P,エンジン冷却水温等を含む関係が規定される。
温度差算出部5は、目標吸気温度TEを吸気温度の計測値から減じた温度差ΔTを算出するものである。ここでいう計測値には、吸気温度の「実測値」及び「推定値」の両方が含まれ、またこれらに基づいて算出される「演算値」も含まれる。すなわち、吸気温センサ37で検出された実吸気温度TRだけでなく、吸気温度に影響を与えるパラメータについての実測値に基づいて推定された吸気温度の推定値も、計測値の一つとなりうる。
また、温度差算出部5は、エンジン10の負荷Ecに基づいて、学習制御の実施条件に関する第一閾値A,第二閾値Bを算出する。これらは、学習制御を実施するか禁止するかを判断するための温度差ΔTについての閾値である。第一閾値Aは、温度差ΔTが負の場合に学習制御を実施するための閾値であり、第二閾値Bは、温度差ΔTが正の場合に学習制御を実施するための閾値である。
図2に示すように、温度差ΔTが負ならば、温度差ΔTが第一閾値A以下の場合に学習制御が実施され、温度差ΔTが第一閾値Aを超える場合に学習制御が禁止される。また、温度差ΔTが正ならば、温度差ΔTが第二閾値B以上である場合に学習制御が実施され、温度差ΔTが第二閾値B未満である場合に学習制御が禁止される。これらの第一閾値A,第二閾値Bの値は、エンジン10の負荷Ecに応じて設定される。ここで算出された第一閾値A及び第二閾値Bの情報は、制御部6に伝達される。
閾値A,Bの値は、負荷Ecと閾値A,Bとの関係が規定された閾値マップを用いて算出される。図3(A),(B)に閾値マップを例示する。閾値マップには、少なくとも閾値A,Bの各々と負荷Ecとの関係が規定される。閾値マップ上で第一閾値Aは負の値を持ち、エンジン10の負荷Ecが第一最小負荷Ec1のときに最大値A1をとり、負荷Ecが増大するに連れて小さくなる特性が与えられる。一方、第二閾値Bは正の値を持ち、エンジン10の負荷Ecが第二最小負荷Ec2以上、第一最小負荷Ec1未満の範囲では負荷Ecが高いほど小さくなり、エンジン10の負荷Ecが第一最小負荷Ec1以上の範囲では負荷Ecが高いほど大きくなる特性が与えられる。
第二閾値Bは、負荷Ecが第二最小負荷Ec2であるときに所定値B2をとり、負荷Ecが第一最小負荷Ec1であるときに最小値B1をとる。ここで、第一最小負荷Ec1は、エンジン10のアイドル負荷Ec0よりも大きな値を持ち、第二最小負荷Ec2はアイドル負荷Ec0と同一値に設定される。アイドル負荷Ec0は、アイドリング状態のエンジン10に作用する負荷であり、例えばエンジン10の摩擦損失,吸排気損失,機械的損失等の合計に対応する負荷である。
したがって、学習制御が実施されるのは、負荷Ec及び温度差ΔTが図3(A)中に斜線でハッチングされた領域内にある場合に限られる。ここで、学習制御の実施領域のうち、温度差ΔTが負となる領域を第一学習領域と呼び、温度差ΔTが正となる領域を第二学習領域と呼ぶ。第二学習領域が第二最小負荷Ec2(アイドル負荷Ec0)以上の全負荷範囲にわたって設けられるのに対し、第一学習領域は第一最小負荷Ec1以上の範囲のみに設けられる。つまり、エンジン10がアイドリング状態に近い低負荷低回転の状態であれば、少なくとも温度差ΔTが正でなければ学習制御は実施されない。
また、第一閾値Aは、負荷Ecが高いほどその絶対値|A|が大きくなる(すなわち負方向に増大する)特性を持つ。同様に、第二閾値Bも、第一最小負荷Ec1以上の範囲では、負荷Ecが高いほどその絶対値|B|が大きくなる(すなわち正方向に増大する)特性を持つ。つまり、第一最小負荷Ec1以上の範囲では、負荷Ecが高いほど第一閾値Aと第二閾値Bとの間隔が広げられ(すなわち、二つの閾値A,Bの距離が離れ)、学習制御の禁止領域が拡大される。言い換えれば、閾値マップにおける第一最小負荷Ec1以上の範囲には、負荷Ecが高くなるに連れて学習制御の実施領域が狭められ、学習制御が実施されにくくなる特性が与えられる。
