以下、本開示における典型的な実施形態について説明する。本実施形態で例示する染色装置1は、気相転写染色方法によって樹脂体を染色する装置である。気相転写染色方法では、樹脂体の染色面に昇華性染料が蒸着(転写)される。次いで、蒸着によって染料が付着した樹脂体を加熱することで、染料が樹脂体に定着される。ただし、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部は、気相転写染色方法以外の染色方法においても使用することができる。なお、本実施形態における「定着」とは、樹脂面に付着した染料が、熱によって単分子レベルで樹脂内に拡散された状態を示す。「定着」は、染色または発色と表現される場合もある。
図1および図2を参照して、本実施形態に係る染色装置1の概略構成について説明する。以下の説明では、図1および図2の左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側を、それぞれ染色装置1の前側、後側、左側、右側とする。
染色装置1は、略直方体形状の筐体2を備える。筐体2は、樹脂体(一例として、本実施形態ではプラスチックレンズ)を染色するための各種構成を内部に収容する。本実施形態の筐体2は、基部3、上蓋部4、および前蓋部5を備える。基部3は、染色装置1の全体を支持する。上蓋部4は、基部3の後部において上下方向に回動可能に保持されている。上蓋部4の前部を上方に回動させることで、筐体2の上方が開放される。前蓋部5は板状であり、基部3の正面下部において前後方向に回動可能に保持されている。前蓋部5の上部を前方に回動させることで、筐体2の前方が開放される。
基部3の上面の中央には、表面にタッチパネル6を備えたディスプレイ7が設けられている。タッチパネル6は、作業者によって操作される操作部の一例である。作業者は、タッチパネル6を操作することで、各種指示を染色装置1に入力できる。上蓋部4の背面側には、気流を発生させるための気流発生手段の一例である冷却ファン8(図7参照)が設けられている。冷却ファン8が駆動されると、染色装置1の内部に気流が発生する。基部3の正面には、前蓋部5よりも上方に、気体を通過させるための通気孔9が設けられている。なお、冷却ファン8および通気孔9の位置を適宜変更できることは言うまでもない。
図2に示すように、本実施形態の染色装置1は、加熱部10、閉塞室20、設置部移動機構40、および設置部50等を、筐体2の内部に収容する。加熱部10は、染料が付着した樹脂体を加熱するために設けられる。さらに、本実施形態の加熱部10は、染色用基体57(図6参照)に付着した昇華性の染料を加熱して昇華させる際にも用いられる。閉塞室20は、設置部50に設置された樹脂体の周囲を閉塞し、略真空の空間を内部に形成する。設置部移動機構40は、設置部50を移動させる。設置部50には、樹脂体および染色用基体57が設置される。以下、各構成について、図2から図7を参照して説明する。
加熱部10について説明する。図2に示すように、本実施形態の加熱部10は、電磁波発生部11、分布調整部14、および調整部駆動モータ80(図8参照)等を備える。
本実施形態の電磁波発生部11は、樹脂体および染色用基体57(図6参照)によって吸収される電磁波を発生させる。本実施形態では、赤外線を発生させる赤外線ヒータ12が電磁波発生部11に使用されている。しかし、ハロゲンランプ、遠赤外線ヒータ等の他の構成を電磁波発生部11に使用することも可能である。また、紫外線、マイクロ波等の電磁波を発生させる構成を使用してもよい。本実施形態では、複数の樹脂体(一例として、本実施形態では2つのプラスチックレンズ)の染色を並行して実行できるように、複数の電磁波発生部11が、上蓋部4の内側(つまり、上蓋部4が開放された状態では正面側)に設けられている。つまり、本実施形態では、設置部50に設置される2つの樹脂体の各々に対応するように2つの電磁波発生部11が設けられている。なお、電磁波発生部11によって生じる電磁波の全てが樹脂体に吸収される必要は無い。また、同時に染色できる樹脂体の数が2つに限られないことは言うまでもない。
電磁波発生部11において電磁波を発生させる発生部位は、後述する分布調整部14に設けられた開口部15(図3参照)の形状に対応する環状に形成されている。詳細には、本実施形態の開口部15は円環状および円形であるので、電磁波の発生部位も円環状に形成されている。電磁波の発生部位の形状と開口部15の形状とを対応させることで、板状、直線状等の他の形状の発生部位を採用する場合に比べて、分布調整部14によって遮断される電磁波の量が減少する。その結果、電磁波が効率よく開口部15から樹脂体に照射される。なお、本実施形態では、2つのU字状の赤外線ヒータ12の各々のU字部分を組み合わせることで円環が形成される。
分布調整部14は、電磁波発生部11から樹脂体に照射される電磁波の強度分布を調整することができる。本実施形態では、図2に示すように、上蓋部4が開放された状態で、2つの電磁波発生部11の各々の正面側に位置するように、2つの分布調整部14が設けられている。
図3に示すように、本実施形態の分布調整部14は板状である。分布調整部14には、電磁波発生部11が発生させた電磁波の一部を通過させる開口部15が形成される。開口部15を電磁波が通過することで、通過した電磁波のビームにおける強度分布が調整される。
2つの分布調整部14の各々には、大きさおよび形状の少なくとも一方が異なる複数の開口部15(本実施形態では、2つの開口部15A,15B)が形成されている。本実施形態では、開口部15Aは断続した円環状である。開口部15Aが用いられると、開口部15Bが用いられる場合に比べて、樹脂体の中心部に照射される電磁波の強度が弱まる(以下、この場合の電磁波の強度分布を「中心部弱」という)。開口部15Bは円形である。開口部15Bが用いられると、開口部15Aが用いられる場合とは異なり、樹脂体に照射される電磁波は周辺部よりも中心部の方がやや強くなる。また、開口部15Aまたは開口部15Bを用いる場合、電磁波の一部が遮断される。よって、樹脂体の全体に加わる熱エネルギーは、開口部15Aまたは開口部15Bを用いる場合よりも、開口部15A,15Bのいずれも用いない場合(以下、この場合の電磁波の強度分布を「通常」という)の方が大きくなる。加熱する物体(例えば樹脂体)と電磁波発生部11との間に位置させる開口部15A,15B、または開口部15A,15Bの使用および不使用が切り換えられることで、物体に照射される電磁波の強度分布が切り換えられる。本実施形態の染色装置1は、調整部駆動モータ80(図8参照)を駆動して分布調整部14の姿勢を変化させることで、「開口部15Aを使用」、「開口部15Bを使用」、「開口部15A,15Bのいずれも使用しない」のいずれかを設定する。
閉塞室20、および閉塞室20に付随する構成について説明する。図2に示すように、閉塞室20は、筐体2の内部の略中央に設けられている。筐体2の上蓋部4が閉鎖されると、閉塞室20は加熱部10の下方に位置する。図4に示すように、本実施形態の閉塞室20は、閉塞室本体21と閉塞室前壁22(図2および図6参照)とを備える。閉塞室本体21は、正面側が開放された略箱状である。閉塞室前壁22は、閉塞室本体21の正面側の開放部を閉塞することができる。
図4に示すように、本実施形態では、閉塞室本体21の上壁に、円筒状の電磁波通過部23が左右に2つ並べて設けられている。各々の電磁波通過部23には、円筒の上部開口を閉塞する透過部25が設けられている。透過部25は、電磁波発生部11が発生させる電磁波の少なくとも一部を透過させる材質によって形成される。一例として、本実施形態における透過部25の材質は、赤外線を透過させる耐熱ガラスである。電磁波発生部11(図2参照)が発生させた電磁波は、透過部25を透過し、さらに電磁波通過部23の内部の空間を通過して、閉塞室20の内部へ至る。従って、閉塞室20の外部に電磁波発生部11を設定しても、閉塞室20の内部の物体に電磁波が照射される。閉塞室20は、閉塞室本体21、閉塞室前壁22、電磁波通過部23、および透過部25によって、内部の空間を閉塞する。内部の空間には、染色する樹脂体等が収容される。従って、樹脂体の周囲は閉塞室20によって閉塞される。
閉塞室20には給排気管(図示せず)が接続されている。給排気管には、ポンプ31および電磁弁33A,33B(図8参照)が設けられている。染色装置1は、ポンプ31を駆動することで、閉塞室20内の気体を給排気管から外部へ排出し、閉塞室20内の気圧を低下させることができる。また、染色装置1は、電磁弁33A,33Bを制御することで、閉塞室20内の密閉性を保つ。さらに、染色装置1は、電磁弁33A,33Bを制御することで、減圧状態の閉塞室20内に外部から気体を導入させて、閉塞室20内の気圧を上昇させる。
さらに、染色装置1は温度検出手段(温度センサ)24を備える。本実施形態では、温度検出手段24として熱電対が用いられているが、他のセンサを温度検出手段24として用いてもよい。本実施形態の温度検出手段24は、設置部50(図2および図5参照)に設置される樹脂体から離間する位置であり、且つ電磁波発生部11が発生させる電磁波の照射範囲内に設けられる。詳細には、図4に示すように、本実施形態の温度検出手段24は、樹脂体から離間し、且つ樹脂体に極力近い位置である2つの電磁波通過部23の各々に設けられている。従って、温度検出手段24を樹脂体に直接接触させる場合に比べて、温度検出手段24が染色を妨げる可能性が低下する。例えば、温度検出手段24が接触している樹脂体の部位に染料が蒸着されなかったり、樹脂体の熱が温度検出手段24を伝わって部分的な温度低下が生じたりする可能性が低下する。よって、本実施形態の染色装置1は、樹脂体の温度を簡易な構成で間接的に把握することができる。
設置部移動機構40について説明する。設置部移動機構40は、閉塞室20の内部と外部との間で設置部50(図2、図5〜図7参照)を移動させる。詳細には、本実施形態の設置部50は、設置部移動機構40によって後方に移動すると、閉塞室20の内部に納まる。設置部50は、前方に移動すると、閉塞室20の外部に位置する。設置部移動機構40は、設置部移動モータ81(図8参照)を備える。染色装置1は、設置部移動モータ81によって設置部50を前後方向に移動させる。
設置部50について説明する。設置部50には樹脂体が設置される。さらに、本実施形態の設置部50には染色用基体57(図6参照)も設置される。図5に示すように、設置部50は、支持板51と、2つの円筒部52とを備える。支持板51は、平面視略矩形の板状部材である。円筒部52の内径は、染色する樹脂体(本実施形態では略円盤状のプラスチックレンズ)の径よりもやや大きく形成されている。2つの円筒部52は、支持板51の上面に、左右に並べて載置される。
本実施形態では、作業者は、支持板51への円筒部52の載置、および支持板51からの円筒部52の取り外しを行うことができる。さらに、作業者は、支持板51と2つの円筒部52とを1つのユニットとして染色装置1に装着し、且つユニットごと染色装置1から取り外すことができる。従って、作業者は、染色の準備作業、設置部50の掃除等を容易に行うことができる。
