溶融塩原子炉(MSR)は主に1950年代から1970年代にかけて開発されてきたが、最近、このタイプの原子炉に対する世界的な関心が高まってきた。古い概念が再評価され、新しいアイディアが出ている。このクラスの原子炉は、現行の原子炉を超えた多大な利点を有し、利点は、可能性として、より低い資本コスト、全体的な安全性、長寿命の廃棄プロファイル(waste profile)及び資源の持続可能性を含む。
MSRの利点は、基本設計の決定を困難にするいくつかの重要な技術的課題ももたらす。第一に、おそらく一番最初に、中性子減速材がそのように用いられるかである。ほとんど全ての場合、黒鉛が、MSRにおいて使用されるフッ化物塩と非常に良く接触して振る舞うので、減速材として選択されてきた。これら塩は、核分裂性フッ化物及び燃料親フッ化物(UF4、ThF4、PuF3等)と、LiF、BeF2又はNaFのような他の担体塩との共融混合物である。MSRの炉心内の大部分の減速材として黒鉛を使用することは多くの利点を有する。例えば、それはより緩やかな又はより多くの熱化中性子スペクトルを与え、より緩やかな又はより多くの熱化中性子スペクトルは、改善された原子炉制御と、かなり下げられた出発核分裂性インベントリ(starting fissile inventory)とを提供する。その上、MSRの炉心の至る所に黒鉛を使用することによって、中性子の正味の吸収体として機能し且つ有害な中性子照射から原子炉容器の外壁を保護するのを補助する低減速外側区域として知られているものを用いることができる。核炉心を収容する容器は、典型的には、ハステロイ(登録商標)Nのような高ニッケル合金から作られるように提案されてきた。しかしながら、他の材料も可能である。
しかしながら、MSRの炉心内(すなわちMSRの中性子束内)での黒鉛の使用は深刻な欠点を有しうる。すなわち、その黒鉛は、最初に収縮し、その後、高速中性子束に曝露されるにつれて、その下の体積を超えて膨張する。全高速中性子フルエンスの上限が計算され、MSRの稼働は、この限度が超えられないようにされる。この限度は、黒鉛がその元の体積を超えて膨張し始め、可能性として周囲の黒鉛要素又は原子炉容器自体を損傷させるときを決定する。このため、黒鉛を原子炉炉心内で使用することができる長さは、局所的な出力密度、ひいては黒鉛が受ける高速中性子束に直接関連付けられる。低出力密度の炉心は、数十年間、同じ黒鉛を使用することができる。これは、イギリスのMagnox及びAGRガス冷却炉のような、黒鉛を用いる多くの以前の原子炉の場合である。これらは、極めて大きく、熱流力の理由で低出力密度を有していたが、このことは、極めて長い黒鉛の寿命を可能とした。しかしながら、MSRは、はるかに高い出力密度を有することから恩恵を受け、このため、黒鉛の寿命が問題となりうる。
MSRを設計する科学者及び技術者は、長い間、重要な設計オプションに直面してきた。第1のオプションは、黒鉛以上の30年以上の全寿命を得るべく、単純に原子炉を非常に大きくし非常に低い出力密度を有するように設計することである。このため、容器内で黒鉛を全てシールすることができ、黒鉛は、原子力発電所の設計寿命の間、容器内に残されたままである。この選択肢の例を、1970年代後半及び1980年代前半におけるオークリッジ国立研究所(ORNL)の研究において見つけることができる。例えば、ORNL TM 7207は、黒鉛の交換の必要性を回避すべく、直径及び高さが約10mの大きな原子炉容器を有する「30年貫流」設計と称された1000メガワットエレクトリカルの原子炉を提案している。原子炉設計のFUJIシリーズとして知られているものに対する、日本の古川和男博士による最近の研究の多くも、大きく低出力な核炉心というこの手段を選択している。これら非常に大きな炉心は、炉心及び原子炉容器を製造するのに必要とされる材料そのものの量の観点から、且つ、炉心の過剰な重量において、明らかに経済的に不利な点を有する。これら課題は、当業者によって理解されるように、周囲の原子炉建屋のコスト及び複雑さを増大する。原子力発電所の30年の寿命は、1970年代には完全に許容可能であったが、今日の基準では短いと考えられることが付け加えられるべきである。現在では50年又は60年が望まれており、このことは、黒鉛を交換することなくこの寿命を可能とする更に大きな炉心を意味するだろう。
