ところで、レンズホルダを角度自在かつ回転自在に連結するとともに、球芯を中心として当該レンズホルダを揺動させるようにした上軸球芯揺動型の装置を用いる場合には、カンザシと呼ばれる加圧軸部材とレンズホルダとの間の連結点に、球芯を中心とした揺動運動を生じさせるための揺動駆動力が与えられる。
例えば、特許文献2の球芯揺動型研磨機においては、球芯位置Cを中心に加圧ピン12を研磨皿3の凹球面状の研磨面に沿って左右に揺動させ、レンズ1を上記研磨面に沿って移動させる。ここで、第2図に示される場合には、凸曲面状の被研磨面を有するレンズ1を研磨皿3の凹球面状の研磨面上で研磨することから、加圧ピン12はレンズホルダ11を研磨面に沿った移動方向に駆動するため、加圧ピン12とレンズホルダ11との連結部分が角度自在に構成されていると、レンズホルダ11が研磨面に沿った方向に移動する際に、加圧ピン12から受ける移動方向に向けた揺動駆動力と、研磨面から受ける逆向きの摩擦力とによってレンズホルダに偶力が働き、この偶力によるモーメントは研磨面上におけるレンズの移動に伴うレンズホルダ11の姿勢変化の向きとは逆向きに作用するため、レンズホルダ11の研磨面に沿ったスムーズな移動が損なわれるという問題点がある。
一方、第3図のように、凸球面状の研磨面により凹曲面状の被研磨面を有するレンズを研磨する場合には、レンズホルダ11に上記と同様の偶力が作用するものの、その偶力によるモーメントは、研磨による研磨面上の移動により生ずるレンズホルダ11の姿勢変化の向きと同じ向きとなるため、レンズホルダ11の研磨面に沿ったスムーズな移動を妨げることは少ない。
そこで、上記第2図の場合には第3図の場合とは異なり、加圧ピン12をレンズホルダ11に対して角度固定した状態で接続することが考えられる。しかし、このようにすると、研磨時におけるレンズホルダ11の角度変位が規制されるため、研磨時においてレンズに加わる応力変動を十分に吸収することができなくなる。
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、レンズホルダに対して角度自在かつ回転自在に取り付けられた加圧軸を有し、回転する加工部材に対して加工面の球芯を中心とした揺動を行う加工工程において、従来の加工工程の利点を損なうことなしに、揺動に伴うレンズの加工面上の移動を円滑化することにより、高精度な光学面を備えたレンズを製造することのできるレンズの製造方法を実現することにある。
斯かる実情に鑑み、本発明のレンズの製造方法は、レンズ(22)の被加工面(22a)を研削若しくは研磨により加工するレンズ加工工程を有するレンズの製造方法であって、前記レンズ加工工程は、前記被加工面(22a)に対応する凹球面状の研削面若しくは研磨面からなる加工面(21a)を備えた加工部材(21)と、前記加工面(21a)上に前記被加工面(22a)を当接させた前記レンズ(22)を保持するレンズホルダ(20)と、該レンズホルダ(20)に対して上方から角度自在かつ回転自在に連結された加圧軸部材(18a)と、を用いる工程である。
本発明においては、前記レンズ加工工程において、前記レンズホルダ(20)と前記加圧軸部材(18a)との連結点(P)が、前記レンズ(22)の前記被加工面(22a)の前記加工面(21a)上の加工位置に対して、前記球芯(O)を挟んだ反対側であって、前記球芯(O)に対する距離(L)が前記球芯(O)と前記加工位置との間の距離(R)以上に離れた位置に配置され、前記加圧軸部材(18a)を介して前記レンズホルダ(20)を加圧した状態で、前記球芯(O)を通過する揺動軸線(11x)の周りに前記加圧軸部材(18a)を揺動させながら、前記加工部材(21)を前記球芯(O)で前記揺動軸線(11x)と交差する回転軸線(19x)の周りに回転させることにより加工を行うことを特徴とする。
この発明によれば、レンズホルダ(20)と加圧軸部材(18a)との間の連結点(P)が前記レンズ(22)の前記加工面(21a)上の加工位置に対して前記球芯(O)を挟んで反対側に配置されることにより、加圧軸部材(18a)からレンズホルダ(20)に与えられる揺動駆動力(Fp)は、上記連結点(P)の位置、すなわち、レンズホルダ(20)に保持されたレンズ(22)の被加工面(22a)が加工部材(21)の加工面(21a)に接する加工位置に対して、上記球芯(O)を挟んで反対側の位置、に与えられることになる。これにより、レンズホルダ(20)が加圧軸部材(18a)から受ける揺動駆動力(Fp)は、加工面(21a)上においてレンズ(22)の被加工面(22a)が移動する向き(Dp)とは逆向きにレンズホルダ(20)に与えられる。その結果、レンズホルダ(20)が加圧軸部材(18a)から受ける上記揺動駆動力(Fp)と被加工面(22a)が加工面(21a)から受ける摩擦力(Fq)とは、球芯(O)を挟んだ両側において同じ向きに生ずる。このため、レンズホルダ(20)に生ずる偶力は揺動駆動力Fpと摩擦力Fqとの差のみとなり、その偶力のモーメントは加工に必要な方向及び大きさに限定される。また、レンズホルダ(20)の姿勢を変化させようとするモーメントは、レンズホルダ(20)に対して、その揺動に伴う姿勢変化と同じ向きに作用するため、レンズホルダ(20)の移動の妨げとはならないことから、被加工面(22a)を加工面(21a)上でスムーズに移動させることができる。したがって、レンズ(22)に加わる応力変動を吸収するための上記連結点(P)の角度自在かつ回転自在な連結態様を維持しつつ、加工中のレンズ(22)に対して円滑な加工作用を安定して与えることができるので、レンズ(22)の光学面に対して高精度の研削、研磨作用を生じさせることができる。
