JP2016049697A - 圧電アクチュエータ、液滴吐出装置及び画像形成装置 - Google Patents

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Takeshi Sano
武 佐野
孝和 木平
Takakazu Kihira
孝和 木平
木田 仁司
Hitoshi Kida
仁司 木田
尚弥 近藤
Naoya Kondo
尚弥 近藤
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Abstract

【課題】駆動電圧信号の継続的な印加による圧電素子の経時的な変形特性を抑制した駆動方法を用いた圧電アクチュエータ及び液滴吐出装置を提供する。【解決手段】圧電素子に駆動電圧信号を印加して駆動する圧電アクチュエータにおいて、圧電素子を特定方向へ変形させる変形期間及び特定方向へ変形した圧電素子の変形を戻す変形戻し期間の少なくとも一方の期間中において、圧電素子の静電容量が相対的に大きくなる特定期間(電圧域Vwの期間)の電圧変化率Tf2,Tr2が少なくとも一方の期間中における残りの期間の電圧変化率Tf1,Tr1よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加する。【選択図】図12

Description

本発明は、圧電アクチュエータ、その圧電アクチュエータを用いて液滴を吐出する液滴吐出装置、及び、その液滴吐出装置を採用した画像形成装置に関するものである。
圧電アクチュエータにおいては、駆動電圧信号を継続的に印加することにより圧電素子の変形特性が変化するという不具合が知られている。
特許文献1には、このような不具合を解決する目的で、電界強度が圧電素子の抗電界を超える駆動波形F(圧電素子を特定方向へ変形させるための駆動電圧)を印加した後、この駆動波形Fに対して逆極性且つ電界強度が抗電界未満である逆極性波形Rを印加するような駆動電圧信号を用いる圧電アクチュエータが開示されている。
一般に、圧電素子を特定方向へ変形させる極性(以下「正規極性」という。)の高い電圧が印加されると、逆圧電効果により圧電素子が変形する。そして、印加される正規極性の電圧を小さくしたりゼロにしたりすると、圧電素子の変形が戻る。したがって、正規極性の高い電圧(駆動電圧)とその正規極性よりも小さい電圧(非駆動電圧)とが繰り返される波形をもつ駆動電圧信号が継続して印加されると、圧電素子が変形、非変形を繰り返す動きを示す。圧電アクチュエータは、このような圧電素子の動きを利用して、例えば、液体吐出装置の液体吐出動作の駆動や、光を走査するための偏向ミラーの駆動に適用される。
圧電アクチュエータは、上述したとおり、駆動電圧信号を継続的に印加することにより圧電素子の変形特性が変化するという不具合がある。この不具合は、駆動電圧信号が継続して印加される時間(継続駆動時間)が長くなるほど、非駆動電圧の印加時に圧電素子が当初の非変形状態まで戻れなくなることに起因する。この不具合は、圧電素子の変形量(変形幅)を低下させることになるので、例えば圧電アクチュエータを液体吐出装置に適用した場合、液滴の吐出特性を一定にすることができない。また、この不具合は、例えば圧電アクチュエータを偏向ミラーの駆動に適用した場合、圧電素子の非変形時に光走査位置のズレを生じさせ、光走査特性を悪化させる。
上述した特許文献1によれば、駆動電圧信号中に正規極性とは逆極性の逆極性波形Rが含まれ、これにより長期間継続して駆動しても上述した不具合を抑制できるとしている。しかしながら、本発明者らの研究の結果、駆動電圧信号中に逆極性波形を含ませても、圧電素子の変形特性の変化を十分に抑制できないという問題が判明した。特に、圧電素子の変形に対する負荷(抗力)が大きい状況下において、長期継続駆動による圧電素子の変形特性変化を抑制することは難しい。
なお、特許文献1には、圧電アクチュエータをインクジェット記録装置のインク吐出駆動に適用した例において、駆動電圧信号中に逆極性波形を含ませた場合には圧電素子の変形量の経時的な変化率が抑制された旨の評価結果が開示されている。この評価は、レーザードップラ振動計を用いて圧電素子の変形量を計測していることから、インクが充填されていない状態(すなわち実際の使用時よりも負荷が少ない状態)で、圧電素子の変形量についての経時的な変化率を評価したものといえる。したがって、インクが充填された高負荷の状態(実際の使用時の状態)で長期継続駆動による圧電素子の変形特性変化を抑制することが難しいという前記問題については、特許文献1からは知得できる問題ではない。
上述した課題を解決するために、本発明は、圧電素子と、該圧電素子に駆動電圧信号を印加する駆動電圧信号印加手段とを有する圧電アクチュエータにおいて、前記駆動電圧信号印加手段は、前記圧電素子を特定方向へ変形させる変形期間及び該特定方向へ変形した圧電素子の変形を戻す変形戻し期間の少なくとも一方の期間、該少なくとも一方の期間中における前記圧電素子の静電容量が相対的に大きくなる特定期間の電圧変化率が該少なくとも一方の期間中における残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする。
本発明によれば、駆動電圧信号の継続的な印加により圧電素子の静電容量が経時的に多少変化する状況でも、これにより圧電素子に発生する力に与える影響が少なくなり、駆動負荷対象物の慣性力の経時的な変化が抑制され、圧電素子の変形特性を経時的に安定化するという優れた効果が奏される。
実施形態に係る液滴吐出ヘッドの液滴吐出部の一構成例を示す概略構成図である。 同液滴吐出ヘッドに搭載されている圧電アクチュエータ上の圧電素子へ印加される駆動電圧信号の回路を概略的に示す説明図である。 同圧電アクチュエータを構成する基板上の振動板及び圧電素子の層構造の一例を示す断面図である。 圧電素子及びその周辺のより具体的な構成例を示す断面図である。 圧電素子及びその周辺のより具体的な構成例を示す平面図である。 SROからなる酸化物電極膜のX線回析測定結果の一例を示すグラフである。 従来の一般的な駆動電圧信号の波形の一例を示す説明図である。 従来の一般的な駆動電圧信号の波形の他の例を示す説明図である。 実施形態における圧電素子の分極ヒステリシス曲線を示すグラフである。 図8に示した駆動電圧信号に応じ、圧電素子に印加する電圧を−4[V]〜+26[V]の範囲内で変化させたときの電流電圧特性から算出される分極ヒステリシス曲線を示すグラフである。 図10のグラフを微分して得られる印加電圧に対する圧電素6の静電容量の変化を示すグラフである。 実施形態における駆動電圧信号の波形の一例を示す説明図である。 圧電素子の変形期間だけ、電圧域Vwの電圧変化率Tr2を当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tr1よりも小さくした駆動電圧信号の一例を示す説明図である。 圧電素子の変形戻し期間だけ、電圧域Vwの電圧変化率Tf2を当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tf1よりも小さくした駆動電圧信号の一例を示す説明図である。 変形例における駆動電圧信号の一例を示す説明図である。 実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置の一例を示す側面図である。 同画像形成装置の部分平面図である。
以下、本発明に係る圧電アクチュエータを、画像形成装置としてのインクジェット記録装置における液滴吐出装置としての液滴吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基本構成部分である液滴吐出部10の一構成例を示す概略構成図である。
図1において、液滴吐出部10は、インクなどの液体の液滴を吐出する液滴吐出孔としてのノズル11を有するノズル基板12と、ノズル11に連通し液体を収容した加圧液室としての個別液室13が形成された液室基板14とを備えている。更に、液室基板(以下、単に「基板」という。)14上には、個別液室13の壁の一部を形成する振動板15と、電気機械変換素子としての圧電素子16とが設けられている。圧電素子16は、振動板15を介して個別液室13内の液体に圧力を発生させる圧力発生手段(アクチュエータ)として機能する。
圧電素子16は、基板14側の第1の電極としての下電極である共通電極161と、電気機械変換膜としての圧電体膜162と、圧電体膜162の基板14側とは反対側の第2の電極としての上電極である個別電極163とが積層されている。共通電極161は、後述の外部接続用の第1の端子電極としての共通電極用のパッド電極に接続されている。また、圧電体膜162は、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)などから形成されている。また、個別電極163は、後述の外部接続用の第2の端子電極としての個別電極用のパッド電極に接続されている。
