以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
図1は、実施の形態に係る車両用灯具の制御装置の制御対象である車両用灯具を含む、前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。前照灯ユニット210は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1つずつ配置された構造を有する。右側の前照灯ユニット210R及び左側の前照灯ユニット210Lは実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明する。前照灯ユニット210は、車両前方側に開口部を有するランプボディ212と、この開口部を覆う透光カバー214とを有する。ランプボディ212は、車両後方側に着脱カバー212aを有する。ランプボディ212と透光カバー214とによって灯室216が形成される。灯室216には車両用灯具としての灯具ユニット10が収納される。
灯具ユニット10には、灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が接続される。ランプブラケット218は、ランプボディ212に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合する。灯具ユニット10の下面には、スイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定される。スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定される。ユニットブラケット224には、レベリングアクチュエータ226が接続される。レベリングアクチュエータ226は、例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成される。灯具ユニット10は、ロッド226aが矢印M,N方向に伸縮することで後傾姿勢、前傾姿勢となり、これにより灯具ユニット10の光軸Oのピッチ角度(以下では適宜、この角度を光軸角度θoという)を下方、上方に向けるレベリング調整を実行することができる。
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18と、光源14と、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17と、投影レンズ20とを備える。光源14としては、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどを使用可能である。リフレクタ16は、少なくとも一部が楕円球面状であり、光源14から放射された光を反射する。光源14からの光及びリフレクタ16で反射した光は、一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へ導かれる。回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒部材であり、切欠部と複数のシェードプレート(図示せず)とを備える。切欠部又はシェードプレートのいずれかが光軸O上に移動されて、所定の配光パターンが形成される。投影レンズ20は、平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
図2は、前照灯ユニット、車両制御ECU及びレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、図2では前照灯ユニット210R及び前照灯ユニット210Lをまとめて前照灯ユニット210としている。また、レベリングECU100や車両制御ECUは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図2ではそれらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具の制御装置としてのレベリングECU100は、受信部102と、制御部104と、送信部106と、情報保持部としてのメモリ108と、傾斜センサとしての加速度センサ110とを備える。レベリングECU100は、例えば車両300のダッシュボード付近に設置される。なお、レベリングECU100の設置位置は特に限定されず、例えば前照灯ユニット210内に設けられてもよい。また、加速度センサ110は、レベリングECU100の外に設けられてもよい。
レベリングECU100には、車両制御ECU302やライトスイッチ304が接続される。車両制御ECU302には、ステアリングセンサ310、車速センサ312、ナビゲーションシステム314等が接続される。車両制御ECU302は、これらのセンサ等から各種情報を取得して、レベリングECU100に送信することができる。例えば、車両制御ECU302は、車速センサ312の出力値をレベリングECU100に送信する。これにより、レベリングECU100は、車両300の走行状態を検知することができる。ライトスイッチ304は、運転者の操作内容に応じて、前照灯ユニット210の点消灯を指示する信号やオートレベリング制御の実行を指示する信号等を、電源306、車両制御ECU302、レベリングECU100等に送信する。
車両制御ECU302やライトスイッチ304からレベリングECU100に出力される信号は、受信部102によって受信される。また、受信部102は、加速度センサ110の出力値を受信する。受信部102が受信した信号は、制御部104に送信される。制御部104は、加速度センサ110の出力値を用いて灯具ユニット10の光軸角度θoを調節する。
