JP2016021289A - 非水電解質二次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】非水電解質を注液した後、最初の充電をするまで長時間放置した場合であっても、電池性能の低下が抑制された非水電解質電池を提供する。【解決手段】正極と、銅を含有する負極集電体を備える負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、前記非水電解質は、一般式R1−S−S−R2で表され、前記R1及びR2はそれぞれ独立して、炭素数18以下のアルキル基であるジスルフィド化合物を含有していることを特徴とする非水電解質二次電池。【選択図】図1

Description

本発明は、非水電解質二次電池に関する。
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池の過充電防止用添加剤として、ジフェニルジスルフィド等の芳香族環を持つジスルフィド化合物を電解液に添加して用いる技術が知られている。
特許文献1には、LiCoOを正極活物質とする正極を備えるリチウム二次電池に、ジフェニルジスルフィドを1〜10重量%含有する非水電解液を適用することで、過充電時の電池の最高到達温度を低くすることができたことが示されている。
特許文献2には、LiCoO又はLiNi0.8Co0.2を正極活物質とする正極を備えるリチウム二次電池に、電解液添加剤として、2〜3重量%のシクロヘキシルベンゼンと、0.2〜0.3重量%のビス(4−メトキシフェニル)ジスルフィド、ビス(4−エトキシフェニル)ジスルフィド又はビス(4−クロロフェニル)ジスルフィドとを併用して用いたリチウム二次電池が記載されている。特許文献2の段落0017には、「前記ジスルフィド誘導体と共に前記シクロヘキシルベンゼンを含有させることにより、過酷な条件下においても、長期間にわたってサイクル特性を向上させることができる。その理由としては、充電時に正極材料表面の電位が過度に上昇した微小な過電圧部分において、電池内の非水溶媒電解液より前に該ジスルフィド誘導体が優先的に酸化分解して、溶媒の酸化分解を未然に防ぐものと推定される。このようにして、電池の正常な反応を損なうことなく電解液およびシクロヘキシルベンゼンの分解を抑制する効果を有するものと考えられる。その結果、過充電防止作用を有する前記シクロヘキシルベンゼンは、通常使用時に酸化分解されることがない。したがって、300サイクル後に過充電試験を行っても、シクロヘキシルベンゼンが分解して安全を十分確保する効果を有するものと考えられる。」と記載されている。
特許文献3には、実施例2として、LiCoOを正極活物質とする正極と、銅箔上に天然黒鉛の層を形成した負極と、ジ−n−ブチルジスルフィドを0.1重量%含有する非水電解液を注液してリチウム二次電池を作製し、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧2.7Vにて充放電を50サイクル行ったことが記載されている。また、「ジスルフィド誘導体の含有量は、過度に多いと電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られない。したがって、その含有量は非水電解液の重量に対して0.001〜2重量%、特に0.01〜0.5重量%の範囲がサイクル特性が向上するので好ましい。」(段落0009)と記載されている。
特許第4974404号公報 特許第4423785号公報 特許第4042082号公報
非水電解質二次電池の製造工程において、非水電解質を注液した後、最初の充電をするまでに長時間放置すると、電池性能が低下するという問題があった。従って、非水電解質を注液した後、最初の充電をするまでの時間が長時間とならないように、工程管理を行う必要があった。
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限しない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施できる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
本発明は、正極と、銅を含有する負極集電体を備える負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、前記非水電解質は、一般式R−S−S−Rで表され、前記R及びRはそれぞれ独立して、炭素数18以下のアルキル基であるジスルフィド化合物を含有していることを特徴とする非水電解質二次電池である。
本発明によれば、非水電解質を注液した後、最初の充電をするまで長時間放置した場合であっても、電池性能の低下が抑制された非水電解質電池を提供できる。