図1の液滴吐出部10において、第1パッド電極及び第2パッド電極を介して、圧電素子16の共通電極161と個別電極163との間に所定の周波数及び振幅の駆動電圧信号が印加される。具体的には、図2に示すように、駆動電圧信号生成回路200により生成される駆動電圧信号を圧電素子16の個別電極163へ印加し、共通電極161は接地する。この駆動電圧信号が印加された圧電素子16が変形、非変形を繰り返すことで、基板14と圧電素子16との間にある振動板15が振動し、その振動板15の振動に応じて個別液室13内の液体に圧力変化を引き起こし、ノズル11から液滴を吐出させたり、個別液室13内に液体を補充したりすることができる。
図3は、基板上の振動板及び圧電素子の層構造の一例を示す断面図である。
図4及び図5はそれぞれ圧電素子16及びその周辺のより具体的な構成例を示すである。なお、図5において、第1の絶縁保護膜18及び第2の絶縁保護膜23の図示は省略している。
圧電素子16の共通電極161とベース部材を構成する基板14との間には、成膜により形成されたベース部材の一部である振動板15が配置されている。この振動板15に接するように圧電素子16が形成された後、第1の絶縁保護膜18が形成される。更に、共通電極161とパッド電極19とを接続する第1の配線20と、個別電極163とパッド電極21とを接続する第2の配線22と、が形成される。第1の絶縁保護膜18は、共通電極161と第2の配線22との間を電気的に絶縁している。また、共通電極161と第1の配線20との間及び個別電極163と第2の配線22との間は、第1の絶縁保護膜18に形成された開口部であるコンタクトホール18aを介して接続されている。
上記第1の配線20及び第2の配線22が形成された後、全体を覆うように第2の絶縁保護膜23が形成される。パッド電極19及び21は、第2の絶縁保護膜23が形成された開口部としてのコンタクトホール23aに形成される。
本実施形態では、共通電極用のパッド電極19及び個別電極用のパッド電極21それぞれが露出するコンタクトホール23aに対して、コロナ放電方式又はグロー放電方式の放電処理を行っている。この放電処理により、共通電極用のパッド電極19及び個別電極用のパッド電極21を介して、圧電素子16の共通電極161及び個別電極163に、所定極性の互いに異なる電荷量の電荷を付与している。この電荷付与により、圧電素子16の共通電極161及び個別電極163に挟まれた圧電体膜162に対して分極処理を行うことができる。
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドを構成する構成要素である各部及び部材などの材料及び工法について、より具体的に説明する。
[基板]
基板14としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100[μm]以上600[μm]以下の範囲の厚みを持つことが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本構成例においては、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を主に使用した。また、図1に示すような液室(圧力室)13を作製していく場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していく。この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝をほることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。本構成例としては(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiOもエッチングされてしまうため、この点も留意して利用することが好ましい。
[振動板]
図1に示すように圧電素子16によって発生した力を受けて、その下地の振動板15が変形して、液室(圧力室)13のインクなどの液体の液滴を吐出させる。そのため、振動板15としては所定の強度を有したものであることが好ましい。材料としては、Si、SiO、Siなどを例えばCVD法により作製したものが挙げられる。さらに図1に示すような共通電極(下電極)161及び圧電体膜162の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、圧電体膜としては、一般的に材料としてPZTが使用される場合が多い。従って、振動板15の材料は、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い5×10−6(1/K)以上及び10×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料が好ましい。さらには7×10−6(1/K)以上及び9×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料がより好ましい。具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。これらの材料を、例えばスパッタ法又はゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。膜厚としては0.1[μm]以上及び10[μm]以下の範囲が好ましく、0.5[μm]以上及び3[μm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より小さいと、図1に示すような液室(圧力室)13の加工が難しくなる。また、上記範囲より大きいと振動板15が変形しにくくなり、インク滴などの液滴の吐出が不安定になる。
[共通電極]
共通電極161としては、金属もしくは金属と酸化物からなっていることが好ましい。ここで、どちらの材料も振動板15と共通電極161を構成する金属膜との間に密着層を入れて剥がれ等を抑制するように工夫している。以下に密着層含めて金属電極膜及び酸化物電極膜の詳細について記載する。
[密着層]
密着層は、例えば次のように形成する。Tiをスパッタ成膜後、成膜したチタン膜をRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて熱酸化して酸化チタン膜にする。熱酸化の条件は、例えば、650[℃]以上及び800[℃]以下の範囲の温度、1[分]以上及び30[分]以下の範囲の処理時間、及びO雰囲気である。酸化チタン膜を作成するには反応性スパッタでもよいがチタン膜の高温による熱酸化法が望ましい。反応性スパッタによる作製では、シリコン基板を高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要とする。さらに、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方がチタンO膜の結晶性が良好になる。なぜなら、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じるためである。したがって、昇温速度の速いRTAによる酸化の方が良好な結晶を形成するために有利になる。また、Ti以外の材料としては、Ta、Ir、Ru等の材料を用いることもできる。密着層の膜厚としては、10[nm]以上及び50[nm」以下の範囲が好ましく、15[nm]以上及び30[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲以下の場合においては、密着性に懸念があり、また、この範囲以上になってくると、その密着層の上で作製する電極膜の結晶の質に影響が出てくる。
[金属電極膜]
金属電極膜の金属材料としては、従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金が用いられているが、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあり、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これらの合金膜も挙げられる。また、白金を使用する場合には下地(特にSiO)との密着性が悪いために、前述の密着層を先に積層することが好ましい。作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚としては、80[nm]以上及び200[nm]以下の範囲が好ましく、100[nm]以上及び150[nm]以下の範囲がより好ましい。この範囲より薄い場合においては、共通電極161として十分な電流を供給することができなくなり、液滴の吐出をする際に不具合が発生する。さらに、この範囲より厚い場合においては、白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる。また、白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、その上に作製する酸化物電極膜やPZTの表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する。
