JP2016113385A - リグニン組成物の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】リグノセルロース系バイオマス原料の糖化工程を含むプロセスに際し、リグニン組成物を得るための方法を提供する。【解決手段】リグノセルロース系原料からの、糖化処理工程を経た処理物を固液分離し、得られた固形分を酸処理し、リグニン組成物を分離する。固形分またはリグニン組成物は、誘導化処理に供してもよい。【選択図】 図1

Description

本発明は、リグノセルロース系のバイオマス原料から、リグニン組成物を製造する方法に関する。
リグノセルロース原料から糖を製造する技術は、この糖を微生物の発酵基質として用いることによりガソリンの代替燃料となるアルコールや、コハク酸や乳酸などの化成品原料を製造することができることから、循環型社会の形成に有益な技術である。
代替燃料としてのアルコール生産を目的とした場合等においては、極めて低コストで糖化処理が実施できることも重要であるが、目的物質を生産した後の廃棄物から有価物が生産できれば、プロセス全体の経済性向上に寄与できる。
リグニンは、セルロース、ヘミセルロースとともに、植物細胞壁を構成する主要成分であり、リグニンの含有率は、針葉樹材で25〜35%、広葉樹材で20〜25%に達する。リグニンは、豊富に存在する天然の芳香族ポリマーとして有効利用することが検討されつつあり、木質系材料からリグニンを効率的に得るための方法が開発されつつある。例えば、特許文献1は、リグニンの有用な用途を開発するためになされたものであり、特に反応性の高い新規なリグニンとそれを好適に得ることができるリグノセルロースの新規な処理方法を提案する。具体的には、粗破砕および又は磨砕処理を行ったリグノセルロースを多糖分解酵素により、糖を除去する第一糖化工程から得られる残渣に、磨砕処理を行った後、多糖分解酵素により糖を除去する第二糖化工程処理によって得られることを特徴とするリグニンの製造方法を提案する。また、特許文献2は、リグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法において、エタノール生産の原料となる糖類の効率的な製造方法を提案するものであるが、副産物としてリグニン組成物の製造にも着目している。具体的には、前処理を施したリグノセルロース原料を併行糖化発酵し、糖化発酵処理液をスクリーンサイズが1.0〜2.0mmのスクリュープレスで残渣と液体分に分離し、液体分(微細繊維を含む)を48〜52℃で糖化することによりエタノール生産の原料となる糖類の生産効率の向上を可能とする。このとき、エタノール生産とともに、純度の高いリグニン組成物を得ることができることを述べている。さらに特許文献3は、リグノセルロースを原料として糖類及び/又はエタノールを製造する工程で排出される残渣を利用した燃料組成物に関するものであるが、残渣のリグニン含量にも着目している。
特開2012−016285号公報 特開2012−152133号公報 特開2014−132052号公報
本発明の課題は、リグノセルロース系バイオマス原料の糖化工程を含むプロセスからの廃棄物を、有用物質の生産のための原料として利用する方法を提供することにある。特に、誘導体化や有機溶媒への溶解性の観点から優れたリグニンを得るための、実用的な方法を提供することを目的とする。
本発明は以下を提供する。
[1]リグノセルロース原料に糖化処理に適した原料とする処理を施す前処理工程;
前処理物を糖化する糖化処理工程;
糖化処理物を、固形分と液体分に分離し、固形分を得る固液分離工程;および
得られた固形分に酸を添加し、固形分を酸で処理する酸処理工程
を含み、酸処理物からリグニン組成物を得る、リグニン組成物の製造方法。
[2]酸処理工程における酸の添加量が、固形分の質量(乾燥質量)に対し、0.1〜50質量%である、1に記載の製造方法。
[3]リグニン組成物の有機溶媒に対する溶解性が、有機溶媒1mlに対して0.1g〜10gである、1または2に記載の製造方法。
[4]固形分にポリエチレングリコールを添加し、固形分にポリエチレングリコールを付加させる誘導体化工程をさらに含む、1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]固形分1gに対するポリエチレングリコールの付加量が0.01〜50gである、4に記載の製造方法。
[6]リグニン組成物が、リグニン組成物をニトロベゼンで分解したとき、分解生成物に含まれるデヒドロジバニリンに対するバニリンの比率が1.0〜15である、1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
本発明により、リグノセルロース系原料の糖化処理工程を経るプロセスから、優れたリグニン組成物を得ることができる。