実施例に係る非水電解質のCV測定結果を示す図 比較例に係る非水電解質のCV測定結果を示す図 実施例に係る非水電解質のCV測定結果を示す図 非水電解質二次電池の一実施形態を示す外観斜視図 非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図
上記効果が奏される作用機構について、本発明者は次のように推定している。非水電解質を注液した後、最初の充電をするまで長時間放置した場合に電池性能が低下する原因として、負極に銅(Cu)を含有する集電体が用いられていることが考えられる。非水電解質中で、銅は0V(vs.Li/Li)付近の卑な電位において安定であるが、3V(vs.Li/Li)以上の貴な電位において溶解する性質がある。一方、非水電解質二次電池の負極に用いられる負極活物質の多くは、リチウムイオンを吸蔵していない状態における非水電解質中での自然電位が3V(vs.Li/Li)以上である。そこで、そのような負極活物質が用いられる電池の製造工程において非水電解質を注液すると、その時点で負極電位が自ずと3V(vs.Li/Li)以上となる。さらに、注液した時点では、端子間電圧は0Vではないが、注液後しばらく放置すると、端子間電圧が0Vとなる現象がしばしば観察される。このときの負極電位の挙動については詳らかではないが、負極電位が注液した時点からさらに上昇している可能性も考えられる。よって、注液した状態で長時間放置すると、負極集電体から銅が溶出する可能性が考えられる。非水電解質電池の負極は、負極集電体上に負極活物質を含む負極合剤層が設けられているため、負極集電体から銅が溶出すると、負極集電体と負極合剤層との間に空隙が生じ、接触が悪くなるために、電池性能が低下するものと考えられる。
本発明に係る非水電解質電池は、非水電解質が、一般式R−S−S−Rで表され、前記R及びRはそれぞれ独立して、炭素数18以下のアルキル基であるジスルフィド化合物を含有している。R及びRがフェニル基の場合は、本発明の効果を奏さない。前記炭素数18以下のアルキル基は、分枝状のアルキル基でもよいが、直鎖状のアルキル基が好ましい。
本発明によれば、非水電解質が特定のジスルフィド化合物を含有することにより、前記ジスルフィド化合物が負極集電体の表面を覆い、銅の溶出が抑制されるものと推定される。
前記アルキル基の炭素数は、大きい方が、ジスルフィド化合物が負極集電体を効果的に覆うことができるため、好ましい。この観点から、前記アルキル基の炭素数は、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。但し、前記アルキル基の炭素数が大きすぎると、非水電解質に対する溶解度が低下する。このため、結果的にジスルフィド化合物が負極集電体を十分覆うことができないため好ましくない。この観点から、前記アルキル基の炭素数は、17以下が好ましく、16以下がより好ましい。また、R及びRの炭素数は異なっていてもよいが、R及びRの炭素数が同じである方が、負極集電体表面がより均一で高密度に覆われ、銅の溶出抑制効果が高まるため、好ましい。
非水電解質中に含有するジスルフィド化合物の量は、一定以上であることが好ましいが、多すぎない方が好ましい。この観点から、非水電解質中に含有するジスルフィド化合物の量は、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましい。また、4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
本発明に係る非水電解質二次電池が備える負極集電体は、銅を含有するものであれば、銅の含有比率は限定されない。例えば銅の含有比率が5質量%であってもよい。Ni−Cu合金、Ni−Sn−Cu合金、Cu−Al合金等は、電池性能に悪影響を及ぼさない限り、使用できる。集電体の柔軟性の点、あるいは、コストの点から、銅を70質量%以上含有する銅箔が好ましい。90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、99.9質量%以上が最も好ましい。銅箔は、圧延銅箔であっても、電解銅箔であってもよい。
本発明に係る非水電解質電池が備える正極に用いることのできる正極活物質としては、何ら限定されるものではなく、種々の酸化物、硫化物等が挙げられる。例えば、LiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiCo(1−y)、LiNiMnCo(1−y−z)、LiNiMn(2−y)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質としては、さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等も挙げられる。正極活物質においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明に係る非水電解質二次電池の負極に用いる負極材料としては、限定されず、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態の負極材料であればどれを選択してもよい。