[酸化物電極膜]
酸化物電極膜の材料としては、SrRuO(以下、適宜「SRO」と略す。)を用いることが好ましい。SrRuO以外にも、Sr(A)(1−x)Ruy(1−y)、A=Ba、Ca、B=Co、Ni、x、y=0〜0.5で記述されるような材料も挙げられる。酸化物電極膜は例えばスパッタ法等の成膜方法により作製することができる。スパッタ条件によってSrRuOの薄膜の膜質が変わる。従って、特に結晶配向性を重視し、第1の電極のPt(111)にならってSrRuOの膜についても(111)配向させるためには、成膜温度については500[℃]以上での基板加熱を行い、成膜することが好ましい。例えば特許文献2に記載のSRO成膜条件については、室温成膜でその後、RTA処理にて結晶化温度(650℃)で熱酸加している。この場合、SRO膜としては、十分結晶化され、電極としての比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性としては、(110)が優先配向しやすくなり、その上に成膜したPZTについても(110)配向しやすくなる。
Pt(111)上に作製したSROの結晶性については、PtとSROで格子定数が近いため、通常のX線のθ−2θ測定では、SRO(111)とPt(111)の2θ位置が重なってしまい判別が難しい。Ptについては消滅則の関係からPsi=35°だけ傾けた2θが約32°付近の位置には回折線が打ち消し合い、回折強度が見られない。そのため、Psi方向を約35°傾けて、2θが約32°付近のピーク強度で判断することで、SROが(111)に優先配向しているかを確認することができる。
図6は、SROからなる酸化物電極膜のX線回析測定結果の一例を示すグラフである。図6は、2θ=32°に固定し、Psiを振ったときのX線回析測定結果のデータを示している。測定に用いたXRD装置はPhilips社製の「X’Pert MRD」であり、X線源はCuKα、X線の波長は1.541[Å](0.1541[nm])、Slit1/4、Mask15を用いた。
図6において、Psi=0°ではSRO(110)ではほとんど回折強度が見られず、Psi=35°付近において、回折強度が見られることから本成膜条件にて作製したものについては、SROが(111)配向していることが確認できた。また、上述記載の室温成膜+RTA処理により作製されたSROについては、Psi=0°のときにSRO(110)の回折強度が見られる。
また、圧電アクチュエータとして連続動作したときに、駆動させた後の変位量が、初期変位に比べてどのくらい劣化したかを見積もったところ、PZTの配向性が非常に影響しており、(110)では変位劣化抑制において不十分である。さらにSRO膜の表面粗さを見たときに、成膜温度に影響し、室温から300[℃]では表面粗さが非常に小さく2[nm]以下になる。粗さについてはAFMにより測定される表面粗さ(平均粗さ)を指標としている。表面粗さとしては、非常にフラットにはなっているが結晶性が十分でなく、その後成膜したPZTの圧電アクチュエータとしての初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない。表面粗さとしては、4[nm]以上及び15[nm]の範囲になっていることが好ましく、6[nm]以上及び10[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。従って上述に示すような、結晶性や表面粗さを得るためには、成膜温度としては500[℃]以上及び700[℃]、好ましくは520[℃]以上及び600[℃]以下の範囲で成膜を実施している。
上記圧電素子の製造例では、圧電体膜としてPZTの(111)配向膜を形成した場合について説明しているが、共通電極(下電極)161を変更し、PZTの(100)配向膜を形成するようにしてもよい。
成膜後のSrとRuの組成比については、Sr/Ruが0.82以上及び1.22以下であることが好ましい。この範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる。更に、SRO膜の膜厚としては、40[nm]以上及び150[nm]以下の範囲が好ましく、50[nm]以上及び80[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られず、圧電体膜(PZT膜)のオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能も得られにくくなる。また、この膜厚範囲を超えると、その後に成膜した圧電体膜(PZT膜)の絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。また、SRO膜の比抵抗としては、5×10−3[Ω・cm]以下になっていることが好ましく、さらに1×10−3[Ω・cm]以下になっていることがさらに好ましい。この範囲よりも大きくなると共通電極161として、配線との界面で接触抵抗が十分得られず、共通電極161として十分な電流を供給することが出来なくなり、液滴を吐出する際に不具合が発生する。
[圧電体膜]
圧電体膜162の材料としては、PZTを主に使用した。PZTとはジルコン酸鉛(PbTiO)とチタン酸(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合であり、化学式ではPb(Zr0.53,Ti0.47)Oと示され、更に一般的にはPZT(53/47)と示される。PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr、 B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O、(Pb1−x,Sr)(Zr,Ti)O、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
圧電体膜162の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。PZTをゾルゲル法により作製した場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
基板14の全面に圧電体膜(PZT膜)162を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
圧電体膜162の膜厚としては0.5[μm]以上及び5[μm]以下の範囲が好ましく、1[μm]以上及び2[μm]以下の範囲がより好ましい。この範囲より小さいと十分な変形(変位)を発生することができなくなり、この範囲より大きいと何層も積層させていくため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
また、圧電体膜162の比誘電率としては600以上及び2000以下の範囲になっていることが好ましく、さらに1200以上及び1600以下の範囲になっていることが好ましい。このとき、この範囲よりも小さいときには十分な変形(変位)特性が得られず、この範囲より大きくなると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する。
[個別電極]
個別電極163としては、金属もしくは酸化物と金属からなっていることが好ましい。以下に酸化物電極膜及び金属電極膜の詳細について記載する。
[酸化物電極膜]
酸化物電極膜の材料等については、前述の共通電極(第1の電極)161で使用した酸化物電極膜について記載したものと同様なものを挙げることができる。酸化物電極膜(SRO膜)の膜厚としては、20[nm]以上及び80[nm]以下の範囲が好ましく、40[nm]以上60[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変形(変位)や変形(変位)の劣化特性については十分な特性が得られない。また、この範囲を超えると、その後に成膜した圧電体膜(PZT膜)の絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。
[金属電極膜]
金属電極膜の材料等については、前述の共通電極(第1の電極)161で使用した金属電極膜について記載したものと同様なものを挙げることができる。金属電極膜の膜厚としては、30[nm]以上及び200[nm]以下の範囲が好ましく、50[nm]以上及び120[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より薄い場合においては、個別電極163として十分な電流を供給することができなくなり、液滴を吐出する際に不具合が発生する。また、上記範囲より厚いと、白金族元素の高価な材料を使用する場合にコストアップとなる。また、白金を材料とした場合に膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、絶縁保護膜を介して配線などを作製する際に、膜剥がれ等のプロセス不具合が発生しやすくなる。