エンジン10の負荷Ecが第二最小負荷Ec2以上、第一最小負荷Ec1未満の範囲では、第二学習領域のみが設定される。この範囲内で設定される第二閾値Bの値は、負荷Ecが低いほどその絶対値|B|が大きくなる特性を持つ。つまり、第一最小負荷Ec1未満の範囲では、負荷Ecが低いほど学習制御の禁止領域が拡大される。言い換えれば、閾値マップにおける第一最小負荷Ec1未満の範囲には、負荷Ecが低くなるに連れて学習制御の実施領域が狭められ、学習制御が実施されにくくなる特性が与えられる。
図3(B)は、第一閾値Aの絶対値|A|と第二閾値Bの絶対値|B|との関係を示すグラフである。これらの閾値A,Bは、常に|A|>|B|が成立するように設定される。したがって、第一学習領域での学習制御は、第二学習領域での学習制御よりも実施されにくい特性が与えられる。
また、第一閾値A,第二閾値Bの絶対値|A|,|B|に関して、エンジン10の単位負荷あたりの変化勾配(d|A|/dEc,d|B|/dEc)は、互いに同一となるように設定される。つまり、図3(B)中における絶対値|A|の傾きは、絶対値|B|の傾きと同一とされる。これにより、負荷Ecが変動したときの第一閾値Aの変化量と第二閾値Bの変化量とが同一となり、第一学習領域での学習制御の開始されやすさ(開始されにくさ)と第二学習領域での学習制御の開始されやすさ(開始されにくさ)とが同程度に変化することになる。
[2−2.制御部]
制御部6には、条件判定部7,指示開度設定部8,開度制御部9が設けられる。
条件判定部7は、学習制御を実施するための条件を判定するものである。ここでは、エンジン10が定常運転中であり、かつ、温度差ΔTが学習制御の実施領域内にある場合に、学習制御の実施条件が成立するものと判定される。エンジン10が定常運転中であるか否かは、エンジン回転数Ne,負荷Ec,アクセル開度APS,車速V,エンジン冷却水温等に基づいて判定される。例えば、エンジン10のアイドリング運転時や、車速Vの変動が比較的少ない定速走行時,エンジン回転数Ne及び負荷Ecの変動が比較的少ない安定走行時には、エンジン10が定常運転中であると判断される。また、温度差ΔTの条件は、その時点における温度差ΔTが第一閾値A以下であるか、第二閾値B以上である場合に成立する。ここでの判定結果は、指示開度設定部8に伝達される。
指示開度設定部8は、条件判定部7での判定結果に応じて係数KA,KBの値を変更するものである。第一係数KAは、高圧EGR弁22の開度を補正するための係数であり、第二係数KBは、低圧EGR弁26の開度を補正するための係数である。
学習制御を実施するための条件が成立しない場合、指示開度設定部8は、係数KA,KBの値を変更せず、前回の値をそのまま保持する。何も学習されていない状態での係数KA,KBの初期値はともに1.0である。
一方、学習制御の実施条件が成立したときに、温度差ΔTが負であれば、第一係数KAの値が増加方向に補正される。このとき、第二係数KBの値を減少方向に補正してもよい。補正後の第一係数KA,第二係数KBの値は、開度制御部9に伝達される。これにより、低圧EGR量に対する高圧EGR量の割合が増大し、吸気温度の計測値(実吸気温度TR)が上昇するため、温度差ΔTが上昇する。このような昇温操作は、温度差ΔTが第一閾値Aを超えるまで繰り返され、温度差ΔTが第一閾値Aを超えた時点で第一係数KA,第二係数KBの補正が完了し、その値がメモリに記録される。
また、学習制御の実施条件が成立したときに、温度差ΔTが正であれば、第二係数KBの値が増加方向に補正される。このとき、第一係数KAの値を減少方向に補正してもよい。補正後の第一係数KA,第二係数KBの値は、開度制御部9に伝達される。これにより、高圧EGR量に対する低圧EGR量の割合が増大し、吸気温度の計測値(実吸気温度TR)が低下するため、温度差ΔTが減少する。このような降温操作は、温度差ΔTが第二閾値Bを下回るまで繰り返され、温度差ΔTが第二閾値B未満になった時点で第一係数KA,第二係数KBの補正が完了し、その値がメモリに記録される。
