JP2016008342A - 溶接用高張力鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、従来よりもさらに低温での超大入熱溶接HAZ靭性に優れた溶接用高張力鋼を、Al添加鋼を前提に提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、質量%で、C,Mn,S,Al,Ti,B,Mg,Hf,N,Oを個々に規定範囲含有し、Si,P,Ca,REM,Cu,Ni,Cr,Mo,Nb,Vを規定範囲に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、式1のPcm値が0.16〜0.23%、式2の焼入れ性指数DI値が1.00〜3.00、粒子径0.015〜0.2μmの(Mg、Hf)S粒子を1.0?104〜3.0?105個/mm2含むことを特徴とする。Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5?[B]…式1DI=0.367?([C]1/2)?(1+0.7?[Si])?(1+3.33?[Mn])?(1+0.35?[Cu])?(1+0.36?[Ni])?(1+2.16?[Cr])?(1+3.0?[Mo])?(1+1.75?[V])?(1+1.77?[Al])…式2【選択図】なし

Description

本発明は、エレクトロガス溶接などの超大入熱溶接における溶接熱影響部の低温靭性に優れた溶接用高張力鋼に関する。
高層建築等のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、あるいは、造船・橋梁等で適用されるエレクトロガス溶接などの超大入熱溶接の溶接技術が提供されている。この超大入熱溶接における溶接熱影響部(Heat Affected Zone:以下、HAZと称する)において、低温靭性に優れた溶接用高張力鋼が要求される。特に、本発明は、入熱が200kJ/cm以上で、例えば400〜1000kJ/cm程度の超大入熱溶接であっても優れたHAZの低温靭性を有する技術に関する。
最近の建築構造物の高層化に伴って鋼製柱が大型化し、鋼製柱に使用される鋼材の板厚も増してきた。さらに、このような大型の鋼製柱を溶接で組み立てる際には、高能率で溶接することが求められており、極厚の鋼板を1パスで溶接できるエレクトロスラグ溶接が広く適用されるようになってきている。また、造船分野や橋梁分野においても板厚が50mm程度以上の鋼板を1パスで溶接するエレクトロガス溶接が広く適用されるようになってきている。
これらのエレクトロスラグ溶接、またはエレクトロガス溶接を行う場合、典型的な入熱の範囲は200〜1000kJ/cmであり、いわゆる超大入熱溶接である。このような超大入熱溶接ではサブマージアーク溶接などの大入熱溶接(入熱200kJ/cm未満)とは異なり、溶接融合線(FL:Fusion Line)付近やHAZが受ける熱履歴において1350℃以上の高温滞留時間が極めて長くなる。
そのため、HAZではオーステナイト粒の粗大化が極めて顕著であり、低温靭性を確保することが困難である。したがって、このような超大入熱溶接のHAZの低温靭性向上を達成することは、厳しい低温環境下における建築構造物、船舶、橋梁等の溶接鋼構造物の安全性確保のため、極めて重要な課題になっている。
靱性を向上させるには、結晶粒径の粗大化を防止することが必要であり、本発明者らの一部は、MgO、MgS、Mg(O,S)や、(Mg、Mn)S粒子などの微細粒子を利用してオーステナイト粒成長を抑制し、超大入熱溶接HAZ靭性を向上させる技術を提案している(例えば、特許文献1〜3、参照)。
これらの特許文献1〜3に記載の技術では、−20℃までの評価温度ではHAZ靭性向上が認められている。しかし、−30℃のような厳しい低温環境下でのHAZ靭性確保、特に、−30℃でのシャルピー試験において安定して良好な値を得ることが課題として残っていた。
ところで、Mgの酸化物や硫化物を利用して、HAZ靱性を向上させる方法において、Hfを、CaやREMと同様に、硫化物の形態の制御に利用し、圧延方向に伸長するMnSの生成を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献4、参照)。Hfは、耐ラメラティアー性の改善に利用されており、この技術は、大入熱溶接HAZ靱性の向上には有効であったが、超大入熱溶接HAZ靱性に対する効果は不明であった。
特開平11−286743号公報 特開2002−3986号公報 特開2013−204118号公報 特開2003−49236号公報
本発明は、従来よりもさらに低温での超大入熱溶接HAZ靭性に優れた溶接用高張力鋼を、Al添加鋼を前提に提供することを目的とする。
本発明が対象とする具体的な溶接用高張力鋼の特性は、以下の通りである。
(a)y形溶接割れ試験時の必要予熱温度が25℃以下。
(b)溶接入熱400kJ/cmでの超大入熱溶接継手の溶接熱影響部(HAZ)の溶接融合線(FL)付近の熱履歴をシミュレートした熱サイクルを付与した時の、シャルピー吸収エネルギーが−30℃で100J以上。
なお、上記の溶接用高張力鋼への適用を考えた場合、母材の特性は以下の通りとすることが望ましい。
(c)板厚が、40mm以上100mm以下、望ましくは、60mm以上80mm以下であって、母材の板厚の1/4部(1/4t部)において、引張強さが490MPa以上、特に510MPa以上、720MPa以下、降伏応力が355MPa以上、特に、390MPa以上、−50℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上。
なお、引張強さが高くなるとHAZ靱性確保が困難になるため、降伏応力の上限を650MPa又は600MPa、引張強さの上限を670MPa又は650MPaとしてもよい。
本発明者らは、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)Sの微細粒子によってオーステナイト粒成長を抑制できるAl添加鋼に対して、さらなる低温靭性の向上を図るため、オーステナイト粒成長抑制に有効な粒子の種類、及び個数の調査をはじめ、数多くの検討を行った。その結果、特に、HfをMnSの形態の制御に利用するのではなく、Mg硫化物に含有させ、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Hf)S、すなわちMg・Hf含有硫化物を1平方mmあたり1.0×10〜3.0×10個含み、さらに、(Mg、Hf)S粒子におけるMgとHfとの合計に占めるMgの割合を原子%で80%以上97%以下に制御することが、超大入熱溶接時のHAZにおける−30℃の低温靭性の向上に有効であることを新規に知見した。この新規知見により、超大入熱溶接におけるHAZの低温靭性に優れた溶接用高張力鋼をAl添加鋼を前提に提供できることを知見して本発明を成した。