円筒部52の内側の壁面には、樹脂体を保持する保持部53が設けられている。本実施形態の保持部53は環状に形成されており、染色される樹脂体の外周縁部に接触することで樹脂体を保持する。しかし、保持部53の形状は適宜変更できる。例えば、保持部53は、円筒部52の内側の壁面から内部に突出する複数の爪であってもよいし、板状、網状等であってもよい。
図6に示すように、本実施形態では、支持板51および円筒部52(図5参照)を含むユニットが、設置部移動機構40(図2参照)のスライド部41に装着されて、スライド部41が後方に移動する。その結果、樹脂体が閉塞室20の内部に納まる。スライド部41の正面側には閉塞室前壁22が固定される。また、染料を樹脂体に蒸着させる工程では、染色用基体57を保持した基体保持枠58が、円筒部52の上部に設置(載置)される。本実施形態では、染色用基体57には、適度な硬さの矩形の紙が用いられる。しかし、染色用基体57の材質には、金属フィルム、金属板、ガラス板、耐熱性樹脂、セラミック等の他の材質を用いることも可能である。本実施形態では、染色用基体57の下側の面(つまり、樹脂体の染色面に対向する側の面)に、目的とする染色の態様に応じて、昇華性の染料が溶解または微粒子分散されたインク(染色用用材)がプリンタによって印刷されている。
本実施形態の基体保持枠58は、外形が平面視略矩形状の板状部材である。気体保持枠58には、設置部50の円筒部52(図5参照)の位置および大きさに対応するように、円形の開口が左右に2つ並べて形成されている。開口には、耐熱性を有し、且つ電磁波を透過するガラス板59が設置されている。ガラス板59は、上方から照射される電磁波を下方へ透過させつつ、昇華した染料が上方へ漏れることを防止する。従って、電磁波通過部23および透過部25(図4参照)が染料によって汚れることが抑制される。作業者は、取り外し可能なガラス板59の汚れを除去することで、汚れによる染色品質の低下を容易に抑制することができる。なお、ガラス板59の材質は、前述した透過部25と同様に、電磁波の少なくとも一部を透過する他の材質に変更してもよい。本実施形態では、基体保持枠58は磁性体(例えば、鉄)によって形成される。染色装置1は、磁石を有する退避機構(図示せず)を駆動し、退避機構に基体保持枠58を磁力で吸着させることで、染色用基体57を自動的に設置部50から退避させることができる。
染色装置1の内部における気体の流れについて説明する。図7に示すように、本実施形態における2つの冷却ファン8は、染色装置1の後端上部に設けられている。また、染色装置1の内部における中央上部(閉塞室20の前方且つ上方)には仕切り板63が設けられている。仕切り板63には通気孔64が形成されている。電磁波発生部11は、仕切り板63と冷却ファン8の間の空間に配置される。基部3における前側の壁面のうち、内部(後方)を向く面には、通気孔9から内部に流入した気体の流れを案内する整流板61が設けられている。
本実施形態の染色装置1は、加熱された樹脂体の温度を積極的に低下させる場合(つまり、樹脂体を冷却する場合)、樹脂体を閉塞室20内から外部に退避させて、基部3における前側の壁面と閉塞室20との間の冷却位置に配置する。従って、閉塞室20が熱を持っている場合でも、樹脂体の温度が効率よく低下する。さらに、本実施形態では、基部3の前側の壁面と閉塞室20との間の冷却位置は、冷却ファン8によって染色装置1の内部を流れる気体の流路となっている。詳細には、冷却ファン8が染色装置1の内部から外部に気体を排出すると、通気孔9から内部に気体が流入する。通気孔9から流入した気体は、整流板61によって下方に案内され、冷却位置へ向かう。従って、冷却位置にある樹脂体に気体が当たる。次いで、気体は通気孔64を前方から後方へ通過し、電磁波発生手段11に当たり、冷却ファン8によって外部に排出される。以上のように、本実施形態の染色装置1は、樹脂体を冷却位置に配置することで、冷却ファン8が発生させる気流を樹脂体に当てて、樹脂体の温度を低下させることができる。
図8を参照して、染色装置1の電気的構成について説明する。染色装置1は、染色装置1の制御を司るCPU70を備える。CPU70には、RAM71、ROM72、不揮発性メモリ73、タッチパネル6、ディスプレイ7、冷却ファン8、電磁波発生部12、ポンプ31A,31B、電磁弁33、調整部駆動モータ80、設置部移動モータ81、基体退避モータ82、および温度検出手段24等が、バスを介して接続されている。
RAM71は、各種情報を一時的に記憶する。ROM72には、染色装置1の動作を制御するための制御プログラム(例えば、図9および図11に示す処理を制御するための染色制御プログラム等)が記憶されている。不揮発性メモリ73は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体(例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM等)である。各種プログラム等は不揮発性メモリ73に記憶されていてもよい。本実施形態の制御部74には、CPU70、RAM71、ROM72、および不揮発性メモリ73が含まれる。制御部74は、染色装置1の各種動作を制御する。なお、基体退避モータ82は、前述した退避手段(図示せず)の一部である。基体退避モータ82が駆動することで、染色用基体57が設置部50から退避される。
本実施形態で例示する染色樹脂体の製造方法の概要について説明する。樹脂体を染色する方法として、樹脂体の染色面の表面に染料を付着させた後、樹脂体を加熱することで、樹脂体に染料を定着させる方法がある。この方法によると、浸漬法等に比べて、染色の安定化、廃棄される染料の減少、作業環境の改善等の種々の効果が得られやすい。
樹脂体の染色面に染料を付着させる方法には、固形の昇華性染料を加熱して昇華させる方法、およびスピンコート法等、種々の方法が考えられる。本実施形態で例示する技術の少なくとも一部は、いずれの方法で樹脂体に染料を付着させる場合にも適用できる。
前述したように、本実施形態で例示する方法は気相転写染色方法である。気相転写染色方法では、板状の染色用基体57に昇華性染料が付着されて、染色用基体57から樹脂体に染料が蒸着(転写)される。従って、色相および濃度のばらつきが減少し、染色の品質が安定する。染色に必要な染料は、浸漬法において液体に分散させる染料よりも少量で良い。作業環境も悪化し難い。なお、染色用基体57を作成する工程ではプリンタが用いられることが望ましい。例えば、プリンタが、パーソナルコンピュータ等によって作成された印刷データに基づいて、昇華性染料を含有したインクを基体(本実施形態では紙)に印刷する。この場合、染色用基体57の適切な位置に、適切な量の昇華性染料が付着する。印刷データの作成、変更、保存等が容易であるため、染色の自由度も高い。ただし、プリンタを用いずに染色用基体57を作成することも可能である。例えば、作業者がスプレー等を用いて基体に昇華性染料を付着させてもよい。
図9を参照して、染色装置1の制御部74が実行するヒータキャリブレーション処理について説明する。ヒータキャリブレーション処理では、電磁波発生部(ヒータ)11が有し得る個体差の影響が抑制される。本実施形態では、作業者等がタッチパネル6を操作し、ヒータキャリブレーション処理の実行指示を入力すると、制御部74(CPU70)は、ROM72に記憶されている染色制御プログラムに従って、図9に示す処理を実行する。ヒータキャリブレーション処理は、例えば、染色装置1の出荷時、動作確認時等に実行されればよい。なお、本実施形態では、ヒータキャリブレーション処理の実行前に、作業者は、設置部50の円筒部52(図5参照)に樹脂体または他の電磁波吸収部材を設置しておく。
まず、左右の電磁波発生部11への電力供給が開始される(S1)。本実施形態のS1では、予めデフォルトとして定められた平均電力(詳細は後述する)が電磁波発生部11に供給される。しかし、S1で供給される電力は適宜設定できる。
次いで、複数の電磁波発生部11の各々のキャリブレーションが行われる。まず、制御部74は、2つの電磁波発生部11の各々に対応して設けられた2つの温度検出手段24のうち、左の温度検出手段24によって検出された温度を取得する(S2)。S2の処理は、電磁波発生手段11への電力の供給が開始されてから所定時間経過した以後に実行されることが望ましい。次いで、検出された温度が目標範囲内であるか否かが判断される(S3)。目標範囲内でなければ(S3:NO)、左の電磁波発生部11に供給する電力の大きさが調整されて(S4)、処理はS2へ戻る。検出された温度が目標範囲内であれば(S3:YES)、右の温度検出手段24によって検出された温度が取得される(S5)。検出された温度が目標範囲内でなければ(S6:NO)、右の電磁波発生部11に供給する電力の大きさが調整されて(S7)、処理はS5へ戻る。検出された温度が目標範囲内であれば(S6:YES)、S2〜S7で調整された左右の電力の値が不揮発性メモリ73に記憶されて(S8)、処理は終了する。
図10を参照して、本実施形態で採用されている電磁波発生部11への供給電力の制御方法について説明する。本実施形態の制御部74は、電磁波発生部11への電力の供給と供給の停止とを1つのサイクルとし、このサイクルを連続的に複数回繰り返すことができる。また、制御部74は、電磁波発生部11に供給する瞬間的な電力の大きさを変化させずに一定としつつ、1つのサイクルの時間に占める電力の供給の時間(ON時間)の比であるデューティー比を変化させることができる。その結果、電磁波発生部11に供給される平均電力が変化する。従って、電磁波発生部11によって発生された電磁波が単位時間当たりに樹脂体に加える熱量(以下、「印加熱量」という)が変化する。
例えば、図10に示す例では、電磁波発生部11に供給される瞬間的な電力Vmは一定の大きさXである。しかし、図10の前半では、デューティー比が0.8とされることで平均電力がAとなっているのに対し、図10の後半では、デューティー比が0.2とされることで平均電力がA/4に下げられている。この場合、染色装置1は、電磁波発生部11に供給する瞬間的な電力を細かく増減させることなく、樹脂体に加える印加熱量を容易に制御することができる。
図11から図19を参照して、染色装置1の制御部74が実行する染色処理について説明する。制御部74によって染色処理が実行されることで、染色樹脂体の製造方法が染色装置1によって実行される。前述したように、染色装置1のROM72には、染色処理を実行するための染色制御プログラムが記憶されている。制御部74のCPU70は、染色処理の実行指示が作業者によって入力されると、染色制御プログラムに従って、図11に示す染色処理を実行する。
まず、染色する樹脂体の材質、および形状に関する情報の入力が受け付けられる(S11)。本実施形態では、染色する樹脂体は、光を屈折させるプラスチックレンズである。本実施形態の染色装置1は、設置部50に設置された複数(本実施形態では2つ)の樹脂体の各々を、複数の電磁波発生部11の各々によって加熱することができる。従って、制御部74は、染色する複数の樹脂体の各々の情報の入力を受け付ける。