開度制御部9は、基本開度算出部4で算出された高圧基本開度VA,低圧基本開度VBと指示開度設定部8で設定された第一係数KA,第二係数KBとに基づき、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の開度を制御するものである。高圧EGR弁22に伝達される開度指令値に対応する指示開度は、高圧基本開度VAと第一係数KAとの積で与えられる。同様に、低圧EGR弁26の指示開度は、低圧基本開度VBと第二係数KBとの積で与えられる。開度制御部9は、それぞれの指示開度に対応する開度指令値を高圧EGR弁22,低圧EGR弁26に伝達する。
このように、開度制御部9は、高圧基本開度VA,低圧基本開度VBに第一係数KA,第二係数KBを乗じた値に基づいて、各EGR弁22,26の開度を制御する。つまり、開度制御部9は、低圧EGR用回転負荷マップや高圧EGR用回転負荷マップに規定された各EGR弁22,26の開度及び流量(EGR量)の対応関係を変更する制御部として機能する。また、変更された第一係数KA,第二係数KBの値は、温度差ΔTが第一閾値Aを超えた時点で、又は第二閾値B未満になった時点でメモリに記録され、その後の各EGR弁22,26の開度制御に反映される。本実施形態の学習制御では、これらの第一係数KA,第二係数KBの値が記録,更新され、適切な開度制御量を与えるためのパラメータとして学習される。
[3.フローチャート]
図5は、学習制御の手順を例示するフローチャートであり、エンジン制御装置1内において所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップA1では、エンジン制御装置1に各種情報が入力される。ここでは、エンジン回転数Ne,アクセル開度APS,車速V,実吸気温度TR,インマニ圧P,吸気酸素濃度D,シフトレバーの操作位置SP等の情報が取得される。
ステップA2では、目標温度算出部3において、エンジン回転数Ne及び負荷Ecに基づいて目標吸気温度TEが算出される。また、ステップA3では、基本開度算出部4において、エンジン回転数Ne及び負荷Ecに基づいて高圧基本開度VAと低圧基本開度VBとが算出される。そしてステップA4では、吸気温度の計測値(例えば実吸気温度TR)から目標吸気温度TEを減じた温度差ΔTが算出されるとともに、その時点での第一閾値A,第二閾値Bが算出される。これらの閾値A,Bの値は、エンジン10の負荷Ecに基づき、例えば図3(A)に示すようなマップから算出される。
ステップA5では、条件判定部7において、エンジン10が定常運転中であるか否かが判定される。エンジン10が定常運転中である場合にはステップA6に進み、そうでない場合にはステップA8に進む。ステップA8では、指示開度設定部8において、前回の演算周期で設定された係数KA,KBの値がそのまま保持される。なお、何も学習されていない状態での係数KA,KBの初期値はともに1.0である。
ステップA6では、条件判定部7において、温度差ΔTが学習制御の実施領域内にあるか否かが判定される。ここで、A<ΔT<Bである場合には、温度差ΔTが学習領域外にあるため、ステップA8に進む。一方、ΔT≦A又はB≦ΔTである場合には、温度差ΔTが学習領域内にあるため、ステップA7に進んで温度差ΔTの正負が判定される。ここで温度差ΔTが正のときには降温操作のためのステップA9に進み、第一係数KAの値が減少方向に補正されるとともに、第二係数KBの値が増加方向に補正される。ただし、少なくとも低圧EGR量を増加させれば温度差ΔTが低下することから、第二係数KBを増加させる補正のみを実施してもよい。また、ステップA7で温度差ΔTが負のときには昇温操作のためのステップA10に進み、第一係数KAの値が増加方向に補正されるとともに、第二係数KBの値が減少方向に補正される。ただし、少なくとも高圧EGR量を増加させれば温度差ΔTが上昇することから、第一係数KAを増加させる補正のみを実施してもよい。