図1は、本発明によるリグニン組成物の製造方法の一態様を示した図である。
I:一軸粉砕装置
CO:加熱処理装置
R:リファイナー
BR:糖化槽
S:固液分離装置
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
<リグノセルロース系原料>
本発明の方法で原料として使用するリグノセルロース系原料としては、次のものが挙げられる。木質系:製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップまたは樹皮、木本性植物の切株から発生した萌芽、製材工場等から発生する鋸屑またはおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等。草本系:ケナフ、稲藁、麦わら、コーンコブ、バガス等の農産廃棄物、油用作物やゴム等の工芸作物の残渣および廃棄物(例えば、EFB: Empty Fruit Bunch)、草本系エネルギー作物のエリアンサス、ミスカンサスやネピアグラス等。特にこれらに限定されない。また、木材由来の紙、古紙、パルプ、パルプスラッジ、スラッジ、下水汚泥等、食品廃棄物、等を原料として利用することができるが、特にこれらに限定されない。これらの原料は、単独、あるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、原料は、乾燥固形物であっても、水分を含んだ固形物であっても、スラリーであっても用いることができる。
前記木質系のリグノセルロース系原料としては、特に限定するものではないが、ユーカリ(Eucalyptus)属植物、アカシア(Acacia)属植物、ヤナギ(Salix)属植物、ポプラ属植物、スギ(Cryptomeria)属植物等が利用できる。ユーカリ属植物、アカシア属植物、ヤナギ属植物は、原料として大量に採取し易いためである。特に、ユーカリ属植物としては、Eucalyptus globulus、Eucalyptus pellita、アカシア属としては、Acacia mangium、Acacia auriculiforimis、アカシアハイブリッド(Acacia mangiumとAcacia auriculiforimisの交雑種)、ヤナギ属植物としては、Salix schweriniiを用いるのが好ましい。
木本性植物由来のリグノセルロース系原料の中では、林地残材(樹皮、枝葉を含む)、樹皮を用いるのが好ましい。例えば、製紙原料用として一般に用いられるユーカリ(Eucalyptus)属またはアカシア(Acacia)属等の樹種の樹皮は、製紙原料用の製材工場やチップ工場等から安定して大量に入手可能であるため、特に好適に用いられる。
他の観点からの本発明に用いられる木質系のリグノセルロース系原料好適な例として、ユーカリ、オーク、アカシア、ビーチ、タンオーク、オルダー等の広葉樹材が挙げられる。使用する広葉樹材に多少の針葉樹材を含まれていても構わない。
<前処理>
本発明では、前記リグノセルロース原料に、酵素糖化のための前処理を施すことができる。本発明に適用される前処理は、後述する糖化処理を経た処理懸濁液を固液分離して得られる固形分が十分な量のリグニンまたはリグニン組成物を含有するように行うことが好ましい。強い条件で前処理をすると、リグニン等が固形分には残らないと推測されるからである。このような条件を満たす前処理であれば、リグニン組成物、リグニン等を本発明に適用し得る。
(機械的処理)
本発明では、前記リグノセルロース原料に、酵素糖化のための前処理として、機械的処理を施すことができる。機械的処理としては、破砕、裁断、磨砕等の任意の機械的手段が挙げられ、リグノセルロースを次工程の化学的処理工程で糖化され易い状態にすることである。使用する機械装置については特に限定されないが、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー、レファイナー、ニーダー等を用いることができる。
前記機械的処理の前工程または後工程として、異物(石、ゴミ、金属、プラステック等のリグノセルロース以外の異物)を除去するための洗浄などによる異物除去工程を導入することもできる。
原料を洗浄する方法としては、例えば、原料に水を噴射して原料に混合されている異物を除く方法、あるいは、原料を水中に浸漬し異物を沈降させて取り除く方法等が挙げられる。また、メタルトラップ等の装置を用いて、異物を原料から分離する方法が挙げられる。
原料に異物が含まれていると、リファイナーのディスク(プレート)等の機械的処理で用いる装置の部品を破損させる可能性があるし、配管が詰まる等の製造工程内でトラブルを起こす等の問題が発生するため、異物除去工程を導入することが望ましい。
(化学的処理)
