本発明は、ある態様においては、求核性充填剤およびポリアクリロニトリル(PAN)で作成された有機ゲルを前駆体としてカーボンファイバ製造用に使用するカーボンファイバ前駆体の乾湿式紡糸に関し、当該プロセスで製造されるカーボンファイバに関する。
カーボンファイバは、少なくとも92重量%のカーボンを有するファイバとしてしばしば定義され、所望の機械的特性を有し、合成物、織物、機械部品を含む非常に多様な態様で利用される。
概して、異なる前駆体は、異なる特性を有するカーボンファイバを生成する。ポリアクリロニトリル(PAN)カーボンファイバは、PAN前駆体から作成される。異なる前駆体からのカーボンファイバの生成は、異なる処理条件を必要とするが、多くのプロセスの特徴は類似し、これらのプロセスにおいて、カーボンファイバは、安定化された前駆体ファイバの制御された熱分解によって製造される。例えば、前駆体ファイバは、まず、酸化プロセスによって、空気中で約200−400℃で安定化される。不溶解性の安定化されたファイバは、その後、不活性雰囲気内で約1000℃で高温処理に晒され、水素、酸素、窒素および他の非炭素成分を除去する。このステップは、しばしば炭化と呼ばれる。炭化されたファイバは、約3000℃まで、より高温でさらに黒鉛化され、ファイバ方向におけるより高いヤング率およびより高い炭素含有量を達成する。
結果として生じるカーボン/グラファイトファイバの特性は、結晶度、結晶分布、分子配向、炭素含有量、欠陥量などの多くの要因によって影響を受ける。最終的な機械的特性の点においては、カーボンファイバは、超高弾性(>500GPa)、高弾性(>300GPa)、中間弾性(>200GPa)、低弾性(100GPa)および高強度(>4GPa)のカーボンファイバに大まかに分類することができる。カーボンファイバは、最終的な熱処理温度に基づいて、タイプI(2000℃熱処理)、タイプII(1500℃熱処理)およびタイプIII(1000℃熱処理)にも分類することができる。タイプIIPANカーボンファイバは、通常、高強度カーボンファイバであり、多くの高弾性カーボンファイバはタイプIに属する。
ポリアクリロニトリル(PAN)は、カーボンファイバを製造するための前駆体として知られ広く使用されている。PANは、付加重合プロセスを通して、過酸化物およびアゾ化合物などの通常利用されるラジカル開始剤によってアクリロニトリル(AN)から重合することができる。プロセスは、溶液重合プロセスもしくは懸濁重合プロセスである可能性がある。溶液重合は、いったん未反応のモノマーが除去されると、生成されたPAN溶液をファイバ紡糸液として直接使用することができるため、しばしば、望ましい。これは、PANの乾燥プロセスおよび再溶解プロセスを排除する。溶媒は、分子量の増加したPANを生成するために低い連鎖移動係数を有する。通常使用される幾つかの溶媒は、ジメチルスルホキシド、ZnCl2、NaSCNである。しばしば、約5モル%のコモノマー(例えば、メチルアクリレート、ビニルアセテート)が内部可塑剤として組み込まれ、分子間相互作用を低減し、PANポリマーの溶解性およびPAN前駆体ファイバの加工性を改善する。
コモノマーの組み込みは、また、前駆体ファイバおよび結果として生じるカーボンファイバにおける分子配向を増加させるため、カーボンファイバの機械的特性を改善することができることが知られている。幾つかのコモノマー、特に、酸性基(例えば、アクリル酸もしくはイタコン酸)もしくはアクリルアミドを有するコモノマーは、安定化ステップにおける環化反応を容易にし、その目的のために、0.4−1モル%がコポリマーに組み込まれる可能性がある。
従来の湿式紡糸は、乾湿式紡糸と同様に、PAN前駆体ファイバを生成するために広く利用されており、より高いポリマー濃度の液で紡糸し、より良好な機械的特性を有するカーボンファイバを生成する。湿式紡糸においては、PANは、まず、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ソジウムチオシアネートもしくはそれらの混合物などの高極性溶媒へと溶解され、例えば、10−30重量%固体の溶液を形成する。PAN溶液は、その後フィルタ処理されて、押し出し成形される。押し出し成形されたPANは、PAN溶媒および非溶媒で構成される凝固バス(浴槽)を通過する。ファイバは、溶媒が前駆体から拡散するとき固まる。ファイババンドルは、分子配列を達成するために、凝固バスにおいて張力下にある。非溶媒濃度がより高く、凝固バスの温度がより高いと、凝固速度はより速くなる。