[第1の絶縁保護膜]
成膜・エッチングの工程による圧電素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を選定する必要があるため、第1の絶縁保護膜18の材料は緻密な無機材料とする必要がある。また、第1の絶縁保護膜18として有機材料を用いる場合は、十分な保護性能を得るために膜厚を厚くする必要があるため、適さない。第1の絶縁保護膜18を厚い膜とした場合、振動板15の振動を著しく阻害してしまうため、吐出性能の低い液滴吐出ヘッドになってしまう。薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物,窒化物,炭化膜を用いるのが好ましいが、第1の絶縁保護膜18の下地となる電極材料、圧電体材料及び振動板材料と密着性が高い材料を選定する必要がある。また、第1の絶縁保護膜18の成膜法も、圧電素子16を損傷しない成膜方法を選定する必要がある。すなわち、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は好ましくない。第1の絶縁保護膜18の好ましい成膜方法としては、蒸着法、ALD法などが例示できるが、使用できる材料の選択肢が広いALD法が好ましい。好ましい材料としては、Al,ZrO,Y,Ta,TiOなどのセラミクス材料に用いられる酸化膜が例として挙げられる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製し、プロセス中でのダメージを抑制することができる。
第1の絶縁保護膜18の膜厚は、圧電素子16の保護性能を確保できる十分な薄膜とする必要があると同時に、振動板15の変形(変位)を阻害しないように可能な限り薄くする必要がある。第1の絶縁保護膜18の膜厚は、20[nm]以上及び100[nm]以下の範囲が好ましい。100[nm]より厚い場合は、振動板15の変形(変位)量が低下するため、吐出効率の低い液滴吐出ヘッドとなる。一方、20[nm]より薄い場合は、圧電素子16の保護層としての機能が不足してしまうため、圧電素子16の性能が前述の通り低下してしまう。
また、第1の絶縁保護膜18を2層にする構成も考えられる。この場合は、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、振動板15の振動を著しく阻害しないように個別電極(第2の電極)163付近において2層目の絶縁保護膜を開口するような構成も挙げられる。この場合、2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができ、また、半導体デバイスで一般的に用いられるSiOを用いることもできる。2層の第1の絶縁保護膜18の成膜は任意の手法を用いることができ、例えばCVD法、スパッタリング法等が例示できる。電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。2層目の絶縁保護膜の膜厚は共通電極(下電極)161と個別電極の配線22との間に印加される電圧で絶縁破壊されない膜厚とする必要がある。すなわち第1の絶縁保護膜18に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する必要がある。さらに、第1の絶縁保護膜18の下地の表面性やピンホール等を考慮すると、第1の絶縁保護膜18の膜厚は200[nm]以上必要であり、さらに好ましくは500[nm]以上である。
[配線、パッド電極]
配線20、22及びパッド電極19、21の材料は、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかから成る金属電極材料であることが好ましい。これらの電極の作製方法としては、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。膜厚としては、0.1[μm]以上及び20[μm]以下の範囲が好ましく、0.2[μm]以上及び10[μm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より小さいと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができなくなりヘッド吐出が不安定になる。一方、この範囲より大きいとプロセス時間が長くなる。また、共通電極161及び個別電極163に接続されるコンタクトホール部(例えば10[μm]×10[μm])での接触抵抗としては、共通電極161に対して10[Ω]以下、個別電極163に対して1[Ω]以下が好ましい。さらに好ましくは、共通電極161に対して5[Ω]以下、個別電極163に対して0.5[Ω]以下である。この範囲を超えると十分な電流を供給することができなくなり、液滴を吐出する際に不具合が発生する。
[第2の絶縁保護膜]
第2の絶縁保護膜23としての機能は、共通電極用の第1の配線20や個別電極用の第2の配線22の保護層としての機能を有するパシベーション層である。前述の図4及び図5に示したように、個別電極163の引き出し部(開口部23a)と図示しない共通電極161の引き出し部とを除き、個別電極163及び共通電極161を被覆する。これにより、電極材料に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高い液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)とすることができる。第2の絶縁保護膜23の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料とする必要がある。無機材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が例示でき、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が例示できる。ただし、有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、パターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料とすることが好ましい。特に、Al配線上にSiを用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であるため好ましい。また、膜厚は200[nm]以上とすることが好ましく、さらに好ましくは500[nm]以上である。膜厚が薄い場合は十分なパシベーション機能を発揮できないため、配線材料の腐食による断線が発生し、インクジェットの信頼性を低下させてしまう。
また、圧電素子16上とその周囲の振動板15上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜18の個別液室に対応した領域を薄くしていることと同様の理由である。これにより、高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが可能になる。絶縁保護膜18、23で圧電素子16が保護されているため、第2の絶縁保護膜23の開口部の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。また、パッド電極19,21の面積については、50×50[μm]以上になっていることが好ましく、さらに100×300[μm]以上になっていることが好ましい。この値に満たない場合は、十分な分極処理ができなくなり、連続駆動後の変形(変位)劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する。
次に、本実施形態に係る圧電素子に印加する駆動電圧信号について説明する。
図7は、従来の一般的な駆動電圧信号の波形の一例を示す説明図である。
この駆動電圧信号は、共通電極161をGNDに落とした状態で、個別電極163に印加される。この駆動電圧信号では、個別電極163に正規極性(プラス極性)の電圧を印加して圧電素子16を特定方向に変形させた状態(すなわち、個別液室の容積を小さくしている状態)から、所定の電圧変化率(下り傾きTf1)で電圧を所定値(プラス極性)まで下げる。これにより、圧電素子16の変形状態が非変形状態へ戻るので、個別液室の容積が大きくなり、個別液室が負圧状態になるので、個別液室内にインクが引き込まれ、充填される。その後、所定の電圧変化率(上り傾きTr1)で電圧を上げると、圧電素子16が再び特定方向へ変形し、これにより個別液室の容積が小さくなって、個別液室内のインクが加圧され、個別液室内のインクがノズル11から吐出される。