一般的に、プラスチックレンズの度数が異なると、プラスチックレンズの形状も異なる場合が多い。特に、同一の材質で度数が異なる複数のプラスチックレンズの形状は、互いに異なる。形状は、同一の樹脂体内における各部の温度差の発生に影響を与え得る。特に、電磁波を樹脂体に照射して急速に樹脂体の温度を上昇させる場合には、樹脂体の各部の温度差が発生しやすいので、樹脂体の形状を考慮することがより重要となる。また、樹脂体の材質が異なると、染まりやすさ、加熱による変形のしやすさ、加熱によるひび割れの発生頻度等が変化する場合がある。従って、本実施形態の制御部74は、染色する樹脂体の材質、および形状に関する情報を取得し、取得した情報に応じて染色工程を変化させる。形状に関する情報として、本実施形態では樹脂体の度数の情報が一例として用いられる。ただし、制御部74が取得する樹脂体の情報は、材質および度数に限られない。例えば、染色装置1は、材質および度数の一方の情報のみに基づいて染色工程を変化させてもよい。染色装置1は、材質および度数の代わりに、または材質および度数に加えて、樹脂体に関する他の情報に基づいて染色工程を変化させてもよい。樹脂体の厚み、樹脂体の屈折率、設置部50に設置された樹脂体の上端面の高さ(例えば、電磁波発生部11または染色用基体57と、樹脂体との間の距離)、中心面の高さ、レンズ径等の情報が用いられてもよい。
次いで、染色を開始させる指示が入力されたか否かが判断される(S12)。作業者は、設置部50に樹脂体と染色用基体57を設置した後、タッチパネル6を操作することで、染色の開始指示を染色装置1に入力することができる。染色の開始指示が未だ入力されていない場合には(S12:NO)、処理はS11へ戻る。
染色の開始指示が入力されると(S12:YES)、設置部移動モータ81(図8参照)が駆動されて、設置部50が後方に移動されることで、設置部50が閉塞室20内に搬入される(S14)。その結果、樹脂体の周囲は閉塞室20によって閉塞される。次いで、電磁弁33A,33Bが制御された後、ポンプ31(図8参照)によって閉塞室20内の気体(主に空気)が外部に排出されることで、閉塞室20内の気圧が低下する(S15)。つまり、閉塞室20内が略真空状態とされる。
気体の排出が完了すると、電磁波発生部11への電力の供給が開始されて、電磁波(本実施形態では赤外線)が発生する。電磁波は、設置部50に設置された染色用基体57に向けて照射される。これにより、染色装置1は、染色用基体57の下側の面(つまり、樹脂体に対向する面)に付着した昇華性染料を加熱させて昇華させ、樹脂体の上側の面(被染色面)に付着(蒸着)させる(S16)。なお、本実施形態では、蒸着工程(蒸着ステップ)における電磁波の照射時間は予め設定されている。照射時間が経過すると、電磁波の照射がOFFとされる。電磁弁33A,33B(図8参照)が制御されて、閉塞室20の内部に外部の気体が導入され、閉塞室20内の気圧が略大気圧まで上昇される(S18)。
次いで、設置部移動モータ81が駆動されて、設置部50が閉塞室20の外側(本実施形態では、基部3における前側の壁面と閉塞室20との間の冷却位置)へ移動される(S19)。基体退避モータ82(図8参照)が駆動されて、基体保持枠58(図6参照)が退避機構(図示せず)によって退避される(S20)。設置部移動モータ81によって、設置部50が再び閉塞室20内に搬入される(S21)。
次いで、定着処理が行われる(S23)。定着処理は、染料を樹脂体に定着させる定着工程を染色装置1に実行させるための処理である。本実施形態では、閉塞室20内の気圧が大気圧または略大気圧とされた状態で定着工程が行われる。従って、樹脂体に付着した染料が再び昇華して染色が不安定となる可能性は低い。定着処理の詳細については、図12から図19を参照して後述する。
左右2つの電磁波発生部11に対する定着処理(S23)が共に終了すると、電磁波の照射がOFFとされる。閉塞室20内または冷却位置で樹脂体が待機されて、樹脂体の徐冷が行われる(S24)。徐冷が終了すると、設置部移動モータ81によって設置部50が筐体2の外部(本実施形態では前方)へ移動されて(S25)、染色処理は終了する。なお、本実施形態では、冷却ファン8は染色処理の実行中常に駆動される。よって、前述したように、染色処理の実行中に冷却位置に移動した樹脂体には、冷却ファン8によって発生した気流が当たる。
図12を参照して、本実施形態の染色処理(図11参照)において実行される定着処理について詳細に説明する。一例として、本実施形態では、樹脂体の材質がCR−39である場合の処理、および、樹脂体の材質がポリカーボネートである場合の処理について詳細に説明する。ただし、他の材質の樹脂体に染料を定着させる場合にも、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。
まず、S11(図11参照)で入力された樹脂体の材質がCR−39であるか否かが判断される(S31)。CR−39であれば(S31:YES)、第1定着工程テーブルが不揮発性メモリ73から取得される(S32)。第1定着工程テーブルは、制御部74が染色装置1に第1定着工程を実行させる際に参照される処理テーブルである。本実施形態では、少なくとも樹脂体の材質がCR−39である場合に、第1定着工程によって樹脂体が染色される。
図13に示すように、第1定着工程テーブルでは、染色装置1に第1定着工程を実行させる場合の「平均電力・処理時間」、「目標温度」、および「電磁波の強度分布」が、第1定着工程における各ステップについて定められている。平均電力とは、樹脂体の温度を適切な温度まで加熱するために電磁波発生部11に供給される平均電力(単位時間当たりに供給される電力の平均値)である。処理時間とは、各ステップが行われる時間である。特に、電磁波を樹脂体に照射させるステップの処理時間とは、電磁波を前記樹脂体に照射させる処理を行うように設定された時間である。目標温度とは、電磁波発生部11に供給される平均電力の大きさを切り換える基準となる温度である。第1定着工程では、温度検出手段24によって検出される温度が目標温度以下である場合に、平均電力が電磁波発生部11に供給される。強度分布とは、電磁波発生部11から樹脂体に照射される電磁波の強度分布である。一例として、本実施形態では、分布調整部14によって強度分布が調整される。
本実施形態の第1定着工程には、第1照射ステップおよび第2照射ステップが含まれる。第1照射ステップは、染色する樹脂体に電磁波を照射させることで、樹脂体の温度を上昇させるステップである。詳細には、第1照射ステップの目的の1つは、大きい印加熱量を樹脂体に加えて、なるべく短い時間で急速に樹脂体の温度を上昇させることである。第2照射ステップは、第1照射ステップの以後に実行されるステップであり、印加熱量を第1照射ステップにおける印加熱量よりも小さい熱量に制御して樹脂体に電磁波が照射される。第2照射ステップの目的の1つは、第1照射ステップによって樹脂体の各部に生じ得る温度差を減少させることである。第1照射ステップでは樹脂体の温度が急速に上昇するので、樹脂体の各部位に温度差が発生しやすい。第2照射ステップでは、樹脂体の一部に局所的に生じた熱エネルギーが、周囲に拡散される。また、本実施形態では、第1照射ステップによって上昇した樹脂体の温度が、第2照射ステップによって一定以上に維持される。その結果、染料の定着が進行する。なお、以下では、樹脂体に電磁波を照射させるステップ(第1照射ステップおよび第2照射ステップを含むステップ)を、単に「照射ステップ」と言う場合もある。
さらに、本実施形態の第2照射ステップには、温度低下ステップおよび低下後ステップが含まれる。温度低下ステップは、印加熱量を第1照射ステップにおける印加熱量よりも小さい熱量に制御することで、第1照射ステップによって昇温した樹脂体の平均温度を低下させるステップである。平均温度とは、樹脂体の各部位の温度の平均値である。温度低下ステップを実行することで、樹脂体の各部位の温度差はさらに効果的に減少する。また、本実施形態では、温度低下ステップにおいても電磁波が樹脂体に照射される。その結果、樹脂体の温度を低下させる間に温度差が減少しつつ、電磁波の照射を中断する場合に比べて定着工程の時間が短縮される。低下後ステップは、温度低下ステップの以後に実行されるステップである。低下後ステップにおける印加熱量は、第1照射ステップにおける印加熱量よりも小さく、且つ、温度低下ステップにおける印加熱量よりも大きい。低下後ステップによって、樹脂体への染料の定着はさらに進行する。
図13に例示された第1定着工程テーブルでは、第1照射ステップにおける平均電力は、第2照射ステップにおける平均電力よりも高い800Wとなっている。第1照射ステップの処理時間は180秒、目標温度は200℃である。第1照射ステップにおける電磁波の強度分布は、分布調整部14が用いられない場合(つまり、電磁波発生部11と樹脂体の間から分布調整部14が退避される場合)の強度分布である「通常」とされる。
また、本実施形態では、温度低下ステップにおける平均電力(400W)および目標温度(180℃)は、低下後ステップにおける平均電力および目標温度と同じである。しかし、低下後ステップにおける電磁波の強度分布は「通常」とされるのに対し、温度低下ステップにおける強度分布は「中心部弱」とされる。つまり、本実施形態では、電磁波の強度分布が調整されることで、温度低下ステップにおける印加熱量と、低下後ステップにおける印加熱量とが変化する。詳細には、「中心部弱」の場合、分布調整部14の開口部15A(図3参照)が用いられる。その結果、樹脂体の中心部に加わる単位面積当たりの印加熱量よりも、樹脂体の周辺部に加わる単位面積当たりの印加熱量が大きくなる。また、「中心部弱」の場合、温度低下ステップにおいて樹脂体の全体に加わる印加熱量の平均値は、低下後ステップにおいて樹脂体の全体に加わる印加熱量の平均値よりも小さくなる。
第1照射ステップで樹脂体の温度を急速に上昇させる場合、樹脂体の中心部の方が周辺部に比べて高温になり易い。特に、本実施形態のように、樹脂体の周辺部が保持部53(図5参照)によって保持されている場合には、周辺部の熱が保持部53に拡散するので、中心部と周辺部の温度差がさらに大きくなる。本実施形態の温度低下ステップでは、中心部に対する印加熱量を周辺部に対する印加熱量よりも小さくすることで、より効率よく樹脂体の各部位の温度差が減少する。
温度低下ステップの処理時間は60秒である。低下後ステップの処理時間は複数(一例として、90秒と120秒の2種類)設けられている。詳細は後述するが、本実施形態の染色装置1は、樹脂体の度数に応じて、第1定着工程の内容(詳細には、少なくとも低下後ステップを実行する時間)を変化させる。
