ところで、特許文献2に記載されている圧縮着火式エンジンは、エンジンの運転状態に応じて圧縮着火燃焼と火花点火燃焼とを切り換えるようにしているが、これとは異なり、熱効率の向上を目的として、エンジンの全運転領域において、圧縮着火燃焼を行うことが考えられる。また、圧縮着火燃焼は、混合気を理論空燃比よりもリーンにすることが可能である。そこで、特許文献1に記載されているエンジンにおいて、その全運転領域で圧縮着火燃焼を行うことも考えられる。そうすることで、混合気のリーン化と圧縮着火燃焼との組み合わせによって熱効率が向上すると共に、所定以上のリーンにすれば、RawNOxの低減による排気エミッション性能も向上し得る。
ところが、エンジンの負荷の増大に伴い燃料噴射量が増えたときに、リーン空燃比を維持しようとすれば、大量の空気を気筒内に導入しなければならなくなる。そこで、低負荷領域では、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンして圧縮着火燃焼をする一方で、燃料噴射量が所定以上に増えるような、所定負荷以上の高負荷領域では、空燃比を、例えば理論空燃比にして圧縮着火燃焼をすることが考えられる。こうすることで、低負荷領域では、前述したように熱効率の向上及び排気エミッション性能の向上が図られる。また、高負荷領域では、圧縮着火燃焼による熱効率が向上すると共に、三元触媒を利用して排気ガスを浄化することが可能になり、排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。
しかしながら、高負荷領域と低負荷領域との間で混合気の空燃比を切り換える構成では、エンジンの運転状態が、高負荷領域と低負荷領域との間で移行する過渡時、具体的には、低負荷領域から高負荷領域へと移行する加速時、又は、高負荷領域から低負荷領域へと移行する減速時に、気筒内に導入する空気量を大きく増減しなければならない。空気量の増減にかかる応答性は低いため、エンジンの運転状態が高負荷領域と低負荷領域との間で移行する過渡時には、気筒内に実際に導入される空気量と、目標とする空気量とのずれが生じる。その結果、混合気の空燃比が目標からずれてしまう。圧縮着火燃焼は、火花点火燃焼とは異なり、気筒内の状態をコントロールすることによって、圧縮着火のタイミングや、圧縮着火燃焼の燃焼時期をコントロールしなければならないが、空燃比のずれ等に起因して、圧縮着火燃焼のコントロールが困難になる。その結果、過渡時においては、例えば圧縮着火のタイミングが早まって、圧縮着火燃焼による気筒内の圧力上昇が急峻になり、燃焼騒音が増大する等の不都合を招く。また,空燃比のずれは、排気エミッション性能も低下し得る。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮着火式エンジンの運転状態が予め設定された領域間を移行するに伴い、気筒内に導入する空気量が大きく増減するような移行過渡時に、圧縮着火燃焼をコントロール可能にすることにある。
ここに開示する技術は、圧縮着火式エンジンの運転状態の移行に伴い、気筒内に導入する空気量が大きく増減するような過渡時に、気筒内に実際に導入される空気量に応じて燃料噴射量を調整することで、混合気の空燃比を理論空燃比にすると共に、燃料の噴射タイミングを、移行先の運転状態で設定されている噴射タイミングよりも遅角することで、圧縮着火のタイミング及び圧縮着火燃焼の燃焼時期をコントロールすることにした。
具体的に、ここに開示する技術は、圧縮着火式エンジンの制御装置に係り、この制御装置は、気筒を有するよう構成されたエンジンと、気筒内に、ガソリンを含有する燃料を噴射するよう構成されたインジェクタと、前記気筒内に導入する空気量を調整するよう構成された空気量調整手段と、前記空気量調整手段を通じて前記気筒内に導入する空気量を調整すると共に、前記インジェクタを通じて、前記エンジンの負荷に対応する量の燃料を、前記エンジンの運転状態に応じて設定されたタイミングで噴射し、それによって形成される気筒内の混合気を圧縮着火により燃焼させることで、前記エンジンを運転するよう構成された制御部と、を備える。
そして、前記制御部は、前記エンジンの運転状態が所定負荷よりも低い低負荷領域にあるときに、前記混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンの所定空燃比にしかつ、前記エンジンの運転状態が前記所定負荷以上の高負荷領域にあるときに、前記低負荷領域よりも前記気筒内に導入する空気量を少なくかつ、前記混合気の空燃比を前記所定空燃比よりもリッチにし、前記制御部は、前記高負荷領域内の運転状態と前記低負荷領域内の運転状態との間で、前記エンジンの運転状態が移行する過渡時に、前記混合気の空燃比を理論空燃比にすると共に、前記燃料の噴射タイミングを、移行先の運転状態で設定されているタイミングよりも遅角する噴射時期リタード制御を実行する。
この構成によると、エンジンの運転状態が所定負荷よりも低い低負荷領域にあるときには、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンの所定空燃比になるように、所定量の燃料を、所定のタイミングで気筒内に噴射する。こうして気筒内に形成された混合気を圧縮着火により燃焼させる。
ここで、「所定空燃比」は、A/F≧30で適宜設定してもよい。こうすることで、燃焼温度の上昇が抑制され、RawNOxの生成が抑制される。
また、低負荷領域にあるときの燃料の噴射タイミングは、圧縮行程終期から膨張行程初期の期間内に設定してもよい。「圧縮行程終期」は、圧縮行程を、初期、中期及び終期の三つの期間に三等分したときの終期としてもよい。また、「膨張行程初期」は、膨張行程を、初期、中期及び終期の三つの期間に三等分したときの初期としてもよい。低負荷領域にあるときには、燃料噴射量が相対的に少なく、異常燃焼(例えば過早着火)を回避し易い。そこで、前述した圧縮行程終期から膨張行程初期の期間内の、比較的早いタイミングで、燃料噴射を開始してもよい。こうすることで、異常燃焼を回避しながら、圧縮上死点付近において圧縮着火燃焼を行うことが可能になる。
エンジンの運転状態が低負荷領域にあるときには、混合気のリーン化と圧縮着火燃焼との組み合わせにより、熱効率が高くなる。
一方、エンジンの運転状態が所定負荷以上の高負荷領域にあるときには、混合気の空燃比が所定空燃比よりもリッチになるように、所定量の燃料を、所定のタイミングで気筒内に噴射する。こうして気筒内に形成された混合気を圧縮着火により燃焼させる。
高負荷領域では、エンジンの負荷が高い分、燃料噴射量が増えるため、混合気をリーンにするには大量の空気を気筒内に導入しなければならないが、混合気の空燃比を所定空燃比よりもリッチにすることで、気筒内に導入する空気量を少なくすることが可能になる。高負荷領域では、混合気の空燃比を、例えば理論空燃比にしてもよい。こうすることで三元触媒を利用して排気ガスを浄化することが可能になり、排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。
高負荷領域では、燃料の噴射タイミングを、圧縮行程終期から膨張行程初期の期間内に設定してもよい。エンジンの運転状態が高負荷領域にあるときには特に、燃料噴射量が相対的に多く、異常燃焼の懸念が高まることから、前述した圧縮行程終期から膨張行程初期の期間内の、比較的遅いタイミングで、燃料噴射を開始してもよい。こうすることで、異常燃焼を回避することが可能になる。
高負荷領域内の運転状態と、低負荷領域内の運転状態との間で、エンジンの運転状態が移行するときには、混合気の空燃比を、所定のリーン状態と、それよりもリッチの状態との間で切り換える必要がある。つまり、気筒内に導入される空気量が大きく増減する。インジェクタを通じた燃料噴射量の変更は、応答性よく行うことが可能な一方で、気筒内に導入する空気量の増減は、応答性が悪い。