制御部104は、角度演算部1041、調節指示部1042、変化量判定部1043、推定実行指示部1044及び簡易エイミング処理部1045を有する。角度演算部1041は、加速度センサ110の出力値と必要に応じてメモリ108が保持する情報を用いて車両300のピッチ角度情報を生成する。調節指示部1042は、角度演算部1041で生成されたピッチ角度情報を用いて灯具ユニット10の光軸角度θoを調節する調節信号を生成する。制御部104は、生成した調節信号を送信部106を介してレベリングアクチュエータ226に出力する。レベリングアクチュエータ226は、受信した調節信号をもとに駆動し、灯具ユニット10の光軸Oをピッチ角度方向について調整する。制御部104が行うオートレベリング制御の内容、及び制御部104の各部の動作については、後に詳細に説明する。
車両300には、レベリングECU100、車両制御ECU302及び前照灯ユニット210に電力を供給する電源306が搭載される。例えば、ライトスイッチ304の操作により前照灯ユニット210の点灯が指示されると、電源306から電源回路230を介して光源14に電力が供給される。
続いて、上述の構成を備えるレベリングECU100によるオートレベリング制御について詳細に説明する。図3は、車両に生じる加速度ベクトルと、傾斜センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
例えば、車両後部の荷室に荷物が載せられたり後部座席に乗員がいる場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷室から荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。車両が後傾姿勢あるいは前傾姿勢になると、灯具ユニット10の照射方向も上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、レベリングECU100は、加速度センサ110の出力値から車両のピッチ方向の傾斜角度又はその変化を導出し、光軸角度θoを車両姿勢に応じた角度とする。車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで、車両姿勢が変化しても前方照射光の到達距離を最適に調節することができる。
加速度センサ110は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ110は、任意の姿勢で車両300に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。このため、加速度センサ110は、図3に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、加速度センサ110は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。加速度センサ110は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。
加速度センサ110は車両300に対して任意の姿勢で取り付けられるため、加速度センサ110が車両300に搭載された状態における加速度センサ110のX軸、Y軸、Z軸(センサ側の軸)は、車両300の姿勢を決める車両300の前後軸、左右軸及び上下軸(車両側の軸)と必ずしも一致しない。このため、制御部104は、加速度センサ110から出力される3軸の成分、すなわちセンサ座標系の成分を、車両300の3軸の成分、すなわち車両座標系の成分に変換する必要がある。加速度センサ110の軸成分を車両300の軸成分に変換して車両300の傾斜角度を算出するためには、車両300に取り付けられた状態の加速度センサ110の軸と車両300の軸と路面角度との位置関係を示す基準軸情報が必要である。そこで、制御部104は、例えば以下のようにして基準軸情報を生成する。
まず、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に対して平行になるよう設計された路面(以下では適宜、この路面を基準路面という)に置かれ、第1基準状態とされる。第1基準状態では、車両300は運転席に1名乗車した状態とされる。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作やCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、初期化信号が送信される。制御部104は、初期化信号を受けると所定の初期化処理を実行する。初期化処理では、初期エイミング調整が実施され、灯具ユニット10の光軸Oが初期角度に合わせられる。また、制御部104は、加速度センサ110の座標系と車両300の座標系と車両300が位置する基準路面(言い換えれば水平面)との位置関係を対応付ける。
すなわち、制御部104は、第1基準状態における加速度センサ110の出力値を、第1基準ベクトルS1=(X1,Y1,Z1)として、制御部104内のRAMあるいはメモリ108に記録する。これにより、加速度センサ側の軸と、基準路面との位置関係が対応付けられる。次に、車両300は、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態とされる。例えば、第1状態にある車両300の前部又は後部に荷重が掛けることで、車両300を第2状態とすることができる。制御部104は、車両300が第2状態にあるときの加速度センサ110の出力値を第2基準ベクトルS2=(X2,Y2,Z2)としてRAMあるいはメモリ108に記録する。
第1基準ベクトルS1を取得することで、加速度センサ110のZ軸と車両300の上下軸とのずれを把握することができる。また、第1基準ベクトルS1に対する第2基準ベクトルS2の成分の変化から、車両300の前後、左右軸と加速度センサ110のX、Y軸のずれを把握することができる。これにより、加速度センサ側の軸と車両側の軸の位置関係が対応付けられ、その結果、車両側の軸と基準路面の位置関係が対応付けられる。制御部104は、加速度センサ110の軸と、車両300の軸と、基準路面の角度との位置関係を対応付けた変換テーブルを、基準軸情報としてメモリ108に記録する。
