以下に、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
まず、一実施形態に係るX線管装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るX線管装置1を概略的に示す断面図である。
図1及び図2に示すように、X線管装置1は、X線管3と、X線管3を収納する容器5とを備えている。
X線管3には、真空気密に保つ円筒状のガラス外囲器11と、ガラス外囲器11の外側に配置された円筒形状の絶縁筒13とが設けてある。ガラス外囲器11内には、電子ビームを放出する陰極15と、陰極15から放出された電子ビームが衝突してX線を発生する陽極17とが配置されている。
絶縁筒13は、電気的絶縁を図るものであり、一実施形態では、電気絶縁が良好で機械的強度が高いエポキシ系樹脂が使用されている。
この絶縁筒13には、ガラス外囲器11を介して陽極17から放射されるX線を透過するX線透過部19が区画されている。
図1〜図3に示すように、この絶縁筒13のX線透過部19の周囲には、絶縁筒13を容器5内に設置する台座部21が絶縁筒13と一体に設けてある。台座部21については後述する。
容器5内には絶縁油9が充填されており、X線管3は容器5内の絶縁油9中に浸漬されている。X線管3には図示していないが、電力を供給する駆動源に接続されており、絶縁油9は、X線管3と駆動源との電気的絶縁とX線管3の冷却を行っている。
容器5の底面5aには、X線放射窓23が設けてある。X線放射窓23は、絶縁筒13のX線透過部19に対向する位置に設けた穴である。
台座部21には、絶縁筒13のX線透過部19と容器5のX線放射窓23との間を連通する空間Sが形成してあり、台座部21の容器側端部21aには、容器5の底面5aに当接する当接面21bが設けてある。
台座部21の容器側端部21aは、X線放射窓23の周囲を囲んでおり、図3に示すように、容器5の底面5aに当接する当接面21bには、その全周に亘るОリング25(図1及び図2参照)を取り付けるОリング溝21cが形成してある。
Оリング溝21cの内周側にはねじ孔21dが周方向に間隔をあけて形成してあり、ねじ孔21dには容器5の底面5aに容器の外側から止めるねじ29(図1及び図2参照)を螺合して容器側端部21aを底面5aに固定してある。
台座部21内の空間Sは、ファンビーム状のX線照射領域Fに沿った、ファンビーム形状を成し、図1に示すように、絶縁筒13の軸線Pに沿う断面が略台形で、図2に示すように、絶縁筒13の軸線P(図1参照)に直交する断面が中心線Yに対する開き角θより大きい略扇形状を成している。
次に、一実施形態にかかるX線管装置1の作用及び効果について説明する。
一実施形態にかかるX線装置1では、陰極15から電子ビームが放出されると、電子ビームが陽極17に衝突してX線を発生する。陽極17で発生したX線は、ガラス外囲器11及び絶縁筒13のX線透過部19を介して容器5のX線放射窓23から幅Wと中心線Yに対する開き角度θのファンビーム状に放射される。
一実施形態によれば、陽極17から放出されるX線は、円筒形状の絶縁筒13のX線透過部19を透過し、台座部21の空間Sを通ってX線放射窓23から放射されるので、X線は容器5内に充填された絶縁油9を通過しないから、絶縁油9がX線に対するフィルタとしてX線を阻害することがなく、X線が減衰されるのを防止できる。
容器5に形成されるX線放射窓23は穴であり、従来設けたあったX線透過部材を設けていないから、このX線透過部材がフィルタとして作用することがなく、X線が減衰されることを防止できる。
また、X線放射窓23にX線透過部材を設けた場合や、X線透過部19とX線放射窓23との間に絶縁油9がある場合には、これらを透過するX線照射領域Fが中心位置Mと開き角度θの位置Nとで透過する厚みが異なることから、従来は中心位置Mに対して開き角度θの位置NではX線の強度が大きく低下することがあったが、一実施形態では、X線放射窓23は穴としてあり且つX線透過部19とX線放射窓23との間に絶縁油9がないから、かかる開き角度θの位置NでのX線強度の低下を防止できる。