湿式紡糸プロセスにおいては、ファイバの外端から中心へと伸長するマクロボイドを防止するために、低凝固速度がしばしば望まれる。低凝固速度は、望ましくないスキン・コア構造の形成をも抑制することができる。
凝固バスにおける溶媒が高濃度である場合、ゲル状態のファイバが形成される。配向はこの状態において達成することができる。PAN前駆体は、異なる温度および組成を有する幾つかのバスを通って、前駆体ファイバにおけるより良好な分子配向を可能とする。バスにおける滞留時間は、10秒ほどの短い時間である可能性がある。
凝固されたファイバは、その後、洗浄され、更に、余分な溶媒を除去して分子配向を増加させるために引き延ばされる。幾つかの態様においては、ファイバは、130℃−150℃の間の温度で、蒸気、高温プレート、加熱されたゴデットもしくはグリセロールバスを利用することによって延伸される。引張特性におけるさらなる増加は、引張率が増加するにつれて観察される。
種々の既知の、乾湿式紡糸、およびカーボンファイバの乾湿式紡糸用の、カーボンファイバ製造システムおよびプロセスが存在する。その幾つかの例は、これらの例示的な米国特許および特許出願(米国特許7,906,208;7,425,368;6,852,410;6,290,888;6,242,093;5,968,432;5,234,651;3,996,321;3,842,151;3,767,756および3,412,191)にあり、そのすべてが、本明細書に全ての目的のために完全に組み入れられる。
幾つかの実施形態においては、本発明は、カーボンファイバの製造用の前駆体に関し、前駆体は、求核性ポリマー充填剤およびポリアクリロニトリル材料(PAN)で作成された有機ゲルを含む。
幾つかの実施形態においては、有機ゲルは、熱可逆性有機ゲルである。それは、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒へと充填されるか溶解した形式で提供されてもよい。
さらなる一実施形態においては、本発明は、カーボンファイバの製造用プロセスを提供し、当該プロセスは、紡糸装置で、紡糸フィラメントを生成するために上記で定義された前駆体を用いて紡糸液からフィラメントを紡糸するステップと、延伸されたフィラメントを生成する紡糸されたフィラメントを延伸するステップと、安定化されたフィラメントを生成する延伸されたフィラメントを安定化するステップと、カーボンファイバを生成する安定化されたフィラメントを炭化するステップと、を含む。
有機ゲルが熱可逆性有機ゲルである実施形態においては、上記プロセスは、複数穴紡糸口金を有し、かつ空気間隙を有するバスから間隔をあけられた紡糸ヘッドを提供するステップと、加熱素子で材料のゲル形成温度以上の温度へと紡糸ヘッドおよび紡糸口金を加熱するステップと、有機ゲルを流動性材料として紡糸ヘッドへと導入するステップであって、有機ゲルはそのゲル形成温度以上であるステップと、ゲルが紡糸ヘッドとバスとの間の空気間隙を形成し始めるように、紡糸ヘッドを出る材料をゲル転移温度以下に冷却することを可能にするステップであって、ゾル・ゲル転移温度は材料が紡糸ヘッド内で液体状態であるように十分に低く、材料が紡糸ヘッドから離れるときにゲルを形成するほど十分に高い、ステップと、をさらに含む乾湿式紡糸プロセスであってもよい。
上述の実施形態においては、転相もしくは凝固前に、ファイバはゲル状態で延伸されてもよい。
本発明の実施形態は、乾湿式紡糸プロセスで作成されたカーボンファイバおよびプロセスにも関連し、乾湿式紡糸プロセスは求核性ポリマー充填剤およびポリアクリロニトリル(PAN)または、コポリマーもしくはそのターポリマーで作成された有機ゲルを前駆体として利用し、例えば、当該カーボンファイバから作成されて増強されたカーボンファイバなどの態様に関連する。
