JP2016105376A - コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を、ピンホール数を抑えて製造するのに有効な技術を提供する。【解決手段】 本発明にかかるコバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法は、Co原料及びBi2O3を含むグリーンシートを作製するグリーンシート作製工程と、グリーンシート作製工程で得られたグリーンシートを当該グリーンシートにビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下で焼成することにより(h00)面がシート面と平行となるような配向性を有する配向焼成板を作製するグリーンシート焼成工程と、グリーンシート焼成工程で得られた配向焼成板をリチウム源が共存するリチウム雰囲気下で焼成することによりLiCoO2の(104)面が板面と平行となるような配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を作製するコバルト酸リチウム配向焼結板作製工程と、を含む。【選択図】図2
Description
本発明は、リチウム二次電池の正極板を構成するコバルト酸リチウム配向焼結板を製造するための製造方法に関する。
従来、リチウム二次電池の正極板(正極活物質)としてリチウム酸化物を用いたものが知られており、この種の正極板を製造するための製造方法の一例が特許文献1に開示されている。この製造方法は、高容量のリチウム二次電池を構築するべく、複数の結晶格子面のうちリチウムイオンの出入りが良好に行われる面(典型的には、ミラー指数hklについての(104)面)が電解質との接触表面に露出するよう配向された配向性を有する配向焼結板を製造する方法である。この製造方法によれば、Co3O4(四酸化三コバルト)とその配向促進剤としてのBi2O3(ビスマス酸化物)とを含有するグリーンシートを焼成し、その焼成体にリチウムイオンが導入された配向焼結板が製造される。そして、この配向焼結板の表面に固体電解質層を設けることで全固体リチウム電池二次電池が形成される。
ところで、この種のリチウム二次電池では薄型製品に対する需要が高く、その設計に際しては、より薄板の配向焼結板を製造する技術を構築する要請が高い。しかしながら、例えば特許文献1に開示の製造方法を用いた場合には配向焼結板にピンホール、即ち、板厚方向において貫通した穴が形成され易い。この場合、薄型のリチウム二次電池を構築するために配向焼結板の板厚を抑えるとピンホールが要因となって欠陥が出来易くなり、その結果、製品の歩留まりが悪くなるという問題点が生じ得る。そこで本発明者は、配向焼結板にピンホールが形成される原因等について検討した。その検討の結果、本発明者は、「配向促進剤としてのBi2O3がグリーンシートの焼成途中で粒界において液相化し凝集して塊となり、この塊が揮発することでピンホールが形成される。」という知見を得た。一方で、ピンホール数を抑えるためにBi2O3の添加量を減らすと配向焼成体におけるCo3O4の配向性が下がる。従って、単純にBi2O3の添加量を減らすのみでは、高容量のリチウム二次電池に適した所望の配向性を有する配向焼結板を得るという本来の目的を全うすることができない。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を、ピンホール数を抑えて製造するのに有効な技術を提供することである。
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するため、本発明に係るコバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法は、リチウム二次電池の正極板を構成するコバルト酸リチウム配向焼結板を製造するためのものであり、グリーンシート作製工程と、グリーンシート焼成工程と、コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程と、を含むことを特徴とする。グリーンシート作製工程は、Co原料及びBi2O3を含むグリーンシートを作製する工程である。グリーンシート焼成工程は、グリーンシート作製工程で得られたグリーンシートを、ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下において焼成することにより(h00)面がシート面と平行となるような配向性を有する配向焼成板を作製する工程である。ここで、「ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下」とは、グリーンシートに含まれるBi2O3以外のビスマス源を別途添加した雰囲気を意味し、したがって、「ビスマス雰囲気下において焼成する」とは、グリーンシート内のBi2O3の揮発が抑制された状態での焼成を意味する。コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程は、グリーンシート焼成工程で得られた配向焼成板をリチウム源が共存するリチウム雰囲気下で焼成することによりLiCoO2の(104)面が板面と平行となるような配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を作製する工程である。本発明者は、この製造方法を実行することによって、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するとともにピンホール数が抑えられた配向正極板を作製することができることを見出した(この点の詳細については後述する)。