例えば、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属;リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金などのリチウム合金;リチウム−チタンなどのリチウム複合酸化物;酸化珪素;リチウムを吸蔵・放出可能な合金;グラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等の炭素材料等が挙げられる。これらは、作動電位が1V(vs.Li/Li)未満であり、好ましい。
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等の天然黒鉛;人造黒鉛;カーボンブラック;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;カーボンウイスカー;炭素繊維;銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等の金属粉;金属繊維;導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVdF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練して合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布または圧着して、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度加熱処理することにより、好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されない。
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂;ポリフッ化ビニリデン;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体;フッ化ビニリデン−エチレン共重合体;フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いたりして架橋反応を行わせることが可能である。
本発明に係る非水電解質二次電池の構成については特に限定されず、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。図4に、本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図4に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
本発明は、上記の非水電解質二次電池を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図5に示す。図5において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。図12は、前記蓄電装置30を搭載した自動車100の概念図である。ここで、自動車100は、蓄電装置30と、蓄電装置30を収容した車体本体40とを備えている。
ところで、非水電解質二次電池は、過放電すると性能低下しやすいという問題がある。例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の自動車用電池として用いられる非水電解質二次電池には、エンジン始動時に瞬間的に大電流が流れる。特に、電池が低SOC状態であり、且つ、過放電保護回路が故障した場合には、エンジン始動時に過放電状態となる可能性がある。非水電解質電池は、通常、正極と負極の容量バランスが負極制限となる設計が採用されている。従って、過放電状態では負極の電位が上昇する。
本発明によれば、負極の電位が上昇した場合に負極集電体からの銅の溶出を抑制できるため、過放電した場合の性能低下が抑制された非水電解質二次電池を提供できる。
この効果は、端子間電圧が0Vになるまで放電したときの正極電位が3.8V(vs.Li/Li)以下である電池において顕著に奏される。その理由は次の通りである。本発明に係るジスルフィド化合物を含有する非水電解質であっても、3.8V(vs.Li/Li)を超える電位では銅の溶出が認められる。しかしながら、端子間電圧が0Vになるまで放電したときの正極電位が3.8V(vs.Li/Li)以下である非水電解質二次電池であれば、過放電時に万一端子間電圧が0Vまで放電され、負極の電位が上昇したとしても、負極電位がそのときの正極電位である3.8V(vs.Li/Li)よりも貴となることがないから、過放電時の負極集電体からの銅の溶出を抑制する効果が確実に奏される。従って、過放電した場合の性能低下が抑制された非水電解質二次電池を確実に提供できる。