本発明は、幾つかの実施形態においては、本発明に従うあるプロセスが、PAN/充填剤前駆体からフィラメントを紡糸するステップと、紡糸されたフィラメントを延伸するステップと、延伸されたフィラメントを安定化するステップと、安定化されたフィラメントを炭化するステップと、(任意で炭化されたフィラメントを黒鉛化するステップと)カーボンファイバを生成するステップと、を含む、プロセスを開示する。
複数の凝固ステップ、複数の延伸ステップおよび/もしくは複数の炭化ステップが使用されてもよい。
本発明が如何にして効果を得るかが、例示の目的のためだけに、添付の図面を参照して以下に記述され、類似部分は同一の参照番号によって言及される可能性がある。
本発明に従うプロセスの概略を図で示す。
本発明に従うプロセスの概略を図で示す。
発明の詳細な説明
有機ゲルのポリアクリロニトリルコンポーネントに関して、“PAN”は、PAN/MA(PAN/メチルアクリレート)およびPAN/MA/IA(PAN/メチルアクリレート/イタコン酸)を含むがそのいずれにも限定はされない、一つ以上のコモノマー(例えば、ターポリマー)を有するポリアクリロニトリルのホモポリマーおよびコポリマーを含む。上記で説明されたように、約5モル%までのコモノマー(例えばメチルアクリレートおよびビニルアセテート)が内部可塑剤として組み込まれ、分子間相互作用を低減し、PANポリマーの溶解性およびPAN前駆体ファイバの加工性を改善して、前駆体ファイバおよび結果として生じるカーボンファイバにおける分子配向を増加させることによって、カーボンファイバの機械的特性を改善する。幾つかのコモノマー、特に、酸性基(例えば、アクリル酸もしくはイタコン酸)またはアクリルアミドを有するコモノマーは、その後の安定化ステップで環化反応を容易にし、この目的のために、0.4−1モル%がコポリマーに組み込まれる可能性がある。分子量に関して、ゲル形成およびゲル紡糸は、>500,000の重量平均分子量を有するPANについてのみ、超高分子量の線形PANで報告されており(米国特許4883628(Kwock)を参照)、実施形態においては、1,000,000−4,000,000(例えば、1,500,000−2,500,000)であり、また、選択された溶媒もしくは分散剤におけるPANの濃度もしくは固体充填は比較的狭い範囲であり(例えば、2−15重量%)、推奨温度は、例えば、DMSOなどの溶媒もしくは分散剤の沸点に望ましくなく近い、ゲルが押し出し成形される130−200℃である。本明細書で使用されるPANホモポリマーもしくはコポリマーの分子量は、幾つかの実施形態においては、従来の織物ファイバの形成用に使用されるものよりも大きいが、Kwockによって使用された超高分子量等級(例えば、80,000−150,000の重量平均分子量、多くの実施形態においては、100,000)よりは小さい。この範囲内の分子量を有するPANホモポリマーもしくはコポリマーは、溶媒もしくは分散剤に溶解されるか分散される場合、自発的にゲルを形成しない可能性があるが、当該場合においては、求核性ポリマー充填剤によってゲルを形成するために誘発され、例えば、ここで、この充填剤は、ファイバに押し出されたらファイバ方向に配向される半固体ポリマーである。より低い分子量等級のPANの利用は、溶媒もしくは分散剤におけるPANのより高い固体充填を可能にする。
求核性ポリマー充填剤は、カルボン酸含有サブユニット、アルコールサブユニット、フェノール含有サブユニット、アミン含有サブユニットおよび/もしくはチオール含有サブユニットなどの求核性サブユニットを有する、並びに/或いはこれらの二つ以上の組み合わせを有する有機化合物であってもよい。特定の求核性ポリマー充填剤は、例えばフェニルもしくは置換されたフェニルなどのアリールに結合された窒素に基づくか、第一級および第二級脂肪族アミノ基に基づく。例えば、充填剤は、ポリアニリン(PANI)もしくは脂肪族ポリエーテルジアミン、例えば、市販のJEFFAMINE(商標)脂肪族ポリエーテルジアミンであってもよい。当該ジアミンは、第一級もしくは第二級アミノ基を有してもよく、アミノ基に隣接するメチル基を有してもよく、例えば、ポリエチレングリコールでキャップされた酸化プロピレンなどの、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシテトラメチレン単位などのオキシアルキレン単位の繰り返しを有してもよい。例えば、それらは、次の化学式で構成されてもよい。