加速度センサ110から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、制御部104の角度演算部1041が基準軸情報を用いて車両300の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換する。したがって、加速度センサ110の出力値からは、車両前後方向、車両左右方向及び車両上下方向の加速度を検出可能である。
車両停止中の加速度センサ110の検出値からは、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを導出することができる。すなわち、加速度センサ110の出力値から、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度θrと、路面に対する車両300の傾斜角度である車両姿勢角度θvとを含む、水平面に対する車両300の傾斜角度である合計角度θを導出可能である。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θv及び合計角度θは、車両300のピッチ方向の角度である。
オートレベリング制御は、車両300のピッチ方向の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両300の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。すなわち、オートレベリング制御では、車両姿勢角度θvが変化した場合に灯具ユニット10の光軸角度θoが調節され、路面角度θrが変化した場合に灯具ユニット10の光軸角度θoが維持されることが望まれる。これを実現するためには、合計角度θから車両姿勢角度θvについての情報を抽出する必要がある。
これに対し、制御部104は、オートレベリングの基本制御として、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定し、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定して、合計角度θから車両姿勢角度θvを導出する。車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。また、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。
例えば、上述した初期化処理において、角度演算部1041は、生成された基準軸情報を用いて、第1基準状態における加速度センサ110の出力値を車両300の3軸成分に変換し、これらの値を路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてRAMに記憶して保持する。また、必要に応じてこれらの基準値をメモリ108に書き込む。
車両300が実際に使用される状況において、制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化に対してレベリングアクチュエータ226の駆動を回避する。制御部104は、調節指示部1042が調節信号の出力を回避するか光軸角度θoを維持する維持信号を出力することで、レベリングアクチュエータ226の駆動を回避することができる。調節信号の出力の回避には、調節信号を生成しないことで出力を回避することも含まれる。そして、角度演算部1041が、車両停止時に加速度センサ110の出力値から、現在(車両停止時)の合計角度θを算出する。次いで、角度演算部1041は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して、路面角度θrを得る(θr=θ−θv基準値)。そして、得られた路面角度θrを、新たな路面角度θrの基準値として、RAMに保持している路面角度θrの基準値を更新する。
あるいは、角度演算部1041は、車両停止時に走行前後での合計角度θの差分Δθ1(合計角度θの変化量)を算出する。そして、路面角度θrの基準値に差分Δθ1を算入して新たな路面角度θrの基準値を算出し(新θr基準値=θr基準値+Δθ1)、路面角度θrの基準値を更新する。角度演算部1041は、次のようにして差分Δθ1を算出することができる。すなわち、角度演算部1041は、車両300の発進直後に、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値として保持する。そして、角度演算部1041は、車両停止時に、現在(車両停止時)の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を算出する。
これにより、路面角度θrの変化と推定される車両走行中の合計角度θの変化が、路面角度θrの基準値に取り込まれる。前記「車両走行中」は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときから、車速センサ312の検出値が0になるまでの間である。また、前記「車両停止時」は、例えば車速センサ312の検出値が0となった後、加速度センサ110の出力値が安定したときである。前記「発進直後」は、例えば車速センサ312の検出値が0を超えたときからの所定期間である。前記「発進直前」は、例えば車速センサ312の検出値が0を超えたときから所定時間前の時間である。前記「車両走行中」、「車両停止時」、「発進直後」及び「発進直前」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