上記目的を達成するため、本発明に係るコバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法は、リチウム二次電池の正極板を構成するコバルト酸リチウム配向焼結板を製造するためのものであり、グリーンシート作製工程と、グリーンシート焼成工程と、コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程と、を含むことを特徴とする。グリーンシート作製工程は、Co原料及びBi2O3を含むグリーンシートを作製する工程である。グリーンシート焼成工程は、グリーンシート作製工程で得られたグリーンシートを、ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下において焼成することにより(h00)面がシート面と平行となるような配向性を有する配向焼成板を作製する工程である。ここで、「ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下」とは、グリーンシートに含まれるBi2O3以外のビスマス源を別途添加した雰囲気を意味し、したがって、「ビスマス雰囲気下において焼成する」とは、グリーンシート内のBi2O3の揮発が抑制された状態での焼成を意味する。コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程は、グリーンシート焼成工程で得られた配向焼成板をリチウム源が共存するリチウム雰囲気下で焼成することによりLiCoO2の(104)面が板面と平行となるような配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を作製する工程である。本発明者は、この製造方法を実行することによって、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するとともにピンホール数が抑えられた配向正極板を作製することができることを見出した(この点の詳細については後述する)。
尚、本明細書では、グリーンシート焼成工程で得られるシート状の焼成体、即ち、リチウムが導入される前の焼成体を「焼成板」として記載し、コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程で得られるシート状の焼成体、即ち、リチウムが導入された後の焼成体を「焼結板」として記載している。また、リチウムが導入される前のシート状の焼成体、及びリチウムが導入された後のシート状の焼成体のいずれも「焼成板」と称呼することもできる。
上記のグリーンシート焼成工程では、予め区画された区画領域内においてグリーンシートのシート表面にビスマス源としてのBi2O3粉末を載置して添加する第1処理と、グリーンシートの周囲にビスマス源としてのBi2O3粉末を配置して添加する第2処理と、の少なくとも一方の処理によって当該グリーンシートのためのビスマス雰囲気を形成するのが好ましい。これにより、グリーンシートのためのビスマス雰囲気を簡便に形成することができる。
上記のグリーンシート焼成工程では、グリーンシートに含まれるCo原料をCo3O4に換算した場合の重量(Wa)に対する、当該グリーンシートに含まれるBi2O3の重量(Wb)と、第1処理で添加するビスマス源をBi2O3に換算した場合の重量(Wb1)との合計重量(Wc=Wb+Wb1)の重量比率(Wc/Wa)を2〜15重量%とするのが好ましい。本発明者は、重量比率(Wc/Wa)が2〜15重量%である場合は、そうでない場合に比べて、配向焼結板においてCo3O4の所望の配向性を確保し、且つピンホールが形成され難くすることができることを見出した(この点の詳細については後述する)。
上記のグリーンシート作製工程では、グリーンシートに含まれるCo原料としてのCo3O4の重量(Wa)に対する、当該グリーンシートに含まれるBi2O3の重量(Wb)の重量比率(Wb/Wa)を0.2〜5重量%とするのが好ましい。本発明者は、重量比率(Wb/Wa)が0.2〜5重量%である場合は、そうでない場合に比べて、焼成後の配向焼結板の平坦性が低くなるのを抑えることがき、且つピンホールが形成され難くすることができることを見出した(この点の詳細については後述する)。
上記のグリーンシート作製工程では、グリーンシートに含まれるCo原料としてのCo3O4の粒子径を0.1〜0.6μmとするのが好ましい。本発明者は、Co3O4の粒子径が0.1〜0.6μmである場合は、そうでない場合に比べて、グリーンシート内の粒子同士の隙間径が小さくなり、グリーンシートの焼成時の昇温過程でBi2O3粒子の凝集が起こり難くなることを見出した(この点の詳細については後述する)。
以上のように、本発明によれば、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を、ピンホール数を抑えて製造することが可能になった。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
(コバルト酸リチウム配向焼結板)
図1に示されるように、本実施形態のコバルト酸リチウム配向焼結板110は、板片状に構成されたチップ型のリチウム二次電池(以下、単に「リチウム電池」ともいう)100の配向正極板(正極活物質)を構成するものである。リチウム電池100では、正極側集電極101、負極側集電極102及び外装封止部103,104によって区画された領域に、当該リチウム電池100の板厚方向Xについて正極側から順に集電接続層105、コバルト酸リチウム配向焼結板(配向正極板)110、固体電解質106及び負極107が積層配置されている。コバルト酸リチウム配向焼結板110は、主として層状岩塩構造を有するLiCoO2からなり、特に複数の結晶面のうちミラー指数hklについての(104)面が板面と平行に配向されるものである。このコバルト酸リチウム配向焼結板110の表面は、Ti、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも1種以上の添加元素を含む酸化物で被覆され得る。このコバルト酸リチウム配向焼結板110には、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi等の元素が1種以上更にドーピング又はそれに準ずる形態(例えば結晶粒子の表層への部分的な固溶、又は偏析)で微量添加されていてもよい。
図1に示されるように、本実施形態のコバルト酸リチウム配向焼結板110は、板片状に構成されたチップ型のリチウム二次電池(以下、単に「リチウム電池」ともいう)100の配向正極板(正極活物質)を構成するものである。リチウム電池100では、正極側集電極101、負極側集電極102及び外装封止部103,104によって区画された領域に、当該リチウム電池100の板厚方向Xについて正極側から順に集電接続層105、コバルト酸リチウム配向焼結板(配向正極板)110、固体電解質106及び負極107が積層配置されている。コバルト酸リチウム配向焼結板110は、主として層状岩塩構造を有するLiCoO2からなり、特に複数の結晶面のうちミラー指数hklについての(104)面が板面と平行に配向されるものである。このコバルト酸リチウム配向焼結板110の表面は、Ti、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも1種以上の添加元素を含む酸化物で被覆され得る。このコバルト酸リチウム配向焼結板110には、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi等の元素が1種以上更にドーピング又はそれに準ずる形態(例えば結晶粒子の表層への部分的な固溶、又は偏析)で微量添加されていてもよい。
(コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法)
図2に示されるように、上記構成のコバルト酸リチウム配向焼結板110を製造するための製造方法には、グリーンシート作製工程S101と、グリーンシート焼成工程S102と、コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程S103と、が含まれている。尚、本発明では、必要に応じて、これら3つの各工程の前後に1又は複数の別工程を追加することもできる。
図2に示されるように、上記構成のコバルト酸リチウム配向焼結板110を製造するための製造方法には、グリーンシート作製工程S101と、グリーンシート焼成工程S102と、コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程S103と、が含まれている。尚、本発明では、必要に応じて、これら3つの各工程の前後に1又は複数の別工程を追加することもできる。
(グリーンシート作製工程)
グリーンシート作製工程は、Co原料(典型的には、Co3O4(四酸化三コバルト)粒子)と、その配向促進剤としてのビスマス酸化物(典型的には、Bi2O3粒子)とを含む未焼成のシート状のグリーンシートを作製(「準備」ないし「用意」ともいう)するための工程である。この工程が本発明の「グリーンシート作製工程」に相当する。この工程によれば、典型的にはCo3O4粒子及びBi2O3粒子を含む原料をシート状に成形することによって、このグリーンシートを得ることができる。この場合、グリーンシートの作製過程でBi2O3粒子が添加される形態は、「グリーンシートにおけるBi2O3の「内添加」」ということができる。Bi2O3粒子の添加量(内添加量)は、Co3O4粒子の重量に対して、0.2〜5重量%とするのが好ましい。Co3O4粒子の体積基準D50粒径は、0.1〜0.6μmであるのが好ましい。Bi2O3粒子の体積基準D50粒径は、0.1〜1.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5μmである。グリーンシートの厚さは50μm以下であるのが好ましい。
グリーンシート作製工程は、Co原料(典型的には、Co3O4(四酸化三コバルト)粒子)と、その配向促進剤としてのビスマス酸化物(典型的には、Bi2O3粒子)とを含む未焼成のシート状のグリーンシートを作製(「準備」ないし「用意」ともいう)するための工程である。この工程が本発明の「グリーンシート作製工程」に相当する。この工程によれば、典型的にはCo3O4粒子及びBi2O3粒子を含む原料をシート状に成形することによって、このグリーンシートを得ることができる。この場合、グリーンシートの作製過程でBi2O3粒子が添加される形態は、「グリーンシートにおけるBi2O3の「内添加」」ということができる。Bi2O3粒子の添加量(内添加量)は、Co3O4粒子の重量に対して、0.2〜5重量%とするのが好ましい。Co3O4粒子の体積基準D50粒径は、0.1〜0.6μmであるのが好ましい。Bi2O3粒子の体積基準D50粒径は、0.1〜1.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5μmである。グリーンシートの厚さは50μm以下であるのが好ましい。
尚、グリーンシートは、Co原料がCo3O4粒子のみからなるものであってもよいし、或いはCo3O4粒子の全部又は一部に代えて、CoO粒子及び/又はCo(OH)2粒子を含有するものであってもよい。即ち、本発明では、Co原料は少なくともCoを含むものであればCo3O4のみに限定されるものではない。このようにCoO粒子及び/又はCo(OH)2粒子を含有するグリーンシートの場合においても、グリーンシート焼成工程S102での当該グリーンシートの焼成によって、ミラー指数hklについての(h00)面をシート面と平行に配向したCoO系焼成中間体ないしCo3O4配向焼成板を作製することができ、その結果、Co原料がCo3O4粒子のみからなるグリーンシートを用いる場合と同様に、その後のコバルト酸リチウム配向焼結板作製工程S103で同様の性能を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を製造することができる。
グリーンシートの作製においては、(i)原料粒子を含むスラリーを用いたドクターブレード法、(ii)熱したドラム上へ原料を含むスラリーを塗布し、乾燥させたものをスクレイパーで掻き取る、ドラムドライヤーを用いた手法、(iii)原料粒子を含む坏土を用いた押出成形法等の方法を採用することができる。特に好ましいシート形成方法はドクターブレード法である。このドクターブレード法を用いる場合、可撓性を有する板(例えばPETフィルム等の有機ポリマー板)にスラリーを塗布し、塗布したスラリーを乾燥固化して成形体とし、この成形体と板とを剥離することにより、グリーンシートを作製すればよい。成形前にスラリーや坏土を調製するときには、無機粒子を分散媒に分散させ、バインダーや可塑剤等を適宜加えてもよい。また、スラリーは、粘度が500〜4000cPとなるように調製するのが好ましく、減圧下で脱泡するのが好ましい。
(グリーンシート焼成工程)
グリーンシート焼成工程は、グリーンシート作製工程で得られたグリーンシートを、ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下で所定の焼成温度で焼成する工程である。ここで、「ビスマス雰囲気下において焼成する」とは、グリーンシート内のBi2O3の揮発が抑制された状態での焼成を意味するものであり、このビスマス雰囲気とは、グリーンシートが、グリーンシートに含まれているBi2O3粒子とは別の更なるビスマス源と共存する状態を意味する。この場合、更なるビスマス源は、少なくともBiを含むものであれば、グリーンシートに含まれているBi2O3粒子と同種のBi2O3粒子であってもよいし、或いはBi2O3粒子とは異なる種類のビスマス源であってもよい。この工程が本発明の「グリーンシート焼成工程」に相当する。この工程によれば、ミラー指数hklについての(h00)面(hは任意の整数、例えばh=2)がシート面と平行となるような配向性を有する配向焼成板(セラミックシート)を作製することができる。
