JP6648559B2 - 細菌の検査方法、プライマーセット、細菌検査用担体、及び細菌検査用キット - Google Patents
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Description
すなわち、図8に示すように、培地中において、1菌種の大腸菌が、O抗原合成遺伝子領域の遺伝子(例えばO26)、eae遺伝子、及び志賀毒素遺伝子(stx)の3因子を全て保有している場合、従来の検査キットによって陽性として適切に検出することが可能である。
一方、培地中において、2菌種以上の大腸菌がこれら3因子を分け持っている場合、本来はこれらの大腸菌は陽性のものではないにも拘わらず、従来の検査キットでは、3因子が全て検出されるため、陽性と誤判定されてしまうという問題があった。
そこで、大腸菌の検査において、大腸菌が保有するeae遺伝子のサブタイプを判別することで、誤判定を低減できると考えられる。
一方、培地中にeae遺伝子を保有しないO26大腸菌と、eae遺伝子を保有する他の細菌とが混在している場合であって、そのeae遺伝子のサブタイプがε型、θ型、又はγ型である場合には、3因子が検出されるものの、eae遺伝子のサブタイプがO26大腸菌に対応するものではないことから、陰性と判定することが可能となる。したがって、eae遺伝子のサブタイプを判別することで、誤判定となる可能性を低減させることが可能となる。
しかしながら、この方法では、1つの反応系に2種類以上のサブタイプのeae遺伝子が混在している場合は、分析できないという問題があった。
また、リアルタイムPCRによる方法は、蛍光色の違いにより増幅産物を判別するものであるため、4種類を超える増幅産物の判別は、蛍光波長が重なることから行うことができず、1反応系で判別可能なサブタイプ数が最大4種類に限定されるという問題もあった。
(a)配列番号3〜21に示す塩基配列からなるプローブ。
(b)配列番号3〜21に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(c)(a)又は(b)のプローブに対して相補的な塩基配列からなるプローブ。
例えば、eae遺伝子及び志賀毒素遺伝子(stx)を保有するO26大腸菌のeae遺伝子のサブタイプはβ型、O45、O103、及びO121大腸菌のeae遺伝子のサブタイプはε型、O111大腸菌のeae遺伝子のサブタイプはθ型、O145、及びO157大腸菌のeae遺伝子のサブタイプはγ型であるが、本実施形態は、これら4種類のサブタイプに限定されず、その他のサブタイプについても同様に適用することが可能であることは言うまでもない。
具体的には、eae遺伝子のサブタイプがζ型の大腸菌について記載された論文(Genetic diversity of intimin genes of attaching and effacing Escherichia coli strains.)のTable1に記載のstrain 4795/95という菌株は、ζ型のeae遺伝子を保有していることが明らかになっており、このζ型のeae遺伝子の塩基配列がデータベースに登録されている(Accession No. AJ271407.1)。本発明者らが、微生物株保存機関から入手した大腸菌の特定の菌株(RIMD 05091872, O156)について、そのeae遺伝子の塩基配列をシーケンサーにより決定した結果、当該シーケンサーにより決定した特定の菌株の塩基配列と、上記データベースに登録されているζ型のeae遺伝子の塩基配列とがほぼ一致することが判明し、その特定の菌株のサブタイプがζ型であることが明らかとなった。
これにより、本実施形態の検査方法及びプライマーセットによれば、サブタイプがζ型の大腸菌のeae遺伝子を適切に増幅でき、当該大腸菌を検出できることが分かった。
非翻訳領域には、5’側の5’非翻訳領域と、3’側の3’非翻訳領域とが存在する。
共通領域は、eae遺伝子の開始コドンより下流でかつ終止コドンより800塩基以上上流の領域である。
固有領域は、終止コドンの上流800塩基以内の領域である。固有領域は、サブタイプ間で配列が大きく異なるため、サブタイプの判別に好適に利用することができる。一方、固有領域において、複数のサブタイプの固有領域を一括してPCRにより増幅させることが可能なプライマーセット(共通プライマー)を設計することは難しい。
また、プライマーセットのリバースプライマーをeae遺伝子における3’非翻訳領域から選択して、プライマーセットのフォワードプライマーをeae遺伝子における5’非翻訳領域より上流の領域から選択することもできる。
さらに、本実施形態の細菌の検査方法では、共通プライマーを用いてPCRにより増幅して得られた増幅産物の塩基配列を、シーケンサーで決定することによって、eae遺伝子のサブタイプを判別することも可能である。
これによって、PCR用反応液におけるプライマーの添加濃度等の条件の設定を容易にすることができ、PCRによる増幅反応の条件を都度改変することなく、プローブを追加すること等で判別の対象のサブタイプを容易に追加することができる。