リグノセルロース原料は、化学的処理を施してもよい。化学的処理の例は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上のアルカリ薬品を含有する溶液に浸漬することである。化学処理の他の例は、亜硫酸ナトリウムと前記アルカリ薬品の中から選ばれる1種以上のアルカリ薬品を含有する溶液に浸漬することである。また、オゾン、二酸化塩素などの酸化剤による化学的処理も可能である。
化学的処理は、前記機械的処理と組み合わせて、それらの前処理の後の処理として行うことが好適である。
化学的処理で使用する薬品の添加量は、状況に応じて任意に調整可能であるが、薬品コスト低下の面から、またセルロースの溶出・過分解による収率低下防止の面から、リグノセルロース系原料の絶乾100質量部に対して70質量部以下であることが望ましい。
化学的処理における薬品の水溶液への浸漬時間および処理温度は、使用する原料や薬品によって任意に設定可能であるが、処理時間10〜600分、処理温度80〜200℃が好ましい。処理条件を厳しくすることで、原料中のセルロースの液側への溶出または過分解が起こる場合もあるため、処理時間は180分以下、処理温度は180℃以下であることが好ましい。
化学処理として、リグノセルロース原料(乾燥質量)に対して10〜70質量%の亜硫酸ナトリウムおよびpH調整剤として0.1〜5質量%のアルカリを添加することもできる。pH調整剤として用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、これらの薬品に特に限定されない。亜硫酸ナトリウムおよびpH調整剤としてアルカリを添加して加熱処理を行う場合の加熱処理温度は、80〜200℃が好ましく、120〜180℃がさらに好ましい。また、加熱処理時間は、10〜600分で行うことができるが、30〜240分が好ましい。前述したように、処理温度は、180℃以下、処理時間は180分以下であることが好ましい。
亜硫酸ナトリウムおよびpH調整剤としてアルカリを添加して加熱処理することにより、加熱処理後(加水分解後)のリグノセルロースを含む水溶液のpHが4.0〜7.0(中性〜弱アルカリ性)となるため、加水分解処理後の廃液あるいは加水分解物を中和するための薬品の使用量を低減できるというメリットがある。
(磨砕処理)
本発明では、前記化学処理により得られたリグノセルロース原料は、磨砕処理に供してもよい。レファイナーのディスク(プレート)のクリアランスを0.1〜2.0mmの範囲で磨砕することが好ましく、0.1〜1.0mmの範囲がさらに好ましい。使用するレファイナーとしては、シングルディスクレファイナー、ダブルディスクレファイナー等を使用することができ、相対するディスクのクリアランスを0.1〜2.0mmの範囲に設定できるレファイナーであれば特に制限なく使用することができる。磨砕の程度は、酵素によるセルロースの分解が効率に進むように設計するとよい。ディスクのクリアランスが2.0mmを超えると糖化で得られる糖収率が低下するため好ましくない。一方、ディスクのクリアランスが0.1mmより低いとレファイナーで磨砕処理した後の固形分収率が低下することがある。
レファイナーのディスク(プレート)の材質、ディスクの型、ディスク面の刃の型、ディスク面に対する刃の方向等のディスクの形状については効果が得られる材質、形状であれば、特に制限なく使用することができる。
前記の磨砕処理が施されているリグノセルロース系原料は、水溶液と固形分に固液分離してもよい。この場合、固形分を次の糖化工程に供し、リグニン組成物の原料として用いることができる。固液分離する方法としては、例えば、スクリュープレス等を用いて水溶液と固形分に分離することができ、水溶液と固形分に分離することができる装置であれば制限なく使用することができる。
<糖化工程>
本発明においては、前処理工程を経た前処理物は、糖化処理工程へ供される。具体的には、前処理が施されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、酵素糖化工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素(セルラーゼ、ヘミセルラーゼ)により糖化(セルロース→グルコース、ヘミセルロース→グルコース、キシロース)される。酵素処理は、原料を部分分解することにより、リグニン成分であるリグニン組成物の抽出に有利に働くと考えられる。
リグノセルロース系原料の糖化工程は、併行糖化発酵工程としてもよい。本発明で糖化工程または酵素糖化工程というときは、併行糖化発酵工程を含む。併行糖化発酵工程は、リグノセルロース系原料を適量の水と酵素と混合して原料懸濁液とし、さらに酵母等の微生物と混合することにより、実施できる。リグノセルロース系原料は酵素により糖化され、生成された糖類が発酵微生物(酵母など)によりエタノール等の生産物に変換される。