また、制御部104は、車両停止中の合計角度θの変化に対して光軸角度θoを調節する調節信号を出力する。具体的には、車両停止中、角度演算部1041は加速度センサ110の出力値から現在の合計角度θを所定のタイミングで繰り返し算出する。算出された合計角度θはRAMに保持される。そして、角度演算部1041は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを得る(θv=θ−θr基準値)。また、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として、RAMに保持している車両姿勢角度θvの基準値を更新する。あるいは、角度演算部1041は、車両停止中に現在の合計角度θと保持している合計角度θの基準値との差分Δθ2(合計角度θの変化量)を算出する。このとき用いられる合計角度θの基準値は、例えば、車両300の停止後最初の差分Δθ2の算出では差分Δθ1の算出時に得られた合計角度θ、すなわち車両停止時の合計角度θであり、2回目以降の場合は前回の差分Δθ2の算出時に得られた合計角度θである。そして、角度演算部1041は、車両姿勢角度θvの基準値に差分Δθ2を算入して新たな車両姿勢角度θvの基準値を算出し(新θv基準値=θv基準値+Δθ2)、車両姿勢角度θvの基準値を更新する。
これにより、車両姿勢角度θvの変化と推定される車両走行中の合計角度θの変化が、車両姿勢角度θvの基準値に取り込まれる。前記「車両停止中」は、例えば加速度センサ110の検出値が安定したときから車速センサ312の検出値が0を越えたときである。前記「車両停止中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
そして、調節指示部1042は、算出された車両姿勢角度θvあるいは更新された新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて、光軸角度θoの調節信号を生成する。例えば、調節指示部1042は、予めメモリ108に記録されている車両姿勢角度θvと光軸角度θoとを対応付けた変換テーブルを用いて光軸角度θoを決定し、調節信号を生成する。調節信号は、送信部106からレベリングアクチュエータ226へ出力される。
(光軸角度の補正処理)
上述したように、オートレベリングの基本制御では合計角度θから車両姿勢角度θvあるいは路面角度θrの基準値が減算されて、基準値が繰り返し更新される。あるいは合計角度θの変化の差分Δθ1が路面角度θrの基準値に、差分Δθ2が車両姿勢角度θvの基準値にそれぞれ算入されて、基準値が繰り返し更新される。このため、加速度センサ110の検出誤差が基準値に累積していき、オートレベリング制御の精度が低下していくおそれがある。そこで、制御部104は、車両走行中に得られる加速度センサ110の出力値に基づいて車両姿勢角度θvを推定し、推定された車両姿勢角度θvに基づいて光軸角度θoを補正する。以下、光軸角度θoの補正処理について詳細に説明する。
図4(A)及び図4(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。図4(A)は、車両姿勢角度θvが0°の状態を示し、図4(B)は、車両姿勢角度θvが0°から変化した状態を示している。また、図4(A)及び図4(B)において、車両300が前進したときに生じる運動加速度ベクトルα及び合成加速度ベクトルβを実線矢印で示し、車両300が減速若しくは後進したときに生じる運動加速度ベクトルα及び合成加速度ベクトルβを破線矢印で示している。図5は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度の関係を示すグラフである。
車両300は路面に対して平行に移動する。よって、運動加速度ベクトルαは、車両姿勢角度θvによらず路面に対して平行なベクトルとなる。また、図4(A)に示すように、車両300の車両姿勢角度θvが0°であった場合、理論上は車両300の前後軸L(あるいは加速度センサ110のX軸)は路面に対して平行となるため、運動加速度ベクトルαは、車両300の前後軸Lに平行なベクトルとなる。よって、車両300の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際に、加速度センサ110によって検出される合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、車両300の前後軸Lに対して平行な直線となる。
一方、図4(B)に示すように、車両姿勢角度θvが0°でない場合、車両300の前後軸Lは路面に対して斜めにずれるため、運動加速度ベクトルαは、車両300の前後軸Lに対して斜めに延びるベクトルとなる。よって、車両300の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、車両300の前後軸Lに対して傾いた直線となる。
車両前後方向の加速度を第1軸(X軸)に設定し、車両上下方向の加速度を第2軸(Z軸)に設定した座標に、車両走行中に得られる加速度センサ110の出力値をプロットすると、図5に示す結果を得ることができる。図5において、点tA1〜tAnは図4(A)に示す状態での時間t1〜tnにおける検出値である。点tB1〜tBnは図4(B)に示す状態での時間t1〜tnにおける検出値である。この出力値のプロットには、加速度センサ110の出力値から得られる車両座標系の加速度値をプロットすることが含まれる。
このようにプロットした少なくとも2点から直線又はベクトルを導出し、その傾きを得ることで車両姿勢角度θvを推定することができる。例えば、プロットされた複数点tA1〜tAn,tB1〜tBnに対して最小二乗法や移動平均法等を用いて直線近似式A,Bを求め、当該直線近似式A,Bの傾きを算出する。車両姿勢角度θvが0°の場合、加速度センサ110の出力値からx軸に平行な直線近似式Aが得られる。すなわち、直線近似式Aの傾きは0となる。これに対し、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ110の出力値から車両姿勢角度θvに応じた傾きを有する直線近似式Bが得られる。したがって、直線近似式Aと直線近似式Bとがなす角度(図5におけるθAB)、あるいは直線近似式Bの傾きそのものが、車両姿勢角度θvとなる。よって、車両走行中の加速度センサ110の出力値をプロットして得られる直線又はベクトルの傾きから、車両姿勢角度θvを推定することができる。