また、前記連結点(P)の前記球芯(O)に対する距離(L)が、前記加工位置の前記球芯(O)に対する距離(R)以上である(このことは、被加工面(22a)の加工面(21a)上の加工位置と連結点(P)との間の距離(L+R)が上記距離(R)の2倍以上であることを意味する。)ことにより、前記加工面(21a)上の加工位置において前記レンズ(22)の被加工面(22a)が加工面(21a)から受ける摩擦力(Fq)に起因するモーメントに対して、前記連結点(P)において前記レンズホルダ(20)が加圧軸部材(18a)から受ける揺動駆動力(Fp)に起因するモーメントが大きくなりやすいから、レンズ(22)及びレンズホルダ(20)を、球芯(O)を中心に容易に揺動させることができる。換言すれば、加工面(21a)上での摩擦力(Fq)に抗してレンズホルダ(20)を揺動させるのに必要とされる揺動駆動力(Fp)を小さくすることができるため、加圧軸部材(18a)とレンズホルダ(20)の連結点(P)に無理な駆動負荷をかけずにレンズホルダ(20)をスムーズに揺動させることができるから、連結点(P)において応力変動を十分に吸収しながら、安定した加工状態を得ることができる。
本発明において、前記連結点(P)の前記球芯(O)に対する距離(L)は、前記レンズ(22)の前記加工面(21a)上の加工位置の前記球芯(O)に対する距離(R)の2倍以下であることが好ましい。このことは、被加工面(22a)の加工面(21a)上の加工位置と連結点(P)との間の距離(L+R)が上記距離(R)の3倍以下であることを意味する。これによれば、上記の効果を確保しつつ、レンズ加工装置(10)の大型化や大型化に伴う製造コストの増大、或いは、加工状態の不安定化などを回避することができる。
本発明において、前記加圧軸部材(18a)の揺動範囲は、前記加工部材(21)の軸線(19x)に対して一側に傾斜した所定の中心角度位置φ0を中心として、前記加工部材(21)の軸線(19x)に対して非対称な揺動角度範囲φWに設定されることが好ましい。これによれば、中心角度位置φ0と揺動角度範囲φWを設定することにより、レンズ(22)が加工部材(21)の加工面(21a)の回転軸線(19x)近傍の周速の遅い部分に摺接する時間を低減することができるとともに、レンズ(22)の外周の一部が加工面(21a)の外側へ外れる時間を設けることも可能になるため、レンズ(22)の中心軸付近の面くせ(中高や中落)の発生、或いは、レンズ(22)の外周付近の面くせの発生を制御し、光学面の形状精度を高めることができる。
本発明において、前記加圧軸部材(18a)の前記レンズホルダ(20)の側の先端部が少なくとも凸球面状に構成された外面形状を有し、前記レンズホルダ(20)には、前記加圧軸部材(18a)の前記先端部を受け入れ、前記先端部との間で角度自在かつ回転自在な自在継手を構成するための凹球面状に形成された内面形状を有する凹嵌部(20d)を有することが好ましい。
本発明において、前記レンズホルダ(20)は、前記レンズ(22)を収容する収容凹部(20a)を備えたレンズ収容部(20A)と、該収容凹部(20a)の内面であって、前記レンズ(22)の前記被加工面(22a)とは逆側の裏面(22b)に沿った形状を有する凹部内面(20b)と、該凹部内面(20b)と前記レンズ(22)の裏面(22b)との間に介挿され、前記レンズ(22)の裏面(22b)に対して相対的に高い摩擦係数を有する表面、及び、前記凹部内面(20b)に対して相対的に低い摩擦係数を有する裏面を備えたレンズ保護シート(中敷きシート、20c)と、を具備することが好ましい。
この場合において、上記レンズ保護シート(20c)は、前記表面をフェルト状の起毛を備える面とし、前記裏面を相互に交差する少なくとも2方向の繊維を含む網目構造が露出した網目状の面とすることが望ましい。これによれば、起毛を備える表面によりレンズ(22)の裏面(22b)にさらに損傷を与えにくくなるとともに、網目状の裏面によりレンズ保護シート(20c)と凹部内面(20b)との間の接触面積を減少させることにより摩擦をさらに低減することができる。したがって、収容凹部(20a)内においてレンズ(22)とレンズ保護シート(20c)を一体に移動可能に構成できるため、加工時においてレンズ(22)が受ける応力変動をさらに緩和させることができる。例えば、レンズ(22)の外縁形状が円形であり、これに対応する円形の収容凹部(20a)内においてレンズ(22)が回転自在に保持されている場合には、レンズ(22)がレンズホルダ(20)の内部で加工部材(21)の回転に伴って連れ回ることで、上記応力変動を緩和することができる。
次に、本発明の別のレンズの製造方法は、揺動軸線(11x)の周りに揺動可能な上軸(14)と、回転軸線(19x)の周りに回転可能な下軸(19)との間でレンズ(22)の被加工面(22a)を研削若しくは研磨により加工するレンズ加工工程を有するレンズの製造方法であって、前記上軸(14)には、前記レンズ(22)を保持するレンズホルダ(20)に対して上方から角度自在かつ回転自在に連結可能に構成された加圧軸部材(18a)が設けられ、前記下軸(19)には、前記レンズ(22)の前記被加工面(22a)に対応する凹球面状の研削面若しくは研磨面からなる加工面(21a)を備えた加工部材(21)が取り付け可能に構成され、
前記レンズ加工工程は、
前記加工部材(21)を、前記下軸(19)に取り付けたときに、前記揺動軸線(11x)と前記回転軸線(19x)との交点に前記加工面(21a)の球芯Oが配置されるように形成するステップと、
前記レンズホルダ(20)を、前記レンズ(22)の被加工面(22a)が前記加工面(21a)上に接触するように収容配置したときに、前記加圧軸部材(18a)と前記レンズホルダ(20)との連結点(P)の前記球芯(O)に対する距離Lが前記加工面(21a)と前記球芯(O)との距離(R)以上となるように形成するステップと、
次に、前記下軸(19)に前記加工部材(21)を取り付けるとともに前記加工面(21a)上に前記レンズ(22)を保持した前記レンズホルダ(20)を配置し、前記レンズホルダ(20)を前記加圧軸部材(18a)と連結させるステップと、
