JP2016026520A - タンパク質付着防止用化合物、塗布液および医療用デバイス - Google Patents

タンパク質付着防止用化合物、塗布液および医療用デバイス Download PDF

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Ryohei Oguchi
亮平 小口
今日子 山本
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正雪 草野
Masayuki Kusano
正雪 草野
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Yuriko Kaida
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Abstract

【課題】耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を形成できるタンパク質付着防止用化合物、塗布液および該タンパク質付着防止用化合物を用いた医療用デバイスの提供。
【解決手段】物品表面に、タンパク質の吸着を防ぐ被覆層を形成するためのタンパク質付着防止用化合物であって、含フッ素重合体を含むことを特徴とするタンパク質付着防止用化合物。
【選択図】なし

Description

本発明は、タンパク質付着防止用化合物、塗布液および医療用デバイスに関する。
疎水性高分子(ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル等)や、親水性高分子(ポリビニルアルコール、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ポリアクリルアミド等)等の合成高分子材料は、医用高分子材料として広く用いられている。例えば、該合成高分子材料を医用高分子材料として用いた細胞培養容器、カテーテル、人工臓器等の医療用デバイスが知られている。
しかし、前記合成高分子材料は生体適合性が不充分である。すなわち、フィブリノーゲン、免疫グロブリンG(IgG)、インスリン、ヒストン、炭酸脱水酵素等のタンパク質がデバイス表面に吸着しやすい。該タンパク質がデバイス表面に吸着すると、その部分にさらに細胞(血球、血小板等)が接着しやすくなる。そのため、血栓形成、炎症反応等の生体への悪影響や、デバイスの劣化等の問題が引き起こされる。
ところで、合成高分子材料を用いた医療用デバイスでは、生体膜類似構造を有する2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体や、ポリオキシエチレングリコールを含む高分子等の合成高分子材料から形成される被覆層を表面に形成し、生体適合性を高めることが提案されている(例えば非特許文献1)。
高分子論文集 Vol.35、No.7、pp.423−427、1978
しかし、前記合成高分子材料は水溶性である。そのため、該合成高分子材料により被覆層を形成するとデバイス使用中に該被覆層から合成高分子材料が溶出することで、生体適合性が低下する。また、例えば血液等の生体から取り出した媒体を取り扱う場合に、該媒体が溶出した合成高分子材料で汚染されることがある。
本発明は、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を形成できるタンパク質付着防止用化合物、塗布液、および該タンパク質付着防止化合物を用いた医療用デバイスを提供することを目的とする。
本発明は、以下の[1]〜[3]の構成を有するタンパク質付着防止用化合物、塗布液および医療用デバイスを提供する。
[1]物品表面に、タンパク質の吸着を防ぐ被覆層を形成するためのタンパク質付着防止用化合物であって、
含フッ素重合体からなることを特徴とするタンパク質付着防止用化合物。
[2]前記[1]のタンパク質付着防止用化合物と、溶媒とを含む塗布液。
[3]前記[1]のタンパク質付着防止用化合物から形成されてなる被覆層を表面に有する医療用デバイス。
本発明のタンパク質付着防止用化合物および塗布液は、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を形成できる。
また、本発明の医療用デバイスは、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を有している。
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「含フッ素重合体」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
重合体の「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークにおける温度を意味する。
「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体に由来する部分を意味する。炭素−炭素不飽和二重結合を有する単量体の付加重合により生じる、該単量体に由来する単位は、該不飽和二重結合が開裂して生じた2価の単位である。また、ある単位の構造を重合体形成後に化学的に変換したものも単位という。なお、以下、場合により、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
重合体の「主鎖」とは、2以上の単量体の連結により形成された重合鎖をいう。
「フルオロオレフィン」とは、オレフィン炭化水素の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された化合物を意味する。フッ素原子以外の置換原子または置換基を有していてもよい。
「架橋性官能基」とは、外部エネルギーが与えられるとラジカル反応しうる官能基を意味する。
「反応性官能基」とは、加熱等を行った際に、当該含フッ素重合体の分子間、または含フッ素重合体とともに配合されている他の成分と反応(ただし、ラジカル反応を除く。)して結合を形成し得る反応性を有する基を意味する。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素原子−炭素原子間においてエーテル結合(−O−)を形成する酸素原子を意味する。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解することによってシラノール基(Si−OH)を形成し得る基を意味する。
「脂肪族環」とは、芳香性を示さない環構造を意味する。脂肪族環は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族環には、環骨格が、炭素原子のみから構成される炭素環構造のものに加えて、環骨格に、炭素原子以外の原子(ヘテロ原子)を含む複素環構造のものも含む。該ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子等が挙げられる。
「生体適合性」とは、タンパク質が吸着しない、または細胞が接着しない性質を意味する。
「医療用デバイス」とは、治療、診断、解剖学または生物学的な検査等の医療用として用いられるデバイスであり、人体等の生体内に挿入あるいは接触させる、または生体から取り出した媒体(血液等)と接触する如何なるデバイスも含むものとする。
「細胞」とは、生体を構成する最も基本的な単位であり、細胞膜の内部に細胞質と各種の細胞小器官をもつものを意味する。DNAを内包する核は、細胞内部に含まれても含まれなくてもよい。
動物由来の細胞には、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。
生体を構成する体細胞には、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞等が含まれる。
体細胞には、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が含まれる。
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞または生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
