JP2016000013A - 大腸菌の検出方法、及び大腸菌検出用担体 - Google Patents
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Abstract
Description
しかしながら、上述した従来の技術では、病原性を持たないものを含む大腸菌を、病原性大腸菌と同時に検出することはできなかった。
また、大腸菌検査を行う実際の現場においては、検査試料に食物の遺伝子など様々なDNAが混入することから、特異性に優れた検出精度が求められていた。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、病原性を持たないものを含む大腸菌と、食中毒の原因となる腸管出血性大腸菌の検出を同時にかつ高い特異性で行うことが可能な大腸菌の検出方法、及び大腸菌検出用担体の提供を目的とする。
本実施形態に係る大腸菌の検出方法は、腸管出血性大腸菌及び大腸菌(腸管出血性大腸菌を含む)を同時に検出する大腸菌の検出方法であって、試料から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、大腸菌のウリジンモノリン酸キナーゼ遺伝子(pyrH)を含むDNA断片と、ベロ毒素1型遺伝子(vtx1)を含むDNA断片と、ベロ毒素2型遺伝子(vtx2)を含むDNA断片と、をマルチプレックスPCRにより同時に増幅させ、それぞれの増幅産物の有無を検出することによって、試料中における腸管出血性大腸菌の有無及び大腸菌の有無を同時に検出することを特徴とする。
そこで、本実施形態に係る大腸菌の検出方法では、大腸菌のゲノムDNAに共通して保有されるウリジンモノリン酸キナーゼ遺伝子(pyrH)を増幅対象領域(増幅対象遺伝子領域、標的遺伝子領域)としてPCR法により増幅し、その増幅産物を検出することによって、試料中における、病原性のあるものとないものとを含む大腸菌の有無を検出可能にしている。
具体的には、例えば図1に示すように、ベロ毒素遺伝子の保有状況が分っている菌株が存在している。後述する実施例では、これらの菌株を使用して、pyrH、vtx1、及びvtx2の3つの遺伝子を同時に検出している。
これによって、本実施形態に係る大腸菌の検出方法によれば、大腸菌について、従来の方法ではなし得なかった衛生指標菌及び食中毒危害菌の2種類の指標を同時に識別することが可能となっている。
また、腸管出血性大腸菌のベロ毒素1型遺伝子(vtx1)領域をPCR法により増幅するためのプライマーセット(vtx1プライマーセット)として、配列番号3に示す塩基配列からなるプライマー(F:フォワードプライマー)と、配列番号4に示す塩基配列からなるプライマー(R:リバースプライマー)とからなるものを用いることが好ましい。
また、腸管出血性大腸菌のベロ毒素2型遺伝子(vtx2)領域をPCR法により増幅するためのプライマーセット(vtx2プライマーセット)として、配列番号5に示す塩基配列からなるプライマー(F:フォワードプライマー)と、配列番号6に示す塩基配列からなるプライマー(R:リバースプライマー)とからなるものを用いることが好ましい。
そして、このようなPCR反応液を用いてサーマルサイクラーなどの核酸増幅装置により、試料中のゲノムDNAの一部が増幅される。すなわち、上記プライマーセットによる増幅対象領域を有するゲノムDNAが試料中に存在している場合、その対象領域が増幅される。
標識の検出は、蛍光スキャニング装置など一般的な標識検出装置を用いて行うことができ、例えば東洋鋼鈑株式会社のBIOSHOT(R)を用いて、増幅産物の蛍光強度を測定することにより行うことができる。また、測定結果として、蛍光強度の他に、S/N比値(Signal to Noise ratio,(メディアン蛍光強度値−バックグラウンド値)÷バックグラウンド値)を算出することも好ましい。S/N比値にもとづいて、測定結果が陽性であるか陰性であるかを、精度高く判定することができるためであり、一般にS/N比値が3以上の場合、陽性と判定することができる。なお、標識は、蛍光に限定されず、その他のものを用いてもよい。
本実施形態に係る大腸菌検出用担体に、pyrHプローブのみならず、このようなvtx1プローブとvtx2プローブを固定化することによって、大腸菌(腸管出血性大腸菌を含む)と共に、ベロ毒素1型遺伝子及び/又はベロ毒素2型遺伝子を有する腸管出血性大腸菌を同時に特異的に検出することが可能になる。
図1に示すベロ毒素遺伝子の保有状況が既知の6種類の大腸菌の菌株を用いて、これらの大腸菌から常法によりDNAを抽出した。同図において、(1)〜(5)は、大阪大学微生物病研究所からの分譲由来のものであり、(6)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源センター(NBRC)からの分譲由来のものである。
次いで、図2に示すpyrHプライマーセット、vtx1プライマーセット、及びvtx2プライマーセットを用いて、菌株毎に、それぞれの増幅対象領域をマルチプレックスPCRにより同時に増幅し、得られた増幅産物を検出できるか否かを検証した。具体的には、以下のように行った。