しばしば提案される第2のオプションは、より小さな高出力密度の炉心を用いることであるが、黒鉛の定期的な交換が計画される。このアプローチは、計画が取り消される前の約1968年〜1976年の溶融塩増殖炉の設計におけるオークリッジ国立研究所(ORNL)の研究において一般に推測された。この1000メガワットエレクトリカルの原子炉設計はハステロイNの外側容器を有し、ハステロイNの外側容器は、容器と共に収まり且つ容器を満たす何百もの黒鉛要素を収容するが、溶融塩燃料が炉心から出て外部の熱交換器に流れるための通路チャネルを有する。この第2オプションでは、原子炉は、直径及び高さが約6mのはるかに小さな寸法を有する。この場合、黒鉛、特に最も高速の中性子束を有する炉心の中心における黒鉛は、たった4年の予測寿命を有する。このため、原子炉は、黒鉛要素の大きな部分を交換すべく、4年ごとに停止されて解放されるように設計されなければならない。このことは当業者にとってあまり困難に聞こえないかも知れないが、溶融塩、核分裂生成物、これらのいくつかは、比較的揮発しやすく、燃料塩内に存在し、さらに、これら自体を、黒鉛の表面層、例えば原子炉容器の内側の金属表面上に埋め込みうる。このため、単に原子炉容器を開けることは、放射性元素が周囲の格納区域に広がることを可能とすることなく実行することが困難である操作であることが知られていた。その上、原子炉容器が周期的に開けられる必要があるとき、原子炉容器自体の設計がより複雑になる。これら課題が、大きな低出力密度の炉心の手段がしばしば選択された理由である。
第3のオプションは、黒鉛の使用を完全に省こうと試みることである。これは、可能であり、典型的にはかなり強烈な中性子スペクトルを有する原子炉をもたらす。この選択肢の例は、2005年頃に開始したフランス人及び他のヨーロッパの研究者のコンソーシアムによって提案された溶融塩高速炉(MSFR)である。しかしながら、それは非常に深刻な欠点を有する。例えば、それは、開始核分裂負荷(starting fissile load)の5倍の上昇と、水又はコンクリート内の水素含有量のような減速材への塩の任意の不測の曝露とを必要とし、これらは臨界の危険をもたらす。
黒鉛の寿命の問題を越えて、原子炉容器自体の寿命及び一次熱交換器の寿命の関連問題もいくぶん存在する。
また、原子炉容器壁は、問題を引き起こしうる熱中性子及び高速中性子の両方を有する中性子フルエンスによって、限られた寿命を有する。最も一般的に提案される材料は、適度に理解された挙動と、中性子フルエンスの許容される限界とを有するハステロイNのような高ニッケル合金である。その結果、中性子の照射を制限し且つ/又は容器壁の稼働温度を低くするために、多大な努力が炉心設計に投入される。その上、増大した中性子照射で強度が失われるので、壁に厚みを追加することが役に立ちうる。このことによって、重量及び費用の両方が追加される。このため、原子炉容器自体の30年〜60年の寿命を有することが課題である。
別の設計課題は、放射性一次燃料塩から二次冷却材塩に熱を移す一次熱交換器である。この冷却材塩は、その後、典型的には、蒸気、ヘリウム、二酸化炭素等のような作動媒体に熱を移す。いくつかの場合、これら熱交換器は外側に位置し又は外側の原子炉容器自体であり、このことは、1950年代〜1980年代のORNLの全ての設計の場合であるように思われる。これらは原子炉容器自体の中に配設されてもよく、このことはそれ自体の一連の利点及び課題を有する。内部の熱交換器の一つの大きな利点は、二次冷却材塩のみが容器に入り且つ容器から離れるので、有意放射線が原子炉自体から離れる必要がないことである。
内部の熱交換器及び外部の熱交換器の両方のために、これらを修理し又は交換するための大きな課題が存在する。MSRが開放されると、放射線が格納区域又は格納空間に放出されうる。ORNLは、例えば、炉心の外部のシェル熱交換器内の共通のチューブと、100メガワットエレクトリカルの原子炉に付き四つの熱交換器ユニットとを提案した。どんなチューブ漏洩の場合も、操作は、チューブを修理し又は塞ぐことではなく、シェルを開いてチューブ束全体を除去して新しい束と交換することであった。冷却期間の後にのみ、束の修理及び再利用又は単純廃棄の決定がなされるだろう。このため、一次熱交換器の修理及び/又は交換技術はMSR設計における大きな課題であることが明らかである。
さらに、黒鉛又は熱交換器が交換されると、その後、これらが稼働中に強い放射性を帯びるので、これらの安全な保管庫の問題も対処されなければならない。これはMSRのプラント設計全体における更に別の課題を示す。