そこで、本実施形態の細菌の検査方法では、上記の通り、リバースプライマーをeae遺伝子領域における3’非翻訳領域から選択すると共に、フォワードプライマーをeae遺伝子領域における翻訳領域の一部である共通領域又は5’非翻訳領域から選択することによって、複数のサブタイプのeae遺伝子を適切に増幅可能なプライマーセットを設計することを可能にしている。
配列番号8〜10に示す塩基配列を有するプローブは、サブタイプε型のeae遺伝子から選択され、サブタイプε型を判別するためのものである。ε型は、例えばeae遺伝子及び志賀毒素遺伝子(stx)を保有するO45、O103、及びO121大腸菌に特徴的なeae遺伝子のサブタイプとして知られている。
配列番号11〜15に示す塩基配列を有するプローブは、サブタイプθ型のeae遺伝子から選択され、サブタイプθ型を判別するためのものである。θ型は、例えばeae遺伝子及び志賀毒素遺伝子(stx)を保有するO111大腸菌に特徴的なeae遺伝子のサブタイプとして知られている。
配列番号16〜21に示す塩基配列を有するプローブは、サブタイプγ型のeae遺伝子から選択され、サブタイプγ型を判別するためのものである。γ型は、例えばeae遺伝子及び志賀毒素遺伝子(stx)を保有するO145、及びO157大腸菌に特徴的なeae遺伝子のサブタイプとして知られている。
このような細菌検査用担体は、例えばスポット型又は合成型のDNAチップやDNAマイクロアレイなどとして製造することができる。
(a)配列番号3〜21に示す塩基配列からなるプローブ。
(b)配列番号3〜21に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(c)(a)又は(b)のプローブに対して相補的な塩基配列からなるプローブ。
これによって、細菌が保有するeae遺伝子のサブタイプを判別することができ、サブタイプに対応するO抗原合成遺伝子領域の遺伝子の血清型を一定の範囲で特定することができる。このため、細菌の検査において、従来生じていた偽陽性の判定を低減させることが可能となっている。
例えば、本実施形態の細菌検査用担体として貼り付け型のDNAチップを作成する場合は、DNAスポッターによりプローブをガラス基板上に固定化して、各プローブに対応するスポットを形成することにより作成することができる。また、合成型DNAチップを作成する場合は、光リソグラフィ技術により、ガラス基板上で上記配列を備えた一本鎖オリゴDNAを合成することにより作成することができる。さらに、基板はガラス製に限定されず、プラスチック基板やシリコンウエハー等を用いることもできる。また、基板の形状は平板状のものに限定されず、様々な立体形状のものとすることもでき、その表面に化学反応が可能となるように官能基を導入したものなどを用いることもできる。
まず、細菌を取得して必要に応じて増菌する。そして、得られた細菌からゲノムDNAを抽出する。ゲノムDNAの抽出は、CTAB法(Cetyl trimethyl ammonium bromide)による方法やDNA抽出装置を用いる方法など、一般的な手法により行うことができる。
次に、抽出したゲノムDNAにおける標的領域のeae遺伝子を増幅させる。すなわち、ゲノムDNAにおけるeae遺伝子を含むDNA断片を増幅させる。このeae遺伝子の増幅方法としては、PCR法を好適に用いることができる。PCR法では、標的領域を増幅させるためのプライマーセットを含有するPCR用反応液を用いて、標的領域を増幅させる。PCR装置としては、一般的なサーマルサイクラーなどを用いることができる。
(a)95℃ 2分、(b)95℃(DNA変性工程) 10秒、(c)60℃(アニーリング工程) 20秒、(d)72℃(DNA合成工程) 90秒((b)〜(d)を40サイクル)、(e)72℃ 2分
標識の検出は、蛍光スキャニング装置など一般的な標識検出装置を用いて行うことができ、例えば東洋製罐グループホールディングス株式会社のGENOGATE(登録商標)readerを用いて、増幅産物の蛍光強度を測定することにより行うことができる。測定結果は、S/N比(Signal to Noise ratio)値として得ることが好ましい。S/N比値にもとづいて、測定結果が陽性であるか陰性であるかを精度高く判定することができるためであり、一般にS/N比値が3以上の場合に、陽性と判定することができる。本明細書中に記載のS/N比値は、(メディアン蛍光強度値−バックグラウンド値)÷バックグラウンド値にて算出される。なお、標識としては蛍光に限定されず、その他のものを用いることもできる。
そして、プライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた増幅産物を、細菌検査用担体に滴下して、増幅産物と相補的な塩基配列を有するプローブと結合させて、細菌が保有するeae遺伝子のサブタイプを判別する。