糖化工程で用いるリグノセルロース系原料の懸濁濃度は、1〜30質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、最終的に生産物の濃度が低すぎて生産物の濃縮のコストが高くなるという問題が発生する。また、30質量%を超えて高濃度となるにしたがって原料の攪拌が困難になり、生産性が低下するという問題が発生する。
糖化工程で使用するセルロース分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、ベータグルコシダーゼ活性を有する、所謂セルラーゼと総称される酵素である。
各セルロース分解酵素は、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤は、上記の各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多いので市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
市販のセルラーゼ製剤としては、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、トラメテス(Trametes)属、フーミコラ(Humicola)属、バチルス(Bacillus)属などに由来するセルラーゼ製剤がある。このようなセルラーゼ製剤の市販品としては、例えばセルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、GC220(ジェネンコア社製) 等が挙げられる。
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
糖化工程での反応液のpHは3.5〜10.0の範囲に維持することが好ましく、4.0〜7.5の範囲に維持することがより好ましい。
糖化工程での反応液の温度は、酵素の至適温度の範囲内であれば特に制限はなく、50℃以下が好ましい。糖化工程を、併行糖化発酵工程として実施する場合は、有効に発酵が行える範囲内であれば特に制限はなく、例えば25〜50℃とすることができ、場合により30〜40℃することができる。反応は、連続式が好ましいが、セミバッチ式、バッチ式でも良い。反応時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は10〜240時間、さらに好ましくは15〜160時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、10〜150時間、さらに好ましくは15〜100時間である。
併行糖化発酵工程では、糖類(六炭糖、五炭糖)が発酵できる発酵微生物を用いることが好ましい。発酵微生物としては、サッカロマイセス・セラビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)、キャンディダ・シハタエ(Candida shihatae)、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等の酵母やザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)等の細菌が挙げられる。また、遺伝子組換技術を用いて作製した遺伝子組換微生物(酵母、細菌等)を用いることもできる。遺伝子組換微生物としては、六炭糖と五炭糖を同時に発酵できる微生物を特に制限なく用いることができる。
微生物は固定化しておいても良い。微生物を固定化しておくと、次工程で微生物を分離して再回収する工程を省くことができるため、少なくとも回収工程に要する負担を軽減することができ、微生物のロスが軽減できるというメリットがある。また、凝集性のある微生物を選択することにより微生物の回収を容易にすることができる。
<固液分離工程>
本発明では、糖化処理物は、固液分離工程固形分と液体分に分離し、固形分を得る固液分離工程に供される。糖化処理物は、少なくとも狭義の糖化処理工程(すなわち、糖化のための処理からなる工程。他の目的のための処理、例えば発酵処理を含まない。)を経たものであればよい。狭義の糖化処理工程以外の他の工程、例えばエタノール生産のための発酵工程、エタノール以外の生産物を得るための工程を経ていてもよい。糖化処理物には、糖化処理工程を併行糖化発酵処理工程として実施する場合の併行糖化発酵処理工程を経たものも含まれる。
固液分離を行う装置としては、デカンター、ディスク型遠心機、セラミックフィルター、スクリュープレス、スクリーン、フィルタープレス、ベルトプレス、ロータリープレス等を用いることができる。スクリーンとしては、振動装置が付加された振動スクリーンなどを用いることができる。 回収された固形分(残渣)は、さらに糖化工程へ移送し、糖化の原料として用いることもできる。
<リグニン組成物を得る工程>
本発明においては、少なくとも糖化処理工程を経た固形分(残渣)が、リグニン組成物を得るための原料となる。ここでいう固形分(残渣)は、後述する一次残渣分離工程または二次残渣分離工程から得られたものを含んでいてもよい。