本発明が対象とする具体的な溶接用高張力鋼の特性は、以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る溶接用高張力鋼は、質量%で、C:0.05%以上、0.10%未満、Mn:1.40%以上、1.80%以下、S:0.0020%以上、0.0080%以下、Al:0.020%以上、0.070%以下、Ti:0.004%以上、0.012%以下、B:0.0005%以上、0.0020%以下、Mg:0.0015%以上、0.0030%以下、Hf:0.0001%以上、0.0020%以下、N:0.0020%以上、0.0050%以下、O:0.0007%以上、0.0020%以下を含有し、Si:0.10%未満、P:0.01%以下、Ca:0.0005%以下、REM:0.0005%、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.6%以下、Mo:0.40%以下、Nb:0.020%以下、V:0.060%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記式1で表される溶接割れ感受性指数であるPcm値が0.16%以上、0.23%以下であり、下記式2で表される焼入れ性指数であるDI値が1.00以上、3.00以下であり、粒子径が0.015μm以上0.2μm以下の(Mg、Hf)Sを1平方mmあたり1.0×10個以上3.0×10個以下含み、前記(Mg、Hf)Sにおいて、MgとHfとの合計に占めるMgの割合が、原子%で80%以上97%以下である。
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]…式1
DI=0.367×([C]1/2)×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3.0×[Mo])×(1+1.75×[V])×(1+1.77×[Al])…式2
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
(2)上記(1)に記載の溶接用高張力鋼では、更に、質量%で、Ni:0.7%以下、Cu:0.5%以下、Cr:0.3%以下、Mo:0.10%以下、に制限してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の溶接用高張力鋼では、板厚が、40mm以上100mm以下、降伏応力が、355MPa以上、引張強さが、490MPa以上720MPa以下、であってもよい。
本発明鋼の溶接用高張力鋼によれば、極めて信頼性の高い、超大入熱溶接が適用される構造物を製造することが可能であり、その工業界への効果は極めて大きい。
また、Al添加鋼を前提とする本発明の高張力鋼は、製鋼工程において、Alによる酸化発熱を利用することで溶鋼温度を容易に制御することができる。また、溶鋼中のAlは大気中の酸素による溶鋼汚染防止の役割も有し、Al窒化物を形成するため、本発明に係る高張力鋼の材質確保にも有効である。
本発明における溶接用高張力鋼による「溶接用鋼材」とは、例えば、JIS G3106「溶接構造用圧延鋼材」、JIS G3115「圧力容器用鋼板」、JIS G3126「低温用圧力容器用炭素鋼鋼板」に相当する。
以下、本発明の一実施形態に係る溶接用高張力鋼について説明する。
本実施形態に係る溶接用高張力鋼は、大量の製造実績があり優れた量産プロセスであるAl脱酸を含む製造方法により製造された鋼材であることを前提とする。
Al脱酸では、Alによる酸化発熱を利用することで溶鋼温度を容易に制御することができ、また、溶鋼中のAlは大気中の酸素による溶鋼汚染防止の役割も有している。一方、Al添加量を0.005%程度以下に制限すると、溶鋼加熱装置による加熱等の、Alの酸化発熱による溶鋼温度制御を代替する手段が必要となる。
本発明者らは、超大入熱溶接HAZ(溶接熱影響部)の組織と靭性との関係に関する詳細な調査・研究を実施した。その結果、従来の大入熱溶接HAZの組織制御または靭性向上法をそのまま適用しても、超大入熱溶接HAZ靭性は限られたものであるとの結論に達した。また、靭性向上には超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒を著しく微細化(細粒化)する必要があることを見出した。
オーステナイト粒の微細化には鋼中粒子によるピン止め効果を利用することが有効である。しかしながら、窒化物の中で最も熱的に安定であるとされるTiNでも1350℃以上に長時間加熱されるとほとんどが溶解し、ピン止め効果を失うために、窒化物の超大入熱溶接への適用には限度がある。従って、高温で安定である粒子の利用が必須となる。
しかしながら、従来技術のREMあるいはCa酸化物(酸・硫化物も含む)では、高温での安定性は比較的高いものの、超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒粗大化抑制に十分な程度にこれら酸化物を鋼中に微細分散させることは極めて困難である。
従来、Al脱酸鋼には0.2〜2%程度のMnおよび0.002〜0.02%程度のSが添加されており、MnSが形成されることは広く知られている。このMnSは高温で溶解してしまうため、オーステナイト粒を微細化する粒子にはなり得なかった。本発明者らは、Al脱酸鋼を前提に各種の粒子について比較検討した結果、Mg・Mn含有硫化物である(Mg、Mn)S粒子が高温において安定で、しかも微細分散に適した粒子であることを知見している。また、Mn、Mg、S、Al含有量などを制御することにより、HAZのオーステナイト粒成長抑制に効果を発揮する、0.2μm以下の微細な(Mg、Mn)Sを鋼中に多量に微細分散させることが可能であることを知見している。
しかしながら、これまで(Mg、Mn)S粒子によるHAZ靭性向上効果が認められる評価温度は−20℃であり、−30℃のような低温になると、HAZのオーステナイト粒の微細化による靭性向上効果は限られたものであった。そこで、−30℃のような厳しい低温環境下で、HAZ靭性を安定して得るという課題に対し、本発明者らはさらなる検討を行った。
その結果、(Mg、Mn)S粒子とは異なる(Mg、Hf)S粒子において、Mg及びHfの合計に占めるMgの割合を制御すること、さらに、C含有量、Si含有量、B含有量、N含有量、O含有量を厳格に規制した上で、DI値で表される焼入れ性を厳格に規制することにより、HAZ低温靭性の更なる向上を図れることを新規に知見した。