グリーンシート焼成工程は、グリーンシート作製工程で得られたグリーンシートを、ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下で所定の焼成温度で焼成する工程である。ここで、「ビスマス雰囲気下において焼成する」とは、グリーンシート内のBi2O3の揮発が抑制された状態での焼成を意味するものであり、このビスマス雰囲気とは、グリーンシートが、グリーンシートに含まれているBi2O3粒子とは別の更なるビスマス源と共存する状態を意味する。この場合、更なるビスマス源は、少なくともBiを含むものであれば、グリーンシートに含まれているBi2O3粒子と同種のBi2O3粒子であってもよいし、或いはBi2O3粒子とは異なる種類のビスマス源であってもよい。この工程が本発明の「グリーンシート焼成工程」に相当する。この工程によれば、ミラー指数hklについての(h00)面(hは任意の整数、例えばh=2)がシート面と平行となるような配向性を有する配向焼成板(セラミックシート)を作製することができる。
Co原料としてCo3O4粒子を含むグリーンシートの場合、焼成前のCo3O4粒子は等方的な形態を有するため、当該グリーンシートは当初は配向性を有していない(無配向である)が、焼成の昇温時にCo3O4粒子がCoOに相変態して粒成長する段階で配向が生じる(以下、「CoOの配向粒成長」という)。その際、Co3O4粒子が、(h00)面をシート面と平行に配向したCoOに変化した焼成中間体を一時的に経ることとなる。即ち、Coの酸化物は、900℃以上(例えば920℃以上)では、室温におけるCo3O4で表されるスピネル構造からCoOの岩塩構造に相変態する。この焼成によりCo3O4が還元されてCoOに相変態するとともにシートが緻密化される。そして、焼成後の降温時に焼成中間体の温度が下がる過程でCoOがCo3O4に酸化される。その際、CoOの配向方位がCo3O4に引き継がれることで、(h00)面がシート面と平行となるように配向された多数のCo3O4粒子からなる配向焼成板が形成される。特に、ビスマス酸化物(典型的にはBi2O3)の共存下ではCoOの配向粒成長が促進される。この焼成時にビスマスは揮発してシートから除去される。
このグリーンシート焼成工程において、グリーンシートの焼成温度は900〜1350℃の範囲内の温度であり、好ましくは1000〜1300℃、より好ましくは1050〜1300℃である。グリーンシートを上記焼成温度で焼成する時間は1〜20時間の範囲内の時間であるのが好ましく、より好ましくは2〜10時間である。また、グリーンシートを上記焼成温度で焼成した後の降温速度は、好ましくは10〜200℃/hの範囲内の速度であり、より好ましくは20〜100℃/hである。
CoOの配向粒成長には、50μm以下というグリーンシートの厚さが寄与している。すなわち、厚さ50μm以下のグリーンシートにおいては、シート面内方向(厚さ方向と直交する方向)に比べて、厚さ方向に存在する材料の量が極めて少ない。このため、厚さ方向に複数個の粒子がある初期段階には、ランダムな方向に粒成長する。一方、粒成長が進行して厚さ方向の材料が消費されると、粒成長方向はシート面内の二次元方向(以下、面方向という)に制限されることになる。これにより、面方向への粒成長が確実に促進される。特に、グリーンシートを可能な限り薄く形成したり(例えば数μm以下)、あるいはグリーンシートが比較的厚め(例えば20μm程度)の場合であっても粒成長を可能な限り大きく促進したりすることで、面方向への粒成長を確実に促進させることができる。いずれにしても、焼成の際、表面エネルギーの最も低い結晶面をグリーンシートの面内に持つ粒子のみが選択的に面方向へ扁平状(板状)に粒成長することになる。その結果、グリーンシートの焼成により、アスペクト比が大きく、(h00)面が粒子の板面と平行となるように配向したCoO板状結晶粒子を、その(h00)面をシート面と平行に配向して含む焼成中間体が得られる。その後、焼成中間体の温度が下がる過程でCoOがCo3O4に酸化され、(h00)面がシート面と平行となるように配向された多数のCo3O4粒子からなる配向焼成板が形成されるのは、前述の通りである。
多数のCo3O4粒子からなる配向焼成板は、独立した板状のシートである。「独立した」シートとは、焼成後に他の支持体から独立して単体で取り扱い可能なシートのことをいう。即ち、「独立した」シートには、焼成により他の支持体(基板等)に固着されて当該支持体と一体化された(分離不能あるいは分離困難となった)ものは含まれない。こうして(h00)面が粒子の板面と平行となるように配向した多数の粒子が結合した自立した配向焼結板が得られる。この自立板は、上述のような多数のCo3O4粒子が隙間なく結合した、緻密な配向焼成板となり得る。
ところで、上記構成の配向焼成板は、その焼成時にピンホール、即ち、板厚方向において貫通した穴が形成され易い。従って、薄型のリチウム電池100を形成するために配向焼成板の板厚を抑えるとこのピンホールが要因となって欠陥が出来易くなり、その結果、製品の歩留まりが悪くなるという問題点が生じ得る。本発明者の検討によれば、配向促進材として内添加しているBi2O3粒子が、グリーンシートの焼成途中で粒界において液相化し凝集して塊となり、この塊が揮発することでピンホールが形成されることが原因であることが判明した。例えばBi2O3を含まないグリーンシートA1と、Co3O4に対してBi2O3が20重量%の重量比率で内添加されたグリーンシートA2をそれぞれ同一の焼成温度(1300℃)で焼成した場合、グリーンシートA1の焼成板にはピンホールが全く確認されなかった(図3参照)のに対して、グリーンシートA2の焼成板には多数のピンホールが確認された(図4中の矢印参照)。また、Co3O4に対するBi2O3の重量比率の増加に伴ってピンポールの数も増加することが確認された。一方で、Bi2O3粒子の内添加量を減らすとピンホール数を抑えることはできるが、配向焼成板の配向性が下がる。従って、単純にBi2O3粒子の内添加量を減らすのみでは、高容量のリチウム電池に適した所望の配向性を有する配向焼成板を得ることができない。