固形分からリグニン組成物を得るには、固形分に酸を添加し、処理すればよい。酸として用いることのできるものは、特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸もしくは硝酸、またはこれらの混合物が挙げられる。酸の添加量は、状況に応じて任意に調整可能であるが、例えば、高い収率でリグニン組成物を得るためには、固形分(絶乾質量)に対して0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.25質量%以上用いることができる。酸の添加量の上限値は適宜定めることができ、例えば、固形分(絶乾質量)に対して50質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、3質量%以下とすることができる。
酸処理は、60℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上に加熱し、必要に応じ、攪拌しながら処理することができる。高い収率でリグニン組成物を得るためには、反応は0.5時間以上、好ましくは0.75時間以上、より好ましくは1時間以上行うとよい。反応時間の上限値は適宜定めることができ、例えば、24時間以下、16時間以下、12時間以下とすることができる。その後、処理後の液を必要に応じ冷却し、水に懸濁する。懸濁液から固形分をろ別し、必要に応じ十分な水で洗浄後、固形分をリグニン組成物として回収することができる。リグノセルロースの糖化工程で排出される残渣(糖化残渣)からは、有機溶媒への溶解性が高く、置換基量を多く含むリグニン組成物が製造できる。
糖化残渣中および酸処理後の固形分(リグニン組成物)におけるリグニン量は、常法により定量することができる。
<誘導体化>
得られたリグニン組成物は、誘導体化処理に供してもよい。誘導体化処理は、特に限定されないが、水酸基を有する高分子の付加が特に有効であると考えられる。用いることのできる水酸基を有する高分子の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリウレタンが挙げられる。一分子に水酸基を2つ有するジオール類も、付加できると考えられる。この例としては、これらに限定されるものではないが、ベンゼンジオール、ブタンジオール、エポキシ基を有する化合物が挙げられる。
誘導体化処理の特に好ましい態様の一つとして、ポリエチレングリコールを付加する処理が挙げられる。用いるポリエチレングリコールの量は、状況に応じて任意に調整可能であるが、例えば、高い収率で付加物を得るためには、ポリエチレングリコール400であれば、固形分(絶乾質量)の50質量%以上、好ましくは100質量%以上、より好ましくは200質量%以上を用いることができる。使用量の上限は適宜定めることができる。重合度が異なるポリエチレングリコールを用いる場合は、上述したポリエチレングリコール400を用いた場合に基づき、重合度に比例した量を用いることができる。例えば、ポリエチレングリコール200を用いる場合は、これに限定されるものではないが、固形分の25質量%以上を用いることとしてもよい。
このポリエチレングリコールの付加のための処理は、酸処理と同時に行うことができる。その場合60℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上に加熱し、必要に応じ、攪拌しながら時間反応させることができる。また、0.5時間以上、好ましくは0.75時間以上、より好ましくは1時間以上行うとよい。反応時間の上限値は適宜定めることができ、例えば、24時間以下、16時間以下、12時間以下とすることができる。その後、処理後の液を必要に応じ冷却し、水に懸濁する。懸濁液から固形分をろ別し、必要に応じ十分な水で洗浄後、回収し、リグニン組成物を得るための原料とすることができる。
このようにして誘導体化処理されたリグニン組成物のポリエチレングリコールの付加量は、特に限定されないが、リグニン組成物1gに対して、ポリエチレングリコール400として0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上、さらに好ましくは0.4g以上である。上限値も特に限定されないが、リグニン組成物1gに対して、ポリエチレングリコール400として50g以下、好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下、さらに好ましくは4g以下である。なおリグニン組成物に関し、ポリエチレングリコール付加量いうときは、特に示した場合を除き、ポリエチレングリコール400としての付加量を指す。重合度が異なるポリエチレングリコールを用いた場合は、上述したポリエチレングリコール400を用いた場合に換算することができる。例えば、リグニン組成物1gに対してポリエチレングリコール200が1g付加している場合は、ポリエチレングリコール400としては2g付加していると換算できる。