そこで角度演算部1041は、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標に、車両走行中に得られる加速度センサ110の出力値をプロットする。そして、プロットした複数点から得られる直線又はベクトルの傾きを用いて車両姿勢角度θvを推定し、推定した車両姿勢角度θvに基づいて車両姿勢角度θvの基準値を補正する。また、調節指示部1042は、推定された車両姿勢角度θv、言い換えれば補正された車両姿勢角度θvの基準値に基づいて光軸角度θoを補正する。
例えば、角度演算部1041は車両姿勢角度θvの基準値を、推定された車両姿勢角度θvに近づけるように補正する。そして、車両姿勢角度θvの推定と車両姿勢角度θvの基準値の補正とを繰り返して、車両姿勢角度θvの基準値を徐々に正しい車両姿勢角度θvに近づけていく。また、調節指示部1042は、角度演算部1041により車両姿勢角度θvの基準値が複数回補正された後に、光軸角度θoが補正された車両姿勢角度θvの基準値に対応する角度となるように調節信号を出力して、光軸角度θoを補正する。これにより、路面角度θrの基準値及び車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し書き換えることで加速度センサ110の検出誤差等が基準値に積み重なって、オートレベリング制御の精度が低下してしまうことを抑制することができる。なお、角度演算部1041は、保持している車両姿勢角度θvの基準値を、推定した車両姿勢角度θvに置き換えてもよい。また、調節指示部1042は、車両姿勢角度θvの基準値の補正毎に光軸角度θoを補正してもよい。
光軸角度θoの補正処理において、角度演算部1041は推定実行指示部1044から推定実行信号を受信すると、上述した直線又はプロットの傾きを用いた車両姿勢角度θvの推定を開始する。加速度センサ110の出力値は、所定の時間間隔で繰り返し制御部104に送信される。推定実行指示部1044は、受信した加速度センサ110の出力値をRAMあるいはメモリ108に記憶する。また、推定実行指示部1044は、記憶した加速度センサ110の出力値のうち、直線又はベクトルの導出に用いることができる出力値の数をカウントし、その数が直線又はベクトルの導出に必要とされる予め定められた数に達したとき、角度演算部1041に推定実行信号を送信する。
推定実行指示部1044は、直線又はベクトルの導出に用いることができる出力値の数をカウントする際に、車両姿勢角度θvの推定精度を低下せしめる走行状態に車両300があったときの加速度センサ110の出力値(以下では適宜、この出力値を誤差要因出力値と称する)をカウント対象から除外する。また、推定実行指示部1044は、カウント対象から除外した出力値に、誤差要因出力値であることを示す情報を付す。角度演算部1041は、RAMあるいはメモリ108に記憶されている加速度センサ110の出力値から誤差要因出力値を除外して直線又はプロットを導出する。角度演算部1041は、誤差要因出力値であることを示す情報の有無に基づいて、誤差要因出力値を除外することができる。これにより、車両姿勢角度θvの推定精度を高めることができる。なお、推定実行指示部1044が誤差要因出力値をRAMあるいはメモリ108から削除することによっても、誤差要因出力値を除外することができる。
車両姿勢角度θvの推定精度を低下せしめる走行状態としては、車両300の曲進状態を挙げることができる。推定実行指示部1044は、加速度センサ110の出力値における車両左右方向の加速度と曲進判定の基準となる基準左右方向加速度との差がしきい値を上回る場合、車両300が曲進状態にあると判断することができる。また、車両姿勢角度θvの推定精度を低下せしめる走行状態としては、車両300の凹凸路走行状態を挙げることができる。推定実行指示部1044は、加速度センサ110の出力値における車両上下方向の加速度と凹凸路走行判定の基準となる基準上下方向加速度との差がしきい値を上回る場合、車両300が所定の凹凸路走行状態にあると判断することができる。また、車両姿勢角度θvの推定精度を低下せしめる所定の走行状態としては、車両300の坂道走行状態を挙げることができる。推定実行指示部1044は、加速度センサ110の出力値における車両前後方向の加速度と車速から算出される車両前後方向の加速度との加速度差が、坂道走行判定しきい値を上回る場合、車両300が所定の坂道走行状態にあると判断することができる。前記「基準左右方向加速度」、「基準上下方向加速度」、「しきい値」及び「坂道走行判定しきい値」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
また、推定実行指示部1044は、記憶された出力値数に基づいた推定実行信号の送信制御に加えて、車両300の走行距離又は走行時間に基づいた推定実行信号の送信制御を実行する。具体的には、推定実行指示部1044は、車両300の直近の発進からの走行距離又は走行時間を計測する。そして、当該走行距離又は走行時間が所定のしきい値を超えたときに、推定実行信号を送信する。推定実行指示部1044は、記憶された出力値数が必要数に達したとき、及び、走行距離又は走行時間が所定のしきい値を超えたときのいずれか早いほうのタイミングで、推定実行信号を送信する。これにより、車両300が車両姿勢角度θvの推定精度を低下せしめる走行状態をとり続けることで、光軸角度θoの補正調節が著しく遅延することを抑制することができる。
なお、推定実行指示部1044は、記憶された出力値数に基づいた推定実行信号の送信制御に代えて、走行距離又は走行時間に基づいた推定実行信号の送信制御を行ってもよい。また、推定実行指示部1044は、走行距離のみを計測してもよいし、走行時間のみを計測してもよい。あるいは、走行距離及び走行時間を計測し、どちらか一方が所定のしきい値を超えたときに推定実行信号を送信してもよい。走行距離と走行時間についての前記「所定のしきい値」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