次に、上清を廃棄し、得られた沈殿に、20mg/mL濃度のリゾチーム溶液(20mM Tris−HCl,pH8.0/2mM EDTA,1.2%TritonX−100)を加えて、37℃で30分間溶菌処理を行った。さらに、DNeasy Blood&Tissue Kit(株式会社キアゲン製)を用いて、カラム精製を行うことにより、DNA抽出液を得た。このDNA抽出液を10pg/μL濃度に調製したものをPCRにおいて使用する試料とした。
・緩衝液(10×Ex Taq buffer) (2.0μl)
・核酸合成基質(dNTP Mixture) (1.6μl)
・大腸菌pyrH増幅用Fプライマー(5’末端Cy5修飾) (0.2μl)
・大腸菌pyrH増幅用Rプライマー (0.2μl)
・大腸菌vtx1増幅用Fプライマー (0.2μl)
・大腸菌vtx1増幅用Rプライマー(5’末端Cy5修飾) (0.2μl)
・大腸菌vtx2増幅用Fプライマー (0.2μl)
・大腸菌vtx2増幅用Rプライマー(5’末端Cy5修飾) (0.2μl)
・TaKaRa Ex Taq Hot Start Version (0.2μl)
・試料のDNA (1.0μl)
・滅菌水 (14.0μl)
(全量 20μl)
(1)95℃ 2分
(2)95℃ 10秒(DNA鎖の乖離工程)
(3)68℃ 30秒(アニーリング工程)
(4)72℃ 30秒(DNA合成工程)
(5)72℃ 2分
(2)〜(4)を40サイクル
同図に示すように、電気泳動の結果、pyrHプライマーセットによる増幅産物(推定サイズ158bp)は、6種類の菌株の全てについて検出された。
一方、vtx1プライマーセットによる増幅産物(推定サイズ351bp)は、vtx1遺伝子を有する菌株(3)、(4)、(5)についてのみ検出され、vtx2プライマーセットによる増幅産物(推定サイズ128bp)は、vtx2遺伝子を有する菌株(1)、(2)、(5)についてのみ検出された。
大腸菌のpyrH領域を増幅するためのプライマーセット(配列番号1,2)を用いてPCRを行う場合において、試料中に大腸菌の類縁種であるエンテロバクター(Enterobacter)属菌やサイトロバクター(Citrobacter)属菌の一部の菌種が含まれている場合、図4に示すように、その菌種のゲノムDNAにもとづく増幅産物が得られることがわかった。
このような場合、大腸菌と腸管出血性大腸菌の有無の判定を電気泳動によって行うと、これらの類縁種との区別がつかずに、偽陽性の判定が行われる可能性がある。
そこで、本実施形態に係る大腸菌検出用担体を用いることにより、大腸菌とこれらの類縁種とを識別できるかを検証した。具体的には以下のように行った。
・核酸合成基質(dNTP Mixture) (1.6μl)
・大腸菌pyrH増幅用Fプライマー(5’末端Cy5修飾) (0.2μl)
・大腸菌pyrH増幅用Rプライマー (0.2μl)
・TaKaRa Ex Taq Hot Start Version (0.2μl)
・試料のDNA (1.0μl)
・滅菌水 (14.8μl)
(全量 20μl)
反応後、DNAチップを室温下で洗浄液(2×SSC/0.2%SDS溶液、2×SSC溶液の順に)に浸して洗浄を行い、カバーガラスを載せて蛍光検出器Bioshot(東洋鋼鈑株式会社製)により各プローブのスポット領域の蛍光を検出した。
また、配列番号8の塩基配列からなるプローブは、検出対象菌であるEscherichia coliについて高い蛍光強度を示し、非対象菌であるCitrobacter sp.についても比較的高い蛍光強度を示しているが、S/N比値は3未満であり、偽陽性反応は生じていない。
また、配列番号9の塩基配列からなるプローブは、検出対象菌であるEscherichia coliについて高い蛍光強度を示し、非対象菌であるEnterobacter kobeiについても比較的高い蛍光強度を示しているが、S/N比値は3未満であり、偽陽性反応は生じていない。
また、配列番号7〜9の塩基配列からなるプローブは、それぞれ異なる菌について高い蛍光強度を示していることから、これらを組み合わせることによって、偽陽性の判定を抑制する効果を得ることが可能となる。このため、本実施形態に係る大腸菌検出用担体は、配列番号7〜9に示す塩基配列からなる少なくとも二以上のプローブを固定化したものとすることがより好ましく、配列番号7〜9に示す塩基配列からなるプローブを全て固定化したものとすることがさらに好ましい。
本実施形態に係る大腸菌検出用担体によって、大腸菌におけるpyrH、vtx1、vtx2の3種類の遺伝子を、同時に特異的に検出できるか否かを検証した。
具体的には、図6に示す配列番号7〜22の塩基配列からなる各プローブを固定化したDNAチップを作製した。
そして、図1に示す6種類の大腸菌の菌株を用いて、菌株毎に、試験1と同様にして得られたPCR反応液4μLと、ハイブリダイゼーション用の緩衝液2μL(3×SSC/0.3%SDS クエン酸−生理食塩水−ドデシル硫酸ナトリウム)を混合したものを、このDNAチップに滴下して、45℃で1時間反応させた。