リグニン組成物の有機溶媒に対する溶解性は、有機溶媒1mlに対して0.1g〜10gの範囲が好ましく、0.1g〜5gがさらに好ましく、0.1〜10gが特に好ましい。リグニン組成物の有機溶媒に対する溶解性は、有機溶媒1mlに対して10gを超えると溶液の粘度が高くなるため、送液や攪拌が困難になり、生産効率が低下するため好ましくない。一方、リグニン組成物の有機溶媒に対する溶解性は、有機溶媒1mlに対して0.1gより低いとリグニン組成物を原料とする化成品などの生産効率が低下するため好ましくない。
本発明のリグニン組成物の製造方法を、図1に示した例により説明する。原料はI(一軸破砕機)により機械的処理をされた後、CO(加熱処理装置)およびR(レファイナー)を経て、BR(糖化槽)へ移送される。糖化処理工程を経た処理懸濁液は、S(固液分離装置)で液体分と固形分(残渣)に分離される。得られた固形分は、リグニン組成物を得るための反応工程へ移送される。
<リグニン組成物>
本発明の製造方法により、リグニン組成物が得られる。リグニン組成物は、一または数種のリグニンと、場合によりそれ以外の成分を含む。なお、本発明でリグニンというときは、特に記載した場合を除き、遊離のリグニンのみならず、配糖体またはエステルの形態であるものも含む。一般に、リグニンは由来により、針葉樹リグニン、広葉樹リグニン、草本リグニンに大別され、構成している基本骨格が異なる。一般に、針葉樹リグニンはG型、広葉樹リグニンはG型とS型、草本リグニンはG型、S型およびH型で構成されている。本発明のリグニン組成物は、それらのいずれも含み得る。また、クラフトリグニン、リグノスルホン酸、ソーダリグニンも含み得る。クラフトリグニンは、パルプ化法の主流であるクラフト法(水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムなどで高温高圧処理)由来のリグニンであり、構造中にチオエーテル結合などを有している。リグノスルホン酸は亜硫酸法(亜硫酸/亜硫酸水素カルシウムなどで高温高圧処理)由来のリグニンであり、構造中にスルホン酸基を有している。またソーダリグニンはソーダ法(水酸化ナトリウムでの高温高圧処理)由来のリグニンで、構造中に硫黄を含有しない。
リグニン組成物が、リグニン組成物をニトロベンゼンで分解したとき、分解生成物に含まれるデヒドロジバニリンに対するバニリンの比率が1.0〜15であることが好ましい。クラフトパルプなど一般のリグニンは天然リグニンと比べて、ニトロベンゼン酸化を行うと、分解生成物に含まれるジヒドロバニリンの比率が多い。これは、クラフト処理などの厳しい条件で処理を行うことにより、リグニン分子内の主な結合であるβ-O-4結合が分子内で変質することが原因である。一方、バニリンの比率が高い場合は分子内の変質が少なく、誘導体化が効率的に行われると考えられる。従って、分解生成物に含まれるデヒドロジバニリンに対するバニリンの比率が1.0〜15の範囲である場合、誘導体化が適切に進んでいるため好ましい。
<リグニン組成物の利用>
本発明により得られるリグニン組成物に含まれるリグニンは、置換基量を多く含みうる。また、有機溶媒への溶解性が高く、置換基導入(誘導体化)により、疎水性、熱可塑性、および/または強度が向上したリグニン組成物の提供が可能となる。そのため本発明により得られたリグニン組成物は、炭素繊維、樹脂原料、フィルムとして用いるのに適している。
プラスチック材料のひとつである熱硬化性樹脂は、従来から、各種電気分野、自動車分野等の幅広い分野で使用されている。リグニンを添加した熱硬化性樹脂とすることにより、成形品の機械的強度、耐熱性、電気絶縁性等のさらなる向上が期待できる。例えば、粉状のリグニン組成物をフィラーとしてフェノール樹脂と組み合わせてミキシングロールで成形材料を作製し、そして成形材料を、170℃で15分のトランスファ成形により成形を行い、リグニン組成物添加成形品を得ることができる。
<その他の工程>
本発明の実施態様においては、発酵工程を行ってもよく、その際、糖化工程と発酵工程を別の反応槽で行ってもよい。前記固液分離工程で分離された液体分(濾液)は、発酵工程へ移送し発酵微生物を用いて発酵を行う。発酵微生物としては、サッカロマイセス・セラビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)、キャンディダ・シハタエ(Candida shihatae)、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等の酵母やザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)等の細菌、等が挙げられる。また、遺伝子組換技術を用いて作製した遺伝子組換微生物(酵母、細菌等)を用いることもできる。遺伝子組換微生物としては、六炭糖と五炭糖を同時に発酵できる微生物を特に制限なく用いることができる。