図7に示す例では、3つの小滴を連続して吐出したものをマージすることで、1滴の大滴を形成する例である。この例は、マージする小滴の個数を変えることで多諧調の吐出が可能である。なお、図7に示す例においては、下り傾きTfの立ち下がり時間、上り傾きTrの立ち上がり時間は、ともに1μsである。
ところが、このような駆動電圧信号を継続して印加して圧電素子16を長期間駆動すると、圧電素子16の変形特性が変化するという不具合が生じる。この不具合を抑制する方法としては、図8に示すように、圧電素子16を非変形状態まで戻すために所定の電圧変化率(下り傾きTf1)で逆極性(マイナス極性)になるまで電圧値を下げる方法が挙げられる。これによれば、図7に示した例と比較して、圧電素子16を長期間駆動しても、圧電素子16の変形特性の変化を少なく抑えることが可能である。
しかしながら、本発明者らの研究の結果、図8に示すような逆極性の電圧が含まれる駆動電圧信号を用いても、長期継続駆動による圧電素子16の変形特性の変化を十分に抑制できないことが判明した。
この点について説明すると、圧電アクチュエータの実際の使用時には、圧電素子16の変形に応じて個別液室内のインクを動かすことになるため、圧電素子にはインク(駆動負荷対象物)の慣性力が作用する。そのため、実際の使用時における圧電素子の変形は、駆動電圧信号によって印加される電圧の逆圧電効果による変形と、インクの慣性力による変形とが重なり合って実現される。したがって、長期継続駆動による圧電素子16の変形特性変化を適切に抑制するためには、インクの慣性力を考慮する必要がある。
本発明者らの研究によれば、インクを動かさない無負荷状況下(インクを充填しない状況下)で圧電素子16を長期継続駆動したときに圧電素子の変形特性に変化が生じない場合でも、インクを動かす負荷状況下(インクを充填した状況下)において圧電素子16を長期継続駆動すると、圧電素子16の変形特性が経時的に変化してしまうことを見出した。そして、本発明者らは、研究の結果、負荷状況下において圧電素子16を長期継続駆動すると、圧電素子16の静電容量のピーク値が徐々に小さくなり、これに起因して圧電素子が受けるインクの慣性力が変化し、圧電素子16の変形特性を変化してしまうという知見を得た。ここでいう圧電素子16の静電容量は、圧電素子の電圧電流特性における電圧値に対する電流値の変化率から求めることができる。
図9は、本実施形態における圧電素子16の分極ヒステリシス曲線を示すグラフである。
図9に示すグラフは、圧電素子16に形成される電界強度が+150[kV/cm]〜−150[kV/cm]の範囲で変化するように、圧電素子16に印加する電圧を変化させたときの分極ヒステリシス曲線を示すものである。このグラフは、縦軸に圧電素子16の分極量P(μC/cm)をとり、横軸に電界強度E(kV/m)をとったものである。このような分極ヒステリシス曲線は、圧電素子16に印加する電圧値Vを変化させたときの電流値Iを計測することによって得られる。圧電素子16は、予め分極処理が施されているため、図9に示すように、初期時においてすでにPiniの分極量をもっている。
このような圧電素子16を変形させるときには、圧電素子16に、抗電界Ec(+)を超える範囲のプラス極性の電圧Vが印加される。そして、この変形を戻すときには、図8に示す駆動信号電圧のように、圧電素子16に印加する電圧Vを、抗電界Ec(−)を超えない範囲の電圧値まで下げる。すなわち、抗電界Ec(−)に対応するマイナス極性の電圧値と抗電界Ec(+)を超えるプラス極性の電圧値との間で電圧Vが変化するような駆動電圧信号を用いる。
図10は、図8に示した駆動電圧信号に応じ、圧電素子16に印加する電圧を−4[V]〜+26[V]の範囲内で変化させたときの電流電圧特性から算出される分極ヒステリシス曲線を示すグラフである。
図11は、図10のグラフを微分して得られる印加電圧Vに対する圧電素子16の静電容量Cの変化を示すグラフである。
図10に示すように、電界強度Eを大きくする場合でも小さくする場合でも、電界強度Eに対する分極量Pの変化率(すなわち図10のグラフの傾き)は一定ではない。この電界強度Eに対する分極量Pの変化率は、圧電素子16の静電容量Cに相当するものであり、圧電素子16の静電容量Cが大きいほど圧電素子16は強い力Fを発生させる。
例えば、図11に示すように、圧電素子が変形している状態から非変形状態へ戻すために電圧を下げる場合には、非変形状態に近くにつれて圧電素子16の静電容量Cが大きくなり、圧電素子16には強い力Fが発生することになる。このとき、圧電素子の変形を戻すことにより個別液室内へインクが流れ込むので、圧電素子16に印加される電圧が最低値になった後も、インクの慣性力が作用して圧電素子が変形戻し方向へ更に変形する。このときの慣性力の大きさは、主に、圧電素子の変形を戻すために電圧を下げている期間内において静電容量が最大になる静電容量ピーク値に依存する。静電容量がピーク値を示すときには、圧電素子16を流れる電流量が急激に変化し、発生力Fが急に増大するため、インクに大きな加速度を生じさせる結果、インクの慣性力を増大させるからである。
静電容量ピーク値が経時的に一定であれば、インクの慣性力の大きさを一定にすることができ、圧電素子の変形特性が変化することはない。しかしながら、上述したとおり、この静電容量ピーク値は、圧電素子16の長期間駆動により徐々に小さくなる。このように、静電容量ピーク値は経時変化するため、これに応じて圧電素子に作用するインクの慣性力も経時変化し、圧電素子の変形特性が経時的に変化する。
また、例えば、図11に示すように、圧電素子を非変形状態から変形させるために電圧を挙げる場合には、変形し始めの時期に圧電素子16の静電容量Cが急激に大きくなり、圧電素子16に強い力Fが発生する。このときの力Fを受けたインクの慣性力が作用して圧電素子の変形量が決まるが、このときの慣性力の大きさは、主に、圧電素子を変形させるために電圧を上げている期間内において静電容量が最大になる静電容量ピーク値に依存する。静電容量がピーク値を示すときには、圧電素子16を流れる電流量が急激に変化し、発生力Fが急に増大するため、インクに大きな加速度を生じさせる結果、インクの慣性力を増大させる。この静電容量ピーク値は図11に示すように経時変化するので、これに応じて圧電素子に作用するインクの慣性力も経時変化し、圧電素子の変形特性が経時的に変化する。
そこで、本実施形態においては、圧電素子16を変形させる変形期間と圧電素子16の変形を戻す変形戻し期間の少なくとも一方の期間において、当該期間中における圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる特定期間の電圧変化率が当該期間中における残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を圧電素子16に印加するようにしている。
図12は、本実施形態における駆動電圧信号の波形の一例を示す説明図である。
本実施形態の駆動電圧信号は、図8に示した駆動電圧信号と同様、共通電極161をGNDに落とした状態で、個別電極163に印加される。ただし、本実施形態の駆動電圧信号は、図12に示すように、圧電素子16の変形を戻す変形戻し期間においては、まずは第1の電圧変化率(下り傾きTf1)で電圧を下げた後、この第1の電圧変化率よりも低い第2の電圧変化率(下り傾きTf2)で逆極性(マイナス極性)の所定電圧値まで電圧を下げる。
第2の電圧変化率Tf2が印加される期間(特定期間)は、図11に示すように、圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwに相当する。よって、本実施形態では、圧電素子16の変形を戻す変形戻し期間中における圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwの電圧変化率Tf2が当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tf1よりも小さい。その結果、図8に示した従来の駆動電圧信号と比較して、圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwで圧電素子16に発生する力Fが小さいものとなる。その結果、圧電素子の静電容量Cが経時的に多少変化したとしても、これにより圧電素子16に発生する力Fに与える影響が少なくなる。よって、圧電素子の変形戻し期間において、インクの慣性力の経時的な変化が抑制され、圧電素子の変形特性を経時的に安定化させることができる。