端子間電圧が0Vになるまで放電したときの正極電位が3.8V(vs.Li/Li)以下である電池に用いる正極活物質の種類としては、そのように設計される限り、限定されない。リン酸鉄リチウム(LiFePO)は、3.3V(vs.Li/Li)付近に平坦な作動電位を示すことから、好ましい正極活物質として例示される。
(正極板の作製)
組成式LiFePOで表されるリン酸鉄リチウムの粒子表面にカーボンが被覆された材料を正極活物質とした。前記正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を88:5:7の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。前記正極ペーストを正極集電体である厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥した後に、プレス加工を行った。このようにして正極板を作製した。
(負極板の作製)
易黒鉛化炭素及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を95:5の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする負極ペーストを調整した。前記負極ペーストを負極集電体である厚さ15μmの帯状の銅箔の両面に塗布し、乾燥した後に、プレス加工を行った。このようにして負極板を作製した。
(非水電解質電池の組立て)
厚さ25μmのポリプロピレン製微多孔膜からなるセパレータを介して前記正極板及び前記負極板を偏平捲回してなる発電要素を角形電槽に収納し、非水電解質を注液した。設計容量は480mAhである。用いた非水電解質の種類と注液方法は次の通りである。
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)が1:1:1の体積比率で混合され、1質量%のビニレンカーボネート及び1.0mol/lのLiPFを含有している非水電解質を調整した。これを非水電解質Aとする。
(実施例1)
前記非水電解質Aに対して、0.5質量%のジn−ブチルジスルフィド(C−S−S−C)をさらに添加し溶解している非水電解質を調整した。この非水電解質を注液して、非水電解質電池を組立てた。
(実施例2−1)
前記非水電解質Aに対して、0.5質量%のジヘキシルジスルフィド(C13−S−S−C13)をさらに添加し溶解している非水電解質を調整した。この非水電解質を注液して、非水電解質電池を組立てた。
(実施例2−2)
前記非水電解質Aに対して、1質量%のジヘキシルジスルフィド(C13−S−S−C13)をさらに添加し溶解している非水電解質を調整した。この非水電解質を注液して、非水電解質電池を組立てた。
(実施例2−3)
前記非水電解質Aに対して、3質量%のジヘキシルジスルフィド(C13−S−S−C13)をさらに添加したところ、溶け残りが生じた。そこで、前記角形電槽内部に、注液量に対して3質量%のジヘキシルジスルフィドを投入し、次いで、前記非水電解質Aを注液した。このようにして、非水電解質電池を組立てた。
(実施例2−4)
前記角形電槽内部に、注液量に対して4質量%のジヘキシルジスルフィド(C13−S−S−C13)を投入し、次いで、前記非水電解質Aを注液した。このようにして、非水電解質電池を組立てた。
(実施例3)
前記非水電解質1に対して、さらに0.5質量%のジウンデシルジスルフィド(C1123−S−S−C1123)を添加し溶解している非水電解質を調整した。この非水電解質を注液して、非水電解質電池を組立てた。
(実施例4)
前記非水電解質Aに対して、0.3質量%のジヘキサデシルジスルフィド(C1633−S−S−C1633)をさらに添加したところ、溶け残りが生じた。そこで、前記角形電槽内部に、注液量に対して0.3質量%のジヘキサデシルジスルフィドを投入し、次いで、前記非水電解質Aを注液した。このようにして、非水電解質電池を組立てた。
(実施例5)
前記非水電解質Aに対して、0.3質量%のジオクタデシルジスルフィド(C1837−S−S−C1837)をさらに添加したところ、多くが溶け残った。目視により、約0.1質量%が溶解したと推定された。そこで、前記角形電槽内部に、注液量に対して0.3質量%のジオクタデシルジスルフィドを投入し、次いで、前記非水電解質Aを注液した。このようにして、非水電解質電池を組立てた。
(比較例1)
前記非水電解質Aを注液して、非水電解質電池を組立てた。
(比較例2)
前記非水電解質Aに対して、0.5質量%のジフェニルジスルフィドをさらに添加し溶解している非水電解質を調整した。この非水電解質を注液して、非水電解質電池を組立てた。