ステップA8〜10に続くステップA11では、指示開度設定部8において、高圧基本開度VAと第一係数KAとを乗じた値が高圧EGR弁22の指示開度として算出されるとともに、低圧基本開度VBと第二係数KBとを乗じた値が低圧EGR弁26の指示開度として算出される。そしてステップA12では、開度制御部9から高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の各々へと開度指令値が伝達され、各EGR弁22,26の開度が指示開度に一致するように制御される。
[4.作用,効果]
図4は、エンジン回転数Neが一定であると仮定したときのエンジン10の負荷Ecと高圧EGR量及び低圧EGR量との関係を例示するグラフである。図中に太実線で示す高圧EGR量は、負荷Ecが比較的低い状態で大量に導入され、負荷Ecの増加に伴って減少する。一方、負荷Ecが第一最小負荷Ec1以上の範囲では、温度差ΔTに応じて高圧EGR量が増量補正される。したがって、負荷Ecと高圧EGR量との関係は、太破線で示すような特性に変化する。
また、図中に細実線で示す低圧EGR量は、負荷Ecが比較的低い状態ではあまり導入されず、負荷Ecが比較的高い状態で大量に導入される。一方、低圧EGR量は負荷Ecがアイドル負荷Ec0以上の範囲で温度差ΔTに応じて増量補正される。したがって、負荷Ecと低圧EGR量との関係は、細破線で示すような特性に変化する。
(1)上記のエンジン制御装置1(排気還流制御装置)では、図3(A)に示すようなマップに基づいて、学習制御を実施するための閾値A,Bが算出される。この閾値マップでは、エンジン10の負荷Ecが高いほど、第一閾値A及び第二閾値Bの絶対値|A|,|B|が大きくなるように、第一閾値A及び第二閾値Bが与えられる。
つまり、エンジン10の負荷Ecが高いほど、学習制御が開始されにくくなり、各EGR弁22,26の開度及び流量の対応関係が変更されにくくなる。したがって、恒常的でない温度差ΔTによる補正(例えば、天候変化による一時的な温度変化)を回避することができ、各EGR弁22,26の開度の過剰な変更(過補正)を抑制することができ、筒内に導入されるEGR量の変動を抑制することができ、エンジン10の筒内における燃焼状態を改善することができる。
(2)上記のエンジン制御装置1では、目標吸気温度TEと実吸気温度TRとの大小関係に応じた二種類の閾値(第一閾値A,第二閾値B)が設定される。第一閾値Aは、温度差ΔTが負の場合に学習制御を実施するための閾値であり、第二閾値Bは、温度差ΔTが正の場合に学習制御を実施するための閾値である。このように、吸気温度の目標値に対してその計測値が高い場合と低い場合とで異なる基準を与えることにより、吸気温度を上昇させる制御と吸気温度を低下させる制御との開始されやすさを個別に設定することができ、燃焼安定性への影響を考慮した閾値A,Bを定めることができる。
例えば、第一閾値Aの絶対値|A|を小さめの値に設定すれば、吸気温度の計測値が目標値をある程度下回った時点で学習制御が開始され、高圧EGR量が増量される。これにより、吸気温度が目標よりも低い状態を発生しにくくすることができ、燃料噴霧の着火遅れ時間を短縮できる。反対に、第一閾値Aの絶対値|A|を大きめに設定すれば、吸気温度が目標よりも低くなったとしても、このような学習制御が開始されにくくなるため、高圧EGR量の変動を抑制することができ、吸気酸素濃度Dの変動に由来する燃焼状態の不安定化を抑制することができる。
また、第二閾値Bの絶対値|B|を小さめの値に設定すれば、低圧EGR量を増量することで、吸気温度の計測値が目標値を上回る状態を発生しにくくすることができる。反対に、第二閾値Bの絶対値|B|を大きめの値に設定すれば、低圧EGR量の変動を抑制でき、燃焼状態を安定化することができる。このように、所望の着火性能に応じて着火遅れ時間を制御することが容易となり、燃焼状態の制御性を向上させることができる。