低負荷領域の運転状態から高負荷領域の運転状態への移行過渡時(つまり、車両の加速時)には、燃料噴射量が増える一方で、気筒内に導入する空気量を、相対的に多い状態から減らして、少ない状態にしなければならない。加速時には、低い応答性に起因して、気筒内に導入する空気量が目標よりも多くなる結果、混合気の空燃比が目標からずれて、圧縮着火燃焼のコントロールが難しくなる。
逆に、高負荷領域の運転状態から低負荷領域の運転状態への移行過渡時(つまり、車両の減速時)には、燃料噴射量が減る一方で、気筒内に導入する空気量を、相対的に少ない状態から増やして、多い状態にしなければならない。減速時には、低い応答性に起因して、気筒内に導入する空気量が目標よりも少なくなる結果、混合気の空燃比が目標からずれて、圧縮着火燃焼のコントロールが難しくなる。
そこで、前記の構成では、エンジンの運転状態が移行する過渡時には、気筒内に実際に導入される空気量に応じて燃料噴射量を調整することにより、混合気の空燃比を理論空燃比にする。こうすることで、移行過渡時には、三元触媒を利用して排気ガスを浄化することが可能になり、排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。
高負荷領域における混合気の空燃比が理論空燃比に設定されている場合、負荷に応じて設定される燃料噴射量に対し、理論空燃比とするための目標の空気量が設定されるが、加速時には、前述したように、気筒内に導入する空気量が、その目標の空気量よりも多くなるため、理論空燃比とするために、燃料噴射量を、目標の噴射量(ここでの目標の噴射量は、目標空気量に対して理論空燃比にするための目標噴射量である)よりも増量しなければならない。
また、減速時には、前述したように、気筒内に導入する空気量が、理論空燃比よりもリーンな所定空燃比とするための目標空気量よりも少なくなるが、混合気を理論空燃比にするために、燃料噴射量を目標の噴射量(ここでの目標の噴射量は、所定のリーン空燃比にするための目標噴射量である)よりも増量しなければならない。
従って、移行過渡時に噴射をする燃料量は、加速時及び減速時のいずれにおいても、移行先の運転状態において設定されている燃料噴射量よりも多くなり得る。そのため、移行過渡時には、例えば圧縮着火のタイミングが早まって、圧縮着火燃焼による気筒内の圧力上昇が急峻になる結果、燃焼騒音が増大してしまう虞がある。
そこで、前記の構成では、燃料噴射量が目標よりも増量し得る移行過渡時には、燃料の噴射タイミングを、移行先の運転状態において設定されている噴射タイミングよりも遅角する(つまり、噴射時期リタード制御)。噴射の開始が圧縮上死点付近から膨張行程初期の期間内となるように、噴射タイミングを遅角してもよい。こうすることで、圧縮着火のタイミングを圧縮上死点から離れた時期まで遅らせて、圧縮着火燃焼の燃焼時期を膨張行程期間中にすることが可能になる。圧縮着火のタイミング及び圧縮着火燃焼の燃焼期間の時期をコントロールすることが可能になり、圧縮着火燃焼による気筒内の圧力上昇が急峻になることが回避され、燃焼騒音の増大が抑制される。
前記空気量調整手段は、前記エンジンの排気ガスの一部を、EGR通路を介して吸気に還流させる排気還流システムを含み、前記制御部は、前記エンジンの運転状態が少なくとも前記高負荷領域内にあるときには、前記エンジンの運転状態に対応して設定されたEGR率となるように、前記排気還流システムを通じて、排気ガスの一部を吸気に還流する、としてもよい。
燃料噴射量が増える高負荷領域において、気筒内に排気ガスの一部を導入することにより、圧縮着火のタイミングをコントロールすることが可能になり、異常燃焼が回避されると共に、圧縮着火のタイミングが早まって圧縮着火燃焼に伴う気筒内の圧力上昇が急峻になることが回避される。これは、燃焼騒音の抑制に有利になる。また、燃焼温度の低減が図られ、RawNOxを抑制して、排気エミッション性能の向上が図られる。
また、気筒内に導入する排気ガス量を調整することにより(つまり、EGR率を調整することにより)、気筒内に導入する空気量を調整することが可能になる。前述したように、エンジンの運転状態が高負荷領域にあるときに、混合気の空燃比を理論空燃比に設定する場合は、エンジン負荷の増減に対応してEGR率を調整することにより、気筒内に導入する空気量を、燃料噴射量に対応した量に調整することが可能になるから、ポンピングロスが低減する。
尚、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンの所定空燃比に設定する低負荷領域において、排気還流システムを通じて、適宜の量の排気ガスを、気筒内に導入してもよい。排気ガスの還流によって、低負荷領域においても、圧縮着火のタイミングをコントロールして、異常燃焼の回避及び燃焼騒音の増大回避が可能になると共に、燃焼温度を低減して、RawNOxの生成抑制による排気エミッション性能の向上が可能になる。
前記制御部は、前記高負荷領域内の、所定EGR率となるように設定された高EGR運転状態と、前記低負荷領域内の、前記所定EGR率よりも低いEGR率となるように設定された低EGR運転状態との間で、前記エンジンの運転状態が移行をする過渡時に、前記噴射時期リタード制御を実行する、としてもよい。
EGR通路を介して排気ガスを吸気に還流させる排気還流システムの構成において、気筒内に導入する排気ガス量の調整にかかる応答性、つまり、EGR率の変更の応答性は低い。従って、高負荷領域内の高EGR運転状態と、低負荷領域内の低EGR運転状態との間で、エンジンの運転状態が移行をする過渡時には、EGR率を変更させる必要があるものの、実際のEGR率は、目標のEGR率からずれる。前述したように気筒内に導入する空気量が目標からずれることと、EGR率が目標からずれることとが組み合わさって、高EGR運転状態と低EGR運転状態との間で、エンジンの運転状態が移行をする過渡時には、圧縮着火燃焼のコントロールがさらに困難になる。
この場合でも、前述したように、混合気の空燃比を理論空燃比にすると共に、燃料の噴射タイミングを、移行先の運転状態において設定されている噴射タイミングに対して遅角することで、移行過渡時において圧縮着火燃焼をコントロールすることが可能になり、排気エミッション性能を良好に維持しながら、異常燃焼の回避、及び、燃焼騒音の増大抑制が可能になる。
前記制御部は、前記低負荷領域内の前記低EGR運転状態から、前記高負荷領域内の前記高EGR運転状態へと前記エンジンの運転状態が移行をする加速時に、実際のEGR率が、前記高EGR運転状態において設定された前記所定EGR率に到達するまで、前記噴射時期リタード制御を実行する、としてもよい。
前述したように、EGR率の変更にかかる応答性が低いため、エンジンの運転状態が、低EGR運転状態から高EGR運転状態へと移行する加速時には、EGR率の上昇が遅れる。その結果、実際のEGR率が、目標のEGR率よりも低くなり得る。これは、気筒内に導入する空気量が、高負荷領域において設定される目標の空気量よりも多くなることを招くため、その気筒内に導入される実際の空気量に応じて、燃料噴射量を調整して混合気の空燃比を理論空燃比にする。前述したように、高負荷領域において混合気の空燃比が理論空燃比に設定される場合は、過渡時において燃料噴射量は、目標よりも増量する。また、燃料の噴射タイミングを、高EGR運転状態において設定されている噴射タイミングよりも遅角させる。この噴射時期リタード制御の実行により、圧縮着火燃焼をコントロールすることが可能になり、加速時において、排気エミッション性能を良好に維持しつつ、異常燃焼の回避、及び、燃焼騒音の増大回避が可能になる。噴射時期リタード制御は、実際のEGR率が目標のEGR率に到達した時点で終了する。つまり、エンジンの運転状態の移行が完了したことになる。