その後、前記上軸(14)を前記揺動軸線(11x)の周りに揺動させながら、前記下軸(19)を前記回転軸線(19x)の周りに回転させることにより、前記レンズ(22)の加工を実行するステップと、を具備することを特徴とする。
次に、本発明のレンズ加工装置(10)は、レンズ(22)の被加工面(22a)を研削若しくは研磨により加工するレンズ加工工程に用いるレンズ加工装置であって、前記被加工面(22a)に対応する凹球面状の研削面若しくは研磨面からなる加工面(21a)を備えた加工部材(21)と、前記加工面(21a)上に前記被加工面(22a)を当接させた前記レンズ(20)を保持するレンズホルダ(20)と、該レンズホルダ(20)に対して上方から角度自在かつ回転自在に連結された加圧軸部材(18a)と、該加圧軸部材(18a)を介して前記レンズホルダ(20)に加圧力(Fs)を付与する加圧手段(17)と、前記加工面(21a)の球芯(O)を通過する揺動軸線(11x)の周りに前記加圧軸部材(18a)を揺動させる揺動駆動機構(30)と、前記球芯(O)で前記揺動軸線(11x)と交差する回転軸線(19x)の周りに前記加工部材(21)を回転させる回転駆動機構(40)と、を具備し、前記レンズホルダ(20)と前記加圧軸部材(18a)との連結点(P)が、前記レンズ(22)の前記被加工面(22a)の前記加工面(21a)上の加工位置に対して、前記球芯(O)を挟んだ反対側であって、前記球芯(O)に対する距離(L)が前記球芯(O)と前記加工位置との間の距離(R)以上に離れた位置に配置されることを特徴とする。
本発明によれば、レンズホルダに対して角度自在かつ回転自在に取り付けられた加圧軸を有し、回転する加工部材に対して加工面の球芯を中心とした揺動を行う加工工程において、従来の加工工程の利点を損なうことなしに、揺動に伴うレンズの加工面上の移動を円滑化することにより、高精度な光学面を備えたレンズを製造することのできるレンズの製造方法を実現することができるという優れた効果を奏し得る。
次に、添付図面を参照して本発明のレンズの製造方法の実施形態について詳細に説明する。最初に、本実施形態のレンズの製造方法のレンズ加工工程において使用するレンズ加工装置10の構造及び動作態様について説明する。図3はレンズ加工装置10の概略側面図、図4はレンズ加工装置の概略正面図である。
レンズ加工装置10は、上軸14を軸線11xの周りに揺動させるための揺動駆動機構30と、下軸19を軸線19xの周りに回転させるための回転駆動機構40とを備えている。このレンズ加工装置10は、揺動駆動機構30により水平な軸線11xを中心に回動する回動軸11と、この回動軸11に取り付けられ、軸線11xを中心とする半径方向に伸びる揺動アーム12とを備える。揺動アーム12の末端部分は前方へ伸び、その前端において上軸ガイド13を保持固定している。上軸ガイド13は、上軸14を、上記軸線11xを中心とする半径方向に沿った姿勢に保持しつつ、その軸線14xに沿って昇降可能に案内している。
上軸14は上軸ガイド13を貫通して伸びた上端位置でブラケット15に接続固定される。また、上軸ガイド13はブラケット16を介して加圧シリンダ17を支持し、この加圧シリンダ17の加圧ロッド17aが上記ブラケット15に連結されている。上軸14の下端には、カンザシである加圧ピン(加圧軸部材)18aを保持固定するピンホルダ18が取り付けられている。この加圧ピン18aは後述するレンズホルダ20のピン係合部20dに対して全方位について角度自在に、かつ、回転自在に連結された態様で係合する。
下軸19は、垂直な軸線19xを中心に上記回転駆動機構40により回転駆動されるようになっている。下軸19の上端には、研削部材(研削皿)若しくは研磨部材(研磨皿)である加工部材21′(図3ではダミーが図示されている。)が取り付け固定される。後述する実施形態の加工部材21は、図1に示すように、凹球面状の研削面若しくは研磨面である加工面21aを備え、この加工面21aの軸線は上記軸線19xに一致する。加工面21a上には後述するレンズホルダ20に装着されたレンズ22の凸曲面状の被研磨面である被加工面22aが摺接するように配置される。上記軸線19xは、上記軸線11xと上記軸線14xの双方に交差するようになっている。軸線11xと軸線19xの交点は上記加工面21aの球芯Oであり、この球芯Oを中心に上軸14の軸線14xが揺動する。
上記揺動駆動機構30は、揺動フレーム31を支持するとともに、上記回動軸11を回転可能に軸支する軸支部32と、揺動フレーム31に取り付けられた駆動モータ33と、この駆動モータ33により回転駆動されるとともに揺動フレーム31に軸支されたクランク板34と、このクランク板34に対して回転自在に連結された第1リンク35と、この第1リンク35と上記回動軸11との間に回転自在に連結された第2リンク36とを備えている。クランク板34は、第1リンク35に連結された連結部材34aを移動可能に備え、この連結部材34aは調整ねじ34bを操作することによって、駆動モータ33の回転駆動軸からの距離が調整可能となるように構成されている。このため、調整ねじ34bにより連結部材34aの回転駆動軸に対する距離を設定することにより、第1リンク35及び第2リンク36を介して回動軸11の回動範囲(揺動アーム12又は上軸14の揺動範囲)が適宜に得られるように、上記揺動角度範囲φWを設定することができる。
軸支部32は、上記揺動フレーム31に固定された保持筒部32aを介して回動軸11を回転自在に軸支している。保持筒部32aは、通常は、図示しない装置フレームに取り付けられた支持台32bに支持固定された状態となっているが、クランプノブ32cを緩めることにより、支持台32bに対して軸線11xの周りに回転可能になるように構成される。保持筒部32aは歯車32dに連結され、この歯車32dは、図示しないウォームを備えた角度調整機構(図示せず。)に噛合している。上記クランプノブ32cを操作して保持筒部32aの固定状態を解除した状態では、手動により上記角度調整機構を操作することで、保持筒部32aを、上記揺動フレーム31、クランク板34、第1リンク35及び第2リンク36とともに軸線11xの周りに回動させることができ、これにより、上記中心角度位置φ0を設定することができる。なお、揺動アーム12と揺動駆動機構30との間に配置された表示板37は、垂直姿勢を基準として測った揺動アーム12(上軸14)の角度位置を示す角度目盛を備えている。