また、本実施形態の駆動電圧信号は、図12に示すように、圧電素子16を変形させる変形期間においては、まずは第2の電圧変化率(上り傾きTr2)で電圧を上げた後、この第2の電圧変化率よりも大きな第1の電圧変化率(上り傾きTr1)で正規極性(プラス極性)の所定電圧値まで電圧を上げる。第2の電圧変化率Tr2が印加される期間(特定期間)は、図11に示すように、圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwに相当する。よって、本実施形態では、圧電素子16を変形させる変形期間中における圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwの電圧変化率Tr2が当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tr1よりも小さい。その結果、図8に示した従来の駆動電圧信号と比較して、圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwで圧電素子16に発生する力Fが小さいものとなる。その結果、圧電素子の静電容量Cが経時的に多少変化したとしても、これにより圧電素子16に発生する力Fに与える影響が少なくなる。よって、圧電素子の変形期間において、インクの慣性力の経時的な変化が抑制され、圧電素子の変形特性を経時的に安定化させることができる。
図11に示した静電容量ピーク値の位置(電圧値)は、圧電素子の組成や成膜条件等によって変わってくる。そのため、電圧変化率Tf2,Tr2を他の電圧変化率Tf1,Tr1よりも小さくする電圧域Vwは、静電容量ピーク値の位置(電圧値)に応じて適宜設定される。
電圧変化率Tf2,Tr2をどの程度の値に設定するかは、圧電素子16を流れる電流量が圧電素子16の長期駆動により変化するのを抑制するという観点から設定するのが好ましい。圧電素子16の発生力Fは、圧電素子16を流れる電流量に大きく影響を受けるからである。
本実施形態の液滴吐出ヘッドを用い、粘度が16[mPa・s]であるインクを1×1010回連続吐出させたときの吐出速度Vjは、図8に示した駆動電圧信号を用いた場合には約8%低下したが、図12に示した駆動電圧信号を用いた場合には約3%の低下に抑えることができた。
なお、本実施形態では、圧電素子16の変形期間と変形戻し期間のいずれについても、圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwの電圧変化率Tf2,Tr2を当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tf1,Tr1よりも小さくしている。
しかしながら、図13に示すように、圧電素子16の変形期間だけ、電圧域Vwの電圧変化率Tr2を当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tr1よりも小さくした駆動電圧信号としてもよい。この場合、圧電素子16の変形時における経時的な特性変化が抑制され、インク吐出時に発生する力Fが経時的に安定化する。
また、図14に示すように、圧電素子16の変形戻し期間だけ、電圧域Vwの電圧変化率Tf2を当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tf1よりも小さくした駆動電圧信号としてもよい。この場合、圧電素子16の変形戻り時における経時的な特性変化が抑制され、インクを個別液室内に引き込む発生する力Fが経時的に安定化する。
〔変形例〕
次に、本実施形態における駆動電圧信号の一変形例について説明する。
図15は、本変形例における駆動電圧信号の一例を示す説明図である。
本変形例の駆動電圧信号も、図12に示した駆動電圧信号と同様、圧電素子16の変形を戻す変形戻し期間中における圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwの電圧変化率が当該期間中における残りの電圧域の電圧変化率Tf1よりも小さい。ただし、本変形例の駆動電圧信号は、当該電圧域Vwにおける電圧変化率が段階的に小さくなるように設定されている。具体的には、圧電素子16の変形戻し期間における駆動電圧信号は、まず、電圧変化率Tf1で電圧を変化させ、その後、電圧変化率をTf2、Tf3、Tf4(Tf2>Tf3>Tf4)の順に移行させながら電圧を変化させる。
また、圧電素子16の変形期間中においては、電圧域Vwにおける電圧変化率が段階的に大きくなるように設定されている。具体的には、圧電素子16の変形期間における駆動電圧信号は、まず、電圧変化率をTr4、Tr3、Tr2(Tr2>Tr3>Tr4)の順に移行させながら電圧を変化させた後、電圧変化率Tr4で電圧を変化させる。
本変形例によれば、駆動電圧信号中の各電圧変化率間における分極特性のばらつきによる悪影響を小さくでき、吐出特性を安定化させることができる。なお、本変形例では、圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる電圧域Vwにおいて、電圧変化率を3段階で変化させる例であったが、段階数は適宜設定することができる。
次に、本実施形態における液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置について説明する。
図16は、本実施形態の液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置の一例を示す側面図である。また、図17は、同画像形成装置の部分平面図である。
本実施形態の画像形成装置は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド101とガイドレール102とで、液滴吐出装置(インク滴吐出装置)としてのキャリッジ103が主走査方向に摺動自在に保持されている。キャリッジ103は、主走査モータ104で駆動プーリ106Aと従動プーリ106B間に架け渡したタイミングベルト105を介して矢示方向(主走査方向)に移動走査される。
キャリッジ103には、記録ヘッド107を主走査方向に沿う方向に配置し、液滴吐出方向を下方に向けて装着している。記録ヘッド107は、例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の記録液の液滴(インク滴)を吐出する液滴吐出ヘッド107k、107c、107m、107yで構成されている。なお、ここでは独立した液滴吐出ヘッドを用いているが、各色の記録液の液滴を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。また、色の数及び配列順序はこれに限るものではない。
また、キャリッジ103には、記録ヘッド107に各色のインクを供給するための各色のサブタンク108が搭載されている。このサブタンク108には、インク供給チューブ109を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが補充供給される。
また、本実施形態の画像形成装置は、給紙カセット110などの用紙積載部(圧板)111上に積載した記録材としての用紙112を給紙するための給紙部が設けられている。この給紙部は、用紙積載部111から用紙112を1枚ずつ分離給送する半月コロからなる給紙ローラ113と分離パッド114とを備えている。分離パッド114は、給紙ローラ113に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる。分離パッド114は給紙ローラ113側に付勢されている。
また、本実施形態の画像形成装置は、上記給紙部から給紙された用紙112を記録ヘッド107の下方側で搬送するための搬送部が設けられている。この搬送部は、用紙112を静電吸着して搬送するための搬送ベルト121と、給紙部からガイド115を介して送られる用紙112を搬送ベルト121との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ122とを備えている。更に、上記搬送部は、略鉛直上方に送られる用紙112を略90°方向転換させて搬送ベルト121上に倣わせるための搬送ガイド123と、押さえ部材124で搬送ベルト121側に付勢された加圧コロ125A及び先端加圧コロ125Bとを備えている。また、搬送ベルト121の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ126を備えている。
ここで、搬送ベルト121は、無端状ベルトであり、搬送ローラ127とテンションローラ128との間に掛け渡されている。そして、副走査モータ131からタイミングベルト132及びタイミングローラ133を介して搬送ローラ127が回転されることで、搬送ベルト121がベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成されている。なお、搬送ベルト121の裏面側には記録ヘッド107による画像形成領域に対応してガイド部材129が配置されている。
帯電ローラ126は、搬送ベルト121の表層に接触し、搬送ベルト121の回動に従動して回転するように配置され、加圧力として軸の両端それぞれに例えば2.5[N]がかけられている。