図12の説明に戻る。第1定着工程テーブルが取得されると(S32)、S11(図11参照)で入力された樹脂体の度数の数値が−3.00以下であるか否か(マイナス度数が−3Dまたは−3Dよりも強度であるか否か)が判断される(S33)。マイナスの度数が強いプラスチックレンズは、度数が0に近いプラスチックレンズに比べて外周部の厚みが大きくなる。その結果、外周部の温度がさらに上昇し難くなり、外周部の染色が不十分となりやすい。本実施形態では、度数の数値が−3.00よりもプラス側の場合には(S33:NO)、低下後ステップの処理時間は90秒に設定される(S34)。これに対し、度数の数値が−3.00以下であれば(S33:YES)、低下後ステップの処理時間は120秒に設定される(S35)。このように、マイナスの度数が強くなる程、第2照射ステップの処理時間(本実施形態では低下後ステップの処理時間)を長くすることで、マイナスレンズの外周部にも染料が定着しやすくなる。なお、処理時間を変化させる場合、変化させる段階が2段階に限定されないことは言うまでもない。例えば、度数に応じて処理時間を3段階以上変化させてもよい。次いで、第1定着工程テーブル(図13参照)が参照されて、第1定着処理が実行される(S36)。
図14に示すように、まず、第1照射ステップを実行するために、分布調整部14(図2および図3参照)が電磁波照射部11と樹脂体の間から退避されることで、電磁波の強度分布が「通常」に調整される(S51)。第1照射ステップにおける平均電力A1(本実施形態では800W)が電磁波発生部11に供給されて、電磁波の照射が開始される(S52)。温度検出手段24によって検出された温度が、第1照射ステップにおける目標温度(本実施形態では200℃)以下であるか否かが判断される(S53)。目標温度以下であれば(S53:YES)、電磁波発生部11に供給される平均電力はA1とされる(S54)。検出された温度が目標温度を超えると(S53:NO)、電磁波発生部11に供給される平均電力が、A1よりも小さいA1´に下げられる(S55)。一例として、本実施形態では、A1´はA1の4分の1である。前述したように、本実施形態における平均電力の制御は、電力供給のデューティー比を調整することで行われる。次いで、第1照射ステップの処理時間(本実施形態では180秒)が経過したか否かが判断される(S56)。経過していなければ(S56:NO)、処理はS53の判断へ戻り、樹脂体への電磁波の照射が継続される。
第1照射ステップの処理時間が経過すると(S56:YES)、温度低下ステップを実行するために、分布調整部14の開口部15Aが電磁波照射部11と樹脂体の間にセットされることで、電磁波の強度分布が「中心部弱」に調整される(S58)。電磁波発生部11に供給される平均電力が、温度低下ステップにおける平均電力A2(本実施形態では400W)に調整される(S59)。温度検出手段24によって検出された温度が、温度低下ステップにおける目標温度(180℃)以下であるか否かが判断される(S60)。目標温度よりも大きければ(S60:NO)、電磁波発生部11に供給される平均電力が、A2よりも小さいA2´に下げられる(S62)。一方で、検出された温度が目標温度以下となると(S60:YES)、平均電力はA2とされる(S61)。次いで、温度低下ステップの処理時間(本実施形態では60秒)が経過したか否かが判断される(S63)。経過していなければ(S63:NO)、処理はS60の判断へ戻り、樹脂体への電磁波の照射が継続される。
温度低下ステップの処理時間が経過すると(S63:YES)、低下後ステップを実行するために、分布調整部14が退避されて、電磁波の強度分布が「通常」に調整される(S65)。本実施形態では、検出温度が目標温度に達していない場合に電磁波発生部11に供給される平均電力は、温度低下ステップと低下後ステップの間で変わらない。従って、平均電力はA2のままである。しかし、温度低下ステップにおける平均電力と、低下後ステップにおける平均電力が異なっていてもよい。次いで、温度検出手段によって検出された温度が、低下後ステップにおける目標温度(本実施形態では180℃)以下であるか否かが判断される(S66)。目標温度以下であれば(S66:YES)、平均電力はA2とされる(S67)。検出温度が目標温度を超えると(S66:NO)、平均電力がA2´に下げられる(S68)。次いで、低下後ステップの処理時間(本実施形態では、90秒または120秒)が経過したか否かが判断される(S69)。経過していなければ(S69:NO)、処理はS66の判断へ戻る。処理時間が経過すると(S69:YES)、第1定着処理は終了する。
図15を参照して、第1定着工程を含む染色工程が実行される場合の、温度検出手段24によって検出される検出温度の推移の一例について説明する。図15に示す例では、閉塞室20等が熱を持っていない状態で染色工程が開始されているので、染色工程開始時の温度検出手段24による検出温度は室温と同一である。蒸着ステップ(S16、図11参照)において染色用基体57に電磁波が照射されると、検出温度は僅かに上昇するが、蒸着ステップ終了後に染色用基体57が設置部50から退避される間に、検出温度は低下する。次いで、第1照射ステップにおいて、検出温度は急速に上昇する。温度低下ステップでは、第1照射ステップによって上昇した温度が低下する間に、樹脂体の各部位に生じ得る温度差が減少する。低下後ステップでは、樹脂体への染料の定着がさらに進む。
樹脂体の度数が異なる場合の温度推移の違いについて説明する。図15に例示する実線のグラフおよび破線のグラフは、共に、材質がCR−39の樹脂体を染色する場合(つまり、第1定着工程が実行される場合)に温度検出手段24によって検出される温度の推移を示す。しかし、実線のグラフは、度数の数値が−3.00よりもプラス側の場合(つまり、マイナスの度数が−3Dよりも弱い場合)の温度推移を示すのに対し、破線のグラフは、度数の数値が−3.00以下である場合(つまり、マイナスの度数が−3Dまたは−3Dよりも強度である場合)の温度推移を示す。
前述したように、本実施形態の染色装置1は、樹脂体の度数に応じて第1定着工程を変化させることで、度数の違いが染色品質に与える影響を抑制する。一例として、本実施形態では、低下後ステップを実行する時間が、樹脂体の度数に応じて変化する。例えば、マイナスレンズでは、度数の数値がよりマイナスになる程(つまり、マイナスの度数が強度になる程)、レンズの周辺部の厚みが厚くなる。周辺部の厚みが厚い程、中心部に比べて周辺部の温度が上昇し難くなる。第1定着工程の時間を一律に長くすると、度数に関わらず、周辺部の温度も十分に上昇する可能性はある。しかし、この場合、染色に要する時間が一律に長くなる。本実施形態の染色装置1は、樹脂体への染料の定着を進行させるための低下後ステップの時間を、樹脂体の度数に応じて変化させる。その結果、樹脂体の各部位の厚みの差に応じた適切な工程で、染料が樹脂体に定着する。
温度検出手段24によって検出された温度に基づく印加熱量の制御について説明する。図16に示す例では、閉塞室20等が熱を持っている状態で、第1定着工程を含む染色工程が開始されている。実線は、閉塞室20に設けられた温度検出手段24によって検出された温度である。破線は、樹脂体に直接接触した温度センサ(図示せず)によって実験的に検出された、樹脂体の実測温度である。
図16に示す例では、定着工程開始時の樹脂体の実測温度は室温と同一である。一方で、定着工程開始時の温度検出手段24による検出温度は、閉塞室20が持っている熱の影響で、室温よりも高い。その結果、第1照射ステップでは、図15に示す場合に比べて早い段階で、検出温度が目標温度に達する。しかし、定着工程開始時の樹脂体の温度は室温に近いので、検出温度が目標温度に達した時点では、樹脂体の実測温度は未だ目標温度に達していない場合が多い。特に、本実施形態のように、温度検出手段24が樹脂体に接触しておらず、間接的に樹脂体の温度が検出される場合には、温度検出手段24による検出温度と、実際の樹脂体の温度との間の差が大きくなり易い。しかし、本実施形態では、検出温度が目標温度に達しても、処理時間が短縮される前に印加熱量が低下する。従って、印加熱量を低下させた以後の処理時間中に、温度検出手段24による検出温度と、実際の樹脂体の温度との間の差が縮まる。また、温度低下ステップおよび低下後ステップでは、閉塞室20が持っている熱の影響で、図15に示す場合に比べて温度が低下しにくい。しかし、染色装置1は、検出温度と目標温度を比較して印加熱量を制御することで、温度低下ステップおよび低下後ステップにおける樹脂体の温度を適切な温度に保っている。
以上のように、本実施形態の染色装置1は、温度検出手段24によって検出された温度が目標温度に達した場合、処理時間を短縮させるよりも前に印加熱量を低下させる。一例として、染色装置1は、検出温度が目標温度に達すると、処理時間を短縮させるよりも前に、電磁波発生部11に供給する平均電力を低下させる(例えば、電力供給のON・OFFのデューティー比を変化させる)ことで、樹脂体に加える印加熱量を低下させる。その結果、過剰な熱量が樹脂体に加わることが抑制されつつ、染料を樹脂体に定着させるための時間が確保される。詳細には、本実施形態の染色装置1は、検出温度が目標温度に達した場合、処理時間を短縮させずに印加熱量を低下させる制御を行う。従って、染色装置1は、処理時間を短縮させる場合に比べて、染料を樹脂体に定着させるために必要な時間をより十分に確保することができる。
図12の説明に戻る。S11(図11参照)で入力された樹脂体の材質がCR−39でない場合には(S31:NO)、入力された材質がポリカーボネートであるか否かが判断される(S39)。材質がポリカーボネートでもなければ(S39:NO)、入力されたその他の材質に応じて定着処理が行われる(S43)。S43で実行される定着処理は、前述した第1定着処理、または後述する第2定着処理と同様の処理でもよいし、第1定着処理および第2定着処理とは異なる処理でもよい。入力された材質がポリカーボネートであれば(S39:YES)、第2定着工程テーブルが不揮発性メモリ73から取得されて(S40)、第2定着処理が行われる(S41)。第2定着工程テーブルは、制御部74が染色装置1に第2定着工程を実行させる際に参照されるテーブルである。本実施形態では、少なくとも樹脂体の材質がポリカーボネートである場合に、第2定着工程によって樹脂体が染色される。
図17に示すように、第2定着工程テーブルでは、染色装置1に第2定着工程を実行させる場合の「平均電力・処理時間」および「電磁波の強度分布」が、第2定着工程における各ステップについて定められている。本実施形態の第2定着工程では、検出温度に基づいて印加熱量を制御する処理は行われない。しかし、第2定着工程でも第1定着工程と同様に、検出温度に基づいて印加熱量が制御されてもよい。