そこで、本発明者は鋭意検討の結果、焼成前のグリーンシートにおけるBi2O3粒子の内添加量を少なく抑える一方で、このグリーンシートをビスマス源が共存するビスマス雰囲気下で焼成することによって、高容量のリチウム電池に適した配向性を有するとともにピンホール数が抑えられた配向正極板を作製できることを見出すことに成功した。即ち、この作製方法では、焼成時にグリーンシート内のBi2O3粒子に起因する塊が揮発する前に、グリーンシート周りに存在するビスマス源を蒸気化させることによって、焼成するグリーンシートの内部と外部との間でのビスマス濃度差を抑えることがポイントになる。この場合、ビスマス濃度差が抑えられる結果、グリーンシート内のBi2O3の揮発が抑えられた状態で当該グリーンシートを焼成することができる。これにより、グリーンシート内のBi2O3粒子に起因する塊が揮発するタイミングを遅らせることができる。その結果、ビスマス雰囲気下での焼成を行わない場合(Bi2O3粒子に起因する塊が早いタイミングで揮発する場合)に比べてBi2O3粒子の内添加量が少なくても本来の配向性を確保することが可能になり、且つピンホールが形成され難くすることができる。この場合、薄型のリチウム二次電池を構築するために配向正極板の板厚を抑えても、ピンホールの数を抑えることができ、製品の歩留まりが悪くなるのを防止できる。これに対して、ビスマス雰囲気下でグリーンシートを焼成しない場合には、早いタイミングで揮発するBi2O3があるためその余分量を予め内添加する必要であるため、Bi2O3粒子の内添加量を少なくできない。
従って、グリーンシートをビスマス雰囲気下で焼成する場合、ビスマス雰囲気下で焼成しない場合に比べてグリーンシート作成時のBi2O3の内添加量を抑えることができる。具体的には、グリーンシート作成時においてグリーンシートに含まれるCo原料としてのCo3O4の重量(Wa)に対する、当該グリーンシートに含まれるBi2O3の重量(Wb)の重量比率(Wb/Wa)を0.2〜5重量%とするのが好ましい。この重量比率の範囲であれば、焼成後の配向焼成板の平坦性の確保やピンポール数の抑制の観点から好ましい。
グリーンシートをビスマス雰囲気下に置くための方法として、典型的には、予め区画された区画領域内においてグリーンシートのシート表面にビスマス源としてのBi2O3粉末を配置する第1処理と、グリーンシートの周囲にビスマス源としてのBi2O3粉末を配置する第2処理との少なくとも一方の処理を採用するのが好ましい。この場合、第1処理及び第2処理のうちのいずれか一方の処理を用いてもよいし、或いは第1処理及び第2処理の双方の処理を用いてもよい。この場合、ビスマス雰囲気を形成するためにグリーンシートにBi2O3粉末が添加される形態は、グリーンシートの作製過程での内添加に対して、「グリーンシートにおけるBi2O3の「外添加」」ということができる。ビスマス雰囲気をより確実に形成するために、外添加したBi2O3粉末の周りを区画部材(典型的には焼成用治具)等によって区画し、この区画領域内でグリーンシートを焼成するのが好ましい。また、本発明では、上記の第1処理においてBi2O3以外の別のビスマス源をグリーンシートのシート表面に配置することよって、或いは上記の第2処理においてBi2O3以外の別のビスマス源をグリーンシートの周囲に配置することよって、ビスマス雰囲気を形成することもできる。
尚、第1処理を用いる際には、グリーンシートに含まれるCo原料としてのCo3O4の重量(Wa)に対する、当該グリーンシートに含まれるBi2O3の重量(Wb)と第1処理にて添加するBi2O3の重量(Wb1)との合計重量(Wc=Wb+Wb1)の重量比率(Wc/Wa)を2〜15重量%とするのが好ましい。これにより、配向焼結板において高容量のリチウム二次電池に適したCo3O4の配向性を確保し、且つピンホールが形成され難くすることができる。また、この第1処理を用いる際にCo3O4粒子の体積基準D50粒径を0.1〜0.6μmとした場合、グリーンシート内の粒子同士の隙間径が小さくなり、グリーンシートの焼成時の昇温過程でBi2O3粒子の凝集が起こり難くなるため、凝集が原因で粗大なピンホールが形成されるのを阻止できる。また、この昇温過程では、グリーンシートに内添加されているBi2O3が揮発するよりも早いタイミングでCo3O4粒子を粒成長させることができる。従って、グリーンシート外に存在する液相或いは気相のBi2O3はグリーンシート内に侵入し難くなるため、ピンホールの数を減らす効果が高まる。
(コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程)
コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程は、グリーンシート焼成工程で得られた配向焼成板をリチウム源が共存するリチウム雰囲気下で焼成する工程である。この工程が本発明の「コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程」に相当する。この工程によれば、配向焼成板にリチウム(Li)が導入される。リチウムの導入は、Co3O4配向焼成板をリチウム化合物と反応させることにより行われるのが好ましい。リチウム源であるリチウム化合物として典型的には、(i)水酸化リチウム、(ii)炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウム、シュウ酸リチウム、クエン酸リチウム等の各種リチウム塩、(iii)リチウムメトキシド、リチウムエトキシド等の各種リチウムアルコキシド等が挙げられ、特に好ましくは水酸化リチウムをリチウム源とする。リチウムを導入する際の条件、例えば、混合比、加熱温度、加熱時間、雰囲気等は、リチウム源として用いる材料の融点や分解温度、反応性等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、Co3O4配向焼成板に、LiOH粉末の分散したスラリーを所定量塗布して乾燥させた後、加熱することにより、Co3O4粒子にリチウムを導入することができる。このときの加熱温度は600〜880℃が好ましく、この範囲内の温度で2〜20時間加熱を行うのが好ましい。また、Co3O4配向焼成板に付着させるリチウム化合物の量はLi/Co比で1.0以上とするのが好ましく、より好ましくは1.0〜1.5である。Liが多すぎる場合であっても余剰分のLiは加熱に伴い揮発して消失するため問題は無い。
コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程は、グリーンシート焼成工程で得られた配向焼成板をリチウム源が共存するリチウム雰囲気下で焼成する工程である。この工程が本発明の「コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程」に相当する。この工程によれば、配向焼成板にリチウム(Li)が導入される。リチウムの導入は、Co3O4配向焼成板をリチウム化合物と反応させることにより行われるのが好ましい。リチウム源であるリチウム化合物として典型的には、(i)水酸化リチウム、(ii)炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウム、シュウ酸リチウム、クエン酸リチウム等の各種リチウム塩、(iii)リチウムメトキシド、リチウムエトキシド等の各種リチウムアルコキシド等が挙げられ、特に好ましくは水酸化リチウムをリチウム源とする。リチウムを導入する際の条件、例えば、混合比、加熱温度、加熱時間、雰囲気等は、リチウム源として用いる材料の融点や分解温度、反応性等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、Co3O4配向焼成板に、LiOH粉末の分散したスラリーを所定量塗布して乾燥させた後、加熱することにより、Co3O4粒子にリチウムを導入することができる。このときの加熱温度は600〜880℃が好ましく、この範囲内の温度で2〜20時間加熱を行うのが好ましい。また、Co3O4配向焼成板に付着させるリチウム化合物の量はLi/Co比で1.0以上とするのが好ましく、より好ましくは1.0〜1.5である。Liが多すぎる場合であっても余剰分のLiは加熱に伴い揮発して消失するため問題は無い。
こうして得られるコバルト酸リチウム(LiCoO2)配向焼結板は、LiCoO2の(104)面が板面と平行となるような配向性を有するものである。従って、複数の結晶面のうちリチウムイオンの出入りが良好に行われる(104)面が配向焼結板の板面と平行に配向される。このため、この配向焼結板を正極活物質として用いて電池を構成した場合に、電解質に対する当該面の露出(接触)がより多くなるとともに、当該粒子や板の表面における(003)面(リチウムイオンの出入りに適さない面)の露出割合が極めて低くなる。例えば、コバルト酸リチウム配向焼結板を固体型リチウム二次電池の正極材料として用いた場合に、高容量と高レート特性とを同時に達成することができる。コバルト酸リチウム配向焼結板の厚さは、好ましくは5〜75μmであり、より好ましくは10〜60μmであり、さらに好ましくは20〜50μm、特に好ましくは20〜40μmである。また、コバルト酸リチウム配向焼結板のサイズは、好ましくは5mm×5mm平方以上、より好ましくは10mm×10mm〜100mm×100mm平方であり、さらに好ましくは10mm×10mm〜50mm×50mm平方であり、別の表現をすれば、好ましくは25mm2以上、より好ましくは100〜10000mm2であり、さらに好ましくは100〜2500mm2である。
本発明の一態様及びその作用効果は、図5〜図13を参照しつつ以下に説明する実施例によってより明確化される。尚、以下の説明では、各処理や各操作の実行主体である発明者の記載を便宜上省略している。
グリーンシート作製工程において先ず、Co3O4原料粉末(体積基準D50粒径0.3μm、正同化学工業株式会社製)に10wt%の割合でBi2O3(体積基準D50粒径0.3μm、太陽鉱工株式会社製)を添加(以下、「内添加」ともいう)した混合粉末を得た。次に、この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した混合物を得た。この混合物を減圧下での撹拌によって脱泡するとともに、4000cPの粘度に調製した。なお、調製時の粘度をブルックフィールド社製のLVT型粘度計で測定した。図5が参照されるように、上記の調製で得られたスラリーをドクターブレード法によってPETフィルムFの上に供給して乾燥し、乾燥後の厚さが24μmとなるようにシート状に成形することによって、未焼成のグリーンシートA(以下、単に「シートA」ともいう)を作製した。
図6が参照されるように、グリーンシート焼成工程では先ず、前記のPETフィルムFから剥がしたシートAをカッターで40mm角に切り出し、ジルコニア製の焼成用治具(寸法が90mm角で高さ1mmの治具、以下、「セッター」ともいう)STの中央に2枚重ねて載置した。そのセッターSTの上に、ジルコニア製の4つのスペーサー(1辺が5mmのサイコロ状に構成された部材)SPをそれぞれ4隅に積み重ねた後、4つのスペーサーSPの上に別のセッターSTを積み重ね、更にそのセッターSTの上に別の2枚一組のシートAを積み重ねた。このようなセッターST、4つのスペーサーSP、及び2枚一組のシートAの積み重ねを複数段(例えば、10段)について行い、最終的に最上段にセッターSTのみが積み重ねられた積み重ね体を形成した。尚、図6では便宜上、当該積み重ねを2段について行った場合を示している。その後、上記の積み重ね体をビスマス源が共存するビスマス雰囲気下(詳細については後述する)で焼成炉に入れて所定の焼成条件(大気中にて1300℃で5時間焼成の後、降温速度200℃/hの条件で降温)にて焼成した。図7に示されるように、2枚一組のシートAのうち下層のシートAは焼成時に溶着してセッターSTの表面に癒着することが想定されるため、セッターSTとの癒着の心配の無い上層のシートA(図7中のハッチング部分参照)が焼成された配向焼成板を、Co3O4配向焼成板Cとして各セッターST上から取り出した。尚、セッターSTの表面に癒着するおそれが無い場合は、2枚一組のシートAを積み重ねなくても、1枚のシートAのみを使用して当該シートAを焼成してもよい。
ここで、図8及び図9を参照しながら、上記のビスマス雰囲気を形成するためにシートAにBi2O3を添加(外添加)する2つの典型的な方法について説明する。図8に示される第1処理(外添加方法Ma)を用いた場合には、2枚一組のシートAのうち上層のシートAの上にBi2O3粉末BをシートA内のCo3O4に対して所定の重量比率で一様に載置した。これに対して、図9に示される第2処理(外添加方法Mb)を用いた場合には、各セッターSTの上に2枚一組のシートAの周りを囲むように予め設定された所定量(0.05g)のBi2O3粉末Bを配置した。
上記の各外添加方法を用いてビスマス雰囲気下でシートAを焼成することにより、複数の結晶面のうちミラー指数hklについての(h00)面がシート面と平行となるように配向されたCo3O4配向焼成板Cをピンホールの数及び大きさを抑えた状態で作製することができた。
上記のCo3O4配向焼成板Cはその板厚方向に湾曲した反りを伴う場合があるため、反りを修正するための処理を行った。この処理では、図10が参照されるように、Co3O4配向焼成板Cを、その両面から2つのセッターSTで挟み込まれた状態で、大気中にて840℃で20時間放置した。これにより、Co3O4配向焼成板Cの反りが解消された。尚、このCo3O4配向焼成板Cの反りが予め設定された管理基準値内にある場合にはこの処理を省略することもできる。