さらに、本実施形態の細菌の検査方法、プライマーセット、細菌検査用担体、及び細菌検査用キットによれば、このような共通プライマーを用いてその増幅産物を検出することで、細菌が保有するeae遺伝子のサブタイプを判別し、サブタイプに対応するO抗原合成遺伝子領域の遺伝子の血清型を一定の範囲で特定することができる。このため、偽陽性の判定を低減でき、細菌を精度高く検査することが可能である。
eae遺伝子のサブタイプがβ型、ε型、θ型、γ型である大腸菌を用いて、本実施形態の細菌の検査方法に従って設計されたプライマーセットを使用してPCRによるeae遺伝子の増幅反応を行い、得られた増幅産物をeae遺伝子のサブタイプを識別可能なプローブと結合させることによって、各大腸菌を適切に検出できるかを確認するための試験を行った。
No.1 RIMD 05091932(血清型O26)、No.2 RIMD 05091858(血清型O45)、No.3 RIMD 05091878(血清型O103)、No.4 RIMD 05091875(血清型O121)、No.5 RIMD 05092026(血清型O111)、No.6 RIMD 05091870(血清型O145)、No.7 RIMD 05091904(血清型O157)、No.8 GTC 03590(血清型O45)No.9 RIMD 0509516(血清型O157)
次に、DNeasy Blood&Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用い、マニュアルに記載のグラム陰性菌の抽出方法に従って、上記各DNA抽出用菌体からDNAを抽出した。このDNA抽出液をPCRにおいて使用するテンプレートとした。
1.10x Ex Taq buffer(20mM Mg2+ plus) 2.5μl
2.dNTP Mixture(各20mM) 2.0μl
3.フォワードプライマー(10μM) 0.3125μl
4.リバースプライマー(10μM) 1.5625μl
5.TaKaRa Ex Taq HotStart DNA polymerase 0.125μl
6.Template DNA(20pg/μl) 5.0μl
7.水(全体が25.0μlになるまで加水)
(a)95℃ 2分
(b)95℃ 10秒
(c)60℃ 20秒
(d)72℃ 90秒((b)〜(d)を40サイクル)
(e)72℃ 2分
そして、標識検出装置(GENOGATE reader)を用いて、細菌検査用担体に固定化された各プローブにおける蛍光強度(プローブに結合した増幅産物の蛍光強度)を測定して、各プローブにおけるS/N比値を取得した。その結果を図4〜7に示す。
特定の大腸菌を用いて、本実施形態の細菌の検査方法に従って設計されたプライマーセットを使用してPCRによる増幅反応を行い、得られた増幅産物の塩基配列をシーケンサーで決定することによって、当該大腸菌を同定するための試験を行った。
次に、DNeasy Blood&Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用い、マニュアルに記載のグラム陰性菌の抽出方法に従って、上記DNA抽出用菌体からDNAを抽出した。このDNA抽出液をPCRにおいて使用するテンプレートとした。
1.10x Ex Taq buffer(20mM Mg2+ plus) 2.5μl
2.dNTP Mixture(各20mM) 2.0μl
3.フォワードプライマー(10μM) 0.3125μl
4.リバースプライマー(10μM) 1.5625μl
5.TaKaRa Ex Taq HotStart DNA polymerase 0.125μl
6.Template DNA(20pg/μl) 5.0μl
7.水(全体が25.0μlになるまで加水)
(a)95℃ 2分
(b)95℃ 10秒
(c)60℃ 20秒
(d)72℃ 90秒((b)〜(d)を40サイクル)
(e)72℃ 2分
そして、Applied Biosystems 3730xl DNAアナライザ(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて、シーケンシングを行い、PCR増幅産物の塩基配列を決定した。
その結果、これらの塩基配列は、99.8%(932/934)一致していた。このデータベース上の塩基配列(Accession No. AJ271407)は、上述したように、eae遺伝子のサブタイプがζ型の大腸菌のeae遺伝子の塩基配列を示している。
したがって、本実施形態の細菌の検査方法、及びプライマーセットによれば、eae遺伝子のサブタイプがζ型の大腸菌のeae遺伝子を適切に増幅でき、その増幅産物の塩基配列をシーケンサーで決定することで、ζ型のサブタイプを適切に判別できることが分かる。
例えば、本実施形態の細菌検査用担体において、各プローブを1スポットずつ、又は複数スポットずつ固定化することができる。また、本実施形態における病原性大腸菌以外の細菌を検出するためのその他のプローブを、本実施形態におけるプローブと共に固定化することもでき、適宜変更することが可能である。