本実施形態の第2定着工程には、昇温ステップと降温ステップが含まれる。昇温ステップは、樹脂体に電磁波を照射させることで樹脂体の温度を上昇させるステップである。昇温ステップでは、樹脂体の表面に付着した染料が樹脂体に定着する温度(定着温度)以上の温度まで樹脂体が加熱される。昇温ステップは、1回の第2定着工程の間に複数回実行される。降温ステップは、複数回の昇温ステップの各々の間に実行されるステップである。降温ステップは、昇温ステップによって加熱された樹脂体の温度を低下させるために実行される。この場合、昇温ステップにおいて、電磁波が照射された樹脂体の表面の温度が上昇し、染料が樹脂体の表面に定着する。詳細には、本実施形態の降温ステップでは、定着温度未満の温度まで樹脂体の温度が低下する。次いで、降温ステップにおいて樹脂体(詳細には樹脂体の表面)の温度が低下するので、樹脂体の表面に局所的に生じた熱エネルギーが樹脂体の内部に拡散することが抑制される。よって、樹脂体全体が高温となることの影響が抑制される。例えば、ポリカーボネートは熱可塑性樹脂の1種である。熱可塑性樹脂は、高温となることで変形しやすい。また、高温となることで変色する樹脂体も存在する。本実施形態によると、降温ステップを挟んで昇温ステップが複数回実行されることで、樹脂体が高温となることの影響が抑制されつつ、染料が徐々に樹脂体に定着していく。
図17に例示された第2定着工程テーブルによると、3回の昇温ステップと、各昇温ステップの間に実行される2回の降温ステップとを含む第2定着工程が実行される。それぞれの昇温ステップでは、平均電力は900W、処理時間は90秒となっている。昇温ステップにおける電磁波の強度分布は、分布調整部14の開口部15Aが用いられる場合の強度分布である「中心部弱」とされる。従って、昇温ステップで照射される電磁波は、樹脂体の中心部よりも周辺部の方が強くなる。よって、熱エネルギーが拡散されにくい中心部の温度が周辺部の温度よりも大幅に高くなることが、本実施形態の昇温ステップでは抑制される。なお、昇温ステップでは、電磁波の強度分布を「中心部弱」とせずに、電磁波照射部11に供給する平均電力を弱くすることも可能である。しかし、この場合、昇温ステップの処理時間は本実施形態に比べて長くなる可能性がある。
また、降温ステップでは、昇温ステップにおいて加熱された樹脂体の温度が低下するように、樹脂体に加えられる印加熱量が制御されればよい。本実施形態の降温ステップでは、樹脂体への電磁波の照射を停止させる。従って、樹脂体の表面から内部への熱エネルギーの拡散が、さらに抑制される。詳細は後述するが、本実施形態の昇温ステップではさらに、樹脂体が設置された設置部50が閉塞室20の外部に退避され、且つ、冷却ファン8によって生じた気流が樹脂体に当てられる。
図18を参照して、第2定着処理について説明する。まず、分布調整部14(図2および図3参照)の開口部15Aが電磁波照射部11と樹脂体の間にセットされることで、電磁波の強度分布が「中心部弱」に調整される(S71)。昇温ステップにおける平均電力B(本実施形態では900W)が電磁波発生部11に供給されて、電磁波の照射が開始される(S72)。昇温ステップの処理時間(本実施形態では90秒)が経過したか否かが判断される(S73)。経過していなければ(S73:NO)、待機状態となる。処理時間が経過すると(S73:YES)、電磁波の照射がOFFとされて(S74)、昇温ステップが終了する。
次いで、規定回数(本実施形態では3回)の昇温ステップが終了したか否かが判断される(S76)。終了していなければ(S76:NO)、降温ステップが実行される。まず、制御部74は、基部3における前側の壁面と閉塞室20との間の冷却位置に樹脂体を移動させる(S78)。本実施形態の降温ステップでは、閉塞室20内から樹脂体が退避された状態で樹脂体が冷却される。従って、閉塞室20が熱を持っている場合でも、樹脂体の温度が効率よく低下する。さらに、本実施形態では、冷却ファン8(図7参照)が発生させる気流が冷却位置を通る。染色工程が行われている間、冷却ファン8は稼動している。従って、制御部74は、樹脂体を冷却位置に移動させることで、冷却ファン8が発生させる気流を樹脂体に当てることができる。
降温ステップの処理時間(本実施形態では150秒)が経過すると(S79:YES)、閉塞室20内に樹脂体が戻される(S80)。その後、処理はS72へ戻り、昇温ステップが再度行われる(S72〜S74)。規定回数の昇温ステップが終了すると(S76:YES)、第2定着処理は終了する。
図19を参照して、第2定着工程を含む染色工程が実行される場合の温度推移の一例について説明する。図19の実線のグラフは、温度検出手段24によって検出された温度の推移を示す。図19の破線のグラフは、樹脂体に直接接触した温度センサ(図示せず)によって実験的に検出された、樹脂体の実測温度である。
まず、蒸着ステップにおいて染色用基体57に電磁波が照射されると、検出温度および実測温度は僅かに上昇する。その後、染色用基体57が設置部50から退避される間に、検出温度および実測温度は低下する。次いで、1回目の昇温ステップにおいて樹脂体に電磁波が照射され、検出温度および実測温度は共に急速に上昇する。1回目の昇温ステップが終了すると、1回目の降温ステップにおいて検出温度および実測温度は共に低下する。本実施形態では、昇温ステップおよび降温ステップの処理時間は共に予め定められている。その後、2回目の昇温ステップ、2回目の降温ステップ、および3回目の昇温ステップが行われて、第2定着工程は終了する。これにより、樹脂体が高温となることの影響が抑制されつつ、染料が徐々に樹脂体に定着していく。
昇温ステップ開始時における樹脂体の温度について説明する。本実施形態の第2定着工程では、2回目以降の昇温ステップの各々を開始させる際の樹脂体の温度を、直前の昇温ステップを開始させた際の樹脂体の温度よりも高くする。図19に示す例では、1回目の昇温ステップ開始時における樹脂体の温度K1よりも、2回目の昇温ステップ開始時における樹脂体の温度K2の方が高い。さらに、温度K2よりも、3回目の昇温ステップ開始時における樹脂体の温度K3の方が高い。
この場合、直前の昇温ステップにおいて樹脂体の表面に加えられた熱エネルギーがある程度残存した状態(蓄熱した状態)で、次の昇温ステップが開始される。その結果、前回の昇温ステップにおいて樹脂体に入り込んだ染料が、次の昇温ステップにおいてさらに深い位置に入り込み、染料の定着が安定する。
なお、本実施形態では、2回目以降の昇温ステップ開始時における樹脂体の温度が、直前の昇温ステップ開始時における樹脂体の温度よりも高くなるように、昇温ステップおよび降温ステップの平均電圧、処理時間等が予め定められている。しかし、制御部74は、温度検出手段24によって検出される温度を監視しながら、2回目以降の昇温ステップを開始させる時の温度を、直前の昇温ステップを開始させる時の温度よりも高くしてもよい。
昇温ステップ終了時における樹脂体の温度について説明する。本実施形態の第2定着工程では、2回目以降の昇温ステップの各々を終了させる際の樹脂体の温度を、直前の昇温ステップを終了させた際の樹脂体の温度よりも高くする。図19に示す例では、1回目の昇温ステップ終了時における樹脂体の温度F1よりも、2回目の昇温ステップ終了時における樹脂体の温度F2の方が高い。さらに、温度F2よりも、3回目の昇温ステップ終了時における樹脂体の温度F3の方が高い。
この場合、昇温ステップを繰り返す毎に、樹脂体の表面温度が徐々に上昇し、染料がより強固に樹脂体に定着する。なお、本実施形態では、2回目以降の昇温ステップ終了時における樹脂体の温度が、直前の昇温ステップ終了時における樹脂体の温度よりも高くなるように、昇温ステップおよび降温ステップの平均電圧、処理時間等が予め定められている。しかし、制御部74は、温度検出手段24によって検出される温度を監視し、直前の昇温ステップ終了時の温度よりも検出温度が高くなった以後に、実行中の昇温ステップを終了させてもよい。
以上説明したように、本実施形態の染色装置は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させて前記樹脂体を染色する染色装置であって、電磁波を発生させる電磁波発生手段と、前記染色装置の動作を制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記電磁波発生手段によって発生された電磁波が単位時間当たりに前記樹脂体に加える熱量である印加熱量を制御可能である。前記制御部は、前記樹脂体に電磁波を照射させる第1照射ステップと、前記第1照射ステップの以後に実行されるステップであり、前記印加熱量を前記第1照射ステップにおける前記印加熱量よりも小さい熱量に制御して前記樹脂体に電磁波を照射させる第2照射ステップとを含む定着工程を、前記染色装置に実行させることが可能である。
また、本実施形態で例示した染色樹脂体の製造方法は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染色樹脂体の製造方法であって、前記樹脂体に前記染料を定着させる定着工程の少なくとも一部は、電磁波発生手段によって発生された電磁波を前記樹脂体に照射させる第1照射ステップと、前記第1照射ステップの以後に実行されるステップであり、電磁波が単位時間当たりに前記樹脂体に加える熱量である印加熱量を、前記第1照射ステップにおける前記印加熱量よりも小さい熱量にして、前記樹脂体に電磁波を照射させる第2照射ステップと、を含む。
この場合、樹脂体の温度は、まず第1照射ステップによって急速に上昇する。その後、第2照射ステップに移行すると、印加熱量が低下し、樹脂体の温度上昇は停止する。第1照射ステップによって樹脂体の一部に局所的に生じた熱エネルギーは、温度上昇が停止している間に隣接部位に拡散する。例えば、第1照射ステップによって、樹脂体の染色面の周辺部よりも中心部に高い熱エネルギーが生じた場合でも、第2照射ステップでは、中心部から周辺部に熱エネルギーが拡散していく。従って、第2照射ステップでは、樹脂体の各部位の温度が均一化された状態で染料の定着が進行する。よって、本実施形態によると、短時間且つ高い品質で染色樹脂体が製造される。
本実施形態において、前記制御部が前記染色装置に実行させる前記第2照射ステップは、前記印加熱量を前記第1照射ステップにおける前記印加熱量よりも小さい熱量に制御することで、前記第1照射ステップによって昇温した前記樹脂体の平均温度を低下させる温度低下ステップと、前記温度低下ステップの以後に実行されるステップであり、前記第1照射ステップにおける前記印加熱量よりも小さく且つ前記温度低下ステップにおける前記印加熱量よりも大きい熱量に前記印加熱量を制御して前記樹脂体に電磁波を照射させる低下後ステップと、を含む。
この場合、第1照射ステップによって樹脂体の一部に局所的に生じた熱エネルギーは、温度低下ステップにおいて樹脂体の温度が低下する間に効果的に拡散する。その後、低下後ステップによって、樹脂体への染料の定着がさらに進行する。従って、本実施形態の染色装置は、より適切に樹脂体を染色することができる。
本実施形態の染色装置は、前記電磁波発生手段から前記樹脂体に照射される電磁波の強度分布を調整する分布調整手段をさらに備える。前記制御部は、少なくとも、前記樹脂体に照射される電磁波の強度分布を前記分布調整手段によって調整することで、前記温度低下ステップにおける前記印加熱量と、前記低下後ステップにおける前記印加熱量とを変化させる。
この場合、染色装置は、樹脂体全体に加える印加熱量を制御しつつ、樹脂体の各部に加える印加熱量も適切に制御することができる。