以下に詳細を説明する。
本発明者らは、(Mg、Mn)S粒子中のMg及びMnの割合につき、Mgの割合が増える程、粒子は高温で安定となり、強いオーステナイト粒成長抑制効果を持つことを見出した。(Mg、Mn)S粒子はMg主体の硫化物であり、MgとMnの割合が原子%でMgが70%以上、90%以下の粒子であった。(Mg、Mn)S粒子は、高温で不安定なMnS粒子よりも高温で安定なMgSに近い粒子組成であるため、粒子の高温での安定性が高いものであったが、1400℃では一部の不安定な(Mg、Mn)S粒子が固溶することで、部分的に粗大なオーステナイト粒となる場合があった。
高張力鋼において−20℃での靭性であれば、一部に粗大なオーステナイト粒があっても平均のオーステナイト粒径は細粒であるため靭性目標値を満足し得る。しかしながら、−30℃では一部の粗大なオーステナイト粒に起因した粗大なフェライト粒やベイナイト粒等が破壊の発生起点となるため、(Mg、Mn)S粒子では安定した靭性向上が困難であった。そこで、本発明者らは、(Mg、Mn)S粒子の高温安定性を更に高めるために、数多くの検討を行った。
その結果、Mg系硫化物の高温安定性を更に高め、かつ、粒子の体積分率の減少によるピン止め効果の低下を抑制するためには、Mn以外の元素、すなわち、Hfの添加が有効であることがわかった。さらに、粒子中のMgとHfの合計に占める割合が、原子%で、80%≦Mg≦97%、3%≦Hf≦20%の(Mg、Hf)S粒子であれば、高温で極めて安定であり、しかも容易に微細分散し、かつ、粒子の体積分率が十分に得られることを見出した。
粒子中のHfの割合の上限を20%に制限する理由は、Hfは高価な元素であり経済性のため添加量が微量に限られることによるものであり、20%を超えても熱的安定性が低下することはない。ただし、このような(Mg、Hf)S粒子が高温で安定であり、かつ、微細分散しやすい理由は現在のところ不明である。
Mg・Hfを含有する(Mg、Hf)S粒子によりオーステナイト粒成長を抑制した時のHAZでは細粒のフェライトとパーライトが主体のミクロ組織となる。このようなミクロ組織では、島状マルテンサイト(硬質の脆化組織であるマルテンサイトとオーステナイトの混合相:MA)は微細に分散しており靭性への有害度は低く、−20℃では問題にならなかった。しかしながら、靭性の評価温度が−30℃のような低温になると、微細な脆化相が靭性に悪影響を及ぼすようになり、靭性の安定化を阻害する場合があることがわかった。
また、(Mg、Hf)S粒子によってオーステナイト粒成長を抑制した場合、オーステナイト粒界面積が大きいためフェライト変態が過剰に進行しやすい。そのため、フェライト変態の進行を遅らせることによりフェライトのサイズ及び分率を最適化することが重要となる。さらに、靭性の評価温度が−30℃の低温域では、少量の島状マルテンサイトに加えて、酸化物や窒化物の靭性に対する悪影響も大きくなることがわかった。
これに対し、本発明者らは、島状マルテンサイトを減らすにはC含有量、Si含有量の厳格な制御に加え、DI値で表される指標を(Mg、Hf)S粒子による細粒なオーステナイト粒径に合った最適値に制御することが有効であることを知見した。また、フェライト変態の進行を遅らせる手段として、DI値による規制やBの添加が有効であることを知見した。
このように、C量、Si量やDI値の規制、Bの添加などによって、HAZの金属組織は、島状マルテンサイトの生成が抑制された、細粒のフェライトと細粒のパーライトと細粒のベイナイトとを含む組織となり、低温でのHAZ靭性を安定して向上させることができる。特に、−20℃の低温域では勿論、−30℃の低温域であってもHAZ靭性を安定して向上させることができる。
さらに、ミクロンサイズの酸化物及び窒化物の量を少なくすることが、靭性向上効果をより安定して得るために有効であることを知見した。また、このミクロンサイズの酸化物と窒化物の量を制御するには、O含有量、Ti含有量及びN含有量の全ての上限値を厳格に規制することが有効であることを知見した。
オーステナイト粒の粗大化抑制や粒内変態フェライトの生成核としてTiNのような窒化物や酸化物を利用する従来技術ではO含有量、Ti含有量、N含有量の全ての上限値を厳格に規制することは難しい。本実施形態に係る溶接用高張力鋼では硫化物である(Mg、Hf)S粒子をオーステナイト粒の粗大化抑制に利用するので、O含有量、Ti含有量、N含有量の全ての上限値を厳格に規制することが可能となる。
また、本実施形態において、(Mg、Hf)S粒子の粒子径及び個数密度(単位面積あたりの個数)は重要である。
本実施形態では、(Mg、Hf)S粒子の粒子径を0.015μm以上、0.2μm以下とする。(Mg、Hf)S粒子の粒子径が0.015μm未満ではオーステナイト粒成長抑制効果が小さくなる。より好ましい粒子径の下限は0.020μmである。一方、0.2μm超の粒子が増加すると鋼中のMg量が限られているため結果的に微細な粒子の個数が大幅に減少することになり、オーステナイト粒成長抑制効果が小さくなる。より好ましい粒子径の上限は0.15μm、さらにより好ましくは0.12μmである。
また、本実施形態において、0.015μm以上、0.2μm以下のサイズの(Mg、Hf)S粒子の個数が1平方mmあたり1.0×10個以上の場合にオーステナイト粒成長抑制効果が顕著となる。より好ましい粒子個数の下限は、1平方mmあたり3.0×10個以上であり、さらに好ましい下限値は、1平方mmあたり4.0×10個以上である。一方、(Mg、Hf)S粒子の個数を3.0×10個以上に増やすには過剰なMg添加が必要となり経済性を損なうので(Mg、Hf)S粒子の個数の上限を1平方mmあたり3.0×10個に制限した。より好ましい上限値は1平方mmあたり2.0×10個である。
粒子個数の測定方法は、鋼板(溶接用鋼材)から抽出レプリカを作成し、特性X線検出器(EDX)付きの透過型電子顕微鏡(TEM)で、0.015〜0.2μmの大きさの粒子個数を、少なくとも1000μm以上の面積につき測定し、単位面積当たりの個数に換算する。例えば、2万倍の倍率にて1視野を100mm×80mmとして観察した場合、1視野あたりの観察面積は20μmであるから少なくとも50視野につき観察を行う。この時の0.015〜0.2μmの粒子の個数が50視野(1000μm)で100個であれば、粒子個数は1平方mmあたり1×10個と換算できる。