癌細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞であり、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、HT−29、AE−1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が含まれる。
[タンパク質付着防止用化合物]
本発明のタンパク質付着防止用化合物は、医療用デバイス等の物品の表面に、フィブリノーゲン、免疫グロブリンG(IgG)、インスリン、ヒストンおよび炭酸脱水酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種のタンパク質の吸着を防止する被覆層を形成するための化合物である。該タンパク質の吸着を防止することで、該タンパク質の吸着にさらに細胞が接着することを抑制できる。
本発明のタンパク質付着防止用化合物は、含フッ素重合体からなる。
(含フッ素重合体)
含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体(A)とも記す。」)のフッ素原子含有率は、5〜90質量%が好ましく、10〜85質量%がより好ましく、15〜80質量%が特に好ましい。フッ素原子含有率が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。フッ素原子含有率が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
なお、フッ素原子含有率(質量%)は、下式で求められる。
(フッ素原子含有率)=[19×N/M]×100
:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位のフッ素原子数と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
具体例として、テトラフルオロエチレン(TFE)単位50モル%とエチレン(E)単位50モル%とを有する含フッ素重合体のフッ素原子含有率について以下に説明する。
該含フッ素重合体の場合、TFE単位のフッ素原子数(4個)と、全単位に対するTFE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は2であり、E単位のフッ素原子数(0個)と、全単位に対するE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は0であるため、Nは2となる。また、TFE単位を構成する全ての原子の原子量の合計(100)と、全単位に対するTFE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は50であり、E単位を構成する全ての原子の原子量の合計(28)と、全単位に対するE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は14であるため、Mは64となる。したがって、該含フッ素重合体のフッ素原子含有率は59.4質量%となる。
なお、フッ素原子含有率は、実施例に記載の方法で測定できる。また、含フッ素重合体(A)の製造に使用する単量体、開始剤の仕込み量から算出することもできる。
含フッ素重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、2,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜800,000が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の数平均分子量が前記下限値以上であれば、耐久性に優れる。含フッ素重合体(A)の数平均分子量が前記上限値以下であれば、加工性に優れる。
含フッ素重合体(A)の質量平均分子量(Mw)は、2,000〜2,000,000が好ましく、2,000〜1,000,000が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、耐久性に優れる。含フッ素重合体(A)の質量平均分子量が前記上限値以下であれば、加工性に優れる。
含フッ素重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜10が好ましく、1.1〜5が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の分子量分布が前記範囲内であれば、耐水性に優れ、かつタンパク質が吸着しにくい。
<好ましい含フッ素重合体(A)>
含フッ素重合体(A)としては、タンパク質の吸着防止効果が高い被覆層を形成しやすい点から、以下の含フッ素重合体(A1)〜(A5)が好ましい。
含フッ素重合体(A1):フルオロオレフィンに由来する単位(以下、「フルオロオレフィン単位」とも記す。)を有する含フッ素重合体、
含フッ素重合体(A2):芳香環を有する含フッ素重合体、
含フッ素重合体(A3):フルオロポリエーテル鎖を有する含フッ素重合体、
含フッ素重合体(A4):主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体、
含フッ素重合体(A5):フッ素ゴム。
≪含フッ素重合体(A1)≫
含フッ素重合体(A1)は、フルオロオレフィン単位を有する含フッ素重合体である。
含フッ素重合体(A1)としては、フルオロオレフィン単位を含む共重合体が挙げられる。該共重合体としては、例えば、以下のものが挙げられる。
フルオロオレフィン単位とビニルアルコールに由来する単位(以下、「ビニルアルコール単位」とも記す。)とを有する含フッ素重合体(A11)、フルオロオレフィン単位とビニルエーテルに由来する単位(以下、「ビニルエーテル単位」とも記す。)とを有する含フッ素重合体(A12)、フルオロオレフィン単位と陽イオン交換基を有する単位とを有する含フッ素重合体(A13)等。
含フッ素重合体(A11):
含フッ素重合体(A11)としては、例えば、フルオロオレフィンとビニルエーテルとを共重合させた後、酸による脱保護反応により、ビニルエーテル単位の側鎖のエーテル性水酸基よりも末端側の基を水素原子に置換させた含フッ素重合体(A111)が挙げられる。
フルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘサキフルオロプロピレン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)(炭素数1〜10のフルオロアルキル基を有するもの等)、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライド、ペルフルオロアルキルエチレン(炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基を有するもの等)、トリフルオロエチレン、ペルフルオロアルキル(炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基を有するもの等)アリルエーテル、(ポリフルオロアルキル)アクリレート(炭素数1〜10のフルオロアルキル基を有するもの等)、(ポリフルオロアルキル)メタクリレート(炭素数1〜10のフルオロアルキル基を有するもの等)等が挙げられる。
また、フルオロオレフィンとしては、以下の化合物を用いてもよい。
CH=CX(CFn1(ただし、XおよびYはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、n1は2〜8の整数である。)で表される化合物、
CF=CF[OCFCFX(CFn2OCF(CF(ただし、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Yはハロゲン原子であり、mは0または1であり、n2は0〜5の整数であり、pは0〜2の整数である。また、mが1の場合、Xはフッ素原子である。)で表される化合物等。
CH=CX(CFn1で表される化合物としては、n1が2〜4である化合物が好ましい。具体例としては、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH等が挙げられる。
フルオロオレフィンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ビニルエーテルとしては、例えば、アルキルビニルエーテル(t−ブチルビニルエーテル、1,1−ジメチルプロピルビニルエーテル等)、メトキシメチルビニルエーテル、テトラヒドロフリルビニルエーテル、テトラヒドロピラニルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、メチルビニロキシブチルカーボネート、ビニロキシトリメチルシラン、ビニロキシジメチルフェニルシラン等が挙げられる。
ビニルエーテルは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
含フッ素重合体(A111)の全単位に対するフルオロオレフィン単位の割合は、5〜95モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。
含フッ素重合体(A111)の全単位に対するビニルアルコール単位の割合は、5〜95モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。
含フッ素重合体(A11)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
含フッ素重合体(A12):
含フッ素重合体(A12)としては、例えば、フルオロオレフィンとビニルエーテルとを共重合させた共重合体が挙げられる。
フルオロオレフィンとしては、例えば、含フッ素重合体(A11)で挙げたものと同じものが挙げられる。
ビニルエーテルとしては、例えば、含フッ素重合体(A11)で挙げたものと同じものが挙げられる。
含フッ素重合体(A12)は、反応性置換基を有してもよい。含フッ素重合体(A12)が反応性置換基を有することで、デバイス表面等への密着性を向上できる。反応性置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基等が挙げられる。
含フッ素重合体(A12)としては、例えば、下式(a1)で表される単位(以下、単位(a1)とも記す。)40〜60モル%、下式(a2)で表される単位(以下、単位(a2)とも記す。)3〜50モル%、下式(a3)で表される単位(以下、単位(a3)とも記す。)4〜30モル%、下式(a4)で表される単位(以下、単位(a4)とも記す。)0.4〜7モル%(ただし、単位(a1)〜(a4)の合計が80〜100モル%である。)を有する含フッ素重合体(A121)が挙げられる。
−CFX−CX− ・・・(a1)
Figure 2016026520
ただし、前記式中、XおよびXはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(ただし、Y〜Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。
また、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜12のアルキル基または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、aは0〜8の整数であり、bは0または1である。
また、Rは水素原子またはメチル基であり、Qは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、cは0〜8の整数であり、dは0または1である。
また、Rは水素原子またはメチル基であり、Qは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Qは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(ただし、Z〜Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であり、少なくとも一部のRが−NHZであることを必須とし、eは0〜8の整数であり、fは0または1である。
単位(a1)としては、例えば、フルオロエチレン(CF=CF、CClF=CF、CHCl=CF等)、フルオロプロペン(CFClCF=CF、CFCCl=CF、CFCF=CFCl等)、CFCCl=CFCF、CF=CFCFCClF等に由来する単位が挙げられる。単位(a1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
単位(a2)としては、例えば、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル等に由来する単位が挙げられる。単位(a2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
単位(a3)としては、例えば、2−ヒドロキシアルキルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチル−4−ビニロキシメチルシクロヘキサン、4−ヒドロキシブチルビニルエステル等に由来する単位が挙げられる。単位(a3)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
すべての単位(a4)の合計を100モル%としたとき、Rが−NHZである単位(a4)の割合は30〜100モル%が好ましく、50〜100モル%が特に好ましい。単位(a4)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
含フッ素重合体(A121)の全単位に対する単位(a1)の割合は、40〜60モル%であり、45〜55モル%が好ましい。
含フッ素重合体(A121)の全単位に対する単位(a2)の割合は、3〜50モル%であり、20〜45モル%が好ましい。
含フッ素重合体(A121)の全単位に対する単位(a3)の割合は、4〜30モル%であり、8〜25モル%が好ましい。
含フッ素重合体(A121)の全単位に対する単位(a4)の割合は、0.4〜7モル%であり、1.4〜6モル%が好ましい。
含フッ素重合体(A12)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
含フッ素重合体(A12)の市販品としては、例えば、Lumiflon(登録商標、旭硝子社製)等が挙げられる。
含フッ素重合体(A13):
含フッ素重合体(A13)は、陽イオン交換基を有する含フッ素重合体であり、いわゆる含フッ素イオン交換樹脂である。
含フッ素重合体(A13)としては、例えば、フルオロオレフィン単位と、下式(a5−1)〜(a5−4)で表される単位(a5−1)〜(a5−4)からなる群から選ばれる1種以上とを有する含フッ素重合体(A131)が挙げられる。
Figure 2016026520
フルオロオレフィン単位としては、前記含フッ素重合体(A1)にて記載したフルオロオレフィン単位が挙げられる。
含フッ素重合体(A131)は、フルオロオレフィン単位、単位(a5−1)〜(A5−4)以外の単位を含んでいてもよい。
含フッ素重合体(A131)の全単位に対するフルオロオレフィン単位の割合は、1〜99モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。
含フッ素重合体(A131)の全単位に対する単位(a5−1)〜(a5−4)の合計の割合は、99〜1モル%が好ましく、90〜10モル%が特に好ましい。
含フッ素重合体(A13)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
含フッ素重合体(A13)の市販品としては、例えば、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)等が挙げられる。
含フッ素重合体(A1)としては、含フッ素重合体(A11)〜(A13)以外の含フッ素重合体(A14)を用いてもよい。含フッ素重合体(A14)としては、例えば、以下の含フッ素重合体が挙げられる。
テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、「PFA」とも記す。)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、「FEP」とも記す。)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、「EPA」とも記す。)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「ETFE」とも記す。)、ポリビニリデンフルオリド(以下、「PVDF」とも記す。)、ポリビニルフルオリド(以下、「PVF」とも記す。)、ポリクロロトリフルオロエチレン(以下、「PCTFE」とも記す。)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(以下、「ECTFE」とも記す。)等。
含フッ素重合体(A14)は、必要に応じて、本質的な特性を損なわない範囲で、他の単量体に由来する単位(以下、「他の単位」とも記す。)をさらに有していてもよい。
「他の単位」とは、含フッ素重合体(A14)を構成する必須の単位を形成する単量体(例えばETFEにおけるエチレンおよびテトラフルオロエチレン、PFAにおけるテトラフルオロエチレンおよびペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))以外の単量体に由来する単位である。
他の単量体としては、含フッ素重合体(A14)を構成する必須の単位を形成する単量体と共重合可能な単量体であればよく、含フッ素単量体でもよく、非含フッ素単量体でもよい。
他の単量体である含フッ素単量体としては、テトラフルオロエチレン(ただし、含フッ素重合体(A14)がPFA、FEP、EPAおよびETFEである場合を除く。)、ヘサキフルオロプロピレン(ただし、含フッ素重合体(A14)がFEPおよびEPAである場合を除く。)、フルオロ(アルキルビニルエーテル)(炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基を有するもの等。ただし、含フッ素重合体(A14)がPFAおよびEPAである場合を除く。)、クロロトリフルオロエチレン(ただし、含フッ素重合体(A14)がPCTFEおよびECTFEである場合を除く。)、ビニリデンフルオライド(ただし、含フッ素重合体(A14)がPVDFである場合を除く。)、ビニルフルオライド(ただし、含フッ素重合体(A14)がPVFである場合を除く。)、ペルフルオロアルキルエチレン(炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基を有するもの等)、トリフルオロエチレン、(ポリフルオロアルキル)アクリレート(炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基を有するもの等)、(ポリフルオロアルキル)メタクリレート(炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基を有するもの等)等が挙げられる。
また、他の単量体である含フッ素単量体としては、例えば、含フッ素重合体(A11)で挙げたものと同じものが挙げられる。
他の単量体である非含フッ素単量体としては、エチレン(ただし、含フッ素重合体(A14)がETFEおよびECTFEである場合を除く。)、オレフィン(プロピレン、ブテン等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニルまたはクロトン酸ビニル等)等が挙げられる。
含フッ素重合体(A1)は、公知の方法を用いて製造できる。
≪含フッ素重合体(A2)≫
含フッ素重合体(A2)は、芳香環を有する含フッ素重合体である。
含フッ素重合体(A2)としては、架橋性官能基および芳香環を有する含フッ素重合体(A21)が好ましい。架橋性官能基を有する含フッ素重合体(A21)は、外部エネルギーにより架橋性官能基がラジカル反応することで、重合、架橋、鎖延長等の反応を起こす。
架橋性官能基としては、ビニル基、エチニル基が特に好ましい。
外部エネルギーとしては、熱または光が用いられ、熱と光を併用してもよい。
含フッ素重合体(A2)の具体例としては、例えば、含フッ素芳香族化合物(ペルフルオロ(1,3,5−トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロビフェニル等)と、フェノール系化合物(1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等)と、架橋性官能基含有芳香族化合物(ペンタフルオロスチレン、アセトキシスチレン、クロルメチルスチレン、ペンタフルオロフェニルアセチレン等)とを、脱ハロゲン化水素剤(炭酸カリウム等)の存在下で反応させて得られる重合体が挙げられる。
含フッ素重合体(A2)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
≪含フッ素重合体(A3)≫
含フッ素重合体(A3)は、フルオロポリエーテル鎖を有する含フッ素重合体である。フルオロポリエーテル鎖はタンパク質がより吸着しにくい点から、ペルフルオロポリエーテル鎖であることが好ましい。
含フッ素重合体(A3)としては、フルオロポリエーテル鎖と、少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物(以下、「含フッ素重合体(A31)」とも記す。)が挙げられる。
含フッ素重合体(A31)としては、下式(A31−1)で表される化合物等が挙げられる。
A−O−R−B ・・・(A31−1)
式(A31−1)中の記号は以下を示す。
A:炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、または下式(1)で表される基。
:(C2gO)(ただし、gは1〜10の整数であり、hは1〜200の整数である)。
B:下式(1)で表される基。
−Q−SiX3−i ・・・(1)
式(1)中の記号は以下を示す。
:アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群から選ばれる1種以上を含んでもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数2〜12の2価の炭化水素基。
X:加水分解性基。
R:水素原子または1価の炭化水素基。
i:1〜3の整数。
ただし、式(A31−1)中にXおよびRが複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
式中Rにおいて、hが2以上の場合には、複数存在する(C2gO)の種類が同じであっても異なっていてもよい。異なる場合には、その並び方はランダム、ブロック、交互のいずれであってもよい。gが3以上の場合には、直鎖構造でも分岐構造でもよい。(C2gO)としては(CFO)、(CFCFO)、(CFCFCFO)、(CF(CF)CFO)、(CFCFCFCFO)、(CFCFO−CFCFCFCFO)等が挙げられる。
加水分解性シリル基(−SiX3−i)としては、−Si(OCH、−SiCH(OCH、−Si(OCHCH、−SiCl、−Si(OCOCH、−Si(NCO)が好ましく、工業的な製造における取り扱いやすさの点から、−Si(OCHが特に好ましい。
含フッ素重合体(A31)の具体例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
A−O−(CFCFO)h1−CFC(O)NHC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CFC(O)NHC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CFC(O)NHC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CFC(O)NHC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CFCHOC(O)NHC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CFCHOC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−(CFOC−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CF−SiX3−i
