以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る直噴ガソリンエンジン(以下、「エンジン」という)1を概略的に示す。本実施形態では、エンジン1は、エンジン本体に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及び、該センサからの信号に基づきアクチュエータを制御するエンジン制御器100を含む。
エンジン1は、自動車等の車両に搭載されている。エンジン1のエンジン本体は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11(気筒)が形成されている(図1では、1つのみ示す)。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。エンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む燃料(液体燃料)であれば、どのような燃料であってもよい。
各シリンダ11内には、ピストン15が摺動自在にそれぞれ嵌挿されており、ピストン15は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。燃焼室17は、所謂ドーム型である。すなわち、シリンダヘッド13により形成される燃焼室17の天井面は、アーチをシリンダ11の中心軸を中心に回転させた形状をしている。ピストン15の冠面15aも、燃焼室17の天井面に対応させて、ドーム型に形成されている。ただし、冠面15aの中心部には、凹状のキャビティ15bが形成されている。尚、上記天井面及びピストン15の冠面15aの形状は、後述の高い幾何学的圧縮比が可能であれば、どのような形状であってもよい。例えば、天井面(シリンダヘッド13の下面)は、吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしていてもよい(所謂、ペントルーフ型)。
図1には1つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室17の天井面における吸気側の傾斜面)に開口することで燃焼室17に連通している。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室17の天井面の排気側の傾斜面)に開口することで燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、シリンダ11内に導入される新気が流れる吸気通路(図示省略)に接続されている。吸気通路には、吸気流量を調整するスロットル弁が設けられており、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁の開度が調整される。一方、排気ポート19は、各シリンダ11からの既燃ガス(排気ガス)が流れる排気通路(図示省略)に接続されている。排気通路には、図示は省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配置(図示省略)される。触媒コンバータは例えば、三元触媒で構成される。また、排気通路と吸気通路には、排気ガスを吸気系に還流するEGR通路(図示省略)が設けられており、EGR通路には、還流される排気ガス(EGRガス)の流量を調整するEGR弁23が設けられている。
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフトに駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフトの回転と同期して回転する。また、少なくとも吸気弁駆動機構は、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は機械式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)21bを含んで構成されている。尚、VVT21bと共に、弁リフト量を連続的に変更可能なリフト可変機構(CVVL(Continuous Variable Valve Lift))を備えるようにしてもよい。
シリンダヘッド13におけるシリンダ11の中心軸上には、気筒内(燃焼室17内)に燃料を直接噴射するインジェクタ33が配設されている。このインジェクタ33は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取付固定されている。インジェクタ33の先端は、燃焼室17の天井部の中心に臨んでいる。
エンジン1は、燃料供給システム34を備えている。燃料供給システム34は、インジェクタ33を駆動するための電気回路と、インジェクタ33に燃料を供給する燃料供給系とを有している。エンジン制御器100は、噴射信号を上記電気回路に出力することで、該電気回路を介してインジェクタ33を作動させて、所望量の燃料を、気筒内に噴射させる。こうして、エンジン制御器100は、燃料供給システム34を介して、インジェクタ33からの燃料噴射時期及び燃料噴射量を制御する。