次に、個数を測定した粒子のうち、(Mg、Hf)S粒子がどれだけ存在したかを測定する。粒子個数は多い場合には1000個以上となるため全粒子を逐一同定することは大変な作業となる。このため、少なくとも20個以上の粒子について下記の条件にて(Mg、Hf)Sであるかどうかを同定しその存在割合を求め、先に求めた粒子個数に(Mg、Hf)Sの存在割合をかけることで(Mg、Hf)S粒子の個数を求めればよい。例えば、上述した粒子個数、1平方mmあたり1×10個に対し、(Mg、Hf)Sの存在割合が90%であった場合には(Mg、Hf)S粒子の個数は1平方mmあたり9×10個であるとする。
次に、(Mg、Hf)S粒子の同定方法について述べる。本実施形態では(Mg、Hf)S粒子中のMgとHfとの合計に対するMgとHfのそれぞれの割合を、原子%で、80%≦Mg≦97%及び3%≦Hf≦20%とする。Mg、Hfを主体とする硫化物であればオーステナイト粒微細化効果を発揮するため、Mg、Hf以外の元素が検出されても構わない。
また、粒子中から微量のOが検出される場合があるが、S及びOの割合が原子%で、95%≦Sであり、含まれているOが5%未満と微量であれば(Mg、Hf)S粒子であるとみなす。ただし、S及びOの割合が原子%にて95%≦Sであり、含まれているOが5%未満であっても、粒子が明らかにHfSとMgOの複合体やMgSとHfOの複合体であると同定できる場合には、(Mg、Hf)S粒子とはみなさない。
MgとHfの割合およびSとOの割合は、EDX(エネルギー分散型X線分析)にて定量して求める。この定量時に使用する電子ビーム径は0.001〜0.02μm、TEM(透過型電子顕微鏡)観察倍率は5万〜100万倍とし、微細な(Mg、Hf)S粒子内の任意の位置を定量する。(Mg、Hf)S粒子にMnが含まれる場合は、粒子の高温での安定性に影響があるため、1400℃で120秒保持後、急冷したサンプル、すなわち、1400℃にて十分に安定な状態にある粒子だけを残して、不安定な粒子は固溶させたサンプルを用いて抽出レプリカを作成し、粒子中のMnの割合、すなわちMn/(Mg+Hf+Mn)の原子%での割合を測定する。
この測定方法にて、粒子中のMn/(Mg+Hf+Mn)の原子%での割合が10%未満であり、かつ、MgとHfの割合が、原子%で、80%≦Mg≦97%及び3%≦Hf≦20%であれば、粒子の高温安定性は十分であり、本発明の(Mg、Hf)S粒子と見做すことができる。
鋼板から抽出レプリカを作成した場合に、0.015〜0.2μmのサイズの(Mg、Hf)S粒子以外の析出物、例えばセメンタイトや合金炭窒化物などが多数生成して(Mg、Hf)S粒子の個数を測定しにくい場合には、1400℃にて60秒程度保持して(Mg、Hf)S以外の粒子を固溶させ、その後急冷、もしくは急冷途中でフェライトが生成する熱サイクルを付与してセメンタイトや合金炭窒化物が少ないサンプルを作成し、これから抽出レプリカを作成しても良い。
(Mg、Hf)S粒子は、高温で安定であるため、上記の熱サイクルを付与しても結果は変わらない。
上記のようなサイズおよび個数の粒子を鋼中に分散させるために、本実施形態では、溶接用高張力鋼の化学成分として、Mg、Hf、S、およびAlの含有量を下記のとおり限定した。
Mg:0.0015%以上、0.0030%以下
Mgは(Mg、Hf)S粒子の生成に必須の元素である。Mg含有量が0.0015%未満では必要な個数の(Mg、Hf)S粒子を得ることはできない。また、(Mg、Hf)S粒子中のMgの割合が低くなる。より多量の微細な(Mg、Hf)S粒子を生成させるためには0.0018%以上又は0.0020%以上のMg添加がより好ましい。Mg含有量において、0.0030%超の含有ではMgが酸化物を生成しやすくなり(Mg、Hf)S量が飽和し、HAZ靭性向上効果も飽和する上、経済性を損なうのでその上限値を0.0030%とした。経済性のため、Mg含有量の上限を0.0027%又は0.0025%としてもよい。
Hf:0.0001%以上、0.002%以下
Hfは(Mg、Hf)S粒子の生成に必須の元素である。Hf含有量が0.0001%未満では必要な個数の(Mg、Hf)S粒子を得ることはできない。より多量の微細な(Mg、Hf)S粒子を生成させるためにはHfを0.0003%以上又は0.0005%以上添加することがより好ましい。Hfを0.002%超の含有では経済性を損なうので、Hf含有量の上限値を0.002%とした。経済性のため、Hf含有量の上限を0.0015%又は0.001%としてもよい。
Mn:1.40%以上、1.80%以下
Mnは強度とHAZ靭性を確保するために1.40%以上添加する必要がある。HAZ靱性を改善するために、Mn含有量の下限を1.45%又は1.50%としてもよい。一方、Mnが1.80%を超えるとHAZ靭性を低下させるため1.80%を上限とした。HAZ靱性の向上のため、Mn含有量の上限を1.75%又は1.70%としてもよい。
S:0.0020%以上、0.0080%以下
Sは(Mg、Hf)S粒子を生成させるために必須の元素である。S含有量が0.0020%未満では(Mg、Hf)S粒子の量が不十分であるので、S含有量の下限を0.0020%とした。より多量の微細な(Mg、Hf)S粒子を生成させるためにはSを0.0025%以上又は0.0030%以上添加することがより好ましい。一方、Sを0.0080%超含有すると、(Mg、Hf)S粒子中のMgの割合が低くなり、Mnの割合が高くなる。このため、粒子の高温での安定性が不十分となるため、1400℃に加熱されると0.2μm以下の微細な(Mg、Hf)S粒子の個数が減少し、超大入熱溶接HAZのγ粒(オーステイナイト粒)微細化効果が小さくなる。更に、粗大な(Mg、Hf、Mn)S粒子が生成し、脆性破壊の発生起点として作用する。そのため低温HAZ靭性が低下する。従って、その上限値を0.0080%とした。より好ましいS量の上限値は0.0070%である。HAZ靱性向上のため、その上限を0.0065%、0.0060%又は0.0055%としてもよい。
Al:0.020%以上、0.070%以下
AlはMgが粗大な酸化物を生成することを抑制し、Mgが微細な(Mg、Hf)S粒子を生成するために必須の元素である。そのため、0.020%以上の含有量が必要である。より多量の微細な(Mg、Hf)S粒子を生成させるためには、0.025%以上又は0.030%以上のAl添加がより好ましい。一方、0.070%を超えてAlを含有すると、HAZに硬質の脆化組織である島状マルテンサイトが生成しやすくなり、固溶AlによるHAZ脆化が起るためHAZ靭性が低下する。従って、Al含有量の上限を0.070%とした。より好ましいAl量の上限値は0.060%である。HAZ靱性改善のため、Al含有量の上限を0.055%又は0.050%としてもよい。