ここで、xは2から100(例えば、数百、数千もしくはそれ以上の分子量を与える30−60)であってもよい。本発明の有機ゲルの実施形態は、PANおよびPANI、PANコポリマーを組み込み、例えば、PAN/MA、PANI、PAN/MA/IA、PANIなどの酸性基を有するコモノマーを含み、後者のバリアントは上記で説明されたように、その後の安定化における環化反応を容易にする。
幾つかの実施形態においては、有機ゲルは、PAN(粉末形状のポリアクリロニトリル)に対してPANI重合体(エメラルジン塩基形式におけるポリアニリン)を加えることによって作成され、任意にPANのコポリマー(例えばPAN/MA,PAN/MA/IA)を含む。コンポーネントは、例えば、DMF、DMSOもしくはDMAC(ジメチルアセトアミド)などの高極性溶媒に双方の材料を溶解させることによって組み合わせられる。結果として生じる有機ゲルは熱可逆性有機ゲルである。
ある特定の実施形態においては、有機ゲルは、紡糸ヘッドへの導入用にPANIおよびPAN、PAN/MAもしくはPAN/MA/IAで生成され、これは0.25−2重量%を有しており、例えば、PAN、PAN/MAもしくはPAN/MA/IAにおける0.5−1.0重量%のPANIであり、極性溶媒(例えば、DMSO(ジメチルスルホキシド)溶媒)において合計10−30重量%の固体充填を有する。“固体充填”は、溶媒以外の紡糸液における材料の重量である。
ある実施形態においては、ゲル形成は、有機ゲル材料を加熱することによって逆戻りする。ある態様においては、ゾル(溶液)・ゲル転移温度は、例えば、PANIなどの充填剤の充填を低下させることによって低下する。したがって、例えばPANIなどの充填剤の充填は、例えば、0.5−1重量%の範囲に調整することができ、ゾル・ゲル転移温度を上昇させたり低下させたりする。ある実施形態においては、ゾル・ゲル転移温度は、材料が紡糸ヘッドにおいて液体状態にあるように十分に低くあるべきであって、一方で、材料が紡糸ヘッドから離れるにつれてゲルを形成するように十分に高くある(例えば、約70−130℃未満、例えば、約80−90℃、例えば、約80℃)べきである。ゲル状態への逆戻りを容易にするために、幾つかの実施形態においては、押し出し成形がゾル・ゲル転移点に近い温度であり、より低い温度の空気へとファイバが実質的に押し出し成形されるやいなや、ゲル状態に逆戻りを開始する。出願人は、幾つかの実施形態においては、ゾル・ゲル転移温度が70から100℃に変化することを観察してきた。材料は、この温度以上に加熱されて、紡糸ヘッドへと注がれる。金属で構成される紡糸ヘッドおよび紡糸口金は、その後、転移温度(材料の組成に依存して変化する)よりもわずかに高い温度で保持されてもよい。いったん溶液が紡糸ヘッドの外へと押し出されると、紡糸ヘッドと第一の下流処理ステーション(例えば、凝固バス)の間の領域である空気間隙へと入る。空気間隙は、大気温度および大気圧で維持される。材料は、熱源(もしくは紡糸ヘッド)から離れ、ゾル・ゲル転移温度以下の温度へと冷える。事実上、材料は、冷えるにつれて、空気間隙において溶液からゲルへと転移する。
図1は、カーボンファイバを生成するための本発明に従うプロセス10におけるステップを概略的に示す。有機ゲル(“有機ゲル”)は、PANおよび求核性ポリマー充填剤で作成されてもよい。溶媒を伴うこの有機ゲルは、有機ゲルから作成される紡糸フィラメントを生成する乾湿式紡糸プロセス(“乾湿式紡糸”)用の“紡糸液”を提供する。乾湿式紡糸は、フィラメントから溶媒を除去して、ファイバ形成を容易にするための一つ以上の凝固バスを含む。
フィラメントは、延伸される(“延伸”)か、または、引き延ばされて、PANおよび求核性ポリマー充填剤の所望の分子配列を達成し、間隔を減少させる。
延伸されたファイバは、その後安定化される(“安定化”)。安定化は、配向されたPANポリマーの環化、脱水素化および酸化を含む。安定化は、例えば空気中などで加熱しながら張力下にファイバを配置するステップを含む可能性がある。
安定化されたファイバは、不活性雰囲気における高温処理で安定化されたファイバの熱分解(“炭化”)によってカーボンファイバへと変換される(炭化される)。その後、任意で、炭化ステップよりも高い温度に加熱するステップを利用して黒鉛化される(“黒鉛化”)。