(3)上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の負荷Ecの大小に関わらず、第一閾値Aの絶対値|A|が第二閾値Bの絶対値|B|よりも大きな値となっている。このような設定により、昇温操作(例えば、高圧EGR弁22の開度補正)に降温操作(例えば、低圧EGR弁26の開度補正)よりも開始されにくい特性を与えることができ、高圧EGR量が低圧EGR量よりも増量されにくい特性を与えることができる。
したがって、高圧EGR量の増量によって生じうるインマニ圧Pの低下やポンプ損失(ポンピングロス)の増加を未然に防ぐことができ、エンジン10の筒内における燃焼状態を改善することができる。また、予混合燃焼モードにおいては、吸気温度が低い方が着火遅れ期間を長くとることができ、燃焼安定性を向上させることができる。さらに、降温操作は比較的開始されやすくなるため、着火遅れ時間を確保して排ガス性能の良い燃焼状態を維持しやすくすることができ、燃焼状態を改善することができる。
(4)上記のエンジン制御装置1では、図3(A),(B)に示すように、第二学習領域が第二最小負荷Ec2以上の範囲に設定されるのに対し、第一学習領域は第二最小負荷Ec2よりも高い(大きい)値である第一最小負荷Ec1以上の範囲に設定される。このような設定により、低負荷状態での昇温操作に制限を加えることができ、例えば高圧EGR量の増加による失火や異常燃焼の発生を抑制することができ、排ガス性能を向上させることができる。一方、低負荷状態での降温操作は許容されるため、例えば低圧EGR量を増加させて着火遅れ時間を確保でき、排ガス性能の良い燃焼状態を維持しやすくすることができ、エンジン10の騒音を小さくできるとともに、エンジン10の燃焼状態を適正化することができる。
(5)なお、上記のエンジン制御装置1では、第二最小負荷Ec2がエンジン10のアイドル負荷Ec0と同一値に設定されるため、アイドル状態に近い低負荷低回転状態での燃焼安定性を確保できるとともに、エンジン10の燃焼状態を適正化することができる。
(6)上記の第二閾値Bは、図3(A),(B)に示すように、負荷Ecが第一最小負荷Ec1のときに最小値B1をとる。すなわち、エンジン10の負荷Ecが第一最小負荷Ec1未満ならば、負荷Ecが高いほど第二閾値Bが小さく設定される。つまり、アイドル状態に近い低負荷低回転状態では、降温操作であっても、負荷Ecが小さいほど制限が強められることになる。このような設定により、低負荷低回転状態での失火の発生をより確実に防止することができ、エンジン10の燃焼状態を適正化することができる。
(7)上記のエンジン制御装置1では、図3(B)中における絶対値|A|の傾きが、絶対値|B|の傾きと同一に設定される。ここで、エンジン10の負荷Ecが上昇したときの第一閾値Aの減少量をΔAとおき、第二閾値Bの増加量をΔBとおけば、減少量ΔAと増加量ΔBの各々の絶対値は同一となる。つまり、負荷Ecの変動に対して、第一学習領域と第二学習領域とを均等に縮小することができ、昇温操作,降温操作の開始されやすさを等しく変化させることができる。したがって、制御の偏りや不均衡を解消することができ、エンジン10の燃焼安定性を改善することができる。
[5.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、ディーゼルエンジンの制御について詳述したが、この制御はガソリンエンジンにも適用することができる。また、ターボシステムはエンジン10に必須の要素ではなく、これらを省略することも可能である。さらに、デュアルループEGRシステムに関しても必須の要素ではなく、高圧EGR又は低圧EGRの何れかを有するEGRシステムを備えたエンジン10であれば、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