また、エンジン1は、オゾン生成器4を備えている。オゾン生成器4は、放電プラグ41と、パルス電圧発生装置42とを有している。
放電プラグ41の先端部には、棒状の電極41aが設けられている。電極41aの周囲には、碍子41bが設けられ、これにより、電極41aが周囲の構造物から電気的に絶縁さている。放電プラグ41は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に固定されている。この状態において、電極41aは、燃焼室17の天井面から燃焼室17内に突出している。電極41aは、碍子41b等によって、シリンダブロック12及びシリンダヘッド13から電気的に絶縁されている。
図2に示すように、電極41aの先端は、ピストン15が圧縮上死点に位置する状態において、キャビティ15bの中央15cよりも、キャビティ15bの周縁部と冠面15aとで形成される稜部15dの近くに位置する。
パルス電圧発生装置42は、放電プラグ41と電気的に接続されており、パルス電圧を放電プラグ41に印加する。具体的には、パルス電圧発生装置42は、図3に示すように、パルス幅PWが50ns以下で電圧値が10kV以上のパルス電圧(短パルス高電圧)を高い周波数で断続的に出力する。パルス電圧発生装置42は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、短パルス高電圧を放電プラグ41に印加する。
オゾン生成器4は、短パルス高電圧を放電プラグ41に印加することによって燃焼室17内でストリーマ放電を発生させ、オゾンを燃焼室17内で生成する。
図4に、針状の電極と、その周囲に配置された円筒状の電極間に高電圧を極短時間で印加した時の電流及び電圧の変化の一例を模式的に示す。
図4によれば、電流は、電圧に遅れて増加する。そのため、電圧が所定の高電圧に達した時点では、電流は、ほとんど流れていない。その後、電圧は高電圧でしばらく維持されて、電流は僅かに流れるようになる。更にその後、電流が急増し、電極間に高電流が流れるようになると、電圧は降下する。
電圧が所定の高電圧に達するまでの初期領域では、ストリーマ放電が発生し(ストリーマ放電発生領域SD)、電圧の降下及び電流の急増が生じる後期領域では、アーク放電が発生する(アーク放電発生領域AD)。これら両領域SD,ADの間の中期領域は、遷移領域となっている。
遷移領域やアーク放電発生領域ADでは、火花や熱等が発生する可能性があるが、ストリーマ放電発生領域SDでは、その可能性が無い。そのため、ストリーマ放電発生領域SDを超えない短パルス幅の高電圧を印加することによって、燃焼室17内で火花等を生じさせることなく、ストリーマ放電を安定して発生させることができる。その結果、オゾンを安定して生成することができ、オゾン生成効率を向上させることができる。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコントローラであって、プログラムを実行するプロセッサと、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。エンジン制御器100は、制御部の一例である。
エンジン制御器100は、図5に示すように、エアフローセンサ、クランク角センサ、アクセル開度センサ及び車速センサ等の各種センサからの信号をそれぞれ受ける。エンジン制御器100は、これらの入力信号に基づいて、例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等といった、エンジン1の制御パラメータを計算する。そして、エンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル弁、VVT21b、EGR弁23、燃料供給システム34及びパルス電圧発生装置42等に出力する。
このエンジン1の幾何学的圧縮比εは、15以上40以下とされている。この幾何学的圧縮比εは、特に20以上35以下が好ましい。本実施形態では、エンジン1は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。尚、圧縮比≦膨張比となる構成(例えばアトキンソンサイクルや、ミラーサイクル)を採用してもよい。また、吸気弁の遅閉じ等を行う場合には、エンジン1の有効圧縮比は、12以上に設定される。好ましくは、エンジン1の有効圧縮比は、18以上に設定される。