流体形式のゲルは、乾湿式紡糸プロセスで使用される複数穴紡糸口金を備えた紡糸ヘッドへと導入される。有機ゲルは、流動性非ゲル状流体材料として導入される。有機ゲルは、材料のゲル形成温度以上の温度まで、紡糸ヘッドおよび紡糸口金を加熱素子で加熱することによって予め加熱される。紡糸ヘッドを出ると、材料の温度は、ゲル転移温度以下に低下し、ヘッドとバスとの間の空気間隙内の空気においてゲルが形成し始める。材料の凝固前に有機ゲルをゲル化することによって、材料の線形噴射速度(紡糸ヘッドからのポリマー押し出し成形速度)は増加し、紡糸段階中のファイバの延伸が可能となりうる。この線形噴射速度および紡糸動作中のファイバを延伸する能力の向上は、ポリマー配列、即ち、ファイバの長手方向におけるPAN配向程度の向上を容易にする。線形噴射速度および延伸の向上は、ファイバのマクロボイドのパーセンテージを減少もさせる。紡糸ヘッドから離れる材料がゲル化すると、転相もしくは凝固の前に、ゲル状態で凝固バスにおいて延伸が可能となる。
幾つかの既知のプロセスにおいては、安定化は、ファイバ製造プロセス全体において最も時間のかかるステップであり、即ち、最も非能率的なステップである可能性がある。これらのプロセスにおいては、ファイバは、張力をかけながら空気中で加熱され、この段階で3つの反応(環化、酸化および脱水素化)が生じ、この3つの反応は、全て発熱反応であって、加熱が速すぎる場合ポリマー分解を引き起こす可能性がある。ファイバが適切に配向されていない場合、例えば、ファイバが螺旋もしくはランダムコイル構造にあって、平面ジグザグ構造でない場合、所望の環化は、望ましくないポリマー分裂につながる4もしくは5の繰り返しユニットの後終わる可能性がある。“繰り返しユニット”は、PANポリマーにおける連続的に連結したサブユニットである。
ファイバ作成プロセスにおける本発明に従う有機ゲルの利用は、安定化温度および時間の減少を含む幾つかの方法で安定化プロセスにおけるファイバの滞留時間を減少させる。ある実施形態においては、これは、比較的低温で環化(PANの梯子形ポリマー形成)を開始することによって達成される。
本発明のある実施形態においては、本発明に従う有機ゲルを利用する紡糸口金によって生成されるファイバは、安定化炉において、室温から毎秒1−2℃の速度で、220℃から300℃の間の最大温度まで加熱される。最大温度は、具体的なPANファイバ前駆体および求核性ポリマー充填剤に依存して変化する。これは、延伸されたPANファイバの発熱ピーク最大温度によって決定される。
上述されたような求核性ポリマー充填剤および本発明に従う当該充填剤の比較的低い充填を利用する、本発明に従う有機ゲルの利用は、所望のイオン環化を引き起こす可能性がある。これは、(当該充填剤を利用しない既知のあるプロセスと比較して)安定化時間および安定化温度を減少させる。本発明に従う求核性充填剤の利用は、より効率的な環化を生成することができる。所望の環化は分子間ではなく分子内で開始され、より多数の繰り返しユニットの環化を与えると、(いかなる特定の理論もしくはメカニズムに拘束されたり束縛されたりすることなく)信じられている。具体的な一つの場合においては、PAN/MAコポリマー粉末で開始し、カーボンファイバを製造すると、最大安定化温度は、約290℃であった。求核性充填剤がPAN/MAに添加されたとき、最大発熱は実質的に減少し、ある場合において約270℃に減少し(PANIの0.5重量%の充填を利用)、また、約245℃に減少した(市販のJEFFAMINE(商標)ED−600脂肪族ポリエーテルジアミンの0.5重量%の充填を利用)。JEFFAMINE 600は、ほぼMW600の酸化プロピレンキャップされたポリエチレングリコールから得られた脂肪族ポリエーテルジアミンであって、以下に示される化学式で構成され、ここで、x、yおよびzは示された分子量を与えるために選択される。環化温度のこの低下は、安定化時間を減少させ、全体のファイバ生成コストをより低くすることができる。