したがって、一実施形態にかかるX線装置1を所定の広がりを持ったX線を照射して製品を検査する装置として用いた場合でも、X線照射領域Fにおける検査精度の低下を防止できる。更に、従来よりも広い開き角度θを有するファンビーム状のX線を用いることができる。
また、台座部21に形成した空間SはX線放射窓23側の面積を広くしてあるから、所定の広がりを持ったX線照射領域Fを阻害することがない。
更に、台座部21はX線放射窓23へ向けて空間Sの面積が広くなるように傾斜しており、容器5の底面5aに固定する領域を広くしているので、ファンビーム状のX線に沿った空間Sを形成できると共に、台座部21の容器5への固定側の面積が広くなるからX線管3を安定に支持することができる。
ここで、図4を参照して、一実施形態にかかるX線管装置1から放射されるX線について、照射角度(θ)と、X線が透過する相対的なフィルタ厚みさとの関係について、比較例との比較を説明する。
まず、図5及び図6を参照して比較例にかかるX線管装置55について説明する。図6に示すように、比較例にかかるX線管51では、絶縁筒13にX線放射穴53が形成してある。また、図5に示すように、比較例にかかるX線管装置55は容器5の底面5aに形成したX線放射窓23との間に台座部21がなく、X線管3と容器の底面5aとの間には絶縁油9が介在してある。また、容器5の底面5aに形成してあるX線放射窓23の穴を閉鎖部材54で塞いでいる。
比較例では、図5に示すように、陽極17から発生したX線はガラス外囲器11と、絶縁油9と、閉鎖部材54とを透過するが、これらの透過部分を相対的なフィルタ厚さを100%(図4参照)とする。この場合、ガラス外囲器11を通過するX線は、開き角度θの位置NにあるX線は中心位置MにあるX線と透過するフィルタの厚みは同じであるが、絶縁油9と閉鎖部材54とに対しては、中心位置Mから離れるほど斜めに通過することになり、図4に破線31で示すように、中心位置Mの透過する相対的なフィルタ厚みを100%とした場合、照射角度θが大きくなるほど透過する相対的なフィルタ厚みが厚くなる。
一方、一実施形態では、台座部21内は空間Sであり且つX線放射窓23は穴であるから、X線は円筒形状のガラス外囲器11と、円筒形状の絶縁筒13のみを透過し、絶縁油9及び閉鎖部材54は透過しないので、図4に実線33で示すように、中心位置MのX線は比較例に対して約半分となり、相対的なフィルタ厚さは約50%である。また、中心位置Mから照射角度θ分だけ離れる位置にあるX線についても相対的なフィルタ厚さは中心位置MのX線と変わらず、相対的ファイルタ厚さは約50%のままである。
したがって、一実施形態によれば、比較例との比較において、X線の減衰を防止できると共に開き角度θの任意の位置で均一な強度のX線を得ることができる。
台座部21は、容器5の底面5aにОリング25を介して固定しているので、簡易な構成で空間Sを気密に保持することができる。
また、台座部21の容器側端部21aは容器の外側から止めるねじ29で容器内に固定しているので、ねじ29の締め付け等のメンテナンスがし易い。
一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
台座部21に形成される空間Sの形状は、特に限定されるものではなく、種々変形可能である。
また、X線照射領域Fの開き角度θや幅Wは任意の各度に設定することができる。
容器5には天面を設けて天面にX線放射窓23を形成して、X線管3を台座部21により天面に固定して、天面から上に向けてX線を放射したり、容器の側壁にX線放射窓23を形成して側壁にX線管3を台座部21で固定して、側壁から横に向けてX線を放射するものであっても良い。
台座部21の容器5に対する固定は、空間Sを液密に固定するものであれば、ねじ等による機械的手段に限らず、溶接等により固定するものであっても良い。
なお、図5及び図6に示す比較例の変形として、絶縁筒13の外周面のX線照射領域Fを除く部分に、鉛等のX線遮蔽材を設けたものが知られているが、本発明の実施形態の変形例としても、同様に、絶縁筒13の外周面又は台座部の表面にX線遮蔽材を設けることが可能である。