燃焼室17は、図1に示すように、シリンダ11の壁面と、ピストン15の冠面と、シリンダヘッド13の下面(天井面)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。そして、冷却損失を低減するべく、これらの各面に、断熱層が設けられている。断熱層は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。例えば、母材の材質は、シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン15については、アルミニウム合金や鋳鉄であり、吸気弁21及び排気弁22については、耐熱鋼や鋳鉄等である。
また、断熱層6は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室17内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室17の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室17を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
一方で、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、冷却水によって燃焼室17の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。そこで、断熱層6の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
上記断熱層6は、例えば、母材上にZrO2等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、断熱層6の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
また、本実施形態では、吸気ポート18の内壁を、熱伝導率が非常に低くて断熱性に優れかつ耐熱性にも優れたチタン酸アルミニウムで構成している。この構成は、新気が吸気ポート18を通過するときに、シリンダヘッド13から受熱して温度が上がることを抑制乃至回避し得る。これによってシリンダ11内に導入する新気の温度(初期のガス温度)が低くなるため、燃焼時のガス温度が低下し、ガス温度と燃焼室17の区画面との差温を小さくする上で有利になる。燃焼時のガス温度を低下させることは熱伝達率を低くし得るから、そのことによる冷却損失の低減にも有利になる。
本実施形態では、上記の燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造に加えて、気筒内(燃焼室17内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
具体的には、エンジン制御器100は、エンジン1の気筒内(燃焼室17内)の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程においてインジェクタ33から燃焼室17内に燃料を噴射させるべく、燃料供給システム34の電気回路に噴射信号を出力する。すなわち、圧縮行程においてインジェクタ33により燃焼室17内に燃料を噴射させかつその燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が燃焼室17内の周辺部まで届かないような大きさ(長さ)に抑えることで、燃焼室17の中心部に混合気層が形成されかつその周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
上記のようにガス層と混合気層とが形成された状態で燃料が自己着火すれば、混合気層とシリンダ11の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎がシリンダ11の壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、シリンダ11の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
このように構成されたエンジン1は、全運転領域において、自己着火燃焼を行う。エンジン制御器100は、圧縮上死点以降に自己着火燃焼による主燃焼(エンジントルクを生成する燃焼(1サイクル中で最も大きな熱量を発生させる燃焼))が生じるようにインジェクタ33に燃料噴射を行わせる。
さらに、エンジン制御器100は、少なくとも、図6で示す高負荷側の第1運転領域A1では、該第1運転領域A1よりも低負荷側の第2運転領域A2における同じ回転数の運転状態に比べて、自己着火燃焼をリタードさせている。第1運転領域A1では、第2運転領域A2よりもエンジン負荷が高いので、クランク角に対する圧力上昇率dP/dθ(以下、単に「圧力上昇率dP/dθ」という)が大きくなり、騒音振動レベルが高くなると共に異常燃焼が生じやすくなる傾向にある。