コバルト酸リチウム配向焼結板作製工程では、Co3O4配向焼成板Cをリチウム源の共存下で加熱してCo3O4配向焼成板Cにリチウムを導入することによって、LiCoO2からなるコバルト酸リチウム配向焼結板Dを作製した。この工程について具体的に説明すると、先ず水酸化リチウムとしてのLiOH・H2O粉末(和光純薬工業株式会社製)をジェットミルで1μm以下に粉砕し、エタノールに分散したスラリー(以下、「リチウム化合物」ともいう)を作製した。コバルト酸焼成板Cにこのスラリーを塗布して乾燥した。その後、図11が参照されるように、スラリーが塗布された状態のCo3O4配向焼成板Cを、その両面から2つのセッターSTで挟み込んだ状態で大気中にて840℃で20時間放置した。その結果、Co3O4配向焼成板Cにリチウムが導入され、且つLiCoO2の(104)面が板面と平行となるような配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板D(図11中の二点鎖線参照)を得た。
本発明者は、上記のコバルト酸リチウム配向焼結板作製工程で得られたコバルト酸リチウム配向焼結板Dを以下の各確認結果に基づいて評価した。
(XRD測定による配向性の確認)
コバルト酸リチウム配向焼結板Dにおいて、複数の結晶面のうちLiCoO2の(104)面が板面に平行に配向していることを確認すべく、XRD(X線回折)測定を行った。この測定では、XRD装置(株式会社リガク製、ガイガーフレックスRAD−IB)を用い、焼結板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定した。測定されたこのXRDプロファイルから(104)面による回折強度(ピーク高さ)に対する(003)面による回折強度(ピーク高さ)の比率I[003]/I[104]を求めたところ、この比率I[003]/I[104]が0.3であった。一方、同じ板を乳鉢で十分に粉砕して粉末状にしたうえで、粉末XRDのプロファイルを測定したところ、比率I[003]/I[104]は1.6であった。このことから、LiCoO2の(104)面が板面に平行に多数存在している、即ち高容量のリチウム二次電池に適した所望の配向性を有することが確認できた。また、この配向性については焼結板の表面のSEM写真によっても確認できた。例えば、図12に示される無配向状態のコバルト酸リチウム焼結板の表面に対して、図13に示されるように、コバルト酸リチウム配向焼結板Dの表面では、リチウムイオンの出入り面となるLiCoO2の(104)面が広がった配向状態(LiCoO2の(104)面が板面と平行となった配向状態)が確認できた。
コバルト酸リチウム配向焼結板Dにおいて、複数の結晶面のうちLiCoO2の(104)面が板面に平行に配向していることを確認すべく、XRD(X線回折)測定を行った。この測定では、XRD装置(株式会社リガク製、ガイガーフレックスRAD−IB)を用い、焼結板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定した。測定されたこのXRDプロファイルから(104)面による回折強度(ピーク高さ)に対する(003)面による回折強度(ピーク高さ)の比率I[003]/I[104]を求めたところ、この比率I[003]/I[104]が0.3であった。一方、同じ板を乳鉢で十分に粉砕して粉末状にしたうえで、粉末XRDのプロファイルを測定したところ、比率I[003]/I[104]は1.6であった。このことから、LiCoO2の(104)面が板面に平行に多数存在している、即ち高容量のリチウム二次電池に適した所望の配向性を有することが確認できた。また、この配向性については焼結板の表面のSEM写真によっても確認できた。例えば、図12に示される無配向状態のコバルト酸リチウム焼結板の表面に対して、図13に示されるように、コバルト酸リチウム配向焼結板Dの表面では、リチウムイオンの出入り面となるLiCoO2の(104)面が広がった配向状態(LiCoO2の(104)面が板面と平行となった配向状態)が確認できた。
(ピンホール数の確認)
コバルト酸リチウム配向焼結板Dを2cmに切り出した試験板を、エタノールを浸みこませたスポンジの上に載せて、試験板の表面に染み出しのあった箇所の数を数える操作を実施した。5つの試験板をサンプルとして各サンプルについて同様の操作を実施し、その平均値をピンホール数N(個)とした。
コバルト酸リチウム配向焼結板Dを2cmに切り出した試験板を、エタノールを浸みこませたスポンジの上に載せて、試験板の表面に染み出しのあった箇所の数を数える操作を実施した。5つの試験板をサンプルとして各サンプルについて同様の操作を実施し、その平均値をピンホール数N(個)とした。
上記の各確認については、Co3O4原料粉末の粒径(μm)、シートAのシート厚み(μm)、Bi2O3の内添加量(wt%)、Bi2O3の外添加量(wt%)及び外添加方法の種類を種々変更した複数の例(表1中の実施例1〜5、比較例1〜7)に対して詳細に実施した。
(評価)
表1によれば、実施例1〜5のいずれも場合も、比率I[003]/I[104]が基準値(例えば0.6)以下であり、且つピンホール数Nが基準値(例えば0.5)以下であること、即ち所望の配向性を有しており、且つピンホールの発生が抑えられていることが確認された。これに対して、実施例1〜7のいずれの場合も、比率I[003]/I[104]が基準値(例えば0.6)を上回るか、或いはピンホール数Nが基準値(例えば0.5)を上回ることが確認された。即ち、比較例1,2,5,6はいずれも場合もピンホール数Nが多く、比較例3,7はいずれも所望の配向性を有していないことが確認された。尚、比較例4の場合は、サンプル自体が皺になって比率I[003]/I[104]及びピンホール数Nを導出することができなかった。これらの確認結果に基づいて場合、実施例1〜5の各条件を採用することによって、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板Dを、ピンホール数を抑えて製造することができたものと評価できる。