下軸19は軸支部41により垂直な軸線19xを有する状態で回転自在に軸支されている。軸支部41の下方には下軸19にプーリ42が取り付けられ、このプーリ42は図示しない駆動モータにより駆動ベルト等を介して回転駆動されるようになっている。下軸19の上部にはカバー43及び連結部材44が配置されている。カバー43は加工時に研磨液などが軸支部41に侵入しないようにするためのものである。また、下軸19は、上記連結部材44を介して後述する加工部材21用の取付台座45に接続されている。取付台座45は、上記軸線11xを基準として一定の高さ位置に配置され、既定の上下寸法Hを備えた加工部材21を取り付けたときに、当該加工部材21の加工面21aの球芯Oが軸線11x上に配置されるように構成される。この上下寸法Hは、レンズ加工装置10の設計によって変更することができるが、例えば、50mm(小形装置用)、100mm(標準装置用)などといった値に設定される。
図4に示すように、レンズ加工装置10には、上記上軸14の球芯Oに向けた位置によって加工量(研削量、若しくは、研磨量)を測定するための加工量測定部50が設けられている。この加工量測定部50には、上記ブラケット15に取り付けられたマイクロメータヘッドからなる加工量設定部51が設けられる一方で、上記ブラケット16に取り付けられた検出センサ52の検出端部が上記加工量設定部51の設定端部との接触を検知するように構成される。また、上記ブラケット15に固定されたナットに螺合するボルトにより構成される規制部材53が設けられ、この規制部材53の先端が上記ブラケット16に設けられた停止部材54に当接することで、上軸14がそれ以上降下しないように規制する規制手段を構成している。したがって、規制部材53と停止部材54によって上軸14の降下量の下限値を設定するとともに、加工量設定部51の設定端部を検出センサ52が検知する位置から設定したい加工量だけ上昇させることによって、加工量の設定を行うことができる。
レンズ加工装置10には、図示しない制御部(MPUやシーケンサ等で構成される。)と、この制御部を操作するための操作盤とが設けられる。この操作盤に対する各種の操作により、加圧シリンダ17の加圧状態の制御、加圧値の設定、加工動作の停止条件の選択(例えば、時間(タイマー)若しくは上記の検出センサ52の検知信号のいずれかの選択)、下軸19の回転速度、上軸14の揺動周期などをそれぞれ設定することができる。なお、上記中心角度位置φ0は、上記クランプノブ32cを緩めることにより保持筒部32aによる支持台32bに対する固定状態を解除し、図示しない角度調整機構を操作することにより、保持筒部32aを、上記揺動フレーム31、クランク板34、第1リンク35及び第2リンク36とともに軸線11xの周りに回動させることで設定され、その後、クランプノブ32cを締付けることで保持筒部32aを支持台32bに再び固定することで確定する。また、揺動角度範囲φWは、前述のように調整ねじ34bを回転させることで設定することができる。
(比較例)次に、図2を参照して、本発明に係る比較例について説明する。図2において、レンズ加工装置10の構成は基本的に図3及び図4で説明したものと同じである。この比較例では、凸球面状の加工面121aを備えた加工部材121を取付台座45に取り付ける。ここで、加工面121aの球芯Oは加工面121aの下方に配置される。レンズホルダ120は、凹曲面状の被加工面122aを有するレンズ122を収容凹部120a内に収容し、その凹部内面120bとレンズ122との間にレンズ保護シート120cが介挿される。ここで、凹部内面120b及びレンズ保護シート120cは後述するレンズ保護シート20cと同様に構成される。
レンズホルダ120には、に加圧ピン18aに連結されるピン係合部120dが設けられる。この比較例では、後述する実施形態とは異なり、加工面121aとレンズ122の被加工面122aとが摺接する加工位置と、加圧ピン18aとレンズホルダ120との連結点Pとは、球芯Oに対して同じ側に配置される。また、この場合には、連結点Pの球芯Oに対する距離Lは、レンズ122の中心部の厚みdの存在により、加工位置の球芯Oに対する距離Rよりも常に大きくなる。
この比較例において、上軸14の揺動に伴って上記連結点Pにおいてレンズホルダ120に与えられる揺動駆動力Fpは上記加工位置を当該力の向きと同じ方向Dpに移動させるが、そのときに生ずる摩擦力Fqは揺動駆動力Fpとは逆向きになるため、後述する実施形態とは異なり、レンズホルダ120には、揺動駆動力Fpと摩擦力Fqの和及び両者が与えられる作用点の距離に応じた偶力が働くことになる。しかし、この比較例では、上記偶力は、揺動駆動力Fpによってレンズホルダ120が移動する際に生ずるレンズホルダ120の姿勢変化の向きと同じ向きのモーメントを生じさせるので、当該偶力によってレンズ122の被加工面122aの加工面121a上の摺動が妨げられることは少ないとともに、上記連結点Pに大きな駆動負荷が加わることもないため、上軸14の揺動に伴ってレンズホルダ120及びレンズ122は加工面121a上を或る程度スムーズに摺動し、ほぼ安定した加工状態を得ることができる。
この比較例では、上記偶力のモーメントを小さくするため、上記連結点Pが加工位置に近いほど好ましいと考えられるが、物理的にレンズ122の中心部の厚みdよりも上記距離L−Rの値を小さくすることはできないし、その効果は大きくない。したがって、レンズ122の裏面122bの全体がレンズ保護シート120cを介して凹部内面120bによって支持され、裏面122bの全体に均一な圧力が与えられることで、加工時におけるレンズ122の変形を抑制することができる範囲で、上記連結点Pの距離Lを加工位置の距離Rに近づけることが好ましい。