以上のようにして組み立てた上記比較例及び実施例に係る非水電解質電池について、注液をしてから最初の充電を行うまでに長期間放置された状況をシミュレートするため、加速試験として45℃の恒温槽中に7日間放置した。次に、25℃にて、以下の条件で合計7サイクルの充放電試験を行った。全ての充放電試験は、上限電圧を3.55Vとする定電流充電及び下限電圧を2.0Vとする定電流放電とした。但し、1サイクル目は、充電電流及び放電電流を共に0.1CmAとし、1〜4サイクル目は、充電電流及び放電電流を共に0.2CmAとし、5〜7サイクル目は、充電電流及び放電電流を共に1CmAとした。そして7サイクル目の放電容量を「1C放電容量(mAh)」として記録した。
(参考例)
比較例1と同様にして非水電解質電池を組立て、45℃7日間の放置を行わず、注液後常温で1日放置後に、上記と同じ条件で、充放電試験を行った。
以上の結果を表1に示す。
表1の結果からわかるように、一般式R−S−S−Rで表されるジスルフィド化合物のR及びRとして、直鎖のアルキル基であるC2n+1(nは18以下)を含有する非水電解質を用いた実施例に係る非水電解質電池は、ジスルフィド化合物を含有しない非水電解質を用いた比較例1に係る非水電解質電池に比べて、長期間放置したことによる容量低下が抑制されることがわかった。
また、前記アルキル基の炭素数は、大きいほど、長期間放置したことによる容量低下の抑制効果が優れる傾向が認められた。但し、炭素数が18であるジスルフィド化合物であるジオクタデシルジスルフィドを用いた実施例5に係る非水電解質電池は、炭素数が16であるジスルフィド化合物であるジヘキサデシルジスルフィドを用いた実施例4に係る非水電解質電池よりも、容量低下の抑制効果が小さかった。この原因は、実施例5に係る非水電解質が含有するジスルフィド化合物の量が約0.1質量%と少なかったためと考えられる。
一方、芳香族環を有するジスルフィド化合物を用いた比較例2に係る非水電解質電池は、ジスルフィド化合物を含有しない非水電解質を用いた比較例1に係る非水電解質電池よりも、長期間放置したことによる容量低下の点で逆に悪化した。
本発明者は、上記実施例において、注液後最初の充電をするまでに長期間放置した場合の電池性能低下を抑制できる理由は、貴な電位において負極集電体が含有するCuの溶出が抑制されたためであると推察した。そこで、これを検証するため、金属Cuを作用極とし、金属Liを対極および参照極とするセルを組立て、電解液を注液し、走査範囲を3.6V(vs.Li/Li)〜3.0V(vs.Li/Li)とし、走査速度を10mV/秒とし、走査回数を2サイクルとするサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。電解液として、(a)実施例2−1、(b)実施例3、(c)実施例4、(d)実施例5及び(e)比較例1に準じてそれぞれ調整した非水電解質を用いた。(a)〜(d)のプロファイルはほぼ同一であったので、代表して(c)のプロファイルを図1に、(e)のプロファイルを図2に示すと共に、2サイクル目の3.6V(vs.Li/Li)到達時の電流値を表2に示す。
図1−2及び表2からわかるように、電位3.6V(vs.Li/Li)における酸化電流の値は、ジスルフィド化合物を含有しない非水電解質を用いた(a)では約8mAであるのに対して、ジスルフィド化合物を含有している非水電解質を用いた(b)〜(d)では0.01〜0.05mAであった。従って、一般式R−S−S−Rで表され、前記R及びRが炭素数4〜18のアルキル基であるジスルフィド化合物を含有している非水電解質を用いることで、3.6V(vs.Li/Li)までの電位におけるCuの溶出反応が100分の1以下に抑制されることがわかった。
次に、上記試験の後、(a)、(b)、(c)及び(d)に係るセルについて、走査範囲を4.3V(vs.Li/Li)〜3.0V(vs.Li/Li)に変更して、3サイクル目のCV測定を行った。結果はいずれのセルについても同様であったので、代表して(d)のプロファイルを図3に示す。
図3からわかるように、3.8V(vs.Li/Li)以下の電位では反応電流は観察されなかったが、3.8V(vs.Li/Li)を超え4.3V(vs.Li/Li)までの間に酸化電流が観測され、4.3V(vs.Li/Li)到達時の電流値は約20mAに達した。このことから、3.8V(vs.Li/Li)を超える電位においてはCuの溶出が起こると考えられる。

Claims (2)

  1. 正極と、銅を含有する負極集電体を備える負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、前記非水電解質は、一般式R−S−S−Rで表され、前記R及びRはそれぞれ独立して、炭素数18以下のアルキル基であるジスルフィド化合物を含有していることを特徴とする非水電解質二次電池。
  2. 前記非水電解質は、前記ジスルフィド化合物を4質量%以下含有している請求項1記載の非水電解質二次電池。
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