前記制御部は、前記高負荷領域内の前記高EGR運転状態から、前記低負荷領域内の前記低EGR運転状態へと前記エンジンの運転状態が移行をする減速時に、前記低負荷領域において設定される前記所定空燃比となる分の空気量が前記気筒内に導入されるまで、前記噴射時期リタード制御を実行する、としてもよい。
エンジンの運転状態が、高EGR運転状態から低EGR運転状態へと移行する減速時には、EGR率の低下が遅れる結果、実際のEGR率が、目標のEGR率よりも高くなり得る。これは、気筒内に導入する空気量が、低負荷領域において設定される目標の空気量よりも少なくなることを招く。そのため、その気筒内に導入される実際の空気量に応じて、燃料噴射量を調整して混合気の空燃比を理論空燃比にする。前述したように、理論空燃比よりもリーンな所定空燃比とすべきところ、理論空燃比となることで、過渡時に燃料噴射量は、目標よりも増量する。また、燃料の噴射タイミングを、低EGR運転状態において設定されている噴射タイミングよりも遅角させる。この噴射時期リタード制御の実行により、圧縮着火燃焼をコントロールすることが可能になり、減速時において、排気エミッション性能を良好に維持しつつ、異常燃焼の回避、及び、燃焼騒音の増大回避が可能になる。噴射時期リタード制御は、所定空燃比となる分の空気量が気筒内に導入されるようになった時点で終了する。つまり、エンジンの運転状態の移行が完了する。
前記圧縮着火式エンジンの制御装置は、各気筒内でオゾンを生成するよう構成されたオゾン生成部をさらに備え、前記制御部は、前記噴射時期リタード制御を実行している過渡時に、前記オゾン生成部を通じて前記気筒内でオゾンを生成する、としてもよい。ここで、オゾンの生成は、圧縮着火前、及び/又は、圧縮着火燃焼の最中に行えばよい。
噴射時期リタード制御の実行中は、前述したように、燃料の噴射タイミングを遅角することによって、圧縮着火のタイミング、及び、圧縮着火燃焼の燃焼時期をそれぞれ遅らせる。圧縮着火のタイミングは圧縮上死点から離れた時期となり、圧縮着火燃焼の燃焼時期は、その後の膨張行程期間中になる場合があり、この場合、圧縮着火燃焼の安定性が低下し易い。気筒内でオゾンを生成することは、圧縮着火、及び/又は、圧縮着火燃焼を促進する。その結果、燃料の噴射タイミングを遅角させる移行過渡時において、圧縮着火燃焼の安定性が向上する。
以上説明したように、前記の圧縮着火式エンジンの制御装置によると、圧縮着火式エンジンの運転状態の移行に伴い、気筒内に導入する空気量が大きく増減するような過渡時に、気筒内に導入する空気量に応じて混合気の空燃比を理論空燃比にすると共に、燃料の噴射タイミングを遅らせることで、圧縮着火燃焼をコントロールすることができる。
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。
(エンジンシステムの全体構成)
図1、2は、実施形態に係るエンジンシステム1の構成を示している。このエンジンシステム1は、車両に搭載されるシステムである。エンジンシステム1は、エンジン10、エンジン10に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及び、該センサからの信号に基づきアクチュエータを制御するECM(Engine Control Module、制御部)100を含む。
エンジン10のクランクシャフト15は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン10の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン10は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数の気筒11が形成されている(図1では、1つのみ示す)。エンジン10は、多気筒エンジンである。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。各気筒11内には、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されたピストン16が摺動自在に嵌挿されている。ピストン16は、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン16等は、アルミニウム合金等の、電気伝導性を有する金属で形成されていて、接地(アース)処理が施されている。
本実施形態では、燃焼室17の天井面17a(シリンダヘッド13の下面)は、上方に膨出した球面形状に形成されている(つまり、ドーム型)。その形状に対応して、ピストン16の頂面16aもドーム型に形成されている。ピストン16の頂面16aの中央部には、凹状のキャビティ16bが形成されている。尚、前記天井面17a及びピストン16の頂面16aの形状は、後述の高い幾何学的圧縮比が可能であれば、どのような形状であってもよく、例えば、天井面17a及びピストン16の頂面16a(キャビティ16bを除く部分)の両方が、気筒11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよいし、天井面17aが三角屋根状(いわゆるペントルーフ形状)をなす一方、ピストン16の頂面16aが、その天井面17aに対応した凸形状をなして構成されていてもよい。
図1には1つのみ示すが、気筒11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面に開口することで燃焼室17に連通している。同様に、気筒11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面に開口することで燃焼室17に連通している。
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、気筒11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフト15に駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフト15の回転と同期して回転する。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、この例では、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23、24を、少なくとも含んで構成されている。尚、吸気弁駆動機構及び/又は排気弁駆動機構は、VVT23、24と共に、弁リフト量を変更可能なリフト可変機構を備えるようにしてもよい。リフト可変機構は、リフト量を連続的に変更可能なCVVL(Continuous Variable Valve Lift)としてもよい。
各気筒11の吸気ポート18は、図1において明示されない吸気マニホールドを介して吸気通路30に連通している。また、各気筒11の排気ポート19は、同様に明示されない排気マニホールドを介して排気通路40に連通している。
吸気通路30には、各気筒11への吸入空気量を調節するスロットル弁31が配設されている。このエンジンシステム1においては、後述するように、エンジン10の通常の運転状態では、スロットル弁31をほぼ全開で一定にする。
吸気通路30におけるスロットル弁31の下流側部分と、排気通路40とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路51によって接続されている。EGR通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁52及び排気ガスを冷却するための、水冷式のEGRクーラ53が配設されている。EGR通路51、EGR弁52及びEGRクーラ53を含んで、EGRシステム50が構成される。尚、EGRクーラ53をバイパスするEGRバイパス通路をさらに設け、EGRクーラ53を通過する排気ガス流量と、EGRクーラ53をバイパスする排気ガス流量とを調整することによって、吸気に還流する排気ガスの流量と共に、排気ガスの温度を調整するように構成してもよい。