A−O−(CFCFO)h1−CF−SiX3−i
A−O−(CFCFCFO)h2−(CFCHOC−SiX3−i
CF−O−(CFCFO)h3−(CFO)h4−CFCHOC−SiX3−i等。
上式において、h1、h2はそれぞれ独立に5〜80の整数であり、8〜50の整数が好ましい。h3、h4はそれぞれ独立に5〜50の整数であり、8〜40の整数が好ましい。
A−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)h5−CFCFOCFCFCFCHO(CH−SiX3−i
A−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)h5−CFCFOCFCFCFCFO(CH−SiX3−i
A−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)h5−CFCFOCFCFCFC(=O)NH(CH−SiX3−i
A−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)h5−CFCFOCFCFCF(CH−SiX3−i
A−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)h5−CFCFOCFCFCF(CH−SiX3−i等。
ただし、Aは、CF−、CFCF−、CFCFCF−、CFCFOCFCFCFCF−、CFOCFCF−、CFOCFCFOCFCF−またはCFCFOCFCFOCFCF−である。
h5は2〜45の整数であり、4〜40の整数が好ましく、5〜35の整数が特に好ましい。
含フッ素重合体(A3)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
含フッ素重合体(A3)の市販品としては、例えば、オプツール DSX(登録商標、ダイキン工業社製)、信越化学社製のKY−100シリーズ等が挙げられる。
≪含フッ素重合体(A4)≫
含フッ素重合体(A4)は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体である。「主鎖に脂肪族環を有する」とは、脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子のうち、少なくとも1つが、含フッ素重合体(A4)の主鎖を構成する炭素原子であることを意味する。
例えば含フッ素重合体(A4)が、重合性二重結合を有する単量体の重合により得られたものである場合、重合に用いられた単量体が有する重合性二重結合に由来する炭素原子のうちの少なくとも1つが、前記主鎖を構成する炭素原子となる。例えば含フッ素重合体(A4)が、後述の環状単量体を重合させて得た含フッ素重合体の場合は、該環状単量体が有する重合性二重結合を構成する2個の炭素原子が主鎖を構成する炭素原子となる。また、2個の重合性二重結合を有する単量体を環化重合させて得た含フッ素重合体の場合は、2個の重合性二重結合を構成する4個の炭素原子のうちの少なくとも2個が主鎖を構成する炭素原子となる。
脂肪族環の環骨格を構成する原子の数は、4〜7個が好ましく、5〜6個が特に好ましい。すなわち、脂肪族環は4〜7員環が好ましく、5〜6員環が特に好ましい。
脂肪族環は置換基を有していてもよく、有さなくてもよい。「置換基を有していてもよい」とは、該脂肪族環の環骨格を構成する原子に置換基(水素原子以外の原子または基)が結合してもよいことを意味する。
脂肪族環は、非含フッ素脂肪族環であってもよく、含フッ素脂肪族環であってもよい。
非含フッ素脂肪族環は、構造中にフッ素原子を含まない脂肪族環である。非含フッ素脂肪族環の具体例としては、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素環、該脂肪族炭化水素環における炭素原子の一部が酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換された脂肪族複素環等が挙げられる。
含フッ素脂肪族環は、構造中にフッ素原子を含む脂肪族環である。含フッ素脂肪族環としては、脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子に、フッ素原子を含む置換基(以下、含フッ素基と記す。)が結合した脂肪族環が挙げられる。含フッ素基としては、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、=CF等が挙げられる。
含フッ素芳香族環または非含フッ素脂肪族環は、含フッ素基以外の置換基を有していてもよい。
脂肪族環としては、水への低溶出性と細胞非接着性に優れることから、含フッ素脂肪族環が好ましい。
含フッ素重合体(A4)は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
含フッ素重合体(A4)としては、下記の含フッ素重合体(A41)、(A42)が挙げられる。
含フッ素重合体(A41):環状含フッ素単量体に由来する単位を有する重合体、
含フッ素重合体(A42):ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位を有する重合体。
含フッ素重合体(A41):
「環状含フッ素単量体」とは、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体、または、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子と含フッ素脂肪族環外の炭素原子との間に重合性二重結合を有する単量体である。
環状含フッ素単量体としては、例えば、下式(a6−1)〜(a6−4)で表される単量体が挙げられる。
Figure 2016026520
含フッ素重合体(A41)は、環状含フッ素単量体の単独重合体であってもよく、環状含フッ素単量体と共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
環状含フッ素単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、ジエン系含フッ素単量体、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
ジエン系含フッ素単量体としては、後述する含フッ素重合体(A42)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。側鎖に反応性官能基を有する単量体としては、重合性二重結合および反応性官能基を有する単量体が挙げられる。重合性二重結合としては、CF=CF−、CF=CH−、CH=CF−、CFH=CF−、CFH=CH−、CF=C−、CF=CF−等が挙げられる。反応性官能基としては、後述する含フッ素重合体(A42)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。
なお、環状含フッ素単量体とジエン系含フッ素単量体との共重合により得られる重合体は含フッ素重合体(A41)として考える。
含フッ素重合体(A41)中の全単位に対する環状含フッ素単量体に由来する単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上が特に好ましい。前記環状含フッ素単量体に由来する単位の割合の上限値は100モル%でる。
含フッ素重合体(A41)の具体例としては、例えば、式(a6−1)で表される単量体とテトラフルオロエチレンとを共重合させて得られる、下式(a6−5)で表される単位を有する共重合体が挙げられる。
Figure 2016026520
ただし、式(a6−5)中、jは1〜100の整数であり、kは10〜1,000の整数である。
jは、1〜90の整数が好ましく、2〜90の整数が特に好ましい。
kは、10〜800の整数が好ましく、10〜500の整数が特に好ましい。
含フッ素重合体(A42):
「ジエン系含フッ素単量体」とは、2個の重合性二重結合およびフッ素原子を有する単量体である。重合性二重結合としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