さらに、本実施形態の画像形成装置は、記録ヘッド107で記録された用紙112を排紙するための排紙部が設けられている。この排紙部は、搬送ベルト121から用紙112を分離するための分離部と、排紙ローラ152及び排紙コロ153と、排紙される用紙112をストックする排紙トレイ154とを備えている。
また、本実施形態の画像形成装置の背部には、両面給紙ユニット155が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット155は、搬送ベルト121の逆方向回転で戻される用紙112を取り込んで反転させて再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙する。
さらに、図17に示すように、キャリッジ103の走査方向の一方側の非印字領域には、記録ヘッド107のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機156が配置されている。この維持回復機156は、記録ヘッド107の各ノズル面をキャピングするための各キャップ157と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード158とを備えている。更に、維持回復機156は、増粘した記録液(インク)を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうときの液滴を受ける空吐出受け159などを備えている。
以上のように構成した画像形成装置においては、給紙部から用紙112が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙112はガイド115で案内され、搬送ベルト121とカウンタローラ122との間に挟まれて搬送される。更に、用紙112は、先端を搬送ガイド123で案内されて先端加圧コロ125で搬送ベルト121に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。このとき、図示しない制御回路によってACバイアス供給部から帯電ローラ126に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加される。これにより、搬送ベルト121が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト121上に用紙112が給送されると、用紙112が搬送ベルト121に静電力で吸着され、搬送ベルト121の周回移動によって用紙112が副走査方向に搬送される。
そして、キャリッジ103を往路及び復路方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド107を駆動することにより、停止している用紙112にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙112を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙112の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙112を排紙トレイ154に排紙する。
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト121を逆回転させることで、記録済みの用紙112が両面給紙ユニット155内に送り込まれる。そして、両面給紙ユニット155で用紙112が反転されて(裏面が印刷面となる状態にして)再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙される。この給紙に応じてタイミング制御が行われ、前述したと同様に搬送ベルト121上に搬送して裏面に記録を行った後、両面に画像が記録された用紙112が排紙トレイ154に排紙される。
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ103は維持回復機156側に移動され、キャップ157で記録ヘッド107のノズル面がキャッピングされ、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良が防止される。また、キャップ157で記録ヘッド107をキャッピングした状態でノズルから記録液が吸引され(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作が行われる。この回復動作によって記録ヘッド107のノズル面に付着したインクを清掃除去するためにワイパーブレード158でワイピングが行われる。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作が行われる。これによって、記録ヘッド107の安定した吐出性能が維持される。
以上のように、本実施形態に係る画像形成装置においては、上記構成の各色の液滴吐出ヘッド107k、107c、107m、107yで構成した記録ヘッド107を備える。従って、小型化、低コスト化を図るとともに吐出ヘッドサイズが同等で吐出可能なノズル数を増やせることから、更なる高速印刷も可能となる。
なお、上記実施形態では、本発明をプリンタ構成の画像形成装置に適用した例で説明したが、これに限るものではなく、本発明は、例えば、プリンタやファクシミリの各機能を備えた複合機などの画像形成装置に適用することができる。また、本発明は、インク以外の液体である記録液や定着処理液などを用いる画像形成装置の液滴吐出ヘッドを構成する圧電素子16などの電気機械変換素子にも適用することができる。また、画像形成装置には、特に限定しない限り、シリアル型画像形成装置及びライン型画像形成装置のいずれも含まれる。
また、本発明は、画像形成装置以外の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドを構成する電気機械変換素子にも適用することができる。例えば、本発明は、画像形成用の液滴を着弾させて付与する記録材が、用紙以外の記録材、例えば糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の記録材である場合も同様に適用することができる。また、本発明は、文字や図形等の意味を持つ画像を記録材に対して付与すること場合だけでなく、文字等の意味を持たないパターンを記録材に付与する(単に液滴を吐出する)装置にも適用することができる。また、本発明は、パターニング用の液体レジストを吐出して記録材上に着弾させる装置にも適用することができる。また、本発明は、遺伝子分析試料を吐出して記録材上に着弾させる液滴吐出装置や、三次元造型用の液滴吐出装置などにも適用することができる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
圧電素子16と、該圧電素子に駆動電圧信号を印加する駆動電圧信号生成回路200等の駆動電圧信号印加手段とを有する圧電アクチュエータにおいて、前記駆動電圧信号印加手段は、前記圧電素子を特定方向へ変形させる変形期間及び該特定方向へ変形した圧電素子の変形を戻す変形戻し期間の少なくとも一方の期間、該少なくとも一方の期間中における前記圧電素子の静電容量Cが相対的に大きくなる特定期間(電圧域Vwの期間)の電圧変化率Tf2,Tf3,Tf4,Tr2,Tr3,Tr4が該少なくとも一方の期間中における残りの期間の電圧変化率Tf1,Tr1よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする。
圧電アクチュエータの実際の使用時には、圧電素子の変形に応じてインクや偏向ミラーなどの駆動負荷対象物を動かすことになるため、圧電素子には駆動負荷対象物の慣性力が作用する。そのため、実際の使用時における圧電素子の変形は、駆動電圧信号によって印加される電圧の逆圧電効果による変形と、駆動負荷対象物の慣性力による変形とが重なり合って実現される。したがって、長期継続駆動による圧電素子の変形特性変化を適切に抑制するためには、駆動負荷対象物の慣性力を考慮する必要がある。
本発明者らの研究によれば、駆動負荷対象物を動かさない無負荷状況下で圧電素子を長期継続駆動したときに圧電素子の変形特性に変化が生じない場合でも、駆動負荷対象物を動かす負荷状況下において圧電素子を長期継続駆動すると、圧電素子の変形特性が変化することが判明した。そして、本発明者らは、研究の結果、上述したように、負荷状況下において圧電素子を長期継続駆動すると、圧電素子の静電容量のピーク値が徐々に小さくなり、これに起因して圧電素子が受ける駆動負荷対象物の慣性力が変化し、圧電素子の変形特性が変化してしまうという知見を得た。これは、詳しくは上述したとおりであるが、圧電素子の静電容量がピーク値を示すときに、圧電素子16を流れる電流量が急激に変化して発生力Fが急に増大し、駆動負荷対象物に対して大きな力を加え、圧電素子が駆動負荷対象物から受ける慣性力が大きくなるからである。すなわち、圧電素子が受ける慣性力の大きさは、圧電素子の静電容量が最大になる静電容量ピーク値に大きく依存する。