本実施形態において、前記制御部は、前記温度低下ステップにおいて前記分布調整手段を用いることで、前記樹脂体の中心部に加える単位面積当たりの前記印加熱量よりも、周辺部に加える単位面積当たりの前記印加熱量を大きくする。
第1照射ステップで樹脂体の温度を急速に上昇させる場合、樹脂体の中心部の熱エネルギーは、周辺部の熱エネルギーに比べて拡散しにくいので、中心部の方が周辺部に比べて高温になり易い。特に、本実施形態のように、樹脂体の周辺部が保持部53によって保持されている場合には、周辺部の熱が保持部53に拡散するので、中心部と周辺部の温度差がさらに大きくなる。本実施形態の染色装置は、温度低下ステップにおいて、樹脂体の中心部に加える印加熱量(単位面積当たりの印加熱量)よりも、周辺部に加える印加熱量を大きくする。従って、染色装置は、樹脂体の各部位の温度をより適切に温度低下ステップによって均一に近づけることができる。
本実施形態において、前記制御部は、染色する前記樹脂体の形状に関する情報の入力を受け付けると共に、受け付けた前記形状に関する情報に応じて前記定着工程を変化させる。
形状が異なる複数の樹脂体に対して、同一の定着工程で染色を行うと、染色品質に差が生じる場合がある。本実施形態の染色装置は、染色する樹脂体の形状に応じて定着工程を変化させることで、樹脂体の形状の違いが染色品質に与える影響を抑制することができる。
詳細には、本実施形態の制御部は、前記樹脂体の前記形状に関する情報に応じて、前記定着工程のうち少なくとも前記低下後ステップを実行する時間を変化させる。例えば、樹脂体の各部位における厚みの差が大きいと、各部位の温度差が生じやすい。低下後ステップを実行する時間が短いと、温度が低い部位に対する染料の定着が不十分となる可能性がある。低下後ステップを実行する時間を一律に長くすると、各部位の温度差の影響は抑制される可能性はあるが、染色に要する時間が一律に長くなる。本実施形態の染色装置は、定着工程のうち少なくとも低下後ステップを実行する時間を、樹脂体の形状に応じて変化させる。その結果、樹脂体の形状に応じた適切な工程で、染料が樹脂体に定着する。
本実施形態において染色される樹脂体は、光を屈折させるプラスチックレンズであり、前記形状に関する情報には、前記樹脂体の度数が含まれる。本実施形態において、前記制御部は、染色する前記樹脂体の度数の入力を受け付けると共に、受け付けた前記樹脂体の度数に応じて前記定着工程を変化させる。
プラスチックレンズを染色する場合、プラスチックレンズの度数が異なると、プラスチックレンズの形状が異なる。形状が異なる複数のプラスチックレンズに対して、同一の定着工程で染色を行うと、染色品質に差が生じる場合がある。本実施形態の染色装置は、染色するプラスチックレンズの度数に応じて定着工程を変化させることで、度数の違いが染色品質に与える影響を抑制することができる。
本実施形態の染色装置は、複数の前記樹脂体が設置される設置部をさらに備える。本実施形態では、前記電磁波発生手段は、前記設置部に設置される複数の前記樹脂体の各々に対応して複数設けられている。前記制御部は、前記設置部に設置される複数の前記樹脂体の各々の情報の入力を受け付けると共に、各々の前記樹脂体に対して入力された情報に応じて、各々の前記樹脂体に対応する前記電磁波発生手段を個別に制御する。
この場合、染色装置は、複数の樹脂体を並行して、且つ、それぞれの樹脂体の特性に応じた適切な工程で染色することができる。
本実施形態の染色装置は、前記樹脂体の周囲を閉塞する閉塞室と、前記閉塞室内の気圧を低下させる気圧低下手段とをさらに備える。本実施形態の前記制御部は、昇華性の前記染料が付着された染色用基体の付着面が、前記閉塞室内で前記樹脂体に非接触で対向した状態で、前記閉塞室内の気圧を前記気圧低下手段によって低下させて、前記電磁波発生手段が発生させた電磁波を前記染色用基体に照射させることで、前記染料を昇華させて前記樹脂体に蒸着させる蒸着ステップを、前記定着工程よりも前に前記染色装置に実行させる。
この場合、作業者は、気相転写染色方法による一連の染色工程を、1つの染色装置を用いて容易に実行することができる。
本実施形態の染色装置は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させて前記樹脂体を染色する染色装置であって、電磁波を発生させる電磁波発生手段と、温度を検出する温度検出手段と、前記染色装置の動作を制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記電磁波発生手段によって発生された電磁波が単位時間当たりに前記樹脂体に加える熱量である印加熱量を制御しつつ、電磁波を処理時間中に前記樹脂体に照射させることで、前記温度検出手段によって検出される温度を目標温度に近づける照射ステップを前記染色装置に実行させる。前記制御部は、前記照射ステップにおいて、前記温度検出手段によって検出された温度が前記目標温度に達した場合、前記処理時間を短縮させるよりも前に、前記印加熱量を低下させる制御を行う。
また、本実施形態で例示した染色樹脂体の製造方法は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染色樹脂体の製造方法であって、電磁波発生手段によって発生された電磁波が単位時間当たりに前記樹脂体に加える熱量である印加熱量を制御しつつ、電磁波を処理時間中に前記樹脂体に照射させることで、直接または間接的に検出される前記樹脂体の温度を目標温度に近づける照射ステップを実行する。前記照射ステップにおいて、検出される前記樹脂体の温度が前記目標温度に達した場合、前記処理時間を短縮させるよりも前に、前記印加熱量を低下させる。
樹脂体を加熱して染料を定着させる場合、樹脂体の温度が目標温度に達しただけでは染料が十分に樹脂体に定着されない場合がある。本実施形態によると、処理時間を短縮させるよりも前に印加熱量を低下させることで、過剰な熱量が樹脂体に加わること抑制しつつ、染料を樹脂体に定着させるために十分な時間を確保することができる。従って、短時間且つ高品質で樹脂体が染色される。
本実施形態の染色装置は、前記樹脂体が設置される設置部をさらに備える。前記温度検出手段は、前記設置部に設置される前記樹脂体から離間する位置であり、且つ前記電磁波発生手段が発生させる電磁波の照射範囲内に設けられる。
この場合、温度検出手段を樹脂体に直接接触させる場合に比べて、温度検出手段が樹脂体の染色を妨げる可能性が低下する。よって、染色装置は、樹脂体の温度を簡易な構成で間接的に把握することができる。一方で、温度検出手段が樹脂体に接触していないと、温度検出手段によって検出される温度が、樹脂体の実際の温度よりも高くなる場合があり得る。しかし、本実施形態では、照射ステップ中に温度検出手段によって検出される温度が目標温度に達しても、処理時間が短縮される前に印加熱量が低下する。従って、印加熱量を低下させた以後の処理時間中に、温度検出手段によって検出された温度と樹脂体の実際の温度の差が縮まり、染色品質が向上する。
本実施形態において、前記制御部は、前記照射ステップにおいて、前記温度検出手段によって検出された温度が前記目標温度に達した場合、前記処理時間を短縮させずに前記印加熱量を低下させる制御を行う。
この場合、染色装置は、処理時間を短縮させる場合に比べて、染料を樹脂体に定着させるために必要な時間をより十分に確保することができる。
本実施形態において、前記制御部は、前記電磁波発生手段への電力の供給と供給の停止とを1つのサイクルとし、前記サイクルを複数回繰り返すことが可能である。前記制御部は、前記電磁波発生手段に供給する電力の大きさを変化させずに、前記サイクルの時間に占める電力の供給の時間の比であるデューティー比を変化させることで、前記印加熱量を制御する。
この場合、染色装置は、電磁波発生手段に供給する電力の大きさ(つまり、瞬間的な電力の大きさ)を細かく変化させることなく、容易に印加熱量を制御することができる。
本実施形態において、前記制御部は、前記温度検出手段によって検出された温度に基づいて、前記電磁波発生手段への電力供給の制御を調整するキャリブレーション処理を実行することができる。
この場合、染色装置は、電磁波発生手段が有し得る個体差の影響を抑制し、より高品質な染色を行うことができる。
本実施形態において前記制御部が前記染色装置に実行させる前記照射ステップは、前記樹脂体に電磁波を照射させる第1照射ステップと、前記第1照射ステップの以後に実行されるステップであり、前記印加熱量を前記第1照射ステップにおける前記印加熱量よりも小さい熱量に制御して前記樹脂体に電磁波を照射させる第2照射ステップとを含む。前記第1照射ステップおよび前記第2照射ステップの各々について、前記目標温度および前記処理時間が、前記照射ステップが実行される時点で予め定められている。
本実施形態の染色装置は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に染料を定着させて前記樹脂体を染色する染色装置であって、電磁波を発生させる電磁波発生手段と、前記染色装置の動作を制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記樹脂体に電磁波を照射させる複数回の昇温ステップと、前記複数回の昇温ステップの各々の間に実行されるステップであり、前記昇温ステップによって加熱された前記樹脂体の温度を低下させる降温ステップと、を含む定着工程を、前記染色装置に実行させることが可能である。
また、本実施形態で例示した染色樹脂体の製造方法は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染色樹脂体の製造方法であって、前記樹脂体に前記染料を定着させる定着工程の少なくとも一部は、前記樹脂体に電磁波を照射させる複数回の昇温ステップと、前記複数回の昇温ステップの各々の間に実行されるステップであり、前記昇温ステップによって加熱された前記樹脂体の温度を低下させる降温ステップと、を含む。
この場合、昇温ステップにおいて、電磁波が照射された樹脂体の表面の温度が上昇し、染料が樹脂体の表面に定着する。次いで、降温ステップにおいて樹脂体(詳細には樹脂体の表面)の温度が低下するので、樹脂体の表面に局所的に生じた熱エネルギーが樹脂体の内部に拡散することが抑制される。よって、樹脂体が高温となることによる影響(例えば、樹脂体の変形、変色等の少なくともいずれか)が抑制される。降温ステップを挟んで昇温ステップが複数回実行されることで、樹脂体が高温となることの影響が抑制されつつ、染料が徐々に樹脂体に定着していく。従って、本実施形態によると、高い品質で染色樹脂体が製造される。さらに、本実施形態では、電磁波によって樹脂体の表面が急速に加熱される。よって、本実施形態によると、オーブン(特に、空気を昇温させて物体を加熱する熱風式のオーブン)等を用いる場合に比べて短時間で樹脂体が染色される。
本実施形態の前記制御部は、前記昇温ステップにおいて、前記樹脂体に付着した染料が前記樹脂体に定着する定着温度以上の温度に前記樹脂体の温度を昇温させると共に、前記降温ステップにおいて、前記定着温度未満の温度まで前記樹脂体の温度を低下させる。その結果、樹脂体の表面の熱が内部に拡散することがさらに抑制される。