排気通路40における下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する触媒コンバータ92が配設されている。触媒コンバータ92は、例えば三元触媒を内蔵しており、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比であるときに、排気通路を通過する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化する機能を有する。
エンジン10において、シリンダヘッド13における気筒11の中心軸上には、気筒11内(燃焼室17内)に燃料を直接噴射するインジェクタ6が配設されている。このインジェクタ6は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取付固定されている。インジェクタ6の先端は、燃焼室17の天井面17aの中心に臨んでいる。
図3に示すように、インジェクタ6は、気筒11内に燃料を噴射するノズル口61を開閉する外開弁62を有する、外開弁式のインジェクタである。ノズル口61は、気筒11の中心軸に沿って延びる燃料管63の先端部において、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。燃料管63の基端側の端部は、内部にピエゾ素子64が配設されたケース65に接続されている。外開弁62は、弁本体62aと、弁本体62aから燃料管63内を通ってピエゾ素子64に接続された連結部62bとを有している。弁本体62aの連結部62b側の部分が、ノズル口61と略同じ形状を有しており、該部分がノズル口61に当接(着座)しているときには、ノズル口61が閉状態となる。このとき、弁本体62aの先端側の部分は、燃料管63の外側に突出した状態となっている。
ピエゾ素子64は、電圧の印加による変形により、外開弁62を気筒11の中心軸方向の燃焼室17側に押圧することで、その外開弁62を、ノズル口61を閉じた状態からリフトさせてノズル口61を開放する。このとき、ノズル口61から気筒11内に燃料が、気筒11の中心軸を中心とするコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。そのコーンのテーパ角は、本実施形態では、90°〜100°である(内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。そして、ピエゾ素子64への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子64が元の状態に復帰することで、外開弁62がノズル口61を再び閉状態とする。このとき、ケース65内における連結部62bの周囲に配設された圧縮コイルバネ66がピエゾ素子64の復帰を助長する。
ピエゾ素子64に印加する電圧が大きいほど、外開弁62の、ノズル口61を閉じた状態からのリフト量(以下、単にリフト量という)が大きくなる。このリフト量が大きいほど、ノズル口61の開度が大きくなってノズル口61から気筒11内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなる(長くなる)とともに、単位時間当たりに噴射される燃料量が多くなりかつ燃料噴霧の粒径が大きくなる。尚、外開弁62を駆動する手段としては、ピエゾ素子64には限られない。また、インジェクタ6も外開弁式に限らず、例えば多噴口型のインジェクタを採用してもよい。
燃料供給システム67(図2参照)は、外開弁62(ピエゾ素子64)を駆動するための電気回路と、インジェクタ6に燃料を供給する燃料供給系とを備えている。ECM100は、所定のタイミングで、リフト量に応じた電圧を有する噴射信号を電気回路に出力することで、該電気回路を介してピエゾ素子64及び外開弁62を作動させて、所望量の燃料を、気筒11内に噴射させる。噴射信号の非出力時(噴射信号の電圧が0であるとき)には、外開弁62によりノズル口61が閉じられた状態となる。このようにピエゾ素子64は、ECM100からの噴射信号によって、その作動が制御される。こうしてECM100は、ピエゾ素子64の作動を制御して、インジェクタ6のノズル口61からの燃料噴射及び該燃料噴射時におけるリフト量を制御する。
燃料供給系には、図示省略の高圧燃料ポンプやコモンレールが設けられている。高圧燃料ポンプはエンジン10により駆動されかつ、低圧燃料ポンプを介して燃料タンクより供給されてきた燃料をコモンレールに圧送し、コモンレールは、その圧送された燃料を、所定の燃料圧力で蓄える。そして、インジェクタ6が作動する(外開弁62がリフトされる)ことによって、コモンレールに蓄えられている燃料がノズル口61から噴射される。
ここで、エンジン10の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む燃料(液体燃料)であれば、どのような燃料であってもよい。
また、このエンジン10の燃焼室17内には、オゾン生成部7の放電プラグ71が配設されている。この放電プラグ71は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に固定されている。放電プラグ71の先端部は燃焼室17の天井面17aから突出して燃焼室17内に臨んでいる。この放電プラグ71の先端部は、図1では、図示の関係上、ずらして描いているが、実際は、吸気ポート18と排気ポート19の間でかつ、インジェクタ6のノズル口61の近傍に位置している(図7も参照。尚、図1と図7とは断面が相違する)。放電プラグ71は、碍子71aで周囲が電気的に絶縁された棒状の電極71bを有している。電極71bは、シリンダヘッド13やシリンダブロック12から電気的に絶縁された状態で、燃焼室17内に突出している。
オゾン生成部7はまた、図2に示すように、高電圧制御器72を有している。高電圧制御器72は、放電プラグ71と電気的に接続されており、燃焼室17で、後述するような極短パルス放電が生じるように、制御されたパルス状の高電圧を電極71bに印加する機能を有している。具体的には、図4に示すように、50ナノ秒以下のパルス幅PWで10kV以上の高電圧からなる電圧(短パルス高電圧)を、所定期間、断続的に電極71bに印加する機能を有している。尚、オゾン生成部7の配置及び構成は、これに限定されるものではない。
ECM100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
ECM100には、車速を検出する車速センサ81、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ82、ブレーキペダルのオン/オフを検出するブレーキセンサ83、吸気通路30を流れる新気の流量及び温度を検出するエアフローセンサ84、クランクシャフト15の回転角度及び回転速度を検出するためのクランク角パルス信号を出力するクランク角センサ85、気筒識別情報を得るためのカムシャフトパルス信号を出力するカム角センサ86、エンジン10の冷却水温を出力する水温センサ87、及び、油温を出力する油温センサ88が、少なくとも接続されている。
ECM100は、前述した各センサ等からの信号に基づいて、エンジン10の運転状態を判断し、それに対応するエンジン10の制御パラメータを設定する。そして、ECM100は、各制御パラメータに対応する信号を、スロットル弁31、燃料供給システム67、吸気VVT23、排気VVT24、高電圧制御器72、EGR弁52等に出力する。
(エンジン本体の構成)