Ca:0.0005%以下、及びREM:0.0005%以下
本実施形態では微細な(Mg、Hf)S粒子を生成させることが必要である。このためにMg、Hf以外の硫化物形成元素の含有量は極力低減することが望ましい。Mg、Hf以外の硫化物形成元素が過剰であると、十分な数の(Mg、Hf)S粒子が得られなくなる。代表的な元素はCaおよびREM(希土類金属元素)であり、これらは0.0005%以下とする必要がある。このためCaおよびREMの上限値を0.0005%に制限した。より望ましい上限値は0.0003%である。CaおよびREMの下限を特に制限する必要はなく、これらの下限は0%である。
HAZ靭性はオーステナイト粒微細化と粒内組織微細化や、粗大なセメンタイトや島状マルテンサイトの低減および粗大な酸化物や窒化物の低減だけではなく、合金元素の含有量により大きく変化する。また、構造物として必要な母材の強度や靭性の確保のためにも適正な合金元素を含有させることが望ましい。そのため、上記以外の合金元素(化学成分)についても、以下の理由により含有量(添加量)を限定した。
C:0.05%以上、0.10%未満
Cは母材の強度を上昇させる元素である。C含有量が0.05%未満では母材強度の向上効果が小さいので0.05%を下限とした。より好ましいC含有量の下限値は0.06%である。一方、C含有量が0.10%以上になると、脆性破壊の起点となるセメンタイトや島状マルテンサイトが増加し、HAZ靭性が低下するため、C含有量の上限を0.10%未満とする。特に、−30℃での低温靭性に対しては、比較的少量の小さなセメンタイトや島状マルテンサイトでも脆性破壊の起点となりやすくHAZ靭性を低下させる場合があるため、C含有量の上限については厳格な規制が必要である。より好ましいC含有量の上限値は0.09%又は0.08%であり、さらに好ましいC含有量の上限値は0.07%である。
Si:0.10%未満
Siを添加するとHAZのミクロ組織中に硬質な脆化組織である島状マルテンサイト相が生成しやすくなる。この島状マルテンサイトは、HAZの低温靭性を劣化させるためSi含有量は0.10%未満とする。Si含有量は少ないほうが望ましいが、0.03%未満へのSi含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があり、その場合にはSi含有量0.03%を下限とすることが望ましい。Si量の下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Ti:0.004%以上、0.012%以下
Tiは主にBによる焼入れ性向上効果を高めるので、母材の強度上昇およびHAZ組織の微細化に有効である。HAZ組織の微細化には固溶B量の確保が重要であり、固溶Bは超大入熱HAZのフェライト変態を遅らせることでHAZ組織を微細化する。Tiは固溶NをTiNとして固定し、BNの生成を抑制するので固溶B量を確保することができる。また、TiNによるオーステナイト粒の粒成長抑制効果による母材の組織微細化(細粒化)と1350℃以下に加熱されるHAZ組織の微細化に有効である。しかしながら、Ti含有量が0.004%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.004%とした。これらのTi添加効果を確実に発揮させるため、Ti含有量の下限を0.005%又は0.006%としてもよい。一方、Tiを0.012%超含有すると、粗大なTiNを生成しこれが破壊の発生起点となるため、HAZ靭性が低下する。従って、Ti含有量の上限値を0.012%とした。より好ましいTi含有量の上限値は0.010%又は0.009%であり、さらに好ましいTi含有量の上限値は0.008%である。
B:0.0005%以上、0.0020%以下
Bは制御冷却を施す場合に顕著な強度上昇の効果を発揮し、母材強度上昇に有効な元素である。また、超大入熱HAZにおいて固溶Bがフェライト変態を遅らせるため、ミクロ組織の微細化に有効である。しかしながら、0.0005%未満のB含有量では強度上昇効果が得られないので下限値を0.0005%とした。これらのB添加効果を確実に発揮させるため、B含有量の下限を0.0007%又は0.0008%としてもよい。一方、Bを0.0020%超含有すると粗大なB窒化物や炭硼化物を析出してこれが破壊の起点となるために、HAZ靭性が低下する。従って、B含有量の上限値を0.0020%とした。より好ましいB含有量の上限値は0.0017%であり、さらに好ましいB含有量の上限値は0.0015%又は0.0013%である。
N:0.0020%以上、0.0050%以下
Nは含有量が多いと粗大なTiNや(Ti、Nb)(C、N)を生成しやすくなる。これらの粒子は、脆性破壊の発生起点となる。超大入熱HAZの−30℃での評価では数μmのTiNや(Ti、Nb)(C、N)でも脆性破壊の発生起点になりHAZ靭性の低下を招くため、厳格に制御する。また、固溶N量が多いとBNを生成し固溶B量が低減するので好ましくない。固溶B量が低減すると、固溶Bがフェライト変態を遅らせHAZ組織を微細化させる効果や母材強度を向上させる効果が低減する。特に、本実施形態に係る溶接用高張力鋼では、粗大なTiNを生成させないようにTi含有量を0.012%以下に限定しているため、TiNとしてTiに固定されていない固溶N量が増えやすい。そのため、最初からN含有量を厳格に制限しておく必要がある。このためN含有量の上限値を0.0050%とした。より好ましいN含有量の上限値は0.0045%又は0.0040%であり、さらにより好ましくは0.0030%である。N含有量は少ないほうが望ましいが、0.0020%未満へのN含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0020%を下限とした。コスト上昇を避けるため、N含有量を0.0023%又は0.0026%をその下限としてもよい。
O:0.0007%以上、0.0020%以下
O含有量が多いと粗大な酸化物が多数生成しやすい。粗大な酸化物は破壊の発生起点となり、HAZ靭性を低下させる。また、Mgの添加に先立つAl含有量が0.020%以上の場合でも、設備上あるいは操業上の不具合などの特殊な要因による溶鋼の大気汚染などにより、O含有量が0.0020%を超える場合には、粗大な酸化物に消費されるMg量が増加する。その結果、微細な(Mg、Hf)S粒子中のMg割合が低下し、(Mg、Hf)S粒子の個数が減少し、HAZ靭性が低下する場合がある。このためO含有量の上限を0.0020%とした。より好ましいO含有量の上限値は0.0018%又は0.0016%である。O含有量は少ないほうが望ましいが、0.0007%未満へのO含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0007%を下限とした。コスト上昇をさけるため、O含有量の下限を0.0009%又は0.0011%としてもよい。