図2は、本発明に従うプロセス20を概略的に示す。本発明に従う紡糸液は、容器21で加熱されて、紡糸ヘッド22へと移される。紡糸溶液は、紡糸ヘッド22から通って、フィラメント22bを形成する。これらのフィラメント22bは、凝固システム23へと空気間隙を通って通過し、その後、延伸システム24へと向かう。延伸システム24から、ファイバは、安定化システム26へと導入される。安定化に続いて、ファイバは、出力がカーボンファイバCFである炭化システム28において炭化される。
ポンプシステム21aは、加熱された容器21から紡糸ヘッド22へと紡糸液をくみ出す。具体的な一実施形態においては、紡糸液は、PANI/PAN/DMSOの混合液である。PANIは、PANにおいて0.5から1.0重量%の充填であり、一方、DMSOにおける固体充填の全体の重量%は典型的には、20−30重量%である。紡糸液は、約100mL/分の速度および80℃の温度でくみ出される。
紡糸フィラメント22bは、複数穴紡糸口金22aを通る紡糸ヘッド22を出て、室温、例えば、約25℃で保持される空気間隙22cへと流れる。フィラメントは空気間隙で冷却されて、溶液からゲルに変わる。フィラメントは、プランジャシステム22dによって紡糸口金22aを通って押し出される。
結果として生じるファイバは、バスにおけるガイドローラ23dおよびバス上の延伸モータ23eと23fを備える3つの凝固バス23a、23b、23cを通過する。ファイバは、その後、巻き取りローラ23gから延伸システム24の繰出し(ペイアウト)スプール24aへと送り込まれる。凝固バスは、極性紡糸溶媒および非溶媒(例えば水)の混合物を含む。各バスの温度は、ほぼ室温に維持され、極性紡糸溶媒の拡散率を減少させる。延伸モータ23eおよび巻き取りローラ23fのRPMは、4から9の間の延伸率を与えるように調整される。ファイバは、その後、延伸システム24へとドライヤを通って通過する。
繰出しスプール24aから、ファイバは、ガイドローラ24bを回って、加熱された延伸ローラ24dによって一連の加熱ブロック24cを通って、引き込まれる。延伸されたファイバは、その後、巻き取りスプール24e上に集められる。一態様においては、各延伸装置は、加熱されたゴデット延伸ローラ24dと高温プレートシュー24cを有する。加熱ブロックおよび加熱されたローラの温度は、100℃から180℃の間である。ローラのRPMは、典型的には、5から12の延伸率を与えるように調整される。
安定化システム26における繰出しスプール26bは、延伸システム24における巻き取りローラ24eからファイバを受け取る。ファイバは、安定化炉26aを通って張架ステーション26cによって引っ張られる。炉の温度は、200から300℃の間の最大温度まで、1から2℃/分で増加する。加熱速度および最大温度は、発熱性自己加熱によるPANの分解を回避するように調節される。最大温度は、PAN前駆体に依存し、(本明細書において、及び以下に記述されるように)求核性充填剤の添加によって減少する。
引張は、各張架ステーションにおけるスプールの回転速度、RPMを調整することによって制御され、ファイバのエントロピック収縮が軽減され、ファイバは最大30%歪みで炉へと引き込まれる。
安定化されたファイバの熱分解は、PAN前駆体をカーボンファイバに変換する。非炭素原子は、炭化/黒鉛化炉システム28においてファイバを加熱することによって、HCNおよびN2などの小さい有機物の形式で放出される。繰出しシステム28aは、安定化システム26からファイバを受け取る。
安定化されたファイバは、低温炭化炉28bにおいて最大温度800℃まで不活性雰囲気中で熱処理される。ファイバは、ファイバを5℃/分の最大速度で加熱するために、加熱された張架ローラ28cによって炉を通って延伸される。ファイバは、その後、最大温度1600℃で高温炉28dを通って、張架ローラ28cによって延伸される。これは、カーボンファイバに最大引張強度を与える。
弾性の最大化が必要とされる場合、カーボンファイバは、さらに黒鉛化される。黒鉛化は、加熱された張架ローラ28cによって超高温炉28eを通ってカーボンファイバを延伸することによって実施されてもよい。カーボンファイバは、最終的には、巻き取りシステム28fによってスプール上に集められる。
プロセス20の本実施形態によって作成された最終的なカーボンファイバは、95−98%炭素である。カーボンファイバは、5μmの直径で長さ当たりのおおよその重量の値が0.446g/mである可能性がある。