この比較例においては、加圧ピン18aとレンズホルダ120の連結点Pが、球芯Oに対して、加工面121aと被加工面122aの摺接する加工位置と同じ側に配置されている点、連結点Pの球芯Oに対する距離Lが必然的に加工位置の球芯からの距離Rとレンズ122の中心部の厚みdとの和以上となる点において以下に詳述する実施形態とは異なるものの、その他の点については以下の実施形態と同様に上述のレンズ加工工程を実施することができる。
(第2比較例)次に、図6を参照して、異なる比較例の研削若しくは研磨をおこなう加工工程を有するレンズの製造方法について説明する。この図示例では、レンズ122の厚みdが外径より大きいため、レンズ122の被加工面122aと基端部122dとの間の距離が、球芯Oと加工位置(被加工面122aと加工面121aとが摺接する部分)との距離Rより大きくなっている。このため、レンズホルダ120を薄くし、レンズ122の基端部122dとピン係合部120dとの距離を小さくしても、連結点Pの球芯Oに対する距離Lは上記距離Rの2倍近くになっている。図示例では、加工面121aと連結点Pの距離L−Rは上記距離Rに近くなっているため、揺動駆動力Fpと摩擦力Fqとによって生ずる偶力のモーメントが大きくなり、加工の不安定性をもたらす。特に、上記距離L−Rが距離Rよりも大きくなると、加圧力Fsを小さくしたときにレンズホルダ120が離脱する事故を起こす虞が高くなる。
(実施形態)次に、上記のレンズ加工装置10を用いた本発明に係るレンズの製造方法の実施形態について、図1(a)〜(c)を参照して、詳細に説明する。ここで、本実施形態のレンズの製造方法は、レンズの加工工程を含むものである。このレンズ加工工程は、レンズの研削工程(粗摺)、精研削工程、研磨工程(仕上げ研磨)のいずれの工程であってもよい。
レンズホルダ20は、図1(c)に示すように、レンズ22を収容するための円盤状のレンズ収容部20Aと、このレンズ収容部20Aから上方へ延出し、上端部に上記係合凹部20dを備えた円柱状の延長部20Bとを備えている。レンズ収容部20Aには、レンズ22を収容する収容凹部20aと、この収容凹部20aの内部底面を構成する凹部内面20bと、この凹部内面20b上に載置され、レンズ22が凹部内面20bに直接に当接することにより損傷を受ける事を防止するためのレンズ保護シート(中敷きシート)20cとを有する。
上記凹部内面20bは、レンズ22の被加工面22aとは逆の裏面22bとほぼ対応する曲面状に構成される。また、レンズ保護シート20cにおいて、レンズ22の上記裏面22bに接触する表面は、レンズ22の裏面22bに高い摩擦係数で密着する弾性素材(ウレタン素材など)で構成され、特に、裏面22bの損傷を極力防止するために起毛状の面に構成されることが好ましい。また、レンズ保護シート20cにおいて、上記凹部内面20bに接触する裏面は、凹部内面20bに対して上記よりも低い摩擦係数で摺動自在に接する低摩擦素材(フッ素樹脂など)で構成される。特に、レンズ保護シート20cの裏面は、表面素材の裏面に貼りあわされた網目状の低摩擦素材からなる繊維材で構成されることが好ましい。相互に交差する少なくとも2方向の繊維で網目構造が裏面上に露出するように構成されると、接触面積の低減によりさらなる低摩擦化を図ることができる。以上のようにレンズ保護シート20cを用いることにより、レンズ22の裏面22bの損傷を回避しつつ、レンズ22のレンズホルダ20による拘束度合を軽減することができる。しかも、レンズ22の全面に均一な加圧を付与することができるため、加工時におけるレンズ22の変形による光学面への影響を回避できる。
レンズホルダ20の延長部20Bの末端にはピン係合部20dが形成され、このピン係合部20dは、テーパ状の穴形状の内奥部に凹球面状の接合凹部が設けられた構造を備えている。そして、この接合凹部に上記加圧ピン18aの先端に形成された凸球面状の接合端部が嵌合することにより、既定の角度範囲内ではあるが、加圧ピン18aがレンズホルダ20に対して全方位について角度自在、かつ、軸線14xの周りに回転自在に連結されるようになっている。
レンズホルダ20は、加工部材21の加工面21aにレンズ22の被加工面22aを摺接させたときに、上記ピン係合部20dが上記球芯Oを中心として球芯Oと研磨面21aとの距離R以上離れた位置に配置されるように構成される。すなわち、このように構成されたレンズホルダ20を用いて研削若しくは研磨の加工を実行すると、ピン係合部20dは、加工面21aと被加工面22aの摺接領域(加工位置)に対して、球芯Oを挟んだ反対側であって、しかも、球芯Oに対して距離R以上離れた距離Lを有する位置に配置される。これにより、加圧ピン18aが球芯Oを中心とする一つの揺動平面上を円弧に沿って揺動するとき、レンズホルダ20は、加圧ピン18aから球芯Oに向かう方向に加圧力Fsを受けながら、加圧ピン18aの上記揺動に従って左右に揺動する。このとき、レンズホルダ20に保持されたレンズ22の被加工面22aは加工部材21の加工面21aに沿って摺動するため、レンズホルダ20の軸線20xは常に加工面21aの球芯Oを通過する姿勢で左右に揺動する。したがって、この揺動が生じても、加圧ピン18aの軸線14xとレンズホルダ20の軸線20xの角度差はほとんど生じないため、上記加圧シリンダ17により与えられ、レンズホルダ20が受ける加圧力Fsはほとんど一定となり、安定した加工状態が得られる。