次に、エンジン本体の構成についてさらに詳細に説明をする。このエンジン10の幾何学的圧縮比εは、20以上40以下とされている。幾何学的圧縮比εは、特に25以上35以下が好ましい。エンジン10は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン10でもある。このエンジン10は、詳細は後述するが、全運転領域で気筒11内に噴射した燃料を圧縮着火により燃焼させるよう構成されており、高い幾何学的圧縮比は、圧縮着火燃焼を安定化する。
燃焼室17は、気筒11の壁面と、ピストン16の頂面と、シリンダヘッド13の下面(天井面17a)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。そして、冷却損失を低減するべく、これらの各面に、断熱層が設けられることによって、燃焼室17が断熱化されている。断熱層は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井面17a側の開口近傍のポート壁面に断熱層を設けてもよい。
これらの断熱層は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。
また、断熱層は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、断熱層の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
前記断熱層は、例えば、母材上にZrO2等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、断熱層の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
本実施形態では、前記の燃焼室の断熱構造に加えて、気筒11内(つまり、燃焼室17内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
具体的には、ECM100は、エンジン10の気筒11内の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程以降においてインジェクタ6のノズル口61から気筒11内に燃料を噴射させるべく、燃料供給システム67の電気回路に噴射信号を出力する。すなわち、圧縮行程以降においてインジェクタ6により気筒11内に燃料を噴射させかつその燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒11内の外周部まで届かないような大きさ(長さ)に抑えることで、気筒11内の中心部に混合気層が形成されかつ、その周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
前記のようにガス層と混合気層とが形成された状態で燃料が圧縮着火燃焼すれば、混合気層と気筒11の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎が気筒11の壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、気筒11の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン10では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン10は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
(エンジンの燃料噴射制御)
エンジン10は、全運転領域において、インジェクタ6により気筒内に噴射された燃料を圧縮着火燃焼させる。エンジン10の運転領域は、負荷の高低に対して、図5に実線で示す所定負荷よりも負荷の低い低負荷領域Aと、所定負荷以上の高負荷領域Bとに区分される。
低負荷領域Aでは、気筒内全体の空気過剰率λが2以上(空燃比が30以上)に設定される。これにより、熱効率を向上させながら、RawNOxを低減することができる。RawNOxを低減する観点からは、空気過剰率λ≧2.5がより一層好ましい。また、空気過剰率λ=8で図示熱効率がピークになることから、空気過剰率λの範囲としては、2≦λ≦8が好ましい(より好ましくは、2.5≦λ≦8)。低負荷領域Aは、空気過剰率λを、1を超えて設定するため、リーン領域と呼ぶことが可能である(つまり、混合気の空燃比は理論空燃比よりもリーンである)。
図6は、エンジンの負荷の高低に対する筒内ガス量の変化(上図)及び燃料噴射量の変化(下図)を示している。図6の一点鎖線よりも左側の部分が、低負荷領域Aに対応する。低負荷領域A(及び後述する高負荷領域B)において、スロットル弁31は、ほぼ全開で一定される。ガス交換損失(ポンピングロス)の低減による図示熱効率の向上が図られる。低負荷領域A内では、負荷が低いときに、EGRクーラ53によって冷却した排気ガスの還流を行う。排気ガスを還流させる分だけ、気筒11内に導入する新気量(空気量)を少なくする。新気量の低減と、気筒11内に導入する排気ガス温度を下げることとによって、圧縮行程中の気筒11内の温度を調整して、圧縮着火のタイミングのコントロールと共に、燃焼温度が高くなりすぎることを抑制する。その結果、燃焼騒音が増大してしまうことが防止されると共に、RawNOxの生成が抑制される。
低負荷領域A内で負荷が高まるに従い、図6の下図に示すように、燃料噴射量が増えるが、排気ガスの還流量も、負荷が高まるに従い減らす(つまり、EGR率を低くする)。そうして、低負荷領域A内において、負荷が高いときには、排気ガスの還流を中止する。これにより、低負荷領域A内において、負荷が高いときに、混合気の空燃比を所定以上のリーンに維持しながら、できるだけ大量の空気を気筒11内に導入することができ、トルク生成に有利になる。
低負荷領域Aでは、前述したガス断熱層を形成しかつ、圧縮上死点付近で燃料が圧縮着火して燃焼するように、例えばインジェクタ6による燃料噴射の開始タイミングが、圧縮行程の終期に設定される。圧縮行程の終期は、圧縮行程を初期、中期及び終期の三つに三等分したときの終期に相当する。低負荷領域Aでは、インジェクタ6による燃料噴射を、一括で行ってもよいし、分割して行ってもよい。
低負荷領域Aでは、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーン(前述のように、A/F≧30)に設定するが、エンジン10の負荷が高まって燃料の噴射量が増えたときには、A/Fを30以上にするだけの空気を、気筒11内に導入することが困難になり得る。そこで、このエンジン10では、エンジン10の負荷が相対的に高くかつ、燃料噴射量が相対的に増える高負荷領域Bでは、混合気の空燃比を理論空燃比にする(つまり、空気過剰率λを1にする)。高負荷領域Bにおいては、三元触媒を利用して排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。このエンジンシステム1では、NOx浄化触媒を省略することが可能である。高負荷領域Bは、空気過剰率λを1にすることから、λ=1領域と呼ぶことができる。
高負荷領域Bは、図6において一点鎖線を含む右側の部分に対応する。図6の上図に示すように、エンジン10の負荷が高くなるに従い増量する燃料噴射量に対応するよう、新気量(空気量)が増量し、それによって、混合気の空燃比は、理論空燃比を維持する。気筒11内に導入される空気量は、スロットル弁31を略全開にしたまま、EGRシステム50を通じて還流させる排気ガス量を調整することによって、調整する。高負荷領域Bでは、エンジン10の負荷が低いときにEGR率が相対的に高くかつ、エンジン10の負荷が高いときにEGR率が相対的に低くなり、全開負荷のときにはEGR率がゼロになる。EGR率は、エンジン10の負荷が高くなるに従い、次第に低く設定される。こうすることで、ポンピングロスを低減すると共に、冷却した排気ガスを気筒11内に導入することで、圧縮着火のタイミングをコントロールして異常燃焼を回避すると共に、燃焼を緩慢にして、燃焼騒音の増大を抑制する。また、燃焼温度が高くなり過ぎることを防止して、RawNOxの抑制と共に、冷却損失の低減が図られる。尚、気筒11内に導入する空気量を調整するために、吸気VVT23により吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点以降において調整してもよいし(いわゆる、吸気弁21の遅閉じ)、スロットル弁31の開度を調整してもよい。