(FHRsとして知られる)フッ化物塩冷却高温炉の関連する核設計分野が、非常に似た問題を有することが更に強調されるべきである。この研究では、原子炉設計が非常に似ているが、燃料の代わりがフッ化物塩であり、フッ化物塩は、TRISOとして知られる燃料形態を使用して、黒鉛減速材内において固形で存在する。この場合、黒鉛の限られた寿命は固体のTRISO燃料の寿命と相関関係にある。しかしながら、全ての他の設計問題及び課題はMSRの設計作業と非常に似ている。FHRsでは、一次冷却材塩が、ほとんど放射性を有しないが、典型的には、トリチウムのようないくつかの放射性元素を含有し、同様の一連の課題が、固形ブロックのTRISO燃料を使用してこれらを定期的に交換することを計画するときに存在する。FHR設計のサブセットは、ベブル燃料形態を使用することを含み、ベブル燃料形態は、原子炉容器を開放することなく、燃料の交換を容易にする。しかしながら、このタイプの設計はそれ自体の一連の問題を有する。
このため、原子炉における改良が望まれている。
本開示の他の態様及び特徴が、添付の図面と共に特定の実施形態の以下の記述を検討すると、当業者に明らかとなるだろう。
以下、本開示の実施形態が、添付の図面を参照して、単なる例として記述される。
本開示は、一体型溶融塩原子炉(IMSR)を提供する。本開示のIMSRは、IMSRの容器と恒久的に一体である黒鉛炉心を有し、このことは、黒鉛炉心が、ISMRの寿命の間、IMSRの容器内に位置することを意味する。この結果、本開示のIMSRでは、黒鉛炉心は、交換式の黒鉛炉心ではなく、IMSRの稼働寿命の間、IMSR内に残されたままである。黒鉛炉心はIMSRの容器内に固定されるように繋止される。有利なことに、このことは、予め定められたスケジュールにより予め定められた瞬間に黒鉛炉心を交換することを必要とする任意の器具についての必要性を排除する。更なる利点は、IMSRが、黒鉛炉心の交換のための黒鉛炉心へのアクセスを可能とする任意のアクセスポートを必要としないことである。本開示のIMSRの追加の利点は、IMSRの設計寿命の満了後、IMSRがIMSR内の任意の放射性物質のための保管容器として役に立つことである。IMSRの構成部品は原子炉容器自体と核炉心の任意の黒鉛要素とを含む。他の構成部品は、IMSRの製造の間、原子炉容器内に搭載されうる一次熱交換器を含むことができる。IMSRは、設計寿命の間、稼働する(電力を生成する)ように構築され、このことによって、長期に亘る原子炉の黒鉛炉心の膨張及び黒鉛炉心の構造的完全性に注意が払われる。すなわち、背景技術の欄において上述したように、黒鉛炉心は最終的には、中性子束の下、その元の体積を超えて膨張するだろう。斯かる膨張の存在下でのMRSの稼働は、黒鉛炉心が破損しうるので、望ましくない。本開示のIMSRは、その設計寿命の満了後、単純に停止されて交換される。IMSRの更なる構成部品は、冷却材塩の入口導管及び出口導管のようなパイプと、ポンプが用いられるときに冷却材塩(一次冷却材流体)を移動させる(送り込む)ためのポンプシャフト及び羽根車とを含むことができる。
本開示のいくつかの実施形態では、停止されたIMSRは単純にその格納区域(ホットセル)内に残されることができ、格納区域(ホットセル)は、停止IMSRによって発生した崩壊熱のためのヒートシンクとして作用することができる。崩壊熱は、単純に、IMSRの容器壁を通ってIMSRの外に放射され、格納区域内に、最終的に外部環境に放射される。MSRは典型的には700°C辺りの温度で稼働し、放射熱が崩壊熱を除去するのに非常に効果的である。さらに、崩壊熱の除去を加速すべく、本開示のIMSRでは、緩衝塩がIMSRを囲むように格納区域内に加えられることができ、このことはIMSRから格納区域内へのより迅速な熱除去を可能とする。特定の実施形態では、IMSRは塩の凍ったプラグを有することができ、塩の凍ったプラグは崩壊熱除去タンクへの一次冷却材ドレインを可能とすべく溶融されうる。
いくつかの他の実施形態では、IMSRの稼働の間及びIMSRの停止後、IMSRはシールされたユニットであり、シールされたユニットは、IMSRのシールされた容器内に、生成された核分裂ガスを単純に保持し、又は核分裂ガスは任意の適切な核分裂ガス処理システムにゆっくりと放出されることができる。