それに加えて、第1運転領域A1では、第2運転領域A2に比べてEGRガスの量が少ない。詳しくは、エンジン制御器100は、エンジン負荷が高くなるほど、新気量が必要になるのでEGRガス量を減量している。特に、第1運転領域A1のうち全負荷の運転領域ではEGRガスが零になっている。ここで、EGRガスは不活性ガスであるので、燃焼を緩慢にする作用があり、圧力上昇率dP/dθを低減する効果がある。しかしながら、第1運転領域A1は、燃料が多いことに加えてEGRガス量が少ないので、圧力上昇率dP/dθがますます高くなってしまう。つまり、EGRガス量の観点からも、第1運転領域A1では、第2運転領域A2に比べて圧力上昇率dP/dθが大きくなる。
そこで、エンジン制御器100は、第1運転領域A1では、自己着火燃焼をリタードさせて、圧力上昇率dP/dθを低減している。燃焼期間をリタードさせて、燃焼時の圧力上昇率dP/dθが最大となるタイミングをモータリング時の圧力上昇率dP/dθの負の最大値となる時点に近づけることによって、燃焼時の圧力上昇率dP/dθを全体的に低減することができる。モータリングとは、燃焼を伴わずに、エンジンのクランク軸を電動モータで回すことである。モータリング時の燃焼室17の圧力上昇率dP/dθは、圧縮行程では正の値であり、圧縮上死点で零となり、膨張行程が進むにつれて減少し、やがて負の最大値となる。好ましくは、燃焼期間がモータリング時の圧力上昇率dP/dθが負の最大値となる時点と重複するように、燃焼時期をリタードさせる。
しかしながら、燃焼時期をリタードさせると、燃焼期間の終盤においては膨張行程が進んで筒内温度が低下しているので、燃焼がダラダラと継続する後燃え現象が生じ得る。
そこで、エンジン制御器100は、自己着火燃焼を行う際に、オゾン生成器4にオゾンを生成させる。詳しくは、エンジン制御器100は、自己着火燃焼の発生をアシストするための第1オゾン添加と、自己着火燃焼の後燃えを短縮させるための第2オゾン添加とをオゾン生成器4に行わせる。
エンジン制御器100のオゾン添加について、図7を参照しながら詳細に説明する。図7は、オゾン生成時のタイミングチャートであって、(A)は燃料噴射量、(B)は熱発生率、(C)はパルス電圧、(D)は燃料の燃焼質量割合を示す。
具体的には、図7(A)に示すように、圧縮上死点(TDC)後の所定のクランク角において、エンジン制御器100は、インジェクタ33に燃料噴射を開始させる。エンジン制御器100は、着火時期をリタードさせるために、圧縮上死点以降に燃料噴射を行っている。
それに加えて、エンジン制御器100は、図7(C)に示すように、オゾン生成器4にオゾンを生成させる。これが第1オゾン添加である。
ここで、シリンダブロック12及びシリンダヘッド13等は接地されているので、放電プラグ41に短パルス高電圧が印加されると、燃焼室17の内壁と電極41aとの間で放電が生じる(電極41aがアノードに相当し、燃焼室17の内壁がカソードに相当する)。
印加される電圧は、所定の短パルス高電圧に制御されているので、燃焼室17ではストリーマ放電のみが発生する。従って、火花や熱が生じるおそれはほとんどない。電極41aには誘電体が介在しておらず、さらに、オゾンが燃焼室17で直接生成されるため、オゾン生成効率及びエネルギ利用効率を向上させることができる。
さらに、燃料噴射中に放電プラグ41への電圧印加を行うことによって、オゾン生成効率を向上させることができる。詳しくは、燃料の液滴は、空気よりも電気抵抗が低いので、燃焼室17内に燃料の液滴が存在する場合には、電極41aと液滴との間で放電が発生しやすくなる。その結果、電極41aと燃焼室17の内壁との間で放電が発生する場合と比べて、放電が生じやすくなる。
このように、第1オゾン添加を行うことによって、自己着火燃焼が生じやすくなる。つまり、膨張行程では筒内温度が低下するため、自己着火燃焼にとっては不利な環境である。特に、自己着火燃焼をリタードさせればさせるほど、温度低下が大きくなるので燃焼安定性が悪化する。それに対し、燃焼室17内でオゾンを生成することによって、燃料にエネルギが付与され、燃料が着火しやすくなる。つまり、第1オゾン添加によるオゾンは、自己着火燃焼をアシストしている。こうして、燃焼時期をリタードさせた場合であっても、自己着火燃焼を安定して生じさせることができる。
図7(B)に示すように、燃料噴射及び第1オゾン添加が終了した後に、燃料が着火し、熱発生率が上昇し始める。尚、燃料噴射中及び第1オゾン添加中に燃料が着火してもよい。着火は、燃料の燃焼質量割合が1%以上となることをもって判定することができる。
自己着火燃焼が開始すると、熱発生率は急激に上昇し、ピークPに達する。その後、熱発生率は、減少に転じる。しかしながら、リタード燃焼の特に終期においては、膨張行程が進んで筒内温度が低下しているため、図7(B),(D)に破線で示すように、燃焼が直ちに終了するのではなく、燃焼がダラダラと継続する後燃え現象が生じ得る。特に、燃焼室17のうち、ピストン15の冠面15aの周縁部と燃焼室17の天井面との間に形成される、所謂スキッシュエリアSには、非常にリーンな混合気が存在し、この混合気が後燃えの要因となり得る。