本態様によれば、圧電素子の静電容量が相対的に大きくなる特定期間の電圧変化率を残りの期間の電圧変化率よりも小さくした駆動電圧信号を用いるため、圧電素子の静電容量のピーク値が当初から小さい。よって、発生する慣性力も当初から小さいものとなる。そのため、圧電素子の静電容量が経時的に多少変化したとしても、これにより圧電素子に発生する力に与える影響が少なくなる。よって、駆動負荷対象物の慣性力の経時的な変化が抑制され、圧電素子の変形特性を経時的に安定化させることができる。
(態様B)
前記態様Aにおいて、前記少なくとも一方の期間は、前記変形戻し期間を含み、前記駆動電圧信号印加手段は、前記変形戻し期間に、前記圧電素子を前記特定方向へ変形させるときに該圧電素子に印加される駆動電圧信号の極性とは逆極性であって該圧電素子の抗電界を超えない範囲の電圧値を含む駆動電圧信号を該圧電素子に印加することを特徴とする。
これによれば、圧電素子の高い変形効率を実現することができる。
(態様C)
前記態様A又はBにおいて、前記駆動電圧信号印加手段は、前記特定期間における電圧変化率が段階的に変化するような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする。
これによれば、前記変形例で説明したとおり、駆動電圧信号中の各電圧変化率間における分極特性のばらつきによる悪影響を小さくできる。
(態様D)
前記態様A〜Cのいずれかの態様において、前記特定期間は、前記少なくとも一方の期間の駆動電圧信号が印加されたときの電圧電流特性における電圧値に対する電流値の変化率が相対的に大きい電圧印加期間であることを特徴とする。
当該電圧電流特性における電圧値に対する電流値の変化率は、圧電素子の静電容量に相当するので、圧電素子の静電容量が相対的に大きい電圧印加期間に、適切な電圧変化率で電圧を変化させることができる。
(態様E)
前記態様A〜Dのいずれかの態様において、前記特定期間は、前記圧電素子を前記特定方向へ変形させるときに該圧電素子に印加される駆動電圧信号の極性に対応する圧電素子の抗電界Ec(+)と該極性とは逆極性に対応する圧電素子の抗電界Ec(−)との間に対応する電圧値が印加される期間であることを特徴とする。
この期間に、圧電素子の静電容量がピークを示すことが多いので、圧電素子の静電容量が相対的に大きい電圧印加期間に、適切な電圧変化率で電圧を変化させることができる。
(態様F)
前記態様A〜Eのいずれかの態様において、前記少なくとも一方の期間は、前記変形期間であり、前記駆動電圧信号印加手段は、前記変形期間のみ、前記特定期間の電圧変化率が残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする。
これによれば、圧電素子の変形時における経時的な特性変化が抑制される。
(態様G)
前記態様A〜Eのいずれかの態様において、前記少なくとも一方の期間は、前記変形戻し期間であり、前記駆動電圧信号印加手段は、前記変形戻し期間のみ、前記特定期間の電圧変化率が残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする。
これによれば、圧電素子の変形戻り時における経時的な特性変化が抑制される。
(態様H)
インク等の液滴を吐出するノズル11等の液滴吐出孔と、前記液滴吐出孔が連通する個別液室13等の加圧液室と、圧電素子16を変形させることにより前記加圧液室の一部の壁部を変位させて該加圧液室内の圧力を変化させる圧電アクチュエータとを有する液滴吐出装置において、前記圧電アクチュエータとして、前記態様A〜Gのいずれかの態様に係る圧電アクチュエータを用いたことを特徴とする。
これによれば、液体(駆動負荷対象物)の慣性力の経時的な変化が抑制され、圧電素子の変形特性を経時的に安定化させることができ、経時的に液滴吐出特性を安定化させることができる。
(態様I)
液滴吐出装置から用紙112等の記録材へインク等の液滴を吐出することで、該記録材に画像を形成する画像形成装置において、前記液滴吐出装置として、前記態様Hに係る液滴吐出装置を用いたことを特徴とする。
これによれば、液体の慣性力の経時的な変化が抑制され、圧電素子の変形特性を経時的に安定化させることができ、経時的に液滴吐出特性を安定化させることができる。
10 液滴吐出部
11 ノズル
12 ノズル基板
13 個別液室
14 液室基板
15 振動板
16 圧電素子
19,21 パッド電極
101 ガイドロッド
102 ガイドレール
103 キャリッジ
104 主走査モータ
107 記録ヘッド
108 サブタンク
161 共通電極
162 圧電体膜
163 個別電極
200 駆動電圧信号生成回路
特開2014−058078号公報 特許第3782401号公報

Claims (9)

  1. 圧電素子と、該圧電素子に駆動電圧信号を印加する駆動電圧信号印加手段とを有する圧電アクチュエータにおいて、
    前記駆動電圧信号印加手段は、前記圧電素子を特定方向へ変形させる変形期間及び該特定方向へ変形した圧電素子の変形を戻す変形戻し期間の少なくとも一方の期間、該少なくとも一方の期間中における前記圧電素子の静電容量が相対的に大きくなる特定期間の電圧変化率が該少なくとも一方の期間中における残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする圧電アクチュエータ。
  2. 請求項1に記載の圧電アクチュエータにおいて、
    前記少なくとも一方の期間は、前記変形戻し期間を含み、
    前記駆動電圧信号印加手段は、前記変形戻し期間に、前記圧電素子を前記特定方向へ変形させるときに該圧電素子に印加される駆動電圧信号の極性とは逆極性であって該圧電素子の抗電界を超えない範囲の電圧値を含む駆動電圧信号を該圧電素子に印加することを特徴とする圧電アクチュエータ。
  3. 請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータにおいて、
    前記駆動電圧信号印加手段は、前記特定期間における電圧変化率が段階的に変化するような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする圧電アクチュエータ。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、
    前記特定期間は、前記少なくとも一方の期間の駆動電圧信号が印加されたときの電圧電流特性における電圧値に対する電流値の変化率が相対的に大きい電圧印加期間であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、
    前記特定期間は、前記圧電素子を前記特定方向へ変形させるときに該圧電素子に印加される駆動電圧信号の極性に対応する圧電素子の抗電界と該極性とは逆極性に対応する圧電素子の抗電界との間に対応する電圧値が印加される期間であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、
    前記少なくとも一方の期間は、前記変形期間であり、
    前記駆動電圧信号印加手段は、前記変形期間のみ、前記特定期間の電圧変化率が残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする圧電アクチュエータ。
  7. 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、
    前記少なくとも一方の期間は、前記変形戻し期間であり、
    前記駆動電圧信号印加手段は、前記変形戻し期間のみ、前記特定期間の電圧変化率が残りの期間の電圧変化率よりも小さくなるような駆動電圧信号を前記圧電素子に印加することを特徴とする圧電アクチュエータ。
  8. 液滴を吐出する液滴吐出孔と、
    前記液滴吐出孔が連通する加圧液室と、
    圧電素子を変形させることにより前記加圧液室の一部の壁部を変位させて該加圧液室内の圧力を変化させる圧電アクチュエータとを有する液滴吐出装置において、
    前記圧電アクチュエータとして、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータを用いたことを特徴とする液滴吐出装置。
  9. 液滴吐出装置から記録材へ液滴を吐出することで、該記録材に画像を形成する画像形成装置において、
    前記液滴吐出装置として、請求項8に記載の液滴吐出装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。
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