図1は、本開示のIMSR90の実施形態の正面図を示す。100は原子炉容器自体であり、原子炉容器は、ハステロイN、高ニッケル合金、又はモリブデン合金TZM(チタン・ジルコニウム・モリブデン合金)のようなその他の適切な材料から作られる。原子炉容器100は、原子炉容器100内の任意の黒鉛炉心が、原子炉容器内でシールされ、すなわち原子炉容器100内に残されてIMSRの稼働寿命の間交換されないという意味において、シールされた原子炉容器と称される。本開示のIMSR100は約5年の短い設計寿命を有することができ、原子炉容器100の壁は、30年の設計寿命を有するMSRに必要とされる壁よりも薄くされ、はるかに高い中性子フルエンスにおいて又は斯かる長寿命のMSRよりも高い稼働温度で稼働することが可能となる。102は炉心又は炉心領域を示し、炉心又は炉心領域は、溶融塩燃料108が流れる黒鉛画定チャネル115の単純な塊(simple mass)でありうる。炉心102は、炉心領域、黒鉛減速材炉心及び黒鉛中性子減速材炉心とも称される。図1の実施形態の炉心102が交換されることを必要としないので、炉心102の構造は、容器100からの炉心102の除去又は炉心102の交換を可能とし且つ/又は容易にする任意の構造的特徴を必要とするという点で単純化されることができる。104は、炉心102に向かって中性子を反射し、過剰な中性子束から一次熱交換器ユニット106を保護する反射体(中性子反射体)を示す。反射体104は採用随意である。反射体104が無い場合、任意の金属構造物、例えば炉心102の上方のIMSR内に配設された導管及び熱交換器がおそらく中性子損傷を被るだろう。反射体104は、反射体104の放射損傷がほとんど問題とならないため、構造的目的を果たさないので、ステンレス鋼から作られることができる。反射体104は、反射体104内に画定されたチャネル99又はパイプを有し、チャネル99又はパイプは、溶融塩燃料108が一次熱交換器ユニット106から炉心102によって画定されたチャネル115を通って流れることを可能とする。当業者によって理解されるように、チャネル115は、例えば黒鉛における低減速領域及び外側の反射体区域を生成する炉心102の種々の範囲において直径又は格子ピッチが変更されうる。図1のIMSRの例では、容器100における溶融塩燃料108の流れが矢印109によって示される。
一次熱交換器ユニット106は、燃料塩109を受け取る開口117を有し、燃料塩109は、ポンプ118によって駆動される駆動シャフト及び羽根車ユニット116によって提供される。一次熱交換器ユニット106は一連の熱交換器を含む。斯かる熱交換器は参照番号119で示される。各熱交換器119は入口導管114及び出口導管112に接続され、入口導管114及び出口導管112は容器100の外側から熱交換器119を通して容器100の外側へ冷却材塩113(二次冷却材塩とも称されうる)を伝播させる。冷却材塩113は、入口導管114、熱交換器119及び出口導管112を通って、矢印111によって描かれた方向に流れる。冷却材塩113は熱交換器119から熱を受け取り、熱交換器119は、熱交換器119上を流れ又は熱交換器119の周りで循環する燃料塩108から熱を受け取る。二次冷却材塩113はポンプ又はポンプシステム(図示せず)によって送り込まれる。明確化の目的で、熱交換器119は、入口導管114を出口導管に接続する真っ直ぐな導管として示される。しかしながら、当業者によって理解されるように、熱交換器119は、任意の適切な形状を有し、入口導管114を出口導管112に接続する任意の数の導管を含んでもよい。
熱交換器ユニット106と、熱交換器ユニット106が具備する熱交換器119と、熱交換器119に接続された入口導管114及び出口導管112とは、全て、例えば蒸気発生器のようなシステム又は装置にIMSRから熱を移すのに使用される熱交換器システムの一部である。斯かる熱交換器システムは、本開示では、原子力発電所に関して、他の場所で示される。入口導管114及び出口導管112はポンプシステム(図示せず)に動作可能に接続され、ポンプシステムも熱交換器システムの一部である。ポンプシステムは、入口導管114、出口導管112及び熱交換器119を通して冷却材塩を循環させる。入口導管114及び出口導管112は追加の熱交換器に動作可能に接続されることができ、追加の熱交換器は、冷却材塩が循環する熱交換器119、入口導管114及び出口導管112の熱を別の媒体、例えば水のような別の流体に提供する。
図1の例では、熱交換器システムは、熱交換器119と入口導管114及び入口導管112の一部とが容器100の内側に位置するので、容器100内に部分的に包含される。さらに、熱交換器システムは、上述したポンプシステム及び任意の追加の熱交換器のように、入口導管114及び出口導管112の別の部分が容器100の外側に位置するという点で部分的に容器100の外側に位置する。
図1の例でも、溶融燃料塩は容器100内でのみ循環する。すなわち、通常の稼働条件の下、換言すれば装置の破損が生じていない条件の下、溶融燃料塩108は容器100から離れない。