高負荷領域Bでは、燃料噴射量が相対的に多くかつ、混合気の空燃比を理論空燃比に設定していることで、圧縮着火燃焼による気筒11内の圧力上昇が急峻になって、燃焼騒音が増大してしまう虞がある。そこで、このエンジンシステム1では、高負荷領域Bでは、その燃料噴射の開始タイミングを、低負荷領域Aにおける燃料噴射の開始タイミングに対して遅角している。高負荷領域Bにおける燃料の噴射開始タイミングは、圧縮行程終期から膨張行程初期の期間内で設定される。膨張行程の初期は、膨張行程を初期、中期及び終期の三つに三等分したときの初期に相当する。燃料の噴射開始タイミングを遅らせることで、圧縮着火のタイミングが遅れて、圧縮着火燃焼を、圧縮上死点から離して、気筒11内の圧力が次第に低下する膨張行程において行うことが可能になる。その結果、圧縮着火燃焼に伴う気筒11内の圧力上昇が急峻になることが抑制され、燃焼騒音を低減することが可能になる。高負荷領域Bでは、インジェクタ6による燃料噴射を、一括で行ってもよいし、エンジントルクを生成する主燃焼(1サイクル中で最も大きな熱量を発生させる燃焼)を生じさせるための主噴射と、その主噴射の前に行う前段噴射とに分けて行ってもよい。
ここで、低負荷領域Aと高負荷領域Bとを比較したときに、高負荷領域Bの方が、EGR率が高く設定される場合がある。また、低負荷領域Aにおける混合気の空燃比は理論空燃比よりもリーンであるのに対し、高負荷領域Bにおける混合気の空燃比は理論空燃比であり、2つの領域A、Bでの空燃比は異なるため、図6の下図に示すように、低負荷領域Aと高負荷領域Bとの切り換え負荷において、燃料噴射量は不連続的に変更される(つまり、段差が生じている)。
(気筒内でのオゾン生成)
高負荷領域Bでは、前述の通り、燃料の噴射タイミングを遅らせて、圧縮着火燃焼の燃焼時期を遅角させている。このエンジン10はさらに、高負荷領域Bにおいて、必要に応じて、自着火を誘発するオゾンを、燃焼室17で吸気から直接生成することで、圧縮着火燃焼の安定化を図っている。オゾンを、燃焼室17内で直接生成することにより、オゾン生成効率やエネルギの利用効率の向上、燃焼室17内での吸気との適切な混合、制御のレスポンスの向上等が実現する。
具体的には、気筒11を形成しているシリンダヘッド13やシリンダブロック12等にはアースが施されているため、電極71bに短パルス高電圧が印加されると、気筒11の内面(具体的には、燃焼室17の内面)と、電極71bとによってアノード及びカソードが構成され、これらの間で放電が生じる(電極71bがアノードに相当し、気筒11がカソードに相当する)。
印加される電圧は、所定の短パルス高電圧に制御されているので、燃焼室17では、ストリーマ放電のみが発生する。従って、火花や熱が生じる虞はない。誘電体も介在していないし、燃焼室17で直接生成されるため、高いオゾン生成効率やエネルギの利用効率が得られる。
高電圧制御器72は、吸気行程、圧縮行程、及び膨張行程の、少なくともいずれかで作動をして、気筒11内にオゾンを生成する。例えば、吸気弁21が開弁して、燃焼室17に吸気が導入しているときに同期して、電極71bに短パルス高電圧を印加してもよい。そうすることで、放電が生じる電極71bの近傍(放電空間)では、絶えず吸気(酸素)が供給され、生成されたオゾンと吸気とが入れ替わる。
その結果、オゾンの飽和濃度の影響をほとんど受けることなく、オゾンを生成できるので、より高度なオゾン生成効率やエネルギの利用効率を得ることができる。また、オゾンと吸気との混合も促進される。
また、高電圧制御器72が、圧縮行程又は膨張行程中にオゾンを生成するときには、インジェクタ6により燃料を噴射することに同期して、電極71bに短パルス高電圧を印加してもよい。そうすることで、図7に示すように、密閉された燃焼室17内で、噴射される燃料の勢いによって空気が流動し、それにより、放電空間では、オゾンと空気とが入れ替わり、高いオゾン生成効率を維持した状態でオゾンが生成される。尚、圧縮行程又は膨張行程中にオゾンを生成するときに、燃料噴射に同期しないで、オゾンを生成することも可能である。
さらに、圧縮着火燃焼の最中に、電極71bに短パルス高電圧を印加してオゾンを生成してもよい。
気筒11内に噴射された燃料は、オゾンによってエネルギが付与され、容易に自己着火燃焼する。つまり、オゾンは、燃料の圧縮着火をアシストする。また、オゾンは、圧縮着火後の燃焼も促進し、膨張行程期間中の燃焼に対しては、後燃えを短縮させて圧縮着火燃焼の燃焼期間を短くする。これは、圧縮着火燃焼の安定化と共に、熱効率を高める。
オゾン生成部7によって発生するオゾンの濃度は、例えばエンジン10の負荷が高いほど高くしてもよい。オゾンの濃度が高いほど、圧縮着火のアシストは強くなり、気筒11内の温度が低くても圧縮着火が可能になる、又は、着火タイミングが早くなる。一方、オゾン濃度を高くすることは、燃費の悪化や、エンジン10の腐食には不利である。そこで、必要最低限のオゾンを供給するように、オゾンの濃度は、エンジン10の負荷が高いほど高くしてもよい。
(加速時におけるエンジン制御)
次に、低負荷領域Aの運転状態から高負荷領域Bの運転状態に移行するような、加速時におけるエンジン制御について、図8に示すタイムチャートを参照しながら説明する。前述したように、低負荷領域Aにおいては、混合気の空燃比が、理論空燃比よりもリーンに設定されると共に、EGR率が相対的に低くなり得るのに対し、高負荷領域Bにおいては、混合気の空燃比が、理論空燃比に設定されると共に、EGR率が相対的に高くなり得る。その結果、低負荷領域Aの運転状態から、高負荷領域Bの運転状態に移行する加速時には、気筒11内に導入される空気量及び排気ガス量を、大きく増減しなければならない。しかしながら、気筒11内に導入されるガス量の増減は、エンジン10の運転状態の変化に対して遅れが生じ、そのことが、移行過渡時の圧縮着火燃焼のコントロールを困難にする。このエンジンシステム1では、ガス量の増減遅れが生じる加速時において、燃料噴射に係る制御を実行することで、圧縮着火燃焼のコントロールを可能にする。
具体的に図8に示すタイムチャートは、図6において矢印で示すように、低負荷領域Aにおける相対的に負荷の低い運転状態(EGR率が相対的に低く設定される負荷)から、高負荷領域Bにおける相対的に負荷の低い運転状態(EGR率が比較的高く設定される負荷)へと、エンジン10の運転状態が移行する際の、アクセル開度、EGR率、A/F、吸入空気量、燃料噴射量、燃料の噴射開始時期、及び噴射リタード量、の変化を示している。
先ず、低負荷領域Aにおける運転状態では、同図(b)に示すように、EGR率が相対的に低く設定されかつ、同図(d)に示すように、吸入空気量が相対的に多く設定される。また、同図(e)に示すように、燃料噴射量が相対的に少なく設定され、同図(c)に示すように、混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーン(A/F=50)に設定される。燃料の噴射開始タイミングは、同図(f)に示すように、相対的に進角側に設定される。
この状態から、時刻t1において、アクセルペダルが踏み込まれて、時刻t2でアクセル開度が所定開度に到達したとする(図8(a))。この加速は、アクセル開度の時間変化率が所定値よりも高い加速(緩加速ではなく急加速に近い加速)である。