本実施形態では、前記昇温ステップおよび前記降温ステップによって染料を定着させる前記樹脂体には、ポリカーボネートによって形成された樹脂体が含まれる。この場合、染色装置は、温度の影響で変形し易いポリカーボネートであっても適切に染色することができる。
本実施形態では、前記制御部は、前記降温ステップにおいて前記樹脂体への電磁波の照射を停止させる。この場合、樹脂体の表面から内部への熱エネルギーの拡散が、さらに抑制される。
本実施形態の染色装置は、気流を発生させる気流発生手段をさらに備える。前記制御部は、前記降温ステップにおいて、前記気流発生手段が発生させる気流を前記樹脂体に当てることで、前記樹脂体の温度を低下させる。この場合、染色装置は、樹脂体の表面の温度をより迅速に低下させて、定着工程に要する時間を短縮することができる。
本実施形態の染色装置は、前記樹脂体が設置される設置部と、少なくとも前記設置部に設置される樹脂体の周囲を閉塞する閉塞室とをさらに備える。前記染料は、加熱されることで昇華する昇華性染料である。前記電磁波発生手段は、前記閉塞室内に設置された前記樹脂体に電磁波を照射する。前記制御部は、前記降温ステップにおいて、前記閉塞室内から前記樹脂体を退避させることで前記樹脂体の温度を低下させる。
この場合、樹脂体に付着した昇華性染料が、電磁波の照射によって再昇華した場合でも、再昇華した染料は閉塞室内に留まる。よって、再昇華した染料による周囲の汚れが抑制される。さらに、降温ステップにおいて樹脂体が閉塞室内から外部に退避されることで、閉塞室が熱を持っている場合でも、樹脂体の温度が効率よく低下する。
本実施形態では、前記制御部は、2回目以降の前記昇温ステップの各々を開始させる際の前記樹脂体の温度を、直前の前記昇温ステップを開始させた際の前記樹脂体の温度よりも高くする。
この場合、直前の昇温ステップにおいて樹脂体の表面に加えられた熱エネルギーがある程度残存した状態(蓄熱した状態)で、次の昇温ステップが開始される。その結果、前回の昇温ステップにおいて樹脂体に入り込んだ染料が、次の昇温ステップにおいてさらに深い位置に入り込み、染料の定着が安定する。よって、本実施形態の染色装置は、より高い品質で樹脂体を染色することができる。
本実施形態では、前記制御部は、2回目以降の前記昇温ステップの各々を終了させる際の前記樹脂体の温度を、直前の前記昇温ステップを終了させた際の前記樹脂体の温度よりも高くする。
この場合、昇温ステップを繰り返す毎に、昇温ステップ終了時における樹脂体の表面温度が徐々に上昇し、染料がより強固に樹脂体に定着する。よって、本実施形態の染色装置は、より高い品質で樹脂体を染色することができる。
本実施形態の染色装置は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させて前記樹脂体を染色する染色装置であって、電磁波を発生させる電磁波発生手段と、前記染色装置の動作を制御する制御部とを備える。前記制御部は、染色する前記樹脂体の形状に関する情報および、染色する前記樹脂体の材質の少なくともいずれかの入力を受け付ける。前記制御部は、受け付けた前記形状に関する情報および前記材質の少なくともいずれかに応じて前記染色装置を制御し、前記染料を定着させる定着工程を実行させる。
また、本実施形態で例示した染色樹脂体の製造方法は、染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染色樹脂体の製造方法であって、染色する前記樹脂体の形状に関する情報、および、染色する前記樹脂体の材質の少なくともいずれかに応じて、前記樹脂体に電磁波を照射することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる定着ステップを含む。
樹脂体に電磁波を照射して樹脂体の温度を急速に変化させると、温度をゆっくりと変化させる場合に比べて染色の品質が変化しやすい。例えば、樹脂体の温度を急速に変化させると、ゆっくりと変化させる場合に比べて、樹脂体の形状によって各部位に温度差が発生する可能性、または、温度変化によって樹脂体に変形、変色等の少なくともいずれかが生じる可能性が高くなる場合がある。本実施形態の染色装置は、樹脂体の形状の情報に応じて定着工程を制御する場合、樹脂体の形状の影響で各部位に発生し得る温度差を抑制することができる。また、本実施形態の染色装置は、樹脂体の材質に応じて定着工程を制御する場合、温度変化による樹脂体の変形、変色等を抑制することができる。その結果、短時間且つ高い品質で樹脂体が染色される。
本実施形態の染色装置は、染色する前記樹脂体が複数設置される設置部をさらに備える。前記電磁波発生手段は、前記設置部に設置される複数の前記樹脂体の各々に対応して複数設けられている。前記制御部は、前記形状に関する情報および前記材質の少なくともいずれかの入力を、前記設置部に設置される複数の前記樹脂体の各々に対して受け付ける。前記制御部は、各々の前記樹脂体に対して入力された前記形状に関する情報および前記材質の少なくともいずれかに応じて、各々の前記樹脂体に対応する前記電磁波発生手段を個別に制御する。
この場合、染色装置は、複数の樹脂体を並行して、且つ、それぞれの樹脂体の特性に応じた適切な工程で染色することができる。
本実施形態において、染色する前記樹脂体は、光を屈折させるプラスチックレンズである。前記形状に関する情報は、前記樹脂体の度数、前記樹脂体の厚み、および前記樹脂体の径の少なくともいずれかを含む。この場合、作業者は、樹脂体に形状に関する情報を容易に染色装置に入力することができる。
本実施形態において、前記制御部は、入力された前記樹脂体の材質がCR−39である場合には、前記樹脂体に電磁波を照射させる第1照射ステップと、前記第1照射ステップの以後に実行されるステップであり、前記電磁波発生手段によって発生された電磁波が単位時間当たりに前記樹脂体に加える熱量である印加熱量を、前記第1照射ステップにおける前記印加熱量よりも小さい熱量に制御して、前記樹脂体に電磁波を照射させる第2照射ステップと、を含む第1定着工程を、前記染色装置に実行させることが可能である。
この場合、染色装置は、樹脂体の各部位に生じ得る温度差の影響を抑制しつつ、CR−39を材質とする樹脂体を短時間で染色することができる。
本実施形態において、前記制御部は、入力された前記樹脂体の材質がCR−39であり、且つ前記樹脂体の前記形状に関する情報が入力された場合には、入力された前記形状に関する情報に応じて前記第1定着工程を実行する時間を変化させる。
この場合、樹脂体の形状に応じた適切な染色工程が行われる。例えば、本実施形態のように、形状に関する情報としてプラスチックレンズの度数が入力される場合、プラスチックレンズの各部位の厚みの差に応じた適切な工程で、染料がプラスチックレンズに定着する。
本実施形態において、前記制御部は、入力された前記樹脂体の材質がポリカーボネートである場合には、前記樹脂体に電磁波を照射させる複数回の昇温ステップと、前記複数回の昇温ステップの各々の間に実行されるステップであり、前記昇温ステップによって加熱された前記樹脂体の温度を低下させる降温ステップと、を含む第2定着工程を、前記染色装置に実行させることが可能である。
この場合、染色装置は、ポリカーボネートが高温となることの影響を抑制しつつ、高い品質で染色を行うことができる。
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で開示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態では、定着工程を含む染色樹脂体の製造方法が、染色装置1によって実行される。しかし、上記実施形態で例示された染色樹脂体の製造方法の少なくとも一部を、染色装置1を用いずに実行することも可能である。例えば、蒸着工程を実行する装置と、定着工程を実行する装置とが別のデバイスであってもよい。また、上記実施形態では、蒸着工程と定着工程とが同一の電磁波発生部11によって実行される。しかし、蒸着工程を実行するための加熱手段と、定着工程を実行するための電磁波発生部11とが異なっていてもよい。
上記実施形態で例示された染色樹脂体の製造方法は、気相転写染色方法による製造方法である。しかし、上記実施形態で例示された定着工程を、他の染色方法における定着工程に適用することも可能である。また、上記実施形態では、プラスチックレンズを染色する場合を例示した。しかし、上記実施形態で例示された技術を、プラスチックレンズ以外の樹脂体を染色する場合に適用することも可能である。例えば、携帯電話のカバー、自動車のライト用のカバー、アクセサリー、玩具等、種々の樹脂体を染色する場合に、上記実施形態で例示された技術を適用してもよい。また、染色する樹脂体には、染色の前または後に種々のコーティングが行われてもよい。つまり、樹脂体にコーティングが行われている場合、「樹脂体の表面」とは、コーティングされた層の表面と捉えてもよいし、コーティングされた層の下に位置する樹脂体自体の表面と捉えてもよい。
上記実施形態では、分布調整部14に設けられた複数の開口部15のうち、電磁波発生部11と樹脂体との間に配置する開口部15、および開口部15の使用の有無が切り換えられることで、樹脂体に照射される電磁波の強度分布が調整される。しかし、電磁波の強度分布を調整する方法も変更できる。例えば、電磁波発生部11と分布調整部14の距離、および、分布調整部14と樹脂体の距離の少なくとも何れかを変化させることで、強度分布を調整してもよい。また、電磁波発生部11が発生させる電磁波の少なくとも一部を反射させる反射部(例えば凹面鏡等)を備え、反射部によって反射された電磁波を樹脂体に照射させることで、強度分布を調整してもよい。また、複数の赤外線ヒータの配置を工夫することで強度分布を調整してもよい。電磁波発生部11の一部の赤外線ヒータの出力と、他の赤外線ヒータの出力とを個別に調整することで、強度分布を調整してもよい。また、「電磁波の強度分布を調整する」とは、樹脂体の特性、定着工程における各ステップ等に応じて強度分布を動的に変化させることのみを意味するのではない。例えば、定着工程に適した強度分布で電磁波が樹脂体に照射されるように、強度分布が予め固定的に調整されていてもよい。
また、染色装置1は、印加熱量が異なる複数の電磁波発生部11を備えてもよい。この場合、染色装置1は、樹脂体の位置を複数の電磁波発生部11の間で切り換えることで、樹脂体に加える印加熱量を変化させてもよい。
上記実施形態の第1定着工程における第2照射ステップには、温度低下ステップと低下後ステップが含まれる。従って、温度低下ステップにおいて樹脂体の熱が効果的に均一に近づけられた後、低下後ステップにおいて染料の定着がさらに進行する。しかし、第2照射ステップが複数のステップを含んでいない場合でも、第1照射ステップと第2照射ステップを行うことで、樹脂体の各部位に生じ得る温度差の影響は抑制され得る。また、上記実施形態における温度低下ステップでは、第1照射ステップにおける印加熱量よりも小さい印加熱量で電磁波が樹脂体に照射される。しかし、制御部74は、温度低下ステップにおいて、樹脂体への電磁波の照射を停止させてもよい。また、第1定着工程および第2定着工程は、上記実施形態で例示されていない新たな別のステップを含んでいてもよい。