反応後、試験2と同様に、DNAチップを室温下で洗浄液(2×SSC/0.2%SDS溶液、2×SSC溶液の順に)に浸して洗浄を行い、カバーガラスを載せて蛍光検出器Bioshot(東洋鋼鈑株式会社製)により各プローブのスポット領域の蛍光を検出した。その結果を図7に示す。
これに対して、配列番号10〜17のvtx1検出用プローブは、vtx1遺伝子を保有する菌株(3)、(4)、(5)のみについて高い蛍光強度を示し、vtx1遺伝子を保有しない菌株(1)、(2)、(6)については、高い蛍光強度を示さなかった。また、配列番号18〜22のvtx2検出用プローブはvtx2を保有する菌株(1)、(2)、(5)のみについて高い蛍光強度を示し、vtx2を保有しない菌株(3)、(4)、(6)については、高い蛍光強度を示さなかった。
以上のことから、本実施形態に係る大腸菌検出用担体によれば、試料中にpyrH、vtx1、vtx2の3種類の遺伝子を含むDNA断片が存在するか否かを同時に特異的に判定できることが明らかとなった。
Claims (6)
- 腸管出血性大腸菌及び大腸菌(腸管出血性大腸菌を含む)を同時に検出する大腸菌の検出方法であって、
試料から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、大腸菌のウリジンモノリン酸キナーゼ遺伝子(pyrH)を含むDNA断片と、ベロ毒素1型遺伝子(vtx1)を含むDNA断片と、ベロ毒素2型遺伝子(vtx2)を含むDNA断片と、をマルチプレックスPCRにより同時に増幅させ、それぞれの増幅産物の有無を検出することによって、試料中における腸管出血性大腸菌の有無及び大腸菌の有無を同時に検出する大腸菌の検出方法。 - 前記pyrHを含むDNA断片を増幅して得られた増幅産物と相補的に結合するプローブ、前記vtx1を含むDNA断片を増幅して得られた増幅産物と相補的に結合するプローブ、及び前記vtx2を含むDNA断片を増幅して得られた増幅産物と相補的に結合するプローブを固定化した大腸菌検出用担体を用いて、前記それぞれの増幅産物の有無を同時に検出する
ことを特徴とする請求項1記載の大腸菌の検出方法。 - 前記pyrHを含むDNA断片を増幅するための配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットと、
前記vtx1を含むDNA断片を増幅するための配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットと、
前記vtx2を含むDNA断片を増幅するための配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットと、を含むPCR反応液を用いて、前記マルチプレックスPCRを行い、
前記pyrHから選択された配列番号7〜9に示す塩基配列からなる少なくとも二以上のプローブと、
前記vtx1から選択された配列番号10〜17に示す塩基配列からなる少なくともいずれかのプローブと、
前記vtx2から選択された配列番号18〜22に示す塩基配列からなる少なくともいずれかのプローブと、を固定化した大腸菌検出用担体を用いて、前記それぞれの増幅産物の有無の検出を行う
ことを特徴とする請求項1又は2記載の大腸菌の検出方法。 - 前記各遺伝子から選択された少なくともいずれかのプローブが、以下の(1)〜(3)のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の大腸菌の検出方法。
(1)配列番号に示す塩基配列において、1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプローブ。
(2)配列番号に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(3)(1)又は(2)のプローブに対して相補的な塩基配列を有するプローブ。 - 腸管出血性大腸菌及び大腸菌(腸管出血性大腸菌を含む)を同時に検出するための大腸菌検出用担体であって、
大腸菌のウリジンモノリン酸キナーゼ遺伝子(pyrH)から選択された配列番号7〜9に示す塩基配列からなる少なくとも二以上のプローブと、
大腸菌のベロ毒素1型遺伝子(vtx1)から選択された配列番号10〜17に示す塩基配列からなる少なくともいずれかのプローブと、
大腸菌のベロ毒素2型遺伝子(vtx2)から選択された配列番号18〜22に示す塩基配列からなる少なくともいずれかのプローブと、を固定化したことを特徴とする大腸菌検出用担体。 - 前記各遺伝子から選択された少なくともいずれかのプローブが、以下の(1)〜(3)のいずれかであることを特徴とする請求項5記載の大腸菌検出用担体。
(1)配列番号に示す塩基配列において、1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプローブ。
(2)配列番号に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(3)(1)又は(2)のプローブに対して相補的な塩基配列を有するプローブ。
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