Claims (10)
- 細菌のDNAにおけるeae遺伝子を標的領域としてPCRにより増幅させ、eae遺伝子のサブタイプを判別する細菌の検査方法であって、
eae遺伝子を標的領域とするプライマーセットのリバースプライマーをeae遺伝子における3’非翻訳領域から選択すると共に、前記プライマーセットのフォワードプライマーをeae遺伝子における翻訳領域の一部である共通領域又はeae遺伝子における5’非翻訳領域から選択し、且つ、前記リバースプライマー及び前記フォワードプライマーの選択において、判別の対象とする全てのサブタイプに共通する塩基配列から前記リバースプライマー及び前記フォワードプライマーを設計したプライマーセットを用いる
ことを特徴とする細菌の検査方法。 - 前記プライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた増幅産物を、eae遺伝子における前記フォワードプライマーと前記リバースプライマーの結合位置の間の領域から選択されたeae遺伝子のサブタイプを識別可能な一又は二以上のプローブと結合させる工程、前記増幅産物を制限酵素処理して得られた核酸断片を電気泳動で分離する工程、又は、前記増幅産物の塩基配列をシーケンサーで決定する工程を含む
ことを特徴とする請求項1記載の細菌の検査方法。 - 前記プライマーセットが、配列番号1に示す塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号2に示す塩基配列からなるリバースプライマーからなることを特徴とする請求項1又は2記載の細菌の検査方法。
- 前記プライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた増幅産物を、以下の(a)、(b)、又は(c)に記載の塩基配列からなるプローブ群から選択された一又は二以上のプローブを固定化した担体に滴下して、前記増幅産物と相補的な塩基配列を有するプローブと結合させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細菌の検査法。
(a)配列番号3〜21に示す塩基配列からなるプローブ。
(b)配列番号3〜21に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(c)(a)又は(b)のプローブに対して相補的な塩基配列からなるプローブ。 - 前記プライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた増幅産物を、配列番号3〜21に示す塩基配列からなるプローブ群から選択された一又は二以上のプローブを固定化した担体に滴下して、前記増幅産物と相補的な塩基配列を有するプローブと結合させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細菌の検査方法。
- 前記細菌が大腸菌であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細菌の検査方法。
- 細菌のDNAにおけるeae遺伝子をPCRにより増幅するための、配列番号1に示す塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号2に示す塩基配列からなるリバースプライマーからなることを特徴とするプライマーセット。
- 細菌のDNAにおけるeae遺伝子のサブタイプを判別するための、以下の(a)、(b)、又は(c)に記載の塩基配列からなるプローブ群から選択された一又は二以上のプローブを固定化したことを特徴とする細菌検査用担体。
(a)配列番号3〜21に示す塩基配列からなるプローブ。
(b)配列番号3〜21に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(c)(a)又は(b)のプローブに対して相補的な塩基配列からなるプローブ。 - 細菌のDNAにおけるeae遺伝子のサブタイプを判別するための、配列番号3〜21に示す塩基配列からなるプローブ群から選択された一又は二以上のプローブを固定化したことを特徴とする細菌検査用担体。
- 細菌のDNAにおける標的領域をPCRにより増幅させるためのプライマーセットと、PCRにより増幅して得られた増幅産物の有無を確認するためのプローブが固定化された担体を含む細菌検査用キットであって、
前記プライマーセットが、請求項7に記載のものを含み、
前記担体が、請求項8又は9に記載のものを含み、
前記プライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた増幅産物を、前記担体に滴下して、前記増幅産物と相補的な塩基配列を有するプローブと結合させて、eae遺伝子のサブタイプを判別する
ことを特徴とする細菌検査用キット。
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