P:0.010%以下
Pは粒界脆化をもたらし、靭性に有害な元素である。そのため、P含有量は少ないほうが望ましい。Pを0.010%超含有すると(Mg、Hf)S粒子によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ低温靭性が低下するので0.010%以下に制限する。P含有量において好ましくは、0.009%以下、さらに好ましくは、0.008%以下である。P量の下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
本実施形態の溶接用高張力鋼に、さらに、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Vの1種または2種以上を含有してもよい。
Cu:1.0%以下
Cuは母材強度上昇に有効な元素であり、Cuを含有してもよいが、1.0%超含有するとHAZ靭性が低下する。従って、Cu含有量を1.0%以下に制限した。Cu含有量において、好ましくは、0.8%以下、さらに好ましくは、0.7%以下、なお一層好ましくは、0.5%以下である。Cuは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Ni:1.5%以下
Niは焼入れ性を上昇させることにより母材強度上昇に効果を有し、さらに、靭性を向上させる。このため、Niを含有してもよい。しかしながら、Niは高価な元素であり、1.5%超含有すると経済性を損なうためNi含有量を1.5%以下に制限した。Ni含有量において好ましくは、1.2%以下、さらに好ましくは、1.0%以下、なお一層好ましくは、0.7%以下である。Niは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Cr:0.6%以下
Crは母材強度上昇に効果を有するため、Crを含有してもよい。しかしながら、0.6%超含有するとHAZに島状マルテンサイトが生成し、HAZ靭性が低下する。従って、Crを添加する場合は0.6%以下に制限する。Cr含有量について、好ましくは、0.4%以下、さらに好ましくは、0.3%以下である。Crは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Mo:0.40%以下
Moは母材強度上昇に効果を有するため、Moを含有してもよい。しかしながら、Moを0.40%超含有するとHAZに硬化組織を生成し、HAZ靭性が低下する。従って、Moを含有する場合、0.40%以下に制限した。Mo含有量について好ましくは、0.25%以下、さらに好ましくは、0.10%以下である。Moは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Nb:0.020%以下
Nbは母材の強度上昇および組織微細化に有効な元素であるため、Nbを含有してもよい。しかしながら、Nbを0.020%超含有するとHAZにおけるNb炭窒化物の析出が顕著となり、HAZ靭性が低下する。従って、Nb含有量を0.020%以下に制限した。Nb含有量において好ましくは、0.018%以下、さらに好ましくは、0.016%以下である。Nbは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
V:0.060%以下
Vは母材の強度上昇および組織微細化に有効な元素であるため、Vを含有してもよい。しかしながら、Vを0.060%超含有するとHAZにおける炭窒化物の析出が顕著となり、HAZ靭性が低下する。従って、V含有量を0.060%以下に制限した。好ましくは、V含有量0.050%以下である。Vは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
また、本実施形態に係る溶接用高張力鋼では、y形溶接割れ試験(JIS Z 3158)時の必要予熱温度を25℃以下とするために、下記式1で表されるPcm値を、0.23%以下とする。Pcm値についてより好ましくは0.22%以下又は0.21%以下である。一方、Pcm値が0.16%を下回ると十分な母材強度、あるいは十分な継手強度が得られない場合があるのでPcm値の下限値を0.16%とした。より好ましいPcm値の下限値は0.17%である。
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]…式1
上述の式1において、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの質量%で表した含有量を意味する。
さらに、本実施形態に係る溶接用高張力鋼では、超大入熱溶接後のHAZの焼入れ性を高めてフェライト変態温度を低下させることで、フェライトを微細化させるため、以下の式2で表される焼入れ性指数DI値を1.00以上とした。
超大入熱HAZにおけるフェライトを微細化させることで、HAZ靭性が向上する。すなわち、DI値が1.00未満では、オーステナイト粒径が細粒であっても、オーステナイトから変態したフェライトの微細化が十分でなく靭性が低下する。DI値についてより好ましくは1.10である。一方、DI値が3.00を超えるとHAZが硬化しHAZ靭性が低下するため上限値を3.00とした。より好ましいDI値の上限値は2.70であり、さらに好ましくは2.50である。
DI=0.367×([C]1/2)×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3.0×[Mo])×(1+1.75×[V])×(1+1.77×[Al])…式2
上述の式2において、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Alの質量%で表した含有量を意味する。
本実施形態に係る溶接用高張力鋼は、上記成分を含有または制限し、残部が鉄および不可避的不純物を含む。しかしながら、本実施形態に係る溶接用高張力鋼には、上記成分の他に、鋼材自体の強度、靭性等を一段と改善する目的で、あるいはスクラップ等の副原料からの不可避的不純物として、以下の合金元素を含有してもよい。
SbはHAZ靭性を損なうため、Sb含有量[Sb]は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