IMSR90はホットセル内に置かれ、ホットセルの機能は、IMSR90内に存在し又はIMSR90内で発生した放射線又は放射線元素がセルの壁を横断することを防止することである。斯かるホットセルのセル壁は参照番号130で示される。出口導管112及び入口導管114はホットセル壁130における開口を通過して二次熱交換器(図示せず)に到達することができ、二次熱交換器は、作動流体の三次ループ(third loop)又は蒸気若しくは気体のような最終的な作動媒体に熱を与える。
原子炉内の溶融燃料塩108の高さは参照番号122によって描かれる。核分裂ガスは、液面112の上方に集まり、容器100内に保持され、又はオフガスライン120を通ってオフガス隔離範囲(図示せず)に移行することが可能とされる。これらオフガスはヘリウム同伴システム(図示せず)によって隔離範囲に移動せしめられうる。
図1のIMSRの寸法の例は直径3.5m高さ7〜9mであり、400メガワットサーマル(最大約200メガワットエレクトリック)の全出力が提供されうる。この出力密度は、5年〜10年くらいの黒鉛寿命ひいてはIMSRの設計寿命を与えるだろう。IMSR90のこれら寸法はIMSR90の輸送及び交換を処理しやすくし、その出力密度は、用いられる任意の黒鉛の長年の使用を可能とする。炉心102及び容器100の形状は円筒でありうる。
図2は、本開示のIMSRの例の頂部のトップダウンビューを示す。図2は、ポンプモータ118及びオフガスライン120を示す。さらに、図2は、原子炉容器100から一次ホットセル壁130を通過する一連の四本の入口導管114及び四本の出口導管114を示す。別個の四対のライン(一対のラインは一本の入口導管114及び一本の出口導管112を有する)が描かれる。しかしながら、斯かるライン(及び関連する熱交換器119)の対の任意の適切な数も本開示の範囲内である。ラインの各対は、熱交換器ユニット106内に包含された熱交換器に接続される。
一次熱交換器をIMSR内に保ち、その設計寿命の後にIMSRを単純に交換する利点は、熱交換器の修理、除去及び/又は交換のための技術が開発される必要がないということである。しかしながら、潜在的な故障及び一次燃料塩と二次冷却材との間の漏出のための計画を作成しなければならない。一次熱交換器ユニット106を独立した複数の熱交換器119に分けることによって、熱交換器119の任意の故障及び/又は溶融燃料塩108の冷却材113への漏出を効果的に管理することができる。
図3は、矢印111によって与えられる方向における入口導管114及び出口導管112を通る二次冷却材塩113の流れを断ち切る切断構成の実施形態を示す。明確化の目的で、一対のライン(一つの入口導管114及び一つの出口導管112)のみが図3に示される。図3の例では、放射線検出器300、例えばガイガーカウンターが、出口ライン112に隣接して設置され、放射性一次燃料塩の出口ライン112内への任意の漏出を検出することができる。予め定められたレベルを超えた放射線が放射線検出器300によって検出されると、放射線検出器301に接続されたコントローラ301が、出口導管112及びその対応する入口導管114を閉じるべく、出口導管112及び入口導管114に接続された遮断機構304を制御する。遮断機構は、今し方閉じられた入口導管114及び出口導管112に接続された個々の熱交換器119(図2では図示せず)を分離する。遮断機構304は入口導管114及び出口導管112に沿った物理的な接続を分断することもできる。遮断機構は任意の適切なタイプの遮断バルブ及び任意の適切なタイプのクリンピング装置を含むことができ、後者は入口導管114及び入口導管112をクリンプして閉じる。さらに、二次冷却材流体113の溶融燃料塩108内への漏出が生じると、漏出は、入口導管114、出口導管112又は両方の中に据え付けられ又はそうでなければ入口導管114、出口導管112又は両方に動作可能に接続された一つ以上の圧力検出器303を使用して圧力降下を測定することによって検出されることができる。一つ以上の圧力検出器はコントローラ301に動作可能に接続され、コントローラ301は、入口導管114、出口導管112又は両方の中で循環する冷却材塩113において圧力降下(又は圧力の任意の異常な変化)が生じたことが特定されると、遮断機構304を遮断することができる。