車両姿勢角度θvの推定精度を高めるべく、角度演算部1041は、直線又はベクトルの傾きを複数回算出し、2回目以降に算出された傾きを用いて車両姿勢角度θvを推定してもよい。具体的には、角度演算部1041は、推定実行指示部1044から推定実行信号を受信すると、直線又はベクトルの傾きを算出するが、傾きを一度算出しただけでは車両姿勢角度θvを推定せず、推定実行指示部1044から送信される次の推定実行信号を待つ。そして、傾きの算出のみを複数回繰り返し、直線又はベクトルの傾きの算出回数が規定回数に達すると、2回目以降に算出した傾き、好ましくは最後に算出した傾きを用いて車両姿勢角度θvを推定する。直線又はベクトルの傾きは、算出を繰り返すことで精度が向上するため、複数回の傾きを算出して車両姿勢角度θvを推定することで、車両姿勢角度θvの推定精度、ひいては光軸角度θoの補正処理の精度を高めることができる。なお、角度演算部1041は、初回に算出された傾きを含む、複数の傾きの平均値を用いて車両姿勢角度θvを推定してもよい。前記「規定回数」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
(合計角度の変化量判定)
車両停止中の加速度センサ110の出力値の変化、すなわち合計角度θの変化には、実際の車両姿勢角度θvの変化に起因するものだけでなく、車両姿勢角度θvの基準値の誤差につながる変化も含まれ得る。誤差につながる合計角度θの変化としては、例えば加速度センサ110の検出誤差に起因する合計角度θの変化が挙げられる。また、例えば車両300が坂道上で停止し、サイドブレーキがかけられフットブレーキが解除された際に、車両300がわずかに移動することで生じる路面角度θrの変化に起因する合計角度θの変化が挙げられる。
このような誤差につながる合計角度θの変化に対して光軸角度θoを変位させてしまうと、光軸角度θoが本来の車両姿勢角度θvに対応する位置からずれてしまう。この結果、その後の車両300の走行中、上述した光軸角度θoの補正処理がなされるまでは他車両の運転者等にグレアを与えるおそれや、自車両の運転者の視認性が低下するおそれがある。特に、誤差につながる合計角度θの変化が大きい場合は、与えるグレアや視認性低下の程度が大きくなる得る。そこで、制御部104は、車両停止中に生じる合計角度θの変化量が所定のしきい値を超える場合には、基本制御とは異なる制御を実行する。以下に、制御の詳細を説明する。
図6(A)〜図6(E)は、合計角度の変化量の大きさに応じたオートレベリング制御を説明するための図である。図6(A)は、車速(V)の変化を示す。図6(B)は、合計角度θの変化量がしきい値θth以下であり、且つ合計角度θの変化が車両姿勢角度θvの変化による場合の光軸角度θoと車両姿勢角度θvの基準値の推移を示す。図6(C)は、合計角度θの変化量がしきい値θth以下であり、且つ合計角度θの変化が誤差につながる変化である場合の光軸角度θoと車両姿勢角度θvの基準値の推移を示す。図6(D)は、合計角度θの変化量がしきい値θthを超え、且つ合計角度θの変化が車両姿勢角度θvの変化による場合の光軸角度θoと車両姿勢角度θvの基準値の推移を示す。図6(E)は、合計角度θの変化量がしきい値θthを超え、且つ合計角度θの変化が誤差につながる変化である場合の光軸角度θoと車両姿勢角度θvの基準値の推移を示す。
図6(A)の縦軸は車速(V)であり、図6(B)〜図6(E)の縦軸は角度(θ)でる。図6(A)〜図6(E)の横軸は時間(t)である。なお、図6(B)〜図6(E)において(図6(C)〜図6(E)の時間t2〜t3の期間は除く)、光軸角度θoと車両姿勢角度θvとが若干ずれているのは、図を見やすくするためである。また、図6(B)〜図6(E)において、グラフ上で光軸角度θoと車両姿勢角度θvとが略一致している状態(図6(C)〜図6(E)の時間t2〜t3の期間は除く期間)は、光軸角度θoと車両姿勢角度θvとが、上述した変換テーブルで対応付けられた関係をとっていることを示す。オートレベリング制御が車両姿勢角度θvの変化を光軸角度θoの変化で吸収して車両用灯具の前方照射距離を一定に保つ制御であることから、グラフ上で光軸角度θoと車両姿勢角度θvとが略一致している状態が、両者が同一の角度をとることを示しているわけではないことは、当業者であれば理解することができる。
図6(A)に示すように、停車している車両300が時間t2のタイミングで発進した状況において、制御部104が実行するオートレベリング制御を説明する。このような状況において、図6(B)〜図6(E)に示すように、例えば車両停止中の時間t1に、加速度センサ110の出力値、言い換えれば合計角度θが変化したとする。この場合、まず変化量判定部1043が、合計角度θの変化量が所定のしきい値θthを超えるか判定する。変化量判定部1043は、前回算出された合計角度θと現在の合計角度θとの差から合計角度θの変化量を算出することができる。
変化量判定部1043によって合計角度θの変化量が所定のしきい値θth以下と判定されると、基本制御が実行され、図6(B)及び図6(C)に示すように角度演算部1041は車両姿勢角度θvの基準値を更新し、調節指示部1042は光軸角度θoを車両姿勢角度θvの基準値に応じた角度に調節する。この結果、時間t1において車両姿勢角度θvの基準値及び光軸角度θoがともに合計角度θの変化量だけ変化する。ここでは説明の便宜上、合計角度θの算出と、車両姿勢角度θvの基準値の更新と、光軸角度θoの調節のそれぞれのタイミングを同一としている。
その後、時間t2において車両300が発進すると、制御部104は光軸角度θoの補正処理を実行し、車両姿勢角度θvを推定するとともに、推定された車両姿勢角度θvに基づいて光軸角度θoを調節する。図6(B)に示す状況では、時間t1における合計角度θの変化は車両姿勢角度θvの変化によるものである。このため、推定される車両姿勢角度θvは、時間t1において更新された車両姿勢角度θvの基準値と等しい。したがって、時間t3において実行される光軸角度θoの補正の前後で、光軸角度θoは変化しない。