ジエン系含フッ素単量体としては、下式(a7)で表される単量体(以下、単量体(a7)とも記す。)が好ましい。
CF=CF−Q−CF=CF ・・・(a7)。
ただし、Qは、エーテル性酸素原子を有していてもよく、フッ素原子の一部がフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜5の分岐を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。該フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
のペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜3が好ましい。
としては、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基が好ましい。この場合、ペルフルオロアルキレン基におけるエーテル性酸素原子は、該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子間に存在していてもよい。環化重合性の点から、ペルフルオロアルキレン基の一方の末端にエーテル性酸素原子が存在していることが好ましい。
単量体(a7)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFOCF(CF)CF=CF
CF=CFOCFCFCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
CF=CFOCFClCFCF=CF
CF=CFOCClCFCF=CF
CF=CFOCFOCF=CF
CF=CFOC(CFOCF=CF
CF=CFOCFCF(OCF)CF=CF
CF=CFCFCF=CF
CF=CFCFCFCF=CF
CF=CFCFOCFCF=CF等。
含フッ素重合体(A42)は、ジエン系含フッ素単量体の単独重合体であってもよく、ジエン系含フッ素単量体と共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
ジエン系含フッ素単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
含フッ素重合体(A42)は、反応性官能基を有することが好ましい。反応性官能基としては、重合体中への導入のしやすさ、反応性の点から、カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カーボネート基、スルホ基、ホスホノ基、ヒドロキシ基、チオール基、シラノール基およびアルコキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基またはアルコキシカルボニル基が特に好ましい。
反応性官能基は、含フッ素重合体(A42)の主鎖末端に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよい。
含フッ素重合体(A42)の具体例としては、例えば、CF=CFOCFCFCF=CFの環化重合させて得られる、下式(a7−1)で表される単位を有する重合体が挙げられる。
Figure 2016026520
ただし、式(a7−1)中、pは100〜1,000の整数である。
pは、200〜800の整数が好ましく、200〜500の整数が特に好ましい。
含フッ素重合体(A4)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
含フッ素重合体(A4)の市販品としては、例えば、CYTOP(登録商標、旭硝子社製)、テフロン(登録商標)AF(DuPont社製)等が挙げられる。
≪含フッ素重合体(A5)≫
含フッ素重合体(A5)は、フッ素ゴムである。
フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオリド(VDF)を主成分とするビニリデンフルオリド系フッ素ゴム、プロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム等が挙げられる。
ビニリデンフルオリド系フッ素ゴムとしては、例えば、VDF−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系、VDF−ペンタフルオロプロピレン(PFP)系、VDF−クロロトリフルオロエチレン(CTFE)系等の2成分系;VDF−HFP−テトラフルオロエチレン(TFE)系、VDF−PFP−TFE系、VDF−ペルフルオロメチルビニルエーテル(PFMVE)−TFE系等の3成分系等が挙げられる。
プロピレン(PP)−TFEテトラフルオロエチレン系フッ素ゴムとしては、例えば、PP−TFE系等の2成分系、PP−HFP−TFE等の3成分系等が挙げられる。
テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴムとしては、例えば、TFE−HFP等の2成分系、TFE−HFP−VDF等の3成分系等が挙げられる。
本発明では、含フッ素重合体(A)として、含フッ素重合体(A1)〜(A5)のうちのいずれか1つのみを使用してもよく、含フッ素重合体(A1)〜(A5)からなる群から選ばれる2つ以上を併用してもよい。
なお、含フッ素重合体(A)は、前記した含フッ素重合体(A1)〜(A5)には限定されない。
[塗布液]
(溶媒)
本発明の塗布液は、含フッ素重合体(A)に加えて、溶媒(以下、「溶媒(B)」とも記す。)を含む。本発明の塗布液が常温(20〜25℃)で液体の場合にはそのまま塗布することが可能であるが、塗布液を湿式塗布することで容易に被覆層を形成することができる。
塗布液を塗布する際には、含フッ素重合体(A)および溶媒(B)以外の成分、例えばレベリング剤、架橋剤等を含ませて塗布してもよい。塗布液に架橋剤を含ませない場合は、被覆層は含フッ素重合体(A)のみから形成される層となる。また、塗布液に架橋剤を含ませる場合は、被覆層は含フッ素重合体(A)と架橋剤とから形成される層となる。
溶媒(B)としては、非含フッ素溶媒、含フッ素溶媒が挙げられ、非含フッ素溶媒としては、アルコール系溶媒、含ハロゲン系溶媒等が挙げられる。例えば、エタノール、メタノール、アセトン、クロロホルム、アサヒクリンAK225(旭硝子社製)、AC6000(旭硝子社製)等が挙げられる。溶媒(B)としては、デバイス等を溶解しない種類を選択することが好ましい。デバイスとしてポリスチレンを使用する場合、エタノール、メタノール、アサヒクリンAK225(旭硝子社製)、AC6000(旭硝子社製)等が好ましい。
本発明の塗布液中の含フッ素重合体(A)の濃度は、0.0001〜10質量%が好ましく、0.0005〜5質量%が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の濃度が前記範囲であれば、均一に塗布することができ、均一な被覆層が形成できる。
(他の成分)
本発明の塗布液は、必要に応じて、含フッ素重合体(A)および溶媒(B)以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、例えば、レベリング剤、架橋剤等が挙げられる。
デバイスを長期間使用する場合には、含フッ素重合体(A)を架橋する架橋剤を塗布液に添加し、被覆層中の架橋度合いを調整することで、優れた生体適合性がより長期にわたって持続する優れた耐久性を有する被覆層を形成できる。具体的には、含フッ素重合体(A)が水酸基を有する場合は、該水酸基と反応する架橋剤を添加することで、優れた耐久性を有する被覆層を形成できる。
水酸基と反応する架橋剤としては、多官能イソシアネート化合物が挙げられる。多官能イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、HDI系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。HDI系ポリイソシアネートには、2液型用としてビウレットタイプ、イソシアヌレートタイプ、アダクトタイプ、2官能型が挙げられ、硬化開始温度に閾値があるブロック型も挙げられる。HDI系ポリイソシアネートは、市販品を使用することができ、デュラネート(旭化成社製)等が挙げられる。