溶融燃料塩108及び二次冷却材塩113について互換性のある一次担体塩を選択することによって、これら流体の混合を容認することができる。例えば、一次担体塩がLiF−BeF2及び/又はNaF−BeF2である場合、LiF−BeF2及び/又はNaF−BeF2の二次冷却材塩は、僅かな混合の場合、すなわち溶融燃料塩108内に漏出した冷却材塩113の体積が中性子生産及び中性子吸収へのその効果の観点から容認可能である場合、一次担体塩と互換性を有するだろう。多くの、おそらく四対であるが最大10対まで又はより多くの対の入口導管/出口導管(及び対応する熱交換器119)を有することによって、一つ以上の個々の熱交換器のロスは、他の残りの対の入口導管/出口導管が単純に追加の熱交換負荷を負い又はIMSRがその出力定格をわずかに下げることができるので、一次熱交換器ユニット106から冷却材塩113に熱を移す全体的な能力にほとんど影響しない。熱交換器は、より小さな10対の入口/出口又はチューブ束が一つの大きなユニットよりもあまり多くの合計コストを有しないように、スケールメリットがあまり存在しないという点で他の多くのシステムとは異なっている。
図4は、本開示に係るIMSR92の別の実施形態を示す。図1のIMSR90において見られるように、図4のIMSR92は、容器100、反射体104及び炉心102を具備する。加えて、IMSR92は、(採用随意である)制御棒400と、一連の熱交換器ユニット106とを具備する。各熱交換器ユニットは、溶融燃料塩108を熱交換器ユニット106を通して送り込むための駆動シャフト及び羽根車ユニット116を有する。明確化の目的で、シャフト及び羽根車ユニット116を駆動するポンプモータは示されない。同様に明確化の目的で、熱交換器ユニット106を通して冷却材塩を伝播する入口導管及び出口導管は示されない。
熱交換器ユニット106を通して送り込まれる溶融塩燃料108は、バッフル構造402によって炉心102の周囲に向かって下向きに方向付けられる。溶融塩燃料は、容器100の底部に向かって流れ、その後、炉心102のチャネル115を通って上向きに流れる。二つのチャネル115が図4において示されるが、チャネル115の任意の適切な数が本開示の範囲内である。
図5は、図4に示されるMSR92の平面断面図を示す。図5の平面図は八つの熱交換器ユニット106を示し、各々は、入口導管114と、出口導管112と、ポンプシャフト及び羽根車ユニット116とを有する。制御棒400も示される。
図6は、図4のIMSRの側面斜視図を示す。IMSR92は六つの熱交換器ユニット106を具備し、各々は、入口導管114と、出口導管112と、シャフト及び羽根車ユニット116とを有する。熱交換器ユニット106は炉心102の上方で且つ容器の長手方向の軸線の周りに置かれ、長手方向の軸線は制御棒400と平行である。溶融燃料塩108の流れの方向が矢印109によって表される。溶融燃料108は、個々の熱交換器106から出た後、バッフル構造402及び採用随意に隔壁404によって案内されて斜め下に流れ、隔壁404は個々の熱交換器ユニットの出力を隔てる。
溶融燃料塩108の炉心102を通した流れは、種々の実施形態において種々の方向であってよく、例えば図1の実施形態において示されるように上向き又は図4の実施形態において示されるように下向きである。上向き及び下向きの両方の流れ方向にとって利点及び不利な点が存在する。図4に示されるような炉心を通る上向きの流れは、自然循環と同じ方向であるという利点を有するが、一次熱交換器を通した流れを方向付けるためのポンプ(熱交換器ユニットを通して冷却材塩を送り込むポンプ)の使用をわずかに困難にしうる。
本開示のいくつかの実施形態では、ポンプ並びにシャフト及び羽根車のユニットを省略することができ、MSRは、溶融燃料塩108を循環させるのに、代わりに自然循環を使用することができる。この結果、ポンプ並びにシャフト及び羽根車のユニットは、溶融塩燃料108を循環させるのに自然循環で十分である実施形態では、採用随意である。図7は、溶融燃料塩108の自然循環が使用される実施形態を示す。図7のMSR94は、ポンプ又はシャフト羽根車ユニットが必要とされないことを除いて、図6のMSR92と同様である。むしろ、チャネル115内に存在する溶融燃料塩108は、核分裂反応を通して熱くなり、容器100の頂部領域に向かって上向きに流れる。溶融塩は、一旦チャネル115の外側に出ると、冷えて熱交換器105を通って容器100の底部に向かって下向きに流れ始め、容器100の底部において、冷えた溶融燃料塩は再びチャネルに入って加熱される。
図8は、本開示に係るIMSRの別の実施形態を示す。図8のIMSR96は容器100を有し、黒鉛減速材炉心102は、容器100内に置かれ、且つ、黒鉛減速材炉心102内に画定された一つ以上のチャネル115を有することができる。容器100は、容器100の外側に配設された熱交換器ユニット106に接続される。熱交換器ユニット106は複数の熱交換器(図示せず)を含み、各熱交換器は、熱交換器を通して冷却材塩を循環させる入口導管114及び出口導管112を含む。各入口導管114及び出口導管112は冷却材塩ポンプシステム(図示せず)に動作可能に接続される。入口導管114及び出口導管112はホットセル壁130を横断して示される。容器100は導管700及び702を介して熱交換器ユニット106に接続される。ポンプ704が溶融燃料塩706を容器100、チャネル115及び熱交換器106を通して循環させる。図3に示される放射線検出器、圧力検出器303、遮断機構及びコントローラの同一の形態も図8の実施形態に適用することができる。