そこで、エンジン制御器100は、燃料の着火後に、オゾン生成器4に第2オゾン添加を実行させる。第2オゾン添加は、燃料の着火後に行われるので、その時点において燃焼室17内に残留している燃料に対してOラジカル及びOHラジカル等のラジカルが作用する。これにより、残留している燃料にエネルギが付与され、該燃料の燃焼が促進される。その結果、図7(B),(D)に示すように、燃焼室17内の燃料が早期に燃え切り、燃焼が早期に終了する。こうして後燃えを抑制することによって、熱効率が向上する。
ここで、エンジン回転数に対する圧力上昇率dP/dθの許容レベルは、図8に示すようになる。圧力上昇率dP/dθの許容レベルは、低回転側に比べて高回転側の方が厳しい。詳しくは、低回転側では、異常燃焼よりも騒音振動レベルが問題となる傾向になる。騒音振動レベルの観点で圧力上昇率dP/dθの許容レベルを設定すると、図8に示すように、許容できる圧力上昇率dP/dθは、回転数に対して略一定となる(すなわち、回転数に対する圧力上昇率dP/dθは略水平な線となる)。一方、高回転側では、騒音振動レベルよりも異常燃焼が問題となる傾向にある。異常燃焼の観点で圧力上昇率dP/dθの許容レベルを設定すると、許容できる圧力上昇率dP/dθは、回転数が増加するほど減少する(すなわち、回転数に対する圧力上昇率dP/dθは右下がりの線となる)。これは、高回転側ほど、燃焼ガスの燃焼室17内での放熱時間が短く、且つ、燃焼室17内の残留ガスの温度が高いことに起因して、筒内温度が高くなることが原因であると考えられる。その結果、全体としてエンジン回転数の高回転側で圧力上昇率dP/dθの許容レベルが低く、その領域ではエンジン回転数が高くなるほど圧力上昇率dP/dθの許容レベルが低くなっていく。
そこで、エンジン制御器100は、第1運転領域A1の高回転側においては、エンジン回転数が高くなるほど、インジェクタ33による燃料噴射時期を着火時期がリタードする(遅角側に移動する)ように調整している。ここで、高回転側とは、運転領域をエンジン回転数において二分割(二等分)したときの高回転側を意味する。
図9に、エンジン回転数が高い時と低い時との典型的な熱発生率を示す。図9に示すように、エンジン回転数の上昇に伴い着火時期をリタードさせると、低回転時と比べて、高回転時の熱発生率の最大値が低下している。このように、エンジン制御器100は、高回転側ほど厳しくなる圧力上昇率dP/dθの許容レベルに対応させて、エンジン回転数が上昇するほどリタード量を大きくさせる。これにより、高回転側ほど、燃焼時の圧力上昇率dP/dθが小さくなる。
しかしながら、着火時期のリタード量を長くすればするほど、後燃えの長さも長くなっている。
そのため、エンジン制御器100は、オゾン生成器4によるオゾン生成時期をエンジン回転数に応じて調整している。図10は、高回転側の運転領域におけるオゾン生成時のタイミングチャートであって、(A)は熱発生率、(B)は燃料の燃焼質量割合を示す。尚、上述の図7は、低回転側の運転領域におけるオゾン生成時のタイミングチャートの一例である。
詳しくは、エンジン制御器100は、図10に示すように、着火後であって且つ、図7に示す低回転時と比べて燃料の燃焼質量割合が少ない時期に第2オゾン添加を行う。このように、高回転時の方が低回転時に比べて、未燃の燃料がより多く残っている段階でオゾンが添加されるので、より多くの燃料がオゾンにより活性化され、後燃えをより一層短縮することができる。
このとき、第1オゾン添加は、着火時期のリタードに合わせて、低回転時に比べて遅角側に調整されている。つまり、高回転時は低回転時に比べて着火時期をリタードさせるべく、燃料の噴射時期も遅い。そのため、着火をアシストするための第1オゾン添加は、燃料の噴射時期及び所望の着火タイミングに合わせて遅角側に調整される。
また、第2オゾン添加は、エンジン回転数の上昇に伴って早められた結果、熱発生率のピークよりも前に実行される場合もあり得る(図10はその状態を示している)。つまり、エンジン制御器100は、第2オゾン添加によるオゾン生成時期を、エンジン回転数に応じて、熱発生率のピークとなる時期を前後に跨ぐ範囲で調整する。オゾン生成時期が熱発生率のピークよりも前の場合には、オゾンは、後燃えを短縮するだけでなく、熱発生率のピークを高めるようにも作用する。その結果、熱発生率の立ち下がりがより急峻となる。これにより、燃料をより早期に燃焼させることができ、燃焼の終息をより早めることができる。例えば、熱発生率の上昇時の傾き(例えば、熱発生率のピークを100%としたときに、熱発生率が10%から90%までの変化率)の絶対値よりも、熱発生率の減少時の傾き((例えば、熱発生率のピークを100%としたときに、熱発生率が90%から10%までの変化率))の絶対値の方が大きくなる。