使用する多官能イソシアネート化合物は、反応温度、デバイスの材質によって適宜選択できる。例えばデバイスとしてポリスチレンを使用する場合、アサヒクリンAK225(旭硝子社製)、AC6000(旭硝子社製)等に溶解でき、かつポリスチレンの熱変形温度である80℃以下でも硬化反応が進行するビウレットタイプ、イソシアヌレートタイプが好ましい。
被覆層中の架橋度合いは、含フッ素重合体(A)中の水酸基量と添加する架橋剤の量、反応率によって決まり、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調節できる。
架橋剤の使用量は、含フッ素重合体(A)の100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。架橋剤の使用量が前記範囲の下限値以上であれば、耐久性に優れた被覆層を形成しやすい。架橋剤の使用量が前記範囲の上限値以下であれば、生体適合性に優れた被覆層を形成しやすい。
以上説明した本発明のタンパク質付着防止用化合物および塗布液は、含フッ素重合体(A)を含むため、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を形成できる。
本発明のタンパク質付着防止用化合物および塗布液により被覆層を形成する物品としては、医療用デバイスが特に有効である。
なお、本発明のタンパク質付着防止用化合物および塗布液は、船舶、橋梁、海上タンク、港湾施設、海底基地、海底油田掘削設備等の海洋構造物に対して用いてもよい。該海洋構造物に対して本発明のタンパク質付着防止用化合物を用いることで、該海洋構造物にタンパク質が吸着することが抑制され、その結果、貝類(フジツボ等)、海藻類(アオノリ、アオサ等)等の水生生物が接着することが抑制される。
[医療用デバイス]
本発明の医療用デバイスは、本発明のタンパク質付着防止用化合物から形成されてなる被覆層をデバイス表面に有する医療用デバイスである。
医療用デバイスの具体例としては、例えば、医薬品、医薬部外品、医療用器具等が挙げられる。医療用器具としては、特に限定されず、細胞培養容器、細胞培養シート、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、包装材等が挙げられる。なかでも、細胞培養容器が好ましい。
被覆層としては、含フッ素重合体(A)のみから形成される層、または含フッ素重合体(A)と架橋剤とから形成される層が挙げられる。
被覆層の厚さは、1nm〜1mmが好ましく、5nm〜800μmが特に好ましい。被覆層の厚さが前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい。被覆層の厚さが前記上限値以下であれば、被覆層がデバイス表面に密着しやすい。
医療用デバイスのデバイス表面に被覆層を形成する方法としては、特に限定されず、本発明のタンパク質付着防止用化合物を湿式塗布法で塗布する方法(デバイス表面との密着性を向上させるためにさらに加熱してもよい。)や、本発明の塗布液を、公知の湿式塗布法で塗布して乾燥する方法が採用できる。
例えば、グラビアコータ、ロールコータ、ナイフコータ、ブレードコータ、カーテンコータ、ディップコータ、スプレイコータ、スピンコータ、押出コータ、ダイコータにより本発明の塗布液を塗布した後、乾燥して被膜層を得る方法が挙げられる。
本発明の被覆層をデバイス表面に有する医療用デバイスは、キャスト成形により、フィルム状態やシート状態等の医療用デバイスとすることもできる。被膜層には微細加工等による形状があってもよい。
被覆層とデバイスとの密着性を向上させるために、あらかじめデバイス表面に接着層を設けてもよい。接着層を形成する接着剤としては、被覆層とデバイス双方に対して充分な接着力を発揮するものを適宜使用でき、例えば、フッ素樹脂用接着剤であるシアノアクリレート系接着剤、シリコーン変性アクリル接着剤、エポキシ変性シリコーン接着剤等が挙げられる。
具体例としては、デバイスとしてポリスチレンを使用する場合、シアノアクリレート系接着剤を使用する。この場合、デバイス側では、シアノアクリレート系接着剤中のシアノアクリレートモノマーが空気中またはデバイス表面の水分と反応して硬化する。被覆層中には含フッ素重合体(A)由来の生体親和性基が存在するため、被覆層中およびその周辺部に水分が存在する。そのため、被覆層側でもシアノアクリレートモノマーがそれらの水分と反応して硬化する。接着層により被覆層とデバイスとの密着性を向上できる。
以上説明した本発明の医療用デバイスは、本発明のタンパク質付着防止用化合物から形成されてなる被覆層をデバイス表面に有するため、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい。
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1〜7は実施例であり、例8は比較例である。
[共重合組成]
得られた含フッ素重合体の20mgをクロロホルムに溶かし、H−NMRにより共重合組成を求めた。
[Q値]
含フッ素重合体のQ値は、含フッ素重合体の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出す際の重合体の押出し速度であり、島津製作所製フローテスターを用いて測定した。
[融点]
含フッ素重合体の融点は、走査型示差熱量分析法(DSC法)により、重合体を空気雰囲気下に300℃まで10℃/分で加熱した際の吸熱ピークから求めた。
[フッ素原子含有率]
フッ素原子含有率は、H−NMR、元素分析により測定した。
[評価方法]
(耐水溶性)
各例で使用した含フッ素重合体の10mgと、水の1gとをサンプル管に秤取し、室温で1時間撹拌した後に目視にて耐水溶性を確認した。評価は以下の基準で行った。
<評価基準>
○(良好):含フッ素重合体が残存していた。
×(不良):含フッ素重合体が完全に溶解し、残存していなかった。
(タンパク質非接着性)
(1)発色液、タンパク質溶液の準備
発色液は、ペルオキシダーゼ発色液(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)、KPL社製)の50mLとTMB Peroxidase Substrate(KPL社製)の50mLとを混合したものを使用した。
タンパク質溶液として、タンパク質(POD−goat anti mouse IgG、Biorad社)をリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)で16,000倍に希釈したものを使用した。
(2)タンパク質吸着
各ウェル表面に被覆層を形成した24ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、タンパク質溶液の2mLを分注し(1ウェル毎に2mLを使用)、室温で1時間放置した。
ブランクとして、タンパク質溶液を96ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、2μL分注(1ウェル毎に2μLを使用)した。
(3)ウェル洗浄
次いで、24ウェルマイクロプレートを、界面活性剤(Tween20、和光純薬社製)を0.05質量%含ませたリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)の4mLで4回洗浄した(1ウェル毎に4mLを使用)。
(4)発色液分注
次いで、洗浄を終えた24ウェルマイクロプレートに、発色液の2mLを分注し(1ウェル毎に2mLを使用)、7分間発色反応を行った。2N硫酸の1mLを加えることで(1ウェル毎に1mLを使用)発色反応を停止させた。
ブランクは、96ウェルマイクロプレートに、発色液の100μLを分注し(1ウェル毎に100μLを使用)、7分間発色反応を行い、2N硫酸の50μLを加えることで(1ウェル毎に50μLを使用)発色反応を停止させた。
(5)吸光度測定準備
次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルから150μLの液を取り、96ウェルマイクロプレートに移した。
(6)吸光度測定およびタンパク質吸着率Q
吸光度は、MTP−810Lab(コロナ電気社製)により450nmの吸光度を測定した。ここで、ブランクの吸光度(N=3)の平均値をAとした。24ウェルマイクロプレートから96ウェルマイクロプレートに移動させた液の吸光度をAとした。