一方、図6(C)に示す状況では、時間t1における合計角度θの変化が誤差につながる変化である。したがって、推定される車両姿勢角度θvは、時間t1で更新された車両姿勢角度θvの基準値とは異なる。このため、車両姿勢角度θvの基準値は、繰り返し更新されて徐々に実際の車両姿勢角度θvである、時間t1で更新される前の車両姿勢角度θvの基準値に近づいていく。そして、時間t3において光軸角度θoの補正が実行され、光軸角度θoが時間t1において調節された角度から、補正された車両姿勢角度θvの基準値に対応する角度、すなわち時間t1で調節される前の角度に調節される。
図6(C)に示す状況における時間t2から時間t3までの期間は、他車両の運転者にグレアを与えるおそれや、自車両の運転者の視認性が低下するおそれがある。しかしながら、合計角度θの変化量は所定のしきい値θth以下であるため、グレアや視認性低下の程度は小さい。このため、合計角度θの変化が所定のしきい値θth以下である場合には、車両停止中の合計角度θの変化に光軸角度θoを追従させる基本制御を実行する。
これに対し、変化量判定部1043によって車両停止中の合計角度θの変化量がしきい値θthを超えると判定されると、図6(D)及び図6(E)に示すように、角度演算部1041は車両姿勢角度θvの基準値を合計角度θの変化に応じた角度に更新する。一方、調節指示部1042は、一端は光軸角度θoを更新された車両姿勢角度θvの基準値、すなわち、しきい値θthを超える合計角度θの変化が反映された車両姿勢角度θvに応じた角度に調節する。しかしながら、その後の車両300が発進する時間t2に、光軸角度θoを所定の暫定角度に調節する。
暫定角度としては、初期角度、前回角度、及び所定の安全角度を挙げることができる。初期角度とは、上述した初期化処理で車両300がとる姿勢(第1基準状態での姿勢)において設定される角度、すなわちθv=0°に対応する光軸角度である。前回角度とは、しきい値θthを超える変化量の合計角度θの変化が生じる前にとっていた光軸角度である。安全角度は、他者に与えるグレアが軽減される光軸角度である。安全角度としては、水平よりも下向き、例えば最も下向きの光軸角度を挙げることができる。図6(D)及び図6(E)では、光軸角度θoが暫定角度として前回角度に調節されている。暫定角度をどのような角度に設定するかは、他車両の運転者に与えるグレアの抑制と、自車両の運転者の視認性向上との観点から適宜設定することができる。例えば、グレアの抑制と視認性向上の両方を考慮した場合、暫定角度として初期角度が好適である。また、グレアの抑制を優先する場合、暫定角度として安全角度が好適である。
なお、本実施の形態では車両300が発進する時間t2に、光軸角度θoを暫定角度に変位させているが、光軸角度θoを変位させるタイミングは特に限定されず、発進する時間t2までに変位させればよい。また、本実施の形態では光軸角度θoを、更新された車両姿勢角度θvの基準値に対応する角度に調節した後に暫定角度に調節しているが、特にこれに限定されない。例えば、しきい値θthを超える合計角度θの変化が生じた場合に、更新された車両姿勢角度θvの基準値に対応する角度を経ることなく、光軸角度θoを暫定角度に調節してもよい。また、光軸角度θoを変位させずに維持してもよい。すなわち、光軸角度θoを前回角度のままとしてもよい。
その後、時間t2において車両300が発進すると、制御部104は光軸角度θoの補正処理を実行し、車両姿勢角度θvを推定するとともに、推定された車両姿勢角度θvに基づいて光軸角度θoを調節する。図6(D)に示す状況では、時間t1における合計角度θの変化は車両姿勢角度θvの変化によるものである。このため、推定される車両姿勢角度θvは、時間t1において更新された車両姿勢角度θvの基準値と等しい。したがって、時間t3において実行される光軸角度θoの補正により、光軸角度θoは暫定角度から、時間t1から時間t2の期間でとっていた角度に戻される。
一方、図6(E)に示す状況では、時間t1における合計角度θの変化が誤差につながる変化である。したがって、推定される車両姿勢角度θvは、時間t1で更新された車両姿勢角度θvの基準値とは異なる。このため、車両姿勢角度θvの基準値は、繰り返し更新されて徐々に実際の車両姿勢角度θvである前回角度に近づいていく。そして、時間t3において調節指示部1042による光軸角度θoの補正が実行され、光軸角度θoが暫定角度から、補正された車両姿勢角度θvの基準値に対応する角度、すなわち前回角度に調節される。ここでは、暫定角度が前回角度であるため、光軸角度θoは暫定角度のまま維持される。
図6(E)に示す状況における時間t2から時間t3までの期間は、他車両の運転者にグレアを与えるおそれや自車両の運転者の視認性が低下するおそれがある。そして、合計角度θの変化量は所定のしきい値θth超えるため、グレアや視認性低下の程度は大きい。このため、合計角度θの変化が所定のしきい値θth以下を超える場合には、光軸角度θoを暫定角度に変位させる制御を実行する。
合計角度θの変化量についての前記「所定のしきい値θth」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。例えば、しきい値θthは、車両用灯具のレベリングに関する法規で定められる荷重条件での車両姿勢角度θvの変位範囲に基づいて定められる。この場合しきい値θthは、例えば変位範囲における最も下向きの車両姿勢角度θvと最も上向きの車両姿勢角度θvとの差である、合計角度θの最大変位量とされる。法規で定められる荷重条件での車両姿勢角度θvの変位範囲は、車両300が物理的にとることができる車両姿勢角度θvの変位範囲に包含される。あるいは、しきい値θthは、車両300が物理的にとることができる車両姿勢角度θvの変位範囲に基づいて定められてもよい。
図7は、実施の形態に係る車両用灯具の制御装置により実行されるオートレベリング制御のフローチャートである。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御モードの実行指示がなされている状態において、イグニッションがオンにされた場合に制御部104により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