微生物は固定化しておいても良い。微生物を固定化しておくと、次工程で微生物を分離して再回収するという工程を省くことができるため、少なくとも回収工程に要する負担を軽減することができ、微生物のロスが軽減できるというメリットがある。また、凝集性のある微生物を選択することにより微生物の回収を容易にすることができる。
本発明の方法は他に、殺菌工程(発酵処理を行う態様において、発酵処理の前に)、発酵生成物(エタノール等)を蒸留分離する蒸留工程、蒸留後の発酵生成物(エタノール等)を分離した後の蒸留残液を液体留分と残渣に分離する一次残渣分離工程、一次残渣分離工程で分離された液体留分に含まれる酵素を回収する酵素回収工程、酵素回収工程の残渣懸濁液を、残渣と液体留分に分離する、二次残渣分離工程を含んでいてもよい。二次残渣分離工程で分離された残渣は、上述のリグニン組成物を得る工程へ供することができる。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
[実験例1]
[前処理]
チップ状のユーカリ・グロブラスの林地残材(樹皮70%、枝葉30%)を20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)で破砕し原料として用いた。
上記原料100kg(絶乾質量)に対して97質量%亜硫酸ナトリウム20kgおよび水酸化ナトリウム1kgを添加後、水を添加し水溶液の容量を1m3に調整した。前記原料懸濁液を混合後、170℃で1時間加熱した。加熱処理後の原料懸濁液をレファイナー(熊谷理器工業製、KRK高濃度ディスクレファイナー)でディスク(プレート)のクリアランスを1.0mmに設定し磨砕した。次に20メッシュ(847μm)のスクリーンを用いて固液分離(脱水)することにより溶液の電気伝導度が30μS/cmになるまで水で洗浄した。固液分離後の固形物(前処理物)を原料として糖化工程に供した。
[糖化]
培養槽に水を1.9m3添加し、pHを5.0に調整した。前処理で調製した原料100kgを培養槽に添加後、市販セルラーゼ40Lを培養槽に添加した。
培養液の温度を50℃で糖化を開始した。培養液の培養槽内での滞留時間(原料懸濁液が培養槽を通過する時間:培養槽の容量/流速)を24時間で糖化を行った。
[固液分離]
前記糖化で得られた培養液を、遠心分離装置:(TOMY社製GRX−250)7650rpm、30分で固形分(残渣)と濾液を分離した。前記固形分を糖化残渣(リグニン含量63.5質量%)とした。
[酸処理および誘導体化]
上記で得られた糖化残渣1gに対し、5gのポリエチレングリコール400、および硫酸0.05gを添加し140℃で2時間反応させた(誘導体化処理)。反応後の反応生成物を大量の水中に滴下し、懸濁状態となった反応生成物を濾紙で濾過した。濾紙上に残存した固形分(黒色)を十分量の水で洗浄後、回収し、乾燥させた。乾燥させた固形分をサンプルAとした。サンプルAに付加されたポリエチレングリコール量を、濾過後のろ液中に含まれるポリエチレングリコール量をHPLCで定量することにより、算出した。
[有機溶媒への可溶性の評価]
得られたサンプルAを1g秤量し、サンプルAにジオキサン10mlを添加した。混合後、混合液をあらかじめ質量を測定したガラスフィルターで濾過をした。ガラスフィルター上に残存した不溶物の質量(乾燥質量)を測定することにより、ジオキサン(有機溶媒)への溶解性を評価した。
[糖の分析、リグニン含量の測定]
得られたサンプルAを0.2g秤量し、72質量%硫酸6mlを添加し20℃で2時間反応を行った。反応後、水214mlを添加し、120℃、60分間反応させた。秤量したガラスフィルターで濾過を行い、ガラスフィルター上に保持される固形物をリグニン含量とした。糖含量はガラスフィルターで濾過したろ液のグルコースおよびキシロースの濃度をダイオネクス社製イオンクロマト(カラムPA1:直径2 mm x長さ 250 mm、溶媒:水100%、流速:0.25 ml/min)で定量した。
[リグニン変質度の測定]
サンプルAをニトロベンゼンで酸化分解することにより以下の方法で生成する分解物量を測定した。サンプルA 20mgに2N NaOH 6ml、 ニトロベンゼン0.5mlを添加し、密閉容器内で170℃で2時間反応させた。反応液を冷却後、反応液にジクロロメタンを添加し抽出を行った。分画後の水層を1N HClで酸性(pH2.0)に調整後、再度、ジクロロメタンで抽出を行なった。回収したジクロロメタン抽出液中のバニリン、デヒドロジバニリン含量をダイオネクス社製HPLC(カラム Cosmosil 5C18-AR-11(直径4.6 mm x 長さ250mm)、溶媒:70%メタノール 、流速:1.0ml/min)で定量した。得られたバニリン含量、およびデヒドロジバニリン含量からバニリン/デヒドロジバニリン比(以下、「V/DDV比」という。)を算出した。ニトロベンゼン酸化ではβ-O-4結合からはバニリン(V)が生成し、宿重合したリグニンユニットからはデヒドロジバニリン(DDV)が生成する。この為、分解物中のバニリン/デヒドロジバニリン比(以下V/DDV比)を算出することにより、リグニンの変質度を評価することが可能となる。