黒鉛減速材炉心102がその稼働寿命に到達すると、導管700及び702は容器100をIMSRの残りから物理的に切断するように分断されることができる。容器100に取り付けられた導管700及び702の切断部分をシールした後、容器100を格納施設内に配置し、新しい黒鉛減速材炉心を有する新しい容器を導管700及び702に取り付けることができる。
図1〜図8に示されたIMSRの実施形態が、その中で循環する溶融燃料塩(108又は706)を有することが記述された。しかしながら、図1〜図8の実施形態を修正することによって、これら実施形態で示されたIMSRが、溶融燃料塩が包含されたのとは対照的に、炉心102内に包含された固体核燃料で稼働することが可能となる。例えば、図1の実施形態では、溶融燃料塩を燃料のない(核燃料のない)溶融塩に置換することができ、炉心102はTRISO燃料のような固体核燃料を具備することができる。さらに、核分裂ガスが斯かる固体燃料のIMSRでは放出されないので、オフガスライン120の必要性がないだろう。しかしながら、前述したように、シールされた固体燃料炉心を交換可能なIMSRユニットに一体化する発明に対して同様の利点が存在する。
図9は原子力発電所2000の例を示し、原子力発電所2000は、図1、4、6、7及び8に関して上述されたIMSR90、92、94及び96のいずれか一つのようなMRS2002を含む。MSR2002は、熱を発生させ、発生した熱を熱交換器システム2004に提供する。熱交換器システム2004は、容器100内に配置された熱交換機ユニット106を含むことができ、容器100は、図1、4、6及び7に関連して上述された黒鉛減速材炉心102も含む。図8に示されたMSR96に関して、熱交換器システム2004は熱交換器ユニット106を含むことができ、熱交換器ユニット106は、黒鉛減速材炉心102を含む容器100の外側に配設される。加えて、図9の熱交換器システム2004は追加の熱交換器を含むことができ、追加の熱交換器は上記の熱交換器ユニット106から熱を受け取る。図9の原子力発電所2000は最終使用システム2006を含み、最終使用システム2006は熱交換器システム2004から熱を受け取ってその熱を使用して仕事をする。例えば、最終使用システム2006は熱交換器器具を含むことができ、熱交換器器具は、熱交換器システム2004から受け取った熱を、熱を使用する個々の器具に輸送する。斯かる個々の器具はセメント窯を含む。他の実施形態では、最終使用システム2006は蒸気発生器を含むことができ、蒸気発生器は熱交換器システム2004から受け取った熱を使用して蒸気を生成し、蒸気は、発電器に動力を供給するのに使用されうるタービンシステムに動力を供給する。更なる実施形態では、最終使用システム2006は蒸気発生器を含むことができ、蒸気発生器は熱交換器システム2004から受け取った熱を使用して蒸気を生成し、蒸気は、オイルサンドからのビチューメン抽出のために使用される(例えば蒸気アシスト重力排水(steam assisted gravity drainage))。
図10は、本開示の特定の例に係る方法のフローチャートを示す。図10において示された方法は、原子力発電所を稼働する方法である。原子力発電所は、熱(熱エネルギー)を発生させるMSRと、熱交換器システムとを具備する。MSRは、容器と、容器内に置かれた黒鉛減速材炉心と、少なくとも容器内で循環する溶融塩とを具備する。MSRは溶融塩を加熱し、熱交換器システムは溶融塩から熱を受け取る。
図10の方法は、措置1000において、予め定められた稼働条件の下、MSRを稼働させることを含む。措置1002において、MSRは、予め定められた稼働期間の後、停止される。予め定められる稼働期間は、MSRの容器内に置かれた黒鉛減速材炉心の構造的完全性を維持することと、MSRが稼働する稼働条件とに関連して定められる。所与の黒鉛減速材炉心について、予め定められる稼働条件が、黒鉛減速材炉心が低いピークの出力密度及び低い平均出力密度を条件とするように定められるとき、予め定められる稼働期間は、予め定められる稼働条件が、黒鉛減速材炉心が高いピークの出力密度及び高い平均出力密度を条件とするように定められるときよりも長くなるだろう。20メガワットサーマル/m3のピーク出力密度を有するMSRが、全能力で動作するときに約11.5年の予め定められる稼働期間をもたらし、75%の能力で動作するときに約15年の予め定められる稼働期間をもたらす。実際のIMSRの稼働時間(期間)が15年未満であり、このため、20メガワットサーマル/m3よりも高いピーク出力密度を有することが想定される。