こうして、後燃えを抑制することによって熱効率を向上させることができ、図11に示すように、エンジン回転数の全域に亘って、トルクを上昇させることができる。尚、エンジン回転数が高いほど、オゾン生成時期が早くなって後燃え抑制の効果が大きいので、トルクの改善量も大きい。それに加え、エミッション性能も向上する。図12には、Sootの例を示すが、エンジン回転数の全域に亘って、Sootの発生量が低減される。尚、エンジン回転数が高いほど、Sootの低減量も大きい。このような発生量の低減は、Sootに限らず、CO、HCにおいても同様の傾向となる。
以上のように、エンジン1の制御装置は、シリンダ11内に設けられたピストン15を有し、該シリンダ11及び該ピストン15によって燃焼室17が区画されるエンジン本体と、少なくともガソリンを含む燃料を上記燃焼室17内に噴射するインジェクタ33と、上記燃焼室17内にオゾンを生成するオゾン生成器4と、上記インジェクタ33及び上記オゾン生成器4を制御するエンジン制御器100とを備え、上記エンジン制御器100は、燃料の着火後に上記オゾン生成器4にオゾンを生成させ(第2オゾン添加)、上記エンジン本体の回転数が高いほど、上記インジェクタ33による燃料噴射時期を着火時期が遅角側に移動するように調整すると共に上記オゾン生成器4によるオゾン生成時期を燃料の燃焼質量割合がより少ない時期にオゾンが生成されるように調整する。
この構成によれば、エンジン回転数が高いほど、着火時期がリタードされると共にオゾン生成時期が早められる。つまり、エンジン回転数が高い場合であっても、着火時期のリタードにより騒音振動レベルの低減及び異常燃焼の抑制が図られる。そして、エンジン回転数の上昇に伴って着火時期のリタード量が増加するものの、着火後にオゾンが生成されると共にオゾン生成時期が早められることによって、後燃えた抑制され、熱効率を向上させることができる。
また、上記エンジン制御器100は、燃料の着火前にも上記オゾン生成器4にオゾンを生成させ(第1オゾン添加)、エンジン回転数が高いほど、着火前のオゾン生成時期を遅角側へ調整する。
この構成によれば、オゾンは、燃料の着火前と着火後に少なくとも2回生成される。着火前の第1オゾン添加は、燃料の着火をアシストする。特に、上記エンジン1は、着火時期をリタードさせるため、着火時は筒内温度が低下した着火に不利な環境となっている。着火前にオゾンを生成することによって、筒内温度が低下した環境であってもリタード燃焼を安定して行うことができる。そして、第1オゾン添加によるオゾン生成時期をエンジン回転数の上昇に合わせて遅角側へ調整することによって、リタードされる着火時期のタイミングに合わせてオゾンを生成することができる。
一方、第2オゾン添加によるオゾン生成時期は、上述の如く、エンジン回転数の上昇に対応して増加するリタード量に合わせて、燃料の燃焼質量割合がより少ない時期にオゾンが生成されるように調整される。
こうして、エンジン回転数の上昇に応じてリタード量を大きくした場合でも着火を可能としつつ、熱効率を向上させることができる。
さらに、上記エンジン制御器100は、第2オゾン添加によるオゾン生成時期を、エンジン回転数に応じて、燃焼による熱発生率のピークとなる時期を前後に跨ぐ範囲で調整する。
この構成によれば、オゾン生成時期をエンジン回転数に応じて調整する際に、熱発生率のピークとなる時期を含む範囲でオゾン生成時期が調整される。オゾン生成時期が早めに調整されたときには、その生成時期が熱発生率のピークよりも前になる場合があり、その場合には、オゾンは、熱発生率のピークを高めると共に、熱発生率のピーク以降の立下りを急峻にするように作用する。一方、オゾン生成時期が遅めに調整されたときには、その生成時期が熱発生率のピークよりも後になる場合があり、その場合には、オゾンは、熱発生率の立下りを途中から(オゾンが燃焼を促進したときから)急峻にするように作用する。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、オゾン生成器4は、上記の構成に限られるものではない。燃料の着火後にオゾンを添加できる構成であれば、任意の構成を採用することができる。
また、第1オゾン添加を省略することも可能である。第1オゾン添加が無くても、自己着火燃焼を良好に生じさせることができる場合には、第1オゾン添加を省略してもよい。
また、第2オゾン添加を複数回に増やしてもよい(即ち、第3オゾン添加、第4オゾン添加、…を追加してもよい)。膨張比をより高く設定する等、膨張行程の進行による温度低下が大きくなる場合は、熱発生率の立ち下がりが緩慢になるのを防ぐため追加のオゾン添加、即ち、第3オゾン添加を追加してもよい。
尚、上記の例では、燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造を採用するとともに、気筒内(燃焼室17内)にガス層による断熱層を形成するようにしたが、ここに開示する技術は、燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造や気筒内の断熱層を採用しないエンジンにも適用することができる。