しかしながら、レンズ22の被加工面22aと加工部材21の加工面21aとの間で生ずる摩擦力Fqは必ずしも一定ではなく、時間とともに或る程度は変動する。しかし、この変動に伴う加工状態への影響は、上述の加圧ピン18aとレンズホルダ20の間の全方位に亘る角度自在かつ軸線14xの周りに回転自在とされた連結構造と、上述のレンズホルダ20の収容凹部20a内のレンズ22及びレンズ保護シート20cと凹部内面20bとの間の回転自在とされた保持構造とにより緩和される。この緩和作用により、摩擦力の急激な変化により生ずる被加工面22aの損傷を低減することができる。すなわち、上記連結構造及び保持構造は、加工部材21の回転や加圧ピン18aの揺動に伴ってレンズホルダ20の振れやレンズ22の連れ回りを可能にすることにより、レンズ22の被加工面22aのスムーズかつ高精度な加工を実現する。
上記揺動時には、加圧ピン18aからレンズホルダ20に対して球芯Oを中心とする揺動平面上の円周方向に回旋力である揺動駆動力Fpが与えられる。この揺動駆動力Fpにより、レンズホルダ20に保持されたレンズ22は、上記揺動平面及び加工面21aに沿った揺動の向きDpへ摺動する。このとき、レンズ22の被加工面22aと加工面21aとの間には、上記揺動の向きDpとは逆向きの摩擦力Fqが生ずる。この摩擦力Fqは、レンズホルダ20及びレンズ22の重量と、加圧ピン18aから受ける上記加圧力Fsの和である垂直抗力に比例する。上記重量は、揺動の角度範囲が狭く、加圧力Fsに対する比率が小さい場合には垂直抗力にほとんど影響を与えない。特に、中心角度位置φ0が30〜60度の範囲内であって、揺動角度範囲φWが5〜30度の範囲内であるといったように、偏った、狭い揺動角度範囲を有する場合にはその傾向が強くなる。
図1(c)に示す例では、加圧ピン18aとレンズホルダ20の連結点Pは球芯Oに対して距離Rの位置にある(L=R)。この場合には、揺動駆動力Fpと摩擦力Fqが球芯Oから当距離の位置で生ずるため、揺動駆動力Fpが摩擦力Fqを僅かでも上回ればモーメント(Fp−Fq)×Rが発生し、レンズホルダ20及びレンズ22は球芯Oを中心として回動する。これに対して、上記連結点Pの球芯Oに対する距離LがRより小さくなる(L<R)と、モーメントはFp×L−Fq×Rとなるので、揺動させるために必要な揺動駆動力Fpは摩擦力Fqよりもかなり大きくなる。このため、上記連結点Pに大きな負荷が加わり、スムーズな揺動を生じさせることが難しくなる。なお、上記連結点Pが球芯Oに近づくと、やがてレンズホルダ20を揺動させること自体が困難になってくる。
一方、上記連結点Pの球芯Oに対する距離LがRよりも大きくなる(L>R)と、揺動駆動力Fpが摩擦力Fqよりも小さい場合でもモーメントが得られるために揺動を生じさせることができるようになる。ただし、距離LがRより大きくなると、加圧ピン18aの旋回半径とともに揺動幅も大きくなるため、レンズ加工装置10の各所の寸法、例えば、上軸14の軸線14xに沿った移動可能距離や研磨槽のサイズなど、を大きく確保する必要が生ずる。特に、レンズ径が大きい場合や取付レンズ数が多い場合にはレンズホルダも大型化するため、さらに装置を大型化させる必要がある。また、距離LがRより大きくなると、レンズホルダ20の重心位置が上方へ移動したり、レンズホルダ20の重量が増大したり、或いは、レンズホルダ20の剛性不足等により形状精度が低下するため、揺動を伴う安定した加工状態を得ることが難しくなる。また、レンズホルダ20の重心が上方にあると、揺動角が基準角度(垂直方向)からずれてレンズホルダ20が傾斜したとき、レンズホルダ20の重量負担が被加工面22aの下側にある部分へ偏って加工圧が不均一になるため、加工性を損なう可能性もある。特に、距離Lが2Rを越えると、上述のFpの抑制効果は低下してくるのに対して、上述の不具合は急速に増大していく。したがって、レンズ研磨機を大型化せずにレンズの加工品位を確保するには、連結点Pの球芯Oに対する距離Lを2R以下とすることが好ましい。
次に、本実施形態のレンズの製造方法において、より具体的な手順を説明する。まず、本実施形態のレンズの製造方法では、レンズ22の被加工面22aの研磨若しくは研削などの加工を行う1又は複数の加工工程を実施するが、これらの加工工程の内の少なくとも一つのレンズ加工工程では、以下のステップを実施する。
最初に、上記レンズ加工装置10の規定の上下寸法Hとレンズ22の被加工面22aの曲率等に適合した形状の加工面21aとその他の寸法を備えた加工部材21を形成する(加工部材形成ステップ)。すなわち、加工部材21を上記取付台座45に取り付けたときに、その加工面21aの球芯Oが軸線11x及び軸線19x上に配置されていなければならない。したがって、上記レンズ加工装置10の上下寸法Hと、加工部材21の加工面21aの球芯Oから加工部材21の下端までの上下寸法とが等しくなるように形成する。また、加工面21aは、加工工程の種類、例えば、研削工程(粗摺)、精研削工程、研磨工程(仕上げ研磨)等のいずれであるかによって、種々異なる面として形成される。例えば、加工面21aは、アスファルトピッチ、ウレタン、スウェード、ダイヤモンドペレット(砥石)など、レンズの加工工程の種類に応じて種々の材料で構成される。
次に、上記加工部材21の加工面21aによって加工すべきレンズ22を保持するレンズホルダ20を形成する(レンズホルダ形成ステップ)。このレンズホルダ20は、図1(c)に示すように、単一のレンズ22を収容凹部20aにより保持するものであってもよいが、収容凹部20aを複数備えた構造を有する、複数のレンズ22を保持するものであってもよい。レンズホルダ20の収容凹部20aは、レンズ22を収容して加工面21a上に配置されたとき、レンズ22の被加工面22aを上記加工面21a上に露出するとともに、被加工面22a以外の部分が上記加工面21aと干渉しないように構成される。また、収容凹部20aの凹部内面20bは、レンズ22の裏面22bにほぼ沿った面形状を有するように構成されることが好ましい。これは、レンズ保護シート20cを介してレンズ22の裏面22bが凹部内面20bに接触したときに、レンズ22の裏面20bの全面にほぼ均等な圧力が加わるようにすることで、加工時におけるレンズ22の変形を防止するためである。ただし、レンズ22の裏面22bと凹部内面20bとの間にはレンズ保護シート20cが介在するので、凹部内面20bがレンズ22の裏面22bと対応する曲面を有していなくても、結果として、凹部内面20b上のレンズ保護シート20cがレンズ22の裏面22bに対してほぼ均一な圧力を与えるように構成されていればよい。