上記実施形態の第1定着工程では、樹脂体に照射される電磁波の強度分布が調整されることで、温度低下ステップにおける電磁波の印加熱量と、低下後ステップにおける電磁波の印加熱量とを異なる熱量とする。従って、樹脂体全体に加わる印加熱量と共に、樹脂体の各部に加わる印加熱量も適切に制御される。しかし、印加熱量を変化させる方法も変更できる。例えば、電磁波発生部11に供給する電力を変化させることで印加熱量を変化させてもよい。また、染色装置1は、第1定着工程における印加熱量と、第2定着工程における印加熱量とを変化させることなく、第2定着工程において樹脂体に電磁波を照射させつつ樹脂体を冷却させる(例えば、電磁波を照射させつつファンの風を当てる)ことで、第2定着工程で樹脂体の温度を低下または維持させてもよい。この場合でも、上記実施形態と同様に、第2定着工程において樹脂体の各部位の温度差が減少する。
上記実施形態の染色装置1は、プラスチックレンズである樹脂体の度数を、樹脂体の形状に関する情報として取得し、取得した情報に応じて定着工程を変化させることができる。しかし、樹脂体の形状に関する情報は、度数の情報に限定されない。例えば、プラスチックレンズの径が異なると、プラスチックレンズの各部位における温度上昇の態様が変化する場合がある。従って、染色装置1は、樹脂体の形状に関する情報として樹脂体の径を取得し、取得した径に応じて定着工程を変化させてもよい。また、樹脂体の厚みが変化すると、樹脂体の温度上昇の態様は変化し得る。よって、染色装置1は、樹脂体の形状に関する情報として樹脂体の厚みを取得し、定着工程を変化させてもよい。
上記実施形態の第1定着工程では、樹脂体の度数に応じて低下後ステップの処理時間が変化する。その結果、樹脂体の各部位の厚みの差に応じた適切な工程で、染料が樹脂体に定着する。しかし、染色装置1は、第1定着工程における他のパラメータを、度数に応じて変化させてもよい。例えば、染色装置1は、温度低下ステップにおける電磁波の強度分布、処理時間、印加熱量の少なくともいずれかを、度数に応じて変化させてもよい。また、染色装置1は、低下後ステップにおける電磁波の強度分布および印加熱量の少なくともいずれかを、度数に応じて変化させてもよい。
上記実施形態の染色装置1は、作業者によってタッチパネル6に入力された樹脂体(プラスチックレンズ)の度数を取得する。しかし、樹脂体の形状に関する情報の入力方法も適宜変更できる。例えば、染色装置1は、「プラスレンズ」「マイナスレンズ」等の樹脂体の種類を作業者に入力させることで、度数の範囲を取得してもよい。プラスチックの製品名、製品番号等を作業者に入力させて、入力された情報に基づいて形状に関する情報(例えば樹脂体の径等)を取得してもよい。
また、染色装置1は、複数の定着工程のうちの1つを作業者に選択させることで、樹脂体の形状に関する情報および材質の少なくともいずれかを入力してもよい。例えば、上記実施形態では、CR−39等を材質とするレンズに適した第1定着工程と、ポリカーボネート等を材質とするレンズに適した第2定着工程を実行することができる。作業者は、材質および形状の情報の少なくともいずれかを直接入力する代わりに、複数の定着工程のいずれかを染色装置1に入力することで、材質および形状の少なくともいずれかに適した定着工程を染色装置1に実行させてもよい。この場合、染色装置は以下のように表現することもできる。染色面に染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させて前記樹脂体を染色する染色装置であって、電磁波を発生させる電磁波発生手段と、前記染色装置の動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、形状および材質の少なくともいずれかが異なる複数種類の前記樹脂体の各々に対応する複数の定着工程を前記染色装置に実行させることが可能であり、前記定着工程を選択する指示を受け付けると共に、受け付けた指示に応じて前記複数の定着工程のいずれかを前記染色装置に実行させる。
上記実施形態の第1定着工程では、温度検出手段24によって検出された温度が目標温度に達した場合、処理時間が短縮されずに印加熱量が低下する。しかし、染色装置1は、検出温度が目標温度に達した場合、印加熱量を低下させた後、照射ステップの処理時間を短縮させてもよい(つまり、印加熱量を低下させた後、予定されていた処理時間が経過するよりも前に、照射ステップを途中で終了させてもよい)。
上記実施形態では、目標温度として1つの温度値が予め定められている。しかし、目標温度を設定する方法も適宜変更できる。例えば、所定の温度範囲を目標温度として設定してもよい。また、目標温度および処理時間は、作業者からの指示に応じて変更されてもよいし、何らかのパラメータ(例えば、湿度、室温等)に応じて変更されてもよい。
上記実施形態では、樹脂体に極力近い位置で樹脂体の温度を間接的に検出するために、温度検出手段24は閉塞室20に設けられている。しかし、温度検出手段24の設置位置は適宜変更できる。例えば、電磁波の照射領域のうち閉塞室20以外の位置に温度検出手段24が設けられていてもよい。樹脂体の一部に温度検出手段24を接触させることも可能である。また、温度検出手段は熱電対に限定されない。例えば、染色装置1は、加熱された樹脂体から生じる赤外線を検出する赤外線センサを備え、赤外線センサによる検出結果から樹脂体の温度を検出してもよい。なお、赤外線センサを用いる場合には、電磁波の照射領域外に赤外線センサを配置してもよいことは言うまでもない。
上記実施形態の染色装置1は、電磁波発生部11に供給する電力のデューティー比を変化させることで、樹脂体に加える印加熱量を制御する。従って、染色装置1は、電磁波発生部11に対して瞬間的に加える電力を一定にしながら、印加熱量を制御することができる。しかし、印加熱量を制御する方法も変更できる。例えば、染色装置1は、デューティー比を変化させずに、電磁波発生部11に供給する電力の大きさを変化させることで、印加熱量を制御してもよい。
上記実施形態の染色装置1は、第1定着工程において温度検出手段24による検出温度を用いるが、第2定着工程においては検出温度を用いない。しかし、第2定着工程においても検出温度に基づく制御を実行可能であることは言うまでもない。
上記実施形態の第2定着工程では、降温ステップにおいて樹脂体への電磁波の照射がOFFとされることで、樹脂体の温度が下げられる。しかし、染色装置1は、降温ステップにおける印加熱量を、昇温ステップにおける印加熱量よりも小さくすることで、樹脂体の温度を低下させてもよい。また、上記実施形態の第2定着工程では、降温ステップにおいて、樹脂体が閉塞室20内から退避されると共に、樹脂体に気流が当てられる。その結果、より短い時間で樹脂体の温度が低下する。しかし、染色装置1は、樹脂体を閉塞室20内に位置させた状態で降温ステップを実行することも可能である。また、染色装置1は、気流を樹脂体に当てずに降温ステップを実行することも可能である。
上記実施形態の染色装置1は、樹脂体の材質および度数に応じて定着工程を制御する。しかし、定着工程の制御方法も変更可能である。例えば、染色装置1は、材質および度数の一方のみに基づいて定着工程を制御してもよい。また、上記実施形態の染色装置1は、樹脂体の度数に基づいて第1定着工程を制御するが、第2定着工程の制御には度数を用いない。しかし、染色装置1は、第2定着工程においても度数に基づく制御を行ってもよい。
また、染色装置1は、樹脂体の形状に関する情報および材質に代えて、または、樹脂体の形状に関する情報および材質の少なくともいずれかと共に、他の情報に応じて定着工程を変化させてもよい。例えば、上記実施形態で例示した気相転写染色方法では、蒸着工程において、染色用基体57から樹脂体に染料が蒸着される。この場合、染色用基体57と樹脂体の距離が変化すると、樹脂体に蒸着される染料の濃度、分布等が変化する場合がある。設置部50における保持部53の位置(高さ)が一定である場合、樹脂体の厚みが変化すると、染色用基体57と樹脂体の距離が変化するので、染料の蒸着の態様も変化する場合がある。従って、染色装置1は、染色用基体57と樹脂体の距離を示すパラメータ(例えば、樹脂体の厚み等)を取得し、取得したパラメータに応じて定着工程を変化させてもよい。この場合、染色装置1は、染色用基体57と樹脂体の距離に関わらず、染色品質を均一に近づけることができる。
上記実施形態の染色装置1は、電磁波発生部11の個体差の影響を抑制するために、ヒータキャリブレーション処理を実行することができる。しかし、ヒータキャリブレーション処理は省略することも可能である。また、染色装置1のメーカーは、装置の出荷前に予め電磁波発生部11のキャリブレーションを行ってもよい。この場合、例えば、熱によって色が変化するサーモペイントを利用し、サーモペイントによって把握される温度が所定範囲に収まるように電磁波発生部11を制御する方法等を採用できる。また、メーカーは、温度検出手段24の校正を行ってもよい。一例として、校正済みの温度計と、染色装置1に搭載する温度検出手段24とを、共に水の中に入れる。次いで、水を熱しながら複数のタイミングで検出温度を装置に入力し、入力された温度に基づいて温度検出手段24を校正すればよい。
上記実施形態では、樹脂体の材質がCR−39である場合に第1定着工程が実行され、材質がポリカーボネートである場合に第2定着工程が実行される。しかし、それぞれの定着工程に適した材質は、上記実施形態で例示した材質に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂であるトライベックスまたはNXTを材質とする樹脂体に染料を定着させる場合に、第2定着工程を実行することも可能である。また、他の熱可塑性樹脂を材質とする樹脂体に染料を定着させる場合に第2定着工程を実行してもよい。また、中屈折、高屈折等の素材を染色する場合に、上記実施形態で例示した方法の少なくとも一部を採用してもよい。
上記実施形態の染色装置1は、染色する樹脂体における染色領域の全面に、電磁波照射部11から一斉に電磁波を照射させる。しかし、染色領域にレーザを順次スキャンさせて樹脂体を加熱する場合にも、上記実施形態で例示した技術の少なくとも一部を適用できる場合がある。また、上記実施形態で例示した技術の少なくとも一部は、電磁波を樹脂体に直接照射させて樹脂体を加熱する加熱装置以外の加熱装置(例えば、空気を急速に加熱することで樹脂体の温度を急速に上げる加熱装置)を用いる場合にも適用できる。一例として、熱風によって樹脂体の温度を急速に上げる加熱装置を用いる場合に、上記実施形態で例示した第2定着工程を適用することが考えられる。この場合でも、上記実施形態と同様に、樹脂体を急速に加熱することによる影響(例えば、樹脂体の変形、変色等の少なくともいずれか)は抑制される。