まず、制御部104は、車両300が停車しているか判断する(S101)。車両300が停車している場合(S101のY)、制御部104は、前回のルーチンのステップS101における停車判定において車両300が走行中(S101のN)であったか判断する(S102)。前回の判定が走行中であった場合(S102のY)、制御部104は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを算出する(S103)。そして、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として更新し(S104)、本ルーチンを終了する。
前回の判定が走行中でなかった場合(S102のN)、制御部104は、合計角度θの変化量を算出する(S105)。そして、合計角度θの変化量がしきい値θthを超えるか判断する(S106)。合計角度θの変化量がしきい値θth以下である場合(S106のN)、制御部104は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを算出する(S107)。そして、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として更新する(S108)。また、光軸角度θoを、得られた車両姿勢角度θvの基準値に応じた角度に調節し(S109)、本ルーチンを終了する。
合計角度θの変化量がしきい値θthを超える場合(S106のY)、制御部104は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを算出する(S110)。そして、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として更新する(S111)。また、光軸角度θoを暫定角度に調節し(S112)、本ルーチンを終了する。車両300が停車していない場合(S101のN)、すなわち車両300が走行中である場合、制御部104は、上述した光軸角度θoの補正処理を実行し(S113)、本ルーチンを終了する。
(簡易エイミング処理)
例えば、車両整備中等に作業者がレベリングECU100に接触してしまい、加速度センサ110のセンサ軸がずれてしまった場合、その後のオートレベリング制御を精度よく実施することが困難になり得る。この場合、上述した初期化処理をやり直して、基準軸情報を取り直すことが考えられる。しかしながら、初期化処理には、光軸Oの測定装置などの設備が必要であるため、簡単に行うことができない。そこで、制御部104は、所定の簡易エイミング処理信号を受信すると、以下に説明する簡易エイミング処理を実行する。
簡易エイミング処理において、簡易エイミング処理部1045は、光軸角度θoを初期角度、すなわち第1基準状態(θv=0°)における光軸角度θoにリセットする。また、現在の車両姿勢角度θvの基準値と、第1基準状態における車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)との差をオフセット値としてRAMあるいはメモリ108に保持する。角度演算部1041は、簡易エイミング処理以降、加速度センサ110の出力値から算出される車両姿勢角度θvにオフセット値を算入して得られる角度を、車両姿勢角度θvの基準値に設定する。調節指示部1042は、オフセット値を算入した車両姿勢角度θvに対応する光軸角度θoを決定し、調節信号を生成する。
これにより、加速度センサ110の出力値から算出される車両姿勢角度θvはオフセット値が含まれていない分だけ誤差を含んだままであるが、光軸角度θoはオフセット値を含んだ正しい角度に調節することができる。簡易エイミング処理では、基準軸情報の取り直しや補正を伴わないため、オートレベリング制御の精度が低下した状態から簡単に脱することができる。
簡易エイミング処理信号は、例えば、予め定められた態様のライトスイッチ304の操作や、所定の通信等によってレベリングECU100に送信される。運転者や車両メンテナンスに関わる者が、運転席に1名が乗車した状態で且つ水平面であろうと推定される路面上で簡易エイミング処理信号を送信することで、簡単に簡易エイミング処理を行うことができる。オフセット値を算出するタイミングは、光軸角度θoのリセットと略同時でもよいし、上述した光軸角度θoの補正処理が実行された後であってもよい。光軸角度θoの補正処理後にオフセット値を算出する場合には、加速度センサ110の検出誤差等がオフセット値に含まれることを抑制することができる。
以上説明したように、本実施の形態に係るレベリングECU100において、制御部104は、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化とし、合計角度θの変化量が所定のしきい値θth以下である場合、合計角度θの変化に対して光軸角度θoを調節する調節信号を出力する。また、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化とし、合計角度θの変化に対して調節信号の出力を回避するか光軸角度θoを維持する維持信号を出力する。また、車両走行中に得られる加速度センサ110の出力値に基づいて車両姿勢角度θvを推定し、推定された車両姿勢角度θvに基づいて光軸角度θoを補正する。さらに、車両停止中の合計角度θの変化量がしきい値θthを超える場合、光軸角度θoを所定の暫定角度に調節するか光軸角度θoを維持し、その後に行われる車両姿勢角度θvの推定により得られる車両姿勢角度θvに基づいて光軸角度θoを調節する。これにより、加速度センサ110の誤検知等によって他車両の運転者が極度のグレアを受けたり、自車両の運転者の視認性が著しく低下することを抑制することができる。したがって、オートレベリング制御の高性能化を図ることができる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態と変形との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。