上述の実施形態では、図3(A),(B)に示すような閾値マップを用いて第一閾値A及び第二閾値Bを設定するものを例示したが、エンジン10の負荷Ecと閾値A,Bとの間の具体的な対応関係はこれに限定されない。また、負荷Ecに加えて、エンジン10の運転状態に関する別のパラメータを引数とした閾値マップを用いてもよい。例えば、吸気酸素濃度D,インマニ圧P,目標吸気温度TE,実吸気温度TR,吸入空気量(新気量),エンジン冷却水温,外気温等を参照して、閾値A,Bを設定することが考えられる。これらのパラメータを考慮に入れることで、筒内に導入される吸入空気及びEGRガスの状態をより精度よく推測することができ、燃焼安定性をより向上させることができる。
上述の実施形態では、吸気温度の計測値として実吸気温度TRを用いているが、これに代えて、吸気温度の推定値を使用してもよい。吸気温度の推定値は、低圧EGRガス温度や高圧EGRガス温度,外気温,インマニ圧P,過給圧等に基づいて推定することができる。少なくとも、吸気温度の目標値とその計測値(実測値,推定値,演算値)との温度差に基づいて学習制御の実施条件を判定することで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
1 エンジン制御装置
2 算出部
3 目標温度算出部
4 基本開度算出部
5 温度差算出部
6 制御部
7 条件判定部
8 指示開度設定部
9 開度制御部
10 エンジン
TR 実吸気温度
TE 目標吸気温度
ΔT 温度差
Ec 負荷
A 第一閾値
B 第二閾値
KA 第一係数
KB 第二係数
Ec1 第一最小負荷
Ec2 第二最小負荷

Claims (7)

  1. エンジンに設けられたEGR弁の開度及び流量の対応関係を変更する排気還流制御装置であって、
    前記エンジンの吸気温度の目標値と計測値との温度差を算出する算出部と、
    前記算出部で算出された前記温度差が閾値以上ならば、前記温度差が小さくなるように前記対応関係を変更する制御部とを備え、
    前記制御部は、前記エンジンの負荷が高いほど前記閾値の絶対値を大きくする
    ことを特徴とする、排気還流制御装置。
  2. 前記算出部が、前記計測値から前記目標値を減じて前記温度差を算出するとともに、
    前記制御部が、前記閾値として、
    前記温度差が負の場合に前記対応関係を変更するための第一閾値と、
    前記温度差が正の場合に前記対応関係を変更するための第二閾値とを有する
    ことを特徴とする、請求項1記載の排気還流制御装置。
  3. 前記第一閾値の絶対値が、前記第二閾値の絶対値よりも大きい
    ことを特徴とする、請求項2記載の排気還流制御装置。
  4. 前記制御部は、前記温度差が負の場合に前記対応関係を変更するための前記エンジンの第一最小負荷を、前記温度差が正の場合に前記対応関係を変更するための前記エンジンの第二最小負荷よりも高い値に設定する
    ことを特徴とする、請求項2又は3記載の排気還流制御装置。
  5. 前記第二最小負荷が、前記エンジンのアイドル負荷と同一値であり、
    前記第一最小負荷が、前記アイドル負荷よりも大きい値である
    ことを特徴とする、請求項4記載の排気還流制御装置。
  6. 前記制御部は、
    前記エンジンの負荷が前記第一最小負荷未満ならば前記負荷が高いほど前記第二閾値を小さくし、
    前記エンジンの負荷が前記第一最小負荷以上ならば前記負荷が高いほど前記第二閾値を大きくする
    ことを特徴とする、請求項5記載の排気還流制御装置。
  7. 前記制御部は、前記エンジンの単位負荷あたりの前記第一閾値の変化勾配の絶対値を、前記エンジンの単位負荷あたりの前記第二閾値の変化勾配の絶対値と同一の勾配に設定する
    ことを特徴とする、請求項2〜6の何れか1項に記載の排気還流制御装置。
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