SnはHAZ靭性を損なうため、Sn含有量[Sn]は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
AsはHAZ靭性を損なうため、As含有量[As]は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
また、上記成分の上記効果を十分に発揮させるために、Co、Zn及びWを、それぞれ0.01%以下又は0.005%以下に制限することが好ましい。
Sb、Sn、As、Co、Zn及びWの下限を制限する必要はなく、各元素の下限は0%である。また、下限の規定がない合金元素(例えば、Si、Ca、REM、P、Ni、Cr、Mo、Nb、V及びSb)が意図的に添加されたとしても、または不可避的不純物としての混入であっても、その含有量が請求範囲内にあれば、その高張力鋼(鋼材)は本発明の請求範囲内と解釈する。
本実施形態に係る溶接用高張力鋼におけるHAZ靭性向上効果は超大入熱溶接ばかりでなく、大入熱溶接(例えば、100〜200未満kJ/cm程度)でも有効である。
次に、本実施形態に係る溶接用高張力鋼の製造方法について説明する。
鋼の溶製方法は、例えば溶鋼温度を1650℃以下として、溶鋼O濃度を0.01%以下、溶鋼S濃度を0.02%以下とした状態で、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加する。その際、Ca、REMの混入が0.0005%未満に抑制できていることを確認してからMgを添加し、必要に応じてその他の元素の含有量の調整を行った後、連続鋳造により鋳造することにより、鋼中にMgとHfとの合計に占めるMgの割合が、原子%で80%以上、97%以下である(Mg、Hf)Sの微細粒子を含有した鋳片を得ることができる。
本実施形態に係る溶接用高張力鋼を鋳造した後の加熱、圧延、熱処理条件は、母鋼材の目標とする機械的性質に応じて、例えば、制御圧延・制御冷却、圧延後直接焼入れ・焼き戻し、圧延後一旦冷却後焼入れ・焼戻し、など適宜選定すればよい。
以上説明の如く得られた本実施形態に係る溶接用高張力鋼であるならば、高層建築等のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、あるいは、造船・橋梁等で適用されるエレクトロガス溶接などの超大入熱溶接の溶接に用いたとしても、溶接熱影響部(HAZ)の低温靭性に優れた性能を提供できる。
特に、上述の溶接用高張力鋼は、入熱が200kJ/cm以上で、例えば400〜1000kJ/cm程度の超大入熱溶接であっても優れたHAZの低温靭性を有する。また、前記溶接用高張力鋼は、−20℃における低温靭性に優れた上に、−30℃における低温靭性にも優れた高張力鋼を提供できる。
より具体的には、一例として、板厚40mm以上で100mm以下の高張力鋼であって、降伏応力435〜637MPa、引張強さ515〜718MPa以下の低温靭性に優れた高張力鋼を提供できる。
以下に本発明の実施例を示すが、以下に示す実施例は本発明の一例であり、本発明は以下に説明する実施例に制限されるものではない。
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが320mmのスラブを製造した。表1、表2に鋼種A1〜A53の化学成分を示す。
Figure 2016008342
Figure 2016008342
表1の鋼種A1〜A24は、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%以下に抑制できていることを確認してからMgを添加した。表2の鋼種A25〜A33、A35〜A44、A47〜A53は、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%以下に抑制できていることを確認してからMgを添加した。表2の鋼種A34はMgの添加に先立ちAlを添加したが、その際のAl含有量が0.020%未満であった。鋼種A45はMgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加したが、Caが過剰に混入した状態でMgを添加した。鋼種A46はMgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加したが、REMが過剰に混入した状態でMgを添加した。
表3、表4に鋼種A1〜A53の化学成分を有するスラブを用いて製造した鋼材(鋼材No.1〜53)の製造方法、板厚、母材特性及び溶接再現熱サイクルによる継手靭性評価結果を示す。
Figure 2016008342
Figure 2016008342
表3、表4に示すとおり、制御圧延・制御冷却法、焼入れ・焼戻し法、直接焼入れ・焼戻し法より鋼板を製造し、板厚は40〜100mmとした。
母材強度(降伏応力及び引張強さ)は、JIS Z 2241に規定の4号丸棒引張試験片を板厚の1/4部(1/4t部)から圧延方向に平行な方向(L方向)にて採取し、JIS Z 2241に規定の方法で評価した。
母材靭性は、1/4t部から圧延方向に直角な方向(C方向)にJIS Z 2242に規定の衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242に規定の方法で−50℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE−50)を求めて評価した。
溶接性はJIS Z 3158に規定の方法で、入熱1.7kJ/mmで被覆アーク溶接を行い、ルート割れ防止に必要な予熱温度を求めて評価した。継手靭性の評価は入熱500kJ/cmでの超大入熱溶接を再現した熱サイクルを付与した試験片からシャルピー衝撃試験片を採取することで評価した。熱サイクルはピーク温度1400℃で50秒保持し、その後1℃/秒の冷却速度で100℃以下まで冷却した。
衝撃試験は−30℃で行い(vE−30)、9本繰り返しの平均値と最低値で靭性を評価した。また、ピーク温度1400℃で110秒保持後、100℃以下まで急冷する熱サイクルを付与したサンプルにつき、オーステナイト粒径を測定し、さらに、0.015〜0.2μmの粒子径の(Mg、Hf)S粒子の粒子個数を上述の方法に従って測定した。この時、個数を測定した粒子はMgとHfとの合計に占めるMgの割合が、原子%で80%以上97%以下である。
表3、表4には参考として、0.015〜0.2μmの粒子径のMgとHfを含有する硫化物粒子中の、Mgの割合(原子%)を各粒子につき平均した値を記す。