レンズホルダ20には、上記加圧ピン18aとの間に連結点Pを構成するピン係合部20dを設ける。このピン係合部20dは、レンズ22を保持したレンズホルダ20を加工部材21上に配置したとき、すなわち、加工面21a上に被加工面22aが配置されるようにしたとき、レンズ収容部20Aとは反対側のピン係合部20dの加圧ピン18aとの間の連結点Pが、加工面21aと被加工面22aとが摺接する加工位置に対して球芯Oを挟んで反対側にあり、しかも、連結点Pの球芯Oに対する距離Lが、球芯Oと加工位置との距離R以上となるように、形成する。
レンズホルダ20の形状は、基本的には上述のように円盤状のレンズ収容部20Aと円柱状の延長部20Bを有するものとすることができる。ここで、例えば、レンズ収容部20Aは、単一レンズの場合にはレンズ22の外径より大きな外径を備え、複数レンズの場合には全てのレンズを配列させた範囲よりも大きな外径を必要とする。一方、延長部20Bは上述のようにピン係合部20dを設けることができればよいので、ピン係合部20dの連結点Pと球芯Oとの距離Lが上記距離R以上であればよい。しかしながら、上記の制約さえ満たすことができれば、レンズホルダ20の形状は上記形状に限定されるものではない。例えば、延長部20Bをレンズ収容部20Aと同径のまま軸線方向に延長させたものとしてもよい。ただし、この場合には延長部20Bと加工部材21との干渉により揺動可能な角度範囲が限定されてしまうことがある。一般に、延長部20Bの径を大きくすると上記と同様に揺動可能な角度範囲が制限されやすくなるが、レンズホルダ20の剛性を高めやすくなるため、加工時の変形を抑制できる。逆に、延長部20Bの径を小さくすると揺動可能な角度範囲を広げることができるが、レンズホルダ20の剛性が不足して加工時に変形しやすくなる。また、延長部20Bを、レンズ収容部20Aの側が大径に、ピン係合部20dの側が小径となるように、テーパ状に構成してもよい。この構造は、上述の揺動可能な角度範囲とレンズホルダ20の剛性とのトレードオフを解決する一つの方法である。
なお、上記加工部材形成ステップと、上記レンズホルダ形成ステップとは、同時並行して実施してもよく、或いは、上記の記述の順序で実施しても、上記の記述の順序とは逆の順序で実施しても構わない。また、同一寸法の複数のレンズを繰り返し加工し、或いは、同時並行して加工する場合には、上記加工部材形成ステップ及び上記レンズホルダ形成ステップを初回のみ実施し、或いは、まとめて実施するようにしてもよい。
次に、上述のように、レンズ加工装置10の下軸19の取付台座45に、上記の加工部材21を取り付け、加工部材21に対してレンズ22を保持するレンズホルダ20を配置し、さらにレンズホルダ20に加圧ピン18aを連結する(加工準備ステップ)。まず、加工部材21を取付台座45に取り付けると、上述のように加工部材21が形成されていることにより、加工面21aの球芯Oはレンズ加工装置10の軸線11xと19xの交点と一致する。ただし、加工部材21と取付台座45との間で取付位置に或る程度の自由度が或る場合、加工部材21の形成時にも自由度に応じた寸法に形成すればよいが、この場合には、この加工準備ステップにおいて加工部材21の取付位置の調整作業を行う。
例えば、図示例では、取付台座45のうち加工部材21と固定される上側取付部材45Aと、下軸19に固定される下側取付部材45Bとが設けられ、上側取付部材45Aと下側取付部材45Bとがボルト等の締結具45aによって固定される。そして、上側取付部材45Aと下側取付部材45Bの間には、水平面に沿った或る程度の取付余裕が設けられている。また、加工部材21には、上記加工面21aを備えた本体から下方へ延長された取付軸部21Bが設けられ、この取付軸部21Bは上側取付部材45Aに設けられた取付穴に挿入した上で止めねじ45bにより固定されるようになっている。まず、取付部材21の加工面21aの球芯Oを軸線19x上に配置するには、加工部材21を仮に取り付けた上側取付部材45Aを下側取付部材45Bに対して水平方向に移動させながら、下軸19を回転させ、加工面21aがぶれないように調整する。この調整が完了したら、締結具45aにより上側取付部材45Aを下側取付部材45Bに固定する。また、上記球芯Oを軸線11x上に配置するには、止めねじ45bを緩めて、加工部材21の取付軸部21Bを上側取付部材45の取付穴内で上下に移動させ、球芯Oが軸線11xと一致するように調整する。
また、この加工準備ステップでは、加工部材21の加工面21a上にレンズ22及びレンズホルダ20を配置する。レンズホルダ20の収容凹部20a内には、凹部内面20b上にレンズ保護シート20cを配置した上で、レンズ22の被加工面22aがレンズ収容部20Aの外面上に露出するようにレンズ22を収容する。このとき、レンズ22及びレンズ保護シート20cは収容凹部20a内に固定されずに嵌め込まれることが好ましい。また、レンズ22の外周は収容凹部20aの内周縁に嵌合し、レンズホルダ20に対してレンズ22が並進移動しないように保持されることが好ましい。レンズ22の外形が円形であれば、レンズ22は収容凹部20a内において並進移動はしないが、軸線20xの周りに回転自在に保持される。なお、本発明においては、レンズ22をレンズホルダ20に固定して加工を実施しても構わない。このとき、レンズホルダ20と加圧ピン18aとの間の角度自在かつ回転自在な連結構造が、レンズ22の受ける応力変動を吸収する。