措置1004において、停止MSRと、容器の外側に配設された熱交換器システムの任意の部分との間の任意の稼働接続が分断される。このことは、分断された停止MSRをもたらす。措置1004において、MSRに接続されて、容器の外側に配設された熱交換器システムの任意の部分にMSRからの熱を移すのに使用される任意のタイプの導管が分断される。
措置1006において、分断された停止MSRは隔離地域において隔離され、隔離地域は原子力発電所自体又は例えば廃坑等のようなその他の適切な場所である。措置1008において、新しいMSRを、新しいMSRの容器の外側に配設された熱交換器システムの部分の任意の部分に接続することができる。
一旦IMSRの耐用年数(設計寿命)に達すると、原子炉は、例えば、制御棒(停止棒)を使用することによって、又は外部の保管庫に溶融燃料塩108を排出することによって停止される。その後、冷却材ラインをシールし且つ/又はクリンプして、オフガスラインのようなその他のラインと共に切断することができる。これらラインを切断した後、使用済みのIMSR、すなわちIMSR容器と、IMSR容器に取り付けられた残りの全ての導管部分とを例えば頭上クレーンを使用することによって除去することができる。斯かる作業は、放射線レベルが小さくなるための元の場所での冷却期間の後に行われうる。斯かるモードでは、おそらく、一方のユニットが稼働し、他方のユニットが、冷却されて、その後、稼働しているユニットがそのサイクルを終える前に交換されるように、次のユニット(すなわち交換IMSR)が使用済みのIMSRに隣接して設置されることができる。除去のために頭上クレーンを使用することは、一次ホットセルを突き破るためのいくつかの機構を含んでもよい。ポンプモータを用いる場合、ポンプモータは、例えばそれをシャフトから切断することによってリサイクルされることができる一つの構成部品である。ユニットの残りを、現地外、又は原子力発電所の別の地域、もしかすると一次ホットセル内でさえある別の地域に移すことができる。選択肢として、ユニットは、おそらく、いくつかの又は全てのアクチニドがリサイクルのために又は代わりに保管のために除去された後、一次燃料塩自体の短期の保管のために、中期の保管のために、又は長期の保管ためですら使用されうる。このため、ユニットは、内部の黒鉛、一次熱交換器、及びさらには塩自体のための保管庫及び/又は廃棄キャニスター(disposal canister)として機能してもよい。ある時点で、長期の隔離に関する決定がなされなければならないが、可能性として、ユニット全体は、現場に作られた深いボーリング穴のような地下の場所に下ろされ又は安全な長期隔離のために岩塩空洞に輸送されてもよい。
本発明が、できるだけ長い耐用年数を全ての部品から得ようと試みる、しばしば強要される論理に反するので、全般的な経済的実行可能性に対するいくつかのコメントがおそらく役に立つ。利点は、減少した資源償却時間のどんな経済的罰則をも大いに上回ると思われる。第一に、当業者によって理解されるように、原子力発電所自体の寿命を超えた黒鉛の全体的な要求においてほとんど変化がない。第二に、原子炉容器及び/又は一次熱交換器のようなより短い設計寿命を現在のところ有する構成部品は典型的には原子力発電所のコストのわずかな部分を占めるに過ぎない。ORNL4145のようなオークリッジ国立研究所による研究では、原子炉容器及び一次熱交換器のコストは原子力発電所のコストの約10%にすぎなかった。シールされた交換可能なユニットを有することによって可能となる多大な単純化によって、これらアイテムのコストを下げる能力は、下がった償却時間を補って余りあるように思える。減少した研究及び開発コストを織り込むと、この開示された設計の利点が明らかとなるように思われる。
前述では、説明の目的のために、非常に多くの細目が、本実施形態の完全な理解を提供すべく説明された。しかしながら、これら特定の細目が必要とされないことが当業者には明らかだろう。
上述された実施形態は、単なる例であることが意図されている。添付の特許請求の範囲において単に定義された範囲から逸脱することなく、当業者によって特定の実施形態に対する置換、修正及び変更が可能である。