サンプルAに付加されたポリエチレングリコール量、有機溶媒への可溶性の評価、サンプルAに含まれるグルコースおよびキシロース含量、リグニン変質度の結果を表1に示す。
[実験例2]
実験例1の「誘導体化」において、硫酸の添加量を0.005gに変更した以外は全て実験例1と同様の方法で試験した。尚、誘導体化により得られた固形分をサンプルBとした。結果を表1に示す。
[実験例3]
実験例1において、酸処理を行わない試験を実施した。結果を表1に示す。
[実験例4]
市販のクラフトリグニン(シグマ社製)を用いて実施例1と同様の方法で(具体的には、リグニンに対する量が同じになるように、ポリエチレングリコール、硫酸、ニトロベンゼンを使用して)クラフトリグニンを誘導体化し、前記誘導体化処理により得られた固形分をサンプルCとした。結果を表1に示す。
[実験例5]
実施例4の誘導体化において、硫酸の添加量を0.005gに変更した以外は全て実験例4と同様の方法で試験した。尚、誘導体化により得られた固形分をサンプルDとした。結果を表1に示す。
[実験例6]
実験例1において、誘導体化処理を行わない試験を実施した。結果を表1に示す。
[実験例7]
実験例4において、誘導体化処理を行わない試験を実施した。結果を表1に示す。
Figure 2016113385
表1に示すように、糖化残渣(実験例1、実験例2、実験例3)へのポリエチレングルコールの付加量は、クラフトリグニン(実験例4、実験例5)と比較して高かった。この結果から糖化残渣は、クラフトリグニンと比較して水酸基を多く含むため、ポリエチレングリコール付加量が高かったものと考えられる。糖化残渣を誘導体化する際に硫酸添加量が多い場合(実験例1)では、硫酸添加量が少ない場合(実験例2)あるいは硫酸を添加しない場合(実験例3)と比較し、糖化残渣中の糖(グルコース、キシロース)の含有量が低くなり、有機溶媒への溶解性が向上した。また、糖化残渣を用いた試験(実験例1、実験例2、実験例3)では、クラフトリグニンを用いた試験(実験例3、実験例4)と比較して、付加するポリエチレングルコール量(誘導体の量)が高かった。この結果から、糖化残渣を適切な条件で硫酸で処理することにより、クラフトリグニンと比較し、単位質量当たりに付加する誘導体量の多い、有機溶媒に溶解可能なリグニン組成物を製造することが可能となる。
本発明により、リグノセルロースの糖化工程で排出される残渣(糖化残渣)から置換基量を多く含むリグニン組成物の製造が可能となる。さらに誘導体化処理することにより、有機溶媒への溶解性が高いリグニン組成物の製造が可能となる。置換基導入により、有機溶媒への溶解性が高く、疎水性、熱可塑性、強度が向上したリグニン組成物の提供が可能となるため、化成品への適用に適している。

Claims (6)

  1. リグノセルロース原料に糖化処理に適した原料とする処理を施す前処理工程;
    前処理物を糖化する糖化処理工程;
    糖化処理物を、固形分と液体分に分離し、固形分を得る固液分離工程;および
    得られた固形分に酸を添加し、固形分を酸で処理する酸処理工程
    を含み、酸処理物からリグニン組成物を得る、リグニン組成物の製造方法。
  2. 酸処理工程における酸の添加量が、固形分の質量(乾燥質量)に対し、0.1〜50質量%である、請求項1に記載の製造方法。
  3. リグニン組成物の有機溶媒に対する溶解性が、有機溶媒1mlに対して0.1g〜10gである、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 固形分にポリエチレングリコールを添加し、固形分にポリエチレングリコールを付加させる誘導体化工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 固形分1gに対するポリエチレングリコールの付加量が0.01〜50gである、請求項4に記載の製造方法。
  6. リグニン組成物が、リグニン組成物をニトロベンゼンで分解したとき、分解生成物に含まれるデヒドロジバニリンに対するバニリンの比率が1.0〜15である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
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