上記被加工面22aが加工面21aに接触する姿勢となるようにレンズホルダ20を加工部材21上に配置すると、レンズホルダ20のピン係合部20dは上方に向く。そして、このピン係合部20dに対して上記上軸14の下端に取り付けられた加圧ピン18aを連結する。図1(a)及び(b)に示すように、上軸14が垂直姿勢となっている場合には、加工面21aの軸線19xを中心とする中央部上に被加工面22aを配置し、ピン係合部20dを垂直上方に向くようにレンズホルダ20を配置し、加圧ピン18aを垂直上方からピン係合部20dに向けて降下させながら、ゆっくりと連結する。このとき、レンズ加工装置10では、加圧シリンダ17のエア経路を開放状態とし、加圧ロッド17aを上下動可能な状態にしておくことにより、ピンホルダ18に取り付けられた取っ手18bを掴んで、上軸14を上下に移動させることが可能になる。或いは、制御部により加圧ロッド17aを上下動させることで上軸14を上下に移動させることも可能である。いずれかの方法により加圧ピン18aをレンズホルダ20に連結させると、加圧シリンダ17を、所定の加圧状態、すなわち、既定の加圧力Fsがレンズホルダ20に与えられるように設定する。加圧力Fsは、通常、0.05〜0.4MPaの範囲で設定される。なお、加圧シリンダ17は、上軸14、ブラケット15及びピンホルダ18の自重をキャンセルした上で既定の加圧力Fsを加えることができるように構成される。上記加圧力Fsは、レンズの加工工程の種類、例えば、粗摺りと仕上げ研磨の違いなどによって適宜に変更、設定される。
最後に、上記揺動駆動機構30により、上軸14を軸線11xの周りに設定された中央角度位置φ0及び揺動角度範囲φWに従って揺動させるとともに、上記回転駆動機構40により、下軸19を軸線19xの周りに所定の回転数で回転させる(加工実施ステップ)。このステップは、既定の設定時間で停止させてもよく、或いは、既定の加工量(研削若しくは研磨の量)となったときに停止するようにしてもよい。この工程では、必要に応じて、酸化セリウムなどの研磨材を含む研磨液などを吹付けながら加工を実施する。
本実施形態の加工工程において、上記加工実施ステップでは、上軸14の揺動に伴って加圧ピン18aが常に球芯Oに向けて一定の加圧力Fsをレンズホルダ20に与えるため、レンズ22の被加工面22aと加工部材21の加工面21aとの間に及ぼされる実質的な加圧状態を安定させることができる。また、加圧ピン18aとレンズホルダ20とが連結点Pにおいて全方位において角度自在に、かつ、軸線14xの周りに回転自在に連結されているため、加工位置における摺動面の摩擦力が変動するなど、レンズ22に対する応力変動が生じても、この応力変動を連結点Pにおいて吸収することができることから、スムーズな加工状態を維持することが可能になる。特に、上記連結点Pの球芯Oに対する距離Lは、加工位置の球芯Oに対する距離R以上である。このことは、被加工面22aの加工面21a上の加工位置と連結点Pとの間の距離L+Rが上記距離Rの2倍以上であることを意味する。これにより、レンズホルダ20に生ずる偶力の低減を図るとともに、当該偶力のモーメントによるレンズホルダ20の姿勢変化の妨げを回避することができる。さらに、加工位置で生ずる摩擦力Fqと対抗するために必要な揺動駆動力Fpの増大を抑制できるため、連結点Pの駆動負荷を低減することができることから上記の角度及び回転の自由度を担保することが可能になるので、さらに円滑な加工状態を実現することができる。
ここで、上記距離Lが距離R以上2R以下であることがさらに好ましい。このことは、被加工面22aの加工面21a上の加工位置と連結点Pとの間の距離L+Rが上記距離Rの3倍以下であることを意味する。これにより、レンズ研磨装置10の大型化や高コスト化を防止し、また、加圧ピン18a、レンズホルダ20及び加工部材21の間の加工動作時の安定性を確保し、さらに、レンズホルダ20の重量負担の偏りによる加工への影響を抑制することが可能になる。
(第2実施形態)図5には、上記実施形態のレンズに代えて、厚みdの大きなレンズ22を加工する際の様子を示す。図示例では、レンズ22の厚みdはその外径よりも大きく、上記距離Rの2倍を超え、全体としてロッド状に構成された極端なレンズ形状を示す。しかしながら、このような場合であっても、本実施形態では、上記距離Lを上記距離Rの2倍程度若しくはそれ未満にとどめることができる。ここで、レンズホルダ20は、レンズ22の基端部22dに近い位置にピン係合部20dを有するものとすることにより、レンズ22の基端部22dと連結点Pとの距離を短縮している。なお、図示例のようなレンズ22は、レーザ光を集光するための屈折率分布型のロッドレンズなどに適用することができる。
この実施形態の場合には、揺動駆動力Fpと摩擦力Fqの差によって生ずる偶力のモーメントでレンズホルダ20及びレンズ22が球芯Oを中心に回動するので、偶力のモーメントは必要最小限の値となるとともに、当該モーメントに起因するレンズホルダ20及びレンズ22の姿勢変化の向きは加工動作と整合しているため、加工動作を妨げることはない。したがって、上記距離Lが増大しても、上記第2比較例とは異なり、加工動作を妨げる方向の偶力のモーメントを生ずることはなく、当該モーメントに起因する加工時の不安定性を招くこともない。ここで、第2実施形態のレンズホルダ20は、先の実施形態と同様の凹部内面20b及びレンズ保護シート20cを備え、レンズ22を摺動可能に保持するものであってもよいが、レンズ22を、レンズ保護シート20cを介して、或いは、介在させずに、固定するように構成されていてもよい。
尚、本発明のレンズの製造方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、連結点Pを加圧ピン18aのテーパ状の先端部に形成された凸半球状の係合部と、ピン係合部20dのテーパ状の凹部の奥部に形成された凹半球状の係合部との嵌合構造により構成しているが、本発明は、加圧力Fsを伝達可能で、しかも、角度自在かつ回転自在な連結構造であればよいので、上記以外の種々のジョイント構造を用いることが可能である。