同図(e)に示すように、アクセル開度の増大に対応して、燃料噴射量が増大すると共に、噴射時期は、低負荷領域Aにおける相対的に進角側のタイミングから、高負荷領域Bにおいて設定される、相対的に遅角側のタイミングへと、燃料噴射量が増大するに伴い遅角される。
アクセルペダルの踏み込み開始後、目標のEGR率は、同図(b)に破線で示すように、高負荷領域Bにおいて設定される、相対的に高いEGR率となるように変更される。しかしながら、EGR通路51を通じた排気ガスの還流量は、応答性が低いため、増量が遅れる。図8に示すような加速時には、同図(b)に実線で示すように、実際のEGR率は、目標のEGR率よりも低くなる。その結果、同図(d)に実線で示すように、気筒11内に導入される空気量は、同図に破線で示す目標の空気量よりも多い状態となる。尚、実EGR率の変化、及び、気筒11内に導入される空気量の変化は、加速時におけるモデルを予め設定しておくことで推定が可能である。
混合気の空燃比は、前述したように燃料噴射量を増量することに伴い、理論空燃比に近づくように次第に小さくなるものの、気筒11内に導入される空気量が目標よりも多い状態であるため、図例では、時刻t2で、空燃比が30に到達する。混合気の空燃比を30よりも低くしてしまうと、燃焼温度が高くなりすぎてRawNOxの増大を招いてしまう。そこで、このエンジンシステム1では、時刻t2以降で、気筒11内に導入される空気量に応じて、混合気の空燃比が理論空燃比となるように、目標の燃料噴射量(つまり、移行先の運転状態において設定されている燃料噴射量、同図(e)の破線参照)よりも、燃料噴射量を増量する。こうして、混合気の空燃比を理論空燃比にすることで、三元触媒を利用した排気ガスの浄化が可能になり、過渡時においても、排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。
燃料噴射量を目標よりも増量することにより、圧縮着火のタイミングが早まり、それによって、圧縮着火燃焼による気筒11内の圧力上昇が急峻になって燃焼騒音が増大してしまう虞がある。また、燃料噴射量を目標よりも増量するため、目標トルク以上のトルクが生成される可能性がある。そこで、このエンジンシステム1では、前述の通り、燃料噴射量を目標よりも増量したときには、燃料の噴射開始タイミングを目標の噴射タイミング、つまり、移行先である高負荷領域Bの運転状態において設定されている噴射タイミング(同図(f)の破線参照)よりも遅角させる。尚、同図(g)は、目標の噴射開始タイミングに対する、制御上の噴射開始タイミングの遅角量(リタード量)を示している。
噴射開始タイミングを遅らせることによって、圧縮着火のタイミングが遅れ、圧縮着火燃焼の燃焼時期が遅くなる。図例では、噴射開始タイミングを、圧縮上死点以降にまで遅角することで、圧縮上死点から離れたタイミングで圧縮着火をして、モータリング時には気筒11内の圧力が次第に低下する膨張行程期間内で、燃焼するようになる。こうして圧縮着火燃焼をコントロールすることで、圧縮着火燃焼による気筒11内の圧力上昇が、急峻になってしまうことが回避される。これは、燃焼騒音が増大してしまうことを防止する。また、目標以上のトルクが生成されることも防止され、トルクショックが回避される。
このように燃料噴射量を目標よりも増量しかつ、燃料の噴射開始タイミングを目標よりも遅角させる噴射時期リタード制御を実行しているときには、同図(g)に示すように、気筒11内でオゾンを生成させてもよい。オゾンは、燃料の噴射タイミングに同期して生成する、及び/又は、圧縮着火燃焼の最中に生成する、とすればよい。燃料の噴射開始タイミングを遅らせたときでも、オゾンの生成によって、安定して圧縮着火するようになると共に、圧縮着火燃焼の安定化が図られる。
噴射時期リタード制御の実行中は、EGR率の上昇及び気筒11内への空気量の減少に対応して、燃料噴射量が次第に減量されると共に、噴射リタード量も次第に小さくなる。
そして、同図(b)に示すように、時刻t3で、目標に対して遅れていたEGR率が、目標EGR率に追いつけば、同図(d)に示すように、気筒11内に導入される空気量も目標の空気量まで減ることになる。そこで、燃料噴射量の増量を終了する(同図(e))と共に、噴射開始タイミングの遅角制御も終了する(同図(f)、(g))。こうして、加速時における噴射時期リタード制御が終了し、高負荷領域Bへの移行が完了する。つまり、EGR率が相対的に高く設定され(同図(b))、混合気の空燃比が理論空燃比に設定され(同図(c))、吸入空気量が相対的に少なく設定され(同図(d))、燃料噴射量が相対的に多く設定され(同図(e))、噴射開始タイミングが相対的に遅角側に設定される(同図(f))。
(減速時におけるエンジン制御)
次に、高負荷領域Bの運転状態から低負荷領域Aの運転状態に移行するような、減速時におけるエンジン制御について、図9に示すタイムチャートを参照しながら説明する。前述したように、高負荷領域Bにおいては、混合気の空燃比が理論空燃比に設定されると共に、EGR率が相対的に高くなり得るのに対し、低負荷領域Aにおいては、混合気の空燃比が、理論空燃比よりもリーンに設定されると共に、EGR率が相対的に低くなり得る。その結果、減速時においても、気筒11内に導入される空気量及び排気ガス量を、大きく増減しなければならない。このエンジンシステム1では、ガス量の増減遅れが生じる減速時においても、加速時と同様に、燃料噴射に係る制御を実行することで、圧縮着火燃焼のコントロールを可能にする。
具体的に図9に示すタイムチャートは、図6において矢印で示すように、高負荷領域Bにおける相対的に負荷の低い運転状態(EGR率が比較的高く設定される負荷)から、低負荷領域Aにおける相対的に負荷の低い運転状態(EGR率が相対的に低く設定される負荷)へと、エンジン10の運転状態が移行する際の、アクセル開度、EGR率、A/F、吸入空気量、燃料噴射量、燃料の噴射開始時期、及び噴射リタード量、の変化を示している。この減速時においては、減速燃料カットは行われない。
先ず、高負荷領域Bにおける運転状態では、同図(b)に示すように、EGR率が相対的に高く設定されかつ、同図(d)に示すように、吸入空気量が相対的に少なく設定される。また、同図(e)に示すように、燃料噴射量が相対的に多く設定され、同図(c)に示すように、混合気の空燃比は、理論空燃比(A/F=14.7)に設定される。燃料の噴射開始タイミングは、同図(f)に示すように、相対的に遅角側(圧縮上死点付近)に設定される。
この状態から、時刻t1において、踏み込まれていたアクセルペダルが戻されて、時刻t2でアクセル開度が所定開度に到達したとする(図9(a))。この減速は、アクセル開度の時間変化率が所定値よりも高い減速(緩減速ではなく急減速に近い加速)である。
同図(e)に破線で示すように、アクセル開度の減少に伴い、目標となる燃料噴射量は減少する。また、同図(b)に破線で示すように、目標のEGR率も、移行先である低負荷領域Aにおいて設定される低EGR率となるよう、低下する。しかしながら、前述したように、EGR率の変化は、同図(b)に実線で示すように遅れが生じ、実際のEGR率は、目標のEGR率よりも高くなる。その結果、気筒11内に導入される空気量は、同図(d)に破線で示す目標の空気量に対して、少なくなる(同図(d)の実線参照)。尚、実EGR率の変化、及び、気筒11内に導入される空気量の変化は、減速時におけるモデルを予め設定しておくことで推定が可能である。
燃料噴射量を目標値に従って減らしてしまうと、混合気の空燃比が、RawNOxの生成を招く中間空燃比(1.1<A/F<30)となってしまう。そこで、このエンジンシステム1では、気筒11内へ導入する空気量が不足する減速時には、気筒11内に導入される空気量に応じて、混合気の空燃比が理論空燃比となるように、目標の燃料噴射量(つまり、移行先の運転状態において設定されている燃料噴射量、同図(e)の破線参照)よりも、燃料噴射量を増量する。こうして、混合気の空燃比を理論空燃比にすることで、三元触媒を利用した排気ガスの浄化が可能になり、過渡時においても、排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。