タンパク質吸着率Qを下式により求め、タンパク質吸着率Qはその平均値とした。
=A/{A×(100/ブランクのたんぱく質溶液の分注量)}×100
=A/{A×(100/2μL)}×100 [%]
(細胞非接着性)
<TIG−3細胞を用いた細胞培養試験>
10%FBS/MEM(MEM Life−Technologies社、Code#11095−098)を用いて、TIG−3細胞(ヒューマンサイエンス財団研究資源バンク、CellNumber;JCRB0506)の1.5×10cells/mLの細胞懸濁液を調製した。
各ウェル表面に被覆層を形成したポリスチレン製またはガラス製マイクロプレートに、前記細胞懸濁液を1mL/ウェルとなるように添加した。4日間培養後、顕微鏡を用いて細胞接着の有無を確認した。また、培地の10分の1量のアラマーブルー液(invitorogen社製、商品名alamarBlue Code DAL1100)を培養液に添加し、4時間培養した。その後、励起波長530nm、検出波長590nmで蛍光測定を行い、接着して残っている細胞の生理活性を定量した。また、非接着細胞をリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)で洗浄除去し、接着して残っている細胞のみをギムザ染色液(関東化学社製Code#17596−23)で染色した。
細胞非接着性の評価は以下の基準で行った。
評価基準:
○(良好):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しておらず、かつギムザ染色でも接着細胞が確認されない。
×(不良):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しているか、または、ギムザ染色で接着細胞が確認される。
<HepG2細胞を用いた細胞培養試験(長期培養)>
10%FBS/DMEM(DMEM Life−Technologies社製、商品名Code#11885−092)を用いて、HepG2細胞(ヒューマンサイエンス財団研究資源バンク、CellNumber;JCRB1054)の5×10cells/mLの細胞懸濁液を調製した。各ウェル表面に被覆層を形成したポリスチレン製またはガラス製マイクロプレートに、前記細胞懸濁液を1mL/ウェルとなるように添加した。14日間培養後、顕微鏡を用いて細胞接着の有無を確認した。また、非接着細胞をリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)で洗浄除去し、接着して残っている細胞のみをギムザ染色液(関東化学社製Code#17596−23)で染色した。
細胞非接着性の評価は以下の基準で行った。
評価基準:
○(良好):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しておらず、かつギムザ染色でも接着細胞が確認されない。
×(不良):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しているか、または、ギムザ染色で接着細胞が確認される。
[例1]
含フッ素重合体(A)としてルミフロン LF710(旭硝子社製)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにエタノールに溶解させ、塗布液を調製した。該塗布液を24ウェルのポリスチレン製マイクロプレートに2.2mL分注し、3日間放置して溶媒を揮発させ、ウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例2]
含フッ素重合体(A)としてCYTOP(登録商標、旭硝子社製)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにCT−solv100E(旭硝子社製)に溶解させ、塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして24ウェルのポリスチレン製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例3]
含フッ素重合体(A)として、特開2004−277689号公報の例1を参照して製造した、酸無水物基を有するETFE(TFE単位/E単位/CH=CH(CFF単位/無水イタコン酸単位=57.4/38.6/3.5/0.5(モル比)、Q値:48mm/秒、融点:230℃)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにジイソプロピルケトンに分散させ、塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして24ウェルのポリスチレン製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例4]
含フッ素重合体(A)としてフレミオン S0.91(登録商標、旭硝子社製)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにエタノールに溶解させ、塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして24ウェルのポリスチレン製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例5]
含フッ素重合体(A)としてAFLAS 100H(登録商標、旭硝子社製)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにAC6000(旭硝子社製)に溶解させ、塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして24ウェルのポリスチレン製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例6]
含フッ素重合体(A)としてPVDFである、Kyner720(登録商標、Arkema社製)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにアセトンに溶解させ、塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして24ウェルのガラス製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例7]
含フッ素重合体(A)としてネオフロンFEP NP−20(登録商標、ダイキン社製)を用い、その濃度が0.05質量%となるようにクロロホルムに溶解させ、塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして24ウェルのガラス製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。被覆層の耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表1に示す。
[例8]
比較対象として、24ウェルのポリスチレン製マイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成しないものについて、タンパク質非接着性を評価した。その結果を表1に示す。
Figure 2016026520
表1に示すように、含フッ素重合体(A)を含む塗布液を用いた例1〜7では、被覆層を形成していない例8に比べてタンパク質が吸着しにくくおよび細胞が表面に接着しにくかった。また、含フッ素重合体(A)が水に溶解しにくく、耐水性に優れていた。

Claims (3)

  1. 物品表面に、タンパク質の吸着を防ぐ被覆層を形成するためのタンパク質付着防止用化合物であって、
    含フッ素重合体からなることを特徴とするタンパク質付着防止用化合物。
  2. 請求項1に記載のタンパク質付着防止用化合物と、溶媒とを含む塗布液。
  3. 請求項1に記載のタンパク質付着防止用化合物から形成されてなる被覆層を表面に有する医療用デバイス。
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