各特性の目標値はそれぞれ母材降伏応力が355MPa以上、母材引張強さが490MPa以上、720MPa以下、母材のvE−50が100J以上、必要予熱温度が25℃以下、超大入熱溶接を再現した熱サイクルを付与したvE−30が平均値で150J以上、最低値で100J以上とした。
表3、表4から明らかな通り、鋼材No.1〜24は必要予熱温度、超大入熱溶接を再現した熱サイクルでのHAZ靭性の目標値をいずれも満足し、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Hf)S粒子を1平方mmあたり1.0×10個以上、2.95×10以下含み、オーステナイト粒径が130μm以下と細粒である。なお、引張強さも490MPa以上、具体的には515〜718MPaと高かった。
これに対して、鋼材No.25はC含有量が不足しているため、母材強度が不足している。
鋼材No.36はTi含有量が不足しているため、Bの焼入れ性向上効果が不足し、母材強度が不足すると共に、組織微細化効果が得られずHAZ靭性の最低値の目標値を満足できない。
鋼材No.38、49はそれぞれB含有量とDI値、およびPcm値とDI値が不足しており、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できず、母材強度も満足できない。
鋼材No.26、28、30、31、35、39、47、51はそれぞれC含有量、Si含有量、Mn含有量、P含有量、Al含有量、B含有量、N含有量、DI値が上限値を超えており、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
鋼材No.27、37はそれぞれSi含有量、Ti含有量が上限値を超えており、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性の最低値が目標値を満足できない。
鋼材No.29はMn含有量とDI値が不足しており、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
鋼材No.32、34はS含有量、Al含有量が不足しており、(Mg、Hf)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
鋼材No.33、45、46、48はS含有量、Ca含有量、REM含有量、O含有量が過剰であり、(Mg、Hf)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
鋼材No.40、41はMg含有量が不足しており、(Mg、Hf)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。鋼材No.42、43、44はHf含有量が不足しており、(Mg、Hf)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
鋼材No.50はPcm値が上限値を超えており、必要予熱温度の目標値25℃以下を満足できない。鋼材No.52は、Cu含有量、鋼材No.53は、Cr含有量、Nb含有量、V含有量が上限を超えているため、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
本発明の溶接用高張力鋼によれば、超大入熱溶接が適用される構造物に適用することにより、極めて信頼性の高い溶接構造物を製造することが可能であり、その工業界への効果は極めて大きい。
本発明における溶接用高張力鋼による「溶接用鋼材」とは、例えば、JIS G3106「溶接構造用圧延鋼材」、JIS G3115「圧力容器用鋼板」、JIS G3126「低温用圧力容器用炭素鋼鋼板」に相当する。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.05%以上、0.10%未満、
    Mn:1.40%以上、1.80%以下、
    S:0.0020%以上、0.0080%以下、
    Al:0.020%以上、0.070%以下、
    Ti:0.004%以上、0.012%以下、
    B:0.0005%以上、0.0020%以下、
    Mg:0.0015%以上、0.0030%以下、
    Hf:0.0001%以上、0.0020%以下、
    N:0.0020%以上、0.0050%以下、
    O:0.0007%以上、0.0020%以下
    を含有し、
    Si:0.10%未満、
    P:0.01%以下、
    Ca:0.0005%以下、
    REM:0.0005%以下
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.5%以下、
    Cr:0.6%以下、
    Mo:0.40%以下、
    Nb:0.020%以下、
    V:0.060%以下
    に制限し、
    残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    下記式1で表される溶接割れ感受性指数であるPcm値が0.16%以上、0.23%以下であり、
    下記式2で表される焼入れ性指数であるDI値が1.00以上、3.00以下であり、
    粒子径が0.015μm以上0.2μm以下で、MgとHfとの合計に占めるMgの割合が、原子%で80%以上97%以下である(Mg、Hf)Sを1平方mmあたり1.0×10個以上3.0×10個以下含む
    ことを特徴とする溶接用高張力鋼。
    Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]…式1
    DI=0.367×([C]1/2)×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3.0×[Mo])×(1+1.75×[V])×(1+1.77×[Al])…式2
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
  2. 更に、質量%で、
    Ni:0.7%以下、
    Cu:0.5%以下、
    Cr:0.3%以下、
    Mo:0.10%以下
    に制限することを特徴とする請求項1に記載の溶接用高張力鋼。
  3. 板厚が、40mm以上100mm以下、
    降伏応力が、355MPa以上、
    引張強さが、490MPa以上720MPa以下、
    であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接用高張力鋼。
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