表1によれば、実施例1〜5のいずれも場合も、比率I[003]/I[104]が基準値(例えば0.6)以下であり、且つピンホール数Nが基準値(例えば0.5)以下であること、即ち所望の配向性を有しており、且つピンホールの発生が抑えられていることが確認された。これに対して、実施例1〜7のいずれの場合も、比率I[003]/I[104]が基準値(例えば0.6)を上回るか、或いはピンホール数Nが基準値(例えば0.5)を上回ることが確認された。即ち、比較例1,2,5,6はいずれも場合もピンホール数Nが多く、比較例3,7はいずれも所望の配向性を有していないことが確認された。尚、比較例4の場合は、サンプル自体が皺になって比率I[003]/I[104]及びピンホール数Nを導出することができなかった。これらの確認結果に基づいて場合、実施例1〜5の各条件を採用することによって、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板Dを、ピンホール数を抑えて製造することができたものと評価できる。
更なる具体的な評価として、実施例1及び2はいずれも、焼成時にBi2O3を外添加方法Ma,Mbにて外添加している点についてのみ比較例3と相違している。この場合、Bi2O3を外添加することによって、ピンホール数を抑えた状態で比較例3の配向性を実施例1及び2のように向上させることができるという効果が得られたものと評価できる。この効果は、実施例1及び2において、Bi2O3の添加量の合計値を比較例3に比べて単純に増やすことによるものではない。即ち、比較例3に対してBi2O3の内添加量を増やした比較例1及び2はいずれも、配向性を向上させることができるもののピンホール数を抑えることはできない。
実施例3を比較例4と対比することにより、Bi2O3を外添加するのみではなく、内添加及び外添加の双方で添加することによって、配向性及びピンホール数の双方を満足する結果が得られたものと評価できる。実施例1を比較例5と対比することにより、CO3O4の粒径を0.8μmまで上げることでピンホール数が増えたものと評価できる。実施例4及び5を比較例7と対比することにより、シートAの厚みを24μmから50μmまで増やした場合でも、ピンホール数を抑えた状態で比較例7の配向性を実施例4及び5のように向上させることができるという効果が得られたものと評価できる。また、シートAを厚みを24μmから50μmまで増やした場合、比較例7に対してBi2O3の内添加量を増やした比較例6は、配向性を向上させることができるもののピンホール数を抑えることはできない。
以上の評価に基づいた場合、少なくとも実施例1〜5の各条件下での製造方法によれば、高容量のリチウム二次電池に適した配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板Dをピンホール数を抑えて製造できることが確認された。
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
上記の実施例では、全固体リチウム二次電池の配向正極板(正極活物質)として用いられるコバルト酸リチウム配向焼結板の製造技術について記載したが、有機電解液(液体の電解質)を用いたリチウム二次電池の正極活物質の製造技術に対して本発明を適用することもできる。
100…リチウム二次電池、101…正極側集電極、102…負極側集電極、103,104…外装封止部、105…集電接続層、106…固体電解質、107…負極、110…コバルト酸リチウム配向焼結板(配向正極板)、A,A1,A2…グリーンシート、B…Bi2O3粉末、C…Co3O4配向焼成板、D…コバルト酸リチウム配向焼結板
Claims (5)
- リチウム二次電池の正極板を構成するコバルト酸リチウム配向焼結板を製造するための、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法であって、
Co原料及びBi2O3を含むグリーンシートを作製するグリーンシート作製工程と、
前記グリーンシート作製工程で得られた前記グリーンシートを、ビスマス源が添加されたビスマス雰囲気下において焼成することにより(h00)面がシート面と平行となるような配向性を有する配向焼成板を作製するグリーンシート焼成工程と、
前記グリーンシート焼成工程で得られた前記配向焼成板をリチウム源が共存するリチウム雰囲気下で焼成することによりLiCoO2の(104)面が板面と平行となるような配向性を有するコバルト酸リチウム配向焼結板を作製するコバルト酸リチウム配向焼結板作製工程と、
を含む、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法。 - 請求項1に記載の、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法であって、
前記グリーンシート焼成工程では、予め区画された区画領域内において前記グリーンシートのシート表面にビスマス源としてのBi2O3粉末を載置して添加する第1処理と前記グリーンシートの周囲に前記ビスマス源としてのBi2O3粉末を配置して添加する第2処理との少なくとも一方の処理によって当該グリーンシートのためのビスマス雰囲気を形成する、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法。 - 請求項2に記載の、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法であって、
前記グリーンシート焼成工程では、前記グリーンシートに含まれる前記Co原料としてのCo3O4の重量(Wa)に対する、当該グリーンシートに含まれるBi2O3の重量と前記第1処理で添加するBi2O3の重量との合計重量(Wc)の重量比率(Wc/Wa)を2〜15重量%とする、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法。 - 請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法であって、
前記グリーンシート作製工程では、前記グリーンシートに含まれる前記Co原料としてのCo3O4の重量(Wa)に対する、当該グリーンシートに含まれるBi2O3の重量(Wb)の重量比率(Wb/Wa)を0.2〜5重量%とする、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法。 - 請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法であって、
前記グリーンシート作製工程では、前記グリーンシートに含まれる前記Co原料としてのCo3O4の粒子径を0.1〜0.6μmとする、コバルト酸リチウム配向焼結板の製造方法。
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-
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