燃料噴射量を目標よりも増量することにより、圧縮着火のタイミングが早まり、それによって、圧縮着火燃焼による気筒11内の圧力上昇が急峻になって燃焼騒音が増大してしまう虞がある。また、減速時において、燃料噴射量を目標よりも増量するため、目標トルク以上のトルクが生成されて、減速感が阻害される可能性がある。そこで、このエンジンシステム1では、前述の通り、燃料噴射量を目標よりも増量したときには、燃料の噴射開始タイミングを目標の噴射タイミング、つまり、移行先である低負荷領域Aの運転状態において設定されている噴射タイミング(同図(f)の破線参照)よりも遅角させる。尚、同図(g)は、目標の噴射開始タイミングに対する、制御上の噴射開始タイミングの遅角量(リタード量)を示している。
噴射開始タイミングを遅らせることによって、圧縮着火のタイミングが遅れ、圧縮着火燃焼の燃焼時期が遅くなる。図例では、噴射開始タイミングを、圧縮上死点以降にまで遅角することで、圧縮上死点から離れたタイミングで、圧縮着火をして燃焼するようになる。こうして圧縮着火燃焼をコントロールすることで、圧縮着火燃焼による気筒11内の圧力上昇が、急峻になってしまうことが回避される。これは、燃焼騒音が増大してしまうことを防止する。また、目標以上のトルクが生成されることも防止され、十分な減速感が得られる。
このように燃料噴射量を目標よりも増量しかつ、燃料の噴射開始タイミングを目標よりも遅角させる噴射時期リタード制御を実行しているときには、同図(g)に示すように、気筒11内でオゾンを生成させてもよい。オゾンは、燃料の噴射タイミングに同期して生成する、及び/又は、圧縮着火燃焼の最中に生成する、とすればよい。オゾンの生成によって、燃料の噴射開始タイミングを遅らせたときでも、安定して圧縮着火するようになると共に、圧縮着火燃焼の安定化が図られる。
噴射時期リタード制御の実行中は、EGR率の低減及び気筒11内への空気量の増大に対応して、燃料噴射量が次第に増量されると共に、噴射リタード量も次第に大きくなる。そうして、気筒11内に導入される空気量が次第に増えて、図例では、時刻t3において、混合気の空燃比を、中間A/Fを超えてリーンにすることが可能になる(A/F=30以上)。そこで、このエンジンシステム1は、混合気の空燃比を、理論空燃比からA/F=30となるように、増量していた燃料噴射量を急減する(同図(e))と共に、噴射の開始タイミングも、進角側へと急変する(同図(f))。こうして、リタード量は少なくなる(同図(g))。これにより、RawNOxの生成を抑制しながら、燃料噴射量を低減することが可能になる。
時刻t3以降は、同図(d)に示すように気筒11内に導入される空気量が増えることに対応して、混合気の空燃比が目標空燃比(つまり、移行先である低負荷領域Aにおいて設定されている空燃比であり、図例ではA/F=50)となるように、燃料噴射量を次第に減らし(同図(e))、それに対応するように、燃料の噴射開始タイミングも進角させる(同図(f))。尚、時刻t3以降において、オゾンを生成するようにしてもよい。
そうして、時刻t4において、EGR率が目標EGR率に到達し、気筒11内に導入される空気量も、目標の空気量に到達すれば、燃料噴射量の増量を終了する(同図(e))と共に、噴射開始タイミングの遅角制御も終了する(同図(f)、(g))。こうして、減速時における噴射時期リタード制御が終了し、低負荷領域Aへの移行が完了する。つまり、EGR率が相対的に低く設定され(同図(b))、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーン(A/F=50)に設定され(同図(c))、吸入空気量が相対的に多く設定され(同図(d))、燃料噴射量が相対的に少なく設定され(同図(e))、噴射開始タイミングが相対的に進角側に設定される(同図(f))。
尚、前記の構成では、自然吸気エンジンを例に本技術を説明したが、ターボ過給機を備えたエンジンに、本技術を適用することも可能である。
従って、圧縮着火式エンジンの制御装置(エンジンシステム1)は、気筒11を有するよう構成されたエンジン10と、気筒11内に、ガソリンを含有する燃料を噴射するよう構成されたインジェクタ6と、前記気筒11内に導入する空気量を調整するよう構成された空気量調整手段(EGRシステム50、スロットル弁31、吸気VVT23)と、前記EGRシステム50及びスロットル弁31を通じて前記気筒11内に導入する空気量を調整すると共に、前記インジェクタ6を通じて、前記エンジン10の負荷に対応する量の燃料を、前記エンジン10の運転状態に応じて設定されたタイミングで噴射し、それによって形成される気筒11内の混合気を圧縮着火により燃焼させることで、前記エンジン10を運転するよう構成された制御部(ECM100)と、を備える。
そして、前記ECM100は、前記エンジン10の運転状態が所定負荷よりも低い低負荷領域Aにあるときに、前記混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンの所定空燃比にし(A/F≧30)かつ、前記エンジン10の運転状態が前記所定負荷以上の高負荷領域Bにあるときに、前記低負荷領域Aよりも前記気筒11内に導入する空気量を少なくかつ、前記混合気の空燃比を前記所定空燃比よりもリッチにし(A/F=14.7)、前記ECM100は、前記高負荷領域B内の運転状態と前記低負荷領域A内の運転状態との間で、前記エンジン10の運転状態が移行する過渡時に、前記混合気の空燃比を理論空燃比にすると共に、前記燃料の噴射タイミングを、移行先の運転状態で設定されているタイミングよりも遅角する噴射時期リタード制御を実行する(図8又は図9参照)。
前記空気量調整手段は、前記エンジンの排気ガスの一部を、EGR通路51を介して吸気に還流させる排気還流システム(EGRシステム50)を含み、前記ECM100は、前記エンジン10の運転状態が少なくとも前記高負荷領域B内にあるときには、前記エンジン10の運転状態に対応して設定されたEGR率となるように、前記EGRシステム50を通じて、排気ガスの一部を吸気に還流する。
前記ECM100は、前記高負荷領域B内の、所定EGR率となるように設定された高EGR運転状態と、前記低負荷領域A内の、前記所定EGR率よりも低いEGR率となるように設定された低EGR運転状態との間で、前記エンジン10の運転状態が移行をする過渡時に、前記噴射時期リタード制御を実行する。
前記ECM100は、前記低負荷領域A内の前記低EGR運転状態から、前記高負荷領域B内の前記高EGR運転状態へと前記エンジン10の運転状態が移行をする加速時に、実際のEGR率が、前記高EGR運転状態において設定された前記所定EGR率に到達するまで、前記噴射時期リタード制御を実行する。
前記ECM100は、前記高負荷領域B内の前記高EGR運転状態から、前記低負荷領域A内の前記低EGR運転状態へと前記エンジン10の運転状態が移行をする減速時に、前記低負荷領域Aにおいて設定される前記所定空燃比(A/F=30)となる分の空気量が前記気筒11内に導入されるまで、前記噴射時期リタード制御を実行する。
各気筒11内でオゾンを生成するよう構成されたオゾン生成部7をさらに備え、前記ECM100は、前記噴射時期リタード制御を実行している過渡時に、前記オゾン生成部7を通じて前記気筒11内でオゾンを生成する。
このエンジンシステム1によると、加速時及び/又は減速時に、圧縮着火燃焼をコントロールすることができ、排気エミッション性能を良好に維持しつつ、燃焼騒音の増大等を回避することができる。